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特開2023-60837ガラスセラミックへのコーティングを製造するための、特にインクジェット印刷用のセラミック印刷インキ、および被覆されたガラスセラミック板
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  • 特開-ガラスセラミックへのコーティングを製造するための、特にインクジェット印刷用のセラミック印刷インキ、および被覆されたガラスセラミック板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060837
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】ガラスセラミックへのコーティングを製造するための、特にインクジェット印刷用のセラミック印刷インキ、および被覆されたガラスセラミック板
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20230421BHJP
   C03C 17/04 20060101ALI20230421BHJP
   F24C 15/04 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
C09D11/38
C03C17/04 A
F24C15/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022165995
(22)【出願日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】10 2021 126 968.7
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マイケ シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】ヨヘン ドレヴケ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファニー マンゴルト
(72)【発明者】
【氏名】イーナ ミトラ
【テーマコード(参考)】
4G059
4J039
【Fターム(参考)】
4G059AA15
4G059AB05
4G059AB11
4G059AC08
4G059CA01
4G059CB08
4J039AA00
4J039BA20
4J039BA35
4J039BC13
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE33
4J039DA03
4J039EA18
4J039EA19
4J039EA36
4J039EA46
4J039FA04
4J039GA24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】インクジェット印刷法による施与に適したセラミック印刷インキ及びコーティングを含むガラスセラミック板を提供する。
【解決手段】印刷インキにより製造されたまたは製造可能なコーティングを含むガラスセラミック板(1)であって、前記コーティング(2)は、ガラス質相と顔料粒子とを含み、前記コーティング(2)中の前記顔料粒子の重量割合は、少なくとも5重量%でかつ40重量%未満であり、前記顔料粒子は、前記ガラス質相内に分散して存在し、前記コーティング(2)は、好ましくは5体積%未満、特に好ましくは1体積%未満、非常に特に好ましくは0.5体積%未満、最も好ましくは0.1体積%未満の空隙率を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック印刷インキであって、特にインクジェット印刷法により施与するための、特に好ましくはガラスセラミックへのコーティングを製造するためのセラミック印刷インキにおいて、
前記印刷インキは、ガラス粒子を含む少なくとも1つのガラス質材料と、顔料粒子を含む少なくとも1つの顔料とを含み、
前記印刷インキに含まれる前記顔料粒子の重量の合計に対する、前記印刷インキに含まれる前記ガラス粒子の重量の合計の比は、少なくとも1.5であり、かつ19未満であり、
前記ガラス粒子は、少なくとも0.5μm~最大5μmの範囲である等価直径d90、好ましくは少なくとも0.5μm~最大5μmの範囲である等価直径d97、特に好ましくは少なくとも0.5μm~最大2.5μmの範囲である等価直径d97を有し、
前記印刷インキに含まれる前記ガラス粒子および前記顔料粒子に対する、得られる有効線熱膨張係数α20-300,effは、6.5×10-6/K~11×10-6/Kの範囲であり、
好ましくは、前記有効線熱膨張係数α20-300,effは、以下の式:
α20-300,eff=Σ(ガラス質材料iの重量割合×α20-300,ガラス質材料i)+Σ(顔料zの重量割合×α20-300,顔料z
に従って求められ、ここで、前記重量割合は、それぞれ前記印刷インキの固体の総重量に対するものであり、すなわち、前記総重量にはすべてのガラス質材料および顔料が含まれるものとする、印刷インキ。
【請求項2】
前記ガラス粒子は、少なくとも5×10-6/Kでかつ最大11×10-6/Kの線熱膨張係数α20-300を有するガラスを含む、請求項1記載の印刷インキ。
【請求項3】
前記印刷インキは、830℃以下、好ましくは750℃以下でかつ有利には少なくとも500℃の温度で焼付け可能である、請求項1または2記載の印刷インキ。
【請求項4】
前記印刷インキに含まれる前記顔料粒子は、少なくとも0.5μm~最大5μmの等価直径d90を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の印刷インキ。
【請求項5】
前記ガラス粒子は、500℃~800℃、好ましくは500℃~750℃の軟化点を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の印刷インキ。
【請求項6】
前記ガラス粒子は、少なくとも15重量%でかつ最大72重量%のSiOを含有するガラスを含むか、またはそのようなガラスからなる、請求項1から5までのいずれか1項記載の印刷インキ。
【請求項7】
前記ガラス粒子は、NaOを含有するガラスを含むか、またはそのようなガラスからなり、NaOの割合は、好ましくは少なくとも0.5重量%であり、かつ特に好ましくは最大11重量%である、請求項1から6までのいずれか1項記載の印刷インキ。
【請求項8】
少なくとも1つのコーティング(2)、好ましくは、請求項1から7までのいずれか1項記載の印刷インキにより製造されたまたは製造可能なコーティングを含むガラスセラミック板(1)であって、
前記コーティング(2)は、ガラス質相と顔料粒子とを含み、
前記コーティング(2)中の前記顔料粒子の重量割合は、少なくとも5重量%でかつ40重量%未満であり、
前記顔料粒子は、前記ガラス質相内に分散して存在し、
前記コーティング(2)は、好ましくは5体積%未満、特に好ましくは1体積%未満、非常に特に好ましくは0.5体積%未満、最も好ましくは0.1体積%未満の空隙率を有し、
前記コーティング(2)において、得られる有効線熱膨張係数α20-300,effは、6.5×10-6/K~11×10-6/Kの範囲であり、
好ましくは、前記有効線熱膨張係数α20-300,effは、以下の式:
α20-300,eff=Σ(ガラス質材料iの重量割合×α20-300,ガラス質材料i)+Σ(顔料zの重量割合×α20-300,顔料z
に従って求められる、ガラスセラミック板(1)。
【請求項9】
前記コーティング(2)の前記ガラス質相は、少なくとも5×10-6/Kでかつ好ましくは最大11×10-6/Kの線熱膨張係数α20-300を有する、請求項8記載のガラスセラミック板(1)。
【請求項10】
前記コーティング(2)の前記ガラス質相は、500℃~800℃、好ましくは500℃~750℃の軟化点を有する、請求項8または9記載のガラスセラミック板(1)。
【請求項11】
前記コーティング(2)に含まれる前記顔料粒子は、少なくとも0.5μm~最大5μmの等価直径d90を有する、請求項8から10までのいずれか1項記載のガラスセラミック板(1)。
【請求項12】
前記コーティング(2)は、1μm~4μm、好ましくは1.5μm~3.5μmの厚さを有する、請求項8から11までのいずれか1項記載のガラスセラミック板(1)。
【請求項13】
前記ガラスセラミックにおいて、20℃~700℃の範囲における線熱膨張係数αGK,20-700は、-0.5~2×10-6/K、好ましくは0~1×10-6/K、特に好ましくは0.1~0.5×10-6/Kである、請求項8から12までのいずれか1項記載のガラスセラミック板(1)。
【請求項14】
調理機器、オーブン、キッチン用備品、キッチン用飛沫防止パネル、屋内用暖炉における、特に内部もしくは外部の被覆材としての、または覗き窓としての、外部領域用暖炉としての、特に内部もしくは外部の被覆材としての、または覗き窓としての、グリル、冷蔵庫、電子レンジ、フードのカバーもしくは化粧材、携帯電話、タブレット、動力車、実験用機器、実験用備品、防火グレージング、高温プロセスチャンバの覗き窓としての、赤外線ラジエーターのカバー、スクリーン、有利には少なくとも1つの家電製品の制御用の操作パネルにおけるユーザーインターフェースのカバー、または誘導充電ステーションのカバーにおける、請求項8から13までのいずれか1項記載のガラスセラミック板(1)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、総じて、特にインクジェット印刷法による施与に適したセラミック印刷インキであって、特に好ましくはガラスセラミックへのコーティングを製造するためのセラミック印刷インキに関する。本発明のさらなる態様は、特に該印刷インキにより製造されたまたは製造可能なコーティングを含むガラスセラミック板に関する。
【0002】
発明の背景
セラミック印刷インキは、様々な用途に使用されている。また、このような印刷インキをガラスセラミック、例えば熱膨張係数の低いガラスセラミック板に施与することも原則的には知られている。
【0003】
一般に、このようなセラミック印刷インキは、総じて様々な方法で施与することが可能である。通常は、例えばスクリーン印刷を用いることができるが、例えばインクジェット印刷など他の方法も可能である。
【0004】
製造技術上の理由から、このようなセラミックインキをスクリーン印刷で施与することが、大量の印刷物を効率的に製造できるため好ましい場合がある。また、印刷ガラスセラミック板を製造する際には、既にセラミック化されているガラスセラミックに印刷インキを施与しないことも好ましい場合がある。そのようにするのではなく、まだセラミック化されていない前駆体生成物、いわゆる「グリーンガラス」に印刷し、セラミック化の際にセラミック印刷インキを焼き付けることが一般的である。これは、いわゆる一次焼付と呼ばれる。
【0005】
しかし、原理的には、ガラスセラミック板など、既にセラミック化されているガラスセラミック生成物に印刷し、いわゆる「二次焼付」でインキを焼き付けることも可能である。この場合には2回の焼付が必要となるため、確かに製造技術上の観点からは好ましくない。しかし、例えば生成物の個別化のためにこのような二次焼付を行うことが有利である場合がある。
【0006】
しかし、このようなセラミック印刷インキの施与の仕方や焼付の問題に加えて、これらの印刷インキで得られるコーティングや印刷された板に対してさらなる要求が課されている。
【0007】
例えば、このような印刷インキは例えば顔料を含む場合があり、すなわち隠蔽性または少なくとも部分的に隠蔽性のコーティングとして設計されている場合があり、特に、対応する生成物が例えばクックプレートとして使用されるガラスセラミック板である場合、前述のコーティングは、例えば調理ゾーンやディスプレイ領域といった機能領域の表示やマーキングに使用される。
【0008】
このようなコーティングは、日常的な使用に際して部分的に、例えば熱負荷や研磨負荷などの著しい負荷に曝されることがあることから、さらに、得られるコーティングが十分な密着強度を有することも必要とされる。
【0009】
さらに、このような印刷インキまたはそれを用いて得られるコーティングは、印刷された基材の強度を損なう場合があることも知られている。
【0010】
そのため、ガラスセラミック板用の印刷インキには様々な要求が課せられている。こうした印刷インキは、特定の施与方法および高温にのみ適していればよいというわけではなく、さらには、コーティングの十分な密着強度および耐傷性、あるいは基材への機械的および/または研磨的な攻撃全般に対するコーティングの耐久性をも実現しなければならず、またその際に基材の機械的強度を大幅に低下させてはならない。
【0011】
これに対して、様々な解決策が提案されている。
【0012】
米国特許出願公開第2016/0244356号明細書には、少なくとも部分的にエナメルコーティングが施されたガラスセラミック物品が記載されている。このコーティングは、顔料を5重量%未満の割合でわずかにしか含まない。
【0013】
米国特許出願公開第2012/0263957号明細書には、少なくとも40重量%~最大65重量%の顔料を含むエナメル組成物が記載されている。
【0014】
米国特許出願公開第2007/0031603号明細書には、ガラス印刷用デジタルインクジェットプリンタが記載されている。印刷インキの組成については、詳細には記載されていない。
【0015】
米国特許出願公開第2020/0283333号明細書には、高耐熱・高強度・低熱膨張の被覆されたガラスまたはガラスセラミック基材が記載されている。このコーティングは、寸法0.1μm~30μm、厚さ1.5μm~50μmの閉気孔を含む。
【0016】
米国特許出願公開第2016/0340232号明細書には、不透明なコーティングを製造するためのガラス融液、および該コーティングを有する被覆されたガラス基材が記載されている。ガラス融液は、少なくとも1つの顔料を含む。記載されているガラス融液のガラス質成分は、熱膨張係数が4.7×10-6/Kを上回る。
【0017】
国際公開第2016/008848号には、低膨張ガラスおよび/または低膨張ガラスセラミック用のセラミックインクジェットインキが記載されている。
【0018】
米国特許出願公開第2008/0139375号明細書には、黒色の装飾インキを有するガラスセラミック板が記載されている。装飾インキのガラス融液は、黒色となるように形成されており、装飾インキは、0~10重量%の黒色顔料をさらに含む。
【0019】
米国特許出願公開第2007/0191206号明細書には、溶融シリケートとSiOフレークをベースとする効果顔料とを含む塗料で装飾を施した、高い熱負荷を受けることができるガラスまたはガラスセラミック物体が記載されている。該文献には、コーティングの熱膨張係数に関する記述はない。層の施与は、スクリーン印刷で行われる。
【0020】
米国特許出願公開第2008/0214379号明細書にも、装飾を施した、高い熱負荷を受けることができるガラスセラミックまたはガラス質の構成要素が記載されている。装飾は、効果顔料と溶融シリケートとを含むメタリック塗料により行われている。効果顔料は、Alの合成フレークをベースとしている。
【0021】
米国特許第6525300号明細書には、被覆されたガラスセラミック板が記載されている。コーティングはガラス系コーティングであり、このコーティングは、低延伸性ガラスセラミックとは熱膨張係数が大きく異なる。
【0022】
欧州特許第0978493号明細書には、ガラスおよびガラスセラミックを装飾することができる鉛およびカドミウム不含のガラス組成物、および該ガラス組成物で被覆されたガラスセラミックの製造方法が記載されている。
【0023】
米国特許第6043171号明細書には、ガラスまたはガラスセラミックのグレージング、エナメル処理および装飾用の鉛およびカドミウム不含のガラス組成物が記載されている。
【0024】
独国特許発明第4201286号明細書には、グレージング、エナメル処理および装飾のための鉛およびカドミウム不含のガラス組成物の使用、ならびに該組成物が記載されている。
【0025】
独国特許発明第19512847号明細書には、グレーズおよびエナメルに使用するための鉛およびカドミウム不含のガラス組成物が記載されている。グレーズおよびエナメルは、ガラスのコーティングに適している。基材材料としてのガラスセラミックは、対象とされていない。
【0026】
米国特許第6187429号明細書には、ガラスまたはガラスセラミック基材に施与される装飾用セラミック着色層が記載されている。この特許文献には、密着強度を向上させるために、例えばマイカなどのフィラーをセラミック塗料に添加することが記載されている。
【0027】
米国特許第5747395号明細書には、コーティングを製造するためのコバルト含有ガラス組成物が記載されている。ガラスに含まれるコバルトによって、コーティング自体が青色に着色されている。
【0028】
米国特許出願公開第2021/0115281号明細書には、インクジェット印刷用鉱物インキが記載されている。
【0029】
米国特許出願公開第2010/0273631号明細書には、強化ガラスセラミック物品、および該物品の被覆に適したエナメルが記載されている。この被覆は、エナメルに顔料を加えることなく行うことができ、ガラスセラミック物品の表面に応力を導入することを目的としている。
【0030】
国際公開第2016/110724号には、ガラスフリットの組成物、および該ガラスフリットを含むセラミックインクジェット印刷インキが記載されている。このコーティングは特に、基材材料としてのガラスの被覆に適している。
【0031】
国際公開第2020/043929号には、デジタルインクジェット印刷用セラミックインキおよびその製造方法が記載されている。この印刷インキは、特にガラスを基材材料として使用することが意図されている。
【0032】
米国特許出願公開第2009/0214840号明細書には、セラミック表面、特にガラス表面への印刷によってエッチング効果を生じさせるためのインキが記載されている。
【0033】
国際公開第2015/003736号には、特にガラス基材に印刷するためのセラミックインクジェットインキが記載されている。
【0034】
米国特許出願公開第2016/0264455号明細書には、ガラス系の音響最適化コーティングを備えた基材が記載されている。この基材は、ガラスまたはガラスセラミックからなるか、またはこれらの材料を含むことができる。
【0035】
米国特許出願公開第2013/0273320号明細書には、触覚特性を有する被覆されたガラスまたはガラスセラミック基材が記載されている。触覚特性は、コーティング中の構造付与粒子によってもたらされる。
【0036】
米国特許出願公開第2006/0189470号明細書には、ガラスおよびガラスセラミックにグレージング、エナメル処理または装飾を施すための鉛およびカドミウム不含のガラスが記載されている。こうすることで、被覆された基材の高い曲げ強度を実現することができる。
【0037】
欧州特許第3372569号明細書には、エナメル組成物、およびエナメル処理されたガラスセラミック物品の製造方法が記載されている。このエナメル組成物は、50重量%を上回る非常に高い顔料含有量を有する。
【0038】
欧州特許第1870383号明細書には、アルカリおよびカドミウム不含のガラスフリット、ならびにセラミックインキを製造するためのその使用が記載されている。
【0039】
独国特許発明第102016216442号明細書には、摩擦係数が最適化された装飾物を有する被覆された基材が記載されている。この装飾物は、ガラス系である。さらに、該特許文献は、このような装飾物の製造方法およびその使用に関する。
【0040】
独国特許発明第102005040588号明細書には、鉛およびカドミウム不含のガラスの使用、ならびにいわゆるリチウムアルミノシリケートガラスセラミックのグレージング、エナメル処理、および装飾のための方法が記載されている。
【0041】
独国特許発明第102004002766号明細書には、艶消し処理された領域を少なくとも1つ有するガラスセラミック板およびその製造方法が記載されている。艶消し処理の際に、顔料不含のガラス融液が施与される。
【0042】
先行技術における前述の刊行物のいずれにも、インクジェット印刷に適しており、かつインクジェット印刷時に印刷インキのガラス粒子と印刷インキに使用される顔料とが熱膨張係数に関して互いに一致するという点で個々の成分が互いに適合されているセラミック印刷インキは記載されていない。また、先行技術の刊行物の多くは、スクリーン印刷などの印刷法、およびガラスセラミックへのガラス系コーティングを製造するためのいわゆる一次焼付に関するものがほとんどである。
【0043】
したがって、特にインクジェット印刷法により施与するための、特に好ましくはガラスセラミックへのコーティングを製造するためのセラミック印刷インキであって、フレキシブルに使用でき、特に二次焼付によっても焼き付けでき、被覆されたガラスセラミック物品の十分な強度を保証し、さらに十分な密着強度および機械的負荷に対する耐久性をも有するセラミック印刷インキが求められている。
【0044】
発明の課題
本発明の課題は、上記で概説した先行技術の問題点を少なくとも部分的に克服または緩和するセラミック印刷インキを提供することである。
【0045】
発明の概要
この課題は、独立請求項の主題によって解決される。好ましい特定の実施形態は、本開示による従属請求項、発明の詳細な説明および図面に示されている。
【0046】
よって、本開示は、セラミック印刷インキであって、特にインクジェット印刷法により施与するための、特に好ましくはガラスセラミックへのコーティングを製造するためのセラミック印刷インキに関する。印刷インキは、ガラス粒子を含む少なくとも1つのガラス質材料と、顔料粒子を含む少なくとも1つの顔料とを含む。ここで、印刷インキに含まれる顔料粒子の重量の合計に対する、印刷インキに含まれるガラス粒子の重量の合計の比は、少なくとも1.5であり、かつ19未満である。
【0047】
総じて、本開示において、インクジェット印刷法により施与するための印刷インキとは、特にセラミック印刷インキ用の従来のインクジェットプリンタで印刷可能な印刷インキであると理解される。特にこれは、本開示においては、以下のパラメータ範囲内の特性を有する印刷インキ、特にセラミック印刷インキであると理解される:
【表1】
【0048】
ここで、インクジェット印刷法では、印刷される媒体の様々なパラメータおよび特性を考慮する必要があることに留意すべきである。そのため、例えば、粘度、表面張力および密度といった印刷媒体の特性は、個別にではなくそれらの相互作用を含めて考慮される。例えば、これには、オーネゾルゲ数の逆数であるいわゆるZ値を利用することができる。
【0049】
これは、以下のように定義される:
【数1】
【0050】
ウェーバー数(略してWe)は、以下のように定義される:
【数2】
【0051】
ここで、ηは、せん断速度1000/s以上での粘度(Pas)であり、σは、表面張力(N/m)であり、ρは、密度(kg/m)であり、dは、特性長(ノズル径)(m)であり、vは、液滴速度(m/s)を表す。
【0052】
ZおよびWeは、レイノルズ数により互いに相関関係にある。粘度指数とは、それがどれほどニュートン流体であるか、また印刷時に粘度が変化し易いか否かを示す指標である。これは、印刷温度(通常10℃~40℃、好ましくは25℃前後)での粘度曲線を求めることで行われる。
【0053】
ガラス粒子は、少なくとも0.5μm~最大5μmの範囲である等価直径d90、好ましくは少なくとも0.5μm~最大5μmの範囲である等価直径d97、特に好ましくは少なくとも0.5μm~最大2.5μmの範囲である等価直径d97を有する。
【0054】
印刷インキに含まれるガラス粒子および顔料粒子に対する、得られる有効線熱膨張係数α20-300,effは、6.5×10-6/K~11×10-6/Kの範囲である。
【0055】
得られる有効線熱膨張係数α20-300,effの好ましい上限は、10×10-6/K、特に好ましくは9.5×10-6/K未満、非常に特に好ましくは最大9×10-6/K、またはさらには9×10-6/K未満である。
【0056】
好ましくは、有効線熱膨張係数α20-300,effは、以下の式に従って求められる:
α20-300,eff=Σ(ガラス質材料iの重量割合×α20-300,ガラス質材料i)+Σ(顔料zの重量割合×α20-300,顔料z
【0057】
重量割合は、それぞれ印刷インキの固体の総重量(すなわち、印刷インキの固形分)に対するものであり、すなわち、この総重量にはすべてのガラス質材料および顔料が含まれる。
【0058】
一実施形態によれば、セラミック印刷インキは、鉛不含となるように形成されている。つまり、技術的な理由による不純物を除き、セラミック印刷インキ、およびこれに対応してガラスセラミック板へのコーティングは、成分PbOを、最大500重量ppm、好ましくは最大200重量ppmの含有量で含む。
【0059】
さらなる実施形態によれば、印刷インキは、膨張剤を含まない。本開示において、膨張剤とは、昇温時に分解して流体相を形成する薬剤、例えばガスを放出する薬剤であると理解される。そのような膨張剤は、発泡剤と呼ばれる場合もある。本開示によるセラミック印刷インキは、上述のとおり、好ましくはこのような膨張剤を含まない。
【0060】
このような印刷インキの設計は、非常に有利である。
【0061】
ここでは、印刷インキは、セラミックとして形成されている。本願において、セラミックインキとは、無機構造を有するインキ、すなわち、焼付済みの状態で少なくとも95重量%の無機成分を含むインキであると理解される。特に、このようなセラミックインキは、例えばいわゆるエナメル塗料として、ガラス系として形成されていてよい。
【0062】
本開示のインキを印刷インキとして形成することで、印刷インキを横方向に構造化された状態で、すなわち例えばパターン状に施与することが可能となる。特にこれにより、基材にマーキングを施すことが可能である。
【0063】
印刷インキは、ここではインクジェット印刷用に形成されていることが好ましい。また、こうすることで、例えばいわゆるスクリーン印刷用のスクリーンのような印刷版を作製する必要がなくなることも利点である。あらかじめ印刷イメージをデジタルで規定することができるため、このような方法は、少量の製造や生成物の個別化に特に有利である。
【0064】
本開示による印刷インキは、少なくとも1つのガラス質材料を含む。本開示において、ガラス質材料とは、溶融プロセスによって得られた、または得ることができる非晶質の無機非金属材料であると理解される。ガラス質材料は、ガラス粒子を含むため、粉体状であることが好ましい。さらに、印刷インキは、顔料粒子を含む少なくとも1つの顔料を含む。本開示において、顔料とは、着色体、特にセラミック着色体であると理解される。本開示において、セラミック着色体は、無機物として形成された、好ましくは無機非金属の顔料である。例えば、本願において顔料として適しているのはスピネル顔料であるが、TiOまたはFeも適している。このようなセラミック着色体は、セラミックインキの焼付時に生じるような焼付条件に耐えることができるだけでなく、このように被覆された生成物、例えばガラスセラミックの使用時にも、顔料の分解を招くことなく操作上高温に曝すことができる。顔料は顔料粒子を含むため、同様に粉体状であることが好ましい。
【0065】
さらに、セラミック印刷インキが2つ以上のガラス質材料および2つ以上の顔料を含むことが可能であり、また好ましい場合もある。
【0066】
本開示によれば、印刷インキに含まれる顔料粒子の重量の合計に対する、印刷インキに含まれるガラス粒子の重量の合計の比が、少なくとも1.5であり、かつ19未満であることがさらに提供される。これは、印刷インキに含まれるガラス粒子および顔料粒子の重量に対するガラス粒子の割合が、少なくとも60重量%を上回り、かつ最大95重量%であることに相当する。好ましくは、このガラス粒子の割合は、少なくとも80重量%~最大90重量%であってよい。
【0067】
こうすることで、例えばガラスセラミック板のような基材上での得られるコーティングの十分な機械的耐久性が達成されるため、これは非常に有利である。なぜならば、1つのガラス質材料、または場合によっては複数のガラス質材料がバインダーとして作用して、基材と顔料粒子との間に十分な結合を提供するためである。しかし、1つ以上のガラス質材料の割合を高くすると、被覆された基材の強度に影響を与えかねないという欠点がある。したがって、1つのガラス質成分、または場合によっては複数のガラス質成分の割合は高すぎてはならず、1つ以上のガラス質材料および顔料の重量の合計に対して最大95重量%、好ましくは最大90重量%に制限することが好ましい。こうすることで、コーティングの依然として十分な不透明度あるいは視認性も確保され、このことは、例えば本開示によるセラミック印刷インキが操作領域などの技術領域のマーキングを目的としている場合には、安全上の理由から重要となり得る。このことは例えば、調理面やクックプレートとして使用されるガラスセラミック板を印刷インキで被覆する場合に特に重要となり得る。
【0068】
本発明によるガラスセラミック板は、様々な用途で用いることができる。
【0069】
一実施形態では、ガラスセラミック板は、調理機器においてクックプレートとして使用することができる。
【0070】
さらなる実施形態では、ガラスセラミック板は、少なくとも1つの家電製品、特に調理機器、オーブン、冷蔵庫またはフードの制御用の操作パネルのユーザーインターフェースを覆うために使用することができる。
【0071】
本実施形態の発展形態では、操作パネルは、例えば、調理機器、オーブンおよびフード向けに複数の家電製品を制御できるように設計されていてよい。フードは、いわゆるダウンドラフトフードの形態で、対応するガラスセラミック製クックプレートと一緒に調理機器に組み込まれていてもよい。この場合、ガラスセラミック板には、ダウンドラフトフードを挿入できる凹部を設けることができる。
【0072】
さらなる実施形態では、ガラスセラミック板は、フード、特にダウンドラフトフードのカバーとして設計されていてよい。特にモジュール式の調理システムでは、ダウンドラフトフードが、調理機能を持たない独立したモジュールとして設計されていてよい。しかし、そのようなモジュールは、調理機能を有するモジュールとの併用に適していることから、ガラスセラミックに一般的である耐熱性および耐薬品性に対する非常に高い要件をも満たさねばならない。さらに、そのようなモジュールは、ダウンドラフト排気系を制御するためのユーザーインターフェースを備えていてもよい。
【0073】
さらなる実施形態では、ガラスセラミック板は、フードの化粧材として設計されていてもよい。本実施形態では、調理機器の調理領域とフードの化粧材とが同じガラスセラミック板を有していると、美観的に特に優れたものとなり得る。本実施形態は、フードが、フードを制御するためにガラスセラミック板の裏に配置されたユーザーインターフェース、またはフードと調理機器とを複合的に制御するためのユーザーインターフェースを有する場合に特に有利である。
【0074】
オーブン、特に熱分解オーブンでは、ガラスセラミック板を、ドアのグレージングの一部として使用することができる。
【0075】
さらなる実施形態では、ガラスセラミック板は、キッチン用備品において、特にキッチンキャビネット、システムキッチンまたは調理台において、ワークトップとして使用することができる。
【0076】
さらなる実施形態では、ガラスセラミック板は、キッチン用飛沫防止パネルとして使用することができる。ガラスセラミック板は、例えば汚染防止パネルの代わりに、例えばキッチンの背面壁としてプレートの形態で使用することができる。またガラスセラミック板は、アイランドキッチンの独立した飛沫防止パネルとして提供されていてもよい。このような飛沫防止パネルは、常設されていてもよいし、格納できるように設計されていてもよい。格納可能な飛沫防止パネルは、調理機器を操作する際に飛沫防止体として機能するよう外部に出すことができる。調理工程の終了後に、これを例えば調理機器やワークトップにおいて下げておくことができる。この場合、調理機器のクックプレートと飛沫防止パネルとの双方が本発明によるガラスセラミック板を有していると、美観的に特に優れたものとなり得る。さらに、キッチンのワークトップも同じガラスセラミック板を含むことができる。
【0077】
キッチンの飛沫防止パネルには絶えず、調理中に塩水や植物性または動物性の油脂などの高温の液体がかかる。また、これは定期的に化学洗浄剤で洗浄される。本発明によるガラスセラミック板は、熱的および化学的に非常に安定しているため、キッチン用の飛沫防止パネルとしての使用に特に好適である。
【0078】
さらなる実施形態では、ガラスセラミック板は、実験用機器、特に加熱プレート、オーブン、天秤、または実験用備品、特に排気口、キャビネット、または台において、ユーザーインターフェースを覆うために、またはワークトップとして使用することができる。
【0079】
さらなる実施形態では、ガラスセラミック板は、暖炉の覗き窓として、燃焼室および他の高温プロセスチャンバの覗き窓として、防火グレージングとして、携帯電子機器、特に携帯電話およびタブレットコンピュータのハウジングの一部として、赤外線ヒータもしくはガスバーナーの、特にガスグリルのカバーとして、スクリーンとして、または誘導充電ステーションの、例えば動力車分野における自動車の、例えば操作領域もしくはセンターコンソールのカバーとして使用することができる。
【0080】
ここで、ガラスセラミック板は、耐熱性および耐薬品性に優れているため、屋内外の暖炉に使用することができる。このような暖炉は、例えば、ガス、木材またはペレットにより着火することができる。
【0081】
高温プロセスチャンバは、例えば、真空コーティング装置であってよい。
【0082】
ガラス粒子は、少なくとも0.5μm~最大5μmの範囲である等価直径d90、好ましくは少なくとも0.5μm~最大5μmの範囲である等価直径d97、特に好ましくは少なくとも0.5μm~最大2.5μmの範囲である等価直径d97を有する。このように非常に微細な粒子が存在し、これはインクジェット印刷法でもプリントヘッドを詰まらせることなく良好に印刷することができるため、有利である。ここで、等価直径とは、粒子の体積を基準として、当該粒子と同じ体積の球体の直径であると理解される。したがって、これはいわゆる体積等価球の直径である。
【0083】
このような対応する等価直径を有する設計は非常に有利である。なぜならば、こうすることで、特に、使用され、かつセラミック印刷インキに含まれる顔料粒子の等価直径が適宜考慮される場合に、緻密な層を達成することが容易に可能であるためである。よって、非常に平滑な層を得ることも可能であり、これによってコーティングの容易な洗浄が可能となる。このことは、調理面やクックプレートとして使用されるガラスセラミック板へのコーティングを扱う場合には特に重要である。さらに、粒子を小さくすることにより、粒子のより均一な溶融が行われることから、焼付温度や焼付時間も低減される。
【0084】
その結果、印刷インキに含まれるガラス粒子および顔料粒子に対する有効線熱膨張係数α20-300,effは、6.5×10-6/K~11×10-6/Kの範囲となる。こうすることで、このような印刷インキで被覆された基材の十分な強度を、またガラスセラミック基材の十分な強度をも、依然として確保することができる。
【0085】
同時に、こうすることで、二次焼付の条件下でも使用可能なガラス質材料、例えばガラス融液を使用することも可能である。
【0086】
有効線熱膨張係数α20-300,effは、好ましくは以下の式で与えられる:
α20-300,eff=Σ(ガラス質材料iの重量割合×α20-300,ガラス質材料i)+Σ(顔料zの重量割合×α20-300,顔料z
【0087】
言い換えれば、これはそれぞれ、ガラス質材料、またはガラス質材料および顔料、または顔料の重量の合計である総重量に対するガラス質材料または顔料の重量割合に、対応する線熱膨張係数を乗じることを意味し、その際、この好ましい実施形態によれば、次にこれらの積の和として、印刷インキの有効(または得られる)線熱膨張係数が求められる。
【0088】
本実施形態により、印刷インキの固体成分、すなわち、1つ以上のガラス質材料もしくは1つ以上の顔料から生じる線熱膨張係数の適合を可能にするセラミック印刷インキが提供される。そのため、印刷インキの、得られるまたは有効線熱膨張係数の調整が、インキの開発段階で既に容易に可能となる。例えば、このようにして、例えば特定の色または特定の他の有利な特性、例えば特定の膜硬度などを達成するために、所与の顔料に対して特別にガラス質材料を選択し、かつ/または印刷インキの有効線熱膨張係数に影響を与える個々の材料同士の比率を互いに適合させて調節することが可能である。
【0089】
印刷インキのガラス質成分とは、ここでは特に、ガラス質材料がガラス融液もしくはガラスフリットとして形成されていてよい、またはそのように形成されていることとも理解される。ガラス質材料は、ガラスフリットまたはガラス融液として印刷インキに添加することが可能である。しかし、ガラス質材料の個々の成分を構成要素として、または前駆体生成物の形態で添加して、焼付時の時点で初めてガラス質材料が形成されるようにすることも可能である。
【0090】
一実施形態によれば、ガラス粒子は、少なくとも5×10-6/Kでかつ最大11×10-6/Kの線熱膨張係数α20-300を有するガラスを含む。これにより、例えばガラスセラミック基材上に密着性の良好な層を得ることができる印刷インキが得られるため、有利である。一方で、これらはガラス質材料でもあり、これは通常、いわゆる二次焼付によっても焼付け可能であるため、低い焼付温度でも溶融する材料である。
【0091】
したがって、一実施形態によれば、印刷インキは、830℃以下、好ましくは750℃以下でかつ有利には少なくとも500℃の温度で焼付け可能であることが提供される。
【0092】
焼付温度が高すぎると、経済的な理由から不利であるが、焼付時の温度が高すぎるとガラスセラミック生成物が例えばさらにセラミック化され、または変形して、生成物の仕様を満たせなくなるおそれがあるため、製造技術的な観点からも不利である。したがって、焼付温度は高すぎてはならず、好ましくは830℃以下、好ましくは750℃以下である。一方で、焼付温度の最低温度は、少なくとも500℃であることが好ましい。なぜならば、こうすることで、一方ではガラス質材料と基材との間に、また好ましくはセラミック印刷インキ自体の個々の成分間にも、良好な密着結合が生じることが保証されるためである。
【0093】
さらなる実施形態によれば、印刷インキに含まれる顔料粒子は、少なくとも0.5μm~最大5μmの等価直径d90を有する。使用される顔料粒子は大きすぎないことが有利である。なぜならば、顔料粒子が大きすぎるとうまく印刷できず、特にインクジェット印刷ではノズルの目詰まりを引き起こす可能性があるためである。しかし、十分な隠蔽力および色の濃さを確保するためには、粒子が小さすぎることも望ましくない。したがって、等価直径に基づく顔料粒子のd90が最大5μm、ただし少なくとも0.5μmであれば有利である。
【0094】
さらに別の実施形態によれば、ガラス粒子は、500℃~800℃の軟化点を有する。好ましくは、ガラス粒子の軟化点は、500℃~700℃である。こうすることで、比較的低い温度、すなわち二次焼付でも既に顔料粒子の十分な被覆を確保することができる。
【0095】
さらに別の実施形態によれば、ガラス粒子は、少なくとも15重量%でかつ最大72重量%のSiOを含有するガラスを含むか、またはそのようなガラスからなる。SiOは、ガラス形成成分として知られており、ガラスに十分な耐薬品性を付与することも可能である。したがって、ガラスのSiO含有量は、少なくとも15重量%であることが望ましい。ただし、SiOは溶融粘度および溶融温度をも高めるため、ガラス質材料のSiO含有量はさほど高くない方が望ましく、したがって、最大72重量%であることが好ましい。
【0096】
さらなる実施形態によれば、ガラス粒子は、NaOを含有するガラスを含むか、またはそのようなガラスからなり、NaOの割合は、好ましくは少なくとも0.5重量%、特に好ましくは最大11重量%である。NaOはガラス成分として知られており、網目修飾剤として作用するとともに、溶融温度を低下させる。したがって、ガラス粒子またはガラス質材料は、NaOを成分として含むガラスを含むか、またはそのようなガラスからなることができる。ガラスのNaO含有量が少なくとも0.5重量%であれば有利であり得る。ただし、ガラスのNaO含有量が高すぎると耐薬品性を低下させるおそれがあるため、さほど高くないことが望ましい。これは、熱膨張係数の増加にもつながる。したがって、ガラス粒子またはガラス質材料のガラス中のNaO含有量は、高すぎない方が全体として有利であることが判明している。好ましくは、この含有量は、11重量%以下である。
【0097】
本開示のさらなる態様は、コーティングを含むガラスセラミック板に関する。好ましくは、コーティングは、一実施形態による印刷インキにより製造された、または少なくとも製造可能であるものである。コーティングは、少なくとも1つのガラス質相と顔料粒子とを含み、コーティング中の顔料粒子の重量割合は、少なくとも5重量%でかつ40重量%未満である。顔料粒子は、ガラス質相内に分散して存在する。
【0098】
有効線熱膨張係数α20-300,effは、好ましくは以下の式で与えられる:
α20-300,eff=Σ(ガラス質材料iの重量割合×α20-300,ガラス質材料i)+Σ(顔料zの重量割合×α20-300,顔料z
【0099】
好ましくは、コーティングは、5体積%未満、特に好ましくは1体積%未満、非常に特に好ましくは0.5体積%未満、最も好ましくは0.1体積%未満の空隙率を有する。言い換えれば、コーティングは、好ましくは低い空隙率を有する。特に、上記のようにコーティングの細孔容積が小さいだけでなく、細孔が小さな等価直径、特に最大200nmの等価直径、好ましくは100nm未満の等価直径しか有していない場合にも、非常に有利になり得る。低い空隙率のみを有し、好ましくは小さな、特に閉気孔のみを有するこのようなコーティングにより、特に緻密で耐傷性があり密着強度の高いコーティングを得ることができる。また、このようなコーティングは、特に表面に開気孔を有するコーティングと比較して、通常は高い耐摩強度および良好な耐薬品性を有する。なぜならば、特に開気孔に不純物や粒子が蓄積され、洗浄の際に支障となり得るだけでなく、コーティングのさらなる劣化を助長するおそれもあるためである。このことは、実施形態によるガラスセラミック板において、低い空隙率、好ましくは純粋に閉気性である細孔によって有利に回避される。「緻密」とは、ここでは、(通常はg/cmで示される)質量密度だけでなく、流体の透過に対するバリアとして作用し得るコーティングの特性をも意味すると理解される。細孔が少ないほど、特に開気孔が少ないほど、例えば水や水蒸気などの流体の透過に対するコーティングの緻密性は良好になる。
【0100】
コーティングにおける細孔の形成は、有利には、走査型電子顕微鏡像を評価することによって調べることができる。ここでは、10μmの断面が視認可能となるように倍率を選択するのが有利である。このような画像では、非常に小さな細孔も十分に良好に視認可能となり得る。そして、走査型電子顕微鏡像のうち細孔を含まない部分と細孔を含む部分とを統計的に観察することで、空隙率を評価することができる。好ましくは、10,000倍の倍率に相当するこのような断面において、コーティングは、10μm×10mmの面積に最大1つの細孔を含む。
【0101】
総じて、コーティングにおいて、得られる有効線熱膨張係数α20-300,effは、6.5×10-6/K~11×10-6/Kの範囲である。これは、特に非常に低い空隙率しか有しないコーティングの設計と組み合わせた場合にも有利である。なぜならば、こうすることで、被覆されたガラスセラミック板の強度を致命的に損なうことなく、緻密で耐力のあるコーティングをガラスセラミック板上に実現することができるためである。
【0102】
本願において、細孔とは、コーティング中の空所であると理解され、空所は、開いていても閉じていてもよい。細孔は総じて、コーティング、特にガラス系コーティングまたは粒状コーティング、例えば顔料着色されたコーティングにおいて生じることができ、これは、例えばいわゆる膨張剤によって狙いどおりに細孔を生成することによって行われ、膨張剤は、焼付中に分解してガスを形成し、このガスがコーティング内に空所を生成する。しかし、細孔を意図的に生成するのではなく、液状のコーティング剤中に存在していた気泡や、そのようなコーティング剤を施与した場合に被覆後に基材上に形成された塗膜内に形成された気泡により生じる場合もある。また、このような細孔は、例えば粒子の不完全な溶融や顔料または顔料粒子の不完全な包囲による粒状成分間の空隙により生じる場合もある。
【0103】
したがって、印刷インキによって製造された塗膜が基材に焼き付けられる際にコーティングを形成する印刷インキの1つ以上のガラス質材料が、前述の焼付温度で可能な限り完全な溶融を保証するように形成されている場合に特に有利であり得る。このためにはさらに、ガラス質材料のガラス粒子が比較的小さな粒度、好ましくは実施形態による印刷インキについて言及した限度内の粒度を有する場合にも、特に有用であり得る。また、粒度分布がかなり狭い場合、すなわち、好ましくは平均値付近での粒度の偏差がごくわずかである場合も好ましい場合がある。なぜならば、こうすることで、均一な溶融挙動を保証できるためである。こうして、不完全に溶融するより大きな粒子を十分に回避するかまたは少なくとも最小限に抑えることができ、これは空隙率に好影響をもたらし、つまり特に、細孔がわずかにしか得られず、またその場合にも得られるのは小さな細孔のみとなる。これは特に、ガラス質材料の組成、ひいてはコーティングのガラス質相の組成を巧みに調整することにより達成できる。しかし有利なことにこれは、コーティングの顔料割合が過度に高くならようにすることによっても達成できる。なぜならば、こうすることで、溶融時(これによりコーティングのガラス質相が形成される)に、ガラス質材料が顔料粒子を可能な限り完全に包囲することができ、得られる細孔がわずかのみとなり、特に得られる開気孔がわずかのみとなるためである。
【0104】
一実施形態によれば、ガラス質相、すなわちコーティングのガラス質相は、少なくとも5×10-6/Kでかつ好ましくは最大11×10-6/Kの線熱膨張係数α20-300を有する。このことは好ましく、なぜならば、こうすることで、全体として比較的低膨張性のコーティングを得ることができ、このコーティングは、そうしたコーティングを備えたガラスセラミック板の強度を過度に低下させないためである。したがって特に、本実施形態を、上記で説明したようにコーティングが非常に低い空隙率しか有しないガラスセラミック板の実施形態と有利に組み合わせることもできる。
【0105】
さらなる実施形態によれば、コーティングのガラス質相は、500℃~800℃、好ましくは500℃~750℃の軟化点を有する。
【0106】
ここで、総じて、ガラス質相は、印刷インキの1つ以上のガラス質材料から生じるか、またはそれによって形成され、通常は均質な相として存在することに留意すべきである。したがって、印刷インキに含まれているガラス質材料の線熱膨張係数は、コーティングの形成されるガラス質相の線熱膨張係数とは異なる場合がある。
【0107】
ただし、印刷インキがガラス質材料を1つのみ含む場合には、コーティングのガラス質相はガラス質材料と一致し、ガラス質材料の線熱膨張係数は、測定技術による誤差を除き、コーティングのガラス質相の線熱膨張係数と一致する。
【0108】
さらに別の実施形態によれば、コーティングに含まれる顔料粒子は、少なくとも0.5μm~最大5μmの等価直径d90を有する。上述のとおりこれには、コーティングをインクジェット印刷で施与できるという利点がある。さらに、印刷インキの1つ以上のガラス質材料が溶融してコーティングのガラス質相を形成する焼付工程中に、顔料粒子をガラス質相によって良好にかつ可能な限り完全に包囲できるように設計されている。さらに、このようにして、コーティングの良好な加工性および良好な隠蔽力が保証されている。
【0109】
さらに別の実施形態によれば、コーティングは、1μm~4μm、好ましくは1.5μm~3.5μmの厚さを有する。そのような厚さであれば、ガラスセラミック板の機械的強度を過度に低下させることなく、機械的攻撃に対するコーティングの十分な強度が保証されている。したがって、そのような膜厚であれば、前述のようなわずかな細孔容積しか有しないコーティングも良好に製造することができる。
【0110】
したがって特に、実施形態によるそのようなコーティングは、例えばいわゆるLASガラスセラミックのような熱膨張係数の低いガラスセラミックを含むかまたはそれから構成されるガラスセラミック板にも好適である。一実施形態によれば、ガラスセラミック板のガラスセラミックにおいて、20℃~700℃の範囲における線熱膨張係数αGK,20-700は、3×10-6/K未満、好ましくは2×10-6/K未満である。そのようなガラスセラミックは特に、例えば調理面や暖炉の覗き窓として、操作時に高い熱負荷に曝されるガラスセラミック板に使用することができる。
【0111】
本開示によるガラスセラミック板の可能な厚さは、1mm~10mm、好ましくは2mm~7mm、特に好ましくは3mm~5mmである。
【0112】
本開示による印刷インキに適した顔料には、特に、酸化物系材料、例えば、スピネル系顔料、すなわち、異なるドーパントを有する一般式ABの顔料が含まれ得る。好適な酸化物系顔料は、約6.5×10-6/K~約14×10-6/Kの線熱膨張係数αを有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0113】
図1】コーティング2を含む実施形態によるガラスセラミック板1を、概略的に、かつ正しい縮尺によらずに示す図。コーティング2は特に、本開示の実施形態によるセラミックインキにより得ることができる。
【0114】
実施例
本開示による印刷インキの組成のいくつかの例を、以下の表に示す。示されている成分はそれぞれ固体成分であり、すなわち、例えば溶媒などの他の流体成分は考慮されていない。
【0115】
表中で、示されているパーセンテージは、それぞれ印刷インキの全固形分重量に対するものである。いずれの場合も、「α」は、20℃~300℃の温度範囲で求められた線熱膨張係数である。また、有効線熱膨張係数α20-300,effも示されており、これは、ここではαeffと略すものとする。線熱膨張係数は、それぞれ10-6/Kの単位で示されている。
【0116】
【表2】
【0117】
前記の表で使用されている融液は、以下の表に記載されている。線熱膨張係数は、ここでも20℃~300℃の温度範囲で求められ、10-6/Kの単位で示されている。密度は、g/cmの単位で示されている。Tはガラス転移温度、Ewは軟化温度、Vaは加工点を表す。これらの温度は、それぞれ℃の単位で示されている。ガラス融液の組成は、酸化物ベースで、重量%で示されている。
【0118】
【表3】
【0119】
本発明によるセラミック印刷インキは、様々なガラスセラミック板に使用することができる。ここで、ガラスセラミックの組成は特に限定されず、原則としてボリューム着色されたガラスセラミックとボリューム着色されていないガラスセラミックとの双方を使用することができる。また、本願によるセラミック印刷インキは、透明なガラスセラミックにも、不透明または半透明のガラスセラミックにも適用可能である。
【0120】
以下の表に、先行技術の既知のガラスセラミックの例示的な組成を列挙するが、これらは原則的に、本開示によるセラミック印刷インキでコーティングすることができるものである。このような好適なガラスセラミックは、例えば、以下の刊行物から公知である:国際公開第2010/040443号、欧州特許出願公開第3450411号明細書、国際公開第2019/121742号、中国特許出願公開第111072276号明細書、国際公開第2010/137000号、独国実用新案第202021103464号明細書、または中国特許出願公開第104609733号明細書。
【0121】
【表4】
【0122】
ガラスセラミック1、2、および8~10は半透明に形成されており、一方で、ガラスセラミック3~7は透明に形成されている。
【0123】
【表5】
【0124】
ガラスセラミック11~16は、透明であり、ボリューム着色されている。ガラスセラミック16は、厚さ4mmで光透過率が2.8%である。
【0125】
ガラスセラミック1~16は、特に板状とすることができ、好ましくは厚さが3.5~4.5mmである。これらの板は、表面が研磨されていても圧延されていてもよい。さらに、これらの板は、特に表面が研磨されていない場合には、その表面にガラス質のゾーンを有する場合がある。また、ガラス質のゾーンがなくとも、研磨されていない表面が存在する場合もある。ガラスセラミックは、破断強度を高めるために、片面、特に印刷面とは反対側の面に突起部を有することができる。
【0126】
本開示によるセラミック印刷インキの一例を以下に示す:
ガラスフリット 32.98重量%
黒色顔料CuCr 1.05重量%
白色顔料TiO 0.87重量%
ジプロピレングリコールメチルエーテル 62.71重量%
添加剤1 2.09重量%
添加剤2 0.30重量%
【0127】
添加剤1は、ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)、α-メチル-ω-ホスフェートである。添加剤2は、ポリエーテル変性ポリメチルシロキサンである。これにより得られる、印刷インキに含まれるガラス粒子および顔料粒子に関する有効線熱膨張係数α20-300,effは、9.15×10-6/Kである。
【0128】
このセラミック印刷インキを用いて、既にセラミック化されているガラスセラミックにインクジェット印刷法でコーティングを施した。このために、厚さ4mm、サイズ50×50cmの両面が平滑な11型ガラスセラミックの板に印刷を施し、次いで焼き付けた。コーティング中の顔料粒子の重量割合は、5.5%であった。空隙率は、5体積%未満であった。
【0129】
有利には、ガラスセラミックによって構成されるガラスセラミック板は、20℃~700℃の範囲における線熱膨張係数αGK,20-700が-0.5~2×10-6/K、好ましくは0~1×10-6/K、特に好ましくは0.1~0.5×10-6/Kであることができる。
【符号の説明】
【0130】
1 ガラスセラミック板
2 コーティング
図1
【外国語明細書】