IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ いすゞ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ニッキの特許一覧

<>
  • 特開-燃料性状判定装置及び車両 図1
  • 特開-燃料性状判定装置及び車両 図2
  • 特開-燃料性状判定装置及び車両 図3
  • 特開-燃料性状判定装置及び車両 図4
  • 特開-燃料性状判定装置及び車両 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060689
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】燃料性状判定装置及び車両
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/02 20060101AFI20230421BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20230421BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
F02D19/02 Z
F02M21/02 L
F02D45/00 369
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170415
(22)【出願日】2021-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 操
(72)【発明者】
【氏名】後藤 康二
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 武相
(72)【発明者】
【氏名】足立 良太
【テーマコード(参考)】
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AB08
3G092FA16
3G384AA14
3G384BA47
3G384DA55
(57)【要約】
【課題】ユーザがより適切なタイミングで燃料の性状変化を認識できる燃料性状判定装置及び車両を提供すること。
【解決手段】エンジンの燃料としてタンクに貯留された液化天然ガスの成分を判定する燃料性状判定装置であって、エンジンが駆動中である場合では、第1推定方法により液化天然ガスのメタン価を推定し、エンジンが停止状態から再始動する場合では、第1推定方法とは異なる第2推定方法により液化天然ガスのメタン価を推定する推定部と、第1推定方法または第2推定方法により推定された液化天然ガスのメタン価が閾値未満である場合、液化天然ガスが性状変化した旨の通知を行うように通知装置を制御する制御部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃料としてタンクに貯留された液化天然ガスの成分を判定する燃料性状判定装置であって、
前記エンジンが駆動中である場合では、第1推定方法により前記液化天然ガスのメタン価を推定し、前記エンジンが停止状態から再始動する場合では、前記第1推定方法とは異なる第2推定方法により前記液化天然ガスのメタン価を推定する推定部と、
前記第1推定方法または前記第2推定方法により推定された前記液化天然ガスのメタン価が閾値未満である場合、前記液化天然ガスが性状変化した旨の通知を行うように通知装置を制御する制御部と、を有する、
燃料性状判定装置。
【請求項2】
前記第1推定方法では、
前記推定部は、
前記エンジンのノッキングを回避するための点火リタード制御量を算出し、前記点火リタード制御量を示す指標値に基づいて、前記液化天然ガスのメタン価を推定し、
前記第2推定方法では、
前記推定部は、
前記エンジンの停止時における前記タンク内の前記液化天然ガスの残量と、前記エンジンの停止時間とに基づいて、前記液化天然ガスのメタン価を推定する、
請求項1に記載の燃料性状判定装置。
【請求項3】
前記推定部は、
前記第1推定方法により推定された前記液化天然ガスのメタン価に基づいて、前記第2推定方法により前記液化天然ガスのメタン価を推定する、
請求項1または2に記載の燃料性状判定装置。
【請求項4】
前記推定部は、
前記第2推定方法により推定された前記液化天然ガスのメタン価に基づいて、前記第1推定方法により前記液化天然ガスのメタン価を推定する、
請求項1または2に記載の燃料性状判定装置。
【請求項5】
前記通知装置は、
前記エンジンを搭載した車両の車室内に設けられた表示ランプであり、
前記制御部は、
前記表示ランプを所定の時間間隔で点滅させる、
請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料性状判定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料性状判定装置を備える、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料性状判定装置及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両等において、液化天然ガス(Liquefied Natural Gas:以下、LNG燃料という)をエンジンの燃料に用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-92202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
LNG燃料は、メタンを主成分とし、エタン、プロパン、ブタンなどの成分が含まれている。その場合、最も沸点が低いメタンから気化する。これにより、タンクに貯留されているLNG燃料の性状が変化し(以下、性状変化という)、エンジンにおいてノッキングが発生し易くなる。
【0005】
よって、LNG燃料の性状変化の対策(例えば、燃料の消費や交換等)のために、ユーザは、より適切なタイミングでLNG燃料の性状変化を認識することが望まれる。
【0006】
本開示の一態様の目的は、ユーザがより適切なタイミングでLNG燃料の性状変化を認識できる燃料性状判定装置及び車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る燃料性状判定装置は、エンジンの燃料としてタンクに貯留された液化天然ガスの成分を判定する燃料性状判定装置であって、前記エンジンが駆動中である場合では、第1推定方法により前記液化天然ガスのメタン価を推定し、前記エンジンが停止状態から再始動する場合では、前記第1推定方法とは異なる第2推定方法により前記液化天然ガスのメタン価を推定する推定部と、前記第1推定方法または前記第2推定方法により推定された前記液化天然ガスのメタン価が閾値未満である場合、前記液化天然ガスが性状変化した旨の通知を行うように通知装置を制御する制御部と、を有する。
【0008】
本開示の一態様に係る車両は、本開示の一態様に係る燃料性状判定装置を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ユーザは、より適切なタイミングでLNG燃料の性状変化を認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施の形態に係る燃料性状判定装置の構成の一例を概略的に示す図
図2】補正項の算出のイメージを模式的に示す図
図3】気筒における点火リタード制御量を示す指標値及び修正指標値のそれぞれの一例を示す図
図4】第1推定方法の一例を示すフローチャート
図5】本開示の実施の形態に係る燃料性状判定装置の動作の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
まず、図1を用いて、本実施の形態の燃料性状判定装置100の構成について説明する。図1は、燃料性状判定装置100の構成例を概略的に示す図である。
【0013】
図1に示す燃料性状判定装置100は、例えば、LNG燃料によって駆動するエンジン(不図示)を備えた車両(不図示)に搭載される。このLNG燃料は、上述したとおり、沸点が相互に異なる複数の成分(例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン等)を含み、性状変化(例えば、複数の成分の割合の変化。成分変化、または、重質化と言ってもよい)が起こりうる燃料である。
【0014】
車両には、例えば、LNG燃料をエンジンに供給するLNG燃料供給系統(不図示)が搭載されている。図示は省略するが、LNG燃料供給系統は、例えば、LNG燃料を貯留するLNGタンクと、LNG燃料供給路と、LNG燃料を気化させる気化器と、LNG燃料供給路を開閉する遮断弁と、気化器で気化されたLNG燃料を減圧するLNG用レギュレータと、を有する。LNG燃料供給路は、遮断弁を介してLNGタンクをLNG用レギュレータに接続するとともに、LNG用レギュレータをエンジンに接続する。エンジンは、気化されたLNG燃料を点火により燃焼させる火花点火式内燃エンジンである。エンジンは、複数の気筒を有している。
【0015】
なお、車両には、上記LNG燃料供給系統に加えて、圧縮天然ガス(Compressed Natural Gas:CNG)をエンジンに供給するCNG燃料供給系統(不図示)が搭載されてもよい。図示は省略するが、CNG燃料供給系統は、例えば、CNG燃料を貯留するCNGタンクと、CNG燃料供給路と、CNG燃料供給路を開閉する遮断弁と、CNG燃料を減圧するCNG用レギュレータと、を有する。CNG燃料供給路は、CNGタンクを遮断弁及びCNG用レギュレータを介してエンジンに接続する。車両にLNG燃料供給系統とCNG燃料供給系統とが搭載される場合、例えば、LNG燃料のメタン価が低下し、かつ、エンジンが高負荷状態であるとき、LNG燃料からCNG燃料に切り替えて使用することが可能となる。
【0016】
図1に示す計時装置10、残量センサ20、及び通知装置60は、燃料性状判定装置100とともに上記車両に搭載され、燃料性状判定装置100と電気的に接続されている。
【0017】
計時装置10は、時間(例えば、年、月、日、時、分を含む)を測定する。計時装置10の測定結果(以下、日時情報という)は、計時装置10から燃料性状判定装置100へ出力される。
【0018】
なお、本実施の形態では、計時装置10が燃料性状判定装置100と別体である場合を例に挙げたが、燃料性状判定装置100が計時装置10の機能を有してもよい。
【0019】
残量センサ20は、LNGタンクに貯留されているLNG燃料の残量を検出する。残量センサ20の検出結果(以下、残量情報という)は、残量センサ20から燃料性状判定装置100へ出力される。なお、残量は、LNG燃料の貯留量であってもよいし、LNGタンク全体の容量に対する貯留量の割合であってもよい。
【0020】
ノックセンサ30は、エンジンのノッキングを検出する。ノックセンサ30は、例えば、エンジンブロック(不図示)の振動を検出する圧電素子を有している。ノックセンサ30の検出結果(以下、ノッキング情報という)は、ノックセンサ30から燃料性状判定装置100へ出力される。
【0021】
クランクアングルセンサ40は、エンジン回転数を検出する。クランクアングルセンサ40の検出結果(以下、回転数情報という)は、クランクアングルセンサ40から燃料性状判定装置100へ出力される。
【0022】
トルクセンサ50は、例えば、クランク軸(不図示)の回転変動の度合いに基づいてエンジン負荷を検出する。なお、エンジン負荷は、アクセルペダル開度やスロットル開度に基づいて検出されてもよい。トルクセンサ50の検出結果(以下、負荷情報という)は、トルクセンサ50から燃料性状判定装置100へ出力される。
【0023】
通知装置60は、LNG燃料が性状変化した旨の通知(以下、警告通知という)を行う。通知装置60は、例えば、車両の車室内において車両の乗員(ユーザの一例)が視認し易い位置に設けられた表示ランプである。その場合、表示ランプの点滅が、LNG燃料が性状変化したことを意味するものとする。
【0024】
燃料性状判定装置100は、LNGタンクに貯留されているLNG燃料が性状変化したか否かを判定し、LNG燃料が性状変化した場合には、警告通知を行うように通知装置60を制御する装置である。
【0025】
図示は省略するが、燃料性状判定装置100は、ハードウェアとして、例えば、CPU(Central Processing Unit)、コンピュータプログラムを格納したROM(Read Only Memory)、作業用メモリであるRAM(Random Access Memory)、入力ポート、出力ポート等を有する。以下に説明する燃料性状判定装置100の各機能は、CPUがROMから読み出したコンピュータプログラムをRAMにて実行することにより実現される。燃料性状判定装置100は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)によって実現されてもよい。
【0026】
図1に示すように、燃料性状判定装置100は、推定部110及び制御部120を有する。
【0027】
推定部110は、エンジンが駆動中である場合では、第1推定方法を用いて、LNG燃料のメタン価(以下、単にメタン価ともいう)を推定する。
【0028】
第1推定方法の詳細については後述するが、簡単に説明すると、第1推定方法では、推定部110は、エンジンのノッキングを回避するための点火リタード制御量を算出し、点火リタード制御量を示す指標値に基づいて、LNG燃料のメタン価を推定する。
【0029】
一方、推定部110は、エンジンが停止状態から再始動する場合では、第1推定方法とは異なる第2推定方法を用いて、LNG燃料のメタン価を推定する。
【0030】
第2推定方法の詳細については後述するが、簡単に説明すると、第2推定方法では、推定部110は、エンジンの停止時におけるLNGタンク内のLNG燃料の残量と、エンジンの停止時間(エンジンが停止してから再始動するまでの経過時間)とに基づいて、LNG燃料のメタン価を推定する。
【0031】
制御部120は、第1推定方法または第2推定方法により推定されたLNG燃料のメタン価(以下、推定メタン価という)が予め定められた閾値未満であるか否かを判定する。
【0032】
推定メタン価が閾値未満である場合、制御部120は、警告通知を行うように通知装置60を制御する。
【0033】
例えば、通知装置60が表示ランプである場合、制御部120は、所定の時間間隔で点滅するように表示ランプを制御する。これにより、表示ランプが点滅し、ユーザ(例えば、車両の乗員)は、LNG燃料が性状変化(重質化と言ってもよい)したことを容易に認識することができる。
【0034】
なお、推定メタン価が閾値未満ではない場合、制御部120は、通知装置60に対する制御を行わない。
【0035】
次に、第1推定方法の詳細について説明する。
【0036】
まず、推定部110は、ノックセンサ30から取得したノッキング情報に基づいて、複数の気筒のそれぞれにおける点火リタード制御量を算出する。ここで、点火リタード制御量とは、点火時期に対する進角値Δθ(°)をいう。推定部110は、進角値(点火リタード制御量)に基づいて点火プラグの点火時期を気筒別に補正する。
【0037】
ここで、推定部110は、進角値Δθが0である場合、点火時期を補正しない。これに対して、推定部110は、進角値Δθが-Δθである場合、所定の点火時期(補正が行われない点火時期)よりもΔθだけ遅くするように点火時期を補正する(Δθ遅角する)。また、推定部110は、進角値Δθが-Δθである場合、所定の点火時期よりもΔθだけ遅くするように点火時期を補正する(Δθ遅角する)。ここで、進角値Δθのそれぞれの大きさが0>-Δθ>-Δθである場合、進角値(点火リタード制御量)-Δθは、進角値0よりも低いという。また、進角値-Δθは、進角値-Δθよりも低いという。
【0038】
次に、推定部110は、取得された複数の気筒のそれぞれにおける点火リタード制御量の中の他の気筒よりも低い二以上の気筒のそれぞれにおける点火リタード制御量の平均値を算出する。
【0039】
例えば、複数の気筒のそれぞれの進角値(点火リタード制御量)が0,-Δθ,…,-Δθn-k,-Δθn-(k-1),…,-Δθn-1,-Δθであって、進角値のそれぞれの大きさが0>-Δθ>,…,-Δθ-k>-Δθn-(k-1),…,>-Δn-1>-Δθである場合(n,kは自然数)、推定部110は、他の気筒よりも低いk個の気筒のそれぞれにおける進角値(-Δθn-(k-1),…,-Δθn-1,-Δθ)の和をkで除算した平均値を算出する。以下の説明で、k個の気筒のそれぞれにおける進角値の平均値を「指標値」という。
【0040】
次に、推定部110は、指標値を補正するための補正項の算出を行う。図2は、補正項の算出のイメージを模式的に示す図である。
【0041】
推定部110は、図2に示すように、クランクアングルセンサ40から取得した回転数情報に示されるエンジン回転数と、トルクセンサ50から取得した負荷情報に示されるエンジン負荷とに基づいて、補正用マップを参照して指標値(平均値)の補正項を算出する。
【0042】
補正用マップは、燃料性状判定装置100の記憶部(例えば、不図示のROM)に格納されている。補正用マップは、エンジン回転数及びエンジン負荷と補正量との関係を示すマップであって、実験やシミュレーションにより求めることが可能である。
【0043】
補正項は、運転状態(エンジン回転数、エンジン負荷)取得時の指標値(平均値)を基準となる運転状態(エンジン回転数:1000rpm、エンジン負荷:100Nm)の指標値に修正するためのパラメータである。
【0044】
次に、推定部110は、指標値(平均値)に補正項を積算することによって修正指標値を算出する。図3は、気筒における点火リタード制御量を示す指標値(平均値)及び修正指標値のそれぞれの一例を示している。
【0045】
次に、推定部110は、算出された修正指標値に基づいて、予め定められた変換テーブルを参照してメタン価を推定する。ここで、変換テーブルは、修正指標値とメタン価との関係を示すテーブルをいう。
【0046】
上述した第1推定方法の流れを図4にまとめた。図4のフローは、例えば、エンジンの始動後に開始され、エンジンの運転中に所定時間毎に実行される。
【0047】
まず、推定部110は、ノッキング情報に基づいて、点火リタード制御量(進角値)を算出する(ステップS1)。
【0048】
次に、推定部110は、取得された複数の気筒のそれぞれにおける進角値(点火リタード制御量)の中の他の気筒よりも低い二以上の気筒のそれぞれにおける進角値の平均値を算出することによって、指標値を算出する(ステップS2)。
【0049】
次に、推定部110は、回転数情報及び負荷情報に基づいて、補正用マップを参照して指標値の補正項を算出し、算出した補正項を指標値に積算することによって、修正指標値を算出する(ステップS3)。
【0050】
次に、推定部110は、算出された修正指標値に基づいて、予め定められた変換テーブルを参照してメタン価を推定する(ステップS4)。
【0051】
このようにして推定されたメタン価は、制御部120によって閾値と比較される。
【0052】
次に、第2推定方法の詳細について説明する。
【0053】
第2推定方法の実行前に、推定部110は、準備処理を行う。具体的には、推定部110は、駆動状態のエンジンが停止した場合、エンジン停止時の日時情報、残量情報、及び推定メタン価を取得し、記憶する。ここで記憶される推定メタン価は、上述した第1推定方法により推定された最新のメタン価である。この推定メタン価は、初期値(LNGタンクにLNG燃料が充填された時のメタン価)以下の値となる。
【0054】
その後、停止状態のエンジンが再始動した場合、推定部110は、エンジン再始動時の日時情報を取得する。そして、推定部110は、以下のように第2推定方法を実行する。
【0055】
まず、推定部110は、エンジン停止時の日時情報とエンジン再始動時の日時情報とに基づいて、エンジンが停止してから再始動するまでの時間(言い換えれば、エンジンが停止していた時間。以下、エンジン停止時間という)を算出する。
【0056】
次に、推定部110は、算出されたエンジン停止時間と、エンジン停止時の残量情報に示される残量とに基づいて、減算用マップ(不図示)を参照して減算値を決定する。
【0057】
減算用マップは、燃料性状判定装置100の記憶部(例えば、不図示のROM)に格納されている。減算用マップは、エンジン停止時間及び残量と減算値との関係を示すマップ(例えば、エンジン停止時間を示す値と残量を示す値とに対応して減算値が定められたテーブル)であって、実験やシミュレーションにより求めることが可能である。この減算用マップでは、エンジン停止時間が長いほど、残量が少ないほど、減算値が大きくなるように定められている。
【0058】
次に、推定部110は、エンジン停止時に記憶された推定メタン価(第1推定方法で得られた推定メタン価)から、決定した減算値を減算することにより、メタン価を推定する。
【0059】
このようにして推定されたメタン価は、制御部120によって閾値と比較される。
【0060】
次に、燃料性状判定装置100の動作について、図5を用いて説明する。図5は、燃料性状判定装置100の動作例を示すフローチャートである。図5のフローは、例えば、LNGタンクにLNG燃料が充填された後で初めてエンジンが始動したときに開始される。なお、ここでは例として、推定部110が、車両の乗員による所定操作(例えば、エンジンスタートスイッチのオン/オフ)に基づいて、エンジンが始動したか否か、および、エンジンが停止したか否かを判定(検出)するものとする。
【0061】
まず、推定部110は、始動されたエンジンが停止したか否かを判定する(ステップS11)。
【0062】
エンジンが停止した場合(ステップS11:YES)、フローは、後述のステップS15へ進む。
【0063】
エンジンが停止していない場合(ステップS11:NO)、推定部110は、上述した第1推定方法によりメタン価を推定する(ステップS12)。
【0064】
次に、制御部120は、推定メタン価が閾値未満であるか否かを判定する(ステップS13)。
【0065】
推定メタン価が閾値未満ではない場合(ステップS13:NO)、フローは、ステップS11へ戻る。
【0066】
推定メタン価が閾値未満である場合(ステップS13:YES)、制御部120は、警告通知を行うように通知装置60を制御する(ステップS14)。これにより、通知装置60において、警告通知が行われ、ユーザ(車両の乗員)は、LNG燃料が性状変化したことを認識することができる。
【0067】
エンジンが停止した場合(ステップS11:YES)、推定部110は、エンジン停止時の日時情報、残量情報、及び推定メタン価(第1推定方法で得られた推定メタン価)を取得し、記憶する(ステップS15)。
【0068】
その後、推定部110は、停止状態のエンジンが再始動したか否かを判定する(ステップS16)。
【0069】
エンジンが再始動していない場合(ステップS16:NO)、フローは、ステップS16へ戻る。
【0070】
エンジンが再始動した場合(ステップS16:YES)、推定部110は、エンジン再始動時の日時情報を取得する(ステップS17)。
【0071】
次に、推定部110は、エンジン停止時の日時情報、残量情報、及び推定メタン価と、エンジン再始動時の日時情報と、減算用マップとに基づいて、上述した第2推定方法によりメタン価を推定する(ステップS18)。
【0072】
次に、制御部120は、推定メタン価が閾値未満であるか否かを判定する(ステップS19)。
【0073】
推定メタン価が閾値未満ではない場合(ステップS19:NO)、フローは、ステップS11へ戻る。なお、この場合、その後の第1推定方法(ステップS12)では、第2推定方法(ステップS18)で推定されたメタン価に基づいて推定されてもよい。
【0074】
推定メタン価が閾値未満である場合(ステップS19:YES)、制御部120は、警告通知を行うように通知装置60を制御する(ステップS14)。これにより、通知装置60において、警告通知が行われ、ユーザ(車両の乗員)は、LNG燃料が性状変化したことを認識することができる。
【0075】
以上説明したように、本実施の形態の燃料性状判定装置100は、エンジンの燃料としてLNGタンクに貯留されたLNG燃料の成分を判定する装置であって、エンジンが駆動中である場合では、第1推定方法によりLNG燃料のメタン価を推定し、エンジンが停止状態から再始動する場合では、第1推定方法とは異なる第2推定方法によりLNG燃料のメタン価を推定する推定部110と、第1推定方法または第2推定方法により推定されたメタン価が閾値未満である場合、LNG燃料が性状変化した旨の通知を行うように通知装置60を制御する制御部120と、を有することを特徴とする。
【0076】
この特徴により、エンジンの駆動中と停止中とで別々の方法を用いてメタン価が推定されるため、推定メタン価の信頼度が向上し、より精度良くLNG燃料が性状変化したか否かを判定することができる。よって、ユーザは、より適切なタイミングで、LNG燃料が性状変化したことを認識することができ、性状変化対策(LNG燃料の消費や充填等)を実行することができる。
【0077】
また、第1推定方法では、推定メタン価により適切な点火進角を設定することができる。そのため、過大なノッキングの発生や、エンジンの不調の発生を抑えることが可能となる。さらに、エンジンのパフォーマンスを適切な状態に維持することが可能となる。
【0078】
また、第1推定方法では、複数の気筒のそれぞれにおける進角値(点火リタード制御量)を取得し、取得された複数の気筒のそれぞれにおける進角値の中の他の気筒よりも低い二以上の気筒のそれぞれにおける進角値の平均値を、指標値として算出する。これにより、LNG燃料の性状変化を確実に検出することができるため、メタン価の低下を検出する確実性を向上させることが可能となる。
【0079】
また、第1の推定方法では、エンジン回転数およびエンジン負荷に基づいて補正された指標値(すなわち、上記修正指標値)に基づいて、LNG燃料のメタン価を推定する。これにより、指標値が標準化されるため、メタン価の推定精度を向上させることが可能となる。
【0080】
なお、本開示は、上記実施の形態の説明に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。以下、変形例について説明する。
【0081】
[変形例1]
実施の形態において、第2推定方法で用いられる減算用マップは、エンジン停止時の推定メタン価の大きさに応じて複数用意され、各減算用マップでは、同じ残量かつ同じエンジン停止時間でも、減算値が異なるように定められてもよい。
【0082】
[変形例2]
実施の形態では、推定部110が、補正項等に基づいて指標値を補正し、それにより得られた修正指標値を用いてメタン価を推定する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。例えば、推定部110は、補正前の指標値を用いてメタン価を推定してもよい。
【0083】
[変形例3]
実施の形態では、制御部120が通知装置60を制御する場合を例に挙げたが、通知装置60に加え、それ以外の装置を制御対象としてもよい。例えば、制御部120は、推定メタン価が閾値未満に低下し、かつ、エンジンが高負荷状態である場合、LNG燃料供給路を閉じ、かつ、CNG燃料供給路を開くように、LNG燃料供給系統及びCNG燃料供給系統のそれぞれの遮断弁を制御してもよい。これにより、LNG燃料からCNG燃料への切り替えが行われるため、過大なノッキングの発生や、エンジンの不調の発生を抑えることが可能となる。
【0084】
[変形例4]
実施の形態では、通知装置60が車室内に設けられた表示ランプである場合を例に挙げたが、これに限定されない。例えば、通知装置60は、LNG燃料が性状変化した旨を示す画像の表示(警告通知の一例)を行うディスプレイであってもよいし、LNG燃料が性状変化した旨を示す音声の出力(警告通知の一例)を行うスピーカであってもよい。また、警告通知としては、画像表示と音声出力との両方が行われてもよい。
【0085】
[変形例5]
実施の形態では、燃料性状判定装置100が車両に搭載される場合を例に挙げたが、これに限定されない。燃料性状判定装置100は、車両以外の移動体(例えば、船舶等)、または、定置式エンジンを備えた機械などに搭載されてもよい。
【0086】
[変形例6]
実施の形態では、トルクセンサ50を用いてエンジン負荷を取得する場合を例に挙げたが、これに限定されない。例えば、燃料性状判定装置100がインテークマニホールド圧力よりエンジン負荷を推定してもよい。この場合、インテークマニホールド圧力は、圧力センサにより検出される。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本開示の燃料性状判定装置及び車両は、エンジンの燃料として、沸点が互いに異なる複数の成分を含む液化天然ガスを用いる場合に有用である。
【符号の説明】
【0088】
10 計時装置
20 残量センサ
30 ノックセンサ
40 クランクアングルセンサ
50 トルクセンサ
60 通知装置
100 燃料性状判定装置
110 推定部
120 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2023-02-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃料としてタンクに貯留された液化天然ガスの成分を判定する燃料性状判定装置であって、
前記エンジンが駆動中である場合では、第1推定方法により前記液化天然ガスのメタン価を推定し、前記エンジンが停止状態から再始動する場合では、前記第1推定方法とは異なる第2推定方法により前記液化天然ガスのメタン価を推定する推定部と、
前記第1推定方法または前記第2推定方法により推定された前記液化天然ガスのメタン価が閾値未満である場合、前記液化天然ガスが性状変化した旨の通知を行うように通知装置を制御する制御部と、を有
前記第1推定方法は、
前記エンジンのノッキングを回避するための点火リタード制御量を算出し、前記点火リタード制御量に関する指標値に基づいて、前記液化天然ガスのメタン価を推定する方法である、
燃料性状判定装置。
【請求項2】
前記第2推定方法は、
前記エンジンの停止時における前記タンク内の前記液化天然ガスの残量と、前記エンジンの停止時間とに基づいて、前記液化天然ガスのメタン価を推定する方法である、
請求項1に記載の燃料性状判定装置。
【請求項3】
前記推定部は、
前記第1推定方法により推定された前記液化天然ガスのメタン価に基づいて、前記第2推定方法により前記液化天然ガスのメタン価を推定する、
請求項1または2に記載の燃料性状判定装置。
【請求項4】
前記指標値は、複数気筒のそれぞれにおける点火リタード制御量の平均値である、
請求項1または2に記載の燃料性状判定装置。
【請求項5】
前記通知装置は、
前記エンジンを搭載した車両の車室内に設けられた表示ランプであり、
前記制御部は、
前記表示ランプを所定の時間間隔で点滅させる、
請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料性状判定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料性状判定装置を備える、車両。