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特開2023-60993自己ひびき音響をその物理的本態に則して再生する三次元自己ひびき音響正準化複素空間オーディオ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060993
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】自己ひびき音響をその物理的本態に則して再生する三次元自己ひびき音響正準化複素空間オーディオ装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 7/04 20060101AFI20230424BHJP
   H04R 1/24 20060101ALI20230424BHJP
   H04R 1/22 20060101ALI20230424BHJP
   G10D 1/02 20060101ALN20230424BHJP
   G10D 3/02 20060101ALN20230424BHJP
【FI】
H04R7/04
H04R1/24 A
H04R1/22 310
G10D1/02
G10D3/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170717
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】594077024
【氏名又は名称】小林 茂樹
(71)【出願人】
【識別番号】317015412
【氏名又は名称】玉岡 益健
(72)【発明者】
【氏名】小林 茂樹
【テーマコード(参考)】
5D002
5D016
5D018
【Fターム(参考)】
5D002AA01
5D016AA03
5D016CA01
5D016FA00
5D018AA10
5D018AB02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来ラウドスピーカー・ユニットが物理的に復元できなかった、原音の音質、音色、空間感覚は、位相シフト自己ひびき音響の喪失が原因である、との発明者の発見に基づき、原音が包含する多様な自己ひびき音響に応じて、原音声の音質、音色、空間感覚を復元するオーディオ技術。
【解決手段】励振周波数に応じて縦横対称な振動を行って二次元自己ひびき音響を放射する、正方形固体平板6面を、立方体状に構成した三次元振動構造体に、三次元音響正準化条件(複数)を適用することにより、該三次元振動構造体を三次元自己ひびき音響正準化振動構造体となし、原音声信号が包含する多様な自己ひびき音響に応じて、原音声の音質、音色、空間感覚を復元する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体の三次元構成体が粘弾性振動して、多位相ずれ亜音響から成る音束を放射し、固体と空気の音速勾配によって生じたエネルギーにより空中に三次元構造化時空波面を生成し、空気の高い動粘性によりそれを空中に拡散する、自己ひびき音響を復元するための、三次元音響正準化振動構造体を備えた複素空間オーディオ装置であって、
前記の三次元音響正準化振動構造体は、
励振周波数に対して縦横対称な二次元音響正準分布特性を示す、全面の厚みが一定の、平面的に等質な正方形固体平板6面のうち、
主板とネーミングした1面の、片面中心位置に磁気回路可動型エキサイターを固定し、
π/2側板とネーミングした計4面の各1面あて、該主板の四辺それぞれに、該主板面と角度π/2で振動伝達可能に直交連結し、
π後板とネーミングした1面を、前端が主板内面に振動伝達可能に連結されたサウンドポストの後端に、該主板内面に対して角度πで振動伝達可能に対向連結し、更に、
4面の該π/2側板同士の側辺を、角度π/2で振動伝達可能に連結し、
該π後板において、その四辺を、該π/2側板との振動の相互干渉を避けるために、該π/2側板と連結しない自由端として、
前記の正方形固体平板6面を、相互の振動伝達可能に立方体状に三次元構成した、三次元音響正準化振動構造体であって、
該三次元音響正準化振動構造体において、
すべての前記振動部材に、音速4km/秒以上の木材が適用され、
該主板と該π/2側板と該π後板に、平面的に等質な同一素材が適用され、
該主板と該π/2側板の形状は、同じサイズの正方形であり、
該π後板の形状は、主板と該π/2側板に可能な限り近いサイズの正方形であり、
該振動板に、π/2側板<主板<π後板の順位の厚みが適用され、
音速4km/秒以上の金属を素材とする質量部材を、該主板内面端部あるいは該サウンドポストに固定して、該磁気回路可動型エキサイター+該主板の加振力と、その他の全要員の質量がバランスされたことにより、
前記三次元正準化振動構造体が、粘弾性振動し、多位相ずれ亜音響から成る音束を放射し、固体と空気の音速勾配によって生じたエネルギーにより空中に三次元音響正準化時空波面を生成し、空気の高い動粘性によりこれを空中に拡散する、三次元音響正準化自己ひびき音響を放射する潜在能力を備えたことにより、多様な三次元構造化時空波面を生成する自己ひびき音響信号を受けて、原音に則した三次元構造化時空波面を空中に形成し、原・自己ひびき音響を復元する三次元音響正準化複素空間オーディオ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
楽器は、多かれ少なかれひびきのある空間性音響(spatial sounds)を放射する。言い換えると、ひびきのある空間性音響を放射するように作られた装置が楽器である。空間性音響とは、聴者において感覚空間像(sensory space image)を誘起する音響である。本発明の説明においては、発音体自体が放射するひびきのある空間性音響を、自己ひびき音響(ego sonority sounds)と呼称する。自己ひびき音響のその他の例には、歌手など訓練された人の声や、谷間にひびく野鳥の囀り声、オオカミや犬の遠吠えなどがある。後述のとおり、自己ひびき音響は、音質や音色に大きく関わる重要な音響である。
大ホールなどの残響は、天井や壁面から反射された多方向ベクトルの時間ずれ音響、即ち多数の位相ずれ音響から成る音束である。持続時間は空間のサイズと形状に従い、多くの場合、秒のオーダーと報告されている。それは数百ミリ秒の人の聴覚応答時間(非特許文献1)より長いので、人は音響空間を感覚し、更に前頭前野で意識することができる。
これに対し自己ひびき音響は、発音体が発する音響そのものが、多数の時間ずれ同一周波数亜音響を包含した音束であることによって、聴者の脳内に空間感覚を誘起する音響である。そのずれ時間は、1周期内のずれであるため、可聴域で50ミリ秒乃至50マイクロ秒以下と、人の聴覚応答時間より短く、特別に習熟した人以外の人は、その空間性を感覚するものの、ひびき音と意識するまでには至らない。
本発明は、自己ひびき音響をその物理的本態に則して再生する技術に関する。自己ひびき音響は、三次元構成された固体振動体が、粘弾性振動して放射する三次元構造化時空音響の束であって、固体と空気の大きな音速勾配により生じた質の高いエネルギーによって空気に伝達され、空中に三次元構造化時空波面(3D-structured temporal and spatial wavefronts)を生成する。(以下、多数の同一周波数時間ずれ亜音響で構成された音束を、簡単のため「自己ひびき音響」と略記する。)
生成された三次元構造化時空波面は、空気の動粘性によって、空中に拡散される。本発明は、発明者によるこの物理的本態(physical nature)の発見(findings)に基づいている。
【背景技術】
【0002】
本発明に関わる自己ひびき音響の物理的本態はこれまで未知であり、音響の専門家にとってもその聞き分けを主観に頼る以外に無い、心理学マターであった(1例として、非特許文献2)。主たる未知の内容は、下記の2点である。
(1) 「ひびく音とひびかない音を別ける物理要素は何か?」 大聖堂やコンサート・ホールの残響は、放射後の音響が、天井や壁面によって区切られた空間において二次的に構成される空中事象(airborne matters)であるから、自己ひびき音響ではない。後にデータを示して詳述するが、従来ラウドスピーカー・ユニットは、平坦な出力(音圧)周波数特性を得るために、振動板(diaphragm)に高内部損失、低音速の素材を適用したうえに、ばね性のエッジとダンパーで振動板を懸架している(非特許文献3)。そのせいで、原音の位相ずれ信号を物理的にスルーしてしまう。従ってその放射音は、原音の時間波面を物理的に全欠している。原音の時間波面を全欠した放射音に二次的な後処理を加えて作られる音響は、人工音であって、原音と物理的に何の関係もない。例えば従来ラウドスピーカー・ユニットの放射音を、内部に構成した音道をトラベルさせることによって、外形的な、あるいは見かけの位相遅れ音響を生成する幾種類ものエンクロージャーが提案されてきた。しかしその位相遅れ音響は似非時間波面であって、その音質は原音の時間波面と無関係である。また、空間感を与えるために(実際には、創作するために)複数のスピーカー・システムを空間配置しても、それらが生成する空間感は、フェイク空間感であって、原音の誘起する空間感とは物性上何の関係もない。原料がコールタールのサッカリンは、植物が生産する砂糖ではない。両物質は、分子式のみならず、生体への作用・副作用もまったく異なる。原音の位相信号を失った音響に操作を加えたフェイクひびき音は、エルヴィスプレスリーの比類なき声質と似ても似つかない、「無関係な位相ずれ音」に過ぎない。番組「芸能人格付けチェック」で演奏される名器と練習用の楽器を、視聴者が、TVスピーカーからの、原ひびき音を失った音質で識別することは、物理的に絶対に不可能である。
(2) 「自己ひびき音響が空中を拡散する物理的原理は何か?」 自己ひびき音響は、音響自体が空間感覚をもたらす、三次元構造化時空波面を保持したまま、空気分子の運動(縦波、横波、熱)による擾乱を受けずに空中に拡散される。その空中拡散の物理的原理はまったく解明されていなかった。
【0003】
[ヴァイオリン胴部は自己ひびき音響を放射する]
自己ひびき音響をリプレイするには、その物理的本態を知る必要がある。発明者が行った多くの分析のうち、ヴァイオリン放射音の時間データを以下に示す。
図9は、調弦したヴァイオリンの駒に固定したピエゾ素子エキサイター(特許文献1)を介して、1,100Hzの正弦波信号(発振プログラム:wavegene)でヴァイオリンを励振し、胴部(corpus)の選択した2部位が放射する音響を、それぞれ10mm以内の最近接音場(very near field)に設置した2台のマイクロフォン(Sony: ECM-VG1)で収音して描記した波動図(A2~D2)と、それらの波動から作成したリサジュー図(Lissajous figure)(A1~D1)を示す(CH1: x軸;CH2: y軸)。これらのデータには、擦弦によって生じる高周波擦音は一切入っていない。
この図は、1,100Hzの正弦波信号で励振されたヴァイオリンにおいて、胴部の各部位はいずれも周波数1,100Hzの正弦音波を放射したが、それらの振幅と位相ずれ(遅れ時間)はすべて異なっていることを示している。後に詳述するが、これらの結果は、
(1) それぞれの部位からの放射音波の振幅と位相が、図9A, Bに示された振動板間においても、また、図9C, Dに示された振動板内においても異なること、即ちそれぞれの部位が放射する音波の時間波面が異なること、
(2) ヴァイオリン各振動板の振動伝達において、素材の粘弾性(viscoelasticity)、即ち固体の僅かな粘性が位相ずれを引き起こし、楽器全体として、多位相ずれ亜音響から成る音束を放射し、固体と空気の音速勾配によって生じたエネルギーにより空中に三次元構造化時空波面を生成し、空気の高い動粘性によりそれを空中に拡散すること、
(3) ヴァイオリンの音響放射基本構成は振動板の三次元構成であること、
を明らかにしたものである。
因みに、ヴァイオリン研究の専門家たちは従来、横板あるいは側板をリブ(rib)あるいはフレーム(frame
)と呼称し、音響に関わらない骨格材と見なしてきた(非特許文献4)。これは後続のデータが示すとおり、議論の余地のない間違いである。横板は、ヴァイオリンの自己ひびき音響を三次元構成するための、欠くことのできない発音要員である(図9A)。
【0004】
[粘弾性モデル]
上述のヴァイオリン振動板内振動伝達の位相ずれは、固体である木材の粘性によって生じる遅れである。分かり易い粘弾性素材は人工ポリマーやゴムなどであるが、金属や木材などの固体にも粘性のあることが知られている。
剛性の単位はN/m^2、粘性の単位はN×s/m^2 と、単位が異なるのみならず、剛性は力学的で可逆的、粘性は熱を散逸しentropicで非可逆的と、本質的に異質である。そのため、応力とそれによって生じる歪みの関係について、単軸直列(uniaxial and serial)、単軸並列(uniaxial and parallel)、それらの組合せ等いくつかの粘弾性数理モデルが提案されているが、数式の弄び(algebraic maneuver)に過ぎず、一般解のある方程式に表すことはできない。(一部の研究者は、動的負荷に関して、オイラーの公式:指数関数=余弦関数+正弦関数、を流用した複素関数を提案しているが、余弦関数と正弦関数の振幅が異なる粘弾性に、この公式は適用できない。また、弾性と粘性の位相ずれがつねにπ/2であるという根拠もない。)
実用上は、動的負荷に関して、数式Aに示した弾性率なるパラメータが用いられてきた。印加された正弦応力に対する応答として、正弦歪みの位相角度はδだけ遅れる([1].[2])。応力に対して位相の合った(in phase)、エネルギー損失のない歪みの比を、貯蔵弾性率として実部([4])に、また、応力に対して位相のずれた(out-of-phase)、エネルギー損失のある歪みの比を、損失弾性率として虚部に([5])配し、複素弾性率が定義される([3])。貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比を、損失正接と呼んでいる([7])。
なお後述のとおり、本発明の説明におけるリサジュー角θは、数式Aにおける位相の遅れδとは異なるパラメータである。
【数A】
【0005】
[固体平板の振動モードが空中に伝播する]
固体振動板の振動モードは、空中に転写されて時間波面を形成する。図10A(非特許文献5より引用)と図10B(非特許文献6より引用)は、異なる方法(図10A:マイクロフォン・マトリクスによる音圧測定、図10B:粒子速度・音圧センサによる測定)で測定されたvery near fieldの音響インテンシティ(acoustic intensity)・マップを示している(後者の詳細なカラー表示原図はwebsite参照)。図10Aは、固体長方形平板の(4,2)モード・パターンが、また、図10Bは、(1,3)および(3,3)モード・パターンがそのまま空中に転写されることにより生成した、音響事象である。図10のA、B図は、固体平板の振動モード(二次元平面上の各位置(x, y)の上下時間波動 (z, t))が、空気の分子運動(縦波、横波、熱運動)による攪乱を受けずに空中に伝播し、時空波面なる空中事象(airborne matter)を形成することを実証するたいへん重要なデータである。
【0006】
[自己ひびき音響の遠達拡散にはエネルギーを必要としない]
優れた奏者が奏するヴァイオリン名器の自己ひびき音響は、数千の吸音体(人体)を超えて、大ホールの隅々まで届く。マイクもアンプも必要としない。つまり、大きなエネルギーによる、音の“空気押し”を要しない。極めて軽い体重の小鳥の囀り声が、谷間の空間いっぱいに響き渡る。ヒグラシゼミの鳴き声が数百メートル先まで届く。これらの事象は、自己ひびき音響が非エネルギー性遠達特性(non-energetic far reaching characteristics)を有することを示唆している。
本発明は、自己ひびき音響の非エネルギー性遠達特性が、下記の物理的2ステップを経て実現されるとの発明者によるproposed theoryに基づいている。
(1) 固体から空気への時間波面の伝播:固体や、張力がかけられて緊張した粘弾性体(以下、固体と総称する)と空気の間には、大きな音速勾配(表A参照)がある。この勾配は、質量×速度の運動量の勾配であり、質の高いエネルギーを生み出す(非特許文献7)。このエネルギーによって、固体振動の空中への伝播(転写)という仕事がなされる。その結果が、very near fieldの音響インテンシティ・マップとして測定された時空波面である(図10)。
【表A】
(2) 時間波面の拡散:空中に転写された時空波面は、空気の高い拡散特性、即ち動粘度(表B参照)により、遠方まで広く拡散される。粘度を密度で除した動粘度の単位は[面積/秒]であって、質量に無関係であることが、エネルギーの“後押し”を必要としない拡散を実現させている(数式B)。
振動板の振動を空中音波に変換し、音波を空中に拡散する過程は、上述のとおり、少なくとも2ステップの異なる物理過程より成るものと理解すべきである。内容は少し異なるが、水力発電も、ダム湖の静水中で熱運動だけをしていたentropicな水分子が、水門から落ちる落差(位置エネルギー勾配)から得た質の高い仕事エネルギーによって、水車を回すステップと、その仕事(回転運動)エネルギーを電力に変換する発電ステップの、異なる2過程より成る。
なお、後述のとおり、従来ラウドスピーカーは、空気との音速勾配が小さいため、上記2ステップを踏むことができない装置である。
【数B】
【表B】
発明者は、本明細書に提示したvery near fieldの時空波面を、対象から1メートルのfar fieldに設置したマイクロフォンでも観測している。この事実は、時空波面が、破壊されずに大気中を拡散することを示している。
図11のホログラフィー干渉写真(非特許文献8より引用)には、ギターの固有モードに応じたパターン振動をする奏者着用のスェーターが映っている。この振動は、ギターからスェーターの毛糸上に直接伝播したものではない。編まれた毛糸の張力はゼロであって、弛んだヴァイオリン弦や糸電話の糸のように、振動エネルギーをまったく伝達できない。スェーター毛糸画像が示す構造化振動(structured vibration)は、ギターから空中に拡散した三次元構造化時空波面によって惹き起こされた振動である。この写真は、三次元構造化時空波面が、その三次元構造化時空構成を失うことなく、空中を拡散することを実証している。(三次元構造化時空波面については、後述する。)
この写真は、上述の発明者のproposed theoryを証明するevidenceである。
【0007】
[正方形固体平板の振動モード領域(area)が位相ずれ音響を放射する]
段落[0003]の(3)において、ヴァイオリンの音響放射基本構成は振動板の三次元構成である、と述べた。ヴァイオリンの基本形を、振動物理学的観点から、数々の修飾要素を取り除くことにより抽出すると、その究極形態として、縦横対称な基本モードを示す正方形平板6面を三次元構成した、立方体形状に到達する。
本発明は、この基本形状に基づき、自ら粘弾性振動して、多位相ずれ亜音響から成る音束を放射し、固体と空気の音速勾配によって生じたエネルギーにより空中に三次元音響正準化時空波面を生成し、空気の高い動粘性によりそれを空中に拡散する三次元構造体により、多様な原・自己ひびき音響を復元する、音響正準化特性(acoustic canonical feature)を実現したものである。
三次元音響正準化の基本要員は、励振周波数に対して縦横対称な二次元音響正準分布特性を示す、正方形固体平板である。正方形固体平板における振動モードとその放射音響の時空波面について、説明する。図12中央のクラドニ・パターン(Chladni pattern)は、裏面中央(Pc)に固定したエキサイター(図示せず)の312.5Hz正弦波励振によって惹き起こされた、厚み一定の正方形平板(240×240×5.5mm、シナベニヤ合板、音速:4km/秒以上)の振動モード((2,0)+(0,2))を示している。(以下説明の「平板」は、一々断らないが、すべてそれぞれの厚みが全面に亘って一定な平板である。)その周辺8図は、段落[0003]で述べたvery near field測定法で測定した、平板各位置が放射した音響間のリサジュー図である。内側の4図は、形成した節領域(nodal area)内の白点位置と中央位置(Pc)が放射した音響間のリサジュー図であり、また、外側の4図は、平板4隅の腹領域(anti-nodal area)内の黒点位置と、対応する節領域内の白点位置が放射した音響間のリサジュー図である。各リサジュー図下辺に記入された数値は、位相シフトに伴う遅延時間である。
図12は、固体平板の各振動モード領域が、固体粘性によって遅延した音響を放射し、平板全体が、これらの多位相音響を一まとめにして、励振波と同じ周波数の1音として放射し、時空波面を形成することを実証する世界初のデータである。
このように縦横対称な二次元音響正準分布特性を示す正方形平板を6面、相互に連結し、立方体形状に三次元構成することによって、固体平板の時空波面生成特性が三次元構成され、三次元音響正準化時空波面を生成する、三次元音響正準化オーディオ装置が実現される。次に、正方形平板6面の相互連結による構造化と、放射音響の位相ずれについて説明する。
【0008】
[正方形固体平板を三次元構成すると、その放射音響が三次元音響正準化時空波面を形成する]
次に、前段落で説明した固体平板を三次元(立体)連結した構成体が、三次元音響正準化時空波面を生成することを、空間二次元(平面)連結との比較において説明する。
図13は、エキサイターが固定された主平板四辺に、同じ材質、同じサイズの平板(240×240×4mm、シナベニヤ合板、音速:4km/秒以上)を振動伝達可能に平面連結あるいは直交連結したモデル、更にサウンドポストを介して、同材質、同厚みの正方形後板(サイズ指定なし)を振動伝達可能に連結したモデルを、128Hz正弦励振して生じたクラドニ図を示している。(励振周波数は、前段落と同じ振動モードを得るために、板厚に応じて変更している。)
図13Aは、裏面中央位置に固定されたエキサイターの励振によって、単板が示した結合モード((2,0)+(0,2))である。図13Bは、この単板を励振主板として、その四辺に、同じ材質で同じサイズの平板4枚を、角度0πで平面的に振動伝達可能に連結した、0π連結モデルの128Hz正弦励振による振動モードのクラドニ図を示す。図13Cは、主板四辺に、同じ材質で同じサイズの平板4枚を、角度π/2で直交的に振動伝達可能に連結した、π/2連結モデルの128Hz正弦励振による振動モードのクラドニ図を示す。このモデルのπ/2連結側板同士も、角度π/2で直交的に振動伝達可能に連結されている。図13Dは、同じ材質で同じ厚みの正方形板を、サウンドポスト(ツガ材、音速:4km/秒以上)を介して角度πで主板と対向的に振動伝達可能に連結した、π連結正方形後板の128Hz正弦励振振動モードのクラドニ図を示す。後板の四辺は、側板との相互干渉を避けるために、側板と連結しない自由端とし、サウンドポストの長さは、設計上の都合に従い決められる。
単板は、エキサイター出力に対して単板質量が相対的に軽量であるため、励振周波数128Hzに対して、 ((2,0)+(0,2)) 結合モードのパターンがゆがめられている(図13A2)。
図13B2では、この非対称変形が、四辺に側板を連結されたことによって解消し、主板が明確な((2,0)+(0,2))モードを示している。この図において、0π連結の側板は、主板に連結された辺を軸として、羽搏くように振動している。
図13C2の主板は、やはり結合モード((2,0)+(0,2))を示すが、そのリングは四辺に直交連結されたπ/2側板によって修飾されている。4個のπ/2連結側板の振動パターンは、主板との直交連結と、側板相互の直交連結による拘束を受けて、節領域と腹領域が、平面連結における0π連結側板モード(図13B2)と入れ替わっている。節領域と腹領域の入れ替わりは、その位相がπ/2シフトしたことを示す。即ちπ/2連結側板は、π/2シフトの音響を放射することを示している。これは、自己ひびき音響の生成に関して極めて重要な発見である。
図13Dにおいて、π連結後板は主板と同じ結合モードを示している。しかし、そのモードは、符号が入れ替わった、πシフト(逆位相)・モードである。即ちπ連結後板は、πシフトの逆位相音響を放射することを示している。(クラドニ図は、腹領域における順位相と逆位相を区別しない。)
本発明は、これらの新発見に基づき、励振位相に対して、主板が0π位相音響を放射し、主板に直交連結された側板がπ/2シフト音響を放射し、対向連結された後板がπシフト音響を放射し、放射されたこれらの同一周波数多位相シフト亜音響を一まとめにして、空中に三次元音響正準化時空波面を形成する、振動板の三次元構成体を基本モデルとしている。構成要員の振動板をすべて、縦横対称な二次元音響正準分布特性を示す正方形とすることによって、多様な個性的自己ひびき音響に対応し得る、音響正準化オーディオ装置を実現したものである。
熱運動速度が正準分布する湖水の水分子は、落差のエネルギーを得て、滝となって落ちるとき、落下路のどのような形状の岩壁にもその形状を適合させることができる。固体方形平板を三次元構造化した発音装置の音響正準化分布特性も同様に、空気との大きな音速勾配のエネルギーを得て、どのような個性的な自己ひびき音響信号にも対応して、原音の音質を再現することができる特性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4776465号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】永井大介、長谷川賢一、「聴覚・視覚刺激反応時間に関する研究」、昭医会誌、46巻1号、27-34頁、1986.
【非特許文献2】村瀬吉彦、沢田修一、「音に関わる高分子材料1 1.楽器」、高分子、37巻5月号、392-393頁、1988.
【非特許文献3】特許庁、「平成18年度特許出願技術動向調査報告書 最新スピーカ技術―小型スピーカを中心に―(要約版)」、平成19年5月.
【非特許文献4】T. D. Rossing (ed), “The science of string instruments”, Springer, New York, 2010.
【非特許文献5】J.D.Maynard, E.G.Williams, and Y.Lee, “Nearfield acoustic holography: 1. Theory of generalized holography and the development of NAH”, J. Acoust. Soc., Vol.78 (4), pp.1395-1413, 1985.
【非特許文献6】日本音響エンジニアリング、https://www.noe.co.jp/technology/29/29news4.html
【非特許文献7】妹尾 学、「気体の圧力と熱分子運動」、化学と教育、42巻5号、334-337頁、1994.
【非特許文献8】C.Taylor, “Exploring music”, IOP Publish. Ltd., 1992. (佐竹、林 訳「音の不思議をさぐる」、pp.141-142、大槻書店、1998.)
【非特許文献9】水澤富作他、「平板の振動モードの縮退と連成挙動について」、応用力学論文集、Vol.6, pp.311-320, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする問題点は、従来の動電型ラウドスピーカー・ユニットが、内部損失の大きな、低音速の弾性体システムであることにより、原音の音質や音色や空間感に大きく関わる自己ひびき音響を復元できなかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
自己ひびき音響は、固体の三次元構成体が粘弾性振動して、多位相ずれ亜音響から成る音束を放射し、固体と空気の音速勾配によって生じたエネルギーにより空中に三次元音響時空波面を生成し、空気の高い動粘性によりそれを空中に拡散する音響であるとの、発明者の発見に基づき、本発明の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置は、励振周波数に対して縦横対称な音響正準分布特性を示す、正方形固体平板を三次元構成した三次元正準化振動構造体が、粘弾性振動し、多位相ずれ亜音響から成る音束を放射し、固体と空気の音速勾配によって生じたエネルギーにより空中に三次元音響正準化時空波面を生成し、空気の高い動粘性によりそれを空中に拡散することにより、原音の自己ひびき音響を、物理学的に復元することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置は、原音声信号のリプレイにより、原・自己ひびき音響の音質や音色や空間感を復元できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置の構成を示す説明図である。(実施の形態1)
図2】本発明の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置が、正方形振動板のサイズによって音域に対応する原理を示す図である。(実施の形態1)
図3】本発明の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置の、主板、側板、後板に適用する板厚に応じた、振動モードを示す図である。(実施の形態1)
図4】本発明の実施の形態1の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置の主板中心位置と後板中心位置が放射するvery near field音響間の周波数依存位相差から作成されたリサジュー図である。(実施の形態1)
図5】リサジュー角度依存リサジュー図と、リサジュー角度の周波数特性をスパイラル表記した図である。(全実施の形態)
図6】本発明の実施の形態1の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置が放射する音響の複素空間スクエア・グラフである。(実施の形態1)
図7】本発明の実施の形態1に適用可能な正方形固体振動板と、1例の従来ラウドスピーカー振動板の複素空間スクエア・グラフを示す図である。(全実施の形態)
図8】練習用ヴァイオリンの複素空間スクエア・グラフを示す図である。(全実施の形態)
図9】ヴァイオリン各部位が放射するvery near field音響間の周波数依存位相差リサジュー図である。(全実施の形態)
図10】固体振動板の振動モードが、空中に転写されて形成した、時間波面を示す引用図である。(非特許文献5と非特許文献6より引用。)(全実施の形態)
図11】三次元構造化時空波面が、三次元構造化時空構成を失うことなく、空中を拡散することを実証する引用写真である。(非特許文献8より引用。)(全実施の形態)
図12】三次元音響正準化の基本要員である正方形固体平板における、振動モード((2,0)+(0,2))の振動分布領域が放射する亜音響のリサジュー図と遅れ時間を示す図である。
図13】正方形固体平板の四辺に、厚みとサイズが同じ平板を平面的または直交的に連結し、更にサウンドポストを介して対向連結した平板の、一定周波数励振によって生起した分布振動のクラドニ図である。
図14図13の平面連結モデルと直交連結モデルの複素空間スクエア・グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1の構成と動作]
図1は、本発明の実施の形態1の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置の構成を模式的に説明する図である。Aは正面観透視構成を、Bはπ/2側板2-3を外した側面観を、またCは斜視外観をそれそれぞれ示す。
図1において、実施の形態1は、正方形の主板1の四辺それぞれに、主板1と同じサイズ、同じ厚みの正方形π/2側板2が各1面あて、主板面と角度π/2で振動伝達可能に直交連結され、π/2側板2の側辺同士も、角度π/2で振動伝達可能に直交連結されている。また、主板1およびπ/2側板2に近いサイズの正方形π後板3は、前端が主板1内面に振動伝達可能に連結されたサウンドポスト4の後端に、主板1内面に対して角度πで振動伝達可能に対向連結されている。π後板3の四辺は、π/2側板2との振動相互干渉を避けるために、π/2側板2と連結しない自由端とし、π後板3のサイズは、主板と該π/2側板に可能な限り近いものとする。サウンドポスト4の長さは、設計上の都合に従い決めることができる。
主板1、π/2側板2、およびπ後板3には、すべて同一素材から成る合板(音速:4km/秒以上)を用いることが好ましい。合板は平面方向に等方性(planarly isotropic)であることにより、振動の円滑な伝播が期待できる。無垢の素材は、音の伝播方向に対して不定の角度に走る木目の旧樹皮層によって振動伝播が乱される可能性がある。またMDFは等方性であるが内部損失が大きく、音速が遅いため不適である。
サウンドポスト4には、音速4km/秒以上の木材バーが適用される。長さに対して相対的に小さい断面が、音の伝播方向を規定するので、無垢の材料も使用できる。
主板1、π/2側板2、およびπ後板3には、それぞれ異なる厚みの平板を適用している。その理由については、後に詳述する。
次に、実施の形態1の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置の動作について説明する。実施の形態1において、まず主板1の内面に固定された磁気回路可動型エキサイター5が、音声信号を受けて主板1を励振する。励振された主板1が、その振動を4個のπ/2側板2に伝達する。主板1は同時に、その振動をサウンドポスト4を介してπ後板3に伝達する。
かくして実施の形態1は、磁気回路可動型エキサイター5が固定された主板1が音声信号と同相の(in phase)音響を放射し、π/2側板2がπ/2シフトの音響を放射し、またπ後板3がπシフトの逆位相音響を放射する。これらの音響はすべて同一周波数であり、空中に(x, y, z)三次元構造を保持しつつ、(t)時間変動する、三次元音響正準化時空波面を生成する。即ち、三次元音響正準化自己ひびき音響を発生する。
実施の形態1の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置の、従来ラウドスピーカーと異なる、再生装置としての基本的なメリットは、すべての振動板に、同一材質を適用したことにより、均質な音質で音響正準化している点にある。これにより、多様な原音に対応する音質、音色を再現することができる。
【0016】
[実施の形態1は正方形振動板のサイズによって音域に対応する]
実施の形態1は、振動板素材に、低音域用から高音域用まで、同一素材を適用できるので、その再生音の音質は低域から高域まで同質である。これは、従来ラウドスピーカーにはない、大きな特徴である。これにより、従来ラウドスピーカーに不可欠であった、チャンネル・デバイダーが不要になり、更に、再生音に人為を加える、従来アンプのTREBLE/BASSや TONE等の調整機能も不要である。本発明の原理の観点に立てば、これらの機能は、再生音質が気に入らないユーザーは、自分の好みに合わせて調整して下さいと言って、従来ラウドスピーカーの不十分な音質の技術責任を、ユーザーの好み次元に転嫁する、苦しいあるいは苦い目くらましに過ぎなかった。
図2は、実施の形態1に適用される振動板(厚み4mm)の結合モード((4,0)+(0,4))(図2B)における、振動板サイズと励振周波数の対応を示している(図2A)。
厚みが等しい、平面等質振動板のサイズと励振周波数は、極めてシンプルな関数関係にある(数式1)。実施の形態1の低音域用から高音域用のユニットには、この関数関係によって決まる6面体型モデルを適用している。
【数1】
【0017】
[実施の形態1における振動板の厚み]
等質ながら厚みの異なる振動板においては、数式1の関数関係は、板厚に依存する。等質正方形平板(240×240×T: T=4 mm, 5.5mm, 9mm、シナベニヤ合板、音速:4km/秒以上)の振動モード(クラドニ・パターン)は、板厚によって、対応周波数が移動したり、変形したりする。特に、板厚9mm板においては、厚みによる撓みの抑え込みが顕著に見られる(図3)。
本発明の実施の形態1の音響正準化複素空間オーディオ装置(図1)においては、主板1に板厚5.5mmを、π/2側板2に板厚4 mmを、また、π後板3に板厚9mmをそれぞれ適用して、多様な原・自己ひびき音響信号に対応し得る三次元音響正準分布特性を実現している。
このような、側板<主板<後板という順序の厚みの配分は、次の段落で説明する質量バランスとも関係して、三次元音響正準分布特性の実現に不可欠である。図14は、段落[0008]で述べた、すべて板厚4 mm板から成る、側板0π連結モデル(図14A)と側板π/2連結モデル(図14B)の複素空間スクエア・グラフである。これらのグラフとCCRI値は、本発明の実施の形態1の複素空間スクエア・グラフ(図6)に比して、有意に低レベルである。これらのモデルは5面構成であるが、およその音質とグラフは同厚の後板を足した6面モデルDにおいても大差がない。発明者は、立方体状6面モデルの振動板に、このほかの板厚も試行したが、全6面同厚モデルの音質は、すべて低レベルであった。
この厚みの配分は、低音域モデル、中音域モデル、高音域モデルに共通である。従って、各音域モデルは、振動板サイズに応じてシンプルに構成すればよい(図2、数式1)。各音域モデルの、主板1、π/2側板2、およびπ後板3それぞれに適用する振動板の厚みは、サイズに拘わらず、共通である。このことが、実施の形態1の各音域モデルの音質の均質化を実現している。即ち、各音域モデルにおいて、音響正準分布特性が実現される。その余得として、音域音質の違いを原因とする、従来ラウドスピーカーにおけるクロスオーバー課題が発生しない。また、従来ラウドスピーカー技術における、機種ごとの大型先行投資が不要化された。
【0018】
[実施の形態1の質量バランス調整]
実施の形態1は、磁気回路可動型エキサイターを固定された主板が、その他の全振動板とサウンドポストを保持し、それらに振動を伝達する第二の駆動要員として機能する構成なので、磁気回路可動型エキサイター+主板の加振力と、その他の全要員の質量がバランスされていなければならない。この調整のために、必要に応じて質量部材6を主板1内面端部あるいはサウンドポスト4に固定する。質量部材6には、音速4km/秒以上の金属を素材とするウエイトが適用できる。低コストの鉛ウエイトは、音速が遅いため音質に有害であり、不適である。
加振力と質量のバランス、即ち、三次元音響正準分布特性の判定は、物理的判定として複素空間スクエア・グラフを利用することができる。更に補完的に必要な場合には、熟練者が選択された音源を用いて音質の主観的判定を行う。
【実施例0019】
[実施の形態1の三次元音響正準化周波数特性]
図4は、既知の周波数正弦波信号により励振した、本発明の実施の形態1の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置(正方形振動板の辺長150mmモデル)の主板中心位置(CH1: x軸)とπ後板中心位置(CH2: y軸)からの放射音響を、それぞれ10mm以下のvery near fieldに設置した2マイクロフォンで収音して描記した8個のリサジュー図である。図中の数値は、上記位置が発した音響の位相差角度とその周波数を表す。
上段4図は、位相差角がそれぞれ、0°、90°、180°、270°であることを示す。これらの4直交角度は、波形図(図示せず)を参照して、正確に読み取ることができる。いっぽう下段4図は、中間角度を示す。中間角度は、後述のように、本来の位相角のほかに、被測定2位置の放射音の音圧(振幅)にも依存するため、リサジュー図が示す角度は、位相差角と等しくない。
リサジュー図描記の基本図形は、下記の数式(数2)によって表される楕円形である。楕円の傾きは、楕円方程式第3項の係数によって表され、位相差(θ=α-β)余弦と、振幅(A)と(B)の積の、2パラメータに依存する。そのため、リサジュー図と波形から読み取ることのできるリサジュー角は、0°, 90°, 180°, 270°の4角度のみである。これらの角度においては、楕円方程式の形状パラメータは、振幅(A)と(B)に対応する長軸および短軸のみとなり、xy軸に対し傾かない楕円を描く(数式2)。
【数2】
振幅A=Bの場合は、位相ずれ角度に応じて、図5Aのようにリサジュー図が描かれる。角度が反時計回りに回転すると、リサジュー図形は、0から2πまで一周する。リサジュー角度の周波数特性を、重複を避けるためスパイラル状に描くと、図5Bが得られる。図5Bの直交軸において、横軸は位相差0°と 180°に対応し、縦軸は位相差90°と 270°に対応する。ここで、180°軸と270°軸に対応する周波数は負号表記されている。
リサジュー角の周波数依存回転は、位相差角を偏角zとする複素関数によって適切に表記される。回転は2偏角の乗算によって表記されるので、θ’が±90°だけ正負に回転した場合、関数zBは正負の虚数±iとなり、偏角zAに偏角zBを乗算した偏角zC = zAzBにおいて、実部と虚部がzAと入れ替わる。この回転は、直交軸上の0°, 90°, 180°, 270°の4角度において、90°ずつ進行する。この直交4角度は、前述のとおりリサジュー角から得られる、実用上参考に供せられる角度である。図5Bに示したスパイラル・グラフから、有効な直交軸上の値のみを残すと、スパイラル・グラフがスクエア状に描かれる。本発明技術においては、このグラフを、複素空間スクエア・グラフ(Complex space square graph)と呼んでいる。
図6は、本発明の実施の形態1の三次元音響正準化複素空間オーディオ装置(正方形振動板の辺長150mmモデル)の複素空間スクエア・グラフである。図6Aは、主板(CH1: x軸)と右π/2側板(CH2: y軸)の各中心位置における放射音響のvery near field測定値グラフを、また、図6Bは、主板(CH1: x軸)とπ後板(CH2: y軸)の各中心位置放射音響のvery near field測定値グラフを、それぞれ示している。
主板の測定位置の直下内面、即ち裏面の中心に磁気回路可動型エキサイターが固定されている。図6の水平軸上に記入された測定点は、直接振動板(主板)と間接振動板(側板あるいは後板)の位相ずれが0°あるいは180°であって、その直線図形の傾斜(図5)は、専ら両振動板の振れ幅(A, B)に依存する(数式2)。
これに対して図6の垂直軸上に記入された測定点は、直接振動板(主板)と間接振動板(側板あるいは後板)の位相ずれが90°あるいは270°であって、リサジュー図における楕円の傾き=0である。楕円形状は振動板の振れ幅(A, B)に専ら依存する(数式2)。即ち、リサジュー図楕円の長軸が水平であれば、A>Bであって、間接振動板の振動幅が直接振動板より相対的に小さく、間接振動板があまり鳴っていないことが分かる。また、リサジュー図楕円の長軸が垂直であれば、A<Bであって、間接振動板の振動幅が直接振動板より相対的に大きく、間接振動板がよく鳴っていることが分かる。更に、リサジュー図が円形であれば、A=Bであって、直接振動板と間接振動板の振動幅が等しく、両振動板の鳴りが同程度であることが分かる。
図6中に表記されているCCRIは、水平軸上の測定点数(H)に対する垂直軸上の測定点数(V)の比率(V/H)を表す、正準化複素回転指数(Canonical Complex Rotation Index)である。この比が1に近いほど、グラフの外形が正方形に近づき、三次元振動構造体の間接振動板が振動する周波数の多いことを意味する。即ち、三次元振動構造体の、周波数に対する万遍ない応答性:普遍性を表す。
本発明の実施の形態1は、縦横対称の振動モードが周波数に応じて結合モードあるいは縮退モードを示す、厚み均一の正方形固体平板(非特許文献9)を、π/2連結およびπ連結して三次元構造化したことによって、すべての振動板が入力信号に対して均質に、しかも主板がシフト0、側板がπ/2シフト、後板がπシフトして応答するので、どのような形状に構成された三次元振動構造体が放射した、CCRI値が低い原自己ひびき音響信号にも対応して振動することができる。この潜在能力により、本発明の実施の形態1は、原音の自己ひびき音響の音質を再現できるのである。
図6の複素空間スクエア・グラフのCCRI値は、1に近い0.90と0.88を示し、そのスパイラル輪郭がほぼスクエアである。このスクエア輪郭は、本発明の実施の形態1のモデルの周波数応答が、多様な自己ひびき音響に対応できること、即ち正準化(canonical)していることを意味する。この音響正準化応答性は、多様な自己ひびき音響信号入力に対応するために欠くことができない、装置自身の特性である。
これに対して、以下説明する数個の比較参考例はいずれも、複素空間スクエア・グラフの外形がスクエアからかけ離れ、低いCCRI値を示すことによって、自己ひびき音響のリプレイ装置としての利用に適さないことを明示している。これらの例は、unnaturalな音響あるいは個性的な音響を放射する例である。
【0020】
[振動板のスクエア特性比較:固体平板と従来ラウドスピーカー]
図7に、本発明の実施の形態1に適用可能な固体振動板と、従来ラウドスピーカーの振動板(diaphragm)の複素空間スクエア・グラフを示す。図7Aは、正方形固体平板(シナベニヤ合板、辺長300mm、板厚4mm)の中心位置(裏面のエキサイター固定位置)と平板右上隅位置(隅から縦横2cm内側)のvery near field放射音のリサジュー図から描いた複素空間スクエア・グラフである。このスクエア・スパイラル周波数特性は、単板自体が、(x, y, z, t)時空波面を生成するとは言え、そのCCRI値は低いことを示す。
図7Bは、従来ラウドスピーカー(Fostex: FF105WK in P1000E)の振動膜中心近辺位置と下辺位置のvery near field放射音のリサジュー図から描いた周波数特性グラフである(スパイラル軌道を描かない)。測定点はすべて水平軸上に位置し、CCRI値=0。図7C は、そのリサジュー角度が、専ら2測定位置の振幅比率(B/A)に依存し、時間情報に無縁であることを示している。
この結果は、従来ラウドスピーカー振動膜の素材自体が、物性として、三次元構造化時空波面をまったく生成しないことを証明している。即ち、従来ラウドスピーカーは、自己ひびき音響信号に対して本質的に、何もしない(doing nothing)ことが明示されたのである。
【0021】
[練習用ヴァイオリンのスクエア・スパイラル周波数特性]
図8Aは、1練習用ヴァイオリン(Suzuki: Stradivarius model)の駒に固定したエキサイターに、正弦波音声信号を入力し、ヴァイオリンの表板下方バウツ右部位置と下方バウツ右側板位置の、それぞれvery near field放射音のリサジュー図から描いた複素空間スクエア・グラフである。図8Bは、ヴァイオリンの表板下方バウツ右部位置と裏板中心位置の、それぞれvery near field放射音のリサジュー図から描いた複素空間スクエア・グラフである。
図8は、この練習用ヴァイオリンの自己ひびき音響が、以下の特性を有することを示している。
(1) これは、練習用ヴァイオリン1台のデータなので、この結果がヴァイオリン一般の特性を示しているとは言えない。
(2) その前提において、裏板は、側板に比べ、CCRI値が有意に低く、十分鳴っていない。
(3) 図8は、少なくも練習用ヴァイオリンを、「楽器スピーカー」として使用すると、原・自己ひびき音響を自己流に歪ませる可能性が高いことを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0022】
低音域モデルから高音域モデルまで、すべて同種類の、市販の等質、平面等方性合板が適用できるので、金型製作等の先行投資回収プレッシャーに押されて、大口顧客(車載、TV専用等)からの、音質無視の注文に屈することなく、全音域に亘って、原・自己ひびき音響の有する音質と音色と感覚空間を、等音質、等音色で物理学的に低コスト復元するという、音質第一の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0023】
1 正方形の主板
2 正方形π/2側板
3 正方形のπ後板
4 サウンドポスト
5 磁気回路可動型エキサイター
6 質量部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2022-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
楽器は、多かれ少なかれひびきのある空間性音響(spatial sounds)を放射する。言い換えると、ひびきのある空間性音響を放射するように作られた装置が楽器である。空間性音響とは、聴者において心象空間(imaginal space)を誘起する音響である。本発明の説明においては、発音体自体が放射するひびきのある空間性音響を、自己ひびき音響(ego sonority sounds)と呼称する。自己ひびき音響のその他の例には、歌手など訓練された人の声や、谷間にひびく野鳥の囀り声、オオカミや犬の遠吠えなどがある。後述のとおり、自己ひびき音響は、音質や音色に大きく関わる重要な音響である。
大ホールなどの残響は、天井や壁面から反射された多方向ベクトルの時間ずれ音響、即ち多数の位相ずれ音響から成る音束である。持続時間は空間のサイズと形状に従い、多くの場合、秒のオーダーと報告されている。それは数百ミリ秒の人の聴覚応答時間(非特許文献1)より長いので、人は音響空間を感覚し、更に前頭前野で意識することができる。
これに対し自己ひびき音響は、発音体が発する音響そのものが、多数の同一周波数時間ずれ亜音響を包含した音束であることによって、聴者の脳内に空間感覚を誘起する音響である。そのずれ時間は、1周期内のずれであるため、可聴域で50ミリ秒乃至50マイクロ秒以下と、人の聴覚応答時間より短く、特別に習熟した人以外の人は、その空間性を感覚するものの、ひびき音と意識するまでには至らない。
本発明は、自己ひびき音響をその物理的本態に則して再生する技術に関する。自己ひびき音響は、三次元構成された厚みの異なる固体振動が、粘弾性振動して放射する三次元構造化自己ひびき音響の束であって、固体と空気の大きな音速勾配により生じた質の高いエネルギーが空気に伝達され、空中に三次元構造化自己ひびき音響(3D-structured ego sonority sounds)を生成する。
生成された三次元構造化自己ひびき音響は、空気の動粘性に基づく格子振動によって、空中に拡散される。本発明は、発明者によるこの物理的本態(physical nature)の発見(findings)に基づいている。
【背景技術】
【0002】
本発明に関わる自己ひびき音響の物理的本態はこれまで未知であり、音響の専門家にとってもその聞き分けを主観に頼る以外に無い、心理学マターであった(1例として、非特許文献2)。主たる未知の内容は、下記の2点である。
(1)「ひびく音とひびかない音を別ける物理要素は何か?」 大聖堂やコンサート・ホールの残響は、放射後の音響が、天井や壁面によって区切られた空間において二次的に構成される空中事象(airborne matters)であるから、自己ひびき音響ではない。後にデータを示して詳述するが、従来ラウドスピーカー・ユニットは、平坦な出力(音圧)周波数特性を得るために、振動板(diaphragm)に高内部損失、低音速の素材を適用したうえに、ばね性のエッジとダンパーで振動板を懸架している(非特許文献3)。そのせいで、原音の位相ずれ信号物理的に応答しない。従ってその放射音は、原音の自己ひびき音響を物理的に全欠している。原音の自己ひびき音響を全欠した放射音に二次的な後処理を加えて作られる音響は、人工音であって、原音と物理的に何の関係もない。例えば従来ラウドスピーカー・ユニットの放射音を、内部に構成した音道をトラベルさせることによって、外形的な、あるいは見かけの位相遅れ音響を生成する幾種類ものエンクロージャーが提案されてきた。しかしその位相遅れ音響は似非自己ひびき音響であって、その音質は原音の自己ひびき音響物理的に無関係である。また、空間感を与えるために(実際には、創作するために)複数のスピーカー・システムを空間配置しても、それらが生成する感覚は、位置感覚であって、原音の誘起する空間感とは物性上何の関係もない。原料がコールタールのサッカリンは、植物が生産する砂糖ではない。両物質は、分子式のみならず、生体への作用・副作用もまったく異なる。原音の位相信号を失った音響に操作を加えたフェイクひびき音は、エルヴィスプレスリーの比類なき声質と似ても似つかない、「無関係な位相ずれ音」に過ぎない。番組「芸能人格付けチェック」で演奏される名器と練習用の楽器を、視聴者が、TVスピーカーからの、原ひびき音を失った音質で識別することは、物理的に絶対に不可能である。

(2)「自己ひびき音響が空中を拡散する物理的原理は何か?」 自己ひびき音響は、音響自体が空間感覚をもたらす、三次元構造を保持したまま、空気分子の運動(縦波、横波、熱)による擾乱を受けずに格子振動によって空中に拡散される。その空中拡散の物理的原理はまったく解明されていなかった。
【0003】
[ヴァイオリン胴部は自己ひびき音響を放射する]
自己ひびき音響をリプレイするには、その物理的本態を知る必要がある。発明者が行った多くの分析のうち、ヴァイオリン放射音の時間データを以下に示す。
図9は、調弦したヴァイオリンの駒に固定したピエゾ素子エキサイター(特許文献1)を介して、1,100Hzの正弦波信号(発振プログラム:wavegene)でヴァイオリンを励振し、胴部(corpus)の選択した2部位が放射する音響を、それぞれ10mm以内の最近接音場(very near field)に設置した2台のマイクロフォン(Sony: ECM-VG1)で収音して描記した波動図(A2~D2)と、それらの波動から作成したリサジュー図(Lissajous figure)(A1~D1)を示す(CH1: x軸;CH2: y軸)。これらのデータには、擦弦によって生じる高周波擦音は一切入っていない。
この図は、1,100Hzの正弦波信号で励振されたヴァイオリンにおいて、胴部の各部位はいずれも周波数1,100Hzの正弦音波を放射したが、それらの振幅と位相ずれ(遅れ時間)はすべて異っていることを示している。後に詳述するが、これらの結果は、
(1) それぞれの部位からの放射音波の振幅と位相が、図9A, Bに示された振動板間においても、また、図9C, Dに示された振動板内においても異なること、即ちそれぞれの部位が放射する音波の位相が異なること、
(2) ヴァイオリン各振動板の振動伝達において、素材の粘弾性(viscoelasticity)、即ち固体の僅かな粘性が位相ずれを引き起し、楽器全体として、多位相ずれ亜音響から成る音束を放射し、固体と空気の音速勾配によって生じたエネルギーにより空中に三次元構造化自己ひびき音響を生成し、空気の高い動粘性に基づく格子振動によりそれを空中に拡散すること、
(3) ヴァイオリンの自己ひびき音響放射基本構成は振動板の三次元構成であること
を明らかにしたものである。
因みに、ヴァイオリン研究の専門家たちは従来、横板あるいは側板をリブ(rib)あるいはフレーム(frame)と呼称し、音響に関わらない骨格材と見なしてきた(非特許文献4)。これは後続のデータが示すとおり、議論の余地のない間違いである。横板は、ヴァイオリンの自己ひびき音響を三次元構成するための、欠くことのできない発音要員である(図9A)。
【0004】
[粘弾性モデル]
上述のヴァイオリン振動板内振動伝達の位相ずれは、固体である木材の粘性によって生じる遅れである。分かり易い粘弾性素材は人工ポリマーやゴムなどであるが、金属や木材などの固体にも粘性のあることが知られている。
剛性の単位はN/m^2、粘性の単位はN×s/m^2 と、単位が異なるのみならず、剛性は力学的で可逆的、粘性は熱を散逸するentropicで非可逆的と、本質的に異質である。そのため、応力とそれによって生じる歪みの関係について、単軸直列(uniaxial and serial)、単軸並列(uniaxial and parallel)、それらの組合せ等いくつかの粘弾性数理モデルが提案されているが、数式の弄び(algebraic maneuver)に過ぎない。粘弾性を一般解のある方程式によって表すことはできない。(一部の研究者は、動的負荷に関して、オイラーの公式:指数関数=余弦関数+正弦関数、を流用した複素関数を提案しているが、余弦関数と正弦関数の振幅が異なる粘弾性に、この公式は適用できない。また、弾性に対する粘性の位相ずれがつねにπ/2であるという根拠もない。)
実用上は、動的負荷に関して、数式Aに示した弾性率なるパラメータが用いられてきた。印加された正弦応力に対する応答として、正弦歪みの位相角度はδだけ遅れる([1].[2])。応力に対して位相の合った(in phase)、エネルギー損失のない歪みの比を、貯蔵弾性率として実部([4])に、また、応力に対して位相のずれた(out-of-phase)、エネルギー損失のある歪みの比を、損失弾性率として虚部に([5])配し、複素弾性率が定義される([3])。貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比を、損失正接と呼んでいる([7])。
なお後述のとおり、本発明の説明におけるリサジュー角θは、数式Aにおける位相の遅れδとは異なるパラメータである。
【数A】
【0005】
[固体平板の振動モードが空中に伝播する]
固体振動板の振動モードは、空中に転写されて二次元自己ひびき音響を生成する。図10A(非特許文献5より引用)と図10B(非特許文献6より引用)は、異なる方法(図10A:マイクロフォン・マトリクスによる音圧測定、図10B:粒子速度・音圧センサによる測定)で測定されたvery near fieldの音響インテンシティ(acoustic intensity)・マップを示している(後者の詳細なカラー表示原図はwebsite参照)。図10Aは、固体長方形平板の(4,2)モード・パターンが、また、図10Bは、(1,3)および(3,3)モード・パターンがそのまま空中に転写されることにより生成した、音響事象である。図10のA、B図は、固体平板の振動モード(二次元平面上の各位置(x, y)の上下波動 (z))が、空気の分子運動(縦波、横波、熱運動)による攪乱を受けずに空中に伝播する空中事象(airborne matter)であることを実証するたいへん重要なデータである。
【0006】
[自己ひびき音響の遠達拡散はエネルギーを必要としない]
優れた奏者が奏するヴァイオリン名器の自己ひびき音響は、数千の吸音体(人体)を超えて、大ホールの隅々まで届く。マイクもアンプも必要としない。つまり、大きなエネルギーによる、音の“空気押し”を要しない。極めて軽い体重の小鳥の囀り声が、谷間の空間いっぱいに響き渡る。ヒグラシゼミの鳴き声が数百メートル先まで届く。これらの事象は、自己ひびき音響が非エネルギー性遠達特性(non-energetic far reaching characteristics)を有することを示唆している。
本発明は、自己ひびき音響の非エネルギー性遠達特性が、下記の物理的2ステップを経て実現されるとの発明者によるproposed theoryに基づいている。
(1) 固体から空気への振動モードの伝播:固体や、張力がかけられて緊張した粘弾性体(以下、固体と総称する)と空気の間には、大きな音速勾配(表A参照)が生じる。この勾配は、質量×速度の運動量の勾配であり、質の高いエネルギーを生み出す(非特許文献7)。このエネルギーによって、固体振動の空中への伝播(転写)という仕事がなされる。その結果が、very near fieldの音響インテンシティ・マップとして測定された自己ひびき音響である(図10)。
【表A】
(2) 自己ひびき音響の拡散:空中に転写された自己ひびき音響は、空気の高い拡散特性、即ち動粘度(kinematic viscosity)(表B参照)に基づく格子振動により、遠方まで広く拡散される。粘度を密度で除した動粘度の単位は、拡散と同じ[面積/秒]であって、質量に無関係であることが、エネルギーの“後押し”を必要としない拡散を実現させている(数式B)。
振動板の振動を空中音波に変換し、音波を空中に拡散する過程は、上述のとおり、少なくとも2ステップの異なる物理過程より成るものと理解すべきである。内容は少し異なるが、水力発電も、ダム湖の静水中で熱運動だけをしていたentropicな水分子が、水門から落ちる落差(位置エネルギー勾配)から得た質の高い仕事エネルギーによって、水車を回すステップと、その仕事(回転運動)エネルギーを電力に変換する発電ステップの、異なる2過程より成る。
なお、後述のとおり、従来ラウドスピーカーは、空気との音速勾配が小さいため、上記2ステップを踏むことができない装置である。
【数B】
【表B】
発明者は、本明細書に提示したvery near fieldの固有振動音響を、対象から1メートルのfar fieldに設置したマイクロフォンでも観測している。この事実は、自己ひびき音響が、破壊されずに大気中を拡散することを示している。
図11のホログラフィー干渉写真(非特許文献8より引用)には、ギターの固有モードに応じたパターン振動をする奏者着用のスェーターが映っている。この振動は、ギターからスェーターの毛糸上に直接伝播したものではない。編まれた毛糸の張力はゼロであって、弛んだヴァイオリン弦や糸電話の糸のように、振動エネルギーをまったく伝達できない。スェーター毛糸画像が示す構造化振動(structured vibration)は、ギターから空中に拡散した三次元構造化自己ひびき音響によって惹き起こされた振動である。この写真は、三次元構造化自己ひびき音響が、その三次元構造を失うことなく、空中を拡散することを実証している。(三次元構造化自己ひびき音響については、後述する。)
この写真は、上述の発明者のproposed theoryを実証するevidenceである。
【0007】
[正方形固体平板が二次元自己ひびき音響を放射する]
段落[0003]の(3)において、ヴァイオリンの音響放射基本構成は振動板の三次元構成である、と述べた。ヴァイオリンの基本形を、振動物理学的観点から、数々の修飾要素を取り除くことにより抽出すると、その究極モデルとして、縦横対称な振動モードを示す正方形平板6面を三次元構成した、立方体形状に到達する。
本発明は、この基本形状に基づき、自ら粘弾性振動して、多位相ずれ亜音響から成る音束を放射し、固体と空気の音速勾配によって生じたエネルギーにより空中に三次元正準化自己ひびき音響を生成し、空気の高い動粘性に基づく格子振動によりそれを空中に拡散する三次元構造体により、原音の多様な自己ひびき音響を復元する、自己ひびき音響正準化特性(ego sonority sound canonical feature)を実現したものである。
三次元自己ひびき音響正準化の基本要員は、励振周波数に対して縦横対称な振動モードを示す、正方形固体平板である。正方形固体平板における振動モードとその放射音響について、説明する。図12中央のクラドニ・パターン(Chladni pattern)は、裏面中央(Pc)に固定したエキサイター(図示せず)の312.5Hz正弦波励振によって惹き起こされた、厚み一定の正方形平板(240×240×5.5mm、シナベニヤ合板、音速:4km/秒以上)の振動モード((2,0)+(0,2))を示している。(以下説明の「平板」は、一々断らないが、すべてそれぞれの厚みが全面に亘って一定な平板である。)その周辺8図は、段落[0003]で述べたvery near field測定法で測定した、平板各位置が放射した音響間のリサジュー図である。内側の4図は、形成した節領域(nodal area)内の白点位置と黒点の中央位置(Pc)が放射した音響間のリサジュー図であり、また、外側の4図は、平板4隅の腹領域(anti-nodal area)内の黒点位置と、対応する節領域内の白点位置が放射した音響間のリサジュー図である。各リサジュー図下辺に記入された数値は、位相シフトに伴う遅延時間である。節領域は一様に励振点に同期するいっぽう、正方形の4隅領域は一様に200°以上、逆位相(πシフト)を超えて位相がシフトし、1.7ミリ秒程度の時間遅れ音響を放射している。巨視的には、リングモードに4隅領域が追随するモードを示している。
図12は、固体平板の各振動モード領域が、固体粘性によって遅延した音響を放射し、平板全体が、これらの多位相音響を一まとめにして、励振波と同じ周波数の1音を放射し、二次元自己ひびき音響を形成することを実証する世界初のデータである。
このように縦横対称な振動モードを示す正方形平板を6面、相互に連結し、立方体形状に三次元構成することによって、固体平板の自己ひびき音響生成特性が三次元構成され、三次元自己ひびき音響正準化オーディオ装置が実現される。次に、正方形平板6面の相互連結による構造化と、放射音響の位相ずれについて説明する。
【0008】
[同材質、同サイズ、同厚みの正方形固体平板の連結モデル]
図13は、エキサイターが固定された主板(240×240×4mm、シナベニヤ合板、音速:4km/秒以上)四辺に、同じ材質、同じサイズ、同じ厚みの平板を振動伝達可能に平面連結あるいは直交連結したモデル、更にサウンドポストを介して、同材質、同厚みの正方形後板を振動伝達可能に連結したモデルを、128Hz正弦励振して生じたクラドニ図を示している。
図13Aは、単板が、裏面中央位置に固定されたエキサイターの励振によって示した、結合モード((2,0)+(0,2))である。図13Bは、この単板を励振主板として、その四辺に、同材質、同サイズ、同厚みの平板4枚を、平面的に振動伝達可能に連結した、平面連結モデルの128Hz正弦励振による振動モードのクラドニ図を示す。図13Cは、主板四辺に、同材質、同サイズ、同厚みの平板4枚を、直交的に振動伝達可能に連結した、直交連結モデルの128Hz正弦励振による振動モードのクラドニ図を示す。このモデルにおいて、側板同士も、直交的に振動伝達可能に連結されている。図13Dは、同材質、同厚みの正方形板を、サウンドポスト(ツガ材、音速:4km/秒以上)を介して主板に対向する姿勢で振動伝達可能に連結した、後板の128Hz正弦励振振動モードのクラドニ図を示す。後板の四辺は、側板との相互干渉を避けるために、側板と連結しない自由端とし、サウンドポストの長さは、設計上の都合に従い決められる。
単板は((2,0)+(0,2)) 結合モードを示すが、単板質量がエキサイター出力に対して相対的に軽量であるため、パターンが歪んでいる(図13A2)。
図13B2では、単板の非対称変形が解消し、平面連結モデルの主板が明確な((2,0)+(0,2))モードを示している。この図において、平面連結の側板は、主板に連結された辺を軸として、羽搏くように振動している。
図13C2の主板は、やはり結合モード((2,0)+(0,2))を示すが、そのリングは四辺に直交連結された側板によって修飾されている。4個の直交連結側板の振動パターンは、側板相互の直交連結による拘束を受けて、節領域と腹領域が、平面連結のモード(図13B2)と入れ替っている。節領域と腹領域の入れ替りは、側板モードがπ/2シフトしたことを示す。
図13Dにおいて、後板は主板と同じ結合モードを示している。後板は主板に対向する姿勢であるので、このクラドニ図は、πシフト(逆位相)・モードを示す。(クラドニ図は、腹領域の順位相と逆位相を区別しない。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4776465号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】永井大介、長谷川賢一、「聴覚・視覚刺激反応時間に関する研究」、昭医会誌、46巻1号、27-34頁、1986.
【非特許文献2】村瀬吉彦、沢田修一、「音に関わる高分子材料1 1.楽器」、高分子、37巻5月号、392-393頁、1988.
【非特許文献3】特許庁、「平成18年度特許出願技術動向調査報告書 最新スピーカ技術―小型スピーカを中心に―(要約版)」、平成19年5月.
【非特許文献4】T. D. Rossing (ed), “The science of string instruments”, Springer, New York, 2010.
【非特許文献5】J.D.Maynard, E.G.Williams, and Y.Lee, “Nearfield acoustic holography: 1. Theory of generalized holography and the development of NAH”, J. Acoust. Soc., Vol.78 (4), pp.1395-1413, 1985.
【非特許文献6】日本音響エンジニアリング、https://www.noe.co.jp/technology/29/29news4.html
【非特許文献7】妹尾 学、「気体の圧力と熱分子運動」、化学と教育、42巻5号、334-337頁、1994.
【非特許文献8】C.Taylor, “Exploring music”, IOP Publish. Ltd., 1992. (佐竹、林 訳「音の不思議をさぐる」、pp.141-142、大槻書店、1998.)
【非特許文献9】水澤富作他、「平板の振動モードの縮退と連成挙動について」、応用力学論文集、Vol.6, pp.311-320, 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
解決しようとする問題点は、従来の動電型ラウドスピーカー・ユニットが、内部損失の大きな、低音速の弾性体システムであることにより、原音の音質や音色や空間感に大きく関わる自己ひびき音響を復元できなかった点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の三次元自己ひびき音響正準化複素空間オーディオ装置は、励振周波数に対して縦横対称な振動モードを示して、二次元自己ひびき音響を放射する、正方形固体平板を三次元構成した三次元正準化振動構造体が、粘弾性振動し、多位相ずれ亜音響から成る音束を放射し、固体と空気の音速勾配によって生じたエネルギーにより空中に三次元正準化音響を生成し、空気の高い動粘性に基づく格子振動によりそれを空中に拡散することにより、原音の自己ひびき音響を、物理学的に復元することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の三次元自己ひびき音響正準化複素空間オーディオ装置は、原音声信号リプレイして、原音の自己ひびき音響の音質や音色や空間感を復元できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の三次元自己ひびき音響正準化複素空間オーディオ装置の構成を示す説明図である。(実施の形態1)
図2】本発明の三次元自己ひびき音響正準化複素空間オーディオ装置が、正方形振動板のサイズによって音域に対応する原理を示す図である。(実施の形態1)
図3】本発明の三次元自己ひびき音響正準化複素空間オーディオ装置の、主板、側板、後板に適用する板厚に応じた、振動モードを示す図である。(実施の形態1)
図4】本発明の実施の形態1の三次元自己ひびき音響正準化複素空間オーディオ装置の主板中心位置と後板中心位置が放射するvery near field音響間の周波数依存位相差から作成されたリサジュー図である。(実施の形態1)
図5リサジュー角度とリサジュー図形の関係と、リサジュー角度の周波数特性をスパイラル表記した図である。(全実施の形態)
図6】本発明の実施の形態1の三次元自己ひびき音響正準化複素空間オーディオ装置が放射する音響の三次元自己ひびき音響スクエア・グラフである。(実施の形態1)
図7本発明の実施の形態1に適用可能な正方形固体振動板の二次元自己ひびき音響スクエア・グラフと、1例の従来ラウドスピーカー振動板の音響が自己ひびき音響スクエア・グラフを描かないことを示す図である。(全実施の形態)
図8】練習用ヴァイオリンの三次元自己ひびき音響スクエア・グラフを示す図である。(全実施の形態)
図9】ヴァイオリン各部位が放射するvery near field音響間の周波数依存位相差リサジュー図である。(全実施の形態)
図10】固体振動板の振動モードが、空中に転写されて形成した、二次元自己ひびき音響を示す引用図である。(非特許文献5と非特許文献6より引用。)(全実施の形態)
図11】三次元構造化自己ひびき音響が、三次元構成を失うことなく、空中を拡散することを実証する引用写真である。(非特許文献8より引用。)(全実施の形態)
図12二次元自己ひびき音響を放射する正方形固体平板における、振動モード((2,0)+(0,2))の振動分布領域が放射する亜音響のリサジュー図と遅れ時間を示す図である。
図13】正方形固体平板の四辺に、厚みとサイズが同じ平板を平面的または直交的に連結し、更にサウンドポストを介して対向連結した平板の、一定周波数(128Hz)励振によって生起した分布振動のクラドニ図である。
図14図13の平面連結モデルと直交連結モデルの自己ひびき音響スクエア・グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1の構成と動作]
図1は、本発明の実施の形態1の三次元自己ひびき音響正準化複素空間オーディオ装置の構成を模式的に説明する図である。Aは正面観透視構成を、Bは側板2-3を外した側面観を、またCは斜視外観をそれそれぞれ示す。
図1において、実施の形態1は、正方形の主板1の四辺それぞれに、主板1と同じサイズ、主板1より薄い正方形側板2が各1面あて、主板と振動伝達可能に直交連結され、側板2の側辺同士も、振動伝達可能に直交連結されている。また、主板1および側板2に近いサイズ、主板1より厚い正方形後板3は、前端が主板1内面に振動伝達可能に連結されたサウンドポスト4の後端に、主板1内面に対向する姿勢で振動伝達可能に連結されている。後板3の四辺は、側板との振動相互干渉を避けるために、側板2と連結しない自由端とし、後板3のサイズは、主板1に可能な限り近いものとする。サウンドポスト4の長さは、設計上の都合に従い決めることができる。
主板1、側板2、および後板3には、すべて同一素材から成る合板(音速:4km/秒以上)を用いる。合板は平面方向に等方性(planarly isotropic)であることにより、振動の円滑な伝播が期待できる。無垢の素材は、音の伝播方向に対して不定の角度に走る木目の旧樹皮層によって振動伝播が乱される可能性がある。またMDFは等方性であるが内部損失が大きく、音速が遅いため不適である。
サウンドポスト4には、音速4km/秒以上の木材バーが適用される。長さに対して相対的に小さい断面が、音の伝播方向を規定するので、無垢の材料も使用できる。
主板1、側板2、および後板3には、それぞれ異なる厚みの平板を適用している。その理由については、後に詳述する。
次に、実施の形態1の動作について説明する。実施の形態1において、まず主板1の内面中心位置に固定された磁気回路可動型エキサイター5が、音声信号を受けて主板1を励振する。励振された主板1が、その振動を4個の側板2に伝達する。主板1は同時に、その振動をサウンドポスト4を介して後板3に伝達する。
かくして実施の形態1は、磁気回路可動型エキサイター5が固定された主板1が主として中音域リプレイに対応し、側板2が主として高音域リプレイに対応し、また後板3が主として低音域リプレイに対応することにより、三次元音響正準化自己ひびき音響を生成する。
実施の形態1の、従来ラウドスピーカーと異なる、再生装置としての基本的なメリットは、すべての振動板に、同一材質を適用したことにより、均質な音質で自己ひびき音響を正準化している点にある。これにより、多様な原音に対応する音質、音色を再現することができる。
【0016】
[実施の形態1は正方形振動板のサイズによって音域に対応する]
実施の形態1は、振動板素材に、低音域用から高音域用まで、同一素材を適用したので、その再生音の音質は低域から高域まで同質である。これは、従来ラウドスピーカーにはない、大きなメリットである。これにより、従来ラウドスピーカーに不可欠であった、チャンネル・デバイダーが不要になり、更に、再生音に人為を加える、従来アンプのTREBLE/BASSや TONE等の調整機能も不要である。本発明の原理の観点に立てば、これらの機能は、再生音質が気に入らないユーザーは、自分の好みに合わせて調整して下さいと言って、の不十分な音質の技術責任を、ユーザーの好み次元に転嫁する、苦しいあるいは苦い目くらましに過ぎなかった。
図2は、実施の形態1に適用される正方形振動板(厚み一定:4mm)の縦横結合モード((4,0)+(0,4))(図2B)における、振動板サイズと励振周波数の対応を示している(図2A)。
厚みが等しい、平面等質振動板のサイズと励振周波数は、極めてシンプルな関数関係にある(数式1)。実施の形態1の低音域用から高音域用のユニットには、この関数関係によって決まる6面体型モデルを適用している。
【数1】
【0017】

自己ひびき音響を三次元正準化するには、音域に対応する厚みの振動板を組み合わせなければならない
図3は、等質、同サイズ(240×240mm)の正方形固体平板において、同じ振動モードを励起する周波数が、板厚(T=4 mm, 5.5mm, 9mm)に依存して移動することを示している。
実施の形態1は、この正方形固体平板の特性を利用して、生成する自己ひびき音響を正準化している。
図14は、段落[0008]で述べた、板厚4 mmの正方形板から成る、側板平面連結モデル(図14A)と側板直交連結モデル(図14B)の自己ひびき音響スクエア・グラフ(後述する)である。これらのグラフとCCRI値は、本発明の実施の形態1の自己ひびき音響スクエア・グラフ(図6)に比して、有意に低レベルである。これらのデータは、正方形振動板を三次元構成しても、板厚が同じでは、自己ひびき音響の正準化ができないこと、および、自己ひびき音響の正準化は、音域にそれぞれ対応する板厚の正方形振動板を三次元構成することが不可欠であることを示している。
これにより、本発明の実施の形態1においては、主板1に板厚5.5mmを、側板2に板厚4 mmを、また、後板3に板厚9mmをそれぞれ適用して、自己ひびき音響の正準分布特性を実現している。
この厚みの配分は、低音域モデル、中音域モデル、高音域モデルに共通である。従って、各音域モデルは、振動板サイズに応じてシンプルに構成すればよい(図2、数式1)。このことが、実施の形態1の各音域モデルの音質の均質化を実現している。即ち、各音域モデルにおいて、三次元自己ひびき音響正準分布特性が実現される。
その余得として、音域音質の違いに対処するための、従来ラウドスピーカーにおけるクロスオーバー課題が発生しない。また、従来ラウドスピーカー技術における、スピーカー・ユニット機種ごとの、金型設計製作などの大型先行投資が不要になった。
【0018】

[実施の形態1の質量バランス調整]
実施の形態1は、磁気回路可動型エキサイターを固定された主板が、側板2、後板3とサウンドポストを保持し、それらに振動を伝達する第二の駆動要員として機能する構成である。そのため、磁気回路可動型エキサイター+主板の加振力と、その他の全要員の質量がバランスされていなければならない。この調整のために、必要に応じて質量部材6を主板1内面端部あるいはサウンドポスト4に固定する図1。質量部材6には、音速4km/秒以上の金属を素材とするウエイトが適用できる。低コストの鉛ウエイトは、音速が遅いため音質に有害であり、不適である。
図1において、エキサイター5固定の主板1の加振力を、厚みが小さい側板2の質量にバランスさせるため、主板1内面端部にウエイト6を固定している。ウエイト6の質量が相対的に不足であると、側板2が「鳴り過ぎて」、ひびきが過剰になる。逆に、ウエイト6の質量が相対的に過剰であると、側板2が沈黙し、ひびきが出ない。
また、図1において、エキサイター5固定の主板1の加振力を、厚みが大きい後板3とサウンドポスト4の質量にバランスさせるため、サウンドポスト4にウエイト6を固定している。後板3は、四辺が自由端であるため、この質量補正は、低音域ひびきの「出方」にとって重要である。
【実施例0019】

[実施の形態1の三次元正準化自己ひびき音響周波数特性]
図4は、既知の周波数正弦波信号により励振した、本発明の実施の形態1(正方形振動板の辺長150mmモデル)の主板中心位置(CH1: x軸)と後板中心位置(CH2: y軸)からの放射音響を、それぞれ10mm以下のvery near fieldに設置した2マイクロフォンで収音して描記した8個のリサジュー図である。図中の数値は、上記位置が発した音響の位相差角度とその周波数を表す。
上段4図は、位相差角がそれぞれ、0°、90°、180°、270°であることを示す。これらの4直交角度は、波形図(図示せず)を参照して、正確に読み取ることができる。いっぽう下段4図は、中間角度を示す。中間角度は、後述のように、本来の位相角のほかに、被測定2位置の放射音の音圧(振幅)にも依存するため、リサジュー図が示す角度は、位相差角と等しくない。
リサジュー図描記の基本図形は、下記の数式(数2)によって表される楕円形である。楕円の傾きは、楕円方程式第3項の係数によって表され、位相差(θ=α-β)余弦と、振幅(A)と(B)の積の、2パラメータに依存する。そのため、リサジュー図と波形から読み取ることのできるリサジュー角は、0°, 90°, 180°, 270°の4角度のみである。これらの角度においては、楕円方程式の形状パラメータは、振幅(A)と(B)に対応する長軸および短軸のみとなり、xy軸に対し傾かない楕円を描く(数式2)。
【数2】
振幅A=Bの場合は、位相ずれ角度に応じて、図5Aのようにリサジュー図が描かれる。角度が反時計回りに回転すると、リサジュー図形は、0から2πまで一周する。リサジュー角度の周波数特性を、重複を避けるためスパイラル状に描くと、図5Bが得られる。図5Bの直交軸において、横軸は位相差0°と 180°に対応し、縦軸は位相差90°と 270°に対応する。ここで、180°軸と270°軸に対応する周波数は負号表記されている。
リサジュー角の周波数依存回転は、位相差角を偏角θ’とする複素関数zA = a+biによって適切に表記される。回転は2複素関数の乗算によって表記される。偏角θ’の+90°回転は、複素関数zB = 0+iを、複素関数zAに乗算した、複素関数zC =-b+ai となり、zAからの実部と虚部の入れ替わりが表される。更なるzBの乗算により、偏角θ’の+180°回転が表記される。この回転は、直交軸上の0°, 90°, 180°, 270°の4角度において、90°ずつ進行する。この直交4角度は、前述のとおりリサジュー角から得られる、実用上参考に供せられる角度である。図5Bに示したスパイラル・グラフから、有効な直交軸上の値のみを残すと、スパイラル・グラフがスクエア状に描かれる。本発明技術においては、このグラフを、自己ひびき音響スクエア・グラフ(Ego sonority sound square graph)と呼んでいる。
図6は、本発明の実施の形態1の正方形振動板の辺長150mmモデルの自己ひびき音響スクエア・グラフである。図6Aは、主板(CH1: x軸)と右側板(CH2: y軸)の各中心位置における放射音響のvery near field測定値グラフを、また、図6Bは、主板(CH1: x軸)と後板(CH2: y軸)の各中心位置放射音響のvery near field測定値グラフを、それぞれ示している。
主板の測定位置の直下内面、即ち裏面の中心に磁気回路可動型エキサイターが固定されている。図6の水平軸上に記入された測定点は、直接振動板(主板)と間接振動板(側板あるいは後板)の位相ずれが0°あるいは180°であって、傾斜した直線図形で表される(図5)。その傾斜角度は、専ら両振動板の振動振幅(A, B)に依存する(数式2)。
これに対して図6の垂直軸上に記入された測定点は、直接振動板(主板)と間接振動板(側板あるいは後板)の位相ずれが90°あるいは270°であって、リサジュー図における楕円の傾き=0である。楕円形状(横長、円、縦長)は振動板の振動振幅(A, B)に専ら依存する(数式2)。即ち、リサジュー図楕円の長軸が水平であれば、A>Bであって、間接振動板の振動幅が直接振動板より相対的に小さく、間接振動板があまり鳴っていないことが分かる。また、リサジュー図楕円の長軸が垂直であれば、A<Bであって、間接振動板の振動幅が直接振動板より相対的に大きく、間接振動板がよく鳴っていることが分かる。更に、リサジュー図が円形であれば、A=Bであって、直接振動板と間接振動板の振動幅が等しく、両振動板の鳴りが同程度であることが分かる。
図6中に表記されているCCRIは、水平軸上の測定点数(H)に対する垂直軸上の測定点数(V)の比率(V/H)を表し、放射する自己ひびき音響の正準化度を表すCanonical Complex Rotation Indexである。この比が1に近いほど、グラフの外形が正方形に近づき、三次元振動構造体の間接振動板が振動する周波数の多いことを意味する。即ち、三次元振動構造体の、周波数に対する万遍ない応答性:普遍性を表す。
本発明の実施の形態1は、縦横対称の振動モードが周波数に応じて結合モードあるいは縮退モードを示す、厚み均一の正方形固体平板(非特許文献9)を、直交連結および対向連結して三次元構造化したことによって、すべての振動板が入力信号に対して均質に応答するので、どのような形状に構成された振動構造体が放射した、CCRI値が低い原自己ひびき音響信号にも対応して振動することができる。この潜在能力により、本発明の実施の形態1は、原音の自己ひびき音響の音質を再現できるのである。
図6自己ひびき音響スクエア・グラフのCCRI値は、1に近い0.90と0.88を示し、そのスパイラル輪郭がほぼスクエアである。このスクエア輪郭は、本発明の実施の形態1のモデルの周波数応答が、多様な自己ひびき音響に対応できること、即ち正準化(canonical)していることを意味する。この自己ひびき音響正準化応答性は、多様な自己ひびき音響信号入力に対応するために欠くことができない、装置自身の特性である。
これに対して、以下説明する数個の比較参考例はいずれも、自己ひびき音響スクエア・グラフの外形がスクエアからかけ離れ、低いCCRI値を示すことによって、自己ひびき音響のリプレイ装置としての利用に適さないことを明示している。これらの例は、unnaturalな音響あるいは個性的な音響を放射する例である。
【0020】

[振動板のスクエア特性比較:固体平板と従来ラウドスピーカー]
図7に、本発明の実施の形態1に適用可能な固体振動板と、従来ラウドスピーカーの振動板(diaphragm)のグラフを示す。図7Aは、正方形固体平板(シナベニヤ合板、辺長300mm、板厚4mm)の中心位置(裏面のエキサイター固定位置)と平板右上隅位置(隅から縦横2cm内側)のvery near field放射音のリサジュー図から描いた二次元自己ひびき音響スクエア・グラフである。このスクエア・スパイラル周波数特性は、単板自体が、二次元自己ひびき音響を生成するとは言え、そのCCRI値低いことを示す。
因みにピアノの音響は、大きな響板が生成する二次元自己ひびき音響である。従って、その音質はヴァイオリンの三次元自己ひびき音響よりも平板で、劣っている。古来、ヴァイオリンとピアノの合奏曲は多数作曲されきた。しかし、両楽器の音質は異なるので、合奏はたいへん大きな違和感を与える。
図7Bは、従来ラウドスピーカー(Fostex: FF105WK in P1000E)の振動膜中心近辺位置と下辺位置のvery near field放射音のリサジュー図から描いた周波数特性グラフである(スパイラル軌道を描かない)。測定点はすべて水平軸上に位置し、CCRI値=0。図7C は、そのリサジュー角度が、専ら2測定位置の振幅比率(B/A)に依存し、時間情報に無縁であることを示している。
この結果は、従来ラウドスピーカー振動膜の素材自体が、物性として、自己ひびき音響をまったく生成しないことを実証している。即ち、従来ラウドスピーカーは、自己ひびき音響信号に対して本質的に、何もしない(doing nothing)ことが明示されたのである。
【0021】
[練習用ヴァイオリンのスクエア・スパイラル周波数特性]
図8Aは、1練習用ヴァイオリン(Suzuki: Stradivarius model)の駒に固定したエキサイターに、正弦波音声信号を入力し、ヴァイオリンの表板下方バウツ右部位置と下方バウツ右側板位置の、それぞれvery near field放射音のリサジュー図から描いた三次元自己ひびき音響スクエア・グラフである。図8Bは、ヴァイオリンの表板下方バウツ右部位置と裏板中心位置の、それぞれvery near field放射音のリサジュー図から描いた三次元自己ひびき音響スクエア・グラフである。
図8は、この練習用ヴァイオリンの自己ひびき音響が、以下の特性を有することを示している。
(1) これは、練習用ヴァイオリン1台のデータなので、この結果がヴァイオリン一般の特性を示しているとは言えない。
(2) その前提において、裏板は、側板に比べ、CCRI値が有意に低く、十分鳴っていない。
(3) 図8は、少なくも練習用ヴァイオリンを、「楽器スピーカー」として使用すると、原音の自己ひびき音響を自己流に歪ませる可能性が高いことを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0022】
低音域モデルから高音域モデルまで、すべて同種類の、市販の等質、平面等方性合板が適用できるので、従来ラウドスピーカー・ユニットのように、金型設計製作等の先行投資回収プレッシャーに押されて、大口顧客(車載、TV専用等)からの、音質無視の注文に支配されることなく、全音域に亘って、原音の自己ひびき音響の有する音質と音色と感覚空間を、等音質、等音色で物理学的に低コスト復元するという、音質第一の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0023】
1 正方形の主板
2 正方形側板
3 正方形の後板
4 サウンドポスト
5 磁気回路可動型エキサイター
6 質量部材
【手続補正書】
【提出日】2022-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
縦横対称な振動を行い、二次元自己ひびき音響を放射する、音速4km/秒以上の平面等方性(planarly isotropic)固体の正方形平板6面と、音速4km/秒以上の固体サウンドポストとを、立方体状に構成した三次元構造体(3D structure)は、
1個の磁気回路可動型エキサイターが固定されて、該エキサイターによって直接的に加振される主板と、
該主板の四辺それぞれに、各1面あて、該主板と振動伝達可能に直交連結され、該側板の側辺同士も振動伝達可能に直交連結されて、該主板によって間接的に加振される、該主板と同サイズで同一素材の正方形4側板と、
その前端を該主板内面に、振動伝達可能に連結された、バー状のサウンドポストと、
該サウンドポストの後端に、該主板に対向する姿勢で、振動伝達可能に連結された、四辺を該側板と連結しない自由端として、該主板によって間接的に加振される、該主板と同一素材の正方形後板とより成る、
三次元振動構造体(3D vibration structure)であって、
該三次元振動構造体において、
該振動板の厚みに、側板<主板<後板の順位を適用し、
入力音声信号の周波数帯域に対して、振動板面積×周波数=一定の関係式を適用し、
該主板内面端部および該サウンドポストに、音速4km/秒以上の質量部材を固定して、該エキサイターが固定された該主板の加振力と、該4側板および該後板の質量をバランスしたことにより、
該三次元振動構造体を、1に近いCCRI(Canonical Complex Rotation Index)指数値によって表わされる、高い三次元自己ひびき音響正準化応答特性を示す、三次元自己ひびき音響正準化振動構造体となし、
原音声信号が包含する多様な自己ひびき音響に応じて、原音声の音質、音色、空間感覚を復元することを特徴とする三次元自己ひびき音響正準化複素空間オーディオ装置。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図6
【補正方法】変更
【補正の内容】
図6
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図12
【補正方法】変更
【補正の内容】
図12
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図13
【補正方法】変更
【補正の内容】
図13
【手続補正書】
【提出日】2022-08-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
本発明に関わる自己ひびき音響の物理的本態はこれまで未知であり、音響の専門家にとってもその聞き分けを主観に頼る以外に無い、心理学マターであった(1例として、非特許文献2)。主たる未知の内容は、下記の2点である。
(1)「ひびく音とひびかない音を別ける物理要素は何か?」 大聖堂やコンサート・ホールの残響は、放射後の音響が、天井や壁面によって区切られた空間において二次的に構成される空中事象(airborne matters)であるから、自己ひびき音響ではない。後にデータを示して詳述するが、従来ラウドスピーカー・ユニットは、平坦な出力(音圧)周波数特性を得るために、振動板(diaphragm)に高内部損失、低音速の素材を適用したうえに、ばね性のエッジとダンパーで振動板を懸架している(非特許文献3)。そのせいで、原音の位相ずれ信号物理的に応答しない。従ってその放射音は、原音の自己ひびき音響を物理的に全欠している。原音の自己ひびき音響を全欠した放射音に二次的な後処理を加えて作られる音響は、人工音であって、原音と物理的に何の関係もない。例えば従来ラウドスピーカー・ユニットの放射音を、内部に構成した音道をトラベルさせることによって、外形的な、あるいは見かけの位相遅れ音響を生成する幾種類ものエンクロージャーが提案されてきた。しかしその位相遅れ音響は似非自己ひびき音響であって、その音質は原音の自己ひびき音響物理的に無関係である。また、空間感を与えるために(実際には、創作するために)複数のスピーカー・システムを空間配置しても、それらが生成する感覚は、位置感覚であって、原音の誘起する空間感とは物性上何の関係もない。原料がコールタールのサッカリンは、植物が生産する砂糖ではない。両物質は、分子式のみならず、生体への作用・副作用もまったく異なる。原音の位相信号を失った音響に操作を加えたフェイクひびき音は、エルヴィスプレスリーの比類なき声質と似ても似つかない、「無関係な位相ずれ音」に過ぎない。番組「芸能人格付けチェック」で演奏される名器と練習用の楽器を、視聴者が、TVスピーカーからの、原ひびき音を失った音質で識別することは、物理的に絶対に不可能である。
(2)「自己ひびき音響が空中を拡散する物理的原理は何か?」 自己ひびき音響は、音響自体が空間感覚をもたらす、三次元構造を保持したまま、空気分子の運動(縦波、横波、熱)による擾乱を受けずに格子振動によって空中に拡散される。その空中拡散の物理的原理はまったく解明されていなかった。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
自己ひびき音響を三次元正準化するには、音域に対応する厚みの振動板を組み合わせなければならない
図3は、等質、同サイズ(240×240mm)の正方形固体平板において、同じ振動モードを励起する周波数が、板厚(T=4 mm, 5.5mm, 9mm)に依存して移動することを示している。
実施の形態1は、この正方形固体平板の特性を利用して、生成する自己ひびき音響を正準化している。
図14は、段落[0008]で述べた、板厚4 mmの正方形板から成る、側板平面連結モデル(図14A)と側板直交連結モデル(図14B)の自己ひびき音響スクエア・グラフ(後述する)である。これらのグラフとCCRI値は、本発明の実施の形態1の自己ひびき音響スクエア・グラフ(図6)に比して、有意に低レベルである。これらのデータは、正方形振動板を三次元構成しても、板厚が同じでは、自己ひびき音響の正準化ができないこと、および、自己ひびき音響の正準化は、音域にそれぞれ対応する板厚の正方形振動板を三次元構成することが不可欠であることを示している。
これにより、本発明の実施の形態1においては、主板1に板厚5.5mmを、側板2に板厚4 mmを、また、後板3に板厚9mmをそれぞれ適用して、自己ひびき音響の正準分布特性を実現している。
この厚みの配分は、低音域モデル、中音域モデル、高音域モデルに共通である。従って、各音域モデルは、振動板サイズに応じてシンプルに構成すればよい(図2、数式1)。このことが、実施の形態1の各音域モデルの音質の均質化を実現している。即ち、各音域モデルにおいて、三次元自己ひびき音響正準分布特性が実現される。
その余得として、音域音質の違いに対処するための、従来ラウドスピーカーにおけるクロスオーバー課題が発生しない。また、従来ラウドスピーカー技術における、スピーカー・ユニット機種ごとの、金型設計製作などの大型先行投資が不要になった。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
[実施の形態1の質量バランス調整]
実施の形態1は、磁気回路可動型エキサイターを固定された主板が、側板2、後板3とサウンドポストを保持し、それらに振動を伝達する第二の駆動要員として機能する構成である。そのため、磁気回路可動型エキサイター+主板の加振力と、その他の全要員の質量がバランスされていなければならない。この調整のために、必要に応じて質量部材6を主板1内面端部あるいはサウンドポスト4に固定する図1。質量部材6には、音速4km/秒以上の金属を素材とするウエイトが適用できる。低コストの鉛ウエイトは、音速が遅いため音質に有害であり、不適である。
図1において、エキサイター5固定の主板1の加振力を、厚みが小さい側板2の質量にバランスさせるため、主板1内面端部にウエイト6を固定している。ウエイト6の質量が相対的に不足であると、側板2が「鳴り過ぎて」、ひびきが過剰になる。逆に、ウエイト6の質量が相対的に過剰であると、側板2が沈黙し、ひびきが出ない。
また、図1において、エキサイター5固定の主板1の加振力を、厚みが大きい後板3とサウンドポスト4の質量にバランスさせるため、サウンドポスト4にウエイト6を固定している。後板3は、四辺が自由端であるため、この質量補正は、低音域ひびきの「出方」にとって重要である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
[実施の形態1の三次元正準化自己ひびき音響周波数特性]
図4は、既知の周波数正弦波信号により励振した、本発明の実施の形態1(正方形振動板の辺長150mmモデル)の主板中心位置(CH1: x軸)と後板中心位置(CH2: y軸)からの放射音響を、それぞれ10mm以下のvery near fieldに設置した2マイクロフォンで収音して描記した8個のリサジュー図である。図中の数値は、上記位置が発した音響の位相差角度とその周波数を表す。
上段4図は、位相差角がそれぞれ、0°、90°、180°、270°であることを示す。これらの4直交角度は、波形図(図示せず)を参照して、正確に読み取ることができる。いっぽう下段4図は、中間角度を示す。中間角度は、後述のように、本来の位相角のほかに、被測定2位置の放射音の音圧(振幅)にも依存するため、リサジュー図が示す角度は、位相差角と等しくない。
リサジュー図描記の基本図形は、下記の数式(数2)によって表される楕円形である。楕円の傾きは、楕円方程式第3項の係数によって表され、位相差(θ=α-β)余弦と、振幅(A)と(B)の積の、2パラメータに依存する。そのため、リサジュー図と波形から読み取ることのできるリサジュー角は、0°, 90°, 180°, 270°の4角度のみである。これらの角度においては、楕円方程式の形状パラメータは、振幅(A)と(B)に対応する長軸および短軸のみとなり、xy軸に対し傾かない楕円を描く(数式2)。
【数2】
振幅A=Bの場合は、位相ずれ角度に応じて、図5Aのようにリサジュー図が描かれる。角度が反時計回りに回転すると、リサジュー図形は、0から2πまで一周する。リサジュー角度の周波数特性を、重複を避けるためスパイラル状に描くと、図5Bが得られる。図5Bの直交軸において、横軸は位相差0°と 180°に対応し、縦軸は位相差90°と 270°に対応する。ここで、180°軸と270°軸に対応する周波数は負号表記されている。
リサジュー角の周波数依存回転は、位相差角を偏角θ’とする複素関数zA = a+biによって適切に表記される。回転は2複素関数の乗算によって表記される。偏角θ’の+90°回転は、複素関数zB = 0+iを、複素関数zAに乗算した、複素関数zC =-b+ai となり、zAからの実部と虚部の入れ替わりが表される。更なるzBの乗算により、偏角θ’の+180°回転が表記される。この回転は、直交軸上の0°, 90°, 180°, 270°の4角度において、90°ずつ進行する。この直交4角度は、前述のとおりリサジュー角から得られる、実用上参考に供せられる角度である。図5Bに示したスパイラル・グラフから、有効な直交軸上の値のみを残すと、スパイラル・グラフがスクエア状に描かれる。本発明技術においては、このグラフを、自己ひびき音響スクエア・グラフ(Ego sonority sound square graph)と呼んでいる。
図6は、本発明の実施の形態1の正方形振動板の辺長150mmモデルの自己ひびき音響スクエア・グラフである。図6Aは、主板(CH1: x軸)と右側板(CH2: y軸)の各中心位置における放射音響のvery near field測定値グラフを、また、図6Bは、主板(CH1: x軸)と後板(CH2: y軸)の各中心位置放射音響のvery near field測定値グラフを、それぞれ示している。
主板の測定位置の直下内面、即ち裏面の中心に磁気回路可動型エキサイターが固定されている。図6の水平軸上に記入された測定点は、直接振動板(主板)と間接振動板(側板あるいは後板)の位相ずれが0°あるいは180°であって、傾斜した直線図形で表される(図5)。その傾斜角度は、専ら両振動板の振動振幅(A, B)に依存する(数式2)。
これに対して図6の垂直軸上に記入された測定点は、直接振動板(主板)と間接振動板(側板あるいは後板)の位相ずれが90°あるいは270°であって、リサジュー図における楕円の傾き=0である。楕円形状(横長、円、縦長)は振動板の振動振幅(A, B)に専ら依存する(数式2)。即ち、リサジュー図楕円の長軸が水平であれば、A>Bであって、間接振動板の振動幅が直接振動板より相対的に小さく、間接振動板があまり鳴っていないことが分かる。また、リサジュー図楕円の長軸が垂直であれば、A<Bであって、間接振動板の振動幅が直接振動板より相対的に大きく、間接振動板がよく鳴っていることが分かる。更に、リサジュー図が円形であれば、A=Bであって、直接振動板と間接振動板の振動幅が等しく、両振動板の鳴りが同程度であることが分かる。
図6中に表記されているCCRIは、水平軸上の測定点数(H)に対する垂直軸上の測定点数(V)の比率(V/H)を表し、放射する自己ひびき音響の正準化度を表すCanonical Complex Rotation Indexである。この比が1に近いほど、グラフの外形が正方形に近づき、三次元振動構造体の間接振動板が振動する周波数の多いことを意味する。即ち、三次元振動構造体の、周波数に対する万遍ない応答性:普遍性を表す。
本発明の実施の形態1は、縦横対称の振動モードが周波数に応じて結合モードあるいは縮退モードを示す、厚み均一の正方形固体平板(非特許文献9)を、直交連結および対向連結して三次元構造化したことによって、すべての振動板が入力信号に対して均質に応答するので、どのような形状に構成された振動構造体が放射した、CCRI値が低い原自己ひびき音響信号にも対応して振動することができる。この潜在能力により、本発明の実施の形態1は、原音の自己ひびき音響の音質を再現できるのである。
図6自己ひびき音響スクエア・グラフのCCRI値は、1に近い0.90と0.88を示し、そのスパイラル輪郭がほぼスクエアである。このスクエア輪郭は、本発明の実施の形態1のモデルの周波数応答が、多様な自己ひびき音響に対応できること、即ち正準化(canonical)していることを意味する。この自己ひびき音響正準化応答性は、多様な自己ひびき音響信号入力に対応するために欠くことができない、装置自身の特性である。
これに対して、以下説明する数個の比較参考例はいずれも、自己ひびき音響スクエア・グラフの外形がスクエアからかけ離れ、低いCCRI値を示すことによって、自己ひびき音響のリプレイ装置としての利用に適さないことを明示している。これらの例は、unnaturalな音響あるいは個性的な音響を放射する例である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
[振動板のスクエア特性比較:固体平板と従来ラウドスピーカー]
図7に、本発明の実施の形態1に適用可能な固体振動板と、従来ラウドスピーカーの振動板(diaphragm)のグラフを示す。図7Aは、正方形固体平板(シナベニヤ合板、辺長300mm、板厚4mm)の中心位置(裏面のエキサイター固定位置)と平板右上隅位置(隅から縦横2cm内側)のvery near field放射音のリサジュー図から描いた二次元自己ひびき音響スクエア・グラフである。このスクエア・スパイラル周波数特性は、単板自体が、二次元自己ひびき音響を生成するとは言え、そのCCRI値低いことを示す。
因みにピアノの音響は、大きな響板が生成する二次元自己ひびき音響である。従って、その音質はヴァイオリンの三次元自己ひびき音響よりも平板で、劣っている。古来、ヴァイオリンとピアノの合奏曲は多数作曲されきた。しかし、両楽器の音質は異なるので、合奏はたいへん大きな違和感を与える。
図7Bは、従来ラウドスピーカー(Fostex: FF105WK in P1000E)の振動膜中心近辺位置と下辺位置のvery near field放射音のリサジュー図から描いた周波数特性グラフである(スパイラル軌道を描かない)。測定点はすべて水平軸上に位置し、CCRI値=0。図7C は、そのリサジュー角度が、専ら2測定位置の振幅比率(B/A)に依存し、時間情報に無縁であることを示している。
この結果は、従来ラウドスピーカー振動膜の素材自体が、物性として、自己ひびき音響をまったく生成しないことを実証している。即ち、従来ラウドスピーカーは、自己ひびき音響信号に対して本質的に、何もしない(doing nothing)ことが明示されたのである。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
[正方形固体平板が二次元自己ひびき音響を放射する]
段落[0003]の(3)において、ヴァイオリンの音響放射基本構成は振動板の三次元構成である、と述べた。ヴァイオリンの基本形を、振動物理学的観点から、数々の修飾要素を取り除くことにより抽出すると、その究極モデルとして、縦横対称な振動モードを示す正方形平板6面を三次元構成した、立方体形状に到達する。
本発明は、この基本形状に基づき、自ら粘弾性振動して、多位相ずれ亜音響から成る音束を放射し、固体と空気の音速勾配によって生じたエネルギーにより空中に三次元正準化自己ひびき音響を生成し、空気の高い動粘性に基づく格子振動によりそれを空中に拡散する三次元構造体により、原音の多様な自己ひびき音響を復元する、自己ひびき音響正準化特性(ego sonority sound canonical feature)を実現したものである。
三次元自己ひびき音響正準化の基本要員は、励振周波数に対して縦横対称な振動モードを示す、正方形固体平板である。正方形固体平板における振動モードとその放射音響について、説明する。図12中央のクラドニ・パターン(Chladni pattern)は、裏面中央(Pc)に固定したエキサイター(図示せず)の312.5Hz正弦波励振によって惹き起こされた、厚み一定の正方形平板(240×240×5.5mm、シナベニヤ合板、音速:4km/秒以上)の振動モード((2,0)+(0,2))を示している。(以下説明の「平板」は、一々断らないが、すべてそれぞれの厚みが全面に亘って一定な平板である。)その周辺8図は、段落[0003]で述べたvery near field測定法で測定した、平板各位置が放射した音響間のリサジュー図である。内側の4図は、形成した節領域(nodal area)内の白点位置と黒点の中央位置(Pc)が放射した音響間のリサジュー図であり、また、外側の4図は、平板4隅の腹領域(anti-nodal area)内の黒点位置と、対応する節領域内の白点位置が放射した音響間のリサジュー図である。(各リサジュー図の原図は、ドットの集合で描かれており、2ビット変換により不可視化するため、輪郭を、原図の長軸角度に一致させた楕円で描いている。)各リサジュー図下辺に記入された数値は、位相シフトに伴う遅延時間である。節領域は一様に励振点に同期するいっぽう、正方形の4隅領域は一様に200°以上、逆位相(πシフト)を超えて位相がシフトし、1.7ミリ秒程度の時間遅れ音響を放射している。巨視的には、リングモードに4隅領域が追随するモードを示している。
図12は、固体平板の各振動モード領域が、固体粘性によって遅延した音響を放射し、平板全体が、これらの多位相音響を一まとめにして、励振波と同じ周波数の1音を放射し、二次元自己ひびき音響を形成することを実証する世界初のデータである。
このように縦横対称な振動モードを示す正方形平板を6面、相互に連結し、立方体形状に三次元構成することによって、固体平板の自己ひびき音響生成特性が三次元構成され、三次元自己ひびき音響正準化オーディオ装置が実現される。次に、正方形平板6面の相互連結による構造化と、放射音響の位相ずれについて説明する。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図12
【補正方法】変更
【補正の内容】
図12