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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060189
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】スピーカー振動板及びヘッドフォン
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/02 20060101AFI20230420BHJP
   H04R 1/10 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
H04R7/02 D
H04R7/02 Z
H04R1/10
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033673
(22)【出願日】2023-03-06
(62)【分割の表示】P 2018228738の分割
【原出願日】2018-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 常典
(57)【要約】
【課題】周波数の再生レンジを大きくしつつ、振動伝播速度の低下を抑制することができるスピーカー振動板の提供を課題とする。
【解決手段】本発明に係るスピーカー振動板1は、セルロースナノファイバー及びポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維を含む混抄層11を備え、前記セルロースナノファイバーの平均径は、0.1μm以上5.0μm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバー及びポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維を含む混抄層を備え、
前記セルロースナノファイバーの平均径は、0.1μm以上5.0μm以下であるスピーカー振動板。
【請求項2】
前記ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の平均長さが0.5mm以上4.0mm以下である請求項1に記載のスピーカー振動板。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバー及びポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の合計含有量100質量部に対する前記ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の含有割合が10質量部以上50質量部以下である請求項1又は請求項2に記載のスピーカー振動板。
【請求項4】
前記混抄層の密度が400kg/m以上900kg/m以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載のスピーカー振動板。
【請求項5】
前記混抄層の平均厚さが0.02mm以上0.20mm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のスピーカー振動板。
【請求項6】
前記混抄層の単層体からなる請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のスピーカー振動板。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のスピーカー振動板を備えるヘッドフォン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカー振動板及びヘッドフォンに関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ装置では、低音から高音までの広い周波数帯域の音を再生できるよう、異なる音域を複数のスピーカーに分担させる場合がある。このスピーカーとしては、低音域を再生するウーファ、中音域を再生するスコーカ及び高音域を再生するツイータが挙げられる。
【0003】
これらのスピーカーのうち、例えばツイータ用の振動板には、軽量であり、かつ弾性率及び内部損失(tanδ)が大きいことが求められる。このような観点から、今日ではセルロースナノファイバーの抄紙体からなるスピーカー振動板が提案されている(特開2017-126946号公報参照)。
【0004】
一方、スピーカー振動板をセルロースナノファイバーの抄紙体により形成すると、周波数の再生レンジが小さく、所望の音を再生し難い場合がある。そのため、弾性率等を調節すべく、セルロースナノファイバーと他の繊維との混抄体からなるスピーカー振動板も提案されている(特開2017-118334号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-126946号公報
【特許文献2】特開2017-118334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載のスピーカー振動板は、セルロースナノファイバーと木材パルプとを混抄して形成される。このスピーカー振動板は、木材パルプの含有割合を大きくすることで、弾性率を小さくし、内部損失を増やして周波数の再生レンジを一定程度大きくすることができると考えられる。
【0007】
しかしながら、このスピーカー振動板は、木材パルプの含有割合が大きくなる程、曲げ剛性が低下して振動伝播速度が小さくなるという不都合を有する。このように、セルロースナノファイバーを混抄して得られるスピーカー振動板にあっては、パルプの含有割合と振動伝播速度とはトレードオフの関係にあると考えられている。
【0008】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、本発明の課題は、セルロースナノファイバーを含む混抄層を備える構成において、周波数の再生レンジを大きくしつつ、振動伝播速度の低下を抑制することができるスピーカー振動板及びヘッドフォンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた本発明は、セルロースナノファイバー及びポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維を含む混抄層を備え、前記セルロースナノファイバーの平均径は、0.1μm以上5.0μm以下であるスピーカー振動板である。
【0010】
前記ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の平均長さとしては0.5mm以上4.0mm以下が好ましい。
【0011】
前記セルロースナノファイバー及びポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の合計含有量100質量部に対する前記ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の含有割合としては10質量部以上50質量部以下が好ましい。
【0012】
前記混抄層の密度としては400kg/m以上900kg/m以下が好ましい。
【0013】
前記混抄層の平均厚さとしては0.02mm以上0.20mm以下が好ましい。
【0014】
当該スピーカー振動板は、前記混抄層の単層体からなるとよい。
【0015】
また、前記課題を解決するためになされた本発明は、当該スピーカー振動板を備えるヘッドフォンである。
【0016】
なお、本発明において、「セルロースナノファイバー」とは、繊維径がナノサイズのセルロース微細繊維を含むセルロース繊維をいう。また、「繊維の平均長さ」とは、任意の10本の繊維の長さの平均値をいう。「混抄層の平均厚さ」とは、混抄層の任意の10点の厚さの平均値をいう。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るスピーカー振動板は、セルロースナノファイバーと共にポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維を混抄した混抄層を備えるので、周波数の再生レンジを大きくしつつ、振動伝播速度の低下を抑制することができる。
【0018】
また、本発明に係るヘッドフォンは、当該スピーカー振動板を備えるので、周波数の再生レンジを大きくしつつ、振動伝播速度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るスピーカー振動板の模式的正面図である。
図2図1のスピーカー振動板のA-A線断面図である。
図3図1のスピーカー振動板を備えるヘッドフォンを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0021】
[スピーカー振動板]
図1及び図2のスピーカー振動板1は、セルロースナノファイバー(CNF)及びポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(PBO繊維)を含む混抄層11を備える。当該スピーカー振動板1は、混抄層11の単層体からなる。当該スピーカー振動板1は、混抄層11の単層体からなるので、この混抄層11によって振動板全体の品質を制御しやすい。
【0022】
混抄層11は、CNF及びPBO繊維を含む混抄層11の形成材料を分散媒に分散したスラリーを当該スピーカー振動板1に対応する形状を有する抄き型を用いて混抄することで形成される。混抄層11において、CNF及びPBO繊維は特定の配向性を有しない。
【0023】
前記分散媒としては、例えば水、メタノール水溶液、エタノール水溶液等の水系分散媒が挙げられる。前記スラリーにおける固形分含有率としては、例えば0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。また、前記抄き型としては、所望のスピーカー振動板に対応する形状を有し、混抄層11の形成材料を捕捉し、かつ前記分散媒を透過させるものであればよい。このような抄き型の具体例としては、金属メッシュ、パンチングメタル等が挙げられる。
【0024】
本発明者らが鋭意検討したところ、CNFと混抄される繊維がPBO繊維であることによって、これらの繊維を混抄して形成される混抄層11の弾性率を下げることで周波数の再生レンジを大きくしつつ、混抄層11の曲げ剛性を高く維持して振動伝播速度の低下を抑制できることが分かった。混抄層11の曲げ剛性を高く維持することができる理由としては、繊維径及び剛性の比較的大きいPBO繊維がCNF間に介在することで、繊維間の空隙を大きくして混抄層11の密度を小さくしつつ混抄層11の厚みを嵩上げできることが挙げられる。
【0025】
当該スピーカー振動板1は、例えばセミハードドーム型のツイータ用振動板として好適に用いられる。当該スピーカー振動板1(つまり混抄層11)は、外部から入力された音声信号に応じて駆動部によって振動し、音波を発生するドーム状の本体部11aを有する。また、当該スピーカー振動板1は、本体部11aの外周縁から連続する環状の内側平坦部11bと、内側平坦部11bの外周縁から連続し、表面側(本体部11aが突出する側)に凸に湾曲する環状の突出部11cと、突出部11cの外周縁から連続する環状の外側平坦部11dとを有する。当該スピーカー振動板1は、例えば内側平坦部11b、突出部11c及び外側平坦部11dにかけてエッジゴムと接合されることでスピーカーの筐体に取り付けられる。当該スピーカー振動板1は、例えば略均一な厚さを有してもよく、エッジ部(内側平坦部11b、突出部11c及び外側平坦部11d)の厚さを本体部11aの厚さよりも小さくしてもよい。当該スピーカー振動板1は、前記エッジ部の厚さを小さくすることで、最低共振周波数を小さくすることができ、周波数の再生レンジを大きくしやすい。
【0026】
混抄層11の平均厚さ(混抄層11が本体部11aとエッジ部とを有する場合、本体部11aの平均厚さ)の下限としては、0.02mmが好ましく、0.05mmがより好ましく、0.12mmがさらに好ましい。一方、混抄層11の平均厚さの上限としては、0.20mmが好ましく、0.17mmがより好ましい。前記平均厚さが前記下限に満たないと、当該スピーカー振動板1の曲げ剛性を十分に大きくすることができないおそれがある。逆に、前記平均厚さが前記上限を超えると、当該スピーカー振動板1の軽量化を十分に図り難くなるおそれがある。
【0027】
CNFは、例えば植物原料(繊維原料)を公知の方法によって解繊することで得られる。
【0028】
CNFの平均径の下限としては、0.01μmが好ましく、0.1μmがより好ましい。一方、前記平均径の上限としては、5.0μmが好ましく、1.0μmがより好ましい。前記平均径が前記下限に満たないと、混抄層11の形成が容易でなくなるおそれがある。逆に、前記平均径が前記上限を超えると、混抄層11中でのPBO繊維の均一分散性が不十分となるおそれがある。なお、「径」とは、軸方向と垂直な断面を等面積の真円に換算した場合の直径をいい、「平均径」とは、任意の10本の繊維の径の平均値をいう。
【0029】
PBO繊維は、混抄層11では、複数のCNF同士の間に部分的に介在する。その結果、当該スピーカー振動板1は、PBO繊維の介在によって繊維間の空隙を大きくして混抄層11の密度を効果的に小さくしつつ、曲げ剛性の低下を抑えて混抄層11の振動伝播速度を維持することができる。CNFとPBO繊維とは接触しているが、接合はされていない。
【0030】
PBO繊維の平均長さの下限としては、0.5mmが好ましく、1.0mmがより好ましい。一方、前記平均長さの上限としては、4.0mmが好ましく、3.5mmがより好ましく、3.0mmがさらに好ましく、2.0mmが特に好ましい。前記平均長さが前記下限に満たないと、CNFとPBO繊維とを混抄し難くなるおそれがある。逆に、前記平均長さが前記上限を超えると、PBO繊維が絡み合ってダマになり、混抄層11における分散性が低下するおそれがあり、その結果混抄層11の品質を制御し難くなるおそれがある。
【0031】
PBO繊維の平均径は、CNFの平均径よりも大きい。PBO繊維の平均径の下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、前記平均径の上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましい。前記平均径が前記下限に満たないと、PBO繊維によって混抄層11の空隙(CNF同士の間の空隙)を十分に大きくし難くなるおそれがある。逆に、前記平均径が前記上限を超えると、CNFとPBO繊維との径の差が大きくなり過ぎて両者を混抄し難くなるおそれがある。
【0032】
当該スピーカー振動板1は、PBO繊維によってCNFに由来する弾性率等を調節するものであり、PBO繊維の含有割合はCNFの含有割合以下であることが好ましい。当該スピーカー振動板1は、分散量が多く、かつ平均径が小さいCNFと、分散量が少なく、かつ平均径が大きいPBO繊維とを混抄することで、混抄層11中におけるPBO繊維の均一分散性を十分に高めることができる。
【0033】
混抄層11におけるCNF及びPBO繊維の合計含有量100質量部に対するPBO繊維の含有割合の下限としては、10質量部が好ましく、20質量部がより好ましい。一方、前記含有割合の上限としては、50質量部が好ましく、30質量部がより好ましい。前記含有割合が前記下限に満たないと、PBO繊維によって混抄層11の弾性率等を十分に調節し難くなるおそれがある。逆に、前記含有割合が前記上限を超えると、CNFに由来する混抄層11の振動伝播速度を十分に維持し難くなるおそれがある。
【0034】
前述のように、当該スピーカー振動板1(混抄層11)は、CNFとPBO繊維とを混抄することによって繊維間の空隙を大きくすることができるので、同一の面密度を有するCNFのみの抄紙層からなる振動板と比較した場合、低密度化を図ると同時に厚さを嵩上げすることができる。当該スピーカー振動板1は、混抄層11の密度を小さくすることで弾性率を低くして周波数の再生レンジを大きくすると共に、混抄層11の厚さを大きくすることで曲げ剛性を高め振動伝播速度を高く維持することができる。このような観点から、当該スピーカー振動板1(つまり、混抄層11)は、CNF及びPBO繊維以外の繊維を含まないことが好ましい。一方、当該スピーカー振動板1は、本発明の効果を損なわない範囲でCNF及びPBO繊維以外の他の繊維を含んでもよいが、この場合、混抄層11におけるCNF及びPBO繊維の合計含有量100質量部に対する前記他の繊維の含有割合の上限としては、10質量部が好ましく、5質量部がより好ましい。
【0035】
また、前述のように、当該スピーカー振動板1は、PBO繊維によって混抄層11のCNF同士の間の空隙を調節するものである。そのため、当該スピーカー振動板1(つまり、混抄層11)は、PBO繊維による空隙の調節機能を高める観点からは、バインダー成分を含まなくてもよい。但し、当該スピーカー振動板1は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記バインダー成分として熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。この熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが挙げられる。
【0036】
なお、当該スピーカー振動板1は、本発明の効果を損なわない範囲で、着色剤、紫外線吸収剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0037】
混抄層11の密度の下限としては、400kg/mが好ましく、450kg/mがより好ましい、一方、混抄層11の密度の上限としては、900kg/mが好ましく、800kg/mがより好ましく、700kg/mがさらに好ましく、650kg/mが特に好ましい。前記密度が前記下限に満たないと、当該スピーカー振動板1の剛性が不十分となるおそれがある。逆に、前記密度が前記上限を超えると、当該スピーカー振動板1の弾性率が大きくなり過ぎて周波数の再生レンジが不十分となるおそれがある。
【0038】
混抄層11の貯蔵弾性率の下限としては、1.5GPaが好ましく、2.0GPaがより好ましい。一方、混抄層11の貯蔵弾性率の上限としては、6.0GPaが好ましく、3.5GPaがより好ましい。前記貯蔵弾性率が前記下限に満たないと、ツイータ用の振動板として適用し難くなるおそれがある。逆に、前記貯蔵弾性率が前記上限を超えると、周波数の再生レンジが不十分となるおそれがある。
【0039】
混抄層11の内部損失(tanδ)の下限としては、0.02が好ましく、0.025がより好ましい。混抄層11の内部損失(tanδ)が前記下限に満たないと、振動減衰率が不十分となり、残響音が多くなるおそれがある。一方、混抄層11の内部損失(tanδ)の上限としては、特に限定されるものではなく、例えば0.06とすることができる。
【0040】
<利点>
当該スピーカー振動板1は、CNFと共にPBO繊維を混抄した混抄層11を備えるので、周波数の再生レンジを大きくしつつ、振動伝播速度の低下を抑制することができる。
【0041】
[ヘッドフォン]
図3のヘッドフォン21は、使用者の耳に装着される一対のハウジング22a,22bと、一対のハウジング22a,22bに接続される一対のヨーク23a,23bと、一対のヨーク23a,23bを介して一対のハウジング22a,22b同士を接続するヘッドバンド24とを備える。一対のハウジング22a,22bは、軸方向に扁平な有底円筒状の本体25a,25bと、本体25a,25bの開口側の端部に設けられるリング状のクッション26a,26bと、本体25a,25bに設けられ、オーディオケーブル(不図示)等に接続されるコネクタ27a,27bと、本体25a,25bの開口を閉塞するよう設けられる図1のスピーカー振動板1とを備える。当該ヘッドフォン21は、前記オーディオケーブルから出力される音声信号に応じて当該スピーカー振動板1が振動することで、音波を発生可能に構成されている。
【0042】
<利点>
当該ヘッドフォン21は、当該スピーカー振動板1を備えるので、周波数の再生レンジを大きくしつつ、振動伝播速度の低下を抑制することができる。
【0043】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0044】
例えば当該スピーカー振動板は、前述の混抄層以外の他の層を備えていてもよい。このような層として、例えば防水機能を有するコーティング層等が挙げられる。つまり、当該スピーカー振動板は、前述の混抄層とコーティング層等の他の層との多層体であってもよい。
【0045】
当該スピーカー振動板の形状は、前述の実施形態の形状の限定されるものではなく、例えば平板状であってもよい。
【0046】
当該スピーカー振動板は、家庭用、車載用、商業施設用等のオーディオ機器のスピーカー用であってもよく、イヤフォン、その他携帯電子機器の小型スピーカー用であってもよい。また、当該スピーカー振動板がヘッドフォンに用いられる場合でも、このヘッドフォンの具体的構成は前述の実施形態の構成に限定されるものではない。
【実施例0047】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0048】
[実施例]
[No.1]
CNFと、平均長さ1mmで、CNFよりも繊維径の大きい東洋紡社製のPBO繊維(「ザイロン」(登録商標))とを混抄して、密度714kg/m、面密度88.5g/mの混抄層からなる平板状のサンプルを製造した。No.1では、CNF及びPBO繊維の合計含有量100質量部に対するPBO繊維の含有割合を10質量部とした。本実施例において、密度及び面密度は、切り出した5mm×40mmの試験片の値によって求めた。なお、この試験片の厚さは、任意の3点の厚さの平均値によって求めた。
【0049】
[No.2]
CNF及びPBO繊維の合計含有量100質量部に対するPBO繊維の含有割合を20質量部とし、No.1と同様のCNF及びPBO繊維を混抄して、密度611kg/m、面密度83.1g/mの混抄層からなる平板状のサンプルを製造した。
【0050】
[No.3]
CNF及びPBO繊維の合計含有量100質量部に対するPBO繊維の含有割合を30質量部とし、No.1と同様のCNF及びPBO繊維を混抄して、密度534kg/m、面密度82.2g/mの混抄層からなる平板状のサンプルを製造した。
【0051】
[No.4]
CNF及びPBO繊維の合計含有量100質量部に対するPBO繊維の含有割合を40質量部とし、No.1と同様のCNF及びPBO繊維を混抄して、密度513kg/m、面密度85.1g/mの混抄層からなる平板状のサンプルを製造した。
【0052】
[No.5]
CNF及びPBO繊維の合計含有量100質量部に対するPBO繊維の含有割合を50質量部とし、No.1と同様のCNF及びPBO繊維を混抄して、密度471kg/m、面密度87.6g/mの混抄層からなる平板状のサンプルを製造した。
【0053】
[No.6]
PBO繊維として、平均長さ3mmでCNFよりも繊維径の大きい東洋紡社製の「ザイロン」を用いた以外、No.1と同様にして平板状のサンプルを製造した。No.6のサンプルの密度は684kg/m、面密度は93.1g/mであった。
【0054】
[No.7]
CNF及びPBO繊維の合計含有量100質量部に対するPBO繊維の含有割合を20質量部とし、No.6と同様のCNF及びPBO繊維を混抄して、密度628kg/m、面密度94.1g/mの混抄層からなる平板状のサンプルを製造した。
【0055】
[No.8]
CNF及びPBO繊維の合計含有量100質量部に対するPBO繊維の含有割合を30質量部とし、No.6と同様のCNF及びPBO繊維を混抄して、密度533kg/m、面密度96.0g/mの混抄層からなる平板状のサンプルを製造した。
【0056】
[No.9]
CNF及びPBO繊維の合計含有量100質量部に対するPBO繊維の含有割合を40質量部とし、No.6と同様のCNF及びPBO繊維を混抄して、密度471kg/m、面密度82.8g/mの混抄層からなる平板状のサンプルを製造した。
【0057】
[No.10]
CNF及びPBO繊維の合計含有量100質量部に対するPBO繊維の含有割合を50質量部とし、No.6と同様のCNF及びPBO繊維を混抄して、密度421kg/m、面密度81.7g/mの混抄層からなる平板状のサンプルを製造した。
【0058】
[比較例]
[No.11]
No.1と同様のCNFを抄紙して、密度858kg/m、面密度91.8g/mの混抄層からなる平板状のサンプルを製造した。
【0059】
<貯蔵弾性率>
No.1~No.11のサンプルの貯蔵弾性率[GPa]を測定した。この貯蔵弾性率は、幅5mm、長さ40mm、厚さ0.5mmの矩形状の試験片を切り出し、Metravib社製の動的粘弾性測定装置(「DMA+150」)を用い、引っ張りモードにて温度23±2℃で測定した。この測定結果を表1に示す。
【0060】
<単位幅あたりの曲げ剛性>
No.1~No.11のサンプルの単位幅あたりの曲げ剛性[Pa・m]を測定した。この単位幅あたりの曲げ剛性は、前記貯蔵弾性率に単位幅あたりの断面2次モーメントを掛けることで求めた。具体的には、貯蔵弾性率をE[Pa]とし、平板状のサンプルの厚さをh[m]、幅をb[m]とした場合、E×bh/12(但し、b=1)によって求めた。この測定結果を表1に示す。
【0061】
<内部損失(tanδ)>
No.1~No.11のスピーカー振動板の内部損失(tanδ)を測定した。この内部損失(tanδ)は、貯蔵弾性率と同様の動的粘弾性測定装置を用いて測定した。この測定結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
[評価結果]
表1に示すように、CNF及びPBO繊維を含む混抄層を備えるNo.1~No.10のサンプルは、No.11のサンプルと比較して、低密度化が図られている。これにより、No.1~No.10のサンプルは、貯蔵弾性率が小さくなっており、周波数の再生レンジを大きくできている。特に、No.1~No.10のスピーカー振動板は、PBO繊維の含有割合が大きくなる程、低密度化が促進されており、周波数の再生レンジをより大きくできている。
【0064】
また、No.1~No.10のサンプルは、面密度が81.7g/m以上96.0g/m以下の範囲内であり、これらの面密度はNo.11のサンプルの面密度と略等しい。つまり、No.1~No.10のスピーカー振動板は、PBO繊維の含有割合が大きくなる程、低密度化と併せて肉厚化が促進されることで、周波数の再生レンジを大きくしつつ、No.11よりも単位幅あたりの曲げ剛性を高く維持することができている。その結果から、No.1~No.10のサンプルの音速は、No.11のサンプルの音速以上であり、振動伝播速度を高く維持することができていると考えられる。
【0065】
さらに、No.1~No.10のサンプルは、No.11のサンプルと比較して、内部損失(tanδ)を略同等又はそれ以上に維持できている。
【0066】
以上より、No.1~No.10の形状を平板状に代えて所望の形状に形成したスピーカー振動板についても、PBO繊維の割合を増やすことで、周波数の再生レンジを大きくしつつ、内部損失を高め、振動伝播速度を高く維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明に係るスピーカー振動板は、周波数の再生レンジを大きくしつつ、振動伝播速度の低下を抑制することができるので、ツイータ用の振動板として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0068】
1 スピーカー振動板
11 混抄層
11a 本体部
11b 内側平坦部
11c 突出部
11d 外側平坦部
21 ヘッドフォン
22a,22b ハウジング
23a,23b ヨーク
24 ヘッドバンド
25a,25b 本体
26a,26b クッション
27a,27b コネクタ
図1
図2
図3