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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060769
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】ペロブスカイト層の結晶状態検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20230421BHJP
   H02S 50/15 20140101ALI20230421BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
G01N21/27 A
H02S50/15
H01L21/66 L
H01L21/66 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170557
(22)【出願日】2021-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(71)【出願人】
【識別番号】000106760
【氏名又は名称】CKD株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591209280
【氏名又は名称】株式会社フジコー
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 修二
(72)【発明者】
【氏名】野田 尚彦
(72)【発明者】
【氏名】林 雅博
(72)【発明者】
【氏名】野村 隆利
(72)【発明者】
【氏名】野村 大志郎
(72)【発明者】
【氏名】廣谷 太佑
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅規
(72)【発明者】
【氏名】平見 朋之
(72)【発明者】
【氏名】久我 敬之
(72)【発明者】
【氏名】可兒 聡
(72)【発明者】
【氏名】笹原 新平
【テーマコード(参考)】
2G059
4M106
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
2G059AA03
2G059AA05
2G059BB08
2G059CC03
2G059CC12
2G059DD12
2G059DD16
2G059EE02
2G059EE13
2G059FF04
2G059GG02
2G059GG03
2G059HH02
2G059KK03
2G059KK04
2G059KK05
2G059LL04
2G059MM01
2G059MM05
2G059MM10
2G059NN01
2G059PP04
4M106AA10
4M106AB09
4M106BA04
4M106CA19
4M106CA21
4M106DH12
4M106DH31
4M106DH37
4M106DJ04
4M106DJ20
4M106DJ23
4M106DJ27
4M106DJ38
5F151AA11
5F151KA09
5F251AA11
5F251KA09
(57)【要約】
【課題】太陽電池等の製造ラインにおいてペロブスカイト層の結晶状態をインライン検査することのできる結晶状態検査装置を提供する。
【解決手段】基材に塗布されたペロブスカイト層の原料液から形成された対象膜(W)に光を照射する照射部(21,22)と、照射部により照射された光が対象膜により反射された反射光を受光する受光部(31,32)と、受光部により受光された反射光に含まれる所定波長の光の強度に基づいて、対象膜の結晶状態を評価する評価部(41)と、を備える、ペロブスカイト層の結晶状態検査装置(10)。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に塗布されたペロブスカイト層の原料液から形成された対象膜に光を照射する照射部と、
前記照射部により照射された前記光が前記対象膜により反射された反射光を受光する受光部と、
前記受光部により受光された前記反射光に含まれる所定波長の光の強度に基づいて、前記対象膜の結晶状態を評価する評価部と、
を備える、ペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【請求項2】
前記評価部は、前記受光部により受光された前記反射光に含まれる赤色光の強度が第1閾値よりも小さい場合に、前記対象膜の結晶状態が3次元構造結晶状態であると評価する、請求項1に記載のペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【請求項3】
前記受光部は、前記照射部により照射された前記光が前記対象膜により反射された反射光を逐次受光し、
前記評価部は、前記受光部により逐次受光された前記反射光に含まれる赤色光の強度が前回の強度よりも低下した時に、前記対象膜において3次元構造結晶ができ始めたと評価する、請求項1又は2に記載のペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【請求項4】
前記評価部は、前記受光部により受光された前記反射光に含まれる緑色光の強度が第2閾値よりも小さい場合に、前記対象膜においてペロブスカイト中間体が形成されていると評価する、請求項1~3のいずれか1項に記載のペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【請求項5】
前記受光部は、前記照射部により照射された前記光が前記対象膜により反射された反射光を逐次受光し、
前記評価部は、前記受光部により逐次受光された前記反射光に含まれる緑色光の強度が前回の強度よりも低下した時に、前記対象膜においてペロブスカイト中間体ができ始めたと評価する、請求項1~4のいずれか1項に記載のペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【請求項6】
前記評価部は、前記受光部により受光された前記反射光に含まれる青色光の強度が第3閾値よりも小さい場合に、前記対象膜においてペロブスカイト中間体が形成されていると評価する、請求項1~5のいずれか1項に記載のペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【請求項7】
前記評価部は、前記ペロブスカイト層のアニール工程が開始されたタイミングを起点として、前記照射部により前記対象膜に前記光を照射し前記受光部により受光された前記反射光に含まれる赤色光の強度が第4閾値よりも小さくなるまでの時間から、同じく前記ペロブスカイト層のアニール工程が開始されたタイミングを起点として、前記照射部により前記対象膜に前記光を照射し前記受光部により受光された前記反射光に含まれる緑色光の強度が第5閾値よりも小さくなるまでの時間を引いた差が、正の値であり且つ所定値よりも小さく、且つ、
同じく前記ペロブスカイト層のアニール工程が開始されたタイミングを起点として、前記照射部により前記対象膜に前記光を照射し前記受光部により受光された前記反射光に含まれる赤色光の強度が前記第4閾値よりも小さくなるまでの時間から、同じく前記ペロブスカイト層のアニール工程が開始されたタイミングを起点として、前記照射部により前記対象膜に前記光を照射し前記受光部により受光された前記反射光に含まれる青色光の強度が第6閾値よりも小さくなるまでの時間を引いた差が、正の値であり且つ前記所定値よりも小さい場合に、前記対象膜の光電変換効率が所定効率よりも高いと評価する、請求項1~6のいずれか1項に記載のペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【請求項8】
前記照射部により照射された前記光が前記対象膜の複数箇所により反射された反射光をそれぞれ受光する前記受光部を備え、
前記評価部は、前記受光部によりそれぞれ受光された前記反射光に含まれる所定波長の光の強度に基づいて、前記対象膜の前記複数箇所の結晶状態を評価する、請求項1~7のいずれか1項に記載のペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【請求項9】
前記照射部により照射された前記光の強度を検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記強度に基づいて、前記照射部の劣化を判定する判定部と、を備える、請求項1~8のいずれか1項に記載のペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【請求項10】
前記ペロブスカイト層の一般式は、ABX3で表され、
前記Aは、アルカリ金属イオン、ルビジウムイオン、メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、フォルムアミジウムイオン、グアニジウムイオン、及びアルキルアンモニウムイオンの少なくとも1つであり、
前記Bは、IV族元素のゲルマニウムイオン(Ge2+)、スズイオン(Sn2+)、鉛イオン(Pb2+)、III族元素のインジウムイオン(In3+)、及びV族元素のアンチモン(Sb)の少なくとも1つであり、
前記Xは、VII族元素のフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)の少なくとも1つである、請求項1~9のいずれか1項に記載のペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【請求項11】
メチルアンモニウムイオン(MA+)、鉛イオン(Pb2+)、ヨウ素イオン(I-)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)として、
前記原料液は、MAI及びPbI2がDMSOを含む溶媒に溶かされた溶液である、請求項1~10のいずれか1項に記載のペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【請求項12】
メチルアンモニウムイオン(MA+)、鉛イオン(Pb2+)、ヨウ素イオン(I-)、ジメチルスルホキシド(DMSO)として、
前記ペロブスカイト中間体は、MA2Pb3I8・2(DMSO)である、請求項4~6のいずれか1項に記載のペロブスカイト層の結晶状態検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池等に用いられるペロブスカイト層の結晶状態を検査する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池に用いられる透明導電膜の膜厚を分析する装置がある(特許文献1参照)。特許文献1に記載の装置では、透明導電膜に光を照射し、反射した光を少なくとも2つの波長に分光し、これらの波長の光強度を演算することにより、透明導電膜の膜厚を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4544846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ペロブスカイト層を用いた太陽電池の製造ラインにおいてペロブスカイト層の結晶状態を、製造ラインを稼働させている状態でリアルタイム検査する、すなわちインライン検査する装置は、未だ実用化されていない。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、太陽電池等の製造ラインにおいてペロブスカイト層の結晶状態をインライン検査することのできる結晶状態検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の手段は、ペロブスカイト層の結晶状態検査装置であって、
基材に塗布されたペロブスカイト層の原料液から形成された対象膜に光を照射する照射部と、
前記照射部により照射された前記光が前記対象膜により反射された反射光を受光する受光部と、
前記受光部により受光された前記反射光に含まれる所定波長の光の強度に基づいて、前記対象膜の結晶状態を評価する評価部と、
を備える。
【0007】
上記構成によれば、基材に塗布されたペロブスカイト層の原料液から対象膜が形成されている。照射部は、対象膜に光を照射する。受光部は、前記照射部により照射された前記光が前記対象膜により反射された反射光を受光する。
【0008】
ここで、本願発明者は、ペロブスカイト層の原料液からペロブスカイト層が形成される際に、受光部により受光された前記反射光に含まれる所定波長の光の強度が、ペロブスカイト層の結晶状態に応じて変化することに着目した。この点、評価部は、前記受光部により受光された前記反射光に含まれる所定波長の光の強度に基づいて、前記対象膜の結晶状態を評価する。したがって、ペロブスカイト層の結晶状態を非破壊で検査することができるため、太陽電池等の製造ラインにおいてペロブスカイト層の結晶状態をインライン検査することができる。
【0009】
第2の手段では、前記評価部は、前記受光部により受光された前記反射光に含まれる赤色光の強度が第1閾値よりも小さい場合に、前記対象膜の結晶状態が3次元構造結晶状態であると評価する。
【0010】
本願発明者は、ペロブスカイト層の原料液からペロブスカイト層が形成される際に、受光部により受光された前記反射光に含まれる赤色光の強度が、ペロブスカイト層における3次元構造結晶(ペロブスカイト構造)の形成量に応じて変化することに着目した。詳しくは、ペロブスカイト層において、3次元構造結晶ができ始めると反射光に含まれる赤色光の強度が低下し始め、3次元構造結晶ができあがると赤色光の強度が0に近くなる。したがって、前記評価部は、前記受光部により受光された前記反射光に含まれる赤色光の強度が第1閾値よりも小さい場合に、前記対象膜の結晶状態が3次元構造結晶状態(ペロブスカイト構造が支配的)であると評価することにより、対象膜が3次元構造結晶状態になったことを特定することができる。
【0011】
第3の手段では、前記受光部は、前記照射部により照射された前記光が前記対象膜により反射された反射光を逐次受光し、前記評価部は、前記受光部により逐次受光された前記反射光に含まれる赤色光の強度が前回の強度よりも低下した時に、前記対象膜において3次元構造結晶ができ始めたと評価する。
【0012】
上記構成によれば、前記受光部は、前記照射部により照射された前記光が前記対象膜により反射された反射光を逐次受光する。本願発明者は、ペロブスカイト層において、3次元構造結晶ができ始めると反射光に含まれる赤色光の強度が低下し始めることに着目した。したがって、前記評価部は、前記受光部により逐次受光された前記反射光に含まれる赤色光の強度が前回の強度よりも低下した時に、前記対象膜において3次元構造結晶ができ始めたと評価することにより、前記対象膜において3次元構造結晶ができ始めた時点を特定することができる。
【0013】
第4の手段では、前記評価部は、前記受光部により受光された前記反射光に含まれる緑色光の強度が第2閾値よりも小さい場合に、前記対象膜においてペロブスカイト中間体が形成されていると評価する。
【0014】
本願発明者は、ペロブスカイト層の原料液からペロブスカイト層が形成される際に、受光部により受光された前記反射光に含まれる緑色光の強度が、ペロブスカイト層におけるペロブスカイト中間体の有無に応じて変化することに着目した。詳しくは、ペロブスカイト層において、ペロブスカイト中間体ができ始めると反射光に含まれる緑色光の強度が低下し始め、ペロブスカイト中間体ができあがると緑色光の強度が0に近くなる。したがって、前記評価部は、前記受光部により受光された前記反射光に含まれる緑色光の強度が第2閾値よりも小さい場合に、前記対象膜においてペロブスカイト中間体が形成されている(大部分がペロブスカイト中間体に変化している)と評価することにより、対象膜がペロブスカイト中間体になったことを特定することができる。なお、ペロブスカイト中間体から3次元構造結晶状態に移行することによりペロブスカイト中間体が減少しても、反射光に含まれる緑色光の強度は0に近い状態で維持される。
【0015】
第5の手段では、前記受光部は、前記照射部により照射された前記光が前記対象膜により反射された反射光を逐次受光し、前記評価部は、前記受光部により逐次受光された前記反射光に含まれる緑色光の強度が前回の強度よりも低下した時に、前記対象膜においてペロブスカイト中間体ができ始めたと評価する。
【0016】
上記構成によれば、前記受光部は、前記照射部により照射された前記光が前記対象膜により反射された反射光を逐次受光する。本願発明者は、ペロブスカイト層において、ペロブスカイト中間体ができ始めると反射光に含まれる緑色光の強度が低下し始めることに着目した。したがって、前記評価部は、前記受光部により逐次受光された前記反射光に含まれる緑色光の強度が前回の強度よりも低下した時に、前記対象膜においてペロブスカイト中間体ができ始めたと評価することにより、前記対象膜においてペロブスカイト中間体ができ始めた時点を特定することができる。
【0017】
第6の手段では、前記評価部は、前記受光部により受光された前記反射光に含まれる青色光の強度が第3閾値よりも小さい場合に、前記対象膜においてペロブスカイト中間体が形成されていると評価する。
【0018】
本願発明者は、ペロブスカイト層の原料液からペロブスカイト層が形成される際に、受光部により受光された前記反射光に含まれる青色光の強度が、ペロブスカイト層におけるペロブスカイト中間体の有無に応じて変化することに着目した。詳しくは、ペロブスカイト層において、ペロブスカイト中間体ができあがると反射光に含まれる青色光の強度が0に近くなる。したがって、前記評価部は、前記受光部により受光された前記反射光に含まれる青色光の強度が第3閾値よりも小さい場合に、前記対象膜においてペロブスカイト中間体が形成されている(大部分がペロブスカイト中間体に変化している)と評価することにより、対象膜がペロブスカイト中間体になったことを特定することができる。なお、ペロブスカイト中間体から3次元構造結晶状態に移行することによりペロブスカイト中間体が減少しても、反射光に含まれる青色光の強度は0に近い状態で維持される。
【0019】
本願発明者は、対象膜においてペロブスカイト中間体が形成されてから3次元構造結晶が形成されるまでの時間が短いほど、対象膜の光電変換効率が高いことに着目した。
【0020】
この点、第7の手段では、前記評価部は、前記ペロブスカイト層のアニール工程が開始されたタイミングを起点として、前記照射部により前記対象膜に前記光を照射し前記受光部により受光された前記反射光に含まれる赤色光の強度が第4閾値よりも小さくなるまでの時間から、同じく前記ペロブスカイト層のアニール工程が開始されたタイミングを起点として、前記照射部により前記対象膜に前記光を照射し前記受光部により受光された前記反射光に含まれる緑色光の強度が第5閾値よりも小さくなるまでの時間を引いた差が、正の値であり且つ所定値よりも小さく、且つ、同じく前記ペロブスカイト層のアニール工程が開始されたタイミングを起点として、前記照射部により前記対象膜に前記光を照射し前記受光部により受光された前記反射光に含まれる赤色光の強度が前記第4閾値よりも小さくなるまでの時間から、同じく前記ペロブスカイト層のアニール工程が開始されたタイミングを起点として、前記照射部により前記対象膜に前記光を照射し前記受光部により受光された前記反射光に含まれる青色光の強度が第6閾値よりも小さくなるまでの時間を引いた差が、正の値であり且つ前記所定値よりも小さい場合に、前記対象膜の光電変換効率が所定効率よりも高いと評価する。こうした構成によれば、対象膜においてペロブスカイト中間体が形成され始めてから3次元構造結晶が形成され終わるまでの時間が所定値よりも小さい場合に、対象膜の光電変換効率が所定変換効率よりも高いと評価することにより、対象膜の光電変換効率が所定変換効率よりも高いことを特定することができる。
【0021】
第8の手段では、前記照射部により照射された前記光が前記対象膜の複数箇所により反射された反射光をそれぞれ受光する前記受光部を備え、前記評価部は、前記受光部によりそれぞれ受光された前記反射光に含まれる所定波長の光の強度に基づいて、前記対象膜の前記複数箇所の結晶状態を評価する。こうした構成によれば、対象膜の複数箇所の結晶状態を一度に評価することができるため、大型の対象膜の検査を可能にしたり、検査を高速化したりすることができる。
【0022】
前記照射部により照射された前記光の強度が経時変化等が原因で低下した場合、前記受光部により受光される反射光の強度が低下する。この場合、反射光に含まれる所定波長の光の強度に基づいて前記対象膜の結晶状態を評価する評価部が、結晶状態を誤評価するおそれがある。
【0023】
この点、第9の手段では、前記照射部により照射された前記光の強度を検出する検出部と、前記検出部により検出された前記強度に基づいて、前記照射部の劣化を判定する判定部と、を備える。こうした構成によれば、照射部の劣化を判定することができるため、照射部の劣化に起因する結晶状態の誤評価を抑制することができる。
【0024】
具体的には、第10の手段のように、前記ペロブスカイト層の一般式は、ABX3で表され、前記Aは、アルカリ金属イオン、ルビジウムイオン、メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、フォルムアミジウムイオン、グアニジウムイオン、及びアルキルアンモニウムイオンの少なくとも1つであり、前記Bは、IV族元素のゲルマニウムイオン(Ge2+)、スズイオン(Sn2+)、鉛イオン(Pb2+)、III族元素のインジウムイオン(In3+)、及びV族元素のアンチモン(Sb)の少なくとも1つであり、前記Xは、VII族元素のフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)の少なくとも1つである、といった構成を採用することができる。
【0025】
具体的には、第11の手段のように、メチルアンモニウムイオン(MA+)、鉛イオン(Pb2+)、ヨウ素イオン(I-)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)として、前記原料液は、MAI及びPbI2がDMSOを含む溶媒に溶かされた溶液である、といった構成を採用することができる。
【0026】
具体的には、第12の手段のように、メチルアンモニウムイオン(MA+)、鉛イオン(Pb2+)、ヨウ素イオン(I-)、ジメチルスルホキシド(DMSO)として、前記ペロブスカイト中間体は、MA2Pb3I8・2(DMSO)である、といった構成を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】検査装置を示す模式図。
図2】光源とカメラの配置を示す模式図。
図3】塗布直後において反射光に含まれるR光(赤色光)、G光(緑色光)、B光(青色光)の階調を示すグラフ。
図4】ペロブスカイト中間体の増加中において反射光に含まれるRGB光の強度を示すグラフ。
図5】ペロブスカイト中間体ができあがり3次元構造結晶増加中において反射光に含まれるRGB光の強度を示すグラフ。
図6】3次元構造結晶ができあがった状態において反射光に含まれるRGB光の強度を示すグラフ。
図7】MA(メチルアンモニウム)に対するFA(ホルムアミジウム)の混合比と飽和時間と光電変換効率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、ペロブスカイト太陽電池で用いられるペロブスカイト層の結晶状態を検査する検査装置に具現化した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1に示すように、検査装置10(結晶状態検査装置)は、搬送装置11、光源21,22、カメラ31,32、評価部41、表示部42、位置センサ43、エンコーダ44等を備えている。
【0030】
搬送装置11は、被検査対象となるワークWを水平状態に保って、搬送方向(Y方向)に搬送する。ワークWは、例えば基材(ガラス基板或いはフレキシブル基板等)上に、基材側から透明導電膜、電子輸送層または正孔輸送層、ペロブスカイト層(光電変換層、対象層)、正孔輸送層または電子輸送層、電極が積層されて形成されている。搬送装置11は、ワークWの2辺を搬送方向と略平行にして搬送する。なお、以下の説明に際し、搬送方向をY方向、これに水平面内で直交する方向をX方向と記載する場合がある。
【0031】
光源21,22(照射部)は、搬送装置11の上方に、ワークWのX方向の2つの位置をそれぞれ照らすように固定されている。光源21,22から照射された光は、斜めからワークWへ入射して例えばスポット状に表面を照らす。光源21,22は、青色光、緑色光、及び赤色光を含む可視光(波長380~800[nm])を出射する光源であり、例えばハロゲンランプや、蛍光灯、LED等を採用することができる。
【0032】
カメラ31,32(受光部)は、それぞれ光源21,22に対応して設けられている。カメラ31,32は、可視光を撮影可能なカラーカメラである。カメラ31,32は、ワークWにおいて光源21,22によってそれぞれ照らされた位置を撮影するように、搬送装置11の上方に固定されている。カメラ31,32は、光源21,22により照射された光がワークWにより反射された反射光を受光するように、斜めに配置されている。
【0033】
図2は、1組の光源21とカメラ31の配置を示す模式図である。光源21は、光の入射方向と搬送方向Yに直交する直交面Vとがなす角度(入射角)が角度θ1になるように配置されている。角度θ1は、例えば15~75[°]である。一方、カメラ31は、その直交面Vとなす角度(反射角)がθ2となる反射光を受光するように配置されている。角度θ2は、例えば15~75[°]である。角度θ1と角度θ2とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。1組の光源22とカメラ32の配置も、1組の光源21とカメラ31の配置と同様である。
【0034】
カメラ31,32の焦点位置は、ワークWの上側表面に設定されている。カメラ31,32の焦点を、ワークWの上側表面に合わせることで、表面以外、特にガラス基板のペロブスカイト層と反対側の表面で反射した散乱反射光を受光することが防止されるため、より正確な検査を行うことができる。
【0035】
なお、光源21,22から照射された光が、ワークWで反射してカメラ31,32に入射するまでの光学系は、黒色化するなど光を透過や反射しにくくした筐体等によって遮光されている。その光学系が遮光されていることで、外部からの光の影響を受けず、正確な検査を行うことができる。
【0036】
図1に戻り、カメラ31,32は評価部41に接続されている。評価部41は、CPU、ROM、RAM、記憶装置、入出力インターフェース等を備えるマイコンとして構成されている。カメラ31,32は、評価部41からの指示に応答して、撮影した画像(受光画像信号)を評価部41へ送信する。この受光画像信号は、反射光に含まれる赤色光(赤色の波長)の強度(輝度)を示す赤色強度R(赤色の波長の強度)、緑色光(緑色の波長)の強度(輝度)を示す緑色強度G(緑色の波長の強度)、及び青色光(青色の波長)の強度(輝度)を示す青色強度B(青色の波長の強度)を含んでいる。各色の強度は、例えば0~255階調で示される。
【0037】
位置センサ43及びエンコーダ44は、評価部41に接続されている。位置センサ43は、搬送されてきたワークWの先端部分が、光源21,22からの光の入射位置、すなわち、カメラ31,32にて撮影する撮影位置に到達したか否かを検出する。位置センサ43は、ワークWがその撮影位置に到達したことを検出したら、検査スタート信号Sを生成して評価部41へ送信する。
【0038】
エンコーダ44は、設定回転角毎、すなわち、ワークWが設定距離移動する毎に、位置信号Pを発生して評価部41へ送信する。なお、エンコーダ44により、位置センサ43を兼ねることもできる。
【0039】
表示部42は、例えば液晶ディスプレイ等により構成されており、評価部41からの指令に基づいて検査結果を表示する。
【0040】
評価部41は、位置センサ43から検査スタート信号Sを受信した後に、位置信号Pを受信する毎に、トリガ信号Tをカメラ31,32へ送信する。カメラ31,32は、トリガ信号Tを受信する毎に撮影を行い、受光画像信号を評価部41へ送信する。評価部41は、検査スタート信号Sと位置信号Pとに基づいて、ワークWにおける位置(Y方向における座標位置)を算出する。そして、評価部41は、カメラ31,32から受信した受信画像信号と、算出した位置とを対応付けて記憶する。評価部41は、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる赤色光、緑色光、及び青色光の強度に基づいて、ワークWに含まれるペロブスカイト層の結晶状態を評価する。
【0041】
次に、ペロブスカイト層の形成方法について説明する。
【0042】
まず、ペロブスカイト層を形成するための光吸収剤溶液を調製する。ペロブスカイト層の一般式は、ABX3で表される。光吸収剤溶液(原料液)は、ペロブスカイト化合物の原料であるAXとBX2とを含有する。ここで、Aは、アルカリ金属イオン、ルビジウムイオン、メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、フォルムアミジウムイオン、グアニジウムイオン、及びアルキルアンモニウムイオンの少なくとも1つである。Bは、IV族元素のゲルマニウムイオン(Ge2+)、スズイオン(Sn2+)、鉛イオン(Pb2+)、III族元素のインジウムイオン(In3+)、及びV族元素のアンチモン(Sb)の少なくとも1つである。Xは、VII族元素のフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)の少なくとも1つである。
【0043】
この光吸収剤溶液において、所望するペロブスカイト層の特性に応じて、AXとBX2とのモル比が調整される。光吸収剤としてペロブスカイト化合物を形成する場合、AXとBX2とのモル比は、1:10~10:1であることが好ましい。この光吸収剤溶液は、AXとBX2とを所定のモル比で混合した後に加熱することにより、調製できる。この形成液は通常溶液であるが、懸濁液でもよい。加熱する条件は、特に限定されないが、加熱温度は30~200℃が好ましく、70~150℃がさらに好ましい。加熱時間は0.5~100分が好ましく、1~30分がさらに好ましい。
【0044】
光吸収剤溶液に使用される溶媒は、上記AX及びBX2を溶解することができる限り特に制限はないが、極性溶媒が好ましく、具体的には、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、イソプロパノール等が挙げられる。本実施形態では、メチルアンモニウムイオン(MA+)、鉛イオン(Pb2+)、ヨウ素イオン(I-)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)として、光吸収剤溶液は、MAI及びPbI2がDMSOを含む溶媒に溶かされた溶液である。
【0045】
次に、調製した光吸収剤溶液を、基材に成膜された透明導電膜の上に成膜された電子輸送層又は正孔輸送層の上に塗布する(塗布工程)。塗布方法としては、インクジェットプリント、スピンコート、スクリーン印刷、ロールコート、ディップコート、スプレーコート、ナイフコート、バーコート、ダイコート、カーテンコート等を採用することができる、本実施形態では、膜厚、製膜性等の観点から、スピンコートを採用している。スピンコートの条件は、所望の膜厚に応じて、適宜設定することができる。光吸収剤溶液が塗布されると、ペロブスカイト中間体ができ始める。本実施形態では、ペロブスカイト中間体は、MA2Pb3I8・2(DMSO)である。
【0046】
次に、塗布された光吸収剤溶液を加熱して乾燥させる(アニール工程、加熱工程)。加熱温度は、20~300℃であり、好ましくは50~170℃である。塗布された光吸収剤溶液が加熱されると、3次元構造結晶(ペロブスカイト構造)ができ始める。本実施形態では、3次元構造結晶は、MAPbI3(CH3NH3PbI3)である。なお、その他の3次元構造結晶としては、(CH3(CH2)NH3)PbI3、(CH3(CH2)2NH3)PbI3、(CH3(CH2)3NH3)PbI3等を採用することもできる。また、これらの2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0047】
光電変換膜の厚みは、低温(200℃以下)処理においても光電変換効率を向上させやすい観点から、10~5000[nm]が好ましく、100~1000[nm]がより好ましい。
【0048】
なお、上記AXを含有する溶液と、上記BX2を含有する溶液とを、別々に塗布し、必要により乾燥させてペロブスカイト層を形成する方法を採用することもできる。この方法では、いずれの溶液を先に塗布してもよいが、好ましくはBX2溶液を先に塗布する。この方法におけるAXとBX2とのモル比、塗布条件および乾燥条件は、上記方法と同じである。さらに他の方法として、上記光吸収剤溶液の溶剤を除去した化合物または混合物を用いた、真空蒸着等の乾式法を採用することもできる。例えば、上記AXおよび上記BX2を、同時または順次、蒸着させる方法が挙げられる。
【0049】
検査装置10は、上記塗布工程後のワークW、アニール工程中のワークW、アニール工程後のワークWのいずれかにおいて、ペロブスカイト層の結晶状態を評価する。
【0050】
図3は、塗布直後において反射光に含まれるR光(赤色光)、G光(緑色光)、B光(青色光)の階調を示すグラフである。なお、例えば赤色光(R光)の波長の中央値は700[nm]、緑色光(G光)の波長の中央値は546[nm]、青色光(B光)の波長の中央値は436[nm]である。以降のグラフにおいても、R光、G光、B光の波長は同様である。なお、各色の波長は、受光部(カラーカメラ或いはカラーセンサ)の受光素子の特性によって多少異なる。
【0051】
光吸収剤溶液の塗布直後は、塗布膜の状態は光吸収剤溶液と同様であり、ペロブスカイト中間体及び3次元構造結晶ができていない状態である。赤色光の強度は、略255階調(最大値)であり、ワークWは赤色光を高反射率で反射し、赤色光を吸収していない。緑色光の強度は、略255階調(最大値)であり、ワークWは緑色光を高反射率で反射し、緑色光を吸収していない。青色光の強度は、略128階調(中間値)であり、ワークWは青色光を中反射率で反射し、青色光をやや吸収している。
【0052】
図4は、ペロブスカイト中間体の増加中において反射光に含まれるRGB光の強度を示すグラフである。アニール工程が始まると、ペロブスカイト中間体ができ始めるが、3次元構造結晶はまだでき始めていない。ペロブスカイト中間体では、2次元的に電子が広がっており、電子の広がりが広いほど、緑色の長波域の光を吸収する。赤色光の強度は、略255階調(最大値)であり、ワークWは赤色光を吸収せず、赤色光を高反射率で反射している。ワークWは緑色光を吸収し始めるため、ワークWによる緑色光の反射率が低下し始める。これにより、緑色光の強度は、略255階調(最大値)から低下する。青色光は、アニール工程前の光吸収剤に吸収されて、その強度は略128階調(中間値)であり、ワークWは、青色光をやや吸収しているため、青色光を中反射率で反射している。
【0053】
図5は、ペロブスカイト中間体ができあがり3次元構造結晶増加中において反射光に含まれるRGB光の強度を示すグラフである。アニール工程が始まると、ペロブスカイト中間体ができ始め、ペロブスカイト中間体が3次元構造結晶に変化して3次元構造結晶ができ始める。3次元構造結晶では、ペロブスカイト結晶が3次元的に広がっており、ペロブスカイト中間体よりもさらに長波長の光を吸収する。ワークWは赤色光を吸収し始め、ワークWによる赤色光の反射率が低下し始める。これにより、赤色光の強度は、略255階調(最大値)から低下する。ワークWは、緑色光及び青色光を略吸収したまま、緑色光及び青色光を反射しない。これにより、緑色光及び青色光の強度は、閾値Thよりも低くなる。閾値Thは、例えば25階調(最大値の略1割)である。
【0054】
図6は、3次元構造結晶ができあがった状態において反射光に含まれるRGB光の強度を示すグラフである。アニール工程が終了すると、ペロブスカイト中間体の大分部が3次元構造結晶に変化し、3次元構造結晶ができあがる(支配的になる)。ワークWは、赤色光、緑色光、及び青色光を略吸収するため、赤色光、緑色光、及び青色光を略反射しなくなる。これにより、赤色光、緑色光、及び青色光の強度は、閾値Thよりも低くなる。閾値Thは、例えば25階調(最大値の略1割)である。ただし、ワークWに含まれるペロブスカイト層の結晶状態が正常(良好)でない場合は、上記の特性から外れることとなる。
【0055】
以上に基づいて、カメラ31,32は、光源21,22により照射された光がワークWにより反射された反射光を逐次受光し、評価部41は、カメラ31,32により逐次受光された反射光に含まれる緑色光の強度が前回の強度よりも低下した時に、ワークWにおいてペロブスカイト中間体ができ始めたと評価する。そして、評価部41は、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる緑色光の強度が閾値Th(第2閾値)よりも小さい場合に、ワークWにおいてペロブスカイト中間体が形成されていると評価する。
【0056】
また、評価部41は、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる青色光の強度が閾値Th(第3閾値)よりも小さい場合に、ワークWにおいてペロブスカイト中間体が形成されていると評価する。
【0057】
また、カメラ31,32は、光源21,22により照射された光がワークWにより反射された反射光を逐次受光し、評価部41は、カメラ31,32により逐次受光された反射光に含まれる赤色光の強度が前回の撮影時の強度よりも低下した時に、ワークWにおいて3次元構造結晶ができ始めたと評価する。そして、評価部41は、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる赤色光の強度が閾値Th(第1閾値)よりも小さい場合に、ワークWの結晶状態が3次元構造結晶状態であると評価する。
【0058】
図7は、MA(メチルアンモニウム)に対するFA(ホルムアミジウム)の混合比と飽和時間(ペロブスカイト中間体、ペロブスカイト結晶の3次元構造結晶の形成が完了するまでの時間)と光電変換効率との関係を示すグラフである。ペロブスカイト層において、ホルムアミジウム(FA)の混合比X、すなわちメチルアンモニウムの混合比(1-X)を変化させると、アニール工程を始めてから反射光に含まれるRGB光の強度が閾値Thよりも低くなるまでの飽和時間が変化する。RGBの各グラフは、アニール工程を始めてから反射光に含まれるRGB光の強度がそれぞれ閾値Thよりも低くなるまでの飽和時間を示している。
【0059】
G光の強度が閾値Th(第5閾値)よりも低くなるまでの飽和時間は、ペロブスカイト中間体ができあがるまでの時間を示している。B光の強度が閾値Th(第6閾値)よりも低くなるまでの飽和時間は、ペロブスカイト中間体ができあがるまでの時間を示している。R光の強度が閾値Th(第4閾値)よりも低くなるまでの飽和時間は、3次元構造結晶ができあがるまでの時間を示している。このため、R光の強度が閾値Thよりも低くなるまでの飽和時間から、G光の強度が閾値Thよりも低くなるまでの飽和時間を引いた時間差Δt1は、アニール工程が始まってからペロブスカイト中間体ができあがるまでの時間と、アニール工程が始まってから3次元構造結晶ができあがるまでの時間の差を示している。同様に、R光の強度が閾値Thよりも低くなるまでの飽和時間から、B光の強度が閾値Thよりも低くなるまでの飽和時間を引いた時間差Δt2は、アニール工程が始まってからペロブスカイト中間体ができあがるまでの時間と、アニール工程が始まってから3次元構造結晶ができあがるまでの時間の差を示している。なお、FAの混合比Xが0.4よりも大きくなると、G光に吸収を持つ相が形成されやすくなり、G光の強度が閾値Thよりも低くなるまでの飽和時間が長くなる。
【0060】
領域Aにおいて、完成したペロブスカイト層の光電変換効率が高くなることに、本願発明者は着目した。すなわち、本願発明者は、ワークWにおいてアニール工程が始まってからペロブスカイト中間体ができあがるまでの時間と、同じくアニール工程が始まってから3次元構造結晶ができあがるまでの時間の差が短いほど、ワークWの光電変換効率が高いことに着目した。領域Aでは、時間差Δt1が正の値であり且つ所定値よりも小さく、時間差Δt2が正の値であり且つ所定値よりも小さい。そこで、評価部41は、時間差Δt1が正の値であり且つ所定値よりも小さく、且つ、時間差Δt2が正の値であり且つ所定値よりも小さい場合に、ワークWの光電変換効率が所定効率よりも高いと評価する。
【0061】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0062】
・本願発明者は、光吸収剤溶液からペロブスカイト層が形成される際に、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる所定波長の光の強度が、ペロブスカイト層の結晶状態に応じて変化することに着目した。この点、評価部41は、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる所定波長の光の強度に基づいて、ワークW(ワークWに含まれる対象膜)の結晶状態を評価する。したがって、ペロブスカイト層の結晶状態を非破壊で検査することができるため、太陽電池等の製造ラインにおいてペロブスカイト層の結晶状態をインライン検査することができる。
【0063】
・本願発明者は、光吸収剤溶液からペロブスカイト層が形成される際に、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる赤色光の強度が、ペロブスカイト層における3次元構造結晶(ペロブスカイト構造)の有無に応じて変化することに着目した。詳しくは、ペロブスカイト層において、3次元構造結晶ができ始めると反射光に含まれる赤色光の強度が低下し始め、3次元構造結晶ができあがると赤色光の強度が0に近くなる。したがって、評価部41は、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる赤色光の強度が閾値Th(第1閾値)よりも小さい場合に、ワークWの結晶状態が3次元構造結晶状態(ペロブスカイト構造が支配的)であると評価することにより、ワークWが3次元構造結晶状態になったことを特定することができる。
【0064】
・カメラ31,32は、光源21,22により照射された光がワークWにより反射された反射光を逐次受光する。本願発明者は、ペロブスカイト層において、3次元構造結晶ができ始めると反射光に含まれる赤色光の強度が低下し始めることに着目した。したがって、評価部41は、カメラ31,32により逐次受光された反射光に含まれる赤色光の強度が前回の強度よりも低下した時に、ワークWにおいて3次元構造結晶ができ始めたと評価することにより、ワークWにおいて3次元構造結晶ができ始めた時点を特定することができる。
【0065】
・本願発明者は、光吸収剤溶液からペロブスカイト層が形成される際に、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる緑色光の強度が、ペロブスカイト層におけるペロブスカイト中間体の有無に応じて変化することに着目した。詳しくは、ペロブスカイト層において、ペロブスカイト中間体ができ始めると反射光に含まれる緑色光の強度が低下し始め、ペロブスカイト中間体ができあがると緑色光の強度が0に近くなる。したがって、評価部41は、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる緑色光の強度が閾値Th(第2閾値)よりも小さい場合に、ワークWにおいてペロブスカイト中間体が形成されている(大部分がペロブスカイト中間体に変化している)と評価することにより、ワークWがペロブスカイト中間体になったことを特定することができる。なお、ペロブスカイト中間体から3次元構造結晶状態に移行することによりペロブスカイト中間体が減少しても、反射光に含まれる緑色光の強度は0に近い状態で維持される。
【0066】
・カメラ31,32は、光源21,22により照射された光がワークWにより反射された反射光を逐次受光する。本願発明者は、ペロブスカイト層において、ペロブスカイト中間体ができ始めると反射光に含まれる緑色光の強度が低下し始めることに着目した。したがって、評価部41は、カメラ31,32により逐次受光された反射光に含まれる緑色光の強度が前回の強度よりも低下した時に、ワークWにおいてペロブスカイト中間体ができ始めたと評価することにより、ワークWにおいてペロブスカイト中間体ができ始めた時点を特定することができる。
【0067】
・本願発明者は、光吸収剤溶液からペロブスカイト層が形成される際に、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる青色光の強度が、ペロブスカイト層におけるペロブスカイト中間体の有無に応じて変化することに着目した。詳しくは、ペロブスカイト層において、ペロブスカイト中間体ができあがると反射光に含まれる青色光の強度が0に近くなる。したがって、評価部41は、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる青色光の強度が閾値Th(第3閾値)よりも小さい場合に、ワークWにおいてペロブスカイト中間体が形成されている(大部分がペロブスカイト中間体に変化している)と評価することにより、ワークWがペロブスカイト中間体になったことを特定することができる。なお、ペロブスカイト中間体から3次元構造結晶状態に移行することによりペロブスカイト中間体が減少しても、反射光に含まれる青色光の強度は0に近い状態で維持される。
【0068】
・本願発明者は、ワークWにおいてアニール工程が始まってからペロブスカイト中間体ができあがるまでの時間と、同じくアニール工程が始まってから3次元構造結晶ができあがるまでの時間の差が短いほど、ワークWの光電変換効率が高いことに着目した。この点、評価部41は、アニール工程が開始されたタイミングを起点として、光源21,22によりワークWに光を照射しカメラ31,32により受光された反射光に含まれる赤色光の強度が閾値Th(第4閾値)よりも小さくなるまでの時間から、同じくアニール工程が開始されたタイミングを起点として、光源21,22によりワークWに光を照射しカメラ31,32により受光された反射光に含まれる緑色光の強度が閾値Th(第5閾値)よりも小さくなるまでの時間を引いた時間差Δt1が、正の値であり且つ所定値よりも小さく、且つ、同じくアニール工程が開始されたタイミングを起点として、光源21,22によりワークWに光を照射しカメラ31,32により受光された反射光に含まれる赤色光の強度が閾値Thよりも小さくなるまでの時間から、同じくアニール工程が開始されたタイミングを起点として、光源21,22によりワークWに光を照射しカメラ31,32により受光された反射光に含まれる青色光の強度が閾値Th(第6閾値)よりも小さくなるまでの時間を引いた時間差Δt2が、正の値であり且つ所定値よりも小さい場合に、ワークWの光電変換効率が所定効率よりも高いと評価する。こうした構成によれば、ワークWにおいてアニール工程が開始されたタイミングを起点として、ペロブスカイト中間体が形成されるまでの時間と、同じくアニール工程が開始されたタイミングを起点として、3次元構造結晶が形成されるまでの時間の差が所定値よりも小さい場合に、ワークWの光電変換効率が所定変換効率よりも高いと評価することにより、ワークWの光電変換効率が所定変換効率よりも高いことを特定することができる。
【0069】
・光源21,22により照射された光がワークWの複数箇所により反射された反射光をそれぞれ受光するカメラ31,32を備え、評価部41は、カメラ31,32によりそれぞれ受光された反射光に含まれる所定波長の光の強度に基づいて、ワークWの複数箇所の結晶状態を評価する。こうした構成によれば、ワークWの複数箇所の結晶状態を一度に評価することができるため、大型のワークWの検査を可能にしたり、検査を高速化したりすることができる。
【0070】
なお、上記実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0071】
・上記実施形態では、光源21,22(照射部)は、搬送装置11の上方に、ワークWのX方向の2つの位置をそれぞれ照らすように固定されていた。これに対して、光源21,22(照射部)は、搬送装置11の上方に、ワークWのY方向の2つの位置をそれぞれ照らすように固定されていてもよい。そして、カメラ31,32(受光部)は、それぞれ光源21,22に対応して設けられていてもよい。この場合も、大型のワークWの検査を可能にしたり、検査を高速化したりすることができる。なお、X方向に複数の光源及びカメラを設け、且つY方向に複数の光源及びカメラを設けることもできる。また、光源及びカメラを1つずつのみ設けることもできる。
【0072】
・光源21,22により照射された光の強度が低下した場合、カメラ31,32により受光される反射光の強度が低下する。この場合、反射光に含まれる所定波長の光の強度に基づいてワークWの結晶状態を評価する評価部41が、結晶状態を誤評価するおそれがある。
【0073】
そこで、検査装置10は、光源21,22により照射された光の強度を検出する検出部51を備え、評価部41は、検出部51により検出された強度に基づいて、光源21,22の劣化を判定する判定部を備えていてもよい。こうした構成によれば、光源21,22の劣化を判定することができるため、光源21,22の劣化に起因する結晶状態の誤評価を抑制することができる。
【0074】
・ワークWの光電変換効率の評価を省略することもできる。
【0075】
・評価部41は、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる青色光の強度が閾値Th(第3閾値)よりも小さい場合に、ワークWにおいてペロブスカイト中間体が形成されていると評価することを省略することもできる。
【0076】
・評価部41は、カメラ31,32により逐次受光された反射光に含まれる緑色光の強度が前回の強度よりも低下した時に、ワークWにおいてペロブスカイト中間体ができ始めたと評価することを省略することもできる。
【0077】
・評価部41は、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる緑色光の強度が閾値Th(第2閾値)よりも小さい場合に、ワークWにおいてペロブスカイト中間体が形成されていると評価することを省略することもできる。
【0078】
・評価部41は、カメラ31,32により逐次受光された反射光に含まれる赤色光の強度が前回の強度よりも低下した時に、ワークWにおいて3次元構造結晶ができ始めたと評価することを省略することもできる。
【0079】
・評価部41は、カメラ31,32により受光された反射光に含まれる赤色光の強度が閾値Th(第1閾値)よりも小さい場合に、ワークWの結晶状態が3次元構造結晶状態であると評価することを省略することもできる。
【0080】
・すなわち、評価部41は、上記複数の評価のうち、少なくとも1つの評価を実行すればよい。
【0081】
・カメラ31,32に代えて、所定波長の光の強度を検出するカラーセンサを採用することもできる。カラーセンサとして、例えば赤色光、緑色光、及び青色光の強度をそれぞれ検出するセンサを採用することができる。
【0082】
・ワークWは、ガラス基板に限らず、樹脂基板、樹脂ロール、半導体基板等の上にペロブスカイト層を形成するものであってもよい。
【0083】
なお、上記の各変更例を組み合わせて実施することもできる。
【符号の説明】
【0084】
10…検査装置、21…光源(照射部)、22…光源(照射部)、31…カメラ(受光部)、32…カメラ(受光部)、41…評価部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7