(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061446
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】吸音材の設置量の算出方法及び算出装置
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20230425BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
G10K11/16 150
E04B1/82 Z ESW
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171328
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】増田 潔
【テーマコード(参考)】
2E001
5D061
【Fターム(参考)】
2E001DF01
2E001QA02
5D061AA12
5D061AA13
5D061AA22
5D061BB21
5D061CC11
5D061DD06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】建築構造物の施工コストを低減可能な、吸音材の設置量の算出方法及び算出装置を提供する。
【解決手段】音源を有する音源室の内側表面に設ける吸音材の設置量を算出する方法は、音源室に設けられる吸音材の暫定設置量が既に定められており、音源室に隣接する受音室との界壁または界床に直接到達し、界壁又は界床を透過して受音室に到達する直接透過音の音圧レベルである直接透過音音圧レベルを計算しS9、界壁又は界床を透過して受音室に到達する音の音圧レベルの受音室における許容値である受音室許容値と、直接透過音音圧レベルとを基に、音源室内で反射した後に界壁または界床に到達し、界壁または界床を透過して受音室に到達する反射透過音の音圧レベルである反射透過音音圧レベルの上限値を計算しS15、上限値を基に暫定設置量からの吸音材の削減量を計算して、吸音材の最低の設置量を計算するS17。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源を有する音源室の内側表面に設ける吸音材の設置量を算出する方法であって、
前記音源室に設けられる前記吸音材の暫定設置量が既に定められており、
前記音源から発せられて、前記音源室に隣接する受音室との界壁または界床に直接到達し、前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する直接透過音の音圧レベルである、直接透過音音圧レベルを計算し、
前記音源から発せられて前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する音の音圧レベルの、前記受音室における許容値である、受音室許容値と、前記直接透過音音圧レベルと、を基に、前記音源から発せられて前記音源室内で反射した後に前記界壁または前記界床に到達し、前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する反射透過音の音圧レベルである反射透過音音圧レベルの上限値を計算し、
前記上限値を基に、前記暫定設置量からの前記吸音材の削減量を計算して、前記吸音材の、最低の設置量を計算する、吸音材の設置量の算出方法。
【請求項2】
前記上限値L
pTに加え、前記音源室の前記内側表面の面積S
S、前記暫定設置量の前記吸音材が設けられた既設状態における前記音源室の平均吸音率α
S、前記既設状態における前記音源室の室定数R
s、前記吸音材の吸音率α
g、及び、前記既設状態における前記反射透過音の音圧レベルである既設状態反射透過音音圧レベルL
rTを基に、次式
【数1】
により、前記削減量ΔS
gを計算する、請求項1に記載の吸音材の設置量の算出方法。
【請求項3】
前記音源から発せられて前記界壁または前記界床に直接到達する直接音の音圧レベルである直接音音圧レベルを計算し、
前記既設状態において、前記音源から発せられて前記音源室内で反射した後に前記界壁または前記界床に到達する反射音の音圧レベルである、既設状態反射音音圧レベルを計算し、
前記直接音音圧レベルと、前記界壁または前記界床において音が透過する際の音圧レベルの損失である音響透過損失と、の差分を基に、前記直接透過音音圧レベルを計算し、
前記既設状態反射音音圧レベルと、前記音響透過損失と、の差分を基に、前記既設状態反射透過音音圧レベルを計算する、請求項2に記載の吸音材の設置量の算出方法。
【請求項4】
前記吸音材は板状に形成され、
前記吸音材の前記設置量は、設置面積である、請求項1から3のいずれか一項に記載の吸音材の最低設置量の算出方法。
【請求項5】
複数の周波数帯の各々において、前記吸音材の前記最低の設置量を計算して、それぞれを設置量の候補値とし、当該候補値のなかで、最も大きな前記候補値を、前記吸音材の前記最低の設置量とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の吸音材の設置量の算出方法。
【請求項6】
同一の前記音源室に対し、前記受音室が複数設けられ、
複数の前記受音室の各々において、前記吸音材の前記最低の設置量を計算して、それぞれを設置量の候補値とし、当該候補値のなかで、最も大きな前記候補値を、前記吸音材の前記最低の設置量とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の吸音材の設置量の算出方法。
【請求項7】
音源を有する音源室の内側表面に設ける吸音材の設置量を算出する装置であって、
前記音源室に設けられる前記吸音材の暫定設置量が既に定められており、
前記音源から発せられて、前記音源室に隣接する受音室との界壁または界床に直接到達し、前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する直接透過音の音圧レベルである、直接透過音音圧レベルを計算する、直接透過音音圧レベル計算部と、
前記音源から発せられて前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する音の音圧レベルの、前記受音室における許容値である、受音室許容値と、前記直接透過音音圧レベルと、を基に、前記音源から発せられて前記音源室内で反射した後に前記界壁または前記界床に到達し、前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する反射透過音の音圧レベルである反射透過音音圧レベルの上限値を計算する、反射透過音音圧レベル上限値計算部と、
前記上限値を基に、前記暫定設置量からの前記吸音材の削減量を計算して、前記吸音材の、最低の設置量を計算する、吸音材設置量計算部と、
を備えている、吸音材の設置量の算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材の設置量の算出方法及び算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物に関し、例えば、階数が2、3階以上の、戸建てよりも大きな中規模構造物や、それ以上の大きさとなる大規模構造物には、空調機、排風機、ボイラー設備等の機械が設置される、機械室が設けられることがある。機械室に設置された機械は騒音を発するため、機械室に隣接して、静音性が求められるオフィスや会議室等が設けられる場合には、例えば建築構造物の設計時等に、機械室からの騒音が隣接するオフィスや会議室等に与える影響を、評価するのが望ましい。
例えば、非特許文献1には、騒音源と受音点が共に室内にあり、これらが間仕切りにより仕切られた場合の、音圧レベルの評価式が開示されている。また、非特許文献2には、室外に騒音源があって、壁や床等を通過して室に音が入ってくる場合の、音圧レベルの評価式が開示されている。これらのような評価式を用いて、機械室からの騒音の、隣接するオフィスや会議室等への影響を、評価することができる。
【0003】
ところで、上記のような機械室には、中に設けられる機械が発する騒音の、隣接するオフィスや会議室等への影響を低減するために、グラスウール等の吸音材が、壁などの表面に貼られて設けられる。このような吸音材は、慣習的に、機械室の壁や天井の全面に配されることが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本建築学会「実務的騒音対策指針(第二版)」、1994年4月、p.30-31
【非特許文献2】日本音響材料協会「騒音・振動対策ハンドブック」、1982年、p.267
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静音性が求められるオフィスや会議室等の室においては、どの程度の騒音が許されるかの、騒音の許容値が設定され得る。当該許容値は、例えば、NC値によって表現される。
もし、機械室に隣接する室における騒音が上記の許容値を大きく下回るように、吸音材が過剰に設けられるようであれば、それは、本来必要とされる量よりも多くの吸音材が機械室に設けられている状態である。この過剰に設けられた吸音材を削減することにより、施工コストが低減される余地がある。
しかし、吸音材を削減しすぎてしまうと、隣接する室における騒音が許容値を上回り、許容される以上の騒音が、隣接する室に到達してしまう。
吸音材の適切な設置量を計算して、建築構造物の施工コストを低減することが求められている。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、吸音材の適切な設置量を計算することにより、建築構造物の施工コストを低減可能な、吸音材の設置量の算出方法及び算出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、音源を有する音源室の内側表面に設ける吸音材の設置量を算出する方法であって、前記音源室に設けられる前記吸音材の暫定設置量が既に定められており、前記音源から発せられて、前記音源室に隣接する受音室との界壁または界床に直接到達し、前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する直接透過音の音圧レベルである、直接透過音音圧レベルを計算し、前記音源から発せられて前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する音の音圧レベルの、前記受音室における許容値である、受音室許容値と、前記直接透過音音圧レベルと、を基に、前記音源から発せられて前記音源室内で反射した後に前記界壁または前記界床に到達し、前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する反射透過音の音圧レベルである反射透過音音圧レベルの上限値を計算し、前記上限値を基に、前記暫定設置量からの前記吸音材の削減量を計算して、前記吸音材の、最低の設置量を計算する、吸音材の設置量の算出方法を提供する。
音源室から、音源室に隣接する受音室に到達する音は、音源室内の音源から発せられて、音源室に隣接する受音室との界壁または界床に直接到達し、界壁または界床を透過して受音室に到達する直接透過音と、音源から発せられて音源室内で反射した後に界壁または界床に到達し、界壁または界床を透過して受音室に到達する反射透過音とに、分類され得る。ここで、音源室に設けられる吸音材の量は、音源室内での音の反射に影響する。したがって、基本的に、直接透過音の音圧レベルである直接透過音音圧レベルは、吸音材の量に依存せず、反射透過音の音圧レベルである反射透過音音圧レベルが、吸音材の量に依存して変動する。
上記のような構成によれば、このような考察に基づき、音源から発せられて界壁または界床を透過して受音室に到達する音の音圧レベルの、受音室における許容値である、受音室許容値を設定し、受音室許容値と、直接透過音音圧レベルを基に、反射透過音音圧レベルの上限値を計算する。上記のように、直接透過音音圧レベルは、吸音材の量に依存しないため、音源室における音源の位置等から一意に評価可能である。したがって、反射透過音音圧レベルの上限値も、一意に計算することができる。
このように計算された上限値を基に計算される、吸音材の設置量は、これ以上吸音材を削減して反射透過音音圧レベルが上昇すると、受音室に到達する直接透過音と反射透過音の音圧レベルが受音室許容値を越えてしまうような、最低の設置量となる。すなわち、当該最低の設置量の分だけの吸音材を音源室に設けることで、受音室に到達する音の音圧レベルを受音室許容値内に抑えることができる。
ここで、吸音材の、最低の設置量を計算するに際し、吸音材を音源室の内側表面に暫定的に設けた場合の設置量を暫定設置量とし、暫定設置量からの吸音材の削減量を計算する。この、吸音材の削減量の分だけ、暫定設置量から削減された、残りの分量は、吸音材の最低の設置量に相当する。このようにして、吸音材の、暫定設置量からの削減量を計算することで、吸音材の、最低の設置量を計算することができる。
上記のように吸音材の最低の設置量を計算することができるため、吸音材を過剰に設ける必要がなくなる。また、特に天井等の高所に吸音材を設ける場合においては、足場を組む必要が生じ得るが、例えば高所の吸音材を優先的に低減すれば、足場を組む必要性も低減する。したがって、施工コストを低減することができる。
このようにして、吸音材の適切な設置量を計算することにより、建築構造物の施工コストを低減することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、前記上限値L
pTに加え、前記音源室の前記内側表面の面積S
S、前記暫定設置量の前記吸音材が設けられた既設状態における前記音源室の平均吸音率α
S、前記既設状態における前記音源室の室定数R
s、前記吸音材の吸音率α
g、及び、前記既設状態における前記反射透過音の音圧レベルである既設状態反射透過音音圧レベルL
rTを基に、次式
【数1】
により、前記削減量ΔS
gを計算する。
上記のような構成によれば、吸音材の削減量を、適切に計算することができる。
【0009】
本発明の別の態様においては、前記音源から発せられて前記界壁または前記界床に直接到達する直接音の音圧レベルである直接音音圧レベルを計算し、前記既設状態において、前記音源から発せられて前記音源室内で反射した後に前記界壁または前記界床に到達する反射音の音圧レベルである、既設状態反射音音圧レベルを計算し、前記直接音音圧レベルと、前記界壁または前記界床において音が透過する際の音圧レベルの損失である音響透過損失と、の差分を基に、前記直接透過音音圧レベルを計算し、前記既設状態反射音音圧レベルと、前記音響透過損失と、の差分を基に、前記既設状態反射透過音音圧レベルを計算する。
上記のような構成によれば、音源から発せられて界壁または界床に直接到達する直接音は、界壁または界床を透過する際に、音響透過損失分だけ音圧レベルが低減する。このため、直接音の音圧レベルである直接音音圧レベルと、音響透過損失と、の差分を基に、直接透過音音圧レベルを適切に計算することができる。
また、暫定設置量の吸音材が設けられた既設状態において、音源から発せられて音源室内で反射した後に界壁または界床に到達する反射音は、界壁または界床を透過する際に、音響透過損失分だけ音圧レベルが低減する。このため、既設状態における反射音の音圧レベルである、既設状態反射音音圧レベルと、音響透過損失と、の差分を基に、既設状態反射透過音音圧レベルを適切に計算することができる。
【0010】
本発明の別の態様においては、前記吸音材は板状に形成され、前記吸音材の前記設置量は、設置面積である。
上記のような構成によれば、吸音材は、板状に、すなわち厚さが一定となるように形成されているため、設置面積を計算することで、設置量を計算することができる。
【0011】
本発明の別の態様においては、複数の周波数帯の各々において、前記吸音材の前記最低の設置量を計算して、それぞれを設置量の候補値とし、当該候補値のなかで、最も大きな前記候補値を、前記吸音材の前記最低の設置量とする。
上記のような構成によれば、計算対象としたどの周波数帯においても、受音室に到達する音の音圧レベルを受音室許容値内に抑えることができる。
【0012】
本発明の別の態様においては、同一の前記音源室に対し、前記受音室が複数設けられ、複数の前記受音室の各々において、前記吸音材の前記最低の設置量を計算して、それぞれを設置量の候補値とし、当該候補値のなかで、最も大きな前記候補値を、前記吸音材の前記最低の設置量とする。
上記のような構成によれば、音源室に隣接するどの受音室においても、受音室に到達する音の音圧レベルを受音室許容値内に抑えることができる。
【0013】
また、本発明は、音源を有する音源室の内側表面に設ける吸音材の設置量を算出する装置であって、前記音源室に設けられる前記吸音材の暫定設置量が既に定められており、前記音源から発せられて、前記音源室に隣接する受音室との界壁または界床に直接到達し、前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する直接透過音の音圧レベルである、直接透過音音圧レベルを計算する、直接透過音音圧レベル計算部と、前記音源から発せられて前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する音の音圧レベルの、前記受音室における許容値である、受音室許容値と、前記直接透過音音圧レベルと、を基に、前記音源から発せられて前記音源室内で反射した後に前記界壁または前記界床に到達し、前記界壁または前記界床を透過して前記受音室に到達する反射透過音の音圧レベルである反射透過音音圧レベルの上限値を計算する、反射透過音音圧レベル上限値計算部と、前記上限値を基に、前記暫定設置量からの前記吸音材の削減量を計算して、前記吸音材の、最低の設置量を計算する、吸音材設置量計算部と、を備えている、吸音材の設置量の算出装置を提供する。
上記のような構成によれば、吸音材の適切な設置量を計算し、建築構造物の施工コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸音材の適切な設置量を計算することにより、建築構造物の施工コストを低減可能な、吸音材の設置量の算出方法及び算出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態における吸音材の設置量の算出方法及び算出装置において、吸音材の設置対象となる音源室と、隣接する受音室を備えた建築構造物の一例の断面図である。
【
図2】上記吸音材の設置量の算出装置のブロック図である。
【
図3】上記吸音材の設置量の算出方法のフローチャートである。
【
図4】適切な吸音材を設置した後の、音源室と受音室の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態における吸音材の設置量の算出方法及び算出装置において、吸音材の設置対象となる音源室と、隣接する受音室を備えた建築構造物の一例の断面図である。
建築構造物1は、本実施形態においては、階数が2、3階以上の、戸建てよりも大きな中規模構造物である。建築構造物1は、より規模が大きな、大規模構造物であってもよい。
建築構造物1には、空調機、排風機、ボイラー設備等の機械が設置される、機械室が設けられている。機械室に設置された機械は騒音を発する。このため、機械室に隣接して、静音性が求められるオフィスや会議室等が設けられる場合には、例えば建築構造物1の設計時等に、機械室からの騒音が隣接するオフィスや会議室等に与える影響を、評価するのが望ましい。
本実施形態における吸音材の設置量の算出方法及び算出装置は、例えば上記のような機械室に吸音材を設けて、機械室から隣接する室への影響を低減するに際し、吸音材の設置量を算出する。
【0017】
建築構造物1は、音源室2と受音室3を備えている。音源室2は、上記における機械室が相当し、音源室2内に設けられた各機械が、騒音を発する音源6となる。受音室3は、上記におけるオフィスや会議室等の、音源室2に隣接する室である。
受音室3は、音源室2に隣接するのであれば、音源室2の上下、横の、いずれの側に設けられてもよい。例えば、
図1における受音室3Aのように、受音室3Aが音源室2のひとつ上の階に、平面視したときに音源室2と受音室3Aがオーバーラップするように設けられて、音源室2の天井を界床4として、音源室2と受音室3Aが仕切られていてもよい。あるいは、
図1における受音室3Bのように、受音室3Bが音源室2と同一の階に、音源室2の隣に設けられて、音源室2の壁を界壁5として、音源室2と受音室3Bが仕切られていてもよい。更には、受音室3が音源室2のひとつ下の階に、平面視したときに音源室2と受音室3がオーバーラップするように設けられて、音源室2の床を界床4として、音源室2と受音室3が仕切られていてもよい。
本実施形態においては、
図1において音源室2の上に設けられた受音室3Aを例として、以下受音室3と記載し、音源室2と受音室3を、音源室2の天井である界床4が仕切るものとして説明する。以下の説明と同様な説明が、受音室3が音源室2の横に設けられて界壁5でこれらが仕切られた場合においても、例えば界床4を適宜、界壁5と読み替えることにより、可能である。または、受音室3が音源室2の下に設けられて、音源室2の床である界床4でこれらが仕切られた場合においても、同様な説明が可能である。
【0018】
音源室2の内側表面には、音源室2に設けられた音源6が発する音の、受音室3への影響を低減するために、吸音材7が設けられている。吸音材7は、不燃材料で、かつ安価なものが、一般には用いられる。本実施形態においては、吸音材7はグラスウール、またはロックウールである。吸音材7は、他の材料で構成されていても構わない。
特に、本実施形態においては、吸音材7は、例えば50mm程度の厚さに、厚さが一定となるように、板状に形成されている。吸音材7は、ガラスクロス等の包装材に包まれている。
このように、吸音材7は一定の厚さに形成されているため、特に本実施形態の吸音材の設置量の算出方法及び算出装置においては、吸音材7の設置面積を計算することにより、吸音材7の設置量を計算する。すなわち、本実施形態における吸音材7の設置量は、設置面積と同義である。
【0019】
図2は、吸音材の設置量の算出装置10のブロック図である。吸音材の設置量の算出装置10は、入力部11、データベース12、直接音音圧レベル計算部13、既設状態反射音音圧レベル計算部14、直接透過音音圧レベル計算部15、既設状態反射透過音音圧レベル計算部16、反射透過音音圧レベル上限値計算部17、吸音材設置量計算部18、及び出力部19を備えている。
吸音材の設置量の算出装置10は、コンピュータ装置からなるもので、予め設定されたコンピュータプログラムに基づいた処理を実行することで、吸音材7の適切な設置量を計算する。
【0020】
例えば建築構造物1の設計時等においては、例えば
図1に示されるように、吸音材7は、慣習的に、音源室2の、壁や天井の全面に配される。多くの場合において、これは、実際に吸音材7が必要とされる量よりも、過剰に多く、設けられた状態である。
本実施形態においては、音源室2に設けられる吸音材7の暫定的な設置量である暫定設置量が、
図1に示されるように、吸音材7が過剰に設けられた状態として、事前に定められている。この状態を、吸音材7が既に設置された既設状態としたときに、吸音材の設置量の算出装置10は、既設状態からの、吸音材7の削減量を計算して、吸音材7の、最低の設置量を計算し、これを吸音材7の適切な設置量とする。
【0021】
入力部11は、例えばキーボードやマウス等であり、後に説明するような、吸音材の設置量の算出装置10の内部において様々な計算に使用するパラメータの入力を受け付ける。
データベース12は、例えばメモリやハードディスク等の記憶媒体である。データベース12には、入力部11によって入力されたパラメータや、直接音音圧レベル計算部13、既設状態反射音音圧レベル計算部14、直接透過音音圧レベル計算部15、既設状態反射透過音音圧レベル計算部16、反射透過音音圧レベル上限値計算部17、及び吸音材設置量計算部18の各々における計算結果が、適宜保存される。
【0022】
直接音音圧レベル計算部13は、音源6から発せられて界床4に直接到達する直接音の音圧レベルである直接音音圧レベルを計算する。
既設状態反射音音圧レベル計算部14は、既設状態において、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界床4に到達する反射音の音圧レベルである、既設状態反射音音圧レベルを計算する。
直接透過音音圧レベル計算部15は、直接音音圧レベルと、界床4において音が透過する際の音圧レベルの損失である音響透過損失と、の差分を基に、音源6から発せられて、受音室3との界床4に直接到達し、界床4を透過して受音室3に到達する直接透過音の音圧レベルである、直接透過音音圧レベルを計算する。
既設状態反射透過音音圧レベル計算部16は、既設状態反射音音圧レベルと、音響透過損失と、の差分を基に、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界床4に到達し、界床4を透過して受音室3に到達する反射透過音の、既設状態における音圧レベルである、既設状態反射透過音音圧レベルを計算する。
反射透過音音圧レベル上限値計算部17は、音源6から発せられて界床4を透過して受音室3に到達する音の音圧レベルの、受音室3における許容値である、受音室許容値と、直接透過音音圧レベルと、を基に、反射透過音の音圧レベルである反射透過音音圧レベルの、上限値を計算する。
吸音材設置量計算部18は、上限値を基に、暫定設置量からの吸音材7の削減量を計算して、吸音材7の、最低の設置量を計算する。
【0023】
出力部19は、例えばディスプレイやプリンタ等であり、吸音材設置量計算部18における計算結果を、外部に出力、表示する。
【0024】
次に、吸音材の設置量の算出装置10における、吸音材の設置量の算出方法について説明する。
図3は、吸音材の設置量の算出方法の流れを示すフローチャートである。
処理が開始されると(ステップS1)、まず、入力部11が、吸音材の設置量の算出装置10の内部において様々な計算に使用するパラメータの入力を受け付ける(ステップS3)。パラメータは、音源室2と受音室3に関するパラメータ、吸音材7に関するパラメータ、音源室2と受音室3を区画する界床4に関するパラメータ、及び音源室2に設けられる音源6に関するパラメータを含む。
【0025】
音源室2と受音室3に関するパラメータは、音源室2の内側表面の面積Ss、受音室3の内側表面の面積Sr、受音室3の平均吸音率αrを含む。
音源室2と受音室3に関するパラメータは、受音室許容値Lpを、更に含む。受音室許容値Lpは、音源室2の音源6から発せられて界床4を透過して受音室3に到達する音の音圧レベルの、受音室3における許容値、すなわち最大値である。オフィスや会議室等においては、どの程度の騒音が許されるかの、騒音の許容値が設定され得る。当該許容値は、例えば、NC値によって表現される。例えば、データベース12内に、受音室3の使用目的(例えば、オフィス、会議室等)と、当該目的において必要とされるNC値、またはdB(デシベル)値等を紐づけておき、受音室3の使用目的を選択すると、自動的にそれがNC値やdB値に変換されて、これが受音室許容値Lpとして使用されるように、吸音材の設置量の算出装置10を実現するのが望ましい。
【0026】
吸音材7に関するパラメータは、吸音材7の吸音率αgを含む。例えば、データベース12内に、吸音材7の種類と、当該吸音材7の吸音率αgを紐づけておき、吸音材7の種類を選択すると、自動的に吸音材7の吸音率αgが設定されるように、吸音材の設置量の算出装置10を実現するのが望ましい。
【0027】
音源室2と受音室3を区画する界床4に関するパラメータは、界床4において音が透過する際の音圧レベルの損失である音響透過損失TLと、透過面の面積Fを含む。
音響透過損失TLは、界床4の表面に音源室2側から入射する入射音が、界床4を透過して、受音室3側の表面から出射する間における、エネルギーの低減量である。音響透過損失TLは、例えば
図1に示されるように、既設状態において界床4に吸音材7が設けられている状態においても、吸音材7を考慮せず、建築構造物1のスラブ等として構築された界床4部分の構造のみに依存して決定される。音響透過損失TLは、コンクリートなどの界床4を構成する材料や、界床4の厚さに依存して、一定の値となる。したがって、例えばデータベース12内に、界床4の材料、厚さを含む構造と、当該構造における音響透過損失TLの値とを紐づけておき、界床4の構造を選択すると、自動的に当該構造に対応する音響透過損失TLが設定されるように、吸音材の設置量の算出装置10を実現するのが望ましい。
透過面の面積Fは、受音室3が音源室2のひとつ上または下の階に設けられた際には、平面視したときの音源室2と受音室3がオーバーラップした部分の面積である。例えば、
図1における受音室3Aのように、受音室3が平面視したときに音源室2に含まれるような場合においては、受音室3の床の面積が透過面の面積Fとなる。また、受音室3Aの紙面左側に隣接する受音室3Cのように、音源室2と受音室3が平面視したときに、一方が他方に含まれないような場合においては、平面視したときの、音源室2と受音室3の重複した部分(
図1における面積F3)が、透過面の面積Fとなる。あるいは、音源室2の横に位置する受音室3Bの場合には、これらを区画する界壁5の面積が透過面の面積Fとなる。
【0028】
音源室2に設けられる音源6に関するパラメータは、音源6の個数Nと、各音源6の界床4までの距離r
i(i=1~N)、各音源6のパワーレベルPWL
i(i=1~N)を含む。
音源6が発する音は、最短距離で界床4へと到達し、界床4を揺らすことで、受音室3へと到達する。このため、各音源6の界床4までの距離r
iは、本実施形態においては、例えば
図1において距離r
1、r
2として示されるように、音源6から界床4までの直線距離である。距離r
iは、音源6となる機械を構成する筐体の、界床4側の表面から、界床4までの直線距離であってもよいし、機械の重心であると考えられる位置から、界床4までの直線距離であってもよい。あるいは、機械の中で特に騒音源となり得る部位が特定されているのであれば、当該部位から界床4までの直線距離であってもよい。
入力部11は、入力された上記のパラメータを、データベース12に保存する。
本実施形態の吸音材の設置量の算出装置10及び算出方法は、上記のようなパラメータを基に、後に詳説するように、吸音材7の適切な設置量を計算する。
【0029】
音源6から発せられて界床4に到達する音は、界床4に直接到達する直接音と、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界床4に到達する反射音に分類できる。
既に説明したように、本実施形態の吸音材の設置量の算出装置10は、音源室2に設けられる吸音材7の暫定的な設置量である暫定設置量が既設状態として事前に定められており、既設状態からの、吸音材7の削減量を計算して、吸音材7の、最低の設置量を計算し、これを吸音材7の適切な設置量とする。このため、吸音材の設置量の算出装置10は、まずはこの既設状態における、直接音の音圧レベルと、反射音の音圧レベルを計算する。
ここで、音源室2に設けられる吸音材7の量は、音源室2内での音の反射に影響する。したがって、基本的に、直接音の音圧レベルは、吸音材7の量に依存せず、反射音の音圧レベルが、吸音材7の量に依存して変動する。したがって、吸音材の設置量の算出装置10は、直接音の音圧レベルを、吸音材7の量に依存しないものとして計算するとともに、反射音の音圧レベルを、吸音材7の量に依存するものとして計算する。
【0030】
具体的には、吸音材の設置量の算出装置10においては、ステップS3においてパラメータが入力されると、まず、直接音音圧レベル計算部13が、音源6から発せられて界床4に直接到達する直接音の音圧レベルである直接音音圧レベルを計算する(ステップS5)。
直接音音圧レベル計算部13は、具体的には、次式(1)により、直接音音圧レベルL
dを計算する。
【数2】
【0031】
次に、既設状態反射音音圧レベル計算部14が、既設状態において、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界床4に到達する反射音の音圧レベルである、既設状態反射音音圧レベルを計算する(ステップS7)。
既設状態反射音音圧レベル計算部14は、具体的には、次式(2)により、既設状態反射音音圧レベルL
rを計算する。
【数3】
上式(2)のR
sは、音源室2の室定数であり、次式(3)により計算される。
【数4】
上式(3)のα
sは、既設状態における音源室2の平均吸音率である。音源室2の平均吸音率α
sは、使用される吸音材7の材料に依存した吸音率α
gと、既設状態における当該吸音材7の設置面積等を基に計算される。
このように、既設状態反射音音圧レベルL
rは、吸音材7の量に依存した値として計算される。
【0032】
次に、直接透過音音圧レベル計算部15が、音源6から発せられて界床4に直接到達し、界床4を透過して受音室3に到達する直接透過音の音圧レベルである、直接透過音音圧レベルを計算する(ステップS9)。
音源6から発せられて界床4に直接到達する直接音は、界床4に到達した後、界床4を透過して、受音室3側の表面から出射するが、この間に音圧レベルが低減する。これを考慮し、直接透過音音圧レベル計算部15は、次式(4)のように、直接音音圧レベルL
dと、音響透過損失TLと、の差分(L
d-TL)を基に、直接透過音音圧レベルL
dTを計算する。
【数5】
上式(3)のR
rは、受音室3の室定数であり、次式(5)により計算される。
【数6】
【0033】
次に、既設状態反射透過音音圧レベル計算部16が、既設状態において、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界床4に到達し、界床4を透過して受音室3に到達する反射透過音の音圧レベルである、既設状態反射透過音音圧レベルを計算する(ステップS11)。
既設状態において、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界床4に到達する反射音は、界床4に到達した後、界床4を透過して、受音室3側の表面から出射するが、この間に音圧レベルが低減する。これを考慮し、既設状態反射透過音音圧レベル計算部16は、次式(6)のように、既設状態反射音音圧レベルL
rと、音響透過損失TLと、の差分(L
r-TL)を基に、既設状態反射透過音音圧レベルL
rTを計算する。
【数7】
【0034】
既に説明したように、音源6から発せられて界床4に到達する音は、界床4に直接到達する直接音と、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界床4に到達する反射音に分類できる。したがって、音源6から発せられて受音室3に到達する音も、同様に、上記のような直接透過音と反射透過音に分類され得る。すなわち、受音室3における、音源室2から到達する音の音圧レベルは、直接透過音と反射透過音の各々の、音圧レベルのエネルギー和として表現することができる。ここで、このエネルギー和は、音源室2の音源6から発せられて界床4を透過して受音室3に到達する音の音圧レベルの、受音室3における許容値である、受音室許容値L
p以下の値となっている必要がある。
ここで、既設状態においては、吸音材7は、例えば音源室2の壁や天井の全面に配されるように、過剰に設けられているため、既設状態における、反射透過音の音圧レベルである既設状態反射透過音音圧レベルL
rTは、基本的には、必要以上に小さな値となっている。このため、直接透過音の音圧レベルである直接透過音音圧レベルL
dTと、既設状態反射透過音音圧レベルL
rTとのエネルギー和は、受音室許容値L
p以下の値となっているはずである。
次のステップS13において、吸音材の設置量の算出装置10は、このような状態となっていることを確認する。より詳細には、吸音材の設置量の算出装置10は、既設状態において、直接透過音音圧レベルL
dTと既設状態反射透過音音圧レベルL
rTとのエネルギー和が受音室許容値L
p以下の値となっているか否かを、次式(7)により判定する。
【数8】
【0035】
直接透過音音圧レベルLdTと既設状態反射透過音音圧レベルLrTとのエネルギー和が受音室許容値Lpよりも大きな値となり、音源室2から受音室3に到達する音の音圧レベルが受音室許容値Lpを越えている場合には(ステップS13のNo)、ステップS3に遷移し、界床4のより遮音性能が高い構造への変更、吸音材7の材質や厚さの変更等の設計変更を行い、再度、ステップS5~S11を繰り返す。
【0036】
直接透過音音圧レベルL
dTと既設状態反射透過音音圧レベルL
rTとのエネルギー和が受音室許容値L
p以下の値となっている場合には(ステップS13のYes)、既設状態からの吸音材7の削減を検討する。
吸音材7を削減すると、直接透過音の音圧レベルは変わらず、反射透過音の音圧レベルのみが上昇する。音源室2から受音室3に到達する音に関しては、上記のように、受音室許容値L
pとして上限値が定められている。本実施形態においては、直接透過音の音圧レベルを固定値として考えたときに、反射透過音の音圧レベルがどれだけ大きくなることが許容されるか、その上限値を計算し、上限値に等しくなる程度まで、吸音材7を削減する。
具体的には、反射透過音音圧レベル上限値計算部17は、受音室許容値L
pと、直接透過音音圧レベルL
dTと、を基に、反射透過音の音圧レベルである反射透過音音圧レベルの上限値L
pTを、次式(8)により計算する(ステップS15)。
【数9】
上式(8)のように、反射透過音音圧レベルの上限値L
pTは、受音室許容値L
pから、直接透過音音圧レベルL
dTを、エネルギー加算により減算することにより、計算される。
【0037】
反射透過音音圧レベルの上限値L
pTは、換言すれば、音源室2の吸音材7を、音源室2から受音室3に到達する音の音圧レベルが、上限値である受音室許容値L
pを満たす程度の大きさとなるように、最大限に削減した場合の、反射透過音音圧レベルである。したがって、反射透過音音圧レベルの上限値L
pTは、式(6)と同様に、次式(9)として表すことができる。
【数10】
上式におけるL´
rは、音源室2の吸音材7を、音源室2から受音室3に到達する音の音圧レベルが、上限値である受音室許容値L
pを満たす程度の大きさとなるように、最大限に削減した場合の、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界床4に到達する反射音の音圧レベルであり、次式(10)により表すことができる。
【数11】
上式におけるR
pは、吸音材7を削減した後の、音源室2の室定数であり、次式(11)により表すことができる。
【数12】
上式(11)におけるα
pは、吸音材7を削減した後の、音源室2の平均吸音率であり、吸音材7の削減量ΔS
gと、吸音材7の吸音率α
gを用いて、次式(12)により表すことができる。
【数13】
【0038】
式(11)を変形すると、次式(13)が得られる。
【数14】
式(13)を式(12)に代入し、変形すると、次式(14)が得られる。
【数15】
【0039】
ここで、式(9)から式(6)を減算し、式(2)、式(10)を適用すると、次式(15)が得られる。
【数16】
次式(16)に示すように、変数Bを定義する。
【数17】
式(16)を用いて式(15)を変形すると、次式(17)が得られる。
【数18】
式(17)を式(14)に代入し、変形すると、次式(18)が得られる。
【数19】
【0040】
式(16)として示したように、式(18)中のBの値は、反射透過音音圧レベルの上限値LpTと、既設状態反射透過音音圧レベルLrTにより計算される。
すなわち、吸音材7の削減量ΔSgは、反射透過音音圧レベルの上限値LpTに加え、音源室2の内側表面の面積Ss、暫定設置量の吸音材7が設けられた既設状態における音源室2の平均吸音率αs、既設状態における音源室2の室定数Rs、吸音材7の吸音率αg、及び、既設状態反射透過音音圧レベルLrTを基に、計算される。
【0041】
このようにして、吸音材設置量計算部18は、反射透過音音圧レベルの上限値LpTを基に、吸音材7の削減量ΔSgを計算する。
吸音材設置量計算部18は、既設状態における吸音材7の暫定設置量から吸音材7の削減量ΔSgを計算して、吸音材7の、最低の設置量を計算する。
【0042】
吸音材の設置量の算出装置10は、吸音材設置量計算部18によって計算された、吸音材7の最低の設置量を、出力部19に出力する。
図4は、適切な吸音材7を設置した後の、音源室2と受音室3の断面図である。
図4においては、
図1に示された既設状態から、符号8を用いて破線で示された部分の吸音材7が削減されている。
【0043】
次に、上記の吸音材の設置量の算出方法及び算出装置の効果について説明する。
【0044】
本実施形態における、吸音材7の設置量の算出方法は、音源6を有する音源室2の内側表面に設ける吸音材7の設置量を算出する方法であって、音源室2に設けられる吸音材7の暫定設置量が既に定められており、音源6から発せられて、音源室2に隣接する受音室3との界壁5または界床4に直接到達し、界壁5または界床4を透過して受音室3に到達する直接透過音の音圧レベルである、直接透過音音圧レベルLdTを計算し、音源6から発せられて界壁5または界床4を透過して受音室3に到達する音の音圧レベルの、受音室3における許容値である、受音室許容値Lpと、直接透過音音圧レベルLdTと、を基に、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界壁5または界床4に到達し、界壁5または界床4を透過して受音室3に到達する反射透過音の音圧レベルである反射透過音音圧レベルの上限値LpTを計算し、上限値LpTを基に、暫定設置量からの吸音材7の削減量ΔSgを計算して、吸音材7の、最低の設置量を計算する。
音源室2から、音源室2に隣接する受音室3に到達する音は、音源6から発せられて、音源室2に隣接する受音室3との界壁5または界床4に直接到達し、界壁5または界床4を透過して受音室3に到達する直接透過音と、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界壁5または界床4に到達し、界壁5または界床4を透過して受音室3に到達する反射透過音とに、分類され得る。ここで、音源室2に設けられる吸音材7の量は、音源室2内での音の反射に影響する。したがって、基本的に、直接透過音の音圧レベルである直接透過音音圧レベルLdTは、吸音材7の量に依存せず、反射透過音の音圧レベルである反射透過音音圧レベルが、吸音材7の量に依存して変動する。
上記のような構成によれば、このような考察に基づき、音源6から発せられて界壁5または界床4を透過して受音室3に到達する音の音圧レベルの、受音室3における許容値である、受音室許容値Lpを設定し、受音室許容値Lpと、直接透過音音圧レベルLdTを基に、反射透過音音圧レベルの上限値LpTを計算する。上記のように、直接透過音音圧レベルLdTは、吸音材7の量に依存しないため、音源室2における音源6の位置等から一意に評価可能である。したがって、反射透過音音圧レベルの上限値LpTも、一意に計算することができる。
このように計算された上限値LpTを基に計算される、吸音材7の設置量は、これ以上吸音材7を削減して反射透過音音圧レベルが上昇すると、受音室3に到達する直接透過音と反射透過音の音圧レベルが受音室許容値Lpを越えてしまうような、最低の設置量となる。すなわち、当該最低の設置量の分だけの吸音材7を音源室2に設けることで、受音室3に到達する音の音圧レベルを受音室許容値Lp内に抑えることができる。
ここで、吸音材7の、最低の設置量を計算するに際し、吸音材7を音源室2の内側表面に暫定的に設けた場合の設置量を暫定設置量とし、暫定設置量からの吸音材7の削減量ΔSgを計算する。この、吸音材7の削減量ΔSgの分だけ、暫定設置量から削減された、残りの分量は、吸音材7の最低の設置量に相当する。このようにして、吸音材7の、暫定設置量からの削減量ΔSgを計算することで、吸音材7の、最低の設置量を計算することができる。
上記のように吸音材7の最低の設置量を計算することができるため、吸音材7を過剰に設ける必要がなくなる。また、特に天井等の高所に吸音材7を設ける場合においては、足場を組む必要が生じ得るが、例えば高所の吸音材7を優先的に低減すれば、足場を組む必要性も低減する。したがって、施工コストを低減することができる。
このようにして、吸音材7の適切な設置量を計算することにより、建築構造物1の施工コストを低減することができる。
【0045】
例えば、式(7)をぎりぎり満たすようになるまで、吸音材7の量を適宜変更し、計算を繰り返すことで、吸音材7の設置量を計算することも、理論的には考えられる。
しかし、当該手法によっては、反射透過音音圧レベルの上限値LpTに対応するような、吸音材7の適切な設置量が計算されないため、当該適切な設置量よりも基本的には多く、吸音材7を配することになる。したがって、吸音材7の設置量が過剰なものとなる場合がある。
また、当該手法は試行錯誤的に処理を繰り返すものとなるため、時間がかかる。
これに比べ、上記のような吸音材の設置量の算出方法及び算出装置においては、反射透過音音圧レベルの上限値LpTに対応するような吸音材7の適切な設置量を、一度の計算によって求めることができるため、過剰な吸音材7の設置を抑制することができるうえに、計算に時間を要しない。
【0046】
また、上記実施形態においては、受音室許容値Lpから、直接透過音音圧レベルLdTを、エネルギー加算により減算して、上限値LpTを計算する。
上記のような構成によれば、受音室許容値Lpから、直接透過音音圧レベルLdTを、エネルギー加算により減算して、上限値LpTを計算するため、反射透過音音圧レベルの上限値LpTを、受音室許容値Lpと直接透過音音圧レベルLdTとの差として、適切に計算することができる。
【0047】
また、上記実施形態においては、上限値LpTに加え、音源室2の内側表面の面積Ss、暫定設置量の吸音材7が設けられた既設状態における音源室2の平均吸音率αs、既設状態における音源室2の室定数Rs、吸音材7の吸音率αg、及び、既設状態における反射透過音の音圧レベルである既設状態反射透過音音圧レベルLrTを基に、式(16)、式(18)により、削減量ΔSgを計算する。
上記のような構成によれば、吸音材7の削減量ΔSgを、適切に計算することができる。
【0048】
特に、上記実施形態においては、吸音材7の削減量ΔSgを、式(18)として示したように、簡単な式で計算可能である。式(18)の計算には大きな計算量を要しないので、表計算ソフト等を使用して、簡易、簡便に、かつ迅速に、削減量ΔSgを算出することができる。
また、式(18)は、上記のような理論的な考察に基づいたものであるため、吸音材7の削減量ΔSgを感覚的、または経験的に、あるいは試行錯誤により決定する場合に比べると、計算された値に説得力がある。
【0049】
また、上記実施形態においては、音源6から発せられて界壁5または界床4に直接到達する直接音の音圧レベルである直接音音圧レベルLdを計算し、既設状態において、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界壁5または界床4に到達する反射音の音圧レベルである、既設状態反射音音圧レベルLrを計算し、直接音音圧レベルLdと、界壁5または界床4において音が透過する際の音圧レベルの損失である音響透過損失TLと、の差分(Ld-TL)を基に、直接透過音音圧レベルLdTを計算し、既設状態反射音音圧レベルLrと、音響透過損失TLと、の差分(Lr-TL)を基に、既設状態反射透過音音圧レベルLrTを計算する。
上記のような構成によれば、音源6から発せられて界壁5または界床4に直接到達する直接音は、界壁5または界床4を透過する際に、音響透過損失TL分だけ音圧レベルが低減する。このため、直接音の音圧レベルである直接音音圧レベルLdと、音響透過損失TLと、の差分(Ld-TL)を基に、直接透過音音圧レベルLdTを適切に計算することができる。
また、暫定設置量の吸音材7が設けられた既設状態において、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界壁5または界床4に到達する反射音は、界壁5または界床4を透過する際に、音響透過損失TL分だけ音圧レベルが低減する。このため、既設状態における反射音の音圧レベルである、既設状態反射音音圧レベルLrと、音響透過損失TLと、の差分(Lr-TL)を基に、既設状態反射透過音音圧レベルLrTを適切に計算することができる。
【0050】
また、吸音材7は板状に形成され、吸音材7の設置量は、設置面積である。
上記のような構成によれば、吸音材7は、板状に、すなわち厚さが一定となるように形成されているため、設置面積を計算することで、設置量を計算することができる。
【0051】
また、音源室2は機械が設けられる機械室であり、吸音材7はグラスウールまたはロックウールである。
上記のような構成によれば、吸音材7の設置量の算出方法を、適切に実現することができる。
【0052】
また、本実施形態における、吸音材の設置量の算出装置10は、音源6を有する音源室2の内側表面に設ける吸音材7の設置量を算出する装置であって、音源室2に設けられる吸音材7の暫定設置量が既に定められており、音源6から発せられて、音源室2に隣接する受音室3との界壁5または界床4に直接到達し、界壁5または界床4を透過して受音室3に到達する直接透過音の音圧レベルである、直接透過音音圧レベルLdTを計算する、直接透過音音圧レベル計算部13と、音源6から発せられて界壁5または界床4を透過して受音室3に到達する音の音圧レベルの、受音室3における許容値である、受音室許容値Lpと、直接透過音音圧レベルLdTと、を基に、音源6から発せられて音源室2内で反射した後に界壁5または界床4に到達し、界壁5または界床4を透過して受音室3に到達する反射透過音の音圧レベルである反射透過音音圧レベルの上限値LpTを計算する、反射透過音音圧レベル上限値計算部17と、上限値LpTを基に、暫定設置量からの吸音材7の削減量ΔSgを計算して、吸音材7の、最低の設置量を計算する、吸音材設置量計算部18と、を備えている。
上記のような構成によれば、吸音材7の適切な設置量を計算し、建築構造物1の施工コストを低減することができる。
【0053】
また、反射透過音音圧レベル上限値計算部17は、受音室許容値Lpから、直接透過音音圧レベルLdTを、エネルギー加算により減算して、上限値LpTを計算する。
上記のような構成によれば、受音室許容値Lpから、直接透過音音圧レベルLdTを、エネルギー加算により減算して、上限値LpTを計算するため、反射透過音音圧レベルの上限値LpTを、受音室許容値Lpと直接透過音音圧レベルLdTとの差として、適切に計算することができる。
【0054】
[実施形態の第1変形例]
次に、上記実施形態として示した吸音材の設置量の算出方法及び算出装置の第1変形例を説明する。本第1変形例における吸音材の設置量の算出方法及び算出装置は、上記実施形態の吸音材の設置量の算出方法及び算出装置とは、複数の周波数帯の各々において、吸音材7の最低の設置量を計算して、それぞれを設置量の候補値とし、当該候補値のなかで、最も大きな候補値を、吸音材7の最低の設置量とする点が異なっている。
複数の周波数帯としては、例えば、中心周波数をそれぞれ63Hz、125Hz、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz、4000Hzとした各オクターブバンドを用いるのが好ましい。各周波数帯において、吸音材7の削減量ΔSgを計算して、それぞれを設置量の候補値とし、最も削減量ΔSgが小さく、すなわち最も多く吸音材7が残るような候補値を、最終的に採用すべき吸音材7の削減量ΔSgとして、吸音材7の最低の設置量が決定される。
本第1変形例が、既に説明した実施形態と同様な効果を奏することは言うまでもない。
上記のような構成によれば、計算対象としたどの周波数帯においても、受音室3に到達する音の音圧レベルを受音室許容値Lp内に抑えることができる。
【0055】
[実施形態の第2変形例]
次に、上記実施形態として示した吸音材の設置量の算出方法及び算出装置の第2変形例を説明する。本第2変形例における吸音材の設置量の算出方法及び算出装置は、上記実施形態の吸音材の設置量の算出方法及び算出装置とは、同一の音源室2に対し、受音室3が複数設けられ、複数の受音室3の各々において、吸音材7の最低の設置量を計算して、それぞれを設置量の候補値とし、当該候補値のなかで、最も大きな候補値を、吸音材7の最低の設置量とする点が異なっている。
例えば、
図1において、音源室2に隣接する受音室3として、受音室3A、3B、3Cが設けられている。これら受音室3A、3B、3Cの各々において、音源室2の騒音を考慮しなければならないような場合においては、各受音室3において、吸音材7の削減量ΔS
gを計算して、それぞれを設置量の候補値とし、最も削減量ΔS
gが小さく、すなわち最も多く吸音材7が残るような候補値を、最終的に採用すべき吸音材7の削減量ΔS
gとして、吸音材7の最低の設置量が決定される。
本第2変形例が、既に説明した実施形態と同様な効果を奏することは言うまでもない。
上記のような構成によれば、音源室2に隣接するどの受音室3においても、受音室3に到達する音の音圧レベルを受音室許容値L
p内に抑えることができる。
【0056】
なお、本発明の吸音材の設置量の算出方法及び算出装置は、図面を参照して説明した上述の実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態においては、音源室2は機械室であったが、騒音が発し得る室であれば、これに限られない。音源室2は、食堂や、複数の机がパーティションによって区画されて設けられたミーティングスペース等であって構わない。音源室2は、建築構造物1内の部屋に限られず、例えばロビーや通路等であってもよい。
また、上記実施形態においては、吸音材7の暫定設置量からの、吸音材7の削減量を、最低の設置量として計算したが、これに限られない。吸音材7の暫定設置量から、吸音材7の削減量を減算し、これを最低の設置量として計算、出力するようにしてもよいのは、言うまでもない。
また、上記第2変形例においては、複数の受音室3に対して吸音材7の最低の設置量を計算し、最も多く吸音材7が設置されるように、最終的に採用すべき吸音材7の最低の設置量が決定されたが、これに限られない。例えば、複数の受音室3のなかで、最も静音性が求められる受音室3に対して吸音材7の最低の設置量を計算し、これを基に最終的に採用すべき吸音材7の最低の設置量が決定されてもよい。
また、上記実施形態の構成に加え、例えば受音室3が広い部屋である場合などにおいては、受音室3内で受音点を設定し、界壁5または界床4から受音点までの距離で、界壁5または界床4からの音が減衰するように、直接透過音音圧レベルと反射透過音音圧レベルを計算してもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態及び各変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
2 音源室 12 データベース
3 受音室 13 直接音音圧レベル計算部
4 界床 14 既設状態反射音音圧レベル計算部
5 界壁 15 直接透過音音圧レベル計算部
6 音源 16 既設状態反射透過音音圧レベル計算部
7 吸音材 17 反射透過音音圧レベル上限値計算部
10 吸音材の設置量の算出装置 18 吸音材設置量計算部
11 入力部 19 出力部