(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061075
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20230424BHJP
【FI】
H02K3/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170844
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌志
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604BB01
5H604CC01
5H604CC05
5H604DB01
5H604DB26
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】分割コアを連結したステータコアを備えるモータの巻線占積率を大きくする。
【解決手段】モータ1のステータコア21は、周方向に並ぶ複数の分割コア3にそれぞれ突極22が設けられ、コイル6が巻回される。分割コア3に設けられた巻線用スロット4の第1内周面41は、径方向外側に凹む凹面である。分割コア3とコイル6とを絶縁する絶縁部材5は、第1内周面41を覆う絶縁紙第1部分81が第1内周面41の周方向の先端Q1まで延びているのに対して、絶縁紙第1部分81に重なる樹脂製の第2絶縁部材9の外周側被覆部95の周方向の先端Q2は、第1内周面41の周方向の先端Q1よりも突極22側に位置する。従って、外周側被覆部95の板厚の分だけ巻線用スロット4の開口幅Dが広いので、巻線用スロット4内にコイル線60を供給できないスペースができることを回避でき、巻線占積率が向上する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射状に配置される複数の突極を備えるステータコア、および絶縁部材を介して前記突極に巻回されるコイルを備えるステータと、
前記ステータの内周側に配置されるロータと、を有するモータにおいて、
前記ステータコアは、周方向に並ぶ複数の分割コアを備え、
前記分割コアは、周方向に延びる分割コア外周部、前記分割コア外周部の周方向の中央から径方向内側に延びる前記突極、および前記突極の先端から周方向の両側に延びる分割コア内周部を備えるとともに、前記突極の周方向の両側には、前記分割コア外周部、前記突極、および前記分割コア内周部によって囲まれる巻線用スロットが設けられ、
前記巻線用スロットの内周面は、前記分割コア外周部によって構成される第1内周面を備え、前記第1内周面は、径方向外側に凹む凹面であり、
前記絶縁部材は、前記巻線用スロットの内周面を覆う第1絶縁部材と、前記第1絶縁部材に重なる第2絶縁部材と、を備え、
前記第1絶縁部材は、前記第1内周面を覆う第1被覆部を備え、
前記第2絶縁部材は、前記第1被覆部に重なる第2被覆部を備え、
前記第2被覆部の周方向の先端は、前記第1内周面の周方向の先端よりも前記突極側に位置することを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記第2被覆部の内周面は、前記突極の周方向の中心を通り径方向に延びる突極中心線と直交し、且つ、前記第1被覆部の内周面の周方向の先端を通る仮想面と同一面上、または、前記仮想面よりも径方向内側に配置されることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記第1内周面は、前記ロータの回転軸線を中心とする円弧面であることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ。
【請求項4】
前記第1内周面は、前記突極から前記突極の周方向の中心を通り径方向に延びる突極中心線と直交する方向へ延びる第1平面部と、前記第1平面部に対して屈曲し前記第1内周面の周方向の先端まで延びる第2平面部と、を備える屈曲面であることを特徴とする請求項1または2に記載のモータ。
【請求項5】
前記分割コア外周部の周方向の先端における径方向の厚さは、前記突極の周方向の厚さの50%以上であることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のモータ。
【請求項6】
前記ステータコアは、前記ロータの回転軸線方向に延びており、
前記第1絶縁部材は、前記巻線用スロットの内周面の前記回転軸線方向の全範囲を覆う絶縁シートであり、
前記第2絶縁部材は、前記分割コアの前記回転軸線方向の一方側の端部を覆う樹脂製の第1インシュレータと、前記分割コアの前記回転軸線方向の他方側の端部を覆う樹脂製の第2インシュレータと、を備えることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周方向に配列した分割コアを連結したステータコアを備え、分割コアの突極に絶縁部材を介してコイルが巻回されるモータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステータの内周側にロータが配置されるインナロータ型のモータが配置される。特許文献1のモータでは、ステータは内周側に突出する複数の突極を備えるステータコアと、各突極に取り付けられたインシュレータと、インシュレータを介して各突極に巻回されたコイルを備える。ステータコアは、複数の分割コアを円環状に連結して構成される。各分割コアは、周方向に延びる外周側円弧部と、外周側円弧部の周方向の中央から径方向内側に突出する突極を備えており、突極の先端には周方向の両側へ延びる内周側円弧部が設けられている。外周側円弧部、突極、内周側円弧部によって囲まれる空間はコイルが配置される巻線用スロットを構成している。
【0003】
特許文献1では、各突極に巻回されるコイルは、巻線用スロットの内周面を覆う絶縁部材によって分割コアから絶縁される。絶縁部材は、巻線用スロットに挿入されて巻線用スロットの内周面を覆う絶縁紙と、絶縁紙の上から分割コアを覆うインシュレータを備える。インシュレータは分割コアの回転軸線方向の両端に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、モータの高効率化を図るため、コイル線の巻回数を増やし、巻線占積率を向上させることを検討している。
図6は、従来例の分割コア、絶縁部材、およびコイルを回転軸線と直交する面で切断した構成を模式的に示す断面図である。
図6に示すように、従来例の構成では、突極51の周方向の両側に設けられた巻線用スロットSの内周面に絶縁紙73とインシュレータ71が重ねられており、絶縁部材(インシュレータ71、絶縁紙73)が2重に配置されている。このため、巻線用スロットSの内部空間が狭くなっており、コイル線の巻回数を多くできない。
【0006】
ここで、
図6に示す従来例の分割コア50は、巻線用スロットSの外周側を囲む外周側円弧部53の内周面が、突極中心線Pと直交する仮想面Rと一致する。ここで、外周側円弧部53の内周面を破線で示すように仮想面Rよりも外周側に凹む凹面R1にすれば、巻線用スロットSが外周側に拡がる。従って、拡げた空間にコイル線を収容できれば、分割コア50の外形を大きくすることなくコイル線の巻回数を多くできそうである。
【0007】
しかしながら、自動巻線機を用いて突極51にコイル6を巻く場合には、コイル線を供給するノズルを巻線用スロットSの周方向の開口に配置して、突極中心線Pを中心として分割コア50を回転させる。そのため、ノズルから供給されるコイル線は巻線用スロットSの開口を規定する仮想面Rよりも径方向内側にしか届かないので、仮想面Rよりも径方向外側にはコイル線が供給されない。従って、コイル線の巻回数を多くできない。
【0008】
以上の問題に鑑みて、本発明の課題は、分割コアの突極に絶縁部材を介してコイルを巻回したステータを備えるモータにおいて、巻線占積率を向上させてモータの効率を向上さ
せることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のモータは、放射状に配置される複数の突極を備えるステータコア、および絶縁部材を介して前記突極に巻回されるコイルを備えるステータと、前記ステータの内周側に配置されるロータと、を有するモータにおいて、前記ステータコアは、周方向に並ぶ複数の分割コアを備え、前記分割コアは、周方向に延びる分割コア外周部、前記分割コア外周部の周方向の中央から径方向内側に延びる前記突極、および前記突極の先端から周方向の両側に延びる分割コア内周部を備えるとともに、前記突極の周方向の両側には、前記分割コア外周部、前記突極、および前記分割コア内周部によって囲まれる巻線用スロットが設けられ、前記巻線用スロットの内周面は、前記分割コア外周部によって構成される第1内周面を備え、前記第1内周面は、径方向外側に凹む凹面であり、前記絶縁部材は、前記巻線用スロットの内周面を覆う第1絶縁部材と、前記第1絶縁部材に重なる第2絶縁部材と、を備え、前記第1絶縁部材は、前記第1内周面を覆う第1被覆部を備え、前記第2絶縁部材は、前記第1被覆部に重なる第2被覆部を備え、前記第2被覆部の周方向の先端は、前記第1内周面の周方向の先端よりも前記突極側に位置することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、巻線用スロットの内周面のうち、径方向外側の内周面(第1内周面)が径方向外側に凹む凹面である。また、巻線用スロットの内周面を被覆する絶縁部材は、第1内周面を覆う第1絶縁部材の層(第1被覆部)の周方向の先端よりも、第1絶縁部材に重なる第2絶縁部材の層(第2被覆部)の周方向の先端の方が突極側に位置する。このように、第2絶縁部材の層(第2被覆部)の周方向の長さを短くすることにより、巻線用スロットの開口幅が第2絶縁部材の厚さの分だけ径方向外側に拡がる。従って、分割コアを回転させてコイル線を巻く際に、第1内周面を凹形状にして拡げた空間にも巻線用スロットの開口側からコイル線を供給できる。よって、分割コアの外形を大きくすることなく、分割コア外周部の径方向の厚さを確保でき、且つ、巻線用スロットに収容されるコイル線の巻回数を多くすることができる。従って、巻線占積率が向上し、モータの効率が向上する。
【0011】
本発明において、前記第2被覆部の内周面は、前記突極の周方向の中心を通り径方向に延びる突極中心線と直交し、且つ、前記第1被覆部の内周面の周方向の先端を通る仮想面と同一面上、または、前記仮想面よりも径方向内側に配置されることが好ましい。このようにすると、絶縁部材の第2被覆部が巻線用スロットの開口の縁よりも内側に張り出すように、もしくは開口の縁と同一位置となるように構成できる。従って、巻線用スロット内にコイル線を供給できないスペースができることを回避でき、コイル線の巻回数を多くすることができる。
【0012】
本発明において、前記第1内周面は、前記ロータの回転軸線を中心とする円弧面であることが好ましい。このようにすると、分割コアの外形を大きくすることなく、分割コア外周部の径方向の厚さを確保でき、且つ、巻線用スロットを最も広くすることができる。
【0013】
本発明において、前記第1内周面は、前記突極から前記突極の周方向の中心を通り径方向に延びる突極中心線と直交する方向へ延びる第1平面部と、前記第1平面部に対して屈曲し前記第1内周面の周方向の先端まで延びる第2平面部と、を備える屈曲面である構成を採用することができる。このように、凹面の形状が屈曲面である場合、湾曲面とするよりも製造が容易である。従って、分割コアの製造が容易である。また、第2絶縁部材を樹脂製にする場合は、第2絶縁部材の製造も容易である。
【0014】
本発明において、前記分割コア外周部の周方向の先端における径方向の厚さは、前記突
極の周方向の厚さの50%以上であることが好ましい。このようにすると、分割コア外周部の必要厚さを確保できる。
【0015】
本発明において、前記ステータコアは、前記ロータの回転軸線方向に延びており、前記第1絶縁部材は、前記巻線用スロットの内周面の前記回転軸線方向の全範囲を覆う絶縁シートであり、前記第2絶縁部材は、前記分割コアの前記回転軸線方向の一方側の端部を覆う樹脂製の第1インシュレータと、前記分割コアの前記回転軸線方向の他方側の端部を覆う樹脂製の第2インシュレータと、を備える構成を採用することができる。このようにすると、絶縁シートを巻線用スロットに挿入し、その後に回転軸線方向の一方側と他方側からそれぞれ樹脂製のインシュレータを装着すればよいため、分割コアと絶縁部材を組み立てる作業が容易である。また、インシュレータの隙間を絶縁シートによって覆うことができるので、組立が容易な構成でありながら、分割コアとコイルとを確実に絶縁できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、巻線用スロットの内周面のうち、径方向外側の内周面(第1内周面)が径方向外側に凹む凹面である。また、巻線用スロットの内周面を被覆する絶縁部材は、第1内周面を覆う第1絶縁部材の層(第1被覆部)の周方向の先端よりも、第1絶縁部材に重なる第2絶縁部材の層(第2被覆部)の周方向の先端の方が突極側に位置する。このように、第2絶縁部材の層(第2被覆部)の周方向の長さを短くすることにより、巻線用スロットの開口幅が第2絶縁部材の厚さの分だけ径方向外側に拡がる。従って、分割コアを回転させてコイル線を巻く際に、第1内周面を凹形状にして拡げた空間にも巻線用スロットの開口側からコイル線を供給できる。よって、分割コアの外形を大きくすることなく、分割コア外周部の径方向の厚さを確保でき、且つ、巻線用スロットに収容されるコイル線の巻回数を多くすることができる。従って、巻線占積率が向上し、モータの効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るモータを回転軸線を含む平面で切断した断面図、および回転軸線と直交する平面で切断した構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】分割コア、絶縁部材、およびコイルの斜視図である。
【
図3】分割コアおよび絶縁部材の分解斜視図である。
【
図4】分割コア、絶縁部材、およびコイルを回転軸線と直交する面で切断した構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】コイルを巻回するときの巻線用スロットの開口幅を示す断面図である。
【
図6】従来例の分割コア、絶縁部材、およびコイルを回転軸線と直交する面で切断した構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したモータの実施形態を説明する。
図1(a)は本発明に係るモータ1を回転軸線Lを含む平面で切断した断面図であり、
図1(b)はモータ1を回転軸線Lと直交する平面で切断した構成を模式的に示す断面図である。本明細書において、モータ1の回転軸線Lに沿う方向を回転軸線方向とする。また、回転軸線方向の一方側と他方川のうち、出力軸2が突出している側を出力側L1とし、出力軸2が突出している側とは反対側を反出力側L2とする。
【0019】
(全体構造)
本形態のモータ1は、3相のインナロータ型DCブラシレスモータである。
図1(a)、
図1(b)に示すように、モータ1は、モータハウジング10と、モータハウジング10の内側に配置される円環状のステータ20と、ステータ20の内側に回転可能に配置されるロータ30を備える。モータハウジング10は、回転軸線方向の両端が開放端になっ
ている筒状部11と、筒状部11の出力側L1の端部に固定された第1軸受ホルダ12と、筒状部11の反出力側L2の端部に固定された第2軸受ホルダ13を備える。第1軸受ホルダ12の内周側にはボールベアリングからなる第1軸受14の外輪が保持される。また、第2軸受ホルダ13の内周側にはボールベアリングからなる第2軸受15の外輪が保持される。また、第2軸受ホルダ13の反出力側L2にはエンコーダカバー16が取り付けられ、エンコーダカバー16の内側に図示しないエンコーダが配置される。エンコーダは、ロータ30の回転数や角度位置を検出する。
【0020】
ステータ20は、筒状部11の内側に固定される。ステータ20は、半径方向内側に突出する複数の突極22を等角度間隔に備える環状のステータコア21と、ステータコア21の各突極22に絶縁部材5を介して巻回されたコイル6を備える。コイル6は、ステータコア21の端部に配置された配線基板7に接続される。配線基板7には図示しない給電線が接続される。給電線および配線基板7を介してコイル6に対して電力が供給される。
【0021】
ロータ30は、ステータ20の径方向の中央において回転軸線方向に延びる回転軸31と、回転軸31の外周面に固定されたロータマグネット32を備える。回転軸31は、第1軸受14および第2軸受15によって回転可能に支持される。回転軸31は、ロータマグネット32の出力側L1および反出力側L2に突出する。回転軸31の出力側L1の端部には、第1軸受ホルダ12から突出する出力軸2が設けられている。
【0022】
(分割コア)
図2は分割コア3、絶縁部材5、およびコイル6の斜視図であり、回転軸線方向の途中部分を省略した図である。
図3は、分割コア3および絶縁部材5の分解斜視図であり、回転軸線方向の途中部分を省略した図である。
図4は、分割コア3、絶縁部材5、およびコイル6を回転軸線と直交する平面で切断した断面図である。
図1(a)に示すように、ステータコア21は、複数枚の磁性板を回転軸線方向に積層した積層コアからなる。
図1(b)に示すように、ステータコア21は、周方向に並ぶ複数の分割コア3を円環状に連結して構成される。本形態では、分割コア3の数は9である。
【0023】
図3、
図4に示すように、分割コア3は、周方向に延びる分割コア外周部23と、分割コア外周部23の周方向の中央から径方向内側に向けて突出する突極22と、突極22の先端から周方向の両側へ延びる分割コア内周部24を備える。分割コア内周部24の内周面は円弧面であり、ロータマグネット32の外周面と所定の隙間を介して径方向に対向する(
図1(b)参照)。
図4に示すように、分割コア3には、突極22の周方向の両側にそれぞれ巻線用スロット4が設けられている。巻線用スロット4は、分割コア外周部23、突極22、および分割コア内周部24に囲まれる凹部である。巻線用スロット4は、周方向で突極22とは反対側に開口するとともに、回転軸線方向の両側に開口する。突極22に巻回されるコイル6は、巻線用スロット4に収容される。
【0024】
巻線用スロット4の内周面は、分割コア外周部23によって構成される第1内周面41と、突極22の周方向の側面によって構成される第2内周面42と、分割コア内周部24によって構成される第3内周面43を備える。第2内周面42は、突極22の周方向の中心を通り径方向に延びる突極中心線P(
図4参照)に平行な平面である。第1内周面41は、周方向の途中で屈曲した屈曲面であり、径方向外側へ凹む凹面である。第1内周面41を凹面にすることにより、分割コア3の径方向の寸法を大きくすることなく、分割コア外周部23の周方向の両端の径方向の厚さT(
図4参照)を確保できる。本形態では、分割コア外周部23の周方向の両端の径方向の厚さTは、突極22の周方向の厚さT0の50%以上である。より詳細には、分割コア外周部23の周方向の両端の径方向の厚さTは、突極22の周方向の厚さT0の50%以上60%以内とするのが適正である。
【0025】
図3、
図4に示すように、巻線用スロット4の第1内周面41は、第2内周面42の径方向外側の端から突極中心線Pと直交する方向へ延びる第1平面部44と、第1平面部44に対して傾斜する第2平面部45を備える。第2平面部45は、第1内周面41の周方向の先端Q1まで延びている。第3内周面43は、第2内周面42の径方向内側の端から周方向へ延びており、突極22から周方向に離間するに従って径方向内側へ向かう方向へ傾斜する傾斜面である。
【0026】
(絶縁部材)
絶縁部材5は、分割コア3の回転軸線方向の端面を覆うとともに、巻線用スロット4の内周面を覆う。本形態では、絶縁部材5として、ノーメックス紙などの絶縁シートからなる第1絶縁部材8と、樹脂からなる第2絶縁部材9を備える。
図4に示すように、巻線用スロット4の内周面には、第1絶縁部材8と第2絶縁部材9が2層に重ねられている。
【0027】
図2、
図3、
図4に示すように、本形態では、第1絶縁部材8として、突極22の周方向の一方側に配置される第1絶縁紙8Aと、突極22の周方向の他方側に配置される第2絶縁紙8Bを備える。第1絶縁紙8Aおよび第2絶縁紙8Bは、同一の構成をしている。第1絶縁紙8Aおよび第2絶縁紙8Bは、それぞれ、巻線用スロット4の内周面の回転軸線方向の全範囲を覆う。
【0028】
第1絶縁紙8Aおよび第2絶縁紙8Bは、それぞれ、分割コア外周部23によって構成される第1内周面41を覆う絶縁紙第1部分81と、突極22によって構成される第2内周面42を覆う絶縁紙第2部分82と、分割コア内周部24によって構成される第3内周面43を覆う絶縁紙第3部分83を備えており、これらの部分が巻線用スロット4の内周面に接している。
【0029】
また、第1絶縁紙8Aおよび第2絶縁紙8Bは、それぞれ、巻線用スロット4の周方向の開口40(
図4参照)を塞ぐように径方向に折り曲げられた第1折り曲げ部84および第2折り曲げ部85を備える。第1折り曲げ部84は、絶縁紙第1部分81の周方向の先端(すなわち、突極22とは反対側の端縁)から径方向内側へ延びている。第2折り曲げ部85は、絶縁紙第3部分83の周方向の先端(すなわち、突極22とは反対側の端縁)から径方向外側へ延びている。第1折り曲げ部84の先端と、第2折り曲げ部85の先端は、所定の隙間を介して対向する。第1折り曲げ部84および第2折り曲げ部85は、巻線用スロット4に配置されるコイル6を突極22とは反対側から覆う。
【0030】
図2、
図3に示すように、本形態では、第2絶縁部材9として、分割コア3の回転軸線方向の一方側(出力側L1)の端部に固定される樹脂製の第1インシュレータ9Aと、分割コア3の回転軸線方向の他方側(反出力側L2)の端部に固定される樹脂製の第2インシュレータ9Bを備える。
【0031】
第1インシュレータ9Aおよび第2インシュレータ9Bは、同一の構成をしており、回転軸線方向で逆向きに配置される。第1インシュレータ9Aおよび第2インシュレータ9Bのそれぞれは、突極22の回転軸線方向の端面を覆う突極端面被覆部91と、突極端面被覆部91の径方向外側で分割コア外周部23の回転軸線方向の端面を覆う外周側鍔部92と、突極端面被覆部91の径方向内側で分割コア内周部24の回転軸線方向の端面を覆う内周側鍔部93を備える。外周側鍔部92および内周側鍔部93は、突極端面被覆部91の径方向の両側において回転軸線方向に突出しており、外周側鍔部92および内周側鍔部93の間にコイル6が巻回される。
【0032】
さらに、第1インシュレータ9Aおよび第2インシュレータ9Bのそれぞれは、突極22の周方向の側面を覆う突極側面被覆部94と、突極側面被覆部94の径方向外側の端縁
から周方向に延びて巻線用スロット4の第1内周面41を覆う外周側被覆部95と、突極側面被覆部94の径方向内側の端縁から周方向に延びて巻線用スロット4の第3内周面43を覆う内周側被覆部96を備える。外周側被覆部95、突極側面被覆部94、および内周側被覆部96は、第1絶縁紙8Aもしくは第2絶縁紙8Bの回転軸線方向の端部に重なっており、第1絶縁紙8Aもしくは第2絶縁紙8Bを介して巻線用スロット4の内周面を覆う。
【0033】
図2、
図3に示すように、第1絶縁紙8Aおよび第2絶縁紙8Bは、絶縁紙第1部分81と絶縁紙第3部分83の一部が分割コア3の回転軸線方向の長さよりも長く、巻線用スロット4から回転軸線方向の一方側および他方側に突出している。第1インシュレータ9Aおよび第2インシュレータ9Bの外周側鍔部92には、巻線用スロット4から回転軸線方向に突出した絶縁紙第1部分81を収容する溝部97が設けられている。また、内周側鍔部93には、巻線用スロット4から回転軸線方向に突出した絶縁紙第3部分83を収容する凹部98が設けられている。
【0034】
次に、巻線用スロット4の第1内周面41を覆う絶縁部材5の構成について
図4を参照して説明する。
図4は、第1インシュレータ9Aが取り付けられた位置で切断した断面構成を示しているが、第2インシュレータ9Bが取り付けられた位置でも同様の断面構成となっている。
図4に示すように、突極22の周方向の一方側に設けられた巻線用スロット4の第1内周面41は、第1絶縁紙8Aの絶縁紙第1部分81と、第1インシュレータ9Aの外周側被覆部95によって覆われている。また、突極22の周方向の他方側に設けられた巻線用スロット4の第1内周面41も同様に、第2絶縁紙8Bの絶縁紙第1部分81と、第1インシュレータ9Aの外周側被覆部95によって覆われている。すなわち、巻線用スロット4の第1内周面41は、第1被覆部である絶縁紙第1部分81、および、絶縁紙第1部分81に重なる第2被覆部である外周側被覆部95によって覆われている。
【0035】
図4に示すように、本形態では、絶縁紙第1部分81が第1内周面41の周方向の先端Q1まで延びており、絶縁紙第1部分81が第1内周面41の周方向の全体を覆うのに対して、第1インシュレータ9Aの外周側被覆部95の周方向の先端Q0は、第1内周面41の周方向の先端Q1よりも突極22側に位置している。より詳細には、外周側被覆部95の周方向の先端Q0は、第1内周面41の第1平面部44と第2平面部45とが繋がる屈曲点の近傍に位置する。従って、第1内周面41は、第1平面部44が絶縁紙(絶縁紙第1部分81)と樹脂部材(外周側被覆部95)の2層によって覆われ、第2平面部45は絶縁紙(絶縁紙第1部分81)のみによって覆われている。
【0036】
(巻線用スロットの開口幅)
図5は、コイル6を巻回するときの巻線用スロット4の開口幅を模式的に示す断面図である。
図5に示すように、突極中心線Pを中心として分割コア3を回転させてコイル6を巻回する際、第1絶縁紙8Aおよび第2絶縁紙8Bは、第1折り曲げ部84と第2折り曲げ部85を径方向に折り曲げずに周方向に延ばした状態で行う。このとき、コイル線60は、巻線用スロット4の周方向の開口40に配置したノズル(図示省略)から供給される。本形態では、巻線用スロット4の周方向の開口40は、外周側被覆部95が第1内周面41の周方向の先端Q1まで延びていないため、外周側被覆部95の板厚分だけ開口幅Dが広くなっている。
【0037】
図5に示すように、開口40に配置したノズルからコイル線60を供給できる範囲は、開口幅Dを規定する絶縁紙第1部分81の内周面の周方向の先端Q2を通り、且つ、突極中心線Pと直交する仮想面Rよりも径方向内側である。本形態では、外周側被覆部95の板厚が、凹面である第1内周面41の凹みの深さと同一であるため、外周側被覆部95の内周面950が仮想面Rと同一面上に位置する。従って、開口40から巻線用スロットの
全範囲にコイル線60を供給することができる。
【0038】
(本形態の主な効果)
本形態のモータ1は、放射状に配置される複数の突極22を備えるステータコア21、および絶縁部材5を介して突極22に巻回されるコイル6を備えるステータ20と、ステータ20の内周側に配置されるロータ30を有する。ステータコア21は、周方向に並ぶ複数の分割コア3を備え、分割コア3は、周方向に延びる分割コア外周部23、分割コア外周部23の周方向の中央から径方向内側に延びる突極22、および突極22の先端から周方向の両側に延びる分割コア内周部24を備えており、突極22の周方向の両側には、分割コア外周部23、突極22、および分割コア内周部24によって囲まれる巻線用スロット4が設けられている。巻線用スロット4の内周面は、分割コア外周部23によって構成される第1内周面41を備えており、第1内周面41は、径方向外側に凹む凹面である。絶縁部材5は、巻線用スロット4の内周面を覆う第1絶縁部材8(第1絶縁紙8Aもしくは第2絶縁紙8B)と、第1絶縁部材8に重なる第2絶縁部材9(第1インシュレータ9Aもしくは第2インシュレータ9B)を備える。第1絶縁部材8は、第1内周面41を覆う絶縁紙第1部分81(第1被覆部)を備え、第2絶縁部材9は、絶縁紙第1部分81に重なる外周側被覆部95(第2被覆部)を備える。絶縁紙第1部分81は、第1内周面41の周方向の先端Q1まで延びているのに対して、外周側被覆部95の周方向の先端Q0は、第1内周面41の周方向の先端Q1よりも突極22側に位置する。
【0039】
本形態では、巻線用スロット4の内周面のうち、径方向外側の内周面(第1内周面41)が径方向外側に凹む形状である。また、巻線用スロット4の内周面を被覆する絶縁部材5は、第1内周面41を覆う第1被覆部である絶縁紙第1部分81が第1内周面41の周方向の先端Q1まで延びているのに対して、第1被覆部に重なる第2被覆部である外周側被覆部95は、第1内周面41の周方向の先端Q1まで延びていない。従って、巻線用スロット4の開口幅Dが第2絶縁部材9の厚さの分だけ径方向外側に拡げられているので、分割コア3を回転させてコイル線60を巻く際に、第1内周面41を凹形状にして拡げた空間にもコイル線60を供給できる。よって、分割コア3の外形を大きくすることなく、分割コア外周部23の径方向の厚さTを確保でき、且つ、巻線用スロット4に収容されるコイル線60の巻回数を多くすることができる。従って、巻線占積率が向上し、モータ1の効率が向上する。
【0040】
本形態では、外周側被覆部95(第2被覆部)の内周面950は、突極22の周方向の中心を通り径方向に延びる突極中心線Pと直交し、且つ、絶縁紙第1部分81の内周面の周方向の先端を通る仮想面Rと同一面上に配置される。従って、巻線用スロット4内にコイル線60を供給できないスペースができることを回避できるので、コイル線60の巻回数を多くすることができる。
【0041】
あるいは、外周側被覆部95(第2被覆部)の内周面950が仮想面Rよりも径方向内側に配置されるように構成してもよい。例えば、凹面である第1内周面41の凹みの深さを外周側被覆部95の板厚よりも小さくすれば、外周側被覆部95の内周面950が巻線用スロット4の開口40の縁よりも内側に張り出す構成となる。このような構成では、巻線用スロット4内にコイル線60を供給できないスペースができることを回避できるので、コイル線60の巻回数を多くすることができる。
【0042】
本形態では、第1絶縁部材8を構成するノーメックス紙の厚さは0.13mm程度である。また、第2絶縁部材9の外周側被覆部95、突極側面被覆部94、および内周側被覆部96の板厚は0.3mm以上である。また、コイル線60の線径は0.2mm以上である。本形態の構成では、少なくとも、外周側被覆部95の板厚の分だけ巻線用スロット4の開口40を径方向外側に拡げることができる。従って、コイル線60の線径が外周側被
覆部95の板厚以下であれば、コイル線60を少なくとも一列多く巻くことができる。
【0043】
本形態では、巻線用スロット4の第1内周面41は、突極22から突極中心線Pと直交する方向へ延びる第1平面部44と、第1平面部44に対して屈曲し第1内周面41の周方向の先端Q1まで延びる第2平面部45と、を備える屈曲面である。このように、凹面の形状が屈曲面である場合、凹面が湾曲面である場合よりも製造が容易である。従って、分割コア3の製造が容易であるとともに、樹脂製の第2絶縁部材9の製造が容易である。
【0044】
なお、巻線用スロット4の第1内周面41は、屈曲面でなく湾曲面であってもよい。例えば、第1内周面41は、ロータ30の回転軸線Lを中心とする円弧面であってもよい。このようにすると、分割コア3の外形を大きくすることなく、分割コア外周部23の径方向の厚さTを確保でき、且つ、巻線用スロット4をより広くすることができる。
【0045】
本形態では、分割コア外周部23の周方向の先端における径方向の厚さTが突極22の周方向の厚さT0の50%以上であるため、分割コア外周部23の必要厚さを確保できる。
【0046】
本形態では、第1絶縁部材8として、巻線用スロット4の内周面の回転軸線L方向の全範囲を覆うノーメックス紙などの絶縁紙を用いている。なお、第1絶縁部材8は、シート状の絶縁部材(絶縁シート)であればよく、絶縁紙に限定されるものではない。また、第2絶縁部材9は、分割コア3の回転軸線方向の一方側(出力側L1)の端部を覆う第1インシュレータ9Aと、分割コア3の回転軸線方向の他方側(反出力側L2)の端部を覆う第2インシュレータ9Bを備える。このようにすると、絶縁紙を巻線用スロット4に挿入し、その後に回転軸線L方向の一方側と他方側からそれぞれインシュレータを装着すればよいため、分割コア3と絶縁部材5を組み立てる作業が容易である、また、インシュレータの隙間を絶縁紙によって覆うことができるので、組立が容易な構成でありながら、分割コア3とコイル6とを確実に絶縁できる。
【符号の説明】
【0047】
1…モータ、2…出力軸、3…分割コア、4…巻線用スロット、5…絶縁部材、6…コイル、7…配線基板、8…第1絶縁部材、8A…第1絶縁紙、8B…第2絶縁紙、9…第2絶縁部材、9A…第1インシュレータ、9B…第2インシュレータ、10…モータハウジング、11…筒状部、12…第1軸受ホルダ、13…第2軸受ホルダ、14…第1軸受、15…第2軸受、16…エンコーダカバー、20…ステータ、21…ステータコア、22…突極、23…分割コア外周部、24…分割コア内周部、30…ロータ、31…回転軸、32…ロータマグネット、40…開口、41…第1内周面、42…第2内周面、43…第3内周面、44…第1平面部、45…第2平面部、50…分割コア、51…突極、53…外周側円弧部、60…コイル線、71…インシュレータ、73…絶縁紙、81…絶縁紙第1部分、82…絶縁紙第2部分、83…絶縁紙第3部分、84…第1折り曲げ部、85…第2折り曲げ部、91…突極端面被覆部、92…外周側鍔部、93…内周側鍔部、94…突極側面被覆部、95…外周側被覆部、96…内周側被覆部、97…溝部、98…凹部、950…外周側被覆部の内周面、D…開口幅、L…回転軸線、L1…出力側、L2…反出力側、P…突極中心線、Q0…外周側被覆部の周方向の先端、Q1…第1内周面の周方向の先端、Q2…絶縁紙第1部分の内周面の周方向の先端、R…仮想面、R1…凹面、S…巻線用スロット