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  • 特開-積層フィルム及び包装容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061529
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】積層フィルム及び包装容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20230425BHJP
   B65D 81/24 20060101ALI20230425BHJP
   B65D 77/20 20060101ALI20230425BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
B32B27/36
B65D81/24 K
B65D77/20 L
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171468
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】船岡 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】河村 悟史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由実
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優斗
【テーマコード(参考)】
3E067
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E067AA03
3E067AA04
3E067AB01
3E067AB26
3E067AB81
3E067BA07A
3E067BA10A
3E067BA12A
3E067BB14A
3E067BB15A
3E067BB16A
3E067BB25A
3E067BC07A
3E067CA04
3E067CA07
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3E067EA06
3E067EA32
3E067FB07
3E067FB13
3E067FC01
3E067GD07
3E086AB01
3E086AB02
3E086AC07
3E086AD01
3E086AD05
3E086AD06
3E086AD08
3E086AD24
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
3E086BA33
3E086BB01
3E086BB41
3E086BB51
3E086BB71
3E086BB85
3E086CA01
3E086CA03
3E086CA11
3E086CA28
3E086CA35
3E086DA08
4F100AA20B
4F100AK41B
4F100AK42A
4F100AK54B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100EH20B
4F100GB16
4F100JB16B
4F100JK06B
4F100JK10
4F100JL00C
4F100JL12B
(57)【要約】
【課題】 薄層でありながら良好なヒートシール性が得られ、環境負荷が低減された積層フィルム及び包装容器を提供すること。
【解決手段】 本発明の積層フィルム100は、基材層の片側にシーラント層150を設けた積層フィルムであって、前記シーラント層が、熱可塑性ポリエステル系樹脂により形成されたものであり、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂が、ヒートシール性強化成分を含有し、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂における前記ヒートシール性強化成分の含有割合が21質量%以上であり、突刺し強度が4N以上であることを特徴とする。本発明の包装容器は、上記の積層フィルムを用いたことを特徴とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層の片側にシーラント層を設けた積層フィルムであって、
前記シーラント層が、熱可塑性ポリエステル系樹脂により形成されたものであり、
前記熱可塑性ポリエステル系樹脂が、ヒートシール性強化成分を含有し、
前記熱可塑性ポリエステル系樹脂における前記ヒートシール性強化成分の含有割合が21質量%以上であり、
突刺し強度が4N以上であることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記積層フィルムが、前記基材層の片側に前記シーラント層を共押出し法により積層した共押出しフィルム部分を含むことを特徴とする請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記シーラント層の厚みが25μm以下であり、かつ、前記積層フィルムのヒートシール強度が30N/15mm以上となることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記積層フィルムのレトルト処理前後の突刺し強度の変化率が±20%以内であることを特徴とする請求項3に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記積層フィルムの基材層が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を主成分とする材料により形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記ヒートシール性強化成分の少なくとも1つがポリオキシアルキレングリコールであり、前記熱可塑性ポリエステル系樹脂における当該ポリオキシアルキレングリコールの含有割合が、5質量%以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記基材層の厚みが10~50μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記シーラント層の基材層の反対側の面上には、耐ブロッキング層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の積層フィルムを用いたことを特徴とする包装容器。
【請求項10】
前記包装容器が、包装袋または前記積層フィルムからなる蓋材を用いた密封容器であることを特徴とする請求項9に記載の包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムを熱接着することにより袋状に成形される包装袋用や、容器本体に熱接着されて使用される蓋材用の積層フィルム、及び、包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液体状や固体状の食品、飲料、化粧品、医薬品等の内容物を包装して収容する包装容器として、包装袋(パウチ)や、蓋材が接着されたカップ容器などが用いられている。例えば包装袋は、シャンプーや洗剤、調理済あるいは半調理済の食品等の内容物を収容する包装容器として用いられており、基材層上にシーラント層が積層された積層フィルムを、シーラント層同士が対向するよう重畳した状態で外周を熱接着して袋状に形成し、内側の収容部に内容物を収容している(例えば特許文献1参照。)。また、蓋材が接着されたカップ容器としては、ヨーグルト、ゼリー、プリン等の内容物を収容するカップ状の容器本体の縁フランジに、積層フィルムのシーラント層を熱接着して密封したものが挙げられる(例えば特許文献2参照。)。
【0003】
一方、包装容器においては、近年、省資源や環境保護など環境負荷の観点から、プラスチック使用量の低減やプラスチックのリサイクルが推進されている。
プラスチック使用量の低減に対しては、積層フィルムを薄肉化することが考えられるが、例えばシーラント層の薄肉化を図ると十分なヒートシール強度が得られず、従って密封性が低くなり内容物の漏洩などが発生してしまうおそれがある。
また、従来、シーラント層の材料としては直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)や高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)、或いは無延伸ポリプロピレン(CPP)等のオレフィン系樹脂が広く利用されているが、基材層を形成する材料種によっては積層フィルムから高品質の再生ペレットを得ることができずにリサイクル性が極めて低くなるおそれもある。
また、包装袋を構成するための積層フィルムには、突刺し耐性を有することが求められている。先端が尖った鋭利な部材が包装袋に接触した場合に包装袋が破けることがない外部接触の点、液体だけでなく角を有する固形物を充填した場合に包装袋が破けることがない内部接触の点から、高い突刺し耐性が必要とされる。破袋以外にも、突刺し強度が低いフィルムは脆いため、製膜時や加工時の取扱いに高度な注意が必要となり、例えばスリットや継ぎ足しの際の張力の変動やフィルムのズレにより破断の原因となりうるために、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-150807号公報
【特許文献2】特開2014-46983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の問題点を解決するものであり、薄層でありながら良好なヒートシール性が得られ、環境負荷が低減され、また、レトルト処理前後のいずれにも高い突刺し強度が得られる積層フィルム及び包装容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層フィルムは、基材層の片側にシーラント層を設けた積層フィルムであって、
前記シーラント層が、熱可塑性ポリエステル系樹脂により形成されたものであり、
前記熱可塑性ポリエステル系樹脂が、ヒートシール性強化成分を含有し、
前記熱可塑性ポリエステル系樹脂における前記ヒートシール性強化成分の含有割合が21質量%以上であり、
突刺し強度が4N以上であることにより、上記課題を解決するものである。
本発明の包装容器は、上記の積層フィルムを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層フィルムによれば、シーラント層が、熱可塑性ポリエステル系樹脂により形成されたものであることにより、薄層でありながら良好なヒートシール性が得られ、その結果、環境負荷が低減されながら内容物の漏洩の発生が防止された包装容器を得ることができる。さらに、基材層が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を主成分とする材料により形成されたものである場合は、この積層フィルムをレトルト用途の包装袋の材料として用いたときに、レトルト処理前後のいずれにも高い突刺し強度が得られる。
また、シーラント層が熱可塑性ポリエステル系樹脂を主材料として含み、さらにシーラント層以外の基材層をポリエステル系樹脂で形成することによって、積層フィルム全体がポリエステル系樹脂を主材料として構成されることとなるので、容易に高品質のポリエステル系材料やポリエステル系製品に再生することができて高いリサイクル性が得られ、環境負荷をより低減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る積層フィルムの概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔積層フィルム〕
本発明の一実施形態に係る積層フィルムは、図1に示すように、基材層110の片側(図1において上側)にシーラント層150が設けられたものである。
【0010】
〔シーラント層の主構成材料〕
シーラント層150は、熱可塑性ポリエステル系樹脂により形成されたものである。
熱可塑性ポリエステル系樹脂はヒートシール性強化成分を含有するものである。熱可塑性ポリエステル系樹脂は、具体的には、ヒートシール性強化成分に由来の構造単位を含有するポリエステル系共重合体(以下、「特定のポリエステル系共重合体」ともいう。)や、ヒートシール性強化成分に由来の構造単位を含有しないポリエステル系重合体(以下、「その他のポリエステル系重合体」ともいう。)にヒートシール性強化成分が分散・混合された樹脂(以下、「ヒートシール性強化成分混合樹脂」ともいう。)、およびこれらの混合物を主材料とするものである。シーラント層150がヒートシール性強化成分を含有する熱可塑性ポリエステル系樹脂により形成されたものであることにより、シーラント層150の厚みが例えば25μm以下等と薄い場合にも、積層フィルム100のヒートシール強度を30N/15mm以上とすることができる。
【0011】
特定のポリエステル系共重合体としては、後述するその他のポリエステル系重合体において、ヒートシール性強化成分としてポリオキシアルキレングリコールに由来の構造単位が含有されたものが挙げられる。ポリオキシアルキレングリコールとしては、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)やポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。特定のポリエステル系共重合体としては、PTMGに由来の構造単位を含有するポリブチレンテレフタレート共重合体(PTMG含有PBT共重合体)を用いることが好ましい。これらの特定のポリエステル系共重合体は、1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
その他のポリエステル系重合体としては、例えばポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンフラノエート、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)などを挙げることができ、特に、機械物性、耐熱性、流通量が多く安価であって経済合理性が得られる観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートを用いることがより好ましい。これらの樹脂は、イソフタル酸等のジカルボン酸や1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等のジオール、トリメリット酸、ペンタエリスリトール等の多官能化合物等の共重合成分を含んだ共重合体であってもよい。これらのその他のポリエステル系重合体は、1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
ヒートシール性強化成分混合樹脂は、上記のその他のポリエステル系樹脂を主材料とするものである。
熱可塑性ポリエステル系樹脂が特定のポリエステル系共重合体を主材料とするものである場合、ヒートシール性強化成分が混合されていない上記のその他のポリエステル系重合体がさらに混合されていてもよい。この場合、熱可塑性ポリエステル系樹脂における特定のポリエステル系共重合体の混合割合は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは100質量%である。熱可塑性ポリエステル系樹脂における特定のポリエステル系共重合体の混合割合が過少である場合には、特定のポリエステル系共重合体の含有量が十分に確保されず、薄層化されたシーラント層150に十分なヒートシール性が得られないおそれがある。
なお、シーラント層150は、上記の熱可塑性ポリエステル系樹脂と、ポリエステル系以外の熱可塑性樹脂との混合樹脂から形成されたものであってもよい。但し、リサイクル性の観点から、ポリエステル系以外の熱可塑性樹脂の混合量は、添加剤レベルの微量に抑える必要がある。さらに、上記の熱可塑性ポリエステル系樹脂には、必要に応じて滑材(アンチブロッキング剤)、光安定剤、相溶化剤、可塑剤、帯電防止剤、反応触媒、着色防止剤、ラジカル禁止剤、帯電防止剤、末端封鎖剤、酸化防止剤、熱安定剤、離型剤、難燃剤、抗菌剤、抗黴剤等の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0012】
〔ヒートシール性強化成分〕
熱可塑性ポリエステル系樹脂に含有されるヒートシール性強化成分は、熱可塑性ポリエステル系樹脂に高分散され、それ自体が脂肪族化合物からなり柔軟性が高く低融点である低融点成分と、熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化を阻害する結晶化阻害成分からなる樹脂組成の成分とをいう。
低融点成分は、短時間の熱接着で高いヒートシール強度を得る観点から、それ単体の融点が170℃以下のものであることが好ましい。なお、シーラント層の材料として通常よく用いられるポリエチレン(LDPE:融点105~115℃、LLDPE:融点115~125℃)、ポリプロピレン(融点160~170℃)は、0.1秒間~数秒間という短時間での熱接着で高いヒートシール強度を示す。また、低融点成分は、熱可塑性ポリエステル系樹脂中に高分散されていることが、安定した物性発現に必要である。熱可塑性ポリエステル系樹脂中への低融点成分の高分散は、熱可塑性ポリエステル系樹脂(特定のポリエステル系共重合体)を重合する際に低融点成分を共重合する方法や、その他のポリエステル系重合体と低融点成分とを溶融混練する方法などによって実現することができる。以上の融点及び高分散の観点から、低融点成分としては、特定のポリエステル系共重合体として共重合することもできるポリエーテルポリオール類である、ポリアセタール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、メトキシポリエチレングリコール等を好ましく挙げられる。これらの中でも、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)は、ポリエステルの一種であるポリブチレンテレフタレートを製造する際に副生成物として生じるテトラヒドロフラン(THF)を原料とすることができるため、低融点成分としてPTMGを用いることが経済合理性に優れ、より好ましい。
結晶化阻害成分は、特定のポリエステル系共重合体を重合する際に共重合する成分であり、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、5-ヒドロキシイソフタル酸、コハク酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、オルソフタル酸、ジフェン酸、イタコン酸、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、イソソルビド等が挙げられる。結晶化阻害成分としては、PETボトル用樹脂の材料などとして広く用いられており安価であって経済合理性が得られる観点から、イソフタル酸を用いることが特に好ましい。
【0013】
熱可塑性ポリエステル系樹脂における低融点成分の含有割合は5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは40~80質量%、更に好ましくは50~80質量%、特に好ましくは50~60質量%である。熱可塑性ポリエステル系樹脂における低融点成分の含有割合とは、当該熱可塑性ポリエステル系樹脂における、特定のポリエステル系共重合体中の低融点成分に由来の構造単位の含有割合と、ヒートシール性強化成分混合樹脂中の低融点成分の含有割合との合計をいう。
熱可塑性ポリエステル系樹脂における低融点成分の含有割合が5質量%未満である場合は、シーラント層150の柔軟化の効果が不十分となり、包装袋や蓋材といった軟包装材料として用いることが難しくなるおそれがある。
結晶化阻害成分は、低融点成分と共に用いることで、低融点成分の含有割合を抑制しても短時間の熱接着で高いヒートシール強度を得ることができる、という性質を有するものである。熱可塑性ポリエステル系樹脂における結晶化阻害成分の含有割合は、その種類や低融点成分の含有割合により好適な範囲は異なるが、熱可塑性ポリエステル系樹脂を非晶化させないために一般に30質量%未満であることが好ましい。また、熱可塑性ポリエステル系樹脂が低融点成分を充分に含有している場合には、結晶化阻害成分が含有されなくてもよい。
熱可塑性ポリエステル系樹脂におけるヒートシール性強化成分の含有割合、すなわち熱可塑性ポリエステル系樹脂における低融点成分および結晶化阻害成分の合計の含有割合は、21質量%以上であることが好ましく、より好ましくは30~80質量%、更に好ましくは40~80質量%、特に好ましくは50~60質量%である。
熱可塑性ポリエステル系樹脂におけるヒートシール性強化成分に由来の構造単位の含有割合が上記の範囲にあることにより、シーラント層150に十分なヒートシール強度が得られる。これは、それ自体が低融点である低融点成分や結晶化を阻害する結晶化阻害成分が高分散かつ適度に存在することによって熱可塑性ポリエステル系樹脂の易溶融化・柔軟化が図られることによるものと推測される。
【0014】
以下、PTMG含有PBT共重合体について説明する。
PTMG含有PBT共重合体は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジオール及びPTMGを含むジオール成分、更に必要に応じて用いられるその他の成分とをエステル化反応及び/又はエステル交換反応させた後、重縮合反応することにより得られるものであり、ジカルボン酸成分に由来の構造単位及びジオール成分に由来の構造単位を有する。
【0015】
PTMG含有PBT共重合体を形成するためのジカルボン酸成分は、テレフタル酸を主成分として含有し、全ジカルボン酸成分中のテレフタル酸の含有量は、適正な耐熱性及び経済合理性を得る観点から、70モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましい。
その他のジカルボン酸成分としては、安価にシーラント層150の耐熱性を低く抑制する観点から、イソフタル酸を含有することが好ましい。
【0016】
テレフタル酸及びイソフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、具体的には、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族鎖式ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体;ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体;フタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体、2,5-フランジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。
これらのジカルボン酸成分の中でも、テレフタル酸、2,5-フランジカルボン酸は植物原料から合成することができ、環境配慮の観点から積極的に用いることが好ましい。
【0017】
PTMG含有PBT共重合体を形成するためのジオール成分は、1,4-ブタンジオール及びPTMGを含む。ジオール成分においては、1,4-ブタンジオールに由来の構造単位及びPTMGに由来の構造単位が全体として主成分を構成することが好ましい。具体的には、全ジオール成分中の1,4-ブタンジオール及びPTMGの含有量の合計が、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
ジオール成分におけるPTMGの分子量は例えば500~3,000とされる。通常、PTMG含有PBT共重合体中のPTMGに由来の構造単位の分子量は、原料として用いるPTMGの分子量に基づいて維持される。
【0018】
1,4-ブタンジオール及びPTMG以外のジオール成分としては、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオールなどの直鎖式脂肪族ジオール;1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,1-シクロヘキサンジメチロール、1,4-シクロヘキサンジメチロールなどの環式脂肪族ジオール;キシリレングリコール、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンなどの芳香族ジオール;イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、エリトリタンなどの植物原料由来のジオール等を挙げることができる。これらのジオール成分は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。
これらのジオール成分の中でも、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、PTMGも植物原料から合成及び重合することができ、環境配慮の観点から積極的に用いることが好ましい。
【0019】
PTMG含有PBT共重合体を形成する際に更に必要に応じて用いられるその他の成分としては、グリコール酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸や、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸等の三官能以上の多官能カルボン酸;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能アルコール等が挙げられる。これらのその他の成分は、1種類のものに限定されるものではなく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0020】
ポリエステル系共重合体は、マレイン酸変性されたものであってもよい。ポリエステル系共重合体がマレイン酸変性されたものである場合、当該ポリエステル系共重合体におけるマレイン酸に由来の構造単位の含有割合は3.0質量%以下とされることが好ましい。
【0021】
〔シーラント層の層構成〕
シーラント層150は、単層のものであってもよく、2層以上の多層構成であってもよい。ただし、シーラント層150が多層構成のものである場合には、少なくともヒートシールする最外層が上記に詳述したヒートシール性強化成分を含有する熱可塑性ポリエステル系樹脂を主材料とするものであることが必要とされる。
【0022】
〔シーラント層の厚み〕
シーラント層150(多層構成のものである場合にはその最外層)の厚みは、例えば40μm以下とされ、好ましくは5~35μmであり、より好ましくは5~30μm、特に好ましくは5~25μmである。
シーラント層150が過度に厚いものである場合は、プラスチック使用量が多くて環境負荷を十分に軽減する効果が得られない。一方、シーラント層150が過度に薄いものである場合は、包装容器の密封に必要とされるヒートシール強度が確保できないおそれがある。
【0023】
〔その他の層〕
シーラント層150とともに積層フィルム100を構成する基材層110は、単層フィルムとして構成されていてもよく、複数層によって構成されていてもよい。図1の例の積層フィルム100においては、表層111と、この表層111及びシーラント層150の間に介在された中間層112とから構成されている。基材層110が単層フィルムとして構成される場合には、例えば下記に詳述する表層111のみからなるものとすることができる。
基材層110を構成する各層のうち少なくとも表層111は、ヒートシールしたときに溶融しないよう、例えば200℃以上の融点を有する材料よりなることが好ましい。
また、基材層110を構成する各層は、ポリエステル系樹脂を主成分とする材料よりなることが好ましい。ポリエステル系樹脂を主成分とするとは、当該層を形成する全材料中の80質量%以上がポリエステル系樹脂であることをいい、当該層を形成する全材料(100質量%)がポリエステル系樹脂であることが好ましい。基材層110を構成する各層がポリエステル系樹脂を主成分とする材料よりなることにより、シーラント層150を含めて積層フィルム100全体がポリエステル系樹脂を主材料として構成されることとなるので、リサイクル時の加熱・混練(再ペレット化)におけるエステル交換による相溶化成分の生成などによって高品質の再生ペレットを得ることができ、従って、高いリサイクル性が得られ、環境負荷を低減することができる。
【0024】
表層111としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、PTMGに由来の構造単位を含有しないポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンフラノエート等からなるものとすることができ、特に、積層フィルム100の突刺し耐性などの機械的強度の向上の観点から、PTMGに由来の構造単位を含有しないポリブチレンテレフタレート、特にホモポリマーのポリブチレンテレフタレートなどのポリブチレンテレフタレート系樹脂からなるものであることが好ましい。表層111(あるいは基材層110)がポリブチレンテレフタレート系樹脂を主成分とする材料により形成されたものであることにより、レトルト処理前後のいずれにも高い突刺し強度を得ることができる。表層111を形成する材料は、機械物性や耐熱性の観点から、延伸処理(一軸延伸、二軸延伸)が施されたホモポリマーであることが好ましいが、無延伸品や共重合品であってもよい。また、これらは、1種を単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることもできる。特に、表層111を、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を主成分とする材料により形成されたものとすることにより、積層フィルム100をレトルト処理の前後を問わず4N以上の突刺し強度を有するものとすることができる。
表層111の厚みは、例えば10~50μm程度とすることができ、25~50μmであることが好ましく、特に好ましくは40~50μmである。表層111がこのような厚みを有することにより、積層フィルム100に上記の突刺し強度を確実に付与することができる。
【0025】
中間層112としては、例えばガスバリア性や水分バリア性が付与されたバリア層とすることができる。バリア層としては、表層111上に形成されたアルミナや酸化珪素などの金属酸化物による蒸着膜や、ポリエステルとの成形加工条件が近しく高いバリア性を有するMXD6ナイロン層等とすることができる。また、中間層112は表層111に接する部分であれば、様々な位置に設けることができる。例えば表層111の片面、両面、複数の表層111の間に設けることができる。
中間層112の厚みは、対象用途にもよるが、例えば0.05~100μm程度とすることができる。
【0026】
積層フィルム100においては、シーラント層150の基材層110の反対側(内面側)の面上にフィルム同士のブロッキングを防ぐための耐ブロッキング層(アンチブロッキング層)がさらに設けられていてもよい。
【0027】
積層フィルム100は、レトルト処理する前の突刺し強度が4N以上であり、5N以上であることが好ましく、さらに好ましくは6N以上である。
また、積層フィルム100をレトルト処理した後の突刺し強度が4N以上であることが好ましく、5N以上であることがより好ましく、さらに好ましくは6N以上である。
積層フィルム100は、特に、レトルト処理の前後を問わず5N以上の突刺し強度を有することが好ましい。例えば無延伸ポリプロピレン(CPP)は、一般的なレトルト用途にも適用可能なシーラント層を形成するための材料として用いられているが、CPPを用いたシーラント層を有する積層フィルムは、5N以上の突刺し強度を得ようとするとシーラント層だけで例えば70μm以上の厚みを有さないと、幅広い用途に適用可能なものとならない。CPPによるシーラント層の厚みが例えば50μmである場合は、これを有する積層フィルムは、レトルト用途に適用可能ではあるが、内容物の量、包装袋のサイズ、別途箱に入れるなどの対応が必要となる結果、その用途が限定されてしまう。以上のように、幅広い用途に適用する観点から、厚み70μmのCPPによるシーラント層を有する積層フィルムと同等以上の突刺し強度を有することが好ましく、すなわち、レトルト処理の前後を問わず5N以上の突刺し強度を有することが好ましい。本発明の積層フィルム100は、CPPを用いたシーラント層の代替としても幅広く用いることが可能となる。また、積層フィルム100がレトルト処理の前後を問わず6N以上の突刺し強度を有する場合は、この積層フィルム100をCPPによるシーラント層の代替として用いた場合に、より突刺し強度に優れた包装袋を得ることができる。
【0028】
また、この積層フィルム100のレトルト処理前後の突刺し強度の変化率が±20%以内であることが好ましく、より好ましくは±17%以内であり、さらに好ましくは±11%以内である。このレトルト処理前後の突刺し強度の変化率が前記の範囲にあることにより、基材層110が薄層でありながら高い突刺し強度が得られ、その結果、環境負荷を低減させることができる。突刺し強度の変化率は、レトルト処理後の突刺し強度がレトルト処理前の突刺し強度よりも小さくなる場合がマイナス値となる。
レトルト処理は、120~135℃の温度範囲で実施されることが多い。処理時間は120℃では20~30分間、135℃では5~10分間にわたって実施されることが多い。本発明では127℃、30分間の加熱をレトルト処理の条件とした。
積層フィルム100の突刺し強度は、直径40mmのリングにフィルムを弛みのないように張り、先端角度60度、先端R0.5mmの針を使用し、円の中央を50mm/分の速度で突き刺し、針が貫通するときの荷重(N)として測定される値である(JIS-Z1707:2019に準拠)。
【0029】
〔積層フィルムの作製方法〕
本発明の積層フィルム100は、その層構成に応じて、ドライラミネート法や押出しラミネート法、共押出し法などの公知の方法を採用して製造することができる。
例えば、共押出し法を利用して隣接する層を積層する場合には、各層の材料を共押出しして積層することにより共押出しフィルム部分を得ることができる。積層フィルム100の基材層110が単層フィルム(表層111)として構成される場合には、共押出しフィルム部分がシーラント層150および基材層110のみよりなる積層フィルム100を一つの工程で得ることができる。共押出しによって得られた共押出しフィルム部分に対して、例えばドライラミネート用接着剤などを用いてさらに適宜の層を積層させてもよい。
また例えば、ドライラミネート法を利用して隣接する層を積層する場合には、ウレタン系接着剤やエポキシ系接着剤などのドライラミネート用接着剤を用いて隣接する層を積層することができる。例えば、基材層110上に形成された中間層112上に、シーラント層150を積層する場合、このシーラント層150と中間層112とをドライラミネート用接着剤を用いて接着することができ、この場合、このシーラント層150と中間層112との間には、接着剤層が介在することとなる。接着剤層の厚みは、100μm以下である。
また例えば、押出しラミネート法を利用して隣接する層を積層する場合には、必要に応じてアンカーコート層を介して隣接する層を積層することができる。アンカーコート層の厚みは、接着剤層よりも薄く、10μm以下である。また例えば、シーラント層150が多層構成のものである場合には、共押出し法を利用して多層構成のシーラント層150を形成することもできる。
上記の方法の中でも、溶剤や接着剤を必要とせず、フィルムを貼り合わせる工程も不要な共押出しによる方法が、環境負荷が少なく生産効率も高い観点から、特に好ましい。さらに、共押出による方法を用いる場合、基材層を形成する材料としてポリブチレンテレフタレート系樹脂を主成分とする材料を用いると、シーラント層を形成するためのヒートシール性強化成分を含有する熱可塑性ポリエステル系樹脂と共押出しした後、そのまま冷却、巻き取ることで、基材層が結晶化し、耐熱性および機械強度に優れるフィルムとなることから、更に好ましい。
【0030】
本発明の積層フィルム100のヒートシール強度は、シーラント層150の材料や層構成、厚み、基材層110の材料や厚み等によっても異なるが、例えば40N/15mm以上であることが好ましく、より好ましくは60N/15mm以上である。特に、積層フィルム100のシーラント層150の厚みが25μm以下である場合に、この積層フィルム100のヒートシール強度が30N/15mm以上であることが好ましい。
【0031】
〔包装容器〕
本発明の包装容器は、上記の積層フィルム100を用いた密封性を有する容器である。具体的には、包装袋(パウチ)や、積層フィルム100を蓋材として用いた密封容器などが挙げられる。
包装袋(パウチ)は、シーラント層150同士が対向するよう積重配置された積層フィルム100が、袋状をなすよう周囲が熱接着(ヒートシール)されて形成された構成とされる。包装袋は、例えば平面視にて外形形状が矩形形状をなし、四方がヒートシールされた平パウチに限定されず、スタンディングパウチ、三方シールタイプ、ピロータイプ、ガセットタイプ等の種々のタイプのパウチに適用することができる。また、包装袋の形状は、平面視で矩形形状をなす以外の、例えば台形や、一部に凹凸のある異形形状等、如何なる形状としてもよい。
積層フィルム100を蓋材として用いた密封容器は、内容物を収容する容器本体の縁フランジ上に、積層フィルム100をシーラント層150がこの縁フランジに接触する状態で配置して熱接着することにより、積層フィルム100が接着されて密封された構成とされる。このような密封容器の容器本体は、リサイクル性の観点から、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等よりなるものであることが好ましい。なお、密封容器の容器本体は、カップ状やトレー状等、如何なる形状としてもよい。
【0032】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
【実施例0033】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
〔実施例1~5、比較例1〕
PTMG含有PBT共重合体1(またはPTMG含有PBT共重合体2)とPBTに親水性シリカを5質量%混合した樹脂組成物(表中「MB」と示す。)とを、表2に示す質量%となるよう混合して二軸押出機Aのホッパーから供給し、240~245℃で溶融した。さらにPTMGに由来の構造単位を含有しないポリブチレンテレフタレート(PBT)を二軸押出機Bのホッパーから供給し、260~270℃で溶融混練した。これらの二軸押出機A、Bから押出された樹脂をマルチマニフォールドTダイに供給し、膜状に押出してキャストロール(50℃)で冷却固化することにより、表2に示す厚さの積層フィルムA~Eを製造した。使用したPTMG含有PBT共重合体(表中、単に「共重合体」と示す。)の樹脂組成を表1に示す。また、積層フィルムA~Eの、PTMG含有PBT共重合体およびMBによる層(シーラント層)の厚み、PBTによる層(基材層)の厚みは表2に示す通りであった。
また、PTMG含有PBT共重合体3を二軸押出機Aのホッパーから供給し、240~245℃で溶融した。さらにPTMGに由来の構造単位を含有しないポリブチレンテレフタレート(PBT)を二軸押出機Bのホッパーから供給し、260~270℃で溶融混練した。これらの二軸押出機A、Bから押出された樹脂をマルチマニフォールドTダイに供給し、膜状に押出してキャストロール(50℃)で冷却固化することにより、表2に示す厚さの積層フィルムFを製造した。使用したPTMG含有PBT共重合体3の樹脂組成を表1に示す。また、積層フィルムFの、PTMG含有PBT共重合体による層(シーラント層)の厚み、PBTによる層(基材層)の厚みは表2に示す通りであった。
【0035】
この積層フィルムA~Fについて、以下のように突刺し強度を測定した。すなわち、直径40mmのリングにフィルムを弛みのないように張り、先端角度60度、先端R0.5mmの針を使用し、円の中央を50mm/分の速度で突き刺し、針が貫通するときの荷重(N)を突刺し強度とした(JIS-Z1707:2019に準拠)。突刺し強度の測定は、基材層側およびシーラント層側からそれぞれ行った。1種の積層フィルムについて各測定を5回実施し、最小値・最大値を除いた3回分の測定値の平均値を突刺し強度とした。突刺し強度は、レトルト処理前後の積層フィルムのそれぞれについて行った。結果を表2に示す。
また、上記積層フィルムA~Fのヒートシール強度について評価するために、それぞれ評価用の積層フィルムA’~F’を別途作製し、これを用いて下記方法に従ってヒートシール強度試験を行い、ヒートシール強度について評価した。評価用の積層フィルムA’~F’は、厚み12μmの二軸延伸PET層(基材層)上に接着層を介してそれぞれ積層フィルムA~Fに係るシーラント層を単層として形成したフィルムが常法のドライラミネート法で積層されたものである。結果を表2に示す。
本発明においては、ヒートシール強度が30(N/15mm)以上である場合を実用に耐えるとして評価した。
【0036】
<ヒートシール強度試験>
以上の積層フィルムA’~F’について、各積層フィルムをシーラント層同士が対向するよう重ね、ヒートシール試験装置(テスター産業株式会社製)を使用し、シール幅10mm、シール温度210℃(片面)、シール圧0.3MPa、シール時間1.0秒間の条件でヒートシールを行い、長さ80mm(シール幅10mm含む)、幅15mmの試験片A~Fをそれぞれ作製した。そして、試験片A~Fについて、テンシロン万能試験機(エー・アンド・デイ社製)を用いて、JIS-Z1707に準じ、23℃、50%RH環境下で引張試験を実施した。引張試験では、ヒートシール部を中心にして試験片を180°開いて、その両端を万能試験機に取り付け、300mm/minの速度で引っ張った最大荷重(N)を求めた。試験片の幅に対する最大荷重がヒートシール強度(N/15mm)として測定される。
1種の積層フィルムについて5回測定し、最小値・最大値を除いた3回分の測定値の平均値を積層フィルムのヒートシール強度とした。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表2の結果から、実施例1~5に係る積層フィルムA~Eにおいては、高いヒートシール強度が得られるとともにレトルト処理前およびレトルト処理後のいずれにおいても高い突刺し強度が得られ、レトルト処理前後の突刺し強度の変化率が小さいことが確認された。特に、基材層の厚みが30μm以上である実施例1~4においては、レトルト処理前およびレトルト処理後のいずれにおいても5N以上の突刺し強度が得られ、さらに、基材層の厚みが40μm以上である実施例1,3,4においては、レトルト処理前およびレトルト処理後のいずれにおいても6N以上の高い突刺し強度が得られることが確認された。
一方、比較例1に係る積層フィルムFにおいては、高い突刺し強度が得られるものの、薄いシーラント層では十分なヒートシール強度が得られないことが確認された。
【0040】
〔参考例1~6、比較参考例1~3〕
厚み38μmの二軸延伸PET層(最外層)上に接着層を介して表3に示されるシーラント層(最内層)が常法のドライラミネート法で積層された積層フィルムG~Oを用意した。各積層フィルムG~Oは、シーラント層を形成する材料やその厚みが異なる。各積層フィルムG~Oのシーラント層は、表3に示すように、PTMG含有PBT共重合体より形成される。表3に、PTMG含有PBT共重合体の樹脂組成を示す。
各積層フィルムG~Oにおけるシーラント層のイソフタル酸およびPTMGに由来の構造単位の含有割合は、核磁気共鳴分析装置(日本電子社製)を用いたプロトンNMR測定にて樹脂組成を分析して算出した。
積層フィルムG~Oについて、実施例1と同様にしてヒートシール強度試験を行ってヒートシール強度を測定した。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表3の結果から、シーラント層を構成するPTMG含有PBT共重合体におけるヒートシール性強化成分の含有割合が21質量%以上である参考例1~6に係る積層フィルムG~Lにおいては、相対的に薄いシーラント層によっても高いヒートシール強度が確保できることが確認された。
【0043】
〔参考例7、比較参考例4~9〕
表4に示される材料および厚みを有する基材層を単層フィルムとして作製し、それぞれについてレトルト処理前後の突刺し強度の測定を上記と同様にして行った。単層フィルムのレトルト処理は次の通りである。単層フィルム片をガラス板に固定し、それをレトルト瓶に入れ、水を充填・密閉した。レトルト瓶をオートクレーブにて127℃で30分間加熱する処理を行った。結果を表4に示す。
表4中、「IA変性PET」は、イソフタル酸が共重合されたポリエチレンテレフタレートであり、「ブロックPP」は、ブロックポリプロピレンであり、「PE組成物」は、直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(メタセロン触媒LLDPE)および高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)からなる組成物であり、「モディック」はポリエステル系樹脂:商品名「モディック QC430」(三菱ケミカル株式会社製)である。
【0044】
【表4】
【0045】
表4に示すように、基材層がPBTである場合にはレトルト処理前およびレトルト処理後の突刺し強度がいずれも高く、レトルト処理前後の突刺し強度の変化率が小さいことが確認された。
【符号の説明】
【0046】
100 ・・・ 積層フィルム
110 ・・・ 基材層
111 ・・・ 表層
112 ・・・ 中間層
150 ・・・ シーラント層
図1