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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060948
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】除草液
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/00 20090101AFI20230424BHJP
   A01N 43/14 20060101ALI20230424BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20230424BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20230424BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
A01N65/00 Z
A01N43/14 A
A01N61/00 D
A01P13/00
A01N25/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170641
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】511136902
【氏名又は名称】ポリマーアソシエイツ合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092668
【弁理士】
【氏名又は名称】川浪 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100148714
【弁理士】
【氏名又は名称】川浪 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100154232
【弁理士】
【氏名又は名称】幸田 京子
(72)【発明者】
【氏名】西田 耕治
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AB01
4H011BA06
4H011BB10
4H011BB19
4H011BB22
4H011BC03
4H011BC16
4H011BC19
4H011DA13
4H011DC05
4H011DE15
4H011DF04
4H011DG15
4H011DH08
4H011DH10
(57)【要約】
【課題】 噴霧性を損なうことなく、植物に対する薬効成分の付着・保持性及び耐雨性に優れ、より低薬量で各種雑草に対して除草効果を示す除草液を提供する。
【解決手段】 バイオ系ナノファイバー0.01~3重量%と、高度分岐環状デキストリン0.01~30重量%とを含有する除草液である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオ系ナノファイバー0.01~3重量%と、高度分岐環状デキストリン0.01~30重量%とを含有することを特徴とする除草液。
【請求項2】
前記バイオ系ナノファイバーがセルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1に記載の除草液。
【請求項3】
前記高度分岐環状デキストリンが、α-1,4-グルコシド結合とα-1,6-グルコシド結合とで形成される内分岐環状構造部分と、該内分岐環状構造部分に結合した非環状構造部分である外分岐構造部分を有する、重合度が50から10000の範囲にあるグルカンであることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の除草液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧性を損なうことなく、植物に対する薬効成分の付着・保持性に優れ、低薬量で各種雑草に対する除草効果を有する除草液に関する。
【背景技術】
【0002】
農耕地、非農耕地を問わず、雑草類の繁茂は農業生産性の低下、生活環境の悪化をもたらすため、その防除策として殺草作用を有する化学的薬剤を配合した除草剤が広く利用されている。発生後の雑草の防除方法としては、対象とする雑草の茎葉に除草液体製剤(水溶液、乳剤、水和剤)を散布・噴霧して接触付着させるのが一般的である。このような茎葉処理型除草剤としては、茎葉に接触して殺草作用を示す接触型除草剤及び茎葉から吸収移行して殺草作用を示す吸収移行型除草剤が普及している。
【0003】
接触型除草剤は、除草剤の接触付着した部位だけを即効的に壊死させる作用を示し、茎葉処理剤ではパラコート、ジクワットなどがこれにあたる。茎葉処理によって高い除草効果を得るには比較的高濃度、且つ雑草の茎葉全体にわたって薬液を付着させるだけの量が必要であり、地下部が発達した多年生雑草や大型の一年生雑草に対しては効果が劣る。また非移行性であるため雑草の再生が早く、残効性に乏しいという欠点を持っている。その反面、地下部まで枯殺して裸地化をまねく危険性が低いことから、接触型(非移行性)除草剤は水田畦畔など裸地化による崩壊が懸念されるような場所では適用場面が広い。
【0004】
人畜に対する安全性が高く、環境適合性のある非農耕地用除草剤として利用されている、酢酸、プロピオン酸、カブリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸等の有機酸を主成分とする除草剤(有機酸除草剤)もこの型に属する。そのほかにも、リン酸及びその塩類、重曹、柑橘油、樹木精油なども、環境に優しい安全な接触型除草薬剤として利用できることが知られている。有機酸除草剤の長所は、安全性に加えてその顕著な即効性、非選択性であるが、その特有の刺激臭、不快臭が短所になっている。
【0005】
吸収移行型除草剤は、茎葉部に散布・噴霧された後、薬効成分が茎葉部から速やかに吸収され、植物の通導組織を通じて、蒸散流や光合成産物の移動とともに植物体内を移行して、生長点などの細胞分裂の盛んな組織や根に蓄積され、殺草作用を発現する。そのため接触型除草剤のような即効性はなく、葉枯れが現れるまでに数日かかることがある。しかし、薬液の付着後に植物体全体に移行するため、散布・噴霧時に多少の付着むらがある場合でも除草効果が発現しやすい。吸収移行型の主な茎葉処理剤としては、2,4-PA、アシュラム、グリホサート、グルホシネートなどがあり、なかでも、アミノ酸系アミノ酸生合成阻害物質であるグリホサート、グルホシネートは、吸収移行型の中では比較的早く殺草作用を示す非選択性の除草剤であり、一年生雑草、多年生雑草から雑潅木まで幅広い殺草スペクトラム(有効植物種範囲)を持つことから、生育期の雑草防除技術として広く普及している。
【0006】
茎葉処理によって除草剤が最初に接触する対象物は葉面のクチクラ層であり、その外側が親油性のワックスで構成されているため、薬液が葉の表面に拡がり難く、植物によっては葉面を覆っている毛によっても薬液の伸展が妨げられ、薬効成分の表皮細胞までの浸透が妨げられる。クチクラ層によるこのような問題に対応するために,茎葉処理では展着剤と斯界で表現される補助剤(アジュバント)が活用されている。展着剤は薬液を葉面に伸展させて密着させるとともに,接触付着・吸収可能な状態での保持時間を長くする効果を持つ界面活性剤である。しかし、展着剤を使用しても、散布・噴霧した後、まだ薬効成分が植物体に作用・吸収されないうち(数時間以内)に雨が降ると、薬剤の流出や濃度の低下によって除草効果が著しく減少してしまうという問題がある。
【0007】
一方、除草効果の優れた除草剤の多くは化学合成系であり、自然界には存在しないことから、潜在的に、その多くのものは環境並びに人間、動物、水生生物等に何らかの害をもたらしていると考えられている。そうした背景のなかで、近年、鉄道沿線の雑草防除処理に使用された除草剤が隣接する圃場作物に飛来し汚染させるなど、除草剤の環境におよぼす影響が大きな問題としてクローズアップされるようになり、薬剤の使用量(薬量)及び漂流飛散(ドリフト)のより一層の低減化が強く望まれている。その上で、雑草を速やか且つ有効に、また簡便に防除することが大きな課題となっている。
【0008】
薬量の低減及び即効性と残効性を併せ持つ除草剤として、例えば、特許文献1には、グリホサート剤と脂肪酸除草剤とを混合使用することにより薬量低減化を可能にする技術が開示されている。特許文献2には、脂肪酸除草剤、グリホサート系除草剤及びトリアジン系除草剤の3種類の既知除草剤成分を混合することにより雑草を非選択的に、しかも即効的に全枯刹する技術が開示されている。しかし、これらの技術は薬量低減効果と殺草効果を併せ持つが、耐雨性が十分とはいえない。
【0009】
植物に対する付着性と耐雨性を向上させる技術として、例えば、特許文献3には、粒径が5~75μmである農園芸用防除剤と食用油脂である脂肪酸グリセリドとを併用することにより、剤型及び有効成分に拘束されることなく、高い安全性を有し、植物に対する付着性と耐雨性とに優れ、しかも長い有効期間を維持することのできる農園芸用薬剤が開示されている。特許文献4には、亜麻仁油、桐油、ケシ油、グレープシード油、ベニバナ油、アッケシソウ油、月見草油、シソ油、クルミ油及びこれらの組み合わせからなる群から選択された乾性油中に粘土鉱物粒子が懸濁された濃縮懸濁液の非毒性農業製剤が開示されている。この濃縮懸濁液を水で希釈した農業用処理剤を含む水性製剤を農業の対象に噴霧、ブラッシグ、浸漬等を施すことによって、その対象上に乾性油と粘土鉱物とからなる硬質コーティングを形成することができる。これにより、農薬の効果を延長することができるばかりでなく、農薬を希釈又は除去する可能性がある降雨、摩擦、風、水への曝露などの悪条件から保護することができる。
【0010】
また、特許文献5には、除草剤成分である梅酢液又はクエン酸を含む梅酢液を植物の枝葉表面に十分に付着させるために、この梅酢液に膠成分を混合させてなる除草剤が開示されている。これを植物の枝葉に噴霧あるいは塗布した場合において、梅酢液が植物の枝葉表面に十分に付着するばかりでなく、付着した梅酢成分が雨水や灌水などの水利の影響をうけても流されることがないために繰り返し散布や塗布の必要が無く、長時間にわたり枝葉表面に付着させることができる。
【0011】
しかし、これらの技術は安全性が高く付着性及び耐雨性に優れるものの、薬量低減効果は十分ではない。しかも、特許文献3の技術は、植物油脂を含む懸濁液又は乳濁液であって、分散質である薬剤の形状が粉状、粒状、顆粒状、マイクロカプセル、液滴状であることから、また、特許文献4の技術は薬剤の形状に加えて粘土鉱物粒子を含むことから噴霧性が損なわれるおそれがある。さらに、特許文献5の技術は耐雨性を高めるべく膠を増量すると薬液の粘度が高くなってしまうことから、噴霧性が損なわれるおそれがある。このように、茎葉処理型の除草剤においては、噴霧性及び除草効果を損なうことなく、薬量の低減と植物に対する付着性と耐雨性とを両立させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表平06-501484号公報
【特許文献2】特開2003-342104号公報
【特許文献3】特開2005-170892号公報
【特許文献4】特表2020-531420号公報
【特許文献5】特開2010-116384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、噴霧性を損なうことなく、植物に対する薬効成分の付着・保持性及び耐雨性に優れ、より低薬量で各種雑草に対して除草効果を示し、且つ土壌汚染やドリフトによる環境汚染等の問題が軽減された、安全性が高い茎葉処理型の水性の除草液を提供することを課題とする 。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するために検討を重ねるなかで、ゲル状のセルロースナノファイバー水分散液を雑草の葉に噴霧又は塗布して乾燥させ、葉面にセルロースナノファイバーの被膜を形成させると、雑草種によっては生活性を失い、その生長点である葉先部に、あるいは葉全面に、変色や壊死を起こすものがあることを見出し、この知見に基づいてさらなる検討を重ねた結果、このナノファイバーと特定のデキストリンとを除草液に配合することによって、前記課題を解決できることを見出した。本発明は、このような新規な知見に基づいて完成されたものである。
【0015】
本発明の除草液は、バイオ系ナノファイバー(以下、「A成分」とも称する)を0.01~3重量%と、高度分岐環状デキストリン(以下、「B成分」とも称する)を0.01~30重量%と、を含有することを特徴とする。A成分の含有量は、好ましくは0.05~2重量%、さらに好ましくは0.1~1重量%の範囲であり、B成分の含有量は、好ましくは0.05~20重量%、さらに好ましくは0.1~10重量%の範囲である。
【0016】
本発明に係るA成分がセルロースナノファイバーであり、セルロースナノファイバーが木材、竹、甲殻等由来のパルプを原料とするものであり、またセルロースナノファイバーが可食原料由来とするものであることを特徴とする。本発明に係るB成分が、α-1,4-グルコシド結合とα-1,6-グルコシド結合とで形成される内分岐環状構造部分と、該内分岐環状構造部分に結合した非環状構造部分である外分岐構造部分とを有し、重合度が50から10000の範囲にあるグルカンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の除草液は、バイオ系ナノファイバーによる被膜形成及び高度分岐環状デキストリンによる付着・包接作用により、薬効成分の雑草への付着・保持力が強いので薬量が少なくて済み、その効果が長時間持続する。また、バイオ系ナノファイバーの被膜による耐雨性と、高度分岐環状デキストリンの包接作用による薬剤の臭気緩和も付与される。さらに、バイオ系ナノファイバー及び高度分岐環状デキストリンによる除草液のチキソ性・粘度上昇により、ドリフト低減の効果も期待できる。
【0018】
さらに、本発明のバイオ系ナノファイバーは天然由来素材であり、高度分岐環状デキストリンは食品素材なので、人間を含む動物に対して危害を与える危険性がなく、安全に使用することができる。このため、産業上極めて有用な除草液である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を説明する。実施形態は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。本明細書中、ナノファイバーとは、幅(または径)が1nm~100nmでアスペクト比(繊維の長さ/繊維の幅)が100以上の繊維状物質をいう。また、以下に記載する%とは、重量%を意味する。
【0020】
本発明の有効成分として用いられるバイオ系ナノファイバー(A成分)は生物資源由来のナノファイバーとして公知であり、木材、ケナフ、麻、綿、バカス、竹などの植物の細胞壁の主成分であるセルロースに由来するセルロースナノファイバーや甲殻類、昆虫類、菌類などの細胞壁の主成分であるキチンに由来するキチンナノファイバー及びその誘導体であるキトサンナノファイバーなどが知られている。これらのバイオ系ナノファイバーは幅数1nmから100nm以下、アスペクト比が100以上の繊維状物質であり、高強度・高弾性,高比表面積、高ガスバリア性、低熱膨張,可食性、生分解性、生体適合性、水分散液の特異な粘度特性(増粘作用、チキソトロピー性)などの興味深い特徴を有し,広範な用途に応用可能な次世代素材として注目を集めている。
【0021】
本発明に特に好適なバイオ系ナノファイバーは、前記セルロースナノファイバー(以下、「CNF」とも称する)である。CNFは全ての植物資源が原料となり得るため、木材パルプからだけでなく、雑草や野菜・果物の絞りかす、柑橘類の表皮、おから豆腐の副産物として生成するおからなど可食物及びその調理残、綿製品の古布、稲わらなどさまざまなバイオマスからも取り出すことができる。そのため、間伐材などの森林資源や、産業廃棄物を含むさまざまな植物資源の有効活用につながり、環境負荷が小さく、持続型資源としても注目されている。
【0022】
植物のセルロース繊維は細胞壁中で互いに強く結束しており、1本1本を分離して微細化しナノファイバーを抽出するには、大別して2種類の方法がとられている。一つはパルプ等を化学処理又は酵素処理してセルロースにカルボキシル基等のアニオン性基を導入し,その静電反発と浸透圧効果により水中で軽微な機械解繊で繊維を取り出す方法で、もう一つはパルプ等を水中で機械を使って物理的に微細化する方法である。
【0023】
前者の化学処理法にはTEMPO酸化触媒による化学変性法(TEMPO酸化法)やクエン酸等のポリカルボン酸による化学変性法のほか、セルロースに導入される基によって、リン酸エステル化法、亜リン酸エステル化法、カルボキシメチル化法、ザンデート化法、スルホン化法など、種々の処理技術が知られている。また酵素処理を使う技術としては、セルラーゼ処理後ビーズミル等による粉砕を行う酵素・湿式粉砕法などが知られている。
【0024】
後者の方法には、固形分を数%濃度に薄めたパルプスラリーに対して行う解繊技術として、高圧ホモジナイザー法、水中カウンターコリジョン法(ACC)、ウォータージェット法(WJ)、グラインダー法、ボール・ビーズミル粉砕法、凍結粉砕法、超音波解繊法などが、固形分が数十%濃度のパルプ・水混合物を出発材料とした解繊技術として、二軸押出機や固相せん断混錬装置などによる強剪断混錬法が知られている。これらのほかにも、イオン流体中にセルロース繊維を浸漬することにより解繊するイオン流体選択溶解法や酢酸菌等のバクテリアを用いて生物的にCNFを合成する生物的合成法などがある。
【0025】
本発明においては、A成分として、前記のキチンナノファイバーやキトサンナノファイバーを用いてもよい。キチンは、主としてN-アセチル-D-グルコサミンという単糖が直鎖状に連結した天然の多糖類であり、セルロースの繰り返し単位はグルコースであることから、キチンナノファイバーとCNFとは互いに類縁体の関係にある。キトサンは、キチンのアルカリ処理による脱アセチル化によって得られる高分子であり、主としてD-グルコサミン単位からなる。
【0026】
キチンナノファイバーは、主としてカニ殻やエビ殻に含まれる炭酸カルシウムとタンパク質(アレルゲン)をそれぞれ、酸による中和反応およびアルカリによる可溶化によって取り除いたのち、この精製したキチンを湿式で前記のCNF製法に挙げた物理的粉砕装置等に通すことによって得ることができる。キトサンナノファイバーは、前記キチンナノファイバーの製造工程のいずかにおいて、キチン材料をアルカリ処理法等の脱アセチル化することにより、あるいは前記工程で得られたキチンナノファイバーを脱アセチル化することにより得ることができる。係る脱アセチル化は、完全であってもよく、部分的であってもよい。
【0027】
バイオ系ナノファイバーの水分散液は、その濃度が高まるにつれ水素結合を介してネットワークが形成され、静値状態では高粘度を示し(ゲル化)、せん断力を受け続けるとネットワーク構造が破壊され、粘度が次第に低下して液状になる、所謂チキソトロピー性を示すようになる。水中での水素結合は比較的結合力が弱いため、せん断力を加えることでネットワーク構造を破壊することができる。その後、静置することでネットワーク構造が再構築されるため、せん断によるネットワーク構造の破壊と再構築は可逆的に繰り返すことができる。このような特徴をもつバイオ系ナノファイバー水分散液は、見掛けはゲル状であってもその濃度によっては噴霧することが可能であり、噴霧後に対象物に付着した後は垂れ難くなる。
【0028】
また、その原料と製法の違いにより、低粘度から高粘度までの粘度を付与する増粘剤としての機能をもつ。このナノファイバーが持つチキソトロピー性を有する増粘剤としての機能は、農薬分野にも利用され、液体製剤の農薬等成分の分散安定化技術の一つとして知られている(例えば、特許5519222号公報、特開2018-187619号公報、特開2019-520378号公報など)。
【0029】
本発明に用いられるバイオ系ナノファイバーは、その原材料や製法に限定されるものではなく、その繊維幅が1nm~100nm、好ましくは1nm~50nmのものであればよい。
【0030】
このようなナノファイバーは公知の方法で製造することができるが、市場においても入手可能であり、通常固形分が約1~10%程度の水分散液として流通している。市販品としては、例えば、セルロースナノファイバーでは、日本製紙株式会社のセレンピア(TEMPO酸化CNF)、第一工業製薬株式会社のレオクリスタ(TEMPO酸化CNF)、王子ホールディングス株式会社のアウロ・ヴィスコ(リン酸エステル化CNF)、大王製紙株式会社のエレックス(亜リン酸エステル化CNF)、中越パルプ工業株式会社のナノフォレスト(ACC法)などが挙げられる。また、キチンナノファイバーでは、株式会社マリンナノファイバーのマリンナノファイバー、株式会社スギノマシンのビンフィスシリーズなどが挙げられる。これらのバイオ系ナノファイバーは、単独で用いてもよく、また、原材料や製法が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
本発明の除草液における上記バイオ系ナノファイバー(A成分)の含有量は、通常0.01~3% 、好ましくは0.05~2%、さらに好ましくは0.1~1%の範囲である。含有量が0.01%未満では噴霧・散布後の被膜形成が不十分で耐雨性が損なわれるので好ましくない。含有量が3%を超えると、除草液の粘度が高くなりすぎて、除草液調整時のハンドリングが悪化するばかりでなく、除草液の散布・噴霧性が低下するので好ましくない。
【0032】
本発明の除草液に含まれるB成分(高度分岐環状デキストリン)は、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する、重量平均重合度が50から10000の範囲にあるグルカンをいう。このようなグルカンは、高度分岐環状デキストリンとも呼ばれ、本明細書においても、B成分を高度分岐環状デキストリンと称する。高度分岐環状デキストリンは、1つの内分岐環状構造部分に複数(例えば、100個)の非環状のグルコース鎖(外分岐構造部分)が結合した構造を有している。内分岐環状構造部分とは、α-1,4-グルコシド結合とα-1,6-グルコシド結合とで形成される環状構造部分をいい、10~100個程度のグルコースで構成されている。すなわち、内分岐環状構造部分の重合度は10~100の範囲である。外分岐構造部分とは、該内分岐環状構造部分に結合した非環状構造部分をいい、該外分岐構造部分を構成する非環状グルコース鎖における平均重合度は10~20である。但し、1本の非環状グルコース鎖における重合度は40以上であってもよい。高度分岐環状デキストリンにおけるグルコースの重量平均重合度は50~10000、具体的には50~5000の範囲である。
【0033】
高度分岐環状デキストリンは、例えば、デンプンを原料として、ブランチングエンザイ ムという酵素を作用させて製造することができる。原料であるデンプンは、グルコースがα-1,4-グルコシド結合によって直鎖状に結合したアミロースと、α-1,6-グルコシド結合によって複雑に分岐した構造をもつアミロペクチンからなる。アミロペクチンは、クラスター構造が多数連結された巨大分子である。使用酵素であるブランチングエンザイムは、動植物や微生物中に広く見いだされるグルカン鎖転移酵素である。ブランチングエンザイムは、アミロペクチンのクラスター構造の継ぎ目部分に作用し、これを環状化する反応を触媒する。アミロペクチンとしては、特にアミロペクチンほぼ100%からなるワキシーコーンスターチが、製造されるグルカンの分子量分布がより均一となるため、好適に用いられ得る。
【0034】
高度分岐環状デキストリンの具体例としては、特許第3107358号公報に記載の、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する、重合度が50から5000の範囲にあるグルカンが挙げられる。本発明において、高度分岐環状デキストリンは、特許第3107358号公報の記載を参酌して理解され得る。この高度分岐環状デキストリンは、市場において入手可能であり、例えばグリコ栄養食品株式会社の商品名:クラスターデキストリンが挙げられる。
【0035】
本発明の除草液に含まれる高度分岐環状デキストリンは、上記の通り特定の構造を有し、かつ重合度が大きく(分子量:3万~10万程度)、分子量分布が狭いものであり、α-シクロデキストリン(n=6)、β-シクロデキストリン(n=7)、γ-シクロデキストリン(n=8)などのグルコースが6~8個結合した一般的なシクロデキストリンとは異なる。
【0036】
この高度分岐環状デキストリンは、一般的なデキストリンと比較して、異味異臭が少ない、水溶性が高くその溶液の安定性も高い、老化による白濁や沈殿が起こりにくい、低分子オリゴ糖質が少ないため低甘味で着色しにくく浸透圧が低いなど、食品用として有用な性質を持っている。
【0037】
高度分岐環状デキストリンが持つ前記の高い水溶性とその高い溶液安定性は、除草液においても有用な性質と考えられ、除草液の噴霧安定性及び貯蔵安定性に寄与するものと期待される。また、該デキストリンを含有した水溶液は、冷蔵・冷凍時の安定性も高いことから、冬季貯蔵保管時に白濁したり固まったりすることのない、寒冷地においても十分使用可能な耐寒性のある除草液となり得る。
【0038】
さらに、この高度分岐環状デキストリンは、比較的長い単位鎖(グルカン鎖)を持ち、これが水溶液中で螺旋構造をとるため、様々な低分子化合物を取り込む能力(包接能)を有し、食品の酸味,苦味,甘味などをマイルドにする効果を持っている。この機能も、除草剤においては有用と考えられ、薬効成分の持続的な作用(除放効果)や有機酸除草剤の臭気緩和をもたらす効果が期待される。
【0039】
除草液中のB成分の含有量は、0.01~30%、好ましくは0.05~20%、さらに好ましくは0.1~10%の範囲である。含有量が0.01%未満では、付着性及び包接作用が十分ではなく、除放効果や臭気緩和効果が発揮されなくなるので好ましくない。上限30%を超えた場合、コスト上昇に見合うこれらの効果のさらなる向上が図れなくなるおそれがある。
【0040】
本発明で用いる除草剤は、水で薄めて使用できる茎葉処理型除草剤であれば特に限定されることはなく、剤型としては、水溶剤、乳剤、液剤、水和剤、フロアブル剤などを用いることができるが、除草剤散布者や環境に対する安全性の配慮、及び使用性の観点から、水溶性の製剤が好ましい。水としては、水道水、井戸水、精製水、純水、蒸留水、イオン交換水など、いずれも用いることができる。
【0041】
本発明に使用できる好ましい水溶性の除草剤としては、例えば、グリホサート系及びグルホシネート系除草剤を挙げることができる。アミノ酸生合成阻害型除草物質であるグリホサート及びグルホシネートは原体で化学的に安定な水溶性の物質であるが、一般に、アンモニウム塩、イソプロピルアミン塩、ナトリウム塩などの水中で解離することができる塩型として製剤化される。より具体的には、グリホサート系では、グリホサートアンモニウム塩、グリホサートイソプロピルアミン塩、グリホサートトリメシウム塩、グリホサートナトリウム塩、グリホサートカリウム塩などが、グルホシネート系では、グルホシネートアンモニウム塩、グルホシネートPナトリウム塩などが挙げられる。これらは、一般に約20~50%程度の濃厚溶液として流通しているが、効果増強・効果安定剤として、非イオン性界面活性剤及び/又はカチオン性界面活性剤が加用されることが多い。
【0042】
また、人畜に対する安全性が高く、環境適合性がある有機酸類も本発明に使用できる好ましい除草剤であるが、水溶性が高い有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸などを挙げることができる。
【0043】
これらの除草剤は単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いることもできる。2種以上の除草剤を用いる場合には、混合比は任意に選択することができる。また、除草剤の配合量は、使用する除草剤および散布の対象となる雑草によって適宜、決定される。
【0044】
本発明の除草液には、界面活性剤を有効成分とする一般的な展着剤を使用することができる。展着剤は、除草液の界面張力を低下させることにより、茎葉面への濡れ性、付着性、浸透性を高め、効果を安定させる機能を有し、併用することが好ましい。
【0045】
前記界面活性剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、また、2種以上を併用しても差し支えない。一般的な展着剤は、ノニオン系界面活性剤が主体であるが、アニオンが配合されたものやカチオンが配合されたものもある。これらは市販品を使用するか、公知の方法により製造したものを使用することができる。
【0046】
前記ノニオン系界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン、ポリオキシアルキレンオキシプロピルヘプタメチルトリシロキサン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
前記アニオン系界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリナフチルメタンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルフォスフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルフォスフェート、ポリオキシエチレンジアルキルフェニルエーテルフォスフェート、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルフォスフェート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
前記カチオン系界面活性剤としては特に限定はなく、例えば、ポリナフチルメタンスルホン酸ジアルキルジメチルアンモニウム、アルキルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムパラトルエンスルホン酸、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、メチルポリオキシエチレンアルキルアンモニウムクロライド等が挙げられる。 これらは単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
除草剤組成物中の前記界面活性剤の含有量は、0.0001~5%、好ましくは0.001~3%であり、より好ましくは0.005~1%である。界面活性剤の添加量が少なすぎると、茎葉への濡れ性が低下して除草効果が劣る傾向がみられ、界面活性剤の添加量が多すぎると、泡立ちが多くなって、除草液調整時の作業性や散布時の使用感が悪くなってしまう傾向がみられる。
【0050】
本発明に係る除草液は、上記成分以外に、通常の除草剤組成物に用いられる農薬補助剤を必要に応じて含有していてもよい。
【0051】
例えば、散布液の付着・固着の促進,流亡防止(撥水性・耐雨性向上)、蒸散防止等の効果を示す補助剤としては、パラフィンワックス、モンタンワックス、カルナバウワックス等のワックス類、樹脂酸類、ポリエチレン、ポリブテン、ポリアクリレート、ポリ酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂等のエマルションが挙げられる。散布液の物性調節剤で有り、粘度調節、分散安定化、ドリフト防止、活性成分の結晶防止、保湿性・蒸散防止効果付与の効果を持つ補助剤としては、植物や微生物由来のケルザンガム、ウェランガム、ジュランガム、キサンタンガム、アラビアガム、グアガム等のポリサッカライド、ショ糖、デンプン類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ボリアクリルアミド等の水溶性高分子類が挙げられる。また、付着・固着促進・結晶化防止・クチクラ透過増強等の作用を示す補助剤としては、石油系高沸点溶剤(ナフサ類)、農薬用マシン油、植物油(大豆油、菜種油、アマニ油等)等の溶剤・オイル類およびその脂肪酸エステル等のエマルションが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
これらのほかにも、例えば、水軟化剤(アルカリ土類金属補集キレート剤等)、消泡剤(高級アルコール及び脂肪酸の誘導体、ミネラルオイル系、ポリシロキサン系等)、凍結防止剤(エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等)、pH調整剤(有機酸塩類、リン酸塩類類、リン酸エステル系界面活性剤等)、防腐剤(安息香酸塩、ソルビン酸塩、パラベン類等)、香料・消臭剤(バニリン等)等が農薬用補助剤として実用化している。
【0053】
上記の補助剤は、本発明の効果を妨げない範囲で、最少量の添加が好ましい。また、該補助剤の分散質の最大粒径は、噴霧性を考慮し好ましくは20μm以下である。
【0054】
除草液の調整方法は特に限定されることはなく、例えば、適宜の量の水に対してバイオ系ナノファイバー又はバイオ系ナノファイバー及び高度分岐環状デキストリンとを適宜の手段で撹拌混合して、これらを水中に均一分散させたのちに、除草剤を添加混合する方法でもよく、予め、高剪断湿式撹拌混合装置等を用いて、水とバイオ系ナノファイバー及び高度分岐環状デキストリンとからなる濃厚分散液を用意しておき、これと除草剤とを適宜の量の水で希釈混合する方法でもよい。なお、その他の補助剤類は、必要に応じて適宜添加混合すればよく、その添加方法は使用する補助剤の種類や量に応じて適宜決定される。水希釈の程度は、除草液全体に対するバイオ系ナノファイバーの含量が前記3%を超えない範囲内であればよく、施用すべき雑草の種類や施用面積などに応じて、除草成分が散布・噴霧後に適宜の濃度で雑草に接触するように水希釈液の濃度を決定することができる。
【0055】
本発明の除草液の施用方法は特に限定されないが、通常は本発明の除草液を上記のようにして調製した後、如雨露、霧吹き、園芸用や農業用の散布機又は噴霧機等を用いて、雑草の茎葉に施用すればよい。
【0056】
本発明の除草液の施用には静電散布を利用することもできる。これは、噴霧ノズルの近傍に電極を設置し高電圧を印加することによって、ノズルから噴霧された液滴に電荷を帯電させ、電気的吸引力によって液滴を植物表面に強制的に付着させる技術である。この方法ではノズルと植物表面の電気力線に乗って液滴が移動するため、噴霧液滴が葉の裏側まで均一に付着する利点があり、慣行の散布機では難しかった葉の裏側などにもムラの少ない安定した薬剤の付着を効率よく実現することができるため、薬液量及びドリフトの低減にも効果がある。なかでも、接触型茎葉処理剤を使って広範囲を除草する場合は、この静電散布が効果的である。
【実施例0057】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。これらの実施例は本発明の説明に役立つことを意図したものであって、除草効果の試験、除草液の調整、調整した除草液の除草効果等であり本発明を限定するものではない。
【0058】
試験、実施例、比較例に用いた成分(原材料)を以下に示す。
A成分:バイオ系ナノファイバー
<CNF1> 木材パルプを原料としたTEMPO酸化触媒により解繊されたCNFである第一工業製薬株式会社のレオクリスタI-2SP(CNF固形分2%、繊維幅約3nm)
<CNF2> おからを原料としてクエン酸による化学変性法により抽出したセルロースナノファイバーであり、次の方法により作製した。まず、おから100重量部とクエン酸300重量部とを反応容器に入れて130℃で混合したのち、これに水を加え濾過器を通してクエン酸を除去した。その後、得られた濾過ケーキに蒸留水を加え、臼型超微粒磨砕機スーパーマスコロイダーMKZA10-15J(増幸産業株式会社製)に3回通すことによって、最終的にCNF固形分1.8%の水分散液を得た。原子間力顕微鏡(AFM)による測定の結果、このCNFの平均繊維幅は約3nmであった。
B成分:高度分岐環状デキストリン
クラスターデキストリン(登録商標、グリコ栄養食品株式会社製)。クラスターデキストリンの主成分は、分子量が3万~100万程度であり、分子内に環状構造を1つ有し、さらにその環状部分に多数のグルカン鎖が結合した重量平均重合度2500程度のデキストリンである。環状構造部分は16~100個程度のグルコースで構成されており、この環状構造に非環状の分岐グルカン鎖が多数結合している。
除草剤
<除草剤1> 酢酸;試薬特級 和光純薬製
<除草剤2> グリホサートイソプロピルアミン塩「エイトアップ液剤」(成分:イソプロピルアンモニウム=N-(ホスホノメチル)グリシナート41.0%、水・界面活性剤 59.0% 、販売元(株)シー・ジー・エス)
界面活性剤
<まくぴか> シリコーン系界面活性剤、成分:ポリオキシエチレンメチルポリシロキサン93%、有機溶剤等7.0%、石原バイオサイエンス株式会社
<ダイン> 非イオン系+陰イオン系界面活性剤、成分:ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル20.0%、リグニンスルホン酸カルシウム12.0%、有機溶剤等68.0%、住友化学園芸株式会社
水 イオン交換水
【0059】
令和3年(2021年)6月~8月に、山形県米沢市の試験地において自然発生した一般的な雑草を対象に、以下の野外試験を行った。
【0060】
≪CNF水分散液の塗布・噴霧実験≫
〔試験例1〕
複数種の雑草の葉、各2~3枚程度を目安に、レオクリスタI-2SP原液(固形分2%)をそれぞれの葉の表裏に指先で塗布し、その後の葉面状態の経過観察を目視により行った。対象とした雑草は、ヒメスミレ、ブタナ、ノゲシ、ヒメムカシヨモギ、メヒシバ、エコロノグサ、オオジシバリの各種で、一枚の葉の長さが4~8cm程度のものを塗布の対象とした。
【0061】
前記レオクリスタ原液(CNF1)は粘度が高くゲル状であるため、撥水性のある葉面上にも該原液を伸展付着させることが可能で、対象としたいずれの雑草の葉に対しても、その全面に渡って該原液を塗布することができた。塗布液が乾燥すると、各葉面にはCNFによる光沢のある透明な固体被膜が形成されていた。各雑草の6時間、24時間、120時間経過後の葉面状態を、下記の評価基準1に従い評価した。結果を表1に示す。
評価基準1
○:変化なし
△:葉先部(周縁部)が変色又は枯死
×:葉全面が変色又は枯死
【0062】
表1
【0063】
表1に示すように、葉面が全く変化しない雑草もあるが、時間経過に伴い、葉面に部分的あるいは全面的な変色(主に褐色系に変化)や枯れが現れる雑草が観察された。このように、CNFだけの水分散液であっても、葉に変色や枯れが生じる雑草があるという事実は、全く予想外の驚くべき結果であった。
【0064】
〔試験例2〕
前記レオクリスタをイオン交換水で希釈撹拌して、CNF(固形分濃度)0.6%、0.3%及び0.1%の水分散液をそれぞれ1L(リットル)作製し、次に展着剤「まくぴか」を各0.3mL添加撹拌して、CNF濃度の異なる水分散液を3試料用意した。そして、これらのCNF水分散液を、ハンドスプレー容器(500mL、噴霧量:約1g/回)に入れて対象雑草の葉全体に噴霧し(雑草の大きさに応じて3~5回噴霧)、試験例1と同様の葉面の経過観察を行った。対象とした雑草は、ヒメスミレ(株幅:5~7cm)、ブタナ(ロゼット状:径6~8cm)、ノゲシ(ロゼット状:径8~10cm)、ノゲシ幼苗(四つ葉:幅3~4cm)、ダンドボロギク幼苗(五枚葉:幅3~4cm)、カタバミ(草丈:4~6cm)、ヒメジョオン(ロゼット状:葉丈6~8cm)、ヒメムカシヨモギ(草丈:6~7cm)、コニシキソウ(横長:長さ8~10cm)、メヒシバ(横長:長さ10~12cm)、エコロノグサ(草丈:12~15cm)の各種である。CNF水分散液の各固形分濃度における24時間経過後の葉面観察結果を表2に示す。
【0065】
表2
【0066】
表1及び表2の結果から、CNF水分散液の固形分濃度及び雑草種や生長状態によっては、葉面上に部分的あるいは全面的な変色や枯れ現象が起こり得ることがわかった。
【0067】
CNF0.6%の水分散液を噴霧した雑草の葉面上には、乾燥後、ほぼ全面にCNFによる薄膜が形成されているのが観察されたが、0.3%及び0.1%の水分散液を噴霧した場合は、一部雑草において(ノゲシ、カタバミ、メヒシバ、エコロノグサ)、葉面に接触した除草液が液滴となって流出しやすく、葉面上にCNF被膜は観察されなかった。CNF濃度の低い0.1%水分散液の方がその傾向が強くみられた。また、CNF濃度が高いほど、葉面に形成される被膜は厚さを増し、且つ光沢感が強くなる傾向がみられた。
【0068】
葉面でのCNF水分散液の濡れ性が比較的よい雑草、例えば、ヒメスミレ、ブタナ、ノゲシ幼苗(ノゲシ幼苗はクチクラ層が未発達と推定)などは、CNF濃度が低い側にあっても、乾燥後に葉面全体にCNF乾燥被膜が形成されやすく、葉面に変色や枯れが現れやすい傾向がみられた。一方、撥水性の高い葉を持つ雑草、例えば、ノゲシ、カタバミ、メヒシバ、エコロノグサなどは、CNF濃度が低くなると、分散液の粘度が低下してしまうため、展着剤を添加していてもCNF水分散液は葉面から弾かれ流出するか、葉上に留まっても、乾燥するとCNFは被膜にはならずに、班状や粒子状に固化してしまう傾向がみられた。このように、表1及び表2の結果は、葉面がある程度の厚さのCNF乾燥膜で一様に覆われた方が葉の生活性が失活しやすいことを示唆したものと考えられる。しかし、オオジシバリ、カタバミ、ダンドボロギク幼苗のように、葉面全体にほぼ一様なCNF乾燥被膜が形成されても、殆ど葉面状態が変化しない雑草もあり、CNF被膜によって葉面に変色や枯れが起こるかどうかは、雑草種に依存するところが大きいと考えられる。
【0069】
なお、表1及び表2の対象雑草のなかで完全に枯死したものは一つも観察されなかった。葉先が部分的に変色・枯死した雑草は数日経っても全面変色・枯死に至ることはなく、葉全面が変色又は枯死した雑草でも、7日~10日後には新しい葉が生え始め、最終的にはいずれの雑草も正常な生育状態に回復した。葉面に形成されたCNF被膜は、葉の生長とともに次第に破れて剥離し風雨によって消失していったが、被膜が観察されなくなるまでには一ケ月を超える時間を要した。このことから、乾燥固化後のCNF膜は、雨水で容易に解繊・分散流出することはなく、除草剤への適用を図るうえでは十分な耐雨性を備えていることがわかった。現段階ではCNF被膜による葉面の変色・枯れの発現理由はまだ明らかになっていないが、葉面にCNF被膜が形成されることによって、一時的ではあっても、雑草の生長を阻害する作用が働いていることは、上記の試験結果から明らかである。
【0070】
<除草液の調整>
表3に示す配合割合になるように各成分(原材料)を混合・撹拌して、除草液をそれぞれ500mL用意した。表3に示すように、実施例1~6は除草剤1、デキストリン、まくぴか(界面活性剤)、イオン交換水の全てが配合され、CNF1は実施例1~4に配合されている。実施例5、6にはCNF2が配合されている。実施例7は除草剤2、CNF1、デキストリン、ダイン(界面活性剤)及びイオン交換水が配合され、実施例8は除草剤1、2、CNF1、デキストリン、ダイン(界面活性剤)及びイオン交換水が配合されている。比較例1~3は除草剤1、まくぴか(界面活性剤)、イオン交換水が配合され、比較例2には加えてCNF1が配合され、比較例3には加えてデキストリンが配合され、比較例4には除草剤2、ダイン(界面活性剤)及びイオン交換水が配合されている。
【0071】
表3
【0072】
生育期にあるヒメスミレ(株幅:5~7cm)、カタバミ(草丈:5~8cm)、ハハコグサ(草丈:10~15cm)を対象として、実施例1~8及び比較例1~4の除草液を、前記ハンドスプレーにて植物の葉全体が濡れるように噴霧(5g程度)した。各雑草について、実施例1~6及び比較例1~3については5時間後、1日後、7日後、14日後、28日後における除草効果を、実施例7、8及び比較例4については1日後、3日後、7日後、14日後、28日後における除草効果を、目視により下記の評価基準2に従い評価し、それぞれの結果を下記の表4及び表5に示す。なお、試験は2反復で行った。
評価基準2
0:変化なし、又は茎葉の面積の5%未満が変色
1:茎葉の面積の5%以上35%未満が変色又は枯死
2:茎葉の面積の35%以上65%未満が変色又は枯死
3:茎葉の面積の65%以上95%未満が変色又は枯死
4:茎葉の面積の95%以上が変色又は枯死、又は完全枯死
【0073】
表4
【0074】
表5
【0075】
まず、酢酸(除草剤1)を用いた除草液による結果について説明する。酢酸を除草剤として使用する場合、その濃度は5%程度が一般的であるが、本試験例においては、その濃度を一般的な濃度の半分以下とした。
【0076】
最初に比較例1~3について説明する。表4の比較例1は全体として刹草作用が弱く、その効果がみられるのは除草液噴霧後およそ数時間~7日前後であり、それ以降は何れの雑草も生活性が回復して元の生長状態に戻ってしまった。比較例2は比較例1よりも刹草作用が向上しているが、まだ各雑草の生活性は完全に失われることはなく、正常な生長状態に戻ろうとする傾向がみられる。比較例3は比較例2よりも刹草作用が強く、ヒメスミレ及びハハコグサにおいては枯死状態まで達しているが、カタバミに対してはまだ十分ではない。このように、酢酸にCNF又は高度分岐環状デキストリンを加えるだけでは、十分な除草効果は得られないことがわかった。
【0077】
なお、比較例3は、高度分岐環状デキストリンの効果を見やすくするために、該デキストリンを酢酸(除草剤1)と同量の2%配合したものである。この比較例3の結果から推定される高度分岐環状デキストリンの効果は、粘着作用による雑草茎葉への付着性向上と包接作用による酢酸の持続的作用(徐放作用)の付与である。酢酸を取り込んだ該デキストリンが雑草表面に付着・定着することによって、酢酸が持つ刹草作用が長時間持続し、このような結果をもたらしているものと考えられる。
【0078】
また、高度分岐環状デキストリンの含量が2%では判然としなかったが、これを5%に増量した除草液についても試してみたところ(前記3種以外の雑草も対象)、葉面上に非光沢の白い膜状のものが観察される雑草がみられた(ヒメスミレ、ブタナ等)。これは、該デキストリンを増量することによって顕在化した現象と考えられ、該デキストリンにも被膜形成能があることを示唆した結果ともいえる。よって、高度分岐環状デキストリンの含量が2%以下であっても、目視では確認できないだけで、雑草によっては葉面に該デキストリンの被膜が形成されている可能性が高い。さらに、高度分岐環状デキストリンの含量が多いほど、その水溶液の粘着性が高くなることも、指触により確認することができた。
【0079】
表4の結果から、実施例1、2ともに、前記3種の雑草を全て枯死に至らしめる優れた除草効果を発揮していることがわかった。実施例2と比較例2及び3とを比較すると、実施例2は高度分岐環状デキストリンの配合量が比較例3の1/4であるにもかかわらず、比較例2と同量のCNFと組み合わせるだけで、比較例3を凌駕する除草効果が得られていることから、CNFと高度分岐環状デキストリンとを組合せることによって、刹草作用に相乗効果が生まれたものと推定される。すなわち、前記の高度分岐環状デキストリンの効果にCNF膜のバリア効果による耐雨性が加わり、少ない薬量であっても、薬効成分が茎葉表面に長時間保持され作用し続けることによって、除草効果を高めたものと考えられる。
【0080】
また、表4の実施例1~4から、酢酸を減量するほど除草効果は低減する方向に向かうが、酢酸の減量度合に応じてCNF又は/及び高度分岐環状デキストリンの量を適宜調整することによって、酢酸濃度が一般的な濃度の半分以下であっても、十分な除草効果が得られることがわかった。しかも、酢酸の減量効果及び高度分岐環状デキストリンの包接作用による消臭効果が相まって、係る除草液の臭気は、一般的な酢酸濃度5%の除草液に比べて、大幅に緩和軽減されることがわかった。実施例4は酢酸濃度が僅か1%であるが、CNFを0.6%に増量したことによって、葉面に厚みのあるバリア性の高い被膜が形成され、これが前記の生長阻害作用を発現させ、酢酸の殺草作用を助長している可能性がある。
【0081】
実施例5及び6は、おから由来のCNF(CNF2)を用いた例である。実施例1及び2よりもCNFを減量しているため、枯死に至るまでの時間がやや延びてはいるが、除草液噴霧から2週間(14日)後には対象とした全ての雑草が枯死していることに変わりはなく、除草効果としては十分である。よって、おから由来のCNFを用いた場合であっても、前記レオクリスタと遜色なく、CNFとしての効果は十分発揮されているものと判断される。
【0082】
次に、グリホサート系除草剤(除草剤2)を用いた除草液による結果について表5を参照して説明する。エイトアップ液剤の通常使用時の推奨水希釈倍率は100倍で、これをグリホサートイソプロピルアミン塩に換算すると約0.41%になる。表3の実施例7及び実施例8のグリホサートイソプロピルアミン塩の濃度は、それぞれ、希釈倍率約140倍及び約150倍に相当する。
【0083】
表5の結果から、実施例7及び比較例4は除草液噴霧後7日以降に除草効果が現れている点で共通しているが、比較例4と比較すると、7日目以降は実施例7の方がいずれの対象雑草に対しても除草効果が高いことがわかった。なかでも一番大きな違いが現れたのはヒメスミレで、実施例7は噴霧後10日頃までには完全枯死に至ったのに対し、比較例4は、途中、葉に僅かな褪色がみられたものの、その後は回復生長して枯れることはなかった。このことから、グリホサート系除草剤においても、CNF及び高度分岐環状デキストリンを併用することによって、薬量低減効果並びに殺草作用持続効果が発揮されていることがわかった。
【0084】
遅効性のグリホサート除草剤に即効性の酢酸を加えた実施例8は、その両者の特徴を併せ持つ効果を示した。すなわち、グリホサート除草剤では効果が現れない最初の3日間を酢酸の持つ即効作用で除草効果を補完することとなり、完全枯死に至る時間も短縮される結果となった。このように、即効性除草剤と遅効性除草剤とを組み合わせ、これにCNF及び高度分岐環状デキストリンを配合することによって、低薬量でも短期間でほぼ確実に多種の雑草を枯死させることができる。
【0085】
ヒメムカシヨモギを対象として、下記のような降水試験(降雨模擬試験)を行った。
〔実施例9〕
草丈が約12~14cmに生育した2本のヒメムカシヨモギに対して、実施例7で調整した除草液を、前記ハンドスプレーにて葉の全体が濡れるように、それぞれ噴霧した(各5g程度)。そのうちの一本に対して、除草液噴霧1時間後に、その斜め上方30cm程度の高さから、蓮口付き如雨露(容量6L)を用いて、シャワー状の水を30秒間(約2.2kg)降らせた。そのうえで、除草液噴霧後の係る2本の経時変化を前記評価基準2に従い比較観察した。試験は2反復で行った。
〔比較例5〕
比較例4で調整した除草液についても実施例9と同様の比較試験を行った。
【0086】
除草液噴霧から、3日後、7日後、14日後及び21日後の結果を表6に示す。
【0087】
表6
【0088】
比較例5が著しく除草効果が低下しているのに対し、実施例9は除草効果が殆ど低下していないことから、CNF及び高度分岐環状デキストリンの作用によって、耐水性(耐雨性)が改善され、且つ殺草効果が持続していることは明らかである。
【0089】
下記のような除草液の凍結解凍試験を行った。
〔実施例10〕
実施例2、6、7及び8で調整した除草液を各100mL用意し、それぞれ透明なPETボトル(容量300mL)に入れ蓋をした。これらを冷凍庫で-20℃に冷却して除草液を凍らせたのち、取出して室温に戻して静置解凍させ、完全解凍後の除草液の状態を観察した。この操作及び観察を5回繰り返した。
【0090】
その結果、凍結解凍後の状態はいずれの除草液も可逆的で、解凍後は5回とも凍結前の透明感のある状態に戻った。これに対し、一般的なデキストリンを含有する水溶液は、このような凍結解凍処理を繰り返すと、透明性が維持できなくなり、白濁したり固まったりすることが知られている(例えば、生物工学学会誌、第84巻、第2号、61-66、2006)。
【0091】
ここで、寒冷地での除草液の冬季貯蔵保管環境を想定してみる。仮に除草液に一般的なデキストリンが配合されているとした場合、貯蔵保管中に該デキストリンによって除草液が白濁・白化してしまい、春夏になって、いざその除草液を雑草に噴霧しようとした時に、あるいは噴霧している最中に、噴霧器ノズルに不溶化した該デキストリンが詰まって噴霧できなくなってしまう可能性が極めて高い。これに対し、本発明のクラスターデキストリンを配合した除草液であれば、冬季に自然凍結解凍が繰り返されたとしても白濁や固化を起こすことはなく、寒冷地においても噴霧性を損なわずに使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る除草液は、畑地、水田畦畔、果樹園、家庭菜園等の農耕地や、公園、堤塘、駐車場、道路、鉄道、運動場、宅地、工場・建物用地、法面などの非農耕地での雑草を防除するために使用できる。