(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006002
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】平行電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/08 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
H01B7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108357
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000129529
【氏名又は名称】株式会社クラベ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊成
(72)【発明者】
【氏名】敷根 哲也
【テーマコード(参考)】
5G311
【Fターム(参考)】
5G311CB02
5G311CD06
(57)【要約】
【課題】耐熱性、耐薬品性に優れ不燃材料であるPTFEの平行電線を提供すること。
【解決手段】 導体1,1´と該導体1,1´の外周に設けられた絶縁被覆2,2´とからなる複数の電線5,5´が、長手方向に沿って平行に連結された平行電線10において、上記複数の電線5,5´における絶縁被覆2,2´が、実質的に均質なポリテトラフルオロエチレン樹脂で一体的に形成されているとともに、上記複数の電線5,5´同士が、長手方向に沿って隙間なく連結されている平行電線10。上記複数の電線5,5´における絶縁被覆2,2´が、溶融流動成分を含まないPTFEからなる平行電線10。上記複数の電線5,5´の間に、該電線5,5´同士を連結し、上記電線5,5´の外径より厚さが薄いブリッジ部3が形成されている平行電線10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と該導体の外周に設けられた絶縁被覆とからなる複数の電線が、長手方向に沿って平行に連結された平行電線において、
上記複数の電線における絶縁被覆が、実質的に均質なポリテトラフルオロエチレン樹脂で一体的に形成されているとともに、上記複数の電線同士が、長手方向に沿って隙間なく連結されていることを特徴とする平行電線。
【請求項2】
導体と該導体の外周に設けられた絶縁被覆とからなる複数の電線が、長手方向に沿って平行に連結された平行電線において、
上記複数の電線における絶縁被覆が、溶融流動成分を含まないポリテトラフルオロエチレン樹脂からなることを特徴とする平行電線。
【請求項3】
導体と該導体の外周に設けられた絶縁被覆とからなる複数の電線が、長手方向に沿って平行に連結された平行電線において、
上記複数の電線の間に、該電線同士を連結し、上記電線の外径より厚さが薄いブリッジ部が形成されており、
上記絶縁被覆及び上記ブリッジ部が実質的に均質なポリテトラフルオロエチレン樹脂で一体的に形成されていることを特徴とする平行電線。
【請求項4】
上記導体と上記絶縁被覆とが隙間なく密接していることを特徴とする請求項1~3何れか記載の平行電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電線を長手方向に沿って連結した平行電線に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の機器に接続されるリード線には、+線と-線とを長手方向に沿って平行を保って連結した平行電線が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。このような平行電線は、+線と-線とを1本の電線として扱い、端末部のみ+線と-線を切り裂いて端末加工をすることになるため、一本ずつ配線するのに比べて、端末加工性を犠牲にすることなく配線作業を非常に容易なものとすることができる。また、3本以上の電線を平行に連結した、いわゆるフラットケーブルと称するものも種々使用されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4964432号公報:クラベ
【特許文献2】特公平7-87049号:クラベ
【特許文献3】特許第4618536号:潤工社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電線の被覆材料としては、種々の高分子材料が知られているが、それらの中でも、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、不燃材料であるという優れた特性を有していることから、特に過酷な環境で使用される電線において使用されている。しかし、一方でPTFEは、融点以上に加熱をしても、ゲル化するのみで流動しないため、一般的な溶融押出加工をすることができない。そのため、PTFEの押出加工に際しては、PTFE粉末と石油系加工助剤を混合したペーストを加圧してプリフォームを作成し、このプリフォームを高圧で押出成形する、いわゆるペースト押出という手法により成形加工を行っている。このペースト押出は、通常の溶融押出と押出機の形状が異なり、押出加工時の圧力も高圧となっていることから、断面円形の形状にする加工しか行われておらず、平行電線のような異形形状を直接押出加工することは行われていなかった。
【0005】
上記特許文献2に記載されたフラットケーブルは、PTFEに対して溶融成分としてテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を加えてなる樹脂組成物を絶縁被覆とした電線を使用し、この電線複数本を平行に配置して、各電線間を加熱溶着したものである。このようなものであると、溶融成分によって、PTFEの耐熱性などの特性が低下してしまうことになる。また、加熱溶着の際の温度管理が非常に難しく、均一な加熱溶着ができず、電線間に隙間が生じてしまうことも起こっていた。また、上記特許文献3に記載されたフラットケーブルは、並列配置された多数本の導体を未焼結のPTFEシートで挟持し、導体が存しない部分を圧縮するとともに焼結して構成したものである。このようなものであると、導体周囲のPTFEは未焼結のままで強度が弱くなってしまうとともに、導体とPTFEと間の密接が図られず隙間が生じてしまうこととなる。また、導体が存しない部分を圧縮し焼結しているものの、実際にはこの程度の加工では、PTFEシート同士が一体化することはなく、容易に剥離する界面を有するものとなってしまう。このように、従来では、実用に耐え得るだけのPTFEの平行電線やフラットケーブルは実現できていなかった。
【0006】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、耐熱性、耐薬品性に優れ不燃材料であるPTFEの平行電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するべく、本発明による平行電線は、導体と該導体の外周に設けられた絶縁被覆とからなる複数の電線が、長手方向に沿って平行に連結された平行電線において、上記複数の電線における絶縁被覆が、実質的に均質なポリテトラフルオロエチレン樹脂で一体的に形成されているとともに、上記複数の電線同士が、長手方向に沿って隙間なく連結されていることを特徴とするものである。
また、本発明による他の形態の平行電線は、導体と該導体の外周に設けられた絶縁被覆とからなる複数の電線が、長手方向に沿って平行に連結された平行電線において、上記複数の電線における絶縁被覆が、溶融流動成分を含まないポリテトラフルオロエチレン樹脂からなることを特徴とするものである。
また、本発明による他の形態の平行電線は、導体と該導体の外周に設けられた絶縁被覆とからなる複数の電線が、長手方向に沿って平行に連結された平行電線において、上記複数の電線の間に、該電線同士を連結し、上記電線の外径より厚さが薄いブリッジ部が形成されており、上記絶縁被覆及び上記ブリッジ部が実質的に均質なポリテトラフルオロエチレン樹脂で一体的に形成されていることを特徴とするものである。
また、上記導体と上記絶縁被覆とが隙間なく密接していることが考えられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、PTFEを絶縁被覆の材料として、平行電線を得ることができる。PTFEは、耐熱性、耐薬品性に優れ不燃材料であることから、平行電線も同様の優れた特性を得ることができる。また、この平行電線は、電線同士が確実に連結されており、割れ等を生じることはない。また、導体と絶縁被覆が密接していれば、導体が引き抜けてしまうことはなく、導体と絶縁被覆の間に水等が容易に浸入してしまうことも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係る図で、平行電線の一部透過斜視図である。
【
図2】本発明の他の形態に係る図で、平行電線の一部透過斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る平行電線の断面を撮影した写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、
図1を参照して実施の形態に係る平行電線を説明する。線状の導電体からなる導体1,1´が互いに平行に配置され、その外周は絶縁被覆2,2´で覆われている。この絶縁被覆2と絶縁被覆2´の間には、ブリッジ部3が長手方向に連続して設けられ、電線5と電線5´とが長手方向に沿って平行を保って連結されている。
【0011】
次に、本実施の形態による平行電線の製造方法について説明する。本実施の形態では、まず、融点約327℃のポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)100重量部と市販の石油系助剤16重量部を混合したものを24時間熟成して絶縁被覆用ペーストを調整した。次に、絶縁被覆用ペーストをシリンダーの隙間に充填し、面圧プレス4.3MPaにて120秒間加圧してプリフォームを作製した。次いで、外径0.77mmのニッケルメッキ軟銅線からなる導体1,1´を捻じれないようにペースト押出機にセットするとともに、ペースト押出機を使用して上記のプリフォームを導体1,1´の外周に押出被覆した。この際、絶縁被覆2,2´の肉厚を0.25mm、ブリッジ部3の幅を0.15mm、ブリッジ部の厚さを0.15mmとした。その後、120℃~250℃のオーブンに連続して通して押出助剤を乾燥除去し、更に500℃のオーブンに通してPTFEを焼成して、仕上がり外径1.27mmの電線5,5´が連結した平行電線10とした。このようにして作成した平行電線10は、電線5と電線5´が、長さ方向に渡って隙間なくブリッジ部3で連結されていた。
【0012】
本実施の形態による平行電線の断面について、光学拡大鏡を使用して撮影した。この写真を
図3に示す。導体1,1´と絶縁被覆2,2´の間に隙間はなく、両者が密接していることが確認された。また、絶縁被覆2,2´及びブリッジ部3が実質的に均質なPTFEで一体的に形成されていることが確認された。
【0013】
本発明は上記の実施の形態に限定されず、例えば以下のようなものも考えられる。
【0014】
上記導体1,1´に特に限定はなく、単線の導電素線であっても良いし、複数本の導電素線を撚り合せたものであってもよい。また、複数本の導電素線を撚り合せて一次撚線とし、複数本の一次撚線を更に撚り合せて二次撚線としたものであれば、絶縁破壊電圧に優れた導体1,1´となるため好ましい。この場合、一次撚線の撚り方向と二次撚線の撚り方向が互いに逆向きになるようにすれば、導体1,1´として曲げ癖が付き難くなるため更に好ましい。また、導体1の撚り方向と導体1´の撚り方向が互いに逆向きになるようにすれば、平行電線10として曲げ癖が付き難くなるため更に好ましい。導体1,1´の材質としては、一般的な種々のものが使用でき、例えば、銅線、銅合金線、アルミニウム合金線、ステンレス鋼線や、これらに種々のメッキや被覆を施したもの、樹脂糸やガラス糸などに導電材料で被覆をしたもの等が挙げられる。また、導体1,1´の径も目的に応じて適宜設計すればよい。
【0015】
絶縁被覆2,2´については、PTFEで構成されるが、必要に応じて種々の添加剤を配合しても良い。但し、原則として、PTFEの融点近傍以下、具体的には400℃以下(大気圧基準)で溶融流動する材料は配合しない。上記実施の形態では、PTFEを焼成しているが、未焼成でもよいし、焼成加減を適宜に調整して、半焼成や微焼成とされる状態にしてもよい。また、導体1,1´の肉厚も目的に応じて適宜設計すればよい。なお、絶縁被覆2,2´は実質的に均質なPTFEで構成されることが好ましいが、実質的に均質な、とは、接着や接合の界面がないものであり、また、部分部分で材質として異なる状態になっていないものを示す。
【0016】
ブリッジ部3の厚さや幅についても、適宜設計することができる。但し、ブリッジ部3厚さが薄すぎる場合は、ブリッジ部3で折れてしまったり、ブリッジ部3が容易に破損してしまったりする可能性がある。また、ブリッジ部3の長さが長すぎる場合も、ブリッジ部3で折れてしまったりする可能性がある。また、
図2に示すように、ブリッジ部がなく、電線5と電線5´が、絶縁被覆2と絶縁被覆2´で直接連結しているようなものも考えられる。また、ブリッジ部の厚さが電線の径と同じ、即ち、平行電線10の断面形状が俵型になるようなものも考えられる。なお、絶縁被覆2,2´とブリッジ部3は、一体的に形成されていることが好ましく、別部材であったものを接着や接合するようなものは、一体的に形成と言えるものではない。
【0017】
上記実施の形態では、2本の電線5,5´を連結した例を記載したが、もちろん、電線が3本以上となっていても良い。例えば、電線を3本とした場合、これら電線の内の2本を電力線とし、他の電線をアース線や信号線として使用することにより、これらを1本の平行電線としてまとめるができるため、配線の錯綜を防止することができる。また、電線が一列に並んでいる形態だけでなく、複数列で並んでいるものも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上詳述したように、本発明による平行電線は、耐熱性、耐薬品性に優れ不燃材料に優れたPTFEからなるものである。このような平行電線は、様々な機器のリード線や動力線、或いは、フラットケーブルとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0019】
1,1´ 導体
2,2´ 絶縁被覆
3 ブリッジ部
5,5´ 電線
10 平行電線