IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイリスオーヤマ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-誘導加熱装置 図1
  • 特開-誘導加熱装置 図2
  • 特開-誘導加熱装置 図3
  • 特開-誘導加熱装置 図4
  • 特開-誘導加熱装置 図5
  • 特開-誘導加熱装置 図6
  • 特開-誘導加熱装置 図7
  • 特開-誘導加熱装置 図8
  • 特開-誘導加熱装置 図9
  • 特開-誘導加熱装置 図10
  • 特開-誘導加熱装置 図11
  • 特開-誘導加熱装置 図12
  • 特開-誘導加熱装置 図13
  • 特開-誘導加熱装置 図14
  • 特開-誘導加熱装置 図15
  • 特開-誘導加熱装置 図16
  • 特開-誘導加熱装置 図17
  • 特開-誘導加熱装置 図18
  • 特開-誘導加熱装置 図19
  • 特開-誘導加熱装置 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060963
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/12 20060101AFI20230424BHJP
【FI】
H05B6/12 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170667
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】391001457
【氏名又は名称】アイリスオーヤマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】野田 臣光
(72)【発明者】
【氏名】宮島 隆浩
【テーマコード(参考)】
3K151
【Fターム(参考)】
3K151AA17
3K151BA34
3K151CA46
(57)【要約】
【課題】スイッチング素子の損失を低減して安価で効率の良い誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】
インバータ回路10と、このインバータ回路10は鍋で代表される導電性被加熱物5の下方に配置された加熱コイル52と直列に直列共振コンデンサ54を接続し、加熱コイル52と並列に並列共振コンデンサ55を接続した構成の共振回路5を備えて、直流電圧電源9のプラス、マイナス間に逆導通スイッチング素子41、42を直列に接続してスイッチング回路4を構成し、この接続点と前記直流電圧電源のプラス、あるいはマイナス間に前記共振回路5を接続して、前記逆導通スイッチング素子41、42を交互に導通、不導通させる制御により、前記スイッチング素子41、42のスイッチング損失と導通損失を減少させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、
前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を有するものであり、
前記共振回路は、
導電性被加熱物を電磁誘導加熱するための加熱コイルに対して直列接続された直列共振コンデンサと、
前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、
前記スイッチング回路は、
前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の接続点と、前記直流電圧電源のプラス、あるいはマイナスとの間に前記共振回路を接続したものであり、
前記制御回路により前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の双方が不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子を交互に導通、不導通とすることにより導電性被加熱物の加熱を行うこと、を特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、
前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を有するものであり、
前記共振回路は、
加熱コイルに対して直列接続された第一の直列共振コンデンサ及び第二の直列共振コンデンサと、
前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、
前記スイッチング回路は、
前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の接続点と、前記直流電圧電源のプラス側との間に、前記共振回路を構成している前記第一の直列共振コンデンサ及び前記第二の直列共振コンデンサのうちの一方の直列共振コンデンサを接続すると共に、他方の直列共振コンデンサをマイナス側に接続したものであり、
前記制御回路により前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子が同時に不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子を交互に導通、不導通とすることにより、前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に配された導電性被加熱物を電磁誘導加熱できることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項3】
第一のコンデンサ、及び第二のコンデンサがプラス、マイナス間に直列接続された直流電圧電源と、
前記直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、
前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を備えたものであり、
前記共振回路は、
加熱コイルに対して直列接続された直列共振コンデンサと、
前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、
前記スイッチング回路は、
前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の接続点と、前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に直列接続されたコンデンサの接続点との間に前記共振回路を接続し、
前記制御回路により前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子が同時に不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子を交互に導通、不導通とすることにより前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に配された導電性被加熱物を電磁誘導加熱できることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項4】
直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、
前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を有するものであり、
前記共振回路は、
加熱コイルに対して直列接続された直列共振コンデンサと、
前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、
前記スイッチング回路は、
前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に、第一と第二の逆導通スイッチング素子を直列に、第三と第四の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、それぞれの接続点の間に前記共振回路を接続したものであり、
前記制御回路により前記第一と第四の逆導通スイッチング素子を一組、第二と第三の逆導通スイッチング素子を一組とし、この二組の逆導通スイッチング素子が同時に不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子の組を交互に導通、不導通とすることにより、前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に配された導電性被加熱物を電磁誘導加熱できることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項5】
前記スイッチング回路を構成する逆導通スイッチング素子のうち、少なくとも一個の逆導通スイッチング素子間の電圧を検知する電圧検知部を設けた請求項1から4のいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項6】
前記電圧検知部により前記逆導通スイッチング素子の両端電圧が0ボルトを検知できなかった場合、
動作周波数が、前記導電性被加熱物を前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に配した条件下における前記加熱コイルのインダクタンスLr及び前記加熱コイルに接続された前記並列共振コンデンサのキャパシタンスCr2により決定される第一の共振周波数、及び前記キャパシタンスCr2及び前記直列共振コンデンサのキャパシタンスCr1を加えたキャパシタンスによる第二の共振周波数の中間の周波数である中間周波数より高いことを条件として、動作周波数を低く制御し、前記中間周波数より低いことを条件として、動作周波数を高く制御することを特徴とする請求項5に記載の誘導加熱装置。
【請求項7】
前記電圧検知部により前記逆導通スイッチング素子の両端電圧が0ボルトを検知できなかった場合、動作を停止させて使用者に警告することを特徴とする請求項5に記載の誘導加熱装置。
【請求項8】
前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に前記導電性被加熱物が存在していない条件下における加熱コイルのインダクタンスLr、及び前記並列共振コンデンサのキャパシタンスCr2により決定される共振周波数以下の周波数域において制御することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項9】
動作中に前記導電性被加熱物を前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域から取り去り可能な構造であることを特徴とする請求項8に記載の誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商用電源を高周波に変換して調理鍋で代表される導電被加熱物を加熱する誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波電流を加熱コイルに流して交番磁界を発生させ、この磁界による誘導電流により鍋等の導電性被加熱物を加熱する調理器が、安全な調理器として多くの家庭に普及している。この調理器において商用周波数を高周波に変換するために採用されているインバータには、逆導通スイッチング素子として逆方向に導通するダイオードを内蔵した絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)が一般的に使用されている。
【0003】
主に100V系統の商用電源を使用した小電力の誘導加熱調理器には、前記逆導通スイッチング素子1個を使用した電圧共振型インバータが一般的に採用されている。このような電圧共振型インバータは、例えば家庭用の炊飯器、あるいは卓上調理器等において好適に採用されている。このような従来技術の例として、例えば特許文献1(特開2004-14492公報)に開示されているようなものがある。
【0004】
組込み型誘導加熱調理器などに採用されている200V系統の電源を使用した大電力誘導加熱調理器には、逆導通スイッチング素子を二個使用した電流共振型インバータが一般的に採用されている。このような調理器には、逆導通スイッチング素子に並列にコンデンサを接続して損失を低減させる方法が採用されている。このような従来技術の例として、例えば特許文献2(特開昭59-209296号公報)に開示されているようなものがある。
【0005】
また、下記特許文献3(特開平4-337281号公報)には、二組の共振回路を用いる回路や制御方法が開示されている。下記特許文献3に開示されている回路は、電流共振回路と電圧共振回路を組み合わせたものである。下記特許文献3に係る従来技術は、固定周期の動作の中で出力を制御するときに逆導通スイッチング素子を0ボルトターンオン動作させることにより前記スイッチング素子の損失を低減することを目的としている。この回路の電源は、直流電流電源を必須としている。
【0006】
さらに、下記特許文献4(特開平9-245953号公報)には、直流電圧電源を使用して、電流共振回路と電圧共振回路を組み合わせてスイッチング素子の電圧が0ボルトでターンオンさせ、このスイッチング素子の損失を少なくする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-14492公報
【特許文献2】特開昭59-209296号公報
【特許文献3】特開平4-337281号公報
【特許文献4】特開平9-245953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に示されるインバータを200V系統の大電力誘導加熱調理器を、例えば4kW鍋加熱能力のある調理器に使用する場合は、1300Vを超える耐電圧で60Aを超える大電流定格のスイッチング素子を必要とする。このような仕様の汎用スイッチング素子の入手は難しく、汎用スイッチング素子を並列に接続するなどの工夫が必要になり複雑・高価な回路となるという問題がある。
【0009】
上記特許文献2に開示されているインバータは、一般の家庭で使用されている調理器のビルトイン大電力誘導加熱装置向けとして一般的に使用されている。このインバータは、前述したように、逆導通スイッチング素子に並列に接続した遅延コンデンサ43によりスイッチング素子のターンオン損失を少なくしているが、スイッチング素子が少なくとも二個必要である。従って、上記特許文献2に開示されているインバータは、スイッチング素子を複数必要とし、各スイッチング素子においてそれぞれ損失が発生するため、回路全体としての損失が大きくならざるを得ないという問題がある。
【0010】
また、上記特許文献3に開示されているインバータは、共振コンデンサを二個使用して0ボルトスイッチングを行うことによりによりスイッチング損失を低減している。このような構成とした場合、スイッチング素子には電圧共振の電圧が印可されるので、高電圧、高電流の環境下において使用可能である高性能なスイッチング素子が要求されるという問題がある。加えて、上記特許文献3に開示されているインバータにおいては、直流電流源が必要である。直流電流源は、商用電源を整流するだけでは得られないので、高価な電流電源回路が必要になるという問題もある。
【0011】
また、上記特許文献4に開示されているように、電圧共振回路と電流共振回路を組み合わせて0ボルトターンオンを行うものにおいては、電圧共振回路を構成しているスイッチング素子に作用するストレスと、電流共振回路を構成しているスイッチング素子に作用するストレスが異なる。電圧共振回路に使用するスイッチング素子には、上記特許文献1に開示されているスイッチング素子と同様に高電圧が加わることから、上記特許文献4のような構成とした場合には異なるスイッチング素子を必要とする欠点がある。加えて、上記特許文献4に係る従来技術においては、スイッチング素子のターンオン損失を無くすことができるが、順方向導通損失と逆方向導通損失を加えた導通損失を少なくすることができないという問題がある。
【0012】
ここで、本発明者らは、上記特許文献1~4に係る従来技術のうち、上記特許文献2に開示されている従来技術のように、逆導通スイッチング素子を複数(例えば二個)使用した電流共振型インバータを採用した回路に着目し、当該回路における問題点について、さらに鋭意検討した。具体的には、かかる構成の電流共振型インバータを採用した回路の一例として、図19に示した回路を想定して、さらなる検討を行った。
【0013】
図19に示した回路についてさらに詳細に説明すると、図19に示す回路において、直流電圧電源9は、商用交流電源1と整流回路2とを備えた構成とされており、直流電圧に変換することができる。直流電圧電源9で形成された直流電圧は、高周波電流が前記交流電源1への流出を阻止するローパスフィルタ3を介してインバータ回路10の電圧電源プラスV+、マイナスV-となる。インバータ回路10は、第一の逆導通スイッチング素子41、及び第二の逆導通スイッチング素子42が前述の直流電圧のプラスV+とマイナスV-間に直列接続されている。また、スイッチング素子42と並列に、遅延コンデンサ43が接続されている。第一のスイッチング素子41、及び第二のスイッチング素子42の間のVceと、電圧電源のV-との間には、共振回路5が接続されている。共振回路5は、共振インダクタンスの役割を担う加熱コイル52と、共振コンデンサ53とが直列に接続されている。なお、図19に示す回路の例では第一の逆導通スイッチング素子41、及び第二の逆導通スイッチング素子42としてダイオード内蔵のIGBTを使用している。
【0014】
続いて、図19に示した回路の動作について説明する。インバータ回路10は、加熱コイル52のインダクタンスLrと、共振コンデンサ53のキャパシタンスCrによる直列共振(電流共振)を利用して第一の逆導通スイッチング素子41、及び第二の逆導通スイッチング素子42を交互に導通させ、加熱コイル52に高周波電流を流すことができる。このようにして加熱コイル52に高周波電流を流すことにより形成される磁界により、導電性被加熱物である導電性鍋51に高周波誘導電流が誘導される。その結果、導電性鍋51が加熱される。ここで、第一の逆導通スイッチング素子41、及び第二の逆導通スイッチング素子42の遮断(ターンオフ)時の損失を少なくするために、図19に示した回路においては、第二の逆導通スイッチング素子42と並列に遅延コンデンサ43を接続している。
【0015】
図20は、図19に示したインバータ回路10における各部の動作波形を示すものである。なお、図20においては、第一の逆導通スイッチング素子41、及び第二の逆導通スイッチング素子42が交互に動作するため波形が同じとなるので、代表として第二の逆導通スイッチング素子42の波形を示している。第二の逆導通スイッチング素子42の損失の波形を図20(c)においてIGBT2損失として示す。このIGBT2損失には、図20(d)に示すIGBT2電流において発生する逆方向電流による損失と、順方向電流による導通損失に加えて、電流阻止時のターンオフ損失がある。なお、第二の逆導通スイッチング素子42は、導通開始(ターンオン)時に損失を生じさせる場合がある。
【0016】
しかしながら、図20に示した例においては、第二の逆導通スイッチング素子42の電圧Vceが0ボルトのときに第二の逆導通スイッチング素子42をターンオンさせることにより、ターンオン損失を生じさせない制御を行っている。また、図19に示したインバータ回路10は、図20(a)に示すように、IGBT2ゲート電圧が0ボルトに立下るように第二の逆導通スイッチング素子42をターンオフさせるときに、遅延コンデンサ43を充電させながら第二の逆導通スイッチング素子42の電圧Vceが立ち上がるので、電圧Vceの立ち上がり速度が緩やかになる。この結果、前述した電流阻止時のターンオフ損失が低減する。このときのIGBT電圧の波形を、図20(b)に示す。この例における第二の逆導通スイッチング素子42の損失は62Wであり、導電性鍋51の加熱能力が4kWである。図19に示した回路においては第一の逆導通スイッチング素子41、及び第二の逆導通スイッチング素子42として二個のIGBTを使用しているので、124Wの損失が発生する。
【0017】
そこで本発明は、逆導通スイッチング素子を複数使用した電流共振型インバータを用いた誘導加熱装置において、逆導通スイッチング素子に作用する電圧ストレスが直流電圧電源電圧を超えることなく、逆導通スイッチング素子において生じる導通損失とスイッチング損失を低減させることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した目的を達成すべく提供される本発明の第一の態様に係る誘導加熱装置は、直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を有するものであり、前記共振回路は、導電性被加熱物を電磁誘導加熱するための加熱コイルに対して直列接続された直列共振コンデンサと、前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、前記スイッチング回路は、前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の接続点と、前記直流電圧電源のプラス、あるいはマイナスとの間に前記共振回路を接続したものであり、前記制御回路により前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の双方が不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子を交互に導通、不導通とすることにより導電性被加熱物の加熱を行うこと、を特徴とするものである。
【0019】
上述した目的を達成すべく提供される本発明の第二の態様に係る誘導加熱装置は、直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を有するものであり、前記共振回路は、加熱コイルに対して直列接続された第一の直列共振コンデンサ及び第二の直列共振コンデンサと、前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、前記スイッチング回路は、前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の接続点と、前記直流電圧電源のプラス側との間に、前記共振回路を構成している前記第一の直列共振コンデンサ及び前記第二の直列共振コンデンサのうちの一方の直列共振コンデンサを接続すると共に、他方の直列共振コンデンサをマイナス側に接続したものであり、前記制御回路により前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子が同時に不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子を交互に導通、不導通とすることにより、前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に配された導電性被加熱物を電磁誘導加熱できること、を特徴とするものである。
【0020】
上述した目的を達成すべく提供される本発明の第三の態様に係る誘導加熱装置は、第一のコンデンサ、及び第二のコンデンサがプラス、マイナス間に直列接続された直流電圧電源と、前記直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を備えたものであり、前記共振回路は、加熱コイルに対して直列接続された直列共振コンデンサと、前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、前記スイッチング回路は、前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の接続点と、前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に直列接続されたコンデンサの接続点との間に前記共振回路を接続し、前記制御回路により前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子が同時に不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子を交互に導通、不導通とすることにより前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に配された導電性被加熱物を電磁誘導加熱できること、を特徴とするものである。
【0021】
上述した目的を達成すべく提供される本発明の第四の態様に係る誘導加熱装置は、直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を有するものであり、前記共振回路は、加熱コイルに対して直列接続された直列共振コンデンサと、前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、前記スイッチング回路は、前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に、第一と第二の逆導通スイッチング素子を直列に、第三と第四の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、それぞれの接続点の間に前記共振回路を接続したものであり、前記制御回路により前記第一と第四の逆導通スイッチング素子を一組、第二と第三の逆導通スイッチング素子を一組とし、この二組の逆導通スイッチング素子が同時に不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子の組を交互に導通、不導通とすることにより、前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に配された導電性被加熱物を電磁誘導加熱できること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、逆導通スイッチング素子を複数使用した電流共振型インバータを用いた誘導加熱装置において、逆導通スイッチング素子に作用する電圧ストレスが直流電圧電源電圧を超えることなく、逆導通スイッチング素子において生じる導通損失とスイッチング損失を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一実施例にかかる誘導加熱装置の構成の一例を示す図である。
図2】(a)~(g)はそれぞれ、図1に示したインバータ回路の各部において出力される波形の一例を示す図である。
図3】(a)~(d)はそれぞれ、図1に示した誘導加熱装置における加熱コイル及び導電性鍋の等価回路を説明する図である。
図4図3に示した鍋と加熱コイルの離隔距離dと、磁気結合係数kとの関係についての一例を示すグラフである。
図5図3に示した加熱コイルの等価インダクタンスLrと磁気結合係数kの関係についての一例を示すグラフである。
図6図1の回路において発生するIGBT損失を、図19に示した回路において発生するIGBT損失と比較して示す図である。
図7】本発明による共振回路について、鍋有無での共振周波数の違いについての一例を示すグラフである。
図8】本発明での鍋加熱能力を小さくしたときの鍋有無による各部の波形についての一例を示す図である。
図9】本発明での磁気結合係数kとIGBT電圧(Vce)の立ち上がり・立下りとの関係の一例を示す図である。
図10】本発明の第二実施例の回路構成の一例を示す図である。
図11】本発明の第三実施例の回路構成の一例を示す図である。
図12】本発明の第四実施例の回路構成の一例を示す図である。
図13】第四の実施例の誘導加熱装置の動作を説明する図である。
図14】本発明の第五実施例の回路構成の一例を示す図である。
図15】本発明の第六実施例の回路構成の一例を示す図である。
図16】鍋加熱能力と共振コンデンサとの関係を示すグラフである。
図17】本発明の第一実施例での電源電流の高速フーリエ変換(FFT)結果を示す図である。
図18】本発明の第四実施例での電源電流の高速フーリエ変換(FFT)結果を示す図である。
図19】逆導通スイッチング素子を複数使用した電流共振型インバータを採用した回路の一例を示す図である。
図20図19に示した回路の動作に際して各部において出力される波形の例を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の目的を達成するため、以下において説明する本実施形態の誘導加熱装置は、従来技術に係るインバータ回路が備えている遅延コンデンサを廃止して、加熱コイルと並列に並列共振コンデンサを接続すると共に、加熱コイルと直列に直列共振コンデンサを接続したものとしている。
【0025】
上述した構成によれば、逆導通スイッチング素子の電圧が電源電圧を超えない特徴を確保した上に、従来技術に係るインバータ回路において用いられているものよりも電流容量の小さいスイッチング素子にて、十分な加熱能力を発揮できる誘導加熱装置を得ることができる。このことにより、誘導加熱装置のエネルギー効率が向上することに加えて、例えば冷却のための構成の簡素化や、低騒音化等の優れた効果を発揮可能にした安価な誘導加熱装置とすることができる。また、上述した構成によれば、従来技術に係る回路において用いられているものと同等の電流容量のスイッチング素子を使用した場合、従来技術に係る回路におけるより大きい電流を加熱コイルに流すことができる。これにより、従来回路においてはスイッチング素子の定格電流を超えないように加熱能力を小さくしたり、動作させないようにしたりして対応していた非磁性体製の鍋等についても、磁性体によって形成された鍋等と同等の出力にて加熱動作が可能になる。
【0026】
本発明の実施形態に係る誘導加熱装置は、例えば以下の(1)~(9)のような特徴を有し、これにより以下に示すような従来技術では発揮し得ない特有の効果を得ることができる。
【0027】
(1)本発明の第一の態様に係る誘導加熱装置は、直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を有するものであり、前記共振回路は、導電性被加熱物を電磁誘導加熱するための加熱コイルに対して直列接続された直列共振コンデンサと、前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、前記スイッチング回路は、前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の接続点と、前記直流電圧電源のプラス、あるいはマイナスとの間に前記共振回路を接続したものであり、前記制御回路により前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の双方が不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子を交互に導通、不導通とすることにより導電性被加熱物の加熱を行うこと、を特徴とするものである。
【0028】
上記(1)に係る誘導加熱装置は、直流電圧を高周波に変換するインバータ回路が、導電性被加熱物(例えば、導電性を有する調理鍋等)の下方等に配置される加熱コイルに対して直列に直列共振コンデンサを接続すると共に、加熱コイルと並列に並列共振コンデンサを接続した構成の共振回路を備えている。また、このインバータ回路は、直流電圧電源のプラスとマイナスとの間に第一及び第二の逆導通スイッチング素子を直列に接続することによりスイッチング回路(ハーフブリッジ回路)を構成すると共に、第一及び第二の逆導通スイッチング素子の接続点と、直流電圧電源のプラス、あるいはマイナスとの間に共振回路を接続した構成とされている。上記(1)に係る誘導加熱装置は、制御回路からの信号により、所定の不導通時間(dead time)を確保して、第一及び第二の逆導通スイッチング素子を交互に導通、不導通させる制御により、第一及び第二の逆導通スイッチング素子のターンオン損失を無くすことに加えて、導通損失とターンオフ損失を減少させるものとされている。
【0029】
上記(1)に係る誘導加熱装置において、導通損失の低減は、直列共振コンデンサのキャパシタンスCr1と並列共振コンデンサのキャパシタンスCr2を加えたキャパシタンスと、加熱コイルの等価インダクタンス分Lrとの共振作用により、スイッチング素子に流れる電流より多い電流を加熱コイルに供給し、スイッチング素子に流れる電流を少なくすることにより実現される。
【0030】
上記(1)に係る誘導加熱装置において、ターンオフ損失の低減は、直列共振コンデンサと並列共振コンデンサが、スイッチング素子と並列に接続される構成となり、図19に示した回路例における遅延コンデンサ43と等価になることに加えて、前述したように、スイッチング素子に流れる電流が少なくなり、ターンオフさせる電流が少なくなることにより実現される。
【0031】
誘導加熱装置を上記(1)のような構成とすることにより、インバータ回路における損失を減少させた高周波電流が加熱コイルに流れて高周波磁界が生成される。これにより、導電性を有する鍋等の導電性被加熱物に誘導電流が流れ、当該導電性被加熱物が加熱される。
【0032】
(2)本発明の第二の態様に係る誘導加熱装置は、直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を有するものであり、前記共振回路は、加熱コイルに対して直列接続された第一の直列共振コンデンサ及び第二の直列共振コンデンサと、前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、前記スイッチング回路は、前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の接続点と、前記直流電圧電源のプラス側との間に、前記共振回路を構成している前記第一の直列共振コンデンサ及び前記第二の直列共振コンデンサのうちの一方の直列共振コンデンサを接続すると共に、他方の直列共振コンデンサをマイナス側に接続したものであり、前記制御回路により前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子が同時に不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子を交互に導通、不導通とすることにより、前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に配された導電性被加熱物を電磁誘導加熱できることを特徴とするものである。
【0033】
上記(2)に係る誘導加熱装置は、上記(1)に係る誘導加熱装置の構成と対比すると、直列共振コンデンサを分割して、一方を直流電圧電源のプラスV+、他方をマイナスV-に接続した構成とされている。上記(2)に係る誘導加熱装置は、このような構成とされているため、直流電圧電源からの電流に基本波成分が含まれず、加熱コイルの電流周波数の2倍で、上記(1)に係る誘導加熱装置における尖頭値に対して半分の電流になり、電源妨害波が低減される。このような効果は、上記(1)に係る誘導加熱装置(図1参照)による電源電流I(Power)の高速フーリエ(FFT)解析結果例が図17に示すようなものであるのに対し、上記(2)に係る誘導加熱装置による電源電流I(Power)の高速フーリエ(FFT)解析結果例が図18に示すようなものであることからも明らかである。従って、上記(2)に係る誘導加熱装置によれば、上記(1)に係る誘導加熱装置において得られる効果に加え、ローパスフィルタの小型化、低廉化を図ることも可能となる。
【0034】
(3)本発明の第三の態様に係る誘導加熱装置は、第一のコンデンサ、及び第二のコンデンサがプラス、マイナス間に直列接続された直流電圧電源と、前記直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を備えたものであり、前記共振回路は、加熱コイルに対して直列接続された直列共振コンデンサと、前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、前記スイッチング回路は、前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子の接続点と、前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に直列接続されたコンデンサの接続点との間に前記共振回路を接続し、前記制御回路により前記第一の逆導通スイッチング素子及び第二の逆導通スイッチング素子が同時に不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子を交互に導通、不導通とすることにより前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に配された導電性被加熱物を電磁誘導加熱できることを特徴とするものである。
【0035】
上記(3)に係る誘導加熱装置は、上記(1)に係る誘導加熱装置の構成と対比すると、直流電圧電源のプラス、マイナス間に接続されてローパスフィルタを構成しているコンデンサを分割して、直流電圧電源のプラス、マイナス間に直列接続し、この接続点と、スイッチング回路を構成している直列に接続された第一及び第二の逆導通スイッチング素子の接続点の間に共振回路を接続した構成としている。上記(3)に係る誘導加熱装置は、このような構成とすることにより、上記(2)に係る誘導加熱装置と同じ効果を得ることができる。
【0036】
(4)本発明の第四の態様に係る誘導加熱装置は、直流電圧電源に接続されるインバータ回路と、前記インバータ回路を制御する制御回路と、を備え、前記インバータ回路は、スイッチング回路、及び共振回路を有するものであり、前記共振回路は、加熱コイルに対して直列接続された直列共振コンデンサと、前記加熱コイルに対して並列に接続された並列共振コンデンサと、を備えており、前記スイッチング回路は、前記直流電圧電源のプラス、マイナス間に、第一と第二の逆導通スイッチング素子を直列に、第三と第四の逆導通スイッチング素子を直列に接続すると共に、それぞれの接続点の間に前記共振回路を接続したものであり、前記制御回路により前記第一と第四の逆導通スイッチング素子を一組、第二と第三の逆導通スイッチング素子を一組とし、この二組の逆導通スイッチング素子が同時に不導通となる時間帯を確保しつつ、前記逆導通スイッチング素子の組を交互に導通、不導通とすることにより、前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に配された導電性被加熱物を電磁誘導加熱できること、を特徴とするものである。
【0037】
上記(4)に係る誘導加熱装置において、スイッチング回路は、直列接続された複数の逆導通スイッチング素子を一組として二組を直流電圧電源のプラス、マイナス間に接続したフルブリッジ回路と称される構成とし、各組の接続点の間に共振回路を接続したものとされている。上記(4)に係る誘導加熱装置は、制御回路により二組設けられた逆導通スイッチング素子の組が同時に不導通となる時間帯を確保して、逆導通スイッチング素子の組を交互に導通、不導通とするものである。上記(4)に係る誘導加熱装置は、このような構成とすることにより、上記(1)に係る誘導加熱装置と同様に、スイッチング素子に流れる電流を少なくできる効果が得られる。これに加え、上記(4)に係る誘導加熱装置は、電源電流に基本波成分が含まれないことから、ローパスフィルタの簡素化を図れる。また、上記(4)に係る誘導加熱装置は、スイッチング回路をフルブリッジ回路としたものである。上記(1)~(3)に係る誘導加熱装置において採用されているハーフブリッジ回路の共振回路の電源電圧が直流電圧電源電圧の半分の電圧であるのに対し、上記(4)に係る誘導加熱装置においては直流電圧電源電圧がそのまま共振回路駆動の電圧になる。従って、上記(4)に係る誘導加熱装置によれば、大電力の加熱能力が得られる。
【0038】
(5)上記(1)~(4)に係る本発明の誘導加熱装置は、前記スイッチング回路を構成する逆導通スイッチング素子のうち、少なくとも一個の逆導通スイッチング素子間の電圧を検知する電圧検知部を設けたものであると良い。
【0039】
上記(5)のように、逆導通スイッチング素子の両端電圧を検知する手段を設ければ、例えば逆導通スイッチング素子の両端電圧が略0ボルトになったときにスイッチング素子をターンオンさせる制御を行うことが可能となる。これにより、鍋等の導電性被加熱物の有無、あるいは導電性被加熱物の材質、導電性被加熱物の大小にかかわらず、逆導通スイッチング素子におけるターンオン損失を抑制できる。
【0040】
(6)上記(5)に係る本発明の誘導加熱装置は、本発明の誘導加熱装置は、前記電圧検知部により前記逆導通スイッチング素子の両端電圧が0ボルトを検知できなかった場合、動作周波数が、前記導電性被加熱物を前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に配した条件下における前記加熱コイルのインダクタンスLr及び前記加熱コイルに接続された前記並列共振コンデンサのキャパシタンスCr2により決定される第一の共振周波数、及び前記キャパシタンスCr2及び前記直列共振コンデンサのキャパシタンスCr1を加えたキャパシタンスによる第二の共振周波数の中間の周波数である中間周波数より高いことを条件として、動作周波数を低く制御し、前記中間周波数より低いことを条件として、動作周波数を高く制御することを特徴とするものであると良い。
【0041】
(7)また、上記(5)に係る本発明の誘導加熱装置は、本発明の誘導加熱装置は、前記電圧検知部により前記逆導通スイッチング素子の両端電圧が0ボルトを検知できなかった場合、動作を停止させて使用者に警告することを特徴とするものであると良い。
【0042】
本発明の誘導加熱装置は、上記(6)や(7)のような構成とすることにより、電圧検知部で0ボルトを検知できなかった場合に、インバータ動作を調整、又は停止させて使用者に警告して逆導通スイッチング素子を保護することができる。
【0043】
(8)上記(1)~(7)に係る本発明の誘導加熱装置は、前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域内に前記導電性被加熱物が存在していない条件下における加熱コイルのインダクタンスLr、及び前記並列共振コンデンサのキャパシタンスCr2により決定される共振周波数以下の周波数域において制御することを特徴とするものであると良い。
【0044】
(9)また、上記(8)に係る本発明の誘導加熱装置は、動作中に前記導電性被加熱物を前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域から取り去り可能な構造であると良い。
【0045】
上記(8)に係る構成は、導電性被加熱物のない条件下での加熱コイルのインダクタンスと、加熱コイルに対して直列に接続された直列共振コンデンサのキャパシタンスによる直列共振周波数を超えた周波数でインバータが動作している状態において、導電性被加熱物を取り除いた場合に、スイッチング素子に共振コンデンサからの突入電流が流れ、スイッチング素子を破壊する可能性があることを考慮し、このような現象を避けるためのものである。このような構成とすることにより、本発明の誘導加熱装置は、上記(9)のように、動作中に導電性被加熱物を前記加熱コイルにより生成される磁束が及ぶ領域から取り去り可能な構造としても、前述した突入電流に起因するスイッチング素子の破壊が起こらないものとすることができる。なお、本発明の誘導加熱装置は、導電性被加熱物である鍋等を適宜除去可能な誘導加熱調理器に限定されるものではなく、例えば炊飯器など特定の調理に特化した調理装置のように、調理中に導電性被加熱物を除去できない構造のもの等においても好適に利用できる。
【実施例0046】
以下、上述した本発明の誘導加熱装置の実施例について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施例は本発明の一例を示したものに過ぎず、本実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0047】
≪第一実施例≫
以下、第一実施例に係る誘導加熱装置X1について、図1図9を参照しつつ詳細に説明する。
【0048】
図1の(ア)は、誘導加熱装置X1の全体構成を示している。誘導加熱装置X1において、商用交流電源1は、整流回路2により直流電圧になる。この直流電圧は、ローパスフィルタ3を介してインバータ回路10の直流電圧電源9のV+、V-になる。インバータ回路10は、制御回路6によりオン、オフ制御される第一の逆導通スイッチング素子41(IGBT1)と、第二の逆導通スイッチング素子42(IGBT2)とが、電源9のプラスV+、マイナスV-の間に直列に接続されたスイッチング回路4を備えている。また、第一の逆導通スイッチング素子41、及び第二の逆導通スイッチング素子42が接続された接続点Vceと、電圧電源9のマイナスV-と間には、共振回路5が接続されている。共振回路5は、導電性鍋51(導電性被加熱物)の下方に配置される加熱コイル52と、加熱コイル52に対して直列に接続された直列共振コンデンサ54と、加熱コイル52に対して並列に接続された並列共振コンデンサ55とを備えた構成とされている。加熱コイル51のインダクタンスLrは、導電性鍋51の有無、材質、大きさ、導電性鍋51と加熱コイル52との距離等の使用条件によって変動する。なお、スイッチング回路4は、等価高周波電源8に置き換えることができるので、高周波に着目した等価回路は図1(イ)に示す構成となる。図1(イ)の等価回路において、同図(ア)と同じ部分には同じ番号、記号を付している。図1(イ)の等価回路からわかるように、共振回路5のインピーダンスが最小となる共振周波数frは、下記の数式1で求まる。また、共振回路5のインピーダンスが最大となる共振周波数farは、数式2で求まる。これらの式は、誘導加熱装置X1において導電性被加熱物の加熱能力が最大となる周波数frが、加熱能力が最小となる周波数farより常に低いことを示している。
【0049】
【数1】

【数2】
【0050】
図2は、鍋加熱能力が4kWである場合を例として、図1に示したインバータ回路10の各部における状態変化を経時的に示した説明図である。
【0051】
図2(a)に示したゲート電圧は,第一の逆導通スイッチング素子41(IGBT1)、及び第二の逆導通スイッチング素子42(IGBT2)をオン、オフ制御するために制御回路6から出力される信号である。図2(a)に示すように、制御回路6から出力される信号には、第一の逆導通スイッチング素子41、及び第二の逆導通スイッチング素子42の双方とも不導通となる時間(dead time)が設定されている。図2(b)に示したIGBT1損失、及び図2(c)に示したIGBT2損失は、それぞれ第一の逆導通スイッチング素子41及び第二の逆導通スイッチング素子42において発生する損失の推移を示す波形であり、第一の逆導通スイッチング素子41及び第二の逆導通スイッチング素子42において発生する平均損失が各々34W(合計68W)であることを示している。図2(d)に示すように、第二の逆導通スイッチング素子42(IGBT2)のゲート電圧が立ち上がり、IGBT2がターンオンするタイミングでは、IGBT2電圧(Vce)が0ボルトになっており、ターンオン損失が生じない。また、図2(d)を参照すれば、第二の逆導通スイッチング素子42(IGBT2)のゲート電圧が立ち下がり、IGBT2がターンオフするタイミングでは、IGBT2の電圧Vceの立ち上がり速度が緩やかになっており、ターンオフ損失(スパイク状の波形)が低減されることが分かる。なお、逆方向スイッチング素子42を構成しているダイオードの順方向に流れるダイオード損失も含めて導通損失として示している。図2においては図示していないが、第一の逆導通スイッチング素子41(IGBT1)についても、第二の逆導通スイッチング素子42(IGBT2)と同じ動作が行われ、同様の現象が生じる。
【0052】
図2(g)に示した加熱コイル電流は、導電性鍋51を加熱するための誘導電流に対応する電流である。そのため、加熱コイル電流の大小が、誘導加熱装置X1の加熱能力(本明細書においては、「鍋加熱能力」とも称する)の大小になる。加熱コイル電流I(coil)は、同図(e)に示すIGBT電流I(Igbt)と、同図(f)に示す並列共振コンデンサ電流I(Cr2)とを加えたものとなり、数式3で示される。なお、I(Igbt)は、第一の逆導通スイッチング素子41及び第二の逆導通スイッチング素子42に流れる各々の電流の瞬時値を加えたものである。図1に各々の電流、I(coil)、I(Igbt)及びI(Cr2)の流れる方向を矢印にて示す。
【0053】
【数3】
【0054】
数式3が示すように、並列共振コンデンサ55がない時(Cr2=0)では、前記I(Cr2)が0であるので、IGBTに流れる電流I(Igbt)と加熱コイルに流れる電流I(coil)とが同じになる。これが従来技術である。並列共振コンデンサ55の容量値(Cr2)を増加させれば、前記I(Cr2)も大きくなる。従って、I(coil)を一定とした場合、前記I(Igbt)の電流を減少させることができるので、IGBTの導通損失を低減させることができる。後述(図16)するように、前記Cr2の増加に伴い、鍋の加熱能力が低下するので、Cr2の大きさには限度がある。
【0055】
図3は、図1に示した加熱コイル52と導電性鍋51の等価回路を説明する図である。誘導加熱装置X1の筐体において所定位置に加熱コイル52を組み込むと共に、誘導加熱装置X1の筐体上などにおいて加熱コイル52に対応する所定位置に導電性鍋51を配置すると、図3(a)に示すように、加熱コイル52と導電性鍋51との間には一定の離隔距離dが確保される。加熱コイル52側(Vce、Vcap)から観測した直列等価回路は、図3(b)に示すもので測定可能である。ここで、Rsは導電性鍋51の等価抵抗であり、Lsは共振回路5の等価インダクタンスLrに等しい。図3(c)は加熱コイル52と導電性鍋51の関係をトランスモデルで表したものである。本発明の動作検証には、このトランスモデルを使用して行っている。なお、図3(d)は、図3(c)と等価のモデルであり、トランスモデルをトランスを使用しない回路モデルに変換したものである。
【0056】
図3(c)に示したトランスモデルは、導電性鍋51のない時の加熱コイル52のインダクタンスLc、導電性鍋51の等価インダクタンスLp、導電性鍋51の等価抵抗Rp、加熱コイル52と導電性鍋51の磁気結合の強さを示す結合係数kを導入することにより、共振回路5に及ぼす導電性鍋51の影響を把握できる。磁気結合係数kは、加熱コイル52と導電性鍋51との離隔距離d、導電性鍋51の形状、材質により決定されるものであり、本発明の対象周波数範囲では略一定とみなすことができる。なお、図3(c)のトランスモデルの巻き線比を1:1とみなすことができるので、導電性鍋51がないとき(加熱コイル52により生成される磁束が及ぶ領域から取り去られたとき)の加熱コイル52のインダクタンスLcを測定することにより、Lc=LpとしてLpが得られる。図3(c)、或いは図3(d)の回路の中に示されているk、Rp、Rpp、L1、L2は、次式により求められる。これらの式の導出過程は、省略する。
【0057】
【数4】
【数5】

【数6】
【数7】
【数8】
【0058】
図4は、導電性鍋51及び加熱コイル52間の離隔距離dと、磁気結合係数kとの関係を示すグラフである。図4から明らかなように、導電性鍋51が加熱コイル52から離れるに従い、磁気結合係数kは0に近づく特性を有する。
【0059】
図5は、磁気結合係数kと、加熱コイル52の共振インダクタンスLrとの関係を示すものである。図5から明らかなように、磁気結合係数kが小さくなるに従い、共振インダクタンスLrが大きくなる特性を有する。図4及び図5に示す特性を加味すれば、導電性鍋51と加熱コイル52との離隔距離dが大きくなると、結合係数kが小さくなり、共振インダクタンスLrが大きくなる特性を示すことが分かる。導電性鍋51及び加熱コイル52の離隔距離dと共振インダクタンスLrとの関係、及び上述した(数式1)及び(数式2)の関係を総合すれば、導電性鍋51のないとき(すなわち離隔距離dが過大であるとき)の共振周波数は、導電性鍋51のあるとき(すなわち離隔距離dが小さいとき)よりも低くなる。具体例について、図7により後述する。
【0060】
図6には、鍋加熱能力を4kWとした場合において、図1に示した回路を採用した場合に逆導通スイッチング素子において発生する損失(同図(ア)(a)参照)と、図19に示した回路において発生する損失(同図(イ)(a)参照)を、第二の逆導通スイッチング素子42(IGBT2)の損失を比較している。図示していないが、第一の逆導通スイッチング素子41(IGBT1)も同じである。前述の図2で説明したが、本図中に示すIGBT2のターンオフ時のスパイク状損失波形が、ターンオフ損失であり、その他の部分がダイオード損失を含む導通損失である。図中に示したように、図1に示した回路を採用した場合に第二の逆導通スイッチング素子42において発生する損失が34Wであるのに対して、図19に示した回路を採用した場合には、損失が74Wとなる。図示していないが、上述したように、第一の逆導通スイッチング素子41は、第二の逆導通スイッチング素子42と同じ動作を行うため、第一の逆導通スイッチング素子41(IGBT1)において発生する損失も同じである。従って、第一の逆導通スイッチング素子41、及び第二の逆導通スイッチング素子42において発生する損失は、図1に示した回路を採用した場合に64Wとなるのに対して、図19に示した回路を採用した場合には148Wにもなる。よって、図1に示した回路を採用することにより、第一の逆導通スイッチング素子41、及び第二の逆導通スイッチング素子42において発生する損失を大幅に改善できる。また、図6には、図2に示したのと同様に、図1に示した回路を採用した場合におけるIGBT電流波形(同図(ア)(b)参照)、及び加熱コイル52に流れる電流の波形(同図(ア)(c)参照)を示すと共に、図19に示した回路において発生するを採用した場合におけるIGBT電流波形(同図(イ)(b)参照)、及び加熱コイル52に流れる電流の波形(同図(イ)(c)参照)を比較例として示している。これらの波形を比較することにより明らかなように、図19に示した回路を採用した場合には加熱コイル電流52に流れる電流の大きさがIGBT電流と略同一であるのに対して、図1に示した回路を採用した場合にはIGBT電流の大きさが加熱コイル電流52に流れる電流よりも小さくなる。
【0061】
なお、前述したように、並列共振コンデンサ55のキャパシタンスCr2を大きくすることによりIGBTに流れる電流の負担を少なくできる。従って、導電性鍋51と加熱コイル52の離隔距離dを最適化するなどして並列共振コンデンサ55のキャパシタンスCr2を大きくすることにより、本実施形態において例示したものよりもIGBTに流れる電流の負担を少なくできる。具体的には、例えば直列共振コンデンサのキャパシタンスCr1と並列共振コンデンサのキャパシタンスCr2を同じ値にした場合には、図19に示した回路を採用した場合に比べて1/2のIGBT電流にて、同じ鍋加熱能力を得ることができることを、回路シミュレーションにより確認している。
【0062】
≪第二実施例≫
ここで、上記第一実施例の誘導加熱装置X1は、例えば炊飯器や電気調理鍋等のように、導電性被加熱物である鍋等の加熱運転中に、加熱コイル52により生成される磁束が及ぶ領域から取り去ることのないものにおいて好適に利用できる。その一方で、一般の家庭で使用されているIHコンロやIHクッキングヒータなどの誘導加熱調理器のように、調理のために導電性被加熱物である鍋等を加熱している途中で、鍋等を取り去ることができる仕様としたものにおいては、導電性被加熱物を加熱コイル52により生成される磁束が及ぶ領域から取り去ることにより懸念される影響にまで配慮したものであることが好ましい。かかる知見に基づいて、上記第一実施例の誘導加熱装置X1において導電性被加熱物を加熱コイル52により生成される磁束が及ぶ領域から取り去ることによる影響について検討した。
【0063】
具体的には、本発明者らが回路シミュレーション技術を活用して鋭意検討したところ、図7のグラフに示すように、導電性鍋51が加熱コイル52により生成される磁束が及ぶ領域内に存在しているか否かによって、共振回路5の共振周波数が移動することが明らかとなった。これは、前述の数式1及び2によっても示される。図7において、(a)として示す鍋無しの場合(導電性鍋51が加熱コイル52により生成される磁束が及ぶ領域内に存在していない場合)における共振周波数fr(a)及びfar(a)は、同図において(b)として示す鍋ありの場合(導電性鍋51が加熱コイル52により生成される磁束が及ぶ領域内に存在している場合)の共振周波数、far(b),far(b)に対して低くなっている。従って、誘導加熱装置X1を図7にて示す直列共振周波数far(a)より高い周波数fwで導電性鍋51を加熱している状況において導電性鍋51を取り去った場合も動作周波数が変わらないで前記周波数fwを保持しているので、導電性鍋51のない条件での共振周波数far(a)より高い周波数での動作となることが分かる。このように直列共振周波数farが低くなり、動作周波数が直列共振周波数より高くなると、共振コンデンサに電荷が残り、IGBT電圧が0ボルトにならない。この状態でIGBTがターンオンしたときには、IGBTに共振コンデンサから大きな放電電流が流れてしまう。
【0064】
このような動作を行う場合におけるIGBTゲート電圧、IGBT電圧、加熱コイル52に流れる電流、及びIGBTに流れる電流の挙動について、図8を参照して説明する。図8(b)は、導電性鍋51ありの条件での動作周波数fwが35kHzとされた状態、すなわち鍋無しでの並列共振周波数far(a)の32.8kHzよりも高い状態とした場合における挙動を示したものである。鍋ありの条件下においては、図8(b)(1)に示すように両IGBTが不導通の時間帯(dead time)の間に、図8(b)(2)に示すようにIGBT電圧が0ボルトになる。また、IGBT電流の波形は、図8(b)(4)に示すような正常の波形となる。
【0065】
一方、図8(a)は、動作周波数fwが35kHzのままの状態において、導電性鍋51が取り去られた場合における波形を示している。図8(a)(1)及び同(2)に示すように導電性鍋51が取り去られた場合には、両IGBTが不導通の時間帯(dead time)間にIGBT電圧が0ボルトにならない。このため、図8(a)(4)に係るIGBT電流の波形が示すように、共振コンデンサに電荷が残留していることから数百アンペアの大きなスパイク状放電電流がIGBTに流れる。この状況を図8(a)(4)IGBT電流I(Igbt)の波形に示す。(3)加熱コイル電流I(Coil)と同じ電流スケールでの表示である。前記I(Coil)にはこの電流の影響がないので、300Aに達する図中のスパイク状の電流は、IGBTに流れる電流である。
【0066】
また、磁気結合係数kを0、0.5、0.6と変化させたときのIGBT電圧(Vce)の波形例を図9(2)IGBT電圧(Vce)に示す。磁気結合係数kが0.6では、IGBT電圧(Vce)が一度0ボルトになるものの上昇に転じ、0ボルトでなくなることを示している。このタイミングでIGBTがターンオンした場合、IGBTに過大の電流が流れることになる。
【0067】
上述した知見に鑑みれば、IHコンロやIHクッキングヒータなどのように、加熱運転中における導電性被加熱物の移動が想定されるものにおいては、IGBTとして大電流に耐えうる高性能なものを採用したり、IGBTに大電流が流れることによるIGBTの故障を防ぐための方策を講じたりすることが好ましい。第二実施例においては、上述した誘導加熱装置X1の基本構成を踏襲しつつ、IGBTに大電流が流れることによるIGBTの故障を防ぐための方策を講じた誘導加熱装置X2について説明する。
【0068】
図10に、誘導加熱装置X2に係る回路構成の一例を示す。なお、以下の説明において、上記第一実施例と共通の構成については同一の符号を付し、特に断りのない限り詳細の説明については省略する。
【0069】
誘導加熱装置X2においては、逆導通スイッチング素子42の両端に電圧検知部7を接続した構成とされている。本実施例で示す電圧検知部7は、スイッチング素子42の両端電圧(Vce、V-)を抵抗分割した構成とされている。誘導加熱装置X2においては、電圧検知部7によって検知される電圧が略0ボルトになったタイミングでゲート信号Vg2をハイレベルとし、スイッチング素子42をターンオンさせる制御が行われる。スイッチング素子41をターンオフした後、スイッチング素子42をターンオンさせるまでの時間が不導通時間(dead time)となる。不導通時間は、制御回路6にて計測される。
【0070】
第二実施例のような構成によれば、磁気結合係数kが変わった場合にも、スイッチング素子を確実に0ボルトでターンオンさせることができるので、ターンオン損失を無くすことができる。なお、前述したように、磁気結合係数kは、導電性鍋51と加熱コイルとの離隔距離dのほか、導電性鍋51の形状、材質によっても変わる。従って、IGBT両端電圧を実際に検知し、その検知結果に基づいてIGBTを制御することは、IGBTを保護するために有効である。
【0071】
ここで、IGBT両端電圧が0ボルトにならない現象は、前述した磁気結合係数kによるものの他、動作周波数が前述の数式1で示される共振周波数fr付近を含んで低い場合、あるいは数式2で示される共振周波数far付近を含んで高い場合にも生じる。このような動作周波数の条件によりIGBT両端電圧が0ボルトにならない現象が生じるのは、このような条件下において共振回路を構成している共振コンデンサ54、55に電荷が残ることによるものである。
【0072】
従って、電圧検知部7により0ボルトを検知できなかった場合には、IGBTを保護するために、動作周波数を低くする、あるいは高くしてIGBTが0ボルトでターンオンできる条件で動作させると良い。動作周波数を低くする場合は、所定の鍋加熱能力より大きくなるので、一定周期、例えば10秒周期での断続動作を行うことにより所定の鍋加熱能力とすることができる。一方、動作周波数より高くする場合には、前述の鍋加熱能力が所定より低くなるので、使用者に警告を発するなどの処置を行うことが好ましい。なお、動作周波数を高くする、あるいは低くすることについては、あらかじめ制御回路にそれぞれの閾値周波数を記憶させておくことで判断することができる。具体的には、図7に示す鍋無しでの共振周波数の高い方の周波数far(a)と低い方の共振周波数fr(a)との中間である所定の周波数を閾値周波数として規定しておき、動作周波数が閾値周波数より高い場合には、動作周波数を低くする制御を行い、閾値周波数より低い場合には、高い周波数にする制御を行う。なお、このようにして動作周波数を変動させる制御を行ってもIGBT両端電圧が0ボルトにならないときには、使用者に警告を発するようにすることが好ましい。
【0073】
≪第三実施例≫
続いて、第三実施例に係る誘導加熱装置X3について説明する。なお、第三実施例の誘導加熱装置X3において、上記第一実施例の誘導加熱装置X1と共通の構成については同一の符号を付し、特に断りのない限り詳細の説明については省略する。
【0074】
図11(ア)は、第三実施例の誘導加熱装置X3に係る回路構成を示すものである。第一実施例の誘導加熱装置X1における回路構成(図1)と、誘導加熱装置X3に係る回路構成との違いは、共振回路5が逆導通スイッチング素子41と42の接続箇所Vceと直流電圧電源9のプラスV+の間に接続されていることである。図11(ア)の回路構成の高周波等価回路は、図11(イ)に示すような構成となる。図11(イ)の高周波等価回路は、図1(イ)に示した第一実施例の誘導加熱装置X1における高周波等価回路と同じである。従って、第三実施例の誘導加熱装置X3は、高周波において第一実施例の誘導加熱装置X1と同様の動作を行い、同様の効果が得られる。
【0075】
≪第四実施例≫
続いて、第四実施例に係る誘導加熱装置X4について説明する。なお、第四実施例の誘導加熱装置X4において、上記第一実施例の誘導加熱装置X1と共通の構成については同一の符号を付し、特に断りのない限り詳細の説明については省略する。
【0076】
図12(ア)は、第四実施例の誘導加熱装置X4に係る回路構成の一例を示すものである。第四実施例の誘導加熱装置X4においては、共振回路5について、図1に示される第一実施例の誘導加熱装置X1が備える直列共振コンデンサ54を分割して、直列共振コンデンサ541と直列共振コンデンサ542とによって構成した点において、誘導加熱装置X1と回路構成が相違している。誘導加熱装置X4の回路において、直列共振コンデンサ541は直流電圧電源9のマイナスV-に接続され、直列共振コンデンサ542はプラスV+に接続されている。図12(ア)に示した回路の高周波等価回路は、図12(イ)に示すようなものとなる。第四実施例の誘導加熱装置X4に係る回路は、図1に示した第一実施例の回路を構成する共振コンデンサ54に代えて、直列共振コンデンサa541と、直列共振コンデンサb542とを並列に接続したものを配した回路構成とされている。従って、第四実施例の誘導加熱装置X4に係る回路は、第一実施例の回路における直列共振コンデンサ54のキャパシタンスCr1を、直列共振コンデンサ541のキャパシタンスCr11と直列共振コンデンサ542のキャパシタンスCr12を加えたキャパシタンスに置き換えたものとなる。
【0077】
しかしながら、電源から供給される電流波形I(Power)は、第一実施例の場合(図1)と、第四実施例の場合(図12)とで異なる。具体的には、図13に示すように、加熱コイル52に流れる電流波形は、第一実施例の場合のI(Coil_a)と、第四実施例の場合のI(Coil_b)とで同一である。しかしながら、電源に流れる電流波形(以下、「電源電流波形」とも称する)は、図13(a)に示した第一実施形態の場合のI(Power_a)と、図13(b)に示した第四実施形態の場合のI(Power_b)とで異なっている。第四実施形態に係る図12の回路構成の場合には、第一の逆導通スイッチング素子41がオン状態であるときと、第二の逆導通スイッチング素子42がオン状態であるときの各々において、電源から電流が供給される。このことから、第四実施形態に係る図12の回路構成とした場合における電源電流波形は、図1の回路構成とした場合における電源電流波形と比べて、半分の周期(周波数が2倍)となると共に、電流の尖頭値が半分の値となる。ここで、誘導加熱装置においては、基本波成分の周波数帯域が妨害波の規制対象とされる。そのため、第四実施例に係る回路構成は、妨害波の観点から見た場合に有効である。
【0078】
≪第五実施例≫
続いて、第五実施例に係る誘導加熱装置X5について説明する。なお、第五実施例の誘導加熱装置X5において、上記第一実施例の誘導加熱装置X1と共通の構成については同一の符号を付し、特に断りのない限り詳細の説明については省略する。
【0079】
第五実施例に係る誘導加熱装置X5を構成する回路は、図14(ア)に示すような構成とされている。第五実施例の回路構成は、ローパスフィルタ3を構成しているコンデンサをCin1、Cin2に分割して直列に接続し、その接続箇所に共振回路5を構成している直列共振コンデンサ54を接続した構成とされている点において、第一実施例の誘導加熱装置X1に係る回路構成と相違している。図14(ア)に示した回路構成の高周波等価回路は、図14(イ)に示すような構成となる。図14(イ)の高周波等価回路は、第一実施例に係る回路構成の高周波等価回路(図1(イ)参照)と同一である。従って、第四実施例の誘導加熱装置X3は、高周波において第一実施例の誘導加熱装置X1と同様の動作を行い、同様の効果が得られる。
【0080】
また、第五実施例に係る誘導加熱装置X5においては、電源電流について、上述した第四実施例に係る誘導加熱装置X4と同じく、第一の逆導通スイッチング素子41がオン状態であるときと、第二の逆導通スイッチング素子42がオン状態であるときの各々において、電源から電流が供給される。従って、第五実施例に係る誘導加熱装置X5によれば、妨害波に関して第四実施例の誘導加熱装置X4と同じ効果を有している。
【0081】
≪第六実施例≫
続いて、第六実施例に係る誘導加熱装置X6について説明する。なお、第六実施例の誘導加熱装置X6において、上記第一実施例の誘導加熱装置X1と共通の構成については同一の符号を付し、特に断りのない限り詳細の説明については省略する。
【0082】
第六実施例に係る誘導加熱装置X6を構成する回路は、図15(ア)に示すような構成とされている。第六実施例のインバータ回路10は、第一の逆導通スイッチング素子41と、第二の逆導通スイッチング素子42とを直列に接続することにより一組の逆導通スイッチング素子群(第一の逆導通スイッチング素子群)を構成している。また、第六実施例のインバータ回路10は、第三の逆導通スイッチング素子44と、第四の逆導通スイッチング素子45を直列に接続することにより、もう一組の逆導通スイッチング素子群(第二の逆導通スイッチング素子群)を構成している。この各組の逆導通スイッチング素子群を直流電圧電源9のプラスV+、マイナスV-に接続することにより、スイッチング回路4が構成されている。共振回路5は、第一の逆導通スイッチング素子群、及び第二の逆胴通スイッチング素子群の接続点であるVce1とVce2の間に接続されている。
【0083】
続いて、第六実施例のインバータ回路10の動作について説明する。第六実施例のインバータ回路10においては、第一のスイッチング素子41と第四のスイッチング素子45との組と、第二のスイッチング素子42と第三のスイッチング素子43との組を、制御回路6からの信号により交互にオン、オフ動作させることにより高周波を発生させることができる。第六実施例の回路構成による高周波等価回路は、図14(イ)に示されている。この等価回路は、図1に示された等価回路と同じであることから、第六実施例の誘導加熱装置X6の高周波での動作は、第一実施例の誘導加熱装置X1と同じである。なお、前述したように、高周波電源の電圧は、第一実施例(図1)のものに対して2倍になる。
【0084】
第六実施例のインバータ回路10は、上述した第四実施例のもの(図12)と同様の動作をする。そのため、第六実施例のインバータ回路10においては、電源電流の周波数が、第四実施例と同様に動作周波数の2倍となる。従って、第六実施例の誘導加熱装置X6は、妨害波に対して第四実施例の誘導加熱装置X4と同じ効果を有している。
【0085】
図16は、第六実施例に係る誘導加熱装置X6の鍋加熱能力と、並列共振コンデンサ55のキャパシタンスCr2及び直列共振コンデンサ54のキャパシタンスCr1の比(Cr2/Cr1)との関係を、第一実施例に係る誘導加熱装置X1の場合と比較して示したグラフである。このグラフの作成に際し、動作周波数は、第六実施例に係る誘導加熱装置X6と、第一実施例に係る誘導加熱装置X1とで同一としている。図16に示すように、第六実施例、及び第一実施例のいずれの誘導加熱装置X1,X6においても、並列共振コンデンサ55のキャパシタンスCr2の増加に従い、鍋加熱能力が減少する。しかしながら、図16からも明らかなように、第六実施例に係る誘導加熱装置X6においては、第一実施例に係る誘導加熱装置X1の場合と比較して約2.5倍の鍋加熱能力が確保されている。なお、第二から第五の実施例での誘導加熱装置X2からX5の鍋加熱能力とCr2/Cr1との関係は、第1実施例での誘導加熱装置X1と同じである。
【0086】
ここで、直列共振コンデンサ54のキャパシタンスCr1と(直列共振コンデンサを分割した実施例では両キャパシタンスを加えた値)、並列共振コンデンサ55のキャパシタンスCr2とが等しいとき、IGBT電流とコンデンサ55からの電流が等しくなる。従って、本発明によるIGBTの負担を減らすには、並列共振コンデンサ55のキャパシタンスCr2の比重を大きくすることが必要である。その一方で、並列共振コンデンサ55のキャパシタンスを大きくしすぎると、必要とする鍋加熱能力が得られなくなる。第六実施例に係る誘導加熱装置X6は、他の実施例に比較して鍋加熱の潜在能力が大きいことから、大きな加熱能力を必要とする用途や装置において好適に利用できる。
【0087】
以上、本発明に係る誘導加熱装置の実施形態、及び実施例について説明してきたが、本発明は上記実施形態や実施例に記載したものに限定されるものではない。例えば、本発明に係る誘導加熱装置は、スイッチング素子としてFETを使用したものや、商用交流電源ではなく、自動車等に搭載されているバッテリーなどを電圧源とするなど種々変形が可能である。
【0088】
本発明は、上述した実施形態や変形例等として示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示および精神から他の実施形態があり得る。上述した実施形態の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また実施形態の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成してもよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、炊飯器を含む誘導加熱調理器の他、産業用の誘導加熱装置にも利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 商用交流電源
2 整流回路
3 ローパスフィルタ
4 スイッチング回路
41 第一の逆導通スイッチング素子
42 第二の逆導通スイッチング素子
43 遅延コンデンサ
44 第三の逆導通スイッチング素子
45 第四の逆導通スイッチング素子
5 共振回路
51 導電性被加熱物(調理鍋)
52 加熱コイル(共振インダクタンス)
53 共振コンデンサ
54 直列共振コンデンサ
55 並列共振コンデンサ
541 直列共振コンデンサa
542 直列共振コンデンサb
6 制御回路
7 電圧検知部
8 等価高周波電源
9 直流電圧電源
10 インバータ回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20