(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061201
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法と、プレキャストコンクリート部材の製作方法
(51)【国際特許分類】
B28B 7/16 20060101AFI20230424BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20230424BHJP
E04C 2/04 20060101ALI20230424BHJP
B28B 7/34 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
B28B7/16 A
E01D1/00 D
E04C2/04 Z
B28B7/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171048
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】武者 浩透
(72)【発明者】
【氏名】渡部 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】島▲崎▼ 利孝
【テーマコード(参考)】
2D059
2E162
4G053
【Fターム(参考)】
2D059AA05
2E162CA01
4G053BF01
4G053CA15
4G053DA03
4G053EA26
4G053EB01
(57)【要約】
【課題】プレキャストコンクリート部材の製作に際して、製作効率が良く、大きな作業スペースを不要にしながら、プレキャストコンクリート部材の接合端面の整合性を確保することのできる、プレキャストコンクリート部材の製作方法と、この製作方法に使用される妻型枠の製作方法を提供する。
【解決手段】複数のプレキャストコンクリート部材50を連接することによりプレキャストコンクリート構造物を形成する、プレキャストコンクリート部材50を製作する際に使用される妻型枠の製作方法であり、型枠にコンクリートを打設して妻型枠甲1(10'、10)を製作するA工程と、妻型枠甲1(10'、10)をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙1(20'、20)を製作するB工程とを有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレキャストコンクリート部材を連接することによりプレキャストコンクリート構造物を形成する、該プレキャストコンクリート部材を製作する際に使用される妻型枠の製作方法であって、
型枠にコンクリートを打設して妻型枠甲1を製作する、A工程と、
前記妻型枠甲1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙1を製作する、B工程とを有することを特徴とする、プレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法。
【請求項2】
前記妻型枠甲1と前記妻型枠乙1の双方の一側面同士を当接させた状態で、給熱養生を行うC工程をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法。
【請求項3】
前記C工程では、給熱養生に先行して、前記妻型枠甲1と前記妻型枠乙1の双方の当接面に対して圧縮力を付与することを特徴とする、請求項2に記載のプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法。
【請求項4】
前記妻型枠甲1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙2を製作し、前記妻型枠乙1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠甲2を製作し、該妻型枠甲2と該妻型枠乙2の双方の一側面同士を当接させた状態で給熱養生を行うD工程を有し、
前記D工程を繰り返すことにより、前記妻型枠甲2と前記妻型枠乙2のセットを複数セット製作することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法。
【請求項5】
前記妻型枠甲1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙2を製作し、該妻型枠乙2をマッチキャスト妻型枠として妻型枠甲2を製作し、該妻型枠甲2と該妻型枠乙2の双方の一側面同士を当接させた状態で給熱養生を行うE工程を有し、
前記E工程を繰り返すことにより、前記妻型枠甲2と前記妻型枠乙2のセットを複数セット製作することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法。
【請求項6】
前記D工程と前記E工程では、給熱養生に先行して、前記妻型枠甲2と前記妻型枠乙2の双方の当接面に対して圧縮力を付与することを特徴とする、請求項4又は5に記載のプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法。
【請求項7】
前記妻型枠は、繊維補強コンクリートにより形成されていることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法により製作された、該妻型枠を使用して、複数の前記プレキャストコンクリート部材を製作することを特徴とする、プレキャストコンクリート部材の製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法と、プレキャストコンクリート部材の製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば箱げた橋等の橋梁の施工においては、工場や現場ヤードにて予め分割して製作された複数のプレキャストコンクリート部材(プレキャスト箱げた部材等のセグメント)を、架橋地点において接合界面に接着剤を塗布して接合した後にプレストレスを与えて一体化する、プレキャストセグメント工法が適用されている。このプレキャストセグメント工法において例えばマッチキャスト方式を適用する場合は、プレキャストコンクリート部材を連接する順番に各プレキャストコンクリート部材が製作されることになる。
ここで、「マッチキャスト方式」とは、既に製作されたプレキャストコンクリート部材を妻型枠として利用しながら、新規のプレキャストコンクリート部材を製作する方式(方法)である。
マッチキャスト方式において、既に製作されたプレキャストコンクリート部材を妻型枠として利用しながら、新規のプレキャストコンクリート部材を製作することにより、双方の接合端面の整合性を図ることができる。しかしながら、このマッチキャスト方式では、隣接するプレキャストコンクリート部材を一つずつ、しかも隣接する順番に製作する必要があることから、製作効率に改善の余地がある。また、次のプレキャストコンクリート部材の製作時に、製作済みの隣接するプレキャストコンクリート部材を妻型枠として例えば工場内に設置する必要があり、比較的規模が大きいプレキャストコンクリート部材の設置に際しては大きな作業スペースが必要になり、さらには大規模で重量のある妻型枠(プレキャストコンクリート部材)の設置作業も必要になるといった課題も有している。
【0003】
上記する橋梁には、道路橋や鉄道橋、水路橋等、様々な用途の橋梁が存在するが、道路橋の(床版部材の)施工においては、プレキャスト床版を架設現場にて隙間をあけて設置した後、この隙間に間詰めコンクリートを打設する方法が一般に適用されている。そのため、現場施工に時間を要し、さらには、場所打ち箇所(間詰め箇所)の品質管理の課題と、場所打ち箇所が往々にして構造上の弱部になり得るといった課題を有している。
このように、道路橋のプレキャスト床版同士の接合方法が間詰めコンクリートを介した接合方法を標準とし、上記するプレキャストセグメント方式のように接着剤を用いた直接接合が適用されていない理由としては、プレキャスト床版が一般に広幅で薄厚な部材であることから、端面同士の整合性が確保されたプレキャスト床版の製作方法の確立が困難であることが、主たる要因の一つと考えられる。
【0004】
以上のことから、道路橋を含む橋梁等のようなプレキャストコンクリート構造物、すなわち、複数のプレキャストコンクリート部材を連接することにより形成されるプレキャストコンクリート構造物のための当該プレキャストコンクリート部材の製作に際して、製作効率が良く、大きな作業スペースを不要としながら、プレキャストコンクリート部材が広幅で薄厚な場合であってもその接合端面の整合性を確保することのできる、プレキャストコンクリート部材の製作方法が望まれる。
【0005】
ここで、特許文献1には、プレキャストセグメントを高い線形精度をもって製造することを可能にした、マッチキャスト方式のプレキャストセグメントの製造方法が提案されている。このプレキャストセグメントの製造方法は、コンクリートからなる上床版及び下床版と、上床版及び下床版を連結する複数のウェブとを備えた橋桁の橋軸方向の一部を構成する、プレキャストセグメントの製造方法である。具体的には、上床版と下床版の大部分をなす上床版本体及び下床版本体をウェブを介して一体化させたプレキャストセグメントの半製品部材を製作するステップと、上床版本体及び下床版本体の橋軸方向の一端面に少なくとも3つの突起を設けるステップと、半製品部材に隣接配置される隣接プレキャストセグメント又はその半製品部材を、少なくとも3つの突起に当接する位置に配置して半製品部材のマッチキャスト妻型枠とするステップと、半製品部材と隣接プレキャストセグメント又はその半製品部材との間に形成された隙間にコンクリート又はモルタルを打設して、半製品部材に一体化させるステップとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のプレキャストセグメントの製造方法は、半製品部材に隣接配置される隣接プレキャストセグメントを、半製品部材の製作の際のマッチキャスト妻型枠として利用することから、連接の順番に半製品部材を製作することを要し、新規の半製品部材の製作に際して製作済みの半製品部材の設置が必要になり、そのための作業スペースも必要になるといった、マッチキャスト方式に固有の課題を内包する製造方法である。
【0008】
本発明は、複数のプレキャストコンクリート部材を連接することにより形成されるプレキャストコンクリート構造物のための当該プレキャストコンクリート部材の製作に際して、製作効率が良く、大きな作業スペースを不要にしながら、プレキャストコンクリート部材の接合端面の整合性を確保することのできる、プレキャストコンクリート部材の製作方法と、この製作方法に使用される妻型枠の製作方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明によるプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の一態様は、
複数のプレキャストコンクリート部材を連接することによりプレキャストコンクリート構造物を形成する、該プレキャストコンクリート部材を製作する際に使用される妻型枠の製作方法であって、
型枠にコンクリートを打設して妻型枠甲1を製作する、A工程と、
前記妻型枠甲1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙1を製作する、B工程とを有することを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、妻型枠甲1を製作した後、この妻型枠甲1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙1を製作することにより、相互に整合性の高い接合端面を有する二つの妻型枠を製作でき、これら二つの妻型枠を両端に設置してその内部にプレキャストコンクリート部材を製作することができる。この妻型枠は、プレキャストコンクリート構造物を形成するプレキャストコンクリート部材そのものではないことから、連接の順番にプレキャストコンクリート部材を製作するといった製作効率の低下は解消され、妻型枠は可及的に厚みの薄いコンクリート部材でよいことから、その設置に際して大きな作業スペースと過度な作業手間は不要になり、プレキャストコンクリート部材の製作コストの削減に繋がる。また、コンクリート製の妻型枠であることから、プレキャストコンクリート部材の端部の形状が複雑であっても容易に形成することができる。
ここで、「マッチキャスト妻型枠」とは、新規のプレキャストコンクリート部材を製作する際に妻型枠として利用される、既に製作されたプレキャストコンクリート製の妻型枠のことである。本態様の製作方法により接合端面の整合性(精度)が確保された二種類の妻型枠(妻型枠甲1、妻型枠乙1)を製作し、これらの妻型枠を利用してプレキャストコンクリート部材を製作することにより、従来の製作済みのプレキャストコンクリート部材を直接利用したマッチキャスト方式にて新規のプレキャストコンクリート部材を製作する場合と同等の接合端面の整合性を確保しながら、従来のマッチキャスト方式の抱える上記様々な課題を解消することができる。
また、「妻型枠甲1」、「妻型枠乙1」は、双方の接合端面に整合性のある、ユニットとして最初に製作される妻型枠のことであり、第一世代の妻型枠ユニットと称することもできる。例えば妻型枠甲1と妻型枠乙1を複数ユニット製作しておき、各妻型枠ユニットを例えば同時に使用することで、相互に接合端面の整合性のある複数のプレキャストコンクリート部材を一度に製作することが可能になり、プレキャストコンクリート部材の製作効率が格段に向上する。
ここで、本態様の製作方法にて製作された妻型枠を利用して製作されるプレキャストコンクリート部材としては、道路橋のプレキャスト床版やプレキャスト箱げた部材等を挙げることができ、これらのプレキャストコンクリート部材を相互に複数連接することにより、道路橋や道路橋以外の橋梁等に代表されるプレキャストコンクリート構造物を効率的に施工することができる。
プレキャストコンクリート構造物の一例として道路橋が挙げられるが、この形態では、プレキャストコンクリート部材が道路橋を形成する床版部材であっても、道路橋の施工においては従来のような間詰めコンクリートを場所打ち施工する方法ではなく、プレキャストセグメント工法を適用できる。そして、床版部材の製作の際に、本態様のマッチキャスト方式を適用した製作方法にて製作された妻型枠が使用されることになる。
【0011】
また、本発明によるプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の他の態様は、
前記妻型枠甲1と前記妻型枠乙1の双方の一側面同士を当接させた状態で、給熱養生を行うC工程をさらに有することを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、妻型枠甲1と妻型枠乙1の双方の一側面同士を当接させた状態で、給熱養生を行うことにより、例えば、双方の妻型枠の製作後の収縮変形に起因して双方の接合端面が整合しなくなるといった課題を解消することができる。ここで、C工程では、給熱養生が好ましいものの、給熱養生に代わって、単なる養生を行ってもよい。
ここで、給熱養生には蒸気養生が含まれ、コンクリート部材である妻型枠を製作する際に、その強度発現と、自己収縮(コンクリートの水和反応による硬化の際にコンクリート中の水分が失われることにより生じる収縮)、乾燥収縮(コンクリート中の水分が空中に逸散することにより生じる収縮)といった収縮の双方を促進させる際に適用される養生である。
従って、妻型枠甲1と妻型枠乙1を製作し、双方の強度発現や収縮が未だ不十分な段階で双方の一側面同士を当接させた状態で給熱養生を行う。この意味において、本態様におけるA工程での妻型枠甲1の製作やB工程での妻型枠乙1の製作は、それぞれの妻型枠が強度発現と収縮が不十分な段階(強度発現も収縮も未だ無い段階も含む)まで製作されていること意味しており、C工程で給熱養生を行うことにより、双方の妻型枠の強度発現と収縮が十分になされることになる。尚、妻型枠甲1を使用して妻型枠乙1を製作することから、妻型枠乙1を製作するB工程と妻型枠甲1及び妻型枠乙1を給熱養生するC工程は連続的に行われることになる。ここで、B工程とC工程が連続的に行われるとは、文字通り時間的に連続的に各工程が行われることに加えて、各工程の間に所定の時間をおいて各工程が行われることも含まれる。
【0013】
また、本発明によるプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の他の態様において、
前記C工程では、給熱養生に先行して、前記妻型枠甲1と前記妻型枠乙1の双方の当接面に対して圧縮力を付与することを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、妻型枠甲1と妻型枠乙1の双方の当接面(接合端面)に対して圧縮力を付与しながら(相互に締め付けて拘束しながら)給熱養生を行うことにより、相互に当接する双方の当接面同士のより一層高い整合性を確保することが可能になる。例えば、PC(Prestressed Concrete)鋼棒やPC鋼線等のPC鋼材を適用して、PC鋼材に圧縮力に相当するプレストレス力を導入した状態で給熱養生を行う方法が挙げられる。
【0015】
また、本発明によるプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の他の態様は、
前記妻型枠甲1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙2を製作し、前記妻型枠乙1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠甲2を製作し、該妻型枠甲2と該妻型枠乙2の双方の一側面同士を当接させた状態で給熱養生を行うD工程を有し、
前記D工程を繰り返すことにより、前記妻型枠甲2と前記妻型枠乙2のセットを複数セット製作することを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、妻型枠甲1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙2を製作し、妻型枠乙1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠甲2を製作し、妻型枠甲2と妻型枠乙2の双方の一側面同士を当接させた状態で給熱養生を行うD工程を繰り返して妻型枠甲2と妻型枠乙2のセットを複数セット製作することにより、妻型枠甲2と妻型枠乙2からなる各妻型枠ユニットを例えば同時に使用することで、相互に接合端面の整合性のある複数のプレキャストコンクリート部材を一度に製作することが可能になる。
ここで、最初に製作される妻型枠甲1と妻型枠乙1のユニットを上記するように第一世代の妻型枠ユニットとした場合に、妻型枠甲2と妻型枠乙2のユニットを第二世代の妻型枠ユニットと称することができる。
尚、妻型枠甲1をマッチキャスト妻型枠として製作された妻型枠乙2をさらにマッチキャスト妻型枠として妻型枠甲3を製作し、妻型枠乙1をマッチキャスト妻型枠として製作された妻型枠甲2をさらにマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙3を製作し、妻型枠甲3と妻型枠乙3の双方の一側面同士を当接させた状態で給熱養生を行う工程を繰り返して、妻型枠甲3と妻型枠乙3のセットを複数セット製作してもよい。この場合は、これら妻型枠甲3と妻型枠乙3のユニットを第三世代の妻型枠ユニットと称することができる。また、これをさらに発展させて、第四世代以降の妻型枠ユニットを製作してもよい。
【0017】
また、本発明によるプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の他の態様は、
前記妻型枠甲1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙2を製作し、該妻型枠乙2をマッチキャスト妻型枠として妻型枠甲2を製作し、該妻型枠甲2と該妻型枠乙2の双方の一側面同士を当接させた状態で給熱養生を行うE工程を有し、
前記E工程を繰り返すことにより、前記妻型枠甲2と前記妻型枠乙2のセットを複数セット製作することを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、妻型枠甲1をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙2を製作し、妻型枠乙2をマッチキャスト妻型枠として妻型枠甲2を製作し、妻型枠甲2と妻型枠乙2の双方の一側面同士を当接させた状態で給熱養生を行うE工程を繰り返して妻型枠甲2と妻型枠乙2のセットを複数セット製作することにより、妻型枠甲2と妻型枠乙2からなる各妻型枠ユニットを例えば同時に使用することで、相互に接合端面の整合性のある複数のプレキャストコンクリート部材を一度に製作することが可能になる。すなわち、本態様は、既に説明済みの第二世代の妻型枠ユニットの製作方法とは異なる、第二世代の妻型枠ユニットの製作方法の他の形態である。ここで、E工程では、給熱養生が好ましいものの、給熱養生に代わって、単なる養生を行ってもよい。
【0019】
また、本発明によるプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の他の態様において、
前記D工程と前記E工程では、給熱養生に先行して、前記妻型枠甲2と前記妻型枠乙2の双方の当接面に対して圧縮力を付与することを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、第二世代の妻型枠ユニットの製作方法においても、妻型枠甲2と妻型枠乙2の双方の当接面に対して圧縮力を付与しながら給熱養生を行うことにより、相互に当接する双方の妻型枠の当接面同士のより一層高い整合性を確保することが可能になる。
【0021】
また、本発明によるプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の他の態様において、
前記妻型枠は、繊維補強コンクリートにより形成されていることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、妻型枠が繊維補強コンクリートにて形成されていることにより、強度や剛性のある妻型枠を製作することができ、従って、妻型枠を、角欠けやひび割れ等の破損の無い状態で複数回に亘り転用することが可能になる。
ここで、繊維補強コンクリートには、炭素繊維やガラス繊維等の各種繊維材が混合されたコンクリートが含まれる。さらに、コンクリートに高強度コンクリートを適用することにより、妻型枠の強度や剛性をより一層高めることができる。この高強度コンクリートとしては、設計基準強度が50N/mm2乃至100N/mm2程度のコンクリートが挙げられ、さらに、設計基準強度が100N/mm2乃至200N/mm2程度の超高強度コンクリートが適用されてもよく、この場合は超高強度繊維補強コンクリート等が形成材料となる。
【0023】
また、本発明によるプレキャストコンクリート部材の製作方法の一態様は、
前記プレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法により製作された、該妻型枠を使用して、複数の前記プレキャストコンクリート部材を製作することを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、本発明の製作方法にて製作された二つの妻型枠からなる妻型枠ユニットを複数用いて、例えばそれらを同時に使用することにより、相互に接合端面の整合性のある複数のプレキャストコンクリート部材を一度に製作することが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法と、プレキャストコンクリート部材の製作方法によれば、複数のプレキャストコンクリート部材を連接することにより形成されるプレキャストコンクリート構造物のための当該プレキャストコンクリート部材の製作に際して、製作効率が良く、大きな作業スペースを不要にしながら、プレキャストコンクリート部材の接合端面の整合性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の一例を示す工程図であって、A工程を説明する図である。
【
図2】A工程にて製作された、強度発現と収縮が不十分な状態の妻型枠甲1を示す図であって、C工程にて製作された、強度発現と収縮が十分になされた妻型枠甲1をともに示す図である。
【
図3】
図1に続いて妻型枠の製作方法の一例を示す工程図であって、B工程を説明する図である。
【
図4】B工程にて製作された、強度発現と収縮が不十分な状態の妻型枠乙1を示す図であって、C工程にて製作された、強度発現と収縮が十分になされた妻型枠乙1をともに示す図である。
【
図5】
図3に続いて妻型枠の製作方法の一例を示す工程図であって、C工程を説明する図である。
【
図6】第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の一例を示す工程図であって、D工程を説明する図である。
【
図7】第3実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の一例を示す工程図であって、E工程を説明する図である。
【
図8】D工程とE工程において、妻型枠の当接面に対して圧縮力を付与しながら給熱養生をしている状態を示す図である。
【
図9】実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の製作方法の一例を説明する図である。
【
図10】製作されたプレキャストコンクリート部材の一例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、各実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法と、実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の製作方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0028】
[第1実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法]
はじめに、
図1乃至
図5を参照して、第1実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の一例について説明する。ここで、
図1、
図3、及び
図5はそれぞれ、第1実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の一例を示す工程図であって、A工程とB工程とC工程を説明する図である。また、
図2は、A工程にて製作された、強度発現と収縮が不十分な状態の妻型枠甲1を示す図であって、C工程にて製作された、強度発現と収縮が十分になされた妻型枠甲1をともに示す図である。さらに、
図4は、B工程にて製作された、強度発現と収縮が不十分な状態の妻型枠乙1を示す図であって、C工程にて製作された、強度発現と収縮が十分になされた妻型枠乙1をともに示す図である。
図1等に示す例では、工場Fにおいてマッチキャスト方式にて妻型枠を製作する方法を説明するが、現場ヤードにて妻型枠が製作されてもよい。
【0029】
工場Fには、ボイラBに通じる蒸気養生(給熱養生の一例)のための蒸気配管Pが装備されており、妻型枠の製作過程で蒸気養生を実施することにより、強度発現と収縮を促進させて製作時間の短縮を図るようになっている。図示例では、工場Fの内部に蒸気が充満する態様で図示しているが、工場F内に蒸気養生用の養生槽が設けられていて、養生槽内において妻型枠の蒸気養生が実施されてもよい。
【0030】
まず、妻型枠甲1(10)の製作に際し、鋼製ベース型K1、K2を製作予定である妻型枠甲1(10)の幅に相当する隙間を空けて設置し、それらの間の空間にフレッシュコンクリートを打設する。一方の鋼製ベース型K2の妻面には、妻型枠甲1(10)の端面に設けられる係合凸部を形成するための凹部K2aが設けられている。尚、以下で記載する、係合凸部と係合凹部の係合は、製作される型枠の面精度に影響を与えるものでないことから、例えば、妻型枠甲1(10)の端面に係合凸部がない形態であってもよく、この場合は、図示例の凹部K2aは不要になる。ここで、係合凸部と係合凹部の重合面には隙間があってもよい。
【0031】
妻型枠甲1(10)を形成するコンクリートには普通コンクリートが適用されてもよいが、ひび割れや角欠け等がなく複数回の妻型枠の転用を可能にするべく、繊維補強コンクリートを適用する。また、より好ましくは高強度コンクリートに繊維材が混合された繊維補強高強度コンクリートの適用がよく、より望ましくは超高強度コンクリートに繊維材が混合された超高強度繊維補強コンクリートの適用がよい。図示例では、超高強度繊維補強コンクリートを形成材料とした場合を取り上げて説明する。
【0032】
図1において鋼製ベース型K1、K2の間にフレッシュな超高強度繊維補強コンクリートを打設した後、蒸気配管Pを介して蒸気をX1方向に供給する、1次養生を行う。超高強度繊維補強コンクリートには、普通コンクリートに使用されるよりも多くの減水剤が使用されていることから、高い流動性を確保できる一方で凝結の遅延が起こるため、例えば40℃程度の蒸気養生を行うことで凝結と水和反応を促進させる。尚、例えば外気温が高い夏季の盛夏時等においては、40℃程度の蒸気養生の必要性がないことから、この1次養生を不要にできる。
【0033】
1次養生により、超高強度繊維補強コンクリートの強度発現と収縮(自己収縮と乾燥収縮)が緩やかに生じることになるが、1次養生にて鋼製ベース型K1、K2を脱型することにより、強度発現と収縮が不十分な妻型枠甲1(10')を製作する。
【0034】
図2に示すように、脱型された妻型枠甲1(10')は、その一側面11に複数の係合凸部12を備えている(以上、A工程)。
【0035】
次に、
図3に示すように、妻型枠甲1(10')をマッチキャスト妻型枠とし、妻型枠甲1(10')と鋼製ベース型K1を製作予定である妻型枠乙1(20)の幅に相当する隙間を空けて設置し、それらの間の空間に妻型枠甲1の製作時と同様にフレッシュな超高強度繊維補強コンクリートを打設する。
【0036】
図3において妻型枠甲1(10')と鋼製ベース型K1の間にフレッシュな超高強度繊維補強コンクリートを打設した後は、妻型枠甲1(10')の製作時と同様に蒸気配管Pを介して蒸気をX1方向に供給する、1次養生を行う。
【0037】
1次養生にて鋼製ベース型K1のみを脱型することにより、強度発現と収縮が不十分な状態の妻型枠乙1(20')を製作する。
【0038】
図4には、妻型枠甲1(10')と鋼製ベース型K1の双方が脱型された状態の妻型枠乙1(20')を模式的に示しているが、妻型枠甲1(10')の一側面11に当接していた妻型枠乙1(20')の当接面21には、複数の係合凸部12に対応する位置に複数の係合凹部22が形成される(以上、B工程)。
【0039】
次に、
図5に示すように、妻型枠甲1(10')と妻型枠乙1(20')の双方の当接面11,21に対して圧縮力PをX2方向に付与しながら、蒸気配管Pを介して蒸気をX1方向に供給する、2次養生(給熱養生の一例)を行う。
【0040】
ここで、圧縮力Pの付与は、例えば不図示の複数のPC鋼材を妻型枠甲1(10')と妻型枠乙1(20')を貫通するように設置し、PC鋼材に対して所定のプレストレスを導入することにより行う。
【0041】
2次養生は、1次養生よりも高温の例えば90℃程度の高温雰囲気下にて行う。この際、急激な温度上昇によるヒートショックを防止する観点から、例えば、4時間程度で15℃上昇させるといった緩やかな温度上昇にて最終的に90℃程度まで昇温させ、この90℃程度の蒸気養生を24時間程度保持した後、今度は1時間で5℃程度の勾配で温度を下げていく方法を適用する。
【0042】
2次養生により、妻型枠甲1(10')と妻型枠乙1(20')の強度発現と収縮が十分になされ、
図2と
図4に示すような妻型枠甲1(10)と妻型枠乙1(20)が製作される(以上、C工程)。
【0043】
C工程において、妻型枠甲1(10')と妻型枠乙1(20')の双方の当接面11,21に対して圧縮力Pが付与された状態で蒸気養生(2次養生)が行われることにより、相互に当接する当接面11,21同士が高い整合性をもった状態で、強度発現と収縮が十分になされた妻型枠甲1(10)と妻型枠乙1(20)が製作される。すなわち、製作後に妻型枠甲1(10)と妻型枠乙1(20)の双方が乾燥収縮等することにより、双方の接合端面11,21の整合性が事後的に失われるといった問題は生じない。
【0044】
以上、A工程乃至C工程を実施することにより、プレキャストコンクリート部材の対向する一対の端面を形成する1ユニットの妻型枠甲1(10)と妻型枠乙1(20)が製作される。このA工程乃至C工程を繰り返し実施することにより、複数ユニットの妻型枠甲1(10)と妻型枠乙1(20)が製作される。例えば、複数ユニットの妻型枠甲1(10)と妻型枠乙1(20)を同時に使用することにより、接合端面の整合性が良好な複数のプレキャストコンクリート部材を一度に製作することが可能になる。
【0045】
図示例の製作方法によれば、妻型枠甲1(10)を製作した後、この妻型枠甲1(10)をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙1(20)を製作することにより、相互に整合性の高い接合端面11,21を有する二つの妻型枠10,20を製作でき、これら二つの妻型枠10,20を両端に設置してその内部にプレキャストコンクリート部材を製作することができる。
【0046】
この妻型枠10,20は、プレキャストコンクリート構造物を形成するプレキャストコンクリート部材そのものではないことから、連接の順番にプレキャストコンクリート部材を製作するといった製作効率の低下は解消され、妻型枠10,20は
図2と
図4からも明らかなように可及的に厚みの薄いコンクリート部材でよいことから、その設置に際して大きな作業スペースと過度な作業手間は不要になり、プレキャストコンクリート部材の製作コストの削減に繋がる。
【0047】
また、コンクリート製の妻型枠10,20であることから、プレキャストコンクリート部材の端部の形状が複雑であっても容易に形成することができる。
【0048】
[第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法]
次に、
図6及び
図8を参照して、第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の一例について説明する。ここで、
図6は、第2実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の一例を示す工程図であって、D工程を説明する図であり、
図8は、D工程において、妻型枠の当接面に対して圧縮力を付与している状態を示す図である。
【0049】
図6に示す妻型枠の製作方法は、既に説明した第1実施形態の製作方法により製作されている妻型枠甲1(10)をマッチキャスト妻型枠として、妻型枠甲1(10)と鋼製ベース型K1の間にフレッシュな超高強度繊維補強コンクリートを打設して妻型枠乙2(30')を製作し、妻型枠乙1(20)をマッチキャスト妻型枠として、妻型枠乙1(20)と鋼製ベース型K1の間にフレッシュな超高強度繊維補強コンクリートを打設して妻型枠甲2(40')を製作する方法である。
図6では、妻型枠乙2(30')と妻型枠甲2(40')のそれぞれの製作を一図面で示しており、妻型枠甲2(40')の製作の際は、妻型枠乙1(20)と鋼製ベース型K1の間に隙間を設けるようにする。
【0050】
妻型枠乙2(30')と妻型枠甲2(40')の製作においても、
図6に示すように1次養生を行い、フレッシュな超高強度繊維補強コンクリートの凝結と水和反応を促進させる。
【0051】
妻型枠乙2(30')と妻型枠甲2(40')はいずれもそれらの強度発現と収縮が不十分な状態である。そこで、
図8に示すように、妻型枠乙2(30')と妻型枠甲2(40')の当接面31,41同士を当接させ、双方の当接面31,41に対して圧縮力PをX2方向に付与しながら、蒸気配管Pを介して蒸気をX1方向に供給する、2次養生を行うことにより、妻型枠甲2(40')と妻型枠乙2(30')の強度発現と収縮が十分になされて、妻型枠甲2(40)と妻型枠乙2(30)が製作される(以上、D工程)。
【0052】
第1実施形態に係る妻型枠の製作方法が、複数ユニットの妻型枠甲1(10)と妻型枠乙1(20)を製作する方法であったのに対して、第2実施形態に係る妻型枠の製作方法は、妻型枠甲1(10)をマッチキャスト妻型枠として妻型枠乙2(30)を製作し、妻型枠乙1(20)をマッチキャスト妻型枠として妻型枠甲2(40)を製作する方法である。すなわち、第1実施形態に係る妻型枠の製作方法が、最初に製作される第一世代の妻型枠甲1(10)と妻型枠乙1(20)のみを製作する方法であるのに対して、第2実施形態に係る妻型枠の製作方法は、第一世代の妻型枠甲1(10)と妻型枠乙1(20)をマッチキャスト妻型枠として第二世代の妻型枠甲2(40)と妻型枠乙2(30)を製作する方法である。
【0053】
尚、妻型枠乙2(30')の製作過程で、妻型枠甲1(10)は1次養生を受けることになるが、妻型枠甲1(10)はその製作過程においてより高温の2次養生を既に受けている。そのため、妻型枠甲1(10)を複数回使用して複数の妻型枠乙2(30')を製作する際に都度1次養生を受けたとしても、妻型枠甲1(10)がさらに乾燥収縮等する恐れはなく、形状及び寸法の安定した状態を維持できる。このことは、妻型枠甲2(40')の製作過程で1次養生を受ける妻型枠乙1(20)にも当てはまる。
【0054】
D工程を繰り返し実施することにより、複数ユニットの妻型枠甲2(40)と妻型枠乙2(30)が製作される。例えば、複数ユニットの妻型枠甲2(40)と妻型枠乙2(30)を同時に使用することにより、接合端面の整合性が良好な複数のプレキャストコンクリート部材を一度に製作することが可能になる。
【0055】
尚、図示を省略するが、妻型枠甲1(10)をマッチキャスト妻型枠として製作された妻型枠乙2(30)をさらにマッチキャスト妻型枠として不図示の妻型枠甲3を製作し、妻型枠乙1(20)をマッチキャスト妻型枠として製作された妻型枠甲2(40)をさらにマッチキャスト妻型枠として不図示の妻型枠乙3を製作し、妻型枠甲3と妻型枠乙3の双方の一側面同士を当接させた状態で給熱養生を行う工程を繰り返して、第三世代の妻型枠甲3と妻型枠乙3のセットを複数セット製作してもよいし、さらには、これをさらに発展させて、第四世代以降の妻型枠ユニットを製作してもよい。
【0056】
[第3実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法]
次に、
図7及び
図8を参照して、第3実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の一例について説明する。ここで、
図7は、第3実施形態に係るプレキャストコンクリート部材製作用の妻型枠の製作方法の一例を示す工程図であって、E工程を説明する図であり、
図8は、E工程において、妻型枠の当接面に対して圧縮力を付与している状態を示す図である。
【0057】
図7及び
図8に示す妻型枠の製作方法は、第2実施形態に係る妻型枠の製作方法と同様に第二世代の妻型枠甲2(40)と妻型枠乙2(30)を製作する点で共通するが、具体的な製作方法において相違している。
【0058】
ここでは、既に説明した第1実施形態の製作方法により製作されている妻型枠甲1(10)をマッチキャスト妻型枠として、妻型枠甲1(10)と鋼製ベース型K1の間にフレッシュな超高強度繊維補強コンクリートを打設して妻型枠乙2(30')を製作し、次に、製作された妻型枠乙2(30')をマッチキャスト妻型枠として、妻型枠乙2(30')と鋼製ベース型K1の間にフレッシュな超高強度繊維補強コンクリートを打設して妻型枠甲2(40')を製作する。
図7においても、妻型枠乙2(30')と妻型枠甲2(40')のそれぞれの製作を一図面で示しているため、妻型枠甲2(40')の製作の際は、妻型枠乙2(30')と鋼製ベース型K1の間に隙間を設けるようにする。
【0059】
図7に続いて、
図8に示すように、妻型枠乙2(30')と妻型枠甲2(40')の当接面31,41同士を当接させ、双方の当接面31,41に対して圧縮力PをX2方向に付与しながら、蒸気配管Pを介して蒸気をX1方向に供給する、2次養生を行うことにより、妻型枠甲2(40')と妻型枠乙2(30')の強度発現と収縮が十分になされ、妻型枠甲2(40)と妻型枠乙2(30)が製作される(以上、E工程)。
【0060】
E工程を繰り返し実施することにより、複数ユニットの妻型枠甲2(40)と妻型枠乙2(30)が製作され、複数ユニットの妻型枠甲2(40)と妻型枠乙2(30)を同時に使用することにより、接合端面の整合性が良好な複数のプレキャストコンクリート部材を一度に製作することが可能になる。
【0061】
[実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の製作方法]
次に、
図9及び
図10を参照して、実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の製作方法の一例について説明する。ここで、
図9は、実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の製作方法の一例を説明する図であり、
図10は、製作されたプレキャストコンクリート部材の一例の斜視図である。
【0062】
第一世代の妻型枠甲1(10)と妻型枠乙1(20)、もしくは第二世代の妻型枠甲2(40)と妻型枠乙2(30)を使用して、それらの間に例えばフレッシュな超高強度繊維補強コンクリートを打設することにより、
図10に示すような超高強度繊維補強コンクリート製の道路橋のプレキャスト床版であるプレキャストコンクリート部材50を製作する。尚、プレキャストコンクリート部材は、普通コンクリートや高強度コンクリートを形成材料としてもよい。
【0063】
この製作方法では、各実施形態に係る製作方法にて製作された第一世代の二つの妻型枠10,20や第二世代の二つの妻型枠30,40からなる各妻型枠ユニットを複数ユニット用意し、例えばそれらを同時に使用することにより、相互に接合端面51,53の整合性のある複数のプレキャストコンクリート部材50を一度に製作することが可能になる。図示例では、一方の接合端面51に複数の係合凸部52が設けられ、他方の接合端面53に各係合凸部52に係合される複数の係合凹部54が設けられている。
【0064】
そのため、架橋地点において、このプレキャスト床版50を相互に複数連接し、接合端面同士を接着剤を介して直接接合しながら、プレストレスにて一体化する、プレキャストセグメント工法を適用することにより、不図示の道路橋(プレキャストコンクリート構造物の一例)を効率的に施工することが可能になる。
【0065】
超高強度繊維補強コンクリート製の橋梁に関してさらに考察すると、プレキャスト床版(セグメント)間に超高強度繊維補強コンクリートの場所打ち部を設けて施工するのが従来一般の施工方法である。この理由は以下の通りである。すなわち、一般のコンクリート橋に比べて、超高強度繊維補強コンクリート製の橋梁は超高強度のプレキャスト床版を有していることからその厚みが極端に薄くなるため、プレストレス導入によるプレキャスト床版の圧縮応力も、一般のコンクリート橋の4倍乃至10倍程度と非常に高くなる。そのため、プレキャスト床版の接合端面における整合性が取れない場合には、プレストレス導入時において、当接する部分にのみ応力集中が生じる可能性があり、この応力集中に起因してプレキャスト床版にひび割れ等の損傷が生じることがその理由である。
【0066】
また、超高強度繊維補強コンクリート製の橋梁の部材製作時において、一般のコンクリート橋と同様にマッチキャスト方式が用いられない理由は次の通りである。すなわち、上記するように部材の製作過程で1次養生と2次養生を行うことになるが、マッチキャスト方式にて製作済みのプレキャストコンクリート部材を妻型枠として使用する場合に、このプレキャストコンクリート部材が二度の1次養生を受けることにより、セメントの水和反応が中途半端に進行してしまい、レキャストコンクリート部材の最終強度に悪影響を及ぼす可能性があることがその理由である。
【0067】
以上のことから、超高強度繊維補強コンクリート製の橋梁の架設時には、プレキャスト床版の間に超高強度繊維補強コンクリートの間詰め部を設けることを要していたが、これが一般のPC橋梁に比べて工期の長期化と工費の増大に繋がっている。
【0068】
これらの様々な課題に対して、上記する各実施形態に係る妻型枠の製作方法により超高強度繊維補強コンクリート製の妻型枠を製作し、この妻型枠を使用した実施形態に係るプレキャストコンクリート部材の製作方法によって超高強度繊維補強コンクリート製のプレキャスト床版を製作することにより、プレキャスト床版同士の接合端面の整合性が確保され、超高強度繊維補強コンクリートの場所打ち部を不要にできることで、工期の長期化と工費の増大の抑制を図ることが可能になる。
【0069】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0070】
10、10':妻型枠甲1(妻型枠)
11:当接面(接合端面、一側面)
12:係合凸部
20、20':妻型枠乙1(妻型枠)
21:当接面(接合端面)
22:係合凹部
30、30':妻型枠乙2(妻型枠)
31:当接面(接合端面)
32:係合凹部
40、40':妻型枠甲2(妻型枠)
41:当接面(接合端面)
42:係合凸部
50:プレキャストコンクリート部材(プレキャスト床版)
51,53:接合端面
52:係合凸部
54:係合凹部
F:工場
P:蒸気配管
B:ボイラ
K1,K2:鋼製ベース型
K2a:凹部