(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060588
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/02 20060101AFI20230421BHJP
A61K 8/04 20060101ALI20230421BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20230421BHJP
A61K 8/45 20060101ALI20230421BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230421BHJP
A61K 8/33 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
A61K8/02
A61K8/04
A61K8/37
A61K8/45
A61K8/73
A61K8/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170267
(22)【出願日】2021-10-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウエブサイトの掲載日 令和2年10月21日 ウェブサイトのアドレス https://www.scconline.org/ifscc2020/
(71)【出願人】
【識別番号】593084649
【氏名又は名称】日本コルマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】徳永 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】竹治 智子
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB032
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC171
4C083AC172
4C083AC331
4C083AC422
4C083AC532
4C083AC641
4C083AC642
4C083AD092
4C083AD211
4C083AD212
4C083AD352
4C083CC02
4C083CC04
4C083DD39
4C083DD44
4C083DD45
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生理活性成分を皮膚等に素早く充分に浸透させることができる液晶構造の微粒子の分散した外用剤であり、液晶構造の微粒子の分散安定性に優れた組成物からなり、しかも樹脂臭などの異臭の生じない外用剤とすることである。
【解決手段】水性成分(A)と、下記式で表される少なくとも1種の両親媒性化合物(C)と、イヌリンカルバミン酸エステルまたはイヌリン脂肪酸エステルを含む分散安定剤(D)とを必須成分とし、油性生理活性成分(B)を保持する逆ヘキサゴナル液晶などの液晶構造の平均粒子径350nm以下の微粒子が前記水性成分(A)中に分散した液晶分散組成物からなる皮膚等に適用できる外用剤とする。
(Rはグリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール、グルコース、トレハロース、ガラクトース等からなる群から選択されるいずれか1つから水酸基を1つ除いた残基)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1の式で表される少なくとも1種の両親媒性化合物(C)と、イヌリンカルバミン酸エステルまたはイヌリン脂肪酸エステルを含む分散安定剤(D)とを必須成分とし、液晶構造の微粒子が水性成分(A)中に分散した組成物からなる外用剤。
【化1】
(式中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表し、nは0~2の整数を表し、mは1又は2を表し、
は一重結合または二重結合を表し、Rはグリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール、グルコース、トレハロース、ガラクトース、キシリトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、キシロース及びアスコルビン酸からなる群から選択されるいずれか1つから水酸基を1つ除いた残基である。)
【請求項2】
前記微粒子の粒径が、平均粒子径350nm以下である請求項1に記載の外用剤。
【請求項3】
前記液晶構造が、非ラメラ液晶構造である請求項1または2に記載の外用剤。
【請求項4】
前記非ラメラ液晶構造が、逆ヘキサゴナル液晶、逆キュービック液晶およびスポンジ相から選ばれる1種以上を含む非ラメラ液晶構造である請求項3に記載の外用剤。
【請求項5】
前記両親媒性化合物(C)100質量部に対する前記分散安定剤(D)の含有比率が、5~100質量部である請求項1~4のいずれかに記載の外用剤。
【請求項6】
前記分散安定剤(D)が、ラウリルカルバミン酸イヌリンまたはその誘導体である請求項1~5のいずれかに記載の外用剤。
【請求項7】
油性生理活性成分(B)をさらに含む請求項1~6のいずれかに記載の外用剤。
【請求項8】
前記油性生理活性成分(B)が、セラミドである請求項7に記載の外用剤。
【請求項9】
前記水性成分(A)が、水性生理活性成分を含む水性成分(A)である請求項1~8のいずれかに記載の外用剤。
【請求項10】
前記外用剤が、皮膚への外用剤である請求項1~9のいずれかに記載の外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、皮膚等に対して浸透性を有する液晶分散組成物からなる外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に外用剤へ生理活性成分を配合し、その皮膚や粘膜への浸透性を高める目的で、様々な微細カプセルを作製する技術と、それを応用して様々な美容成分を内部または膜中に含有させた微細カプセルが知られている。代表的な微細カプセルとしては、リポソームやバイセル、ゼラチンマイクロカプセルなどがある(特許文献1)。
【0003】
図2に模式的に示されるように、リポソーム10は、水等の水性成分W
1中に分散した状態でリン脂質11の疎水性領域12同士を向き合わせた脂質二重層構造を有する球形の小胞になり、リン脂質の親水性領域13で囲まれた内側の領域には水性成分W
2を保持できる微細カプセルになる。
【0004】
しかし、このような微細カプセルは、界面活性剤の親水性領域が外側に配向した構造であり、疎水的な角層とは馴染み難く、皮膚に対する親和性は充分ではない。
【0005】
また、化粧水(ローション)等の水性化粧料中に、油性生理活性成分を分散させて保持できるようにするために、油性生理活性成分をリポソームと同様な脂質分散系ではあるが、非二分子膜相の液晶に保持させた微粒子を分散させる技術が周知である。
【0006】
例えば、
図3に示すように、生理活性成分を含有する油性成分Oや水性成分W
2を保持可能な液晶構造の微細カプセルとしては、特定の両親媒性化合物1からなる逆ヘキサゴナル液晶の疎水性領域2間に、セラミド等の肌荒れ防止剤、各種ビタミン類または保湿効果のある油性成分Oを保持させ、このような微細カプセルを水性成分W
1中に分散させた皮膚外用剤が知られている(特許文献2、特許文献3)。
【0007】
上記液晶構造の微細カプセルの分散安定剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(特許文献1の[0049])や、ポロキサマー14(ポリオキシプロピレン鎖15と、それを挟む2個のポリオキシエチレン鎖16からなるブロック共重合体)(特許文献2の[0042])が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4093480号公報
【特許文献2】特開2012-17318号公報
【特許文献3】特許第4817435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、液晶構造の微細カプセルである逆ヘキサゴナル液晶相のヘキソソームや、バイコンティニュアスキュービック液晶相のキュボソームは、カプセル表面が疎水性であるため、これらを水系に微分散させても再凝集を起こしやすいという問題点がある。
【0010】
また再凝集を防止する分散安定剤として前記したポロキサマー(POE/POP/POEトリブロック共重合体)やポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸は、ミセル形成能を有するから、効率的に上記の疎水性カプセル表面に配向するものではなく、また石油由来の化学物質であって経時的に分解されると樹脂臭が生じやすいので、外用剤に使用することは適切なものではない。
【0011】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、生理活性成分等を皮膚や粘膜等に素早く充分に浸透させることができる液晶を保持する微粒子の分散した外用剤であり、経時的に再凝集し難く分散安定性に優れた液晶分散組成物からなり、しかも樹脂臭などの異臭の生じない皮膚外用剤等の外用剤とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明では下記化1の式で表される少なくとも1種の両親媒性化合物(C)と、イヌリンカルバミン酸エステルまたはイヌリン脂肪酸エステルを含む分散安定剤(D)とを必須成分とし、液晶構造の微粒子が水性成分(A)中に分散した組成物からなる外用剤とする手段を採用したのである。
【0013】
【化1】
(式中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表し、nは0~2の整数を表し、mは1又は2を表し、
は一重結合または二重結合を表し、Rはグリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール、グルコース、トレハロース、ガラクトース、キシリトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、キシロース及びアスコルビン酸からなる群から選択されるいずれか1つから水酸基を1つ除いた残基である。)
【0014】
なお、化1の式中のX及びYが一緒になって酸素原子を表す場合は、カルボニル基が形成された状態であり、また同式中における表記:
は、化1の式で表される両親媒性化合物(C)が、幾何異性体のE体(シス体)もしくはZ体(トランス体)またはそれらの混合物であることを意味する。
【0015】
上記した所定の化学式で表される両親媒性化合物(C)は、例えば油性生理活性成分(B)を保持している液晶構造の微粒子を構成し、1以上の微粒子を分散安定剤(D)が取り囲んで前記微粒子の構造を保持すると共に分散状態を安定させる。
【0016】
このとき、分散安定剤(D)は、主鎖のイヌリン鎖から複数の分枝した疎水性のカルバミン酸エステル鎖または脂肪酸エステル鎖を、液晶構造の微粒子の表面から内側の両親媒性化合物(C)の親油性領域に差し込んだ状態で、主鎖のイヌリン鎖を前記微粒子の外側に配置して液晶構造の微粒子を取り囲むと推察される。
【0017】
このようにして液晶構造の微粒子の表面が水溶性多糖類のイヌリン鎖で覆われて、立体的な親水性のバリアが前記微粒子の表面に形成され、その内側には必要に応じて配合される油性生理活性成分(B)を比較的多く保持することができる。そのような微粒子を水系に微分散させると、経時的に再凝集しにくく、分散安定性に優れた液晶分散組成物になる。
外用剤として使用される際には、親水性のバリアから解放された微細な液晶構造に保持されている生理活性成分等を皮膚や粘膜等に素早く充分に浸透させることができる。
【0018】
前記分散安定剤(D)が、充分に作用する前記液晶構造としては、非ラメラ液晶構造であることが好ましく、例えば逆ヘキサゴナル液晶、逆キュービック液晶またはスポンジ相(L3相)の少なくとも一つを含んだ液晶構造であることが好ましい。
また、前記微粒子の分散安定性が良好である限り、特に微粒子の粒径を制限する必要性はないが、例えば後述する実施例の結果等から、平均粒子径350nm以下または300nm以下は、外用剤として好ましい粒子径である。
【0019】
さらに分散安定性に優れた液晶分散組成物になるように、前記両親媒性化合物(C)100質量部に対する分散安定剤(D)の含有比率は、液晶分散組成物の微粒子の分散安定性を保持し、かつ微粒子が所期した液晶構造になるように5~100質量部であることが好ましく、より好ましくは5~25質量部である。
【0020】
この発明の外用剤は、必要に応じて選択的に生理活性成分等の有効成分を含有させ、ヒトの体外から粘膜や皮膚などの生体膜構造を透過させて体内に移送し、有効に作用させることができる。
この発明の外用剤が、皮膚に対して適用される外用剤である場合には、例えば液晶構造に保持させる油性生理活性成分(B)として、肌荒れの改善や皮膚バリア機能の回復を期待できるセラミドを採用することが好ましい。
また、液晶構造の微粒子の分散する水性成分(A)中に水性生理活性成分を含ませることもできる。
【発明の効果】
【0021】
この発明は、所定の液晶構造の微粒子を、分散安定剤としてミセル形成能の非常に低い分散安定剤が取り囲んで、効率的に分散状態を安定させるようにしたので、液晶構造の微粒子が経時的に再凝集し難くて分散安定性に優れ、必要に応じて含ませた生理活性成分等を皮膚や粘膜に素早く充分に浸透させることができ、しかも樹脂臭などの異臭の生じない外用剤となる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態の逆ヘキサゴナル液晶相で分散する微粒子を示す模式図
【
図2】従来の水性成分中に分散するリポソームを示す模式図
【
図3】従来の逆ヘキサゴナル液晶相で分散する微粒子を示す模式図
【
図4】(a)、(b)、(c)は、この順に実施例1、2、3の液晶構造の小角X線散乱(SAXS)による測定結果を示し、散乱ベクトルの比率qと回折強度の関係を示す図表
【
図5】実施例1の液晶構造の微粒子を撮影した透過型電子顕微鏡写真であり、(a)は倍率が30,000倍であり、(b)は倍率が120,000倍であり、(c)はフーリエ変換パターンを示す写真である
【
図6】実施例1及び比較例1の皮膚浸透性試験の結果を示し、各角層グループ及び2-7層の合計のセラミドNG回収量との関係を示す図表
【
図7】SDS処理により肌荒れを惹起した被験者の皮膚に実施例1及び比較例1を連続使用した際の時間と経皮水分蒸発量との関係を示す図表
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の一つの実施形態として、水性成分(A)を分散媒として油性生理活性成分(B)を保持する液晶構造の微粒子が、前記水性成分(A)中に分散した組成物からなる皮膚などに適用される外用剤であり、前記液晶構造が、逆ヘキサゴナル液晶、逆キュービック液晶またはスポンジ相(L3相)の少なくとも一つの非ラメラ(非層状)液晶構造を含み、原材料として、前記水性成分(A)と、油性生理活性成分(B)と、前記化1の式で表される少なくとも1種の両親媒性化合物(C)と、分散安定剤(D)とを成分とするものについて説明する。
【0024】
前記原材料が混合されて逆ヘキサゴナル液晶相が構成され、1以上の液晶構造を内部に保持し、イヌリンカルバミン酸エステルまたはイヌリン脂肪酸エステルという疎水変性したイヌリンからなる分散安定剤で包まれて分散状態の安定化された微粒子は、分散媒の水などの水性成分W1中で以下のような構造を呈している。
【0025】
図1に示すように、疎水性領域2と親水性領域3を有する両親媒性化合物1は、親水性領域3で囲まれた内側に水等の水性成分W
2を内包すると共に、外側の疎水性領域2付近に油性成分や油性生理活性成分4を保持した状態で逆ヘキサゴナル液晶構造を形成し、これを分散安定剤6が取り囲んで、微粒子5の構造を保持しながら分散状態を安定させている。
【0026】
このとき、分散安定剤6は、主鎖のイヌリン鎖7から複数の分枝した疎水性の脂肪酸エステル鎖またはカルバミン酸エステル鎖8を、液晶構造の微粒子5の表面や内側の両親媒性化合物1の疎水性領域2に差し込み、主鎖の親水性のイヌリン鎖7を微粒子5の外側に配置してカプセル状に取り囲んだ状態になると推定される。
【0027】
このようにして微粒子5の表面が水溶性多糖類のイヌリン鎖7で覆われて、立体的なバリアが微粒子5の表面に形成されると、油性生理活性成分4を内部に保持する微粒子5は、水系に微分散させても経時的に再凝集しにくく、分散安定性に優れた液晶分散組成物になる。
【0028】
また、上記した液晶構造は、主に逆ヘキサゴナル液晶相について説明したが、逆キュービック液晶相であってもよく、またスポンジ相(L3相)であってもよい。すなわち、上記液晶構造は、逆ヘキサゴナル液晶、逆キュービック液晶およびスポンジ相から選ばれる1種以上含まれる非ラメラ液晶構造であってもよい。
【0029】
いずれの場合でも配合された分散安定剤は、主鎖の水溶性多糖類からなるイヌリン鎖を1以上の液晶構造をカプセル状に取り囲んだ状態で微粒子の外側に配置されると推察され、このような液晶構造を内部に保持する微粒子の分散状態を水性成分中で安定させることができる。
因みに、スポンジ相(L3相)は、2分子膜がランダムに配向した等方的な相であり、非ラメラ液晶相の一種であって、液晶構造を変化せないように乳化して微粒子化することが可能である。
【0030】
この発明に用いる水性成分(A)は、液晶分散組成物における微粒子状の液晶の分散媒及び結晶構造に内包される水性成分W2を含み、その他にも外用剤に配合することが好ましいグリセリン(保湿剤)などの水性成分や、その他周知の水性生理活性成分も含有する場合がある。
【0031】
この発明に用いる油性生理活性成分(B)は、例えば皮膚からの水分蒸発を抑制して潤いを保ち、皮膚を柔軟に保つこと等の生理的活性作用が期待される化粧料用の油性生理活性成分であり、具体例としては、油溶性の肌荒れ防止剤、美白剤、抗老化剤、抗酸化剤、抗炎症剤、各種ビタミン類及びその誘導体、育毛剤、各種の植物または動物のエキス等が挙げられる。
【0032】
具体例としては、セラミド、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、アミノ酸、糖類、ムコ多糖類、加水分解蛋白質、スフィンゴ脂質、リン脂質、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、テトライソパルミチン酸アスコルビル、3-O-セチルアスコルビン酸、ルシノール、レチノール、ビタミンA酸、アルキルグリセリルエーテル、ε-アミノカプロン酸誘導体などが挙げられる。
【0033】
また、皮脂の代替成分として、例えばα-オレフィンオリゴマーやスクワランのような炭化水素油、ジメチルポリシロキサンのようなシリコーンオイル、その他にも周知のエモリエントオイル等を採用することもできる。
【0034】
上記セラミドは、皮膚バリア機能を高める角質層の構成成分であり、この発明に用いる油性生理活性成分(B)として、特に好ましい。
【0035】
また、上記した油性生理活性成分(B)だけではなく、この発明の皮膚などに適用できる外用剤には、前記水性成分(A)に、水性生理活性成分を含ませることもできる。
【0036】
一般的な化粧料に配合可能な水性生理活性成分としては、アスコルビン酸及びその誘導体やそれらの水溶性の塩類、その他の水溶性ビタミン類、アルブチン、エラグ酸、トラネキサム酸などの美白剤、アミノ酸などの天然保湿因子成分(NMF)、グリチルリチン酸の塩、水溶性コラーゲン、エラスチン、亜鉛グリシン錯体、ニコチン酸アミド、ε-アミノカプロン酸などの抗老化剤や抗炎症剤、各種ビタミン類やその誘導体、各種植物エキスなどの水溶性成分が挙げられる。
【0037】
この発明に用いられる両親媒性化合物(C)は、前記化1の式で表される少なくとも1種であり、式中の親水基のRまたはR´は、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、キシロース及びアスコルビン酸からなる群から選択されるいずれか1つから水酸基を1つ除いた残基であり、特にグリセロールであることが好ましい。
【0038】
化1の式で表されるグリセロールエステルの例としては、下記の化2で示されるモノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロールであるグリセロールエステル(C17グリセリンエステルまたはMGPAとも称される)、化3の式で示されるジグリセロールエステル(DGPA)、化4の式で示されるトリグリセロールエステル(TGPA)などが挙げられる。
また、下記の化5で示されるモノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカノイル)グリセロールであってもよく、前記化1の式で表される幅広い炭素数と不飽和度の脂肪鎖を有する両親媒性化合物を用いることができる。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
この発明に用いる分散安定剤(D)は、イヌリンカルバミン酸エステルまたはイヌリン脂肪酸エステルのいずれか一方が含まれていればよいが、必要であれば両方を用いることもできる。
イヌリン脂肪酸エステルとしては、イヌリンステアリン酸エステル、イヌリンパルミチン酸エステル等を好適に用いることができる。
【0044】
因みに上記分散安定剤(D)を構成するイヌリンは、自然界においてチコリやゴボウ、玉葱等の様々な植物が産生する水溶性の多糖類であり、ショ糖にフルクトースがβ-2,1結合で直鎖状に連なり、脂肪酸の最大置換度は3である。イヌリンの平均分子量は300~10000の範囲が好ましい。上記脂肪酸としては、炭素数8~32の脂肪酸が好ましく、脂肪酸は飽和でも不飽和でも、また直鎖でも分岐鎖でもよい。
【0045】
このように分散安定剤(D)は、生物由来のイヌリンを素材とし、経時的に化学合成物由来の合成樹脂のような臭いを発生させないものである。
【0046】
また、分散安定剤(D)は、水溶性多糖類であるイヌリンを主鎖に疎水性の脂肪酸またはアルキルカルバメートをグラフトした疎水変性イヌリンからなり、ポロキサマーよりもミセル形成能が低いという特性を有している。このため、分散安定剤(D)は、少量で効率的に逆ヘキサゴナル液晶の表面に配向することが可能である。
【0047】
例えば、4質量%の両親媒性化合物(C)の微粒子を安定化するためには、1質量%のポロキサマーが必要であるところ、分散安定剤(D)であれば後述する実施例1のように、0.5%でも微粒子の長期安定化が可能である。
【0048】
液晶分散組成物における前記両親媒性化合物(C)100質量部に対する分散安定剤(D)の含有比率は、5~100質量部という所定範囲であることが好ましく、分散安定剤(D)の濃度は、微粒子の平均粒子径が、350nm以下であるようにするには前記所定範囲の下限値以上であることが好ましい。また前記の所定範囲を超えて分散安定剤(D)の濃度を高めると、液晶構造の微粒子の粒径は小さくなり分散安定性は向上するものの、所期した液晶構造が得られない場合があるので、前記含有比率は25質量部未満であることがより好ましい。
【0049】
ただし、液晶構造の一部が破壊されても微粒子の分散安定性を維持することは可能であり、また微粒子は、前記両親媒性化合物(C)の疎水基が外側を向いたカプセル状素材であるので、生体表面への親和性が高いという構造的特徴は保たれる限り、可及的に分散安定剤(D)を多く配合してもよく、その場合には過剰な分散安定剤(D)によるベタつきを生じないように、前記含有比率は100質量部以下であることが好ましい。
【実施例0050】
[実施例1]
外用剤の実施例の液晶分散組成物からなるローション(化粧水)として、油性生理活性成分のセラミドを含有する逆ヘキサゴナル液晶を水中に分散させた液晶分散組成物(ヘキソソーム)を以下のようにして、表1に示す配合割合で調製した。
【0051】
先ず、両親媒性化合物(C)であるモノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロール、すなわち前記化2で示されるC17グリセリンエステルを以下のように合成した。
【0052】
テトラヒドロネロリドールを、酸の存在下でオルト酢酸トリメチルと反応させ、続いて単蒸留し、5,9,13-トリメチルテトラデク-4-エン酸メチルを得た。次に、5,9,13-トリメチルテトラデク-4-エン酸メチルを、ジメチルホルムアミド(DMF)中の炭酸カリウムの存在下でグリセロールと反応させた。反応混合物を1M塩酸で処理した後、エーテルで抽出し、抽出液を炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過後、ろ液を濃縮・精製し、純度98.3%のC17グリセリンエステルを得た。
【0053】
得られた両親媒性化合物(C)であるC17グリセリンエステルにて、セラミドNGを含む逆ヘキサゴナル液晶を形成させ、分散安定剤(D)であるラウリルカルバミン酸イヌリンを含む水性成分(A)に、この逆ヘキサゴナル液晶を分散させ、高圧ホモジナイザーでこの液晶を微分散させ、液晶構造の微粒子が水性成分(A)中に分散した液晶分散組成物を得た。
【0054】
得られた微粒子の粒子径は、レーザー回折/散乱粒度分布測定装置(LA-960V2、堀場)を用いて粒度分布を測定し、体積基準のメジアン径を粒子径としたところ、平均粒子径185.5±0.4nmであった。
【0055】
【0056】
[実施例2]
実施例1において、両親媒性化合物(C)であるC17グリセリンエステルに対する分散安定剤(D)であるラウリルカルバミン酸イヌリンの配合割合を1:0.05としたこと以外は、全く同様にして実施例2の液晶分散組成物からなるローション(化粧水)を調製した。
得られた微粒子の粒子径は、実施例1と同様にして測定したところ、平均粒子径296.3±0.1nmであった。
【0057】
[実施例3]
実施例1において、両親媒性化合物(C)であるC17グリセリンエステルに対する分散安定剤(D)であるラウリルカルバミン酸イヌリンの配合割合を1:0.25としたこと以外は、全く同様にして実施例2の液晶分散組成物からなるローション(化粧水)を調製した。
得られた微粒子の粒子径は、実施例1と同様にして測定したところ、平均粒子径100.3±0.2nmであった。
【0058】
実施例1~3について、以下の測定条件で小角X線散乱(SAXS)測定試験を行ない、逆ヘキサゴナル液晶構造であること、液晶構造と両親媒性化合物(C)であるC17グリセリンエステルに対する分散安定剤(D)の配合割合との関係を調べた。
【0059】
[小角X線散乱(SAXS)測定試験]
X線構造評価装置(Rigaku)を使用して、小角X線散乱(SAXS)による実施例の液晶構造を分析した。分析条件は、波長λ=0.1542nm(Cu-Kα)、40kV、50mA、25℃での耐真空ガラスキャピラリーセルを使用した回折分析を行なった。得られたSAXSパターンは、散乱ベクトルの係数q=(4π/λ)sin(θ/2)の関数(θは散乱角)としてプロットした。
【0060】
これらの結果は、
図4の(a)実施例1、(b)実施例2、(c)実施例3に示した。因みに、逆ヘキサゴナル液晶の回折パターンは、最大のピークから2番目のピーク、3番目のピークへの散乱ベクトルの比率q(nm
-1)は、1:√3:√4である。
【0061】
図4に示される結果から、(a)実施例1、(b)実施例2には散乱ベクトルq(nm
-1)の比率1:√3:√4のそれぞれに回折強度(a.u.)のピークが明確に認められ、逆ヘキサゴナル液晶であることが分かる。
【0062】
しかし、(c)実施例3の散乱ベクトルq(nm-1)の比率は、逆ヘキサゴナル液晶のものとはやや異なってきており、q(nm-1)0.81に少しなだらかなピークが出現したことにより、スポンジ相(L3)の存在が認められる。
【0063】
このことから両親媒性化合物(C)であるC17グリセリンエステルに対する分散安定剤(D)が過剰になると、液晶構造の一部または全体がスポンジ相(L3)に変化する。液晶構造が非ラメラ構造の微粒子の分散安定性を維持することは可能であり、このような微粒子が生体表面への親和性が高いという構造的特徴も保たれる。
【0064】
また、(c)実施例3のように分散安定剤(D)の濃度が高くなるほど、微粒子径は実施例2、1に比べて小さくなるが、逆ヘキサゴナル液晶構造に特有の回折パターンのピークは鈍くなり、分散安定剤(D)の濃度が過剰に高濃度になると逆ヘキサゴナル液晶構造の維持は難しくなることがわかる。
【0065】
さらに、実施例2については、逆ヘキサゴナル液晶構造を透過型電子顕微鏡(Cryo-TEM)で確認し、この結果を
図5に示した。
【0066】
図5に示される極低温下で作製された電子透過性の氷包埋試料の透過型電子顕微鏡画像[Cryo-TEMによる(A)倍率×30,000、スケールバー:200nm、(B)倍率×120000、スケールバー:50nm、(C)フーリエ変換パターン]を観察すると、実施例2における逆ヘキサゴナル液晶構造が確認でき、フーリエ変換パターンからナノ粒子の構造周期性が確認できた。
【0067】
次に、実施例1及び比較例1について、以下に説明する皮膚浸透性試験を行ない、生理活性成分を皮膚に素早く充分に浸透させる特性を調べた。比較例1は、リポソームの脂質二重層を有する球形のカプセルからなる微粒子構造を採用した。
【0068】
[比較例1]
セラミドNGを含むリン脂質をクロロホルムに溶解し、恒温槽に窒素ガスを吹き付けながら、回転条件下でフラスコの底に脂質膜を形成し、実施例1と同じ組成の溶媒を加えてリポソーム脂質分散液を調製した(バンガム法)。
【0069】
[皮膚浸透性試験]
実施例1および比較例1を成人被験者の前腕の内側(10μL、2cm×2cm)にコーティングし、その6時間後に、粘着テープでテープストリッピングを行なって角質層サンプルを収集した。角層サンプルは、同一箇所を新しいテープで繰り返し剥離し、異なる深さの角層を採取した。
【0070】
ストリップされた2~7層の角層サンプルを2層、3層、4~7層の3つのグループに分け、各グループのセラミドNGの回収量を液体クロマトグラフィー・質量分析計複合装置(LC/MS)で定量し、その結果を
図6に示した。また、前記3つのグループの合計量(2~7層)も同図中に併記した。
【0071】
図6に示される結果からも明らかなように、実施例1及び比較例1の外用剤を適用した皮膚から各テープに付着した状態で回収されたセラミドNGの量は、実施例1の微粒子の粒子径が、105.6±0.5nmであった比較例1(セラミド含有リポソーム)よりも大きかったにも拘わらず、回収されたセラミドNGの量は実施例1をコーティングした皮膚からの方が、比較例1をコーティングした皮膚からの回収量よりも1.5倍高かった。すべてのテープ剥離層でヘキソソームから回収されたセラミドNGの量は、リポソームから回収された量よりも多かった。
【0072】
さらに参考のために、実施例1及び比較例1の外用剤を成人被験者の前腕の内側にそれぞれ10μLずつ滴下し(先にリポソームを滴下)、ゴム手袋をつけた指で皮膚にフィットさせ、各サンプルの浸透速度を動画撮影で比較したところ、実施例1は比較例1に比べて明らかに速やかに皮膚に馴染むことが確認された。
【0073】
[経皮水分損失率の測定試験]
被験者の皮膚に化学的に刺激を与えて肌荒れを惹起(SDS処理)した前腕内側部3か所に実施例1及び比較例1を連続使用して試験し、経皮水分蒸散量を調べた。被験者の試験部位へのSDS処理は、200μLの10%ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)溶液を含浸させた綿を接触させ、3時間密封することにより行なった。
【0074】
このSDS処理の前日と翌日に、22℃、湿度50%の測定環境で実施例1及び比較例1の処理部位および未処理部位について経皮水分蒸散量を測定した。SDS処理後、各サンプルを1日2回継続して使用し、1~4週間後に経皮水分蒸散量を測定した。経皮水分損失は、VAPO SCAN AS-VT100RS(ASCH社製)を使用して測定し、その結果を
図7に示した。
【0075】
図7に示される結果からも明らかなように、実施例1の3週間の連続使用後の経表皮水分損失率は、比較例1のそれよりも大幅に抑制された。測定は塗布部を洗浄し、一定の環境(温度22℃、湿度50%)にて順化後に行っており、表皮水分損失率の低下は皮膚バリア機能の向上を反映していると考えられた。
【0076】
[比較例2-4]
実施例1において、分散安定剤(D)のラウリルカルバミン酸イヌリン0.5質量%に代えて、特許文献1等で周知のPOEラウリルエーテル酢酸1.0質量%(比較例2)、POE/POPブロック共重合体1.0質量%(比較例3)、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体0.5質量%(比較例4)を分散安定剤として用いたこと以外は実施例1と全く同様にして、液晶構造の微粒子が水性成分(A)中に分散した液晶分散組成物を調製した。
得られた比較例2-4及び実施例1の液晶分散組成物の外用剤に対し、臭気の有無および使用感についての官能評価試験を行なうと共に、粒子安定性の評価試験を行なった。
【0077】
[臭気及び使用感の評価試験]
成人10名(男女各5名)をモニターとして臭いに対するアンケート調査を行ない、被験者の前腕に塗布した状態で、化学物質等の異臭は感じられない(〇)、僅かに感じられる(△)、感じられる(×)の三段階に評価し、最も多数の評価を記号で表2中に示した。
【0078】
また、上記試験において、併せて使用感についても評価し、皮膚に対して馴染みが良い(〇)、少し馴染み難い(△)、馴染み難い(×)の三段階に評価し、最も多数の評価を記号で表2中に併記した。
【0079】
[粒子安定性の評価試験]
比較例2-4及び実施例1の外用剤を試験検体として透明ガラス瓶に封入した状態で温度加速試験を行ない、40℃で6か月経後の粒子安定性を目視によって調べ、再凝集がなく安定している(〇)、僅かに再凝集が認められる(△)、再凝集が認められる(×)の三段階に評価し、記号で表2中に併記した。
【0080】
【0081】
表2に示される結果からも明らかなように、所定の分散安定剤以外の従来の分散安定剤を用いた比較例2-4の外用剤は、何らかの異臭があり、具体的には石油臭、樹脂臭等の何らかの化学物質の臭いが感じられた。また、比較例2-4の外用剤は、分散安定剤の種類によっては再凝集が認められた。
これに対して実施例1の外用剤には、特に異臭は感じられず、全てのモニターは無臭であるとの回答が得られ、また皮膚への馴染みが良く、長期間良好な粒子安定性も確認された。
【0082】
このように微粒子は、油性生理活性成分であるセラミドを保持する疎水基(両親媒性化合物)が外側を向いた逆ヘキサゴナル液晶構造が、所定の分散安定剤で取り囲まれて微粒子の構造を保持しながら分散状態を安定させているカプセル状素材なので、肌への親和性が高い。この構造的特徴に応じて、前記液晶構造の微粒子は、セラミド含有リポソームよりも高い皮膚浸透効果があり、表皮の水分も保持されてバリア機能改善効果も示された。
【0083】
以下に、この発明の外用剤の処方例を示す。
[エッセンス(美容液)]
【0084】
【0085】
[ジェル(スキンケア)]
【0086】