(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060917
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】蓄電素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20230424BHJP
H01M 10/0563 20100101ALI20230424BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20230424BHJP
H01G 11/06 20130101ALN20230424BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0563
H01G11/84
H01G11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170596
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100174506
【弁理士】
【氏名又は名称】古久保 智也
(72)【発明者】
【氏名】村松 弘将
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA05
5E078AB02
5E078AB06
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ12
5H029CJ03
5H029HJ00
5H029HJ15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】充放電サイクルに伴う放電容量維持率低下が十分に抑制された蓄電素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】蓄電素子は、電極体と非水電解液とを備え、前記電極体が、正極活物質を有する正極と、充電状態においてリチウム金属層を備える負極活物質層を有する負極と、前記正極及び前記負極の間に配置されるセパレータとを含み、前記正極活物質の容量(Ah)に対する前記非水電解液の質量(g)の比が0.7g/Ah以上であり、前記電極体が放電状態において前記電極体の積層方向に1.1MPa以下で加圧された状態である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体と
非水電解液と
を備え、
前記電極体が、
正極活物質を有する正極と、
充電状態においてリチウム金属層を備える負極活物質層を有する負極と、
前記正極及び前記負極の間に配置されるセパレータと
を含み、
前記正極活物質の容量(Ah)に対する前記非水電解液の質量(g)の比が0.7g/Ah以上であり、
前記電極体が放電状態において前記電極体の積層方向に1.1MPa以下で加圧された状態である蓄電素子。
【請求項2】
前記正極活物質の容量(Ah)に対する前記非水電解液の質量(g)の比が4.0g/Ah以下である請求項1に記載の蓄電素子。
【請求項3】
正極活物質を有する正極、セパレータ、及び充電状態においてリチウム金属層を備える負極活物質層を有する負極を備える電極体を作製することと、
下記(式1)で表される非水電解液の注入量(g)が前記正極活物質の容量(Ah)に対して0.7g/Ah以上である非水電解液を注入することと、
前記電極体を放電状態において前記電極体の積層方向に1.1MPa以下で加圧された状態にすることと、
を備える蓄電素子の製造方法。
非水電解液の注入量=質量1+(質量2-質量3) ・・・(式1)
(ただし、質量1は蓄電素子から遠心分離により抽出される非水電解液の質量、質量2は前記抽出される非水電解液を除く蓄電素子の部材の総質量、質量3はジメチルカーボネートで洗浄及び減圧乾燥した後の前記部材の総質量を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
近年、非水電解質二次電池の高容量化に向けて、負極の高容量化が求められている。リチウム金属は、現在リチウムイオン二次電池の負極活物質として広く用いられている黒鉛と比較すると活物質質量あたりの放電容量が著しく大きい。すなわち、リチウム金属の質量あたりの理論容量は3.860Ah/gと大きい。
【0004】
しかし、負極活物質にリチウム金属が用いられた蓄電素子においては、充電の際に負極表面でリチウム金属が樹枝状に析出することがある(以下、樹枝状の形態をしたリチウム金属を「デンドライト」という。)。このデンドライトの成長は、充放電サイクルに伴う放電容量維持率の低下といった蓄電素子の不具合に繋がる。
【0005】
そこで、このような不具合を解消すべく、上記蓄電素子として、正極と負極を対向させ、その間にセパレータを入れて配置し、正極及び負極に対し、垂直に15kgf/cm2から150kgf/cm2の圧力が加わるように加圧治具を装着したリチウム二次電池が提案されている。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1のような蓄電素子は、充放電サイクルに伴う放電容量維持率低下が十分に抑制されているとはいい難い。
【0008】
本発明の目的は、充放電サイクルに伴う放電容量維持率低下が十分に抑制された蓄電素子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る蓄電素子は、電極体と非水電解液とを備え、前記電極体が、正極活物質を有する正極と、充電状態においてリチウム金属層を備える負極活物質層を有する負極と、前記正極及び前記負極の間に配置されるセパレータとを含み、前記正極活物質の容量(Ah)に対する前記非水電解液の質量(g)の比が0.7g/Ah以上であり、前記電極体が放電状態において前記電極体の積層方向に1.1MPa以下で加圧された状態である。
【0010】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子の製造方法は、正極活物質を有する正極、セパレータ、及び充電状態においてリチウム金属層を備える負極活物質層を有する負極を備える電極体を作製することと、下記(式1)で表される非水電解液の注入量(g)が前記正極活物質の容量(Ah)に対して0.7g/Ah以上である非水電解液を注入することと、前記電極体を放電状態において前記電極体の積層方向に1.1MPa以下で加圧された状態にすることと、を備える。
非水電解液の注入量=質量1+(質量2-質量3) ・・・(式1)
(ただし、質量1は蓄電素子から遠心分離により抽出される非水電解液の質量、質量2は前記抽出される非水電解液を除く蓄電素子の部材の総質量、質量3はジメチルカーボネートで洗浄及び減圧乾燥した後の前記部材の総質量を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面に係る蓄電素子は、充放電サイクルに伴う放電容量維持率の低下を抑制することができる。
【0012】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子の製造方法によれば、充放電サイクルに伴う放電容量維持率の低下が抑制されている蓄電素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、蓄電素子の一実施形態を示す模式的斜視図である。
【
図2】
図2は、蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
初めに、本明細書によって開示される蓄電素子、蓄電装置及び蓄電素子の製造方法の概要について説明する。
【0015】
本発明の一側面に係る蓄電素子は、電極体と非水電解液とを備え、前記電極体が、正極活物質を有する正極と、充電状態においてリチウム金属層を備える負極活物質層を有する負極と、前記正極及び前記負極の間に配置されるセパレータとを含み、前記正極活物質の容量(Ah)に対する前記非水電解液の質量(g)の比が0.7g/Ah以上であり、前記電極体が放電状態において前記電極体の積層方向に1.1MPa以下で加圧された状態である。
【0016】
この蓄電素子は、充放電サイクルに伴う放電容量維持率の低下を抑制することができる。この理由としては、必ずしも明確ではないが、例えば以下のように推察される。
【0017】
すなわち、上記電極体が放電状態において上記電極体の積層方向に所定以下の圧力で加圧されていない場合、負極表面において上記積層方向へのデンドライトの成長が促進される。つまり、デンドライトの成長による負極の比表面積の増大が促進される。これにより、非水電解液と負極との接触面積が大きくなり、非水電解液と負極との接触面での非水電解液の分解が促進される。
【0018】
一方、上記電極体が放電状態において上記電極体の積層方向に所定以下の圧力で加圧された状態であっても、デンドライトの成長やこれに伴う負極の比表面積の増大、非水電解液と負極との接触面積の増大による非水電解液と負極との接触面での非水電解液の分解の促進が全く発生しなくなるわけではなく、これらの現象は抑制されているものの一定程度進行する。そのため、非水電解液の質量が所定以上でなければ、充放電サイクルに伴う放電容量維持率の低下を抑制する効果は限定的となる。つまり、上記正極活物質の容量に対する上記非水電解液の質量の比は所定以上である必要がある。
【0019】
このように、所定の加圧及び所定の正極活物質容量に対する非水電解液の質量の比を備えることにより、蓄電素子の充放電サイクルに伴う放電容量維持率の低下が抑制されるものと推察される。
【0020】
ここで、上記正極活物質の容量(Ah)に対する上記非水電解液の質量(g)の比は4.0g/Ah以下であることが好ましい。
【0021】
このように上記正極活物質の容量(Ah)に対する上記非水電解液の質量(g)の比は4.0g/Ah以下である場合には、非水電解液の蓄電素子内に占める質量割合が比較的小さくなるため、蓄電素子のエネルギー密度を比較的高くすることができる。
【0022】
上記電極体は、正極及び負極がセパレータを介して積層され、巻回されていない構成(以下、積層型ともいう)であることが好ましい。積層型の電極体は、一般的に湾曲部を有さない。一方、電極体が、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された構成(以下、巻回型ともいう)の場合、電極体は湾曲部を有する。そのため、積層型の電極体は、巻回型の電極体と比較して、加圧により電極体に掛かる面圧がより均等化され、デンドライトの成長に対する抑制効果がより高まる。なお、湾曲部と平坦部(湾曲部ではない部分)とを有する巻回型の電極体において積層方向とは、平坦部(湾曲部ではない部分)における積層方向をいう。
【0023】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子の製造方法は、正極活物質を有する正極、セパレータ、及び充電状態においてリチウム金属層を備える負極活物質層を有する負極を備える電極体を作製することと、下記(式1)で表される非水電解液の注入量(g)が前記正極活物質の容量(Ah)に対して0.7g/Ah以上である非水電解液を注入することと、前記電極体を放電状態において前記電極体の積層方向に1.1MPa以下で加圧された状態にすることと、を備える。
非水電解液の注入量=質量1+(質量2-質量3) ・・・(式1)
(ただし、質量1は蓄電素子から遠心分離により抽出される非水電解液の質量、質量2は前記抽出される非水電解液を除く蓄電素子の部材の総質量、質量3はジメチルカーボネートで洗浄及び減圧乾燥した後の前記部材の総質量を表す。)
【0024】
当該蓄電素子の製造方法によれば、充放電サイクルに伴う放電容量維持率の低下が抑制されている蓄電素子を製造することができる。
【0025】
本発明の一実施形態に係る蓄電素子の構成、蓄電装置の構成、及び蓄電素子の製造方法、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0026】
<蓄電素子の構成>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極、上記正極及び上記負極の間に配置されるセパレータを有する電極体と、非水電解液と、上記電極体及び非水電解液を収容する容器と、を備える。非水電解液は、正極、負極、セパレータに含まれた状態で存在する場合もある。蓄電素子の一例として、二次電池について説明する。
【0027】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0028】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0029】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。「基材の平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいい、負極基材も同様である。
【0030】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0031】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0032】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択でき、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4,Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0034】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0035】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0036】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0037】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0038】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0039】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0040】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0041】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0042】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0043】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0044】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0045】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0046】
負極活物質層は、充電状態においてリチウム金属層を備える。負極活物質層は、充電前には上記負極に備えられておらず、充電後に上記負極基材上に直接又は間接に生成するリチウム金属層であってもよく、充電前から上記負極に備えられたリチウム金属層であってもよく、充電前から上記負極に備えられたリチウム金属層上に直接又は間接に生成するリチウム金属層を備えてもよい。上記負極活物質層が充電時に生成する上記リチウム金属層を備える場合、放電時には上記負極活物質層は上記リチウム金属層を備えていても備えていなくてもよい。
【0047】
上記リチウム金属層は、負極活物質層又はリチウム金属の補給層としての機能を有する。従って、上記リチウム金属層は、負極活物質としてのリチウム金属を含むとともに、生成量が低減されてはいるもののデンドライトが生成し、電気的な孤立化によって充放電に寄与できなくなったリチウム金属(出っとリチウム)となっても、それに相当する電気量のリチウム金属を、上記リチウム金属層によって補うことができる。上記リチウム金属層は、上述したように、充電により上記負極基材上に直接または間接にリチウム金属の結晶の層として形成されてもよいし、負極の作製時に、上記負極基材上に直接又は間接に形成されてもよい。上記リチウム金属層が負極の作製時に形成される場合、負極の作製時に形成されたリチウム金属層の上記セパレータ側の表面に、充電によって、直接又は間接にリチウム金属の結晶が層状に生成され、これらが一体となって上記リチウム金属層が形成される。
【0048】
上記負極が上記リチウム金属層を有する場合、その平均厚さは当該蓄電素子の設計容量等に応じて適宜設定され得る。例えば上記リチウム金属層の平均厚さは、好ましくは正極容量(Ah)に対する負極容量(Ah)の比が0超10以下であるように設定され、より好ましくは上記比が0.5以上8以下であるように設定される。このような上記リチウム金属層の充電時の平均厚さの下限としては、0μm超が好ましく、20μmがさらに好ましい。一方、上記リチウム金属層の平均厚さの上限としては、1000μmが好ましく、300μmがさらに好ましい。上記リチウム金属層の平均厚さが上記範囲である場合、当該蓄電素子のエネルギー密度を高めることができるという利点がある。なお、「リチウム金属層の平均厚さ」とは、任意の5箇所の厚さを測定し、得られた測定値を平均した値をいう。
【0049】
上記リチウム金属層は、負極活物質としてのリチウム金属を含む。上記リチウム金属層が負極活物質としてリチウム金属を含むことで活物質質量あたりの放電容量を向上できる。上記リチウム金属には、リチウム単体の他、リチウム合金が含まれる。リチウム合金としては、例えば、リチウムアルミニウム合金等が挙げられる。上記負極の作製時に形成されるリチウム金属層は、リチウム金属を所定の形状に切断するか、所定の形状に成形することにより製造できる。
【0050】
当該蓄電素子がリチウムイオンを含む正極活物質を備えている場合、当該負極は、最初(具体的には最初の充電前)にリチウム金属層を備えていない形態であってもよい。この形態の場合、充電により、最初にリチウムイオンを含む正極活物質からリチウムイオンが供給されることで、当該負極における上記負極基材上に直接又は間接にリチウム金属が析出し、上記リチウム金属層が形成されることになる。なお、上記負極が上記負極基材上に直接又は間接に配置される上記負極の作製時に形成されたリチウム金属層を備えることが好ましい。上記負極の作製時に形成されたリチウム金属層上に直接上記リチウム金属層が充電によって形成される場合、これらは一体となって負極活物質層を構成する。
【0051】
上記負極基材として金属箔(例えば銅箔)を用いた場合、金属箔と上記リチウム金属層との間に金属箔の成分である金属(例えば銅)とリチウムを含む合金層が形成されていてもよい。
【0052】
上記負極が上記リチウム金属層を備える場合には、上記負極基材と上記リチウム金属層との間に中間層を備えていてもよい。これら中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで、上記負極基材と上記リチウム金属層との接触抵抗を低減する。上記中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0053】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解液の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0054】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0055】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0056】
セパレータの平均厚さの下限としては、3μmが好ましく、6μmがより好ましい。一方、セパレータの平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、25μmがより好ましい。セパレータの平均厚さが上記下限以上及び上記上限以下である場合、セパレータにセパレータとしての機能を十分に付与することができる。セパレータの平均厚さが上記下限以上であることで、短絡の発生をより抑制することができる。一方、セパレータの平均厚さが上記上限以下であることで、蓄電素子の高エネルギー密度化を図ることができる。なお、「平均厚さ」とは、任意の5箇所の厚さを測定し、得られた測定値の平均値をいう。
【0057】
(非水電解液)
非水電解液としては、公知の非水電解液の中から適宜選択できる。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0058】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0059】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもFECが好ましい。
【0060】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCおよびDMCが好ましい。
【0061】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から70:30の範囲とすることが好ましい。
【0062】
電解質塩としては、通常、リチウム塩が用いられる。
【0063】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0064】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0065】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のハロゲン化炭酸エステル;リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸塩;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0067】
前記正極活物質の容量(Ah)に対する前記非水電解液の質量(g)の比は、0.7g/Ah以上であり、0.8g/Ah以上がより好ましく、0.9g/Ah以上がさらに好ましく、1.0g/Ah以上がよりさらに好ましく、1.1g/Ah以上が一層好ましく、1.2g/Ah以上がより一層好ましく、1.6g/Ah以上がなお一層好ましい。上記比が上記下限以上であることで、蓄電素子の充放電サイクルによる放電容量維持率の低下を抑制することができる。
【0068】
前記正極活物質の容量(Ah)に対する前記非水電解液の質量(g)の比は、4.0g/Ah以下が好ましく、3.0g/Ah以下がより好ましい。上記比が上記上限以下であることで、蓄電素子のエネルギー密度を比較的高くすることができる。
【0069】
本実施形態の蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、角型電池、扁平型電池、ラミネート型電池等が挙げられる。
【0070】
図1に角型電池の一例としての蓄電素子100を示す。蓄電素子100は、電極体1と、この電極体1を収容する容器2とを備える。容器2の中には、電極体1と共に図示しない非水電解液が収容される。電極体1は、複数の正極、複数の負極、及び複数のセパレータを有し、複数の正極と複数の負極とは、交互に複数のセパレータを介して重ね合わされてなる、積層型の電極体である。各正極は、正極タブ8を含む正極基材と、この正極基材の片面又は両面に直接又は中間層を介して積層された正極活物質層とを有する。正極タブ8には、正極活物質層は積層されていない。各負極は、負極タブ11を含む負極基材と、この負極基材の片面又は両面に直接又は中間層を介して積層された負極活物質層とを有する。負極タブ11には、負極活物質層は積層されていない。このように、正極と負極とが積層型の電極体を形成している場合、充放電サイクルに伴う放電容量維持率低下がより抑制できる。なお、他の実施形態として、巻回型の電極体を備える蓄電素子であってもよい。
【0071】
容器2は、有底四角筒状の容器本体12と、この容器本体12の開口を封止する板状の蓋体13とを備える構成とすることができる。また、蓋体13には、正極の正極タブ8に電気的に接続される正極外部端子14と、負極の負極タブ11に電気的に接続される負極外部端子15とが配設されることが好ましい。具体的には、正極外部端子14及び負極外部端子15は、蓋体13を貫通するよう設けられることが好ましい。
【0072】
蓄電素子100は、正極接続部材16及び負極接続部材17をさらに有することが好ましい。正極接続部材16は、容器2の内側で正極外部端子14に取り付けられ、重ね合わされた複数の正極タブ8が接続されることが好ましい。同様に、負極接続部材17は、容器2の内側で負極外部端子15に取り付けられ、重ね合わされた複数の負極タブ11が接続される。
【0073】
容器2は、後述する拘束部材によって電極体1の積層方向に1.1MPa以下で加圧された状態であることが好ましい。本実施形態では、このように容器2が加圧されることによって、電極体1がその積層方向に1.1MPa以下で加圧された状態とされていることが好ましい。
【0074】
上記電極体1に加えられる圧力は、0.01MPa以上が好ましく、0.05MPa以上がより好ましく、0.1MPa以上がさらに好ましく、0.15MPa以上がよりさらに好ましい。上記圧力が上記下限以上である場合、デンドライトの成長を抑制することができるため、負極の比表面積の増大が抑制され、非水電解液の分解も抑制される。上記圧力の上限としては、1.1MPaであり、1.0MPaが好ましく、0.9MPaがより好ましく、0.8MPaがさらに好ましい。上記圧力が上記上限以下である場合、正極と負極との間隔が狭くなり過ぎることに起因するクーロン効率の低下や短絡の発生をより抑制することができる。電極体1を加圧すべく容器に加えられる圧力は、例えば拘束部材における締め付けトルク量を調整すること、拘束部材における積層方向の距離を変更すること等によって調整される。また、容器に加えられる圧力は、電極体1が圧力1.1MPa以下で加圧された状態となるように、容器の材質等に応じて適宜設定され得る。
【0075】
上記電極体1に加えられる圧力は、当該蓄電素子の初回充電の前から、すなわち初期から一定値であることが好ましい。ここで、「一定値」とは、初期の圧力に対して±5%以内であることを意味する。
【0076】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子100を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図2に、電気的に接続された二以上の蓄電素子100が集合した蓄電ユニット200をさらに集合した蓄電装置300の一例を示す。蓄電装置300は、二以上の蓄電素子100を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット200を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット200又は蓄電装置300は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0077】
本実施形態の蓄電装置は、上記1又は複数の蓄電素子と、上記1又は複数の蓄電素子を拘束する拘束部材とを備え、上記拘束部材による拘束によって上記1又は複数の蓄電素子が積層方向に加圧され、かつこの加圧によって電極体が加圧された状態であることが好ましい。このような当該蓄電素子は、例えば
図2に示す複数の蓄電素子100を備える蓄電装置300において、複数の蓄電素子100を拘束部材(図示せず)によって電極体1の積層方向(
図2の左右方向)に拘束することで、複数の蓄電素子100を電極体1の積層方向に加圧された状態とし、この加圧によって電極体1が加圧された状態とすることができる。また、蓄電装置が1の蓄電素子を備える場合、この蓄電素子を拘束部材によって電極体の積層方向に拘束することで、この蓄電素子、さらには電極体が上記積層方向に加圧された状態とすることができる。
【0078】
容器2を上記積層方向に挟む拘束部材における上記積層方向の締め付けトルク量の調整、上記積層方向の拘束部材の距離の調整等によって上記容器2を介して電極体1に加えられる圧力が調整される。また、初期から上記電極体1に加えられる圧力が一定値である状態にすることができるという点で、当該蓄電装置は、上記拘束部材と上記容器との間に配置される緩衝材を備えることが好ましい。上記緩衝材としては、それ自身が加圧された際に変形することによって上記容器に加えられる圧力、すなわち上記容器内の電極体に加えられる圧力を一定値に維持することができるような弾性力を有する樹脂製の多孔質部材といった公知の緩衝材が挙げられる。上記拘束部材からの加圧の程度に応じて上記緩衝材の材質、厚さを調整することで、充電時の内圧で容器2が膨張しても、容器2に加えられる圧力、すなわち上記容器内の電極体に加えられる圧力を一定値に維持することができる。
【0079】
上記電極体を積層方向に加圧する方法は、特に限定されず、上記拘束部材による加圧以外にも、公知の方法から適宜選択できる。例えば、金属缶などの容器によって電極体を加圧する方法等が挙げられる。
本実施形態の蓄電装置は、充放電サイクルに伴う放電容量維持率の低下が十分に抑制されている。
【0080】
<蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子の製造方法は、正極活物質を有する正極、セパレータ、及び充電状態においてリチウム金属層を備える負極活物質層を有する負極を備える電極体を作製することと、下記(式1)で表される非水電解液の注入量(g)が前記正極活物質の容量(Ah)に対して0.7g/Ah以上である非水電解液を注入することと、前記電極体を放電状態において前記電極体の積層方向に1.1MPa以下で加圧された状態にすることと、を備える。
非水電解液の注入量=質量1+(質量2-質量3) ・・・(式1)
(ただし、質量1は蓄電素子から遠心分離により抽出される非水電解液の質量、質量2は前記抽出される非水電解液を除く蓄電素子の部材の総質量、質量3はジメチルカーボネートで洗浄及び減圧乾燥した後の前記部材の総質量を表す。)当該蓄電素子の製造方法によれば、充放電サイクルに伴う放電容量維持率低下が抑制されている蓄電素子を製造することができる。当該蓄電素子の製造方法は、例えば、正極を準備することと、セパレータを準備することと、負極を準備することと、上記正極、上記セパレータ、及び上記負極を、この順に配置されるように重ねて電極体を作製することと、上記電極体及び非水電解液を容器に収容することをさらに備えてもよく、上記容器を上記電極体の積層方向に加圧することで上記電極体を加圧された状態とすることを行ってもよい。
【0081】
(正極の準備)
上記正極は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、正極基材に直接又は中間層を介して正極活物質層を積層することにより得ることができる。具体的には、正極基材に正極合剤を塗工して乾燥することにより正極活物質層を積層する。また、上記正極合剤は、上述の任意成分以外に、さらに分散媒を含んだ状態である正極合剤ペーストであってもよい。この分散媒としては、例えば、水、水を主体とする混合溶媒等の水系溶媒;N-メチルピロリドン、トルエン等の有機系溶媒を用いることができる。
【0082】
(負極の準備)
正極がリチウムイオンを放出可能な材料を含有する場合、上記負極を準備することとして、負極基材を準備することを用いることができる。当該負極基材は上記の通り、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。正極がリチウムイオンを放出可能な材料を含有する場合、当該蓄電素子の充電に伴うリチウム金属の析出によって、当該負極基材のセパレータ側の面に上記リチウム金属層が形成される。
【0083】
正極がリチウムイオンを放出可能な材料を含有する場合、及び正極が当該材料を含有しない場合の双方において、上記負極基材のセパレータ側の面にリチウム金属層を負極の作製時に形成することを備えることが好ましい。上記負極基材のセパレータ側の面に上記リチウム金属層を負極の作製時に形成することとして、例えば上記リチウム金属層としてリチウム金属箔を用い、上記負極基材と上記リチウム金属箔とをプレスすること等を行うことができる。
【0084】
(セパレータの準備)
上記セパレータを準備することとして、公知のセパレータの中から適宜選択したセパレータを用いることを行うことができる。当該セパレータは上記の通り、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。
【0085】
(電極体の作製)
上記電極体を作製するとして、例えば上記正極、上記セパレータ、及び上記負極を、この順に配置されるように重ねて積層することを行うことができる。
【0086】
(容器への収容)
上記電極体及び非水電解液を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、容器に電極体を収容し、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。当該製造方法によって得られる蓄電素子を構成するその他の各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0087】
(電極体の加圧)
上記電極体をその積層方向に加圧された状態とすることとして、上記容器を上記電極体の積層方向に加圧された状態にすることで上記電極体をその積層方向に加圧された状態とすることを行うことができる。このように上記容器を上記電極体の積層方向に加圧された状態とすることとして、拘束部材(図示せず)等によって上記容器を、上記電極体がその積層方向に加圧された状態になるように拘束することが挙げられる。容器に加えられる好ましい圧力、すなわち電極体に加えられる好ましい圧力は、上述した通りである。また、初期から上記電極体に加えられる圧力を一定値である状態にすることができる点で、上記拘束部材と上記容器との間に公知の緩衝材を配置することが好ましい。
【0088】
上記の通り、本実施形態の蓄電素子は、充放電サイクルに伴う放電容量維持率の低下が十分に抑制されている。本実施形態の蓄電素子の製造方法は、充放電サイクルに伴う放電容量維持率の低下が十分に抑制された蓄電素子を製造することができる。
【0089】
<正極活物質の容量の測定方法>
正極活物質の容量の測定方法について述べる。
正極作製前、つまり充放電前の正極活物質は、そのまま容量の測定に供する。
蓄電素子を解体して取り出す正極から試料を採取する場合には、蓄電素子を解体する前に、当該蓄電素子に1時間の定電流通電を行ったときに蓄電素子の公称容量と同じ電気量となる電流値(これを1Cとする)の10分の1となる電流値(0.1C)で、通常使用時に指定される電圧の下限となる電圧に至るまで定電流放電する。蓄電素子を解体し、正極を取り出し、リチウム金属電極を対極とした半電池を組立て、正極合剤1gあたり10mAの電流値で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li+)となるまで定電流放電を行い、完全放電状態に調整する。調整後、当該半電池を再解体し、正極を取り出す。取り出した正極は、ジメチルカーボネートを用いて正極に付着した非水電解液を十分に洗浄し室温にて一昼夜の乾燥後、正極基材上の正極合剤を採取する。
採取した正極合剤を、小型電気炉を用いて空気中600℃で4時間加熱することで導電剤および結着剤を除去し、正極活物質を取り出し、容量の測定に供する。
上記の蓄電素子の解体から半電池の再解体までの作業、及び正極の洗浄、乾燥作業は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。
なお、蓄電素子を解体して取り出す正極から試料を採取する場合、解体した蓄電素子から取り出した正極から採取できるすべての正極活物質を容量の測定に用いてもよいし、取り出した正極を小面積に切り出し、当該小面積の正極から採取できる正極活物質、つまり、解体した蓄電素子の一部の正極活物質を容量の測定に用いてもよい。一部の正極活物質を容量の測定に用いる場合、蓄電素子の正極の正極活物質層が配置された全面積に対する切り出した小面積の正極の正極活物質層が配置された面積の比で、測定された容量を除することにより蓄電素子全体の正極活物質の容量を求め、上記特電素子における1C相当の電流値を上記面積比で乗じた値を、上記小面積の正極を備える半電池における1Cとする。
【0090】
上記の通り得られる正極活物質を含有する正極と、リチウム金属負極とを対向させ容量測定用電池を組み立て、25℃にて、以下の充放電条件にて正極活物質の容量の測定を行う。充電は、充電電流0.2C、充電電圧4.6Vの定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電終止条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとする。放電は、放電電流0.1C、放電終止電圧2.0Vの定電流(CC)放電とする。充電後及び放電後にはそれぞれ10分間の休止期間を設ける。得られた放電容量を、正極活物質の容量とする。
【0091】
<電極体に加えられた圧力の測定方法>
蓄電素子が電極体に加えられた圧力を測定する機能を備える場合は、放電状態において、その機能を用いて得られる測定値を電極体に加えられた圧力とする。
【0092】
蓄電素子が当該機能を備えない場合は、以下の手順で圧力を求める。
蓄電素子の容器が金属層と樹脂フィルム層が積層された複合フィルム製の容器等、薄く、可撓性を有する容器の場合、蓄電素子を拘束部材等の圧迫体と分離し、放電状態において圧迫されていた時と同じ厚さになるまで蓄電素子を圧迫したときの圧力を、電極体に加えられた圧力とする。
蓄電素子の容器が金属缶等、硬い容器の場合、電極体を蓄電素子の容器から取り出し、放電状態において容器内にあった時と同じ厚さになるまで電極体を圧迫したときの圧力を、電極体に加えられた圧力とする。
上記の測定方法で圧力が適切に測定できない形態の蓄電素子については、その形態にあった適切な圧力の測定方法を適用する。例えば、拘束部材等の圧迫体と蓄電素子との間に配置した圧力測定フィルムの着色の変化を観察することによって測定すること等を適用することができる。
【0093】
<非水電解液の注入量の測定方法>
蓄電素子に注入された非水電解液の質量は次の手順で測定することができる。
蓄電素子の容器の熱溶着部の一部を開封した状態で、遠心分離器にかけた後、容器を傾ける等によって抽出される非水電解液の質量を測定し、質量1とする。遠心分離する時間や、回転数は、蓄電素子の寸法などにより適宜設定しうる。次に、非水電解液抽出後の蓄電素子を解体し、蓄電素子の部材の総質量を測定し、質量2とする。さらに、蓄電素子の各部材をジメチルカーボネートで洗浄及び減圧乾燥する。減圧乾燥する際の乾燥温度や乾燥炉の圧力、乾燥時間は各部材の寸法などにより適宜設定しうる。その後の上記部材の総質量を測定し、質量3とする。得られる質量1から質量3から、非水電解液の注入量(g)を下記(式1)によって算出する。
非水電解液の注入量=質量1+(質量2-質量3) ・・・(式1)
上記のようにして求める非水電解液の注入量(g)は、蓄電素子が備える非水電解液の質量(g)と等しいとみなすことができる。
【0094】
<その他の実施形態>
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0095】
上記実施形態では、蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウム二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【実施例0096】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0097】
[実施例1]
(負極の作製)
負極基材を構成する金属箔として、平均厚さ10μmの銅箔を準備した。上記銅箔に、厚さ100μmのリチウム金属板をリチウム金属層として積層した。
【0098】
このようにして得られた負極は、幅32mm、長さ42mmの短冊状であった。
【0099】
(正極の作製)
正極活物質として、α-NaFeO2型結晶構造を有し、Li1+αMe1-αO2(Meは遷移金属)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いた。ここで、LiとMeのモル比Li/Meは1.33であり、Meは、Ni及びMnからなり、Ni:Mn=0.33:0.67のモル比で含んでいるものであった。
【0100】
次に、N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とし、上記正極活物質、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、及びバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びホスホン酸を固形分として92.25:4.5:3.0:0.25の質量比で含有する正極合剤ペーストを作製した。正極基材である平均厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に、上記正極合剤ペーストを塗工し、乾燥し、プレスし、正極活物質層が配置された正極を作製した。正極活物質層の塗工量は、26.5mg/cm2であり、多孔度は40%であった。また、作製された正極は、幅30mm、長さ40mmの短冊状であった。
【0101】
(非水電解液の調製)
非水溶媒として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びDMCを用いた。そして、FEC及びDMCを30:70の体積比で混合した混合溶媒にLiPF6を1mol/dm3の濃度で溶解させ、この溶液にさらに添加剤として1,3-プロペンプロトン(PRS)を、その含有量が非水電解液全体の質量に対して2質量%となるように添加して、非水電解液を得た。
【0102】
(蓄電素子の作製)
複数の上記正極と複数の上記負極とを1枚ずつ交互に且つセパレータであるポリオレフィン製微多孔膜を介して積層することにより、積層型の電極体を作製した。この電極体を、アルミニウム層と樹脂フィルム層が積層された複合フィルム(合計厚さ:約150μm)製の容器に収納し、内部に上記非水電解液を注入した後、熱溶着により封口し、パウチセルを作製した。非水電解液の注入量(g)は、正極活物質の容量(Ah)に対して、1.6g/Ahであった。得られたパウチセルを、このパウチセルよりもひと回り大きく、四隅にネジ穴を有する2枚の金属板を用い、各金属板と容器との間にそれぞれシリコーンゴム製の緩衝材(平均厚さ:1mm)を挿入することで、各緩衝材を介して2枚の金属板で容器を挟み、これら金属板の各ネジ穴にボルトをねじ込んだ。そして、上記電極体をその積層方向に加圧する圧力が放電状態で表1に示す圧力となるように上記ボルトのトルク締めの圧力を調整して、上記容器を上記電極体の積層方向に加圧することで、実施例1の蓄電素子を得た。なお、上記非水電解液の注入量は、以下のようにして求めた。後述する初期充放電後の蓄電素子の容器の熱溶着部の一部を開封した状態で、遠心分離器にかけた後、容器を傾ける等によって抽出された非水電解液の質量を測定し、質量1とした。次に、非水電解液抽出後の蓄電素子を解体し、蓄電素子の部材の総質量を測定し、質量2とした。さらに、蓄電素子の各部材をジメチルカーボネートで洗浄及び減圧乾燥した。その後の上記部材の総質量を測定し、質量3とした。得られた質量1から質量3から、非水電解液の注入量(g)を下記(式1)によって算出した。
非水電解液の注入量=質量1+(質量2-質量3) ・・・(式1)
上記のようにして求めた非水電解液の注入量(g)は、蓄電素子が備える非水電解液の質量(g)と等しいとみなすことができる。
【0103】
上記容器はその厚さが上記のように薄く、可撓性を有する複合フィルム製であることから、容器に加えられる圧力は、容器内の電極体に加えられる圧力と等しいとみなすことができた。そこで、電極体に加えられる圧力の調整は、以下のように容器に加えられる圧力を調整することによって行った。すなわち、予備実験において、放電状態の蓄電素子の容器の一方の外表面とこれに対向する緩衝材との間にプレススケールを挿入した状態で、ボルトのトルク締めの圧力を変更しつつプレススケールによって容器に加えられる圧力を測定した。得られた結果から、トルク締めの圧力と、容器に加えられる圧力、すなわち電極体に加えられる圧力との相関を求めた。そして、電極体に加えられる圧力が表1の値となるように上記トルク締めの圧力を調整した。
【0104】
[実施例2から4、比較例2、比較例4]
上記電極体に加えられる圧力を表1に示すように変更すること以外は実施例1と同様にして、実施例2から4、並びに比較例2、比較例4の蓄電素子を得た。
【0105】
[比較例1及び3]
非水電解液の注入量(g)及び正極活物質の容量(Ah)に対する非水電解液の注入量(g)の比を表1に示すように変更すること以外は比較例2と同様にして、比較例1及び3の蓄電素子を得た。
【0106】
[実施例5、比較例5]
非水電解液の注入量(g)及び正極活物質の容量(Ah)に対する非水電解液の注入量(g)の比を表1に示すように変更すること以外は実施例4と同様にして、実施例5、比較例5の蓄電素子を得た。
【0107】
[参考例1及び2]
負極活物質、電極体に加えられる圧力、非水電解液の注入量(g)及び正極活物質の容量(Ah)を表1に示すように変更すること以外は実施例1と同様にして、参考例1及び2の蓄電素子を得た。
【0108】
(初期充放電)
得られた各蓄電素子について、25℃にて、以下の条件にて2サイクルの初期充放電を行った。充電は、充電電流0.1C、充電電圧4.6Vの定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電終止条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。放電は、放電電流0.1C、放電終止電圧2.0Vの定電流(CC)放電とした。充電後及び放電後にはそれぞれ10分間の休止期間を設けた。なお、ここでの1Cは、正極の単位面積あたりの電流で6.0mA/cm2とした。
【0109】
(充放電サイクル試験)
初期充放電後の蓄電素子について、25℃にて、以下の条件にて充放電サイクル試験を行った。充電は、充電電流0.2C、充電電圧4.6Vの定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電終止条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。放電は、放電電流0.1C、放電終止電圧2.0Vの定電流(CC)放電とした。充電後及び放電後にはそれぞれ10分間の休止期間を設けた。
【0110】
(エネルギー密度の測定)
各蓄電素子について、以下の方法にてエネルギー密度を求めた。まず、初期充放電前の蓄電素子の質量(kg)を測定した。次に、初期充放電における2サイクル目の放電で得られた放電中間電圧と放電容量とを乗ずることによって、放電エネルギー(Wh)を算出した。この放電エネルギーを蓄電素子の質量で除することによって、エネルギー密度(Wh/kg)を算出した。結果を表1に示す。
【0111】
(クーロン効率の確認)
初期充放電後の各蓄電素子について、25℃にて、以下の条件でのクーロン効率の確認を行った。充電は、充電電流0.1C、充電電圧4.6Vの定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電終止条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。放電は、放電電流0.1C、放電終止電圧2.0Vの定電流(CC)放電とした。充電後及び放電後にはそれぞれ10分間の休止期間を設けた。この時の充電容量及び放電容量を確認し、充電容量に対する放電容量の百分率をクーロン効率とした。結果を表1に示す。
【0112】
【0113】
表1に示すように、蓄電素子の電極体が放電状態においてその積層方向に1.1MPa以下で加圧され、かつ正極活物質の容量(Ah)に対する非水電解液の注入量(g)の比すなわち正極活物質の容量(Ah)に対する非水電解液の質量(g)の比が0.7g/Ah以上である実施例1から5は、電極体が加圧されていない比較例1から3、電極体が1.2MPaで加圧された比較例4、正極活物質の容量(Ah)に対する非水電解液の質量(g)の比が0.6g/Ahである比較例5よりも充放電サイクルに伴う放電容量維持率が優れていることが示された。
【0114】
また、実施例1から5は、電極体が1.2MPaで加圧された比較例4と比べ、クーロン効率が優れていることが示された。
【0115】
さらに、正極活物質の容量(Ah)に対する非水電解液の質量(g)の比が4.0g/Ah以下である実施例1から実施例4は、充放電サイクルに伴う放電容量維持率が優れていると同時に、比較的高いエネルギー密度を有することが示された。
【0116】
負極活物質をグラファイトとした参考例を表1に合わせて示す。参考例1、2から負極活物質がグラファイトである場合には電極体の加圧の有無にかかわらず、充放電サイクルに伴う放電容量維持率は同等であった。つまり、本発明が解決しようとする課題は負極活物質がリチウム金属である場合に特有のものであることが分かる。
【0117】
以上の結果、当該蓄電素子は、充放電サイクルに伴う放電容量維持率の低下が抑制されていることが示された。