IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

特開2023-60624マイクロプラスチックの分析前処理方法
<>
  • 特開-マイクロプラスチックの分析前処理方法 図1
  • 特開-マイクロプラスチックの分析前処理方法 図2
  • 特開-マイクロプラスチックの分析前処理方法 図3
  • 特開-マイクロプラスチックの分析前処理方法 図4
  • 特開-マイクロプラスチックの分析前処理方法 図5
  • 特開-マイクロプラスチックの分析前処理方法 図6
  • 特開-マイクロプラスチックの分析前処理方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060624
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】マイクロプラスチックの分析前処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/34 20060101AFI20230421BHJP
   G01N 21/3563 20140101ALI20230421BHJP
【FI】
G01N1/34
G01N21/3563
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170324
(22)【出願日】2021-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤 里砂
【テーマコード(参考)】
2G052
2G059
【Fターム(参考)】
2G052AA18
2G052AB14
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD52
2G052EA05
2G052FC16
2G052FD18
2G052GA11
2G059AA01
2G059CC20
2G059DD02
2G059EE01
2G059EE10
2G059HH01
2G059JJ13
2G059KK01
2G059MM09
(57)【要約】
【課題】検出結果中の比重分離溶液の影響を低減することができるマイクロプラスチックの分析前処理方法を提供する。
【解決手段】マイクロプラスチックの分析前処理方法は、比重分離処理(S2)で分離されたマイクロプラスチックをふるいに入れる工程(S3)と、マイクロプラスチックを入れたふるいをふるいの高さよりも浅い深さの純水に浸漬する工程(S4)と、ふるいを純水から引き上げた後に定温乾燥機で乾燥する工程(S5)とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比重分離処理を行なって得られたマイクロプラスチックの分析前処理方法であって、
前記比重分離処理で分離された前記マイクロプラスチックをふるいに入れる工程と、
前記マイクロプラスチックを入れた前記ふるいを前記ふるいの高さよりも浅い深さの純水に浸漬する工程と、
前記ふるいを純水から引き上げた後に定温乾燥機で乾燥する工程とを備える、マイクロプラスチックの分析前処理方法。
【請求項2】
前記比重分離処理は、ヨウ化ナトリウム溶液または塩化ナトリウム溶液を前記マイクロプラスチックに注入する工程を備える、請求項1に記載のマイクロプラスチックの分析前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロプラスチックの分析前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロプラスチックは、微細なプラスチックごみ(5mm以下)のことである。マイクロプラスチックが含有または吸着する化学物質が食物連鎖に取り込まれ、生態系に及ぼす影響が懸念されている。
【0003】
このようなマイクロプラスチックの影響を研究および対策するために、マイクロプラスチックの分析をする必要がある。たとえば、特許第6811370号公報(特許文献1)には、マイクロプラスチックを分析するためのサンプル製造に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6811370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば、マイクロプラスチックの成分分析を行なう場合は、一般的にフーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform Infrared Spectroscopy、FTIR)が使用される。このような分析を行なう場合には、河川や海洋から採集した環境水から夾雑物を取り除き、ヨウ化ナトリウムを用いた比重分離によってマイクロプラスチックだけを取り出す前処理を分析前に実施する。
【0006】
しかしながら、ヨウ化ナトリウムなどの比重分離溶液の成分がフーリエ変換赤外分光光度計の測定結果に影響している点、および、前処理後十分に乾燥させないと水のピークが重なるため、乾燥するのに時間を要する点などが問題であった。
【0007】
本開示は、検出結果中の比重分離溶液の影響を低減することができるマイクロプラスチックの分析前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様は、比重分離処理を行なって得られたマイクロプラスチックの分析前処理方法に関する。マイクロプラスチックの分析前処理方法は、比重分離処理で分離されたマイクロプラスチックをふるいに入れる工程と、マイクロプラスチックを入れたふるいをふるいの高さよりも浅い深さの純水に浸漬する工程と、ふるいを純水から引き上げた後に定温乾燥機で乾燥する工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示のマイクロプラスチックの分析前処理方法は、ヨウ化ナトリウムなどの比重分離溶液の影響を低減させた分析結果を得るために役に立つ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を用いた分析を説明するための図である。
図2】マイクロプラスチックの分析前処理方法の各工程を示す工程図である。
図3図3の工程S3で用いるふるいの外観図である。
図4】水のピークを説明するための図である。
図5】前処理なしの比較サンプルから得た分析結果を示す図である。
図6】前処理ありサンプルから得た分析結果を示す図である。
図7図5の波形と図6の波形を重ねて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
マイクロプラスチックの成分分析を行なう場合は、一般的にフーリエ変換赤外分光光度計が使用される。フーリエ変換赤外分光光度計は、主に有機化合物の構造推定を行なう分析装置である。赤外線を分子に照射すると、分子を構成している原子間の振動エネルギーに相当する赤外線が吸収される。この吸収度合いを調べる赤外分光法によってフーリエ変換赤外分光光度計は化合物の構造推定や定量を行なう。
【0013】
図1は、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を用いた分析を説明するための図である。フーリエ変換赤外分光光度計1は、光源3と、干渉計2と、検出器5と、コンピュータ6とを備える。干渉計2は、移動鏡21と、ビームスプリッタ22と、固定鏡23とを含む。
【0014】
光源3から干渉計2の中に発せられた赤外光はビームスプリッタ22により固定された鏡と移動する鏡側の2つに分離される。固定鏡23は移動せず、移動鏡21のみが移動している。固定鏡23および移動鏡21でそれぞれ反射した光が戻ってきて合成される。この合成された光は、移動鏡21の移動距離に応じて光の位相差が生じた干渉波(インターフェログラム)であり、この干渉波がサンプルに照射され検出器5で透過光が検知される。
【0015】
このような構成で試料4に赤外光を照射すると、移動鏡21の移動距離によって検出器で検出される光強度が異なる。コンピュータ6によって検出器5の出力をフーリエ変換することによって、赤外スペクトルが得られる。以下に、フーリエ変換赤外分光光度計1にセットする試料4の前処理方法について説明する。
【0016】
図2は、マイクロプラスチックの分析前処理方法の各工程を示す工程図である。まず、工程S1では、環境水から採取されたマイクロプラスチックに対して、過酸化水素水などで有機物を除去する酸加水分解処理が実行される。
【0017】
一旦これを脱水した後に、続く工程S2において、ヨウ化ナトリウム水溶液を注いでマイクロプラスチックを浮き上がらせる比重分離処理が実行される。なお、ヨウ化ナトリウム水溶液の代わりに塩化ナトリウム水溶液を用いても良い。
【0018】
そして、工程S3では、ヨウ化ナトリウム水溶液または塩化ナトリウム水溶液を注いで浮き上がったマイクロプラスチックをふるい(300μm)ですくう粒径分離処理が実行される。
【0019】
図3は、図3の工程S3で用いるふるいの外観図である。図3に示すようなステンレスふるいに比重分離後のマイクロプラスチックを回収する。なお、図3では、目の開きが300μmの例を示したが、目の開きは分析対象とするマイクロプラスチックの粒径に応じて適宜変更しても良い。
【0020】
再び図2に戻って、続く工程S4において、ヨウ化ナトリウム除去処理が行なわれる。工程S4では、ふるいの高さより浅い深さの純水にふるいを浸漬し、1分くらい放置する。その後、ふるいを静かに純水から引き上げる。このとき、上から水をかけると水圧でふるいの網目をマイクロプラスチックが抜けてしまう可能性があるため、容器中に貯めた純水に浸漬するのが重要である。このようにして、比重分離処理に使用したヨウ化ナトリウムが除去される。なお、ヨウ化ナトリウム水溶液の代わりに塩化ナトリウム水溶液を用いた場合は、塩化ナトリウムが除去される。
【0021】
そして、工程S5の乾燥処理が実行される。乾燥処理としては、マイクロプラスチックが入ったふるいを30℃~50℃程度に設定した定温乾燥機(ファンなし)に数時間放置する。温度を上げすぎると、マイクロプラスチックが変質するおそれがある。また乾燥機にファンがあるとマイクロプラスチックが飛散するおそれがある。以上に留意して乾燥を行なう。
【0022】
図4は、水のピークを説明するための図である。乾燥が不十分であると、図4に示した水のピークが検出結果に重畳されてしまう。このため、定温乾燥機で完全に乾燥させマイクロプラスチックから水分を除去することが重要である。
【0023】
その後、工程S6において、乾燥機からふるいを取り出し、ふるいからピンセットで一粒マイクロプラスチックを取り出す。これをFTIRにセットし分析する。
【0024】
以下に、本実施の形態の前処理方法を行なった場合と行なわない場合との比較結果を説明する。図5は、前処理なし(水洗い前)サンプルから得た分析結果を示す図である。図6は、本実施の形態の前処理ありサンプルから得た分析結果を示す図である。図7は、図5の波形と図6の波形を重ねて示した図である。
【0025】
図5図7の矢印部分にみられるヨウ化ナトリウムのピークが、図6では低減している。図6では、本来検出したかった波長1000cm-1のピークがわかりやすくなっており、ヨウ化ナトリウムおよび水の影響のないデータが得られる。
【0026】
[態様]
上述した例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0027】
(第1項)本開示の第1の態様は、比重分離処理を行なって得られたマイクロプラスチックの分析前処理方法に関する。マイクロプラスチックの分析前処理方法は、比重分離処理で分離されたマイクロプラスチックをふるいに入れる工程と、マイクロプラスチックを入れたふるいをふるいの高さよりも浅い深さの純水に浸漬する工程と、ふるいを純水から引き上げた後に定温乾燥機で乾燥する工程とを備える。
【0028】
(第2項)第1項に記載のマイクロプラスチックの分析前処理方法において、比重分離処理は、ヨウ化ナトリウム溶液または塩化ナトリウム溶液をマイクロプラスチックに注入する工程を備える。
【0029】
本実施の形態のマイクロプラスチックの分析前処理方法によれば、FTIRによって分析を行なう場合に、ヨウ化ナトリウムなどの比重分離溶液および水の影響のないデータが得られる。
【0030】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0031】
1 フーリエ変換赤外分光光度計、2 干渉計、3 光源、4 試料、5 検出器、6 コンピュータ、21 移動鏡、22 ビームスプリッタ、23 固定鏡。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7