(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061074
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】埋込磁石型モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20230424BHJP
【FI】
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170843
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌志
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA07
5H622CB05
5H622PP10
5H622PP19
(57)【要約】
【課題】漏れ磁束による有効磁束の減少を抑制し、且つ、ロータの組立を容易化できる埋込磁石型モータを提供する。
【解決手段】埋込磁石型モータ1のロータ30は、等角度間隔に配置された複数の磁石33と、磁石33が埋設されるロータコア32を備える。ロータコア32は、磁石33が配置されるスリット35と、周方向に隣り合うスリット35の間に位置する磁極部34と、スリット35の径方向内側において周方向に隣り合う磁極部34を繋ぐ内側連結部37を備える。スリット35の周方向の少なくとも一方側の側縁41、42には、スリット35の周方向の中央に向かって延びる段部43が設けられている。磁石33は、段部43に径方向外側から当接しており、磁石33と内側連結部37との間に第1の空隙51が設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等角度間隔に配置された複数の磁石および前記磁石が埋設されるロータコアを備えるロータと、前記ロータの外周側に等角度間隔で配置されるとともにコイルが巻回される複数の突極を備えるステータと、を有し、
前記ロータコアは、前記磁石が配置されるスリットと、周方向に隣り合う前記スリットの間に位置する磁極部と、前記スリットの径方向内側において周方向に隣り合う前記磁極部を繋ぐ内側連結部と、を備え、
前記スリットの周方向の少なくとも一方側の側縁には、前記スリットの周方向の中央に向かって延びる段部が設けられ、
前記磁石は、前記段部に径方向外側から当接しており、
前記磁石と前記内側連結部との間に第1の空隙が設けられていることを特徴とする埋込磁石型モータ。
【請求項2】
前記段部は、前記スリットの周方向の両側の側縁に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の埋込磁石型モータ。
【請求項3】
前記磁極部は、第2の空隙を形成する孔部を備え、
前記第2の空隙は、少なくとも一部が前記段部よりも径方向外側に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の埋込磁石型モータ。
【請求項4】
前記孔部は、前記第2の空隙の周方向の一方側を囲む一方側縁部と、前記第2の空隙の周方向の他方側を囲む他方側縁部と、を備え、
前記一方側縁部および他方側縁部は、それぞれ、前記磁石の周方向の側縁と略平行に延びる第1直線部と、前記第1直線部の径方向外側の端に接続され径方向外側へ向かうに従って前記磁石から離間する方向に傾斜した第2直線部と、を備え、
前記段部は、前記第1直線部と前記第2直線部とが繋がる屈曲点よりも径方向内側に位置することを特徴とする請求項3に記載の埋込磁石型モータ。
【請求項5】
前記ロータコアは、前記孔部の径方向内側において周方向に延びる磁極部内周部を備え、
前記磁極部内周部の径方向の幅は、前記内側連結部の径方向の幅と略同一であることを特徴とする請求項3または4に記載の埋込磁石型モータ。
【請求項6】
前記ロータコアは、前記スリットの径方向外側において周方向に隣り合う前記磁極部を繋ぐ外側連結部を備え、
前記磁石の径方向外側の端面は前記外側連結部と接していることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の埋込磁石型モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体からなるロータコアの内部に複数の磁石が埋設されたロータを備えた埋込磁石型モータに関する。
【背景技術】
【0002】
埋込磁石型モータのロータとして、放射状に配置された複数のスリットをロータコアに形成し、複数のスリットの各々に磁石が埋設されたものが用いられる。この種の埋込磁石型モータは、特許文献1、2に開示される。
【0003】
特許文献1、2の回転電機(埋込磁石型モータ)は、ステータの内周側にロータを配置したインナロータ型のモータであり、ロータコアは複数枚の鋼板を積層して構成される。ロータコアは、周方向に等角度間隔に配置された複数の磁極部を備えており、周方向で隣り合う磁極部の間に設けられたスリットに磁石が埋め込まれている。また、各磁極部の内周側の端部に打ち抜き孔が形成されている。従って、各磁石の内周側の端部の周方向の両側には、フラックスバリアとして機能する空隙が設けられている。
【0004】
特許文献1のロータは、ロータコアに設けられたスリットの内周側の端部まで磁石が延びている。一方、特許文献2のロータは、スリットの径方向の長さよりも磁石の径方向の長さの方が短く、磁石はスリットの外周側の端に片寄せして配置される。従って、磁石の内周側の端面とスリットの内周側の縁との間には空隙が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5057171号公報
【特許文献2】特許第6673707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のように、磁石の周方向の両側に打ち抜き孔を形成して空隙を設けるだけでなく、磁石の内周側にも空隙を形成すると、磁石の内周側に回り込む漏れ磁束を減らすことができる。従って、有効利用できる磁束を増やすことができ、モータトルクを増大させることができる。また、磁石の径方向の長さを短くすることにより、磁石の使用量を減らすことができる。従って、部品コストを下げることができる。
【0007】
しかしながら、特許文献2では、磁石およびスリットの形状は、スリット内で磁石が径方向にスライド可能な形状になっている。そのため、着磁済み磁石をロータコアに組み付ける際、磁石が内周側に引き寄せられてしまい、磁石をスリットの外周側の端部に位置決めすることが難しい。磁石の内周側に非磁性の部材を挟むことにより磁石を外周側に位置決めすることもできるが、部品点数が増加し、組立工数も増加するという問題がある。
【0008】
以上の問題に鑑みて、本発明の課題は、埋込磁石型モータにおいて、磁石の内周側に回り込む漏れ磁束を減らしてモータトルクの増大を図り、且つ、ロータの組立を容易化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の埋込磁石型モータは、等角度間隔に配置された複数の磁石および前記磁石が埋設されるロータコアを備えるロータと、前記ロータの外周側
に等角度間隔で配置されるとともにコイルが巻回される複数の突極を備えるステータと、を有し、前記ロータコアは、前記磁石が配置されるスリットと、周方向に隣り合う前記スリットの間に位置する磁極部と、前記スリットの径方向内側において周方向に隣り合う前記磁極部を繋ぐ内側連結部と、を備え、前記スリットの周方向の少なくとも一方側の側縁には、前記スリットの周方向の中央に向かって延びる段部が設けられ、前記磁石は、前記段部に径方向外側から当接しており、前記磁石と前記内側連結部との間に第1の空隙が設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、ロータコアに設けられたスリットの周方向の側縁に、磁石が径方向外側から当接する段部が設けられている。従って、ロータを組み立てる際、スリットに配置される磁石を段部に当接させて位置決めすることができるので、着磁された磁石が内周側に引き寄せられることを回避できる。よって、磁石の内周側に第1の空隙が設けられたロータを容易に組み立てることができる。また、第1の空隙を設けることにより、磁石の内周側に回り込む漏れ磁束を少なくすることができる。従って、ステータに鎖交する有効磁束の減少を抑制できるので、モータトルクを増大させることができる。
【0011】
また、本発明によれば、磁石を段部に当接させて位置決めできるので、第1の空隙を確保するために非磁性の別部品を用いる必要がない。従って、部品点数の増大および組立工数の増加を抑制できる。さらに、第1の空隙を設けた分、磁石の径方向の長さを短くできるので、磁石を小型化でき、部品コストを下げることができる。
【0012】
本発明において、前記段部は、前記スリットの周方向の両側の側縁に設けられていることが望ましい。このようにすると、磁石の周方向の両端が段部に当接するので、磁石が傾くことを避けることができる。よって、磁石の位置精度を高めることができる。
【0013】
本発明において、前記磁極部は、第2の空隙を形成する孔部を備え、前記第2の空隙は、少なくとも一部が前記段部よりも径方向外側に位置することが望ましい。このようにすると、第2の空隙が設けられた領域を磁束が通りにくくなる。従って、磁石の周方向の両側から内周側へ回り込む漏れ磁束を少なくすることができるので、有効磁束の減少を抑制できる。
【0014】
本発明において、前記孔部は、前記第2の空隙の周方向の一方側を囲む一方側縁部と、前記第2の空隙の周方向の他方側を囲む他方側縁部と、を備え、前記一方側縁部および他方側縁部は、それぞれ、前記磁石の周方向の側縁と略平行に延びる第1直線部と、前記第1直線部の径方向外側の端に接続され径方向外側へ向かうに従って前記磁石から離間する方向に傾斜した第2直線部と、を備え、前記段部は、前記第1直線部と前記第2直線部とが繋がる屈曲点よりも径方向内側に位置することが望ましい。このようにすると、磁極部は、第1直線部と磁石の側面との間の部分の幅が狭くなり、薄肉部が形成される。従って、磁石の周方向の両側を磁束が通りにくくなるので、漏れ磁束を減らすことができる。また、第1直線部の径方向外側では、磁束が傾斜面(第2直線部)に沿って外周側へ向かう。従って、有効磁束を増やすことができる。
【0015】
本発明において、前記ロータコアは、前記孔部の径方向内側において周方向に延びる磁極部内周部を備え、前記磁極部内周部の径方向の幅は、前記内側連結部の径方向の幅と略同一であることが望ましい。このように、ロータコアの内周部分の径方向の幅が揃っていれば、ロータコアを焼き嵌めにより回転軸に固定する際に、金属の膨張、収縮による応力を均等にすることができる。
【0016】
本発明において、前記ロータコアは、前記スリットの径方向外側において周方向に隣り合う前記磁極部を繋ぐ外側連結部を備え、前記磁石の径方向外側の端面は前記外側連結部
と接していることが望ましい。このようにすると、磁石を精度良く位置決めできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロータコアに設けられたスリットの周方向の側縁に、磁石が径方向外側から当接する段部が設けられている。従って、ロータを組み立てる際、スリットに配置される磁石を段部に当接させて容易に位置決めすることができるので、着磁された磁石が内周側に引き寄せられることを回避できる。よって、磁石の内周側に第1の空隙が設けられたロータを容易に組み立てることができる。また、第1の空隙を設けることにより、磁石の内周側に回り込む漏れ磁束を少なくすることができる。従って、ステータに鎖交する有効磁束の減少を抑制できるので、モータトルクを増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る埋込磁石型モータを回転軸線を含む平面で切断した断面図、および、ロータおよびステータコアを回転軸線と直交する平面で切断した断面図である。
【
図2】ロータを回転軸線と直交する平面で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した埋込磁石型モータについて説明する。
図1(a)は本発明に係る埋込磁石型モータ1を回転軸線Lを含む平面で切断した断面図である。
図1(b)はロータ30およびステータコア21を回転軸線Lと直交する平面で切断した断面図である。本明細書において、埋込磁石型モータ1の回転軸線Lが延在する方向を回転軸線方向とし、回転軸線方向の一方側(出力軸2が突出している側)を出力側L1とし、回転軸線方向の他方側(出力軸2が突出している側とは反対側)を反出力側L2とする。
【0020】
(全体構造)
図1(a)、
図1(b)に示すように、埋込磁石型モータ1(以下、単にモータ1という)は、モータハウジング10と、モータハウジング10の内側に配置された筒状のステータ20と、ステータ20の内側に回転可能に配置されたロータ30を備える。モータハウジング10は、モータ1の回転軸線方向に開口を向けた筒状部11と、筒状部11の出力側L1の端部に固定された第1軸受ホルダ12と、筒状部11の反出力側L2の端部に固定された第2軸受ホルダ13を備える。第1軸受ホルダ12の内周側にはボールベアリングからなる第1軸受14の外輪が保持される。また、第2軸受ホルダ13の内周側にはボールベアリングからなる第2軸受15の外輪が保持される。また、第2軸受ホルダ13の反出力側L2には図示しないエンコーダカバーが取り付けられ、エンコーダカバーの内側に図示しないエンコーダが配置される。エンコーダは、ロータ30の回転数や角度位置を検出する。
【0021】
ステータ20は、径方向内側に突出する複数の突極24を等角度間隔に備える環状のステータコア21と、ステータコア21の各突極24に絶縁部材22を介して巻回されたコイル23を備えており、筒状部11の内側に固定される。コイル23は、ステータコア21の端部に配置された図示しない配線基板に接続される。配線基板には給電線が接続されており、給電線および配線基板を介してコイル23に電力が供給される。
【0022】
ロータ30は、ステータ20の内側に回転可能な状態で配置される。ロータ30は、モータ1の回転軸線方向に延在する回転軸31と、回転軸31の外周側に固定されたロータコア32と、ロータコア32に埋め込まれた磁石33を備える。回転軸31は、ロータコア32の出力側L1および反出力側L2に突出する。回転軸31の出力側L1の端部には
、第1軸受ホルダ12から突出する出力軸2が設けられている。
【0023】
ロータコア32は、珪素鋼板などの磁性体の板(磁性板)を複数枚積層した積層体である。
図1(b)に示すように、ロータコア32には、放射状に配置された複数の磁石33が埋め込まれている。ロータコア32の外周側には、ロータコア32に向けて突出する複数の突極24が放射状に配置される。磁石33および突極24は等角度間隔に配置されている。本形態では、ロータコア32に埋め込まれた磁石33の数は10であり、ステータ20に設けられた突極24の数は12であるため、モータ1は10極12スロットのモータである。突極24に巻回されるコイル23には、U相、V相、W相の3相の電流が供給される。なお、ロータ30の磁極数は2以上であればいくつでもよく、突極24の本数も12でなくてもよい。
【0024】
(ロータコア)
図2はロータ30を回転軸線Lと直交する平面で切断した断面図であり、
図3はロータ30の部分拡大断面図である。
図1(b)、
図2に示すように、ロータコア32において、周方向に隣り合う磁石33の間の部分は磁極部34となっている。ロータコア32には、放射状に配置された複数のスリット35が等角度間隔で形成され、各スリット35に磁石33が埋設されている。また、ロータコア32は、周方向に隣り合う磁極部34を繋いでおりスリット35および磁石33の径方向外側に位置する外側連結部36と、周方向に隣り合う磁極部34を繋いでおりスリット35および磁石33の径方向内側に位置する内側連結部37を備える。
【0025】
磁極部34には、スリット35の径方向内側の端部と周方向で隣り合う位置に打ち抜き孔38が形成されている。磁極部34は、打ち抜き孔38の径方向内側に位置する磁極部内周部39を備える。磁極部内周部39および内側連結部37は、ロータコア32の内周部分を構成しており、ロータコア32の中心に固定される回転軸31を囲む。ロータコア32は、焼き嵌めにより回転軸31に固定される。
【0026】
スリット35および打ち抜き孔38は、ロータコア32を回転軸線方向に打ち抜いて形成されている。スリット35は径方向に延在しており、打ち抜き孔38は六角形である。スリット35および打ち抜き孔38は、ロータコア32の回転軸線方向の端面に開口する。
【0027】
ロータ30には、フラックスバリアとして機能する空隙が3箇所に設けられている。各磁石33は、スリット35の径方向内側に配置される内側連結部37との間に径方向の隙間(第1の空隙51)が設けられる位置に埋め込まれている。また、各磁極部34に設けられた打ち抜き孔38(孔部)は、第2の空隙52を形成している。さらに、各スリット35の径方向外側の端部には、磁石33の周方向の側面との間に第3の空隙53が設けられている。
【0028】
(スリットの形状)
スリット35の径方向の寸法は磁石33の径方向の寸法よりも長く、磁石33はスリット35の径方向外側の端に片寄せした位置に埋め込まれている。
図3に示すように、各スリット35は、磁石33が内側に嵌まる磁石収容部351と、磁石収容部351から径方向内側に延びる先端部352を備える。先端部352は磁石収容部351よりも周方向の幅が狭く、磁石収容部351の周方向の中央に位置する。また、磁石収容部351は、径方向外側の端部に設けられた幅広部353を備える。磁石収容部351は、幅広部353を除いて周方向の幅が一定である。
【0029】
スリット35の周方向の一方側の側縁41、および、スリット35の周方向の他方側の
側縁42は、それぞれ、磁石収容部351の周方向の側縁と先端部352の周方向の側縁とを接続する段部43を備える。段部43は、磁石収容部351の径方向内側の端部からスリット35の周方向の中央に向かって延びている。本形態では、段部43の周方向の寸法Dは0.5mmである。また、スリット35の周方向の側縁41、42には、それぞれ、磁石収容部351の径方向外側の端部に位置する凹部44が設けられており、凹部44が設けられた部位は幅広部353となっている。
【0030】
磁石33は一定厚さの板状であり、周方向を向く端面がスリット35の周方向の側縁41、42と接するように埋め込まれている。磁石33は、周方向の一方側を向く端面と他方側を向く端面が異なる極となるように着磁されている。また、周方向に隣り合う磁石33の磁極は反転しており、同極の磁極同士が周方向に対向する。
【0031】
磁石33は、径方向外側の端面が外側連結部36と接している。一方、磁石33の径方向内側の端面は、スリット35の周方向の側縁41、42に設けられた段部43に径方向外側から当接している。これにより、磁石33は、スリット35の内周側に位置する内側連結部37と径方向に離間する位置に位置決めされており、磁石33と内側連結部37との間に第1の空隙51が形成されている。
【0032】
磁石33と内側連結部37との間に第1の空隙51を設けることにより、磁石33の径方向内側へ回り込む漏れ磁束を少なくすることができる。本発明者は、第1の空隙51の有無と、ステータ20に鎖交する有効磁束の増減について磁場解析により検討した。その結果、第1の空隙51の径方向の寸法Hが1mm程度ある場合には、第1の空隙51が設けられていない場合(すなわち、スリット35に先端部352を設けない場合)よりも有効磁束が多いという結果が得られた。
【0033】
磁石収容部351の径方向外側の端部には幅広部353が設けられているのに対して、磁石33の周方向の厚さは一定であるため、幅広部353の内側面(すなわち、凹部44の内側面)と磁石33の周方向の側面とは離間している。そのため、磁石33の径方向外側の端部における周方向の両側には、第3の空隙53が設けられている。第3の空隙53はロータコア32の外周部に配置され、隣り合う磁極部34を繋ぐ外側連結部36の内周側に位置する。このような位置に第3の空隙53を設けたことにより、ステータ20側からの磁界の影響を低減させることができ、磁石33の減磁を生じにくくすることができる。外側連結部36は、第3の空隙53が形成されたことによって、その周方向の長さが第3の空隙53の幅の分だけ磁石33の周方向の厚さよりも長くなっている。
【0034】
(打ち抜き孔形状)
ロータコア32の磁極部34に形成された打ち抜き孔38は六角形であり、磁極部34の周方向の中央を通り径方向に延びる基準線P(
図2参照)を基準として周方向に対称な形状である。
図3に示すように、各打ち抜き孔38は、第2の空隙52の周方向の一方側を囲む一方側縁部61と、第2の空隙52の周方向の他方側を囲む他方側縁部62と、第2の空隙52の径方向外側を囲む外周側縁部63と、第2の空隙52の径方向内側を囲む内周側縁部64を備える。
【0035】
一方側縁部61および他方側縁部62は、それぞれ、径方向の略中央の屈曲点Qにおいて屈曲している。一方側縁部61および他方側縁部62は、それぞれ、内周側縁部64の端から屈曲点Qまで直線状に延びる第1直線部65と、屈曲点Qから外周側縁部63の端まで直線状に延びる第2直線部66を備える。打ち抜き孔38の周方向の両側にはスリット35が形成され、磁石33が配置される。第1直線部65は、磁石33の周方向の側縁と略平行に延びている。一方、第2直線部66は、第1直線部65に対して傾斜しており、径方向外側へ向かうに従って磁石33の側縁から周方向に離間する方向へ延びている。
【0036】
打ち抜き孔38は、内周側縁部64がスリット35の段部43よりも径方向内側に位置し、外周側縁部63は段部43よりも径方向外側に位置する。従って、第2の空隙52は、段部43よりも径方向内側の位置から段部43よりも径方向外側の位置まで拡がる。より詳細には、本形態では、打ち抜き孔38における一方側縁部61と他方側縁部62の屈曲点Qは、スリット35の段部43よりも径方向外側に位置する。このため、打ち抜き孔38の第1直線部65と磁石収容部351の周方向の側縁との間の部分は、周方向の厚さが略一定の薄肉部67となっている。本形態では、薄肉部67の厚さTは0.3mmである。
【0037】
磁石33は、径方向内側が第1の空隙51に囲まれ、周方向の両側が薄肉部67および第2の空隙52に囲まれている。従って、磁石33の径方向内側へ回り込む漏れ磁束を少なくすることができる。一方、薄肉部67の径方向外側には、径方向外側へ向かうに従って磁極部34の周方向の中央へ向かう方向に傾斜する第2直線部66が設けられている。従って、屈曲点Qの径方向外側では、磁極部34を通る磁束は、第2直線部66に沿う方向へ導かれ、磁極部34の周方向の中央へ向かいながら径方向外側へ向かう。
【0038】
(外側連結部の外周面形状)
図4は、外側連結部36の拡大図である。
図2に示すように、ロータコア32は全体として略円筒状であり、各磁極部34の外周面341は、ロータコア32の回転軸線Lを中心とする円弧面である。一方、
図4に示すように、隣り合う磁極部34を繋ぐ外側連結部36の外周面361は、ロータコア32の回転軸線Lを中心とし外周面341と重なる円弧面である仮想面362よりも内周側に位置する。
【0039】
外側連結部36の外周面361は、径方向外側に突出する凸形状であり、最も外周側に突出する先端部363が外周面361の周方向の中央に位置する。外周面361は、先端部363から径方向内側へ後退しながら周方向の両側へ延びる傾斜部364を備える。傾斜部364は、ロータコア32の内周側に凸となる湾曲面である。外側連結部36は、外周面361の周方向の両端365における径方向の厚さが最も小さく、先端部363に向かうに従って径方向の厚さが漸増する。外周面361の周方向の両端365は、第3の空隙53の径方向外側に位置する。外側連結部36の径方向の厚さは、周方向の両端365の位置で最も薄く、両端365における外側連結部36の径方向の厚さは、ロータコア32を形成する磁性板の厚さよりも小さい。このような形状を採用した理由は、試作したモータ1の逆起電圧、コギングトルク、パーミアンス係数を計測し、磁場解析を行った結果、パーミアンス係数の増大や、コギングトルクの改善が見られたからである。
【0040】
(本形態の主な効果)
本形態のモータ1は、等角度間隔に配置された複数の磁石33および磁石33が埋設されるロータコア32を備えるロータ30と、ロータ30の外周側に等角度間隔で配置されるとともにコイル23が巻回される複数の突極24を備えるステータ20と、を有する。ロータコア32は、磁石33が配置されるスリット35と、周方向に隣り合うスリット35の間に位置する磁極部34と、スリット35の径方向内側において周方向に隣り合う磁極部34を繋ぐ内側連結部37と、を備える。スリット35の周方向の両側の側縁41、42には、スリット35の周方向の中央に向かって延びる段部43が設けられている。磁石33は、段部43に径方向外側から当接しており、磁石33と内側連結部37との間に第1の空隙51が設けられている。
【0041】
本形態では、ロータ30を組み立てる際、ロータコア32のスリット35に配置される磁石33をスリット35の周方向の側縁41、42に設けられた段部43に当接させて位置決めする。これにより、着磁された磁石33が内周側に引き寄せられることを回避でき
るため、磁石33の内周側に第1の空隙51が設けられたロータ30を容易に組み立てることができる。また、第1の空隙51を設けることにより、磁石33の内周側に回り込む漏れ磁束を少なくすることができる。これにより、ステータ20に鎖交する有効磁束の減少を抑制できるので、モータトルクを増大させることができる。
【0042】
また、本形態では、磁石33を段部43に当接させて位置決めできるので、第1の空隙51を確保するために非磁性の別部品を用いる必要がない。従って、部品点数の増大および組立工数の増加を抑制できる。さらに、第1の空隙51を設けた分、磁石33の径方向の長さを短くできるので、磁石33を小型化でき、部品コストを下げることができる。また、第1の空隙51は、磁石33をロータコア32に固定するための接着剤を充填する空間として利用することもできる。
【0043】
なお、段部43は、スリット35の周方向の側縁41、42の少なくとも一方に設けられていればよい。側縁41、42のうちの一方のみに段部43が設けられている構成でも、磁石33を径方向に位置決めすることができる。
【0044】
本形態では、段部43は、スリット35の周方向の両側の側縁41、42に設けられている。従って、磁石33の周方向の両端を段部43によって支持できるため、磁石33が傾くことを避けることができ、磁石33の位置精度を高めることができる。より詳細には、本形態のスリット35は、磁石33が内側に嵌まる磁石収容部351と、磁石収容部351の径方向内側に設けられて第1の空隙51を形成する先端部352を備える。先端部352は、周方向の幅が磁石収容部351よりも狭く、且つ、磁石収容部351の周方向の中央に配置される。段部43は、磁石収容部351の周方向の側縁41、42と先端部352の周方向の側縁41、42とを接続する。従って、第1の空隙51が磁石33の周方向の中央に配置されるため、磁石33の周方向の両側において磁束の分布を均等にすることができる。
【0045】
本形態では、ロータコア32の磁極部34は、第2の空隙52を形成する打ち抜き孔38(孔部)を備えており、第2の空隙52は、段部43よりも径方向外側の位置から段部43よりも径方向内側の位置まで拡がる。従って、磁石33の径方向内側に第1の空隙51が設けられ、さらに、磁石33の径方向内側の端部の周方向の両側に第2の空隙52が設けられているので、磁石33の内周側へ回り込む漏れ磁束をより少なくすることができる。よって、ステータ20に鎖交する有効磁束の減少を抑制できる。
【0046】
なお、第2の空隙52は、少なくとも一部が段部43よりも径方向外側に位置していればよい。このような構成でも、磁石33の周方向の両側に第2の空隙52が配置されるため、磁石33の周方向の両側から内周側へ回り込む漏れ磁束を少なくすることができる。
【0047】
本形態では、ロータコア32の磁極部34に設けられた打ち抜き孔38(孔部)は、第2の空隙52の周方向の一方側を囲む一方側縁部61と、第2の空隙52の周方向の他方側を囲む他方側縁部62を備える。一方側縁部61および他方側縁部62は、それぞれ、磁石33の周方向の側縁と略平行に延びる第1直線部65と、第1直線部65の径方向外側の端に接続され径方向外側へ向かうに従って磁石33から離間する方向に傾斜した第2直線部66を備える。また、段部43は、第1直線部65と第2直線部66とが繋がる屈曲点Qよりも径方向内側に位置する。このようにすると、第1直線部65と磁石33の側面との間に磁束が通りにくい薄肉部67が形成されるので、漏れ磁束を少なくすることができる。また、屈曲点Qの径方向外側には傾斜面(第2直線部)が設けられているので、磁束は傾斜面(第2直線部)に沿って外周側へ向かう。従って、ステータ20に鎖交する有効磁束を増やすことができる。
【0048】
本形態では、ロータコア32は、打ち抜き孔38(孔部)の径方向内側において周方向に延びる磁極部内周部39を備える。磁極部内周部39の径方向の寸法は、内側連結部37の径方向の寸法よりもわずかに大きく、ロータコア32は、回転軸31を囲む内周部分の径方向の厚さの増減が少ない。従って、回転軸31を焼き嵌めによりロータコア32に固定する際、回転軸31を囲む内周部分の膨張、収縮による応力の差が少ない。
【0049】
なお、磁極部内周部39の径方向の幅と、内側連結部37の径方向の幅とが略同一である形状を採用してもよい。このようにすると、回転軸31を焼き嵌めによりロータコア32に固定する際、回転軸31を囲む内周部分の膨張、収縮による応力を均等にすることができる。
【0050】
本形態では、ロータコア32は、スリット35の径方向外側において周方向に隣り合う磁極部34を繋ぐ外側連結部36を備え、磁石33の径方向外側の端面は外側連結部36と接している。従って、磁石33の内周側の端部、および外周側の端部は、それぞれ、段部43と外側連結部36に接しているので、磁石33を精度良く位置決めできる。
【符号の説明】
【0051】
1…埋込磁石型モータ(モータ)、2…出力軸、10…モータハウジング、11…筒状部、12…第1軸受ホルダ、13…第2軸受ホルダ、14…第1軸受、15…第2軸受、20…ステータ、21…ステータコア、22…絶縁部材、23…コイル、24…突極、30…ロータ、31…回転軸、32…ロータコア、33…磁石、34…磁極部、35…スリット、36…外側連結部、37…内側連結部、38…打ち抜き孔(孔部)、39…磁極部内周部、41、42…スリットの周方向の側縁、43…段部、44…凹部、51…第1の空隙、52…第2の空隙、53…第3の空隙、61…一方側縁部、62…他方側縁部、63…外周側縁部、64…内周側縁部、65…第1直線部、66…第2直線部、67…薄肉部、341…磁極部の外周面、351…磁石収容部、352…先端部、353…幅広部、361…外側連結部の外周面、362…仮想面、363…先端部、364…傾斜部、365…外側連結部の外周面の周方向の両端、L…回転軸線、L1…出力側、L2…反出力側、P…基準線、Q…屈曲点