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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061564
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】水素製造用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/22 20060101AFI20230425BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
B01J27/22 M
C01B3/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171539
(22)【出願日】2021-10-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月2日発行の日本金属学会2021年春季(第168回)予稿集 令和3年3月18日の日本金属学会2021年春季(第168回)での講演 令和3年4月14日発行のRSC Advances、2021,Vol.11,pp.14063-14070 令和3年6月4日の兵庫県立大学によるプレスリリース 令和3年8月25日付の神戸新聞社が発行した神戸新聞の新聞記事
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】390000022
【氏名又は名称】サンアロイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086335
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 榮一
(72)【発明者】
【氏名】森下 政夫
(72)【発明者】
【氏名】柳田 秀文
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BB15A
4G169BB15B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169CB81
4G169DA05
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC02Y
4G169FB05
4G169FB34
4G169FB44
4G169FB80
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】高濃度に水素を貯蔵する水素含有化合物であるアンモニアボランから、安定して高能率で水素を生成する。
【解決手段】アンモニアボラン(NHBH)から水素を生成するために用いられる水素製造用の触媒であって、タングステン(W)格子中に強磁性のコバルト(Co)が固溶されたコバルト固溶タングステン合金粉末の炭化物であって、Co-W-C固溶体相が内包され内部磁場が付与され強磁性とされているタングステン炭化物からなる。強磁性を呈するタングステン炭化物は、高い触媒活性を実現し、アンモニアボランから水素を生成するために用いられる水素製造用触媒として機能する。Co-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物は、コバルトがタングステン格子中に非平衡強制固溶されることにより、コバルトがタングステンの粒界中に均一に固溶され、触媒活性が高めらる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアボランから水素を生成するために用いられる水素製造用触媒であって、
炭化タングステン(WC)の格子中に、強磁性のコバルト(Co)が固溶され、内部磁場が付与され強磁性のタングステン炭化物からなることを特徴とする水素製造用触媒。
【請求項2】
前記タングステン炭化物は、タングステン(W)格子中に強磁性のコバルト(Co)が固溶されたコバルト固溶タングステン合金粉末の炭化物であって、Co-W-C固溶体相が内包され内部磁場が付与され強磁性とされていることを特徴とする請求項1記載の水素製造用触媒。
【請求項3】
前記タングステン炭化物は、粒径を32μm以下の微細粉末とされていることを特徴とする請求項1記載の水素製造用触媒。
【請求項4】
前記タングステン炭化物は、強磁性のコバルト(Co)を0.3~10.0重量%、タングステン(W)を84.5~93.6重量%、炭素(C)を5.0~6.1重量%の範囲で含有するCo-W-C固溶体相を内包して内部磁場が付与されていることを特徴とする請求項1-3のいずれか1項に記載の水素製造用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素含有化合物であるアンモニアボランから水素を生成する際に用いる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境破壊を抑制するエネルギー源として水素が注目され、水素を燃料とする燃料電池が注目され、実用化されている。
【0003】
水素は、常温、常圧の環境下において気相であり、所定の反応量の体積が固相に比較して数百倍~千倍であるばかりか、爆発性を有するため、安全に且つ大量に貯蔵し、運搬することが困難である。このような水素ガスが有する問題点を解消し、安全で容易に取り扱いを可能とするため、燃料電池の燃料としては、天然ガス、メタノール、ガソリンなどを改質して得られる水素ガスが用いられている。
【0004】
この種の燃料は、安全性に問題があるばかりか、燃料電池の燃料として用いたとき起電力が十分でなく、電力の供給源として十分な性能を実現できない。
【0005】
従来用いられている水素含有媒体が有する問題点に鑑み、安全性に優れ、取り扱いが容易で、燃料電池の燃料として用いたとき十分な起電力を実現し得る燃料について鋭意研究され、高濃度に水素を含有する水素含有化合物としてアンモニアボラン(NHBH)が提案されている(特許文献1、2)。
【0006】
アンモニアボランに含有された水素は、アンモニアボランを溶解した水溶液に触媒として白金(Pt)を加え、この水溶液を加水分解することにより生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-286549号公報
【特許文献2】特開2009-176556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、触媒に用いるPt等の貴金属は、資源量が乏しく高価であるため、アンモニアボランから、安価に安定して水素の生成を行うことが困難となる。
【0009】
自動車の駆動源として用いられる燃料電池や民生用の携帯端末装置の電源に用いられる燃料電池にあっては、高濃度に水素を貯蔵する水素含有化合物から、安価に、安定して高能率で水素を生成し、さらには、電池自体の小型化を実現することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、アンモニアボラン(NHBH)などの水素含有化合物の水素を生成する際に用いられるPtの触媒の作用、その機能に着目し、Ptと同等、もしくはPt以上の触媒作用を実現可能な水素生成用の触媒を鋭意研究した結果実現したものである。
【0011】
特に、本発明者等は、触媒として用いられるPtの特徴を鋭意研究した結果、Ptが磁性を有することに着目し、Ptに比し安価に、しかも安定して入手、あるいは供給可能な新規な水素製造用触媒を完成した。
【0012】
本発明に係る水素生成用触媒は、Ptに代わって用いることを可能とする触媒であって、磁性を有するタングステン炭化物からなり、強磁性のコバルト(Co)をタングステン格子中に固溶したコバルト固溶タングステン合金粉末を炭化したものである。このタングステン炭化物は、タングステン(W)格子中に強磁性のコバルト(Co)が固溶されたコバルト固溶タングステン合金粉末の炭化物であって、Co-W-C固溶体相が内包され内部磁場が付与されていることを特徴とする。
【0013】
水素製造用の触媒として用いられるタングステン炭化物は、粒径を32μm以下の微細粉末とすることが望ましい。
【0014】
そして、水素製造用の触媒として用いられるタングステン炭化物は、コバルト(Co)を0.3~10.0重量%、タングステン(W)を84.5~93.6重量%、炭素(C)を5.0~6.1重量%の範囲で含有するCo-W-C固溶体相を内包して内部磁場が付与されていることを特徴とする。
【0015】
そして、アンモニアボランから水素を生成するために用いられるCo-W-C固溶体相を内包して内部磁場が付与されたタングステン炭化物からなる水素製造用の触媒は、タングステン成分と、強磁性のコバルト成分を混合した混合水溶液を作製し、次いで、前記混合水溶液を蒸発乾固又は噴霧乾燥し、当該得られた固形物を熱分解して酸化物粉末を生成し、または、さらに水素熱還元したコバルト固溶タンクステン合金粉末を生成し、その後、前記コバルト固溶タンクステン合金粉末を炭化処理し、Co-W-C固溶体相を内包し内部磁場が付与されたタングステン炭化物を生成して製造される。
【0016】
ここで、前記混合水溶液は、タングステン成分を99~73mol%、強磁性のコバルト成分を1~27mol%の比率で混合することが望ましい。
本発明に係る水素製造用の触媒は、アンモニアボランを溶解した水溶液に混合して用いられる。この触媒を混合したアンモニアボランの水溶液は、加水分解されることにより、アンモニアボランから水素ガス(H)を生成する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る触媒を構成するCo-W-C固溶体相を内包して内部磁場が付与されたタングステン炭化物は、親水性を有することから、高濃度に水素の貯蔵を可能とする水素含有化合物であるアンモニアボランを加水分解する際の触媒として用いて好適である。このCo-W-C固溶体相を内包し内部磁場が付与され強磁性とされたタングステン炭化物からなる触媒は、高濃度に水素の貯蔵を可能とする水素含有化合物であるアンモニアボランから水素(H)ガスを高能率で生成することを可能とする。水素(H)ガスの生成効率は、Ptを触媒として用いたときと同等、さらにはこれを凌駕するものである。
【0018】
本発明に係る触媒は、アンモニアボランを加水分解して生成される水素ガスの転換率を向上し、安定して高能率での水素ガスの生成を可能とする。
【0019】
本発明に係る触媒は、Pt等の貴金属を用いるものではなく、資源として豊富な素材を用いているので、安価に、しかも安定して供給することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るタングステン炭化物が、アンモニアボランから水素を生成する際に触媒としての機能を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施例1に係るタングステン炭化物をEMPA観察した結果を示す図である。
図3】本発明に係るCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物、W-Co合金、Ptナノ粒子(PtNPs)、純WCを、それぞれ触媒をそれぞれ触媒に用いてアンモニアボランから水素(H)ガスを生成したときの経時変化による発生量を示す特性図である。
図4】本発明に係るCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物と、WC合金の4Kにおける磁場-磁化曲線を示す図である。
図5】実施例2の触媒を用いてアンモニアボラン中の水素成分から水素(H)ガスに転換した転換効率と反応時間との関係を示す図である。
図6】実施例3の触媒を用いてアンモニアボラン中の水素成分から水素(H)ガスに転換した転換効率と反応時間との関係を示す図である。
図7】実施例4の触媒を用いてアンモニアボラン中の水素成分から水素(H)ガスに転換した転換効率と反応時間との関係を示す図である。
図8】実施例5の触媒を用いてアンモニアボラン中の水素成分から水素(H)ガスに転換した転換効率と反応時間との関係を示す図である。
図9】実施例6の触媒を用いてアンモニアボラン中の水素成分から水素(H)ガスに転換した転換効率と反応時間との関係を示す図である。
図10】実施例7の触媒を用いてアンモニアボラン中の水素成分から水素(H)ガスに転換した転換効率と反応時間との関係を示す図である。
図11】実施例8の触媒を用いてアンモニアボラン中の水素成分から水素(H)ガスに転換した転換効率と反応時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施の形態は、水素含有化合物であるアンモニアボラン(NHBH)から水素を生成するために用いられる水素製造用の触媒であって、この触媒は、Co-W-C固溶体相を内包し磁性が付与されたタングステン炭化物からなるものであって、このタングステン炭化物は、強磁性のコバルト(Co)がタングステン(W)格子中に非平衡強制固溶されたコバルト固溶タングステン合金粉末を炭化して作製される。
【0022】
本実施の形態に係るタングステン炭化物を作製するために用いられるコバルト固溶タングステン合金粉末は、タングステンイオンを含むタングステン酸アンモニウムの水溶液とコバルトイオンを含む酢酸コバルトの水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。
【0023】
この混合水溶液は、タングステン成分を99~73mol%含有し、強磁性のコバルト成分を1~27mol%含有するようにタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液を混合することが望ましい。
【0024】
上述の混合水溶液は、蒸発乾固処理若しくは噴霧乾燥処理されることにより乾燥物が生成される。ここで得られた乾燥物は、酸化物に熱分解される。乾燥物の酸化物への熱分解は、500℃~600℃の酸素雰囲気中、望ましくは570℃の酸素雰囲気中で2時間程度保持することにより行われる。
【0025】
上記乾燥物を熱分解して作製された酸化物は、水素還元されることにより、コバルト固溶タングステン合金粉末とされる。この水素還元は、上述の工程で得られた酸化物を、750℃~850℃の水素雰囲気中、望ましくは800℃の水素雰囲気中で3時間程度保持することによって行われる。この酸化物が水素還元されることにより、コバルト固溶タングステン合金粉末が得られる。
【0026】
ここで作製されたコバルト固溶タングステン合金粉末は、コバルト(Co)がタングステン格子中に非平衡強制固溶されたものとなる。
【0027】
上述のようにして作製されたコバルト固溶タングステン合金粉末は、炭化処理されることにより、Co-W-C固溶体相を内包して内部磁場が付与されたタングステン炭化物とされる。この内部磁場が付与されたタングステン炭化物は、水素含有化合物であるアンモニアボラン(NHBH)から水素を生成するために用いられる水素製造用の触媒として用いられる。
【0028】
ところで、コバルト固溶タングステン合金粉末の炭化処理は、二酸化炭素(CO)ガス雰囲気中で加熱処理して行われる。例えば、コバルト固溶タングステン合金粉末を反応炉中にセットした後、この反応炉にCOガスを流入し、反応炉内を約900℃の雰囲気として約20時間加熱する。
【0029】
ところで、コバルト固溶タングステン合金粉末は、タングステンに対するコバルトの含有割合が過剰であると、炭化が阻害され、Co-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物の作製が困難であった。上述した混合水溶液の状態で、コバルト成分が30mol%を超えると炭化が阻害され、Co-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物が作製できなかった。
【0030】
また、混合水溶液の状態で、強磁性のコバルト成分が1mol%以下であると、タングステン炭化物中に固溶されたコバルト成分の割合が十分ではなく、高い触媒活性を得ることができない。これは、Co-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物の磁化が十分に得られないため、磁性を利用した触媒特性が得られないためとみられる。そのため、アンモニアボラン(NHBH)から水素を生成するために用いられる水素製造用の触媒として用いるには不十分である。
【0031】
そして、タングステン成分を99~73mol%含有し、コバルト成分を1~27mol%含有するようにタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液を混合した混合水溶液を出発材料として作製されたCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物は、Coを0.3~10.0重量%、Wを84.5~93.6重量%、Cを5.0~6.1重量%の範囲で含有するものとなる。
【0032】
このタングステン炭化物は、炭化タングステン(WC)の骨格中に、Co-W-C固溶体相を内包する構造を有する。この内包されたCo-W-C固溶体相は、純Coに近い成分、及びCo-W-Cの3成分系状態図の相平衡によって決定されるW成分とC成分を含有する。このCo-W-C固溶体相は強磁性元素コバルトの性質を反映していることから以下では強磁性コバルトナノ結晶と称する。コバルトナノ結晶は、コバルト原子が結晶した構造を有する結晶体であって、数nm~数十nmの粒径を有する多結晶体である。
【0033】
触媒として用いられるタングステン炭化物は、アンモニアボランの水溶液に均一に混合された水溶液を構成するため、例えば粉砕処理され、粒径を32μm以下にすることが望ましい。
【0034】
本実施の形態を構成するタングステン炭化物は、炭化タングステン(WC)の骨格中に強磁性のコバルトナノ結晶を内包したものであって、磁場-磁化曲線がヒステリシスループを描き、強磁性を呈する。強磁性を呈するタングステン炭化物は、高い触媒活性を実現し、アンモニアボランから水素を生成するために用いられる水素製造用触媒として機能する。
【0035】
上述したような組成を有し、上述したような工程を経て作製されたタングステン炭化物を触媒として用いて、アンモニアボラン(NHBH )から水素を生成するには、タングステン炭化物と水を混合した混合液と、結晶体としてのアンモニアボランを溶解したアンモニアボランの水溶液を混合する。このタングステン炭化物が混合されたアンモニアボランの水溶液を加水分解すると、下記の式(1)にしたがって水素(H)ガスが生成される。
NHBH+2HO=NH +BO +3H ・・・(1)
【0036】
なお、アンモニアボラン(NHBH )の水溶液は、タングステン炭化物を混合した混合液に直接アンモニアボランを投入して溶解するようにしてもよい。
【0037】
Co-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物は、アンモニアボラン(NHBH )の水溶液を加水分解する際の触媒として機能し、アンモニアボランからの水素の生成を促進する。
【0038】
ここで、上述したタングステン炭化物が、アンモニアボランから水素を生成する際に触媒としての機能について図1を参照して説明する。
【0039】
結晶固体であるアンモニアボラン(NHBH(cr))を溶解した水溶液(NHBH (aq))に、Co-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物の混合液を混合した水溶液を電気分解すると、アンモニアボラン(NHBH )の分子が、W-B結合の引力相互作用によってWC骨格中に吸引される。そして、アンモニアボラン(NHBH)を構成するホウ素(B)とチッソ(N)の結合であるB-N結合が切断され、安定な気体であるNH(aq)と不安定な気体であるB(OH)(aq)が生成される。このとき、図1に示す水素生成反応の模式図に示すように、プロトン(H)を発生させる。ここで発生したプロトン(H)の核スピン(Nucleus Spin)がコバルト(Co)の電子スピン(Electronic Spin)との相互作用により、プロトン(H)が整列し、水素ガス(H(g))が発生する。
【実施例0040】
次に、本発明に係る水素製造用触媒の具体的な実施例を説明する。
(実施例1)
【0041】
実施例1は、水素製造用触媒として用いられるCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物であって、コバルト固溶タングステン合金粉末を炭化して生成されるる。タングステン炭化物を生成するために用いられるコバルト固溶タングステン合金粉末は、タングステンイオンを含むタングステン酸アンモニウムの水溶液とコバルトイオンを含む酢酸コバルトの水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、タングステン(W)とコバルト(Co)がモル比で80:20となるようにタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液を混合して作製した、
【0042】
この混合水溶液は、蒸発乾固され乾燥物とされる。この乾燥物は570℃の酸素雰囲気中で2時間保持され酸化物に熱分解される。熱分解された酸化物は、800℃の水素雰囲気中で3時間保持され水素還元される。この酸化物は水素還元されることにより、コバルトを非平衡強制固溶したコバルト固溶タングステン合金粉末とされる。
【0043】
ここで得られたコバルト固溶タングステン合金粉末1gを反応炉中に設置し、この反応炉中に二酸化炭素(CO)ガスを流入し、反応炉中を900℃まで昇温して24時間保持することによって炭化処理された。
【0044】
この炭化処理を行う際、COガスを用いて直接炭化することが不可能であるため、反応炉内に予めAl-Fe合金粉末の圧縮成形体を設置しておき、この成形体をCOガスから一酸化炭素(CO)ガスへの転換剤として炭化した。
【0045】
上述したような処理工程を経て炭化されたコバルト固溶タングステン合金粉末は、Co-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物とされる。このCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物をEPMA観察した結果を図2に示す。SEM像と対応するWとCのX線像より、WCの骨格が形成されていることが分かった。また、CoのX線像より、WCの骨格中に金属相が形成されていることが理解できる。
すなわち、図2の(a)はSEM像である。(a)において、白く見える部分がWC骨格であり、黒く見える部分がCoナノ結晶のドメインである。(a)において示されるCoナノ結晶は、3nm~20nmの粒径を有する多結晶体からなるドメインであった。
そして、図2の(b)は、WのX線像であり、WC骨格の形成を示す。図2(c)は、CoのX線像であり、WC骨格中のCoナノ結晶のドメインの形成を示す。図2(d)は、CのX線像であり、WC骨格の形成を示す。
【0046】
ここで得られたCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用い、以下に示す工程を経てアンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを生成した。
【0047】
まず、上述の工程を経て作製されたCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の粉末を純水に混合した混合液を準備する。この混合液は、粒径を32μm以下とするCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物20mgを計量し、1mlの純水に投入しスターラーを用いて攪拌して作製した。
【0048】
ここで、Co-W-C固溶体相内包タングステン炭化物は、粉砕して微細化し、粒径が32μm以下とするものを分級して用いた。
【0049】
次に、0.5molのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を1.5mlの純水に混合してアンモニアボラン水溶液を作製した。
【0050】
上述したようにして作製したCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の混合液とアンモニアボラン水溶液を混合した水溶液を加水分解した。
【0051】
この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定し、これをモル量に換算した。Hガスの発生量は、時間の変化で評価し、水素生成反応(HER)速度を評価した。なお、水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果を図3中のAで示す。図3中のAに示す測定値の結果は、同様の加水分解を4回行った結果の平均値である。
【0052】
ここで、図3に示すHガスの発生量の経時変化による測定値は、同様の加水分解を4回行った結果の平均値で示した。
【0053】
本実施例に係るタングステン炭化物を触媒として用いた場合と比較するため、W-Co合金、Ptナノ粒子(PtNPs)、純WCを、それぞれ触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)水溶液を加水分解して水素(H)ガスを生成する実験を行った。
【0054】
まず、W-Co合金を触媒として用いる場合、本実施例のタングステン炭化物を用いる場合と同様に、W-Co合金の粉末20mgを計量し、1mlの純水に投入し、スターラーを用いて攪拌して作製した。ここで、W-Co合金は、粉砕して微細化し、例えば粒径が32μm以下とするものを分級して用いた。
【0055】
W-Co合金の粉末を触媒として用いる場合、本実施例のタングステン炭化物を用いる場合と同様に、W-Co合金粉末20mgを計量し、1mlの純水に投入し、スターラーを用いて攪拌して作製した。
【0056】
次に、0.5molのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を1.5mlの純水に混合してアンモニアボラン水溶液を作製した。
【0057】
ここで作成したアンモニアボラン水溶液と上述のW-Co合金粉末の混合液とを混合した水溶液を加水分解した。前記実施例のタングステン炭化物を触媒として用いたときと同様に、この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定し、これをモル量に換算した。Hガスの発生量は、時間の変化で評価し、水素生成反応(HER)速度を評価した。水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果を図3中のBに示す。図3のBに示す測定値の結果は、同様の加水分解を4回行った結果の平均値で示した。
【0058】
そして、Ptナノ粒子(PtNPs)を触媒として用いる場合、本実施例のタングステン炭化物を用いる場合と同様に、Ptナノ粒子20mgを計量し、1mlの純水に投入し、スターラーを用いて攪拌して作製した。
【0059】
次に、0.5molのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を1.5mlの純水に混合してアンモニアボラン水溶液を作製した。
【0060】
ここで作成したアンモニアボラン水溶液と上述のPtナノ粒子の混合液とを混合した水溶液を加水分解した。前記実施例のタングステン炭化物を触媒として用いたときと同様に、この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定し、これをモル量に換算した。水素(H)ガスの発生量は、時間の変化で評価し、水素生成反応(HER)速度を評価した。水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果を図3中のCに示す。図3のCに示す測定値の結果は、同様の加水分解を4回行った結果の平均値で示した。
【0061】
純WCを触媒として用いる場合、タングステン炭化物を触媒として用いた場合と同様に、粉砕して微細化する。このとき、純WCとして粒径を32μm以下とするものを分級して用いる。純WCを触媒として用いる場合、本実施例のタングステン炭化物を用いる場合と同様に、純WC粒子20mgを計量し、1mlの純水に投入し、スターラーを用いて攪拌して作製した。
【0062】
次に、0.5molのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を1.5mlの純水に混合してアンモニアボラン水溶液を作製した。
【0063】
ここで作成したアンモニアボラン水溶液と上述の純WC粒子の混合液とを混合した水溶液を加水分解した。前記実施例のタングステン炭化物を触媒として用いたときと同様に、この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの発生量を体積(HEV)で測定し、これをモル量に換算した。水素(H)ガスの発生量は、時間の変化で評価し、水素生成反応(HER)速度を評価した。水素(H)ガスの発生量は、温度308Kで測定した。その測定した結果を図3中のDに示す。純WCでは水素は全く生成しなかったのでこの1回のみの測定に留めた。
【0064】
本実施例のタングステン炭化物、W-Co合金、Ptナノ粒子(PtNPs)、純WCをそれぞれ触媒に用いてアンモニアボランを加水分解して生成される水素(H)ガスの生成量(HEV)は、図3に示すように、タングステン炭化物を触媒として用いた場合と、Ptナノ粒子を触媒として用いた場合で近接した量の発生が認められた。
【0065】
W-Co合金を触媒に用いた場合のHEVは、本実施例のタングステン炭化物、Ptナノ粒子を触媒として用いた場合と比較すると劣ることが分かった。
【0066】
そして、純WCを触媒として、前述したようにアンモニアボランを加水分解した場合、図3中Dに示すように、水素(H)ガスの発生は測定可能値以下であった。
【0067】
ここで、図3に示す本実施例のタングステン炭化物、W-Co合金、Ptナノ粒子、純WCをそれぞれ触媒に用いたとき、アンモニアボランから生成される水素(H)ガスの生成速度から、各素材の比表面積(SSA)の単位面積あたりの水素(H)ガス生成速度(NHER)を評価した。各素材の比表面積(SSA)は、BET法により測定した。
【0068】
そして、各素材を各触媒として用いたときの水素(H)ガス生成速度は、図3において、水素の発生量(HEV)が直線的に変化する領域から水素発生速度を求めた。
【0069】
本実施例のタングステン炭化物の比表面積(SSA)は、1.35m(g-1-cat)
であった。Ptナノ粒子の比表面積(SSA)は、3.40m(g-1-cat)であった。そして、W-Co合金の比表面積(SSA)は、2.23m(g-1-cat)であり、純WCの比表面積(SSA)は、1.03m(g-1-cat)であった。
【0070】
各素材の比表面積(SSA)に基づき単位面積あたりに換算した水素(H)ガス生成速度(NHER)を評価した。本実施例のタングステン炭化物は、3.76±0.37(H2-mol min-1(m-2-cat)であった。W-CO合金のそれは、0.45±0.11(H2-mol min-1(m-2-cat)であり、Ptナノ粒子は、2.90±1.04(H2-mol min-1(m-2-cat)であった。そして、純WCは、0であった。
【0071】
以上より、本実施例のタングステン炭化物を触媒に用いたときの単位面積あたりの水素(H)ガス生成速度(NHER)は、Ptナノ粒子を触媒に用いたときより約30%優れていることが分かった。
【0072】
一方、W-Co合金を触媒に用いたときの単位面積あたりの水素(H)ガス生成速度(NHER)は、本実施例のタングステン炭化物を触媒として用いたときの約10%程度であった。
【0073】
このような測定の結果から、本実施例のタングステン炭化物の水素(H)ガス生成速度(NHER)がPtナノ粒子のそれを凌駕し、W-Co合金が劣ることに着目し、本実施例のタングステン炭化物とW-Co合金の磁化測定を行った。
【0074】
本実施例のタングステン炭化物とW-Co合金の磁化測定は、4Kで行った。その結果を図4の磁場-磁化曲線に示す。本実施例のタングステン炭化物は、図4に示すようにヒステリシスカーブを描き、強磁性であることが判明した。
【0075】
本実施例のタングステン炭化物の磁化がCoによるものとすると、飽和磁化(Ms)は、Co1原子あたり1.50μBとなった。同様にして、308Kで磁化測定した本実施例の飽和磁化(Ms)は、Co1原子あたり1.42μBとなった。なお、バルクのコバルト結晶の飽和磁化(M)は、1.7μBである。
【0076】
一方、W-Co合金の磁場-磁化曲線は、図4に示すように磁化が小さく、スピングラス(非磁性)であることが分かった。これは、体心立方格子(bcc)の原子配置を有するタングステン原子の格子中にCo原子が孤立して存在すると、Co原子の3d電子の交換エネルギーが低下してスピングラスになることが分かった。
【0077】
以上より、本実施例に係るタングステン炭化物は、強磁性を有することにより、アンモニアボランから水素(H)ガスを生成する際の触媒として機能することが実証されたところである。
【0078】
また、本実施例のタングステン炭化物を触媒に用いたときの単位面積あたりの水素(H)ガス生成速度(NHER)は、上述したように、Ptナノ粒子を触媒に用いたときより約30%優れていることが示された。
【0079】
これは、図1を参照して説明したように、Co-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を構成するWC骨格は、Pt類似の電子状態密度(DOS)に由来し、アンモニアボランのN-B結合を切断してプロトン(H)を発生させる。そして、ここで発生したプロトン(H)の核スピン(Nucleus Spin)がコバルト(Co)の電子スピン(Electronic Spin)との相互作用により、プロトン(H)が整列し、水素ガス(H(g))が発生する。
(実施例2)
【0080】
次に、実施例1のタングステン炭化物を触媒に用いて、アンモニアボラン(NHBH)に含有する水素成分から水素(H)ガスへの転換率を評価した。転換率の評価は、下記に示す式(2)に基づいて評価した。
転換率(%)=(Hガスモル量×2)/アンモニアボラン中水素成分モル量)・・・(2)
【0081】
本実施例では、実施例1で作製したCoナノ結晶内包タングステン炭化物の粉末を純水に混合した混合液を準備した。この混合液は、粒径を32μm以下するCo-W -C固溶体相内包タングステン炭化物10.3mgを計量して3.0mlの純水に投入しスターラーを用いて攪拌して作製した。
【0082】
ここで、Co-W-C固溶体相内包タングステン炭化物は、粉砕して微細化し、粒径が32μm以下とするものを分級して用いるようにしてもよい。 次に、13.0mgのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を2.0mlの純水に混合溶解し、アンモニアボラン水溶液を作製した。
【0083】
上述したようにして作製したCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の混合液とアンモニアボラン水溶液を混合した水溶液を加水分解した。 この加水分解の工程で発生する水素(H2)ガスの体積を測定しモル量に換算した。アンモニアボラン(NHBH)に含有する水素成分から水素(H)ガスへの転換 率を前記式(2)に基づいて評価した。
【0084】
上述の水溶液を加水分解してアンモニアボラン中の水素成分から水素(H)ガスに転換した転換効率と反応時間との関係を図5に示す。
【0085】
図5に示すように、30分経過するまで急速に転換効率が上昇し、45分経過後の転換率は77%であって、水素製造触媒として優れていることが判明した。
(実施例3)
【0086】
実施例3のタングステン炭化物は、実施例1と同様に、水素製造用の触媒として用いられるCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物であって、タングステン(W)格子中に強磁性のコバルト(Co)が固溶されたコバルト固溶タングステン合金粉末を炭化して生成される。タングステン炭化物を生成するために用いられるコバルト固溶タングステン合金粉末は、タングステンイオンを含むタングステン酸アンモニウムの水溶液とコバルトイオンを含む酢酸コバルトの水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、タングステン(W)とコバルト(Co)がモル比で99:1となるようにタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液を混合して作製した。
【0087】
ここで作製されたタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液の混合溶液は、前期実施例1のタングステン炭化物を製造するのと同様の処理工程を経て得られたコバルト固溶タングステン合金粉末とされる。ここで作製されたコバルト固溶タングステン合金粉末0.4gを反応炉中に設置し、この反応炉中に二酸化炭素(CO)ガスを流入し、反応炉中を900℃まで昇温して9時間保持することによって炭化処理した。この炭化処理により、コバルト固溶タングステン合金粉末は、Co-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物とされる。
【0088】
実施例3において製造されるタングステン炭化物は、実施例1のタングステン炭化物と同様に、Co-W-C固溶体相を内包する炭化物であり、磁場-磁化曲線がヒステリシスカーブを描き、強磁性を有する。
【0089】
ここで得られたCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物を触媒として用い、以下に示す工程を経てアンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを製造した。
【0090】
まず、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを製造するため、上述の工程を経て作製されたCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の粉末を純水に混合した混合液を準備する。この混合液は、粒径を32μm以下するCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を20.0mg計量して1.5mlの純水に投入しスターラーを用いて攪拌して作製した。
【0091】
次に、15.0mgのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を1.0mlの純水に混合溶解し、アンモニアボラン水溶液を作製した。
【0092】
上述したようにして作製したCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の混合液とアンモニアボラン水溶液を混合した水溶液を加水分解した。この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの体積を測定しモル量に換算した。
【0093】
アンモニアボラン(NHBH)に含有する水素成分から水素(H)ガスへの転換率は、前記式2に基づいて評価した。
【0094】
上述の水溶液を加水分解してアンモニアボラン中の水素成分から水素(H)ガスに転換した転換効率と反応時間との関係を図6に示す。
【0095】
実施例3のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒としてアンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを転換したときの転換効率は、図6に示すように、100分経過後で17%であった。100分経過後で17%の転換率を有することにより、水素製造用の触媒として十分に実用可能であることが分かった。
(実施例4)
【0096】
実施例4のタングステン炭化物は、前記各実施例と同様に、水素製造用の触媒として用いられるCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物であって、タングステン(W)格子中に強磁性のコバルト(Co)が固溶されたコバルト固溶タングステン合金粉末を炭化して生成される。このタングステン炭化物を生成するために用いられるコバルト固溶タングステン合金粉末は、タングステンイオンを含むタングステン酸アンモニウムの水溶液とコバルトイオンを含む酢酸コバルトの水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、タングステン(W)とコバルト(Co)がモル比で95:5となるようにタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液を混合して作製した。
【0097】
ここで作製されたタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液の混合溶液は、前記実施例1のタングステン炭化物を製造するのと同様の処理工程を経て得られたコバルト固溶タングステン合金粉末とされる。ここで作製されたコバルト固溶タングステン合金粉末0.4gを反応炉中に設置し、この反応炉中に二酸化炭素(CO)ガスを流入し、反応炉中を900℃まで昇温して9時間保持することによって炭化処理した。この炭化処理により、コバルト固溶タングステン合金粉末は、Co-W-C固溶体相を内包し強磁性のタングステン炭化物とされる。
【0098】
ここで得られたCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物を触媒として用い、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを製造した。
【0099】
実施例3のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを製造する工程は、実施例2のタングステン炭化物を触媒として用いたときと同様に、粒径を32μm以下するCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を20.0mg計量して1.5mlの純水に投入しスターラーを用いて攪拌し上記タングステン炭化物の混合液を作製した。
【0100】
次に、15.0mgのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を1.0mlの純水に混合溶解し、アンモニアボラン水溶液を作製した。
【0101】
上述したようにして作製したCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の混合液とアンモニアボラン水溶液を混合した水溶液を加水分解した。この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの体積を測定しモル量に換算した。
【0102】
アンモニアボラン(NHBH)に含有する水素成分から水素(H)ガスへの転換率は、前記式2に基づいて評価した。
【0103】
上述の水溶液を加水分解してアンモニアボラン中の水素成分から水素(H)ガスに転換した転換効率と反応時間との関係を図7に示す。
【0104】
実施例4のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いてアンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを転換したときの転換率と反応時間の関係を図7に示す。実施例4のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いたときの転換効率は、図7に示すように、100分経過後で74%であった。100分経過後で74%の転換率を有することにより、実施例4のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物は、水素製造触媒として優れていることが判明した。
(実施例5)
【0105】
実施例5のタングステン炭化物は、前記各実施例と同様に、水素製造用の触媒として用いられるCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物であって、タングステン(W)格子中に強磁性のコバルト(Co)が固溶されたコバルト固溶タングステン合金粉末を炭化して生成される。このタングステン炭化物を生成するために用いられるコバルト固溶タングステン合金粉末は、タングステンイオンを含むタングステン酸アンモニウムの水溶液とコバルトイオンを含む酢酸コバルトの水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、タングステン(W)とコバルト(Co)がモル比で90:10となるようにタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液を混合して作製した。
【0106】
ここで作製されたタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液の混合溶液は、前期実施例1のタングステン炭化物を製造するのと同様の処理工程を経て得られたコバルト固溶タングステン合金粉末とされる。ここで作製されたコバルト固溶タングステン合金粉末0.4gを反応炉中に設置し、この反応炉中に二酸化炭素(CO)ガスを流入し、反応炉中を900℃まで昇温して9時間保持することによって炭化処理した。この炭化処理により、コバルト固溶タングステン合金粉末は、Co-W-C固溶体相を内包し強磁性のタングステン炭化物とされる。
【0107】
ここで得られたCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物を触媒として用い、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを製造した。
【0108】
実施例5のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを製造する工程は、前記実施例2、3のタングステン炭化物を触媒として用いて水素(H)ガスを製造したときと同様に、粒径を32μm以下するCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を20.0mg計量して1.5mlの純水に投入しスターラーを用いて攪拌し上記タングステン炭化物の混合液を作製した。
【0109】
次に、15.0mgのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を1.0mlの純水に混合溶解し、アンモニアボラン水溶液を作製した。
【0110】
上述したようにして作製したCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の混合液とアンモニアボラン水溶液を混合した水溶液を加水分解した。この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの体積を測定しモル量に換算した。
【0111】
アンモニアボラン(NHBH)に含有する水素成分から水素(H)ガスへの転換率は、前記式2に基づいて評価した。
【0112】
実施例5のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いてアンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを転換したときの転換率と反応時間の関係を図8に示す。実施例5のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いたときの転換効率は、図8に示すように、15分経過するまで急速に上昇し、20分経過後の転換率は78%であって、水素製造触媒として優れていることが判明した。
(実施例6)
【0113】
実施例6のタングステン炭化物は、前記各実施例と同様に、水素製造用の触媒として用いられるCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物であって、タングステン(W)格子中に強磁性のコバルト(Co)が固溶されたコバルト固溶タングステン合金粉末を炭化して生成される。このタングステン炭化物を生成するために用いられるコバルト固溶タングステン合金粉末は、タングステンイオンを含むタングステン酸アンモニウムの水溶液とコバルトイオンを含む酢酸コバルトの水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、タングステン(W)とコバルト(Co)がモル比で85:15となるようにタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液を混合して作製した。
【0114】
ここで作製されたタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液の混合溶液は、前期実施例1のタングステン炭化物を製造するのと同様の処理工程を経て得られたコバルト固溶タングステン合金粉末とされる。ここで作製されたコバルト固溶タングステン合金粉末0.4gを反応炉中に設置し、この反応炉中に二酸化炭素(CO)ガスを流入し、反応炉中を900℃まで昇温して9時間保持することによって炭化処理した。この炭化処理により、コバルト固溶タングステン合金粉末は、Co-W-C固溶体相を内包する強磁性のタングステン炭化物とされる。
【0115】
ここで得られたCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物を触媒として用い、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを製造した。
【0116】
実施例6のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを製造する工程は、実施例2~4のタングステン炭化物を触媒として用いたときと同様に、粒径を32μm以下とするCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を20.0mg計量して1.5mlの純水に投入しスターラーを用いて攪拌し上記タングステン炭化物の混合液を作製した。
【0117】
次に、15.0mgのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を1.0mlの純水に混合溶解し、アンモニアボラン水溶液を作製した。
【0118】
上述したようにして作製したCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の混合液とアンモニアボラン水溶液を混合した水溶液を加水分解した。この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの体積を測定しモル量に換算した。
【0119】
アンモニアボラン(NHBH)に含有する水素成分から水素(H)ガスへの転換率は、前記式2に基づいて評価した。
【0120】
実施例6のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いてアンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを転換したときの転換率と反応時間の関係を図9に示す。実施例6のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いたときの転換効率は、図9に示すように、15分経過するまで急速に上昇し、20分経過後の転換率は79%であって、水素製造触媒として優れていることが判明した。
(実施例7)
【0121】
実施例7のタングステン炭化物は、前記各実施例と同様に、水素製造用の触媒として用いられるCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物であって、タングステン(W)格子中に強磁性のコバルト(Co)が固溶されたコバルト固溶タングステン合金粉末を炭化して生成される。このタングステン炭化物を生成するために用いられるコバルト固溶タングステン合金粉末は、タングステンイオンを含むタングステン酸アンモニウムの水溶液とコバルトイオンを含む酢酸コバルトの水溶液とを混合した混合水溶液を用いて作製される。この混合水溶液は、タングステン(W)とコバルト(Co)がモル比で75:25となるようにタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液を混合して作製した、
【0122】
ここで作製されたタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液の混合溶液は、前期実施例1のタングステン炭化物を製造するのと同様の処理工程を経て得られたコバルト固溶タングステン合金粉末とされる。ここで作製されたコバルト固溶タングステン合金粉末0.4gを反応炉中に設置し、この反応炉中に二酸化炭素(CO)ガスを流入し、反応炉中を900℃まで昇温して9時間保持することによって炭化処理した。この炭化処理により、コバルト固溶タングステン合金粉末は、Co-W-C固溶体相を内包する強磁性のタングステン炭化物とされる。
【0123】
ここで得られたCo-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物を触媒として用い、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを製造した。
【0124】
実施例7のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いて、アンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを製造する工程は、実施例2~6のタングステン炭化物を触媒として用いたときと同様に、粒径を32μm以下するCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を20.0mg計量して1.5mlの純水に投入しスターラーを用いて攪拌し上記タングステン炭化物の混合液を作製した。
【0125】
次に、15.0mgのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を1.0mlの純水に混合溶解し、アンモニアボラン水溶液を作製した。
【0126】
上述したようにして作製したCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の混合液とアンモニアボラン水溶液を混合した水溶液を加水分解した。この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの体積を測定し、生成するモル量に換算した。
【0127】
アンモニアボラン(NHBH)に含有する水素成分から水素(H)ガスへの転換率は、前記式2に基づいて評価した。
【0128】
実施例7のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いてアンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスを転換したときの転換率と反応時間の関係を図10に示す。実施例7のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を触媒として用いたときの転換効率は、図10に示すように、15分経過するまで急速に上昇し、20分経過後の転換率は73%であって、水素製造触媒として優れていることが判明した。
(実施例8)
【0129】
実施例8は、実施例1と同様に、タングステン(W)とコバルト(Co)がモル比で80:20となるようにタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液を混合した混合水溶液を用いて製造したCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を用いてアンモニアボラン(NHBH)から水素(H)を製造した。
【0130】
タングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液の混合溶液は、前期実施例1のタングステン炭化物を製造するのと同様の処理工程を経てコバルト固溶タングステン合金粉末とされる。ここで作製されたコバルト固溶タングステン合金粉末0.4gを反応炉中に設置し、この反応炉中に二酸化炭素(CO)ガスを流入し、反応炉中を900℃まで昇温して9時間保持することによって炭化処理した。この炭化処理により、コバルト固溶タングステン合金粉末は、Co-W-C固溶体相を内包する強磁性のタングステン炭化物とされる。
【0131】
実施例8では、実施例1において水素(H)を製造した条件に比しCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の純水に対する混合割合を増加し、アンモニアボラン(NHBH)の水溶液に対する溶解濃度を増加して水素(H)の製造を行った。
【0132】
すなわち、実施例8では、実施例1~7のCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を用いて水素(H)の製造を行った場合と同様に、粒径を32μm以下としたCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物20.0mgを1.5mlの純水に混合した混合液と、15.0mgのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を1.0mlの純水に混合溶解したアンモニアボラン水溶液とを混合した水溶液を加水分解した。この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの体積を測定し、生成するモル量に換算した。
【0133】
アンモニアボラン(NHBH)に含有する水素成分から水素(H)ガスへの転換率は、前記式2に基づいて評価した。
【0134】
実施例1に比しCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の溶液に対する混合量を増加しながらアンモニアボラン(NHBH)の溶液に対する濃度を増加して水素(H)を製造したときの水素(H)ガスの転換率と反応時間の関係は、図11に示すように、10分経過するまで急速に上昇し、10分経過後の転換率は73%であった。
【0135】
図11に示す結果から、Co-W-C固溶体相内包タングステン炭化物の溶液に対する混合量を増加しながらアンモニアボラン(NHBH)の溶液に対する濃度を増加することにより、転換効率を向上することができる。
(比較例1)
【0136】
比較例1は、タングステンイオンを含むタングステン酸アンモニウムの水溶液とコバルトイオンを含む酢酸コバルトの水溶液とを混合した混合水溶液を調製した。この混合水溶液は、タングステン(W)とコバルト(Co)がモル比で70:30となるようにタングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液を混合して作製した。この混合水溶液を実施例1のコバルト固溶タングステン合金粉末を製造すると同様に、蒸発乾固、熱分解し、さらに水素熱還元することにより、コバルトが非平衡強制固溶したコバルト固溶タングステン合金粉末を作製した。
【0137】
ここで得られたコバルト固溶タングステン合金粉末は、実施例1のタングステン炭化物を製造する場合と同様に、反応炉中に設置され、この反応炉中に二酸化炭素(CO)ガスを流入し、反応炉内を900℃まで昇温して21時間保持した。しかしながら、Co-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物を作製することができなかった。これは、タングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液の混合液中の過剰なコバルト(Co)が、コバルト固溶タングステン合金粉末を二酸化炭素(CO)の雰囲気中で加熱処理して炭化処理する際の炭化を阻害したためである。
【0138】
なお、コバルト(Co)は、前記実施例3で示したように、タングステン酸アンモニウムの水溶液と酢酸コバルトの水溶液の混合液中に、タングステン(W)とのモル比で99:1の割合で含有するのみで、上記混合液から作製されるコバルト固溶タングステン合金粉末を二酸化炭素(CO)の雰囲気中で加熱処理して炭化処理することにより、Co-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を製造することができる。
(比較例2)
【0139】
比較例2は、市販の粒径を1μm以下とする純炭化タングステン(WC)粉末を触媒に用いてアンモニアボラン(NHBH)から水素(H)ガスの生成を試みた。
【0140】
比較例2の純WC粉末は、前記実施例3~8と同様に、20mg計量して1.5mlの純水に投入され、スターラーを用いて攪拌されて純WC粉末含有の混合液とした。この混合液は、13mgのアンモニアボラン(NHBH)の粉末を1mlの純水に混合溶解したアンモニアボラン水溶液と混合された混合液とされる。純WC粉末含有の混合液とアンモニアボラン水溶液の混合水溶液を加水分解し、この加水分解の工程で発生する水素(H)ガスの転換率を測定した。このときの転換率は零であり、アンモニアボラン(NHBH)の加水分解を促進することはできなかった。これは、 純WCは、前述したように非磁性体であり、しかも疎水性を有するものであるので、純水に混合したとき凝集し、アンモニアボラン(NHBH)を加水分解するための触媒として機能しないためである。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明に係る水素製造用触媒として用いられるCo-W-C固溶体相内包タングステン炭化物は、親水であるので、アンモニアボランを純水に混合溶解して加水分解する際の触媒として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-10-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアボラン(NH BH )から水素(H を生成するために用いられる水素製造用触媒であって、
前記アンモニアボラン(NH BH )のB-N結合を切断し、NH とB(OH) を生成するとともに、プロトン(H )を発生させる炭化タングステン(WC)の格子中に、前記プロトン(H )を磁気吸引する強磁性のコバルト(Co)が固溶され、内部磁場が付与され強磁性のタングステン炭化物からなることを特徴とする水素製造用触媒。
【請求項2】
前記タングステン炭化物は、タングステン(W)格子中に強磁性のコバルト(Co)が固溶されたコバルト固溶タングステン合金粉末の炭化物であって、Co-W-C固溶体相が内包され内部磁場が付与され強磁性とされていることを特徴とする請求項1記載の水素製造用触媒。
【請求項3】
前記タングステン炭化物は、粒径を32μm以下の微細粉末とされていることを特徴とする請求項1記載の水素製造用触媒。
【請求項4】
前記タングステン炭化物は、強磁性のコバルト(Co)を0.3~10.0重量%、タングステン(W)を84.5~93.6重量%、炭素(C)を5.0~6.1重量%の範囲で含有するCo-W-C固溶体相を内包して内部磁場が付与されていることを特徴とする請求項1-3のいずれか1項に記載の水素製造用触媒。
【請求項5】
アンモニアボラン(NH BH から水素を製造する水素の製造方法であって、
前記アンモニアボラン(NHBHを溶解した水溶液中に、炭化タングステン(WC)の格子中に強磁性のコバルト(Co)を固溶したコバルト固溶タングステン合金粉末の炭化物からなる水素生成用触媒を混合し、
前記炭化タングステン(WC)により前記アンモニアボラン(NH BH )のB-N結合を切断し、NH とB(OH) を生成するとともに、プロトン(H )を発生させ、
次いで、前記コバルト(Co)により前記プロトン(H )を磁気吸引するとともに、前記炭化タングステン(WC)を伝導する電子(e)と合体させ、水素分子(H2)を生成する
ことを特徴とするする水素の製造方法。
【請求項6】
前記タングステン炭化物は、タングステン(W)格子中に強磁性のコバルト(Co)が固溶されたコバルト固溶タングステン合金粉末の炭化物であって、Co-W-C固溶体相が内包され内部磁場が付与され強磁性とされていることを特徴とする請求項5記載の水素の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
結晶固体であるアンモニアボラン(NHBH(cr))を溶解した水溶液(NHBH (aq))に、Co-W-C固溶体相を内包するタングステン炭化物の混合液を混合した水溶液を加水分解すると、アンモニアボラン(NHBH )の分子が、W-B結合の引力相互作用によってWC骨格中に吸引される。そして、アンモニアボラン(NHBH)を構成するホウ素(B)と窒素(N)の結合であるB-N結合が切断され、安定な気体であるNH(aq)と不安定な気体であるB(OH)(aq)が生成される。このとき、図1に示す水素生成反応の模式図に示すように、プロトン(H)を発生させる。ここで発生し、放出されたプロトン(H)は、Coの磁気スピンにより吸引される。すなわち、プロトン(H)の核スピン(Nucleus Spin)がCoの電子スピン(Electronic Spin)と平行に配列し、WCを伝導する電子eと合体して水素分子Hを生成する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0070
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0070】
各素材の比表面積(SSA)に基づき単位面積あたりに換算した水素(H)ガス生成速度(NHER)を評価した。本実施例のタングステン炭化物は、3.76±0.37(H2-mol min-1(m-2-cat)であった。W-Co合金のそれは、0.45±0.11(H2-mol min-1(m-2-cat)であり、Ptナノ粒子は、2.90±1.04(H2-mol min-1(m-2-cat)であった。そして、純WCは、0であった。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0079
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0079】
これは、図1を参照して説明したように、Co-W-C固溶体相内包タングステン炭化物を構成するWC骨格は、Pt類似の電子状態密度(DOS)に由来し、アンモニアボランのN-B結合を切断してプロトン(H)を発生させる。そして、放出されたプロトン(H )がCoの磁気スピンにより吸引される。すなわち、プロトン(H)の核スピン(Nucleus Spin)がCoの電子スピン(Electronic Spin)と平行に配列し、WCを伝導する電子eと合体して水素分子H を生成する。
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-01-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアボラン(NHBH )から水素(H)を生成するために用いられる水素製造用触媒であって、
前記水素製造用触媒は、
水溶液中に溶解され前記アンモニアボラン(NH BH )のB-N結合を切断し、NH とB(OH) を生成するとともに、プロトン(H )を発生させる炭化タングステン(WC)の骨格中に強磁性のコバルト(Co)ナノ結晶が固溶され、前記炭化タングステン(WC)の骨格中に前記コバルト(Co)ナノ結晶由来の強磁性領域が形成され、磁場―磁化曲線がヒステリシスカーブを描く強磁性とされ、
前記炭化タングステン(WC)により、前記アンモニアボラン(NH BH )のB-N結合が切断されて生成される前記NH と前記B(OH) とともに発生するプロトン(H )を、前記コバルト(Co)ナノ結晶により磁気吸引し、前記炭化タングステン(WC)を伝導する電子(e)と合体させて水素(H)を生成する粒径を32μm以下の微細粉末とした炭化タングステン炭化物からなる
ことを特徴とする水素製造用触媒。
【請求項2】
アンモニアボラン(NHBH )から水素を製造する水素の製造方法であって、
前記アンモニアボラン(NHBHを水溶液中に溶解するとともに、
前記水溶液中に、炭化タングステン(WC)の骨格中に、強磁性のコバルト(Co)ナノ結晶が固溶され、前記炭化タングステン(WC)の骨格中に前記コバルト(Co)ナノ結晶由来の強磁性領域が形成され、磁場―磁化曲線がヒステリシスカーブを描く強磁性とされた粒径を32μm以下とするタングステン炭化物の微細粉末からなる水素生成用触媒を混合し、
前記タングステン炭化物の前記炭化タングステン(WC)により、前記水溶液中に溶解された前記アンモニアボラン(NHBH )のB-N結合を切断し、NHとB(OH)を生成するとともにプロトン(H)を発生させ、
次いで、前記炭化タングステン(WC)の骨格中に固溶された前記コバルト(Co)ナノ結晶により前記プロトン(H)を磁気吸引するとともに、前記炭化タングステン(WC)を伝導する電子(e)と合体させて水素(H)を生成する
ことを特徴とするする水素の製造方法。