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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060704
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】無電解めっき方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20230421BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170437
(22)【出願日】2021-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永峯 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】北 晃治
(72)【発明者】
【氏名】恒次 涼太
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA14
4K022AA15
4K022AA16
4K022AA17
4K022AA20
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA01
4K022BA03
4K022BA06
4K022BA08
4K022BA14
4K022BA32
4K022CA06
4K022CA15
4K022CA17
4K022CA20
4K022DA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、高いめっきの析出性を示すことができ、樹脂材料に対する密着性が高いめっき皮膜を形成することができる無電解めっき方法を提供する。
【解決手段】樹脂材料の無電解めっき方法であって、
(1)前処理用組成物に、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、
(2)前記樹脂材料の被処理面を、活性化処理液に接触させる工程2、及び
(3)前記樹脂材料の被処理面を、無電解めっき液に接触させる工程3を有し、
前記前処理用組成物は、10mg/L以上のマンガンイオン及び10m g/L以上の
1価の銀イオンを含有し、前記前処理用組成物のpHが2以下であることを特徴とする無電解めっき方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料の無電解めっき方法であって、
(1)前処理用組成物に、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、
(2)前記樹脂材料の被処理面を、活性化処理液に接触させる工程2、及び
(3)前記樹脂材料の被処理面を、無電解めっき液に接触させる工程3を有し、
前記前処理用組成物は、10mg/L以上のマンガンイオン及び10m g/L以上の
1価の銀イオンを含有し、前記前処理用組成物のpHが2以下であることを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項2】
前記活性化処理液は、アルカリ化合物及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有する水溶液である、請求項1に記載の無電解めっき方法。
【請求項3】
前記アルカリ化合物は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、及び、アルカリ金属炭酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の無電解めっき方法。
【請求項4】
前記無機酸は、ホウ素含有化合物である、請求項2又は3に記載の無電解めっき方法。
【請求項5】
前記活性化処理液のpHは8~13である、請求項1~4のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【請求項6】
前記無電解めっき液は、銀に対して触媒活性を示す還元剤を含有する、請求項1~5のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【請求項7】
前記マンガンイオンのマンガンの価数が3以上である、請求項1~6のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を軽量化する目的等から、自動車用部品として樹脂材料(樹脂成形体)が使用されている。この様な目的では、樹脂材料として、例えばABS樹脂、PC/ABS樹脂、PPE樹脂、ポリアミド樹脂等が用いられており、高級感や美観を付与するために、銅、ニッケルなどのめっきが施されている。更に、樹脂基板に対して導電性を付与して導体回路を形成する方法としても、樹脂基板上に銅などのめっき皮膜を形成する方法が行われている。
【0003】
樹脂基板、樹脂材料等の樹脂材料にめっき皮膜を形成する一般的な方法として、クロム酸によるエッチング処理によって樹脂材料の表面を粗化した後、必要に応じて、中和及びプリディップを行い、次いで、錫化合物及びパラジウム化合物を含有するコロイド溶液を用いて無電解めっき用触媒を付与し、その後錫を除去するための活性化処理(アクセレーター処理)を行い、無電解めっき及び電気めっきを順次行う方法が行われている。
【0004】
しかしながら、上述の方法では、クロム酸を用いるため環境や人体に有害であるという問題がある。また、触媒を付与するために高価なパラジウムを使用するので、費用が高くなるという問題がある。
【0005】
樹脂材料にめっき皮膜を形成する方法として、金属アクチベータ分子種を含む水性溶液をめっきしようとする部品と接触させてエッチングし、金属アクチベータ分子種を還元することが可能な還元剤の溶液と接触させ、部品を無電解メッキ溶液と接触させることにより金属めっきする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、アクチベータ分子種の成分については検討の余地があり、めっき皮膜の形成が十分でないという問題がある。上述のABS樹脂等の樹脂材料はめっき皮膜を形成し難く、特に、PC/ABS樹脂はめっき皮膜を形成し難いため、めっき皮膜を十分に形成できず、且つ、樹脂材料に対するめっき皮膜の密着性が十分でないという問題がある。
【0007】
従って、高いめっきの析出性を示すことができ、樹脂材料に対する密着性が高いめっき皮膜を形成することができる無電解めっき方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4198799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、高いめっきの析出性を示すことができ、樹脂材料に対する密着性が高いめっき皮膜を形成することができる無電解めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、樹脂材料の無電解めっき
方法において、(1)特定の組成及びpHの前処理用組成物に、樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、(2)樹脂材料の被処理面を、活性化処理液に接触させる工程2、及び(3)前記樹脂材料の被処理面を、無電解めっき液に接触させる工程3を有する構成の樹脂材料の無電解めっき方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の無電解めっき方法に関する。
1.樹脂材料の無電解めっき方法であって、
(1)前処理用組成物に、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、
(2)前記樹脂材料の被処理面を、活性化処理液に接触させる工程2、及び
(3)前記樹脂材料の被処理面を、無電解めっき液に接触させる工程3を有し、
前記前処理用組成物は、10mg/L以上のマンガンイオン及び10m g/L以上の
1価の銀イオンを含有し、前記前処理用組成物のpHが2以下であることを特徴とする無電解めっき方法。
2.前記活性化処理液は、アルカリ化合物及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有する水溶液である、項1に記載の無電解めっき方法。
3.前記アルカリ化合物は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、及び、アルカリ金属炭酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項2に記載の無電解めっき方法。
4.前記無機酸は、ホウ素含有化合物である、項2又は3に記載の無電解めっき方法。
5.前記活性化処理液のpHは8~13である、項1~4のいずれかに記載の無電解めっき方法。
6.前記無電解めっき液は、銀に対して触媒活性を示す還元剤を含有する、項1~5のいずれかに記載の無電解めっき方法。
7.前記マンガンイオンのマンガンの価数が3以上である、項1~6のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無電解めっき方法によれば、高いめっきの析出性を示すことができ、樹脂材料に対する密着性が高いめっき皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
1.樹脂材料の無電解めっき方法
本発明の樹脂材料の無電解めっき方法は、(1)前処理用組成物に、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、(2)前記樹脂材料の被処理面を、活性化処理液に接触させる工程2、及び(3)前記樹脂材料の被処理面を、無電解めっき液に接触させる工程3を有し、前記前処理用組成物は、10mg/L以上のマンガンイオン及び10m g/L以
上の1価の銀イオンを含有し、前記前処理用組成物のpHが2以下である無電解めっき方法である。
【0015】
本発明の無電解めっき方法は、上記工程1において特定の組成及びpHの前処理用組成物に、樹脂材料の被処理面を接触させ、且つ、工程2において上記工程1を経た後、被処理面を活性化処理液に接触させるので、ABS樹脂等の樹脂材料、特に、PC/ABS樹脂等のめっき皮膜を形成し難い樹脂材料であっても、めっき皮膜を十分に形成することができる。
【0016】
本発明の無電解めっき方法によれば、工程1において、前処理用組成物に、樹脂材料の被処理面を接触させることで、当該被処理面をエッチング処理すると共に、当該被処理面
に銀触媒を付与することができ、触媒付与工程及びアクセレーター処理工程が不要となるので、樹脂材料の被処理面を容易に処理することができ、且つ、無電解めっきを行う際の工程を少なくすることができる。
【0017】
例えば、マンガンイオンとパラジウムイオンとを含有する前処理用組成物では、パラジウムイオンを含有することにより、マンガンイオンのエッチング力が低下する。また、クロム酸と銀イオンを含有する前処理用組成物では、組成物中で不溶性の沈殿物であるクロム酸銀(AgCrO)の沈殿が生成して、銀イオンが系外に排出されてしまい、触媒
の付与が十分でない。
【0018】
これに対し、本発明の無電解めっき方法の工程1で用いられる前処理用組成物は、マンガンイオンおよび1価の銀イオンを含有するので、樹脂材料の被処理面を接触させた後に、当該被処理面を無電解めっき液に接触させることにより、被処理面に密着性の良好なめっき皮膜を形成することができる。
【0019】
また、本発明の工程1で用いられる前処理用組成物は、マンガンイオンおよび1価の銀イオンを含有するので、樹脂基板の被処理面を接触させることで被処理面のエッチングと触媒付与とを同時に行なうことができるため、触媒付与工程が省略可能となる。
【0020】
更に、本発明の工程1で用いられる前処理用組成物は、従来の触媒付与工程のようにパラジウム-錫コロイド溶液を使用する必要がなく、錫を除去するための活性化処理(アクセレーター処理)工程も省略可能となる。
【0021】
すなわち、本発明の無電解めっき方法の工程1で用いられる前処理用組成物によれば、有害なクロム酸及び高価なパラジウムを使用することなく、後工程での無電解めっきにおいて高いめっきの析出性を示すことができる。また、本発明の無電解めっき方法の工程1で用いられる前処理用組成物によれば、エッチング工程と触媒付与工程とを別々に行う必要がなく、アクセレーター処理工程を行う必要がないので、無電解めっきを行う際の工程が大幅に短縮される。
【0022】
また、本発明の無電解めっき方法は、上記工程1を経た樹脂材料の被処理面を、活性化処理液に接触させる工程2を有することで、工程1と工程2とを有することがあいまって、樹脂材料の被処理面を更に活性化させることができ、後工程である工程3において、樹脂材料の被処理面を無電解めっき液に接触させることにより、高いめっきの析出性を示すことができ、樹脂材料に対する密着性が高いめっき皮膜を形成することができる。
【0023】
(樹脂材料)
本発明の無電解めっき方法において、被処理物となる樹脂材料を形成する樹脂については特に限定されず、従来からクロム酸-硫酸の混酸によってエッチング処理が行われている各種の樹脂材料を用いることができ、当該樹脂材料に対して良好な無電解めっき皮膜を形成することができる。樹脂材料を形成する樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がアクリルゴム成分に置き換わった樹脂(AAS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がエチレン-プロピレンゴム成分等に置き換わった樹脂(AES樹脂)等のスチレン系樹脂が挙げられる。また、上記スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ化樹脂(PC/ABS樹脂:例えば、PC樹脂の混合比率が30~70質量%程度のアロイ化樹脂)等も好適に使用できる。更に、耐熱性、物性に優れたポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリブチレンテレフタラート(PBT)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアミド樹脂等も用いることができる。本発明の無電解めっき方法によれば、PC/ABS樹脂等の特にめっき皮膜を形成し難い樹脂材
料であっても、高いめっきの析出性を示すことができ、樹脂材料に対する密着性が高いめっき皮膜を形成することができる。
【0024】
樹脂材料の形状、大きさ等は特に限定されず、本発明の無電解めっき方法によれば、表面積の広い大型の樹脂材料に対しても、高いめっきの析出性及び樹脂材料に対する密着性を示すことができ、装飾性、物性等に優れた良好なめっき皮膜を形成することができる。このような大型の樹脂材料としては、ラジエターグリル、ホイールキャップ、中・小型のエンブレム、ドアーハンドル等の自動車関連部品;電気・電子分野での外装品;水廻り等で使用されている水栓金具;パチンコ部品等の遊技機関係品等が挙げられる。
【0025】
(工程1)
工程1は、前処理用組成物に、樹脂材料の被処理面を接触させる工程である。工程1で用いられる前処理用組成物は、10mg/L以上のマンガンイオン及び10m g/L以
上の1価の銀イオンを含有し、pHが2以下である。
【0026】
(マンガンイオン)
前処理用組成物が含有するマンガンイオンは、酸化力を有するものであれば特に限定されない。マンガンイオンのマンガンの価数は3以上が好ましく、4以上がより好ましく、7が更に好ましい。例えば、前処理用組成物に含まれるマンガンイオンは、3価のマンガンイオン、4価のマンガンイオン等の金属イオン単体のマンガンイオンの状態であってもよく、7価のマンガンのマンガンイオンである過マンガン酸イオン等のマンガンイオンの状態であってもよい。これらの中でも、よりエッチング力に優れる点で、4価のマンガンイオン、及び過マンガン酸イオンが好ましく、過マンガン酸イオンがより好ましい。また、2価のマンガンのマンガンイオンは酸化力を有しておらず、単独で使用しても樹脂材料の表面のエッチングは進行しないが、価数3以上のマンガンのマンガンイオンと併用して使用してもよい。
【0027】
マンガンイオンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前処理用組成物にマンガンイオンを付与するためのマンガン塩としては特に限定されず、硫酸マンガン(II)、リン酸マンガン(III)、酸化マンガン(IV)、過マンガン酸ナトリウム(VII)、過マンガン酸カリウム(VII)等が挙げられる。これらの中でも、よりエッチング力に優れたマンガンイオンを付与することができる点で、リン酸マンガン(III)、酸化マンガン(IV)、過マンガン酸ナトリウム(VII)、過マンガン酸カリウム(VII)が好ましく、過マンガン酸ナトリウム(VII)、過マンガン酸カリウム(VII)がより好ましい。
【0029】
マンガン塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前処理用組成物において、マンガンイオンの含有量は10mg/L以上である。マンガンイオンの含有量が10mg/L未満であると、樹脂材料を十分にエッチングできず、無電解めっきにより形成される皮膜の密着性が低下する。マンガンイオンの含有量は、10mg/L~100g/Lが好ましく、100mg/L~50g/Lがより好ましく、0.2g/L~30g/Lが更に好ましく、0.5g/L~15g/Lが特に好ましく、0.5g/L~10g/Lが最も好ましい。マンガンイオンの含有量の下限を上記範囲とすることにより、前処理用組成物のエッチング力がより一層向上する。また、マンガンイオンの含有量の上限を上記範囲とすることにより、前処理用組成物中の二酸化マンガンの沈殿の生成がより一層抑制され、浴安定性がより一層向上する。
【0031】
(銀イオン)
前処理用組成物が含有する銀イオンは、1価の銀イオンである。1価の銀イオンを付与するための銀塩としては、前処理用組成物中に溶解した際に浴中で安定した1価の銀イオンを付与することができ、銀塩を形成する対イオンがマンガンイオンに悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。具体的には硫酸銀(I)、硝酸銀(I)、酸化銀(I)が挙げられる。これらの中でも、溶解度が高く工業的に使用し易い点で、硝酸銀(I)が好ましい。また、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ化樹脂等のめっきが析出し難い樹脂により形成された樹脂材料に対してもより一層めっきの析出性が良好であり、且つ、めっき皮膜の密着性がより一層低下し難い点で、硫酸銀(I)が好ましい。
【0032】
銀塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前処理用組成物において、1価の銀イオンの含有量は10mg/L以上である。1価の銀イオンの含有量が10mg/L未満であると、無電解めっきが十分に析出できない。1価の銀イオンの含有量は、10mg/L~20g/Lが好ましく、50mg/L~15g/Lがより好ましく、100mg/L~10g/Lが更に好ましい。1価の銀イオンの含有量の下限を上記範囲とすることにより、樹脂材料の表面に十分な量の銀触媒が吸着して、無電解めっき皮膜がより一層十分に析出する。また、1価の銀イオンの含有量の上限が上記上限以上であっても悪影響を与えることはないが、上記上限とすることにより、銀塩の使用量を抑えることができ、コストを低減することができる。
【0034】
銀イオンとしては、また、金属銀を酸性マンガン浴中に添加して、溶解させて得られる1価銀を用いてもよい。酸性マンガン浴を形成するための酸としては特に限定されず、無機酸及び有機スルホン酸を使用することができる。
【0035】
無機酸としては硫酸、リン酸、硝酸、塩酸、フッ化水素酸、ホウ酸等が挙げられる。これらの中でも、排水処理性により一層優れる点で、硫酸が好ましい。
【0036】
有機スルホン酸としてはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ペンタンスルホン酸等の炭素数1~5の脂肪族スルホン酸;トルエンスルホン酸、ピリジンスルホン酸、フェノールスルホン酸等の芳香族スルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、前処理用組成物の浴安定性が良好である点で、炭素数1~5の脂肪族スルホン酸が好ましい。
【0037】
上記酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明の前処理用組成物中の酸濃度は特に限定されず、例えば、合計の酸濃度として100~1800g/Lが好ましく、800~1700g/Lがより好ましい。
【0039】
(他の成分)
前処理用組成物は、上記マンガンイオン及び上記銀イオンの他に、高分子化合物を含んでいてもよい。高分子化合物の種類としては特に限定的されず、めっき析出性を促進できる点で、カチオン性ポリマーを好適に用いることができる。高分子化合物の含有量は、0.01~100g/Lが好ましく、0.1~10g/Lがより好ましい。
【0040】
(溶媒)
前処理用組成物は、上記マンガンイオン、上記銀イオン、必要に応じて添加される他の成分が、溶媒に含有されることが好ましい。上記溶媒としては特に限定されず、水、アルコール、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0041】
上記溶媒は、安全性に優れる点で、水が好ましく、即ち、前処理用組成物は、水溶液であることが好ましい。
【0042】
アルコールとしては特に限定されず、エタノール等の従来公知のアルコールを用いることができる。
【0043】
水とアルコールとの混合溶媒を用いる場合、アルコールの濃度は低いことが好ましく、具体的にはアルコール濃度が1~30質量%程度であることが好ましい。
【0044】
工程1において、前処理用組成物のpHは2以下である。前処理用組成物のpHが2を超えると、樹脂材料のエッチング処理が十分でない。前処理用組成物のpHは、1以下が好ましい。
【0045】
前処理用組成物に樹脂材料の被処理面を接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、樹脂材料を前処理用組成物に浸漬する方法、前処理用組成物を樹脂材料の被処理面に噴霧する方法等が挙げられる。これらの中でも、より一層接触効率に優れる点で、樹脂材料を前処理用組成物に浸漬する方法が好ましい。
【0046】
工程1における前処理用組成物の温度は特に限定されず、30~100℃が好ましく、40~90℃がより好ましく、50~80℃が更に好ましい。前処理用組成物の温度の下限を上記範囲とすることにより、樹脂材料表面のエッチング及び触媒付与がより一層十分となる。また、前処理用組成物の温度の上限を上記範囲とすることにより、より一層装飾性に優れた皮膜外観を得ることができる。
【0047】
工程1における、前処理用組成物と樹脂材料の被処理面との接触時間は、3~60分が好ましく、5~50分がより好ましく、10~40分が更に好ましい。接触時間の下限を上記範囲とすることにより、樹脂材料表面のエッチング及び触媒付与がより一層十分となる。また、接触時間の上限を上記範囲とすることにより、より一層装飾性に優れた皮膜外観を得ることができる。
【0048】
なお、従来技術であるクロム酸-硫酸混合液を用いた場合、浴中に1価の銀イオンを添加すると直ちにクロム酸銀(AgCrO)の沈殿が生成するため銀が前処理用組成物
中でイオンとして安定に存在できない。したがって、従来技術であるクロム酸-硫酸混合液を用いた場合は、本発明のように銀イオンを含有する前処理用組成物を用いることが困難である。
【0049】
以上説明した工程1により、樹脂材料の被処理面が前処理用組成物に接触し、当該被処理面が処理される。
【0050】
(脱脂処理工程)
本発明の無電解めっき方法は、樹脂材料の被処理面の汚れを除去するために、上記工程1の前に、脱脂処理を行う脱脂処理工程を有していてもよい。脱脂処理としては特に限定されず、従来公知の方法により脱脂処理を行えばよい。
【0051】
(後処理工程)
本発明の無電解めっき方法は、工程1と、後述する工程2との間に、更に、樹脂材料の表面に付着したマンガンを除去するために、無機酸を含有する後処理液を用いて後処理を行う後処理工程を有していてもよい。
【0052】
無機酸については特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、ホウ酸等が挙げられる。これらの中でも、マンガンの除去性に優れる点で、塩酸が好ましい。
【0053】
上記無機酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
後処理液中の無機酸の含有量は特に限定されず、1~1000g/L程度とすればよい。
【0055】
後処理方法としては特に限定されず、例えば、液温15~70℃程度の後処理液中に、上記工程1により前処理された樹脂材料を1~10分程度浸漬すればよい。上記後処理により、形成されるめっき皮膜の析出性、密着性および外観をより一層向上させることができる。
【0056】
(工程2)
工程2は、樹脂材料の被処理面を、活性化処理液に接触させる工程である。
【0057】
工程2で用いられる活性化処理液は、上記工程1を経た樹脂材料の被処理面を活性化させることができれば特に限定されないが、上記活性化処理液は、アルカリ化合物及び無機酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有する水溶液であることが好ましい。
【0058】
(アルカリ化合物)
活性化処理液が含有するアルカリ化合物は、上記工程1を経た樹脂材料の被処理面を活性化させることができれば特に限定されない。このようなアルカリ化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩等が挙げられる。これらの中でも、めっきの析出性、及び樹脂材料に対する密着性がより一層向上する点で、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩が好ましい。
【0059】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。これらの中でも、めっきの析出性、及び樹脂材料に対する密着性がより一層向上する点で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0060】
アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が挙げられる。これらの中でも、めっきの析出性、及び樹脂材料に対する密着性がより一層向上する点で、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムが好ましい。
【0061】
アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等が挙げられる。これらの中でも、めっきの析出性、及び樹脂材料に対する密着性がより一層向上する点で、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが好ましい。
【0062】
(無機酸)
活性化処理液が含有する無機酸は、上記工程1を経た樹脂材料の被処理面を活性化させることができれば特に限定されない。このような無機酸としては、ホウ素含有化合物等が挙げられる。無機酸としてホウ素含有化合物等を用いることにより、めっきの析出性、及び樹脂材料に対する密着性がより一層向上する。また、後述する工程3において無電解めっきに影響を与えない点で、還元性を示さないホウ素含有化合物がより好ましい。
【0063】
ホウ素含有化合物としては、ホウ酸及びその塩を用いることができる。ホウ酸塩としては、具体的には、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸リチウム等が挙げら
れる。これらの中でも、めっきの析出性、及び樹脂材料に対する密着性がより一層向上する点で、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウムが好ましい。また、ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸リチウムは、上記還元性を示さないホウ素含有化合物として用いることができる。
【0064】
上記活性化処理液が含有する化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
活性化処理液において、上記化合物の含有量は0.5g/L以上が好ましく、1g/L以上がより好ましく、2g/L以上が更に好ましく、5g/L以上が特に好ましい。また、上記化合物の含有量は200g/L以下が好ましく、100g/L以下がより好ましく、50g/L以下が更に好ましく、20g/L以下が特に好ましい。上記化合物の含有量の上限及び下限を上記範囲とすることにより、めっきの析出性、及び樹脂材料に対する密着性がより一層向上する。
【0066】
(他の成分)
活性化処理液は、上記アルカリ化合物及び無機酸の他に、他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、pH調整剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0067】
pHを低く調整する際のpH調整剤としては、塩酸、硫酸等が挙げられる。また、pHを高く調整する際のpH調整剤としては、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液等が挙げられる。
【0068】
(溶媒)
活性化処理液は、上記化合物、必要に応じて添加される他の成分が、溶媒に含有されることが好ましい。上記溶媒としては特に限定されず、水、アルコール、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0069】
上記溶媒は、安全性に優れる点で、水が好ましく、即ち、上記活性化処理液は、水溶液であることが好ましい。
【0070】
アルコールとしては特に限定されず、エタノール等の従来公知のアルコールを用いることができる。
【0071】
水とアルコールとの混合溶媒を用いる場合、アルコールの濃度は低いことが好ましく、具体的にはアルコール濃度が1~30質量%程度であることが好ましい。
【0072】
工程2において、活性化処理液のpHは7~13が好ましく、8~13がより好ましく、9~12が更に好ましい。活性化処理液のpHが上記範囲であると、めっきの析出性、及び樹脂材料に対する密着性がより一層向上する。
【0073】
活性化処理液に樹脂材料の被処理面を接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、樹脂材料を活性化処理液に浸漬する方法、活性化処理液を樹脂材料の被処理面に噴霧する方法等が挙げられる。これらの中でも、より一層接触効率に優れる点で、樹脂材料を活性化処理液に浸漬する方法が好ましい。
【0074】
工程2における活性化処理液の温度は特に限定されず、5~60℃が好ましく、15~50℃がより好ましく、25~40℃が更に好ましい。活性化処理液の温度の下限を上記範囲とすることにより、樹脂材料表面の活性化がより一層十分となる。また、活性化処理
液の温度の上限を上記範囲とすることにより、より一層装飾性に優れた皮膜外観を得ることができる。
【0075】
工程2における、活性化処理液と樹脂材料の被処理面との接触時間は、1秒~10分が好ましく、10秒~5分がより好ましく、30秒~3分が更に好ましい。接触時間の下限を上記範囲とすることにより、樹脂材料表面の活性化がより一層十分となる。また、接触時間の上限を上記範囲とすることにより、より一層装飾性に優れた皮膜外観を得ることができる。
【0076】
以上説明した工程2により、樹脂材料の被処理面が活性化処理液に接触し、当該被処理面が活性化される。
【0077】
(工程3)
工程3は、上記樹脂材料の被処理面を、無電解めっき液に接触させる工程である。
【0078】
上記樹脂材料の被処理面を無電解めっき液に接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、より一層接触効率に優れる点で、樹脂材料の被処理面を無電解めっき液に浸漬する方法が好ましい。
【0079】
無電解めっき液としては特に限定されず、従来公知の自己触媒型無電解めっき液を用いることができる。当該無電解めっき液としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解コバルトめっき液、無電解ニッケル-コバルト合金めっき液、無電解金めっき液、無電解銀めっき液等が挙げられる。
【0080】
無電解めっき液は、還元剤として、銀に対して触媒活性を示す還元剤を含有することが好ましい。当該還元剤としては、ジメチルアミンボラン、ホルマリン、グリオキシル酸、テトラヒドロホウ酸、ヒドラジン等が挙げられる。
【0081】
樹脂材料の被処理面を無電解めっき液に接触させる条件としては特に限定されず、例えば、樹脂材料を無電解めっき液に浸漬する場合には、無電解めっき液の液温を20~70℃程度とし、浸漬時間を3~30分程度とすればよい。
【0082】
無電解めっき液中の還元剤の含有量は特に限定的されず、0.01~100g/L程度が好ましく、0.1~10g/L程度がより好ましい。還元剤の含有量の下限を上記範囲とすることで、めっきの析出性がより一層向上し、還元剤の含有量の上限を上記範囲とすることで、無電解めっき浴の安定性がより一層向上する。
【0083】
本発明の無電解めっき方法では、必要に応じて、工程3を2回以上繰り返して行ってもよい。工程3を2回以上繰り返すことで、無電解めっき皮膜が二層以上形成される。
【0084】
以上説明した工程3により、樹脂材料の被処理面が無電解めっき液に接触し、無電解めっき皮膜が形成される。
【0085】
(還元処理工程)
本発明の無電解めっき方法は、無電解めっきの析出性を向上させるために、工程2と工程3との間に、還元剤及び/又は有機酸を含有する還元処理液による還元処理を行ってもよい。
【0086】
還元処理に用いる還元剤としては特に限定されず、ジメチルアミンボラン、ホルマリン、グリオキシル酸、ヒドラジン、次亜リン酸塩、エリソルビン酸、アスコルビン酸、硫酸
ヒドロキシルアミン、過酸化水素、グルコース等が挙げられる。これらの中でも、めっき析出性がより一層良好である点で、ジメチルアミンボラン、ホルマリン、グリオキシル酸、ヒドラジンが好ましい。
【0087】
上記還元剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0088】
還元処理液中の還元剤の濃度としては特に限定されず、0.1~500g/Lが好ましく、1~50g/L程度がより好ましく、2~25g/Lが更に好ましい。
【0089】
還元処理に用いる有機酸としては特に限定されず、ギ酸、シュウ酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、フマル酸等が挙げられる。これらの中でも、めっき析出性がより一層良好である点で、ギ酸、シュウ酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸が好ましい。
【0090】
上記有機酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0091】
還元処理液中の有機酸の濃度としては特に限定されず、0.1~500g/Lが好ましく、1~50g/L程度がより好ましく、2~25g/Lが更に好ましい。
【0092】
還元処理方法としては特に限定されず、例えば、液温15~50℃程度の還元処理液中に、上記工程2により活性化処理された樹脂材料を数秒~10分程度浸漬すればよい。
【0093】
(電気めっき工程)
本発明の樹脂材料の無電解めっき方法では、工程3の後に、更に電気めっき工程を有していてもよい。
【0094】
電気めっき工程は、上記工程3の後、必要に応じて、酸、アルカリ等の水溶液によって処理を行い、電気めっき液に浸漬して、電気めっきを行えばよい。
【0095】
電気めっき液は特に限定されず、従来公知の電気めっき液から目的に応じて適宜選択すればよい。
【0096】
電気めっき方法としては特に限定されず、例えば、液温15~50℃程度の電気めっき液中に、上記工程3により無電解めっき皮膜が形成された樹脂材料を電流密度0.1~10A/dm程度の条件で数秒~10分程度浸漬すればよい。
【実施例0097】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0098】
(無電解めっき皮膜の作製)
被めっき物である樹脂材料として、ABS樹脂(テクノUMG(株)製、商標名:ABS3001M)の平板(10cm×5cm×0.3cm、表面積約1dm2)、及び、PC/ABS樹脂(テクノUMG(株)製、
商品名:TC25M)の平板(10cm×5cm×0.3cm、表面積約1dm2)を用意し、以下の方法で
無電解めっき皮膜を形成した。
【0099】
まず、アルカリ系脱脂液(奥野製薬工業(株)製、エースクリーンA-220浴)中に樹脂
材料を40℃で5分間浸漬し、水洗した。
【0100】
次いで、表1に示す配合で、各実施例及び比較例で用いる前処理用組成物、活性化処理液、及び、無電解めっき液を調製した。これらの液の調製は、溶媒としての水に、表1に示す配合で添加剤を添加して、撹拌することにより行った。なお、実施例6で用いた活性化処理液は、溶媒としての水に、pH調整剤のみを添加してpH調整を行うことにより調製した。
【0101】
上述のようにして調製した各液を用いて、下記条件により工程1から工程3までを順に試験片に施して、無電解めっき皮膜を形成した。なお、比較例1では工程2を施さなかった。
【0102】
(工程1)
前処理用組成物への浸漬:浸漬温度68℃、浸漬時間10分
【0103】
(工程2)
活性化処理液への浸漬:浸漬温度35℃、浸漬時間2分
なお、工程2において、活性化処理液のpHを下記pH調整剤を用いて調整した。
・10g/L NaOH水溶液
・10g/L H2SO4水溶液
【0104】
(工程3)
無電解めっき液への浸漬:浸漬温度40℃、浸漬時間10分
【0105】
上記方法により無電解めっき液を施した実施例及び比較例の樹脂材料を用いて、形成されためっき皮膜の被覆率及び密着性を下記の方法によって評価した。
【0106】
(1)被覆率
樹脂材料表面の無電解めっき皮膜が形成された面積の割合を被覆率として評価した。樹脂材料表面の全面が被覆された場合を被覆率100%とした。
【0107】
(2)ピール強度測定
無電解めっき皮膜が形成された樹脂材料を硫酸銅めっき浴に浸漬し、電流密度3A/dm2、温度25℃の条件で電気めっき処理を120分間行い、銅めっき皮膜を形成し、試料を作製し
た。当該試料を、80℃で120分間乾燥させ、室温になるまで放置した。次いで、めっき皮
膜に10mm幅の切り目を入れ、引っ張り試験器((株)島津製作所製、オートグラフAGS-J
1kN)を用いて、樹脂材料の表面に対して垂直方向にめっき皮膜を引っ張り、ピール強度を測定した。
【0108】
結果を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1の結果から、工程1~工程3を有し、前処理用組成物が10mg/L以上のマンガンイオン及び10m g/L以上の1価の銀イオンを含有し、前処理用組成物のpHが2
以下である実施例1~6により形成されためっき皮膜は、めっき皮膜の被覆率が高く、密着性も優れることが分かった。
【0111】
また、実施例1~6の前処理用組成物及び活性化処理液に浸漬した後に、無電解めっき液に浸漬することにより形成されためっき皮膜は、ABS樹脂により形成される樹脂材料に対する被覆率が100%であり、また、PC/ABSにより形成される樹脂材料に対する被覆率が100%又は50%であり、前処理用組成物への浸漬時間が10分という厳しい条件であっても十分な被覆率を示すため、別途触媒付与工程により触媒を付与し、被覆率を高める必要がないことが分かった。
【0112】
樹脂材料の被処理面を、活性化処理液に接触させる工程2を行わなかった比較例1では、工程1を、前処理用組成物への浸漬時間が10分という厳しい条件下で行うと、めっき皮膜の被覆率が低く、密着性も低いことが分かった。
【0113】
マンガンイオンを含有しない前処理用組成物を用いた比較例2、及び、マンガンイオン濃度が10mg/L未満である前処理用組成物を用いた比較例3では、めっき皮膜の被覆率が低く、密着性も低いことが分かった。
【0114】
更に、1価の銀イオン濃度が10mg/L未満である前処理用組成物を用いた比較例4及び5では、めっき皮膜の被覆率が低く、密着性も低いことが分かった。