(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061203
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20230424BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20230424BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20230424BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L25/08
C08J5/00 CET
C08J5/00 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171050
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】濱口 龍樹
(72)【発明者】
【氏名】原田 弘行
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA22
4F071AA34X
4F071AA35
4F071AA35X
4F071AA50
4F071AA71
4F071AC10
4F071AC11
4F071AC15
4F071AE05
4F071AE22
4F071AF30Y
4F071AF34Y
4F071AH16
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB05
4F071BB06
4F071BC03
4F071BC07
4J002BC04X
4J002BC06Y
4J002CG011
4J002GP00
4J002GP01
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】透明性と色調に優れ、且つ複屈折が小さく、安定した押出生産性を有するポリカーボネート樹脂組成物。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、スチレン単量体単位とN-フェニルマレイミド単量体単位からなり、無水マレイン酸単量体単位を有してもよい共重合体(B)を15~30質量部、スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)を8~16質量部含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、スチレン単量体単位とN-フェニルマレイミド単量体単位からなり、無水マレイン酸単量体単位を有してもよい共重合体(B)を15~30質量部、スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)を8~16質量部含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
共重合体(B)と共重合体(C)の含有量の質量比(B)/(C)が、1.6~2.9である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂組成物からなる成形体。
【請求項4】
成形体が2mm厚であるとき、JIS K7105に準拠して測定したヘイズが3%以下である請求項3に記載の成形体。
【請求項5】
成形体が2mm厚であるとき、ASTM D1925に準拠して測定したイエローインデックス(YI)が7以下である請求項3または4に記載の成形体。
【請求項6】
成形体が90mm×50mmで厚みが3mmと2mmの2段形状のプレート状成形体であるとき、フォトニックラティス社製ワイドレンジ2次元複屈折評価システムを用い、波長523nm、543nm及び575nmの3波長測定により、当該成形体全体における位相差をエリア解析した結果の平均値が200nm以下である請求項3~5のいずれかに記載の成形体。
【請求項7】
光学用成形体である請求項3~6のいずれかに記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、透明性と色調に優れ、且つ複屈折が小さいポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、電気絶縁性、寸法安定性等に優れ、これらの特性のバランスも良好であることから、各種の分野で広く使用されている。特にビスフェノール化合物を原料としたポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性及び耐熱性に優れ、軽く割れにくいという利点があることから、ガラスの代替材料として、自動車部品や建材、またレンズ等の光学用部品に採用されている。また、近年では、スマートホン等の各種携帯端末、タブレット型パソコン、カーナビやカーオーディオ、携帯ゲーム機、デジタルカメラ等に利用されるディスプレイ装置のパネル用部材、特にタッチパネル等の前面部材等としても大いに利用されている。
【0003】
樹脂を光学部材とする場合に考慮しなければならない光学特性は、透明性に加えて、複屈折が重要である。透明性に優れていても大きな複屈折性を持つことは好ましくない。特に、カメラ、液晶表示パネル等の各種ディスプレイ装置、プロジェクター等において、複屈折が大きい光学部材が光路中に存在すると、画質や信号読み取り性能に悪影響を及ぼすため、複屈折性をできるだけ小さく抑えた透明樹脂が強く要求される。
一般的なポリカーボネート樹脂は複屈折が大きいので、例えば、ディスプレイ装置の前面部材では、複屈折が大きいと位相差ムラが発生し、虹模様が生じたり、偏光サングラスをかけて画面を見た場合には虹模様がさらに酷くなって視認不可となる等、視認性の低下、意匠性(見栄え)が著しく低下する問題がある。汎用のビスフェノールAを原料とするポリカーボネート樹脂は、複屈折が大きく、この問題が顕著である。
【0004】
従来から、ポリカーボネート樹脂の複屈折を低減するために様々な手法が検討されており、樹脂自身を特定構造のビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂を使用することが知られており、例えば、特許文献1では、スピロビスインダンビスフェノールをビスフェノールAと共重合した特殊なポリカーボネート共重合体が、複屈折が小さいことが開示されている。しかし、このような特殊な樹脂は、汎用の樹脂ではないので、その特性(械特性)や成形条件が特殊になる他、価格面からもその使用には制限がある。
【0005】
特許文献2には、スチレン-無水マレイン酸-N-フェニルマレイミド共重合体樹脂(A)とアクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂(B)を、樹脂(A)37~47%、樹脂(B)13~23%、ポリカーボネート樹脂35~45%の割合で配合した樹脂組成物が、高耐熱性・高透明性・低複屈折率の樹脂組成物を提供すると提案されている。しかしながら、この組成物は、複屈折は小さい樹脂組成物ではあるものの、透明性は不十分でヘイズ値は大きく、イエローインデックス(YI)も高く、近年のハイエンドな光学用ポリカーボネート樹脂材料に要求されるような高度な透明性と色調を満たすものではなく、さらに、樹脂組成物のペレット製造時の押出生産性でペレットを製造した際の押出生産性が極めて悪いという欠点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06-313035公報
【特許文献2】特開2013-107933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記したような状況に鑑みなされたものであり、その目的(課題)は、透明性(ヘイズ)と色調(特にYI)に優れ、且つ複屈折が小さく、安定した押出生産性を有するポリカーボネート樹脂組成物、及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的(課題)を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂に、スチレン単量体単位とN-フェニルマレイミド単量体単位からなり、無水マレイン酸単量体単位を有してもよい共重合体(B)、及びスチレン-アクリロニトリル共重合体(C)をそれぞれ特定の量で含有するポリカーボネート樹脂組成物が、上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物および成形体に関する。
【0009】
1.ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、スチレン単量体単位とN-フェニルマレイミド単量体単位からなり、無水マレイン酸単量体単位を有してもよい共重合体(B)を15~30質量部、スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)を8~16質量部含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
2.共重合体(B)と共重合体(C)の含有量の質量比(B)/(C)が、1.6~2.9である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
3.上記1または2に記載の樹脂組成物からなる成形体。
4.成形体が2mm厚であるとき、JIS K7105に準拠して測定したヘイズが3%以下である上記3に記載の成形体。
5.成形体が2mm厚であるとき、ASTM D1925に準拠して測定したイエローインデックス(YI)が7以下である上記3または4に記載の成形体。
6.成形体が90mm×50mmで厚みが3mmと2mmの2段形状のプレート状成形体であるとき、フォトニックラティス社製ワイドレンジ2次元複屈折評価システムを用い、波長523nm、543nm及び575nmの3波長測定により、当該成形体全体における位相差をエリア解析した結果の平均値が200nm以下である上記3~5のいずれかに記載の成形体。
7.光学用成形体である上記3~6のいずれかに記載の成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、透明性と色調に優れ、且つ複屈折が小さく、安定した押出生産性を有する。
汎用のポリカーボネート樹脂の複屈折を低減するには、ポリカーボネート樹脂と逆の負の複屈折性を持つ物質とアロイすれば位相差が減少するが、一般的なスチレン系樹脂を添加すると屈折率が異なるため白濁してしまう。本発明で用いる共重合体(C)は負の複屈折性を有し屈折率がポリカーボネート樹脂(A)よりも低く、共重合体(B)はポリカーボネート樹脂(A)よりも屈折率が高く負の複屈折性を有しているが、(B)と(C)の両者をそれぞれ前記した量で配合することにより、互いに相溶性である(B)、(C)は、ポリカーボネート樹脂(A)のマトリックス(海)中に、ポリカーボネート樹脂(A)と同等の屈折率の島状部となり、その結果、透明性を優れたものとし、且つポリカーボネート樹脂(A)の正の複屈折性を十分相殺することで、透明性と低複屈折性の両方を同時に達成することができ、また、色調にも優れ、安定した押出が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を構成する各成分等につき、詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いてその前後を数値又は物性値で挟んで範囲を表現する場合、その前後の値を含む範囲を意味する。
【0012】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、スチレン単量体単位とN-フェニルマレイミド単量体単位からなり、無水マレイン酸単量体単位を有してもよい共重合体(B)を15~30質量部、スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)を8~16質量部含有することを特徴とする。
【0013】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
ポリカーボネート樹脂(A)としては、主鎖中に芳香環を有する芳香族ポリカーボネート樹脂が、複屈折の低減効果が大きい点で好ましい。
【0014】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ヒドロキシ化合物と、ホスゲン又は炭酸のジエステルとを反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネート重合体である。芳香族ポリカーボネート重合体は分岐を有していてもよい。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等の従来法によることができる。
【0015】
芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的なものとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(則ち、ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(則ち、ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
【0016】
芳香族ジヒドロキシ化合物の好適なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(則ち、ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(則ち、ビスフェノールC)等が挙げられる。特に本発明の樹脂組成物において、共重合体(B)と共重合体(C)を前記特定の組成割合で組み合わせて達成する複屈折の低減効果が大きいこと、また汎用の樹脂を使用する経済性の点からも、ビスフェノールA由来のポリカーボネート樹脂が特に好ましい。ビスフェノールA由来のポリカーボネート樹脂にはビスフェノールC由来のポリカーボネート樹脂をブレンドすることも好ましいが、その場合のビスフェノールC由来のポリカーボネート樹脂の量は、複屈折の調整の観点から10質量%以下とすることが好ましい。また、ビスフェノールAとビスフェノールCの共重合ポリカーボネート樹脂であってもよいが、この場合の共重合量も10質量%以下とすることが好ましい。
【0017】
芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際に、上記芳香族ジヒドロキシ化合物に加えてさらに分子中に3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール等を少量添加してもよい。この場合、芳香族ポリカーボネート樹脂は分岐を有するものになる。
上記3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノールとしては、例えばフロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-2、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-3、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンなどのポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3-ビス(4-ヒドロキシアリール)オキシインドール(即ち、イサチンビスフェノール)、5-クロルイサチン、5,7-ジクロルイサチン、5-ブロムイサチン等が挙げられる。この中でも、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシルフェニル)エタン又は1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼンが好ましい。上記多価フェノールの使用量は、上記芳香族ジヒドロキシ化合物を基準(100モル%)として好ましくは0.01~10モル%となる量であり、より好ましくは0.1~2モル%となる量である。
【0018】
エステル交換法による重合においては、ホスゲンの代わりに炭酸ジエステルがモノマーとして使用される。炭酸ジエステルの代表的な例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種類を単独で、又は2種類以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0019】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートオリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(A)(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0020】
さらに、ポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂(A)のうち、80質量%以下であることが好ましく、中でも50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている場合があるため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0021】
ポリカーボネート樹脂(A)の屈折率は、共重合体(B)と共重合体(C)の中間にあることが好ましく、1.575~1.585程度であることが好ましい。
なお、ポリカーボネート樹脂(A)は、屈折率の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には屈折率が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合して上記範囲に調整されてもよい。
【0022】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂(A)、共重合体(B)と共重合体(C)の屈折率は、JIS K7142に準拠し、温度23±1℃、湿度50±5%RH、589nmナトリウムD線にて測定される値である。
【0023】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量Mvは、10000~50000の範囲にあることが好ましく、より好ましくは45000以下、さらに好ましくは40000以下、特に好ましくは38000以下である。光学用成形体の場合は、10000~30000であることが好ましく、粘度平均分子量がこのような範囲にあることで、流動性(成形加工性)、色相、機械的強度に優れ、光学用成形体に好適となる。
なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0024】
なお、ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量Mvは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、η=1.23×10
-4Mv
0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0025】
[共重合体(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、スチレン単量体単位とN-フェニルマレイミド単量体単位からなり、無水マレイン酸単量体単位を有してもよい共重合体(B)を含有する。
【0026】
共重合体(B)は、好ましくはスチレン単量体単位:40~60質量%、N-フェニルマレイミド単量体単位:40~55質量%、無水マレイン酸単量体単位:0~10質量%(これら単位の合計100質量%基準)からなる共重合体であることが好ましい。スチレン単量体単位が40質量%未満の場合、組成物の強度や屈折率が低くなりやすく、60質量%を超えると組成物の耐熱性が低下しやすい。無水マレイン酸単量体単位が10質量%を超えると熱安定性が悪くなり色調や外観の不良を生じやすい。N-フェニルマレイミド単量体単位は55質量%を超えると組成物の強度が極端に低くなりやすい。
各単位のより好ましい割合は、各単位の合計100質量%基準で、スチレン単量体単位:47~51質量%、N-フェニルマレイミド単量体単位:42~52質量%、無水マレイン酸単量体単位:1~7質量%である。
【0027】
共重合体(B)は、公知の方法により製造できる。例えば、スチレン単量体、N-フェニルマレイミド単量体、無水マレイン酸単量体、その他の共重合可能な単量体からなる単量体混合物を共重合させる方法、あるいは、スチレン単量体、無水マレイン酸単量体、その他の共重合可能な単量体からなる単量体混合物を共重合させた後、無水マレイン酸単量体単位の一部または全部を、アニリンと反応させてイミド化し、N-フェニルマレイミド単量体に変換させる方法が挙げられる。
【0028】
前記したように、ポリカーボネート樹脂(A)の屈折率は、1.575~1.585の範囲にあることが好ましいが、共重合体(B)は、好ましくはこれより高い屈折率を有する。共重合体(B)の屈折率は、ポリカーボネート樹脂(A)の屈折率をnA、共重合体(B)の屈折率をnBとしたとき、nB-nAが0より大で0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.04以下、さらに好ましくは0.03以下である。このようにすることで樹脂組成物の透明性をより向上させることができる。
【0029】
共重合体(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、15~30質量部である。このような範囲でスチレン-アクリロニトリル共重合体(C)と共に含有することで、樹脂組成物の透明性と低複屈折性を達成でき、また樹脂組成物が黄色味がかることがなく、さらに、樹脂組成物の押出製造時に混練し難さを解決することができる。
共重合体(B)の含有量は、好ましくは16質量部以上であり、好ましくは28質量部以下であり、より好ましくは27質量部以下、特に好ましくは26質量部以下である。
【0030】
[スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)を含有する。スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)は、アクリロニトリルとスチレンとの共重合体である。
【0031】
スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)を構成するスチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレンなどが挙げられ、スチレン、α-メチルスチレンがより好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0032】
スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)は、アクリロニトリルとスチレン以外の他の共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。スチレンとアクリロニトリル以外の他の共重合可能な単量体としては、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸エステル系単量体や、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸などのα,β-不飽和カルボン酸及びその無水物が挙げられる。
【0033】
スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)の屈折率は、ポリカーボネート樹脂(A)の屈折率をnA、スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)の屈折率をnCとしたとき、nA-nCが0より大で0.05以下であることが好ましく、より好ましくは0.04以下、さらに好ましくは0.03以下である。
【0034】
スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)は、全100質量%中、スチレン由来の単位の量が、好ましくは65質量%以上、70質量%以上であることがより好ましく、好ましくは85質量%以下、中でも80質量%以下、特に75質量%以下であることが好ましい。アクリロニトリルの好ましい量は、これらの量を100質量%から引いた量である。共重合体(C)中のスチレン単位の量をこのようにすることで、樹脂組成物のより高い透明性と低い複屈折値(リタデーション)を達成することが可能となる。
【0035】
スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)が、アクリロニトリルとスチレン以外の他の共重合可能な単量体との共重合体である場合、他の共重合可能な単量体に由来する単位の量は、共重合体(C)100質量%中、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、中でも5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、特に1質量%以下であることが好ましい。
【0036】
スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)は、通常AS樹脂とも言われるアクリロニトリルとスチレンからなるアクリロニトリル-スチレン樹脂が好ましい。
【0037】
スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)を製造する方法は、制限はなく、公知の方法が採用でき、例えば、塊状重合、乳化重合、溶液重合、懸濁重合等の方法が用いられる。
【0038】
スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、8~16質量部である。このような範囲で共重合体(B)と共に含有することで、共重合体(C)は共重合体(B)と完全相溶であり屈折率の調整が容易であり、透明性(ヘイズ)と色調と低複屈折を高いレベルで両立させ、樹脂組成物製造時の押出生産性を良好にすることができる。スチレン-アクリロニトリル共重合体(C)の含有量が8質量部未満では、最適な量の共重合体(B)を配合しても複屈折改善効果が低く、16質量部を超えると押出性が悪化し、色調・ヘイズも悪化し、耐熱性の低下が生じやすい。
共重合体(C)の含有量は、好ましくは8.5質量部以上であり、好ましくは15質量部以下であり、より好ましくは14質量部以下である。
【0039】
共重合体(B)と共重合体(C)の含有量の合計は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、23~46質量部であることが好ましく、中でも24質量部以上、25質量部以上が好ましく、44質量部以下がより好ましく、中でも42質量部以下、40質量部以下が好ましい。
【0040】
共重合体(B)と共重合体(C)の含有量の質量比(B)/(C)は、1.6~2.9であることが好ましい。このような範囲にあることで、ポリカーボネート樹脂(A)部分の屈折率と、共重合体(B)と共重合体(C)の部分の屈折率が近しい値となるので、より透明に近づくことになり、ヘイズ値も下がるので好ましい。(B)/(C)は、より好ましくは1.75以上であり、さらに好ましくは1.83以上であり、より好ましくは2以下であり、さらに好ましくは1.9以下である。
【0041】
[安定剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、安定剤を含有することが好ましく、安定剤としてはリン系安定剤やフェノール系安定剤が好ましい。
【0042】
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物や有機ホスフェート化合物が特に好ましい。
【0043】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
【0044】
有機ホスフェート化合物としては、有機ホスフェート金属塩も含め好適に使用できる。具体的にはジステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩とモノステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩の混合物、モノ-及びジ-ステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0045】
リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0046】
リン系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。リン系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、リン系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0047】
フェノール系安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0048】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0049】
フェノール系安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、フェノール系安定剤としての効果が不十分となる可能性があり、フェノール系安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0050】
[離型剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物が好ましい。
【0051】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、重量平均分子量が、700~10000、更には900~8000のものが好ましい。
【0052】
脂肪酸エステル系化合物としては、飽和又は不飽和の1価又は2価の脂肪族カルボン酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられる。中でも、炭素数11~28、好ましくは炭素数17~21の脂肪酸とアルコールで構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。
【0053】
脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。また、脂肪酸は、脂環式であってもよい。
アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
なお、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0054】
脂肪酸エステル系化合物の具体例としては、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン-12-ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ぺンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリストールジステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールモンタン酸エステル等が挙げられる。
【0055】
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であるが、0.2~2.5質量部であることがより好ましく、更に好ましくは0.25~2質量部である。0.1質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下しやすく、一方、3質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下しやすく、また成形体表面に曇りが生じやすい。
【0056】
[添加剤等]
樹脂組成物は、上記した以外の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、抗菌剤、難燃剤、難燃助剤(滴下防止剤)、蛍光増白剤、可塑剤、相溶化剤などの添加剤を、透明性を損なわない範囲で、含有することができる。これらの添加剤は1種または2種以上を配合してもよい。
【0057】
[樹脂組成物の製造]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、ポリカーボネート樹脂(A)と共重合体(B)及び共重合体(C)、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0058】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記した樹脂組成物をペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して各種成形体を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形して成形体にすることもできる。
【0059】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、透明性に優れており、そのヘイズとしては、樹脂組成物から成形された2mm厚の成形体について、JIS K7105に準拠して測定したヘイズが、好ましくは3%以下である。
なお、ヘイズ値の測定法の具体的な方法は、実施例に記載する通りである。
【0060】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、色調に優れており、そのYIとしては、樹脂組成物から成形された2mm厚の成形体について、ASTM D1925に準拠して測定したYIが、好ましくは7以下であり、より好ましくは6.5以下である。
なお、YIの測定法の具体的な方法は、実施例に記載する通りである。
【0061】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、副屈折が小さいことを特徴とし、樹脂組成物から成形された、90mm×50mmで厚みが3mmと2mmの2段形状のプレート状成形体について、フォトニックラティス社製ワイドレンジ2次元複屈折評価システムを用い、波長523nm、543nm及び575nmの3波長測定により、プレート状成形体全体における位相差をエリア解析した結果の平均値が、好ましくは200nm以下、より好ましくは190nm以下である。
なお、位相差の測定の具体的な方法は、実施例に記載する通りである。
【0062】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、透明性と色調に優れ、且つ複屈折が極めて低減されている。従って、その用途としては光学用成形体、具体的には各種レンズ、例えば、各種カメラ、望遠鏡、顕微鏡、プロジェクター、光学測定装置等のレンズ、各種光ディスク、家庭用テレビ、パソコン用ディスプレイ、カーナビ、カーオーディオ等の車載ディスプレイ装置、スマートホン、ヘッドマウントディスプレイ、バーコードリーダー、スキャナー等に用いるディスプレイ装置のパネル部材やフィルム等が好ましく挙げられる。特に、スマートホン等の各種携帯端末、タブレット型パソコン、カーナビやカーオーディオ、携帯ゲーム機、デジタルカメラ等に利用されるディスプレイ装置のパネル用部材、特にはディスプレイ装置の前面部材として好適に使用できる。
【実施例0063】
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0064】
以下の実施例及び比較例で使用した原料は、以下の表1の通りである。
【表1】
【0065】
(実施例1~5、比較例1~7)
[樹脂組成物ペレットの製造]
表1に記載の各原料を、表2に記載した割合(質量部)で配合し、タンブラーで20分混合した後、二軸押出機(芝浦機械株式会社製「TEM-26SX」)を用いて、シリンダー温度260℃、吐出25kg/hで溶融混練し、ストランドカットによりポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを、120℃で5時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(株式会社日本製鋼所社製「J55AD-60H」)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃にて、長辺90mm×短辺50mm、長辺の中央を境に厚みが2mmと3mmの2段形状になった2段プレート状試験片を得た。
得られた試験片について、以下の評価を行い、結果を表2に示した。
【0066】
[ヘイズ(単位:%)]
上記で得られた2段プレート状試験片の2mm厚部について、ヘイズメーター(日本電色工業社製 「SE6000」)を用い、JIS K7105に基づき、ヘイズ(単位:%)を測定した。
[イエローインデックス(YI)]
上記で得られた2段プレート状試験片の2mm厚部について、ASTM D1925に基づき、色差計(日本電色工業社製 「SE6000」)によりイエローインデックス(YI)を測定した。
【0067】
[成形品の平均リタデーション]
ワイドレンジ二次元複屈折評価装置(フォトニックラティス社製 「WPA-200-L」)を用い、3波長測定(波長523nm,543nm,575nm)により、上記で得られた2段プレート状試験片全体における位相差をエリア解析し、その平均値(平均リタデーション、単位:nm)を求めた。
【0068】
[押出生産性の評価]
上記の方法でペレットを製造した際の押出生産性(易生産性)を、以下の基準で評価した。
◎:簡単にストランドが引ける
〇:ストランドが引ける
△:ストランド切れが発生する
×:頻繁にストランド切れが発生する
以上の評価結果を、以下の表2に示す。
【0069】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、透明性と色調と低複屈折性を全てバランスよく達成し、しかも価格も高くない高性能のポリカーボネート樹脂材料であるので、特に各種光学用成形体として好適に利用できる。