(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060758
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】ポリマーナノ粒子の製造方法及びポリマーナノ粒子
(51)【国際特許分類】
C08J 3/14 20060101AFI20230421BHJP
【FI】
C08J3/14 CER
C08J3/14 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170539
(22)【出願日】2021-10-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.令和3年2月10日にSATテクノロジー・ショーケース2021のウェブサイト(https://www.science-academy.jp/showcase/20/list.html)に要旨を掲載 2.令和3年2月19日発行のSATテクノロジー・ショーケース2021「プログラム&アブストラクト」集にて要旨を開示 3.令和3年2月19日にSATテクノロジー・ショーケース2021にて開示 4.令和3年5月26日に第29回環境化学討論会のウェブサイト(https://www.j-ec.or.jp/conference/29th/index.html)に要旨を掲載 5.令和3年5月31日に第29回環境化学討論会のウェブサイト(https://www.youtube.com/watch?v=QgRGJcXLAkU)にて開示 6.令和3年6月1日に第29回環境化学討論会の討論会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】501273886
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立環境研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】田中 厚資
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
(72)【発明者】
【氏名】倉持 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】大迫 政浩
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AA18
4F070AA22
4F070AA47
4F070AB22
4F070AC12
4F070AC32
4F070AC36
4F070AC39
4F070AC50
4F070AE28
4F070DA24
4F070DA26
4F070DA27
4F070DC09
(57)【要約】
【課題】所定の樹脂種からなる球状のポリマーナノ粒子を安全かつ安定的に製造することができるポリマーナノ粒子の製造方法およびポリマーナノ粒子を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリマーナノ粒子の製造方法は、第1有機溶媒に熱可塑性樹脂を溶解し、ポリマー溶液を形成する溶解工程と、前記第1有機溶媒に対して良溶媒であり且つ前記熱可塑性樹脂に対して貧溶媒または非溶媒である第2有機溶媒を含む分散溶媒に前記ポリマー溶液を添加して、前記分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させる添加工程と、前記分散溶媒を気化して、前記ポリマーナノ粒子と前記分散溶媒とを分離する気化工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1有機溶媒に熱可塑性樹脂を溶解し、ポリマー溶液を形成する溶解工程と、
前記第1有機溶媒に対して良溶媒であり且つ前記熱可塑性樹脂に対して貧溶媒または非溶媒である第2有機溶媒を含む分散溶媒に前記ポリマー溶液を添加して、前記分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させる添加工程と、
前記分散溶媒を気化して、前記ポリマーナノ粒子と前記分散溶媒とを分離する気化工程と、を有する、ポリマーナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ポリマー溶液の全体質量に対する前記熱可塑性樹脂の含有量が0.01質量%以上5質量%以下である、請求項1に記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂から選択されるいずれかである、請求項1又は2に記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1有機溶媒は、キシレン、トルエン、シクロヘキサノン、ヘキサフルオロイソプロパノールから選択されるいずれかである、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記添加工程において、前記分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させる際の前記分散溶媒の温度が、10℃以上150℃以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記添加工程において、前記分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させる際の前記分散溶媒の温度が、第1有機溶媒および分散溶媒の沸点のうち、低い温度よりも10℃以上100℃以下だけ低い温度である、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記分散溶媒は、前記第2有機溶媒からなり、
前記第2有機溶媒は、ジメチルスルホキシドである、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記分散溶媒は、水と、前記第2有機溶媒とからなり、
前記分散溶媒の全体質量に対する前記水の含有量が、1質量%以上50質量%以下であり、
前記第2有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、エタノール、アセトンから選択されるいずれかからなる、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記添加工程において、前記分散溶媒を撹拌しながら、前記ポリマー溶液を前記分散溶媒に徐々に添加する、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記添加工程において、前記ポリマー溶液の添加速度が1~40(mL/分)である、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
重量平均分子量30000以上700000以下の熱可塑性樹脂からなり、球状であって、且つ平均粒径が1μm未満である、ポリマーナノ粒子。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂から選択されるいずれかである、請求項11に記載のポリマーナノ粒子。
【請求項13】
計測又は分析用の標準物質として使用される、請求項11又は12に記載のポリマーナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーナノ粒子の製造方法及びポリマーナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、耐久性があり且つ軽量であるため、現代の生活に不可欠な材料となっている。しかしながら、使用済みプラスチックが適切に処理されないために、マイクロメートルオーダーのプラスチックやナノメートルオーダーのプラスチックとなって環境中に流出し、大規模な環境汚染を引き起こすことが問題となっている。特に、海洋でのプラスチックの問題は国際的に重要な課題として対策が進められており、その主要なリスク要因としてナノプラスチックに関する研究のニーズが世界的に認識されている。
【0003】
ナノプラスチックの環境リスク評価を行うためには、一般的なプラスチックの性状を有する標準物質からなる粒子(以下、標準物質粒子ともいう)を用いる必要があり、界面活性剤等の添加剤を含まないポリマーからなる球状ナノ粒子が求められているが、上記のような標準物質粒子の欠如が問題となっているのが現状である。
【0004】
従来、ポリマー粒子の作成方法としては、機械粉砕法、重合による方法、液滴を分散する方法、非溶媒(樹脂の溶解度が極めて低い溶媒)への分散による方法、溶媒溶解法などがある。
【0005】
重合による方法としては、例えば乳化重合による方法、懸濁重合による方法が知られている(特許文献1)。
【0006】
液滴を分散する方法としては、例えばポリマーを溶かした溶媒を噴霧する方法や(特許文献2)、ポリマーを溶かした溶媒を遠心力で分散させる方法が知られている(特許文献3)。
【0007】
非溶媒への分散による方法としては、加熱環境下でポリマーをシリコンオイルやポリエチレングリコール等のポリマーの非溶媒に分散、溶融させ、冷却し、その後、該非溶媒を洗浄する方法が知られている(特許文献4,5)。
【0008】
溶媒溶解法としては、(1)ポリマーを溶媒に溶解し、その後、非溶媒の添加、冷却等により粒子を析出させる方法や、ポリマーを溶媒に溶解し、その後、溶媒を蒸発させることで粒子を得る方法(特許文献6,7,8)、(2)また、ポリエチレンテレフタラート(PET)を溶かした溶媒を常温の水からなる分散溶媒に滴下することにより、ポリマーの粒子を形成する方法(非特許文献1)、(3)マイクロリアクターを用い、ポリスチレンのテトラヒドロフラン溶液を、水又は塩化ナトリウム水溶液と混合し、直径150mm程度の球状の粒子を析出させる方法(非特許文献2)、(4)高密度ポリエチレンなどのポリマーをテトラヒドロフランに、常温で飽和溶解度まで溶解させ、さらに、水を含むテトラヒドロフランを加えることで、ポリマーの粒子を析出させる方法(非特許文献3)、などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3-131603号公報
【特許文献2】特開昭59-172521号公報
【特許文献3】特開昭59-172522号公報
【特許文献4】特開昭58-219240号公報
【特許文献5】特開昭61-271330号公報
【特許文献6】特開2011-074345号公報
【特許文献7】特開平3-128939号公報
【特許文献8】国際公開第2010/140500号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Johnson et al., Nanoscale Adv., 2021, 3, 339
【非特許文献2】Zhang et al., Soft Matter, 2012, 8, 86-93
【非特許文献3】Ganguly et al., ACS Earth and Space Chemistry 2019 3 (9), 1729-1739
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、機械粉砕法では、粒子の形状制御が困難であり、球状の粒子を形成することができない。また特許文献1の重合による方法は、分散剤として界面活性剤を用いる必要があるため、ポリマー粒子に分散剤が残留してしまう。また、特許文献1の方法で得られるポリマー粒子は、平均サイズが数μm以上であると共に、乳化重合又は懸濁重合によって分子量が低くなることが報告されており、標準物質としての使用に適さない。
【0012】
また、特許文献2,3の液滴を分散する方法では、大がかりな装置を用いて複雑な工程を経る必要があり、標準物質としての需要量を考慮すると効率的に製造できるとは言えない。また、これらの方法では、平均粒径が数μm~約200μmと非常に大きく、ナノ粒子を作製することはできない。
【0013】
また、特許文献4,5の非溶媒への分散による方法では、溶媒としてシリコンオイルやポリエチレングリコール等を用いているところ、これらの溶媒は不揮発性で粘性が高いため、粒子に不純物として残留する可能性が高い。また、このような方法では、平均粒径が数μm以上の粒子しか作製できず、ナノ粒子を作製することはできない。
【0014】
また、特許文献6~8の溶媒溶解法では、平均サイズが数10μm程度の粒子しか得られず、得られる粒子の大きさにばらつきが生じる。
また、溶媒溶解法に関し、非特許文献1に開示された方法で実際に粒子を作製すると、水に滴下するPETを含む溶液の水への分散性が悪く、球状の粒子が得られず、数多くのPET粒子が塊になってしまい、粒径の小さい粒子を安定的に製造することができない。非特許文献2,3の溶媒溶解法で用いられるテトラヒドロフランは、酸化によって爆発性の過酸化物を生成する危険があり、産業上の利用は難しい。テトラヒドロフランの酸化を防ぐ手段として、安定剤を添加する手段が知られているが、安定剤は不揮発性であるため、この手段では、形成されるポリマーの粒子に不純物が残ってしまう。また非特許文献3に開示された方法では、球状粒子を得ることは難しい。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされた発明であり、所定の樹脂種からなる球状のポリマーナノ粒子を安全かつ安定的に製造することができるポリマーナノ粒子の製造方法、及びポリマーナノ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂を第1有機溶媒に溶解させてポリマー溶液を形成し、次いで熱可塑性樹脂に対して貧溶媒または非溶媒であり且つ第1有機溶媒に対して良溶媒である第2有機溶媒を含む分散溶媒にポリマー溶液を添加し、その後分散溶媒を気化することで、ポリマー溶液中の第1有機溶媒を第2有機溶媒に溶解しつつ、ポリマー溶液に溶解している熱可塑性樹脂を分散溶媒中でポリマーナノ粒子として析出させることができ、その後にポリマーナノ粒子と分散溶媒とを分離できることから、有機溶媒や界面活性剤等の不純物を含まない熱可塑性樹脂からなる球状のポリマーナノ粒子を安全かつ安定的に得られることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明は以下の構成を提供する。
(1)第1有機溶媒に熱可塑性樹脂を溶解し、ポリマー溶液を形成する溶解工程と、
前記第1有機溶媒に対して良溶媒であり且つ前記熱可塑性樹脂に対して貧溶媒または非溶媒である第2有機溶媒を含む分散溶媒に前記ポリマー溶液を添加して、前記分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させる添加工程と、前記分散溶媒を気化して、前記ポリマーナノ粒子と前記分散溶媒とを分離する気化工程と、を有する、ポリマーナノ粒子の製造方法。
【0018】
(2)前記ポリマー溶液の全体質量に対する前記熱可塑性樹脂の含有量が0.01質量%以上5質量%以下である、上記(1)に記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【0019】
(3)前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂から選択されるいずれかである、上記(1)又は(2)に記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【0020】
(4)前記第1有機溶媒は、キシレン、トルエン、シクロヘキサノン、ヘキサフルオロイソプロパノールから選択されるいずれかである、上記(1)~(3)のいずれかに記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【0021】
(5)前記添加工程において、前記分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させる際の前記分散溶媒の温度が、10℃以上150℃以下である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【0022】
(6)前記添加工程において、前記分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させる際の前記分散溶媒の温度が、第1有機溶媒および分散溶媒の沸点のうち、低い温度よりも10℃以上100℃以下だけ低い温度である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【0023】
(7)前記分散溶媒は、前記第2有機溶媒からなり、前記第2有機溶媒は、ジメチルスルホキシドである、上記(1)~(6)のいずれかに記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【0024】
(8)前記分散溶媒は、水と、前記第2有機溶媒とからなり、前記分散溶媒の全体質量に対する前記水の含有量が、1質量%以上50質量%以下であり、前記第2有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、エタノール、アセトンから選択されるいずれかからなる、上記(1)~(6)のいずれかに記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【0025】
(9)前記添加工程において、前記分散溶媒を撹拌しながら、前記ポリマー溶液を前記分散溶媒に徐々に添加する、上記(1)~(8)のいずれかに記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【0026】
(10)前記添加工程において、前記ポリマー溶液の添加速度が1~40(mL/分)である、上記(1)~(8)のいずれかに記載のポリマーナノ粒子の製造方法。
【0027】
(11)重量平均分子量30000以上700000以下の熱可塑性樹脂からなり、球状であって、且つ平均粒径が1μm未満である、ポリマーナノ粒子。
【0028】
(12)前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂から選択されるいずれかである、上記(11)に記載のポリマーナノ粒子。
【0029】
(13)計測又は分析用の標準物質として使用される、上記(11)又は(12)に記載のポリマーナノ粒子。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、所定の樹脂種からなる球状のポリマーナノ粒子を安全かつ安定的に製造することができるポリマーナノ粒子の製造方法、及びポリマーナノ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態に係るポリマーナノ粒子の製造方法のフローチャートである。
【
図2】
図1における添加工程の一形態を示す概略斜視図である。
【
図3】実施例1で作製されたポリマーナノ粒子の走査電子顕微鏡像である。
【
図4】実施例2で作製されたポリマーナノ粒子の走査電子顕微鏡像である。
【
図5】実施例3で作製されたポリマーナノ粒子の走査電子顕微鏡像である。
【
図6】実施例4で作製されたポリマーナノ粒子の走査電子顕微鏡像である。
【
図7】実施例5で作製されたポリマーナノ粒子の走査電子顕微鏡像である。
【
図8】実施例6で作製されたポリマーナノ粒子の走査電子顕微鏡像である。
【
図9】製造例1で作製されたポリマーナノ粒子の走査電子顕微鏡像である。
【
図10】製造例2で作製されたポリマーナノ粒子の走査電子顕微鏡像である。
【
図11】製造例3で作製されたポリマーナノ粒子の走査電子顕微鏡像である。
【
図12】製造例4で作製されたポリマーナノ粒子の走査電子顕微鏡像である。
【
図13】実施例7において、作製効率を求めるために用いたフィルターの画像である。
【
図14】製造例5において、作製効率を求めるために用いたフィルターの画像である。
【
図15】比較例1において、作製効率を求めるために用いたフィルターの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。本発明は、以下の例に限定されない。
【0033】
[ポリマーナノ粒子の製造方法]
図1は、本発明の実施形態に係るポリマーナノ粒子の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施形態に係るポリマーナノ粒子の製造方法は、第1有機溶媒に熱可塑性樹脂を溶解し、ポリマー溶液を形成する溶解工程と、第1有機溶媒に対して良溶媒であり且つ熱可塑性樹脂に対して貧溶媒または非溶媒である第2有機溶媒を含む分散溶媒にポリマー溶液を添加して、分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させる添加工程と、分散溶媒を気化して、ポリマーナノ粒子と分散溶媒とを分離する気化工程と、を有する。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、溶解工程の前、気化工程の後、或いは各工程間に他の工程を有していてもよい。
【0034】
<溶解工程>
溶解工程は、第1有機溶媒に熱可塑性樹脂を溶解し、ポリマー溶液を形成する。溶解工程では、例えば第1有機溶媒として、熱可塑性樹脂に対して良溶媒である有機溶媒を用いる。溶解工程で使用される第1有機溶媒は、特に限定されないが、典型的には、キシレン、トルエン、シクロヘキサノン、ヘキサフルオロイソプロパノールから選択されるいずれかである。
【0035】
溶解工程で使用される熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂から選択されるいずれかである。熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂およびポリ塩化ビニル系樹脂からなる群から選択されるいずれかであることが好ましい。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン-1、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、これらのポリマーブレンドなどを挙げることができる。
【0037】
ポリスチレン系樹脂としては、例えばポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、ミデイアムインパクトポリスチレンのようなゴム補強スチレン系樹脂、スチレン--アクリロニトリル共重合体(SAN樹脂)、アクリロニトリル-ブチルアクリレートラバー-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピルラバー-スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル-塩化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS)、ABS樹脂(例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、これらのポリマーブレンドなどを挙げることができる。
【0038】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えばポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、これらのポリマーブレンドなどを挙げることができる。
【0039】
ポリエステル系樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、これらのポリマーブレンドなどを挙げることができる。
【0040】
上記熱可塑性樹脂の数平均分子量(Mn)は、例えば、ポリオレフィン系樹脂について5000~60000であり、8000~55000であることが好ましく、ポリスチレン系樹脂について70000~130000であり、90000~120000であることが好ましく、ポリ塩化ビニル系樹脂について20000~70000であり、30000~50000であることが好ましく、ポリエステル系樹脂について8000~42000であり、8000~30000であることが好ましい。上記熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、例えば、ポリオレフィン系樹脂について30000~700000であり、70000~300000であることが好ましく、ポリスチレン系樹脂について150000~350000であり、200000~300000であることが好ましく、ポリ塩化ビニル系樹脂について30000~180000であり、40000~120000であることが好ましく、ポリエステル系樹脂について30000~80000であり、30000~50000であることが好ましい。上記熱可塑性樹脂の多分散度(Mw/Mn)は、例えば1~20であり、2~16であることが好ましい。上記熱可塑性樹脂の数平均分子量、重量平均分子量及び多分散度は、HLC-8321GPC/HT(東ソー株式会社製品名)と同様の原理の装置を用いて測定し、現れるピークを解析することにより測定される。
【0041】
溶解工程において、ポリマー溶液の全体質量に対する熱可塑性樹脂の含有量(ポリマー濃度)を、例えば0.01質量%以上5質量%以下にすることができ、0.1質量%以上2質量%以下にすることが好ましい。溶解工程において、ポリマー溶液の全体質量に対する熱可塑性樹脂の含有量をこのような含有量にすることで、最終的に得られるポリマーナノ粒子が塊になるのを抑制しやすく、また、ポリマーナノ粒子の粒径を制御しやすい。
【0042】
溶解工程において、ポリマー溶液の温度を、例えばポリオレフィン系樹脂について100℃以上150℃以下にすることができ、120℃以上150℃以下にすることが好ましく、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂について10℃以上50℃以下にすることができ、35℃以上50℃以下にすることが好ましい。溶解工程において、ポリマー溶液の温度をこのような温度にすることで、熱可塑性樹脂が十分に溶解し、完成物として得られる熱可塑性樹脂の量を多くすることができる。
【0043】
<添加工程>
添加工程では、上述の通り、分散溶媒として、第1有機溶媒に対して良溶媒であり、且つ熱可塑性樹脂に対して貧溶媒または非溶媒である第2有機溶媒を含む溶液を用いる。本実施形態において、良溶媒とは、第1有機溶媒を溶解可能な溶媒であり、例えば標準状態において第1有機溶媒と任意の割合で相溶するものを意味する。また、本実施形態において、貧溶媒または非溶媒とは、熱可塑性樹脂を溶解し難い或いは溶解できない溶媒であり、例えば標準状態における熱可塑性樹脂の溶解度が0.01以下であるものを意味する。
【0044】
図2は、
図1における添加工程の一形態を示す概略斜視図である。
添加工程では、例えば、
図2に示すように、容器10内の分散溶媒20をスターラー30で撹拌しながら、シリンダー40を用いてポリマー溶液50を分散溶媒20に徐々に添加し、ポリマーナノ粒子60を析出させる。ポリマー溶液からポリマーナノ粒子を析出させることができれば、
図2の形態に限らず、他の添加方法を採用することができる。
【0045】
分散溶媒は、第2有機溶媒を含む溶液であり、第2有機溶媒を主成分として含むことが好ましい。本実施形態において、主成分として含むとは、分散溶媒の全体質量に対する第2有機溶媒の含有量が50質量%よりも多いことを意味する。
また、分散溶媒に含まれる第2有機溶媒は、気化工程において後述する公知の方法で容易に気化可能な沸点を有することが好ましく、例えば200℃未満の沸点を有することが好ましい。
【0046】
分散溶媒は、第2有機溶媒からなっていてもよく、水と、第2有機溶媒とからなっていてもよい。
熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂を含み、第1有機溶媒としてキシレン等の水よりも沸点が高い溶媒を含むポリマー溶液を用いる場合、分散溶媒は、第2有機溶媒からなることが好ましい。ここで用いるポリマー溶液は、例えば水よりも沸点が数十度高い溶媒を含む。このとき、第2有機溶媒はジメチルスルホキシドからなることが好ましい。ポリマー溶液に含まれる第1有機溶媒が、キシレン等の水よりも沸点が数10℃以上高い溶媒である場合、このような分散溶媒を用いることで、分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させる際の分散溶媒の温度(反応温度)を高くしても、分散溶媒の組成が変わらず、形状や粒径が安定したポリマーナノ粒子を析出させることができる。
【0047】
熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂等、溶媒に溶解した状態を維持するために100℃以上に保つ必要がある樹脂を用いる場合、分散溶媒は、第2有機溶媒からなることが好ましい。このとき、第2有機溶媒はジメチルスルホキシド等の沸点が120℃以上である溶媒からなることが好ましい。このような分散溶媒を用いることで、分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させる際の分散溶媒の温度(反応温度)を高くしても、分散溶媒の組成が変わらず、形状や粒径が安定したポリマーナノ粒子を析出させることができる。
【0048】
熱可塑性樹脂としてポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂およびポリエステル系樹脂等の常温で第1有機溶媒に溶解する熱可塑性樹脂を用いる場合、分散溶媒は、水と、第2有機溶媒とからなる。分散溶媒の全体質量に対する水の含有量は、例えば1質量%以上であり、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、28質量%以上であることがさらに好ましい。分散溶媒の全体質量に対する水の含有量は、例えば50質量%以下であり、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
また、熱可塑性樹脂の種類によって、好ましい分散溶媒中の水の含有量は異なっており、熱可塑性樹脂としてポリスチレン系樹脂を用いる場合、分散溶媒の全体質量に対する水の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましく、33質量%以下であることが好ましく、32質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂としてポリスチレン系樹脂を用いる場合、分散溶媒の全体質量に対する水の含有量が所定値以上であることで、ポリマーナノ粒子同士がつながることを抑制しやすい。また、熱可塑性樹脂としてポリスチレン系樹脂を用いる場合、分散溶媒の全体質量に対する水の含有量が所定値以下であることで、塊が発生することを抑制し、高い作製効率を得やすい。
【0050】
熱可塑性樹脂としてポリ塩化ビニル系樹脂を用いる場合、分散溶媒の全体質量に対する水の含有量は、25質量%以上であることが好ましく、37質量%以下であることが好ましく、36質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂としてポリ塩化ビニル系樹脂を用いる場合、分散溶媒の全体質量に対する水の含有量が所定値以上であることで、ポリマーナノ粒子同士がつながることを抑制しやすい。また、熱可塑性樹脂としてポリ塩化ビニル系樹脂を用いる場合、分散溶媒の全体質量に対する水の含有量が所定値以下であることで、球形状のポリマーナノ粒子をより安定して製造できる。
【0051】
熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂を用いる場合、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂を用いる場合、分散溶媒の全体質量に対する水の含有量が所定値以上であることで、ポリマーナノ粒子の凝集による塊の発生を抑制し、作製効率を高められる。また、熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂を用いる場合、分散溶媒の全体質量に対する水の含有量が所定値以下であることで、作製効率を高められる。
【0052】
上述のような、熱可塑性樹脂としてポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂およびポリエステル系樹脂等の常温で第1有機溶媒に溶解する熱可塑性樹脂を用いる場合、分散溶媒として水とともに用いられる第2有機溶媒は、エタノール、ジメチルスルホキシドおよびアセトンのいずれかであることが好ましい。
【0053】
具体的な熱可塑性樹脂と有機溶媒の組み合わせとしては、例えば、熱可塑性樹脂としてポリスチレン、第1有機溶媒としてトルエンを含むポリマー溶液を用いる場合、第2有機溶媒をエタノールとし、水とエタノールとからなる分散溶媒を用いることができる。熱可塑性樹脂としてポリ塩化ビニル、第1有機溶媒としてシクロヘキサノンを含むポリマー溶液を用いる場合、第2有機溶媒をジメチルスルホキシドとし、水とジメチルスルホキシドとからなる分散溶媒を用いることができる。熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタラート、第1有機溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを含むポリマー溶液を用いる場合、第2有機溶媒をアセトンとし、水とアセトンとからなる分散溶媒を用いることができる。
上述のようなポリマー溶液と分散溶媒との組み合わせを選択することにより、粒径が小さく、より球形の度合が高いポリマーナノ粒子を析出させることができる。
【0054】
添加工程では、分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させるために、分散溶媒を所定の温度に保持することが好ましい。特に限定されないが、具体的には、添加工程において、分散溶媒中でポリマーナノ粒子を析出させる際の分散溶媒の温度(反応温度)をポリオレフィン系樹脂について100℃以上150℃以下、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂について10℃以上50℃以下にすることが好ましく、ポリオレフィン系樹脂について110℃以上140℃以下、ポリスチレン系樹脂について40℃以上50℃以下、ポリ塩化ビニル系樹脂について40℃以上43℃以下、ポリエステル系樹脂について40℃以上50℃以下、にすることがより好ましい。反応温度をこのような範囲にすることで、析出させるポリマーナノ粒子の形状および粒径を制御しやすい。
【0055】
反応温度は、分散溶媒の種類及び第1有機溶媒の種類に応じて調整してもよい。特に限定されないが、反応温度を、第1有機溶媒および分散溶媒の沸点のうち、低い温度よりも10℃以上100℃以下だけ低い温度にすることが好ましく、20℃以上100℃以下だけ低い温度にすることがより好ましい。このような反応温度にすることで、ポリマーナノ粒子の形状および粒径を制御しやすい。
【0056】
添加工程において、分散溶媒を撹拌しながら、ポリマー溶液を分散溶媒に徐々に添加することが好ましい。分散溶媒の撹拌は、公知の方法で行うことができる。分散溶媒の撹拌は、例えばスターラー等の撹拌子を用いて行うことができる。
【0057】
添加工程において、ポリマー溶液の添加速度(ポリマー液滴の滴下速度)は、例えば、1~40(mL/分)であり、2(mL/分)以上であることが好ましく、3(mL/min)以上であることがより好ましく、10(mL/分)以下であることが好ましい。ポリマー溶液を分散溶媒に徐々に添加及び/又は分散溶媒を撹拌しながらポリマー溶液を分散溶媒に添加することで、析出前のポリマー溶液が分散し、その結果、ポリマーナノ粒子が塊として析出することを抑制しやすい。
【0058】
<気化工程>
気化工程では、分散溶媒を気化して、ポリマーナノ粒子と分散溶媒とを分離する。気化工程では、例えば、加熱、減圧等の公知の方法により行うことができる。
【0059】
気化工程を加熱により行う場合、例えば分散溶媒を公知の加熱手段で、分散溶媒の沸点以上の温度に加熱する。加熱することで、ポリマーナノ粒子に付着した分散溶媒を気化させ、ポリマーナノ粒子と分散溶媒とを分離することができる。また、分散溶媒中からポリマーナノ粒子を濾過等により取り出し、取り出したポリマーナノ粒子を加熱してもよい。
【0060】
気化工程を減圧により行う場合、例えば分散溶媒から取り出したポリマーナノ粒子をシャーレ等の別の容器に移し、減圧することで、ポリマーナノ粒子に付着した分散溶媒を気化させ、ポリマーナノ粒子と分散溶媒とを分離することができる。また、分散溶媒から取り出したポリマーナノ粒子を減圧環境下にて加熱してもよい。
【0061】
このように、本実施形態に係るポリマーナノ粒子の製造方法では、ポリマー溶液中の第1有機溶媒を第2有機溶媒に溶解しつつ、ポリマー溶液に溶解している熱可塑性樹脂を、第2有機溶媒を含む分散溶媒中でポリマーナノ粒子として析出させる。本製造方法では、爆発性の組成物を形成し得る有機溶媒や、界面活性剤などの不純物を用いることなく、所定の樹脂種の熱可塑性樹脂からなるポリマーナノ粒子を安全かつ安定的に製造することができる。例えば、テトラヒドロフランなどを用いることなく、凝集を抑制するとともに大半が同形状の球形である、所定の樹脂種の熱可塑性樹脂からなるポリマーナノ粒子を製造することができる。
【0062】
上述の作製効率(%)は、凝集していないポリマーナノ粒子を安定的に作成できているか否かの指標である。作製効率は、上述のポリマーナノ粒子の製造方法で得られたポリマーナノ粒子をフィルターで濾過し、粗大粒子(凝集物)を除いて得られたポリマーナノ粒子の重量を添加工程において添加した熱可塑性樹脂の重量で除し、100倍することで求められる。ここで、作製効率を求めるために用いるフィルターは、例えば0.25mmフィルターおよび2μmフィルターの2枚である。作製効率は、93%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0063】
[ポリマーナノ粒子の構成]
上記の製造方法によって得られるポリマーナノ粒子は、数平均分子量がポリオレフィン系樹脂について5000~60000、ポリスチレン系樹脂について70000~130000、ポリ塩化ビニル系樹脂について20000~70000、ポリエステル系樹脂について8000~42000であり、重量平均分子量がポリオレフィン系樹脂について30000~700000、ポリスチレン系樹脂について150000~350000、ポリ塩化ビニル系樹脂について30000~180000、ポリエステル系樹脂について30000~80000であり、球状であって、且つ平均粒径が1μm未満である。
【0064】
ポリマーナノ粒子を構成する熱可塑性樹脂は、上述の溶解工程において用いられる熱可塑性樹脂であり、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂から選択されるいずれかである。
【0065】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン-1、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、これらのポリマーブレンドなどを挙げることができる。
【0066】
ポリスチレン系樹脂としては、例えばポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、ミデイアムインパクトポリスチレンのようなゴム補強スチレン系樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN樹脂)、アクリロニトリル-ブチルアクリレートラバー-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピルラバー-スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル-塩化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS)、ABS樹脂(例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、これらのポリマーブレンドなどを挙げることができる。
【0067】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えばポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、これらのポリマーブレンドなどを挙げることができる。
【0068】
ポリエステル系樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、これらのポリマーブレンドなどを挙げることができる。
【0069】
また熱可塑性樹脂種からなるポリマーナノ粒子とは、パイロライザーを接続したガスクロマトグラフ質量分析計を用いて、不純物濃度を測定したとき、不純物濃度が0.01%以下である、ポリマーナノ粒子を意味する。
【0070】
上記ポリマーナノ粒子の数平均分子量(Mn)は、例えば、ポリオレフィン系樹脂について5000~60000であり、8000~55000であることが好ましく、ポリスチレン系樹脂について70000~130000であり、90000~120000であることが好ましく、ポリ塩化ビニル系樹脂について20000~70000であり、30000~50000であることが好ましく、ポリエステル系樹脂について8000~42000であり、8000~30000であることが好ましい。上記熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、例えば、ポリオレフィン系樹脂について30000~700000であり、70000~300000であることが好ましく、ポリスチレン系樹脂について150000~350000であり、200000~300000であることが好ましく、ポリ塩化ビニル系樹脂について30000~180000であり、40000~120000であることが好ましく、ポリエステル系樹脂について30000~80000であり、30000~50000であることが好ましい。上記熱可塑性樹脂の多分散度(Mw/Mn)は、例えば1~20であり、2~16であることが好ましい。上記熱可塑性樹脂の数平均分子量、重量平均分子量及び多分散度は、HLC-8321GPC/HT(東ソー株式会社製品名)と同様の原理の装置を用いて測定し、現れるピークを解析することにより測定される。ポリマーナノ粒子の平均分子量がこのような範囲であることで、標準物質として用いやすい。
【0071】
ポリマーナノ粒子の形状は、球状である。ポリマーナノ粒子の平均円形度は、例えば0.85~1.0であり、0.90~1.0であることが好ましく、0.94~1.0や、0.95~1.0であることがさらに好ましい。ここで、平均円形度は、それぞれのポリマーナノ粒子の走査電子顕微鏡像の画像解析により測定される。
【0072】
ポリマーナノ粒子の平均粒径は、上述のように1μm未満であり、1~1000nmであることが好ましく、100~500nmであることがより好ましい。平均粒径は、例えば走査電子顕微鏡を用いて3箇所の走査電子顕微鏡像を得て、視野中の150個のポリマーナノ粒子の粒径を測定し、その平均を算出することで得られる。熱可塑性樹脂からなる、粒径の小さなポリマーナノ粒子は標準物質として用いる際の有用性が高く、ポリマーナノ粒子の平均粒径は、1000nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。
【0073】
球状のポリマーナノ粒子は、粒子中心に対して対称な形状をしており、粒径が方位に拠らず均一であることが好ましい。計測又は分析において濾過等を行う際には、粒子の粒径ごとに分離の度合いを測定する場合があるところ、本実施形態のポリマーナノ粒子を用いると、粒径のばらつきが小さく、均質であるため基準となるデータを取得しやすい。また、例えば毒性試験等を行う際には、粒子の形状が影響因子に成り得、また、組成以外の影響因子は少ないことが好ましいところ、本実施形態のポリマーナノ粒子は球状であり、形状の影響因子を極力小さくすることができるので、毒性の基準となるデータを正確に取得することができる。
【0074】
また、ポリマーナノ粒子は、均一な形状をしていることが好ましい。ポリマーナノ粒子は、走査電子顕微鏡を用いて3箇所の走査電子顕微鏡像を得て、視野中の150個のポリマーナノ粒子の粒径を測定し、求めた変動係数が、例えば33~66%である。
【実施例0075】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
先ず、溶解工程として第1有機溶媒であるキシレン(富士フィルム和光純薬株式会社製、品番:244-00081)を10mL用意し、120℃にし、この第1有機溶媒に熱可塑性樹脂である低密度ポリエチレン(住友精化株式会社製、品番:FG701N)0.02gを溶解させ、ポリマー溶液中の熱可塑性樹脂が0.20質量%のポリマー溶液を形成した。
【0077】
次いで、キシレンに対して良溶媒であり且つ低密度ポリエチレンに対して貧溶媒であるジメチルスルホキシドからなる第2有機溶媒を分散溶媒として用意した。添加工程として、この分散溶媒100mLを110℃に保持し、この分散溶媒にポリマー溶液4mLをシリンジを用い、添加速度6mL/分で添加し、熱可塑性樹脂を析出させた。添加工程は、スターラーを用いて分散溶媒を撹拌しながら行った。
【0078】
次いで、析出させた熱可塑性樹脂を濾過によってジメチルスルホキシドと分離し、濾物を遠心濃縮装置(トミー精工社製、型番:CC-105)内で真空環境下に保持し、ポリマーナノ粒子から溶媒を除き、低密度ポリエチレンからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0079】
[実施例2]
熱可塑性樹脂を高密度ポリエチレン(Alfa Aesar社製、品番:41731)に変更し、分散溶媒の保持温度(反応温度)を115℃に変更した点以外は、実施例1と同様の条件にして、高密度ポリエチレンからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0080】
[実施例3]
熱可塑性樹脂をポリプロピレン(Sigma-Aldrich社製、品番:427888)に変更した点以外は、実施例1と同様の条件にして、ポリプロピレンからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0081】
[実施例4]
熱可塑性樹脂をポリスチレン(Goodfellow Cambridge Ltd.社製、品番:ST313120)に変更し、第1有機溶媒をトルエン(富士フィルム和光純薬株式会社製、品番:209-14143)に変更し、トルエンにポリスチレンを溶解させる際の温度を50℃に変更し、ポリマー溶液中の熱可塑性樹脂の質量割合(ポリマー濃度)を0.15%に変更し、分散溶媒を水とエタノールからなり、且つ分散溶媒の全体質量に対する水の含有量が30質量%である溶媒に変更し、分散溶媒の保持温度(反応温度)を50℃に変更した点以外は、実施例1と同様の条件にして、ポリスチレンからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0082】
[実施例5]
熱可塑性樹脂をポリ塩化ビニル(富士フィルム和光純薬株式会社製、品番:223-00255)に変更し、第1有機溶媒をシクロヘキサノン(富士フィルム和光純薬株式会社製、品番:037-05096)に変更し、シクロヘキサノンにポリ塩化ビニルを溶解させる際の温度を60℃に変更し、ポリマー溶液中の熱可塑性樹脂の質量割合(ポリマー濃度)を0.40%に変更し、分散溶媒を水とジメチルスルホキシドからなり、且つ分散溶媒の全体質量に対する水の含有量が35質量%である溶媒に変更し、分散溶媒の保持温度(反応温度)を41℃に変更した点以外は、実施例1と同様の条件にして、ポリ塩化ビニルからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0083】
[実施例6]
熱可塑性樹脂をポリエチレンテレフタラート(Scientific Polymer Products, Inc.社製、品番:138)に変更し、第1有機溶媒をヘキサフルオロイソプロパノール(富士フィルム和光純薬株式会社製、品番:082-10311)に変更し、ヘキサフルオロイソプロパノールにポリエチレンテレフタラートを溶解させる際の温度を45℃に変更し、ポリマー溶液中の熱可塑性樹脂の質量割合(ポリマー濃度)を1.25%に変更し、分散溶媒を水とアセトンからなり、且つ分散溶媒の全体質量に対する水の含有量が35質量%である溶媒に変更し、分散溶媒の保持温度(反応温度)を45℃に変更した点以外は、実施例1と同様の条件にして、ポリエチレンテレフタラートからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0084】
実施例1~実施例6において、ポリマーナノ粒子を作製した際の条件を表1に纏める。
【0085】
【0086】
(ポリマーナノ粒子の分析)
実施例1~実施例6で作製されたポリマーナノ粒子を走査電子顕微鏡で観察した。
図3~
図8は、それぞれ実施例1~6で作製されたポリマーナノ粒子の電子顕微鏡像である。
図3~8の電子顕微鏡像に示される通り、実施例1~6では、大半が塊になっておらず、球状であり、且つ粒径が1μm未満のポリマーナノ粒子を安定的に製造できることが確認された。
【0087】
実施例1~実施例6で作製されたポリマーナノ粒子に対し、それぞれのポリマーナノ粒子の3箇所の走査電子顕微鏡像を得て、視野中の150個のポリマーナノ粒子の粒径を測定し、その平均を算出することで平均粒径を求めた。また、測定したポリマーナノ粒子の粒径の標準偏差を平均粒径で除することで、実施例1~実施例6のポリマーナノ粒子の変動係数を算出した。
【0088】
(平均分子量の測定)
実施例1~実施例3で作製されたポリマーナノ粒子に対し、HLC-8321GPC/HT(東ソー株式会社製品名)、カラムはTSKgelguardcolumnHHR(30)HT×1本+TSKgel GMHHR―H(20)HT×3本(東ソー株式会社製品名)、溶媒に1,2,4-トリクロロベンゼンを用い、流速を1.0mL/min、カラム温度を140℃、収集時間を0分~50分に設定し、収集時間20分~34分に現れるピークを解析することにより、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び多分散度Mw/Mnを求めた。
【0089】
実施例4~実施例5で作製されたポリマーナノ粒子に対し、HLC-8320GPC(東ソー株式会社製品名)、カラムはTSKgel GMHHR―H×2本(東ソー株式会社製品名)、溶媒にテトラヒドロフランを用い、流速を1.0mL/min、カラム温度を40℃、収集時間を5分~30分に設定し、収集時間10分~18分に現れるピークを解析することにより、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び多分散度Mw/Mnを求めた。
【0090】
実施例6で作製されたポリマーナノ粒子に対し、HLC-8420GPC(東ソー株式会社製品名)、カラムはTSKgel Super AWM-H×2本(東ソー株式会社製品名)、溶媒に1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールを用い、流速を0.3mL/min、カラム温度を40℃、収集時間を5分~25分に設定し、収集時間10分~18分に現れるピークを解析することにより、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及び多分散度Mw/Mnを求めた。
【0091】
(平均円形度の測定)
実施例1~実施例6で作製されたポリマーナノ粒子に対し、それぞれのポリマーナノ粒子の3箇所の走査電子顕微鏡像を得て、視野中の150個のポリマーナノ粒子の円形度を画像解析ソフト(imageJ バージョン1.53c)で測定し、その平均を算出することで、平均円形度を求めた。
【0092】
(作製効率の測定)
実施例1~6において、添加した熱可塑性樹脂の重量を、添加溶液における熱可塑性樹脂濃度と添加した溶液重量を乗ずることにより求めた。また実施例1~6で作製したポリマーナノ粒子に対し、0.25mmフィルター、および2μmフィルターで濾過して粗大粒子(凝集物)を除いた上で、作製されたポリマー粒子の重量を電子天秤で秤量し求めた。原料として添加した熱可塑性樹脂の重量に対する作製されたポリマーナノ粒子の重量の割合を計算することで作製効率(%)を求めた。
【0093】
実施例1~実施例6で作製されたポリマーナノ粒子の平均粒径、平均粒径の変動係数、数平均分子量、重量平均分子量、多分散度および平均円形度を測定した結果を、表2に示す。
【0094】
【0095】
表2に示される通り、実施例1~実施例6で作製されたポリマーナノ粒子の平均粒径は、いずれも1μm未満であった。また、実施例1~実施例6では、重量平均分子量が3.0×104~26×104であり、平均分子量の大きいポリマーナノ粒子であることが確認された。
【0096】
(不純物濃度の分析)
実施例1~実施例6で作製されたポリマーナノ粒子に対し、マルチショット・パイロライザー(フロンティア・ラボ株式会社製、型番:EGA/PY-2020iD)を接続したガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所社製、型番:GCMS-QP2010plus)、カラムはUltra Alloy Capillary column(フロンティア・ラボ株式会社製、型番:UA5-30M-0.25F)を用い、それぞれのポリマーナノ粒子について300℃における脱離物を分析し、標準物質を用いた標準添加法で定量することにより、不純物濃度を求めた。
その結果、実施例1~実施例6のポリマーナノ粒子の不純物濃度は、いずれも0.01%以下であり、実施例1~6のポリマーナノ粒子は、熱可塑性樹脂からなるポリマーナノ粒子であることが確認された。
【0097】
[製造例1]
エタノールのみからなる分散溶媒を用いた点を除き、実施例4と同様の方法で、ポリスチレンからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0098】
[製造例2]
分散溶媒中の水の比率を35質量%に変更した点を除き、実施例4と同様の方法で、ポリスチレンからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0099】
[製造例3]
分散溶媒中の水の比率を20質量%に変更した点を除き、実施例5と同様の方法で、ポリ塩化ビニルからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0100】
[製造例4]
分散溶媒中の水の比率を37.5質量%に変更した点を除き、実施例5と同様の方法で、ポリ塩化ビニルからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0101】
[実施例7]
分散溶媒中の水の比率を40質量%に変更した点を除き、実施例6と同様の方法で、ポリエチレンテレフタラートからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0102】
[製造例5]
分散溶媒中の水の比率を60質量%に変更した点を除き、実施例6と同様の方法で、ポリエチレンテレフタラートからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0103】
[比較例1]
分散溶媒を水のみからなる分散溶媒に変更した点を除き、実施例6と同様の方法で、ポリエチレンテレフタラートからなるポリマーナノ粒子を製造した。
【0104】
実施例7、製造例1~5および比較例1において、ポリマーナノ粒子を作製した際の条件を表3に纏める。
【0105】
【0106】
図9~
図12は、製造例1~製造例4で製造したポリマーの粒子を走査電子顕微鏡で観察した電子顕微鏡像である。製造例1のポリマーナノ粒子は、全体的に、周囲のポリマーナノ粒子に付着していることが確認された。製造例2のポリマー粒子は、10μmほどの塊が形成されたことが確認された。第一有機溶媒であるトルエンの水への分散性が悪かったため、このような塊が形成されたと考えられる。製造例3のポリマーナノ粒子は、全体的に周囲のポリマーナノ粒子に付着していることが確認された。製造例4では、一部のポリマーナノ粒子が細長い形状をしていることが確認された。この原因は、第一有機溶媒であるシクロヘキサノンの水への分散性が悪いためだと考えられる。製造例4のポリマーナノ粒子の平均円形度を実施例1~実施例6と同様の方法で測定したところ、0.56であった。
【0107】
熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタラートを用いた、実施例7、製造例5および比較例1で作製したポリマーナノ粒子を観察したところ、比較例1では、凝集して数mm程度の大きさとなっている粒子が確認された。これに対し、実施例7では、凝集して数mm程度の大きさとなっている粒子はほとんど確認されず、ほぼすべての粒子がnmスケールの大きさであり、ナノ粒子を安定的に製造できていることが確認された。
【0108】
熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタラートを用いた、実施例7,製造例5および比較例1で作製したポリマーナノ粒子に対し、実施例1~実施例6と同様の方法で作製効率を求めた。その結果、実施例7、製造例5および比較例1のそれぞれのポリマーナノ粒子の作製効率は、100%、37%、93%であった。実施例6,7は、分散溶媒として水のみを用いた比較例1よりも作製効率が高く、分散溶媒として水と少量の有機溶媒からなる液体を用いた製造例5は、比較例1よりも作製効率が低いことが確認された。
【0109】
図13、
図14および
図15は、それぞれ実施例7,製造例5および比較例1において、作製効率を求めるために用いたフィルターの画像である。作製効率の低い実験例ほど、凝集した大きい塊状の粒子がフィルターで取り除かれていることが確認された。
本発明のポリマーナノ粒子の製造方法では、標準物質粒子としての均一且つ均質なポリマーナノ粒子を安全かつ安定的に製造することが可能である。また、本製造方法で得られるポリマーナノ粒子は、計測又は分析用の標準物質として有用であり、特に、ナノオーダーサイズの標準物質が存在しないために評価することが難しかった、海洋におけるナノプラスチックの存在量の測定ならびに毒性の評価に極めて有用である。
また、本製造方法で得られるポリマーナノ粒子は、汎用エンプラを含む所定の熱可塑性樹脂からなり、且つ形状および粒径が均一なナノ粒子であり、計測又は分析のみならず、製造業などの各種産業への活用が期待される。