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特開2023-61171飲酒運転防止装置、飲酒運転防止方法および飲酒運転防止プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061171
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】飲酒運転防止装置、飲酒運転防止方法および飲酒運転防止プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60K 28/06 20060101AFI20230424BHJP
   A61B 5/18 20060101ALI20230424BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
B60K28/06 B
A61B5/18
G08G1/16 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171000
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】391008559
【氏名又は名称】株式会社トランストロン
(74)【代理人】
【識別番号】100170070
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 ゆかり
(72)【発明者】
【氏名】勝田 実枝
(72)【発明者】
【氏名】浦 俊
【テーマコード(参考)】
3D037
4C038
5H181
【Fターム(参考)】
3D037FA03
3D037FB05
3D037FB09
4C038PP05
4C038PQ04
4C038PS05
5H181AA01
5H181CC04
5H181FF27
5H181FF32
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL20
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で、効果的に飲酒運転を防止する。
【解決手段】車両の運転手の状態を計測するセンサ群10と、センサ群での計測結果に基づいて、運転手の酔いの程度を多段階に推定する酔い程度推定部33と、酔いの程度が所定の段階以上である場合に、車両のエンジン動作を禁止する車両制御部35と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転手の状態を計測するセンサ群と、
前記センサ群での計測結果に基づいて、前記運転手の酔いの程度を多段階に推定する酔い程度推定部と、
前記酔いの程度が所定の段階以上である場合に、前記車両のエンジン動作を禁止する車両制御部と、
を備えることを特徴とする飲酒運転防止装置。
【請求項2】
前記酔い程度推定部は、前記酔いの程度が大きい段階から小さい段階の順に、前記酔いの程度を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の飲酒運転防止装置。
【請求項3】
前記酔い程度推定部は、前記酔いの程度の段階に応じて、前記センサ群に含まれるセンサのうち異なるセンサの計測結果の組合せに基づいて、当該酔いの程度に属するか否かを推定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の飲酒運転防止装置。
【請求項4】
前記酔いの程度に応じて異なる態様で報知を行う報知制御部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の飲酒運転防止装置。
【請求項5】
前記酔いの程度と前記運転手に課せられる処分とを対応付けて記憶する記憶部をさらに備え、
前記報知制御部は、前記記憶部を参照して、前記酔いの程度に応じた前記処分を前記運転手に報知する
ことを特徴とする請求項4に記載の飲酒運転防止装置。
【請求項6】
前記センサ群とは異なるアルコール濃度測定部をさらに備え、
前記車両制御部は、前記エンジン動作が禁止されている場合に、前記アルコール濃度測定部による測定結果が条件を満たすと、前記エンジン動作を許可する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の飲酒運転防止装置。
【請求項7】
車両の運転手の状態を計測するセンサ群により前記運転手の状態を計測する計測ステップと、
前記センサ群での計測結果に基づいて、前記運転手の酔いの程度を多段階に推定する酔い程度推定ステップと、
前記酔いの程度が所定の段階以上である場合に、前記車両のエンジン動作を禁止する車両制御ステップと、
を含むことを特徴とする飲酒運転防止方法。
【請求項8】
コンピュータを、
車両の運転手の状態を計測するセンサ群での計測結果に基づいて、前記運転手の酔いの程度を多段階に推定する酔い程度推定部と、
前記酔いの程度が所定の段階以上である場合に、前記車両のエンジン動作を禁止する車両制御部、
として機能させることを特徴とする飲酒運転防止プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲酒運転防止装置、飲酒運転防止方法および飲酒運転防止プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲酒運転を検知する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、複数のバイタルセンサと複数のカメラを用い、生体データおよびカメラ撮像画像に基づいて運転手の酩酊状態を推定することで、飲酒運転を検知する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018―147021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転手が酒に酔っている状態で車両を運転すると危険であるため、飲酒運転を効果的に防止する装置が必要とされている。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、簡易な構成で、効果的に飲酒運転を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る飲酒運転防止装置は、例えば、車両の運転手の状態を計測するセンサ群と、前記センサ群での計測結果に基づいて、前記運転手の酔いの程度を多段階に推定する酔い程度推定部と、前記酔いの程度が所定の段階以上である場合に、前記車両のエンジン動作を禁止する車両制御部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の他態様に係る飲酒運転防止方法は、例えば、車両の運転手の状態を計測するセンサ群により前記運転手の状態を計測する計測ステップと、前記センサ群での計測結果に基づいて、前記運転手の酔いの程度を多段階に推定する酔い程度推定ステップと、前記酔いの程度が所定の段階以上である場合に、前記車両のエンジン動作を禁止する車両制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の他態様に係る飲酒運転防止プログラムは、例えば、コンピュータを、車両の運転手の状態を計測するセンサ群での計測結果に基づいて、前記運転手の酔いの程度を多段階に推定する酔い程度推定部と、前記酔いの程度が所定の段階以上である場合に、前記車両のエンジン動作を禁止する車両制御部、として機能させることを特徴とする。
なお、コンピュータプログラムは、インターネット等のネットワークを介したダウンロードによって提供したり、CD-ROMなどのコンピュータ読取可能な各種の記録媒体に記録して提供したりすることができる。
【0009】
本発明の上記いずれかの態様では、酔いの程度を多段階に推定することで、酔いの程度に則した細やかな報知又は車両制御が可能であり、飲酒運転を効果的に防止することができる。また、酔いの程度が軽度である場合に一律にエンジン動作を停止するものとすると、走行中にエンジンが停止せざるを得なくなるなど、不便かつ危険である。そこで、酔いの程度が所定の段階以上である場合のみにエンジン動作を禁止することで、飲酒運転を安全に防止できる。さらに、酔いの程度が所定の段階以上である場合にエンジン動作を禁止することで、飲みながら運転することで次第に酔いの程度が大きくなっていく場合であっても、安全な停止を促せる。
【0010】
前記酔い程度推定部は、前記酔いの程度が大きい段階から小さい段階の順に、前記酔いの程度を推定してもよい。これにより、重度な酔い状態を迅速かつ正確に判定することができる。また、酔いの程度を小さく見積もってしまう誤判定を防止し、酔いの程度が大きい、すなわち危険な状態をより確実に検知できる。
【0011】
前記酔い程度推定部は、前記酔いの程度の段階に応じて、前記センサ群に含まれるセンサのうち異なるセンサの計測結果の組合せに基づいて、当該酔いの程度に属するか否かを推定してもよい。これにより、複数種類のセンサを選択的に用いて各酔いの程度特有の特徴を捉えることで、簡便な計測手法ながら正確に酔いの程度を推定できる。
【0012】
前記酔いの程度に応じて異なる態様で報知を行う報知制御部をさらに備えてもよい。これにより、酔い程度が大きいことの重大性を運転手により確実に伝えられる。また、例えば飲みながら運転している場合にも、報知態様が変化していくため、継続的に注意を引くことができる。
【0013】
前記酔いの程度と前記運転手に課せられる処分とを対応付けて記憶する記憶部をさらに備え、前記報知制御部は、前記記憶部を参照して、前記酔いの程度に応じた前記処分を前記運転手に報知してもよい。これにより、飲酒運転が処分を受ける行動であることを運転手に現実味を持って理解させ、飲酒運転の抑止力となりうる。
【0014】
前記センサ群とは異なるアルコール濃度測定部をさらに備え、前記車両制御部は、前記エンジン動作が禁止されている場合に、前記アルコール濃度測定部による測定結果が条件を満たすと、前記エンジン動作を許可してもよい。これにより、飲酒の有無をより精緻な測定で判定することで、飲酒運転をより確実に防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡易な構成で、効果的に飲酒運転を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施の形態に係る飲酒運転防止装置1、および当該飲酒運転防止装置1に接続される報知装置2の電気的な機能ブロックの概略を示す図である。
図2】飲酒運転防止装置1が推定する酔い程度、参照するセンサ、解析内容、および制御内容の対応関係を示すテーブルの例である。
図3】飲酒運転防止装置1が飲酒時制御を開始する処理の流れを示すフローチャートである。
図4】飲酒運転防止装置1が飲酒時制御を解除する処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る飲酒運転防止装置の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。飲酒運転防止装置は、運転開始前および運転中において運転手の飲酒の有無および酔いの程度を推定し、飲酒の有無又は酔いの程度に応じて制御を異ならせる装置である。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施の形態に係る飲酒運転防止装置1、および飲酒運転防止装置1に接続される報知装置2の電気的な機能ブロックの概略を示す図である。飲酒運転防止装置1は、報知装置2と有線又は無線により接続されており、報知装置2を介して飲酒運転に関するアラームを報知する。飲酒運転防止装置1と報知装置2とは、ネットワークを介して接続されていてもよい。
【0019】
報知装置2は、ディスプレイ等の表示装置、スピーカ、鳴動により報知するランプ等、運転手に飲酒運転を警告する適宜の装置を備えている。報知装置2が表示装置を有する場合には、当該表示装置は例えば車両の運転席のメーターパネルに配設されている。また、報知装置2は、インターネットに接続され、インターネット回線を介して外部装置に到達する通知を送信可能であってよい。
【0020】
また、飲酒運転防止装置1は、車外に設けられた装置(図示省略)とネットワークを介して接続され、当該装置を介して車外にいる管理者に飲酒運転のおそれを報知してもよい。
【0021】
飲酒運転防止装置1は、主として、センサ群10と、アルコール濃度測定部20と、制御部30とを備える。
【0022】
センサ群10は、運転手の飲酒の有無および酔いの程度に関する情報を計測するセンサである。センサ群10は、複数のセンサを含み、例えば、バイタルセンサ11、撮像部12、収音部13、空気中アルコール濃度測定部14、および体温測定部15を含む。センサ群10に含まれるセンサは、上述の他にも適宜採用できるが、運転手の動作を制限しない、すなわち運転手に接触しない計測方法であることが望ましい。
【0023】
バイタルセンサ11は、運転手の生体信号を計測するセンサである。バイタルセンサ11は例えば、脈の速さすなわち心拍数、又は呼吸の速さもしくは深さを計測する。
【0024】
心拍数、又は呼吸の速さもしくは深さの計測方法は任意である。心拍数を計測する手法として、例えば、バイタルセンサ11は、運転席のシート又はハンドル等に埋め込まれた電極を含み、当該電極により心拍数を計測してもよい。また、電極に代えて、体表面から赤外線又は赤色光を照射し、血流量の変化を計測する方法で心拍数を計測してもよい。また、呼吸の速さおよび深さを計測する手法として、例えば、バイタルセンサ11は、運転手の体に超音波を照射した上で、反射波から微弱な呼吸による振動を検出し、振動の頻度および大きさから、呼吸の速さおよび深さを計測してもよい。
【0025】
撮像部12は、例えばカメラである。撮像部12は、少なくとも運転席のヘッドレスト付近が撮像範囲となるように配設され、運転手の静止画又は動画を撮像する。撮像部12は、運転席に着座している運転手の顔を撮像する。また、撮像部12は、運転手の姿勢および動きを撮像する。撮像部12により撮像されたデータは、制御部30が有する記憶部32に格納されてもよい。
【0026】
収音部13は、例えばマイクロホンである。収音部13は、運転手から発せられる音を収音する。収音部13は、例えば運転手の発話を収音する他、いびき等を収音してもよい。
【0027】
空気中アルコール濃度測定部14は、例えばガスセンサであり、空気中に含まれるアルコール濃度を測定する装置である。空気中アルコール濃度測定部14は、車両内のアルコール濃度を測定する。
【0028】
体温測定部15は、運転手の体温を測定する装置であり、例えば赤外線センサを用いて運転手の体温を測定する。この場合、体温測定部15は、例えばサーモグラフィカメラにより実現されてよい。また、体温測定部15は、シート又はハンドル等に内蔵された適宜の機構(例えば、温度センサ)により、体温を測定してもよい。
【0029】
アルコール濃度測定部20は、運転手が発するアルコールを測定する手段であり、センサ群10には含まれない装置である。アルコール濃度測定部20は、センサ群10に比べてより高精度にアルコール濃度を測定できる。アルコール濃度測定部20は、例えば呼気吹込み式の測定装置であってもよいし、人体から放射する赤外線に基づいて飲酒により血液中に溶け込んでいるエチルアルコールを推定する装置であってもよい。アルコール濃度測定部20は、飲酒が推定される場合に飲酒運転防止装置1により行われる制御、すなわち飲酒時制御を解除する際に、運転手のアルコール濃度を測定するために用いられる。
【0030】
制御部30は、情報処理を実行するためのCPU(Central Processing Unit)などの演算装置、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの記憶装置により、ソフトウェア資源として少なくとも、解析部31と、記憶部32と、酔い程度推定部33と、報知制御部34と、車両制御部35とを有する。
【0031】
解析部31は、センサ群10により計測したデータを解析する機能部である。解析部31は、センサ群10の各センサの計測結果に対する閾値を記憶部32から参照し、各センサの計測結果から飲酒の有無および酔いの程度を判定する。
【0032】
解析部31は、バイタルセンサ11により計測される呼吸の速さ、例えば単位時間当たりの呼吸回数が閾値以下か否かを判定する。また、解析部31は、バイタルセンサ11の計測結果から呼吸の深さを推定し、また換気量が閾値以上であるか判定する。当該解析部31の処理は、すでに公知の様々な技術を用いて行うことができる。
【0033】
解析部31は、撮像部12により撮像される運転手の顔色(例えば、赤さや青さ)を解析する。本実施の形態では、解析部31は、運転手の顔の赤さが閾値以上か否かを判定する。解析部31は、記憶部32を参照し、過去に撮影された運転手の顔画像と比較して、顔色が赤いか否かを判定してもよい。記憶部32に記憶されている顔画像は、運転する可能性がある人物が飲酒していない状態、すなわち通常期の写真を別途撮影し、予め登録されていてもよい。これにより、運転手の通常の肌色を加味した正確な顔色解析が可能である。
【0034】
また、解析部31は、記憶部32に当該運転手の画像が登録されているか否かを判定し、登録されていない場合には顔色解析を行わず、当該画像を登録する登録処理を行うものとしてもよい。この場合、解析部31は、当該運転手の撮像が2回目以降である場合に、過去に登録した画像と比較して顔色解析を行う。したがって、予め写真登録を行う必要がなく、簡便である。
【0035】
また、解析部31は、撮像部12の撮像結果において、例えば目の開閉状態を解析することで、運転手が寝ているか否かを判定する。さらに、解析部31は、撮像結果の画像認識により、運転手に吐き気があるか否かを判定する。吐き気の有無は、例えば表情および口の形状を解析することで行う。目の開閉や表情、口の形状は、すでに公知の様々なパターン認識技術を用いて認識及び判定することができる。
【0036】
さらにまた、解析部31は、撮像部12により撮像される運転手の顔の表情に基づいて、運転手の感情を判定してもよい。特に、解析部31は、運転手が怒っていることを判定してもよい。飲酒時の特に酩酊初期において、怒りっぽくなることが知られているためである。さらにまた、解析部31は、運転手の動きおよび姿勢を解析し、酔っているか否かを判定してよい。動きおよび姿勢の解析、およびその他の各解析には、すでに公知の様々なパターン認識技術やAIを用いた解析により行うことができる。
【0037】
解析部31は、収音部13により収音された計測結果を解析し、話している内容の正確性を判定する。また、解析部31は、収音部13により収音された計測結果を解析し、話している内容の重複度を算出し、重複度が閾値以上か否かを判定する。飲酒時の特に酩酊期において、同じことを繰り返して発話することが知られているためである。また、解析部31は、収音された運転手の声の大きさが閾値以上か否かを判定してもよい。飲酒時には声が大きくなるためである。また、解析部31は、収音部13により収音された計測結果を解析し、音にいびきが含まれるか否かを判定する。収音結果の解析は、すでに公知の様々な技術を用いて行うことができる。
【0038】
また、解析部31は、空気中アルコール濃度測定部14及びアルコール濃度測定部20により測定されたアルコール濃度が閾値以上か否かを判定する。
【0039】
解析部31は、体温測定部15により測定された体温が閾値以上か否かを判定する。飲酒時には体温が上がる傾向にあるため、閾値以上である場合に、飲酒状態である可能性がある。
【0040】
酔い程度推定部33は、飲酒の有無および運転手の酔いの程度を多段階に推定する機能部である。酔い程度推定部33には、解析部31における解析結果が入力される。
【0041】
図2は、飲酒運転防止装置1が推定する酔い程度、参照するセンサ、解析内容、および制御内容の対応関係を示すテーブルの例である。酔い程度推定部33は、酔いの程度を例えば、爽快期、ほろ酔い期、酩酊初期、酩酊期、泥酔期、および昏睡期の6段階で推定する。本実施形態において、酔いの程度は、爽快期が最も小さい段階であり、ほろ酔い期、酩酊初期、酩酊期、泥酔期、昏睡期の順で大きくなり、昏睡期が最も大きい。すなわち、酔い程度推定部33は、飲酒していない通常期と合わせて、運転手の状態を7種類に分別する。
【0042】
酔い程度推定部33は、センサ群10のうち複数のセンサの計測結果に基づいて、酔いの程度を推定する。したがって、運転手の動作を妨げない簡便な方法を組み合わせて、酔いの程度を正確に推定することができる。
【0043】
また、酔い程度推定部33は、酔いの程度の段階に応じて、センサ群10に含まれるセンサのうち異なるセンサの計測結果の組合せに基づいて、当該酔いの程度に属するか否かを推定する。また、酔い程度推定部33は、異なる解析データに基づいて、当該酔いの程度に属するか否かを推定する。本実施の形態では、図2に示すように、複数種類のセンサを選択的に用いて各酔いの程度に特有の特徴を捉えることで、簡便な計測手法ながら正確に酔いの程度を推定する。
【0044】
酔い程度推定部33は、酔いの程度が大きい段階から小さい段階の順に、酔いの程度を推定する。すなわち、酔い程度推定部33は、まず、最も酔いの程度が大きい昏睡期にあるか否かを判定し、昏睡期でない場合に、次いで酔いの程度が大きい泥酔期にあるか否かを判定する。これにより、重度な酔い状態を迅速かつ正確に判定することができる。また、酔いの程度を小さく見積もってしまう誤判定を防止し、酔いの程度が大きい、すなわち危険な状態をより確実に検知できる。
【0045】
なお、酔い程度推定部33は、参照する複数の解析データのうち、すべてのデータが条件を満たす場合にのみ当該段階の程度に酔っていると判定してもよいし、一部のデータが条件を満たす場合に当該段階の程度に酔っている旨判定してもよい。酔い程度推定部33については、後に詳述する。
【0046】
記憶部32は、解析部31により参照される、センサ群10の計測結果に対する閾値を記憶する機能部である。また、記憶部32は、撮像部12により撮像された運転手の写真又は動画を蓄積する。
【0047】
また、記憶部32は、酔いの程度と、運転手に課せられる処分とを対応付けて記憶する。処分は、罰則および行政処分を含んでいてもよく、懲役、過料や罰金、免許の停止期間、取り消しの有無等に関する情報である。酔いの程度および罰則の対応関係の情報は、書換可能な不揮発性メモリに記憶されており、例えば法律又は条例等の制度の改正に則して書換可能になっている。また、車両が運転される国又は地域を入力することにより、当該国又は地域に対応付けられた制度が選択されてもよい。さらに、車両に搭載されているGNSSの情報に基づいて車両が運転されている地域を推定し、当該国又は地域の制度に則して自動で選択されてもよい。
【0048】
報知制御部34は、酔い程度推定部33により推定される酔いの程度に基づいて、運転手等に報知を行う機能部である。報知制御部34には、酔い程度推定部33における推定結果が入力される。
【0049】
報知制御部34は、酔いの程度に応じて異なる態様で報知する。例えば、報知制御部34は、酔いの程度に応じて異なる配置や色のランプを点灯させたり、異なるメッセージを表示させたりしてもよい。また、異なる種類又は音量のブザー音又はメッセージの発報を行ってもよい。報知制御部34は、酔いの程度が大きい程、複数の態様で報知を行ってもよい。酔い程度が大きい程、注意を引く態様で報知することが望ましい。このように、酔い程度が大きいことの重大性を運転手により確実に伝えられる。また、例えば飲みながら運転している場合にも、報知態様が変化していくため、継続的に注意を引くことができる。
【0050】
さらに、例えば、報知制御部34は、記憶部32を参照して、酔いの程度に応じた処分を運転手に報知する。図2に示すように、報知制御部34は、昏睡期又は泥酔期と推定される場合は、酒酔い運転における処分を報知する。酒酔い運転における処分は、例えば5年以下の懲役または100万円以下の罰金、ならびに35点の減点、免許取消および欠格期間が3年である。また、報知制御部34は、酩酊期と推定される場合は、重度の酒気帯び運転における処分を運転手に報知する。当該処分は、例えば3年以下の懲役または50万円以下の罰金、ならびに25点の減点、免許取消および欠格期間が2年である。報知制御部34は、爽快期、ほろ酔い期又は酩酊初期と推定される場合は、軽度の酒気帯び運転における処分を運転手に報知する。当該処分は、例えば3年以下の懲役または50万円以下の罰金、ならびに13点の減点および免許停止90日である。
【0051】
これにより、推定される酔いの程度に則した処分を運転手に知らせることができる。正確な処分の内容を報知することで、飲酒運転が処分を受ける行動であることを運転手に現実味を持って理解させ、飲酒運転の抑止力となりうる。
【0052】
車両制御部35は、酔いの程度に応じて飲酒時における車両制御、すなわち飲酒時制御を行う機能部である。車両制御部35には、解析部31における解析結果及び酔い程度推定部33における推定結果が入力される。
【0053】
車両制御部35は、酔いの程度が第1段階(ここでは、泥酔期又は昏睡期)である場合であって、エンジンが動作している場合にはエンジンを停止させ、エンジンが動作していない場合には、エンジンの始動を禁止することにより、エンジン動作を禁止する。エンジン動作を禁止は、飲酒時制御の一例である。酔いの程度が軽度である場合には万一誤判定のリスクがあるところ、一律にエンジン動作を停止するものとすると、走行中にエンジンが停止せざるを得なくなるなど、不便かつ危険である。そこで、酔いの程度が所定の段階以上である場合のみにエンジン動作を禁止することで、飲酒運転を安全に防止できる。
【0054】
また、車両制御部35は、酔いの程度が第2段階(ここでは、酩酊期)以上である場合に、ハザードランプを点灯させる。さらに、車両制御部35は、酔いの程度が第3段階(ここでは、酩酊期)以上である場合に、所定の送信先にメールを送信する。ハザードランプの点灯およびメールの送信は、飲酒時制御の一例である。本実施形態においては、第2段階および第3段階はいずれも酩酊期であるが、第2段階と第3段階が異なっていてもよい。
【0055】
車両制御部35は、エンジン動作が禁止されている場合に、解析部31からアルコール濃度測定部20による測定結果による解析結果を取得する。車両制御部35は、アルコール濃度測定部20による測定結果が条件を満たす場合には、飲酒時制御を解除する。すなわち、車両制御部35は、飲酒時制御の開始の判断に用いたセンサ群10とは異なるセンサで測定した結果に基づいて、飲酒時制御を解除する。これにより、飲酒の有無をより正確な測定で判定することができ、その結果飲酒運転をより確実に防止できる。
【0056】
車両制御部35は、例えばアルコール濃度測定部20により測定されたアルコール濃度が所定以下、例えば0%である場合に、飲酒時制御を解除する。特に、車両制御部35は、エンジン動作の禁止を解除し、エンジンの動作を許可する。また、車両制御部35は、アルコール濃度測定部20による測定結果が条件を満たす場合には、アラームおよびハザードランプの消灯を行ってもよい。さらに、車両制御部35は、アルコール濃度測定部20による測定結果が条件を満たす場合に所定の動作を行ってもよく、例えば、飲酒状態が解消された旨のメールを、飲酒状態を知らせた送信先へ送信してもよい。
【0057】
図3は、飲酒運転防止装置1が飲酒の有無および酔いの程度を推定し、飲酒時制御を開始する処理の流れを示すフローチャートである。図3に示す処理は、主として制御部30によって行われる。
【0058】
まず、解析部31は、センサ群10の計測値を取得し(ステップSP11)、各センサの計測結果を解析する(ステップSP12)。次いで、酔い程度推定部33は、ステップSP12における解析結果のうち、バイタルセンサ11および撮像部12の計測結果に基づいて昏睡期か否かを判定する(ステップSP13)。具体的には、酔い程度推定部33は、バイタルセンサ11の計測結果から解析される呼吸の速さ(ここでは、呼吸の速さが12回/分以下)及び換気量(ここでは、500mL以上)並びに撮像部12により撮像された画像に基づいて認識された目の開閉(ここでは、常時目が閉じている、すなわち眠っている)に基づいて昏睡期か否かを判定する。なお、昏睡期には、ゆっくりかつ深い呼吸をするという特徴がある。したがって、呼吸がゆっくり(呼吸の速さが12回/分以下)であり、通常の換気量といわれている400mL~500mLより多い500mL以上の換気量の場合は、昏睡期である可能性が高いと判定することができる。
【0059】
昏睡期である場合(ステップSP13でYES)には、車両制御部35は、エンジンの動作を停止させ(ステップSP14)、報知制御部34は、アラーム、ハザードランプ点灯およびメール送信する(ステップSP15)。ステップSP14およびSP15は順不同であり、同時に行われてもよい。
【0060】
ステップSP13において昏睡期でないと判定された場合(ステップSP13でNO)には、酔い程度推定部33は、ステップSP12における解析結果のうち、ステップSP13とは異なる解析データ(ここでは、撮像部12および収音部13の計測結果)に基づいて運転手が泥酔期か否かを判定する(ステップSP16)。具体的には、酔い程度推定部33は、撮像部12により撮像された画像に基づいて認識された目の開閉(ここでは、所定時間以上目を閉じている)及び収音部13により収音される発話内容の正確性に基づいて泥酔期か否かを判定する。
【0061】
泥酔期であると判定された場合(ステップSP16でYES)には、ステップSP14に進む。泥酔期であると判定されなかった場合(ステップSP16でNO)には、酔い程度推定部33は、ステップSP12における解析結果のうち、ステップSP13、SP16とは異なる解析データ(ここでは、バイタルセンサ11、撮像部12および収音部13の計測結果)とは異なる解析データに基づいて、運転手が酩酊期か否かを判定する(ステップSP17)。具体的には、酔い程度推定部33は、バイタルセンサ11の計測結果から解析される呼吸の速さ(ここでは、呼吸の速さが25回/分以下)、撮像部12により撮像された画像から認識された表情(ここでは、吐き気がある)及び収音部13により収音される発言内容の重複度(ここでは、同じ発言を繰り返す)に基づいて泥酔期か否かを判定する。例えば、酔い程度推定部33は、上記3つの条件を満たす場合に、酩酊期であると判定する。
【0062】
酩酊期であると判定された場合(ステップSP17でYES)には、報知制御部34は、ステップSP15とは異なる内容のアラームを報知するとともに、ハザードランプ点灯およびメール送信する(ステップSP18)。
【0063】
酩酊期ではないと判定された場合(ステップSP17でNO)には、酔い程度推定部33は、ステップSP12における解析結果のうち、ステップSP13、SP16、SP17とは異なる解析データ(ここでは、撮像部12および収音部13の計測結果)に基づいて、運転手が酩酊初期か否かを判定する(ステップSP19)。具体的には、酔い程度推定部33は、撮像部12の計測結果による怒りの表情の有無(ここでは、怒りの表情を有する)及び収音部13により収音される発言の声量(ここでは、大声)に基づいて怒りを検知し、怒りが検知できたときに酩酊初期であると判定する。
【0064】
酩酊初期であると判定された場合(ステップSP19でYES)には、報知制御部34は、ステップSP15およびステップSP18とは異なる内容のアラームを報知する(ステップSP20)。
【0065】
酩酊初期ではないと判定された場合(ステップSP19でNO)には、酔い程度推定部33は、ステップSP12における解析結果のうち、ステップSP13、SP16、SP17、SP19とは異なる解析データ(ここでは、バイタルセンサ11、撮像部12、および体温測定部15の計測結果)に基づいて、運転手がほろ酔い期か否かを判定する(ステップSP21)。具体的には、酔い程度推定部33は、バイタルセンサ11の計測結果から解析される脈拍(ここでは、脈拍が135回/分以上)、撮像部12で撮像された画像から検知された運転者の動き(ここでは、多動)、および体温測定部15の計測結果から解析される体温(ここでは、脈拍が37.5℃以上)に基づいてほろ酔い期か否かを判定する。例えば、酔い程度推定部33は、上記3つの条件を満たす場合に、ほろ酔い期であると判定する。
【0066】
ほろ酔い期であると判定された場合(ステップSP21でYES)には、ステップSP20に進む。また、ほろ酔い期ではないと判定された場合(ステップSP21でNO)には、酔い程度推定部33は、ステップSP12における解析結果のうち、ステップSP13、SP16、SP17、SP19、SP21とは異なる解析データ(ここでは、撮像部12および空気中アルコール濃度測定部14の計測結果)に基づいて、運転手が爽快期か否かを判定する(ステップSP22)。具体的には、酔い程度推定部33は、撮像部12で撮像された画像から認識される顔色(例えば、顔色が赤い)又は空気中アルコール濃度測定部14の計測結果から解析される空気中アルコール濃度(ここでは、空気中アルコール濃度が閾値以下)のどちらかが条件を満たす場合に、爽快期であると判定する。
【0067】
爽快期であると判定される場合(ステップSP22でYES)には、ステップSP20に進む。爽快期ではないと判定された場合(ステップSP22でNO)には、運転手は飲酒しておらず通常期であるため、処理を終了する。なお、飲酒が検出されなかった旨を報知するステップがあってもよい。
【0068】
なお、図3に示す処理は、運転手がエンジンを起動させる動作を行う前に行うことが望ましい。例えば、運転席に図示しない着座センサを設け、着座センサより運転手が運転席に着座したことが計測されたときに制御部30が図3に示す処理を行ってもよい。また、図3に示す処理を、連続して又は一定時間おきに繰り返し行ってもよい。この場合には、運転手が飲酒しながら運転することを防止することができる。
【0069】
図4は、飲酒運転防止装置1が飲酒時制御を解除する処理の流れを示すフローチャートである。図4に示す処理は、主として制御部30によって行われる。
【0070】
まず、解析部31は、アルコール濃度測定部20による測定結果を取得し、運転手のアルコール濃度を検知し、車両制御部35に入力する(ステップSP31)。次いで、車両制御部35は、アルコール濃度測定部20で測定されたアルコール濃度が所定以下か否かを判定する(ステップSP32)。アルコール濃度が所定以下である場合(ステップSP32でYES)には、車両制御部35は、飲酒時制御を解除する(ステップSP33)。運転手のアルコール濃度が所定以下でない場合(ステップSP32でNO)には、車両制御部35は処理をステップSP31に戻す。
【0071】
本実施の形態によれば、簡易な構成で、運転手の飲酒の有無および酔いの程度を確認できる。センサ群10は、運転手が能動的に測定を行わなくても常時計測できるため、運転開始時のみならず、運転中においても酔いの程度を確認することができる。また、酔いの程度が大きい段階である状態から小さい段階の順に判定する構成によれば、重度な酔い状態を迅速かつ正確に判定することができる。
【0072】
また、本実施の形態によれば、酔いの程度に応じて異なる処分を報知するため、酔いの程度に応じて異なる処分の内容を適切に報知できる。さらに、酔いの程度が重度である場合にのみエンジンを停止する構成によれば、飲みながら運転することで次第に酔いの程度が大きくなっていく場合であっても、安全な停止を促せる。
【0073】
また、本実施の形態によれば、飲酒が判定された後の制御解除にあたってはセンサ群10とは異なるセンサ(アルコール濃度測定部20)で計測するため、酔っていない状態になったことをより確実に推定できる。
【0074】
なお、本実施の形態では、センサ群10がバイタルセンサ11、撮像部12、収音部13、空気中アルコール濃度測定部14、および体温測定部15を有したが、センサ群10が有するセンサはこれに限られない。また、図2に示す各酔いの程度の推定に用いるセンサ、解析内容及び制御内容(図3のステップSP13、SP16、SP17、SP19、SP21、SP22の処理)はこれに限られない。また、図3では、ステップSP19、SP21、SP22でそれぞれYESの場合にステップSP20の処理を行ったが、ステップSP19でYESの場合、SP21でYESの場合、SP22でYESの場合でアラームの内容を変えてもよい。
【0075】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1 :飲酒運転防止装置
2 :報知装置
10 :センサ群
11 :バイタルセンサ
12 :撮像部
13 :収音部
14 :空気中アルコール濃度測定部
15 :体温測定部
20 :アルコール濃度測定部
30 :制御部
31 :解析部
32 :記憶部
33 :度推定部
34 :報知制御部
35 :車両制御部
図1
図2
図3
図4