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  • 特開-コンブ類の藻場造成方法 図1
  • 特開-コンブ類の藻場造成方法 図2
  • 特開-コンブ類の藻場造成方法 図3
  • 特開-コンブ類の藻場造成方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060792
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】コンブ類の藻場造成方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20230421BHJP
【FI】
A01G33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021185241
(22)【出願日】2021-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】594199315
【氏名又は名称】株式会社エコニクス
(72)【発明者】
【氏名】田中 禎孝
【テーマコード(参考)】
2B026
【Fターム(参考)】
2B026AA02
2B026AA05
2B026AB05
2B026AC03
2B026EA03
2B026FA05
2B026FB03
2B026JC02
(57)【要約】
【課題】コンブ類の種苗(遊走子)を効率的かつ確実に対象海域の海底に供給することができ、生態系への負荷が少ない藻場造成方法を提供する。
【解決手段】遊走子液への浸漬(どぶ漬け)作業の省力化・効率化を図るため、仮着生用の基質として小型軽量かつ生分解性である和紙製の紐を使用する。さまざまな形状をした本着生(二次着生)用の基質(石、岩、コンクリート、ロープ等)へ確実に装着できるよう、和紙製の紐を伸縮・変形自在なネット形状とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンブ類の遊走子液に小型軽量かつ生分解性である和紙製の紐を浸漬して種苗を仮着生させることを特徴とする藻場造成方法。
【請求項2】
仮着生させる和紙製の紐が伸縮・変形自在なネット形状であることを特徴とする請求項1に記載の藻場造成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩礁性海藻であるコンブ類の種苗(遊走子、とも言う)を固着させた和紙製の紐による藻場造成方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本各地の沿岸海域では、岩礁域からコンブ、ワカメなどの褐藻類が消失して石灰藻に覆われる「磯焼け」と呼ばれる現象が発生している。元来、藻場は魚類や底生動物などを育む「海のゆりかご」として重要な機能を有しており、磯焼けによる藻場の消失は、有用魚介類の資源量減少の一因になっていると考えられている。このため、近年では磯焼けが発生した海底に藻場を再度造成する装置、もしくは再度造成するための方法の開発が望まれており、すでに提案されている。
【0003】
その一例として、特許文献1記載の海藻類増殖具がある。コンブ母藻を生分解性の増殖具に収納して海底に沈め、母藻から放出される遊走子を増殖具の専用孔から海底に供給することを目的とする。この方法は、藻場造成地区の景観をほとんど損なうことがなく、増殖具の設置作業も非常に簡易ではあるが、遊走子の自然着生に依存していることから、設置初期時の不確定な自然的要素に大きく左右され、確実性の点で問題がある。また、増殖具は波の抵抗を受けやすい袋状であり、海底への固定も簡易的であることから、時化の際、母藻もしくは母藻から放出されて間もない浮遊中の遊走子が対象地区外へ流失しまう、といった問題がある。さらには、天然コンブの資源量が減少している状況下で大量の母藻を必要とするため、生態系への負荷が大きいといった問題がある。
【0004】
一方、非特許文献1にはコンブ遊走子を着生させた基質(石材)による藻場造成方法の記載がある。コンブ母藻を海水に漬けて遊走子を放出させた「遊走子液」を作成し、その中に石材をどぶ漬けと呼ばれる浸漬によって遊走子を着生させた後、その石材を海底に固定設置して海底に高密度の遊走子を供給することを目的とする。この方法は、上記(特許文献1)よりも確実に対象地区の海底へ遊走子を供給することが可能であり、母藻の必要量も大幅に縮減できるが、石材のどぶ漬け作業やその後の設置に関わる作業等に多くの労力を要するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-2074(P2016-2074A)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ホソメコンブ遊走子を付けた石材による新たな藻場造成手法の取組、地方独立行政法人北海道立総合研究機構 水産研究本部、北水試だより93(2016)、p.19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を鑑みなされたものである。コンブ類の遊走子液の中に小型軽量かつ生分解性の基質をどぶ漬けして仮着生させ、高密度の遊走子を対象地区の海底へ確実に供給する輸送媒体として本着生(二次着生)させる基質(石、岩、コンクリート、ロープ等)に装着することで、効率的で生態系への負荷が少ない藻場造成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1においては、遊走子液へのどぶ漬け作業の省力化・効率化を図るため、仮着生用の基質として小型軽量かつ生分解性素材である和紙製の紐を使用するものである。
【0009】
請求項2においては、さまざまな形状をした本着生用の基質(石、岩、コンクリート、ロープ等)へ確実に装着できるよう、仮着生基質を伸縮・変形自在なネット形状(紙ネット)とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、遊走子液へのどぶ漬け作業の省力化・効率化が図られる。
【0011】
また、高密度の遊走子を確実に対象海底の本着生基質へ供給することができ、回収作業は不要である。
【0012】
さらには、母藻の必要量が縮減され、生態系への負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る和紙製の紐(紙ネット)の外観図である。
図2】コンテナ内の海水に母藻をつけて遊走子液を作成している状態を示す図である。
図3】紙ネットをバケツ内の遊走子液へどぶ漬けし、遊走子を仮着生させている状態を示す図である。
図4】遊走子を仮着生させた紙ネットを本着生用の基質(岩や石)に装着した後、基質からコンブ類が繁茂している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示した紙ネット1は、一般的に市販されている和紙製の紐を袋状に加工したものである。通常は目合い10cm、13目×8.5目、重さ約0.03g/枚としているが、本着生用基質の形状に合わせて適宜調整する。
【0015】
事前にコンブ類の母藻を採取し、洗浄して水分を拭き取った後、新聞紙に包んで一晩静置する。そして、図2に示すように、静置した母藻2を海水3を入れたコンテナ内に1~2時間程度浸漬して遊走子を放出させ、濃度が1,000万個/リットル以上になるような遊走子液を作成する。
【0016】
図3に示すように、遊走子液4を必要に応じてバケツ等の容器に分注し、紙ネット1を一晩どぶ漬けして高密度の遊走子を仮着生させる。紙ネット1は小型かつ変形自在であることから、バケツのような小型容器でも一度に数十枚分を仮着生させることができる。
【0017】
図4に示すように、高密度の遊走子を仮着生させた紙ネット1を本着生用の基質5(岩や石)に装着し、目的地区の海底へ確実に遊走子を供給することにより、藻場の造成を促進する。なお、生分解性である紙ネット1は数か月間で完全に消失することから、藻場造成地区の景観を損なうことなく、環境を保全することができる。
【符号の説明】
【0018】
1 紙ネット
2 母藻
3 海水
4 遊走子液
5 本着生用基質
図1
図2
図3
図4