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特開2023-60713酵素含有粒子形成用組成物、酵素含有粒子、酵素分解性樹脂組成物、及び成形体
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  • 特開-酵素含有粒子形成用組成物、酵素含有粒子、酵素分解性樹脂組成物、及び成形体 図1A
  • 特開-酵素含有粒子形成用組成物、酵素含有粒子、酵素分解性樹脂組成物、及び成形体 図1B
  • 特開-酵素含有粒子形成用組成物、酵素含有粒子、酵素分解性樹脂組成物、及び成形体 図2
  • 特開-酵素含有粒子形成用組成物、酵素含有粒子、酵素分解性樹脂組成物、及び成形体 図3
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  • 特開-酵素含有粒子形成用組成物、酵素含有粒子、酵素分解性樹脂組成物、及び成形体 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060713
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】酵素含有粒子形成用組成物、酵素含有粒子、酵素分解性樹脂組成物、及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/04 20060101AFI20230421BHJP
   C12N 11/08 20200101ALI20230421BHJP
   C12N 9/50 20060101ALN20230421BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20230421BHJP
【FI】
C08F299/04
C12N11/08 ZBP
C12N9/50
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170450
(22)【出願日】2021-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】楊 賀
(72)【発明者】
【氏名】長島 稔
(72)【発明者】
【氏名】西尾 健
(72)【発明者】
【氏名】初田 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】野口 健
(72)【発明者】
【氏名】和久 香緒里
【テーマコード(参考)】
4B033
4B050
4J127
4J200
【Fターム(参考)】
4B033NA22
4B033NB34
4B033NC01
4B033ND02
4B033NG09
4B050CC07
4B050GG10
4B050JJ02
4B050KK16
4B050LL05
4J127AA03
4J127AA07
4J127BB031
4J127BB051
4J127BB091
4J127BB111
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC051
4J127BC151
4J127BD141
4J127BE341
4J127BE34Y
4J127BF131
4J127BF13Y
4J127BF141
4J127BF14Y
4J127BF221
4J127BF22Y
4J127BG181
4J127BG18Y
4J127CA01
4J127DA37
4J127DA53
4J127DA61
4J127EA22
4J127EA27
4J127FA01
4J127FA15
4J127FA55
4J127FA57
4J200AA02
4J200AA04
4J200AA06
4J200AA23
4J200AA27
4J200BA04
4J200BA05
4J200BA14
4J200BA18
4J200BA27
4J200CA01
4J200DA00
4J200DA01
4J200DA16
4J200DA17
4J200DA22
4J200DA24
4J200EA11
4J200EA21
(57)【要約】
【課題】酵素含有粒子を簡便で安価に形成することができる酵素含有粒子形成用組成物、水の存在下で優れた加水分解性を有する酵素含有粒子、優れた樹脂の耐久性と、優れた生分解性とを両立することができる成形体、及び前記成形体を簡便で安価に形成することができる酵素分解性樹脂組成物の提供。
【解決手段】重合性基を有し、加水分解可能なポリマーを形成可能な変性ポリマーと、前記変性ポリマーが重合してなる加水分解可能なポリマーを分解させない酵素と、前記変性ポリマーを重合させる重合開始剤とを含有し、前記変性ポリマーが、重合性基を有する変性ポリカプロラクトンを含むことを特徴とする酵素含有粒子形成用組成物である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性基を有し、加水分解可能なポリマーを形成可能な変性ポリマーと、前記変性ポリマーが重合してなる加水分解可能なポリマーを分解させない酵素と、前記変性ポリマーを重合させる重合開始剤とを含有し、
前記変性ポリマーが、重合性基を有する変性ポリカプロラクトンを含むことを特徴とする酵素含有粒子形成用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の酵素含有粒子形成用組成物を硬化させてなることを特徴とする酵素含有粒子。
【請求項3】
請求項2に記載の酵素含有粒子と、前記酵素含有粒子に含まれる酵素により分解可能な樹脂と、を含有することを特徴とする酵素分解性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の酵素分解性樹脂組成物を硬化させてなることを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素含有粒子形成用組成物、酵素含有粒子、酵素分解性樹脂組成物、及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
人類は、20世紀において様々な有用な新規合成高分子化合物を化学合成してきたが、それらの化学構造が自然界にはない化学構造を有しているがために、それらを分解する微生物や分解酵素は自然界には存在せず、自然環境中に廃棄物として排出された場合、いつまで経っても分解されないという、正に海洋プラスチック汚染問題に象徴的なプラスチック廃棄物による環境汚染問題を招来する。
【0003】
環境中に存在する微生物が分泌する分解酵素によって二酸化炭素と水とにまで完全に分解される生分解性プラスチック(生分解性樹脂)の開発は、その解決策のひとつとして注力されている。ポリ乳酸はその中の代表的な生分解性樹脂のひとつである。しかしながら、一般的な生分解性樹脂は使用中に劣化しやすく、耐久性に問題がある。また、ポリ乳酸は、酵素分解性を有するものの、その分解速度が非常に緩やかであるという問題がある。このような生分解性樹脂の分解速度を改善するために、加水分解性の高いポリエステルを分解促進剤としてポリ乳酸にブレンドすることにより、ポリ乳酸の生分解性を改善する方法(非特許文献1参照)、通常はコンポスト環境でしか分解しないポリ乳酸に、酵素を内包させることにより、水環境下でも分解させることができる分解開始スイッチ機能を有する酵素内包生分解性樹脂(非特許文献2参照)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、前記酵素内包生分解性樹脂は、内包させる多孔質ゲルがバイオゲルPゲル(アクリルアミド系ゲル)であり、生分解性の面で十分満足できるものではないという問題がある。また、環境中に流出した時に生分解が始まる分解開始スイッチ機能としても不十分であった。
【0005】
したがって、優れた樹脂の耐久性と、優れた生分解性とを両立することができる生分解性樹脂は未だ提供されておらず、その提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】(正)片山傳喜、吉川成志、小暮正人、「資源循環を目指したバイオマスプラスチックの高速酵素分解」、東洋製罐グループ綜合研究所
【非特許文献2】QiuYuan Huang, et al., Biomacromolecules, 2020, 21(8), p.3301-3307.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、酵素含有粒子を簡便で安価に形成することができる酵素含有粒子形成用組成物、水の存在下で優れた加水分解性を有する酵素含有粒子、優れた樹脂の耐久性と、優れた生分解性とを両立することができる成形体、及び前記成形体を簡便で安価に形成することができる酵素分解性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 重合性基を有し、加水分解可能なポリマーを形成可能な変性ポリマーと、前記変性ポリマーが重合してなる加水分解可能なポリマーを分解させない酵素と、前記変性ポリマーを重合させる重合開始剤とを含有し、
前記変性ポリマーが、重合性基を有する変性ポリカプロラクトンを含むことを特徴とする酵素含有粒子形成用組成物である。
<2> 前記<1>に記載の酵素含有粒子形成用組成物を硬化させてなることを特徴とする酵素含有粒子である。

<3> 前記<2>に記載の酵素含有粒子と、前記酵素含有粒子に含まれる酵素により分解可能な樹脂とを含有することを特徴とする酵素分解性樹脂組成物である。
<4> 前記<3>に記載の酵素分解性樹脂組成物を硬化させてなることを特徴とする成形体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、酵素含有粒子を簡便で安価に形成することができる酵素含有粒子形成用組成物、水の存在下で優れた加水分解性を有する酵素含有粒子、優れた樹脂の耐久性と、優れた生分解性とを両立することができる成形体、及び前記成形体を簡便で安価に形成することができる酵素分解性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、本発明の酵素含有粒子の一例を示す概略説明図である。
図1B図1Bは、本発明の酵素含有粒子の別の一例を示す概略説明図である。
図2図2は、本発明の成形体の一例を示す概略説明図である。
図3図3は、本発明の成形体の生分解スキームの一例を示す概略説明図である。
図4図4は、製造例1-1で得られた白色の粉体である真球状の[酵素含有粒子1]の電子顕微鏡観察像を示す図である。スケールバー:5μm。
図5図5は、試験例4-2の酵素分解性試験の結果をグラフ化して示したである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(酵素含有粒子形成用組成物)
本発明の酵素含有粒子形成用組成物は、重合性基を有し、加水分解可能なポリマーを形成可能な変性ポリマーと、前記変性ポリマーが重合してなる加水分解可能なポリマーを分解させない酵素と、前記変性ポリマーを重合させる重合開始剤とを含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
前記酵素含有粒子形成用組成物は、水の存在下で優れた加水分解性を有する本発明の酵素含有粒子の形成に用いられるものである。
【0012】
なお、本明細書において、「ポリマー」又は「モノマー」とは、単独で、若しくは他のモノマー又はポリマーと組み合わせて、重合による固体材料の形成に適合されるいずれかの基本単位を意味する。「ポリマー」には、「オリゴマー」も含まれる。
【0013】
本明細書において、「生分解性」とは、自然界に広く存在する酵素による分解性を意味する。より具体的には、「生分解性」とは、37℃、常圧下で4日間、酵素と反応又は微生物に接触させた状態において、その物質の質量が反応前又は微生物との接触前の質量に対して質量変化し、酵素又は微生物を添加していないものと比較して変化率が大きいことを意味する。
【0014】
<変性ポリマー>
前記重合性基を有し、加水分解可能なポリマーを形成可能な変性ポリマーは、重合性基を有する変性ポリカプロラクトンを含み、必要に応じて、更にその他の変性ポリマーを含んでいてもよい。
【0015】
本明細書において、「加水分解可能ポリマー」とは、ポリマーと水とが反応することで、分解生成物が得られるポリマーを意味する。
【0016】
前記重合性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ビニリデン基、ビニレン基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイル基、ビニルエーテル基、ビニルベンジルエーテル基、(メタ)アクリルオキシ基、(メタ)アリルアミド基、スチリルオキシ基、スチリルアミド基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、カルボキシル基、アルコール性又はフェノール性水酸基、シラノール基、脂環式エポキシ基、エポキシ基、グリシジル基、オキセタン基のような環状エーテル基を等の開環重合性基などが挙げられる。前記変性ポリマーは、これらの基を1つのみ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。また、前記変性ポリマーは、これらの基を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。これらの中でも、前記変性ポリマーは、硬化物である酵素含有粒子の加水分解性及び生分解性が優れる点で、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。
【0017】
なお、本明細書において、用語「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルと、メタアクリロイルの両方を意味し、用語「(メタ)アクリル」は、アクリルと、メタアクリルの両方を意味し、用語「(メタ)アクリルオキシ」は、アクリルオキシと、メタアクリルオキシの両方を意味し、用語「(メタ)アリルアミド」は、アリルアミドと、メタアリルアミドの両方を意味する。
【0018】
<<重合性基を有する変性ポリカプロラクトン>>
前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、重合性基を有する変性ポリカプロラクトンジオール、重合性基を有する変性ポリカプロラクトントリオール、重合性基を有する変性ポリカプロラクトンテトラオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトンにおける重合性基は、前述のものと同様である。
【0020】
前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトンが有する重合性基の存在率(%)としては、前記重合性基を導入する前のポリカプロラクトンポリオールに対して、10%以上90%以下が好ましく、30%以上70%以下がより好ましい。前記重合性基の存在率が、10%未満であると、架橋密度が低くなり、樹脂の耐久性が不十分となることがあり、90%を超えると、架橋密度が高くなり、粘度の上昇し、酵素分解性が不十分となることがある。
【0021】
前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトンが有する重合性基の存在率(%)は、以下の方法で求めることができる。以下は、重合性基がアクロイル基である、アクロイル変性ポリカプロラクトン場合を例に説明する。
まず、測定対象のサンプルを作製するのに用いた、アクロイル基を導入する前の前記ポリカプロラクトンポリオールを、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR、装置名:Nicolet iS20、Thermo製)により、1,605cm-1~1,653cm-1のアクロイル基で(HC=CH-C(=O)-)のピーク強度を測定する。測定した結果をピーク強度αとする。
次に、測定対象のサンプル(アクロイル変性ポリカプロラクトン)を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR、装置名:Nicolet iS20、Thermo製)により、1,605cm-1~1,653cm-1のアクロイル基で(HC=CH-C(=O)-)のピーク強度を測定する。測定した結果をピーク強度Xとする。
前記アクロイル変性ポリカプロラクトンが有する前記アクロイル基の存在率(%)は、測定したこれらのピーク強度を用いて、下記式1で求めることができる。
アクロイル変性ポリカプロラクトンが有するアクロイル基の存在率(%)
={(ピーク強度X)/(ピーク強度α)}×100 ・・・式1
なお、前記重合性基の種類に応じて測定するピーク強度の範囲を変更することにより、前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトンが有する重合性基の存在率(%)を測定することができる。
【0022】
-重合性基を有する変性ポリカプロラクトンの製造方法-
前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトンを製造する方法としては、特に制限はなく、前記重合性基の種類に応じて、公知の方法の中から適宜選択することができる。
例えば、(メタ)アクリル変性ポリカプロラクトンを製造する方法としては、溶媒中で、ポリカプロラクトンポリオールと、アシル化剤とを反応させる方法などが挙げられる。
【0023】
--ポリカプロラクトンポリオール--
前記ポリカプロラクトンポリオールとしては、適宜合成したものを使用してもよく、市販品を使用してもよい。
【0024】
前記ポリカプロラクトンポリオールを合成で得る方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、溶媒中で、カプロラクトン(モノマー)と、重合開始剤とを反応させる方法などが挙げられる。
【0025】
前記ポリカプロラクトンポリオールの合成原料となるカプロラクトンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単官能カプロラクトンジオール、二官能カプロラクトンジオール、三官能カプロラクトンジオール、四官能カプロラクトンジオール、単官能カプロラクトントリオール、二官能カプロラクトントリオール、三官能カプロラクトントリオール、四官能カプロラクトントリオール、単官能カプロラクトンテトラオール、二官能カプロラクトンテトラオール、三官能カプロラクトンテトラオール、四官能カプロラクトンテトラオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、二官能カプロラクトンジオール、三官能カプロラクトンジオール、四官能カプロラクトンジオール、単官能カプロラクトントリオール、二官能カプロラクトントリオール、三官能カプロラクトントリオール、四官能カプロラクトントリオール、単官能カプロラクトンテトラオール、二官能カプロラクトンテトラオール、三官能カプロラクトンテトラオールが好ましい。単官能ポリカプロラクトンモノオールでは、ポリカプロラクトン骨格に取り込まれないため、ポリカプロラクトンを形成できない。一方、四官能カプロラクトンテトラオールでは、架橋密度が大きくなり、粘度の上昇及び酵素分解性が低下することがある。
【0026】
前記ポリカプロラクトンポリオールの合成に用いられる重合性開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、後述の<重合開始剤>の項目に記載のものと同様のものを用いることができる。
【0027】
前記ポリカプロラクトンポリオールの合成に用いられる溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、後述の-溶媒-の項目に記載のものと同様のものを用いることができる。
【0028】
前記ポリカプロラクトンポリオールの市販品としては、例えば、プラクセル(PCL) 410(ポリカプロラクトンテトラオール、重量平均分子量(Mw):1,000)、PCL 210(ポリカプロラクトンジオール、重量平均分子量(Mw):1,000)、PCL 312(ポリカプロラクトントリオール、重量平均分子量(Mw):1,250)、PCL 308(ポリカプロラクトンテトラオール、重量平均分子量(Mw):850)等のPCLシリーズ(株式会社ダイセル製)、Capa 2100(ポリカプロラクトンジオール、重量平均分子量(Mw):1,000)、Capa 3091(ポリカプロラクトントリオール、重量平均分子量(Mw):900)、Capa 4101(ポリカプロラクトンテトラオール、重量平均分子量(Mw):1,000)等のCapaシリーズ(インジェビティ社製)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記ポリカプロラクトンポリオールの重量平均分子量(Mw)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、その下限値としては、300以上が好ましく、1,000以上がより好ましい。また、前記ポリカプロラクトンポリオールの重量平均分子量(Mw)の上限値としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3,000以下が好ましい。前記ポリカプロラクトンポリオールの重量平均分子量(Mw)が、300未満であると、カプロラクトン骨格に由来する特性が得られないことがある。また、前記ポリカプロラクトンポリオールの重量平均分子量(Mw)が、3,000を超えると、架橋構造が不十分となることがある。
前記重量平均分子量(Mw)は、例えば、Shodex(登録商標) GPC-101(昭和電工株式会社製品)により測定することができる。
【0030】
--アシル化剤--
前記アシル化剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、脂肪酸無水物、酸ハロゲン化物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記脂肪酸無水物としては、例えば、無水(メタ)アクリル酸、無水α-トリフルオロメチル(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸トリフルオロ酢酸混合酸無水物、α-トリフルオロメチル(メタ)アクリル酸トリフルオロ酢酸混合酸無水物、(メタ)アクリル酸p-ニトロ安息香酸混合酸無水物、(メタ)アクリル酸エチル炭酸混合酸無水物などが挙げられる。
前記酸ハロゲン化物としては、例えば、(メタ)アクリル酸クロリド、(メタ)アクリル酸ブロミド、α-トリフルオロメチルアクリル酸クロリドなどが挙げられる。
【0031】
--溶媒--
前記溶媒としては、特に制限はなく、前記アシル化剤の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類;ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル等の二トリル類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記酵素含有粒子形成用組成物における前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
<<その他の変性ポリマー>>
前記その他の変性ポリマーは、前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトン以外の、前記重合性基を有し、加水分解可能なポリマーを形成可能な変性ポリマーである。
このようなその他の変性ポリマーとしては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、変性PLA(ポリ乳酸)、変性PGA(ポリグリコール酸)、変性PHBH(3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合ポリエステル)、変性PBS(ポリブチレンサクシネート)、変性PVA(ポリビニルアルコール)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記酵素含有粒子形成用組成物における前記その他のポリマーの含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0035】
<酵素>
前記変性ポリマーが重合してなる加水分解可能なポリマーを分解させない酵素としては、特に制限はなく、前記変性ポリマーの種類に応じて適宜選択することができ、例えば、リパーゼ、プロテナーゼ、クチナーゼなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトンの硬化物を分解させない酵素であることが好ましく、プロテナーゼが特に好ましい。
【0036】
本明細書において、「ポリマーを分解させない酵素」とは、該酵素による前記加水分解可能なポリマーの分解率が0%、即ち、前記変性ポリマーが重合してなる加水分解可能なポリマーを全く分解しない酵素を意味する。
【0037】
前記ポリマーの分解率は、以下の方法で求めることができる。
まず、測定対象のポリマーの質量(以下、「初期質量」と称することがある)を測定する。
次に、測定対象のポリマーをガラス容器に入れ、該ポリマー1mg当たり、酵素が0.1U~100Uとなるように酵素液を添加し、測定対象のポリマーを酵素液に完全に浸漬して密封し、37℃にて4日間放置する。
次に、分解しなかったポリマーの断片を濾過により取り出し、40℃にて12時間減圧乾燥させて、質量(以下、「酵素処理後質量」と称することがある)を測定する。
前記初期質量及び前記酵素処理後質量から、下記式2より分解率を算出することができる。
分解率(%)=(初期質量-酵素処理後質量)/初期質量×100 ・・・式2
【0038】
前記酵素含有粒子形成用組成物における前記酵素の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
前記酵素含有粒子形成用組成物において、前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトン100質量部に対する前記酵素の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01質量部以上5質量部以下が好ましく、0.1質量部以上2質量部以下がより好ましい。前記酵素含有粒子形成用組成物において、前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトン100質量部に対する前記酵素の含有量が、0.01質量部未満であると、生分解性が不十分となることがあり、5質量部を超えると、前記酵素含有粒子形成用組成物の硬化物である酵素含有粒子表面に酵素が露出及び拡散してしまい、樹脂の耐久性が不十分となることがある。
【0040】
<重合開始剤>
前記変性ポリマーを重合させる重合開始剤としては、特に制限はなく、前記変性ポリマーの種類に応じて適宜選択することができ、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
-熱重合開始剤-
前記熱重合開始剤としては、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤、過硫酸塩開始剤、レドックス(酸化還元)開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
アゾ系開始剤としては、市販品を用いることができ、該市販品としては、例えば、VA-044、VA-46B、V-50、VA-057、VA-061、VA-067、VA-086、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(VAZO 33)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩(VAZO 50)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(VAZO 52)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(VAZO 64)、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル(VAZO 67)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(VAZO 88)(以上、DuPont Chemical社製、なお、「VAZO」は商標である)、2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(メチルイソブチレ-ト)(V-601)(以上、富士フイルム和光純薬工業株式会社製)などが挙げられる。
【0043】
過酸化物開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化デカノイル、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(Perkadox 16S)(Akzo Nobel社製、なお「Perkadox」は商標である)、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシピバレート(Lupersol 11)(Elf Atochem社製、なお、「Lupersol」は商標である)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(Trigonox 21-C50)(Akzo Nobel社製、なお、「Trigonox」は商標である)、過酸化ジクミルなどが挙げられる。
【0044】
過硫酸塩開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
レドックス(酸化還元)開始剤としては、例えば、過硫酸塩開始剤と、メタ亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムのような還元剤との組み合わせ、有機過酸化物と第3級アミンに基づく系、例えば、過酸化ベンゾイルとジメチルアニリンに基づく系、有機ヒドロパーオキシドと遷移金属に基づく系、クメンヒドロパーオキシドとコバルトナフテートに基づく系などが挙げられる。
【0045】
-光重合開始剤-
前記光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ジクロロベンゾフェノン、p,p-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
これらの中でも、前記重合性開始剤としては、ラジカル重合開始剤が、種々の材料に反応でき、自由に重合することができる観点から好ましく、パーオキシドを主成分とする重合性開始剤がより好ましく、低温で活性を有する観点から、パーオキシジカーボネート系を主成分とする重合性開始剤が特に好ましい。
【0047】
前記酵素含有粒子形成用組成物における前記重合開始剤の含有量としては、前記変性ポリマーを重合させることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0048】
<その他の成分>
前記酵素含有粒子形成用組成物における前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的適宜選択することができ、例えば、前記変性ポリマー以外のポリマー、モノマー、オリゴマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記酵素含有粒子形成用組成物における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0050】
前記酵素含有粒子形成用組成物は、これを硬化させることで酵素含有粒子を簡便で安価に形成することができる。したがって、後述する本発明の酵素含有粒子の製造に好適に用いられる。
【0051】
(酵素含有粒子)
本発明の酵素含有粒子は、本発明の酵素含有粒子形成用組成物を硬化させてなるものである。したがって、前記酵素含有粒子は、前記酵素含有粒子形成用組成物中の変性ポリマーが重合されてなる加水分解可能なポリマーと、前記加水分解可能なポリマーを分解させない酵素とを含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0052】
前記酵素含有粒子は、前記酵素が、前記加水分解可能なポリマーに固定化されてなる。これにより、前記酵素の酵素活性は、熱やUV照射等の外部刺激により低下せず、優れた耐久性を有するものである。一方、前記酵素を固定化する前記ポリマーは、加水分解可能であるため、水の存在下で該ポリマーの分解が開始され、これにより該ポリマーに固定化された酵素が露出及び拡散する。したがって、前記酵素により分解可能な樹脂を硬化させてなる成形体に、前記酵素含有粒子を含有させることにより、該成形体は使用中には分解が起こらず、環境中で水に晒された際に、初めて生分解が開始されることとなる。したがって、前記酵素含有粒子は、前記成形体に分解開始スイッチ機能を付与することができるものである。
【0053】
前記酵素含有粒子の構造及び形状としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記加水分解可能なポリマーを分解させない酵素が、前記変性ポリマーが重合されてなる加水分解可能なポリマーで内包化(「カプセル化」とも称することがある)されてなるものであることが好ましい。
【0054】
<その他の成分>
前記酵素含有粒子における前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤(乳化剤)、分散剤、消泡剤、密着増強剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記酵素含有粒子は、界面活性剤を含有することが、前記酵素含有粒子の耐久性を高め、前記成形体に優れた分解開始スイッチ機能を付与することができる点で好ましい。
【0055】
-界面活性剤-
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、前記変性ポリマーの種類に応じて適宜選択することができ、例えば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、イオン性不純物の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
前記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、エチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)、水溶性セルロース、酸化エチレン系(ポリオキシエチレン(POE)アルキルエーテル、ポリオキシエチレン(POE)アルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなど)、多価アルコール脂肪酸エステル系(グリセリンの脂肪酸エステル型、アンヒドロソルビトール脂肪酸エステル型など)、ポリ(エチレンイミン)系などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール(PVA)、水溶性セルロースが好ましい。
【0056】
前記酵素含有粒子における前記界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、0.1質量%~10質量%が好ましく、1質量%~3質量%がより好ましい。前記界面活性剤の含有量が、0.1質量%未満であると、乳化が十分に進行せず、前記酵素含有粒子を形成できなくなることがあり、前記界面活性剤の含有量が、10質量%を超えると、界面活性剤の性質が樹脂に悪影響を及ぼす(例えば、前記酵素により分解可能な樹脂を硬化させてなる成形体の生分解が遅くなる、前記加水分解可能なポリマーの所望の性質が得られなくなるなど)ことがある。
【0057】
前記酵素含有粒子形成用組成物において、前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトン100質量部に対する前記界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、1質量部以上3質量部以下がより好ましい。前記酵素含有粒子形成用組成物において、前記重合性基を有する変性ポリカプロラクトン100質量部に対する前記界面活性剤の含有量が、0.1質量部未満であると、前記酵素含有粒子の耐久性が不十分となることや、前記酵素により分解可能な樹脂を硬化させてなる成形体に前記酵素含有粒子を含有させた場合、該成形体を分解してしまい、該成形体の耐久性が不十分となることがあり、10質量部を超えると、界面活性剤の性質が樹脂に悪影響を及ぼすことがある。
【0058】
-分散剤-
前記分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン等のアミノ基含有化合物を用いることができる。この他にも、前記分散剤としては、スルホ基(スルホン酸塩を含む)、スルホニル基、スルホンアミド基、カルボン酸基(カルボン酸塩を含む)、アミド基、リン酸基(リン酸塩、リン酸エステルを含む)、フォスフィノ基、シラノール基、エポキシ基、イソシアネート基、シアノ基、ビニル基、チオール基、カルビノール基等の官能基を有する化合物などを用いることもできる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
前記酵素含有粒子における前記分散剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0060】
-消泡剤-
前記消泡剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、高級アルコール、高級アルコール誘導体、脂肪酸誘導体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
前記酵素含有粒子における前記消泡剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0062】
-密着増強剤-
前記密着増強剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カルボキシル基、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、イソシアネート基、エポキシ基、メルカプト基等の反応性官能基を有するシランカップリング剤などが挙げられる。
前記密着増強剤の具体例としては、トリメトキシシリル安息香酸、3-((メタ)アクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、(3-イソシアナトプロピル)トリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
前記酵素含有粒子における前記密着増強剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0064】
前記酵素含有粒子の製造方法としては、前記酵素を失活させずに前記酵素含有粒子形成用組成物を硬化させることができる方法であれば、特に制限はなく、前記重合開始剤の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、前記酵素含有粒子形成用組成物を熱で硬化させる方法、前記酵素含有粒子形成用組成物を光で硬化させる方法などが挙げられる。
【0065】
前記熱で硬化させる場合の温度としては、前記酵素を失活させずに前記酵素含有粒子形成用組成物を硬化させることができる温度であれば、特に制限はなく、前記重合開始剤の種類などに応じて適宜選択することができる。
【0066】
前記光で硬化させる場合の光条件としては、前記酵素を失活させずに前記酵素含有粒子形成用組成物を硬化させることができる光条件であれば、特に制限はなく、前記重合開始剤の種類などに応じて適宜選択することができる。
【0067】
前記加水分解可能なポリマーを分解させない酵素を、前記変性ポリマーが重合されてなる加水分解可能なポリマーで内包(カプセル)化する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から、前記変性ポリマーが有する重合性基の種類などに応じて適宜選択することができるが、製造の簡便さの点から、界面重合法が好ましい。
【0068】
前記界面活性剤は、前記酵素含有粒子形成用組成物の硬化反応中に添加してもよく、前記酵素含有粒子形成用組成物の硬化反応後に添加してもよい。これらの中でも、前記酵素含有粒子形成用組成物の硬化反応中に添加することが、前記酵素含有粒子の表面に該界面活性剤を配する(コーティングする)ことができ、簡便に効率よく製造できる点で好ましい。
【0069】
以下に、図1Aを用いて前記酵素含有粒子の一例について説明する。
酵素含有粒子1は、図1Aに示すような構造を有しており、変性ポリマーが重合されてなる加水分解可能なポリマー2の内部に、酵素3が内包されてなる。
【0070】
次に、図1Bを用いて前記酵素含有粒子の別の一例について説明する。
酵素含有粒子1は、図1Bに示すような構造を有しており、変性ポリマーが重合されてなる加水分解可能なポリマー2をコア粒子とし、図1Aの場合と同様に、コア粒子は、変性ポリマーが重合されてなる加水分解可能なポリマー2を分解させない酵素3を内包してなる。コア粒子の最表面には、界面活性剤によるシェル層4を有するようなカプセル構造を有する。
【0071】
前記コア粒子の前記界面活性剤による被覆率としては、特に制限はなく、前記変性ポリマーの種類に応じて適宜選択することができるが、その下限値としては、60%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。前記被覆率が、60%未満であると、前記酵素含有粒子の耐久性が不十分となることや、前記酵素により分解可能な樹脂を硬化させてなる成形体に前記酵素含有粒子を含有させた場合、該成形体を分解してしまい、該成形体の耐久性が不十分となることがある。前記被覆率の上限値としては、生分解及び耐久性の点では、特に制限はないが、コスト的な観点から、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましい。
前記被覆率は、前記酵素含有粒子の表面を、走査電子顕微鏡(SEM)(例えば、JSM-6510A、日本電子株式会社製)で観察して求めることができる。
【0072】
前記酵素含有粒子は、熱やUV照射等の外部刺激により酵素活性が低下せず、優れた耐久性を有する一方で、水の存在下で優れた加水分解性を有するため、後述する本発明の成形体に好適に用いられ、該成形体に、環境中で水に晒された際に、初めて生分解が開始される分解開始スイッチ機能を好適に付与することができる。
【0073】
(酵素分解性樹脂組成物)
本発明の酵素分解性樹脂組成物は、本発明の酵素含有粒子と、前記酵素含有粒子に含まれる酵素により分解可能な樹脂とを含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0074】
<酵素含有粒子>
前記酵素含有粒子は、本発明の酵素含有粒子であり、前記(酵素含有粒子)の項目に記載の通りである。
【0075】
前記酵素分解性樹脂組成物における前記酵素含有粒子の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記酵素分解性樹脂組成物全量に対して、1質量%~30質量%が好ましく、5質量%~15質量%がより好ましい。前記酵素含有粒子の含有量が、1質量%未満であると、前記酵素分解性樹脂組成物の硬化物である成形体の生分解性が不十分となることがあり、30質量%を超えると、前記酵素分解性樹脂組成物の硬化物である成形体の表面に酵素が露出及び拡散してしまい、樹脂の耐久性が不十分となることがある。
【0076】
<樹脂>
前記酵素含有粒子に含まれる酵素により分解可能な樹脂としては、特に制限はなく、前記酵素の種類に応じて適宜選択することができるが、重合性基を有するポリマーが好ましく、例えば、重合性基を有するポリ乳酸、ポリグルコール酸、ポリ乳酸とポリカプロラクトンとの共重合体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、重合性基を有するポリ乳酸が好ましい。
【0077】
前記重合性基を有するポリ乳酸における重合性基としては、前記(酵素含有粒子形成用組成物)の<変性ポリマー>の項目に記載のものと同様のものが挙げられる。
【0078】
<<重合性基を有するポリ乳酸>>
前記重合性基を有するポリ乳酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、重合性基を有する変性ポリ乳酸ジオール、重合性基を有する変性ポリ乳酸トリオール、重合性基を有する変性ポリ乳酸テトラオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
前記重合性基を有する変性ポリ乳酸が有する重合性基の存在率(%)としては、前記重合性基を導入する前のポリ乳酸ポリオールに対して、10%以上90%以下が好ましく、30%以上70%以下がより好ましい。前記重合性基の存在率が、10%未満であると、架橋密度が低くなり、樹脂の耐久性が不十分となることがあり、90%を超えると、架橋密度が高くなり、粘度の上昇し、生分解が不十分となることがある。
前記変性ポリ乳酸が有する重合性基の存在率(%)は、前記変性ポリカプロラクトンが有する重合性基の存在率(%)と同様の方法で求めることができる。
【0080】
-重合性基を有する変性ポリ乳酸の製造方法-
前記重合性基を有する変性ポリ乳酸を製造する方法としては、特に制限はなく、前記重合性基の種類に応じて、公知の方法の中から適宜選択することができる。
例えば、(メタ)アクロイル変性ポリ乳酸を製造する方法としては、溶媒中で、ポリ乳酸ポリオールと、アシル化剤とを反応させる方法などが挙げられる。
【0081】
--ポリ乳酸ポリオール--
前記ポリ乳酸ポリオールとしては、適宜合成したものを使用してもよく、市販品を使用してもよい。
【0082】
前記ポリ乳酸ポリオールを合成で得る方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、溶媒中で、ポリ乳酸(モノマー)と、重合開始剤とを反応させる方法などが挙げられる。
【0083】
前記ポリ乳酸ポリオールの合成原料となるポリ乳酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単官能ポリ乳酸ジオール、二官能ポリ乳酸ジオール、三官能ポリ乳酸ジオール、四官能ポリ乳酸ジオール、単官能ポリ乳酸トリオール、二官能ポリ乳酸トリオール、三官能ポリ乳酸トリオール、四官能ポリ乳酸トリオール、単官能ポリ乳酸テトラオール、二官能ポリ乳酸テトラオール、三官能ポリ乳酸テトラオール、四官能ポリ乳酸テトラオールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、二官能ポリ乳酸ジオール、三官能ポリ乳酸ジオール、四官能ポリ乳酸ジオール、単官能ポリ乳酸トリオール、二官能ポリ乳酸トリオール、三官能ポリ乳酸トリオール、四官能ポリ乳酸トリオール、単官能ポリ乳酸テトラオール、二官能ポリ乳酸テトラオール、三官能ポリ乳酸テトラオールが好ましい。単官能ポリ乳酸モノオールでは、ポリ乳酸骨格に取り込まれない為、ポリ乳酸を形成できない。一方、四官能ポリ乳酸テトラオールでは、架橋密度が大きくなり、粘度の上昇及び酵素分解性が低下することがある。
【0084】
本明細書において、前記ポリ乳酸の構成単位としては、L-乳酸のみからなるポリ-L-乳酸であってもよく、D-乳酸のみからなるポリ-D-乳酸であってもよく、L-乳酸及びD-乳酸の両方を種々のモル比で含有するポリ-L,D-乳酸であってもよい。
【0085】
前記ポリ乳酸ポリオールの合成に用いられる重合性開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記(酵素含有粒子形成用組成物)の<重合開始剤>の項目に記載のものと同様のものを用いることができる。
【0086】
前記ポリ乳酸ポリオールの合成に用いられる溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記(酵素含有粒子形成用組成物)の-溶媒-の項目に記載のものと同様のものを用いることができる。
【0087】
前記ポリ乳酸ポリオールの市販品としては、例えば、PLA 2205(ポリ乳酸ジオール、重量平均分子量(Mw):2,000、eSUN社製)、PLA 220M(ポリ乳酸ジオール、重量平均分子量(Mw):2,000、eSUN社製)、PLA 220B(ポリ乳酸ジオール、重量平均分子量(Mw):2,000、eSUN社製)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
前記ポリ乳酸ポリオールの重量平均分子量(Mw)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、その下限値としては、300以上が好ましく、1,000以上がより好ましい。また、前記ポリ乳酸ポリオールの重量平均分子量(Mw)の上限値としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3,000以下が好ましく、2,000以下がより好ましい。前記ポリ乳酸ポリオールの重量平均分子量(Mw)が、300未満であると、ポリ乳酸骨格に由来する特性が得られないことがある。また、前記ポリ乳酸ポリオールの重量平均分子量(Mw)が、3,000を超えると、架橋構造が不十分となることがある。
【0089】
--アシル化剤--
前記アシル化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記(酵素含有粒子形成用組成物)の--アシル化剤--の項目に記載のものと同様のものを用いることができる。
【0090】
--溶媒--
前記溶媒としては、特に制限はなく、前記アシル化剤の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、前記(酵素含有粒子形成用組成物)の--溶媒--の項目に記載のものと同様のものを用いることができる。
【0091】
前記酵素分解性樹脂組成物における前記樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記酵素分解性樹脂組成物全量に対して、50質量%~98質量%が好ましく、80質量%~95質量%がより好ましい。前記樹脂の含有量が、50質量%未満であると、本来の樹脂としての性質を失ってしまうことがあり、98質量%を超えると、酵素分解性樹脂組成物を分解するのに時間を要することがある。
【0092】
前記酵素分解性樹脂組成物において、前記樹脂100質量部に対する前記酵素含有粒子の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2質量部以上50質量部以下が好ましく、5質量部以上20質量部以下がより好ましい。前記酵素分解性樹脂組成物において、前記樹脂100質量部に対する前記酵素含有粒子の含有量が、2質量部未満であると、前記酵素分解性樹脂組成物の硬化物である成形体の生分解性が不十分となることがあり、50質量部を超えると、前記酵素分解性樹脂組成物の硬化物である成形体の表面に酵素が露出及び拡散してしまい、樹脂の耐久性が不十分となることがある。
【0093】
<その他の成分>
前記酵素分解性樹脂組成物における前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的適宜選択することができ、例えば、多孔質材料、発泡剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
<<多孔質材料>>
前記多孔質材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、充填剤(フィラー)として使用することができる多孔質の材料などが挙げられる。前記多孔質材料を含有することより、前記酵素分解性樹脂組成物の硬化物である成形体の硬度を向上させつつ、分解に際しては多孔質の領域から酵素が作用しやすくなり生分解性を向上させることができる。
前記多孔質材料としては、例えば、珪藻土、ゼオライト、活性炭などが挙げられる。
【0095】
<<発泡剤>>
前記発泡剤は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記酵素分解性樹脂組成物に含有させ、硬化の際に発泡させることにより、硬化物を多孔質化させることができる材料などが挙げられる。前記発泡剤により前記酵素分解性樹脂組成物の硬化物である成形体を多孔質化させることによって、該硬化物の生分解性を向上させることができる。
前記発泡剤としては、例えば、アゾジカーボンアミド、N,N’-ジニトロペンタメチレンテトラミン、4,4’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、炭酸水素塩、炭酸塩などが挙げられる。
【0096】
前記酵素分解性樹脂組成物における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0097】
前記酵素分解性樹脂組成物は、これを硬化させることで成形体を簡便で安価に形成することができる。したがって、後述する本発明の成形体の製造に好適に用いられる。
【0098】
(成形体)
本発明の成形体は、本発明の酵素分解性樹脂組成物を硬化させてなるものである。したがって、前記成形体は、本発明の酵素含有粒子と、前記酵素含有粒子に含まれる酵素により分解可能な樹脂を重合されてなるポリマーとを含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0099】
前記成形体は、使用中には分解が起こらず、環境中で水に晒された際に、初めて生分解が開始されることとなる。即ち、前記成形体中の前記酵素含有粒子により、分解開始スイッチ機能を有するものである。
【0100】
<その他の成分>
前記成形体における前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0101】
前記成形体の製造方法としては、前記酵素を失活させずに前記酵素分解性樹脂組成物を硬化させることができる方法であれば、特に制限はなく、前記重合開始剤の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、前記酵素分解性樹脂組成物を熱で硬化させる方法、前記酵素分解性樹脂組成物を光で硬化させる方法などが挙げられる。
【0102】
前記重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、前記(酵素含有粒子形成用組成物)の<重合開始剤>の項目に記載のものなどが挙げられる。これらの中でも、光重合開始剤が好ましい。
【0103】
前記熱で硬化させる場合の温度としては、前記酵素を失活させずに前記酵素含有粒子形成用組成物を硬化させることができる温度であれば、特に制限はなく、前記重合開始剤の種類などに応じて適宜選択することができる。
【0104】
前記光で硬化させる場合の光条件としては、前記酵素を失活させずに前記酵素分解性樹脂組成物を硬化させることができる光条件であれば、特に制限はなく、前記重合開始剤の種類などに応じて適宜選択することができる。
【0105】
前記成形体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、シート状、チューブ状などが挙げられる。これらの中でも、フィルム状が好ましい。
【0106】
以下に、図2を用いて前記成形体の一例について説明する。
前記成形体5は、図2に示すような構造を有しており、酵素含有粒子に含まれる酵素により分解可能な樹脂を重合したポリマー6に、酵素含有粒子1が分散された構造を有する。
ポリマー6における酵素含有粒子1の分散形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、均一に分散されていることが、加水分解性及び生分解性が優れる点で好ましい。
【0107】
次に、図3を用いて前記成形体の生分解スキームの一例について説明する。
前記成形体中の酵素含有粒子に含まれる酵素により分解可能な樹脂を重合したポリマーが環境中に流出した際、何らかの刺激で形成された傷(孔、亀裂等)や、成形体を形成する際に自然に形成された隙間から、水が浸入する。この水の存在により、酵素含有粒子1が最表面にシェル層4(界面活性剤層)を有する場合は、まず該シェル層4が溶解し、続いて酵素含有粒子1のコア粒子を構成する加水分解可能なポリマー2が崩壊する。これにより、酵素含有粒子1に内包された酵素3が徐々に露出及び拡散し、成形体における酵素含有粒子1に含まれる酵素3により分解可能な樹脂を重合したポリマーと接触し、成形体が分解される。なお、図3において、酵素3により分解可能な樹脂を重合したポリマーの詳細な図は省略するが、酵素1の周囲には酵素3により分解可能な樹脂を重合したポリマーが存在する。
【0108】
前記成形体は、使用中には分解が起こらず、優れた樹脂の耐久性を有するものである。また、水の存在を分解開始スイッチとして、環境中で水に晒された際には優れた生分解を有するものである。したがって、自動車、包装材、建材、IT、農業、メディカル、DIY関連等の各種産業分野において好適に利用でき、更に環境負荷低減に貢献することができる。
【実施例0109】
以下に合成例、製造例、実施例、比較例、及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの合成例、製造例、実施例、及び試験例に何ら限定されるものではない。
【0110】
(合成例A-1:アクリロイル変性ポリカプロラクトン1の合成)
熱電対、撹拌装置、及び冷却装置を備えたガラス製の三口フラスコに、ポリカプロラクトンテトラオール(商品名:PCL 410、重量平均分子量(Mw):1,000、株式会社ダイセル製)50質量部と、テトラヒドロフラン50質量部とを入れ、溶解させた混合液を得た。別途、アクリル酸クロリドを16.29質量部測り取り、上述の混合液に等圧滴下ロートを用いて徐々に滴下した。アクリル酸クロリドがなくなった時点で、等圧滴下ロートを外して、完全に反応が終了するまで、120分間還流(Reflux)させた。上述の合成体を常温に冷却後、反応液の濾液をロータリーエバポレーターにより蒸発させ、残留物をジクロロメタン100質量部に溶解し、分液ロートに移して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にて中和した後、飽和食塩水を用いて3回分液した。ジクロロメタンの層をナスフラスコに移し、エバポレーターで濃縮し、減圧乾燥して目的物である[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]を収率91%で得た。
【0111】
(合成例A-2:アクリロイル変性ポリカプロラクトン2の合成)
合成例A-1において、ポリカプロラクトンテトラオール(商品名:PCL 410、重量平均分子量(Mw):1,000、株式会社ダイセル製)を、ポリカプロラクトンジオール(商品名:PCL 210、重量平均分子量(Mw):1,000、株式会社ダイセル製)に変更し、アクリル酸クロリドの添加量を16.29質量部から8.15質量部に変更したこと以外は、合成例A-1と同様の方法で目的物である[アクリロイル変性ポリカプロラクトン2]を収率88%で得た。
【0112】
(合成例A-3:アクリロイル変性ポリカプロラクトン3の合成)
合成例A-1において、ポリカプロラクトンテトラオール(商品名:PCL 410、重量平均分子量(Mw):1,000、株式会社ダイセル製)を、ポリカプロラクトントリオール(商品名:PCL 312、重量平均分子量(Mw):1,250、株式会社ダイセル製)に変更し、アクリル酸クロリドの添加量を16.29質量部から9.78質量部に変更したこと以外は、合成例A-1と同様の方法で目的物である[アクリロイル変性ポリカプロラクトン3]を収率92%で得た。
【0113】
(合成例B-1:アクリロイル変性ポリ乳酸の合成)
熱電対、撹拌装置、及び冷却装置を備えたガラス製の三口フラスコに、ポリ乳酸ジオール(商品名:PLA 2205、重量平均分子量(Mw):2,000、eSUN社製)20質量部と、テトラヒドロフラン100質量部とを入れ、溶解させた。これに、トリエチルアミン(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)2.5質量部を加えて完全に溶解させた混合液を得た。また、別途、サンプル瓶にアクリル酸クロリドを10.2質量部投入し、20質量部のテトラヒドロフランに溶解させ、上述の混合液に等圧滴下ロートを用いて添加した。更に、温度計を見ながら、アクリル酸クロリドを慎重に三口フラスコに等圧滴下ロートを使用して徐々に滴下した。アクリル酸クロリドがなくなった時点で、等圧滴下ロートを外して、完全に反応が終了するまで、120分間還流(Reflux)させた。上述の合成体を常温に冷却後、吸引濾過でトリエチルアミンの塩酸塩を取り除いた。反応液の濾液をロータリーエバポレーターにより蒸発させ、残留物をジクロロメタン100質量部に溶解し、分液ロートに移して、飽和食塩水を用いて3回分液した。ジクロロメタンの層をナスフラスコに移し、エバポレーターで濃縮し、減圧乾燥して目的物である[アクリロイル変性ポリ乳酸]を収率73%で得た。
【0114】
合成例A-1~A-3及びB-1について、下記表1にまとめて示す。
【0115】
【表1】
【0116】
(製造例1-1:酵素含有粒子1の製造)
攪拌用カップに合成例A-1で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]を25質量部秤量し、熱重合開始剤(商品名:パーロイル(登録商標)TCP、日本油脂株式会社製)を0.25質量部及びプロテナーゼK(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)0.025質量部を添加し、2,000rpmにて10分間の撹拌を2回繰り返し、完全に溶解させた配合物1(22.33g)を得た。また、ガラス容器にイオン交換水を198質量部秤量し、PVA(ポリビニルアルコール)を2質量部添加し、2分間攪拌して完全に溶解させた。この溶解液200gを、ホモジナイザー(T25 digital ULTRA-TURRAX(登録商標)、IKA(登録商標) Japan K.K.製)を用いて設定2(9,500rpm)にて攪拌しながら、22.33gの上述の配合物1を少しずつ添加し、その後、設定2として、更に10分間間攪拌した。次いで、セパラブル三口フラスコを加温のできるアルミフードにセットし、窒素バブリングの下、スターラー付ホットプレートを用いて85℃に昇温し、その後3時間保持することで[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]を重合させた。この重合反応液を減圧濾過にて濾別後、アセトン水にて洗浄を3回繰り返し、再度減圧濾過を行い、濾化物を12時間減圧乾燥して、白色の粉体として、[酵素含有粒子1]を収率83%で得た。
【0117】
製造例1-1で得られた白色の粉体を走査電子顕微鏡(SEM)(JSM-6510A、日本電子社製)で観察した結果を図4に示す。この結果より、真球状の[酵素含有粒子1]が確認された。
【0118】
(製造例1-2:酵素含有粒子2の製造)
製造例1-1において、合成例A-1で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]を、合成例A-2で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン2]に変更したこと以外は、製造例1-1と同様の方法で、白色の粉体として[酵素含有粒子2]を収率89%で得た。
【0119】
(製造例1-3:酵素含有粒子3の製造)
製造例1-1において、合成例A-1で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]を、合成例A-3で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン3]に変更したこと以外は、製造例1-1と同様の方法で、白色の粉体として[酵素含有粒子3]を収率85%で得た。
【0120】
(製造例1-4:酵素含有粒子4の製造)
<酵素の多孔性ゲルへの固定化>
多孔性ゲル(商品名:Bio-Gel P-30、BIO-RAD社製)0.1gに、蒸留水1mLを添加し、3,500rpmにて4分間遠心分離した。これを3回繰り返し、多孔性ゲル中のトリス塩酸バッファーを洗浄した。洗浄後の多孔性ゲルをカラムに添加し、ここに、多孔性ゲル1g当たり、プロテナーゼK(富士フイルム和光純薬株式会社製)が3,000Uとなるように酵素液を添加し、3,500rpm、室温(24±1℃)にて、4分間遠心分離した。得られた濾液を再度カラムに注入し、同じ操作を5回繰り返した。次いで、カラムを室温にて48時間、凍結乾燥し、[固定化酵素]を得た。
【0121】
<酵素含有粒子4の製造>
製造例1-1において、プロテナーゼK(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)を、前述の[固定化酵素]に変更したこと以外は、製造例1-1と同様の方法で、白色の粉体として[酵素含有粒子4]を収率58%で得た。
【0122】
(比較製造例1-1:酵素含有粒子5の製造)
製造例1-1において、合成例A-1で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]を、テトラ(ポリ)エチレングリコールジアクリレート(TEGDA)(商品名:M-240 東亞合成株式会社製)に変更したこと以外は、製造例1-1と同様の方法で、白色の粉体として[酵素含有粒子5]を収率95%で得た。
【0123】
(比較製造例1-2:アクリロイル変性ポリカプロラクトン硬化物の製造)
攪拌用カップに合成例A-1で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]を25質量部秤量し、光重合開始剤(商品名:Omnirad 819、IGM Resins B.V.製)を1質量部添加し、2,000rpmにて10分間の撹拌を2回繰り返し、完全に溶解させた配合物1(22.67g)を得た。また、ガラス容器にイオン交換水を200質量部秤量し、PVA(ポリビニルアルコール)を1質量部入れて2分間攪拌し、完全溶解させた。この溶解液204gを、ホモジナイザー(T25 digital ULTRA-TURRAX(登録商標)、IKA(登録商標) Japan K.K.製)を用いて設定2(9,500rpm)にて攪拌しながら、22.67gの上述の配合物1を少しずつ添加し、その後、設定2として、更に10分間間攪拌した。次いで、セパラブル三口フラスコの中心に回転照射型高圧水銀ランプが設置されたジャケットに、窒素バブリングの下、マグネチックスターラーを用いて攪拌しながら3時間照射することでアクリロイル変性体を重合させた。この重合反応液を減圧濾過にて濾別後、イオン交換水にて、アセトン水にて洗浄を3回繰り返し、再度減圧濾過を行い、濾化物を12時間減圧乾燥して、白色の粉体として、[アクリロイル変性ポリカプロラクトン硬化物]を収率83%で得た。
【0124】
(比較製造例1-3:ポリカプロラクトン硬化物の製造)
比較製造例1-2において、合成例A-1で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]を、ポリカプロラクトンテトラオール(商品名:PCL 410、重量平均分子量(Mw):1,000、株式会社ダイセル製)に変更したこと以外は、比較製造例1-2と同様の方法で製造したが、白色の粉体は得られなかった。これは、重合が起こらないためである。
【0125】
製造例1-1~1-4及び比較製造例1-1~1-3について、下記表2にまとめて示す。
【0126】
【表2】
【0127】
(試験例1:紫外線による酵素活性の変化)
酵素の分解活性に対するUV照射の影響について、以下の方法で確認した。
【0128】
<酵素のUV照射処理>
プロテナーゼK(富士フイルム和光純薬株式会社製)に、UVコンベア装置(アイグランデージ、アイグラフィック株式会社製)を用いて、0回~6回のUV照射器相グランデージ照射処理(1,000mJ/cm/回)を行い、下記表3に示す[酵素-UV]~[酵素-UV]を得た。
【0129】
<酵素分解性試験>
予め、比較製造例1-3で得られた[ポリカプロラクトン硬化物]の質量(初期質量)を測定した。次に、ガラス容器に入れた50mMリン酸緩衝液(pH7.0)20gに、[ポリカプロラクトン硬化物]0.1gと、[ポリカプロラクトン硬化物]1mg当たり、[酵素-UV]~[酵素-UV]がそれぞれ5Uとなるように酵素液を添加し、[ポリカプロラクトン硬化物]を酵素液に完全に浸漬して密封し、37℃にて4日間放置した。次いで、分解しなかった[ポリカプロラクトン硬化物]を蒸留水で洗浄し、40℃にて12時間減圧乾燥させて、質量(酵素処理後質量)を測定した。下記式2より分解率を算出し、下記評価基準に基づき評価した。結果を下記表3に示す。
分解率(%)=(初期質量-酵素処理後質量)/初期質量×100 ・・・式2
[酵素分解性の評価基準]
◎:分解率が、50%以上
〇:分解率が、25%~50%
△:分解率が、0%超え、25%未満
×:分解率が、0%
【0130】
【表3】
【0131】
表3の結果より、酵素へのUV照射は、[ポリカプロラクトン硬化物]の生分解性に影響があること、UV照射の処理回数が増えると、酵素活性が更に落ちることが分かった。
【0132】
(試験例2:紫外線による高分子で固定化された酵素の酵素活性の変化)
高分子で固定化された酵素の分解活性に対するUV照射の影響について、以下の方法で確認した。
【0133】
<固定化酵素のUV照射処理>
製造例1-4で得られた[酵素含有粒子4]に、UVコンベア装置(アイグランデージ、アイグラフィック株式会社製)を用いて、0回~6回のUV照射器相グランデージ照射処理(1,000mJ/cm/回)を行い、下記表4に示す[固定化酵素-UV]~[固定化酵素-UV]を得た。
【0134】
<酵素分解性試験>
試験例1の<酵素分解性試験>において、[酵素-UV]~[酵素-UV]を、[固定化酵素-UV]~[固定化酵素-UV]に変更したこと以外は、試験例1の<酵素分解性試験>と同様の方法で分解率を算出し、試験例1の<酵素分解性試験>と同様の評価基準に基づき評価した。結果を下記表4に示す。
【0135】
【表4】
【0136】
表4の結果より、酵素が高分子で固定化された後、UV照射器相グランデージ照射処理を行っても、生分解性に大きな影響を受けないことが分かった。
【0137】
(試験例3:アクロイル変性ポリカプロラクトンの硬化物の生分解性の評価)
アクロイル変性ポリカプロラクトンの硬化物に、酵素を外添した場合、固定化酵素を外添した場合、酵素を内包させた場合、及び固定化酵素を内包させた場合のそれぞれの生分解性について、以下の方法で確認した。
【0138】
<酵素分解性試験>
予め、比較製造例1-2で得られた[アクロイル変性ポリカプロラクトンの硬化物]、製造例1-4で得られた[酵素含有粒子4]、又は製造例1-1で得られた[酵素含有粒子1]の質量(初期質量)を測定した。次に、以下の方法で、「酵素外添」、「固定化酵素外添」、「酵素内包」、及び「固定化酵素内包」のそれぞれにおける生分解性を以下の方法で確認した。
【0139】
-酵素外添-
ガラス容器に入れた50mMリン酸緩衝液(pH7.0)20gに、比較製造例1-2で得られた[アクロイル変性ポリカプロラクトンの硬化物]0.1gと、[アクロイル変性ポリカプロラクトンの硬化物]1mg当たり、プロテナーゼK(富士フイルム和光純薬株式会社製)がそれぞれ10Uとなるように酵素液を添加し、[アクロイル変性ポリカプロラクトンの硬化物]を酵素液に完全に浸漬して密封し、37℃にて4日間放置した。次いで、分解しなかった[アクロイル変性ポリカプロラクトンの硬化物]の断片を、濾紙(定性濾紙No.2、アドバンテック東洋株式会社製)を用いた濾過により取り出し、40℃にて12時間減圧乾燥させて、質量(酵素処理後質量)を測定した。
【0140】
-固定化酵素外添-
前記-酵素外添-に記載の方法において、プロテナーゼK(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、試験例2で得られた[固定化酵素-UV]に変更したこと以外は、前記-酵素外添-に記載の方法と同様の方法で試験を行い、質量(酵素処理後質量)を測定した。
【0141】
-酵素内包-
ガラス容器に入れた50mMリン酸緩衝液(pH7.0)20gに、製造例1-1で得られた[酵素含有粒子1]0.1gを添加し、[酵素含有粒子1]を50mMリン酸緩衝液に完全に浸漬して密封し、37℃にて4日間放置した。次いで、分解しなかった[酵素含有粒子1]の樹脂断片を、濾紙(定性濾紙No.2、アドバンテック東洋株式会社製)を用いた濾過により取り出し、40℃にて12時間減圧乾燥させて、質量(酵素処理後質量)を測定した。
【0142】
-固定化酵素内包-
前記-酵素内包-に記載の方法において、[酵素含有粒子1]を、製造例1-4で得られた[酵素含有粒子4]に変更したこと以外は、前記-酵素内包-に記載の方法と同様の方法で試験を行い、質量(酵素処理後質量)を測定した。
【0143】
-対照-
前記-酵素外添-に記載の方法において、プロテナーゼK(富士フイルム和光純薬株式会社製)の酵素液を、水に変更したこと以外は、前記-酵素外添-に記載の方法と同様の方法で試験を行い、質量(酵素処理後質量)を測定した。
【0144】
「酵素外添」、「固定化酵素外添」、「酵素内包」、及び「固定化酵素内包」について、試験例1の<酵素分解性試験>と同様の方法で分解率を算出し、試験例1の<酵素分解性試験>と同様の評価基準に基づき評価した。結果を下記表5に示す。
【0145】
【表5】
【0146】
分解率は、「酵素外添」>「固定化酵素外添」>「固定化酵素内包」>「酵素内包」>「対照」の順で高かった。これより、酵素を高分子で固定化しないままアクロイル変性ポリカプロラクトンの硬化物に配合してUV硬化を行うと酵素の生分解性が落ちることが分かった。「固定化酵素外添」と「固定化酵素内包」との分解率の差はあまり大きくなかった。「固定化酵素内包」は「対照」より生分解性が改善された。
【0147】
(試験例4-1:樹脂の酵素分解性)
試験フィルムとして、ポリカプロラクトン タイプH5C(商品名:PCL H5C、重量平均分子量(Mw):50,000、株式会社ダイセル製)、ポリ乳酸 タイプA(商品名:LACEA(登録商標)、重量平均分子量(Mw):140,000、三井化学株式会社製)、ポリ乳酸 タイプB(商品名:Purasorb(登録商標)PURASORB PLG 8055、重量平均分子量(Mw):140,000、Purac社製)、ポリブチレンサクシネート タイプA(商品名:ZM7B01、三菱ケミカル株式会社製)、又はポリブチレンサクシネート タイプB(商品名:ZM9B02、三菱ケミカル株式会社製)を使用した。
酵素としては、リパーゼPS(商品名:Lipase PS “Amano” SD、天野エンザイム株式会社製)又はプロテナーゼK(富士フイルム和光純薬株式会社製)を使用した。
【0148】
<酵素分解性試験>
予め、各試験フィルムの質量(初期質量)を測定した。次に、各試験フィルムをそれぞれガラス容器に入れ、各試験フィルム1mg当たり、リパーゼPS又はプロテナーゼKがそれぞれ10Uとなるように酵素液を添加し、試験フィルムを酵素液に完全に浸漬して密封し、37℃にて4日間放置した。対照として、酵素液を水に変更したこと以外は同様の方法で、試験フィルムを水に完全に浸漬して密封し、37℃にて4日間放置した。次いで、分解しなかった試験フィルムの断片を、濾紙(定性濾紙No.2、アドバンテック東洋株式会社製)を用いた濾過により取り出し、40℃にて12時間減圧乾燥させて、質量(酵素処理後質量)を測定した。
試験例1の<酵素分解性試験>と同様の方法で分解率を算出し、試験例1の<酵素分解性試験>と同様の評価基準に基づき評価した。結果を下記表6に示す。
【0149】
【表6】
【0150】
表6の結果より、ポリカプロラクトンは、リパーゼPSにより大きく分解することが分かった。一方で、ポリ乳酸は、プロテナーゼKにて分解されることが分かった。
【0151】
(試験例4-2:樹脂の酵素分解性)
-試験フィルム1の作製-
合成例A-1で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]100質量部に対して、光重合開始剤(商品名:Omnirad 1173、IGM Resins B.V.社製)を4質量%添加し、自転又は公転を設定することができる撹拌機(商品名:あわとり練太郎ARE-310、株式会社シンキー製)にて、2,000rpmで2分間攪拌させ配合物を作製した。これを厚み500μmのシリコーンゴム枠(縦:4.5cm×横:3.5cm)に流し込み、2枚のPETフィルムの間に挟んで、UVコンベアで照射(3J/cm)し、試験フィルム1を得た。
【0152】
-試験フィルム2の作製-
試験フィルム1の作製において、合成例A-1で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]を、合成例A-2で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン2]に変更したこと以外は、試験フィルム1の作製と同様の方法で、試験フィルム2を得た。
【0153】
-試験フィルム3の作製-
試験フィルム1の作製において、合成例A-1で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]を、合成例A-3で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン3]に変更したこと以外は、試験フィルム1の作製と同様の方法で、試験フィルム3を得た。
【0154】
-試験フィルム4の作製-
試験フィルム1の作製において、合成例A-1で得られた[アクリロイル変性ポリカプロラクトン1]を、テトラ(ポリ)エチレングリコールジアクリレート(TEGDA)(商品名:M-240 東亞合成株式会社製)に変更したこと以外は、試験フィルム1の作製と同様の方法で、試験フィルム4を得た。
【0155】
<酵素分解性試験>
試験例4-1の酵素分解性試験において、試験フィルムを前述の試験フィルム1~4に変更し、酵素としてリパーゼPSのみを使用したこと以外は、試験例4-1の酵素分解性試験と同様の方法で分解率を算出し、試験例1の<酵素分解性試験>と同様の評価基準に基づき評価した。また、対照として、酵素液をリン酸緩衝液に変更したこと以外は同様の方法で、試験フィルムを50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に完全に浸漬して密封し、37℃にて4日間放置した。結果を下記表7及び図5に示す。
【0156】
【表7】
【0157】
表7の結果より、アクリロイル変性ポリカプロラクトン1~3が、リパーゼPSにより分解され、またリン酸緩衝液により加水分解されることが分かった。
【0158】
(実施例1)
合成例C-1で得られた[アクリロイル変性ポリ乳酸]100質量部に対して、製造例1-1で得られた[酵素含有粒子1]を10質量部添加し、更に、光重合開始剤(商品名:Omnirad 1173、IGM Resins B.V.社製)を4質量部添加し、自転又は公転を設定することができる撹拌機(商品名:あわとり練太郎ARE-310、株式会社シンキー製)にて、2,000rpmで2分間攪拌させ配合物を作製した。これを厚み500μmのシリコーンゴム枠(縦:4.5cm×横:3.5cm)に流し込み、2枚のPETフィルムの間に挟んで、UVコンベアで照射(3J/cm)し、[硬化フィルム1]を得た。
【0159】
(実施例2)
実施例1において、製造例1-1で得られた[酵素含有粒子1]を、製造例1-2で得られた[酵素含有粒子2]に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[硬化フィルム2]を得た。
【0160】
(実施例3)
実施例1において、製造例1-1で得られた[酵素含有粒子1]を、製造例1-3で得られた[酵素含有粒子3]に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[硬化フィルム3]を得た。
【0161】
(実施例4)
実施例1において、製造例1-1で得られた[酵素含有粒子1]を、製造例1-4で得られた[酵素含有粒子4]に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[硬化フィルム4]を得た。
【0162】
(比較例1)
実施例1において、製造例1-1で得られた[酵素含有粒子1]を、比較製造例1-1で得られた[酵素含有粒子5]に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で[硬化フィルム5]を得た。
【0163】
(比較例2)
実施例1において、製造例1-1で得られた[酵素含有粒子1]を添加しない(0質量部とした)こと以外は、実施例1と同様の方法で[硬化フィルム6]を得た。
【0164】
実施例1~4及び比較例1~2の硬化フィルム1~6について、以下の方法で「樹脂の耐久性」及び「酵素分解性」を評価した。結果を下記表8に示す。
【0165】
<樹脂の耐久性の評価>
実施例1~4及び比較例1~2の硬化フィルム1~6を、それを40℃、95%RHの恒温恒湿槽に入れ、7日間経過後に取り出した。これを、室温(24℃±1℃)のテトラヒドロフラン(THF)に完全に浸漬し、目視にて観察し、下記評価基準に基づき「樹脂の耐久性」を評価した。評価結果を下記表8に示す。
[樹脂の耐久性の評価基準]
優良:フィルム(膜)の形状が保たれた状態である
良好:フィルム(膜)の形状がほぼ保たれた状態である
不良:フィルム(膜)の形状が消失した状態である
【0166】
<酵素分解性の評価>
-水存在下における酵素分解性-
予め、実施例1~4及び比較例1~2の硬化フィルム1~6の質量(初期質量)を測定した。次に、実施例1~4及び比較例1~2の硬化フィルム1~6をそれぞれガラス容器に入れ、水を添加し、硬化フィルム1~6を水に完全に浸漬して密封し、37℃にて4日間放置した。次いで、分解しなかった試験フィルムの断片を、濾紙(定性濾紙No.2、アドバンテック東洋株式会社製)を用いた濾過により取り出し、40℃にて12時間減圧乾燥させて、質量(酵素処理後質量)を測定した。測定値から、試験例1の<酵素分解性試験>と同様の方法で分解率を算出た。結果を下記表8に示す。
なお、水存在下においては、分解率が20%以上のものが「優良」、分解率が5%以上20%未満のものが「良好」、分解率が5%未満のものが「不良」であり、「優良」又は「良好」が使用上問題ないものである。
【0167】
-水非存在下における酵素分解性-
予め、実施例1~4及び比較例1~2の硬化フィルム1~6の質量(初期質量)を測定した。次に、実施例1~4及び比較例1~2の硬化フィルム1~6をそれぞれガラス容器に入れ、水を添加せずに、硬化フィルム1~6を密封し、37℃にて4日間放置した。次いで、分解しなかった試験フィルムの断片を40℃にて12時間減圧乾燥させて、質量(酵素処理後質量)を測定した。測定値から、試験例1の<酵素分解性試験>と同様の方法で分解率を算出た。結果を下記表8に示す。
なお、水非存在下においては、分解されないことが望ましく、分解率が5%未満のものが「優良」であり、分解率が5%以上のものが「不良」である。
【0168】
【表8】
【0169】
表8の結果より、実施例1では、樹脂の耐久性が優れ、酵素分解性も良好な結果を示した。実施例2では、実施例1と比較して樹脂の耐久性が少し減少したが、酵素分解性は向上した。これは、実施例2の酵素含有粒子の原料のポリカプロラクトンポリオールの官能基が2官能であることにより、架橋密度が低くなったためと考えられた。実施例3では、実施例1と比較して、酵素分解性が少し低下した。これは、架橋密度と加水分解性は実施例1と実施例2の間であるが、カプロラクトンセグメントの導入量が多いためと考えられた。実施例4では、実施例1と比較して、酵素分解性が少し低下した。これは、固定化酵素内包の方が、単独の酵素よりも系外への拡散性が低かったためと考えられた。比較例2では、樹脂の崩壊が起こらず分解性が大きく減少した。比較例3では、酵素含有粒子を含まないため、酵素分解は起こらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0170】
前記酵素含有粒子形成用組成物は、これを硬化させることで酵素含有粒子を簡便で安価に形成することができる。したがって、本発明の酵素含有粒子の製造に好適に用いられる。
前記酵素含有粒子は、熱やUV照射等の外部刺激により酵素活性が低下せず、優れた耐久性を有する一方で、水の存在下で優れた加水分解性を有するため、本発明の成形体に好適に用いられ、該成形体に、環境中で水に晒された際に、初めて生分解が開始される分解開始スイッチ機能を好適に付与することができる。
前記酵素分解性樹脂組成物は、これを硬化させることで成形体を簡便で安価に形成することができる。したがって、本発明の成形体の製造に好適に用いられる。
前記成形体は、使用中には分解が起こらず、優れた樹脂の耐久性を有するものである。また、水の存在を分解開始スイッチとして、環境中で水に晒された際には優れた生分解を有するものである。したがって、自動車、包装材、建材、IT、農業、メディカル、DIY関連等の各種産業分野において好適に利用でき、更に環境負荷低減に貢献することができる。
【符号の説明】
【0171】
1:酵素含有粒子
2:加水分解可能なポリマー
3:酵素
4:シェル層
5:成形体
6:ポリマー
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5