(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061375
(43)【公開日】2023-05-01
(54)【発明の名称】ポリアミドフィラメント
(51)【国際特許分類】
D01F 8/12 20060101AFI20230424BHJP
【FI】
D01F8/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164063
(22)【出願日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2021171032
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021178849
(32)【優先日】2021-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雄俊
(72)【発明者】
【氏名】金築 亮
(72)【発明者】
【氏名】西井 義尚
【テーマコード(参考)】
4L041
【Fターム(参考)】
4L041BA16
4L041BA21
4L041BA46
4L041BC20
4L041BD02
4L041BD20
4L041CA26
4L041CA27
4L041CA31
4L041CA32
(57)【要約】
【課題】 耐傷性に優れ、各種の生活用品、産業資材用途に好適に使用することができ、さらには、地球環境に配慮した樹脂からなるポリアミドフィラメントを提供する。
【解決手段】 ポリアミド11系樹脂により構成され、横断面が芯鞘型または海島型である複合フィラメントであって、芯成分または島成分は、ポリアミド11樹脂によって構成され、鞘成分または海成分は、ポリアミド11系熱可塑性エラストマーによって構成され、芯成分または島成分の曲げ弾性率が、鞘成分または海成分の曲げ弾性率より400MPa以上大きいポリアミドフィラメント。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド11系樹脂により構成され、横断面が芯鞘型または海島型である複合フィラメントであって、
芯成分または島成分は、ポリアミド11系樹脂によって構成され、
鞘成分または海成分は、ポリアミド11系熱可塑性エラストマーによって構成され、
芯成分または島成分の曲げ弾性率が、鞘成分または海成分の曲げ弾性率より400MPa以上大きいことを特徴とするポリアミドフィラメント。
【請求項2】
ポリアミドフィラメントが、直径が0.05mm以上のモノフィラメントであり、引張強度が350MPa以上、横擦過試験後の引掛け強度が200MPa以上であることを特徴とする請求項1記載のポリアミドフィラメント。
【請求項3】
フィラメント中のポリアミド11系熱可塑性エラストマーの含有量が30質量%未満であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミドフィラメント。
【請求項4】
フィラメントのバイオマス度が70%以上であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミドモノフィラメント。
【請求項5】
請求項1において、鞘成分または海成分が、ポリアミド11系熱可塑性エラストマーに代えて、ポリアミド系11樹脂によって構成されること特徴とする請求項1記載のポリアミドフィラメント。
【請求項6】
請求項1記載のポリアミドフィラメントにより構成される織編物であって、織編物中に前記ポリアミドフィラメントを50質量%以上含むことを特徴とする織編物。
【請求項7】
請求項2記載のポリアミドフィラメントが裁断されたペレット状物によって構成される研磨用具。
【請求項8】
請求項2記載のポリアミドフィラメントにより構成される釣糸。
【請求項9】
請求項2項記載のポリアミドフィラメントにより構成されるラケット用ストリング。
【請求項10】
請求項2記載のポリアミドフィラメントにより構成される弦楽器用ストリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド11により構成されるフィラメントであって、耐傷性にも優れており、各種の生活用品、産業資材用途に好適に使用することができるポリアミドフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミドとしては、ポリアミド6やポリアミド66が性能やコスト面で有利であることから多く用いられている。しかし近年の環境配慮意識の高まりを受けて、バイオマス原料を一部または全部に用いたポリアミドとして、ポリアミド56、ポリアミド510、ポリアミド610、ポリアミド1010、ポリアミド11などのニーズも高まっている。中でも、ポリアミド11はバイオマス度が高く、また耐寒性や耐疲労性、耐溶剤性などに優れるためエンジン部材などで利用されている。また、繊維分野におけるモノフィラメントの素材として、ポリアミドは過去から広く用いられており、ポリアミド11からなるモノフィラメントについても検討がなされており、例えば、特許文献1では、低温耐性や耐屈曲疲労性に優れるポリアミド11からなる繊維が開示されている。しかしながら、ポリアミド11からなるモノフィラメントは、ポリアミド6やポリアミド66からなるものと比べて、使用環境によっては耐摩耗性に劣ることがあり、実際には用途が広がっていない。
【0003】
ポリアミド11を用いたモノフィラメントの耐摩耗性を改善する方法として、特許文献2には、ポリトリメチレンテレフタレートにポリアミド11を加えたモノフィラメントが開示されているが、このモノフィラメントはポリトリメチレンテレフタレートの耐摩耗性の改善のためにポリアミド11を添加したものであり、ポリアミド11モノフィラメントの耐摩耗性を改善するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009―215663号
【特許文献2】特開2000-96342号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等は、ポリアミド11により構成されるフィラメントについて耐摩耗性を向上させようと検討しているなかで、ポリアミド11フィラメントのある特性に注目した。ポリアミド11からなるモノフィラメントは、繊維軸方向に比較的に低速で摩耗される場合や耐屈曲疲労性においては、ポリアミド6からなるモノフィラメントやポリアミド6/66からなるモノフィラメントよりも優れた耐久性を発揮するが、フィラメントの表面の周方向等のモノフィラメント表面が傷を受けた場合には、比較的に剛性の高いポリアミド11モノフィラメントは傷部からクラックが成長しやすいためか、ポリアミド6や6/66モノフィラメントに比して機械的物性、特に引掛け強力が大きく低下してする。そのため、屈曲部に擦過が生じる工業資材用織編物に適用する場合には耐久性が懸念される。
【0006】
そこで本発明は、耐傷性に優れ、各種の生活用品、産業資材用途に好適に使用することができ、さらには、地球環境に配慮した樹脂からなるポリアミドフィラメントを提供することを技術的な課題とするものである。なお、本発明において耐傷性とは、フィラメントの繊維表面を擦傷させた場合の耐久性(物性保持性)を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリアミド11系樹脂により構成され、横断面が芯鞘型または海島型である複合フィラメントであって、
芯成分または島成分は、ポリアミド11系樹脂によって構成され、
鞘成分または海成分は、ポリアミド11系熱可塑性エラストマーによって構成され、
芯成分または島成分の曲げ弾性率が、鞘成分または海成分の曲げ弾性率より400MPa以上大きいことを特徴とするポリアミドフィラメントを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアミドフィラメントは、ポリアミド11系樹脂により構成されるものであり、耐傷性に優れ、耐久性が要求される各種の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明は、ポリアミド11系樹脂により構成され、横断面が芯鞘型または海島型である複合フィラメントである。ポリアミド11は、11-アミノウンデカン酸を重縮合することにより得られるものである。そして、11-アミノウンデカン酸は、ヒマ(トウゴマ)の種子から抽出されたひまし油を元に生成されるものであるため、植物由来成分からなるものである。
【0012】
本発明のフィラメントは、横断面が、芯成分と鞘成分から構成される芯鞘型、または島成分と海成分から構成される海島型である複合型フィラメントである。
【0013】
複合型フィラメントにおいて、芯成分または島成分は、ポリアミド11系樹脂により構成される。芯成分または島成分を構成するポリアミド11系樹脂は、ホモポリマーであることが好ましいが、本発明の目的が達成される範囲において、少量であれば、ポリアミド11樹脂に、ε-カプロラクタムやヘキサメチレンジアンモニウムアジペート、2-ピロリドン、セバシン酸、1,10-デカンジアミン、ω-ラウリルラクタムなどの他のポリアミド形成単量体や他の成分(テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコールなど)が共重合されたものであってもよい。他の成分を共重合させる場合、11-アミノウンデカン酸の存在比率は90wt%以上が好ましく、より好ましくは95wt%以上である。なお、芯成分または島成分を構成するポリアミド11系樹脂は、後述する鞘成分または海成分を構成するエラストマー樹脂とは異なり、弾性を有しない非エラストマー樹脂であり、本発明のフィラメントの強度を担う役割をしている。
【0014】
複合型フィラメントにおいて、鞘成分または海成分は、ポリアミド11系熱可塑性エラストマーにより構成される。ポリアミド11系熱可塑性エラストマーとしては、11-アミノウンデカン酸を重縮合したブロックをハードセグメントとして有し、ソフトセグメントとしてポリエーテル系、ポリエステル系などのブロックを有するブロック共重合体などが挙げられる。また、ポリアミド11系熱可塑性エラストマーのショア硬度(D)は70以下が好ましく、より好ましくは65以下である。硬度が70以下とすることにより、複合フィラメントに柔軟性を付与することができる。硬度の下限は特に限定されないが、溶
融押出時の取扱い性の観点からショア硬度(D)が20以上であることが好ましい。なお、ショア硬度(D)はJIS K6253に準拠してデュロメータを用いて測定した値である。また、鞘成分または海成分を構成するポリマーは、1種類のポリアミド11系熱可塑性エラストマーからなるものであっても、硬度が異なる2種類のポリアミド11系熱可塑性エラストマーがブレンドされたものであっても、また、ポリアミド11系熱可塑性エラストマーに少量のポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド56、ポリアミド510、ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12等の他のポリマーがブレンドされたものであってもよい。他のポリマーをブレンドする場合には、本発明の目的が達成される範囲とし、鞘成分または海成分が、後述する曲げ剛性率を有するように、ブレンドするポリマーの種類やブレンド比率を選択するとよく、また、ブレンドするポリマーは、環境配慮の観点から、バイオマス由来の成分によってポリマーの一部または全部が構成されてなるものであることが好ましい。
【0015】
なお、本発明の複合フィラメントを構成するポリアミド11系樹脂およびポリアミド11系熱可塑性エラストマーの構成成分であるポリアミド11は、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルなどでリサイクルされたモノマー、オリゴマー、ポリマーなどを一部または全部全体に使用されたものであってもよい。
【0016】
本発明の複合フィラメントにおいて、芯成分または島成分の曲げ弾性率(Ma)が、鞘成分または海成分の曲げ弾性率(Mb)より大きく、その差(Ma―Mb)は400MPa以上である。曲げ弾性率の差(Ma―Mb)が400MPa以上であることで、芯成分と鞘成分、または島成分と海成分との間に一定以上の弾性差を設けられ、フィラメントの表面に傷がついた場合、フィラメント表面である外層の鞘成分または海成分に加えられた傷の影響が、内層の芯成分または島成分に伝播しづらくなり、フィラメントの機械的物性の役割を担う芯成分または島成分が傷の影響を受けにくく、フィラメントとしての機械的
物性を維持し、その結果、耐傷性が良好となる。一方、曲げ弾性率の差(Ma-Mb)が400MPa未満では、二種の樹脂層の弾性の性状が近似するものとなり、フィラメント外層への傷の影響が内層に伝播しやすく、フィラメントの機械的物性が維持しにくく耐傷性が低下してしまうため好ましくない。本発明においては、曲げ弾性率の差(Ma―Mb)は、500MPa以上が好ましく、より好ましくは600MPa以上である。
【0017】
芯成分または島成分は機械的強度を担う成分であることから、芯成分または島成分の曲げ弾性率は、鞘成分または海成分よりも高い値であり、600MPa以上であることが好ましく、より好ましくは700MPa以上、さらに好ましくは800MPa以上である。Maが600MPa以上であることにより、フィラメントとしての剛性を十分有するものとなり、機械的強度が高く、耐傷性を有するものとなる。なお、本発明において、曲げ弾性率はJIS K7171に準拠して3点曲げ試験で測定した値である。
【0018】
鞘成分または海成分は、上述したようにポリアミド11系熱可塑性エラストマーによって構成されてなり、芯成分または島成分と比較して曲げ弾性率が低い。ポリアミド11系熱可塑性エラストマーによって構成される鞘成分または海成分の曲げ弾性率は600MPa未満であり、好ましくは500MPa以下、より好ましくは400MPa以下である。
【0019】
本発明のフィラメント中に、ポリアミド11系熱可塑性エラストマーの含有量は30質量%未満であることが好ましく、25質量%未満であることがより好ましい。ポリアミド11系熱可塑性エラストマーの含有割合を30質量%未満とすることにより、ポリアミドフィラメントとしての耐熱性を維持できるため好ましい。なお、下限は5質量%とする。5質量%未満となると、本発明の効果が良好に発揮できない傾向となり、また、芯成分または島成分を覆う複合形態を良好に維持することができない場合が生じ、芯成分または島成分が露出する恐れがあるためである。このような理由から、下限は10%が好ましい。
【0020】
本発明において、鞘成分または海成分として、上述したポリアミド11系熱可塑性エラストマーに代えて、弾性を有さず、非エラストマーであるポリアミド11系樹脂を配し、鞘成分または海成分の曲げ弾性率が、芯成分または島成分の曲げ弾性率よりも400MPa以上小さいものとするポリアミド11系樹脂からなる複合フィラメントにおいても、本発明の課題を達成することができる。
芯成分または島成分と、鞘成分または海成分との曲げ弾性率差を400MPa以上とするが、芯成分または島成分に芳香族ポリアミドのような高い剛性ポリマー(例えば、曲げ弾性率が1500MPa以上のもの)を配する場合には、鞘成分または海成分である非エラストマーのポリアミド11系樹脂の曲げ弾性率は500~1100MPa程度のものを配するとよい。
【0021】
鞘成分または海成分に配する非エラストマーのポリアミド11系樹脂には、少量のポリアミド6、66、12等の他のポリマーがブレンドされたものであってもよい。他のポリマーをブレンドする場合には、本発明の目的が達成される範囲とし、鞘成分または海成分が、前述する曲げ剛性率を有するように、ブレンドするポリマーの種類やブレンド比率を選択するとよい。
【0022】
本発明において、鞘成分または海成分には、耐摩耗性や工程通過性の向上のために摺動成分を配合することも好ましい。特に、鞘成分または海成分に配するポリアミド11系熱可塑性エラストマーの硬度が低いものであると、フィラメント表面のタック感が大きくなり、本発明のフィラメントを用いて製織編等を行う場合に、工程での取扱いが難しくなる恐れがあるため、摺動成分を使用してタック感を抑えるとよい。摺動成分としては、ポリオレフィン系樹脂、シリコーン化合物、フッ素化合物などが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどがあり、これ
らの共重合体や変性品(不飽和カルボン酸変性、アクリル酸変性、メタクリル酸変性、エポキシ変性、水酸基変性、酢酸ビニルなどの極性基含有モノマー共重合など)も用いてよい。シリコーン化合物としてはジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンなどのオイル類、ポリシロキサンやシリコーンゴムなどのパウダー類などを用いることができる。フッ素化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマーなどを用いることができる。
【0023】
摺動成分を配合する場合、その配合量は、鞘成分または海成分中のポリアミド11系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましい。0.1質量部以上配合させることによって摺動性や耐摩耗性の改善効果を得ることができ、10質量部未満とすることによってポリアミドフィラメントの機械的物性を維持することができる。
【0024】
本発明のフィラメントには、本発明の目的を達成する範囲であれば、他の熱可塑性樹脂を少量添加してもよい。他の熱可塑性樹脂として、たとえば、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、または各種の熱可塑性エラストマーが挙げられ、これらを単独でまたは混合して添加してもよい。中でも、芯成分または島成分のポリアミド11樹脂や、鞘成分または海成分のポリアミド11系熱可塑性エラストマーとの相溶性の観点から、ポリアミド系樹脂や熱可塑性エラストマーを用いることが好ましく、特にポリアミド6やポリアミド6/6、ポリアミド6/10、ポリアミド6/12、ポリアミド6/66/12、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド5/6、ポリアミド5/10等の樹脂や熱可塑性エラストマーが好ましい。添加する他の熱可塑性樹脂は、環境配慮の観点から、バイオマス由来の成分やリサイクル原料によって一部または全部が構成されてなるものであることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明のフィラメント中には、本発明の目的を達成する範囲であれば、分散剤、相溶化剤、展着剤、粘度調整剤、滑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収材料、マイクロ波吸収材料、光安定剤、pH調整剤、抗菌剤、防腐剤、帯電防止剤、導電材、熱伝導性材料、結晶核剤、酸化防止剤、難燃剤、艶消剤、無機充填剤、補強剤、耐熱剤、着色剤、顔料、可塑剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0026】
本発明のフィラメントは芯鞘型または海島型の複合形態であるが、横断面形状は、円形断面のみでなく、三角、四角等の多角形の異形断面形状であってもよく、中空部を有していてもよい。
【0027】
本発明のフィラメントにおいて、複合断面において複合比は、複合形態が芯鞘型の場合では、質量比で、芯成分/鞘成分=90~60/10~40であることが好ましく、複合形態が海島型の場合は、質量比で、島成分/海成分=70~30/30~70であることが好ましい。鞘成分の複合比率が10質量%以上とすることにより、フィラメント外層への傷に対する保護効果を維持することができ好ましく、また、40質量%以下とすることにより、芯成分が十分に存在することによって、機械的物性が良好となり好ましい。複合断面として海島型の場合の海成分の複合比率における下限値および上限値の選択理由も同
様である。
【0028】
本発明のフィラメントは、環境配慮の観点からバイオマス度が70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。主たる構成成分であるポリアミド11は植物由来のものを使用するが、ポリアミド11に他のモノマーを共重合するしたものを用いる場合には、バイオマス度の高いモノマーを選択するか、非バイオマス由来のモノマーを用いる場合は共重合比率を抑えるとよい。また、他の樹脂をブレンドする場合も同様に、植物由来の成分を使用することが好ましく、植物由来でない場合は配合量を抑える。
【0029】
植物(バイオマス)由来と石油由来のものとは、分子量や機械的性質・熱的性質のような物性に差を生じないが、石油由来のものの炭素には、14C(放射性炭素14、半減期5730年)が含まれていない。よって、この14Cの濃度を加速器質量分析により測定し(ASTM D6866に準拠して測定)、フィラメントにおける植物由来樹脂組成物の含有割合の指標(バイオマス度)とする。
【0030】
本発明のフィラメントの形態は、複数のフィラメントからなるマルチフィラメントであっても、また、1本のフィラメントから構成されるモノフィラメントであってもよいが、モノフィラメントが好ましく、前述した優れた耐傷性の効果は、モノフィラメントの形態としたときにより顕著に奏する。本発明のフィラメントがモノフィラメントの場合の糸径は0.05mm以上である。上限は特に限定しないが5mm程度がよい。また、モノフィラメントを製造する際の紡糸操業性や取扱い性を考慮すると、0.1~3mmであることが好ましい。なお、モノフィラメントの横断面形状が円形ではなく異型の場合は、その横断面の断面積を円形換算した際の直径をモノフィラメントの糸径とする。
【0031】
本発明のフィラメントがモノフィラメントの場合に、その引張強度は350MPa以上である。この強力値を満たすことにより、各種の資材用途に耐える実用強度を有する。引張伸度は15~60%であることが好ましく、15%未満であると、モノフィラメントが過度に剛直となり取扱い難くなり、一方、60%を超えると寸法安定性が低くなる。引張強度および引張伸度は、JIS-L-1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に記載の方法に従い、定速伸長型の試験機を使用し、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分、初荷重5MPa(モノフィラメントの断面積1平方ミリメートルあたり5N)で測定
する。
また、各種の資材用途において良好に用いることを考慮すると、本発明のポリアミドフィラメントがモノフィラメントの場合の結節強度は200MPa以上、引掛け強度は200MPa以上であることが好ましい。また、5%伸長時の応力が50~500MPaであることが好ましく、より好ましくは70~300MPaである。5%伸長時の応力が50MPa未満では剛性が低く、500MPaを超えると過度に剛直になるため、どちらも資材用途での取扱いにくい傾向となり、好ましくない。結節強度および引掛強度は、JIS-L-1013に記載の方法に従い、上記した引張強度を測定する際と同様の条件で測定する。5%伸長時の応力は、上記した引張強度の測定において5%伸長時の荷重である。
【0032】
本発明のポリアミドフィラメントは、上記した構成を採用したものであることから、フィラメント形態がモノフィラメントの場合、横擦過試験後の引掛強度が200MPa以上である。より好ましくは250MPa以上、さらに好ましくは300MPa以上である。モノフィラメントにおいて、上記した構成を有し、横擦過試験後の引掛け強度が200MPa以上であることから、各種の資材用途に供するための製織編工程や実使用において、モノフィラメント表面に受ける擦傷によっても、機械的強度を維持し、製品性能が損なわれにくい。横擦過試験後の引掛強度は、以下の方法により測定する。試験糸を初荷重5MPaにて、つかみ間隔25cmで定長固定し、定長固定した試験糸の中央付近の糸表面にサンドペーパー(マタドール社製 精密耐水ペーパー STARCKE #3000 幅1cm×長さ4cmの大きさのもの)を押し当て、その際にサンドペーパーの幅方向が糸軸方向となるようし、試験糸への張力が初荷重と合わせて10MPaとなるように押し当てた状態を維持したまま、糸の軸方向に対して直交方向へストローク幅2cm、1往復あたり4秒の速度で1往復の横擦過を行う。横擦過した試験糸を2本作製し、横擦過した部位が屈曲の外周に位置するようにして、前述した引掛強度の試験を行い、引掛横擦過試験後の引掛強度を測定する。
【0033】
次に、本発明のフィラメントの製造方法について、モノフィラメントを得る方法を一例を挙げて説明する。芯成分または島成分、鞘成分または海成分となる所定分量のポリアミド11ホモポリマーチップとポリアミド11系熱可塑性エラストマーチップ等を所定量それぞれ用意し、これを2台のエクストルーダー型溶融押出機にそれぞれ供給し、紡糸温度200~290℃で溶融し、紡糸孔を1個以上有する芯鞘型または海島型複合紡糸口金で合流させて吐出する。紡糸糸条を5~30℃の水で冷却後、引き続きこれを60~95℃の湯浴中で2~4倍に延伸(第一段延伸)し、その後、100~300℃の乾熱ヒーター中で1.2~2倍に延伸(第二段延伸)する。その後、100~300℃の温度で0.8~1倍の弛緩熱処理を行い、モノフィラメントを得る。
【0034】
摺動成分等の他の添加剤を添加する場合は、マスターバッチ化したものを用いて添加してもよい。延伸時の加熱方法は限定されず、例えば第一段延伸を湯浴でなく乾熱ヒーターで実施してもよく、第二段延伸を湯浴で実施してもよい。また延伸は三段以上や一段としてもよい。モノフィラメントの巻取り速度は特に限定されず、押出や延伸の条件によって適性値は異なるが、10~200m/分であることが好ましく、より好ましくは20~120m/分である。
【0035】
本発明のフィラメントは、耐傷性に優れているため、織編物を構成する糸として好適に用いられ、また、釣糸や漁網などの水産資材、防球ネット等の産業資材や、フィルター資材、ブラシ毛材、糸ようじ等の清掃具、研磨材や投射材などの研磨用具、バリ取り用等に適用する砥粒、ラケットスポーツや弦楽器用ストリング、人工毛髪、人工芝などの産業資材の用途に好適に用いることができる。特にモノフィラメントの形態のものは、釣糸、研磨用具やラケットスポーツや弦楽器用ストリングとして好適である。研磨材や投射材などの研磨用具や砥粒は、本発明のフィラメントにおいて、モノフィラメントの形態のものを長さ0.05~10mm程度に裁断してペレット状物の形態として用いるとよい。本発明のフィラメントを織物や編物に適用する場合には、織編物を構成する糸条の50質量%以上が本発明のフィラメントであることにより、耐摩耗性を効果的に発揮できる。
【実施例0036】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。なお、各種の値の測定方法は次の通りである。
【0037】
(A)線径
試料糸に対し50cmおきに20カ所を測定した数値の平均値を線径(mm)とした。
【0038】
(B)引張試験
試料糸を解舒したものを室温下で24時間以上静置したものについて、JIS-L-1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に記載の方法に従い、定速伸長型の試験機を使用し、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分、初荷重5MPa(モノフィラメントの断面積1平方ミリメートルあたり5N)の条件で切断するまで荷重をかけ、最大強力と破断伸度、5%伸長時の荷重値をn=5で測定し、平均値を最大強力(N)、破断伸度(%)、5%伸長時の応力(N)とした。結節強力、引掛け強力(N)も、JIS-L-1013に記載の方法に従い、引張試験と同条件で測定した。そして、下式により、引張強度(MPa)、結節強度(MPa)、引掛強度(MPa)をそれぞれ算出した。すなわち、引張強度および結節強度は、それぞれ引張強力あるいは結節強力の値を、糸径を2乗した値で除し、その値に4を乗じた後、3.14で除した値とした。また、引掛強度は、引掛強力の値を、糸径を2乗した値で除し、その値に4を乗じた後、3.14で除した後、2で除した値とした。
引張強度(MPa)=引張強力(N)÷糸径(mm)^2×4÷3.14
結節強度(MPa)=結節強力(N)÷糸径(mm)^2×4÷3.14
引掛強度(MPa)=引掛強力(N)÷糸径(mm)^2×4÷3.14÷2
【0039】
(C)耐傷性(横擦過試験後の引掛け強度)
前記した方法により測定した。
【0040】
(D)曲げ弾性率(3点曲げ試験)
長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片を射出成形(樹脂温度260℃、金型温度30℃)により作製し、JIS-K-7171 プラスチック-曲げ特性の求め方に記載の方法に従い、支点間距離64mm、圧子の半径5mm、支持台の半径5mm、試験速度2mm/分の条件で測定した。
【0041】
(E)バイオマス度
前記した方法により測定した。
【0042】
実施例1
芯成分としてポリアミド11樹脂(アルケマ社製 Rilsan BESN-O-TL、曲げ弾性率1000MPa)、鞘成分としてポリアミド11系熱可塑性エラストマー(アルケマ社製 Pebax Rnew 63R53、ショア硬度(D)61、曲げ弾性率245MPa)を用意し、それぞれ別のエクストルーダーへ供給し、芯/鞘の複合比率が72/28(質量%)となるよう吐出量を調整して芯鞘複合型紡糸口金で合流させて、260℃の温度で溶融紡出した。紡出した連続糸条を10℃の水浴中で冷却して未延伸糸条を得た。この未延伸糸条を巻き取ることなく、80℃の温水浴中で、延伸倍率3.1倍で第1段延伸し、次いで全延伸倍率が4.7倍となるように、160℃の加熱ゾーンを通過させながら第2段延伸し(延伸倍率1.5倍)、さらに170℃の加熱ゾーンを通過させて0.95倍の弛緩熱処理を行い、直径0.5mm、芯鞘比率72/28の芯鞘複合型のポリアミドモノフィラメントを得た。
【0043】
実施例2
鞘成分として、ポリアミド11系熱可塑性エラストマー(アルケマ社製 Pebax Rnew 63R53、ショア硬度(D)61、曲げ弾性率245MPa)70質量%とポリアミド11樹脂(アルケマ社製 Rilsan BESN-O-TL、曲げ弾性率1000MPa)30質量%とをチップブレンドしたものを用いたこと、芯/鞘の複合比率を60/40(質量%)としたこと以外は実施例1と同様にして、芯鞘複合型のポリアミドモノフィラメントを得た。
【0044】
実施例3
芯成分としてポリアミド11系樹脂(アルケマ社製 Rilsan HT CMNO、曲げ弾性率1800MPa)、鞘成分としてポリアミド11樹脂(アルケマ社製 Rilsan BESN-O-TL、曲げ弾性率1000MPa)を用意し、それぞれ別のエクストルーダーへ供給し、芯/鞘の複合比率が72/28(質量%)となるよう吐出量を調整して芯鞘複合型紡糸口金で合流させて、285℃の温度で溶融紡出した。紡出した連続糸条を30℃の水浴中で冷却して未延伸糸条を得た。この未延伸糸条を巻き取ることなく、90℃の温水浴中で、延伸倍率3.1倍で第1段延伸し、次いで全延伸倍率が4.7倍となるように、170℃の加熱ゾーンを通過させながら第2段延伸し(延伸倍率1.5倍)、さらに180℃の加熱ゾーンを通過させて0.95倍の弛緩熱処理を行い、直径0.5mm、芯鞘比率72/28の芯鞘複合型のポリアミドモノフィラメントを得た。
【0045】
実施例4
鞘成分としてポリアミド11系熱可塑性エラストマー(アルケマ社製 Pebax Rnew 63R53、ショア硬度(D)61、曲げ弾性率245MPa)70質量%とポリアミド11樹脂(アルケマ社製 Rilsan BESN-O-TL、曲げ弾性率1000MPa)30質量%とをチップブレンドしたものを用い、芯/鞘の複合比率を65/35(質量%)とした以外は、実施例3と同様にして芯鞘複合型のポリアミドモノフィラメントを得た。
【0046】
比較例1
ポリアミド11樹脂(アルケマ社製 Rilsan BESN-O-TL、曲げ弾性率1000MPa)のみを用いて、通常のエクストルーダー型溶融紡糸装置にて270℃で紡出した。紡出した単相型の連続糸条を10℃の水浴中で冷却して未延伸糸条を得た。この未延伸糸条を巻き取ることなく、80℃の温水浴中で、延伸倍率3.1倍で第1段延伸し、次いで全延伸倍率が4.7倍となるように、160℃の加熱ゾーンを通過させながら第2段延伸し(延伸倍率1.5倍)、さらに170℃の加熱ゾーンを通過させて0.95倍の弛緩熱処理を行い、直径0.5mmの単相のモノフィラメントを得た。
【0047】
比較例2
ポリアミド11系熱可塑性エラストマー(アルケマ社製 Pebax Rnew 63R53、ショア硬度(D)61、曲げ弾性率245MPa)のみを用いて、通常のエクストルーダー型溶融紡糸装置にて210℃で紡出した。紡出した連続糸条を10℃の水浴中で冷却して未延伸糸条を得た。この未延伸糸条を巻き取ることなく、80℃の温水浴中で、延伸倍率3.1倍で第1段延伸し、次いで全延伸倍率が4.7倍となるように、140℃の加熱ゾーンを通過させながら第2段延伸し(延伸倍率1.5倍)、さらに150℃の加熱ゾーンを通過させて0.95倍の弛緩熱処理を行い、直径0.5mmの単相のモノフィラメントを得た。
【0048】
【0049】
実施例1~4および比較例1~2はいずれも実用上求められる引張強力(350MPa以上)、結節強力(200MPa以上)、引掛け強力(200MPa以上)、および目標とするバイオマス度(70%以上)を満たしている。しかしながら、比較例2は、5%伸長時の応力が50MPaを下回っており、剛性を有しないものであった。さらに、実施例1~2は、横擦過試験後の引掛強度に優れ、フィラメント表面に傷が加えられた後の引掛強度が高く、比較例に比べて優れた結果が得られた。
本発明のモノフィラメントは十分な機械的物性や剛性を持ちながら、ポリアミド11モノフィラメントの課題である耐傷性も改善されており、各種の資材用途へ好適に使用できるものであることが分かった。