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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061072
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】トンネル施工管理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20230424BHJP
   E21B 44/00 20060101ALI20230424BHJP
   G06N 3/02 20060101ALI20230424BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20230424BHJP
   G01V 1/00 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
E21D9/00 C
E21B44/00 A
G06N3/02
G06N20/00
G01V1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170839
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】三河内 永康
(72)【発明者】
【氏名】末松 幸人
(72)【発明者】
【氏名】大野 義範
(72)【発明者】
【氏名】三上 浩
【テーマコード(参考)】
2D129
2G105
【Fターム(参考)】
2D129AA04
2D129AB05
2D129AB13
2D129BA05
2D129HA04
2D129JA01
2G105AA02
2G105BB01
2G105BB02
2G105BB07
2G105DD02
2G105EE02
2G105LL03
2G105LL04
2G105LL05
2G105LL06
2G105LL08
(57)【要約】
【課題】トンネル掘削工事において岩盤の破砕形態の制御および爆薬量の削減を達成しつつ、発破後の湧水状態の正確な予測を施工者に依存することなく達成する。
【解決手段】3次元トンネル形状データを取得するための3次元スキャナ(S1)と、トンネル内での騒音・振動データを取得する騒音振動センサ(S2)と、トンネル内の湧水量データを取得する水量センサ(S3)と、切羽の熱分布画像データを取得するサーモグラフィカメラ(S4)と、発破工程で採用された第1の穿孔パターンおよび爆薬量と、前記3次元トンネル形状データと、騒音・振動データと、湧水量データと、前記熱分布画像データを入力し、熱分布画像データから切羽の湧き水箇所および水量を推定し、機械学習モデル(M1~M3)を用いて少なくとも次の発破工程で採用される第2の穿孔パターンおよび爆薬量を予測するプロセッサ(102~107)を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル施工管理システムであって、
3次元トンネル形状データを取得するための3次元スキャナと、
トンネル内での騒音・振動データを取得する騒音振動センサと、
トンネル内の湧水量データを取得する水量センサと、
切羽の熱分布画像データを取得するサーモグラフィカメラと、
発破工程で採用された第1の穿孔パターンおよび爆薬量と、前記3次元トンネル形状データと、前記騒音・振動データと、前記湧水量データと、前記熱分布画像データを入力し、少なくとも次の発破工程で採用される第2の穿孔パターンおよび爆薬量を予測する少なくとも1つのプロセッサと、
を有し、
前記プロセッサが、
前記熱分布画像データから前記切羽の湧き水箇所および水量を推定し、
前記3次元トンネル形状データから取得したトンネル形状変化と、前記騒音・振動データから取得された地質状況と、前記湧水量データから取得した水量変化と、前記切羽の湧き水箇所および水量と、前記第1の穿孔パターンおよび爆薬量とを入力し、機械学習モデルを用いて前記第2の穿孔パターンおよび爆薬量を予測する、
ことを特徴とするトンネル施工管理システム。
【請求項2】
前記プロセッサが、前記切羽の熱分布画像データから所定の基準レベル以上の濃度で表示される領域を湧き水箇所として識別し、当該領域の濃度に応じて水量を推定することを特徴とする請求項1に記載のトンネル施工管理システム。
【請求項3】
前記3次元トンネル形状データから取得された時系列トンネル形状データと、前記騒音・振動データから取得された地質状況データと、前記湧水量データから取得された時系列水量データと、前記湧き水箇所および水量の時系列データと、を格納する記憶部を更に有し、
前記記憶部に格納された前記時系列トンネル形状データ、前記地質状況データ、前記時系列水量データおよび前記湧き水箇所および水量の時系列データを前記機械学習モデルの機械学習に利用することを特徴とする請求項1または2に記載のトンネル施工管理システム。
【請求項4】
前記機械学習モデルは、穿孔パターンおよび爆薬量予測モデル、トンネル形状予測モデル、および湧き水箇所・水量予測モデルからなることを特徴とする請求項1-3のいずれか1項に記載のトンネル施工管理システム。
【請求項5】
トンネル掘削工事における施工管理方法であって、
3次元スキャナが3次元トンネル形状データを取得し、
騒音振動センサがトンネル内での騒音・振動データを取得し、
水量センサがトンネル内の湧水量データを取得し、
サーモグラフィカメラが切羽の熱分布画像データを取得し、
少なくとも1つのプロセッサが、
前記熱分布画像データから前記切羽の湧き水箇所および水量を推定し、
機械学習モデルを用いて、前記3次元トンネル形状データから取得したトンネル形状変化と、前記騒音・振動データから取得された地質状況と、前記湧水量データから取得した水量変化と、前記切羽の湧き水箇所および水量と、前記第1の穿孔パターンおよび爆薬量とに基づいて、少なくとも次の発破工程で採用される第2の穿孔パターンおよび爆薬量を予測する、
ことを特徴とするトンネル施工管理方法。
【請求項6】
前記プロセッサが、前記切羽の熱分布画像データから所定の基準レベル以上の濃度で表示される領域を湧き水箇所として識別し、当該領域の濃度に応じて水量を推定することを特徴とする請求項5に記載のトンネル施工管理方法。
【請求項7】
前記3次元トンネル形状データから取得された時系列トンネル形状データと、前記騒音・振動データから取得された地質状況データと、前記湧水量データから取得された時系列水量データと、前記湧き水箇所および水量の時系列データと、を記憶部に格納し、
前記プロセッサが、前記記憶部に格納された前記時系列トンネル形状データ、前記地質状況データ、前記時系列水量データおよび前記湧き水箇所および水量の時系列データを前記機械学習モデルの機械学習に利用することを特徴とする請求項5または6に記載のトンネル施工管理方法。
【請求項8】
前記機械学習モデルは、穿孔パターンおよび爆薬量予測モデル、トンネル形状予測モデル、および湧き水箇所・水量予測モデルからなることを特徴とする請求項5-7のいずれか1項に記載のトンネル施工管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は道路用、鉄道用あるいは水路用などのトンネルの掘削工事における施工管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルを掘削する際には地山の状態に応じた工法が用いられるが、硬い土質の山岳地では発破工法が用いられる。発破工法では、ドリルジャンボにより切羽に多数の装薬孔を穿孔し、装薬孔に雷管を取り付けた爆薬を挿入して爆破することで切羽を掘削し、続いてトンネル周壁面やトンネル床面を掘削して所定形状にした後、切羽を平坦に掘削して次回の装薬孔を穿孔する、という工程を繰り返すことでトンネルの掘削工事が進められる。
【0003】
発破工程においてトンネルの切羽に装薬孔をどのようなパターンで穿孔するかは、岩盤の破砕形態の制御、爆薬量の削減および大量の湧水回避のために重要である。穿孔パターンの設計法の一例は、たとえば特許文献1に開示されている。特許文献1によれば、穿孔パターンの設計は設計者がコンピュータと対話しながら必要な情報を入力あるいは選択しながら行われる。
【0004】
特にトンネルの切羽前方に地下水が存在すると発破工程で多量の湧き水が発生するために、切羽前方の地下水の状態を事前に知ることはトンネル施工を安全に進める上でも極めて重要である。特許文献2には、赤外線カメラを用いて取得された切羽の温度分布画像から湧水発生エリアの特定および地下水状態の予測あるいは評価を行うシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010-513757号公報
【特許文献2】特開2010-101799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたシステムでは、穿孔パターンの設計が設計者の経験に基づいて行われている。また上記特許文献2に開示されたシステムは切羽の温度分布から地下水の状態を予測あるいは評価するものであり、発破後の湧水状態を正確に予測することができない。このように、上記背景技術では、発破後の湧水状態を正確に予測することができない上に、自動化が困難であり設計者あるいは施工者によるばらつきを避けることができない。
【0007】
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的はトンネル掘削工事において岩盤の破砕形態の制御および爆薬量の削減を達成しつつ、発破後の湧水状態の正確な予測を施工者に依存することなく達成できるトンネル施工管理システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため本発明の一実施の形態によれば、トンネル施工管理システムであって、3次元トンネル形状データを取得するための3次元スキャナと、トンネル内での騒音・振動データを取得する騒音振動センサと、トンネル内の湧水量データを取得する水量センサと、切羽の熱分布画像データを取得するサーモグラフィカメラと、発破工程で採用された第1の穿孔パターンおよび爆薬量と、前記3次元トンネル形状データと、前記騒音・振動データと、前記湧水量データと、前記熱分布画像データを入力し、少なくとも次の発破工程で採用される第2の穿孔パターンおよび爆薬量を予測する少なくとも1つのプロセッサと、を有し、前記プロセッサが、前記熱分布画像データから前記切羽の湧き水箇所および水量を推定し、前記3次元トンネル形状データから取得したトンネル形状変化と、前記騒音・振動データから取得された地質状況と、前記湧水量データから取得した水量変化と、前記切羽の湧き水箇所および水量と、前記第1の穿孔パターンおよび爆薬量とを入力し、機械学習モデルを用いて前記第2の穿孔パターンおよび爆薬量を予測する、ことを特徴とする。
また本発明の一実施の形態によれば、前記プロセッサが、前記切羽の熱分布画像データから所定の基準レベル以上の濃度で表示される領域を湧き水箇所として識別し、当該領域の濃度に応じて水量を推定することができる。
また本発明の一実施の形態によれば、前記3次元トンネル形状データから取得された時系列トンネル形状データと、前記騒音・振動データから取得された地質状況データと、前記湧水量データから取得された時系列水量データと、前記湧き水箇所および水量の時系列データと、を格納する記憶部を更に有し、前記記憶部に格納された前記時系列トンネル形状データ、前記地質状況データ、前記時系列水量データおよび前記湧き水箇所および水量の時系列データを前記機械学習モデルの機械学習に利用することができる。
また本発明の一実施の形態によれば、前記機械学習モデルは、穿孔パターンおよび爆薬量予測モデル、トンネル形状予測モデル、および湧き水箇所・水量予測モデルからなることができる。
前記目的を達成するため本発明の一実施の形態によれば、トンネル掘削工事における施工管理方法であって、3次元スキャナが3次元トンネル形状データを取得し、騒音振動センサがトンネル内での騒音・振動データを取得し、水量センサがトンネル内の湧水量データを取得し、サーモグラフィカメラが切羽の熱分布画像データを取得し、少なくとも1つのプロセッサが、前記熱分布画像データから前記切羽の湧き水箇所および水量を推定し、機械学習モデルを用いて、前記3次元トンネル形状データから取得したトンネル形状変化と、前記騒音・振動データから取得された地質状況と、前記湧水量データから取得した水量変化と、前記切羽の湧き水箇所および水量と、前記第1の穿孔パターンおよび爆薬量とに基づいて、少なくとも次の発破工程で採用される第2の穿孔パターンおよび爆薬量を予測する、ことを特徴とする。
また本発明の一実施の形態によれば、前記プロセッサが、前記切羽の熱分布画像データから所定の基準レベル以上の濃度で表示される領域を湧き水箇所として識別し、当該領域の濃度に応じて水量を推定することができる。
また本発明の一実施の形態によれば、前記3次元トンネル形状データから取得された時系列トンネル形状データと、前記騒音・振動データから取得された地質状況データと、前記湧水量データから取得された時系列水量データと、前記湧き水箇所および水量の時系列データと、を記憶部に格納し、前記プロセッサが、前記記憶部に格納された前記時系列トンネル形状データ、前記地質状況データ、前記時系列水量データおよび前記湧き水箇所および水量の時系列データを前記機械学習モデルの機械学習に利用することができる。
また本発明の一実施の形態によれば、前記機械学習モデルは、穿孔パターンおよび爆薬量予測モデル、トンネル形状予測モデル、および湧き水箇所・水量予測モデルからなることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施の形態によれば、トンネル形状変化と、地質状況と、湧水量変化と、切羽の湧き水箇所および水量と、前の穿孔パターンおよび爆薬量とを入力し機械学習モデルを用いて前記第2の穿孔パターンおよび爆薬量を予測するので、トンネル掘削工事において岩盤の破砕形態の制御および爆薬量の削減を達成しつつ、発破後の湧水状態の正確な予測を施工者に依存することなく達成する上で有利となる。
また、本発明の一実施の形態によれば、サーモグラフィカメラにより取得される切羽の熱分布画像データから湧き水箇所および水量を推定するので、発破後の湧水状態の正確な予測を施工者に依存することなく達成する上で有利となる。
また、本発明の一実施の形態によれば、時系列トンネル形状データ、地質状況データ、時系列水量データおよび湧き水箇所および水量の時系列データを蓄積することで、機械学習モデルの機械学習に利用することができ、迅速で的確な穿孔パターンおよび爆薬量の予想が可能となる。
また、本発明の一実施の形態によれば、機械学習モデルとして穿孔パターンおよび爆薬量予測モデルに加えてトンネル形状予測モデル、水量予測モデルおよび湧き水箇所・水量予測モデルを用いることで、予測された穿孔パターンおよび爆薬量を用いてトンネル形状予測、水量予測および湧き水箇所および水量予測を行う事ができ予測精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態によるトンネル施工管理システムを適用したトンネル掘削工事における装薬孔の穿孔工程を示すトンネル断面図(A)および発破後の形状測定工程を示すトンネル断面図(B)である。
図2】本実施形態によるトンネル施工管理システムの機能的構成の一例を示すブロック図である。
図3】本実施形態によるトンネル施工管理システムの熱分布画像に基づく湧き水箇所および水量予測機能を説明するための模式図である。
図4】本実施形態によるトンネル施工管理方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1に示すトンネル掘削工事を一例として、本発明の一実施形態によるトンネル施工管理システムについて詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、トンネル10内には3DスキャナS1、騒音・振動センサS2、水量センサS3、およびサーモグラフィカメラS4が設けられている。3DスキャナS1は移動可能な台車に搭載されており、切羽12近傍の3次元形状を取得することができる。騒音・振動センサS2は切羽12から所定距離離れた位置から所定間隔で複数個配置され、それぞれの騒音・振動センサS2が発破時あるいは削岩時の弾性波を検出し、この検出信号から切羽前方およびトンネル側面の地質状況を予測することができる(たとえば特開2014-106075号公報を参照)。水量センサS3はトンネル内壁11および切羽12から湧き出す水をトンネル外へ排出する排水設備21に設けられ、排出される湧水の水量を計測する。サーモグラフィカメラS4は赤外線を利用して切羽12の熱分布画像を取得する赤外線カメラであり、ここでは3DスキャナS1と同じ台車に搭載されている。
【0013】
まず、図1(A)に示すように、3DスキャナS1が切羽12近傍の3次元形状を、サーモグラフィカメラS4が切羽12の熱分布画像をそれぞれ取得して後方に退避した後、ドリルジャンボ22が切羽12に多数の装薬孔13を後述するパターンで穿孔する。装薬孔の穿孔後、ドリルジャンボ22は後方に退避し、各装薬孔13に雷管を取り付けた爆薬が挿入され、爆破することで切羽12を掘削する。
【0014】
爆破後、バックホーや削岩機を用いてトンネル周壁面が所定の円筒面形状に、トンネル床面がほぼ平坦に掘削され、図1(B)に示すように、3DスキャナS1が発破後の切羽12近傍の3次元形状を、サーモグラフィカメラS4が発破後の切羽12の熱分布画像をそれぞれ取得する。以下、発破後の切羽12をほぼ平坦に掘削し、上述した装薬孔穿孔、装薬、爆破の工程を繰り返すことでトンネル10を掘進することができる。
【0015】
本実施形態によれば、後述するように、過去の上記工程において各センサS1~S4により取得されたデータが蓄積されている。したがって、前回の穿孔パターンおよび爆薬量と、3DスキャナS1により検出された3次元形状の経時変化と、騒音・振動センサS2により検出された地質探査結果と、水量センサS3により検出された湧水量の経時変化と、サーモグラフィカメラS4により検出された切羽12の熱分布画像の経時変化と、を用いて、次回の穿孔パターンおよび爆薬量を決定し、次回の発破後の湧水箇所、湧水量およびトンネル形状を予測することができる。
【0016】
以下、本実施形態によるトンネル施工管理システムの構成および動作について図2図4を参照しながら説明する。なお、本実施形態によるトンネル施工管理システムはCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)等の1個以上のプロセッサを有する汎用サーバあるいはパーソナルコンピュータ上に構築可能である。
【0017】
1.システム構成
図2に例示するように、本発明の一実施形態によるトンネル施工管理システム100は各種データを入力するための入力部101を有する。入力部101はトンネル内に設けられた3DスキャナS1、騒音・振動センサS2、水量センサS3、およびサーモグラフィカメラS4と有線あるいは無線で接続され、3Dスキャンデータ、騒音・振動データ、湧水量データ、および熱分布画像データをそれぞれ入力する。また入力部101はシステムのキーボード、ポインティングデバイス等の入力装置に接続され、本実施形態では穿孔パターンおよび爆薬量等のデータを入力することができる。
【0018】
トンネル施工管理システム100は、システム全体の動作を制御する制御部102を有し、制御部102が入力部101、切羽形状抽出部103、トンネル側面形状抽出部104、地質探査部105、熱分布画像解析部106、AI(Artificial Intelligence)解析部107、データ蓄積部(108~112)、および出力部113に接続されている。切羽形状抽出部103およびトンネル側面形状抽出部104は、3DスキャナS1により取得された3Dスキャンデータからそれぞれ切羽形状およびトンネル側面形状を抽出する。地質探査部105は騒音・振動センサS2により取得された騒音・振動データから地山の地質状況を予測する。
【0019】
熱分布画像解析部106は、サーモグラフィカメラS4から入力した切羽12の熱分布画像データを解析し、その温度領域を所定の温度レベル基準に従って区分し、後述するように切羽12における湧き水箇所およびその水量を推定する。なお、熱分布画像解析部106を機械学習モデルを用いて構成することもできる。
【0020】
データ蓄積部は、形状データ蓄積部108、地質状況データ蓄積部109、水量データ蓄積部110、湧き水箇所・水量推定データ蓄積部111、および施工結果蓄積部112を有する。形状データ蓄積部108は、切羽形状抽出部103およびトンネル側面形状抽出部104により取得された切羽形状およびトンネル側面形状データを時系列で蓄積する。地質状況データ蓄積部109は騒音・振動センサS2により取得された発破時の騒音・振動データに基づいて地質探査部105が予測した地質状況データを蓄積する。水量データ蓄積部110は水量センサS3により取得された水量データを時系列で蓄積する。湧き水箇所・水量推定データ蓄積部111は、熱分布画像解析部106が切羽12の熱分布画像データを解析することで得られた湧き水箇所およびその水量の推定データを時系列で蓄積する。施工結果蓄積部112は施工前の予測と施工結果とを蓄積し、蓄積データがAI解析部107での機械学習モデルの構築に利用され得る。
【0021】
AI解析部107は、穿孔パターンおよび爆薬量データ、データ蓄積部108~112に蓄積された地質状況、時系列形状、時系列水量、時系列の推定湧き水箇所および水量の各データを入力し、機械学習モデルである穿孔パターン・爆薬量予測モデルM1、トンネル形状予測モデルM2、および湧き水箇所・水量予測モデルM3を用いて、穿孔パターンおよび爆薬量、トンネル形状および湧水箇所および湧水量の予測を行う。たとえば穿孔パターン・爆薬量予測モデルM1は、前回の穿孔パターンおよび爆薬量と、地質状況と、トンネル形状と、湧水箇所および水量の変化とを入力データとして、次回の穿孔パターンおよび爆薬量の予測値を算出することができる。また、トンネル形状予測モデルM2は、現在のトンネル形状と、地質状況と、次回の穿孔パターンおよび爆薬量とを入力データとして、次回の発破によるトンネル形状を予測することができる。湧水箇所・水量予測モデルM3は、次回の穿孔パターンおよび爆薬量と、予測されたトンネル形状と、地質状況と、時系列の湧き水箇所・水量の各データとを入力データとして、次回の発破による湧水箇所および湧水量を予測することができる。
【0022】
これらの機械学習モデルM1~M3はたとえばディープラーニングにより構築され得る。ディープラーニング技術は、多数のデータが互いに影響し合っている場合でも適切な教師データを与えてニューロンパラメータを調整することで、誤差の十分小さい機械学習モデルを構築できる。機械学習モデルM1~M3の各々は、所定の教師データを用いて構築され得るが、過去の発破工程で得られたデータ、すなわち穿孔パターンおよび爆薬量データ、地質状況データ、トンネル形状の経時変化、湧水量の経時変化、および湧水箇所および湧水量の経時変化の各データを用いて構築され得る。
【0023】
出力部113はコンピュータのモニタ等の表示部であり、AI解析部107で算出された次回の穿孔パターンおよび爆薬量、次回の発破によるトンネル形状、湧水箇所および湧水量の予測値を表示する。
【0024】
なお、制御部102、切羽形状抽出部103、トンネル側面形状抽出部104、地質探査部105、熱分布画像解析部106、およびAI解析部107の機能は、図示しないメモリに格納されたプログラムをプロセッサ上で実行することにより実現することができる。
【0025】
2.湧水箇所、湧水量の推定および予測
図3に例示するように、熱分布画像解析部106はサーモグラフィカメラS4から入力した切羽12の熱分布画像IMGを分析し、所定の濃度レベル106aに従った温度領域に区分する。ここでは熱分布画像IMGにおける所定基準レベルより高い濃度の領域が湧き水領域12a、12bおよび12cとして識別されたものとする。本実施形態では、一例として切羽12からの湧き水が周囲より低い温度であると仮定し、温度が低い領域ほど濃い青色で表示されるものとする。逆に湧き水が周囲より高い温度であれば、温度が高い領域ほど濃い赤色で表示される。いずれにしても熱分布画像の高濃度領域を湧き水箇所として識別可能である。
【0026】
熱分布画像解析部106は、さらに所定基準レベルより高い濃度の湧き水領域の面積とその領域における最高濃度値とを算出して湧水量を推定する。湧き水の水量は湧き水領域の面積が大きいほど、濃度が高いほど大きいと推定される。このように推定された湧き水領域の位置情報と推定水量とが湧き水箇所・水量推定データ蓄積部111に格納される。
【0027】
後述するように、AI解析部107の湧き水箇所・水量予測モデルM3は、地質状況データ、トンネル形状の経時変化、湧水量およびその経時変化、および推定された湧水箇所および湧水量から、発破後の切羽12からの湧水量を推定することができる。
【0028】
3.動作
以下、図4を参照しながら、本実施形態におけるトンネル施工管理システムl00の動作について説明する。
【0029】
図4に例示するように、制御部102は初回の発破か否かを判断する(動作201)。初回であれば(動作201のYES)、3DスキャナS1から取得した3Dスキャンデータから切羽形状およびトンネル側面形状を抽出して形状データ蓄積部108に保存し、サーモグラフィカメラS4から取得した切羽12の熱分布画像データから湧水箇所および水量を推定し、湧き水箇所・水量推定データ蓄積部111に保存する(動作202)。切羽形状およびトンネル側面形状は切羽形状抽出部103およびトンネル側面形状抽出部104により抽出される。また水量センサS3から水量データを取得して水量データ蓄積部109に保存する(動作203)。
【0030】
続いて、事前に行われた地山探査結果に基づいて穿孔パターンおよび爆薬量が入力装置を通して設定され(動作204)、発破が実行される(動作205)。発破時の騒音・振動データは騒音・振動センサS2により取得され、地質探査部105が騒音・振動データから地質状況を予測し、その結果を地質状況データ蓄積部109に保存する(動作206)。
【0031】
制御部102は、発破後の切羽前に設置された3DスキャナS1から取得された3Dスキャンデータから切羽形状およびトンネル側面形状を抽出し形状データ蓄積部108に保存し、サーモグラフィカメラS4から取得した発破後の切羽12の熱分布画像データから推定された湧き水箇所および水量を湧き水箇所・水量推定データ蓄積部111に保存する(動作207)。また水量センサS3から水量データを取得して水量データ蓄積部110に保存する(動作208)。上述したように発破後の切羽12をほぼ平坦に掘削した後で、次の発破が次のように行われる。
【0032】
AI解析部107は、前回の穿孔パターンおよび爆薬量とデータ蓄積部の各種データとを入力し、穿孔パターン・爆薬量予測モデルM1、トンネル形状予測モデルM2、および湧き水箇所・水量予測モデルM3を用いて穿孔パターンおよび爆薬量、トンネル形状および湧水箇所および湧水量の予測を行う(動作209)。
【0033】
まずAI解析部107は、形状データ蓄積部108に蓄積された切羽形状およびトンネル側面形状の時系列データと、地質状況データ蓄積部109に蓄積された地質状況データと、水量データ蓄積部110に蓄積された時系列の水量データと、湧き水箇所・水量推定データ蓄積部111に蓄積された湧き水箇所および水量の時系列データとを読み出す。
【0034】
続いて、AI解析部107は、切羽形状およびトンネル側面形状の時系列データから切羽形状およびトンネル側面形状の経時変化を、水量データから湧水量の経時変化をそれぞれ算出する。
【0035】
最後にAI解析部107は、穿孔パターン・爆薬量予測モデルM1により次の発破における穿孔パターンおよび爆薬量を予測し、トンネル形状予測モデルM2により次の発破による切羽形状およびトンネル側面形状を予測し、さらに湧き水箇所・水量予測モデルM3により次の発破による湧き水箇所および湧水量の予測を行う。
【0036】
制御部102は、AI解析部107により予測された穿孔パターンおよび爆薬量と、予測された湧き水箇所および湧水量と、予測されたトンネル形状とを出力部113に表示する(動作210)。
【0037】
続いて、表示された穿孔パターンおよび爆薬量で発破が実行される(動作211)。発破時の騒音・振動データは騒音・振動センサS2により取得され、地質探査部105が騒音・振動データから地質状況を予測し、その結果を地質状況データ蓄積部109に保存する(動作212)。
【0038】
制御部102は、発破後の切羽前に設置された3DスキャナS1およびサーモグラフィカメラS4から3Dスキャンデータおよび熱分布画像データをそれぞれ取得し、発破後の3Dスキャンデータから切羽形状およびトンネル側面形状を抽出し、その予測との誤差と共に形状データ蓄積部108に保存し、発破後の熱分布画像データから湧き水箇所および水量の推定値とその予測値との誤差を湧き水箇所・水量推定データ蓄積部111に保存する(動作213)。また水量センサS3から水量データを取得して、予測との誤差と共に水量データ蓄積部110に保存する(動作214)。
【0039】
こうして、施工が終了する(動作215のYES)まで動作209~215に従って発破工程が繰り返される(動作215のNO)。すなわち施工者は、表示部113に表示される穿孔パターンに従ってドリルジャンボ22により切羽12に装薬孔13を穿孔し、表示された爆薬量の爆薬を各装薬孔13に装薬して発破を実行すればよい。本実施形態によるトンネル施工管理システムは、発破後のトンネル形状や湧水量等を計測し、次回の発破工程での予測に反映させることができる。あるいは予想との誤差が所定値より大きければ学習過程によりモデルが自動的に調整され得る。
【符号の説明】
【0040】
10 トンネル
11 トンネル内壁
12 切羽
13 装薬孔
21 排水設備
22 ドリルジャンボ
100 トンネル施工管理システム
101 入力部
102 制御部
103 切羽形状抽出部
104 トンネル側面形状抽出部
105 地質探査部
106 熱分布画像解析部
107 AI解析部
108 形状データ蓄積部
109 地質状況データ蓄積部
110 水量データ蓄積部
111 熱分布画像データ蓄積部
112 施工結果蓄積部
113 出力部
M1 穿孔パターン・爆薬量予測モデル
M2 トンネル形状予測モデル
M3 湧き水箇所・水量予測モデル
S1 3Dスキャナ
S2 騒音・振動センサ
S3 水量センサ
S4 サーモグラフィカメラ
図1
図2
図3
図4