(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006064
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】コークス炉の状態監視装置、押出機
(51)【国際特許分類】
C10B 41/06 20060101AFI20230111BHJP
C10B 41/04 20060101ALI20230111BHJP
C10B 33/10 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C10B41/06
C10B41/04
C10B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108456
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】502369746
【氏名又は名称】住友重機械プロセス機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 貴一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】臼井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】金子 智也
(57)【要約】
【課題】本開示は、コークス炉の押詰まりの兆候を精度よく検出可能な状態監視装置を提供することを目的の一つとしている。
【解決手段】ある態様のコークス炉の状態監視装置10は、コークス炉1の状態監視装置10は、コークス炉1の炭化室70に押出ラム54を押し込むときの振動に関する振動情報を取得する振動取得部と、振動取得部で取得された振動情報に基づいて炭化室70の状態を判定する判定部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉の炭化室に押出ラムを押し込むときの振動に関する振動情報を取得する振動取得部と、
前記振動取得部で取得された前記振動情報に基づいて前記炭化室の状態を判定する判定部と、
を備える、コークス炉の状態監視装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記炭化室について予め取得された参照用振動情報を用いて前記炭化室の状態を判定する、請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項3】
前記押出ラムを押し込むときの押込み荷重に関する荷重情報を取得する荷重取得部と、
前記押出ラムの移動速度に関する速度情報を取得する速度取得部と、
をさらに備え、
前記判定部は、前記振動情報と、前記荷重取得部で取得された前記荷重情報と、前記速度取得部で取得された前記速度情報とに基づいて前記炭化室の状態を判定する、請求項1または2に記載の状態監視装置。
【請求項4】
前記振動取得部は、前記押出ラムに押込み荷重を付与する駆動部の振動を検出する振動センサを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項5】
前記判定部の判定結果を外部に送信する送信部を備える、請求項1から4のいずれか1項に記載の状態監視装置。
【請求項6】
押出ラムと、
前記押出ラムを駆動する駆動部と、
前記駆動部に設けられる状態監視装置と、
を備え、
前記状態監視装置は、炭化室に前記押出ラムを押し込むときの振動に関する振動情報を取得する振動取得部と、前記振動情報に基づいて前記炭化室の状態を判定する判定部と、を有する、押出機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の状態監視装置および押出機に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉の炭化室の押出負荷を監視する装置が知られている。例えば、特許文献1には、コークス炉の異常を検知するために押出負荷を分析する押出負荷分析装置が記載されている。この分析装置は、コークスを押出す押出しラムの押出負荷の時間的変化を表す押出負荷変化マップを生成し、生成した押出負荷変化マップを視覚的に判別可能に表示装置に表示させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コークス炉は複数の炭化室を有し、各炭化室で生成されたコークスは、押出機に搭載されたラムビームによって、炉外に押し出して回収する。その際、炭化室の炉内に付着したカーボンや、損傷による炉壁の割れや欠けが要因でコークスの押出が阻害され、ラムビームが動かなくなる「押詰まり」が発生することがある。押詰まりが発生した場合、圧縮されたコークスが炉壁を圧迫し、炉壁の損傷の原因となり得る。押詰まりの解消には半日から3日程度の時間がかかる場合があり、その間対象の炭化室での操業ができず、操業効率が低下する。このため、押詰まりの発生を予測して事前にメンテナンス等をすることが望ましい。
【0005】
特許文献1に記載の押出負荷分析装置は、押出負荷を分析して押詰まりの兆候となる異常を検出し、その検出結果に基づいて押詰まりの発生を予測する。しかし、炉壁の状態やカーボンの付着量は、それぞれの炭化室で異なるため、押出負荷も炭化室毎に大きく異なる。このため、押出負荷を分析するだけでは、炭化室毎の押出負荷の差の影響により押詰まりの兆候を精度よく検出できないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、コークス炉の押詰まりの兆候を精度よく検出可能な状態監視装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の状態監視装置は、コークス炉の炭化室に押出ラムを押し込むときの振動に関する振動情報を取得する振動取得部と、振動取得部で取得された振動情報に基づいて炭化室の状態を判定する判定部と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は、押出機である。この押出機は、押出ラムと、押出ラムを駆動する駆動部と、駆動部に設けられる状態監視装置と、を備える。状態監視装置は、炭化室に押出ラムを押し込むときの振動に関する振動情報を取得する振動取得部と、振動情報に基づいて炭化室の状態を判定する判定部と、を有する。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コークス炉の押詰まりの兆候を精度よく検出可能な状態監視装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る状態監視装置を備えるコークス炉の一例を示す図である。
【
図2】
図1の状態監視装置を概略的に示すブロック図である。
【
図3】コークス炉について取得された振動情報の一例を示す図である。
【
図4】コークス炉の押出動作の回数と振動情報の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
また、共通点のある別々の構成要素には、名称の冒頭に「第1、第2」等と付して区別し、総称するときはこれらを省略する。第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0014】
[実施形態]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態に係る状態監視装置10を説明する。
図1は、実施形態に係る状態監視装置10を備えるコークス炉1の一例を示す図である。
図2は、状態監視装置10を概略的に示すブロック図である。状態監視装置10は、コークス炉1の押出機100に設けられている。なお、この明細書では、押出機100の設置面を水平面とし、水平面に垂直な方向からの視点を「平面視」、平面視の図を「平面図」という。
【0015】
説明の便宜上、主にXYZ直交座標系をもとに説明する。X軸方向およびZ軸方向は、水平面に沿って互いに直交する方向であり、
図1において紙面左右方向および紙面に垂直な方向に対応する。Y軸方向は、水平面に直交する方向であり、
図1において紙面上下方向に対応する。X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの正の方向は、各図における矢印の方向に規定され、負の方向は、矢印と逆向きの方向に規定される。このような方向の表記は、状態監視装置10の使用姿勢を制限するものではなく、状態監視装置10は任意の姿勢で使用されうる。
【0016】
(コークス炉)
図1に示すように、コークス炉1は、押出機100と、炭化室70とを主に含む。コークス炉1は、Z軸方向に配列された複数の炭化室70を含む。以下、X軸方向において、炭化室70の押出機100が配置される側を入口側(紙面上左側)といい、その反対側を反入口側(紙面上右側)ということがある。押出機100は、炭化室70の入口側の近傍において、Z軸方向に延設されたレール82上をZ軸方向に移動可能に配置される。炭化室70は、入口側に設けられた炉口71と、反入口側に設けられた排出口73とを有する。
【0017】
押出機100は、レール82上をZ軸方向に移動し、各炭化室70からコークスを押出す。押出機100は、炉口71から押し込んだ押出ラム54によって、炭化室70で乾留して生成されたコークス76を排出口73からガイド車75に向かって押出す。
【0018】
この例では、コークス炉1は、Z軸方向に配列された複数(例えば、3台)の押出機100を備える。
図1では、3台のうち1台の押出機100を示している。例えば、複数の押出機100のうち一の押出機100が、一の炭化室70にてコークスを押出しているときに、別の押出機100が、別の炭化室70にてコークスを押出すことができる。
【0019】
状態監視装置10は、複数の押出機100すべてに設けられてもよい。本実施形態では、状態監視装置10は、複数の押出機100のうち一部の押出機に設けられおり、複数の押出機100のうち一部の押出機以外の押出機には設けられていない。この例では、状態監視装置10は、3台の押出機100のうち1台の押出機100に設けられ、他の2台の押出機100には設けられていない。
【0020】
押出機100は、駆動部60と、押出ラム54と、台車部80とを有する。台車部80は、レール82を走行可能な車輪ユニット84を有し、駆動部60と押出ラム54を支持する。押出ラム54は、X軸方向に延伸するラムビーム55と、ラムビーム55の反入口側に設けられるラムヘッド56とを備える。ラムビーム55にはラック歯57が設けられている。
【0021】
駆動部60は、モータ61と、ラムビーム55のラック歯57に噛み合うピニオン歯車64と、モータ61の出力回転を減速してピニオン歯車64に伝達する減速機62とを備える。減速機62は、入力側回転軸線がX軸方向に延び、出力側回転軸線がZ軸方向に延びる直交減速機である。モータ61の回転によってピニオン歯車64が回転すると、ピニオン歯車64に噛み合うラック歯57が押出ラム54と一体的に、X軸方向に移動する。例えば、モータ61が正方向に回転するとき、押出ラム54は反入口側に向かって移動し、モータ61が逆方向に回転するとき、押出ラム54は入口側に向かって移動する。つまり、駆動部60は、ピニオン歯車64を介して押出ラム54に押込み荷重を付与する。
【0022】
(状態監視装置)
本実施形態では、状態監視装置10は、駆動部60に設けられている。状態監視装置10は、振動取得部12と、荷重取得部14と、速度取得部16と、情報処理部30とを備える。情報処理部30は、後述する判定部33を含む。
【0023】
振動取得部12は、コークス炉1の炭化室70に押出ラム54を押し込むときの振動に関する振動情報J1を取得する。振動取得部12の構成に限定はないが、この例の振動取得部12は振動を検出する振動センサ11を含む。振動センサ11としては、圧電型加速度センサ等の公知の振動センサを採用できる。振動センサ11で検出された振動データは振動情報J1を例示する。
【0024】
振動センサ11の設置箇所に限定はないが、この例の振動センサ11は、押出ラム54に押込み荷重を付与する駆動部60の振動を検出する。具体的には、駆動部60のケーシングのうち、ピニオン歯車64が固定される減速機62の出力軸63を支持する筒状部68に取り付けられている。筒状部68は、出力軸63を環囲するとともに、軸受手段(不図示)を介して出力軸63を支持する部分である。
【0025】
荷重取得部14は、押出ラム54を押し込むときの押込み荷重に関する荷重情報J2を取得する。荷重取得部14の構成に限定はないが、この例の荷重取得部14は、モータ61の駆動電流を検出する電流センサ13を含む。モータ61の駆動電流は、押出ラム54の押込み荷重に概ね比例している。一例として、荷重情報J2は、電流センサ13で検出されたモータ61の駆動電流(A)によって例示される。
【0026】
速度取得部16は、押出ラム54の移動速度に関する速度情報J3を取得する。速度取得部16の構成に限定はないが、この例の速度取得部16は、モータ61の回転速度を検出する速度センサ15を含む。速度センサ15は、モータ61の出力軸612と一体回転する回転体152(例えば、カップリング)に設けた軸方向の突起153(例えば、ボルトの頭)の接近を検出するように配置された接近センサである。突起153は、周方向に所定の間隔で複数設けられてもよい。速度センサ15は、突起153が接近して遠ざかる際にパルス信号を出力する。速度センサ15が出力するパルス信号の間隔(期間)は、押出ラム54の移動速度に概ね反比例している。一例として、速度情報J3は、速度センサ15で検出されたパルス信号の間隔から換算されたピニオン歯車64の回転数(rpm)によって例示される。
【0027】
(情報処理部)
図2を参照して、情報処理部30を説明する。
図2に示す各ブロックは、ハードウエア的には、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)をはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウエア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウエア、ソフトウエアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、本明細書に触れた当業者には理解されるところである。
【0028】
情報処理部30は、入力部31と、記憶部32と、判定部33と、送信部34とを含む。入力部31は、振動情報J1、荷重情報J2および速度情報J3を受信する入力ポートである。以下、振動情報J1、荷重情報J2および速度情報J3を総称するときは、「受信情報」という。記憶部32は、入力部31で受信した受信情報を時系列的に記憶する。また、記憶部32は、予め取得された参照用振動情報S1と、判定部33が判定するための閾値情報と、情報処理部30の内部で生じた中間情報等を記憶する。記憶部32は、記憶部32に記憶された記憶情報を、その情報に対応する炭化室70に関連づけて記憶できる。
【0029】
判定部33は、振動情報J1に基づいて炭化室70の状態を判定する。特に、この例の判定部33は、振動情報J1、荷重情報J2および速度情報J3に基づいて、炭化室70の状態を判定する。例えば、判定部33は、各炭化室70について予め取得された参照用振動情報S1を用いて当該炭化室70の状態を判定できる。
【0030】
判定部33は、参照用振動情報S1を参照して振動情報J1を評価し、参照用振動情報S1に対する振動情報J1の差異のレベルに応じて複数のランクに分類し、その分類後のランクを判定結果E1として提供する。例えば、判定結果E1は、押詰まりを生じる可能性が低いと判定した場合に第1ランク、押詰まりを生じる可能性が中程度と判定した場合に第2ランク、押詰まりを生じる可能性が高いと判定した場合に第3ランクとされる。判定結果E1は記憶部32に記憶される。
【0031】
送信部34は、判定結果E1を外部に送信する。例えば、送信部34が送信した判定結果E1は運転室のモニタ36の画面上に表示されてもよい。この例では、送信部34が送信した判定結果E1が第3ランクの場合に、対応する炭化室70の近傍に設けた報知部35を所定の態様で発光させる。
【0032】
次に、判定方法の一例を説明する。
図3は、コークス炉1について取得された振動情報J1の一例を示す図である。この図は、コークス炉1のある炭化室70について取得された振動のエンベロープを示している。この図の横軸は、押出ラム54の押出動作の開始時から終了時までの経過時間を示し、この図の縦軸は、振動情報J1の振幅を相対値で示す。ここでは、炭化室70をメンテナンスした後のN回目の押出動作で押詰まりを生じた例を示す。実線のグラフg1は、炭化室70のメンテナンス後の1回目の押出動作で取得された振動情報J1のエンベロープを示す。一点鎖線のグラフg3は、メンテナンス後のN回目の押出動作で押詰まりを生じたときの振動情報J1のエンベロープを示す。破線のグラフg2は、押詰まり直前(メンテナンス後のN-1回目)の押出動作で取得された振動情報J1のエンベロープを示す。
【0033】
グラフg1で示すように、メンテナンス後の初期では、振動情報J1は、押出動作の開始時から振幅が徐々に増加する漸増部と、漸増部の終期からほぼ一定の振幅が続く定振幅部と、定振幅部の終期から振幅が徐々に減少する漸減部とを有する。なお、これらのパターンはあくまでも一例であって種々のパターンが生じ得る。
【0034】
グラフg3で示すように、押詰まりを生じた状態では、振動情報J1は、振動が特に大きい大振幅部と、振動が特に小さい小振幅部とがランダムに現れる特徴を有する。小振幅部は、コークス76の押出抵抗が過大になり、押出ラム54が進行停止したときに現れる。大振幅部は、停止状態で押込み荷重を高めたとき、短時間だけ押出ラム54が進行したときに現れる。小振幅部と大振幅部とが交互に現れた後、小振幅部が連続したままの状態になる。このとき、押出ラム54が停止し続ける押詰まり状態となっている。
【0035】
グラフg2で示すように、押詰まり直前の状態では、振動情報J1は、漸増部と、定振幅部と、漸減部とを有するとともに、全体の振幅がグラフg1より大きい。この押詰まり直前の振動情報J1の特徴を判別することにより押詰まりの兆候を早期把握できる。振動情報J1は、エンベロープのピーク、振幅の平均値、および振幅の実効値として定量化できる。本実施形態では、振動情報J1は、押出動作の開始から所定の期間における振幅の実効値(root mean square:二乗平均平方根)により定量化している。所定の期間は、例えば押出開始から押出終了までとしてもよい。以下の説明では、振動情報J1は振幅の実効値を意味する。
【0036】
図4は、メンテナンス後の押出動作の回数(序数)と振動情報J1の関係を示す。横軸の押出回数は、押詰まりを生じたときの回数をN回目とする序数で示している。
図4で示すように、押詰まり直前のN-1回目、N-2回目における振動情報J1は、1回目~3回目、N-4回目、N-3回目における振動情報J1よりも有意に大きい。他の多数の炭化室70について同じ評価をした結果、炭化室70ごとに振動の絶対値の差はあったが、相対化した場合の変化の態様は同じ傾向を示していいた。
【0037】
これらの知見から、本実施形態では、判定部33は、ある判定対象の振動情報J1について、判定対象の直前の押出動作における振動情報J1を予め取得された参照用振動情報S1として判定する。一例として、判定部33は、参照用振動情報S1を基準に判定対象の振動情報J1が25%以上高い場合に、押詰まりを生じる可能性は高い第3ランクと判定し、20%~24%高い場合に、押詰まりを生じる可能性は中程度の第2ランクと判定し、それ以外の場合に、押詰まりを生じる可能性は低い第1ランクと判定する。
【0038】
例えば、参照用振動情報S1に、参照用振動情報S1の25%を加えた値を第1閾値TV-1とし、振動情報J1が第1閾値TV-1以上の場合に、押詰まりを生じる可能性は高いと判定できる。また、参照用振動情報S1に、参照用振動情報S1の20%を加えた値を第2閾値TV-2とし、振動情報J1が第1閾値TV-1未満で第2閾値TV-2以上の場合に、押詰まりを生じる可能性は中程度と判定できる。これらの判定方法および閾値はあくまでも一例であり、種々の変形が可能である。第1閾値TV-1、第2閾値TV-2は実験結果に基づいて設定できる。
【0039】
判定精度は高いことが望ましい。そこで、本実施形態では、判定部33は、振動情報J1と、荷重情報J2と、速度情報J3とに基づいて炭化室70の状態を判定する。本発明者らの検討によると、押詰まりを生じる前に、それ以前に対して荷重が増加し、それ以前に対して速度が低くなることが判明している。例えば、押詰まり直前のN-1回目、N-2回目における荷重情報J2は、N-3回目~N-4回目における荷重情報J2よりも増加し、押詰まり直前のN-1回目、N-2回目における速度情報J3は、N-3回目~N-4回目における速度情報J3よりも低くなる。
【0040】
これらの知見から、本実施形態では、荷重情報J2について閾値TLを設定し、速度情報J3について閾値TSを設定している。本実施形態では、判定部33は、ある判定対象において、荷重情報J2が閾値TL以上で、速度情報J3が閾値TS以下である場合に、第1閾値TV-1、第2閾値TV-2に基づいて振動情報J1を評価し判定する。閾値TL、閾値TSは実験結果に基づいて設定できる。一例として、閾値TLは500Aで、閾値TSは200rpmに設定できる。
【0041】
以上のように構成された状態監視装置10の特徴を説明する。本実施形態のコークス炉の状態監視装置10は、コークス炉1の炭化室70に押出ラム54を押し込むときの振動に関する振動情報J1を取得する振動取得部12と、振動取得部12で取得された振動情報J1に基づいて炭化室70の状態を判定する判定部33と、を備える。
【0042】
この構成によれば、振動情報J1に基づいて炭化室70の状態を判定するので、炭化室70の個体差の影響を低減し、判定精度を高めることができる。
【0043】
本実施形態では、判定部33は、各炭化室70について予め取得された参照用振動情報S1を用いて各炭化室70の状態を判定する。この場合、過去に各々の炭化室70で取得された参照用振動情報S1と比較して判定できるので、炭化室70の個体差の影響を低減し、判定精度を一層高めることができる。
【0044】
本実施形態は、押出ラム54を押し込むときの押込み荷重に関する荷重情報J2を取得する荷重取得部14と、押出ラム54の移動速度に関する速度情報J3を取得する速度取得部16と、をさらに備える。状態監視装置10では、判定部33は、振動情報J1と、荷重取得部14で取得された荷重情報J2と、速度取得部16で取得された速度情報J3とに基づいて炭化室70の状態を判定する。この場合、振動情報J1の他に荷重情報J2および速度情報J3を用いるので、誤判定を減らすことができる。
【0045】
本実施形態では、振動取得部12は、押出ラム54に押込み荷重を付与する駆動部60の振動を検出する振動センサ11を含む。この場合、高温の炭化室70から離れた位置に振動センサ11を配置できるので、振動センサ11の熱ダメージを低減できる。また、駆動部60には、押出ラム54を介してコークス76と炭化室70の炉壁との間の振動が直接的に伝達されるため、当該振動を伝達ロス少なく効率的に検出できる。
【0046】
本実施形態では、判定部33の判定結果を外部に送信する送信部34を備える。この場合、オペレータは判定結果を容易に認識できるため、メンテナンス等の対応を迅速に行うことができる。
【0047】
本実施形態では、押出機100は、押出ラム54と、押出ラム54を駆動する駆動部60と、駆動部60に設けられる状態監視装置10と、を備える。状態監視装置10は、炭化室70に押出ラム54を押し込むときの振動に関する振動情報J1を取得する振動取得部12と、振動情報J1に基づいて炭化室70の状態を判定する判定部33と、を有する。この場合、すべての押出機100に状態監視装置10を設ける場合に比べて、状態監視装置10のメンテナンスが容易になり、コスト的にも有利である。
【0048】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容にも設計変更が許容される。
【0049】
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0050】
(変形例)
実施形態の説明では、判定対象の押出動作の直前の押出動作における振動情報J1を参照用振動情報S1に設定する例を示したが、これに限定されない。直前に限らず、判定対象の押出動作よりも前のいずれかの押出動作における振動情報J1に基づいて参照用振動情報S1を設定してもよい。例えば、判定対象の押出動作よりも前の複数回の押出動作における最小の振動情報J1を参照用振動情報S1としてもよいし、判定対象の押出動作よりも前の複数回の押出動作における振動情報J1の平均値を参照用振動情報S1としてもよい。
【0051】
実施形態の説明では、1回の押出動作の振動情報J1を判定対象とする例を示したが、これに限定されない。複数回の押出動作の振動情報J1を判定対象としてもよい。
【0052】
実施形態の説明では、1回の押出動作の振動情報J1が閾値以上であるときに押詰まりを生じる可能性が高いと判定する例を示したが、これに限定されない。例えば、連続する複数回(例えば、2回)の押出動作の振動情報J1が閾値を超えるときに押詰まりを生じる可能性が高いと判定してもよい。
【0053】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用、効果を奏する。
【0054】
上述した実施形態の構成要素と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0055】
1 コークス炉、 10 状態監視装置、 11 振動センサ、 12 振動取得部、 14 荷重取得部、 16 速度取得部、 33 判定部、 34 送信部、 54 押出ラム、 60 駆動部、 70 炭化室、 76 コークス、 100 押出機。