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特開2023-61460核磁気共鳴プローブ、核磁気共鳴測定装置、及び、核磁気共鳴測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061460
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】核磁気共鳴プローブ、核磁気共鳴測定装置、及び、核磁気共鳴測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20230425BHJP
【FI】
G01N24/00 580F
G01N24/00 580H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171353
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】片寄 武彦
(72)【発明者】
【氏名】今井 正樹
(57)【要約】
【課題】NMR信号の測定において調整可能な周波数帯域の拡大及び測定作業効率の向上を可能とする核磁気共鳴プローブを提供する。
【解決手段】核磁気共鳴プローブ2は、サンプルコイル230及び同調整合回路231で構成されて、試料SからのNMR信号を検出するNMR信号検出部23と、NMR信号検出部23に接続された同軸状の電力線路を有する同軸状共振器24とを備える。同軸状共振器24は、短絡ブリッジ242を電力線路241A、241Bの同軸方向に沿って摺動させることで、電力線路241A、241Bの同軸方向の長さを調整する長さ調整機構を備える。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルコイル及び同調整合回路で構成されて、試料からのNMR信号を検出するNMR信号検出部と、
前記NMR信号検出部に接続された同軸状の電力線路を有する同軸状共振器とを備え、
前記同軸状共振器は、
前記電力線路の同軸方向の長さを調整する長さ調整機構を備える、
ことを特徴とする核磁気共鳴プローブ。
【請求項2】
前記同軸状共振器は、
前記同軸方向に対して長尺な形状を有する絶縁性の基体と、
前記基体に対して前記同軸方向に延設されて、一方が前記NMR信号検出部に接続された第1の電力線路及び第2の電力線路と、
前記NMR信号検出部に接続された接続端部とは反対側の短絡端部において前記第1の電力線路と前記第2の電力線路とを短絡するとともに、前記短絡端部の位置を前記同軸方向に調整可能に前記基体に設けられた短絡ブリッジとを備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の核磁気共鳴プローブ。
【請求項3】
前記基体は、
柱状又は筒状の部材で形成され、
前記第1の電力線路及び前記第2の電力線路は、
前記基体の外周面を螺旋状に覆うように、所定の間隔を空けてそれぞれ配置され、
前記短絡ブリッジは、
前記第1の電力線路及び前記第2の電力線路の外周に嵌合されて、前記第1の電力線路及び前記第2の電力線路に対して前記同軸方向に摺動可能な部材で形成された、
ことを特徴とする請求項2に記載の核磁気共鳴プローブ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに一項に記載された核磁気共鳴プローブと、
前記核磁気共鳴プローブにより検出された前記NMR信号を処理する制御部とを備える、
ことを特徴とする核磁気共鳴測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれかに一項に記載された核磁気共鳴プローブを用いて、前記試料を測定する核磁気共鳴測定方法であって、
前記試料を前記核磁気共鳴プローブにセットするステップと、
前記長さ調整機構により前記同軸方向の長さを調整するステップと、
前記NMR信号検出部により前記NMR信号を検出するステップと、
前記NMR信号検出部により検出された前記NMR信号を処理するステップとを含む、
ことを特徴とする核磁気共鳴測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)の原理を利用した核磁気共鳴プローブ(以下、「NMRプローブ」という)、核磁気共鳴測定装置(以下、「NMR装置」という)、及び、核磁気共鳴測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NMR装置において、試料に含まれる観測対象の核種からの核磁気共鳴信号(以下、「NMR信号」という)を検出するための検出回路として、例えば、コイルや可変コンデンサ等で構成されるLC共振回路を備え、観測対象の核種に対応する共鳴周波数に、検出回路の共振周波数を同調及び整合させる必要がある。
【0003】
高周波を用いたNMR信号の測定では、可変コンデンサの調整可能な限界値を超えた場合、特定の周波数に検出回路の共振周波数を調整できなくなる問題がある。そのため、NMR装置では、λ/4同軸線を用いたλ/4共振器を検出回路に接続することで、検出回路の共振周波数を調整する手法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-372575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたλ/4共振器を採用したNMR装置において、例えば、観測対象の核種として、プロトン1Hを測定する場合、プロトン1Hは、一定磁場での測定において周波数の変化が小さいため、特定の周波数λに対応したλ/4同軸線が用いられる。しかしながら、例えば、試料が磁性体等であるときのNMR信号の測定では、磁気秩序の形成により、電子スピンが核に強い有効磁場を生じさせる。また、この電子スピンによる有効磁場の大きさは、一般的に温度変化等に応じて変化するため、共鳴周波数も大きく変化してしまう。
【0006】
上記のような場合、従来の固定長さのλ/4同軸線では、観測対象の核種の共鳴周波数に検出回路の共振周波数を調整することが困難であった。また、長さが異なる複数種類のλ/4同軸線を用意したとしても、NMR信号の測定では、試料及びNMRプローブ全体が低温に冷却された状態で行われることが一般的であるため、λ/4同軸線を交換する度に再冷却が必要となり、時間的及びエネルギー的な観点で測定作業効率の低下を招いていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、NMR信号の測定において調整可能な周波数帯域の拡大及び測定作業効率の向上を可能とする核磁気共鳴プローブ、核磁気共鳴測定装置、及び、核磁気共鳴測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであって、本発明の一形態に係る核磁気共鳴プローブは、
サンプルコイル及び同調整合回路で構成されて、試料からのNMR信号を検出するNMR信号検出部と、
前記NMR信号検出部に接続された同軸状の電力線路を有する同軸状共振器とを備え、
前記同軸状共振器は、
前記電力線路の同軸方向の長さを調整する長さ調整機構を備える。
【0009】
また、本発明の他の形態に係る核磁気共鳴測定装置は、
前記核磁気共鳴プローブと、
前記核磁気共鳴プローブにより検出された前記NMR信号を処理する制御部とを備える。
【0010】
また、本発明の他の形態に係る核磁気共鳴測定方法は、
前記核磁気共鳴プローブを用いて、前記試料を測定する核磁気共鳴測定方法であって、
前記試料を核磁気共鳴プローブにセットするステップと、
前記長さ調整機構により前記同軸方向の長さを調整するステップと、
前記NMR信号検出部により前記NMR信号を検出するステップと、
前記NMR信号検出部により検出された前記NMR信号を処理するステップとを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記形態に係る核磁気共鳴プローブ、核磁気共鳴測定装置、及び、核磁気共鳴測定方法によれば、NMR信号検出部に接続された同軸状共振器が、電力線路の同軸方向の長さを調整する長さ調整機構を備えるので、NMR信号検出部によるNMR信号の検出・測定において調整可能な周波数帯域を拡大させるとともに、測定作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】核磁気共鳴測定装置1の一例を示す全体構成図である。
図2】核磁気共鳴プローブ2の一例を示す正面図である。
図3】核磁気共鳴プローブ2の一例を示し、(a)は部分拡大正面図、(b)は部分拡大側面図である。
図4】核磁気共鳴プローブ2の一例を示し、(a)は斜視図、(b)は部分拡大斜視図である。
図5】同軸状共振器24の一例を示す概略図である。
図6】核磁気共鳴プローブ2の一例を示す回路図である。
図7】同軸状共振器24a~24cの変形例を示し、(a)は第1の変形例、(b)は第2の変形例、(c)は第3の変形例を示す概略図である。
図8】核磁気共鳴測定装置1及び核磁気共鳴プローブ2を用いた核磁気共鳴測定方法の一例を示すフローチャートである。
図9】核磁気共鳴プローブ2におけるリターンロスの測定結果を示すグラフである。
図10】核磁気共鳴プローブ2によるMnCO355Mn核の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1は、核磁気共鳴測定装置1の一例を示す全体構成図である。核磁気共鳴測定装置(NMR装置)1は、試料Sに含まれる観測対象の核種からの核磁気共鳴信号(NMR信号)を観測するための装置である。試料Sは、合成化合物や天然化合物等の任意の物質でよく、磁性体でもよいし、非磁性体でもよい。
【0015】
NMR装置1は、その主要な構成として、磁場発生部10と、冷却部11と、真空発生部12と、制御部13と、核磁気共鳴プローブ(NMRプローブ)2とを備える。
【0016】
磁場発生部10は、静磁場を発生するためのシステムであり、例えば、その中央部の空洞部分に、NMRプローブ2が配置される。冷却部11は、NMRプローブ2を冷却するためのシステムであり、例えば、冷凍機により所定の温度(2K、4K等)に冷却した冷媒(ヘリウムガス等)をNMRプローブ2に供給する。真空発生部12は、NMRプローブ2を真空状態に制御するためのシステムであり、例えば、真空ポンプ等により構成される。
【0017】
制御部13は、高周波信号をNMRプローブ2に送信する送信系130と、NMRプローブ2により検出されたNMR信号を受信する受信系131と、NMRプローブ2と送信系130及び受信系131との間に設けられた信号切換器(デュプレクサ)132と、NMRプローブ2により検出されたNMR信号を処理する制御コンピュータ133とを備える。
【0018】
送信系130は、例えば、高周波信号を生成する発振器、高周波信号を増幅する増幅器等で構成され、増幅後の高周波信号は、信号切換器132を介してNMRプローブ2に送信される。受信系131は、例えば、信号切換器132を介して受信したNMR信号を増幅する増幅器、増幅後のNMR信号をオーディオ周波数に変換する復調検波器、変換後のNMR信号をデジタル信号に変換するA/D変換器等で構成され、変換後のデジタル信号は、制御コンピュータ133に供給される。
【0019】
制御コンピュータ133は、汎用又は専用のコンピュータで構成され、例えば、CPU等の演算部(プロセッサ)、記憶部、入力部、表示部及び通信部を備える。制御コンピュータ133は、送信系130及び受信系131を制御する機能、受信系131によるNMR信号に基づくデジタル信号に対してフーリエ変換等の処理を行い、NMRスペクトラムを生成する機能、及び、入力部や表示部をユーザインタフェースとして動作させる機能等を有する。また、制御コンピュータ133は、有線又は無線のネットワークを介して外部装置(不図示)に接続されて、各種のデータを送受信可能に構成される。
【0020】
NMRプローブ2は、同軸ケーブル20及び同軸コネクタ21を介して信号切換器132に接続される。NMRプローブ2は、送信系130から送信された高周波信号を、静磁場内に配置された試料Sに照射するとともに、その高周波信号の照射により試料Sから発生するNMR信号を検出する。
【0021】
(核磁気共鳴プローブ2の構成)
図2は、核磁気共鳴プローブ2の一例を示す正面図である。図3は、核磁気共鳴プローブ2の一例を示し、(a)は部分拡大正面図、(b)は部分拡大側面図である。図4は、核磁気共鳴プローブ2の一例を示し、(a)は斜視図、(b)は部分拡大斜視図である。図5は、同軸状共振器24の一例を示す概略図である。図6は、核磁気共鳴プローブ2の一例を示す回路図である。
【0022】
NMRプローブ2は、主要な構成として、上記の同軸ケーブル20及び同軸コネクタ21の他に、容器22と、NMR信号検出部23と、同軸状共振器24と、操作機構部25と、機器コネクタ26とを備える。
【0023】
容器22は、真空断熱性の部材で作製されており、例えば、円柱状の外形を有するとともに、その内部にNMR信号検出部23及び同軸状共振器24を収容可能な中空部を有する。容器22は、容器本体220と、容器本体220の軸方向の片側に設けられた円形状の収容口221と、収容口221を密閉するためのフランジ状の蓋222と、外部からの輻射熱を防止する輻射シールド板223A、223Bと、冷却部11による冷媒を流入及び流出するための冷媒流入管224A及び冷媒流出管224Bとを備える。
【0024】
蓋222には、同軸ケーブル20、NMR信号検出部23、同軸状共振器24、操作機構部25及び機器コネクタ26が一体的に取り付けられており、試料Sをセットする際には、容器本体220から取り外され、試料Sを測定する際には、容器本体220に取り付けられる。輻射シールド板223Aは、図2図3図4では省略)に示すように、容器22の内側に配置されて、NMR信号検出部23及び同軸状共振器24を囲むように、円筒状に形成されている。輻射シールド板223Bは、容器22の軸方向に対して所定の間隔を空けて配置されて、円板状に形成されている。
【0025】
NMR信号検出部23は、サンプルコイル230及び同調整合回路231で構成されて、試料Sに高周波信号を照射するとともに、試料SからのNMR信号を検出する。
【0026】
サンプルコイル230は、容器22の最奥部に配置されて、その中心部に試料Sが配置される。
【0027】
同調整合回路231は、図6に示すように、サンプルコイル230及び同軸ケーブル20の間に接続された同調用可変コンデンサ232と、サンプルコイル230に対して並列に接続された整合用可変コンデンサ233とを備える。同調用可変コンデンサ232及び整合用可変コンデンサ233は、操作機構部25に対する操作量に応じてコンデンサの静電容量が可変される。なお、同調整合回路231の接続関係は、図6の例に限られず、例えば、整合用可変コンデンサ233は、サンプルコイル230に対して直列に接続されていてもよい。また、同調整合回路231は、図6の例に限られず、他の回路要素(コンデンサ、コイル、抵抗等)をさらに含むものでもよい。
【0028】
同軸状共振器24は、NMR信号検出部23(図6の例では、サンプルコイル230と同調用可変コンデンサ232との間)に接続された同軸状の電力線路241A、241Bを有する。同軸状共振器24は、電力線路241A、241Bの同軸方向の長さを調整する長さ調整機構を備える。電力線路241A、241Bの同軸方向は、容器22の軸方向と同一の方向である。なお、NMR信号検出部23に対する同軸状共振器24の接続関係は、図6の例に限られず、適宜変更されてもよい。
【0029】
同軸状共振器24は、同軸方向に対して長尺な形状を有する絶縁性の基体240と、基体240に対して同軸方向に延設されて、一方がNMR信号検出部23に接続された第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bと、NMR信号検出部23に接続された接続端部243Aとは反対側の短絡端部243Bにおいて第1の電力線路241Aと第2の電力線路241Bとを短絡するとともに、短絡端部243Bの位置を同軸方向に調整可能に基体240に設けられた短絡ブリッジ242とを備える。本実施形態では、では、第1の電力線路241AがNMR信号検出部23に接続されて、第2の電力線路241Bが接地されている。
【0030】
基体240は、柱状又は筒状の絶縁性の部材で形成される。本実施形態では、基体240は、図5に示すように、円柱状に形成されている。
【0031】
第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bは、基体240の外周面を螺旋状に覆うように、所定の間隔を空けてそれぞれ配置される。第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bは、導電性の部材で形成されている。
【0032】
短絡ブリッジ242は、第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bの外周に嵌合されて、第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bに対して同軸方向に摺動可能な筒状の導電性の部材で形成される。本実施形態では、短絡ブリッジ242は、図5に示すように、円筒状の部材で形成されている。なお、短絡ブリッジ242の形状は、図5の例に限られず、例えば、断面コ字状にしてもよい。
【0033】
短絡ブリッジ242は、操作機構部25に対する操作量に応じて第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bに接触した状態で同軸方向に移動したときに、短絡ブリッジ242が第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bに接触する位置(短絡端部243Bの位置)が変位することで、電力線路241A、241Bの同軸方向の長さが調整される。したがって、短絡ブリッジ242が、第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bに接触した状態で同軸方向に移動することで、同軸状共振器24の長さ調整機構として機能する。
【0034】
操作機構部25は、同調用可変コンデンサ232を操作する同調コンデンサ用操作部250と、整合用可変コンデンサ233を操作する整合コンデンサ用操作部251と、同軸状共振器24の短絡ブリッジ242を操作する共振器用操作部252とを備える。
【0035】
共振器用操作部252は、容器22の蓋222に設けられた回転つまみ253と、回転つまみ253の端部に設けられたナット254と、ナット254に螺合されるボルト状の端部を有するとともに、反対側の端部が短絡ブリッジ242に取り付けられたシャフト255とを備える。操作機構部25の回転つまみ253は、測定者により手動操作されてもよいし、モータやギヤ等の駆動機構に連結されて、制御コンピュータ133により自動操作されてもよい。同調コンデンサ用操作部250及び整合コンデンサ用操作部251は、共振器用操作部252と同様に構成されているため、説明を省略する。
【0036】
機器コネクタ26は、容器22内に設けられた温度センサやヒータ等の機器(不図示)に接続された通信線や電力線に取り付けられており、制御部13や電源に接続される。
【0037】
図7は、同軸状共振器24a~24cの変形例を示し、(a)は第1の変形例、(b)は第2の変形例、(c)は第3の変形例を示す概略図である。
【0038】
第1の変形例(図7(a))に係る同軸状共振器24aにおいて、基体240は、四角柱状に形成され、基体240の同一の外面に対して、第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bが配置されている。第1の電力線路241Aは、同軸方向に延設された1つの電力線路として形成されており、第2の電力線路241Bは、第1の電力線路241Aの両側に配置されて、同軸方向にそれぞれ延設された2つの電力線路として形成されている。短絡ブリッジ242は、第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bに対して摺動可能な平板状の部材で形成されていている。
【0039】
第2の変形例(図7(b))に係る同軸状共振器24bにおいて、基体240は、四角柱状に形成され、基体240の対向する外面に対して、第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bがそれぞれ配置されている。第1の電力線路241Aは、同軸方向に延設されて幅が狭い電力線路として形成されており、第2の電力線路241Bは、同軸方向に延設されて幅が広い電力線路として形成されている。短絡ブリッジ242は、第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bの外面に摺動可能な部材で形成されている。
【0040】
第3の変形例(図7(c))に係る同軸状共振器24cにおいて、基体240は、円筒状に形成され、基体240の外周面に対して、第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bが配置されている。第1の電力線路241Aは、同軸方向に延設されて幅が狭い電力線路として形成されており、第2の電力線路241Bは、同軸方向に延設されて幅が広い電力線路として形成されている。短絡ブリッジ242は、第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bの外面に摺動可能な円筒状の部材で形成されている。
【0041】
(核磁気共鳴測定方法)
図8は、核磁気共鳴測定装置1及び核磁気共鳴プローブ2を用いた核磁気共鳴測定方法の一例を示すフローチャートである。
【0042】
まず、ステップS1では、試料SがNMRプローブ2にセットされる。具体的には、NMRプローブ2の蓋222が容器本体220から取り外されて、試料Sが、サンプルコイル230の内側又は近傍に設置される。そして、その状態の試料S及び蓋222に一体的に取り付けられたNMR信号検出部23及び同軸状共振器24等が容器本体220に挿入されて、蓋222が密閉される。
【0043】
次に、ステップS2では、磁場発生部10、冷却部11及び真空発生部12が動作して、NMRプローブ2が試料Sを測定可能な状態に制御される。具体的には、NMRプローブ2が、磁場発生部10が発生する静磁場内に配置されるとともに、冷却部11及び真空発生部12により容器22の内部が冷却かつ真空状態に制御される。
【0044】
次に、ステップS3では、操作機構部25として、同調コンデンサ用操作部250、整合コンデンサ用操作部251、共振器用操作部252がそれぞれ操作されることで、NMR信号を測定する際の同調整合回路231及び同軸状共振器24の調整(チューニング)が行われる。具体的には、同調用可変コンデンサ232及び整合用可変コンデンサ233の静電容量と、同軸状共振器24の同軸方向の長さとが調整される。チューニングの方式としては、例えば、測定者が制御コンピュータ133の表示部に表示されたNMRプローブ2のリターンロスのレベルを確認しながら、操作機構部25を手動操作するマニュアル方式と、制御コンピュータ133がNMRプローブ2のリターンロスのレベルに応じて操作機構部25を自動操作するオート方式とのいずれでもよい。
【0045】
次に、ステップS4では、NMR信号を検出することにより、試料Sの測定が行われる。具体的には、高周波信号が、制御部13の送信系130によりNMRプローブ2に供給されるとともに、試料SからのNMR信号がNMRプローブ2により検出されて、さらに受信系131により受信される。
【0046】
そして、ステップS5では、制御コンピュータ133によりNMR信号に基づくデジタル信号に対してフーリエ変換等の処理が行われることで、NMRスペクトラムが生成され、試料Sの測定結果として、例えば、制御コンピュータ133の表示部に表示される。また、試料Sの測定結果が制御コンピュータ133の記憶部に記憶されてもよい。
【0047】
図9は、核磁気共鳴プローブ2におけるリターンロスの測定結果を示すグラフである。図9では、NMR装置1のインピーダンスが50[Ω]である場合において、NMRプローブ2のリターンロスS11の周波数依存性を示している。
【0048】
NMRプローブ2において、同軸状共振器24の長さが調整されることで、例えば、60MHz~1075GHzの任意の周波数で高周波信号の吸収(リターンロスS11)がピークとなるように、NMRプローブ2の検出特性を調整できることが分かった。
【0049】
図10は、核磁気共鳴プローブ2によるMnCO355Mn核の測定結果を示すグラフである。NMR装置1の測定条件として、ハーンエコー法を採用し、1stパルス0.5[μs],2ndパルス1[μs]とした。図10では、NMRプローブ2は、温度3[K]、磁場2[kOe]、磁場が結晶の[11-20]方向にて、炭酸マンガンMnCO355Mn核を測定したときのNMR信号の測定結果を示している。
【0050】
以上のように、本実施形態に係る核磁気共鳴プローブ2、核磁気共鳴測定装置1、及び、核磁気共鳴測定方法によれば、NMR信号検出部23に接続された同軸状共振器24が、電力線路241A、241Bの同軸方向の長さを調整する長さ調整機構を備えるので、NMR信号検出部23によるNMR信号の検出・測定において調整可能な周波数帯域を拡大させるとともに、測定作業効率を向上させることができる。そのため、例えば、試料Sが、磁性体等のように、共鳴周波数の変化幅が大きい物質である場合でも、同軸状共振器24の長さ調整機構により電力線路241A、241Bの同軸方向の長さを調整することで、NMR信号を高感度に検出することができる。
【0051】
また、同軸状共振器24の短絡ブリッジ242が、第1の電力線路241Aと第2の電力線路241Bとを短絡する短絡端部243Bの位置を同軸方向に調整可能に基体240に設けられているため、同軸状共振器24は、簡素な構造で長さ調整機構を実現することができる。
【0052】
また、同軸状共振器24の第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bが、基体240の外周面を螺旋状に覆うように、所定の間隔を空けてそれぞれ配置されているため、同軸方向の単位長さに対して第1の電力線路241A及び第2の電力線路241Bの距離をより長くすることができる。したがって、同軸状共振器24を構成するときに、同軸方向の単位長さに対してNMR信号検出部23の周波数帯域をより拡大させることができる。
【0053】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0054】
上記実施形態では、同軸状共振器24、24a~24cは、図5図7に示すような長さ調整機構を備えるものとして説明したが、長さ調整機構は、電力線路241A、241Bの同軸方向の長さを調整可能な機構であれば、上記の例に限られず、適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…核磁気共鳴測定装置(NMR装置)、
2…核磁気共鳴プローブ(NMRプローブ)、
10…磁場発生部、11…冷却部、12…真空発生部、13…制御部、
20…同軸ケーブル、21…同軸コネクタ、22…容器、23…NMR信号検出部、
24、24a~24c…同軸状共振器、25…操作機構部、26…機器コネクタ、
130…送信系、131…受信系、132…信号切換器、133…制御コンピュータ、
220…容器本体、221…収容口、222…蓋、
223A、223B…輻射シールド板、224A…冷媒流入管、224B…冷媒流出管、
230…サンプルコイル、231…同調整合回路、232…同調用可変コンデンサ、
233…整合用可変コンデンサ、240…基体、
241A…第1の電力線路、241B…第2の電力線路、242…短絡ブリッジ、
243A…接続端部、243B…短絡端部、
250…同調コンデンサ用操作部、251…整合コンデンサ用操作部、
252…共振器用操作部、254…ナット、255…シャフト、
S…試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10