(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061117
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】衣服用保温性生地及びそれを使用した衣服
(51)【国際特許分類】
D03D 11/00 20060101AFI20230424BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20230424BHJP
D03D 15/37 20210101ALI20230424BHJP
D03D 15/54 20210101ALI20230424BHJP
D03D 25/00 20060101ALI20230424BHJP
D01F 1/10 20060101ALI20230424BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20230424BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20230424BHJP
A41D 31/02 20190101ALI20230424BHJP
A41D 31/06 20190101ALI20230424BHJP
【FI】
D03D11/00 Z
D03D15/20 100
D03D15/37
D03D15/54
D03D25/00 102Z
D01F1/10
D01F6/92 301M
A41D31/00 502B
A41D31/00 503G
A41D31/02 A
A41D31/06 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170919
(22)【出願日】2021-10-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年4月21日に衣服用保温性生地を使用したデニムパンツの試作品を開示した。令和3年7月8日に衣服用保温性生地を使用したデニムパンツの試作品を開示した。令和3年8月27日に衣服用保温性生地を使用したデニムパンツを販売した。令和3年10月16日に衣服用保温性生地を使用したデニムパンツを販売した。
(71)【出願人】
【識別番号】399042487
【氏名又は名称】株式会社アン・ドゥー
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 二郎
【テーマコード(参考)】
4L035
4L048
【Fターム(参考)】
4L035JJ09
4L035KK05
4L048AA08
4L048AA20
4L048AA39
4L048AA56
4L048AB07
4L048AC00
4L048AC01
4L048BA01
4L048BA09
4L048CA00
4L048CA10
4L048CA12
4L048DA01
4L048EB03
(57)【要約】
【課題】
普通糸と、蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸とを含み、前記マルチフィラメント糸を起毛させた特定の二重織組織を利用することにより、生地の外観については普通糸による自由なデザインを可能にし、生地の裏地につては起毛層として肌触りを向上させ、生地の保温性を向上させた衣服用保温性生地と、それを使用した衣服を提供する。
【解決手段】
二重織組織からなる生地であり、二重織組織を構成する糸は、普通糸と、蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸とを含み、二重織組織の一方の面には、蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸が、最も多く露出し、二重織組織の他方の面には、普通糸が、最も多く露出し、二重織組織の一方の面に露出するポリエステル製のマルチフィラメント糸は起毛された状態である衣服用保温性生地、及びそれを使用した衣服である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重織組織からなる生地であり、
二重織組織を構成する糸は、普通糸と、蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸とを含み、
二重織組織の一方の面には、蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸が、最も多く露出し、
二重織組織の他方の面には、普通糸が、最も多く露出し、
二重織組織の一方の面に露出するポリエステル製のマルチフィラメント糸は起毛された状態である衣服用保温性生地。
【請求項2】
二重織組織を構成する糸は、中空の吸湿発熱性を有する糸をさらに含む請求項1に記載の衣服用保温性生地。
【請求項3】
前記生地は、縦二重織組織、横二重織組織、又は縦横二重織組織である請求項1又は2に記載の衣服用保温性生地。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の衣服用保温性生地を構成材とする衣服であり、
起毛されたポリエステル製のマルチフィラメント糸が最も多く露出する二重織組織の一方の面が着用者の肌側となり、
普通糸が最も多く露出する二重織組織の他方の面が衣服の外側となる衣服。
【請求項5】
前記生地は横二重織組織からなり、経糸が普通糸であり、普通糸はインジゴ染料で染色された糸であり、
生地の表側に配置される第1緯糸は、白色の中空の綿糸であり、
生地の裏側に配置される第2緯糸は、前記蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸であり、
生地の表側の組織は、綾織である請求項4に記載の衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣服用の保温性生地とそれを使用した衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
二重織組織を利用して保温性を高めた生地が知られている。例えば、以下に示す特許文献1には、AB繊維なる繊維を、経糸と裏側組織の緯糸に使用し、CD繊維なる繊維を、表側組織の表側組織の緯糸に使用した二重織物が記載されている。当該二重織物は、表側組織が5枚朱子織であり、裏側組織が2/3ツイルである。
【0003】
AB繊維は、PETと2-エチルヘキシルアクリレート共重合体PSTとを重量比で50:50の割合で送り込み、高分子相互配列体繊維なるものに紡糸し、加熱して延伸等ものであるとされる。CD繊維は、島成分がPETであり、海成分が2-エチルヘキシルアクリレート共重合PSTであり、これらを重量比で80:20の割合で送り込み海島型高分子相互配列体繊維なるものに紡糸し、加熱して延伸等して得られるものであるとされる。
【0004】
上記のAB繊維、及びCD繊維を使用した二重織物をトリクリンで処理して、2-エチルヘキシルアクリレート共重合体PSTを溶解させるとされている。このようにして得られたシート状物は、片面が層状空洞繊維で覆われ、もう一方の面が主として0.0013デニールの極細繊維で覆われた構成となるとされている。このシート状織物は、柔軟性、保温性、密着性、吸水性に優れるとされている。また、上記シート状物の極細繊維で覆われた面に起毛加工を施すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のシート状物では、トリクリンで処理することにより、2-エチルヘキシルアクリレート共重合体PSTを溶解させて取り除く。これにより、シート状物の片側の面には、層状の空洞部を有し、PETで構成される糸が主として存在し、シート状物のもう一方の面には、極細のPETで構成される糸が主として存在する構成となるものと思われる。
【0007】
特許文献1に記載のシート状物では、生地の片側の面に層状の空洞部を有する糸が主として存在する。生地の外観は、生地の片側の面に配される層状の空洞部を有するPST製の糸による制約を受ける。このため、前記生地では、生地を縫製して得られる製品のデザインに制約がある。また、特許文献1のシート状部は、層状の空洞部を有する糸を使用しているので、通常の布に比して、保温性が向上している可能性があるが、保温性をより向上させる余地がある。
【0008】
本発明は、普通糸と、蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸とを含み、前記マルチフィラメント糸を起毛させた特定の二重織組織を利用することにより、生地の外観については普通糸による自由なデザインを可能にし、生地の裏地については起毛層として肌触りを向上させ、生地の保温性を向上させた衣服用保温性生地と、それを使用した衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
二重織組織からなる生地であり、二重織組織を構成する糸は、普通糸と、蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸とを含み、二重織組織の一方の面には、蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸が、最も多く露出し、二重織組織の他方の面には、普通糸が、最も多く露出し、二重織組織の一方の面に露出するポリエステル製のマルチフィラメント糸は起毛された状態である衣服用保温性生地(以下、単に生地と称することがある。)により、上記の課題を解決する。当該生地においては、生地の他方の面には、普通糸が最も多く露出しているため、生地の外観が、蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸の影響を受けにくい。生地の一方の面に最も多く露出するポリエステル製のマルチフィラメント糸には、起毛処理が施されており、前記生地は起毛層による保温効果を発揮する。また、前記起毛はポリエステル製のマルチフィラメント糸が起立した微小な繊維によって構成されているため、起毛を構成する繊維が微小であり、粉のような滑らかな肌触りとなる。さらに、ポリエステル製のマルチフィラメント糸は蓄熱材を含有しており、着用者の体温や日光の照射により、ポリエステル製のマルチフィラメント糸が蓄熱する。これによって、保温効果がさらに高まる。
【0010】
前記衣服用保温性生地を構成材とする衣服であり、起毛されたポリエステル製のマルチフィラメント糸が最も多く露出する二重織組織の一方の面が着用者の肌側となり、普通糸が最も多く露出する二重織組織の他方の面が衣服の外側となる衣服により、上記の課題を解決する。当該衣服においては、衣服の外側に普通糸が最も多く露出するので、上述の機能性を有する糸によって、衣服の外観が影響を受けにくい。また、前記衣服においては、衣服の内側に起毛されたポリエステル製のマルチフィラメント糸が最も多く露出するので、肌触りがよく、保温性においても優れる。
【0011】
前記生地において、二重織組織を構成する糸は、中空の吸湿発熱性を有する糸をさらに含む構成とすることが好ましい。当該糸は、中空であり生地の断熱性と吸湿性とを向上させることが可能であり、着用者の肌から発せられる湿気によって発熱する。前記糸から発せられた熱は前記蓄熱材に蓄熱される。これらの要素の相互作用によって、前記生地の保温性をさらに高めることができる。
【0012】
前記生地は、縦二重織組織、横二重織組織、又は縦横二重織組織にすることができる。
【0013】
前記生地は横二重織組織を有するものであり、経糸が普通糸であり、普通糸はインジゴ染料で染色された糸であり、生地の表側に配置される第1緯糸は、白色の中空の綿糸であり、生地の裏側に配置される第2緯糸は、前記蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸であり、生地の表側の組織は、綾織にすることができる。これにより、従来品よりもより高い保温性を備えており、肌触りがより優れたデニム生地を使用した衣服を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、本発明は、普通糸と、蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸とを含み、前記マルチフィラメント糸を起毛させた特定の二重織組織を利用することにより、生地の外観については普通糸による自由なデザインを可能にし、生地の裏地については起毛層として肌触りを向上させ、生地の保温性を向上させた衣服用保温性生地と、それを使用した衣服とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る衣服用保温性生地の組織図である。
【
図3】
図1の衣服用保温性生地を構成する第1組織の組織図である。
【
図4】
図1の衣服用保温性生地を構成する第2組織の組織図である。
【
図5】第2実施形態に係る衣服用保温性生地の組織図である。
【
図7】
図5の衣服用保温性生地を構成する第1組織の組織図である。
【
図8】
図5の衣服用保温性生地を構成する第2組織の組織図である。
【
図9】第3実施形態に係る衣服用保温性生地の組織図である。
【
図11】
図9の衣服用保温性生地を構成する第1組織の組織図である。
【
図12】
図9の衣服用保温性生地を構成する第2組織の組織図である。
【
図13】第4実施形態に係る衣服用保温性生地の組織図である。
【
図15】
図13の衣服用保温性生地を構成する第1組織の組織図である。
【
図16】
図13の衣服用保温性生地を構成する第2組織の組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の衣服用保温性生地(以下、単に生地と称することがある。)とそれを利用した衣服の実施形態について説明する。以下に示す各実施形態は、本発明の限られた例に過ぎず、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0017】
[第1実施形態]
図1ないし
図4に第1実施形態に係る生地を示す。本実施形態の生地1は、横二重織である。本実施形態の生地1を構成する横二重織は、計2種類の緯糸と、1種類の経糸11とから構成され、
図3に示す第1組織と、
図4に示す第2組織とを有する。
図2に示したように、第1組織は、経糸11と第1緯糸121(緯糸12)とから構成され、第2組織は、経糸11と第2緯糸122(緯糸12)とから構成される。なお、第1組織は、
図3に示した組織図を1単位として、当該1単位が縦方向及び横方向に連続する。また、第2組織は、
図4に示した組織図を1単位として、当該1単位が縦方向及び横方向に連続する。後述する第2実施形態以降の組織図についても同様とする。
【0018】
第1組織は、生地の表面を構成し、衣服を縫製する際には、衣服の外側になるように使用される。第2組織は、生地の裏面を構成し、衣服を縫製する際には、衣服の内側になるように使用される。
【0019】
本実施形態の生地1では、経糸として普通糸を使用し、第1緯糸121として中空の吸湿発熱性を有する糸を使用し、第2緯糸122として蓄熱材を含むポリエステル製のマルチフィラメント糸を使用する。
【0020】
普通糸は、生地の他方の面に最も多く露出し、生地の外観を決定する。普通糸は、衣服のデザインによって構成素材、又は色彩を適宜変更することができる。普通糸としては、ナイロン、ポリエステル、レーヨン、綿、ウールなどの公知の素材で構成された糸を使用することができる。本実施形態の生地1では、普通糸としてインジゴ染料で中白に染色された綿糸を使用した。
【0021】
上記の蓄熱材としては、赤外線を吸収し輻射するセラミクスが挙げられる。セラミクスとしては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、二酸化チタン、二酸化珪素又はジルコニア、酸化タングステン、又は酸化セシウムなどの金属酸化物などが挙げられる。前記金属酸化物は、一種以上を混合して使用してもよい。セラミクスは、粉末状にしてポリエステル繊維に練り込んでもよいし、表面に付着させてもよい。蓄熱材は、生地の外観に不自然な変化をもたらさないので好適に使用することができる。
【0022】
中空の吸湿発熱性を有する糸は、糸の一部が中空であり、糸が吸湿発熱性を発揮する繊維で構成されるものであればよい。例えば、糸の芯の部分が中空であり、鞘の部分に吸湿発熱性を発揮する繊維が存在する糸を好適に使用することができる。中空の吸湿発熱性を有する糸は、公知のものを使用することができる。例えば、芯の部分にPVAを配し、鞘の部分に綿繊維を配し、PVAをアルカリ剤で溶融させて中空形状とした綿糸が知られている。このような綿糸を使用してもよいし、その他の方法で製造した中空形状の綿糸を使用してもよい。上記の吸湿発熱性を有する繊維としては、綿の他に、レーヨン、又はキュプラなどのセルロース系の繊維が挙げられる。本実施形態の生地1では、中空の吸湿発熱性を有する糸として、中空状の綿糸を使用した。
【0023】
中空の吸湿発熱性を有する糸は、中空に構成されており、空気を多く含むため、それ自体が断熱性に優れる。また、当該糸は、吸湿することにより発熱するため、その効果によっても保温性を高めることができる。当該糸は、生地の表面又は生地の裏面に露出する割合が小さくなるように又はゼロになるように構成することが好ましく、生地の外観又は起毛層に与える影響が限定的又は無くなるになるように構成することが好ましい。
【0024】
ポリエステル製のマルチフィラメント糸は、生地を織成した後に摩擦することで、糸を構成するポリエステルのフィラメントが起毛される。ポリエステルの微小な繊維は、起毛した際に、肌触りがよく、光沢感が生じるし、着用者の汗に触れても乾きやすくべたつきにくいという特性を備えており、起毛の素材として好適である。マルチフィラメント糸のフィラメント数が多いほど、起毛の密度が大きくなり、触った際の質感若しくは見た目の質感がよくなり、保温性も向上する。フィラメント数は、例えば、450~680本であることが好ましい。
【0025】
起毛の長さは、特に限定されないが、0.5~4.5mmにすることが好ましい。このようにすることで、衣服を着用した際の着用感が厚ぼったくなることを防止し、保温性は良好にすることができる。
【0026】
本実施形態の生地では、フィラメント数が576本であり、起毛の長さが4.0mmとなるようにした。
【0027】
本実施形態の生地1では、
図3に示したように、経糸11と第1緯糸121とから構成される第1組織は、2/1綾織である。また、経糸11と第2緯糸122とから構成される第2組織は、
図4に示したように、飛数5の12枚朱子織である。
【0028】
図3等の組織図においては、生地の表側に露出している経糸をグレーの塗りつぶしで示し、生地の表側に露出している緯糸を白色の塗りつぶしで示した。生地の裏側に露出する経糸又は緯糸は、表側の組織図のグレーの塗りつぶしと白色の塗りつぶしとを入れ替えた状態となる。
【0029】
図3に示したように、第1組織の表側には、第1緯糸111に比して、経糸11がより多く露出する。本実施形態の生地1の場合、以下の式で求めた普通糸の露出率は66.6%である。本実施形態の生地1では、生地の表側である二重織組織の一方の面に、機能性を発揮する第1緯糸111に比して、より多くの経糸11が露出する。経糸11はインジゴ染料で染色されており、第1組織は綾織とされているので、生地1の外観は、デニム生地と同様になる。
普通糸の露出率(%)=A1÷B1×100
ただし、A1は、
図3の組織図の第1組織において普通糸が生地の表側に露出しているマスの数であり、B1は、
図3の組織図の第1組織における全てのマスの数である。小数点第2位以下は切り捨てとする。なお、後述する他の実施形態に係る生地においても同様の方法で普通糸の露出率を求めた。
【0030】
図4に示したように、第2組織の裏側には、経糸11に比して、第2緯糸122がより多く露出する。本実施形態の生地1の場合、以下の式で求めた第2緯糸の露出率は91.6%である。本実施形態の生地1では、生地の裏側である二重織組織の一方の面に、生地の外観を決定する経糸11に比して、より多くの第2緯糸122が露出する。第2緯糸122は、ポリエステル製のマルチフィラメント糸であり、上述の通り、織成後に起毛される。このため、生地の裏側には、緻密な起毛層が形成される。
ポリエステル製のマルチフィラメント糸の露出率(%)=A2÷B2×100
ただし、A2は、
図4の組織図の第2組織の裏面においてポリエステル製のマルチフィラメント糸が生地の裏側に露出しているマスの数であり、B2は、
図4の組織図における全てのマスの数である。小数点第2位以下は切り捨てとする。なお、後述する他の実施形態に係る生地においても同様の方法で蓄熱材を含むポリエステル製のマルチフィラメント糸の露出率を求めた。
【0031】
生地1では、生地の裏側である一方の面に、ポリエステル製のマルチフィラメント糸が最も多く露出し、生地の表側である他方の面に、普通糸が最も多く露出する。生地1を縫製する際に、生地の一方の面を着用者の肌側に配置し、生地の他方の面を衣服の外側に配置することで、機能性を有する糸、すなわち吸湿発熱性を有する糸、又はポリエステル製のマルチフィラメント糸が衣服の外観に与える影響を低減し、着用者の肌側に起毛層を配置した保温性を有する衣服を提供することができる。本実施形態では、生地1を使用してデニムパンツを縫製した。生地1では、中空の吸湿発熱性を有する糸が着用者の体表から発される湿気により発熱する。生地1では、吸湿発熱による熱、生地に照射される日光による熱、及び着用者の体温による熱を蓄熱材に蓄える。蓄熱材は輻射熱により着用者の身体を温める。生地1では、起毛層や中空の吸湿発熱性を有する糸により熱の発散が抑えられる。また、生地1では、二重織により生地が空気を含みやすくなっておりそれによっても熱の発散が防止される。生地1では、以上のような作用により、高い保温性を発揮する。起毛層は、光沢感のある緻密なものであり、粉のような肌触りの質感を備える。衣服の外側には、普通糸が主に露出しているため、衣服の外観は一般的なデニムパンツと遜色のないものとすることができる。
【0032】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る生地1bを、
図5ないし
図8に示す。本実施形態の生地1bは、第1実施形態に係る生地1と同様に横二重織で構成される。経糸11bに普通糸を使用し、第1緯糸121b(12b)に蓄熱材を含むポリエステルのマルチフィラメント糸を使用し、第2緯糸122b(12b)に中空の綿糸を使用する点においては、第1実施形態に係る生地1aと同様である。生地1bでは、普通糸は、インジゴ染料で中白に染色した綿糸とした。蓄熱材を含むポリエステル製のマルチフィラメント糸のフィラメント数は、650本とした。
【0033】
本実施形態の生地1bでは、第1組織は
図7に示したように飛数4の5枚朱子織とし、第2組織は
図8に示したように飛数4の10朱子織としている。上記と同様にして求めた第1組織の表面における普通糸の露出率は80%であり、上記と同様にして求めた第2組織の裏面における蓄熱材を含むポリエステルのマルチフィラメント糸の露出率は90%である。
【0034】
第2実施形態では、生地1bを使用してデニムパンツを縫製した。生地1bの起毛が多く露出している面を着用者の肌側に配し、生地1bの普通糸が多く露出している面を衣服の外側とした。生地1bでは、第1実施形態に係る生地1と同様の作用により、高い保温性を発揮する。生地1bの起毛層は、光沢感のある緻密なものであり、粉のような肌触りの質感を備える。衣服の外側には、普通糸が主に露出しているため、衣服の外観は一般的なデニムパンツと遜色のないものとすることができる。
【0035】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る生地1cを、
図9ないし
図12に示す。本実施形態の生地1cは、縦二重織で構成される。緯糸12cに普通糸を使用し、第1経糸111c(11c)に中空の綿糸を使用し、第2経糸112c(11c)に蓄熱材を含むポリエステル製のマルチフィラメント糸を使用した。普通糸は、黒の染料で染色したポリエステル製のマルチフィラメント糸とした。
【0036】
生地1cの第1組織は、
図11に示したように、第1経糸111cである中空の綿糸と緯糸12cである普通糸とから構成され、その組織は1/2綾織である。第2組織は、
図12に示したように、第2経糸121cであるポリエステル製のマルチフィラメント糸と緯糸12cである普通糸とから構成され、その組織は飛数5の12枚朱子織である。上記と同様にして求めた第1組織の表面における普通糸の露出率は66.6%であり、上記と同様にして求めた第2組織の裏面における蓄熱材を含むポリエステルのマルチフィラメント糸の露出率は91.6%である。
【0037】
第2組織の裏面には、第2経糸121cである蓄熱材を含むポリエステル製のマルチフィラメント糸が最も多く露出している。当該マルチフィラメント糸は起毛されており、起毛層を構成する。第1組織の表面には、緯糸である普通糸が最も多く露出しており、生地の外観を構成する。
【0038】
第3実施形態では、生地1bを使用して黒色のシャツを縫製した。生地1cの起毛が多く露出している面を着用者の肌側に配し、生地1cの普通糸が多く露出している面を衣服の外側とした。生地1cでは、第1実施形態に係る生地1と同様の作用により、高い保温性を発揮する。生地1bの起毛層は、光沢感のある緻密なものであり、粉のような肌触りの質感を備える。衣服の外側には、普通糸が主に露出しているため、衣服の外観は一般的なシャツと遜色のないものとすることができる。
【0039】
[第4実施形態]
第4実施形態の生地1dを、
図13ないし
図16に示す。本実施形態の生地1dは、縦横二重織で構成される。第1組織は、
図14及び
図15に示したように、第1経糸111d(11d)と第1緯糸121d(12d)とから構成される2/1綾織である。第2組織は、
図14及び
図16に示したように、第2経糸112d(11d)と第2緯糸122d(12d)とから構成される飛数5の8枚朱子織である。第1組織と第2組織とは、
図13において二重丸を付した個所において、第1緯糸を第2経糸の下をくぐらせたり、第2緯糸を第1経糸の上をくぐらせるように織成することで接結し、第1組織と第2組織とを連結する。第1経糸、第1緯糸、第2経糸、及び第2緯糸のいずれでもない接結糸により、第1組織と第2組織とを接結してもよい。なお、
図14において、第1緯糸121d、及び第2緯糸122dに付した1から4の番号は、緯糸の番号であり、
図13、
図15及び
図16に付した緯糸の番号と対応する。横方向に示した1から24の番号は、
図13、
図15及び
図16に付した経糸の番号と対応する。
【0040】
第1経糸には、普通糸として緑色の染料で着色された綿糸を使用し、第1緯糸には、未着色の中空の綿糸を使用した。また、第2経糸、及び第2緯糸には、蓄熱材を含むポリエステル製のマルチフィラメント糸を使用した。フィラメント数は、450本である。上記と同様にして求めた第1組織の表面における普通糸の露出率は、接結点を除いて、66.6%であり、上記と同様にして求めた第2組織の裏面における蓄熱材を含むポリエステルのマルチフィラメント糸の露出率は、接結点を除いて、100%である。
【0041】
第4実施形態では、生地1dを使用して緑色のズボンを縫製した。生地1dの起毛が多く露出している面を着用者の肌側に配し、生地1cd普通糸が多く露出している面を衣服の外側とした。生地1dでは、第1実施形態に係る生地1と同様の作用により、高い保温性を発揮する。生地1dの起毛層は、光沢感のある緻密なものであり、粉のような肌触りの質感を備える。衣服の外側には、普通糸が主に露出しているため、衣服の外観は一般的なズボンと遜色のないものとすることができる。
【0042】
[第5実施形態]
第5実施形態の生地は、第4実施形態の生地と同様に縦横二重織で構成される。第5実施形態の生地においては、第1組織は第1経糸と第2経糸とから構成される平織である。第2組織は、第2経糸と第2緯糸とから構成される飛数5の12枚朱子織であり、第1組織を構成する第1経糸及び第1緯糸に普通糸を使用し、第2組織を構成する第2緯糸に蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸を使用し、第2組織を構成する第2経糸に中空の綿糸を使用した点においてのみ、第4実施形態の生地とは相違する。なお、第2組織の表側には、第2経糸が第2緯糸に比してより多く露出する。
【0043】
第1組織の表面における普通糸の露出率は、接結点を除いて、100%であり、第2組織の裏面における蓄熱材を含むポリエステルのマルチフィラメント糸の露出率は、接結点を除いて、91.6%であり、起毛されている。普通糸は、黒色の染料でポリエステル製のマルチフィラメント糸とした。
【0044】
第5実施形態では、上記の生地を使用してジャケットを縫製した。前記生地の起毛が多く露出している面を着用者の肌側に配し、前記生地の普通糸が多く露出している面を衣服の外側とした。当該生地では、第1実施形態に係る生地1と同様の作用により、高い保温性を発揮する。当該生地の起毛層は、光沢感のある緻密なものであり、粉のような肌触りの質感を備える。衣服の外側には、普通糸が主に露出しているため、衣服の外観は一般的なジャケットと遜色のないものとすることができる。
【0045】
[第6実施形態]
第5実施形態の生地は、
図1ないし
図4に示した第1実施形態と同様の組織を有する横二重織からなる生地である。すなわち、
図3に示したように、第1組織は、経糸11と第1緯糸121とから構成され、2/1綾織である。また、第2組織は、経糸11と第2緯糸122とから構成され、飛数5の12枚朱子織である。経糸は普通糸であり、第1緯糸及び第2緯糸共に、蓄熱材を含有するポリエステル製のマルチフィラメント糸である。普通糸は、黄色で着色した綿糸とした。
【0046】
第1組織の表面における普通糸の露出率は、接結点を除いて、66.6%であり、第2組織の裏面における蓄熱材を含むポリエステルのマルチフィラメント糸の露出率は、接結点を除いて、91.6%であり、起毛されている。
【0047】
第6実施形態では、上記の生地を使用して黄色のシャツを縫製した。前記生地の起毛が多く露出している面を着用者の肌側に配し、前記生地の普通糸が多く露出している面を衣服の外側とした。着用者の体温や生地に照射された日光による熱を蓄熱材に蓄えて、蓄熱材から輻射熱を発する。当該生地は、起毛層により着用者の体温の発散を防いで、高い保温性を発揮する。起毛層は、光沢感のある緻密なものであり、粉のような肌触りの質感を備える。衣服の外側には、普通糸が主に露出しているため、衣服の外観は一般的なシャツと遜色のないものとすることができる。
【0048】
[変形例]
生地の一方の面に露出するポリエステル製のマルチフィラメント糸の露出率は、特に限定されないが、55%以上、100%以下とすることができる。生地の他方の面に露出する普通糸の露出率は、55%以上、100%以下とすることができる。
【0049】
第1組織、又は第2組織の構成は、特に限定されず、例えば、平織、綾織、又は朱子織などから選択することができる。縦二重織、横二重織の場合は、経糸及び緯糸のうち一方が、経糸及び緯糸の内の他方に比較して、生地の一方の面に露出する割合が大きくなる綾織、又は朱子織等の組織を採用することが好ましい。綾織には、破れ斜紋織、又は山形斜紋織が含まれる。
【0050】
縦横二重織であり、かつ中空の吸湿発熱性の糸を使用する場合は、第1組織及び第2組織のいずれか一方については、経糸及び緯糸のうち一方が、経糸及び緯糸の内の他方に比較して、生地の一方の面に露出する割合が大きくなる綾織、又は朱子織等の組織を採用することが好ましい。第1組織及び第2組織の他方については、任意の組織で構成することができる。
【0051】
例えば、第4実施形態において、第1組織を平織組織として、第1経糸、及び第2経糸ともに普通糸とし、第2組織を綾織、又は朱子織として、第2経糸及び第2緯糸のうちいずれか一方を蓄熱材を含むポリエステル製のマルチフィラメント糸とし、他方を中空の吸湿発熱性を有する糸とし、第2組織の裏面に蓄熱材を含むポリエステル製のマルチフィラメント糸が最も多く露出するようにしてもよい。
【0052】
縦二重織では、第1組織と第2組織とで共通の緯糸を使用する。横二重織は、第1組織と第2組織とで共通の緯糸を使用する。共通の経糸又は緯糸を使用する組織は、縦横二重織に比して、生地の厚みを小さくすることができるので、衣服の着心地の点で好ましい。
【0053】
上記の各実施形態における生地において、ポリエステル製のマルチフィラメント糸は、弾性糸としてもよい。例えば、ポリウレタン糸にポリエステルのマルチフィラメント糸を巻回してなるカバードヤーンとしてもよい。このようにすることによって、生地、及び当該生地を使用して構成した衣服に伸縮性を付与することができる。
【0054】
蓄熱材は、線維の表面に付着させてもよいし、線維を構成するポリエステル素材に練り込んでもよい。蓄熱材を練り込んだ場合は、蓄熱材が脱落しにくくなるので好ましい。蓄熱材の配合量は、特に限定されないが、糸の質量100質量部に対して、0.1~10質量%とすることが好ましい。
【0055】
各実施形態の生地を使用して縫製される衣服は、特に限定されず、上衣、下衣、つなぎ服などが挙げられる。
【実施例0056】
上記の第1実施形態に係る生地と、以下に示す比較例1に係る生地とのそれぞれについて、ドライコンタクト法により、保温性を評価した。
【0057】
第1実施形態に係る生地の構成は上述の通りであるので説明を省略する。なお、第1実施形態に係る生地では、ポリエステル製のマルチフィラメント糸の質量の3%に相当する蓄熱材を練り込んである。
【0058】
比較例1の生地は、緯糸を綿糸とし、縦糸をインジゴ染料で染色した中白の綿糸とする綾織のデニム生地と、裏地とを接着剤で張り合わせた二層生地である。裏地は、ポリウレタン糸にポリエステル製のマルチフィラメント糸を巻回して構成した糸を縦糸と緯糸とに使用し、起毛処理を施した織布である。起毛の長さは、1.3mmである。
【0059】
ドライコンタクト法は、皮膚と衣服が乾燥状態で直接に接する条件における保温性を評価する手法である。その手順は以下の通りある。
1.試験片20cm×20cmを採取する(n=2)。
2.測定装置はTHERMO LABO II(カトーテック株式会社製)を使用した。
3.装置の恒温発熱体の温度を、30℃に設定し、環境温度を20℃に設定し、環境温度と高温発熱体の温度差が10℃となるようにした。生地表面の空気の流れは30cm/sに設定した。
4.試験片を恒温発熱体に取り付けて、60秒間の放熱損失の合計値を求め、平均値を出す(b)。
5.試験片を恒温発熱体に取り付けない状態で、上記と同様の条件で60秒間の放熱損失の合計値を求め、平均値を出す(a)。
6.次の式から保温率を求める。
保温率(%)=(1-b/a)×100
a:恒温発熱体に試験片を取り付けずに測定した放熱損失の合計値(W/cm2)
b:恒温発熱体に試験片を取り付けた状態で測定した放熱損失の合計値(W/cm2)
【0060】
上記のドライコンタクト法により求めた実施例1に係る生地の保温率は33.7%であった。上記のドライコンタクト法により求めた比較例1に係る生地の保温率は18.6%であった。実施例1に係る生地は、比較例1に係る生地に比して、約1.8倍もの保温率を備えていることが示された。
【0061】
上記実施例1の生地でデニムパンツを縫製したところ、外観については、通常のデニムパンツと遜色がないものであった。当該デニムパンツを着用したところ、従来のデニムパンツに比して、格段に保温性が高かった。デニムパンツの内側に設けられた起毛層は、高級感のあるベルベット生地のような外観であり、肌触りも良好であった。