(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061015
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】水硬性硬化体の膨張量測定方法、及び膨張コンクリートの拘束膨張量推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20230424BHJP
【FI】
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170753
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長塩 靖祐
(72)【発明者】
【氏名】乙茂内 郁美
(57)【要約】
【課題】本発明は、人数や多大な労力をかけなくても、JIS A 6202の試験方法によって得られる膨張コンクリートの拘束膨張量と同等の測定結果が得られる簡易な測定方法を提供するものである。
【解決手段】φ5×10cmの円柱型枠の外側面に、ひずみゲージを高さ方向の中央位置に円周方向に沿って貼り付け、当該円柱型枠にセメント、膨張材、細骨材及び最大寸法が10mm以下の粗骨材を含む水硬性材料を充填し、硬化後の膨張ひずみ量を測定することを特徴とする水硬性硬化体の膨張量測定方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
φ5×10cmの円柱型枠の外側面に、ひずみゲージを高さ方向の中央位置に円周方向に沿って貼り付け、当該円柱型枠にセメント、膨張材、細骨材及び最大寸法が10mm以下の粗骨材を含む水硬性材料を充填し、硬化後の膨張ひずみ量を測定することを特徴とする水硬性硬化体の膨張量測定方法。
【請求項2】
前記ひずみゲージのゲージ長が6mm以下である請求項1に記載の水硬性硬化体の膨張量測定方法。
【請求項3】
前記細骨材と前記粗骨材の質量比(細骨材の質量/粗骨材の質量)が1.0~3.5である請求項1または2に記載の水硬性硬化体の膨張量測定方法。
【請求項4】
膨張コンクリートで使用する材料と、同一の膨張材、同種のセメント及び同種の骨材を使用し、請求項1~3いずれか1項に記載の膨張量測定方法によって測定した膨張ひずみ量をもって、JISA 6202の付属書Bに規定された拘束膨張試験法による膨張コンクリートの拘束膨張量を推定することを特徴とする膨張コンクリートの拘束膨張量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張コンクリートの膨張量の測定方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
膨張コンクリートの膨張量を測定するには、JIS A 6202の附属書B(参考)に規定された一軸拘束状態における膨張コンクリートの拘束膨張試験方法(A法)に準拠して行うのが一般的であるが、専用の測定装置が必要となるため限られた機関での対応になること、また、その測定に技術を要するため測定者が限られることが多い。そのため、最近では膨張コンクリートの膨張量の新たな確認方法も提案されている(特許文献1)。しかし、これらのいずれの方法もコンクリートを練って試験体を成型して測定に供する必要があり、コンクリートを練るには多大な準備や人数をかけて行うことになる。そのため人数や多大な労力をかけなくても膨張コンクリートの膨張量を測定する簡易的な方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、人数や多大な労力をかけなくても、JIS A 6202の試験方法によって得られる膨張コンクリートの拘束膨張量と同等の測定結果が得られる簡易な測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意測定方法を検討した結果、JIS法と同等の試験結果が得られる簡易な測定方法を見出した。すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔4〕を提供するものである。
〔1〕φ5×10cmの円柱型枠の外側面に、ひずみゲージを高さ方向の中央位置に円周方向に沿って貼り付け、当該円柱型枠にセメント、膨張材、細骨材及び最大寸法が10mm以下の粗骨材を含む水硬性材料を充填し、硬化後の膨張ひずみ量を測定することを特徴とする水硬性硬化体の膨張量測定方法。
〔2〕前記ひずみゲージのゲージ長が6mm以下である請求項1に記載の水硬性硬化体の膨張量測定方法。
〔3〕前記細骨材と前記粗骨材の質量比(細骨材の質量/粗骨材の質量)が1.0~3.5である請求項1または2に記載の水硬性硬化体の膨張量測定方法。
〔4〕膨張コンクリートで使用する材料と、同一の膨張材、同種のセメント及び同種の骨材を使用し、請求項1~3いずれか1項に記載の膨張量測定方法によって測定した膨張ひずみ量をもって、JISA 6202の付属書Bに規定された拘束膨張試験法による膨張コンクリートの拘束膨張量を推定することを特徴とする膨張コンクリートの拘束膨張量推定方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、人数や多大な労力をかけなくても、簡易な方法によって水硬性硬化体の膨張量を測定することができ、以て膨張コンクリートの拘束膨張量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】円柱型枠の外観形状とひずみゲージの貼り付け位置を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0008】
第1の発明は、水硬性硬化体の膨張量測定方法である。
具体的には、φ5×10cmの円柱型枠の外側面に、ひずみゲージを高さ方向の中央位置に円周方向に沿って貼り付け、当該円柱型枠にセメント、膨張材、細骨材及び最大寸法が10mmの粗骨材を含む水硬性材料を充填し、硬化後の膨張ひずみ量を計測することによって膨張量を測定することを特徴とする水硬性硬化体の膨張量測定方法である。以下、詳細に説明する。
【0009】
<水硬性材料>
本発明の測定方法における水硬性材料は、セメント、膨張材、細骨材及び最大寸法が10mm以下の粗骨材を含む。
【0010】
水硬性材料に用いるセメントは、一般にモルタルコンクリートで使用されるセメントであれば特に限定されるものではなく、例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメント等が挙げられる。
【0011】
水硬性材料に用いる膨張材は、コンクリート用膨張材であれば特に限定されるものではなく、具体的には、石灰系膨張材、エトリンガイト系膨張材、エトリンガイト-石灰複合系膨張材等が挙げられる。膨張材の配合量は、セメントと膨張材の合計100質量部に対して、3~10質量部が好ましい。
【0012】
水硬性材料に用いる細骨材としては、一般にモルタルコンクリートで使用される細骨材を用いる。具体的には5mm以下の粒子が85%以上の骨材である。また、5mmを超える粒子含有率が5%以下であることが好ましく、さらに、1.2mm未満の粒子含有率が50%以上であることが好ましく、2.5mm未満の粒子含有率が70%以上であることが好ましい。
【0013】
水硬性材料に用いる粗骨材としては、一般にコンクリートで使用される粗骨材であって、最大寸法が10mm以下のものを用いる。10mmを超える粗骨材を用いるとひずみ量の測定値のばらつきが大きくなる。さらに、寸法が1.2~10mmのものが好ましく、2.5~6mmのものがより好ましい。例えば7号砕石等を使用することができる。
【0014】
細骨材と粗骨材の比率は、質量比(細骨材の質量/粗骨材の質量)で1.0~3.5が好ましく、1.2~2.75がより好ましい。
【0015】
骨材(細骨材及び粗骨材)の配合量は、セメントと膨張材の合計100質量部に対して、170~380質量部が好ましい。200~350質量部がより好ましく、250~300質量部がさらに好ましい。
【0016】
本発明の水硬性材料はさらに水を含むことができる。通常のモルタルコンクリートで使用される水であれば、特に限定されるものではなく、例えば水道水等を使用することができる。水の配合量は、セメントと膨張材の合計100質量部に対して、40~60質量部が好ましい。
【0017】
本発明の水硬性材料は、上記の材料の他に、適宜、混和剤を含むことができる。混和剤としては、減水剤、高性能減水剤、AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤等が挙げられる。混和剤の添加量は、セメントと膨張材の合計量に対して0.2~2.0質量%が好ましい。
【0018】
<型枠>
本発明の測定方法において用いる型枠は、φ5×10cmの円柱型枠である。型枠は薄肉のものが好ましく、その厚さは2.0mm以下が好ましい。2mmを超えると、ひずみゲージの測定感度が低下する虞がある。より好ましくは、0.3~1.0mmである。円柱型枠の材質は特に限定されるものではないが、強度等の面から鋼製のものが好ましい。
【0019】
<ひずみゲージ>
ひずみゲージは、円柱型枠の外側面であって、型枠の高さ方向の中央位置に円周方向に沿って貼り付ける。ひずみゲージのゲージ長は10mm未満が好ましい。10mm以上の場合、膨張コンクリートの拘束膨張量に対して膨張ひずみ量が大きく評価される虞がある。ゲージ長は6mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましい。下限としては1mm以上が好ましい。
【0020】
<水硬性硬化体の作製>
セメント、膨張材及び骨材を水と共に練り混ぜた水硬性材料を、円柱型枠に充填し、所定の材齢まで養生し硬化させることによって水硬性硬化体が作製される。水硬性材料の練り混ぜは、通常のモルタルミキサを使用することができる。練り混ぜ時間は2~5分間が好ましい。なお、セメントと膨張材は、あらかじめ十分に混合しておくことが好ましい。水硬性材料は、円柱型枠に隙間なく充填する。充填後、表面をならし、表面からの水分蒸発を防ぐために、蓋やプラスチックフィルムなどにより型枠上面を密閉する。その後、所定の材齢まで養生される。養生は、温度20±2℃、湿度50%以上の状態とする。
【0021】
<膨張ひずみ量の測定方法>
作製した水硬性硬化体の所定材齢の膨張ひずみ量をひずみゲージで測定する。水硬性硬化体の供試体の個数は、同一条件の試験に対して3個とし、その平均値をもって水硬性硬化体の膨張ひずみ量とする。
【0022】
第2の発明は、膨張コンクリートの拘束膨張量推定方法である。
本発明の測定方法によって、膨張コンクリートの拘束膨張量推定する場合、膨張コンクリートで使用する材料と、同一の膨張材、同種のセメント及び同種の骨材を使用する。
【0023】
本発明における同一の膨張材とは、同じメーカーの同一の製品を意味する。例えば、膨張コンクリートに太平洋マテリアル社製「太平洋エクスパン」を使用する場合は、本測定方法においても「太平洋エクスパン」を用いる。
【0024】
ここで、膨張材は、その性能によって膨張材20型と膨張材30型に区分される。通常のコンクリートにおいて、収縮補償を目的として使用する場合、標準的な使用量を単位量20kg/m3とする膨張材を膨張材20型といい、標準的な使用量を単位量30kg/m3とする膨張材を膨張材30型という。本発明の水硬性材料における膨張材の配合量は、膨張材20型を用いる場合はセメントと膨張材の合計100質量部に対して6.7質量部を基準とする。一方、膨張材30型を用いる場合はセメントと膨張材の合計100質量部に対して10質量部を基準とする。
【0025】
本発明における同種のセメントとは、同じ種類のセメントを意味する。例えば、膨張コンクリートにおいて普通ポルトランドセメントを使用する場合は、本測定方法においても普通ポルトランドセメントを用いる。
【0026】
本発明における同種の骨材とは、同じ岩石種の骨材を意味する。例えば、膨張コンクリートにおいて石灰石骨材を使用する場合は、本測定方法においても石灰石骨材を用いる。さらに、同じ産地の骨材を使用することが好ましいが、入手が困難な場合は同じ岩石種の骨材であれば用いることができる。
【0027】
骨材について、細骨材の配合量は、セメントと膨張材の合計100質量部に対して170~380質量部となることが好ましい。さらに、細骨材と10mm以下の粗骨材の比率は、膨張コンクリートの拘束膨張率との誤差の観点から、質量比(細骨材の質量/粗骨材の質量)で1.0~3.5が好ましく、1.2~2.75がより好ましい。2.0を基準とする。
【0028】
水の配合量(水量)は、セメントと膨張材の合計100質量部に対して50質量部を基準とする。膨張コンクリートにおける水量が、セメントと膨張材の合計100質量部に対して、40~60質量部の範囲にある場合は、本測定方法における水量を、セメントと膨張材の合計100質量部に対して50質量部とすることで特に問題にはならない。但し、膨張コンクリートにおける水量が、40質量部未満、あるいは60質量部を超える場合は、膨張コンクリートにおける水量を考慮し、本測定方法における水量もほぼ同等の質量比となるよう設定することが好ましい。
【0029】
本発明によれば、本測定方法による水硬性硬化体の膨張ひずみ量を測定することによって、膨張コンクリートの拘束膨張量を推定することができる。通常は材齢7日の膨張ひずみ量を測定することによって膨張コンクリートの拘束膨張量を推定する。
【実施例0030】
以下に、本測定方法による実施例を示して詳細に説明するが、以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(1)円柱型枠の準備
円柱型枠はφ5×10cmの鋼製型枠(前田製作所社製、厚さ:0.3mm)を使用した。この円柱型枠1の外側面中央位置に、ゲージ長5mm及び10mmのひずみゲージ(東京測器研究所社製)2を円周方向に沿って貼り付け、ひずみゲージのリード線3をひずみ量測定装置4に接続した(
図1)。
【0032】
(2)水硬性硬化体の作製
下記に示す使用材料を用い、水硬性材料を作製した。セメントと膨張材はあらかじめ十分混合したものを準備した。水硬性材料の練り混ぜはモルタルミキサを用いて3分間行った。練り混ぜた水硬性材料をひずみゲージを貼り付けた円柱型枠に充填した。充填後、上面をプラスチックフィルムで覆い、20℃、湿度60%の条件で、7日間気中養生し、水硬性硬化体の供試体とした。供試体は1水準に対し3本作製した。
【0033】
<使用材料>
1)セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、密度:3.16g/cm3)
2)細骨材:掛川産山砂、0.15~5mmの粒子含有率が85%以上、2.5mm以下82%、密度2.58g/cm3
3)粗骨材:桜川産7号砕石、寸法2.5~6mm、密度2.64g/cm3
4)膨張材:コンクリート用膨張材「太平洋ハイパーエクスパン」、太平洋マテリアル社製
5)水:水道水
6)混和剤:AE減水剤「マスターポリヒード15S」、ポゾリスソリューションズ社製
【0034】
(3)膨張ひずみ量の測定
水硬性材料の硬化後、水硬性硬化体の材齢7日におけるひずみ量をひずみゲージにより測定し、このひずみ量を水硬性硬化体の膨張ひずみ量とした。
【0035】
(4)JIS法による膨張コンクリートの拘束膨張量の測定
膨張コンクリートの拘束膨張量(長さ変化率)を、JIS A 6202の試験方法に準じて測定した。表1に膨張コンクリートの配合を示す。セメント、膨張材及び細骨材は、上記の使用材料と同じものを使用した。粗骨材は桜川産砕石(寸法5~20mm;密度2.64g/cm3)を使用した。この膨張コンクリートの拘束膨張量は、206×10-6であった。
【0036】
【0037】
(5)測定結果
各使用材料の配合量及び測定結果を表2に示す。試験例1~6の膨張ひずみ量は、JIS A 6202の試験方法による拘束膨張量に対して誤差が10%以内の値であることが分かった。従って、骨材比率としては、概ね1.0~3.5が好ましい。また、ひずみゲージのゲージ長は5mmが好ましい。ゲージ長が10mmの場合(試験例9)、膨張ひずみ量は拘束膨張量に対して10%以上大きな値となった。
【0038】