(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006138
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】切削インサートのクランプ構造および刃先交換式切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/16 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
B23B27/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108569
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 翔太
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 純
(72)【発明者】
【氏名】三浦 亮
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046AA07
3C046EE14
(57)【要約】
【課題】切削インサートをサポーターによって安定して保持でき、かつ既存の切削工具への装着も可能で汎用性が高められること。
【解決手段】切削インサート2と、サポーター3と、を備え、サポーター3は、中心軸C1上に配置される貫通孔31と、サポーター3の前方端部から後方に窪む凹状をなし、貫通孔31と繋がるポケット33と、サポーター3を板厚方向に貫通して左右方向に延び、左右方向の一端部が貫通孔31に開口するスリット34と、サポーター3の後端面3eとスリット34との間に配置され、弾性変形可能な弾性部32と、前後方向においてスリット34とポケット33との間に配置されるアーム部35と、接続部36と、を有し、ポケット33は、切削インサート2の外周面23を左右方向の両側から挟持する一対の保持部38,39を有し、一対の保持部38,39のうち少なくとも一方は、アーム部35の前方端部に位置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランプ部材により工具本体のインサート取付座に着脱可能に取り付けられる切削インサートのクランプ構造であって、
柱状をなし、少なくとも前方端部に切刃が配置される切削インサートと、
前記切削インサートの外周面を保持する板状のサポーターと、を備え、
前記サポーターは、
この切削インサートのクランプ構造の中心軸上に配置されて前記サポーターを板厚方向に貫通し、前記クランプ部材が係止される貫通孔と、
前記サポーターの前方端部から後方に窪む凹状をなし、前記貫通孔と繋がり、前記切削インサートが配置されるポケットと、
前記サポーターを前記板厚方向に貫通して左右方向に延び、左右方向の一端部が前記貫通孔に開口するスリットと、
前記サポーターの後端面と前記スリットとの間に配置され、弾性変形可能な弾性部と、
前後方向において前記スリットと前記ポケットとの間に配置されるアーム部と、
前記スリットの左右方向の他端部に隣接し、前記弾性部と前記アーム部とを接続する接続部と、を有し、
前記ポケットは、前記切削インサートの外周面を左右方向の両側から挟持する一対の保持部を有し、
一対の前記保持部のうち少なくとも一方は、前記アーム部の前方端部に位置する、
切削インサートのクランプ構造。
【請求項2】
前記切削インサートは、前記板厚方向において表裏反転対称形状であり、かつ、インサート中心軸を中心とする回転対称形状である、
請求項1に記載の切削インサートのクランプ構造。
【請求項3】
前記保持部は、
前記切削インサートの外周面に左右方向から接触する横押圧面と、
前記外周面に後方から接触する後押圧面と、を有する、
請求項1または2に記載の切削インサートのクランプ構造。
【請求項4】
一対の前記保持部の各前記横押圧面は、後方へ向かうに従い、左右方向において互いに離れる、
請求項3に記載の切削インサートのクランプ構造。
【請求項5】
前記スリットは、前記板厚方向から見て湾曲状に延びる、
請求項1から4のいずれか1項に記載の切削インサートのクランプ構造。
【請求項6】
前記スリット、前記弾性部、前記アーム部および前記接続部の組が前記サポーターに一対設けられ、
一対の前記保持部は、一対の前記アーム部の各前方端部に位置する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の切削インサートのクランプ構造。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の切削インサートのクランプ構造と、
前記インサート取付座を有する前記工具本体と、
前記インサート取付座に前記切削インサートのクランプ構造を固定する前記クランプ部材と、を備える、
刃先交換式切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサートのクランプ構造および刃先交換式切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載の刃先交換式切削工具が知られている。この刃先交換式切削工具は、インサート取付座を有する工具本体と、硬質材料からなる切削インサートと、切削インサートを保持するキャリア本体(サポーター)と、切削インサートおよびキャリア本体をインサート取付座に固定するクランプ部材と、を備える。特許文献1では、キャリア本体を用いることで高価な切削インサートの外形を小型化でき、コスト削減の効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の刃先交換式切削工具(以下、単に切削工具と呼ぶ場合がある)では、上述のように小型化した切削インサートを、サポーターにより安定して保持する点に改善の余地があった。
また、小型化した切削インサートおよびサポーターを、既存の切削工具に装着することが難しかった。詳しくは、例えばISO規格等に準ずる既存の切削インサートの代わりに、上述の小型化した切削インサートおよびサポーターをインサート取付座に取り付ける場合において、既存のクランプ部材や工具本体を流用することができなかった。
【0005】
本発明は、サイズの小さいコンパクトな切削インサートをサポーターによって安定して保持でき、かつ既存の切削工具への装着も可能で汎用性が高められる切削インサートのクランプ構造、および刃先交換式切削工具を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様は、クランプ部材により工具本体のインサート取付座に着脱可能に取り付けられる切削インサートのクランプ構造であって、柱状をなし、少なくとも前方端部に切刃が配置される切削インサートと、前記切削インサートの外周面を保持する板状のサポーターと、を備え、前記サポーターは、この切削インサートのクランプ構造の中心軸上に配置されて前記サポーターを板厚方向に貫通し、前記クランプ部材が係止される貫通孔と、前記サポーターの前方端部から後方に窪む凹状をなし、前記貫通孔と繋がり、前記切削インサートが配置されるポケットと、前記サポーターを前記板厚方向に貫通して左右方向に延び、左右方向の一端部が前記貫通孔に開口するスリットと、前記サポーターの後端面と前記スリットとの間に配置され、弾性変形可能な弾性部と、前後方向において前記スリットと前記ポケットとの間に配置されるアーム部と、前記スリットの左右方向の他端部に隣接し、前記弾性部と前記アーム部とを接続する接続部と、を有し、前記ポケットは、前記切削インサートの外周面を左右方向の両側から挟持する一対の保持部を有し、一対の前記保持部のうち少なくとも一方は、前記アーム部の前方端部に位置する。
また、本発明の刃先交換式切削工具の一つの態様は、上述の切削インサートのクランプ構造と、前記インサート取付座を有する前記工具本体と、前記インサート取付座に前記切削インサートのクランプ構造を固定する前記クランプ部材と、を備える。
【0007】
本発明の切削インサートのクランプ構造および刃先交換式切削工具では、サポーターが切削インサートを保持することにより、例えば超硬合金などの高価な硬質材料からなる切削インサートの外形を小さく抑えることができる。このため、工具コストを削減できる。
【0008】
本発明では、切削インサートのクランプ構造、すなわち切削インサートおよびサポーターを、クランプ部材によってインサート取付座に取り付けるときに、サポーターの弾性部が弾性変形させられ、アーム部が変位することで、切削インサートがクランプされる。
詳しくは、クランプ部材をサポーターの貫通孔に係止し、このクランプ部材に後方への引き込み力を付与することにより、サポーターの後端面がインサート取付座の後壁面に押し付けられ、弾性部が前方に撓み変形する。弾性部が弾性変形させられることでアーム部が変位し、これにともない、ポケットの一対の保持部のうち、アーム部の前方端部に位置する少なくとも一方の保持部が変位させられる。具体的に、アーム部は、弾性部によって前方に押し出されつつ接続部を中心に回動し、アーム部の一方の保持部が、切削インサートの外周面に密着されつつ切削インサートを他方の保持部へ押し付ける。
これにより、一対の保持部によって切削インサートを左右方向の両側から安定して挟持することができる。このため本発明によれば、小型化した切削インサートを、サポーターによって安定して保持できる。
【0009】
また、クランプ部材が係止されるサポーターの貫通孔が、切削インサートのクランプ構造の中心軸上に位置しているため、小型化した切削インサートおよびサポーターを、既存の切削工具に装着することができる。詳しくは、既存の工具本体のインサート取付座に、例えばISO規格等に準ずる既存の切削インサートを搭載する代わりに、本発明の小型化した切削インサートおよびサポーターを搭載して、既存のクランプ部材によって、この切削インサートのクランプ構造をクランプすることができる。つまり本発明では、既存のクランプ部材や工具本体を流用可能である。
【0010】
以上より本発明によれば、サイズの小さいコンパクトな切削インサートをサポーターによって安定して保持でき、かつ既存の切削工具への装着も可能で汎用性が高められる。
【0011】
上記切削インサートのクランプ構造において、前記切削インサートは、前記板厚方向において表裏反転対称形状であり、かつ、インサート中心軸を中心とする回転対称形状であることが好ましい。
【0012】
この場合、1つの切削インサートに少なくとも4つ以上の複数の切刃を設けることができ、切削インサートの工具寿命を延ばすことができる。
【0013】
上記切削インサートのクランプ構造において、前記保持部は、前記切削インサートの外周面に左右方向から接触する横押圧面と、前記外周面に後方から接触する後押圧面と、を有することが好ましい。
【0014】
この場合、一対の保持部の各横押圧面が、切削インサートを左右方向の両側から挟持し、かつ、一対の保持部の各後押圧面が、切削インサートを後方から支持する。このため、保持部によって切削インサートがより安定的にクランプされる。
【0015】
上記切削インサートのクランプ構造において、一対の前記保持部の各前記横押圧面は、後方へ向かうに従い、左右方向において互いに離れることが好ましい。
【0016】
この場合、一対の保持部の各横押圧面によって切削インサートが挟持されたときに、切削インサートがポケットから前方に抜け出すことが抑えられる。
【0017】
上記切削インサートのクランプ構造において、前記スリットは、前記板厚方向から見て湾曲状に延びることが好ましい。
【0018】
この場合、湾曲したスリットによって、例えば、弾性部を弾性変形させやすくしたり、アーム部を所望の向きに変位させやすくしたりすることができる。したがって、サポーターが、切削インサートをより安定してクランプできる。
【0019】
上記切削インサートのクランプ構造において、前記スリット、前記弾性部、前記アーム部および前記接続部の組が前記サポーターに一対設けられ、一対の前記保持部は、一対の前記アーム部の各前方端部に位置することとしてもよい。
【0020】
この場合、切削インサートおよびサポーターをクランプ部材によってインサート取付座に取り付けるときに、一対の弾性部が弾性変形し、一対のアーム部が変位して、切削インサートを安定して保持できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一つの態様の切削インサートのクランプ構造および刃先交換式切削工具によれば、切削インサートをサポーターによって安定して保持でき、かつ既存の切削工具への装着も可能で汎用性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本実施形態の切削インサートのクランプ構造、および刃先交換式切削工具の一部を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の切削インサートのクランプ構造を示す斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、切削インサートのクランプ構造を示す上面図であり、
図3(b)は、切削インサートのクランプ構造を示す前面図である。
【
図4】
図4は、切削インサートのクランプ構造を示す側面図である。
【
図6】
図6は、切削インサートのクランプ構造の機能を説明する上面図であり、インサート取付座の一例を示しており、クランプ部材の図示は省略している。
【
図7】
図7は、切削インサートのクランプ構造の機能を説明する上面図であり、インサート取付座の他の例(変形例)を示しており、クランプ部材の図示は省略している。
【
図8】
図8は、本実施形態の第1変形例の切削インサートのクランプ構造、および刃先交換式切削工具の一部を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、本実施形態の第2変形例の切削インサートのクランプ構造、および刃先交換式切削工具の一部を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、第2変形例の切削インサートのクランプ構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態の切削インサートのクランプ構造10、およびこれを備える刃先交換式切削工具1について、図面を参照して説明する。本実施形態の刃先交換式切削工具1は、旋削加工(ターニング)に用いられる刃先交換式バイトであり、図示しない旋盤などの工作機械の刃物台等に着脱可能に装着される。
【0024】
図1に示すように、刃先交換式切削工具1は、切削インサートのクランプ構造10と、インサート取付座5を有する工具本体4と、インサート取付座5に切削インサートのクランプ構造10を固定するクランプ部材6と、を備える。
切削インサートのクランプ構造10は、クランプ部材6により工具本体4のインサート取付座5に着脱可能に取り付けられる。切削インサートのクランプ構造10は、柱状をなす切削インサート2と、切削インサート2を保持する板状のサポーター3と、を備える。
【0025】
図2に示すように、本実施形態では切削インサートのクランプ構造10が、全体として、その中心軸C1を中心とするトリゴン型の略六角形板状である。
図3(a)に示す平面視で、切削インサートのクランプ構造10は、その外周部に、中心軸C1回りに交互に並ぶ3つの鋭角の角部と3つの鈍角の角部とを有する。
また切削インサート2は、そのインサート中心軸C2を中心とするトリゴン型の略六角形柱状(略六角形板状)である。
図3(a)に示す平面視で、切削インサート2は、その外周部に、インサート中心軸C2回りに交互に並ぶ3つの鋭角の角部と3つの鈍角の角部とを有する。
本実施形態では、平面視において、切削インサートのクランプ構造10の全体的な外形形状と、切削インサート2の外形形状とが、互いに略相似している。
【0026】
図2に示すように、サポーター3は、中心軸C1が延びる方向つまり中心軸C1の軸方向において、互いに反対方向を向く一対の板面3a,3bを有する。一対の板面3a,3bのうち一方の板面3aは、表面3aであり、他方の板面3bは、裏面3bである。またサポーター3は、切削インサートのクランプ構造10の3つの鋭角の角部のうちの1つに配置される凹状のポケット33を有する(
図5参照)。ポケット33には、切削インサート2が配置される。
【0027】
〔方向の定義〕
本実施形態では、サポーター3の一対の板面3a,3bが向く方向を、板厚方向または上下方向と呼ぶ。各図に示すXYZ直交座標系において、板厚方向は、Z軸方向に相当する。板厚方向のうち、裏面3bから表面3aへ向かう方向(+Z側)を上側と呼び、表面3aから裏面3bへ向かう方向(-Z側)を下側と呼ぶ。なお板厚方向は、切削インサートのクランプ構造10の中心軸C1の軸方向に相当する。このため板厚方向は、軸方向と言い換えてもよい。
板厚方向と直交する方向のうち、サポーター3のポケット33が配置される鋭角の角部と、中心軸C1を中心としてこの鋭角の角部の対角に位置する鈍角の角部とを通る所定方向を、前後方向と呼ぶ。前後方向は、X軸方向に相当する。前後方向のうち、前記鈍角の角部から前記鋭角の角部(ポケット33)へ向かう方向(-X側)を前方と呼び、前記鋭角の角部から前記鈍角の角部へ向かう方向(+X側)を後方と呼ぶ。
板厚方向および前後方向と直交する方向を、左右方向と呼ぶ。左右方向は、Y軸方向に相当する。左右方向のうち一方側(-Y側)を右側と呼び、他方側(+Y側)を左側と呼ぶ。
【0028】
なお本実施形態において、上側、下側、前方、後方、左側および右側とは、各構成の相対的な位置関係をわかりやすく説明するための便宜的な名称である。このため、工具使用時などの実際の配置関係は、これらの名称によって限定されない。
【0029】
また、切削インサートのクランプ構造10の中心軸C1と直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸C1に近づく方向を径方向内側と呼び、中心軸C1から離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
また、切削インサートのクランプ構造10の中心軸C1回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。
なお中心軸C1は、サポーター中心軸C1と言い換えてもよく、軸方向は、サポーター軸方向と言い換えてもよい。また径方向は、サポーター径方向と言い換えてもよい。周方向は、サポーター周方向と言い換えてもよい。
【0030】
切削インサート2のインサート中心軸C2が延びる方向を、インサート軸方向と呼ぶ。切削インサート2のインサート中心軸C2は、切削インサートのクランプ構造10の中心軸C1よりも前方に位置し、中心軸C1と平行に延びる。すなわち、インサート軸方向は、軸方向(サポーター軸方向)、板厚方向および上下方向に相当する。
インサート中心軸C2と直交する方向をインサート径方向と呼ぶ。インサート径方向のうち、インサート中心軸C2に近づく方向をインサート径方向の内側と呼び、インサート中心軸C2から離れる方向をインサート径方向の外側と呼ぶ。
インサート中心軸C2回りに周回する方向をインサート周方向と呼ぶ。
【0031】
〔工具本体〕
工具本体4は、例えば鋼材等の金属製である。
図1に示すように、工具本体4は、略角柱状であり、図示しない工具中心軸に沿って延びる。インサート取付座5は、工具本体4の両端部(第1端部4aおよび図示しない第2端部)のうち、第1端部4aに配置される。工具本体4は、互いに反対方向を向く頂面41および底面42、互いに反対方向を向く一対の横面43,44、ならびに、第1端部4aの端面に位置する先端面45を有する。
【0032】
工具本体4の外面のうち、頂面41は、上側を向く。頂面41のうち工具本体4の第1端部4aつまり先端部に位置する部分は、第1端部4a以外の部分よりも、上側に突出する。また工具本体4は、傾斜面41aを有する。傾斜面41aは、頂面41のうち第1端部4aに位置する部分に配置される。傾斜面41aは、後方に向かうに従い下側に位置する傾斜した平面状である。工具本体4の外面のうち、底面42は、下側を向く。
【0033】
工具本体4の外面のうち、一方の横面43は、右側を向く。一方の横面43のうち工具本体4の第1端部4aに位置する部分は、第1端部4a以外の部分よりも、右側に突出する。工具本体4の外面のうち、他方の横面44は、左側を向く。
【0034】
工具本体4は、切削インサート2およびサポーター3が着脱可能に装着されるインサート取付座5と、クランプ部材6の後述するクランプネジ6bが螺着される図示しないネジ穴と、を有する。ネジ穴は、頂面41のうちインサート取付座5と傾斜面41aとの間に位置する部分に開口し、略上下方向に沿って延びる。
インサート取付座5は、板状のシート部材51を有する。シート部材51は、インサート取付座5の一部(底面)を構成する。シート部材51は、図示しないシート固定ネジにより第1端部4aに固定される。本実施形態ではシート部材51が、トリゴン型の略六角形板状である。
【0035】
インサート取付座5は、工具本体4の第1端部4aつまり先端部において、頂面41、一方の横面43および先端面45に開口する。インサート取付座5は、工具本体4の頂面41、一方の横面43および先端面45から窪む凹状である。インサート取付座5は、切削インサートのクランプ構造10、すなわち切削インサート2およびサポーター3を受け入れ可能な凹所である。本実施形態ではインサート取付座5が、トリゴン型の略六角形凹状である。
【0036】
インサート取付座5は、切削インサート2の裏面22およびサポーター3の裏面3bと接触する底面5aと、サポーター3の外周面3cと接触する壁面5bと、ぬすみ部5c,5dと、を有する。
底面5aは、シート部材51の一対の板面のうち、上側を向く一方の板面(上面)により構成される。
【0037】
図6に示すように、壁面5bは、後壁面5baと、側壁面5bbと、を有する。
本実施形態では後壁面5baが、インサート取付座5に一対設けられる。一対の後壁面5baは、それぞれ、インサート取付座5の後端部に配置され、前方を向く。一対の後壁面5baのうち、右側に位置する一方の後壁面5baは、右側へ向かうに従い前方に向けて延びる。一対の後壁面5baのうち、左側に位置する他方の後壁面5baは、左側へ向かうに従い前方に向けて延びる。本実施形態では、
図6に示すように上下方向(軸方向)から見て、一対の後壁面5ba間に形成される角度が、例えば、160°である。
【0038】
側壁面5bbは、インサート取付座5の左右方向の端部に配置される。本実施形態では、側壁面5bbが、インサート取付座5の右端部に配置され、左側を向く。側壁面5bbは、前方へ向かうに従い左側に向けて延びる。
【0039】
ぬすみ部5c,5dは、壁面5bから窪む凹状である。ぬすみ部5cは、一対の後壁面5ba間に配置される。ぬすみ部5dは、一方の後壁面5baと、側壁面5bbとの間に配置される。
【0040】
〔切削インサート〕
切削インサート2は、例えば、超硬合金製、PCD(多結晶ダイヤモンド)製、cBN(立方晶窒化ホウ素)製、サーメット製、セラミック製等である。切削インサート2は、工具本体4よりも硬度が高い硬質焼結体である。切削インサート2は、サポーター3のポケット33に着脱可能に取り付けられる。切削インサート2は、サポーター3にクランプされることにより、ポケット33に固定される。
【0041】
図2~
図4に示すように、切削インサート2は、上下方向を向く表面21および裏面22と、表面21と裏面22とに接続される外周面23と、少なくとも表面21と外周面23とが接続される稜線部に配置される切刃24と、を有する。
【0042】
表面21は、多角形状であり、本実施形態では、トリゴン型の略六角形状である。表面21は、上側を向く。表面21は、すくい面26を有する。すくい面26は、表面21のうち少なくとも鋭角の角部に配置される。すくい面26は、表面21のうち切刃24と隣接する部分に配置される。すくい面26は、切刃24と接続される。
【0043】
裏面22は、多角形状であり、本実施形態では、トリゴン型の略六角形状である。裏面22は、下側を向く。裏面22は、着座面27を有する。着座面27は、裏面22のうち少なくとも外周部よりもインサート径方向の内側に位置する部分に配置される。本実施形態では着座面27が、裏面22の全域にわたって配置される。着座面27は、インサート中心軸C2と垂直な方向に拡がる平面状である。着座面27は、インサート取付座5の底面5aと接触する。
【0044】
外周面23は、インサート径方向の外側を向き、インサート周方向に延びる。外周面23は、逃げ面28を有する。逃げ面28は、外周面23のうち少なくともインサート軸方向の端部に配置される。逃げ面28は、外周面23のうち切刃24と隣接する部分に配置される。逃げ面28は、切刃24と接続される。
【0045】
外周面23は、インサート周方向に並ぶ複数の拘束面23aを有する。拘束面23aは、平面状であり、本実施形態では外周面23に6つ設けられる。各拘束面23aは、切削インサート2をインサート軸方向から見て、切削インサート2の外周部の6つの辺部に配置される。本実施形態では各拘束面23aが、四角形状である。
【0046】
切刃24は、切削インサート2のうち少なくとも前方端部に配置される。切刃24は、すくい面26と逃げ面28とが接続される稜線部に配置される。切刃24は、前方に向けて突出する凸V字状である。切刃24は、コーナ刃部24aと、直線刃部24bと、を有する。
【0047】
コーナ刃部24aは、前方に向けて膨らむ凸曲線状である。直線刃部24bは、コーナ刃部24aの端部と接続され、直線状に延びる。直線刃部24bの刃長は、コーナ刃部24aの刃長よりも長い。本実施形態では、コーナ刃部24aが延びる刃長方向の両端部に、一対の直線刃部24bが接続される。すなわち直線刃部24bは、切刃24に一対設けられる。本実施形態では、インサート軸方向(上下方向)から見て、一対の直線刃部24b間に形成される角度が、例えば、80°である。
【0048】
本実施形態では切削インサート2が、インサート軸方向つまり板厚方向において、表裏反転対称形状である。また切削インサート2は、インサート中心軸C2を中心とする回転対称形状である。このため切刃24は、切削インサート2に複数(少なくとも4つ以上)設けられる。具体的に、本実施形態の切削インサート2は、インサート中心軸C2を中心とする120°回転対称形状であり、切刃24は、表面21における鋭角の角部に3つと、裏面22における鋭角の角部に3つの計6つ設けられる。
【0049】
切削インサート2がサポーター3に保持された状態で、切削インサート2の前方端部に位置する切刃24は、サポーター3よりも前方に突出して配置される。また切削インサート2の後方端部は、中心軸C1よりも前方に位置する。
【0050】
〔サポーター〕
サポーター3は、例えば鋼材等の金属製である。サポーター3は、切削インサート2よりも硬度が低く、靭性が高く、廉価な材料により構成される。サポーター3は、切削インサート2の外周面23を、左右方向および後方から保持する。
【0051】
サポーター3は、一対の板面3a,3bと、外周面3cと、を有する。一対の板面3a,3bのうち、一方の板面(表面)3aは、上側を向く。一方の板面3aは、中心軸C1と垂直な方向に拡がる平面状である。一対の板面3a,3bのうち、他方の板面(裏面)3bは、下側を向く。他方の板面3bは、中心軸C1と垂直な方向に拡がる平面状である。
【0052】
本実施形態では、切削インサート2の表面21が、上下方向において一方の板面3aと同じ位置、つまりサポーター3の表面3aと面一に配置される。また、切削インサート2の裏面22(着座面27)が、上下方向において他方の板面3bと同じ位置、つまりサポーター3の裏面3bと面一に配置される。切削インサート2の裏面22(着座面27)およびサポーター3の裏面3bは、インサート取付座5の底面5aすなわちシート部材51の上面と接触する。
【0053】
外周面3cは、上下方向の両端部が一対の板面3a,3bと接続される。外周面3cは、径方向外側を向き、周方向に延びる。外周面3cは、右端面3hと、左端面3iと、後端面3eと、を有する。
【0054】
右端面3hは、サポーター3の右端部に位置し、右側(-Y側)を向く。右端面3hは、サポーター3を軸方向から見て、切削インサートのクランプ構造10の外周部の6つの辺部のうち、右側の1つの辺部に配置される。右端面3hは、前方へ向かうに従い左側(+Y側)へ向けて延びる。
【0055】
左端面3iは、サポーター3の左端部に位置し、左側を向く。左端面3iは、サポーター3を軸方向から見て、切削インサートのクランプ構造10の外周部の6つの辺部のうち、左側の1つの辺部に配置される。左端面3iは、前方へ向かうに従い右側へ向けて延びる。
【0056】
後端面3eは、サポーター3の後端部に位置し、後方を向く。後端面3eは、サポーター3を軸方向から見て、切削インサートのクランプ構造10の外周部の6つの辺部のうち後方の2つの辺部と、これら2つの辺部間の鈍角の角部と、にわたって配置される。
【0057】
後端面3eは、左後端面3kと、右後端面3jと、を有する。
左後端面3kは、後端面3eのうち左側部分に配置される。左後端面3kは、左側へ向かうに従い前方に向けて延びる。
右後端面3jは、後端面3eのうち右側部分に配置される。右後端面3jは、右側へ向かうに従い前方に向けて延びる。
【0058】
右後端面3jは、周方向に並ぶ2つの平面部3ja,3jbを有する。
2つの平面部3ja,3jbのうち、左側の平面部3jaは、左後端面3kと周方向に隣り合って配置される。
図3(a)に示すように上下方向から見て、左後端面3kと平面部3jaとの間に形成される角度は、例えば、160°である。
2つの平面部3ja,3jbのうち、右側の平面部3jbは、右端面3hと周方向に隣り合って配置される。
図3(a)に示すように上下方向から見て、左後端面3kと平面部3jbとの間に形成される角度は、例えば、164°である。
【0059】
すなわち、上下方向から見て、左後端面3kと、右側の(一方の)平面部3jbとの間に形成される角度は、左後端面3kと、左側の(他方の)平面部3jaとの間に形成される角度よりも大きい。このため、上下方向から見た上面視で、右側の平面部3jbは、左側の平面部3jaの仮想延長線Lよりも外側(後方)に出っ張る。
また、
図6に示すように上下方向から見て、左後端面3kと右側の平面部3jbとの間に形成される角度は、インサート取付座5の一対の後壁面5ba間に形成される角度よりも大きい。
【0060】
インサート取付座5に切削インサートのクランプ構造10が配置されたときに、
図6に示すように、クランプ部材6によるクランプが行われる前の状態では、インサート取付座5の一対の後壁面5baと、サポーター3の後端面3eとの間には、隙間が設けられる。また本実施形態では、
図6に示すクランプ前の状態において、インサート取付座5の側壁面5bbと、サポーター3の右端面3hとの間には、隙間が設けられていない。この状態において、インサート取付座5の側壁面5bbと、サポーター3の右端面3hとは、互いに平行であり、互いに摺接する。
【0061】
また
図2~
図5に示すように、サポーター3は、貫通孔31と、ポケット33と、スリット34と、弾性部32と、アーム部35と、接続部36と、を有する。
【0062】
貫通孔31は、切削インサートのクランプ構造10の中心軸C1上に配置され、サポーター3を板厚方向(上下方向)に貫通する。貫通孔31は、板厚方向に延びて一対の板面3a,3bに開口する円孔状である。貫通孔31の中心軸は、切削インサートのクランプ構造10の中心軸C1と同軸に配置される。貫通孔31には、貫通孔31の上側から、クランプ部材6の後述するクランプ駒6aの突起部6eが挿入されて、係止される(
図1参照)。すなわち貫通孔31には、クランプ部材6の一部が挿入されて係止される。
【0063】
図5に示すように、ポケット33は、サポーター3の前方端部から後方に窪む凹状である。ポケット33は、サポーター3を板厚方向に貫通する切り欠き状であり、一対の板面3a,3bに開口する。ポケット33は、貫通孔31の前方に位置し、貫通孔31と繋がる。ポケット33には、切削インサート2が配置される。
【0064】
ポケット33は、連通部37と、一対の保持部38,39と、を有する。
連通部37は、左右方向において、ポケット33の中央部に位置する。連通部37は、前後方向において、ポケット33の後端部に位置する。連通部37は、ポケット33の後端部と、貫通孔31の前端部とを連通する。連通部37は、上下方向に延びるスリット状である。
図3(a)に示すように、ポケット33に切削インサート2が装着されたときに、連通部37には、切削インサート2の後端部に位置する鈍角の角部が配置される。
【0065】
一対の保持部38,39は、切削インサート2の外周面23を左右方向の両側から挟持する。また各保持部38,39は、切削インサート2の外周面23を後方から支持する。各保持部38,39は、上下方向から見て、それぞれ凹V字状をなす。
一対の保持部38,39は、連通部37の右側に配置される一方の保持部38と、連通部37の左側に配置される他方の保持部39と、を含む。
【0066】
一方の保持部38は、ポケット33のうち右側部分に配置される。一方の保持部38は、切削インサート2の外周面23に左右方向の右側から接触する横押圧面38aと、外周面23に後方から接触する後押圧面38bと、横押圧面38aと後押圧面38bとの間に配置される凹状の保持ぬすみ部38cと、を有する。
【0067】
横押圧面38aは、左側を向く平面状であり、本実施形態では四角形状をなす。横押圧面38aは、前方へ向かうに従い左側に位置する。横押圧面38aは、切削インサート2の外周面23の6つの拘束面23aのうち、右側を向く拘束面23aに接触する。
【0068】
後押圧面38bは、前方を向く平面状であり、
図5に示すように、本実施形態では四角形状をなす。後押圧面38bは、右側へ向かうに従い前方に位置する。
図3(a)に示すように、後押圧面38bは、切削インサート2の外周面23の6つの拘束面23aのうち、後方を向く拘束面23aに接触する。詳しくは、後押圧面38bは、外周面23の後方を向く2つの拘束面23aのうち、右側の拘束面23aに接触する。
上下方向から見て、横押圧面38aと後押圧面38bとの間に形成される角度は、鋭角であり、本実施形態では、例えば80°である。
【0069】
保持ぬすみ部38cは、凹曲面状であり、上下方向に延びる。保持ぬすみ部38cは、切削インサート2の3つの鋭角の角部のうち、右側後方に向けて突出する1つの鋭角の角部と対向する。
【0070】
他方の保持部39は、ポケット33のうち左側部分に配置される。他方の保持部39は、切削インサート2の外周面23に左右方向の左側から接触する横押圧面39aと、外周面23に後方から接触する後押圧面39bと、横押圧面39aと後押圧面39bとの間に配置される凹状の保持ぬすみ部39cと、を有する。
【0071】
図5に示すように、横押圧面39aは、右側を向く平面状であり、本実施形態では四角形状をなす。横押圧面39aは、前方へ向かうに従い右側に位置する。
図3(a)に示すように、横押圧面39aは、切削インサート2の外周面23の6つの拘束面23aのうち、左側を向く拘束面23aに接触する。
一対の保持部38,39の各横押圧面38a,39aは、後方へ向かうに従い、左右方向において互いに離れる。
【0072】
後押圧面39bは、前方を向く平面状であり、本実施形態では四角形状をなす。後押圧面39bは、左側へ向かうに従い前方に位置する。後押圧面39bは、切削インサート2の外周面23の6つの拘束面23aのうち、後方を向く拘束面23aに接触する。詳しくは、後押圧面39bは、外周面23の後方を向く2つの拘束面23aのうち、左側の拘束面23aに接触する。
上下方向から見て、横押圧面39aと後押圧面39bとの間に形成される角度は、鋭角であり、本実施形態では、例えば80°である。
【0073】
保持ぬすみ部39cは、凹曲面状であり、上下方向に延びる。保持ぬすみ部39cは、切削インサート2の3つの鋭角の角部のうち、左側後方に向けて突出する1つの鋭角の角部と対向する。
【0074】
スリット34は、サポーター3を板厚方向に貫通し、一対の板面3a,3bに開口する。スリット34は、左右方向に延びる。本実施形態ではスリット34が、上下方向(板厚方向)から見て、後方に凸となる湾曲状に延びる。図示の例ではスリット34が、円弧状である。
【0075】
スリット34は、左右方向の両端部のうち一端部(左端部)が、貫通孔31と繋がる。すなわちスリット34は、左右方向の一端部が貫通孔31に開口する。具体的に、スリット34の一端部は、貫通孔31の後端部のうち、中心軸C1よりも左側に位置する部分と接続される。また、スリット34の左右方向の他端部(右端部)は、サポーター3の右端部に配置される。スリット34の他端部は、サポーター3の右端面3hと接近して配置され、右端面3hの左側に位置する。
【0076】
弾性部32は、サポーター3の後端部に位置する。弾性部32は、サポーター3の後端面3eとスリット34との間に配置される。弾性部32は、左右方向に延びる柱状であり、弾性変形可能である。本実施形態では、弾性部32のうち左右方向の両端部よりも中央部において、弾性部32の前後方向の幅寸法が小さくされている。
【0077】
アーム部35は、サポーター3の右側部分に配置される。アーム部35は、前後方向においてスリット34とポケット33との間に配置される。アーム部35は、貫通孔31の右側に位置する。弾性部32が弾性変形するなどにより、アーム部35は、サポーター3のうちアーム部35以外の部分に対して、変位可能である。
本実施形態では、一対の保持部38,39のうち一方の保持部38が、アーム部35の前方端部に位置する。
【0078】
接続部36は、サポーター3の右端部に配置される。接続部36は、スリット34の左右方向の他端部(右端部)に隣接し、弾性部32とアーム部35とを接続する。具体的に、接続部36は、スリット34の他端部の右側に隣接して配置され、弾性部32の右端部と、アーム部35の右側後方の端部とを繋ぐ。上下方向から見て、弾性部32とアーム部35とは、接続部36を中心として相対的に回動可能である。
【0079】
〔クランプ部材〕
図1に示すように、クランプ部材6は、インサート取付座5に、切削インサートのクランプ構造10のうち少なくともサポーター3を固定する。クランプ部材6は、クランプ駒6aと、クランプネジ6bと、を有する。
【0080】
クランプ駒6aは、工具本体4の頂面41のうち第1端部4aに位置する部分の上側に配置される。クランプ駒6aは、略前後方向に延びる。具体的に、本実施形態ではクランプ駒6aが、後方へ向かうに従い右側に向けて延びる。クランプ駒6aの前方端部は、インサート取付座5の上側に位置する。クランプ駒6aは、ネジ挿通孔6cと、スライド面6dと、突起部6eと、を有する。
【0081】
ネジ挿通孔6cは、クランプ駒6aを上下方向に貫通する。ネジ挿通孔6cは、クランプ駒6aのうち前後方向の両端部間に位置する中間部分に配置される。
スライド面6dは、クランプ駒6aの後端部に配置され、下側を向く。スライド面6dは、後方へ向かうに従い下側に位置する傾斜した平面状である。スライド面6dは、工具本体4の傾斜面41aと摺動可能に接触する。
【0082】
突起部6eは、クランプ駒6aの前端部に配置され、クランプ駒6aの下面から下側に突出する。特に図示しないが、突起部6eは、上下方向に延びる柱状である。突起部6eは、サポーター3の貫通孔31に上側から挿入される。突起部6eの外周面のうち後方を向く部分は、貫通孔31の内周面と接触可能である。
【0083】
クランプネジ6bは、ネジ挿通孔6cに上側から挿入され、工具本体4の頂面41に開口するネジ穴に螺着される。クランプネジ6bをネジ穴にねじ込んでいく際、スライド面6dが傾斜面41a上を摺動し、クランプ駒6aは、下側へ移動しつつ後方へ引き込まれる。これにより、突起部6eが貫通孔31の内周面を介して、サポーター3を後方へ引き込む。詳しくは、本実施形態ではクランプ駒6aが、下側へ移動しつつ、右側後方へ向けて引き込まれる。また、クランプ駒6aの前端部の下面のうち、突起部6eの周囲に位置する部分が、サポーター3の上面、すなわちサポーター3の表面3aの一部に上側から接触し、サポーター3を下側へ押さえる。このようにして、切削インサートのクランプ構造10は、クランプ部材6に係止される。
【0084】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態の切削インサートのクランプ構造10および刃先交換式切削工具1では、サポーター3が切削インサート2を保持することにより、例えば超硬合金などの高価な硬質材料からなる切削インサート2の外形を小さく抑えることができる。このため、工具コストを削減できる。
【0085】
本実施形態では、切削インサートのクランプ構造10、すなわち切削インサート2およびサポーター3を、クランプ部材6によってインサート取付座5に取り付けるときに、サポーター3の弾性部32が弾性変形させられ、アーム部35が変位することで、切削インサート2がクランプされる。
詳しくは、クランプ部材6の突起部6eをサポーター3の貫通孔31に係止し、
図6に示すように、このクランプ部材6に後方への引き込み力Pを付与することにより、サポーター3の後端面3eがインサート取付座5の後壁面5baに押し付けられ、弾性部32が前方に撓み変形する。弾性部32が弾性変形させられることでアーム部35が
図6に矢印で示す向きに変位し、これにともない、ポケット33の一対の保持部38,39のうち、アーム部35の前方端部に位置する一方の保持部38が変位させられる。具体的に、アーム部35は、弾性部32によって前方に押し出されつつ接続部36を中心に回動し、アーム部35の一方の保持部38が、切削インサート2の外周面23に密着されつつ切削インサート2を他方の保持部39へ押し付ける。
これにより、一対の保持部38,39によって切削インサート2を左右方向の両側から安定して挟持することができる。このため本実施形態によれば、小型化した切削インサート2を、サポーター3によって安定して保持できる。
【0086】
また、クランプ部材6が係止されるサポーター3の貫通孔31が、切削インサートのクランプ構造10の中心軸C1上に位置しているため、小型化した切削インサート2およびサポーター3を、既存の切削工具に装着することができる。詳しくは、既存の工具本体4のインサート取付座5に、例えばISO規格等に準ずる図示しない既存の切削インサートを搭載する代わりに、本実施形態の小型化した切削インサート2およびサポーター3を搭載して、既存のクランプ部材6によって、この切削インサートのクランプ構造10をクランプすることができる。つまり本実施形態では、既存のクランプ部材6や工具本体4を流用可能である。
【0087】
以上より本実施形態によれば、サイズの小さいコンパクトな切削インサート2をサポーター3によって安定して保持でき、かつ既存の切削工具への装着も可能で汎用性が高められる。
【0088】
また本実施形態では、切削インサート2が、板厚方向において表裏反転対称形状であり、かつ、インサート中心軸C2を中心とする回転対称形状である。
この場合、1つの切削インサート2に少なくとも4つ以上(本実施形態では6つ)の複数の切刃24を設けることができ、切削インサート2の工具寿命を延ばすことができる。
【0089】
また本実施形態では、保持部38,39が、横押圧面38a,39aと、後押圧面38b,39bと、を有する。
この場合、一対の保持部38,39の各横押圧面38a,39aが、切削インサート2を左右方向の両側から挟持し、かつ、一対の保持部38,39の各後押圧面38b,39bが、切削インサート2を後方から支持する。このため、保持部38,39によって切削インサート2がより安定的にクランプされる。
【0090】
また本実施形態では、一対の保持部38,39の各横押圧面38a,39aが、後方へ向かうに従い、左右方向において互いに離れる。
この場合、一対の保持部38,39の各横押圧面38a,39aによって切削インサート2が挟持されたときに、切削インサート2がポケット33から前方に抜け出すことが抑えられる。
【0091】
また本実施形態では、スリット34が、板厚方向から見て湾曲状に延びる。
この場合、湾曲したスリット34によって、例えば、弾性部32を弾性変形させやすくしたり、アーム部35を所望の向きに変位させやすくしたりすることができる。したがって、サポーター3が、切削インサート2をより安定してクランプできる。
【0092】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。なお、変形例の図示においては、前述の実施形態と同じ構成要素には同一の符号を付し、下記では主に異なる点について説明する。
【0093】
前述の実施形態では、切削インサートのクランプ構造10、およびその切削インサート2が、トリゴン型の略六角形板状(略六角形柱状)である一例を挙げたが、これに限らない。切削インサートのクランプ構造10および切削インサート2は、例えば、トリゴン型以外の多角形板状等であってもよい。ただし、切削インサートのクランプ構造10の外形形状は、ISO規格等に準じた形状であることが汎用性を高める点から好ましい。
また切削インサート2は、インサート中心軸C2を中心とする120°以外の角度の回転対称形状でもよい。また切削インサート2が、表裏反転対称形状ではない片面タイプであってもよい。
【0094】
前述の実施形態では、クランプ部材6がクランプ駒6aおよびクランプネジ6bを有する一例を挙げたが、これに限らない。特に図示しないが、クランプ部材は、例えばL字状のクランプレバーを有していてもよい。この場合、クランプレバーは、サポーター3の下側から貫通孔31に挿入されて係止され、サポーター3に後方への引き込み力Pを付与する。
【0095】
図7は、前述の実施形態で説明したインサート取付座5の他の例(変形例)を示す。この例では、
図7に示すクランプ前の状態において、インサート取付座5の側壁面5bbと、サポーター3の右端面3hとの間に、隙間が設けられる。この隙間は、前方へ向かうに従い小さくなる。また、側壁面5bbの前端は、右端面3hと接触する。
この変形例では、クランプ部材6に後方への引き込み力Pを付与することにより、サポーター3の後端面3eがインサート取付座5の後壁面5baに押されて、アーム部35が前方に押し出され、かつ、サポーター3の右端面3hがインサート取付座5の側壁面5bbに押されて、アーム部35が左側にも押し出される。このため、一対の保持部38,39によって切削インサート2を左右方向の両側からより安定的に挟持したり、クランプ力をより高めたりすることができる。
【0096】
図8は、前述の実施形態の第1変形例の切削インサートのクランプ構造60、および刃先交換式切削工具1の一部を示す斜視図である。この第1変形例では、サポーター3が、前述の実施形態とは左右反転した形状である。
この第1変形例においても、前述の実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0097】
図9は、前述の実施形態の第2変形例の切削インサートのクランプ構造70、および刃先交換式切削工具1の一部を示す斜視図である。また
図10は、第2変形例の切削インサートのクランプ構造70を示す斜視図である。この第2変形例では、サポーター3が、左右対称形状である。スリット34、弾性部32、アーム部35および接続部36の組は、サポーター3に一対設けられる。一対の保持部38,39は、一対のアーム部35の各前方端部に位置する。すなわち、一対の保持部38,39の両方が、アーム部35の前方端部に位置する。図示の例では、各スリット34が、貫通孔31の左右方向の端部と接続される。
この第2変形例においても、前述の実施形態と同様の作用効果が得られる。またこの場合、切削インサート2およびサポーター3をクランプ部材6によってインサート取付座5に取り付けるときに、一対の弾性部32が弾性変形し、一対のアーム部35が変位して、切削インサート2を安定して保持できる。
【0098】
また特に図示しないが、例えば、上下方向(Z軸方向)から見て、前後方向(X軸方向)に対するサポーター3の右端面3hの傾斜角を適宜調整するなどにより、下記の作用(機能)が得られるように構成してもよい。すなわち、切削インサート2およびサポーター3を、クランプ部材6によってインサート取付座5に取り付けるときに、サポーター3の右端面3hがインサート取付座5の側壁面5bbに押し付けられることで、アーム部35が弾性変形させられてもよい。つまり、アーム部35が、弾性変形可能であってもよい。
この場合、小型化した切削インサート2をより安定的にクランプできる。
【0099】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態および変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の切削インサートのクランプ構造および刃先交換式切削工具によれば、サイズの小さいコンパクトな切削インサートをサポーターによって安定して保持でき、かつ既存の切削工具への装着も可能で汎用性が高められる。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0101】
1…刃先交換式切削工具
2…切削インサート
3…サポーター
3e…後端面
4…工具本体
5…インサート取付座
6…クランプ部材
10,60,70…切削インサートのクランプ構造
23…外周面
24…切刃
31…貫通孔
32…弾性部
33…ポケット
34…スリット
35…アーム部
36…接続部
38,39…保持部
38a,39a…横押圧面
38b,39b…後押圧面
C1…中心軸
C2…インサート中心軸