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特開2023-61202容器入り食品および容器入り食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061202
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】容器入り食品および容器入り食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/00 20160101AFI20230424BHJP
   A23L 13/40 20230101ALI20230424BHJP
   A23B 4/00 20060101ALI20230424BHJP
   A23B 4/20 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
A23L13/00 A
A23L13/40
A23B4/00 A
A23B4/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171049
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】507152970
【氏名又は名称】公益財団法人東洋食品研究所
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】稲田 有美子
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 佳奈
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC06
4B042AC10
4B042AD39
4B042AE03
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK02
4B042AK04
4B042AK08
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK17
4B042AP02
4B042AP07
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】対象食材の食感や味を変化させることなく、当該対象食材の水分含量の低下を抑制できる容器入り食品および容器入り食品の製造方法を提供する。
【解決手段】対象食材2である肉類と、甘味成分として高甘味度組成物を含む低糖濃度調味液3と、を容器に収容した容器入り食品であって、高甘味度組成物は、少なくとも一部が高甘味度甘味料であり、甘味度が4以上である容器入り食品X、および、対象食材2である肉類を、少なくとも一部が高甘味度甘味料であり甘味度が4以上である高甘味度組成物を甘味成分として含む低糖濃度調味液3と共に容器1に収容する収容工程と、収容工程の後の容器1を密封する密封工程と、密封工程の後の容器1を加熱して殺菌する殺菌工程と、を有する容器入り食品の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象食材である肉類と、甘味成分として高甘味度組成物を含む低糖濃度調味液と、を容器に収容した容器入り食品であって、
前記高甘味度組成物は、少なくとも一部が高甘味度甘味料であり、甘味度が4以上である容器入り食品。
【請求項2】
前記高甘味度甘味料が人工甘味料および天然甘味料の少なくとも何れかを含む請求項1に記載の容器入り食品。
【請求項3】
前記人工甘味料がアスパルテームである請求項2に記載の容器入り食品。
【請求項4】
前記天然甘味料が酵素処理ステビアである請求項2に記載の容器入り食品。
【請求項5】
対象食材である肉類を、少なくとも一部が高甘味度甘味料であり甘味度が4以上である高甘味度組成物を甘味成分として含む低糖濃度調味液と共に容器に収容する収容工程と、
前記収容工程の後の前記容器を密封する密封工程と、
前記密封工程の後の前記容器を加熱して殺菌する殺菌工程と、を有する容器入り食品の製造方法。
【請求項6】
前記収容工程の前に、
前記対象食材をアルカリ金属炭酸水素塩の溶液に接触させる軟化剤浸漬処理工程と、
前記軟化剤浸漬処理工程の後の前記対象食材を加熱する加熱工程と、を有する請求項5に記載の容器入り食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器に収容された容器入り食品および当該容器入り食品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、対象食材(魚介類、肉類、野菜類)にpH緩衝溶液を接触させて酸若しくはアルカリを作用させる接触処理を行って製造するレトルト食品が記載してある。前記アルカリとして、例えば重曹(炭酸水素ナトリウム、0.5重量%等)を使用することが記載してあり、このような処理を行うことで対象食材を所定のpHに維持し、対象食材の食感や保水性、食味を向上できることが提案されている。
【0003】
また、前記pH緩衝溶液に、ショ糖やトレハロース等の糖類等を加えることができ、糖類の含有量を1~50質量%とすることが記載してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-75175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば対象食材である肉類およびショ糖を含有する調味液を容器に収容してレトルト殺菌処理を行った容器入り食品の場合、ショ糖の濃度(糖濃度)が高くなるに従い、脱水作用によって肉類の水分含量が低下することがある。
【0006】
レトルト食品においては、対象食材である肉類の水分含量が低下した場合、当該低下の程度によっては食感が悪化する虞がある。また、肉類の水分含量の低下を抑制するために、ショ糖の濃度(糖濃度)を低くすれば、調味液の甘味度が低下するため、レトルト食品の味(甘味)が変化して所望の味が得られない虞がある。
【0007】
従って、本発明の目的は、対象食材の食感や味を変化させることなく、当該対象食材の水分含量の低下を抑制できる容器入り食品および容器入り食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る容器入り食品の第一特徴構成は、対象食材である肉類と、甘味成分として高甘味度組成物を含む低糖濃度調味液と、を容器に収容した容器入り食品であって、前記高甘味度組成物は、少なくとも一部が高甘味度甘味料であり、甘味度を4以上とした点にある。
【0009】
本構成において、前記低糖濃度調味液は、所望の甘みを有する調味液を配合するために、本来含まれるショ糖の少なくとも一部を、ショ糖よりも甘い(甘味度が大きい)高甘味度甘味料に置き換えた高甘味度組成物を甘味成分として用いることにより、甘味成分濃度(糖濃度)を低く抑えた調味液を言う。高甘味度甘味料の甘味度はショ糖の甘味度より大きいため、少なくとも一部が高甘味度甘味料である高甘味度組成物の甘味度も、ショ糖より大きい。そのため、ショ糖のみを用いて調整した調味液と同等の甘みを有する調味液を、高甘味度組成物を用いて配合する場合、高甘味度組成物の使用量はショ糖の使用量に対して「1/高甘味度組成物の甘味度」となり、調味液の糖濃度を、甘味成分の全量がショ糖である場合と比べて低くすることができる。前述の通り、高甘味度組成物の甘味度はショ糖の甘味度より大きいため、高甘味度組成物を使用して低糖濃度調味液の糖濃度を低下させても、当該低糖濃度調味液の甘みは、甘味成分の全量がショ糖である場合の調味液の甘みと同等に維持することができる。
【0010】
後述の実施例によれば、前記低糖濃度調味液を収容した容器入り食品は、対象食材の硬さを殆ど変化させず水分含量の低下を抑制することができる。
【0011】
従って、本発明の容器入り食品は、対象食材の食感や味を変化させることなく、当該対象食材の水分含量の低下を抑制することができる。
【0012】
本構成では、前記高甘味度組成物の甘味度を4以上とする。
【0013】
後述の実施例によれば、甘味度が4以上の高甘味度組成物を使用した低糖濃度調味液を収容した容器入り食品は、対象食材の硬さを殆ど変化させることなく、水分含量の低下を抑制することができる。
【0014】
本発明に係る容器入り食品の第二特徴構成は、前記高甘味度甘味料が人工甘味料および天然甘味料の少なくとも何れかを含む点にある。
【0015】
高甘味度甘味料は多種類の人工甘味料および天然甘味料が公知であるが、本構成によれば、これらのうちの少なくとも何れかを含む高甘味度組成物を使用できるため、本発明を極めて容易に実施することができる。
【0016】
本発明に係る容器入り食品の第三特徴構成は、前記人工甘味料をアスパルテームとした点にある。
【0017】
本構成によれば、入手の容易な公知の人工甘味料を使用して本発明を容易に実施することができる。
【0018】
本発明に係る容器入り食品の第四特徴構成は、前記天然甘味料を酵素処理ステビアとした点にある。
【0019】
本構成によれば、入手の容易な公知の天然甘味料を使用して本発明を容易に実施することができる。
【0020】
本発明に係る容器入り食品の製造方法の第一特徴構成は、対象食材である肉類を、少なくとも一部が高甘味度甘味料であり甘味度が4以上である高甘味度組成物を甘味成分として含む低糖濃度調味液と共に容器に収容する収容工程と、前記収容工程の後の前記容器を密封する密封工程と、前記密封工程の後の前記容器を加熱して殺菌する殺菌工程と、を有する点にある。
【0021】
本構成によれば、高甘味度組成物を含む低糖濃度調味液を使用することで、対象食材の食感や味を変化させることなく、当該対象食材の水分含量の低下が抑制される容器入り食品の製造方法を供することができる。
【0022】
本発明に係る容器入り食品の製造方法の第二特徴構成は、前記収容工程の前に、前記対象食材をアルカリ金属炭酸水素塩の溶液に接触させる軟化剤浸漬処理工程と、前記軟化剤浸漬処理工程の後の前記対象食材を加熱する加熱工程と、を有する点にある。
【0023】
本構成によれば、軟化剤浸漬処理工程において、対象食材にアルカリ金属炭酸水素塩の溶液を接触させることで、対象食材を軟化させることができ、加熱工程において、対象食材に浸透したアルカリ金属炭酸水素塩の分解により発生した二酸化炭素を、対象食材から放出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態の容器入り食品を示す概略図である。
図2】実施形態の容器入り食品を製造する方法を示す流れ図である。
図3】実施例2において各サンプルの硬さを測定した結果を示したグラフである。
図4】実施例3において各サンプルの水分含量(多汁性)を測定した結果を示したグラフである。
図5】実施例4において各サンプルの水分含量(多汁性)を、pHを変更して測定した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態の一例を図面に基づいて説明する。
本発明は、容器に収容された容器入り食品および当該容器入り食品を製造する方法である。図1に示したように、容器入り食品Xは、容器1に、対象食材2である肉類と、甘味成分として高甘味度組成物を含む低糖濃度調味液3と、を容器に収容した容器入り食品であって、前記高甘味度組成物は、少なくとも一部が高甘味度甘味料であり、甘味度を4以上としてある。
【0026】
容器1は、例えば常温流通やチルド流通ができる密封性や実用強度等が求められ、例えば、プラスチックフィルムをフランジ部にヒートシールすることで密封したカップ状の樹脂容器や、金属等の剛性のある蓋で巻締めた金属缶容器、ヒートシールによりシーラント層を溶着して密封するパウチ容器等が挙げられるが、これらに限定されない。また、高温で加熱殺菌するための耐熱性、酸素ガスや光を遮断するバリア性、易開封性などの機能性を付与した容器としてもよい。
【0027】
このような容器に使用する材料は、例えばパウチ容器の場合、食品側の最内層にはポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂層、中間層にナイロン等のポリアミド系樹脂層、外層にポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂層等が用いられる。前記ポリエステル系樹脂層やポリアミド系樹脂層は、ケミカルベーパーデポジション(CVD)や真空蒸着法などの公知の方法により、シリコンオキサイド等の無機物、アルミナ等のセラミック、カーボン等を蒸着した蒸着膜、或いは公知のバリア性樹脂コーティング剤から成るコーティング膜が形成された材料を使用してもよい。また、公知の易引裂き性樹脂層やアルミ箔等の金属層を使用してもよい。これらの各層は、接着剤を介したドライラミネート、無溶剤の接着剤を使用したノンソルラミネート、共押出ラミネート等により積層加工して作製される。
【0028】
また、例えば樹脂製カップ容器の場合、容器本体は、ポリプロピレン/エチレンビニルアルコール共重合体/ポリプロピレンの3層構成の成形体を射出成形や圧縮成形により凹部およびフランジ部を含む形状に成形してもよい。或いは、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、またはポリエステル系樹脂等を含む樹脂組成物で形成される基材層と、ポリオレフィン系樹脂で形成される表面層とを含む積層シートから真空成形または圧空成形で成形してもよい。この場合、基材層に無機フィラー等の添加剤を加えることによって、耐熱性および剛性を向上させてもよい。
【0029】
前記カップ容器の蓋体は、ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ナイロンフィルムなどで形成される外層と、ポリエチレンなどの樹脂組成物で形成されるシール層とを含むフィルム状の積層体で形成されてもよい。また、蓋体をフィルムではなく容器本体と同様の成形体として、フランジ部を重ね合わせてもよい。
【0030】
また、金属缶の場合は、アルミニウムや、鋼板にスズをメッキしたブリキやクロムメッキが施されたクロム被覆鋼鈑等の薄板を加工して作製される。缶表面にフィルムラミネート加工や塗装が施されていてもよい。前記容器の材料や構成は一例であって、これらに限られない。また、容器の容積は特に限定されず、内容品の大きさに適合するサイズを選択することができる。
【0031】
本発明の対象食材2は肉類を使用する。当該肉類としては、例えば牛肉、豚肉等の畜肉、獣肉および鶏肉等、様々な肉類を使用することができるが、これらに限定されるものではない。また、肉類の部位としては、まとまった状態で筋線維が存在する部位である、もも肉、ウデ肉、肩肉、ヒレ肉およびばら肉等を使用することが特に好ましいが、これらに限定されるものではない。このような対象食材2を必要に応じて適当な大きさにカットして供するとよい。
【0032】
低糖濃度調味液3は、通常含まれるショ糖の少なくとも一部を高甘味度甘味料に置き換えたものであり、低糖濃度調味液3の甘味成分は、高甘味度甘味料のみ、或いは、高甘味度甘味料およびショ糖、の何れかの態様となる。本実施形態では、低糖濃度調味液3の甘味成分は高甘味度甘味料のみとした場合について説明する。
【0033】
高甘味度甘味料は、ショ糖より甘い甘味料であり、少量の使用でショ糖と同等の甘みを低糖濃度調味液3に付与することができる。即ち、当該高甘味度甘味料の甘味度はショ糖の甘味度より大きいため高甘味度組成物の甘味度はショ糖の甘味度より大きくなる。一般的に、甘味度はショ糖の甘さを1としたときの相対値で表され、高甘味度組成物の甘味度は1より大きい。本発明では甘味度が4以上の高甘味度組成物を使用する。
【0034】
低糖濃度調味液3において、ショ糖のみを用いて調整した調味液と同等の甘みを有する調味液を、高甘味度組成物を用いて配合する場合、高甘味度組成物の使用量はショ糖の使用量に対して「1/高甘味度組成物の甘味度」となる。そのため、前記低糖濃度調味液3の糖濃度を、甘味成分の全量がショ糖である場合の調味液の糖濃度に比べて低くすることができる。前述の通り、高甘味度組成物の甘味度はショ糖の甘味度より大きいため、高甘味度組成物を使用して低糖濃度調味液3の糖濃度を低下させたとしても、当該低糖濃度調味液3の甘みは、甘味成分の全量がショ糖である場合の調味液の甘みと同等に維持することができる。
【0035】
例えば甘味度が4以上の高甘味度組成物を使用すれば、低糖濃度調味液3に添加する高甘味度組成物の糖濃度を1/4以下に低下させることができる。
【0036】
高甘味度甘味料は人工甘味料および天然甘味料が公知であり、本発明では何れの高甘味度甘味料を使用してもよい。低糖濃度調味液3には、人工甘味料および天然甘味料の少なくとも何れかの高甘味度甘味料が含まれるようにするとよい。この場合、人工甘味料のみを使用する場合は、1種類あるいは複数種類の人工甘味料を使用してもよいし、天然甘味料のみを使用する場合は、1種類あるいは複数種類の天然甘味料を使用してもよい。また、人工甘味料および天然甘味料を混合して使用する場合は、それぞれを1種類あるいは複数種類使用してもよい。
【0037】
人工甘味料は、具体的には、アスパルテーム(甘味度約100~200)、アセスルファムK(甘味度約200)、スクラロース(甘味度約600)、サッカリン(甘味度約200~700)等を使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
天然甘味料は、具体的には、酵素処理ステビア(甘味度約120~200)、ステビア抽出物(甘味度約100~300)、ソーマチン(甘味度約2000~3000)、甘草抽出物(甘味度約50~100)、羅漢果抽出物(甘味度約500)、アマチャ抽出物(甘味度約200~300)、モネリン(甘味度約3000)等を使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
アスパルテームは、例えば市販のパルスイート(登録商標:味の素株式会社製)に含まれているため、パルスイートを高甘味度組成物として使用することができる。また、酵素処理ステビアは、例えば市販のαGスイートP(東洋精糖株式会社製)、αGスイートPA(東洋精糖株式会社製)、αGスイートPX(東洋精糖株式会社製)に含まれているため、αGスイートP,αGスイートPAおよびαGスイートPXを高甘味度組成物として使用することができる。
【0040】
例えばパルスイートはアスパルテームの他に複数種類の高甘味度甘味料を含有しており、重量ベースでショ糖の使用量の1/4でショ糖と同等の甘味を呈する。そのため、本明細書ではパルスイートを甘味度4相当の高甘味度組成物として使用する場合について説明する。
【0041】
また、αGスイートP、αGスイートPAおよびαGスイートPXについても酵素処理ステビアの他に複数種類の原料を含有しており、本明細書では後述の実施例7を除き、それぞれを甘味度120,200,200相当の高甘味度組成物として使用する場合について説明する。
【0042】
低糖濃度調味液3には、必要に応じて他の調味料を添加してもよい。他の調味料としては、例えば、醤油、酒類、食塩および食酢などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記の調味料を適宜選択して使用し、適当な量の水で希釈して低糖濃度調味液3を所望の味に調節するとよい。また、対象食材2や低糖濃度調味液3を所定のpHに維持するためにpH緩衝溶液を添加してもよい。
【0043】
対象食材を容器1に充填する際には、肉類以外の食材等を共に封入してもよいし、必要に応じて容器1に気体を充填してもよい。充填する気体は、窒素ガスや炭酸ガスなど、酸化等の成分の劣化を起こし難い不活性ガスであればよい。このような気体を気体供給装置から容器1に充填し、その後、容器1を密封する。或いは、気体を充填せず、バキュームシール機やバキュームシーマーを用いて密封してもよい。
【0044】
容器入り食品を製造する方法(図2)は、本実施形態では、好ましくは以下の前処理を行う場合について説明するが、当該前処理は行わなくてもよい。前記前処理は、例えば、対象食材2をアルカリ金属炭酸水素塩の溶液に接触させる軟化剤浸漬処理工程Aと、当該軟化剤浸漬処理工程の後の対象食材2を加熱する加熱工程Bと、を有するが、これらに限定されるものではない。
【0045】
これら前処理の後、対象食材2である肉類を、少なくとも一部が高甘味度甘味料であり甘味度が4以上である高甘味度組成物を甘味成分として含む低糖濃度調味液3と共に容器1に収容する収容工程Cと、当該収容工程Cの後の容器1を密封する密封工程Dと、当該密封工程Dの後の容器1を加熱して殺菌する殺菌工程Eと、を行う。
【0046】
軟化剤浸漬処理工程Aでは、対象食材の少なくとも一部をアルカリ金属炭酸水素塩の溶液に接触(浸漬)させる。肉類の筋線維は、接触工程でのアルカリ金属炭酸水素塩の溶液との電価の反発により広げることができることから、加熱殺菌や保存中に生じる筋線維の収縮を緩和することが可能となり、対象食材の軟化および保水性の維持に効果が高いと考えられる。
【0047】
対象食材をアルカリ金属炭酸水素塩の溶液に接触させる温度は、例えば1~30℃、好ましくは4~10℃とし、接触時間は例えば10分~24時間、好ましくは1~16時間とするのがよい。しかし、前記温度や接触時間は、アルカリ金属炭酸水素塩溶液の濃度、肉の厚さ、サイズ等に依存するため、これらの条件に限定されるものではない。また、前記接触は常圧で行ってもよいし、加圧条件下で行ってもよい。
【0048】
アルカリ金属炭酸水素塩は、特に限定されるものではないが、炭酸水素ナトリウム(重曹)を使用するのが好ましい。アルカリ金属炭酸水素塩の溶液を例えば炭酸水素ナトリウムの水溶液とする場合、炭酸水素ナトリウムの濃度は、肉のサイズ、浸漬時間に依存するため、長時間浸漬する場合は0.05Mを下限値とした低濃度、短時間浸漬する場合は2.0Mを上限値とした高濃度とするのが好ましい。
【0049】
対象食材の少なくとも一部を、上述した温度・時間・圧力条件でアルカリ金属炭酸水素塩の溶液に接触させることにより、対象食材の内部までアルカリ金属炭酸水素塩を浸透させることができる。これにより、対象食材を軟化させるとともに保水性を維持することができる。
【0050】
加熱工程Bでは、軟化剤浸漬処理工程Aの後の対象食材を加熱する。対象食材の加熱は、対象食材をボイル、焼成、蒸煮、マイクロ波加熱、ジュール加熱等の公知の方法で加熱すればよいが、これらに限定されるものではない。ボイルする場合は、対象食材を直接ボイルしてもよいし、湯煎してもよい。加熱温度は、例えば60~100℃、好ましくは80~100℃とするのがよいが、これらの条件に限定されるものではない。前記加熱は常圧で行ってもよいし、加圧条件下で行ってもよい。
【0051】
収容工程Cは、対象食材2および低糖濃度調味液3を容器1に収容する。対象食材2を容器1に充填する際には、肉類以外の食材等を共に封入してもよく、必要に応じて容器1に気体を充填してもよい。
【0052】
密封工程Dでは、収容工程Cの後に当該容器1を密封する。カップ状の樹脂容器であれば、プラスチックフィルムをフランジ部にヒートシールすることで密封でき、パウチ容器であれば、ヒートシールによりシーラント層を溶着して密封できる。
【0053】
殺菌工程Eでは、密封工程Dの後に容器1を加熱して殺菌する。殺菌工程Eで行う加熱殺菌は、常温流通を可能とするレトルト殺菌処理や、チルド流通を可能とする加熱処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。レトルト殺菌処理とは、加圧加熱処理をいい、例えば耐熱性容器に充填した製品を品温上昇に伴う製品の内圧で容器が破損しないように加圧しながら110℃~130℃程度の蒸気又は熱水で数十分間程度加熱し、少なくとも120℃、4分間相当以上であるF値=3.1分以上となるように処理することをいう。レトルト殺菌処理はバッチ式レトルト殺菌装置、連続式レトルト殺菌装置等の公知のレトルト殺菌装置を用いることができる。また、チルド流通可能な加熱殺菌は、例えば、一般的に多く用いられる90℃、10分間以上、120℃、4分未満等の加熱処理をいうが、バッチ式レトルト殺菌装置、連続式レトルト殺菌装置を用いて同条件の殺菌を行ってもよい。
【実施例0054】
〔実施例1〕
本発明の容器入り食品Xを以下のようにして作製した。
対象食材2である肉類として牛肉(オーストラリア産外もも肉)を使用した。牛肉は、筋線維が最長となるように向きをそろえて、縦20×横50×厚さ20mmに切断した。前処理として、牛肉を0.4M重曹(富士フイルム和光純薬株式会社製)および2.0%カラギーナン(三晶株式会社製)を含む5℃の水溶液に16時間浸漬した(軟化剤浸漬処理工程A)。軟化剤浸漬処理をした牛肉を水洗した後、牛肉40切れを6Lの沸騰水中に投入し、15分間加熱した(加熱工程B)。加熱工程Bが終了した後、水冷した。
【0055】
調味液は以下のようにして調製した。即ち、濃口醤油(特選丸大豆しょうゆ:キッコーマン株式会社製)7.5%、薄口醤油(ヒガシマル▲醤▼油株式会社製)7.5%、料理酒(日の出料理酒:キング醸造株式会社製)11.7%、グラニュー糖(ショ糖:三井製糖株式会社製)11.7%、食塩(塩事業センター製)0.8%、水60.9%を混合後、沸騰を維持し、料理酒の分量以上を蒸発させた。必要に応じてpH調整剤(クエン酸またはクエン酸Na)を添加し、調味液を目標のpH(pH4.5~5.0)に調整した後、加水し全量を合わせることにより基準となる調味液を調製した。
【0056】
上記で調製した基準となる調味液に含まれるグラニュー糖を1種類の高甘味度甘味料で置き換えた高甘味度組成物を含む低糖濃度調味液3を調製した。供した高甘味度甘味料は、甘味度の異なる複数の高甘味度甘味料、即ち、アスパルテームであるパルスイート(味の素株式会社製:甘味度4)、酵素処理ステビアであるαGスイートP(東洋精糖株式会社製:甘味度120)、αGスイートPA(東洋精糖株式会社製:甘味度200)およびαGスイートPX(東洋精糖株式会社製:甘味度200)である。調製した低糖濃度調味液3は、基準となる調味液と同程度の甘みを有するように調製した。
【0057】
また、基準となる調味液に含まれるグラニュー糖を、グラニュー糖より甘味度の低いパラチノース(三井製糖株式会社製:甘味度0.5)で置き換えた調味液も調製した。
【0058】
上記で調製した牛肉(4片)および上記の高甘味度組成物の何れかを使用して糖濃度を低下させた低糖濃度調味液3を容器1に収容した(収容工程C)。容器1は、アルミ積層レトルトパウチ130mm×170mmの平袋(12μmPET/15μmPA/7μmAL/50μmCPP:東洋製罐株式会社製)を使用した。内容総量165gとなるよう低糖濃度調味液3を注入した。なるべく空気が入らないよう注意しながら足踏みインパルスシーラー(富士インパルス株式会社製)を用いてヒートシールした(密封工程D)。レトルト殺菌は熱水シャワー定圧殺菌方式とし、殺菌温度121℃でF=10~15分を目標に実施した(殺菌工程E)。
【0059】
上記の4種類の高甘味度組成物(パルスイート,αGスイートP,αGスイートPA,αGスイートPX)を別個に使用した低糖濃度調味液3を収容した容器入り食品Xをそれぞれ本発明例1~4とし、基準となる調味液、および、パラチノースを使用した調味液を収容した容器入り食品をそれぞれ比較例1,2とした。各サンプルは23℃の恒温庫で1ヶ月保存した後に以下の評価を行った。
【0060】
〔実施例2〕
各サンプルにおける対象食材(牛肉)2の硬さを測定した。
保管後のサンプルを厚さ10mm×長さ35mmに切り出し、テクスチュロメーター(EZ-S,株式会社島津製作所)に円柱型プランジャー(直径15mm)を装着し、100mm/秒で深さ8mm(歪み率80%)まで荷重を加えた。プランジャーでの破断は、筋線維に対して垂直方向とした。得られた破断曲線の最も大きいピークの値を破断強度(硬さ)とした。結果を図3に示した。
【0061】
この結果、比較例2(パラチノース含有)のサンプルが硬さ29Nであったの対して、他の比較例1,本発明例1~4は硬さ18~19N程度であった。即ち、本発明例1~4のサンプルは、基準となる調味液を使用した比較例1と同様の硬さを有するものと認められた。また、本発明例1~4のサンプルの硬さについて、高甘味度組成物の違いによる差異は認められなかった。
【0062】
〔実施例3〕
各サンプルにおける対象食材(牛肉)2の水分含量(多汁性)を測定した。
各サンプルの約2~4gを24時間凍結乾燥した後、乾燥前後の重量変化から以下の数1によって水分含量を求めた(n=4)。結果を図4に示した。
【0063】
【数1】
【0064】
この結果、比較例1,2のサンプルは水分含量が約65%以下であったのに対して、本発明例1~4のサンプルは水分含量が約68~70%であった。即ち、本発明例1~4のサンプルは、比較例1よりも約1.05倍(68/65)~1.08倍(70/65)の多汁性を示すと認められた。従って、甘味度4以上の高甘味度組成物を用いることで、水分含量の低下を抑制できることが判った。
【0065】
以上より、甘味度4以上の高甘味度組成物(パルスイート,αGスイートP,αGスイートPA,αGスイートPX)を使用した低糖濃度調味液3を収容した容器入り食品X(本発明例1~4)は、対象食材の硬さを殆ど変化させず水分含量の低下を抑制できることが判明した。
【0066】
〔実施例4〕
各サンプルにおける対象食材(牛肉)2の水分含量(多汁性)を、pHを変更して測定した。当該測定は実施例3と同様の手法で行った。
【0067】
本発明例1,3,比較例1の3種類のサンプルを使用した。調味液は、pH値が4.5,4.75,5.0となるようにそれぞれ調製した。結果を図5に示した。
【0068】
この結果、比較例1のサンプルは3つのpH値範囲において、水分含量が約63~65%であったのに対して、本発明例1,3のサンプルは同じ範囲において、水分含量が約67~69%であった。何れのpH値においても、高甘味度組成物を使用した本発明例1,3が、ショ糖のみを使用した比較例1よりも水分含量が多くなるという傾向は、実施例3の結果と同様であった。尚、実施例4以外の実施例において、調味液のpH値は約4.75で実験を行った。
【0069】
〔実施例5〕
対象食材2に対して、実施例1における軟化剤浸漬処理工程Aを行わずに加熱工程B~殺菌工程Eのみを実施して容器入り食品Xを作製した。調味液として、グラニュー糖(比較例3)およびαGスイートPA(本発明例5)を使用した。加熱工程B~殺菌工程Eの条件は実施例1と同様とした。
【0070】
作製した容器入り食品の水分含量(多汁性)の測定を実施例3と同様の手法で行った(n=4)。その結果、比較例3のサンプルは水分含量が約53%となったのに対して、本発明例5のサンプルは水分含量が約58%となった。即ち、本発明例5のサンプルは、比較例3よりも約1.1倍(58/53)の多汁性を示すと認められた。従って、本発明例5のように軟化剤浸漬処理工程Aを行わない場合であっても、本発明例1~4と同様に、高甘味度組成物の使用が多汁性保持に効果があると認められた。
【0071】
〔実施例6〕
本発明例1,2および比較例1について、官能評価テストを行った。3人のパネルで、肉質について硬さと多汁性の項目で官能評価を行い、軟らかく多汁性のあるものを良(○)、硬く多汁性が劣るものを不良(×または△)として評価した。結果を表1に示した。
【0072】
【表1】
【0073】
この結果、本発明例1,2では、硬さおよび多汁性について優れた結果が得られた。一方、比較例1では硬く多汁性が劣ると評価された。
【0074】
〔実施例7〕
実施例1における基準となる調味液に含まれるグラニュー糖の重量の1/2、2/3または3/4に相当する量をαGスイートPA(甘味度200)に置き換えることにより、甘味度を2(比較例4)、甘味度を3(比較例5)、甘味度を4(本発明例6)相当にそれぞれ調整した高甘味度組成物を用いて低糖濃度調味液を配合した。調味液の成分以外は、実施例1と同様に、容器入り食品を作製した。
【0075】
実施例6と同様の手法によって官能評価テストを行った。結果を表2に示した。
【0076】
【表2】
【0077】
この結果、本発明例6(高甘味度組成物の甘味度4相当)では、硬さおよび多汁性について優れた結果が得られた。一方、比較例4,5(高甘味度組成物の甘味度2,3相当)では硬く多汁性が劣ると評価された。これより、高甘味度組成物の甘味度は4以上が好ましいことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、容器に収容された容器入り食品および当該容器入り食品を製造する方法に利用できる。
【符号の説明】
【0079】
X 容器入り食品
1 容器
2 対象食材
3 低糖濃度調味液
A 軟化剤浸漬処理工程
B 加熱工程
C 収容工程
D 密封工程
E 殺菌工程
図1
図2
図3
図4
図5