(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061035
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】抗疲労又は疲労回復用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7004 20060101AFI20230424BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20230424BHJP
A23L 33/125 20160101ALN20230424BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61P3/02
A23L33/125
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170782
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【上記2名の代理人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】飯田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴子
(72)【発明者】
【氏名】小池 晃彦
(72)【発明者】
【氏名】都築 孝允
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE05
4B018MD28
4B018ME14
4B018MF02
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA01
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZC21
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、安全性が高い物質であって運動後の疲労を防止又は回復させる物質を有効成分とする、抗疲労又は疲労回復用組成物を提供することにある。
【解決手段】 これまでの抗疲労又は疲労回復用組成物は、主にアミノ酸ペプチドを利用したものが多く、単糖、しかも摂取時のエネルギーが0kcal/gの単糖が、抗疲労又は疲労回復に与える影響は知られていなかった。一方、D-プシコースは、エネルギー0kcal/gの単糖であるにもかかわらず、食経験や各種安全性試験によりその安全性は十分確認されている。そして、そのD-プシコースが運動後の疲労を回復させることが今般明らかとなったため、D-プシコースを含む組成物を提供することにより上記課題は達成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-プシコースを含む、抗疲労又は疲労回復用組成物。
【請求項2】
D-プシコースを一日当たり0.3~50g/kg体重を7日以上摂取する、請求項1記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗疲労用又は疲労回復用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
疲労には、精神的疲労と肉体的疲労があり、例えば、日本疲労学会は、「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養への願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」と定めている。
【0003】
近年、その疲労を予防又は改善しようと、抗疲労又は疲労回復用の成分が種々提案され、例えば、イミダゾールジペプチドを利用した抗疲労又は疲労回復用組成物(特許文献1、2)、乳清蛋白質加水分解物を利用した抗疲労又は疲労回復用組成物(特許文献3)、グルタチオンを含む疲労回復用組成物(特許文献4)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-8202号公報
【特許文献2】特開2002-338473号公報
【特許文献3】特開2019-77649号公報
【特許文献4】特開2021-20881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、安全性が高い物質であって運動後の疲労を防止又は回復させる物質を有効成分とする、抗疲労又は疲労回復用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これまでの抗疲労又は疲労回復用組成物は、主にアミノ酸ペプチドを利用したものが多く、単糖、しかも摂取時のエネルギーが0kcal/gである単糖が、抗疲労又は疲労回復に与える影響はこれまで知られていなかった。そのような状況下、本発明者らは、エネルギーが0kcal/gである単糖のD-プシコースが、運動後の疲労を回復させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下[1]~[2]からなる。
[1]D-プシコースを含む、抗疲労又は疲労回復用組成物。
[2]D-プシコースを一日当たり0.3~50g/kg体重を7日以上摂取する、上記[1]記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物は、安全性の高い組成物であるため日常的に継続摂取することができ、適宜の摂取により運動後の疲労を回復するまでの時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】強制運動をさせた9週齢の各マウスがケージ内回転ウイールを回転させた回数を日々計測して平均化し、強制運動前7日間の平均回転数で除した値を経過日数に対してプロットしたグラフである(この時点で投与群AEと対照群EはいずれもD-プシコース未投与であり、群分けは事後的なものである)。
【
図2】
図1の試験終了後、4週間のインターバルを取り、14週齢となった各マウスに2回目の強制運動をさせた。その後、そのマウスがケージ内回転ウイールを回転させた回数を日々計測して平均化し、2回目の強制運動前7日間の平均回転数で除した値を経過日数に対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の「疲労回復」とは、疲労の予防を含むが、主には運動後の疲労を回復させる又は疲労回復を促進させることを指し、例えば、ある個体の通常の平均運動量を100としたときに、一定運動後の平均運動量がその100に近づくまでに要する時間が通常より短くなる、又は一定運動後短時間のうちに一般的な個体の平均運動量を上回る運動が可能となることをいう。より具体的には、J Phys Fitness Sports Med, 2(3): 373-379 (2013)に記載されるように、有効成分非摂取期間にマウスがケージ内で回転ウイールを1日に回転させる平均回数を100としたときに、マウスに有効成分を投与後、トレッドミル走で強制運動させてケージに戻して以降、回転ウイールを1日に回転させる回数が100に近づくまでに要した日数が非投与マウス群より少ないとき、又は非投与マウス群より回転ウイールを回転させる回数が有意に多いときに、「疲労回復」したと判断できる。
【0011】
本発明で使用する「D-プシコース」は、市販されるものを利用すればよく、D-プシコースを高度に含有する製品としては、例えば「Astraea」(松谷化学工業株式会社製)を利用することができ、混合品としては、例えば、D-プシコースを約7%含有する「レアシュガースウィート」(松谷化学工業株式会社製)を用いることができる。もっとも、後者のような混合シロップの場合、粉末の剤とするには粉末化工程を得る必要があることや、有効成分であるD-プシコースが非常に少ないばかりか過半が不要なD-グルコースとD-フラクトースであるため、D-プシコースを少なくとも15質量%以上、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上含む、D-プシコース含有粉末品又は結晶品を用いるのがよい。なお、D-プシコースの測定方法は、糖の分析方法として一般的な公知の高速液体クロマトグラフ法(例えば、高峰ら著、「アルカリ異性化を用いた希少糖含有シロップの製造方法およびαグルコシダーゼの阻害作用」、応用糖質科学(2015)、第5巻、第1号p.44-49を参照)を用いて測定することができる。
【0012】
本発明にいう疲労回復効果は、このD-プシコースを有効成分として含む組成物を投与したときに得られる。投与の方法は、経口投与がもっとも簡便ではあるが、静脈内、腹腔内、皮下投与などの非経口での投与も可能である。投与する組成物の形態としては、経口摂取であれば、錠剤状、顆粒状、カプセル状、シロップ状の組成物が挙げられ、非経口摂取であれば、注射剤、点滴剤、塗付剤、座薬状剤などが挙げられる。そして、後述する有効量を効率よく投与するため、組成物中に0.1~50%、3~30%程度含まれていればよい。
【0013】
本発明の有効成分であるD-プシコースの投与量は、本発明の効果が発揮される量であればよく、投与形態のほか被投与者の年齢や体重等により若干異なるが、ヒト成人(50kg)であれば、D-プシコースとして1日当たり0.3~50g、好ましくは0.5~30g、1~20g、又は3~15g投与すればよい。また、その投与期間は特に限定されないが、単回でなく継続して摂取することが好ましく、1日~6か月、より好ましくは3日~3ヶ月、1週間~5週間の期間摂取するのがよい。
【0014】
本発明の組成物は、D-プシコース以外の抗疲労又は疲労回復用素材を組合わせて調製することもでき、例えば、先述のイミダゾールジペプチド、乳清蛋白質加水分解物、グルタチオン、ビタミンB類などを併用することもできる。
【実施例0015】
以下、実験例を提示して本発明を詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これら実験例に限定されるものではない。
【0016】
(マウスの飼育)
6週齢のC57BL/6Jマウスを13匹入手し、1週間環境に順化させた後、2週目以降(7週齢~)、ケージ内の回転ウイール(ENV-047,Med Associates Inc, St Albans, VT, USAを使用)で自由にランニングできる環境(自発運動)で飼育し、毎日の運動量を測定した(ウイール管理のソフトウェアはUSB インターフェース(HUB) DIG-807、収録ソフトウェアはSOF-860)。また、強制運動に慣れさせる目的で30分間のトレッドミル走(MK-690S, Muromachi Kikai Co., Ltd., Tokyo, Japanを使用)を週2回行った(2週目は10m/分、3週目は20m/分)。5週目以降(10週齢~)、マウスを2群に分け、うち1群には、それまで与えていた通常餌のAIN93G粉末(Oriental Yeast Co. Ltd.Tokyo, Japan)中にD-プシコースが3%となるように添加した餌を与え(投与群AE)、もう1群には、カロリー量が同等となるように3%のセルロースを添加した餌を与えて、4週間飼育した(対照群E)。
【0017】
(疲労回復試験(常時運動量の確認))
疲労からの回復力は、マウスを強制運動により完全疲労状態としておき、その後、そのマウスがケージ内の回転ウイールを1日当たり回転させる回数により確認することとした。この疲労回復試験にあたっては、事前にマウスの常時運動量の確認をした;まず、D-プシコース添加餌を与える前の9週齢のマウス(平均体重25.2±0.13g)にランニング速度5m/分のトレッドミル走を10分させてから2m/分ごとに20m/分まで上げ、マウスの背中を1分間に5回押しても、走ることを続けることができなくなった時点で終了させた(完全疲労状態)。その直後、マウスをケージ内に移して回転ウイールでの走行量(回転数)を日々計測した。その結果を
図1に示す。
図1は、強制運動させた9週齢の各マウスがケージ内回転ウイールを回転させた回数を日々計測してその平均回数を算出しておき、これを強制運動前7日間の平均回転数で除した値を経過日数に対してプロットしたものである。この時点では、投与群AEと対照群EはいずれもD-プシコース未投与であって、群分けは事後的なものである。この結果から、各マウスの生来的な運動能力に個体差はさほどないことが確認された。
【0018】
(疲労回復試験(強制運動後の運動量の確認))
先の常時運動量の確認試験終了後、投与群マウス(7匹)については餌を3%D-プシコース添加餌に切替えて4週間飼育し(その間、ケージ内で回転ウイールでの運動は行っている)、14週齢となったマウス(計13匹)に2回目の強制運動をさせた。その直後、マウスをケージ内に移して回転ウイールでの走行量(回転数)を日々計測した。その結果を
図2に示す。
図2は、2回目に強制運動させた14週齢の各マウスがケージ内回転ウイールを回転させた回転数を日々計測してその平均回数を算出しておき、これを2回目の強制運動前7日間の平均回転数で除した値を経過日数に対してプロットしたものである。その結果、強制運動直後より、D-プシコース投与群(AE群、平均体重26.4±0.13g、平均餌摂取量4.07±0.19g)のほうが対照群(E群、平均体重27.0±0.13g、平均餌摂取量4.15±0.22g)より運動量が多く、4日目まで同様の結果が続いた。また、対照群(E群、非投与群)では常時運動量に回復するまで6日以上要したのに対し、D-プシコース投与群(AE群)では強制運動後3日ですでに常時運動量まで回復していた。
【0019】
以上より、D-プシコースの投与により、強度運動直後の疲労回復力が上がり、また。回復までにかかる時間を短縮できることがわかった。このような効果を有するD-プシコースを含有する組成物は、抗疲労又は疲労回復用の組成物として利用することができる。