(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061366
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】パウチ用の積層フィルム、パウチ、および、積層フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20230424BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230424BHJP
B65D 33/00 20060101ALI20230424BHJP
B32B 27/36 20060101ALN20230424BHJP
【FI】
B32B27/00 H
B65D65/40 D
B65D33/00 C
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159551
(22)【出願日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2021171144
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】畠 源英
(72)【発明者】
【氏名】三浦 崇
(72)【発明者】
【氏名】本郷 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】吉川 成志
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 亮也
【テーマコード(参考)】
3E064
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E064AA05
3E064AB13
3E064AB14
3E064AD14
3E064BA22
3E064BA24
3E064BA25
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3E064HP02
3E086AA01
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3E086BA15
3E086BB51
3E086BB90
4F100AA19B
4F100AK04E
4F100AK07A
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4F100AK42A
4F100AR00A
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4F100EJ30D
4F100EJ30E
4F100GB15
4F100JK20
4F100JL01
(57)【要約】
【課題】カット誘導線に基づいたパウチの開封性を安定させることが可能なパウチ用の積層フィルム、パウチ、および、積層フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】基材層31を含む基材フィルム30とシーラントフィルム40とを積層して成り、カット誘導線60が形成されたパウチ10用の積層フィルム20であって、シーラントフィルム40は、オレフィン系樹脂から成る高硬度オレフィン層41および低硬度オレフィン層42を含み、低硬度オレフィン層42は、高硬度オレフィン層41よりも硬度が低く、高硬度オレフィン層41よりも基材フィルム30から遠い側に配置される層であり、カット誘導線60は、高硬度オレフィン層41の基材フィルム30側の端面から基材フィルム30から遠ざかる側に向けて形成された切り込み状のハーフカット部61から構成されている積層フィルム20。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層を含む基材フィルムとシーラントフィルムとを積層して成り、カット誘導線が形成されたパウチ用の積層フィルムであって、
前記シーラントフィルムは、オレフィン系樹脂から成る高硬度オレフィン層および低硬度オレフィン層を含み、
前記低硬度オレフィン層は、前記高硬度オレフィン層よりも硬度が低く、前記高硬度オレフィン層よりも前記基材フィルムから遠い側に配置される層であり、
前記カット誘導線は、前記高硬度オレフィン層の前記基材フィルム側の端面から前記基材フィルムから遠ざかる側に向けて形成された切り込み状のハーフカット部から構成されていることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記高硬度オレフィン層および前記低硬度オレフィン層は、接着剤を介することなく直接的に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記シーラントフィルムは、前記高硬度オレフィン層および前記低硬度オレフィン層を接着剤を介することなく直接的に積層した共押出多層フィルムとして形成されていることを特徴とする請求項2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記高硬度オレフィン層および前記低硬度オレフィン層は、同じオレフィン系樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記高硬度オレフィン層は、キシレン可溶率が20wt%未満、結晶化度が40%以上に設定され、
前記低硬度オレフィン層は、キシレン可溶率が10wt%以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記ハーフカット部のフィルム厚み方向における寸法は、前記シーラントフィルムの厚みの10~90%で設定されていることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記高硬度オレフィン層のフィルム厚み方向における寸法は、前記シーラントフィルムの厚みの10~90%で設定されていることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記基材フィルムと前記シーラントフィルムは、接着剤を介して固着されていることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項9】
前記基材フィルムは、印刷層を有し、
前記積層フィルムを平面視した場合に、前記カット誘導線からの距離が10mm以内の範囲においては、前記印刷層の印刷インキの色数が2色以下に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の積層フィルムを袋状に形成して成ることを特徴とするパウチ。
【請求項11】
基材層を含む基材フィルムとシーラントフィルムとを積層して成り、カット誘導線が形成されたパウチ用の積層フィルムの製造方法であって、
オレフィン系樹脂からなる高硬度オレフィン層と、オレフィン系樹脂からなり前記高硬度オレフィン層よりも硬度が低く形成された低硬度オレフィン層とを含むシーラントフィルムを用意し、
前記高硬度オレフィン層の前記基材フィルム側の端面から前記シーラントフィルムに対してカッター刃をフィルム厚み方向に入れることで、前記カット誘導線を構成する切り込み状のハーフカット部を形成し、
前記高硬度オレフィン層を前記基材フィルムに向けた状態で、前記基材フィルムと前記シーラントフィルムとを固着することを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項12】
共押出しによって、前記高硬度オレフィン層と前記低硬度オレフィン層とが接着剤を介することなく直接的に固着された前記シーラントフィルムを形成することを特徴とする請求項11に記載の積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ねた積層フィルムを熱接着することにより袋状に成形されるパウチ用の積層フィルム、パウチ、および、積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、重ねた積層フィルムを熱接着することにより袋状に成形されるパウチ用の積層フィルムとして、基材層を含む基材フィルムとシーラントフィルムとを積層して成るものが知られている。
【0003】
また、このようなパウチ用の積層フィルムにおいて、使用者がパウチを開封する時にカット(開封)を誘導する弱化部としてのカット誘導線を積層フィルムに形成することも知られており、また、基材フィルム側の耐衝撃性等の各種機能を損なわないように、カット誘導線を構成するためのハーフカット部をシーラントフィルムに形成することも知られている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、本出願人は、シーラントフィルムの材料としてオレフィン系樹脂を使用することを予定しているが、このようなオレフィン系樹脂は、レーザーの吸収率が低く、カット誘導線を構成するためのハーフカット部を形成する加工方法としてレーザー加工が適さないことから、回転カッター等のカッターを用いてシーラントフィルムに切り込み状のハーフカット部を形成することを検討している。
【0006】
ところが、カッターを用いた切り込み加工では、カッターの経年劣化や製造誤差によって回転カッターの回転軸が僅かながらも偏心していること等に起因して、フィルム厚み方向におけるカッター刃による切り込み量にバラツキが生じる場合があり、カッター刃による切り込み量(ハーフカット部の深さ)の精度を確保することが難しいという問題があった。カッター刃による切り込み量(ハーフカット部の深さ)にバラツキが生じると、カット誘導線に基づいたパウチの開封性にもバラツキが生じてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡素な構成で、カット誘導線に基づいたパウチの開封性を安定させることが可能なパウチ用の積層フィルム、パウチ、および、積層フィルムの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の積層フィルムは、基材層を含む基材フィルムとシーラントフィルムとを積層して成り、カット誘導線が形成されたパウチ用の積層フィルムであって、前記シーラントフィルムは、オレフィン系樹脂から成る高硬度オレフィン層および低硬度オレフィン層を含み、前記低硬度オレフィン層は、前記高硬度オレフィン層よりも硬度が低く、前記高硬度オレフィン層よりも前記基材フィルムから遠い側に配置される層であり、前記カット誘導線は、前記高硬度オレフィン層の前記基材フィルム側の端面から前記基材フィルムから遠ざかる側に向けて形成された切り込み状のハーフカット部から構成されていることにより、上記課題を解決するものである。
本発明のパウチは、前記積層フィルムを袋状に形成して成ることにより、上記課題を解決するものである。
本発明の積層フィルムの製造方法は、基材層を含む基材フィルムとシーラントフィルムとを積層して成り、カット誘導線が形成されたパウチ用の積層フィルムの製造方法であって、オレフィン系樹脂からなる高硬度オレフィン層と、オレフィン系樹脂からなり前記高硬度オレフィン層よりも硬度が低く形成された低硬度オレフィン層とを含むシーラントフィルムを用意し、前記高硬度オレフィン層の前記基材フィルム側の端面から前記シーラントフィルムに対してカッター刃をフィルム厚み方向に入れることで、前記カット誘導線を構成する切り込み状のハーフカット部を形成し、前記高硬度オレフィン層を前記基材フィルムに向けた状態で、前記基材フィルムと前記シーラントフィルムとを固着することにより、上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シーラントフィルムが、オレフィン系樹脂から成る高硬度オレフィン層および低硬度オレフィン層を含み、低硬度オレフィン層が、高硬度オレフィン層よりも硬度が低く、高硬度オレフィン層よりも基材フィルムから遠い側に配置される層であり、カット誘導線が、高硬度オレフィン層の基材フィルム側の端面から基材フィルムから遠ざかる側に向けて形成された切り込み状のハーフカット部から構成されている。
これにより、シーラントフィルムに対してカッター刃をフィルム厚み方向に入れて切り込み状のハーフカット部を形成する時に、カッター刃の切れ込み方向の手前側に高硬度オレフィン層を配置してシーラントフィルムにカッター刃が入り易くしつつ、カッター刃の切れ込み方向における奥側に位置する低硬度オレフィン層をクッション層として機能させ、すなわち、シーラントフィルムに対してカッター刃が深く入ろうとした場合に、低硬度オレフィン層をフィルム厚み方向に大きく弾性変形させるとともに、シーラントフィルムに対してカッター刃が浅く入ろうとした場合に、低硬度オレフィン層をフィルム厚み方向に小さく弾性変形させることが可能であるため、カッター刃による切り込み量(ハーフカット部の深さ)のバラツキを小さくすることができ、カット誘導線に基づいたパウチの開封性を安定させることができる。
【0010】
また、本発明では、カット誘導線を構成するハーフカット部をオレフィン層に形成することにより、積層フィルム間でシーラントフィルム同士を熱溶着したヒートシール部においては、熱溶着時の熱によってハーフカット部周辺のオレフィン系樹脂を溶融させてハーフカット部を塞ぐことが可能であるため、ハーフカット部の形成に起因したフィルム強度の低下を回避することができ、これにより、ヒートシール部における不測のフィルム損傷や切断、特に、フィルム強度が弱くなりがちな開封用のノッチ周辺における不測のフィルム損傷や切断を抑制して、パウチのイレギュラーな開封を防止することができる。
【0011】
また、高硬度オレフィン層および低硬度オレフィン層が、接着剤を介することなく直接的に積層されたものである場合、共押出しによってシーラントフィルムを容易に形成することができ、さらに、高硬度オレフィン層と低硬度オレフィン層とを同じオレフィン系樹脂から形成した場合、共押出しによって高硬度オレフィン層と低硬度オレフィン層とをより強固に直接的に固着させることができる。
また、高硬度オレフィン層および低硬度オレフィン層が、接着剤を介することなく直接的に積層されたものである場合、接着剤が無い分だけシーラントフィルムに対してカッター刃を入れ易くすることができるばかりでなく、カッター刃の表面に接着剤が付着してカッター刃の切れ味が低下してしまうことを回避でき、これにより、ハーフカット部を高精度に形成することができるとともに、カッター刃に接着剤の付着を回避するための特殊なコーティングを行う必要を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るパウチを示す平面図。
【
図2】
図1のII―II位置において矢印方向に見て示すパウチの断面図。
【
図4】シーラントフィルムにハーフカット部を形成する様子を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態であるパウチ10について、図面に基づいて説明する。
【0014】
パウチ10は、
図1や
図2に示すように、重ねた積層フィルム20の外縁を熱接着した外縁シール部(ヒートシール部)を形成することにより袋状に形成され、その内側の収容部に食品等の内容物を収容するものである。
【0015】
以下に、パウチ10の各構成要素について説明する。
【0016】
まず、各積層フィルム20は、
図2や
図3に示すように、基材フィルム30とシーラントフィルム40とを積層して成るものである。
【0017】
基材フィルム30は、
図2や
図3に示すように、基材層31と、基材層31のシーラントフィルム40側に配置されたバリア層32とを有している。
【0018】
基材層31は、本実施形態では、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等のポリエステル系樹脂やポリオレフィン樹脂から形成されている。基材層31を、変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)5~55質量%または熱可塑性エラストマー5~30質量%が混合された混合PET層として形成してもよい。またリサイクル材やバイオマス由来のポリエステルやポリオレフィンを含んでもよい。
バリア層32は、基材フィルム30にガスバリア性や水分バリア性を付与するための層であり、本実施形態では、酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)等の無機物または無機酸化物を基材層31に蒸着した蒸着層として形成されている。なお、バリア層32の具体的態様は、上記のような蒸着層に限定されず、基材フィルム30に各種バリア性を付与できるものであれば、如何なるものでもよく、例えば、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、エチレンビニルアルコール共重合体等の樹脂フィルムをバリア層32として基材層31に接着してもよい。
【0019】
なお、基材フィルム30の具合的態様は、基材層31を含むものであれば如何なるものでもよく、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂やポリエーテル系ポリウレタン樹脂等から成るアンカーコート層、ウレタン系樹脂やポリエステル系樹脂等から成るオーバーコート層(トップコート層)、ウレタン系接着剤やエポキシ系接着剤等から成る接着層、
図5に示すような印刷インキ81から成る印刷層80、等を実施形態に応じて任意に設ければよい。
【0020】
基材フィルム30は、その厚みが15μm以上に形成されているのが好ましい。
また、基材フィルム30は、DMAで測定した100℃での貯蔵弾性率が4×108Pa以上に形成されているのが好ましい。
また、基材フィルム30は、インパクト強度が5kgf・cm以上に形成されているのが好ましい。
また、基材フィルム30には、所定箇所において、パウチ10の開封性(カット性)を向上させる微小孔や傷痕から成るポーラス加工やマジックカット加工を施してもよい。
【0021】
また、基材層31を、二軸延伸により配向角が得られるように形成された二軸延伸フィルムから構成する場合、その配向角が0~56°になるように形成されているのが好ましい。すなわち、このような二軸延伸フィルムは、フィルム流れ方向(machine dirrection、樹脂を流す方向)を角度0°とした場合、分子の配向方向、すなわち、分子配向角度が異なる部分が形成され、一般的には、フィルムの中央部分の分子配向角度が小さく、外延部分の分子配向角度が大きくなる傾向にある。そして、このような二軸延伸フィルムを基材層31として用いる場合、その配向角が0~56°になるように基材層31を形成するのが好ましく、この場合、基材層31を構成する二軸延伸フィルムのフィルム流れ方向を、カット誘導線60の延在方向に一致させることで、カット誘導線60に基づいたパウチ10の開封性を良好に維持することができる。
【0022】
シーラントフィルム40は、
図2に示すように、パウチ10に製袋された状態で、他方の積層フィルム20側に面するように最も内側に配置され、他方の積層フィルム20のシーラントフィルム40に熱溶着されるものである。
【0023】
シーラントフィルム40は、
図2や
図3に示すように、ウレタン系接着剤やエポキシ系接着剤等の接着剤から成る接着層50を介して基材フィルム30に固着され、具体的には、ドライラミネート方法(基材フィルム30のシーラントフィルム40側の面にウレタン系接着剤等の接着剤を塗布し、乾燥装置内で溶剤を蒸発させた後、基材フィルム30とシーラントフィルム40とを熱圧着する方法)によって基材フィルム30に接着されている。
【0024】
シーラントフィルム40は、
図2や
図3に示すように、オレフィン系樹脂から成る高硬度オレフィン層41および低硬度オレフィン層42を含んでいる。
【0025】
高硬度オレフィン層41は、
図2や
図3に示すように、基材フィルム30に近い側に配置され、低硬度オレフィン層42は、高硬度オレフィン層41よりも基材フィルム30から遠い側に配置され、高硬度オレフィン層41と低硬度オレフィン層42とは、接着剤を介することなく直接的に固着され積層されている。
【0026】
高硬度オレフィン層41および低硬度オレフィン層42の材料(主材料)となるオレフィン系樹脂は、PP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)等の如何なるものでもよいが、(無延伸ポリプロピレン或いはキャストPPとも呼ばれる)CPPであるのが望ましい。このCPPは、耐熱性に優れており、各種食品等を収容するためのパウチの作製に利用されている。また、オレフィン系樹脂として、耐熱性や耐衝撃性に優れた(ブロックポリプロピレン、インパクトコポリマー、ハイインパクトポリプロピレン等とも称される)インパクトポリプロピレンを用いてもよい。
高硬度オレフィン層41および低硬度オレフィン層42は、同じオレフィン系樹脂(例えば、高硬度オレフィン層41の材料がPPである場合、低硬度オレフィン層42の材料もPP)から形成する(正確には、同じオレフィン系樹脂を主成分として形成する)のが好ましいが、高硬度オレフィン層41および低硬度オレフィン層42を、異なるオレフィン系樹脂(すなわち、例えば、高硬度オレフィン層41の主材料がPPである場合、低硬度オレフィン層42の主材料はPE)から形成してもよい。
【0027】
シーラントフィルム40は、高硬度オレフィン層41および低硬度オレフィン層42を接着剤を介することなく直接的に積層した共押出多層フィルムとして構成され、言い替えると、硬度オレフィン層41の材料となる樹脂と低硬度オレフィン層42の材料となる樹脂とを夫々の押出機から押し出して積層する、共押出しによって形成された共押出多層フィルムとして構成されている。
このように、高硬度オレフィン層41と低硬度オレフィン層42とを積層したシーラントフィルム40を共押出しによって形成することにより、高硬度オレフィン層41と低硬度オレフィン層42とを接着剤を介することなく直接的に固着させることができる。
また、この際、高硬度オレフィン層41と低硬度オレフィン層42とを同じオレフィン系樹脂から形成するのが、高硬度オレフィン層41と低硬度オレフィン層42とをより強固に直接的に固着させることができるので、より好ましい。
なお、共押出しの具体的態様については、各樹脂を異なる押出機から押し出して積層するものであれば、如何なるものでもよく、その具体的態様としては、Tダイの手前で樹脂を合流させるフィードブロック法や、単層をそれぞれマニホールド内で広げてからTダイの吐出口であるリップ出口付近で合流させるマルチマニホールド法、等が挙げられる。Tダイから出た複層の樹脂は、冷却ロールでフィルム状に巻き取られる。
【0028】
低硬度オレフィン層42は、高硬度オレフィン層41よりも硬度が低く形成され、言い替えると、低硬度オレフィン層42は、高硬度オレフィン層41よりも弾性率(ヤング率)が低く形成されている。
シーラントフィルム40は、ナノインデンターで測定される硬度、具体的には、フィルム断面をナノインデンターの圧子によって押し込んで測定される数値によって評価される。
【0029】
高硬度オレフィン層41は、上述したオレフィン系樹脂に、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、ソルビトール系、タルク等の核材を添加することでその結晶化度を高めて(結晶化度が40%以上になるように)形成されたものであり、ナノインデンターで測定される弾性率が1.3gPa以上、且つ、硬度(ナノインデンテーション硬さ)が、0.05GPa以上に設定されているのが好ましい。
高硬度オレフィン層41は、キシレン可溶率(高硬度オレフィン層41を構成するフィルムを沸騰キシレンに溶解したときのキシレン可溶分率、言い替えると、高硬度オレフィン層41の総質量のうちキシレンに溶解する分の質量の割合)が20wt%未満、結晶化度が40%以上になるように形成されているのが好ましい。
このように、高硬度オレフィン層41を形成することにより、後述するハーフカット部61の形成時における、シーラントフィルム40に対してカッター刃Cを入れた際のカッター刃Cのガイド効果を向上することができる。
【0030】
低硬度オレフィン層42は、(核材を添加していない)上述したオレフィン系樹脂から形成され、衝撃強度を高めるためのエラストマー成分を10~20%程度含み、(エラストマー成分がキシレンに溶けることから、)キシレン可溶率(低硬度オレフィン層42を構成するフィルムを沸騰キシレンに溶解したときのキシレン可溶分率、言い替えると、低硬度オレフィン層42の総質量のうちキシレンに溶解する分の質量の割合)が10wt%以上になるように形成されているのが好ましい。
このように、低硬度オレフィン層42を形成することにより、後述するハーフカット部61の形成時において、低硬度オレフィン層42をそのエラストマー成分によってクッション層として機能させることができ、カッター刃Cの貫通を防ぐことができる。
【0031】
また、高硬度オレフィン層41の弾性率をMa、高硬度オレフィン層41の層厚および低硬度オレフィン層42の層厚の合計値に対する高硬度オレフィン層41の層厚の割合をRa、低硬度オレフィン層42の弾性率をMb、高硬度オレフィン層41の層厚および低硬度オレフィン層42の層厚の合計値に対する低硬度オレフィン層42の層厚の割合をRbとした場合、(Ma×Ra)+(Mb×Rb)が1.1GPa以上を満たすように、高硬度オレフィン層41および低硬度オレフィン層42を形成するのが好ましい。
【0032】
また、高硬度オレフィン層41のフィルム厚み方向における寸法は、シーラントフィルム40の厚みの10~90%で設定されるのが好ましい。
また、シーラントフィルム40は、ループスティフネスで測定されるコシの値が30mN以上(MD方向・幅10mm×ループ長50mm)に形成されているのが好ましい。
【0033】
なお、上記では、シーラントフィルム40が、高硬度オレフィン層41および低硬度オレフィン層42のみから構成されているものとして説明したが、シーラントフィルム40の具体的態様については、高硬度オレフィン層41および低硬度オレフィン層42を含むものであれば如何なるものでもよく、高硬度オレフィン層41や低硬度オレフィン層42以外に他の層を設けてもよい。
【0034】
次に、パウチ10に形成されるカット誘導線60について、以下に説明する。
【0035】
パウチ10には、
図1に示すように、使用者がパウチ10を開封する時にカット(開封)を誘導するための、周辺部位よりも強度が弱い弱化部としてのカット誘導線60が形成されている。
図1に示す例では、カット誘導線60が、パウチ10の両側部に形成されたノッチ90間を結ぶように、積層フィルム20を平面視した場合に一直線状に連続して延びる線状のものとして形成されている。
ここで、ノッチ90は、
図1に示すように、パウチ10の開封を容易にするために、パウチ10の製袋用の外縁シール部(ヒートシール部)の外縁に、切り欠き状または切る込み状に形成されるものである。
【0036】
カット誘導線60は、
図2や
図3に示すように、表裏の積層フィルム20の少なくとも一方(本実施形態では両方)のシーラントフィルム40に形成された(材料除去を伴わない、または、材料除去をほぼ伴わない)切り込み状のハーフカット部61から構成されている。
【0037】
ハーフカット部61は、
図4に示すように、高硬度オレフィン層41の基材フィルム30側の端面からカッター(
図4に示す例では、回転軸C1を中心として回転する回転カッター)のカッター刃Cをシーラントフィルム40に対してフィルム厚み方向に入れることで、高硬度オレフィン層41の基材フィルム30側の端面から基材フィルム30から遠ざかる側(低硬度オレフィン層42側)に向けてフィルム厚み方向に沿って形成されたものである。
なお、ハーフカット部61は、(その一端が高硬度オレフィン層41および低硬度オレフィン層42の境界面まで届かないように、または、前記境界面まで届くように)高硬度オレフィン層41のみに形成されてもよく、
図2や
図3に示すように、その一端が低硬度オレフィン層42の途中まで届くように、低硬度オレフィン層42にも形成されてもよい。
なお、ハーフカット部61は、そのフィルム厚み方向における寸法が、シーラントフィルム40の厚みの10~90%で設定されているのが好ましい。
【0038】
ここで、
図5(b)に示すように、基材フィルム30に印刷層80を形成する場合には、
図5(a)に示すように、積層フィルム20を平面視した場合に、カット誘導線60からの距離が10mm以内の範囲Rにおいては、印刷層80の印刷インキ81の色数を2色以下に設定するのが好ましい。
すなわち、印刷層80を設ける場合、印刷インキ81の色数に応じて、フィルム厚み方向に積層される印刷インキ81の層数が決定されるが、上記範囲Rにおいては、この印刷インキ81の色数を2色以下に設定する(印刷インキ81の層数を2層以下に設定する)のが好ましい。なお、
図5(b)には、印刷インキ81の色数を2色(印刷インキ81の層数を2層)にした場合を図示した。
このように、カット誘導線60からの距離が10mm以内の範囲Rにおいて、印刷層80の印刷インキ81の色数を2色以下に設定した場合、カット誘導線60に基づいたパウチ10の開封性を良好に維持することができる。
【0039】
また、本実施形態のパウチ10は、電子レンジ用パウチとして構成され、
図1に示すように、電子レンジによる加熱時にパウチ10内の蒸気を自動的に外部に逃がす自動蒸気抜き機構70が設けられている。
【0040】
自動蒸気抜き機構70は、
図1に示すように、表裏の積層フィルム20を熱溶着した蒸気抜きシール部71と、蒸気抜きシール部71によって周囲を囲まれた蒸気開放部72と、蒸気開放部72に形成された蒸気抜き部73とを有し、電子レンジによる加熱時にパウチ10(の内容物収容部)の内圧の上昇に伴って蒸気抜きシール部71が剥離し、蒸気開放部72および蒸気抜き部73を通じて、パウチ10内の圧力を外部に逃がすように構成されている。
【0041】
蒸気開放部72は、表裏の積層フィルム20が熱溶着されていない未シール部や、蒸気抜きシール部71よりもシール強度が低くなるように熱接着を施した弱接着部、等として形成されている。
蒸気抜き部73は、孔またはスリットとして形成され、本実施形態では、例えば開口形状が円形状の貫通孔として形成されている。なお、蒸気抜き部73は、表裏の積層フィルム20の一方にのみ設けてもよいし、表裏の積層フィルム20の両方に設けてもよい。
【0042】
ここで、このような自動蒸気抜き機構70を設けた場合であって、基材フィルム30に印刷層80を形成する場合には、自動蒸気抜き機構70(特に蒸気抜きシール部71)が形成された箇所においては、上述したカット誘導線60からの距離が10mm以内の範囲Rの場合と同様に、印刷層80の印刷インキ81の色数を2色以下に設定するのが好ましい。
このように、上記箇所において、印刷層80の印刷インキ81の色数を2色以下に設定した場合、電子レンジによる加熱時にパウチ10の内圧の上昇によって蒸気抜きシール部71を良好に剥離させることができる。
【0043】
次に、積層フィルム20の製造方法について、以下に説明する。
【0044】
まず、上述した共押出しによって、高硬度オレフィン層41と低硬度オレフィン層42とが接着剤を介することなく直接的に固着されたシーラントフィルム40を形成する。
【0045】
次に、
図4に示すように、高硬度オレフィン層41の基材フィルム30側の端面からシーラントフィルム40に対してカッター刃Cをフィルム厚み方向に入れることで、シーラントフィルム40に、カット誘導線60を構成する切り込み状のハーフカット部61を形成する。なお、この際、シーラントフィルム40は、
図4に示すように、支持面Sによって低硬度オレフィン層42側から支持されている。
【0046】
次に、
図3に示すように、高硬度オレフィン層41を基材フィルム30に向けた状態で、基材フィルム30とシーラントフィルム40とを固着し、本実施形態では、ドライラミネート方法によって基材フィルム30とシーラントフィルム40とを固着して、積層フィルム20を形成する。
【0047】
本発明の引き裂き性及び硬さについて、複数の実施例及び比較例の実験結果を以下に示す。
[引き裂き性について]
レトルト処理済みの積層フィルムを手で引き裂いて、ハーフカット加工に沿って引き裂けるか評価した。
[硬さについて]
レトルト処理済みの積層フィルムを樹脂包埋し、ウルトラミクロトームで断面加工し、断面部から高硬度オレフィン層および低硬度オレフィン層に対して、複合弾性率およびナノインデンテーション硬さを測定した。
測定装置はHYSITRON社製「TI Premier Multi Scale」を用いた。
測定条件は、圧子にバーコビッチ(ダイヤモンド製)を用い、最大荷重200μN、負荷時間5秒、除荷時間5秒、最大荷重保持時間5秒とし、1サンプルにつき5回測定して平均を測定値とした。
【0048】
[実施例1]
高硬度オレフィン層33μm、低硬度オレフィン層67μmからなるCPPフィルムを共押出により製膜した。
CPPフィルムの高硬度オレフィン層側にロール状の刃物でハーフカット加工を行い、CPPフィルムのハーフカット加工側を12μmPETフィルムと接着材を介して積層した。
上記積層フィルムを127℃、30分レトルト処理した。
[実施例2]
高硬度オレフィン層10μm、低硬度オレフィン層90μmからなるCPPフィルムを共押出により製膜した。
CPPフィルムの高硬度オレフィン層側にロール状の刃物でハーフカット加工を行い、CPPフィルムのハーフカット加工側を12μmPETフィルムと接着材を介して積層した。
上記積層フィルムを127℃、30分レトルト処理した。
[実施例3]
高硬度オレフィン層90μm、低硬度オレフィン層10μmからなるCPPフィルムを共押出により製膜した。
CPPフィルムの高硬度オレフィン層側にロール状の刃物でハーフカット加工を行い、CPPフィルムのハーフカット加工側を12μmPETフィルムと接着材を介して積層した。
上記積層フィルムを127℃、30分レトルト処理した。
【0049】
[比較例1]
高硬度オレフィン層10μm、低硬度オレフィン層90μmからなるCPPフィルムを共押出により製膜した(高硬度オレフィン層はブロックPPの添加により実施例2とは異なる硬さになるようにした。)。
CPPフィルムの高硬度オレフィン層側にロール状の刃物でハーフカット加工を行い、CPPフィルムのハーフカット加工側を12μmPETフィルムと接着材を介して積層した。
上記積層フィルムを127℃、30分レトルト処理した。
[比較例2]
低硬度オレフィン層100μmからなるCPPフィルムを製膜した。
CPPフィルムの片面にロール状の刃物でハーフカット加工を行い、CPPフィルムのハーフカット加工側を12μmPETフィルムと接着材を介して積層した。
上記積層フィルムを127℃、30分レトルト処理した。
[比較例3]
高硬度オレフィン層100μmからなるCPPフィルムを製膜した。
CPPフィルムの片面にロール状の刃物でハーフカット加工を行い、CPPフィルムのハーフカット加工側を12μmPETフィルムと接着材を介して積層した。
上記積層フィルムを127℃、30分レトルト処理した。
【0050】
各実験例及び比較例の評価結果は以下の表1のとおりである
【表1】
上記結果からわかる通り、(Ma×Ra)+(Mb×Rb)が1.1GPa以上で引き裂き性が良好となる。
また、比較例3は、引き裂き性は良いが高硬度オレフィン層100%なのでハンドリングで容易に裂けてしまいハーフカット加工が貫通する虞がある。
【0051】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記または下記の実施形態や変形例の各構成を任意に組み合わせてパウチ10や積層フィルム20を構成する等、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
【0052】
例えば、本発明のパウチ10は、上述した四方シールタイプのものに限定されず、スタンディングパウチ、平パウチ、三方シールタイプ、ピロータイプ、ガセットタイプ等の種々のタイプのパウチに適用することができる。
また、パウチ10の形状は、上述した実施形態で示した矩形形状以外の、例えば台形や、一部に凹凸のある異形形状等、如何なる形状としてもよい。
【0053】
また、上述した実施形態では、カット誘導線60(ハーフカット部61)が、積層フィルム20を平面視した場合に、一直線状に連続して延びる線状のものであるとして説明したが、カット誘導線60の具体的態様は、これに限定されず、例えば、一方向に沿って間欠的に形成された点線状にカット誘導線60を形成してもよい。
【0054】
また、蒸気抜きシール部71は、外縁シール部に連続するように設けられている必要はなく、外縁シール部の内側に独立して設けられていてもよい。また、蒸気抜きシール部71を矩形環状等の他の形状で形成してもよく、その寸法も適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0055】
10 ・・・ パウチ
20 ・・・ 積層フィルム
30 ・・・ 基材フィルム
31 ・・・ 基材層
32 ・・・ バリア層
40 ・・・ シーラントフィルム
41 ・・・ 高硬度オレフィン層
42 ・・・ 低硬度オレフィン層
50 ・・・ 接着層
60 ・・・ カット誘導線
61 ・・・ ハーフカット部
70 ・・・ 自動蒸気抜き機構
71 ・・・ 蒸気抜きシール部
72 ・・・ 蒸気開放部
73 ・・・ 蒸気抜き部
80 ・・・ 印刷層
81 ・・・ 印刷インキ
90 ・・・ ノッチ
C ・・・ カッター刃
C1 ・・・ カッター刃の回転軸
S ・・・ 支持面