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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061288
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】溶接システム及び溶接結果判定装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20230424BHJP
   B23K 11/24 20060101ALI20230424BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20230424BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K11/24 394
B23K26/00 Q
G06N20/00 130
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171198
(22)【出願日】2021-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(71)【出願人】
【識別番号】000161367
【氏名又は名称】株式会社アマダウエルドテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 直樹
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 勇斗
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA00
4E168CA01
4E168CA11
4E168CB24
4E168KA15
(57)【要約】
【課題】溶接のモニタリング情報に基づき抽出される特徴量情報を用いて良否判定を行う。
【解決手段】一態様の溶接システムは、溶接装置と、溶接装置による溶接のモニタリング情報を出力する溶接モニタ装置と、溶接後に得られた溶接結果に関連する溶接結果情報と、溶接結果が得られた溶接時にモニタリング情報から抽出された特徴量情報とを教師データとして入力し、これら教師データに基づき、溶接結果推定モデルを作成し出力する学習装置と、溶接結果を判定すべき溶接時に出力されたモニタリング情報から特徴量情報を抽出し推定用データとして溶接結果推定モデルに入力し、溶接の良否判定結果を出力する溶接結果判定装置と、を備え、学習装置は、時系列データを含むモニタリング情報から、予め設定された複数の特徴要素の値を検出して溶接結果への寄与度を算出し、算出された寄与度に基づいて特徴量情報を決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の溶接を行う溶接装置と、
前記溶接装置による溶接の進行状況をセンサによってモニタリングして得られたモニタリング情報を出力する溶接モニタ装置と、
前記溶接装置による溶接後に得られた溶接結果に関連する溶接結果情報と、前記溶接結果が得られた溶接時に前記モニタリング情報から抽出された特徴量情報とを教師データとして入力し、これら教師データに基づき、溶接結果推定モデルを作成し出力する学習装置と、
溶接結果を判定すべき溶接時に前記溶接モニタ装置から出力されたモニタリング情報から特徴量情報を抽出し、この特徴量情報を推定用データとして、前記学習装置で作成された前記溶接結果推定モデルに入力し、前記溶接の良否判定結果を出力する溶接結果判定装置と、を備え、
前記学習装置は、時系列データを含む前記モニタリング情報から、予め設定された複数の特徴要素の値を検出し、前記検出された複数の特徴要素の値の前記溶接結果への寄与度を算出し、前記複数の特徴要素の値から前記算出された寄与度に基づいて前記特徴量情報を決定する
溶接システム。
【請求項2】
前記溶接結果判定装置は、前記良否判定結果を視認及び聴認の少なくとも一つを可能に報知する報知部を含み、
前記良否判定結果には、前記溶接の溶接強度に関する情報及び原因情報の少なくとも一つが含まれる
請求項1記載の溶接システム。
【請求項3】
前記溶接装置はレーザ溶接機であり、
前記学習装置に入力される教師データ及び前記溶接結果判定装置に入力される推定用データは、加工条件情報を含み、
前記加工条件情報は、被加工物の材質、前記被加工物の板厚、レーザパワー、レーザ照射時間、レーザ照射開始からピークパワーに到達するまでの時間、前記ピークパワーからレーザ照射終了までの時間、ファイバ径、レンズ焦点距離、焦点位置、及び照射点のレーザ径の少なくとも一つの加工条件を含み、
前記モニタリング情報は、レーザパワーの時系列変動データ及び照射点の放射近赤外光強度の時系列変動データを含む
請求項1又は2記載の溶接システム。
【請求項4】
前記複数の特徴要素は、レーザ照射開始から所定のレーザ出力に到達する第1変曲点までの時間、レーザ照射開始から融解開始するまでの時間、融解開始時の温度、レーザ照射終了から温度が下がり始める第2変曲点までの時間、レーザ照射終了から凝固開始する第3変曲点までの時間、凝固開始時の温度、第1変曲点から第2変曲点までの時間、第1変曲点から第2変曲点までの温度の傾斜具合、第2変曲点から第3変曲点までの時間、第2変曲点から第3変曲点までの温度の傾斜具合、及びレーザ出力中の温度総量の少なくとも一つである
請求項3記載の溶接システム。
【請求項5】
前記溶接装置は抵抗溶接機であり、
前記学習装置に入力される教師データ及び前記溶接結果判定装置に入力される推定用データは、加工条件情報を含み、
前記加工条件情報は、溶接電流、溶接加圧力、通電時間、溶接方式、被加工物の材質、前記被加工物の板厚、前記被加工物の表面処理、前記被加工物の組み合わせ条件、サンプリング周期、変位量検出分解能、及びナゲット径の少なくとも一つの加工条件を含み、
前記モニタリング情報は、溶接電流・電圧の時系列変動データ及び溶接点の加圧力・変位量の時系列変動データを含む
請求項1又は2記載の溶接システム。
【請求項6】
前記複数の特徴要素は、通電開始から所定の溶接電流・電圧に到達する第1変曲点までの時間、通電開始から溶融開始するまでの時間、溶融開始時の温度、通電終了から温度が下がり始める第2変曲点までの時間、通電終了から凝固開始する第3変曲点までの時間、凝固開始時の温度、第1変曲点から第2変曲点までの時間、第1変曲点から第2変曲点までの温度の傾斜具合、第2変曲点から第3変曲点までの時間、第2変曲点から第3変曲点までの温度の傾斜具合、及び通電中の温度総量の少なくとも一つである
請求項5記載の溶接システム。
【請求項7】
被加工物の溶接を行う溶接装置による溶接の進行状況をセンサによってモニタリングして得られたモニタリング情報を溶接モニタ装置から入力し、
前記溶接装置による溶接後に得られた溶接結果に関連する溶接結果情報と、前記溶接結果が得られた溶接時に前記モニタリング情報から抽出された特徴量情報とを教師データとして作成された溶接結果推定モデルを使用し、
溶接結果を判定すべき溶接時に前記溶接モニタ装置から出力されたモニタリング情報から特徴量情報を抽出し、この特徴量情報を推定用データとして、前記溶接結果推定モデルに入力し、前記溶接の良否判定結果を出力する溶接結果判定装置であって、
前記溶接結果推定モデルは、時系列データを含む前記モニタリング情報から、予め設定された複数の特徴要素の値を検出し、前記検出された複数の特徴要素の値の前記溶接結果への寄与度を算出し、前記複数の特徴要素の値から前記算出された寄与度に基づいて前記特徴量情報を決定する
溶接結果判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接システム及び溶接結果判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりレーザ溶接においては、溶融部から生じる可視光、赤外光、反射光等の光強度の変化を光センサで測定し、光センサから出力される時系列データの波形形状に基づき溶接状態および溶接品質の変化を溶接モニタ装置でモニタリングする技術が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この溶接モニタ装置では、例えば、モニタリングされた時系列データの波形形状が示す光強度に対するしきい値を予め設定し、光強度の測定値がしきい値の上下限から範囲内に収まっているか否かで、金属材料の接合状態を推認し、溶接の品質の良・不良を判定(良否判定)している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3275988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された装置では、しきい値の設定やしきい値の妥当性の判断、時系列データの波形形状の確認範囲の設定等の複数のチェック項目について、作業者が予備加工を経たり経験則に基づいたりして行って良否判定をする必要がある。また、被加工物の材質が異なった場合等に溶接の加工条件が変化すると、しきい値等の再設定が必要となる。
【0006】
本発明の一態様は、作業者が予備加工を経たり経験則に基づいたりして行って良否判定をすることなく、溶接のモニタリング情報に基づき抽出される溶接の良否判定に寄与する特徴量情報を用いて、溶接中も含めて溶接の良否判定を行うことができる溶接システム及び溶接結果判定装置である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る溶接システムは、被加工物の溶接を行う溶接装置と、前記溶接装置による溶接の進行状況をセンサによってモニタリングして得られたモニタリング情報を出力する溶接モニタ装置と、前記溶接装置による溶接後に得られた溶接結果に関連する溶接結果情報と、前記溶接結果が得られた溶接時に前記モニタリング情報から抽出された特徴量情報とを教師データとして入力し、これら教師データに基づき、溶接結果推定モデルを作成して出力する学習装置と、溶接結果を判定すべき溶接時に前記溶接モニタ装置から出力されたモニタリング情報から特徴量情報を抽出し、この特徴量情報を推定用データとして、前記学習装置で作成された前記溶接結果推定モデルに入力し、前記溶接の良否判定結果を出力する溶接結果判定装置と、を備え、前記学習装置は、時系列データを含む前記モニタリング情報から、予め設定された複数の特徴要素の値を検出し、前記検出された複数の特徴要素の値の前記溶接結果への寄与度を算出し、前記複数の特徴要素の値から前記算出された寄与度に基づいて前記特徴量情報を決定する。
【0008】
本発明の一態様に係る溶接システムによれば、溶接装置による溶接後に得られた溶接結果に関連する溶接結果情報と、溶接結果が得られた溶接時にモニタリング情報から抽出された特徴量情報とを教師データとして、溶接結果推定モデルが作成される。また、溶接結果を判定すべき溶接時のモニタリング情報から特徴量情報を抽出して推定用データとして溶接結果推定モデルに入力し、溶接の良否判定結果が出力される。特徴量情報は、時系列データを含むモニタリング情報から、予め設定された複数の特徴要素の値を検出し、各特徴要素の値の溶接結果への寄与度を算出して、この寄与度に基づき決定される。このため、溶接のモニタリング情報に含まれる時系列データに基づいて、自動的に抽出された溶接の良否判定に寄与する特徴量情報を用い、溶接中も含めて溶接の良否判定を精度よく行うことが可能となる。また、目的変数や説明変数との相関を特徴量情報により極力減らせるモニタリング情報を反映した、より精度の高い溶接結果推定モデルの学習及び良否判定結果の出力が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、作業者が予備加工を経たり経験則に基づいたりして行って良否判定をすることなく、溶接のモニタリング情報に基づき抽出される溶接の良否判定に寄与する特徴量情報を用いて、溶接中も含めて溶接の良否判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る溶接システムの基本的構成を示す説明図である。
図2図2は、溶接システムの学習装置および/または溶接結果判定装置の基本的なハードウェア構成を示す説明図である。
図3図3は、時系列データの例を示すグラフである。
図4図4は、時系列変動データのグラフ形状の一例を示す図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態に係る溶接システムの基本的構成を示す説明図である。
図6図6は、第1実施形態に係る溶接システムの実施例の補助変数を説明するための溶接温度と経過時間の関係を示すグラフである。
図7図7は、実施例の溶接温度を加工条件で重回帰したときの回帰誤差をプロットした図である。
図8図8は、比較例及び実施例における推定値と測定値の関係と、推定値の推定値に対する誤差の度数分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態に係る溶接システム及び溶接結果判定装置を詳細に説明する。ただし、以下の実施の形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施の形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、以下の実施の形態においては、各構成要素の配置、縮尺及び寸法等が誇張或いは矮小化されて示されている場合、並びに一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る溶接システムの基本的構成を示す説明図である。図2は、溶接システムの学習装置および/または溶接結果判定装置の基本的なハードウェア構成を示す説明図である。
【0013】
図1に示すように、第1実施形態に係る溶接システム100は、溶接の溶接結果を推定し良否判定結果を出力し得るシステムであり、被加工物の溶接を行う溶接装置(レーザ溶接機40)と、溶接装置(レーザ溶接機40)による溶接の進行状況をセンサ212によってモニタリングして得られたモニタリング情報5を出力する溶接モニタ装置50と、溶接装置(レーザ溶接機40)による溶接後に得られた溶接結果に関連する溶接結果情報1と、溶接結果が得られた溶接時にモニタリング情報5から抽出された特徴量情報(図示せず)とを教師データとして入力し、これら教師データに基づき、溶接結果推定モデル3を作成して出力する学習装置10と、溶接結果を判定すべき溶接時に溶接モニタ装置50から出力されたモニタリング情報6から特徴量情報(図示せず)を抽出し、この特徴量情報を推定用データとして、学習装置10で作成された溶接結果推定モデル3に入力し、溶接の良否判定結果(溶接結果推定値8)を出力する溶接結果判定装置20と、を備え、学習装置10は、時系列データを含むモニタリング情報5から、予め設定された複数の特徴要素(図示せず)の値を検出し、検出された複数の特徴要素の値の溶接結果への寄与度を、例えば機械学習によって算出し、複数の特徴要素の値から算出された寄与度に基づいて特徴量情報を決定する。
【0014】
溶接システム100の溶接モニタ装置50は、レーザ溶接機40による溶接の進行状況をセンサ212によってモニタリング(状態観測)して得られたモニタリング情報5,6を出力し得る装置であり、被加工物の溶接部をセンサ212で監視して、センサ212からの出力情報をモニタリング情報5,6として取得可能な装置のことをいう。溶接モニタ装置50から出力されるモニタリング情報5,6は、例えばレーザ溶接時に観測される物理量(溶接温度、音、光、色等)の時系列データを含む情報が挙げられる。
【0015】
第1実施形態の溶接システム100は、溶接モニタ装置50からのモニタリング情報5,6に基づき算出された補助変数(特徴量情報)よりも加工条件情報2,4との間の相関が小さい潜在変数(の教師データ及び推定用データ)を用いたレーザ溶接に適用されるシステムである。この溶接システム100においては、例えば学習装置10に入力される目的変数の教師データとしては、溶接結果情報1が挙げられる。溶接結果情報1は、例えば溶接の良加工の判定結果を導出した原因情報および/または溶接の不良加工の判定結果を導出した原因情報を含む。原因情報は、良加工又は不良加工の判定結果を表す原因(スパッタ発生の有無、焦点位置ずれの有無等)となる情報のことをいう。また、溶接結果情報1には、例えばレーザ溶接の溶接部の溶接強度F(N/mm)に関する情報が含まれる。なお、溶接強度は、例えば破壊検査等により取得され、その破壊検査等とは、一般社団法人日本溶接協会溶接情報センターのホームページに記載された破壊試験として掲げた、例えばJIS Z 2241 金属材料引張試験方法やその他掲載された溶接試験・検査に用い得るJIS規格の何れを選択してもよく、その実験方法や評価方法もそのJIS規格に記載されたものによる。
【0016】
説明変数の教師データとしては、予め実施された溶接における良加工の加工条件(レーザパワー(出力値)、レーザ照射時間等)及び不良加工の加工条件等の種々の加工条件を含む加工条件情報2が挙げられる。なお、加工条件情報4は、レーザ溶接機40に設定された良加工および/または不良加工の加工条件を含む。溶接システム100で用いられる目的変数、説明変数及び補助変数は、これら例示したものに限定されるものではない。なお、補助変数とは、説明変数を原因としたときの結果となるような因果関係を有する変数として、予測・推定時に入手可能な、目的変数以外の変数である補助的な変数を意味する。
【0017】
より具体的には、図1に示す溶接装置はレーザ溶接機40であり、学習装置10に入力される教師データ及び溶接結果判定装置20に入力される推定用データは、加工条件情報2,4を含み、加工条件情報2,4は、被加工物の材質、前記被加工物の板厚、レーザパワー、レーザ照射時間、レーザ照射開始からピークパワーに到達するまでの時間、前記ピークパワーからレーザ照射終了までの時間、ファイバ径、レンズ焦点距離、焦点位置、及び照射点のレーザ径の少なくとも一つの加工条件を含む。また、モニタリング情報5,6は、レーザパワーの時系列変動データ及び照射点の放射近赤外光強度の時系列変動データを含む。
【0018】
また、第1実施形態の溶接システム100の溶接結果判定装置20は、良否判定結果(の内容)を視認及び聴認の少なくとも一つを可能に報知する報知部(図示せず)を含み、良否判定結果には、溶接の溶接強度に関する情報及び原因情報の少なくとも一つが含まれる。
【0019】
ここで、レーザ溶接機40は、例えば外部からの入力によって指定された加工条件のレーザ光を被加工物に照射し、溶接を行う装置である。レーザ溶接機40は、各種通信(ネットワーク通信又は直接接続による通信)により、レーザ光を照射した各種の条件を取得可能に構成されている。また、溶接結果は、溶接強度、スポット径、及び溶接品質等を含む。なお、溶接品質等は、外観や断面などから金属組織を評価した指標であってもよいし、耐食性を評価した指標であってもよい。従って、第1実施形態の溶接システム100は、例えばレーザ溶接機40によるレーザ溶接の良否判定結果に含まれる溶接強度の推定システムとして用いられ得る。また、溶接結果の良否判定結果を含む溶接結果情報1には、上記スポット径が含まれていてもよいので、溶接システム100は、レーザ溶接の良否判定結果に含まれるスポット径の推定システムとしても用いられ得る。
【0020】
学習装置10は、第1補助変数算出部12と、第1潜在変数算出部13と、溶接結果学習部11とを備える。第1補助変数算出部12は、溶接モニタ装置50から出力されたモニタリング情報5の教師データから特徴量情報を抽出して補助変数の教師データとして算出する。第1潜在変数算出部13は、加工条件情報2の教師データと、補助変数の教師データ(特徴量情報)とから、補助変数の教師データ(特徴量情報)よりも加工条件情報2の教師データとの間の相関が小さい潜在変数の教師データ(図示せず)を算出し、潜在変数算出情報7を出力する。溶接結果学習部11は、学習装置10に入力された加工条件情報2の教師データと、この加工条件に基づくレーザ溶接機40による溶接後に、例えば破壊検査等により取得された溶接部の溶接結果に関連する溶接結果情報1の教師データと、潜在変数の教師データとを入力し、例えば所定の機械学習アルゴリズムを用いた機械学習を行って、溶接結果推定モデル3を作成する。なお、第1潜在変数算出部13は、モニタリング情報5と相関を有する潜在変数を算出し、算出に際して決定された潜在変数算出情報7を出力するものである。潜在変数は、本実施形態においては、説明変数と同様に目的変数を特徴付ける変数であり、直接は観測されないが観測された変数(補助変数)から推定される変数である。換言すれば、潜在変数は、観測された変数を特徴付ける変数であって少なくとも補助変数から次元削減又は次元圧縮されたものを意味する。従って、潜在変数は、加工条件情報2と相関を有する、モニタリング情報5が次元削減又は次元圧縮された、1次元又は2次元の情報である。なお、「相関」とは、複数の変数の間の線形の関係に限定せず、線形、非線形にかかわらず、複数の変数の間で、1つの変数が変化すれば他の変数が変化するという関係を意味する。
【0021】
また、特徴量情報は、第1補助変数算出部12において、時系列データを含むモニタリング情報5から、後述する予め設定された複数の特徴要素の値を検出して、この検出された複数の特徴要素の値の溶接結果への寄与度を、例えば機械学習によって算出し、複数の特徴要素の値から算出された寄与度に基づき決定される。
【0022】
溶接結果学習部11は、学習装置10に入力された良加工および/または不良加工となった加工条件を含む加工条件情報2と、それぞれ良加工および/または不良加工の判定結果を導出した原因情報を含む溶接結果情報1と、第1潜在変数算出部13で算出された潜在変数とを入力し、例えば所定の機械学習アルゴリズムを用いた機械学習によって、溶接の良否判定が可能な溶接結果推定モデル3を作成する。なお、例えばレンズ・ファイバ・焦点位置の組み合わせで計算されるスポット径は、溶接結果学習部11での機械学習に用いられる。学習済みの溶接結果推定モデル3は、例えばコンピュータにより動作するソフトウェアで構成され、本例では溶接結果を判定すべき溶接時に溶接モニタ装置50から出力されたモニタリング情報6から抽出された特徴量情報を推定用データとして入力すると、溶接の良否判定結果を示す溶接結果推定値8を出力するプログラムが挙げられる。その他、溶接結果推定モデル3は、例えば加工条件情報4を推定用データとして入力すると、溶接強度に関する情報の溶接結果推定値8を出力し、モニタリング情報6を推定用データとして入力すると、原因情報を含む良否判定の溶接結果推定値8を出力するプログラム等が挙げられる。
【0023】
学習方法は、回帰、分類、クラスタリング、判別、補間、特徴量抽出、及び時系列モデリング等の各種のアルゴリズムを含むが、これに限定されるものではない。溶接結果学習部11で学習された溶接結果推定モデル3は、学習済みモデルを特徴付ける予測・推定のための各種パラメータ、各種式および/またはアルゴリズムを含む。そして、学習装置10は、潜在変数算出情報7及び溶接結果推定モデル3を溶接結果判定装置20に対して出力する。
【0024】
なお、第1潜在変数算出部13は、潜在変数の教師データの算出を、例えば所定のアルゴリズムを用いて行う。このアルゴリズムは、学習装置10及び溶接結果判定装置20(推定装置30)における機械学習や推定に際しても用いられる。アルゴリズムとしては、例えば、回帰分析(Regression Analysis:RA)、主成分分析(Principal Component Analysis:PCA)、特異値分解(Singular Value Decomposition:SVD)、線形判別分析(Linear Discriminant Analysis:LDA)、独立成分分析(Independent Component Analysis:ICA)、ガウス過程潜在変数モデル(Gaussian Process Latent Variable Model:GPLVM)の少なくとも一つを利用することができる。なお、アルゴリズムは、これらに限定されるものではない。
【0025】
潜在変数算出情報7は、第1潜在変数算出部13において、潜在変数の教師データの算出に際して決定され、追加の潜在変数の算出に際して用いられる各種情報を意味し、例えば各種パラメータ、各種式および/またはアルゴリズムが含まれる。第1補助変数算出部12で抽出される特徴量情報は、モニタリング情報5に基づき算出されるので、補助変数の教師データとして利用され得る。なお、第1補助変数算出部12による特徴量情報の抽出については後述する。
【0026】
一方、溶接結果判定装置20は、被加工物の溶接を行う溶接装置(レーザ溶接機40)による溶接の進行状況をセンサ212によってモニタリングして得られたモニタリング情報6を溶接モニタ装置50から入力し、溶接装置(レーザ溶接機40)による溶接後に得られた溶結結果に関連する溶接結果情報1と、溶接結果が得られた溶接時にモニタリング情報5から抽出された特徴量情報とを教師データとして作成された溶接結果推定モデル3を使用し、溶接結果を判定すべき溶接時に溶接モニタ装置50から出力されたモニタリング情報6から特徴量情報を抽出し、この特徴量情報を推定用データとして、溶接結果推定モデル3に入力し、溶接の良否判定結果を出力する溶接結果判定装置20であって、溶接結果推定モデル3は、時系列データを含むモニタリング情報5,6から、予め設定された複数の特徴要素の値を検出し、検出された複数の特徴要素の値の溶接結果への寄与度を算出し、複数の特徴要素の値から算出された寄与度に基づいて特徴量情報を決定するものである。この溶接結果判定装置20は、内部に学習装置10から出力された潜在変数算出情報7及び溶接結果推定モデル3を格納すると共に、推定装置30と報知部(図示せず)とを備える。推定装置30は、第2補助変数算出部32と、第2潜在変数算出部33と、溶接結果推定部31とを備える。第2補助変数算出部32は、溶接モニタ装置50から出力されたモニタリング情報6の推定用データから特徴量情報を抽出して補助変数の推定用データとして算出する。第2潜在変数算出部33は、加工条件情報4の推定用データと、補助変数の推定用データ(特徴量情報)とから、潜在変数算出情報7に基づいて、補助変数の推定用データ(特徴量情報)よりも加工条件情報4の推定用データとの間の相関が小さい潜在変数の推定用データ(図示せず)を算出する。第2潜在変数算出部33は、潜在変数の推定用データの算出を、例えば潜在変数算出情報7がアルゴリズムを含んでいる場合、学習装置10の第1潜在変数算出部13で潜在変数の教師データの算出に用いられたアルゴリズムと同じアルゴリズムを用いて行う。このように、推定時においても、学習時と同じアルゴリズムを用いて潜在変数を算出することで、同一の溶接結果推定モデル3を用いた推定が可能になる。
【0027】
溶接結果推定部31は、溶接結果判定装置20に入力されたレーザ溶接機40に設定された加工条件情報4の推定用データと、潜在変数の推定用データとから、溶接結果判定装置20に格納された溶接結果推定モデル3に基づいて、レーザ溶接機40で行われる溶接加工の溶接結果を推定して、良否判定を示す溶接結果推定値8を出力する。報知部は、推定装置30の溶接結果推定部31により出力された良否判定結果の内容(溶接強度、溶接不良原因等)を可視化又は可聴化してユーザに報知する。溶接結果推定部31は、具体的には、加工条件情報4の推定用データと、潜在変数の推定用データとを、溶接結果推定モデル3に入力して、溶接結果を推定し出力する。溶接結果判定装置20は、推定装置30の溶接結果推定部31から出力された溶接結果推定値8に基づいて、例えば溶接の溶接強度および/またはスポット径(以下、「溶接強度等」と呼ぶ。)を判定し得る。なお、溶接結果推定値8は、溶接強度については、例えばある溶接点(溶接部)の引張強度(単位:N)及び強度の分布範囲を数値で表現し得る情報のことをいう。また、溶接結果推定値8は、スポット径については、例えばある溶接点(溶接部)の表面におけるレーザ光の照射範囲の大きさ、或いは溶接部の融解部分の大きさを数値で表現し得る情報のことをいう。
【0028】
なお、学習装置10側から溶接結果判定装置20側へ渡される潜在変数算出情報7は、学習装置10及び推定装置30で潜在変数の算出に適切なものが選択され得る。例えば、学習装置10における潜在変数の教師データの算出が主成分分析によって行われる場合、潜在変数パラメータとして、主成分ベクトル及び固有値であってもよく、これらに加え特定の補助変数(モニタリング情報5)の教師データの寄与率が所定値よりも高い主成分ベクトルを除外した潜在変数パラメータを選択するようにしてもよい。これにより、補助変数よりも説明変数との間の相関が小さい潜在変数を説明変数と共に教師データ及び推定用データに用いることができるので、多重共線性に起因する推定精度の悪化が回避可能となる。
【0029】
また、学習装置10及び溶接結果判定装置20における時系列データ解析、機械学習及び溶接解析や良否判定結果の推定に際しては、上述したアルゴリズムの他に、例えば、ロジスティクス回帰(Logistic Regression:LR)、サポートベクターマシン(Support Vector Machine:SVM)、判別分析(Discriminant Analysis:DA)、ランダムフォレスト(Random Forest:RF)、ランキングSVM(Ranking Support Vector Machine:RSVM)、勾配ブースティング(Gradient Boosting:GB)、ナイーブベイズ(Naive Bayes:NB)、K近接法(K-Nearest Neighbor Algorithm:K-NN)等の各種のアルゴリズムを利用することができる。
【0030】
ここで、溶接システム100における時系列データ解析のアルゴリズムとは、モニタリング情報5,6に含まれる時系列データ(レーザパワーの時系列変動データ及び照射点の放射近赤外光強度の時系列変動データ)の特徴となる特徴量情報を、例えば計算処理等によって自動的に抽出し決定する処理のことをいう。また、溶接解析のアルゴリズムとは、例えば特徴量情報を基に機械学習を含めた統計処理を行うことで、溶接の良否判定(溶接不良判定)を行う計算処理のことをいう。なお、第1潜在変数算出部13は、加工条件情報2の教師データと、補助変数の教師データ(特徴量情報)とを次元削減又は次元圧縮した1次元又は2次元の情報を潜在情報の教師データとして算出するようにしてもよい。また、第2潜在変数算出部33は、加工条件情報4の推定用データと、補助変数の推定用データ(特徴量情報)とを次元削減又は次元圧縮した1次元又は2次元の情報を潜在情報の推定用データとして算出するようにしてもよい。潜在変数の教師データ及び推定用データは、それぞれ補助変数よりも説明変数との間の相関を減じるように補助変数が、又は補助変数及び説明変数が、例えば上記のように次元削減又は次元圧縮されたものである。
【0031】
第1実施形態の溶接システム100では、学習装置10の第1補助変数算出部12でモニタリング情報5を含むデータから補助変数の教師データ(特徴量情報)を算出し、第1潜在変数算出部13で加工条件情報2の教師データと、特徴量情報とから、潜在変数の教師データを算出して潜在変数算出情報7を出力し、溶接結果学習部11で加工条件情報2の教師データと、溶接結果情報1の教師データと、潜在変数の教師データとを入力し、例えば機械学習によって溶接結果推定モデル3を作成する。そして、溶接結果判定装置20の推定装置30の第2補助変数算出部32でモニタリング情報6を含むデータから補助変数の推定用データ(特徴量情報)を算出し、第2潜在変数算出部33で加工条件情報4の推定用データと、特徴量情報とから、潜在変数算出情報7に基づき潜在変数の推定用データを算出して、溶接結果推定部31で加工条件情報4の推定用データと、潜在変数の推定用データとから、溶接結果推定モデル3に基づいて、溶接結果推定値8を出力する。
【0032】
これにより、溶接システム100は、加工条件情報4やモニタリング情報6を学習済みの溶接結果推定モデル3に、例えば入力するだけで、溶接結果に伴う良否判定を示す溶接結果推定値8を得たり、良否判定結果に含まれる溶接強度や溶接不良原因の等を示す溶接結果推定値8を得たり、良否判定結果を報知部により報知したりすることができるので、溶接中も含めて溶接の良否判定を行うことができる。
【0033】
なお、溶接システム100における溶接結果情報(目的変数の教師データ)1、及び加工条件情報(説明変数の教師データ)2の各データは、各々1つ以上の変数又はパラメータから構成され得るもので、例えば図示しない据置型若しくは可搬性を有する記憶装置又は記憶媒体に記憶され得る。また、各データは、例えばインターネット等の情報通信媒体を介して送受信され得るもので、図示しないセンサ等の測定装置によって取得された生データであってもよい。また、溶接結果推定モデル3は、学習装置10及び溶接結果判定装置20間で上記記憶媒体又は情報通信媒体を介して入出力されてもよい。溶接システム100で用いられる説明変数、目的変数、潜在変数、並びに潜在変数算出情報7は、各々1つ以上の変数又はパラメータから構成され得る。本明細書においては、「目的変数の予測・推定」とは、「目的変数の予測」又は「目的変数の推定」の意味で用いられる。「目的変数の予測」は、未来(将来)に実現すると考えられる目的変数を想定することを意味し、「目的変数の推定」は、現在実現しているが、直接観測することのできない目的変数を推し量ることを意味する。
【0034】
図2に示すように、溶接システム100の学習装置10および/または溶接結果判定装置20は、基本的なハードウェア構成として、例えばCPU(中央処理装置)201と、RAM(ランダムアクセスメモリ)202と、ROM(リードオンリーメモリ)203と、HDD(ハードディスクドライブ)204および/または、SSD(ソリッドステートドライブ)205と、メモリカード206と、を備える。
【0035】
また、学習装置10および/または溶接結果判定装置20は、例えば入力I/F(インタフェース)207と、出力I/F(インタフェース)208と、通信I/F(インタフェース)209と、を備える。各構成部201~209は、それぞれバス200によって相互に接続されている。
【0036】
CPU201は、RAM202、ROM203、HDD204、SSD205等に記憶された各種プログラムを実行することで、学習装置10および/または溶接結果判定装置20を制御する。CPU201は、学習装置10においては学習プログラムを実行することで、上記第1補助変数算出部12、第1潜在変数算出部13及び溶接結果学習部11の機能を実現する。
【0037】
また、CPU201は、溶接結果判定装置20においては判定プログラムを実行することで、上記推定装置30の第2補助変数算出部32、第2潜在変数算出部33、溶接結果推定部31及び報知部の機能を実現する。なお、学習装置10及び溶接結果判定装置20の各CPU201が協働することで、溶接システム100の全体を制御するように構成し得る。
【0038】
RAM202は、CPU201の演算処理の作業領域として使用され得る。ROM203は、上記の各種プログラムを少なくとも読み出し可能に格納する。HDD204及びSSD205は、上述した各種のデータを読み書き可能に記憶する。メモリカード206は、これら各種のデータを読み書き可能に記憶すると共に、各装置10,20に対して着脱自在な記憶媒体を構成する。HDD204、SSD205及びメモリカード206は、上述した記憶装置又は記憶媒体の機能を実現する。
【0039】
入力I/F207には、例えばセンサ212が接続されて検出情報が取得される。入力I/F207は、レーザ溶接機40からの加工条件情報2,4及び溶接モニタ装置50からのモニタリング情報5,6も取得し得る。センサ212は、温度センサ、光センサ、音響センサ、画像センサ等の各種センサが含まれる。なお、入力I/F207は、学習装置10および/または溶接結果判定装置20の操作部又は入力部として機能するタッチパネル211が接続され、溶接システム100のユーザからの操作入力に伴う情報を受け付ける。入力I/F207には、図示しないキーボード及びマウス(トラックボールマウスを含む)等の各種の入力デバイスも接続され得る。
【0040】
出力I/F208には、例えば表示装置としてのディスプレイ210が接続され、学習装置10および/または溶接結果判定装置20でモニタ表示される各種情報が出力される。タッチパネル211は、ディスプレイ210上に設けられていてもよい。また、学習装置10および/または溶接結果判定装置20は、通信I/F209を介して、図示しないインターネット等のネットワークに接続されたサーバ装置及び外部機器等と間接的又は直接的に接続され得る。
【0041】
ここで、学習装置10の第1補助変数算出部12及び溶接結果判定装置20の推定装置30の第2補助変数算出部32による特徴量情報の抽出・決定について説明する。
第1及び第2補助変数算出部12,32は、上述したように、時系列データを含むモニタリング情報5,6から、複数の特徴要素(何種類かの情報)の値を検出する。複数の特徴要素の値は、例えば事前に実験等で確認された選定条件に基づき計算機処理等によって予め自動抽出され検出される。そして、検出された複数の特徴要素の値の溶接結果への寄与度を、例えば機械学習により算出する。こうして検出された複数の特徴要素の値から算出された寄与度に基づいて、補助変数となる特徴量情報を決定し補助変数の教師データとして算出する。複数の特徴要素は、例えば、レーザ照射開始から所定のレーザ出力に到達する第1変曲点までの時間、レーザ照射開始から融解開始するまでの時間、融解開始時の温度、レーザ照射終了から温度が下がり始める第2変曲点までの時間、レーザ照射終了から凝固開始する第3変曲点までの時間、凝固開始時の温度、第1変曲点から第2変曲点までの時間、第1変曲点から第2変曲点までの温度の傾斜具合、第2変曲点から第3変曲点までの時間、第2変曲点から第3変曲点までの温度の傾斜具合、及びレーザ出力中の温度総量の少なくとも一つである。具体的には、特徴量情報の抽出・決定に利用可能な複数の特徴要素としては、例えば次のようなものが想定される。
【0042】
図3は、時系列データの例を示すグラフである。
モニタリング情報5,6に含まれる時系列データとしては、例えば図3に示すように、レーザパワーの時系列変動データD1及び照射点の放射近赤外光強度の時系列変動データD2等が挙げられる。図3においては、横軸が時間(秒)を表し、縦軸が温度(×100℃)を表しており、データにおける特徴量情報を抽出・決定し得る複数の特徴要素が示されている。
【0043】
図3における複数の特徴要素の値として、「rise_period」は、レーザオンから変曲点(予測(70%))までの時間を意味する値である。この「rise_period」の値は、レーザオンの時刻から、レーザ立ち上がり完了時点での測定値の70%に達するまでの測定点数(×5μsで時間)で算出される。
【0044】
また、「inflection1_period」は、レーザオンから融解開始するまでの時間を意味する値である。この「inflection1_period」の値は、レーザオンの時刻から、レーザ立ち上がり完了の変曲点1までの測定点数(×5μsで時間)で算出される。「rise_value」は、変曲点(予測(70%))を意味する値である。この「rise_value」の値は、レーザ立ち上がり完了時刻での測定値の70%の値として算出される。「inflection1_value」は、融解開始(融点)の温度を意味する値である。この「inflection1_value」の値は、変曲点1での測定値として算出される。
【0045】
また、「inflection3_value」は、凝固開始(融点)の温度を意味する値である。この「inflection3_value」の値は、レーザ停止後、凝固が始まる変曲点3での測定値として算出される。「laseroff_inf3_period」は、レーザオフから凝固開始までの時間を意味する値である。この「laseroff_inf3_period」の値は、レーザオフから変曲点3までの測定点数(×5μsで時間)で算出される。「inflection3_5ms_value」は、固まり方の最初の5ms(冷えの速さ(固まった金属の硬さ)×(溶融体積に関係))を意味する値である。この「inflection3_5ms_value」の値は、変曲点3から5ms経過後の測定値として算出される。
【0046】
また、「inflection2_value」は、温度下がり始めの温度を意味する値である。この「inflection2_value」の値は、レーザオフ後、測定値が下がり始める変曲点2の測定値として算出される。「inf2_inf3_period」は、温度下がり始めから凝固開始するまでの時間を意味する値である。この「inf2_inf3_period」の値は、変曲点2から変曲点3までの測定点数(×5μsで時間)で算出される。「laseroff_inf2_period」は、レーザオフから温度が下がり始めるまでの時間を意味する値である。この「laseroff_inf2_period」の値は、レーザオフから変曲点2までの測定点数(×5μsで時間)で算出される。
【0047】
また、「trend_start_value」は、回帰線の区間最初の値(最小)を意味する。この「trend_start_value」の値は、変曲点1の時刻から変曲点2の時刻までの期間(以下、「特定期間」と称する。)の測定値の1次回帰式の、変曲点1の時刻での値として算出される。「trend_finish_value」は、回帰線の区間最後の値(最大)を意味する。この「trend_finish_value」の値は、特定期間の測定値の1次回帰式の、変曲点2の時刻での値として算出される。「trend_period」は、融解開始から温度の下がり始めまでの時間(時間計算済み)を意味する値である。この「trend_period」の値は、特定期間の時刻(μs)で算出される。「trend_slope」は、融解中の温度上昇率を意味する値である。この「trend_slope」の値は、特定期間の測定値の1次回帰式の傾きで算出される。
【0048】
その他、図3への図示は省略するが、複数の特徴要素としては、「rise_value_sum」、「laserontime_value_sum」、「count」、「mean」、「std」、「min」、「25%」、「50%」、「75%」、「max」、「dence1~5」等が挙げられる。「rise_value_sum」は、立ち上がりの温度総量を意味する値である。この「rise_value_sum」の値は、レーザオンの時刻から「rise_period」までの期間の測定値の積分により算出される。「laserontime_value_sum」は、レーザ出力中の温度総量を意味する値である。この「laserontime_value_sum」の値は、レーザオンからレーザオフまでの期間の測定値の積分により算出される。
【0049】
また、「count」は、溶融開始から温度が下がり始めるまでの時間を意味する値である。この「count」の値は、特定期間の測定点数(×5μsで時間)で算出される。「mean」は、線形トレンドからの外れ具合(波打ち具合)を意味する値である。この「mean」の値は、特定期間の線形トレンド(1次回帰)を除外した測定値の平均値として算出される。また、「std」は、「mean」と同じく線形トレンドからの外れ具合(波打ち具合)を意味する値である。この「std」の値は、特定期間の測定値の標準偏差として算出される。
【0050】
また、「min」は、融解中の最小温度を意味する値である。この「min」の値は、特定期間の測定値の最小値として算出される。「25%」は、小さい順に25/100番の測定値を意味する。この「25%」の値は、特定期間の測定値の25%タイルとして算出される。「50%」は、小さい順に50/100番の測定値を意味する。この「50%」の値は、特定期間の測定値の50%タイルとして算出される。「75%」は、小さい順に75/100番の測定値を意味する。この「75%」の値は、特定期間の測定値の75%タイルとして算出される。「max」は、溶融中の最大温度を意味する値である。この「max」の値は、特定期間の測定値の最大値として算出される。
【0051】
また、「dence1」は、時系列変動データD2に基づく温度の(粗い)変動具合(ギザギザ具合)を意味する値である。この「dence1」の値は、195-585Hzのスペクトル密度(所定の3つの周波数のスペクトル密度の和)で算出される。「dence2」は、時系列変動データD2に基づく温度の(少し粗い)変動具合(ギザギザ具合)を意味する値である。この「dence2」の値は、781-1171Hzのスペクトル密度(所定の3つの周波数のスペクトル密度の和)で算出される。
【0052】
「dence3」は、時系列変動データD2に基づく温度の(中くらいの)変動具合(ギザギザ具合)を意味する値である。この「dence3」の値は、1367-1757Hzのスペクトル密度(所定の3つの周波数のスペクトル密度の和)で算出される。「dence4」は、時系列変動データD2に基づく温度の(少し細かい)変動具合(ギザギザ具合)を意味する値である。この「dence4」の値は、1953-2343Hzのスペクトル密度(所定の3つの周波数のスペクトル密度の和)で算出される。「dence5」は、時系列変動データD2に基づく温度の(細かい)変動具材(ギザギザ具合)を意味する値である。この「dence5」の値は、2539-2929Hzのスペクトル密度(所定の3つの周波数のスペクトル密度の和)で算出される。
【0053】
第1補助変数算出部12及び第2補助変数算出部32は、上記のような複数の特徴要素から、例えば自動抽出された複数の特徴要素の値を検出して溶接結果への寄与度を算出し、複数の特徴要素の値から算出された寄与度に基づき特徴量情報を決定・算出するが、これに限定されるものではない。例えば、第1補助変数算出部12は、目的変数の推定への寄与度の大きさに基づき、自動抽出された複数の特徴要素の値を検出するようにしてもよい。寄与度は、溶接結果学習部11による溶接結果推定モデル3の作成時に用いられた機械学習アルゴリズムによって、モニタリング情報5の教師データの時系列データに含まれる複数の特徴要素について、例えばスパッタやポロシティ等の溶接品質に関する各種の物理現象の推定への寄与度として重み付けされる。第1補助変数算出部12は、この寄与度に基づき自動抽出された複数の特徴要素の値を検出し、その値を特徴量情報として算出するようにしてもよい。従って、溶接システム100においては、上述したように、溶接の良加工の加工条件(加工条件情報2,4)及びその加工結果の補助変数(モニタリング情報5,6)、又は溶接の不良加工の加工条件(加工条件情報2,4)及びその加工結果の補助変数(モニタリング情報5,6)により形成されるグラフ形状が教師データとなり得る。モニタリング情報5,6には、溶接点から発せられるレーザビームに関する情報(実際に照射されたレーザパワーの時系列変動データD1、照射点の放射近赤外光強度の時系列変動データD2)が含まれているため、これを目的変数とした場合、各加工条件の加工条件情報2,4、レーザビームのプロファイル情報、レーザ溶接機40の機械仕様情報等を潜在変数とすることもできる。
【0054】
そして、溶接システム100の時系列データ解析のアルゴリズムによって、加工条件情報2(説明変数の教師データ)、溶接結果情報1(目的変数の教師データ)、モニタリング情報5(補助変数の教師データ)及び潜在変数の教師データで学習済みの溶接結果推定モデル3に対し、レーザ溶接機40からの溶接結果を判定すべきレーザ溶接時点のモニタリング情報6から抽出された特徴量情報とその他の加工状態を表す推定用データを入力すると、溶接結果推定モデル3は、入力されたデータに基づき目的変数となるレーザビームに関する情報のグラフ形状との差異が現れる潜在変数を出力し得る。
【0055】
図4は、時系列変動データのグラフ形状の一例を示す図である。
上記のように出力されたレーザビームに関する情報に含まれる照射点の放射近赤外光強度の時系列変動データD2は、例えば図4に示すようになる。図4は、横軸が時間(msec)を表し、縦軸が光強度(カウンタ値)を表している。
【0056】
溶接結果推定モデル3から出力された潜在変数の結果は、図4に示すグラフ形状において破線で囲まれて特定された特徴波形区間h1,h2,h3に含まれる特徴要素を表す形状となり、これが自動的に抽出され決定された複数の特徴要素の値となる。第1補助変数算出部12及び第2補助変数算出部32は、この複数の特徴要素の値から算出された寄与度を用いて特徴量情報を算出する。特徴波形区間h1~h3には、時系列変動データD2における波形形状が特徴(ギザギザ具合、変曲点等)を表す特徴要素が含まれる。なお、溶接システム100の溶接解析のアルゴリズムにおいては、特定された特徴波形区間h1~h3に含まれる各種情報と、モニタリング情報6から得られたレーザビームに関する情報とを、例えば統計処理を行って溶接の異常(溶接強度の不足、溶接不良原因等)を自動検知し、良否判定結果を表す溶接結果推定値8として出力して、例えばユーザに報知する。
【0057】
第1実施形態の溶接システム100は、モニタリング情報5(時系列変動データD1,D2、特徴量情報)を含むデータから潜在変数を算出して良否判定の溶接結果推定モデル3を学習し、潜在変数と共に加工条件情報4やモニタリング情報6から溶接結果推定モデル3に基づいて溶接の良否判定を行うことができるので、溶接強度や溶接不良原因の予測・推定を溶接中も含めて、相関による推定精度の悪化を防ぎながら簡単な構成で精度よく容易に行うことが可能となる。
【0058】
特に、溶接不良原因を判定する場合、目的変数の教師データとしてのスパッタの発生や焦点位置ずれを表す原因情報を含む溶接結果情報1を、分類カテゴリー情報として説明変数の教師データ(加工条件情報2)、補助変数の教師データ(モニタリング情報5)と共に溶接結果推定モデル3に学習させる。そして、説明変数の判定用データ(加工条件情報4)と補助変数の判定用データ(モニタリング情報6)を溶接結果推定モデル3に入力すれば、溶接結果推定モデル3が、ある溶接不良原因の分類カテゴリーに該当するとの判断結果を出した場合に、溶接不良原因(溶接結果情報1)を出力することができるように構成され得る。
【0059】
[溶接システムの動作]
溶接システム100において、例えば外部の記憶装置又は記憶媒体等に記憶された溶接結果情報1及び加工条件情報2並びに溶接モニタ装置50から出力されたモニタリング情報5は、例えばそれぞれ目的変数の教師データ、説明変数の教師データ及び補助変数の教師データとして、学習装置10に入力され図示しない記憶部に記憶される。
【0060】
学習装置10は、これらの入力されたデータのうち、溶接モニタ装置50からのモニタリング情報5の教師データを含むデータから第1補助変数算出部12において特徴量情報(補助変数の教師データ)を算出する。また、第1補助変数算出部12で算出された特徴量情報と、加工条件情報2の教師データとから、第1潜在変数算出部13において、特徴量情報よりも加工条件情報2の教師データとの間の相関が小さい潜在変数の教師データを算出し潜在変数算出情報7を出力する。
【0061】
また、学習装置10は、溶接結果学習部11において溶接結果情報1の教師データと、加工条件情報2の教師データと、第1潜在変数算出部13により算出された潜在変数の教師データとを入力し、例えば機械学習を行って、溶接良否判定を行う溶接結果推定モデル3を作成する。学習装置10は、潜在変数の教師データの算出に際して決定された潜在変数算出情報7及び作成した溶接結果推定モデル3を、装置内の記憶部に記憶すると共に、溶接結果判定装置20の推定装置30に利用可能に出力する。
【0062】
なお、学習装置10は、潜在変数算出情報7及び溶接結果推定モデル3を、例えば接続されたネットワーク等を介して外部の記憶装置(図示せず)に出力するようにしてもよい。この場合、外部の記憶装置は、入力された潜在変数算出情報7及び溶接結果推定モデル3を一時的或いは恒久的に記憶する。なお、各種のデータは、上記のような外部の記憶装置や記憶媒体ではなく、例えば溶接システム100の一部を構成する記憶装置(図示せず)に記憶されていてもよい。
【0063】
一方、レーザ溶接機40においては、設定された加工条件情報4に基づいてレーザ溶接が実行される。レーザ溶接機40に付属のセンサ212によって、推定対象(例えば、被加工物の溶接部)のレーザ溶接時の状態観測情報であるモニタリング情報6が溶接モニタ装置50により取得される。レーザ溶接機40に設定された加工条件情報4及び溶接モニタ装置50のモニタリング情報6は、それぞれ説明変数の推定用データ及び補助変数の推定用データとして判定装置20に入力される。
【0064】
溶接結果判定装置20は、潜在変数算出情報7及び溶接結果推定モデル3と共に入力された各種のデータを図示しない記憶部に記憶すると共に、推定装置30において、溶接モニタ装置50からのモニタリング情報6の推定用データを含むデータから第2補助変数算出部32によって特徴量情報(補助変数の推定用データ)を算出する。また、第2補助変数算出部32で算出された特徴量情報と、レーザ溶接機40に設定された加工条件情報4の推定用データとから、第2潜在変数算出部33において、潜在変数算出情報7に基づき、特徴量情報よりも加工条件情報4の推定用データとの間の相関が小さい潜在変数の推定用データを算出する。
【0065】
また、溶接結果判定装置20の推定装置30は、溶接結果推定部31において第2潜在変数算出部33により算出された潜在変数の推定用データと、加工条件情報4の推定用データとから、溶接結果推定モデル3に基づいて、溶接の良否を判定する溶接結果推定値8を出力する。溶接結果推定値8は記憶部に記憶されると共に、表示、印刷等適宜利用可能な形態で推定装置30から出力され、溶接結果判定装置20で利用され得る。
【0066】
なお、学習装置10は、特徴量情報の算出、潜在変数の算出及び溶接結果推定モデル3の作成に際し、レーザ溶接機40に設定された加工条件情報4の推定用データ及び溶接モニタ装置50からのモニタリング情報6の推定用データを、説明変数及び補助変数の教師データとして適宜加工条件情報2の教師データ及びモニタリング情報5の教師データに追加或いは説明変数及び補助変数の教師データとして参照して用いるようにしてもよい。このようにすれば、より多くのデータを利用して推定精度の向上に寄与することができる。
【0067】
第1実施形態の溶接システム100では、溶接結果情報1の補助変数の教師データとしてのモニタリング情報5,6に基づく特徴量情報や潜在変数を算出した上で、これらの情報を用いた溶接結果推定モデル3が作成される。また、潜在変数算出情報7を用いて補助変数の推定用データとしてのモニタリング情報6に基づき特徴量情報や潜在変数を再度算出した上で、これらの情報と説明変数の推定用データである加工条件情報4とから溶接結果推定モデル3に基づいて、溶接の良否判定の溶接結果推定値8が出力される。
【0068】
従って、第1実施形態の溶接システム100によれば、レーザ溶接の加工条件に関するデータのみならず、溶接時にモニタリングして観測されるデータから、非破壊で推定対象(被加工物の溶接部)の溶接の良否判定に寄与する特徴量情報を自動的に抽出して良否判定に用いることができるので、溶接中も含めて溶接の良否判定を行うことができると共に、溶接強度や溶接不良原因を推定することができる。
【0069】
一般的にレーザ溶接においては、同一の加工条件でレーザ溶接を施した場合であっても、被加工物の材質、溶接環境のばらつき等の要因によって溶接強度は変化するので、実際に製品を破壊しなければ溶接強度を測定することはできないという問題がある。また、実際にレーザ光を照射した実験を行わなければ、目的とする溶接結果を得るための種々の加工条件や、溶接不良の原因が何であったかなどを知ることはできないという問題もある。
【0070】
しかし、第1実施形態の溶接システム100は、モニタリング情報からの特徴量情報を補助変数として利用し、良否判定に寄与する特徴を自動的に抽出しているので、判定精度の向上を図りつつ溶接に起因する物理現象を溶接中に起きた事象として溶接状況の変動を含めた良否判定を行うことができる構成を採用するので、このような問題を解決することができる。これと共に、潜在変数を利用しているので、より精緻な推定を可能にして推定精度の向上及び相関による精度悪化の回避を図ることができる。
【0071】
なお、第1実施形態の溶接システム100は、レーザ溶接の溶接良否の判定を目的としているが、これに限定されず、例えばスパッタやポロシティ等の溶接不良に関する物理現象が発生した際のその原因(原因情報)を表す内容(どの特徴要素がどう作用して原因となったか等)を得ることも可能であり、スパッタやポロシティ等の溶接品質に関する各種の物理現象に基づく溶接の溶接結果に伴う溶接品質の推定を行うことも可能である。溶接品質に関するデータは、例えば、溶接良を示すデータと溶接不良を示すデータの少なくとも一方を含み、そのときの加工条件情報2及びモニタリング情報5を説明変数及び補助変数の教師データとして、学習装置10で例えば機械学習を行い溶接結果推定モデル3を作成する。この溶接結果推定モデル3を用いて推定装置30で加工条件情報4及びモニタリング情報6の推定用データに基づく推定を行えば、溶接の良否を含めた溶接結果の推定を、レーザ溶接中も含めて行うことができる。
【0072】
また、溶接システム100は、学習装置10及び溶接結果判定装置20を、例えばそれぞれレーザ溶接機40の設置箇所と同じ現場に集中して或いは遠隔地に別々に設置可能である。このため、レーザ溶接の良否判定に関して、グローバルな展開をも想定した多種多様な運用が可能となる。
【0073】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態に係る溶接システムの基本的構成を示す説明図である。図5に示すように、第2の実施形態に係る溶接システム100Aは、溶接モニタ装置(抵抗溶接チェッカ)51からのモニタリング情報5,6を、加工条件情報2,4と相関を有する補助変数(の教師データ及び推定対象データ)として用いる点は、第1実施形態の溶接システム100と同様であるが、抵抗溶接に適用される点が、第1実施形態の溶接システム100とは相違している。
【0074】
すなわち、第2実施形態の溶接システム100Aにおいて、溶接装置は抵抗溶接機(抵抗溶接電源・ヘッド41)である。また、学習装置10に入力される教師データ及び溶接結果判定装置20に入力される推定用データは、加工条件情報2,4を含み、加工条件情報2,4は、溶接電流、溶接加圧力、通電時間、溶接方式、被加工物の材質、被加工物の板厚、被加工物の表面処理、被加工物の組み合わせ条件、サンプリング周期、変位量検出分解能、及びナゲット径の少なくとも一つの加工条件を含む。また、モニタリング情報5,6は、溶接電流・電圧の時系列変動データ及び溶接点の加圧力・変位量の時系列変動データを含む。また、複数の特徴要素は、通電開始から所定の溶接電流・電圧に到達する第1変曲点までの時間、通電開始から溶融開始するまでの時間、溶融開始時の温度、通電終了から温度が下がり始める第2変曲点までの時間、通電終了から凝固開始する第3変曲点までの時間、凝固開始時の温度、第1変曲点から第2変曲点までの時間、第1変曲点から第2変曲点までの温度の傾斜具合、第2変曲点から第3変曲点までの時間、第2変曲点から第3変曲点までの温度の傾斜具合、及び通電中の温度総量の少なくとも一つである。
【0075】
この第2実施形態の溶接システム100Aにおいても、学習装置10の第1補助変数算出部12でモニタリング情報5に基づき特徴量情報(補助変数の教師データ)を算出し、第1潜在変数算出部13で特徴量情報に基づき潜在変数の教師データを算出して、溶接結果学習部11で溶接結果推定モデル3の学習を行って、この溶接結果推定モデル3と潜在変数算出情報7を溶接結果判定装置20の推定装置30に与える。溶接結果判定装置20の推定装置30の第2補助変数算出部32では、モニタリング情報6に基づき特徴量情報(補助変数の推定用データ)を算出し、第2潜在変数算出部33で特徴量情報と加工条件情報4の推定用データとから潜在変数算出情報7に基づき潜在変数の推定用データを算出して、溶接結果推定部31においてこの潜在変数の推定用データを含めたデータを入力して、溶接結果推定モデル3に基づき溶接の良否判定を行う。そして、得られた良否判定結果の溶接結果推定値8に含まれる溶接強度や溶接不良原因の溶接結果を溶接中でも判定することができる。このように、第2実施形態の溶接システム100Aにおいても、第1実施形態の溶接システム100と同様の作用効果を奏することができる。
【0076】
[実施例]
図6は、第1実施形態に係る溶接システムの実施例の補助変数を説明するための溶接温度と経過時間の関係を示すグラフである。図7は、実施例の溶接温度を加工条件で重回帰したときの回帰誤差をプロットした図である。図8は、比較例及び実施例における推定値と測定値の関係と、推定値の推定値に対する誤差の度数分布を示すグラフである。
【0077】
実施例のレーザ溶接においては、説明変数としての加工条件を溶接条件(レーザ溶接に用いたレーザの出力強度及び照射時間)とし、目的変数を溶接強度とした。学習装置10においては重回帰分析を用いて溶接結果推定モデル3を作成することとした。比較例においては上述したような潜在変数を用いていない。
【0078】
図6に示すように、縦軸にレーザ溶接の溶接点の溶接温度を、横軸にレーザ溶接の経過時間を示したグラフによれば、溶接点の温度は、経過時間T1のレーザ照射開始と同時に急激に上昇を始める。そして、経過時間T1の後のある時点(経過時間T2)において温度上昇が鈍化し、そのまま経過時間T2の後のレーザ照射終了(経過時間T3)と同時に急激に下降し、経過時間T3の後のある時点(経過時間T4)においてレーザ照射開始前の温度に戻る。レーザ溶接の溶接温度は、このような特性を持って推移する。そこで、溶接強度を推定するために用いる補助変数として、温度上昇が鈍化した時点(経過時間T2)での温度TP1及びレーザ照射終了時(経過時間T3)での温度TP2を用いた。
【0079】
図7に示すように、立ち上がりの温度である温度TP1を溶接条件(レーザ溶接に用いたレーザの出力強度及び照射時間)で重回帰したときの回帰誤差を横軸にプロットし、レーザ照射終了時の温度である温度TP2を上記と同じ溶接条件で重回帰したときの回帰誤差を縦軸にプロットして、得られたデータを主成分分析する。これにより、第1主成分の射影軸PAに沿って次元削減された1次元の潜在変数が得られることとなる。
【0080】
比較例による溶接強度の推定値と実際の溶接強度の測定値は、図8(a)に示すようになった。一方、得られた潜在変数を説明変数に加えて重回帰分析を行った実施例による溶接強度の推定値と実際の溶接強度の測定値は、図8(b)に示すようになった。なお、図8(a)及び(b)においては、横軸は様々な条件に溶接条件の値を変えたときの溶接強度の測定値を表し、縦軸はその溶接条件に対応する溶接強度の推定値を表している。また、図8(a)及び(b)では、測定値及び推定値共に最大の溶接強度が1となるように規格化してプロットがされている。
【0081】
そして、比較例による誤差と実施例による誤差を、平均絶対誤差(MAE:Mean Absolute Error)と平均平方二乗誤差(RMSE:Root Mean Squared Error)で評価した結果は、以下の表1に示すようになった。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例による誤差は、比較例による誤差と比べて、MAE及びRMSEのいずれにおいても小さな値を取った。このように、図8及び表1からも見て取れるように、潜在変数を用いることの効果によって、推定値がより測定値に近づいていることが把握され得る。従って、実施例の溶接システムでは、補助変数、潜在変数を含めたより多くのデータを利用しても判定の精度が改善されることが証明された。
【0084】
以上、本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0085】
1 溶接結果情報(目的変数の教師データ)
2 加工条件情報(説明変数の教師データ)
3 溶接結果推定モデル
4 加工条件情報(説明変数の推定用データ)
5 モニタリング情報(補助変数の教師データ)
6 モニタリング情報(補助変数の推定用データ)
7 潜在変数算出情報
8 溶接結果推定値
10 学習装置
11 溶接結果学習部
12 第1補助変数算出部
13 第1潜在変数算出部
20 溶接結果判定装置
30 推定装置
31 溶接結果推定部
32 第2補助変数算出部
33 第2潜在変数算出部
40 レーザ溶接機
41 抵抗溶接電源・ヘッド
50,50A 溶接モニタ装置
51 抵抗溶接チェッカ
100 溶接システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8