(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000607
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】防火区画貫通キット
(51)【国際特許分類】
F16L 5/04 20060101AFI20221222BHJP
F16L 5/02 20060101ALI20221222BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20221222BHJP
A62C 3/16 20060101ALN20221222BHJP
【FI】
F16L5/04
F16L5/02 F
F16L5/02 D
E04B1/94 F
A62C3/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101537
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】592131663
【氏名又は名称】井上商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井上 繁
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 信行
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001DE04
2E001FA34
2E001GA65
2E001HB04
2E001HE01
(57)【要約】
【課題】切欠孔を有するアルミニウム管の止水性を向上させることができる防火区画貫通キットを提供する。
【解決手段】厚み方向に貫通する切欠孔3を有するアルミニウム管2と、アルミニウム管2の外周面21全体に亘って配置されて切欠孔3全体を覆う熱膨張材4と、熱膨張材の外周側に設けられて熱膨張材4の外周面42全体を覆うカバー部材5と、熱膨張材4の外周面42とカバー部材5の内周面51との間で全周に亘ってアルミニウム管2の径方向視で切欠孔3と重ならない位置にあって、カバー部材5によって押圧されることにより熱膨張材4をアルミニウム管2の側に押圧し、熱膨張材4の内周面41とアルミニウム管2の外周面21との間の隙間を封止する押圧封止部材7と、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に貫通する切欠孔を有するアルミニウム管と、
前記アルミニウム管の外周面全体に亘って配置されて前記切欠孔全体を覆う熱膨張材と、
前記熱膨張材の外周側に設けられて前記熱膨張材の外周面全体を覆うカバー部材と、
前記熱膨張材の外周面と前記カバー部材の内周面との間で全周に亘って前記アルミニウム管の径方向視で前記切欠孔と重ならない位置にあって、前記カバー部材によって押圧されることにより前記熱膨張材を前記アルミニウム管の側に押圧し、前記熱膨張材の内周面と前記アルミニウム管の外周面との間の隙間を封止する押圧封止部材と、を備えた防火区画貫通キット。
【請求項2】
前記押圧封止部材は、前記カバー部材の内周面から押圧力を受けることで縮径するリング状部材により構成されている請求項1に記載の防火区画貫通キット。
【請求項3】
前記押圧封止部材は、前記カバー部材の内周面の周方向全体に亘って前記カバー部材と一体的に設けられた、前記熱膨張材に向けて突出するリブによって構成されている請求項1に記載の防火区画貫通キット。
【請求項4】
前記カバー部材は、周方向に分割された複数のカバー片によって構成されており、
複数の前記カバー片の少なくとも1つは、前記リブに連続して設けられ、前記カバー片の周方向外方に延出される延出部を有する請求項3に記載の防火区画貫通キット。
【請求項5】
前記カバー部材の外周面に配置される締付部材を更に備え、
前記締付部材は、前記アルミニウム管の径方向視において前記押圧封止部材に重なる位置に配置されている請求項1から4のいずれか一項に記載の防火区画貫通キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅等の建築物の躯体(壁又は床)に形成される区画貫通部に適用可能な防火区画貫通キットに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の躯体の一部で火災が発生した場合、その炎や煙が躯体の他所に広がるのを防ぐために、当該躯体には通常、建築基準法や消防法で規定される区画が設けられている。
【0003】
建築基準法上規定される区画には、建築基準法施行令第112条に規定する面積区画、高層区画、竪穴区画、異種用途区画等の種類がある。
また、消防法上規定される区画には、消防法施行令第8条に規定する開口部の無い耐火構造の床又は壁の区画(通称:令8区画)と、共同住宅等の住戸等間の開口部の無い耐火構造の床又は壁の区画(通称:共住区画)の2種類がある。
【0004】
建築基準法及び消防法では、これらの区画に区画貫通部を形成して配管を貫通させることは、原則として認められていない。しかしながら、必要不可欠な配管であって、当該区画を貫通する配管及び当該区画貫通部について、開口部のない耐火構造の床又は壁による区画と同等とみなすことができる場合にあっては、当該区画の貫通を認めるとされている。
【0005】
そのため、区画貫通部を貫通させる配管には、火災の熱で溶けないこと、もしくは火災の熱で溶けたとしても区画貫通部を塞いで炎と煙を拡大させない機能を有することが必要とされる。
【0006】
そのような要求を満たす配管として、本出願人は、アルミニウム管と、該アルミニウム管の外周面に設けられる熱膨張材と、熱膨張材の外周面に設けられるカバー部材と、を備え、熱膨張材が設けられるアルミニウム管の部分に、厚み方向に貫通する切欠孔(文献では「切欠部」)が形成されている防火区画貫通キットを提示した(特許文献1参照)。この防火区画貫通キットのアルミニウム管には、雨水等の液体の流体が流れる。
【0007】
特許文献1に記載の技術では、熱膨張材が火災の熱で加熱されて膨張する際、切欠孔からアルミニウム管の内側に進入し易くなることに加え、アルミニウム管が溶けるよりも早く熱膨張材による区画貫通部の閉塞が可能となり、もしくは、アルミニウム管が溶けずにその形状を保持している場合であっても、熱膨張材によるアルミニウム管内部の閉塞が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の防火区画貫通キットでは、カバー部材の外周面に締付部材を配置しており、当該締付部材によって、カバー部材が熱膨張材の外周面に確実に固定されるともに、カバー部材が熱膨張材を圧迫することでアルミニウム管の止水性を高めている。したがって、アルミニウム管内を流体が流通しても、通常は切欠孔から流体がアルミニウム管の外方に漏れ出すことはない。しかし、例えば、アルミニウム管を流れる流体の流量や流速が大幅に増大した場合等には、流体が切欠孔からアルミニウム管の外方に漏れ出し、アルミニウム管の外周面と熱膨張材の内周面との隙間を伝って流体が防火区画貫通キットの外部に漏れ出す虞がある。したがって、防火区画貫通キットにおいてアルミニウム管の止水性を向上させるうえで改善の余地があった。
【0010】
上記実情に鑑み、切欠孔を有するアルミニウム管の止水性を向上させることができる防火区画貫通キットが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る防火区画貫通キットの特徴構成は、厚み方向に貫通する切欠孔を有するアルミニウム管と、前記アルミニウム管の外周面全体に亘って配置されて前記切欠孔全体を覆う熱膨張材と、前記熱膨張材の外周側に設けられて前記熱膨張材の外周面全体を覆うカバー部材と、前記熱膨張材の外周面と前記カバー部材の内周面との間で全周に亘って前記アルミニウム管の径方向視で前記切欠孔と重ならない位置にあって、前記カバー部材によって押圧されることにより前記熱膨張材を前記アルミニウム管の側に押圧し、前記熱膨張材の内周面と前記アルミニウム管の外周面との間の隙間を封止する押圧封止部材と、を備えた点にある。
【0012】
本構成によれば、防火区画貫通キットにおいて、押圧封止部材が、熱膨張材の外周面とカバー部材の内周面との間の全周に亘ってアルミニウム管の径方向視でアルミニウム管に形成された切欠孔と重ならない位置に配置されており、カバー部材によって押圧された押圧封止部材が熱膨張材をアルミニウム管の側に押圧する。これにより、熱膨張材において押圧封止部材によって押圧された部位の内周面とアルミニウム管の外周面とのシール性が高められて両者の隙間を封止する。その結果、アルミニウム管を流れる流体の流量や流速が大幅に増大した場合であっても、防火区画貫通キットにおいて、アルミニウム管の切欠孔から外方に漏れ出した流体がアルミニウム管の外周面と熱膨張材の内周面との隙間を伝っても押圧封止部材によって堰き止められるので、流体が防火区画貫通キットの外部に漏れ出すのを防止することができ、アルミニウム管の止水性を向上させることができる。
【0013】
他の特徴構成は、前記押圧封止部材は、前記カバー部材の内周面から押圧力を受けることで縮径するリング状部材により構成されている点にある。
【0014】
本構成によれば、押圧封止部材がリング状部材により構成されており、当該リング状部材はカバー部材の内周面から押圧力を受けることで縮径する。したがって、当該リング状部材は熱膨張材をアルミニウム管に向けて押圧する。これにより、熱膨張材の内周面とアルミニウム管の外周面とのシール性が高められるので、防火区画貫通キットにおいてアルミニウム管の止水性を向上させることができる。また、本構成のように、押圧封止部材がカバー部材とは別体のリング状部材で構成されることで、押圧封止部材の形状及び材料の自由度が高まる。したがって、押圧封止部材を構成するリング状部材は、アルミニウム管及び熱膨張材の形状や熱膨張材の材質等に応じて、最適な形状や材質を選択することができる。
【0015】
他の特徴構成は、前記押圧封止部材は、前記カバー部材の内周面の周方向全体に亘って前記カバー部材と一体的に設けられた、前記熱膨張材に向けて突出するリブによって構成されている点にある。
【0016】
本構成によれば、熱膨張材の外周側にカバー部材を装着することで、カバー部材の内周面に設けられたリブが熱膨張材の外周面を押圧するようになる。すなわち、当該リブは熱膨張材をアルミニウム管に向けて押圧する。これにより、熱膨張材の内周面とアルミニウム管の外周面とのシール性が高められるので、防火区画貫通キットにおいてアルミニウム管の止水性を向上させることができる。また、本構成のように、押圧封止部材がカバー部材と一体的に設けられたリブによって構成されることで、防火区画貫通キットは部品点数を増加させることなくアルミニウム管の止水性を向上させることができる。
【0017】
他の特徴構成は、前記カバー部材は、周方向に分割された複数のカバー片によって構成されており、複数の前記カバー片の少なくとも1つは、前記リブに連続して設けられ、前記カバー片の周方向外方に延出される延出部を有する点にある。
【0018】
本構成によれば、カバー部材は、周方向に分割された複数のカバー片によって構成されているので、熱膨張材の外周側に容易に取り付けることができる。ただし、カバー部材が複数のカバー片によって構成される場合には、周方向において複数のカバー片の間に隙間が生じることがある。その場合には、当該隙間においてはカバー部材が存在しないため押圧封止部材であるリブによって熱膨張材を押圧することができない。そこで、本構成では、カバー部材において、複数のカバー片の少なくとも1つは、リブに連続して設けられ、カバー片の周方向外方に延出される延出部を有する。これにより、複数のカバー片の間に隙間があったとしても当該隙間に延出部を配置することができるので、延出部によって熱膨張材の押圧が可能になる。その結果、カバー部材に設けられたリブ及び延出部によって熱膨張材を全周に亘って確実に押圧することができ、アルミニウム管の止水性をより効果的に向上させることができる。
【0019】
他の特徴構成は、前記カバー部材の外周面に配置される締付部材を更に備え、前記締付部材は、前記アルミニウム管の径方向視において前記押圧封止部材に重なる位置に配置されている点にある。
【0020】
本構成によれば、締付部材によってカバー部材を熱膨張材の外周面に対して確実に固定することができる。また、本構成では、締付部材がアルミニウム管の径方向視において押圧封止部材に重なる位置に配置されているので、締付部材はカバー部材を介してアルミニウム管に向けて押圧封止部材を押圧することができ、押圧封止部材による熱膨張材の押圧が促進され、アルミニウム管の止水性をさらに高めることができる。これにより、防火区画貫通キットにおけるアルミニウム管の止水性をより効果的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】防火区画貫通キットの組立工程を示す図である。
【
図4】防火区画貫通キットの組立工程を示す図である。
【
図5】防火区画貫通キットの組立工程を示す図である。
【
図6】第2実施形態の防火区画貫通キットのカバー部材の斜視図である。
【
図7】第2実施形態の変形例(カバー部材)の斜視図である。
【
図8】第2実施形態の変形例(カバー部材)の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明に係る防火区画貫通キットは、建築基準法で規定される区画(建築基準法施行令第112条に規定する面積区画等)及び消防法で規定される区画(令8区画及び共住区画)に適用可能であり、当該区画を貫通する区画貫通部を挿通させて使用するものである。
【0023】
(防火区画貫通キット)
図1及び
図2に示されるように、防火区画貫通キット1は、アルミニウム管2、熱膨張材4、カバー部材5、締付部材6、及びリング状部材7(押圧封止部材の一例)を備え、区画貫通部8に配置される。アルミニウム管2の外周側に熱膨張材4が設けられ、熱膨張材4の外周側にカバー部材5が設けられる。カバー部材5の外周面52には締付部材6が装着される。リング状部材7は熱膨張材4の外周面42とカバー部材5の内周面51との間に配置される。尚、締付部材6は必要に応じて設けるようにしても良い。
【0024】
図3に示されるように、アルミニウム管2は、アルミニウム製の円筒形状の部材であって、例えば、給排水管や空調用冷温水管等として使用可能に構成されるものである。すなわち、アルミニウム管2の内部には液体の流体が流れる。アルミニウム管2は、厚み方向に貫通する切欠孔3が形成されている。本実施形態では、長方形の切欠孔3が、アルミニウム管2の周方向に等間隔で4つ形成されているが、この形態に限られるものではない。切欠孔3の形状や数等については必要に応じて適宜変更して良い。
【0025】
熱膨張材4は、加熱されることによって熱膨張する部材である。
図1~
図3に示されるように、本実施形態における熱膨張材4は径方向に2層構造を有する円筒状の部材である。外側の層が、主成分としてゴム材料と耐火発泡材とを含む熱膨張層4aである。内側の層は、アルミニウム管2の内側を流れる水等の流体が切欠孔3から漏れるのを確実に防ぐためのシール層4bである。
【0026】
熱膨張層4aを構成するゴム材料としては、例えば、耐熱性、自己消化性などに優れたクロロプレンゴム(CR)や、あるいは耐油性、耐水性、及び耐ガス透過性などに優れたニトリルゴム(NBR)等が挙げられる。また、熱膨張層4aを構成する耐火発泡材としては、例えば、熱膨張性能の高い熱膨張黒鉛等が挙げられる。尚、熱膨張材4は、180℃~200℃で熱膨張するものが望ましい。シール層4bを構成する材料としては、熱膨張層4aと同材料であることが一体化の面で好適であるが、耐薬品性、耐摩耗性、接着性を考慮して選定すれば、異質材料でも良く、特に限定されるものではない。尚、シール層4bについては、必要に応じて設けるようにしても良い。
【0027】
本実施形態のように、熱膨張材4を2層構造とすることによって、配管内の流体と熱膨張層4aとの接触を避けることができ、熱膨張層4aの劣化を防止することができる。また、硬さの低い材料をシール層4bに用いることで、より高いシール性を付与することが可能となり、あるいは、より高強度の材料をシール層4bに用いることで、より高い耐摩耗性を付与することが可能となる。さらに、シール層4bとして、耐薬品性の高い材料を用いることで、高い耐薬品性を付与することも可能となり、また抽出性の低い材料を用いることで、流体の汚染を抑えることが可能となる。
【0028】
図1及び
図2に示されるように、熱膨張材4は、アルミニウム管2の外周面全体に亘って配置されて切欠孔3全体を覆う。これにより、熱膨張材4が火災の熱で加熱されて膨張する際、切欠孔3を介してアルミニウム管2の内側に進入し易くなることに加え、アルミニウム管2が溶けるよりも早く熱膨張材4による区画貫通部8の閉塞が可能となり、もしくは、アルミニウム管2が溶けずにその形状を保持している場合であっても、熱膨張材4によるアルミニウム管2の内部の閉塞が可能となる。また、アルミニウム管2内へ熱風が入り込んだ場合には、熱膨張材4を直接加熱することとなるため、区画貫通部8をより迅速に閉塞することが可能となる。
【0029】
図4に示されるように、カバー部材5は、2つの円筒分割体5a(カバー片の一例)によって構成されている。つまり、円筒分割体5aは、円筒を縦に二分割した半円筒形状であって、その横断面形状は半円弧状で、2つの円筒分割体5aの両周縁同士を合わせると筒状になる。また、円筒分割体5aは、長手方向の両端に、径方向内側に折り曲げられた鍔部分5bが設けられている。これにより、熱膨張材4の外周面42に取り付けられたカバー部材5が、熱膨張材4の外面全体を覆うように構成される。さらに、2つの円筒分割体5aは、夫々が周方向の一端側に周方向に沿って外方に延出するよう付設された板状体53を有する。板状体53は、筒状のカバー部材5を形成するために2つの円筒分割体5aを組み合わせた際に、隣接する円筒分割体5aの内周面51に重複する状態になる。これにより、締付部材6がなくても、熱膨張材4の外周側にカバー部材5を仮保持することができる。
【0030】
なお、円筒分割体5aの形状は、組み合わせた際に円筒状になるのであれば、特に限定するものではなく、形状や分割数等については必要に応じて適宜変更しても良い。さらには分割体に限定されず、断面形状がC字形状で一部が開閉できるような一体のカバー部材5であってもよい。カバー部材5を構成する素材としては、高い耐熱性に優れ、且つ熱伝導率も高い金属であることが望ましく、そのような素材としては例えばステンレスが挙げられる。
【0031】
図4に示されるように、アルミニウム管2の軸芯に沿う方向における熱膨張材4の長さは、切欠孔3の長さよりも両側(上側と下側)に長くなっている。そのため、熱膨張材4の外周面42とカバー部材5の内周面51との間で全周に亘ってアルミニウム管2の径方向視で切欠孔3と重ならない位置にリング状部材7を配置することができる。本実施形態では、熱膨張材4の上部及び下部にリング状部材7が1つずつ配置されている。リング状部材7は、例えばステンレス製の棒状体を円形状にしたものであって、一端71及び他端72を接合せずに上下に重ね合わせて構成されている。したがって、リング状部材7は、カバー部材5の内周面51から押圧力を受けることで縮径する。なお、
図4に示されるリング状部材7はあくまで一例であって、カバー部材5の内周面51から押圧力を受けることで縮径する構成であれば、リング状部材7は他の材料や他の形状で構成されてもよい。
【0032】
リング状部材7は、カバー部材5によって押圧されることにより熱膨張材4をアルミニウム管2の側に押圧し、熱膨張材4の内周面41とアルミニウム管2の外周面21との間の隙間を封止する。具体的には、リング状部材7がカバー部材5の内周面51によって押圧されて縮径することで、熱膨張材4においてリング状部材7によって押圧された部位の内周面41とアルミニウム管2の外周面21とのシール性が高められて両者の隙間を封止する。その結果、アルミニウム管2を流れる流体の流量や流速が大幅に増大した場合であっても、防火区画貫通キット1において、アルミニウム管2の切欠孔3から外方に漏れ出した流体がアルミニウム管2の外周面21と熱膨張材4の内周面41との隙間を伝ってもリング状部材7によって堰き止められるので、流体が防火区画貫通キット1の外部に漏れ出すのを防止することができ、アルミニウム管2の止水性を向上させることができる。
【0033】
また、熱膨張材4の内周面41とアルミニウム管2の外周面21との間の隙間を封止するリング状部材7がカバー部材5とは別体で構成されることで、リング状部材7の形状及び材料の自由度が高まる。したがって、リング状部材7として、アルミニウム管2及び熱膨張材4の形状や熱膨張材4の材質等に応じて、最適な形状や材質を選択することができ、例えば、ばね用ステンレスが挙げられる。
【0034】
締付部材6は、カバー部材5を外側から締め付けて2つの円筒分割体5aが分離しないように固定する部材である。締付部材6としては、従来から公知のステンレス製の締付けバンド等を使用して良い。本実施形態では、締付部材6は、カバー部材5の上部及び下部に1つずつ配置されている。さらに、締付部材6は、アルミニウム管2の径方向視においてリング状部材7に重なる位置に配置されている。
【0035】
締付部材6によって、カバー部材5が熱膨張材4の外周面42に対してより確実に固定され、さらには熱膨張材4を圧迫することによって止水性を高めることが可能となる。
図5に示されるように、締付部材6は、例えばステンレス製のバンド体61及びバンドシール62によって構成されている。
図5に示されるように、バンドシール62は、矩形状のステンレス板において対向する辺部を含む両端(
図5では上端及び下端)が辺部に沿って同方向に折り返されて形成された断面がC字形状の部材である。
【0036】
本実施形態によれば、締付部材6によってカバー部材5を熱膨張材4の外周面42に対して確実に固定することができる。また、本実施形態では、締付部材6がアルミニウム管2の径方向視においてリング状部材7に重なる位置に配置されているので、締付部材6はカバー部材5を介してアルミニウム管2に向けてリング状部材7を押圧することができ、リング状部材7による熱膨張材4の押圧が促進され、アルミニウム管2の止水性をさらに高めることができる。これにより、防火区画貫通キット1におけるアルミニウム管2の止水性をより効果的に高めることができる。
【0037】
(防火区画貫通キットの組立方法)
上述の防火区画貫通キット1を組み立てる場合は、
図3に示されるように、初めに、切欠孔3が形成されたアルミニウム管2の端を熱膨張材4の中に嵌め込み、そのまま熱膨張材4をアルミニウム管2に沿って切欠孔3を覆う位置までスライド移動させる。
【0038】
次に、アルミニウム管2において切欠孔3の全体が熱膨張材4で覆われたことを確認した後、熱膨張材4の外周面42にリング状部材7を取り付ける(
図4参照)。リング状部材7は、アルミニウム管2の端部から熱膨張材4に向けて挿入されて熱膨張材4の外周面42に配置される。リング状部材7は、熱膨張材4の上部及び下部であって熱膨張材4の径方向視において切欠孔3に重ならない位置に夫々1つずつ配置される。
【0039】
次に、熱膨張材4の外周側にカバー部材5を取り付ける。すなわち、2つの円筒分割体5aで熱膨張材4を挟み込むようにして覆い、2つの円筒分割体5aの両周縁同士を突き合わせて筒状とする。このとき、2つの円筒分割体5aは、周方向に沿って外方に延出される板状体53が隣接する円筒分割体5aの内周面51に重複する状態になるため、熱膨張材4の外周側に仮保持される。また、熱膨張材4においてアルミニウム管2の軸芯に沿う方向の両端に位置する、軸芯に垂直な端面43,43が、カバー部材5の両端の鍔部分5b,5bで夫々覆われることとなるため、熱膨張材4の外面全体がカバー部材5で覆われる。
図1に示されるように、本実施形態では、カバー部材5の両端の鍔部分5b,5bは、熱膨張材4の端面43,43に当接している。
【0040】
最後に、
図5に示されるように、締付部材6を使用して、カバー部材5を外側から締め付けて2つの円筒分割体5aが分離しないように固定する。具体的には、バンドシール62にバンド体61の一端63を通して当該一端63をバンドシール62に向けて内側に折り返し、バンド体61の他端64はカバー部材5の周りを一回りさせてバンドシール62に通す。その後、不図示の締付機を用いて、バンド体61の他端64を引張ってバンド体61を緊縛状態し、その状態でバンドシール62をかしめつつ、バンドシール62からはみ出るバンド体61の他端64を切断する。以上により、防火区画貫通キット1の組立が完了する。
【0041】
(防火区画貫通構造)
図1に示されるように、防火区画貫通構造100は、上述の防火区画貫通キット1と、該防火区画貫通キット1が配置された区画貫通部8の隙間に充填される充填材9とを備える。
【0042】
建築物の躯体10に形成された区画貫通部8に、防火区画貫通キット1を配設し、区画貫通部8の内周面とカバー部材5及び締付部材6の外周面との間の隙間に充填材9を充填する。これにより、防火区画貫通構造100の施工が完了し、アルミニウム管2が区画貫通部8を挿通配管される。
【0043】
本実施形態において、カバー部材5については、長手方向(アルミニウム管2の軸芯に沿う方向)の長さを躯体10の厚みより、その一部を躯体10から露出させることで、熱を受け易くなるように構成するのが望ましい。そのため、防火区画貫通キット1を躯体10に配設する際には、例えば、躯体10の一例である床を貫通させる場合に、床の下面側へ10mm露出させたり、躯体10の一例である壁を貫通させる場合に、片側のみを壁から10mm露出させたりするように施工を行なう。カバー部材5の一部を躯体10から露出させて熱を受けると、カバー部材5の熱伝導率が高いほど、カバー部材5の全体が熱せられ易くなる。その結果、カバー部材5を介して熱膨張材4を広い範囲で熱することができるため、防火区画貫通キット1において効果的に熱膨張させてアルミニウム管2の内部を閉塞させることができる。尚、躯体10から露出するアルミニウム管2自体も熱伝導率が高い材料であるので、カバー部材5を躯体10から露出させない形態であってもよい。
【0044】
防火区画貫通構造100に適用可能な充填材9及び充填方法としては、例えば以下に記載されるような従来から公知の充填材及び充填方法を用いることができる。
【0045】
例えば、充填材9としてセメントモルタルを使用する方法では、
(1)日本建築学会建築工事標準仕様書(JASS)15「左官工事」によるセメントと砂を容積で1対3の割合で十分から練りし、これに最小限の水を加え、十分混練りする。
(2)貫通部の裏側の面から板等を用いて仮押さえし、セメントモルタルを他方の面と面一になるまで十分密に充填する。
(3)セメントモルタル硬化後は、仮押さえに用いた板等を取り除く。
【0046】
また、充填材9としてロックウールを使用する方法では、
(1)JIS A 9504(人造鉱物繊維保温材)に規定するロックウール保温材(充填密度150kg/m3以上のものに限る。)又はロックウール繊維(充填密度150kg/m3以上のものに限る。)を利用した乾式吹き付けロックウール又は湿式吹き付けロックウールで隙間を充填する。
(2)ロックウール充填後、25mm以上のケイ酸カルシウム板又は0.5mm以上の鋼板を床又は壁と50mm以上重なるように貫通部に蓋をし、アンカーボルト、コンクリート釘等で固定する。
【0047】
〔第2実施形態〕
第2実施形態の防火区画貫通キット1は、
図6に示されるように、カバー部材5の内周面51にリブ54(押圧封止部材の一例)が設けられており、リング状部材7に代わり、リブ54がアルミニウム管2に向けて熱膨張材4を押圧する。すなわち、本実施形態の防火区画貫通キット1にはリング状部材7は備えられていない。
図6には防火区画貫通キット1のうちカバー部材5のみを示す。第2実施形態の防火区画貫通キット1においてカバー部材5とリング状部材7以外は第1実施形態と同じである。
【0048】
カバー部材5を構成する2つの円筒分割体5aの夫々において、内周面51の周方向全体に亘ってリブ54が設けられている。リブ54は、カバー部材5と一体的に設けられて熱膨張材4に向けて突出する。本実施形態では、リブ54はステンレス製の棒状体であって、カバー部材5の内周面51の周方向に沿って当該棒状体が溶接されることでリブ54が構成されている。
【0049】
カバー部材5は、2つの円筒分割体5aによって筒状にして締付部材6で固定したとしても、周方向において2つの円筒分割体5aの間に隙間が存在することがある。そこで、本実施形態では、
図6に示されるように、カバー部材5において、複数の円筒分割体5aの少なくとも1つは、リブ54に連続して設けられ、円筒分割体5aの周縁5cから周方向外方に延出される延出部55を有するよう構成されている。
図6に示す例では、2つの円筒分割体5aの両方において、リブ54のうち円筒分割体5aの一方の周縁5cから延出される延出部55が設けられている。リブ54のうち延出部55が形成されていない側の端部54aの端面は、円筒分割体5aの周縁5cと面一になっている。また、筒状のカバー部材5において、
図6に示す左側の円筒分割体5aの延出部55は右側の円筒分割体5aの内周面51のリブ54の上方に隣接して配置され、右側の円筒分割体5aの延出部55は左側の円筒分割体5aの内周面51のリブ54の下方に隣接して配置される。筒状のカバー部材5において、2つの円筒分割体5aは、延出部55が内周面51のリブ54の上方及び下方の一方にのみ隣接して配置される構成でもよい。
【0050】
本実施形態によれば、熱膨張材4の外周側にカバー部材5を装着することで、カバー部材5の内周面51に設けられたリブ54が熱膨張材4の外周面42を押圧するようになる。すなわち、当該リブ54は熱膨張材4をアルミニウム管2に向けて押圧する。これにより、熱膨張材4の内周面41とアルミニウム管2の外周面21とのシール性が高められるので、防火区画貫通キット1においてアルミニウム管2の止水性を向上させることができる。また、本実施形態のように、押圧封止部材がカバー部材5と一体的に設けられたリブ54によって構成されることで、防火区画貫通キット1は部品点数を増加させることなくアルミニウム管2の止水性を向上させることができる。
【0051】
さらに、本実施形態によれば、カバー部材5において、複数の円筒分割体5aの少なくとも1つは、リブ54に連続して設けられ、円筒分割体5aの周縁5cから周方向外方に延出される延出部55を有する。これにより、複数の円筒分割体5aの間の隙間に延出部55を配置することができるので、延出部55によって熱膨張材4の押圧が可能になる。その結果、カバー部材5に設けられたリブ54及び延出部55によって熱膨張材4を全周に亘って確実に押圧することができ、アルミニウム管2の止水性をより効果的に向上させることができる。
【0052】
〔第2実施形態の変形例〕
図7及び
図8に示されるように、カバー部材5に設けられるリブ54及び延出部55は、延出部55の全体がリブ54よりも細く形成され、リブ54のうち延出部55に対向する端部54aに延出部55の全体が挿入されて収納可能な孔部54bが形成される構成でもよい。なお、
図8は、カバー部材5のうち、対向するリブ54及び延出部55の要部のみを示す図であって、円筒分割体5a自体の図示は省略されている。
図7に示されるように、本変形例においても、リブ54の端部54aの端面は、円筒分割体5aの周縁5cと面一になるように配置されている。このように構成することで、熱膨張材4の外周側にカバー部材5を装着してリブ54が熱膨張材4の外周面42を押圧する際に、延出部55をリブ54の孔部54bに収納することができる。なお、図示しないが、延出部55のうち延出方向において先端を含む一部のみがリブ54よりも細く形成されてもよい。この場合には、リブ54の端部54aは、延出部55の全体が円筒分割体5aの内側に配置できるように、円筒分割体5aの周縁5cから周方向に後退した位置に配置される。このように構成することで、熱膨張材4の外周側にカバー部材5を装着してリブ54が熱膨張材4の外周面42を押圧する際に、延出部55のうち先端側の細い部分を孔部54bに収納しつつ延出部55をカバー部材5の内周面51に収納することができる。
【0053】
〔別実施形態〕
(1)第1実施形態では、カバー部材5の上部及び下部に押圧封止部材としてのリング状部材7を1つずつ配置する例を示したが、リング状部材7はカバー部材5の上部及び下部の少なくともいずれか一方において2つ以上配置してもよい。
【0054】
(2)第2実施形態(変形例を含む)では、複数の円筒分割体5aの夫々に延出部55を設ける例を示したが、例えば2つの円筒分割体5aのうち一方の円筒分割体5aのみに延出部55を設ける構成でもよい。この場合、延出部55はリブ54の両端から延出されるように設けられることが好ましい。カバー部材5は、第2実施形態のリブ54及び延出部55と、第2実施形態の変形例のリブ54及び延出部55とが、混在した構成であってもよい。第2実施形態において、カバー部材5において複数の円筒分割体5aが周方向に密接した状態で配置できる場合には、円筒分割体5aに延出部55を設けずに構成してもよい。
【0055】
(3)第2実施形態(変形例を含む)において、カバー部材5に設けられるリブ54がカバー部材5に一体成形される形態でもよい。
【0056】
(4)第1実施形態では、カバー部材5の鍔部分5bが熱膨張材4の両端面43に近接している例を示したが、カバー部材5の鍔部分5bと熱膨張材4の両端面43との間に所定幅の空間を有していてもよい。当該空間により、熱膨張材4の製作誤差や締付による変形を許容することができる。
【0057】
以上、本発明の防火区画貫通キット1及び防火区画貫通構造100の実施形態及び変形例について具体例を示して詳細に説明したが、本発明の範囲は、上述した具体的な実施形態及び変形例に限定される訳ではない。本明細書において開示された実施形態と変形例は全ての点で例示であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。また、上記の全ての実施形態及び変形例は可能な限り組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、建築物の躯体に形成される区画貫通部の挿通配管に関する産業分野において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 :防火区画貫通キット
2 :アルミニウム管
3 :切欠孔
4 :熱膨張材
5 :カバー部材
5a :円筒分割体(カバー片)
5b :鍔部分
6 :締付部材
7 :リング状部材(押圧封止部材)
8 :区画貫通部
21 :外周面
41 :内周面
42 :外周面
51 :内周面
52 :外周面
54 :リブ(押圧封止部材)
54b :孔部
55 :延出部