(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061509
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】多結晶炭化珪素基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20230425BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20230425BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20230425BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20230425BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C23C16/42
C30B25/18
C23C16/02
H01L21/304 631
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171430
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】313001309
【氏名又は名称】株式会社サイコックス
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】八木 邦明
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F057
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE08
4G077DB05
4G077DB07
4G077FB06
4G077FE03
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4G077TK11
4K030AA03
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4K030BA37
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4K030FA10
4K030HA04
4K030LA12
5F057AA44
5F057BA12
5F057BB09
5F057CA06
5F057DA11
(57)【要約】
【課題】多結晶炭化珪素基板の品質を変えずに製造コストの低減が図れる多結晶炭化珪素基板33の製造方法を提供すること。
【解決手段】第1下地基材11表面に炭素層21を形成して第2下地基材12を製造する炭素層形成工程と、第2下地基材表面に化学気相成長法により多結晶炭化珪素膜31を成膜する多結晶炭化珪素成膜工程と、第2下地基材表面に成膜した多結晶炭化珪素膜の外周端部を除去して炭素層を露出させる炭素層露出工程と、酸素雰囲気下において露出した炭素層を燃焼させ、炭素層が除去された第2下地基材から多結晶炭化珪素膜を分離する多結晶炭化珪素分離工程を有することを特徴とし、第1下地基材を消失させることなくその再利用が図れるため多結晶炭化珪素基板の製造コストを低減できる効果を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶炭化珪素基板の製造方法において、
第1下地基材の表面に炭素層を形成して第2下地基材を製造する炭素層形成工程と、
上記第2下地基材の表面に化学気相成長法により多結晶炭化珪素膜を成膜する多結晶炭化珪素成膜工程と、
上記第2下地基材の表面に成膜した多結晶炭化珪素膜の外周端部を除去して上記炭素層を露出させる炭素層露出工程と、
酸素雰囲気下において露出した炭素層を燃焼させ、該炭素層が除去された第2下地基材から多結晶炭化珪素膜を分離する多結晶炭化珪素膜分離工程、
を有することを特徴とする多結晶炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
上記多結晶炭化珪素膜分離工程後、分離された多結晶炭化珪素膜表面を研削して平坦化する研削工程を有することを特徴とする請求項1に記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
上記炭素層形成工程において、第1下地基材の表面に有機レジストを塗布し、成膜された有機レジスト膜を熱処理して上記炭素層を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
上記炭素層形成工程において、炭素ターゲットを用いたスパッタリング法により第1下地基材の表面に上記炭素層を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
上記炭素層形成工程において、第1下地基材の表面にカーボンシートを貼着して上記炭素層を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
上記第1下地基材を、単結晶炭化珪素、多結晶炭化珪素、焼結炭化珪素、または、サファイアで構成したことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
上記第1下地基材を、等方性カーボン基材と該カーボン基材の表面に成膜された炭化珪素膜の複合体で構成したことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法。
【請求項8】
上記第1下地基材が、その表面に第1下地基材の外周縁まで延在する溝を有することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶炭化珪素が貼り合わされて、例えば、炭化珪素半導体等に使用される多結晶炭化珪素基板の製造方法に係り、特に、多結晶炭化珪素基板の品質を変えずに製造コストの低減が図れる多結晶炭化珪素基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、2.2~3.3eVの広い禁制帯幅を有するワイドバンドギャップ半導体で、その優れた物理的、化学的特性から耐環境性半導体材料として研究開発が行われている。特に近年、炭化珪素は、高耐圧・高出力電子デバイス、高周波電子デバイス、青色から紫外にかけての短波長光デバイス向け材料として注目されており、研究開発は盛んになっている。但し、炭化珪素は、良質な大口径単結晶の製造が難しく、これまで炭化珪素デバイスの実用化を妨げてきた。
【0003】
この問題を解決するため、単結晶炭化珪素基板を種結晶に用いて昇華再結晶を行う改良型レーリー法が開発されている。改良型レーリー法によれば、単結晶SiCの結晶多形(4H-SiC、6H-SiC、15R-SiC等)や、形状、キャリア型、および、濃度を制御しながら単結晶炭化珪素を成長させることが可能となる。そして、改良型レーリー法の最適化により結晶欠陥密度は大きく減少し、炭化珪素基板(炭化珪素デバイスに供される基板)上へショットキーダイオード(SBD)や電界効果トランジスタ(MOSFET)等の電子デバイスを形成することが実現されるようになってきた。
【0004】
しかし、単結晶炭化珪素基板を種結晶に用いた改良型レーリー法は、単結晶炭化珪素の結晶成長速度が低いこと、および、単結晶炭化珪素インゴットを主として切断および研磨からなる工程を経てウエハ状に加工する際の加工費用が嵩むことに起因して炭化珪素基板の製造コストは高かった。そして、製造コストの高さも、炭化珪素デバイスの実用化を妨げている要因であり、半導体デバイス用途、特に、高耐圧・高出力電子素子用途の炭化珪素基板を安価に提供できる技術の開発が強く望まれていた。
【0005】
このような技術的背景下、炭化珪素基板の製造コストを下げる様々な工夫がなされている。例えば、特許文献1には、単結晶炭化珪素基板と多結晶炭化珪素基板を貼り合わせて成る炭化珪素基板の製造方法が開示されている。すなわち、少なくともマイクロパイプの密度が30個/cm2以下の単結晶炭化珪素基板と多結晶炭化珪素基板を貼り合わせ、かつ、貼り合わせた上記単結晶炭化珪素基板を薄膜化することで、炭化珪素デバイスに供される炭化珪素基板の製造方法が開示されている。因みに、炭化珪素半導体デバイスの活性層は単結晶炭化珪素基板が機能し、下部の機械的支持部、放熱部分は多結晶炭化珪素基板が役割を受け持つ構造となり、炭化珪素基板全体を単結晶の炭化珪素で構成した基板と同等に扱うことが可能となる。
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法により単結晶炭化珪素基板と多結晶炭化珪素基板を貼り合わせて炭化珪素基板を製造した場合、単結晶炭化珪素基板と多結晶炭化珪素基板との接合界面に形成される酸化膜の影響により、縦型パワー半導体デバイス用途においては基板垂直方向の電気抵抗が増大する問題があり、また、炭化珪素のデバイス作製プロセスにおける加熱処理温度(>1200℃)に対して界面構造が不安定である等の問題があった。
【0007】
そこで、特許文献2に開示された炭化珪素基板の製造方法では、単結晶炭化珪素基板と多結晶炭化珪素基板との接合界面における酸化膜の形成を伴わない接合方法を採ることで上記問題を解決している。すなわち、特許文献2に開示された炭化珪素基板の製造方法は、単結晶炭化珪素基板の結晶構造に損傷を与えて第1の非晶質層を形成し、多結晶炭化珪素基板の結晶構造にも損傷を与えて第2の非晶質層を形成し、かつ、第1の非晶質層と第2の非晶質層とを接触させると共に、第1の非晶質層と第2の非晶質層とが接触している状態で熱処理することにより、単結晶炭化珪素基板と多結晶炭化珪素基板との接合界面に上記酸化膜の形成を伴わない接合方法が図られている。
【0008】
そして、高耐圧・高出力電子素子においては、電力損失を抑えるため素子の電気抵抗を低減させることが要求されるが、特許文献2に開示された方法で製造される炭化珪素基板の機械的支持部等を受け持つ多結晶炭化珪素基板では、単結晶炭化珪素の課題である窒素の高濃度導入による結晶欠陥が生じないため、低抵抗な支持基板(すなわち多結晶炭化珪素基板)で構成された炭化珪素基板とすることが可能となる。
【0009】
更に、多結晶炭化珪素は、数十μm以下の細かな単結晶炭化珪素粒が集合した材料であるため、多結晶炭化珪素の内部には結晶粒界が高密度で存在する。単結晶炭化珪素は、デバイス製造時あるいはデバイス動作時に応力が印加されると、応力が集中する箇所を起点とし、結晶面に沿って亀裂が伝搬する、いわゆる劈開によって破壊され易い。しかし、多結晶炭化珪素内部の上記結晶粒界においてその亀裂伝搬が阻害されるため、多結晶炭化珪素は、単結晶炭化珪素に対して破壊靭性値が高く、破壊され難い。
【0010】
このため、特許文献2に開示された方法で製造される炭化珪素基板は、更なる高耐圧・高出力電子素子用途として熱望される薄板化にも対応可能な利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009-117533号公報
【特許文献2】特許第6061251号公報
【特許文献3】特開2001-316821号公報(段落番号0014参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、炭化珪素基板の製造に用いられる多結晶炭化珪素基板は、従来、以下の方法で製造されている。例えば、カーボン(C)で構成された下地基材上に珪素(Si)系原料とカーボン系原料を供給し、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)により多結晶炭化珪素を成膜した後、該多結晶炭化珪素を下地基材から分離して製造する(特許文献3参照)か、焼結助剤等を用いて微結晶炭化珪素粉末を加圧成形し、然る後、炭化珪素の昇華温度以下の温度で炭化珪素粉末を互いに凝着させて製造している。
【0013】
前者の方法(特許文献3)で製造された多結晶炭化珪素基板は、金属不純物の濃度が著しく低く、空孔の無い緻密な基板として得られるが、後者の方法で製造された多結晶炭化珪素基板には、多くの空孔が残存してしまう。このため、上記炭化珪素基板の製造に用いられる多結晶炭化珪素基板としては、前者の方法で製造されたものが望ましい。
【0014】
しかし、化学気相成長法で多結晶炭化珪素基板を製造する前者の方法は、依然として製造コストが高くなる問題が存在した。
【0015】
まず、成膜された多結晶炭化珪素を下地基材から分離するには、酸素を含む雰囲気(酸素雰囲気)下において下地基材を燃焼させて多結晶炭化珪素を分離する「燃焼法」、あるいは、下地基材を研削や研磨により除去して多結晶炭化珪素を分離する「加工法」が採られている。しかし、いずれの方法も、多結晶炭化珪素基板を製造する毎に下地基材が消失されるため、下地基材が無駄になる分、多結晶炭化珪素基板の製造コストが割高になってしまう。
【0016】
更に、「燃焼法」で下地基材を除去する場合、下地基材の表面に成膜された多結晶炭化珪素の外周端部を研削等により露出させ、酸素雰囲気下において露出した下地基材を長時間燃焼させる作業が必要となり、また、「加工法」で下地基材を除去する場合も、長時間の研削作業が必要になるため、多結晶炭化珪素基板の製造コストが割高になってしまう。
【0017】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、多結晶炭化珪素基板の品質を変えずに製造コストの低減が図れる多結晶炭化珪素基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
多結晶炭化珪素基板の製造方法において、
第1下地基材の表面に炭素層を形成して第2下地基材を製造する炭素層形成工程と、
上記第2下地基材の表面に化学気相成長法により多結晶炭化珪素膜を成膜する多結晶炭化珪素成膜工程と、
上記第2下地基材の表面に成膜した多結晶炭化珪素膜の外周端部を除去して上記炭素層を露出させる炭素層露出工程と、
酸素雰囲気下において露出した炭素層を燃焼させ、該炭素層が除去された第2下地基材から多結晶炭化珪素膜を分離する多結晶炭化珪素膜分離工程、
を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る第2の発明は、
第1の発明に記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法において、
上記多結晶炭化珪素分離工程後、分離された多結晶炭化珪素膜表面を研削して平坦化する研削工程を有することを特徴とし、
第3の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法において、
上記炭素層形成工程において、第1下地基材の表面に有機レジストを塗布し、成膜された有機レジスト膜を熱処理して上記炭素層を形成することを特徴とし、
第4の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法において、
上記炭素層形成工程において、炭素ターゲットを用いたスパッタリング法により第1下地基材の表面に上記炭素層を形成することを特徴とし、
第5の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法において、
上記炭素層形成工程において、第1下地基材の表面にカーボンシートを貼着して上記炭素層を形成することを特徴とする。
【0020】
次に、本発明に係る第6の発明は、
第1の発明~第5の発明のいずれかに記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法において、
上記第1下地基材を、単結晶炭化珪素、多結晶炭化珪素、焼結炭化珪素、または、サファイアで構成したことを特徴とし、
第7の発明は、
第1の発明~第5の発明のいずれかに記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法において、
上記第1下地基材を、等方性カーボン基材と該カーボン基材の表面に成膜された炭化珪素膜の複合体で構成したことを特徴とし、
また、第8の発明は、
第1の発明~第7の発明のいずれかに記載の多結晶炭化珪素基板の製造方法において、
上記第1下地基材が、その表面に第1下地基材の外周縁まで延在する溝を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る多結晶炭化珪素基板の製造方法によれば、
多結晶炭化珪素膜が成膜される第2下地基材を第1下地基材とその表面に形成した炭素層とで構成しているため、
上記第1下地基材の表面に形成した炭素層を燃焼させ、該炭素層が除去された第2下地基材から多結晶炭化珪素膜を分離することが可能となる。
【0022】
従って、第1下地基材を消失させることなくその再利用が図れるため、多結晶炭化珪素基板の製造コストを低減できる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る多結晶炭化珪素基板の製造工程を示す説明図。
【
図2】等方性カーボン基材と該カーボン基材の表面に成膜された炭化珪素膜の複合体で構成された第1下地基材の説明図。
【
図3】実施例1で用いた第1下地基材(多結晶炭化珪素)の「再利用回数(回)」と製造された多結晶炭化珪素基板の「反り(μm)」の関係、および、上記第1下地基材の「再利用回数(回)」と多結晶炭化珪素基板の「抵抗率(Ωcm)」の関係を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を用い詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に当然のことながら限定されるものではなく、本発明に係る技術的範囲に属する種々の形態を採ることが可能である。
【0025】
まず、本発明に係る多結晶炭化珪素基板の製造方法は、
第1下地基材の表面に炭素層を形成して第2下地基材を製造する炭素層形成工程と、
上記第2下地基材の表面に化学気相成長法により多結晶炭化珪素膜を成膜する多結晶炭化珪素成膜工程と、
上記第2下地基材の表面に成膜した多結晶炭化珪素膜の外周端部を除去して上記炭素層を露出させる炭素層露出工程と、
酸素雰囲気下において露出した炭素層を燃焼させ、該炭素層が除去された第2下地基材から多結晶炭化珪素膜を分離する多結晶炭化珪素膜分離工程、
を有する。
【0026】
(1)炭素層形成工程
炭素層形成工程は、
図1(A)~(B)に示すように、円盤状の第1下地基材11表面に炭素層21を形成して第2下地基材12を製造する工程である。
【0027】
尚、下地基材とは被膜を形成(成長)させる下地となる材料で、第1下地基材11は、炭素層21を形成させる下地となる材料、第2下地基材12は、第1下地基材11とその表面に形成された炭素層21とで構成され、多結晶炭化珪素膜を成長させるための下地となる材料である。
【0028】
(1-1)第1下地基材
第1下地基材11には、1200℃以上望ましくは1300℃以上の耐熱性があること、および、500℃以上の酸素雰囲気下でも燃焼されずに消失しない特性が求められ、例えば、単結晶炭化珪素、多結晶炭化珪素、焼結炭化珪素、または、サファイアで構成された基材材料が挙げられる。更に、
図2に示すように等方性カーボン基材10と該カーボン基材10の表面に化学気相成長法(CVD)で成膜された炭化珪素膜(例えば多結晶炭化珪素膜)20との複合体13で構成された基材材料も使用することができる。この場合、多結晶炭化珪素膜の膜厚は1μm~100μm、望ましくは10μm~30μmである。
【0029】
(1-2)炭素層
第1下地基材11の表面に炭素層21を形成するには、例えばスピンコーターにて有機レジストを塗布し、形成された有機レジスト膜を200℃程度の条件で加熱して有機レジスト膜から溶剤成分を排除した後、1000℃程度の条件で炭化させて炭素層21を形成することができる。上記炭素層21は、膜厚0.1μm~10μmの範囲で形成するが、望ましくは膜厚0.5μm~2μmの範囲で形成するとよい。
【0030】
また、有機レジストを用いる方法に代えて、炭素ターゲットを用いたスパッタリング法により炭素層を形成してもよい。例えば、圧力1×10-1Pa以下に調整された高真空処理室内において、アルゴンプラズマを炭素ターゲットに照射し、スパッタリング法により炭素層21を第1下地基材11の表面に成膜させてもよい。スパッタリング成膜される炭素層は、膜厚0.1μm~5μmの範囲で成膜するが、望ましくは膜厚1μm~2μmの範囲で成膜するとよい。
【0031】
更に、第1下地基材11の表面にカーボンシートを貼着して炭素層を形成してもよい。すなわち、第1下地基材11の表面に接着剤を塗布し、該接着剤を介しカーボンシートを貼着してもよい。尚、接着剤としてカーボン系の接着剤を使用してもよく、また、カーボンシートとして可撓性黒鉛シート、あるいは、PGSグラファイトシート(パナソニック株式会社製 商品名)を使用してもよい。カーボンシートとして、厚さ0.01mm~1.5mm範囲のシートを使用できるが、望ましくは、厚さ0.2mm~0.5mm範囲のシートがよい。
【0032】
(2)多結晶炭化珪素成膜工程
多結晶炭化珪素成膜工程は、
図1(C)に示すように、第2下地基材12の表面に化学気相成長法(CVD)により多結晶炭化珪素膜31を成膜する工程で、例えば、成膜装置の反応炉内に第2下地基材を固定し、減圧状態でアルゴン等の不活性ガスを流しながら炉内を成長温度(例えば1400℃)まで昇温させ、成長温度に達したら不活性ガスを止め、原料ガスおよびキャリアガスを流すことで第2下地基材12の表面に多結晶炭化珪素膜31を成膜することができる。
【0033】
(2-1)原料ガス
原料ガスとしては、多結晶炭化珪素膜を成膜することができれば、特に限定されず、一般的に使用されるSi系原料ガス、C系原料ガスを用いることができる。
【0034】
例えば、珪素(Si)系原料ガスとしては、シラン(SiH4)を用いることができるほか、モノクロロシラン(SiH3Cl)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリクロロシラン(SiHCl3)、テトラクロロシラン(SiCl4)等のエッチング作用があるClを含む塩素系Si原料含有ガス(クロライド系原料)を用いることができる。
【0035】
炭素(C)系原料ガスとしては、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、アセチレン(C2H2)等の炭化水素を用いることができる。
【0036】
上記のほか、テトラメチルシラン[(CH3)4Si]、トリクロロメチルシラン(CH3Cl3Si)、トリクロロフェニルシラン(C6H5Cl3Si)、ジクロロメチルシラン(CH4Cl2Si)、ジクロロジメチルシラン[(CH3)2SiCl2]、クロロトリメチルシラン[(CH3)3SiCl]等のSiとCとを両方含むガスも、原料ガスとして用いることができる。
【0037】
(2-2)キャリアガスとしては、成膜を阻害することなく、原料ガスを第2下地基材へ展開できれば、一般的に使用されるキャリアガスを用いることができる。例えば、熱伝導率に優れ、炭化珪素に対しエッチング作用がある水素(H2)を用いることができる。
【0038】
(2-3)また、多結晶炭化珪素基板が高耐圧・高出力電子素子用途に適用される場合、多結晶炭化珪素膜の抵抗率を下げる必要があり、多結晶炭化珪素膜内に窒素あるいはリン等の不純物(ドーパントガス)が導入される。そして、窒素あるいはリンの導入濃度は、例えば、1×1019/cm3以上である。
【0039】
(3)炭素層露出工程
炭素層露出工程は、
図1(D)に示すように、第2下地基材12の表面に成膜した多結晶炭化珪素膜31の外周端部を除去し、炭素層21の外周端部を露出させる工程である。
【0040】
上記多結晶炭化珪素成膜工程により、
図1(C)に示すように第2下地基材12の外周部にも多結晶炭化珪素膜31が成膜されるため、これを、例えば端面加工装置に投入し、成膜した多結晶炭化珪素膜31の端面から内側へ0.01mm~0.5mm程度研削して炭素層21の外周端部を露出させることができる。
【0041】
(4)多結晶炭化珪素膜分離工程
多結晶炭化珪素膜分離工程は、外周端が露出した
図1(D)の炭素層21を酸素雰囲気下において燃焼させ、
図1(E)に示すように第1下地基材11(第2下地基材から炭素層21が除去された第1下地基材11)から多結晶炭化珪素膜31を分離する工程である。
【0042】
すなわち、
図1(D)に示すように炭素層21の外周端が露出されかつ表面に多結晶炭化珪素膜31が成膜された第2下地基材12を、例えば1000℃の酸素含有雰囲気(酸素雰囲気)下で加熱することで、第1下地基材11と多結晶炭化珪素膜31間の炭素層21が燃焼され、第1下地基材11から2枚の多結晶炭化珪素膜31を分離することができる。
【0043】
ところで、上記第1下地基材11が、その表面に第1下地基材11の外周縁まで延在する帯状の溝を有する場合、炭素層露出工程で上記溝の開口端全部もしくは一部が露出して空気導入孔として作用するため、第1下地基材11と多結晶炭化珪素膜31間に介在する炭素層を効率的に燃焼させられる利点を有する。例えば、溝を有する第1下地基材11表面にカーボンシートが貼着された場合、炭素層露出工程で上記溝の開口端が露出して空気導入孔として作用させることが可能となる。
【0044】
尚、溝の寸法として、深さが0.01mm~1mmの範囲、幅が0.1mm~3mmの範囲を例示でき、かつ、溝数として、縦1本~10本の範囲、横1本~10本の範囲を例示することができる。
【0045】
(5)研削工程
本発明に係る多結晶炭化珪素基板の製造方法は、多結晶炭化珪素膜分離工程後、分離された多結晶炭化珪素膜表面を研削して平坦化する研削工程を有していてもよい。
【0046】
すなわち、第1下地基材11から分離した
図1(F)に示す多結晶炭化珪素膜31の成長最表面32aと成長裏面32bを研削して平坦化し、例えば、厚さ0.35mm程度の多結晶炭化珪素基板33が得られる。
【実施例0047】
以下、本発明の実施例について比較例も挙げて具体的に説明する。
【0048】
[実施例1]
多結晶炭化珪素から成る円盤状の第1下地基材上に、有機レジスト[東京応化工業(株)社製 エポキシ樹脂ベースレジスト材:TMMRTM/F S2000]をスピンコーターで塗布し、形成された有機レジスト膜を200℃で加熱して溶剤成分を排除した後、該有機レジスト膜を1000℃で炭化させ、膜厚0.5μmの炭素層を形成して第2下地基材を製造した。
【0049】
次いで、第2下地基材両面に化学気相成長法を用いて厚さ1.35mmの多結晶炭化珪素膜を成膜した。成膜条件は、反応炉内圧力を5kPa、成長温度を1350℃とし、ジクロロシラン(SiH2Cl2)ガスとアセチレン(C2H2)ガスを、それぞれ1000sccm、500sccm、キャリアガスとして水素ガスを5000sccmで導入した。
【0050】
次いで、両面に多結晶炭化珪素膜が成膜された円盤状の第2下地基材を端面加工装置に投入し、該第2下地基材の外周部を0.05mm端面研削して、上記炭素層の外周端を露出させた。
【0051】
そして、1000℃の大気雰囲気中において、外周端が露出した炭素層を24時間加熱して燃焼させ、第1下地基材(第2下地基材から炭素層が除去された第1下地基材)から多結晶炭化珪素を分離した後、多結晶炭化珪素の表側および裏面をそれぞれ0.5mm研削して平坦化し、多結晶炭化珪素基板を製造した。
【0052】
[比較例]
円盤状の下地基材に等方性カーボンを用い、上記下地基材の両面に実施例1と同一条件で厚さ1.35mmの多結晶炭化珪素膜を成膜した。
【0053】
そして、両面に多結晶炭化珪素膜が成膜された下地基材の外周部を0.05mm端面研削して下地基材である等方性カーボンの外周端を露出させ、1000℃の大気雰囲気中において外周端が露出した等方性カーボン(下地基材)を燃焼させて多結晶炭化珪素を分離した後、多結晶炭化珪素の表側および裏面をそれぞれ0.5mm研削して平坦化し、比較例に係る多結晶炭化珪素基板を製造した。
【0054】
[確認]
実施例1に係る多結晶炭化珪素基板と比較例に係る多結晶炭化珪素基板の「反り」と「抵抗率」を調べたところ、表1に示すように「反り」と「抵抗率」の値に有意差は認められなかった。
【0055】
但し、比較例では等方性カーボン(下地基材)の燃焼に長時間を要し、多結晶炭化珪素基板を製造する毎に等方性カーボン(下地基材)が無駄に消費される弊害を有していた。
【0056】
【0057】
[実施例2]
多結晶炭化珪素から成る円盤状の第1下地基材上に、カーボン接着剤[日清紡ケミカル(株)社製 商品名ST-201]を用いて厚さ0.3mmの可撓性黒鉛シート[東洋炭素(株)社製 商品名PERMA-FOIL]を貼着し、炭素層を形成した以外は実施例1と同様にして実施例2に係る多結晶炭化珪素基板を製造した。
【0058】
そして、実施例2に係る多結晶炭化珪素基板と上記比較例に係る多結晶炭化珪素基板の「反り」と「抵抗率」を調べたところ、表2に示すように「反り」と「抵抗率」の値に有意差は認められなかった。
【0059】
【0060】
[実施例3]
実施例1で用いた円盤状の第1下地基材(多結晶炭化珪素)を再利用して実施例1と同一条件で多結晶炭化珪素基板を繰り返し製造し、製造された多結晶炭化珪素基板の「反り」と「抵抗率」を調べたところ、
図3に示す結果が得られた。
【0061】
尚、
図3は、実施例1で用いた第1下地基材(多結晶炭化珪素)の「再利用回数(回)」と製造された多結晶炭化珪素基板の「反り(μm)」の関係、および、上記第1下地基材の「再利用回数(回)」と多結晶炭化珪素基板の「抵抗率(Ωcm)」の関係を示すグラフ図である。
【0062】
[確認]
(1)多結晶炭化珪素基板の「反り(μm)」
図3の符号「●」で示されるように、1回目に係る第1下地基材(多結晶炭化珪素)の使用では「反り=30μm」(実施例1参照)、5回目に係る第1下地基材の使用では「反り略29μm」、10回目に係る第1下地基材の使用では「反り略34μm」、50回目に係る第1下地基材の使用では「反り略32μm」、および、100回目に係る第1下地基材の使用では「反り略33μm」であった。
【0063】
このことから、多結晶炭化珪素基板の「反り(μm)」は第1下地基材の再利用回数に依存せずに略一定で、かつ、比較例に係る「反り=32μm」に対して有意差は認められないことが確認される。
【0064】
(2)多結晶炭化珪素基板の「抵抗率(Ωcm)」
図3の符号「▲」で示されるように、1回目に係る第1下地基材(多結晶炭化珪素)の使用では「抵抗率=0.018Ωcm」(実施例1参照)、5回目に係る第1下地基材の使用では「抵抗率略0.019Ωcm」、10回目に係る第1下地基材の使用では「抵抗率略0.019Ωcm」、50回目に係る第1下地基材の使用では「抵抗率略0.017Ωcm」、および、100回目に係る第1下地基材の使用では「抵抗率略0.015Ωcm」であった。
【0065】
このことから、多結晶炭化珪素基板の「抵抗率(Ωcm)」も第1下地基材の再利用回数に依存せずに略一定で、かつ、比較例に係る「抵抗率=0.015Ωcm」に対して有意差は認められないことが確認される。
本発明に係る多結晶炭化珪素基板の製造方法によれば、多結晶炭化珪素基板の品質を変えずに製造コストの低減が図れるため、単結晶炭化珪素が貼り合わされて炭化珪素半導体等に使用される多結晶炭化珪素基板の製造法として利用される産業上の利用可能性を有している。