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特開2023-60794クランク構造及び当該クランク構造を備えたレシプロエンジン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060794
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】クランク構造及び当該クランク構造を備えたレシプロエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 75/32 20060101AFI20230421BHJP
   F01B 9/02 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
F02B75/32 B
F01B9/02
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189845
(22)【出願日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2021170243
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592173434
【氏名又は名称】株式会社日本ビデオセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100090239
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 始
(74)【代理人】
【識別番号】100100859
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 昌也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 忠美
(57)【要約】
【課題】容易にロングストローク化することが可能であって、簡潔な構造のクランク構造を提供すると共に、当該クランク構造を組み込んだレシプロエンジンを提供する。
【解決手段】クランク構造10は、コンロッド11の基端側に内歯車15aを備えた円環部15を設け、当該円環部内に内歯車と噛合する歯車16が転動自在に配され、当該歯車と同軸上で重合された円盤状の偏心フリーローター17が円環部内に滑動かつ回動自在に嵌合されている。歯車の直径と内歯車の内径との比は1:2であり、歯車を軸支しているクランクピン12とクランク軸間の距離、クランクアーム13の回転半径と、内歯車の内径の比は1:4である。これによって、コンロッドが往復運動するとき、内歯車の内径と同径でクランクアームが1回転する従来のクランク構造と比較して、コンロッドは従来の2倍の利得を得ることができるので、容易にロングストローク化させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒体状のコンロッドと、
当該コンロッドと係合するクランクピンを先端で回動自在に軸支するクランクアームと、
当該クランクアームの基端に接続されたクランク軸とからなり、
前記コンロッドの往復運動が、前記クランクアームを介して前記クランク軸の回転運動に変換されるクランク構造であって、
前記コンロッドの基端に、所定の内径を有する内歯車を備えた円環部を設け、
当該円環部内に、前記内歯車と噛合する歯車と、当該歯車に重ね合わせた円盤状で前記内歯車と略同径の偏心フリーローターを配設して、
前記クランクピンが、前記歯車と前記偏心フリーローターを回動自在に軸支し、
前記コンロッドを往復運動させたとき、前記歯車が前記内歯車に沿って転動し、
前記クランクピンを先端に有する前記クランクアームが、前記円環部内で周回して、
前記クランクアームの基端に接続している前記クランク軸を回動させると共に、
前記偏心フリーローターが、前記クランクアームが回転する方向と相反する方向へ、前記円環部内で回転するようにしたことを特徴とするクランク構造。
【請求項2】
前記内歯車の内径と前記歯車の直径の比が2対1であることを特徴とする請求項1に記載のクランク構造。
【請求項3】
前記偏心フリーローターの軸心を、短径と長径の比が1対3となる位置に設けたことを特徴とする請求項1に記載のクランク構造。
【請求項4】
ヘッド部に点火プラグと吸気口、排気口を備えた筒状のシリンダーと、
当該シリンダーに嵌合する円柱状のピストンと、
当該ピストンが先端に連結された棒体状のコンロッドと、
当該コンロッドと係合するクランクピンを先端で回動自在に軸支するクランクアームと、
当該クランクアームの基端に接続されたクランク軸とを有し、
前記吸気口から可燃性ガスを前記シリンダー内へ取り込む吸気工程と、
前記ピストンが前記可燃性ガスを前記シリンダーの前記ヘッド部側へ圧縮する圧縮工程と、
前記点火プラグが圧縮された前記可燃性ガスに点火して爆発又は燃焼させる爆発燃焼行程と、
前記可燃性ガスが爆発又は燃焼した後の排気ガスを前記排気口から排気する排気工程とからなる工程によって、
前記シリンダー内の前記ピストンの往復運動が、前記コンロッドの往復運動へ伝達され、
当該コンロッドの往復運動が、前記クランクアームを介して前記クランク軸の回転運動に変換されて、回転動力として出力されるようにしたレシプロエンジンにおいて、
前記コンロッドの基端に、所定の内径を有する内歯車を備えた円環部を設け、
当該円環部内に、前記内歯車と噛合する歯車と、当該歯車に重ね合わせた円盤状で前記内歯車と略同径の偏心フリーローターを配設して、
前記クランクピンが、前記歯車と前記偏心フリーローターを回動自在に軸支し、
前記コンロッドを往復運動させたとき、前記歯車が前記内歯車に沿って転動し、
前記クランクピンを先端に有する前記クランクアームが、前記円環部内で周回して、
前記クランクアームの基端に接続している前記クランク軸を回動させると共に、
前記偏心フリーローターが、前記クランクアームが回転する方向と相反する方向へ、前記円環部内で回転するようにしたことを特徴とするレシプロエンジン。
【請求項5】
前記内歯車の内径と前記歯車の直径の比が2対1であることを特徴とする請求項4に記載のレシプロエンジン。
【請求項6】
前記偏心フリーローターの軸心を、短径と長径の比が1対3となる位置に設けたことを特徴とする請求項4に記載のレシプロエンジン。
【請求項7】
前記コンロッドが、前記円環部を挟んで対向配置された一対のロッド部を有し、当該ロッド部の先端にそれぞれ前記ピストンが連結されていることを特徴とする請求項4に記載のレシプロエンジン。
【請求項8】
一対の前記ロッド部を備えた前記コンロッドと、当該ロッド部の先端にそれぞれ接続された一対の前記ピストン、及び当該ピストンを収めた一対の前記シリンダーからなる2気筒ユニットを備えていることを特徴とする請求項7に記載のレシプロエンジン。
【請求項9】
2つの前記2気筒ユニットからなる水平対向4気筒エンジンであることを特徴とする請求項8に記載のレシプロエンジン。
【請求項10】
4つの前記2気筒ユニットからなる水平対向8気筒エンジンであることを特徴とする請求項8に記載のレシプロエンジン。
【請求項11】
前記シリンダーの内径であるボアに対して、前記ピストンの上死点と下死点間の距離であるストロークを長く構成したロングストローク型であることを特徴とする請求項7に記載のレシプロエンジン。
【請求項12】
前記シリンダーの内径であるボアに対して、前記ピストンの上死点と下死点間の距離であるストロークを短く構成したショートストローク型であることを特徴とする請求項7に記載のレシプロエンジン。
【請求項13】
前記シリンダーの内径であるボアに対して、前記ピストンの上死点と下死点間の距離であるストロークを同長に構成したスクエア型であることを特徴とする請求項7に記載のレシプロエンジン。
【請求項14】
前記シリンダーを対向配置して一体成形したハウジング内に、前記ロッド部対を備えた前記コンロッドが収納されていることを特徴とする請求項11乃至請求項13のいずれかに記載のレシプロエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンロッドの往復運動を所定のリンク機構を介して回転運動へ変換するクランク構造と、当該クランク構造を備えたレシプロエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レシプロエンジンは、吸気、圧縮、爆発、排気の各工程によってピストンを動かし、当該ピストンに連結されているコンロッドの往復運動を所定のリンク機構でクランク軸の回転運動に変換して、回転動力を出力するように構成されている。
従来、ピストンはコンロッドの先端で回動自在に軸支され、ピストン及びコンロッド先端部の往復運動が、コンロッド基端部の回転運動に変換され、クランクピン、クランクアームからなるリンク機構を介してクランク軸の回転運動が伝達されている。
【0003】
また、特開2015-224745号に開示されているレシプロエンジンに於けるピストン運動の回転変換構造は、ピストンに固定したコンロッドと、直線運動を回転運動に変換する遊星歯車機構部と、その内歯車の中心位置で軸支される駆動軸と、から少なくとも構成し、遊星歯車機構部が、一対の内歯車と、各内歯車内で噛合すると共にそのピッチ円直径が内歯車の1/2である遊星歯車と、コンロッドとピンを介して軸支すると共に遊星歯車に固着した連結杆と、遊星歯車に固着すると共に駆動軸に固着した固定杆と、から成され、且つ、ピンの中心が常にコンロッドの軸心線上に位置するように配置されるように構成されている。これによって、ピストンの側圧がシリンダーに殆ど生じないものとなり、摩擦損失が軽減されると共に、エンジンの小型化や軽量化が可能なものとなり、更に振動や騒音の発生が減少するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-224745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のクランク構造の場合、コンロッドの基端側大径部がクランクアームの長さを半径とする円周に沿って回転している。そのため、コンロッドの上死点と下死点間の往復距離は、クランクアームの直径と等しい。これによって、往復距離を長くする、すなわち、ロングストローク化した場合、クランクアームを長くしなければならず、クランクケースが大型化する等の問題が生じるため、現状ではエンジンの設計段階でクランクアームの長さに制限がかかってしまうおそれがある。
【0006】
上記の問題に対して、上記の特開2016-075208号に開示されているピストン運動の回転変換構造は、クランクアームに替えて内歯車と遊星歯車機構からなる変換機構を設けて、従来のクランク構造におけるクランクアームの回転動作を、内歯車に内接して転動する遊星歯車の回転に変換し、ピストンを直線的に往復運動させると共に、当該往復運動にクランクアームの長さが影響しないように構成している。
しかしながら、上記の回転変換構造によれば、内歯車に内接している遊星歯車がピストンに加わる圧力によって内歯車からズレたり、滑ったりして正しく力を変換することができないおそれがある。また、回転返還構造に係る部品点数が多いことから、装置が複雑化して組立に手間暇及びコストがかかるおそれがある。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、容易にロングストローク化することが可能であって、簡潔な構造のクランク構造を提供すると共に、当該クランク構造を組み込んだレシプロエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のクランク構造は、棒体状のコンロッドと、
当該コンロッドと係合するクランクピンを先端で回動自在に軸支するクランクアームと、
当該クランクアームの基端に接続されたクランク軸とからなり、
前記コンロッドの往復運動が、前記クランクアームを介して前記クランク軸の回転運動に変換されるクランク構造であって、
前記コンロッドの基端に、所定の内径を有する内歯車を備えた円環部を設け、
当該円環部内に、前記内歯車と噛合する歯車と、当該歯車に重ね合わせた円盤状で前記内歯車と略同径の偏心フリーローターを配設して、
前記クランクピンが、前記歯車と前記偏心フリーローターを回動自在に軸支し、
前記コンロッドを往復運動させたとき、前記歯車が前記内歯車に沿って転動し、
前記クランクピンを先端に有する前記クランクアームが、前記円環部内で周回して、
前記クランクアームの基端に接続している前記クランク軸を回動させると共に、
前記偏心フリーローターが、前記クランクアームが回転する方向と相反する方向へ、前記円環部内で回転するようにしたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載のクランク構造は、請求項1に記載の発明において、前記内歯車の内径と前記歯車の直径の比が2対1であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載のクランク構造は、請求項1に記載の発明において、前記偏心フリーローターの軸心を、短径と長径の比が1対3となる位置に設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載のレシプロエンジンは、ヘッド部に点火プラグと吸気口、排気口を備えた筒状のシリンダーと、
当該シリンダーに嵌合する円柱状のピストンと、
当該ピストンが先端に連結された棒体状のコンロッドと、
当該コンロッドと係合するクランクピンを先端で回動自在に軸支するクランクアームと、
当該クランクアームの基端に接続されたクランク軸とを有し、
前記吸気口から可燃性ガスを前記シリンダー内へ取り込む吸気工程と、
前記ピストンが前記可燃性ガスを前記シリンダーの前記ヘッド部側へ圧縮する圧縮工程と、
前記点火プラグが圧縮された前記可燃性ガスに点火して爆発又は燃焼させる爆発燃焼行程と、
前記可燃性ガスが爆発又は燃焼した後の排気ガスを前記排気口から排気する排気工程とからなる工程によって、
前記シリンダー内の前記ピストンの往復運動が、前記コンロッドの往復運動へ伝達され、
当該コンロッドの往復運動が、前記クランクアームを介して前記クランク軸の回転運動に変換されて、回転動力として出力されるようにしたレシプロエンジンにおいて、
前記コンロッドの基端に、所定の内径を有する内歯車を備えた円環部を設け、
当該円環部内に、前記内歯車と噛合する歯車と、当該歯車に重ね合わせた円盤状で前記内歯車と略同径の偏心フリーローターを配設して、
前記クランクピンが、前記歯車と前記偏心フリーローターを回動自在に軸支し、
前記コンロッドを往復運動させたとき、前記歯車が前記内歯車に沿って転動し、
前記クランクピンを先端に有する前記クランクアームが、前記円環部内で周回して、
前記クランクアームの基端に接続している前記クランク軸を回動させると共に、
前記偏心フリーローターが、前記クランクアームが回転する方向と相反する方向へ、前記円環部内で回転するようにしたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載のレシプロエンジンは、請求項4に記載の発明において、前記内歯車の内径と前記歯車の直径の比が2対1であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載のレシプロエンジンは、請求項4に記載の発明において、前記偏心フリーローターの軸心を、短径と長径の比が1対3となる位置に設けたことを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載のレシプロエンジンは、請求項4に記載の発明において、前記コンロッドが、前記円環部を挟んで対向配置された一対のロッド部を有し、当該ロッド部の先端にそれぞれ前記ピストンが連結されていることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載のレシプロエンジンは、請求項7に記載の発明において、一対の前記ロッド部を備えた前記コンロッドと、当該ロッド部の先端にそれぞれ接続された一対の前記ピストン、及び当該ピストンを収めた一対の前記シリンダーからなる2気筒ユニットを備えていることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載のレシプロエンジンは、請求項8に記載の発明において、2つの前記2気筒ユニットからなる水平対向4気筒エンジンであることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載のレシプロエンジンは、請求項8に記載の発明において、4つの前記2気筒ユニットからなる水平対向8気筒エンジンであることを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載のレシプロエンジンは、請求項7に記載の発明において、前記シリンダーの内径であるボアに対して、前記ピストンの上死点と下死点間の距離であるストロークを長く構成したロングストローク型であることを特徴とする。
【0019】
請求項12に記載のレシプロエンジンは、請求項7に記載の発明において、前記シリンダーの内径であるボアに対して、前記ピストンの上死点と下死点間の距離であるストロークを短く構成したショートストローク型であることを特徴とする。
【0020】
請求項13に記載のレシプロエンジンは、請求項7に記載の発明において、前記シリンダーの内径であるボアに対して、前記ピストンの上死点と下死点間の距離であるストロークを同長に構成したスクエア型であることを特徴とする。
【0021】
請求項14に記載のレシプロエンジンは、請求項11乃至請求項13のいずれかに記載の発明において、前記シリンダーを対向配置して一体成形したハウジング内に、前記ロッド部対を備えた前記コンロッドが収納されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るクランク構造によれば、コンロッドの基端側に内歯車を備えた円環部を設け、当該円環部内に内歯車と噛合する歯車と、歯車に重ね合わせた円盤状で内歯車と略同径の偏心フリーローターを配設した。歯車と偏心フリーローターは、クランクピンで回動自在に軸支されている。そして、コンロッドが往復運動したとき、内歯車に沿って歯車が転動してクランクアームを回してクランク軸を回転させるように構成した。
ここで、内歯車の内径と歯車の直径の比を2対1とすることが好ましい。このように構成したとき、従来のクランク構造は、コンロッドの上死点と下死点間の往復距離は、クランクアームの回転半径に制限され、これは本発明に係るクランク構造に鑑みると内歯車の半径に相当する。一方、本発明に係るクランク構造によれば、クランクアームは、その先端が歯車の中心軸の描く円に沿って回転するように構成されている。したがって、従来のクランク構造に係るクランクアームの長さと、本発明に係るクランクアームの長さとの比は、2対1となる。すなわち、円環部の半径を従来のクランクアームの回転半径と同程度の大きさに形成した場合は、本発明に係るクランクアームの長さを半分にすることができる。一方、本発明に係るクランクアームの長さを従来のクランクアームの長さと同程度の大きさに形成した場合は、従来のクランク構造に対して本発明に係るクランク構造は、内歯車の内径分、すなわち2倍の利得を得ることができ、コンロッドを大きく動かすことができる。そのため、コンロッド先端のストローク距離を伸ばすことができるので、これをエンジンに適用した場合、容易にロングストローク化することができる。また、ロングストロークを実現することができることから、エンジンの燃焼効率を改善し、低速トルクを増大して燃費を改善することができる。
また、コンロッドの往復運動時に、円環部内に配設された偏心フリーローターは、クランクアームの回転方向に対して、相反する方向へ回転するように設けた。偏心フリーローターの径を内歯車の内径と略同径としたことから、当該偏心フリーローターは、円環部内で滑動かつ回動自在に嵌合されている。これによって、コンロッドのロッド部から往復運動によって円環部に向かって加わる圧力を、偏心フリーローターで受けることができる。これによって、円環部の歪みを防止することができ、コンロッドに大きな力が加わった場合であっても内歯車に対して歯車が滑ってしまうことを防止することができ、内歯車又は歯車の破損を防止することができる。さらに、偏心フリーローターの軸心の位置は、短径と長径の比が1対3となる位置とすることが好ましい。これによって、偏心フリーローターと歯車とを同軸に重ね合わせて、クランクピンで回動自在に軸支することができる。
【0023】
本発明に係るレシプロエンジンによれば、シリンダー内のピストンを往復運動させるクランク構造について、コンロッドの基端側に内歯車を備えた円環部を設け、当該円環部内に内歯車と噛合する歯車と、歯車に重ね合わせた円盤状で内歯車と略同径の偏心フリーローターを配設した。歯車と偏心フリーローターは、クランクピンで回動自在に軸支されている。そして、コンロッドが往復運動したとき、内歯車に沿って歯車が転動してクランクアームを回してクランク軸を回転させるように構成した。
ここで、内歯車の内径と歯車の直径の比を2対1とすることが好ましい。このように構成したとき、従来のレシプロエンジンは、ピストンの上死点と下死点間の往復距離は、クランクアームの回転半径に制限され、これは本発明に係るレシプロエンジンに鑑みると内歯車の半径に相当する。一方、本発明に係るレシプロエンジンによれば、クランクアームは、その先端が歯車の中心軸の描く円に沿って回転するように構成されている。したがって、従来のレシプロエンジンに係るクランクアームの長さと、本発明に係るクランクアームの長さとの比は、2対1となる。すなわち、円環部の半径を従来のクランクアームの回転半径と同程度の大きさに形成した場合は、本発明に係るクランクアームの長さを半分にすることができる。一方、本発明に係るクランクアームの長さを従来のクランクアームの長さと同程度の大きさに形成した場合は、従来のレシプロエンジンに対して本発明に係るレシプロエンジンは、内歯車の内径分、すなわち2倍の利得を得ることができ、コンロッドを大きく動かすことができる。そのため、ピストンのストローク距離を伸ばすことができるので、容易にロングストローク化することができる。また、ロングストロークを実現することができることから、燃焼効率を改善し、低速トルクを増大して燃費を改善することができる。
また、コンロッドの往復運動時に、円環部内に配設された偏心フリーローターは、クランクアームの回転方向に対して、相反する方向へ回転するように構成した。偏心フリーローターの径を内歯車の内径と略同径としたことから、当該偏心フリーローターは、円環部内で滑動かつ回動自在に嵌合されている。これによって、コンロッドのロッド部から往復運動によって円環部に向かって加わる圧力を、偏心フリーローターで受けることができるので、円環部の歪みを防止することができ、ピストンを介しコンロッドに大きな力が加わった場合であっても内歯車に対して歯車が滑ってしまうことを防止することができ、内歯車又は歯車の破損を防止することができる。さらに、偏心フリーローターの軸心の位置は、短径と長径の比が1対3となる位置とすることが好ましい。これによって、偏心フリーローターと歯車とを同軸に重ね合わせて、クランクピンで回動自在に軸支することができる。
そして、本発明に係るレシプロエンジンは、コンロッドが長手方向に沿って直線的に往復運動するように構成したので、当該コンロッドは、シリンダーの開口端に接触するおそれがない。そのため、ロングストローク化にあわせてシリンダー長を伸ばし、シリンダー内の燃焼効率を向上させることができ、燃料消費を抑えて省エネ化することができる。また、ロングストローク化によって、低速トルクを容易に増大させることができる。
さらに、コンロッドが長手方向に沿って直線的に往復運動することによって、ピストンがシリンダー内壁を押圧するピストンの側圧を抑制することができるのでピストンの摩擦損失を軽減させることができる。その結果、ピストンとシリンダーの接触に伴う振動の発生或いは騒音の発生を抑制することができる。
【0024】
また、コンロッドが、円環部を挟んで対向配置された一対のロッド部を有していることが好ましい。これによって、シリンダー及びピストンを水平方向に対向配置させた、いわゆる水平対向2気筒ユニットを構成することができる。すなわち、一方のロッド部がシリンダー内でピストンを押し上げている間、他方のロッド部はシリンダー内でピストンを引き下げている。このとき、円環部は回転せずに水平方向に沿って直線的な往復運動を行い、さらには、吸気、圧縮、爆発、排気の一連の工程を一方のロッド部と他方のロッド部で交互に行うことができ、上下方向の微振動を抑制することができる。
そして、2気筒ユニットを2組以上連接配置して、2気筒以上、偶数気筒の水平対向エンジンを構成可能とすることが好ましく、より好ましくは、4組又は8組、すなわち水平対向4気筒エンジン、又は水平対向8気筒エンジンであることが好ましい。これによって、水平対向4気筒エンジン又は水平対向8気筒エンジンにおいて、これらを構成する各2気筒ユニットが互いに水平方向に沿った往復運動に基づく振動を相殺することができる。
【0025】
さらに、本発明に係るレシプロエンジンによれば、コンロッドが備えるロッド部対の長さを任意に設定すると共に、シリンダーの内径を任意に設計し、当該シリンダーの内径であるボアと、ロッド部が往復運動させるピストンのストローク長を任意に設定することによって、ロングストローク型、ショートストローク型、或いはスクエア型へ任意に設計することができるので、高燃費化、高出力化等の用途・目的に合わせてレシプロエンジンを構成することができる。
また、上記のようにクランクアームを短くしつつ、コンロッド、すなわちピストンを大きく動かすことができるので、シリンダーを対向配置して一体成形したハウジング内に、クランク構造とピストンを収納することによって、レシプロエンジンをコンパクトにまとめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施例に係るクランク構造の構成の概略を示す説明図である。
図2】第1実施例に係るクランク構造の構成の概略を示す部品展開図である。
図3】第1実施例に係るクランク構造のコンロッドとクランクアームの動作の概略を示す説明図である。
図4】第1実施例に係る単気筒エンジンの構成の概略を示す説明図である。
図5】第1実施例に係る単気筒エンジンのピストンの動作の概略を示す説明図である。
図6】第2実施例に係る2気筒ユニットの構成の概略を示す説明図である。
図7】第2実施例に係る水平対向4気筒エンジンの構成の概略を示す説明図である。
図8】第3実施例に係る水平対向8気筒エンジンの構成の概略を示す説明図である。
図9】第4実施例に係る2気筒ユニットについて一の構成の概略を示す説明図である。
図10】第4実施例に係る2気筒ユニットについて他の構成の概略を示す説明図である。
【実施例0027】
本発明に係るクランク構造及び当該クランク構造を備えたレシプロエンジンの実施例を、添付した図面にしたがって以下説明する。図1は、本実施例に係るクランク構造の構成の概略を示した説明図であり、図2は、本実施例に係るクランク構造の動作の概略を示した説明図である。
【0028】
クランク構造10は、図1に示すように、コンロッド11と、クランクピン12と、クランクアーム13と、クランク軸14を有している。
コンロッド11は、棒体状のロッド部11aを有している。ロッド部11aは先端側に小径の係合環部11bを有し、基端側に係合環部11bよりも大径の円環部15を有している。
当該円環部15は、所定の内径を備え、円環部15の軸方向に沿って刻まれた歯が内周面の周方向に沿って配された内歯車15aを有している。
また、円環部15内には、内歯車15aと噛合する歯車16と、当該歯車と重ね合わされた円盤状で内歯車15aと略同径の偏心フリーローター17が配設されている。歯車16は、内歯車に沿って転動し、偏心フリーローター17は、円環部内で滑動かつ回動自在に嵌合されている。
【0029】
クランクピン12は、歯車16と偏心フリーローター17を回動自在に軸支している。歯車16は所定の外径を備え、軸方向に沿って歯が刻まれている。そして、円環部15の内歯車15aと噛合した歯車16が、内歯車15aに沿って転動することによって、当該歯車16を軸支しているクランクピン12は円環部15内を回動する。クランクピン12はクランクアーム13の先端に連結されている。
ここで、内歯車15aの内径Rと、歯車16の外径rの比は2対1であることが好ましい。これによって、図2に示すようにコンロッド11が一往復する間に歯車16を内歯車15a内で2周させて、クランクアーム13を円環部15内で一周させることができる。
一方、偏心フリーローター17は、上記の内歯車15aの内径Rと歯車16の外径rの比に基づき、歯車16と同軸となるように構成されているので、円盤状のフリーローターの軸心は、短径を1としたとき、長径が3となる位置、すなわち、短径側と長径側との比が1対3となる位置に設けられている。そして、クランクアーム13を回転させたとき、クランクピン12の変位に伴って、軸心が変位し、図3に示すように、歯車16が矢印Tにしたがって右回転するとき、偏心フリーローターは矢印Fにしたがって左回転するように構成されている。
【0030】
クランクアーム13は、先端に歯車16と偏心フリーローター17を軸支しているクランクピン12が嵌合固定され、基端に棒体状のクランク軸14が連結されている。また、図1及び図2に示すように、歯車16と偏心フリーローターを挟んで一対のクランクアーム13が対向配置され、一方のクランクアーム13は一方のクランク軸14に、他方のクランクアーム13は他方のクランク軸14に連結されている。
コンロッド11の往復運動は、当該往復運動に伴って変位する円環部15の内歯車15aに沿って歯車16が転動して、クランクアーム13を円環部15内で回動させる回転運動へ変換することができ、当該クランクアーム13の回動がクランク軸14の回転運動へ伝導される。
なお、本実施例に係るクランク構造10では、クランクピン12が軸支している歯車16を、コンロッド11の円環部15の内歯車15aと噛合させて転動させる構成としたが、これに限定されるものでは無く、内歯車15aと歯車16との間に1つ又は2つ以上の遊星歯車からなる遊星ギヤを噛ませて内歯車15aに対するクランクアーム13、クランク軸14のギヤ比を自在に調整する構成としても良い。
一方、コンロッド11が往復運動するとき、ロッド部11aの長手方向に沿ってロッド部11aから円環部15へ圧力が加えられたとき、また円環部15がロッド部11aの方向へ引っ張られたとき、円環部15が歪むおそれがある。このとき、偏心フリーローター17が円環部15内に滑動かつ回動自在に嵌合されているので、円環部が大きく歪むことを防止することができ、そして、円盤で円環部15へ加えられた力を受けて分散させるので、内歯車15aに沿って転動している歯車16が内歯車15a上を滑ることなく往復運動を確実に回転運動へ変換することができる。
【0031】
上記の構成を備えたクランク構造10は、次に説明するように動作する。添付した図面にしたがって以下説明する。図3は、内歯車15aに沿って歯車16が回転するときの両者の位置関係を示す説明図である。
円環部15の内周に形成した内歯車15aの内径Rと、クランクピン12が軸支している歯車16の外径rの比は、2対1に構成されている。そのため、以下のように内歯車15a、すなわち円環部15を備えたコンロッド11の往復運動に対してクランクアーム13が回転する。ここで、図2に示すように、円環部15の移動距離をlとし、下端をl0、上端をl1とする。
図2(a)は、内歯車15a下端と歯車16の下端が接している場合であって、これを歯車16の回転が始まる初期位置とする。ここで、図2(a)に示すように、歯車16とクランクアーム13は矢印イが示すとおり、時計回りに回転する。
図2(b)は、歯車16が時計回りに半回転した場合であって、内歯車15aの右端に接している場合である。このとき、クランクアーム13は1/4回転し、円環部15は往路途中半分の位置にある。
図2(c)は、歯車16が時計回りに一回転した場合であって、内歯車15aの上端に接している場合である。このとき、クランクアーム13は1/2回転し、円環部15は往路から復路へ折り返す。
図2(d)は、歯車16が時計回りに3/2回転した場合であって、内歯車15aの左端に接している場合である。このとき、クランクアーム13は3/4回転し、円環部15は復路途中半分の位置にある。
そして、図2(a)の初期位置に帰還したとき、クランクアーム13は一回転し、円環部15は往復する。
これを繰り返すことによって、コンロッドが1往復するとき、クランク軸が1回転する2対1の比でコンロッドの直線的な往復運動をクランク軸の回転運動へ変換することができる。
一方、偏心フリーローター17は、歯車16の回転軸と同軸でクランクピン12に軸支されているので、短径側と長径側の比が1対3に構成されている。そして、図2(a)から図2(d)に示したように、クランクアーム13の回転に伴って変位するクランクピン12に従動して反時計回りに回転する。このようにして、コンロッドが1往復するとき、円環部15内で偏心フリーローター17はクランクピン12の変位に同期して回転し、歯車16の回転方向とは相反する方向へ回転する。
【0032】
本実施例に係るクランク構造10によれば、コンロッド11が直線的に往復運動するように構成した。これによって、従来のようにコンロッド11の基端側がクランクケース内でリンクされたクランクアームと共に回転して揺動しないので往復運動に対して交差する向きの振動を抑制することができる。また、揺動せず、余計な振動が抑制されることから、当該振動を相殺するためのバランスウェイトを取り付けなくても良いので、コンロッド11の基端部側、クランクアーム13及びクランク軸14等を軽量化することができる。
ここで、従来のクランク構造の場合、コンロッドの基端に接続されたクランクアームの回転半径がコンロッドの往復距離となる。すなわち、従来のクランクアームが回転するときの直径は、本実施例に係るクランク構造10における円環部15の直径に等しい。これに対して、本実施例に係るクランク構造10によれば、クランクアーム13のクランク軸14とクランクピン12の軸心間の回転半径は、歯車16の中心軸が描く円であって、当該回転半径と内歯車15aの内径との比が1;2に構成されている。したがって、クランクアーム13の長さを従来のクランクアームと同長にした場合、コンロッド11は2倍の利得を得て往復運動を行うことになる。そのため、従来のクランク構造と比較すると、本実施例に係るクランク構造10の係合環部11bの往復距離を2倍にすることができる。これによって、容易にロングストローク化させることができ、これをレシプロエンジンに適用した場合には、容易に燃費を向上させることができると共に低速トルクの増大を図ることができる。レシプロエンジンへの適用例を次に説明する。
【0033】
続いて、上記のクランク構造10を備えた本実施例に係るレシプロエンジンの実施例を、添付した図面にしたがって以下説明する。
本実施例に係るレシプロエンジンは、図4に示すように、上記のクランク構造10に加えてシリンダー20とピストン21を有する単気筒エンジン10Aである。
なお、本実施例に係る単気筒エンジン10Aは、空気中にガソリン又はアルコールを噴霧して形成した可燃性の混合気体を用いた内燃機関であるがこれに限定されたものでは無く、高温の圧縮空気に燃料を噴霧して燃焼させるディーゼル機関、天然ガス、水素ガス或いはバイオマス等から抽出される可燃性ガスを爆発又は燃焼させる内燃機関であっても良い。
【0034】
シリンダー20は、ヘッド部20aを備えた筒体状に形成されている。ヘッド部20aには、点火プラグ22と、吸気口23、排気口24が形成され、吸気口23と排気口24はバルブ(図示略)で開閉可能に構成されている。
吸気口23は、バルブが開いたとき、ヘッド部20a内には、キャブレター又はインジェクションから噴霧された燃料を空気と所定の割合で混合して形成された可燃性混合気体を吸い込むように構成されている。
点火プラグ22は、ヘッド部20a内へ吸気された可燃性混合気体がピストン21で圧縮されたとき、通電され点火し、火花を飛ばすように構成されている。当該火花が可燃性混合気体を爆発させて、ピストン21を押し下げるように構成されている。
排気口24は、バルブが開いたとき、ヘッド部20a内に残留している爆発後の排気ガスを排気するように構成されている。
【0035】
ピストン21は、略円柱状に形成され、ピストン21側面がシリンダー20内壁に沿って摺動可能にシリンダー20内へ収納されている。ピストン21は、コンロッド11の係合環部11aとコネクテッドピン25で連結されている。これによって、ピストン21がシリンダー20内で往復運動したとき、当該往復運動をコンロッド11へ伝達することができる。
なお、本実施例において、ピストン21とコンロッド11をコネクテッドピン25で連結する別体構成としたが、本実施例では後述するようにコンロッド11もまた直線的に往復運動を行うため、ピストン21とコンロッド11を一体成形するようにしても良い。この場合は、一体成形することによってコネクテッドピン25を省略して軽量化することができ、また連結部分の強度を上げることできる。
なお、シリンダー20及びピストン21は、公知の構成であるから、詳細な説明は省略する。さらに、図4に示したコンロッド11、クランクアーム13、クランク軸14等のクランク構造10については、上記の構成であるから説明を省略する。
【0036】
上記の構成を備えた単気筒エンジン10Aは、次に説明するように動作する。添付した図面にしたがって以下説明する。図5は、シリンダー20内のピストン21の動きと、コンロッド11の往復運動をクランク軸14の回転運動に変換するときの状態変化を示す説明図である。
ここで、内歯車15aの内径Rと、歯車16の外径rの比は、上記し、図3に示したように2対1に構成され、図4に示すように、ピストン21上端縁の移動距離をLとし、ピストン21の下死点をL0、上死点をL1とする。
【0037】
図5(a)は、歯車16が内歯車15aの下端に接する位置にある場合である。このとき、クランク軸14に対して、コンロッド11のロッド部11aの長さに内歯車の内径Rが加えられ、コンロッド11の見かけ上の長さが最も長くなることから、ピストン21はシリンダー20内で押し上げられて上死点L1に位置している。
図5(b)は、歯車16が半回転して内歯車15aの右端に接する位置にある場合である。このとき、クランクアーム13とクランク軸14は1/4回転している。そして、内歯車15aに沿って転動する歯車によって円環部15が引き下げられ、ピストン21の上端縁はL/2の往路途中半分の位置にある。
図5(c)は、歯車16が1回転して内歯車15aの上端に接する位置にある場合である。このとき、クランクアーム13とクランク軸14は1/2回転している。そして、クランク軸14に対して、コンロッド11のロッド部11aの長さのみであって、図4(a)と比べて内歯車の内径R分、コンロッド11の見かけ上の長さが最も短くなることから、ピストン21はシリンダー20内で引き下げられて下死点L0に位置している。
図5(d)は、歯車16が3/2回転して内歯車15aの左端に接する位置にある場合である。このとき、クランクアーム13とクランク軸14は3/4回転している。そして、内歯車15aに沿って転動する歯車16によって円環部15が押し上げられ、ピストン21の上端縁はL/2の復路途中半分の位置にある。
この後、クランクアーム13と歯車16は、図5(a)に示す初期位置へ帰還する。このとき、ピストン21の上端縁は上死点L1の位置にあって、上記図5(a)~(b)に示したように、ピストン21は一往復して2Lの距離を移動する。
これを繰り返すことによって、シリンダー20内で往復するピストン21の動きを、コンロッド11の直線的な往復運動として伝導し、クランクアーム13の回転運動、クランク軸14の回転運動へ変換することができる。
一方、偏心フリーローター17は、歯車16の回転軸と同軸でクランクピン12に軸支されているので、短径側と長径側の比が1対3に構成されている。そして、図5(a)から図5(d)に示したように、クランクアーム13の回転に伴って変位するクランクピン12に従動して反時計回りに回転する。このようにして、コンロッドが1往復するとき、円環部15内で偏心フリーローター17はクランクピン12の変位に同期して回転し、歯車16の回転方向とは相反する方向へ回転する。
【0038】
本実施例に係る単気筒エンジン10Aは、吸気工程と圧縮工程でピストン21がシリンダー20内を1往復し、爆発工程と排気工程でピストン21がシリンダー20内を1往復する4サイクルエンジンで構成されている。
吸気工程は、図5(a)から図5(b)を経て図5(c)の状態へピストン21が引き下げられるとき、シリンダー20内のヘッド部20aへ可燃性混合気体を吸気する工程である。
圧縮工程は、図5(c)から図5(d)を経て図5(a)の状態へピストン21が押し上げられるとき、シリンダー20内のヘッド部20aに満たされた可燃性混合気体を圧縮する工程である。
爆発工程は、ピストン21が、図5(a)の上死点L1にあるとき、点火プラグ22が火花を飛ばして可燃性混合気体を爆発させる工程である。このとき、当該爆発工程によって押し下げられたピストン21は、図5(a)から図5(b)を経て図5(c)の下死点L0まで移動する。
排気工程は、下死点L0まで移動したピストン21が、図5(c)から図5(d)を経て図5(a)の上死点L1へ押し上げられるとき、ヘッド部20aから爆発燃焼後の排気ガスを排気する工程である。
単気筒エンジン10Aは、上記の吸気工程、圧縮工程、爆発工程、排気工程を繰り返すことによって、ピストン21をシリンダー20内で往復運動させて、コンロッド11を通じてクランク軸14の回転出力を得ることができる。
なお、本実施例では単気筒エンジン10Aを4サイクルエンジンとして構成したがこれに限定されず、2サイクルエンジンとして構成しても良い。
【0039】
本実施例に係る単気筒エンジン10Aによれば、図5の各図に示すように、いずれの場合であっても、本実施例に係る単気筒エンジン10Aを構成するコンロッド11は軸に沿って直線的に往復運動するように構成されている。これによって、ピストン21もまたシリンダー20内で直線的に往復運動することができ、ピストン21の側壁がシリンダー20内壁を押圧して発生する側圧を抑制することができ、ピストン21の摩擦損失を軽減させることができる。その結果、ピストン21がシリンダー20で摺動するときの振動の発生或いは騒音の発生を抑制することができる。そして、摩擦損失を軽減させることにより、エンジンの発熱を抑えて熱変換効率を上げることができ、燃費の抑制に効果がある。
また、コンロッド11が軸に沿って直線的に往復運動することから、コンロッド11がシリンダー20内壁に接触することが無いため、シリンダー20の長さを伸ばしてピストン21をロングストローク化させることができる。これによって、低速トルクを容易に増大させ、燃費を改善し省エネ化することができる。さらに、ロングストローク化した場合であっても、軸に沿って直線的に動くコンロッド11には曲げ応力、捻じれ応力等の負荷がかからないのでコンロッド11の耐久性を向上させることが容易である。
さらに、従来のコンロッド11とクランクアーム13では、クランクアーム13長とコンロッド11長を加えた長さのとき、ピストン21が上死点に位置し、コンロッド長からクランクアーム13長を引いた長さのとき、ピストン21が下死点に位置するように構成されている。
一方、本実施例に係るコンロッド11とクランクアーム13は、図4(a)に示すようにクランクアーム13がクランク軸14を挟んでコンロッドと相反する方向にあるとき、すなわち、コンロッド11のロッド部11の長さに、内歯車15aの内径Rが足された長さのとき、ピストン21が上死点L1に位置し、図4(c)に示すようにクランクアーム13がコンロッド11の軸線と重なり合うとき、すなわち、コンロッド11のロッド部11の長さのとき、ピストン21が下死点L0に位置するように構成されている。そのため、ピストン21の上死点L1と下死点L0間の距離Lは、内歯車15aの内径Rの長さに依拠していることから、コンロッド11のロッド部11aの長さを短くして円環部15を大径化する、すなわち従来のエンジンが備えるクランクアームと本実施例に係るクランクアーム13の長さを同程度の長さにすることによって、従来のエンジンと比較して、2倍の利得でロングストローク化することができる。そして、ロングストローク化によって低速トルクの向上と燃焼効率を向上させることができ、これらの相乗効果によって、燃費を向上させることができる。
また、従来のクランク構造と比較すると、本実施例に係るクランク構造10は、上記のように2倍の利得を得てコンロッド11を大きく動かすことができることから、図6に示すように、一対のロッド部11a,11aが円環部15を挟むように対向配置されたコンロッド対11Aを構成することによって、一方でピストン21を上死点に押し上げ、他方でピストン21を下死点に引き下げる互い違いの動作を実行可能な2気筒ユニット10Bを構成することができる。当該2気筒ユニット10Bについては、以下の実施例で説明する。
【実施例0040】
次に、偶数個の気筒数を備えたレシプロエンジンに係る実施例を、添付した図面にしたがって以下説明する。
本実施例に係るレシプロエンジンは、図7に示すように、二つの2気筒ユニットを連接してなる4気筒水平対向エンジン10Cである。シリンダー20及びピストン21については、第1実施例で説明したので詳細な説明を省略する。本実施例に係る4気筒水平対向エンジン10Cが、第1実施例に係る単気筒エンジン10Aと相違している点は、2気筒ユニット10Bを構成するコンロッド11Aの形状である。
【0041】
2気筒ユニット10Bは、図6に示すように、水平方向に伸びる略棒体状のコンロッド対11Aを有している。
コンロッド対11Aは、一対のロッド部11a,11aがそれぞれ基端側で円環部15を挟むように対向配置されている。一方のロッド部11aの先端には、コネクテッドピン25を介して第1ピストン21aが接続され、シリンダー20内に収納されている。他方のロッド部11aの先端にもまたコネクテッドピン25を介して第2ピストン21bが接続され、シリンダー20内に収納されている。第1ピストン21aと第2ピストン21bは、図5(a)~(d)に示した往復運動を互い違いに行うように構成されている。これによって、水平対向2気筒エンジンに係る2気筒ユニット10Bが構成される。当該2気筒ユニット10Bを基本構成として、以下、本実施例においては、第1ユニット30と第2ユニット31の二つの2気筒ユニット10Bからなる水平対向4気筒エンジン10Cを例示し、第3実施例においては、第1ユニット30、第2ユニット31、第3ユニット32、第4ユニット33の四つの2気筒ユニット10Bからなる水平対向8気筒エンジン10Dを例示する。
【0042】
図7に示すレシプロエンジンは、第1ユニット30と第2ユニット31の二つの2気筒ユニット10Bからなる水平対向4気筒エンジン10Cである。第1ユニット30の両端部には一方にピストン21a、他方にピストン21bが設けられ、第2ユニット31の両端部には、一方にピストン21c、他方にピストン21dが設けられている。
第1ユニット30に係る第1クランクアーム13aと、第2ユニット31に係る第2クランクアーム13bは、図7に示すように、クランク軸14を挟んで相反する方向に対向配置され、互いに180度(π)のクランク角を成すように構成されている。
【0043】
上記の構成を備えた水平対向4気筒エンジン10Cは、次に説明するように動作する。添付した図面にしたがって以下説明する。
水平対向4気筒エンジン10Cの第1クランクアーム13aと第2クランクアーム13bのクランク角の位相差が180度(π)であるから、図7に示すように、第1ユニット30のピストン21aが下死点に位置し、ピストン21bが上死点に位置している場合に、第2ユニット31のピストン21cは上死点に位置し、ピストン21dは下死点に位置している。このように、第1ユニット30と第2ユニット31が互い違いに相反する方向へ入れ替わるように直線的な往復運動をするとともに、第1ユニット30のピストン21aとピストン21b、第2ユニット31のピストン21cとピストン21dもまた互い違いに相反する方向へ直線的な往復運動を行い、第1実施例で説明した吸気工程、圧縮工程、爆発工程、排気工程を行う。
各ユニット30,31が有するピストン21a,21b,21c,21dの各工程における関係を下記の表1に表す。表中の矢印はクランクアーム13a,13bの位相の向きを表し、たとえば、第1ユニット30で矢印が「→」の場合、位相差が180度(π)である第2ユニット31は反対方向の「←」へ進んでいるものとする。
【0044】
【表1】
【0045】
表1によれば、たとえば、項番1行目において、ピストン21aが吸気をしているとき、第1ユニット30のコンロッド対11Aはピストン21bの方へ向かって水平移動するので、ピストン21b側では圧縮工程が行われる。このとき、位相差が180度(π)である第2ユニット31では、ピストン21dで爆発工程が行われて、コンロッド対11Aはピストン21cの方へ向かって水平移動し、ピストン21cでは排気工程が行われる。
そして、項番1行目ではピストン21dが爆発工程を行い、項番2行目ではピストン21b、項番3行目でピストン21a、項番4行目でピストン21cと示したように爆発工程が順次行われる。
このように、爆発工程を4つのピストン21a,21b,21c,21dが順次行うように振り分けることによって、第1ユニット30と第2ユニット31の両端に設けた4気筒がそれぞれ実行する各工程において、いずれかのシリンダー20内で常に爆発工程が行われるように構成することができる。そのため、水平対向4気筒エンジン10C全体としては等間隔で爆発を起こすことができるので、当該エンジン10C自体の振動を抑制することができる。
また、第1ユニット30と第2ユニット31が、互いに相反する方向へ交互に直線的な往復運動を行うので、各コンロッド対11Aの動作に起因する振動を相殺することができ、コンロッド対11Aの先端に設けたピストン21a,21b,21c,21dの側壁がシリンダー20内壁を押圧して発生する側圧を抑制することができ、ピストン21a,21b,21c,21dの摩擦損失を軽減させることができる。その結果、ピストン21a,21b,21c,21dとシリンダー20の接触に伴う振動の発生或いは騒音の発生を抑制することができる。
また、コンロッド対11Aが軸に沿って直線的に往復運動することから、コンロッド対11Aのロッド部11a,11aがシリンダー20内壁に接触することが無いため、シリンダー20の長さを伸ばしてピストン21a,21b,21c,21dをロングストローク化させることができる。これによって、低速トルクを容易に増大させ、燃費を改善し省エネ化することができる。さらに、ロングストローク化した場合であっても、軸に沿って直線的に動くコンロッド対11Aには曲げ応力、捻じれ応力等の負荷がかからないのでコンロッド対11Aの耐久性を向上させることが容易である。
【実施例0046】
次に、偶数個の気筒数を備えたレシプロエンジンに係る他の実施例を、添付した図面にしたがって以下説明する。
本実施例に係るレシプロエンジンは、第2実施例に記載した2気筒ユニット10Bを4つ、第1ユニット30、第2ユニット31、第3ユニット32,第4ユニット33からなる水平対向8気筒エンジン10Dである。
シリンダー20及びピストン21、並びにコンロッド対11Aの構成については、第1実施例及び第2実施例で説明したので詳細な説明を省略する。
第3実施例に係る水平対向8気筒エンジンの相違点は、第2実施例では二つの2気筒ユニット30,31から水平対向4気筒エンジン10Cを構成したことに対して、四つの2気筒ユニット30,31,32,33から水平対向8気筒エンジン10Dを構成した点である。
【0047】
本実施例に係る水平対向8気筒エンジン10Dは、図8に示すように、第1ユニット30、第2ユニット31、第3ユニット32、第4ユニット33からなる。第1ユニット30を構成するコンロッド対11Aの両端にはピストン21aとピストン21bが連結されている。第2ユニット31を構成するコンロッド対11Aの両端にはピストン21cとピストン21dが連結されている。第3ユニット32を構成するコンロッド対11Aの両端にはピストン21eとピストン21fが連結されている。第4ユニット33を構成するコンロッド対11Aの両端にはピストン21gとピストン21hが連結されている。
第1ユニット30に係る第1クランクアーム13aと、第2ユニット31に係る第2クランクアーム13bは、図8に示すように、クランク軸14を中心に90度のクランク角を成すように構成されている。同様に第2ユニット31に係る第2クランクアーム13bと第3ユニット32に係る第3クランクアーム13c、第3ユニット32に係る第3クランクアーム13cと第4ユニット33に係る第4クランクアーム13d、及び第4ユニット33に係る第4クランクアーム13dと第1ユニット30に係る第1クランクアーム13aが成すクランク角も90度(π/2)となるように構成されている。
【0048】
上記の構成を備えた水平対向8気筒エンジン10Dは、次に説明するように動作する。添付した図面にしたがって以下説明する。
水平対向8気筒エンジン10Dのクランクアーム13a,13b,13c,13dは、互いに隣り合うクランクアーム13a,13b,13c,13dと成すクランク角の位相差が90度(π/2)であるから、第1ユニット30と第3ユニット32のクランク角の位相差が180度(π)、第2ユニット31と第4ユニット33のクランク角の位相差が180度(π)であり、また第1ユニット30及び第3ユニット32の奇数ユニット組と、第2ユニット31及び第4ユニット33の偶数ユニット組は90度の位相差(π/2)を有している。
これによって、第1ユニット30と第3ユニット32が互い違いに相反する方向へ入れ替わるように直線的な往復運動を行い、その往復運動の合間を縫って第2ユニット31と第4ユニット33が互い違いに相反する方向へ入れ替わるように直線的な往復運動を行う。すなわち第2実施例の表1に記載した各爆発工程の合間に、さらに4つの爆発工程が組み込まれるように構成することができる。これを表したのが下記の表2である。
ここで、表中の矢印はクランクアーム13a,13b,13c,13dの位相の向きを表し、たとえば、第1ユニット30で矢印が「→」の場合、第3ユニット32は反対方向の「←」へ進んでいるものとし、そのとき、第2ユニットのクランクアーム13bはクランク角が90度(π/2)であるから「↑」、第4ユニット33は第3ユニット32に対してクランク角が90度(π/2)であるから「↓」と表している。
なお、本実施例においては、各ユニット間の位相差を90度(π/2)としたが、これに限定せず、たとえば位相差を180度(π)とする等して、一次振動、偶力振動、二次振動を相殺することが望ましい。
【0049】
【表2】
【0050】
上記のように、爆発工程を8つのピストン21a~21hが順次行うように振り分けることによって、第1ユニット30~第4ユニット33の両端に設けた8気筒のうち、いずれかのシリンダー20内で常に爆発工程が行われるように構成することができる。そのため、等間隔で爆発を起こすことができるので、エンジン自体の振動を抑制することができる。
また、第1ユニット30と第3ユニット32の奇数ユニット組、或いは90度の位相差で、第2ユニット31と第4ユニット33の偶数ユニット組が備える各コンロッド対11Aが互いに相反する方向へ交互に直線的な往復運動を行うので、コンロッド対11Aの動作に起因する振動を相殺することができ、コンロッド対11Aの先端に設けたピストン21a~21hの側壁がシリンダー20内壁を押圧して発生する側圧を抑制することができ、ピストン21a~21hの摩擦損失を軽減させることができる。その結果、ピストン21a~21hとシリンダー20の接触に伴う振動の発生或いは騒音の発生を抑制することができる。
また、コンロッド対11Aが軸に沿って直線的に往復運動することから、コンロッド対11Aのロッド部11a,11aがシリンダー20内壁に接触することが無いため、シリンダー20の長さを伸ばしてピストン21a~21hをロングストローク化させることができる。これによって、低速トルクを容易に増大させ、燃費を改善し省エネ化することができる。さらに、ロングストローク化した場合であっても、軸に沿って直線的に動くコンロッド対11Aには曲げ応力、捻じれ応力等の負荷がかからないのでコンロッド対11Aの耐久性を向上させることが容易である。
【0051】
なお、上記第2実施例と第3実施例において水平対向4気筒エンジン10C、水平対向8気筒エンジン10Dについて例示したが、水平対向エンジンに係る気筒数はこれらに限定されるものでは無く、図6に示したように、基本となる2気筒ユニット10Bを増減して6気筒、10気筒、12気筒、16気筒等の水平対向エンジンを構成するようにしても良い。この場合、各ユニット間の位相差を、たとえば、120度(4π/3)、72度(π/5)、60度(π/3)、45度(π/4)等、所定の角度、好ましくは各ユニットが備えるクランクアーム13がクランク軸14を中心に円周に対してバランスよく配置されるように設定することによって、一次振動、偶力振動、二次振動等の振動を各ユニット間で互いに相殺するようにすることができる。また、図6に示した2気筒ユニット10B単独で、すなわち水平対向2気筒エンジンを構成しても良い。そして、上記のいずれの場合であっても、クランク軸14にバランスウェイトを取り付けて振動を抑制するようにしても良い。このとき、クランク軸14を周回するクランクアーム13の長さが従来のクランク構造で用いられるクランクアームの長さよりも短くすることができるので、クランク軸14を周回する慣性モーメントを打ち消すバランスウェイトを軽量化させることができる。さらに、従来、先端が往復運動を行い、基端が回転運動を行うコンロッドには往復運動に因る振動と回転運動に因る振動が発生するが、本実施例に係るレシプロエンジン10A,10B,10C,10D、及び上記の多気筒水平対向エンジンによれば、コンロッド11又はコンロッド対11Aに生じる振動から回転運動に因る振動成分を除去することができる。これによって、レシプロエンジンに生じる一次振動、偶力振動、二次振動等の振動のうち、コンロッド11又はコンロッド対11Aの回転運動に因る振動を軽減することができる。
【0052】
第1実施例乃至第3実施例に記載した単気筒エンジン10A、水平対向4気筒エンジン10C、水平対向8気筒エンジン10Dによれば、コンロッド11の基端側に内歯車15aを備えた円環部15を形成し、当該内歯車15aをクランクピン12が軸支する歯車16が転動するように構成した。これによって、コンロッド11を軸に沿って直線的に往復運動させたとき、内歯車15aに沿って回転するクランクアーム13を介してクランク軸14の回転運動へ変換することができる。
そして、コンロッド11が直線的に往復運動することから、コンロッド11先端にピストン21を連結して、当該ピストン21をシリンダー20内で往復させたとき、ピストン21の側壁がシリンダー20内壁を押圧する側圧を抑制することができ、コンロッド11の揺動によってシリンダー20内でピストン21が往復運動に対して交差する方向へ動き、余分な振動を発生させることを防止することができる。そのため、当該振動等に伴うピストン21の摩擦損失を軽減することができることから、シリンダー20に発生する熱を抑制することができる。これによって、単気筒エンジン10A、水平対向4気筒エンジン10C、水平対向8気筒エンジン10Dの熱変換効率を改善することができることから、各エンジンの出力特性を改善し、燃費を改善することができる。
さらに、従来のクランク構造であれば、コンロッドの基端に接続されたクランクアームの回転半径がコンロッドの往復距離となる。すなわち、本実施例に係るクランク構造10の構成に鑑みると、円環部15の中心にクランク軸があり、クランクアームの先端が当該円環部15の円周に沿って回転していると言える。ここで換言すれば、従来のクランク構造に係るクランクアームの長さに対して、本実施例に係るクランク構造10のクランクアーム13の長さは半分に抑えられているので、クランクアーム13の慣性モーメントを抑制して、クランク軸にかかる負荷を軽減することができる。
一方、従来のクランク構造に係るクランクアームに対し、本実施例に係るクランクアーム13は2倍の利得でコンロッド11を往復させることができ、コンロッドを大きく動かすことができることから、従来のクランク構造に係るクランクアームの長さと、本実施例に係るクランク構造10のクランクアーム13の長さを同程度にした場合は、ピストン21の移動距離が2倍になるので、容易にロングストローク化して、低速トルクの増大と燃焼効率の向上に伴う燃費改善を行うことができ、さらには、図6に示すように、一対のロッド部11a,11aが円環部15を挟むように対向配置されたコンロッド対11Aを構成することによって、従来のクランク構造では実現できなかった、クランク軸14及び円環部15を挟んで一対のロッド部11aを対向配置した2気筒ユニット10Bを構成することができる。
【0053】
本実施例に係る2気筒ユニット10Bによれば、コンロッド対11Aが水平方向に沿って往復運動のみ行うように構成した。ここで、従来のエンジンに係るクランク構造であれば、コンロッドが揺動するために、シリンダーに対してピストンに横方向の力、本実施例においては図6に示す縦方向への力が発生し、ピストン21がシリンダー20の内壁を打つピストンスラップ現象が発生していたが、これを防止するため、ピストンの下方にピストンスカートが形成されていた。しかしながら、本実施例に係る2気筒ユニット10Bにおいては、ピストン21がシリンダー20内を直線的に往復運動するので、ピストンスカートの長さを最小限に抑えることができ、ピストンの長さを短くすることができる。また、ピストン21がシリンダー20内でコンロッド11によって傾くことが無いため、ピストン21とシリンダー21間のクリアランスをより一層狭くし、ピストンリングの遊びを無くすことができ、ピストン冠部の長さを短くすることができるので、短くしたピストンスカートと合わせて、ピストン21自体をコンパクトに構成することができる。
さらには、従来の水平対向2気筒エンジンと比較して、少なくとも片側のクランクアームの重量を軽量化することができ、また中心のクランクアームを短縮して慣性モーメントを軽減してバランスウェイトを軽量化し、エンジン全体を軽量化することができる。
【0054】
また、第2実施例又は第3実施例に記載した4気筒又は8気筒の水平対向エンジンによれば、第1実施例に記載した直線的に往復運動するコンロッドに基づいて、ロッド部の基端に設けた円環部を共有し、当該円環部を挟んで相反する方向へ対向配置された一対のロッド部を備えたコンロッド対を構成した。そして、当該コンロッド対の両端にそれぞれピストンを連結して、シリンダーに収納した水平対向の2気筒ユニットを基本構成とし、4気筒又は8気筒を備える水平対向エンジンを構成した。これによって、水平方向に往復運動するコンロッドを用いて左右交互に吸気工程、圧縮工程、爆発工程、排気工程を繰り返すエンジンを構成することができる。
本実施例に係るコンロッドは基端の円環部が回転せず、直進的な往復運動を行うように構成したので、円環部を共有し、一のロッド部に相反する水平方向へ伸ばした他のロッド部もまた水平方向へ直進的に往復するように構成される。そのため、たとえば、一のロッド部に連結されているピストンがシリンダー内の爆発によって押し下げられるとき、その力を利用して、他のロッド部に連結したピストンをシリンダー内で押し上げて圧縮または排気に係る工程を行うことができる。このように、構造を簡単にすると共に、一方の力を利用して他方を動作させることでエンジンの効率を改善し、燃費の消費を抑えることができる。
【0055】
さらに、本実施例に係るクランク構造10、並びに単気筒エンジン10A、2気筒ユニット10B、水平対向4気筒エンジン10C、水平対向8気筒エンジン10Dによれば、コンロッド11が直線的に往復運動を行うことから、従来のエンジンでは無しえなかったボア×ストロークの新たな設計を取り入れることができ、大径のボアに対して、さらにストローク長を長くして、ヘッド部22a内の燃焼効率を向上させることができ、熱損失に対する大きな改善が見込める。また、従来のエンジンではクランクアームとコンロッドの動きに伴ってピストン21がシリンダー20の内壁に衝突し、コンロッドとクランクアームに対して互いに応力が加わることによって、可燃性混合気体の爆発に伴う発熱のみならず、エンジンの構造物の動作によってもまた大きく発熱していたが、本実施例に係るクランク構造10、並びに単気筒エンジン10A、2気筒ユニット10B、水平対向4気筒エンジン10C、水平対向8気筒エンジン10Dによれば、ピストン21がシリンダー20の内壁に衝突し、振動することによるシリンダー20に対するピストンの摩擦損失を大きく減らすと共に、コンロッド11とクランクアーム13にかかる負荷についても軽減することができることから、摩擦等によるエンジン自体の余計な発熱を抑えて、燃焼効率を向上させることができ、熱損失に対する大きな改善が見込める。
【0056】
なお、本実施例に係るクランク構造10、並びに単気筒エンジン10A、2気筒ユニット10B、水平対向4気筒エンジン10C、水平対向8気筒エンジン10Dは、自動車に搭載される場合に限定されず、船舶、航空機、機関車等、内燃機関を備える乗り物に適用することができ、また、内燃機関を備えたポンプ、発電機等に適用しても良い。いずれの場合であっても、上記の効果を見込めることができ、燃料消費の改善のみならず、環境に対する負担も大きく軽減することができる。
【実施例0057】
次に、レシプロエンジンについて、シリンダー20のボアと、ピストン21のストロークの関係に着目した他の実施例を、添付した図面にしたがって以下説明する。
2気筒ユニット10Bは、図6に示したように、ボアに対してストロークが大きいロングストローク型に構成されている。ここで、ボアとは、シリンダーの内径を言い、ストロークとは、ピストン21の上死点と下死点間の距離を言う。
ここで、2気筒ユニット10Bに係るシリンダー20のボアとピストン21のストロークの関係は、図6に示すように、シリンダー20を細長く形成して、ボアに対してストロークが大きくなるように構成されている。なお、上記の他の実施例に記載したように、ピストン21の移動距離を大きく稼ぐクランク構造としたことから、ロッド部11aを従来のエンジンよりも短くして、コンロッド対11Aの長手方向の長さを短く構成してもなおストロークを大きく稼ぐことができる。これによって、エンジンをコンパクトに構成することができる。
これによって、図6に示した2気筒ユニット10Bのように、ロングストローク型に構成した場合は、低回転時の冷却損失を小さくして熱効率を改善することができ、燃費を向上させることができる。また、本実施例に係るクランク構造の場合、クランクアームの回転によるコンロッドの振れ角が無いので、容易にピストンスピードを高くすることができ、低回転時のトルクを大きくすることができる。
【0058】
一方、図9に示した2気筒ユニット10Eは、図6に示した構成と対照的に、ボアに対してストロークが小さいショートストローク型又は、ボアとストロークが等しいスクエア型として構成したものである。
上記の他の実施例に記載したように、ピストン21の移動距離を大きく稼ぐクランク構造としたことから、ロッド部11aを従来のエンジンよりも短くして、コンロッド対11Aの長手方向の長さを短く構成してもなおストロークを大きく稼ぐことができ、ピストンスカートの長さを最小限に抑えることができるので、ロッド部11aの長さを従来のクランク構造よりも極端に短くし、かつ、シリンダー20の内径を拡げてピストンを大径化することができる。
そのように、ピストンを大径化してショートストロークに構成した場合は、シリンダー20に設けた吸気口23、排気口24の径を大きくすることができる。吸気口23又は排気口24の径を大きくした場合、吸排気に要する時間を短くすることができ、かつ、ストロークを短くしているので、ピストンスピードを上げずに、高回転化することができる。そのため、ショートストロークに構成した場合は、排気量あたりの出力を容易に大きくすることができる。また、従来のショートストローク型エンジンでは、高出力を実現するためにボアを大径化するに伴って必然的にピストンも大きくなり、当該ピストンに係る部品、特にコンロッド又はクランクアームを頑丈にする必要があったが、本実施例に係る2気筒ユニット10Eによれば、コンロッド対が直線的に運動するため、従来ほどの剛性は必要が無く軽量化することができ、かつ、エンジンをコンパクトに設計することができる。
【0059】
そして、シリンダー20のボアとピストン21のストロークを略等しくしてスクエア型に構成した場合は、従来、ロングストローク化する際にボアを小さくするためにシリンダー20を細くするために、吸気口23又は排気口24の大きさに制限が課せられていたが、本実施例に係る2気筒ユニット10Eでは、ボアを大きくすることに合わせてストローク長を自在に設計することができることから、吸排気に係る時間を短くする共にピストンスピードを上げることができ、高回転化すると共に燃焼効率を改善するといった、ロングストローク型とショートストローク型の双方のメリットを容易に達成できるレシプロエンジンを設計することが可能である。
【0060】
また、シリンダー形状について、図10に示したように、各2気筒ユニット10B,10Eを基にして、対向配置されたシリンダー20の基端開口部をつなぎ合わせて一つのハウジング20A内に、コンロッド対11Aと、ピストン対21,21が収納されている2気筒ユニット10Fを構成しても良い。
ここで、従来、公知のエンジンによれば、ロータリーエンジンがハウジング内に略三角形状のローターを収納する構成となっている。当該ロータリーエンジンでは、ローターとハウジング壁面で区画される空間を密閉するアペックスシールがローターの回転に伴って異常摩耗することが大きな問題となっていた。これに対して、本実施例に係る2気筒ユニット10Fは、ロータリーエンジンのように回転動機構による容積変化を利用するエンジンでは無く、ピストン21とシリンダー20を用いた往復動機構による容積変化でエネルギーを生み出すのエンジンであることから、シール性を高く維持したまま、エンジンをコンパクトに構成することができる。
さらに、図10に示す2気筒ユニット10Fによれば、上記したように振動を抑制することができるため、ロータリーエンジンの優れた特性である低振動、低騒音化を実現することができる。
また、ロータリーエンジンにおいて、低回転域での燃焼が不安定であることから、トルクが細く、排出ガスがクリーンではない大きなデメリットは、たとえば、2気筒ユニット10Fのシリンダー20を細径化し、ピストン21のストローク長を伸ばして、ロングストローク化することによって、低速トルクを大きくして、燃焼効率を上げることによって解決することができる。さらには、2気筒ユニット10Fによれば、ロングストローク型、ショートストローク型、スクエア型と用途・目的に合わせてボアとストロークを自由に設計することができるので汎用性に優れている。
【0061】
第4実施例に係るレシプロエンジンの構成によれば、上記他の実施例に記載したクランク構造を採用し、シリンダー20の内径とピストン21のストローク量をロングストローク型、ショートストローク型或いはスクエア型と呼ばれる大きさ、長さへ任意に設計することができる。また、対向配置されたシリンダー20の基端開口部を連接させてハウジング20Aに構成することによって、ロータリーエンジンに似たメリットを備え、当該ロータリーエンジンのデメリットを極力排したレシプロエンジンを構成することができる。
【符号の説明】
【0062】
10…クランク構造、10A…単気筒エンジン、10B,10E,10F…2気筒ユニット、10C…水平対向4気筒エンジン、10D…水平対向8気筒エンジン、
11…コンロッド、11a…ロッド部、11b…係合環部、
12…クランクピン、13…クランクアーム、14…クランク軸、
15…円環部、15a…内歯車、16…歯車、17…偏心フリーローター、
20…シリンダー、21…ピストン、
22…点火プラグ、23…吸気口、24…排気口
30…第1ユニット、31…第2ユニット、32…第3ユニット、33…第4ユニット。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
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図10