(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061016
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】研磨パッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/20 20120101AFI20230424BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20230424BHJP
B24D 3/32 20060101ALI20230424BHJP
B24D 11/00 20060101ALI20230424BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
B24B37/20
B24D3/00 340
B24D3/00 320B
B24D3/32
B24D11/00 E
H01L21/304 622F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170754
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】後藤 崇将
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 将太
【テーマコード(参考)】
3C063
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C063AA03
3C063AB05
3C063AB07
3C063BA02
3C063BB01
3C063BB02
3C063BB07
3C063BC03
3C063BD01
3C063EE10
3C063EE15
3C063FF23
3C063FF30
3C158AA05
3C158AA09
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
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3C158ED02
3C158ED09
3C158ED10
3C158ED11
5F057AA24
5F057BA11
5F057BB09
5F057CA11
5F057DA03
5F057DA08
5F057DA39
5F057EB03
5F057EB05
5F057EB07
5F057EB10
5F057EB13
5F057EB30
(57)【要約】
【課題】ウェハの研磨加工において、研磨粒子半固定型の研磨パッドの研磨粒子にダイヤモンド粒子を用いつつ、高い研磨能率を発揮させる。
【解決手段】本発明の研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材20と、母材20内又は気孔内に保持された研磨粒子30とを有し、被研磨物を研磨する研磨面40aを構成している。気孔は複数の独立気孔20aを含み、研磨粒子30は独立気孔20a内に保持されたダイヤモンド粒子30aを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、被研磨物を研磨する研磨面を構成する研磨パッドにおいて、
前記気孔は複数の独立気孔を含み、
前記研磨粒子は前記独立気孔内に保持されたダイヤモンド粒子を含むことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記研磨面に平行な断面における前記独立気孔が占める総面積Sと、単位面積当たりの前記ダイヤモンド粒子の粒子数Nとを積算した有効作用粒子数X(X=S×N)が、0.5≦Xを満足する請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記研磨粒子はシリカ粒子又はセリア粒子を含む請求項1又は2記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記ダイヤモンド粒子は平均粒径が5~10μmであり、
前記シリカ粒子又は前記セリア粒子は平均粒径が0.2μmである請求項3記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記ダイヤモンド粒子を6vol%以上含み、かつ、前記シリカ粒子を6vol%以上含む請求項3又は4記載の研磨パッド。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の研磨パッドを製造する方法であって、
核生成成長型の相分離過程が生じるように、バインダ樹脂を溶剤に溶解した樹脂溶液、前記研磨粒子及び気孔形成剤を含むペーストを得る混合工程と、
前記ペーストからシート状の成形体を得る成形工程と、
前記成形体に対して前記相分離過程を経て、前記バインダ樹脂を硬化させるとともに前記独立気孔を形成する気孔形成工程と、を有することを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【請求項7】
前記研磨粒子はシリカ粒子を含み、
前記ペーストは、前記ダイヤモンド粒子を除き、前記バインダ樹脂を25~30vol%、前記シリカ粒子を0~10vol%及び前記溶剤を60~75vol%含み、かつ、前記バインダ樹脂に対する前記シリカ粒子の体積比が0.4以下である請求項6記載の研磨パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3に従来の研磨パッドが開示されている。これらの研磨パッドは、母材と、研磨粒子とを有している。母材は、樹脂からなり、複数の気孔が形成されている。樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、エポキシ樹脂、PES(ポリエーテルスルホン)等が用いられている。研磨粒子は、シリカ等からなり、母材内又は気孔内に保持されている。
【0003】
これらの研磨パッドは、混合工程、成形工程及び気孔形成工程を経て製造される。混合工程では、バインダ樹脂を溶剤に溶解した樹脂溶液、研磨粒子及び気孔形成剤を含むペーストを得る。成形工程では、ペーストからシート状の成形体を得る。気孔形成工程では、成形体に対して相分離過程を経て、バインダ樹脂を硬化させるとともに気孔を形成する。気孔形成工程で得られた中間体は、表面及び/又は裏面が研削され、被研磨物を研磨する研磨面が構成される。
【0004】
こうして得られた研磨パッドは、研磨粒子半固定型研磨パッドであり、研磨粒子を含まない研磨液や単なる水を研磨液として採用しつつ、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法の研磨加工に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-49256号公報
【特許文献2】特開2021-61306号公報
【特許文献3】特許6243009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えばSiCウェハをCMP法により研磨加工する場合、一般に、厚さ調整を行う粗ラッピング加工を行った後、仕上げラッピング加工を行う。これらの研磨加工では、研磨粒子として他の粒子よりも硬いダイヤモンド粒子を用いるのが効率的である。
【0007】
しかし、発明者らの試験結果によれば、上記従来の研磨パッドでは、SiCウェハの研磨加工において、十分な研磨能率が得られない。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ウェハの研磨加工において、研磨粒子半固定型の研磨パッドの研磨粒子にダイヤモンド粒子を用いつつ、高い研磨能率を発揮させることを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、被研磨物を研磨する研磨面を構成する研磨パッドにおいて、
前記気孔は複数の独立気孔を含み、
前記研磨粒子は前記独立気孔内に保持されたダイヤモンド粒子を含むことを特徴とする。
【0010】
発明者らは、研磨粒子半固定型研磨パッドの母材の気孔内にダイヤモンド粒子を保持させても、ウェハの研磨加工において十分な研磨能率が得られない理由について鋭意検討した。そして、研磨加工時に多くのダイヤモンド粒子が母材から脱落しており、実質的に研磨加工に寄与しているダイヤモンド粒子が不足しているのではないかと考えた。
【0011】
そこで、研磨加工時における母材に対するダイヤモンド粒子の滞留性を向上させることを指向した。そのためには母材の気孔構造が重要であると考え、母材に独立気孔を形成して独立気孔内にダイヤモンド粒子を保持させることを想起した。こうして得た研磨パッドを用いてウェハを研磨加工する試験を行ったところ、十分な研磨能率が得られることが実証された。これらの知見に基づき、本発明は完成された。
【0012】
本発明の研磨パッドは、研磨粒子として他の粒子と比べて硬いダイヤモンド粒子を含んでいる。また、母材には独立気孔が形成されており、その独立気孔内にダイヤモンド粒子が保持されている。独立気孔とは、母材内で独立して存在するか、一定径以上の細孔と連通していない気孔をいう。独立気孔に対する用語としては、連続気孔が存在するが、連続気孔は、互いに連通しているか、一定径以上の細孔と連通している気孔をいう。細孔は、研磨パッドの製造時に成形体中の溶剤を置換する際に不可避的に生じる。本発明において、発明者らの確認によれば、独立気孔は、1μm以上の細孔と連通していない気孔をいう。上記従来の研磨パッドの気孔は、互いに連通しているか、1μm以上の細孔と連通した連続気孔であり、本発明の研磨パッドにおける独立気孔とは異なる。
【0013】
発明者らの試験結果によれば、本発明の研磨パッドは、例えばSiCウェハを被研磨物として研磨加工したときの研磨能率を向上させることができる。これは、研磨加工時における母材に対するダイヤモンド粒子の滞留性が向上し、実質的に研磨加工に寄与し得るダイヤモンド粒子を十分に確保できたためと考えられる。ダイヤモンド粒子の滞留性が向上する要因は、独立気孔が核生成成長型の相分離によって生じることから、連続気孔が生じるよりも濃度勾配が急であり、連続気孔の側壁よりも厚い側壁を有し、ダイヤモンド粒子が独立気孔内に保持され易くなるためであると推察している。
【0014】
したがって、本発明の研磨パッドによれば、ウェハの研磨加工において、研磨粒子半固定型研磨パッドの研磨粒子にダイヤモンド粒子を用いつつ、高い研磨能率を発揮できる。
【0015】
本発明の研磨パッドの製造方法は、本発明の研磨パッドを製造する方法であって、
核生成成長型の相分離過程が生じるように、バインダ樹脂を溶剤に溶解した樹脂溶液、前記研磨粒子及び気孔形成剤を含むペーストを得る混合工程と、
前記ペーストからシート状の成形体を得る成形工程と、
前記成形体に対して前記相分離過程を経て、前記バインダ樹脂を硬化させるとともに前記独立気孔を形成する気孔形成工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
混合工程では、気孔形成工程において核生成成長型(Nucleation Growth)の相分離過程が生じるように、バインダ樹脂、溶剤及び研磨粒子の各成分の体積比を適切に調整する。これにより、気孔形成工程において核生成成長型の相分離過程を生じさせる。核生成成長型の相分離が起これば、スピノーダル分解型(Spinodal Decomposition)の相分離過程と異なり、球状で孤立した多数の溶剤リッチ相が樹脂リッチ相中に分散する。これらの溶剤リッチ相はその大きさや相互位置が不規則であり、また、溶剤リッチ相と樹脂リッチ相との界面の濃度勾配が急である。そして、溶剤の除去及びバインダ樹脂の硬化を経ることで、大きさが不規則で不規則に分散した複数の独立気孔を母材に形成することができる。なお、独立気孔内の溶剤は、細孔から場合によっては連続気孔を経て母材外に排出される。こうして得られた母材においては、母材内又は気孔内に研磨粒子が保持されている。そして、研磨粒子としてのダイヤモンド粒子が母材に形成された独立気孔内に保持され易い。
【0017】
発明者らの試験結果によれば、このようなペーストとすることで、母材の気孔構造を適切な大きさの独立気孔を複数有する独立気孔構造とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ウェハの研磨加工において、研磨粒子半固定型研磨パッドの研磨粒子にダイヤモンド粒子を用いつつ、高い研磨能率を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例1~9の研磨パッドに係り、気孔形成工程後の中間体を模式的に示す拡大断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1~9の研磨パッドに係り、切削工程後の研磨パッドを模式的に示す拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
【
図4】
図4は、実施例2の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
【
図5】
図5は、実施例3の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の2000倍のSEM写真である。
【
図6】
図6は、実施例4の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
【
図7】
図7は、実施例5の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
【
図8】
図8は、実施例6の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
【
図9】
図9は、実施例7の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
【
図10】
図10は、実施例8の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
【
図11】
図11は、実施例9の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
【
図12】
図12は、比較例1の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の700倍のSEM写真である。
【
図13】
図13は、比較例2の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
【
図14】
図14は、実施例1、3~7及び比較例1、2の各研磨パッドについて、研磨能率(加工レート)を調べた結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例1、3~7及び比較例1の各研磨パッドについて、有効作用粒子数Nと、研磨能率(加工レート)との関係を示すグラフである。
【
図16】
図16は、サンプルAの研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の2000倍のSEM写真である。
【
図17】
図17は、サンプルBの研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の2000倍のSEM写真である。
【
図18】
図18は、サンプルCの研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の2000倍のSEM写真である。
【
図19】
図19は、サンプルDの研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の2000倍のSEM写真である。
【
図20】
図20は、サンプルEの研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の2000倍のSEM写真である。
【
図21】
図21は、サンプルFの研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の2000倍のSEM写真である。
【
図22】
図22は、サンプルGの研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の2000倍のSEM写真である。
【
図23】
図23は、サンプルHの研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の2000倍のSEM写真である。
【
図24】
図24は、サンプルIの研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の2000倍のSEM写真である。
【
図25】
図25は、ペーストにおける溶剤、バインダ樹脂及びシリカ粒子の組成比と、気孔構造との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
独立気孔の気孔径としては、1~100μ程度とすることができ、2~20μm程度とすることが好ましい。独立気孔の平均気孔径としては、5~10μmとすることが好ましく、7.5~8.5μmとすることがより好ましい。独立気孔の平均気孔径が小さすぎると、独立気孔内にダイヤモンド粒子を保持させることが困難になる。独立気孔の平均気孔径が大きすぎると、母材としての剛性を維持することが困難になる。母材に形成される気孔には、連続気孔が含まれていてもよい。
【0021】
研磨加工時における母材に対するダイヤモンド粒子の滞留性の評価の指標として、例えば以下に示す有効作用粒子数を考えることができる。この有効作用粒子数は、研磨面に平行な断面において独立気孔が占める総面積をSとし、単位面積当たりのダイヤモンド粒子の粒子数をNとしたとき、S値とN値とを積算したX(X=S×N)の値である。
【0022】
発明者らの試験結果によれば、研磨加工時における母材に対するダイヤモンド粒子の滞留性を良好なものとする観点より、有効作用粒子数Xの値は、0.5≦Xであるのが好ましく、2.0≦Xであるのがより好ましく、15≦Xであるのが特に好ましい。
【0023】
独立気孔の気孔径は、画像解析装置により、研磨面に平行な断面のSEM写真を二値化処理し、例えば二値化画像中で白くつながった部位で囲まれた黒の領域を1つの粒子として認識して測定することができる。
【0024】
母材を構成する樹脂としては、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニル・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリエチレン、ポリメタクリル酸メチル等を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0025】
ダイヤモンド粒子は、母材内や連続気孔内に保持されていてもよいが、独立気孔内に保持されている。ダイヤモンド粒子としては、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、疑似多結晶ダイヤモンドの何れであってもよい。
【0026】
ダイヤモンド粒子の平均粒径としては、1~20μm程度とすることができ、3~15μmとすることが好ましく、5~10μmとすることがより好ましい。ダイヤモンド粒子の平均粒径が大きすぎると、脱落し易くなるとともに、被研磨物にスクラッチを生じやすい。ダイヤモンド粒子の平均粒径が小さすぎると、十分な研磨能率を得ることが困難になる。
【0027】
本発明の研磨パッドは、研磨粒子として、ダイヤモンド粒子以外の研磨粒子を含んでいてもよい。ダイヤモンド粒子以外の研磨粒子としては、シリカ粒子、セリア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子、マンガン酸化物粒子、炭酸バリウム粒子、酸化クロム粒子、酸化鉄粒子等を挙げることができる。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0028】
研磨粒子は、ダイヤモンド粒子の他、シリカ粒子又はセリア粒子を含むことが好ましい。発明者らの試験結果によれば、シリカ粒子やセリア粒子をダイヤモンド粒子とともに研磨粒子として研磨パッドを製造すると、ペーストの粘性が上り、独立気孔を形成し易い。また、シリカ粒子やセリア粒子は、ダイヤモンド粒子と比べて軟質であるため、緩衝作用及び潤滑作用を発揮しうる。また、セリア粒子は化学的研磨作用も期待できる。このため、被研磨物に対するダイヤモンド粒子によるスクラッチを抑えることが期待される。
【0029】
発明者らの試験結果によれば、本発明の研磨パッドは、ダイヤモンド粒子を6vol%以上含み、かつ、シリカ粒子を6vol%以上含むことが好ましい。この場合、SiCウェハの研磨加工において十分な研磨能率が得られ、またダイヤモンド粒子によるスクラッチを抑制できる研磨パッドを容易に製造することができる。
【0030】
シリカ粒子やセリア粒子等、ダイヤモンド粒子以外の研磨粒子の平均粒径としては、0.05~0.5μm程度とすることができ、0.1~0.3μmとすることが好ましく、0.15~0.25μmとすることがより好ましい。ダイヤモンド粒子以外の研磨粒子の平均粒径が大きすぎたり、小さすぎたりすると、樹脂溶液と研磨粒子とを含むペーストの粘度を適切に調整することが困難になる。
【0031】
発明者らの試験結果によれば、ダイヤモンド粒子は平均粒径が5~10μmであり、シリカ粒子又はセリア粒子は平均粒径が0.2μmであることが好ましい。この場合、樹脂溶液と研磨粒子とを含むペーストの粘度を適切に調整することができ、独立気孔を形成し易い。また、緩衝作用及び潤滑作用によって被研磨物に対するダイヤモンド粒子によるスクラッチを抑え易い。
【0032】
本発明の研磨パッドにおける各成分の体積比は、研磨パッド全体を100vol%としたとき、樹脂:24~43vol%、ダイヤモンド粒子を含む研磨粒子:9~23vol%、気孔:35~64vol%であることが好ましい。研磨粒子としてシリカ粒子又はセリア粒子を含む場合における各成分の体積比は、研磨パッド全体を100vol%としたとき、樹脂:24~43vol%、ダイヤモンド粒子:6~14vol%、シリカ粒子又はセリア粒子:6~14vol%、気孔:35~64vol%であることが好ましい。
【0033】
本発明の研磨パッドの製造方法の混合工程において、研磨粒子がシリカ粒子を含む場合、ペーストは、ダイヤモンド粒子を除き、バインダ樹脂を25~30vol%、シリカ粒子を0~10vol%及び溶剤を60~75vol%含み、かつ、バインダ樹脂に対するシリカ粒子の体積比が0.4以下であることが好ましい。このようにすることで、母材に適切な独立気孔構造を形成することができる。
【0034】
溶剤としては、母材を構成する樹脂を溶解するものであれば何でもよく、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドやジメチルスルホキシド等を用いることができる。
【0035】
気孔形成剤は、母材に形成される気孔構造を調整するために添加される。気孔形成剤としては、油性の溶剤を採用する場合には、水溶性のものを用いることができる。水溶性の気孔形成剤としては、例えば、グラニュー糖を粉状に挽いた粉糖、コーンスターチ等を用いることができる。
【0036】
ペーストには、必要に応じて添加剤を添加してもよい。添加剤としては、溶剤に対する樹脂の溶解性を調整するためのグリセリン等を挙げることができる。
【0037】
成形工程は特に限定されず、Tダイ等の成形装置を用いてシート状の成形体に成形する。この成形方法についてはある程度厚みを揃えることができればこれに限られない。
【0038】
気孔形成工程では、例えば、水温を10°C以下に調整した貯水槽に成形体を所定時間浸漬することにより、核生成成長型の相分離過程を生じさせる。これにより、球状で孤立し、その大きさや相互位置が不規則な多数の溶剤リッチ相が樹脂リッチ相中に分散する。この際、溶剤リッチ相における溶剤は、比重差により水に置換される。
【0039】
このように気孔形成工程においては、油性の溶剤を採用した場合、水道水等の水性の液体を置換液として採用し、この置換液中に成形体を浸漬することで、核生成成長型の相分離過程を経て樹脂リッチ相中に溶剤リッチ相を分散させると同時に、その溶剤リッチ相における溶剤を置換液に置換して成形体から溶剤を取り除くことができる。この際、孤立した各溶剤リッチ相と成形体の外部とは樹脂リッチ相中に形成された細孔を介して連通され、細孔を介して溶剤と置換液とが置換される。このように成形体から溶剤が除去されると、樹脂リッチ相が収縮して硬化するとともに、その樹脂リッチ相中に微小な連続気孔が形成される。また、水道水等の水性の液体を置換液として採用し、この置換液中に成形体を浸漬することで、水溶性の気孔形成剤も同時に除去することができる。
【0040】
溶剤及び気孔形成剤が除去された成形体は、乾燥工程を経ることで、中間体とされる。中間体の表面及び/又は裏面を切削して研磨面を構成し、本発明の研磨パッドとされる。
【0041】
(試験1)
<準備工程>
以下のバインダ樹脂、研磨粒子、溶剤、気孔形成剤及び添加剤を準備した。
【0042】
(バインダ樹脂)
PES(ポリエーテルサルフォン)
(研磨粒子)
ダイヤモンド粒子(平均粒径:5μm、10μm)
シリカ粒子(SiO2 )粒子(平均粒径:0.2μm)
セリア粒子(CeO2 )粒子(平均粒径:0.2μm)
(溶剤)
N-メチル-2-ピロリドン
(気孔形成剤)
グラニュー糖の粉糖
(添加剤)
グリセリン
【0043】
<混合工程>
上記バインダ樹脂、研磨粒子、溶剤、気孔形成剤及び添加剤の各成分を表1の調合比(質量部)で混合し、ペーストを得た。この際、気孔形成工程において核生成成長型の相分離過程が生じるように、バインダ樹脂及び溶剤の体積比を適切に調整した。得られたペーストについて、JIS K 7244-10に準じて、平行平板振動レオメータにより40°Cの粘度(Pa・s)を測定した。その結果を表1に併せて示す。また、得られたペーストにおいては、気孔形成工程において核生成成長型の相分離過程が生じるように、バインダ樹脂及び溶剤の体積比が適切に調整されている。
【0044】
【0045】
<成形工程>
得られた各ペーストを用い、Tダイを用いてシート状の成形体を得た。
【0046】
<気孔形成工程、乾燥工程>
貯水槽に貯留し、水温を10°C以下に調整した水道水中に成形体を所定時間浸漬した。これにより、成形体において核生成成長型の相分離過程を生じさせ、樹脂リッチ相中に球状で孤立した多数の溶剤リッチ相を分散させるとともに、成形体内の溶剤を水道水で置換して成形体から溶剤及び気孔形成剤を除去した。
【0047】
得られた中間体10を常温の大気中に2日程度放置することにより、中間体10から水分を除去した。実施例1~9の中間体10の模式断面図を
図1に示す。
【0048】
各中間体10は、母材20と、研磨粒子30とを有している。母材20は、樹脂からなり、複数の独立気孔20aと、複数の連続気孔(図示せず)と、細孔(図示せず)とが形成されている。独立気孔20aは、1μm未満の細孔とは連通しているが、1μm以上の細孔と連通していない気孔である。連続気孔は、互いに連通しているか、1μm以上の細孔と連通している気孔である。細孔は、独立気孔20a及び連続気孔以外の気孔である。
【0049】
また、研磨粒子30は、ダイヤモンド粒子30aと、シリカ粒子(又はセリア粒子)30bである。ダイヤモンド粒子30aやシリカ粒子(又はセリア粒子)30bは、母材20内や連続気孔内に保持されてもいるが、独立気孔20a内に保持されている。
【0050】
各中間体10の表面を研削し、
図2に示すように、被研磨物を研磨する研磨面40aが構成される。こうして研磨パッド40が得られる。各研磨パッド40も、樹脂からなり、複数の気孔20a等が形成された母材20と、母材20内又は独立気孔20aを含む気孔内に保持された研磨粒子30とを有している。各研磨パッド40は、直径300mm、厚さ2mmの円板状のものである。
【0051】
各研磨パッドについて、各成分の体積比(vol%)、密度(g/cm3 )及びデュロメータ硬度(ショアD)を測定した。結果を表2に示す。
【0052】
【0053】
また、各研磨パッド40について、研磨面40aと平行な断面のSEM写真を
図3~
図13に示す。
図3~
図11から明らかなように、実施例1~9の研磨パッド40は独立気孔構造を有し、多数の独立気孔20a内に研磨粒子30としてのダイヤモンド粒子30aが保持されていることがわかる。
【0054】
一方、
図12及び
図13に示すように、比較例1、2の研磨パッド40では、独立気孔構造が形成されておらず、つまり母材が独立気孔を有しておらず、連続気孔及び細孔のみを有していることがわかる。
【0055】
実施例1、3~7及び比較例1、2の各研磨パッド40について、ウェハ研磨試験装置を用いて、以下の加工試験条件でSiCウェハを研磨加工して、研磨能率(加工レート)(μm/分)を調べた。
【0056】
<試験条件>
試験機:ウェハ研磨装置(Engis EJW-380)
ワーク(被研磨物):SiCウェハ(4インチ)
研磨液:水
研磨液量:10ml/分
加工圧:20kPa
定盤/ワーク回転数:60/60rpm
【0057】
結果を
図14に示す。
図14から明らかなように、実施例1、3~7の研磨パッド40は、いずれも比較例1の研磨パッド40よりも加工レートが向上している。これは、独立気孔20a内にダイヤモンド粒子30aが良好に保持されることで、研磨加工時において母材20に対するダイヤモンド粒子30aの滞留性が向上し、その結果、実質的に研磨加工に寄与しているダイヤモンド粒子30aを十分に確保できたためと考えられる。
【0058】
なお、比較例2の研磨パッドの加工レートが比較例1の研磨パッドの加工レートよりも向上したのは、比較例1におけるダイヤモンド粒子30aの粒子径が10μmであるのに対して、比較例2におけるダイヤモンド粒子30aの粒子径が5μmであるため、比較例2の研磨パッド内に含有されるダイヤモンド粒子30aの粒子数が比較例1のものの4倍となり、加工時のワークに接触するダイヤモンド粒子30aの粒子数が増加したためと考えられる。
【0059】
(試験2)
実施例1~9及び比較例1、2の各研磨パッド40について、ダイヤモンド粒子30aの滞留性を評価した。すなわち、実施例1~9及び比較例1、2の各研磨パッド40について、画像解析装置により、研磨面40aに平行な断面のSEM写真を二値化処理し、独立気孔が占める総面積S(μm2 )を算出した。また、研磨面30aに平行な断面における単位面積当たりのダイヤモンド粒子30aの粒子数N(count/μm2 )を求めた。そして、S値とN値とを積算して求めたX(X=S×N)(count)値を有効作用粒子数とした。得られた結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
表3においては、有効作用粒子数Xについて、X<0.5を×、0.5≦X<2.0を△、2.0≦X<15を○、15≦Xを◎と評価した。表3及び
図14から明らかなように、有効作用粒子数Xが他より大きな実施例7の研磨パッド40は、他の研磨パッド40と比べて加工レートが大きく向上していることがわかる。
【0061】
(試験3)
実施例1、3~7及び比較例1の各研磨パッド40について、有効作用粒子数Xと加工レートとの関係を調べた。その結果を
図15に示す。
図15から明らかなように、有効作用粒子数Xと加工レートとの間には、おおよそ比例関係があると認められた。
【0062】
(試験4)
表4に示すように、前記混合工程において、バインダ樹脂、シリカ粒子及び溶剤の各組成を異ならせてペーストを調製した。つまり、各ペーストには、ダイヤモンド粒子は含まれていない。各ペーストから、サンプルA~Iの研磨パッドを得た。
【0063】
【0064】
サンプルA~Iの研磨パッドについて、研磨面に平行な断面のSEM写真を
図16~
図24に示す。また、ペーストにおけるバインダ樹脂、シリカ粒子及び溶剤の組成比と気孔構造との関係を表4及び
図25に示す。表4には、バインダ樹脂に対するシリカ粒子の体積比も記載した。
図25においては、母材の気孔構造について、独立気孔が形成されていない網目構造を×、独立気孔は形成されていたが、ダイヤモンド粒子よりも小さな微小な独立気孔しか形成されていなかったものを△、ダイヤモンド粒子よりも大きな独立気孔が多数形成されていた良好な独立気孔構造のものを○と評価した。
【0065】
表4及び
図25から明らかなように、各ペーストにおいて、バインダ樹脂を25~30vol%、シリカ粒子を0~10vol%及び溶剤を60~75vol%含み、かつ、バインダ樹脂に対するシリカ粒子の体積比が0.4以下であれば、良好な独立気孔構造となることがわかる。
【0066】
以上において、本発明を試験1~4に即して説明したが、本発明は上記各試験例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は半導体デバイスの製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
20a…独立気孔
20…母材
30…研磨粒子
30a…ダイヤモンド粒子
30b…シリカ粒子(又はセリア粒子)
40a…研磨面
40…研磨パッド