(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006081
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】哺乳瓶用乳首
(51)【国際特許分類】
A61J 11/00 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
A61J11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108476
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000107284
【氏名又は名称】ジェクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095647
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】平岡 勝之
(72)【発明者】
【氏名】利光 勝久
【テーマコード(参考)】
4C047
【Fターム(参考)】
4C047PP22
4C047PP23
(57)【要約】
【課題】乳頭部の咥え方によってミルクの排出量の多少を切り替えることができる哺乳瓶用乳首を提供する。
【解決手段】哺乳瓶に装着可能な鍔部を有する胴部に乳頭部を突設した哺乳瓶用乳首であって、乳頭部の先端には二本のスリットを十字状に交差させてなる吸飲口と、鍔部には哺乳瓶への装着後も目視可能に通気弁が形成され、吸飲口は二本のスリットのうちの一方が他方よりも長く、且つ、平面視において長短何れかのスリットの延長線上に通気弁を位置させた。また、乳頭部の周壁内面に、少なくとも一部同士が互いに接触して交差する複数のリブを設けることもある。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳瓶に装着可能な鍔部を有する胴部に連続して乳頭部を突設した哺乳瓶用乳首であって、前記乳頭部の先端には二本のスリットを十字状に交差させてなる吸飲口と、前記鍔部には前記哺乳瓶への装着後も目視可能に通気弁が形成され、前記吸飲口は前記二本のスリットのうちの一方が他方よりも長く、且つ、平面視において長短何れかのスリットの延長線上に前記通気弁を位置させたことを特徴とする哺乳瓶用乳首。
【請求項2】
乳頭部の周壁内面に、少なくとも一部同士が互いに接触して交差可能な複数のリブを設けた請求項1記載の哺乳瓶用乳首。
【請求項3】
複数のリブは乳頭部の突設方向に対して斜め方向に等間隔に設けた請求項2記載の哺乳瓶用乳首。
【請求項4】
胴部の側面視外形は内方への負曲面で構成されている請求項1、2または3記載の哺乳瓶用乳首。
【請求項5】
吸飲口は、二本のスリットの交差点である中心に小孔が形成されている請求項1から4のうち何れか一項記載の哺乳瓶用乳首。
【請求項6】
乳頭部の先端内面に、吸飲口を囲繞する環状の裂け止め凸部を設けた請求項1から4のうち何れか一項記載の哺乳瓶用乳首。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二本のスリットを十字状に交差させてなる吸飲口を備えた哺乳瓶用乳首に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳頭部に設ける吸飲口をスリット状に形成したものは古くから知られており、スリットの形状を一文字やY字状とする他、十字状としたものもこれまた公知である(例えば特許文献1)。このように吸飲口をスリット状とすることで、通常は逆止弁効果によって哺乳瓶が倒れるなどしてもミルクが噴出しないが、乳児が乳頭部を咥えることで乳頭部がわずかでも扁平すれば、スリットが開口して吸飲が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、吸飲口を一文字のスリットとした場合、当該スリットを両端から加圧するように乳頭部を咥えなければスリットが開口せず、その他の向きに乳頭部を咥えた場合には、スリットがほぼ開口せず、吸飲が行えないという問題がある。これに対してY字状であればスリットを開口させる方向が三方向となるため、乳頭部をどの向きに咥えても何れかのスリットが開口するが、その開口量は一文字のものよりも小さく、ミルクの排出量が少ない。
【0005】
一方、二本のスリットを十字状に交差させてなる場合は、何れかのスリットに対して直交方向に乳頭部を扁平させれば、一方のスリットが開口するのに連動して他方のスリットも開口するため、一文字よりも簡単にスリットが開口し、Y字状よりもミルクの排出量が多いという利点がある。
【0006】
しかしながら従来は、X字状に交差する二本のスリットが同じ長さであったため、ミルクの排出量がほぼ一定となる。これに対して乳児の吸飲量には、月齢や個人差、その日の気分によって差があるため、その乳児が欲するよりもミルクの排出量が少なければ愚図ってしまい、逆に、その乳児が欲するよりも多くのミルクが排出されれば飲み溢しや咽せるなどして、いずれにしても適量のミルクを与えることができない。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、乳頭部の咥え方によってミルクの排出量の多少を切り替えることができる哺乳瓶用乳首を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために本発明では、哺乳瓶に装着可能な鍔部を有する胴部に連続して乳頭部を突設した哺乳瓶用乳首であって、前記乳頭部の先端には二本のスリットを十字状に交差させてなる吸飲口と、前記鍔部には前記哺乳瓶への装着後も目視可能に通気弁が形成され、前記吸飲口は前記二本のスリットのうちの一方が他方よりも長く、且つ、平面視において長短何れかのスリットの延長線上に前記通気弁を位置させるという手段を用いた。
【0009】
上記手段によれば、十字状をなす吸飲口が、長さが長い長スリットと、これよりも長さが短い短スリットの二本で構成されているので、長スリットを両端から加圧するように乳頭部を咥えた場合と、短スリットを両端から加圧するように乳頭部を咥えた場合とでは、前者では主として長スリットが大きく開口するため、主として短スリットが開口する後者よりもミルクの排出量が多くなる。したがって、乳頭部を咥える向きを90度変えることで、ミルクの排出量の多少を切り替えることができる。また、長スリットと短スリットの何れかの延長線上に通気弁が位置するため、通気弁を目視することで長短何れかのスリットのうち所望するスリットが優先して開口するように乳頭部を乳児に咥えさせることができる。なお、長スリットと短スリットの交差角度は直交が代表的であるが、厳密に90度でなくともよい。
【0010】
また、乳頭部の周壁内面には、少なくとも一部同士が互いに接触して交差可能な複数のリブを設けることが好ましい。吸飲時には乳頭部が扁平するが、当該扁平時にリブ同士が交差状に接触することで、乳頭部の周壁が密着せず、乳頭部内部にミルクが流れる隙間を確保することができるからである。
【0011】
この複数のリブは乳頭部の突設方向に対して斜め方向に等間隔に設けることが好ましい。乳頭部の突設方向と同じ方向にリブを設けると、乳頭部が扁平する際にリブ同士が接触しない場合が生じるが、斜め方向であれば乳頭部の咥え方(上下の向き)によらず、より確実にリブ同士が交差状に接触するからである。なお、「斜め方向」とは乳頭部の突設方向、即ち乳頭部の軸方向を基準とするもので、直線的な意義の他、乳頭部の周壁内面に沿った円弧状や螺旋状の曲線的な意義をも含むものである。
【0012】
一方、胴部は吸飲時に乳児の唇が当たる部分であるが、この胴部の側面視外形を内方への負曲面で構成することによって、乳児が母乳を吸飲する際と同様に乳頭部を深く咥えることができ、安心感を与えることができる。
【0013】
さらに、吸飲口は、二本のスリットの交差点である中心に小孔が形成されていることが好ましい。この手段では、乳頭部を軽く咥えるだけでミルクが小孔から滴るため、乳児の吸飲意欲を削ぐことがないからである。
【0014】
さらにまた、乳頭部の先端内面には、吸飲口を囲繞する環状の裂け止め凸部を設けることが好ましい。本発明の乳首の素材としてシリコーンゴムを採用した場合、その他のゴムよりもスリットが裂けやすくなるが、裂け止め凸部によって当該開裂を防止することができるからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、乳頭部を咥える向きを90度変更すれば、吸飲口の開き具合が変わり、ミルクの排出量の多少を切り替えることができるため、比較的多量のミルクが必要な場合と、そうでない場合の双方に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る哺乳瓶用乳首の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る哺乳瓶用乳首の斜視図であって、略円錐状の胴部1の中心に円筒状の乳頭部2を垂直方向に連続して突設している。3は胴部1の乳頭部2とは反対側の開口に周設した鍔部であり、本乳首を哺乳瓶に装着する際に哺乳瓶の開口と当該開口に螺着するキャップとの間に挟み込まれる部分である。
【0018】
胴部1は乳輪と乳房の一部に相当する部分で、乳頭部2は乳児が吸飲する際に口に咥える部分であり、蠕動運動により乳頭部2が扁平状に変形し、これにより先端に設けた吸飲口4が開口して内容物(ミルク等)が排出可能となる。そして、本発明では、吸飲口4を長スリット5と、これよりも短い短スリット6の二本を十字状に交差させてなる。この実施形態では長スリット5と短スリット6の交差角度を直角、即ち長スリット5と短スリット6を直交させているが、前記交差角度は正確に90度でなくともよい。また、この実施形態では、乳頭部2の先端表面を平坦面2aとして、この平坦面2aに吸飲口4を形成しているが、乳頭部2の先端表面形状はこれに限定されず、先端全体を丸みを帯びた形状としてもよい。
【0019】
このように吸飲口4を長短二本のスリット5・6を十字状に交差させて形成することで、乳頭部2を咥える際の上下の向きによって長スリット5が優先して開口する場合と短スリット6が優先して開口する場合とあるが、これについては後記にて詳述する。なお、長スリット5と短スリット6それぞれの長さは限定しないが、長スリット5の長さを1とした場合、短スリット6の長さは0.6未満とすることが、ミルクの最大排出量と最小排出量の何れをも適量範囲とすることが可能となる。
【0020】
そして、本発明のもう一つの重要な特徴点は、鍔部3に設ける通気弁7を平面視において、
図2に示すように、長短何れかのスリットの延長線EL上に位置させたことである。この通気弁7は、通常は閉弁しているが、吸飲により哺乳瓶の内圧が負圧になったときに弾性的に開口し、負圧を解消することで吸飲を継続可能とするという基本的作用の他、長短スリット5・6の向きを示す指標としても機能する。つまり、授乳者が通気弁7の向きを目視することで、何れのスリットが乳頭部2の扁平方向に向いているかを把握することができる。この実施形態では、長スリット5の延長線EL上に通気弁7を位置させているので、
図2の向きに乳頭部2を乳児に咥えさせた場合は、乳頭部2は図面上、上下に圧縮されて、短スリット6が優先的に開口する向きであることを把握することができる。
【0021】
このように吸飲口4には上下方向の向きがあり、その向きを通気弁7を指標として把握するところ、通気弁7をより確実に目視可能とするために、本実施形態では
図2・3に示すように、胴部1の一部に内側に窪む凹陥部8を設けている。
【0022】
一方、乳頭部2の好ましい形態として、本実施形態では、
図3に示したように、乳頭部2の周壁内面に複数本の斜方リブ9を等間隔に設けている。この斜方リブ9は乳頭部2の周壁内面から内方に向かって突出する凸条であって、吸飲時の蠕動運動によって乳頭部2が扁平する際、対向位置にある斜方リブ9同士が交差状に接触することで、乳頭部2の周壁内面が密着することを防止し、もって内容物が流れる隙間を確保するものである。また、斜方リブ9を乳頭部2の突設方向(中心軸方向)に対して斜め方向に設けることで、乳頭部2が突設方向に沿ったどの位置で扁平しても、斜方リブ9同士が交差状に接触するようにしている。斜方リブ9は長さが長いほどリブ同士の接触機会が増えるため、直線的なものよりも
図3のように螺旋状あるいは円弧状とすることが好ましい。また、傾斜角度が大きいほど接触機会が増え、さらに本数が多ければ接触機会が増えるが、傾斜角度については限定せず、さらに本数については少なくとも2本を必要とし、吸飲口4の切換え角度である90度ごとに一本ずつの計4本が適当であるが、上限は限定しない。
【0023】
なお、
図3において、乳頭部2の先端内面に設けた下向きの凸部は裂け止め凸部10であり、
図4に示すように、吸飲口4を囲繞するように環状に設けている。この裂け止め凸部10は、吸飲口4を構成する長短のスリット5・6が必要以上に開裂することをせき止める部分である。つまり、吸飲時に繰り返される乳頭部2の扁平変形によってスリット5・6が開裂する場合があるが、仮にスリット5・6が開裂しても、その裂け目が裂け止め凸部10に到達した段階で、当該開裂を停止させることができる。本乳首をシリコーンゴムによって成形し、スリット5・6を押し切り加工によって形成した場合、他のゴムに比べてスリット5・6が開裂しやすいため、特に有効である。
【0024】
さらに、本乳首の好ましい形態として、本実施形態では、
図5に示すように、胴部1の側面視外形を内方への負曲面で構成している。つまり、この実施形態では、胴部1の側面視外形は円弧Rに沿って内向きに湾曲している。これに対して乳頭部2の周壁は円柱状の側面視外形として、胴部1とは小円弧R1に沿ったアール部を介して連続する。このように胴部1の外形全体を負曲面で構成される内向きの湾曲円錐状とすることで、乳児は胴部1に邪魔されずに乳頭部2を深く咥えることができる。
【0025】
次に、本実施形態の哺乳瓶用乳首の使用方法と作用効果について説明する。上述のように乳頭部2の先端に設けられる吸飲口4は長スリット5と短スリット6を十字状に交差させてなるため、
図6に示すように、長スリット5が上下方向となるように、乳児に乳頭部2を咥えさせれば、吸飲時に長スリット5が優先的に開口し、ミルクの排出量が多くなる。一方、この状態から90度回転して、
図7に示すように、短スリット6を上下方向とすれば、長スリット5はほぼ開口せず、短スリットが優先的に開口するため、
図6の場合と比べてミルクの排出量が少なくなる。したがって、授乳者は吸飲口4の向きを90度変えることで、ミルクの排出量の多少を切り替えることができ、その乳児に合った適量のミルクを与えることができる。その際、吸飲口4の向きは通気弁を目視することで把握できることは上述したとおりである。
【0026】
図8は吸飲口4のより好ましい例を示すもので、その中心、即ち長スリット5と短スリット6の交差点に小孔11を形成したものである。このようにすることで、乳頭部2を軽く咥えるだけでミルクが小孔11から滴るため、乳児の吸飲意欲を削ぐことがない。
【0027】
図9は、吸飲口4を形成する形成刃の例を示すもので、何れも押し切り加工によってスリット5・6を形成するものである。このうち(a)の形成刃は、刃先が三角形状に尖っているため、切断力に優れる。しかし、乳首素材がシリコーンゴムである場合、粘着性によってスリットが密着してしまうおそれがある。これに対して(b)の形成刃では、刃先を先端が平坦な台形状とすることで、押し切り加工した場合には素材を線状に押し潰すため、こうして形成されたスリットは密着しにくくなる。また、刃先の構造上、素材が押し潰されることでスリットの下端側(乳頭部の裏側)の切断部周囲に薄膜が形成されるが、この薄膜が吸飲時にスリット内部に入り込むことで吸飲口4が確実に開口し、予定した量のミルクを排出することができる。さらに、スリットの形成と同時に、刃先がクロスする部分によって、
図8に示したような小孔11も形成することが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1 胴部
2 乳頭部
3 鍔部
4 吸飲口
5 長スリット
6 短スリット
7 通気弁
8 凹陥部
9 斜方リブ
10 裂け止め部
11 小孔