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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061566
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】信号推定装置及び転舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230425BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230425BHJP
   H02P 29/00 20160101ALI20230425BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230425BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
H02P29/00
B62D113:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171546
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075579
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【弁理士】
【氏名又は名称】尾林 章
(72)【発明者】
【氏名】本橋 祐也
(72)【発明者】
【氏名】皆木 亮
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
5H501
【Fターム(参考)】
3D232CC22
3D232CC35
3D232CC48
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC12
3D232DD02
3D232DE05
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC29
3D232EC37
3D333CB02
3D333CB31
3D333CB46
3D333CD60
3D333CE03
3D333CE19
3D333CE29
3D333CE34
3D333CE40
5H501AA20
5H501BB08
5H501DD01
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501JJ17
5H501JJ25
5H501KK06
5H501LL36
(57)【要約】
【課題】離散時刻で受信した信号を用いて制御を行うシステムにおいて、信号を受信できない時刻が発生することにより制御が不安定になるのを抑制する。
【解決手段】信号推定装置は、対象の変量の値に関する変量信号を離散時刻で受信する受信部40と、受信部40が現在時刻の変量信号を受信できない場合に、過去に受信した変量信号に基づいて現在時刻の変量信号を推定する変量信号推定部41と、を備える。変量信号推定部41は、過去の離散時刻において受信された変量信号又は過去の離散時刻において過去に変量信号推定部41によって推定された変量信号である過去信号の各々に対して、過去の離散時刻までの変量信号の受信状況に応じた重み係数を設定する重み係数設定部50と、過去信号を重み係数で重み付けする重み付き近似によって現在時刻の変量信号を算出する重み付き近似部(51、52)と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の変量の値に関する変量信号を離散時刻で受信する受信部と、
前記受信部が現在時刻の前記変量信号を受信できない場合に、過去に受信した前記変量信号に基づいて現在時刻の前記変量信号を推定する変量信号推定部と、
を備え、
前記変量信号推定部は、
過去の離散時刻において受信された前記変量信号又は前記過去の離散時刻において前記変量信号推定部によって推定された前記変量信号である過去信号の各々に対して、前記過去の離散時刻までの前記変量信号の受信状況に応じた重み係数を設定する前記重み係数設定部と、
前記過去信号を前記重み係数で重み付けする重み付き近似によって現在時刻の前記変量信号を算出する重み付き近似部と、
を備えることを特徴とする信号推定装置。
【請求項2】
前記重み係数設定部は、現在時刻と前記過去の離散時刻との間の間隔が長いほど、前記過去信号に対してより小さな重み係数を設定することを特徴とする請求項1に記載の信号推定装置。
【請求項3】
前記重み係数設定部は、
前記過去信号の信頼性に応じて前記過去信号毎に設定された第1係数と、現在時刻と前記過去の離散時刻との間の間隔が長いほど小さくなる第2係数とを乗算して得られる積に応じて、前記過去信号に対する重み係数を設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の信号推定装置。
【請求項4】
前記重み係数設定部は、現在時刻と前記過去の離散時刻との間の間隔に対する前記第2係数を定めた第1の係数マップに基づいて、前記第2係数を設定することを特徴とする請求項3に記載の信号推定装置。
【請求項5】
前記重み係数設定部は、現在時刻よりも所定時間前の時刻から現在時刻までの前記変量信号の受信状況に応じた第3係数に基づいて、前記変量信号推定部によって推定された現在時刻の前記変量信号の前記第1係数を設定することを特徴とする請求項3又は4に記載の信号推定装置。
【請求項6】
前記重み係数設定部は、前記受信部が前記変量信号を最後に受信できた時刻と現在時刻との間の間隔に対する前記第3係数を定めた第2の係数マップに基づいて、前記第3係数を設定することを特徴とする請求項5に記載の信号推定装置。
【請求項7】
前記重み係数設定部は、現在時刻よりも所定時間前の時刻から現在時刻までの前記過去信号に対する前記重み係数の合計と前記第3係数との和に応じて、現在時刻の前記変量信号の前記第1係数を設定することを特徴とする請求項5又は6に記載の信号推定装置。
【請求項8】
ステアリングホイールの操舵角に応じて操向輪の転舵角の目標値である目標転舵角を設定する転舵角設定部と、
前記転舵角設定部が設定した前記目標転舵角を、前記変量信号として受信する請求項1~7のいずれか一項に記載の信号推定装置と、
前記信号推定装置により受信又は推定された前記目標転舵角に基づいて、前記操向輪の転舵角を制御する転舵角制御部と、
を備えることを特徴とする転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号推定装置及び転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
離散時刻で受信した信号を用いて制御を行うシステムでは、信号の送受信タイミングの同期性が保証されないことや、トラフィック状態及びノイズ等によって信号の遅延又は途絶が発生することがある。信号の遅延又は途絶が発生すると、受信した信号を用いる制御が不安定化する虞がある。
下記特許文献1には、操舵ECU(Electronic Control Unit)とADAS(Advanced Driver Assistance Systems:先進運転支援システム)ECUとの間の通信回線を冗長化して、一方の通信回線が途絶した場合に、他方の通信回線で伝送される信号を使用する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-103899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通信回線を冗長化すると、コストやCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサの処理の負荷が増加するという問題がある。
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、離散時刻で受信した信号を用いて制御を行うシステムにおいて、信号を受信できない時刻が発生することにより制御が不安定になるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による信号推定装置は、対象の変量の値に関する変量信号を離散時刻で受信する受信部と、受信部が現在時刻の変量信号を受信できない場合に、過去に受信した変量信号に基づいて現在時刻の変量信号を推定する変量信号推定部と、を備える。変量信号推定部は、過去の離散時刻において受信された変量信号又は過去の離散時刻において変量信号推定部によって推定された変量信号である過去信号の各々に対して、過去の離散時刻までの変量信号の受信状況に応じた重み係数を設定する重み係数設定部と、過去信号を重み係数で重み付けする重み付き近似によって現在時刻の変量信号を算出する重み付き近似部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、離散時刻で受信した信号を用いて制御を行うシステムにおいて、信号を受信できない時刻が発生することにより制御が不安定になるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態のステアバイワイヤ装置の一例の概要を示す構成図である。
図2】転舵制御部の機能構成の一例のブロック図である。
図3】目標角度推定部の機能構成の一例のブロック図である。
図4】受信データの受信状況の第1例の模式図である。
図5】重み係数と信頼性係数の第1例を示す表である。
図6】現在データ重み係数マップの一例を示す表である。
図7】(a)は受信できた過去データに対する過去データ重み係数マップの一例を示す表であり、(b)は目標角度推定部が推定した過去データに対する過去データ重み係数マップの一例を示す表である。
図8】受信できたデータに対する重み係数を示す表である。
図9】受信データの受信状況の第2例の模式図である。
図10】重み係数と信頼性係数の第2例を示す表である。
図11】受信データの受信状況の第3例の模式図である。
図12】重み係数と信頼性係数の第3例を示す表である。
図13】受信データの受信状況の第4例の模式図である。
図14】重み係数と信頼性係数の第4例を示す表である。
図15】実施形態の信号推定方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
なお、以下の説明では、本発明の信号推定装置を、車両の操向輪の転舵角を制御する転舵装置に適用する場合の例について説明するが、本発明の信号推定装置は転舵装置への適用に限定されるものではなく、対象の変量の値に関する変量信号を離散時刻で受信する装置に広く適用できる。
【0009】
(構成)
図1は、第1実施形態のステアバイワイヤ(SBW:Steer By Wire)装置1の一例の概要を示す構成図である。ステアバイワイヤ装置1は、ステアリングホイール10を含む操舵装置における操作を、電気信号によって操向輪WL及びWRを転舵させる転舵装置に伝えるシステムである。
ステアバイワイヤ装置1は、操舵装置2と、転舵装置3と、タイロッド4a及び4bと、ハブユニット5a及び5bと、反力制御部30と、転舵制御部31を備える。
【0010】
操舵装置2は、ステアリングホイール10と、操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸、コラム軸)11とを備え、ステアリングホイール10に連結した操舵軸11には、操舵角センサ12と、トルクセンサ13と、減速ギア14が設けられている。
操舵角センサ12は、操舵軸11の操舵角θshを検出し、検出した操舵角θshの情報を反力制御部30に出力する。
【0011】
トルクセンサ13は、操舵軸11の操舵トルクThを検出し、検出した操舵トルクThの情報を反力制御部30に出力する。
さらに操舵装置2は、減速ギア14を介して操舵軸11に連結された反力モータ15と反力モータ電流センサ16と反力モータ角度センサ17を備える。反力モータ15は、反力制御部30から出力される駆動電流Isrによって駆動されて回転駆動力を発生し、操舵反力として操舵軸11に付与する。反力モータ電流センサ16は、反力モータ15に流れる反力モータ電流を検出し、その検出値Ismの情報を反力制御部30に出力する。また、反力モータ角度センサ17は、反力モータの角度情報を検出し、その検出値θsmの情報を反力制御部30に出力する。
【0012】
反力制御部30は、マイクロコントールユニット(MCU:Micro Control Unit)などのプロセッサや、記憶装置等の周辺部品を含む電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。以下に説明する反力制御部30の機能は、記憶装置に格納されたプログラムをMCUが実行することによって実現される。MCUに代えて、マイクロプロセッサユニット(MPU:Micro Processor Unit)やCPU(Central Processing Unit)等の他の種類のプロセッサを備えてもよい。
反力制御部30は、少なくとも操舵角θshに基づいて、操舵軸11に付与する模擬的な操舵反力を演算する。反力制御部30は、演算した操舵反力を生じさせる駆動電流Isrを反力モータ15に供給する。
【0013】
転舵装置3は、操舵装置2の操舵軸11から機械的に切り離されたピニオンシャフト20と、ラックアンドピニオン機構21を備えている。さらに転舵装置3は、減速ギア23を介してピニオンシャフト20に連結された転舵モータ24と転舵モータ電流センサ25と転舵モータ角度センサ26を備える。転舵モータ24は、転舵制御部31から出力される駆動電流Itrによって駆動されて回転駆動力を発生する。転舵モータ電流センサ25は、転舵モータ24に流れる転舵モータ電流を検出し、その検出値Itmの情報を転舵制御部31に出力する。また、転舵モータ角度センサ26は、転舵モータの角度情報を検出し、その検出値θtmの情報を転舵制御部31に出力する。
【0014】
ラックアンドピニオン機構21は、ピニオンシャフト20に連結されたピニオン21aと、このピニオン21aに噛合するラック21bとを有し、ラック21bは、タイロッド4a、4bとハブユニット5a、5bとを介して操向輪WL及びWRに連結されている。転舵モータ24からピニオン21aに伝達される回転運動は、ラック21bで車幅方向の直進運動に変換されて、操向輪WL及びWRを転舵させる。
ピニオンシャフト20には、さらに転舵角センサ22が設けられている。舵角センサ22は、ピニオンシャフト20の回転角度を、操向輪WL及びWRの転舵角θtpとして検出し、検出した転舵角θtpの情報を転舵制御部31に出力する。
【0015】
転舵制御部31は、操向輪WL及びWRの転舵角を制御する電子制御ユニットである。例えば、転舵制御部31は、マイクロコントールユニットなどのプロセッサや、記憶装置等の周辺部品を含む。以下に説明する転舵制御部31の機能は、記憶装置に格納されたプログラムをMCUが実行することによって実現される。MCUに代えて、MPUやCPU等の他の種類のプロセッサを備えてもよい。
反力制御部30及び転舵制御部31は、車両CAN(Controller Area Network)32に接続されており、車両の各種情報を車両CAN32から受信する。また、反力制御部30及び転舵制御部31には、車両CAN32以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN33も接続可能である。
【0016】
さらに、反力制御部30と転舵制御部31とは、専用CAN(Private Controller Area Network)34によって接続されている。専用CAN34は、反力制御部30と転舵制御部31との間の専用のネットワークであり、車両CAN32の通信速度よりも高い通信速度を有するネットワークを利用できる。たとえば、車両CAN32として、数百kbpsの通信速度を有するネットワークを利用し、専用CAN34として数Mbpsの通信速度を有するネットワークを利用してもよい。
【0017】
操向輪WL及びWRの転舵角θtpの目標値である目標ピニオン角度θtrは、反力制御部30が演算する。反力制御部30は、少なくとも操舵角θshに基づいて、目標ピニオン角度θtrを演算する。反力制御部30は、車速に応じて操舵角θshと目標ピニオン角度θtrの比率を可変にしてもよい。
【0018】
反力制御部30は、演算した目標ピニオン角度θtrを専用CAN34経由で転舵制御部31に送信する。
転舵制御部31は、専用CAN34経由で反力制御部30から送信された目標ピニオン角度θtrを受信する。転舵制御部31は、転舵角センサ22が検出した転舵角θtpが目標ピニオン角度θtrとなるように転舵モータ24の駆動電流Itrを制御する。
【0019】
図2は、転舵制御部31の機能構成の一例のブロック図である。転舵制御部31は、受信部40と、目標角度推定部41と、リミッタ42及び47と、ノイズ除去部43と、位置制御部44と、摩擦補償部45と、加算器46と、電流制御部48とを備える。
受信部40は、専用CAN34経由で反力制御部30から送信された目標ピニオン角度θtrを受信する。以下の説明において、受信部40が受信した目標ピニオン角度θtrのデータを「受信データθr」と表記する。
反力制御部30から送信された目標ピニオン角度θtrは、特許請求の範囲に記載の「対象の変量」の一例である。なお、特許請求の範囲に記載の「対象の変量」は、離散時刻で送受信される信号が表す変量であればよく、「対象の変量」の値に関する変量信号は、転舵制御部31から反力制御部30へ送信される信号であってもよい。例えば、「対象の変量」は転舵角θtpや路面反力であってもよく、転舵角θtpや路面反力に関する変量信号を、転舵制御部31から反力制御部30へ送信してもよい。
また、目標角度推定部41は、特許請求の範囲に記載の「変量信号推定部」の一例である。
【0020】
反力制御部30から送信される信号は、反力制御部30と転舵制御部31との間の送受信タイミングの同期性が保証されないことや、トラフィック状態、ノイズ等の原因によって遅延又は途絶することがある。
このため、受信部40は、所定の離散的な受信タイミングで受信データθrを受信できたか否かを示す受信状況信号Ssを生成する。受信部40は、受信データθrと、受信状況信号Ssと、受信データθrの受信時刻を示す受信時刻情報trを、目標角度推定部41に出力する。
【0021】
目標角度推定部41は、受信状況信号Ssに基づいて受信データθrを受信できたか否かを判定する。受信データθrを受信できた場合には、受信部40から入力された受信データθrをそのまま目標ピニオン角度θtrとして出力する。
受信データθrを受信できない場合には、過去の受信タイミングに受信した受信データθrに基づいて、今回の受信タイミングにおいて受信するはずであった受信データθrを推定し、推定した受信データθrを目標ピニオン角度θtrとして出力する。
目標角度推定部41の詳細については後述する。
【0022】
リミッタ42は、目標ピニオン角度θtrの上限値及び下限値を制限して位置制御部44に出力する。
ノイズ除去部43は、転舵角センサ22が検出した転舵角θtpのノイズを除去して位置制御部44に出力する。
位置制御部44は、ノイズを除去された後の転舵角θtpとリミッタ42によって制限された後の目標ピニオン角度θtrとの間の位置偏差が小さくなるように転舵モータ24に対するモータトルク指令値Trを算出する。
【0023】
また位置制御部44は、ノイズを除去された後の転舵角θtpとリミッタ42によって制限された後の目標ピニオン角度θtrとの間の位置偏差に基づいて、目標ピニオン角速度ωrを算出する。例えば位置制御部44は、位置偏差に位置ループゲインを乗算して目標ピニオン角速度ωrを算出してよい。摩擦補償部45は、転舵速度に応じた摩擦による抵抗力を補償する摩擦補償成分を、目標ピニオン角速度ωrに基づいて算出する。加算器46は、モータトルク指令値Trに摩擦補償成分を加算してリミッタ47に出力する。
【0024】
リミッタ47は、摩擦補償成分が加算されたモータトルク指令値Trの上限値及び下限値を制限して電流制御部48に出力する。
電流制御部48は、リミッタ47から出力されたモータトルク指令値Trに基づいて転舵モータ電流の目標値である目標転舵モータ電流を設定し、転舵モータ電流センサ25が検出した転舵モータ電流Itmと目標転舵モータ電流との間の電流偏差ΔIを算出する。電流制御部48は、電流偏差ΔIを0とするような電圧制御指令値を、例えば比例積分(PI:Proportional-Integral)制御や、比例積分微分(PID:Proportional-Integral-Differential)に基づいて演算し、演算した電圧制御指令値に基づくPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御によって駆動電流Itrを生成する。
【0025】
次に、目標角度推定部41を説明する。上記のとおり目標角度推定部41は、所定の離散的な受信タイミングで受信データθrを受信できた場合には、受信部40から入力された受信データθrをそのまま目標ピニオン角度θtrとして出力する。また、所定の受信タイミングで受信データθrを受信できない場合には、受信タイミングにおいて受信するはずであった受信データθrを推定し、推定した受信データθrを目標ピニオン角度θtrとして出力する。
【0026】
より具体的には、目標角度推定部41は、過去の受信タイミングに受信した受信データθr、又は受信データθrを受信できなかった場合に目標角度推定部41が推定した受信データθrと、を重み係数で重み付けする重み付き近似によって、今回の受信タイミングで受信するはずであった受信データθrを推定する。
【0027】
以下の説明において、今回の受信タイミングで受信した受信データθrと、今回の受信タイミングで受信データθrを受信できなかった場合に目標角度推定部41によって推定された受信データθrと、を総称して「現在データ」と表記することがある。
また、過去の受信タイミングに受信した受信データθrと、受信データθrを受信できなかった過去の受信タイミングにおいて目標角度推定部41が推定した受信データθrと、を総称して「過去データ」と表記することがある。過去データは、特許請求の範囲に記載の「過去信号」の一例である。
【0028】
以下の説明では、目標角度推定部41は、重み付き近似の例として重み付き最小二乗法によって受信データθrを推定する例について説明する。しかしながら、本発明は、重み付き最小二乗法に限定されるものではなく、様々な種類の重み付き近似において重み係数を設定する場合に広く適用できる。
【0029】
図3は、目標角度推定部41の機能構成の一例のブロック図である。目標角度推定部41は、行列算出部50と、方程式演算部51と、推定値算出部52を備える。行列算出部50は、特許請求の範囲に記載の「重み係数設定部」の一例である。方程式演算部51と推定値算出部52は特許請求の範囲に記載の「重み付き近似部」の一例である。
行列算出部50は、今回の受信タイミングtよりも所定回数Nだけ前の過去の受信タイミングtn-Nから今回の受信タイミングtまでの期間におけるデータの各々に重み係数wg~wgn-Nを設定する。そして、重み係数wg~wgn-Nに基づいて、重み付き最小二乗法の連立方程式を表現する行列を算出する。
【0030】
以下、重み係数wg~wgn-Nの設定方法について説明する。なお、以下の説明では、重み付き近似に用いる過去データの個数Nが6である場合の例について説明する。
しかしながら、本発明は6個の過去データを用いる場合に限定されるものではなく、必要とする計算精度や許容される計算負荷に応じて、近似に用いるデータ数の個数を適宜設定してよい。
【0031】
図4は、受信データθrの受信状況の第1例の模式図である。受信タイミングt、tn-1、…tn-6に受信データθrを受信できた場合には、受信した受信データθrを丸プロットで示す。また、受信データθrを受信できなかった場合には、目標角度推定部41が推定した受信データθrを四角形プロットで示す。
また、図4における時刻t~t14は、受信タイミングの絶対時刻(すなわち、固定時刻を基準とする時刻)である。また、受信タイミングt、tn-1、…tn-6は、今回の受信タイミングtを基準とする相対的な時刻である。以下の説明において、受信タイミングt、tn-1、…tn-6を「相対時刻」と表記することがある。また、今回の受信タイミングtを「現在時刻」と表記することがある。図9図11及び図13においても同様である。
【0032】
図4は、現在時刻tが絶対時刻tであり、相対時刻tn-1~tn-6がそれぞれ絶対時刻t~tであり、現在時刻tにおいて受信データθrを受信することができず、相対時刻tn-1~tn-6において受信データθrを受信できた場合を示している。
図5は、図4に示す受信状況において設定される重み係数を示す表である。行列算出部50は、現在時刻tにおける現在データに対する重み係数wgとして「2」を設定する。相対時刻tn-1~tn-6における過去データに対する重み係数wgn-1~wgn-6としてそれぞれ「8.571429」、「7.142857」、「5.714286」、「4.285714」、「2.857143」、「1.428571」を設定する。
【0033】
行列算出部50は、現在データに対する重み係数wgを、相対時刻tn-6から現在時刻tまでの間の受信データθrの受信状況に応じて設定する。重み係数wgは、特許請求の範囲に記載の「第3係数」の一例である。
例えば、行列算出部50は、受信部40が受信データθrを最後に受信できた相対時刻と現在時刻tとの間の間隔に応じて重み係数wgを設定してよい。
【0034】
例えば行列算出部50は、現在データ重み係数マップに基づいて重み係数wgを設定してよい。現在データ重み係数マップは、受信部40が受信データθrを最後に受信できた相対時刻と現在時刻tとの間の間隔に対応する重み係数を定めたマップである。
図6は、現在データ重み係数マップの一例を示す表である。図4の例では、受信データθrを最後に受信できたのは相対時刻tn-1であるため、重み係数wgが「2」に設定される。現在データ重み係数マップは、特許請求の範囲に記載の「第2の係数マップ」の一例である。
なお、図6の現在データ重み係数マップは、相対時刻と現在時刻tとの間の間隔の指数に応じて重み係数を設定しているが、相対時刻と現在時刻tとの間の間隔に応じて線形に変化する重み係数を設定してもよい。
【0035】
行列算出部50は、過去データに対する重み係数wgn-1~wgn-6を、現在時刻tと相対時刻tn-1~tn-6にとの間の間隔が長いほど小さくなる値に設定する。
例えば、行列算出部50は、過去データ重み係数マップに基づいて、重み係数wgn-1~wgn-6を設定してよい。過去データ重み係数マップは、現在時刻tと相対時刻tn-1~tn-6にとの間の間隔に対応する重み係数を定めたマップである。
【0036】
図7(a)は、過去データが、実際に受信できた受信データθrである場合に、過去データに設定する重み係数を定めた過去データ重み係数マップの一例を示す表である。
図7(b)は、過去データが、目標角度推定部41によって推定されたデータである場合に、重み係数の設定に用いる過去データ重み係数マップの一例を示す表である。図7(b)の過去データ重み係数マップは、特許請求の範囲に記載の「第1の係数マップ」の一例である。
【0037】
図4の例では、相対時刻tn-1~tn-6の過去データは、全て実際に受信できた受信データθrであるため、重み係数wgn-1~wgn-6は、それぞれ「8.571429」、「7.142857」、「5.714286」、「4.285714」、「2.857143」、「1.428571」に設定される。
過去データが、目標角度推定部41によって推定されたデータである場合の重み係数の設定については後述する。
なお、図7(a)及び図7(b)の過去データ重み係数マップは、相対時刻と現在時刻tとの間の間隔に応じて線形に変化する重み係数を設定しているが、相対時刻と現在時刻tとの間の間隔の指数に応じて重み係数を設定してもよい。
【0038】
図5を再び参照する。行列算出部50は、現在時刻tの現在データに対して、現在データの信頼性に応じた信頼性係数を設定する。信頼性係数は、特許請求の範囲に記載の「第1係数」の一例である。
現在時刻tにおいて受信データθrを受信できた場合、行列算出部50は、現在データの信頼性係数を「1」に設定する。
このため、相対時刻tn-1~tn-6の過去データに対する信頼性係数は「1」に設定されている。相対時刻tn-1~tn-6の過去データは、絶対時刻t~tで実際に受信した受信データθrであるからである。
【0039】
現在時刻tにおいて受信データθrを受信でなかった場合、行列算出部50は、現在データに対する重み係数wgと、過去データの重み係数wgn-1~wgn-6の合計との和(以下、「重み係数総和」と表記することがある)に基づいて、現在データの信頼性係数を設定する。
例えば、行列算出部50は、重み係数総和「32」を定数で除算して得られる値を現在データの信頼性係数として設定してよい。
【0040】
図8は、全ての相対時刻t~tn-6において受信データθrを受信できた場合の重み係数wg~wgn-6を示す表である。行列算出部50は、全ての相対時刻t~tn-6において受信データθrを受信できた場合の重み係数wg~wgn-6の合計で、重み係数総和を除算して得られた値を、現在データの信頼性係数として設定してよい。
図5の信頼性係数「0.8」は、図8の重み係数wg~wgn-6の合計「40」で重み係数総和「32」を除算して得られた値である。
【0041】
図9は、受信データθrの受信状況の第2例の模式図である。図9は、現在時刻tが絶対時刻t11であり、相対時刻tn-1~tn-6がそれぞれ絶対時刻t10~tである場合を示している。ここでは絶対時刻t(相対時刻tn-4)の後に、絶対時刻t~t10(相対時刻tn-3~tn-1)において受信データθrを受信でき、絶対時刻t11(現在時刻t)において受信データθrを受信できなかった場合を想定する。
【0042】
図10は、図9に示す受信状況において設定される重み係数を示す表である。行列算出部50は、図6の現在データ重み係数マップにしたがって、現在時刻tにおける現在データに対する重み係数wgとして「2」を設定する。
また、図7(a)の過去データ重み係数マップにしたがって、相対時刻tn-1~tn-3及びtn-5~tn-6における過去データに対する重み係数wgn-1~wgn-3及びwgn-5~wgn-6としてそれぞれ「8.571429」、「7.142857」、「5.714286」、「2.857143」、「1.428571」を設定する。
相対時刻tn-4における過去データ(すなわち絶対時刻tの時点での現在データ)の信頼性係数は、上述のとおり「0.8」に設定されている。受信データθrを受信できた相対時刻tn-1~tn-3及びtn-5~tn-6における過去データの信頼性係数は、上述のとおり「1」に設定されている。
【0043】
行列算出部50は、受信データθrを受信できなかった相対時刻tn-4における過去データに対する重み係数wgn-4を、図7(b)に示す過去データ重み係数マップと、相対時刻tn-4における過去データの信頼性係数と、に基づいて設定する。
図7(b)に示す過去データ重み係数マップは、現在時刻tと相対時刻tn-1~tn-6との間の間隔に対応する基礎重み係数を定めたマップである。基礎重み係数は、特許請求の範囲に記載の「第2係数」の一例である。例えば、相対時刻tn-4に対応する基礎重み係数は「2.142857」である。
行列算出部50は、相対時刻tn-4に対応する基礎重み係数「2.142857」に信頼性係数「0.8」を乗算して得られる「1.7142856」を重み係数wgn-4として設定する。
【0044】
行列算出部50は、現在時刻t(絶対時刻t11)における現在データの信頼性係数を設定する。まず、重み係数wg~wgn-6の重み係数総和「29.4285716」を算出する。そして、図8の重み係数wg~wgn-6の合計「40」で重み係数総和「29.4285716」を除算して得られた値「0.74」を、絶対時刻t11における現在データの信頼性係数として設定する。
【0045】
図11は、受信データθrの受信状況の第3例の模式図である。図11は、現在時刻tが絶対時刻t13であり、相対時刻tn-1~tn-6がそれぞれ絶対時刻t12~tである場合を示している。ここでは絶対時刻t11(相対時刻tn-2)の後に、絶対時刻t12(相対時刻tn-1)において受信データθrを受信でき、絶対時刻t13(現在時刻t)において受信データθrを受信できなかった場合を想定する。
【0046】
図12は、図11に示す受信状況において設定される重み係数を示す表である。行列算出部50は、図6の現在データ重み係数マップにしたがって、現在時刻tにおける現在データに対する重み係数wgとして「2」を設定する。
また、図7(a)の過去データ重み係数マップにしたがって、相対時刻tn-1、tn-3~tn-5における過去データに対する重み係数wgn-1、wgn-3~wgn-5としてそれぞれ「8.571429」、「5.714286」、「4.285714」、「2.857143」を設定する。
相対時刻tn-6における過去データ(すなわち絶対時刻tの時点での現在データ)の信頼性係数は、上述のとおり「0.8」に設定されている。同様に、相対時刻tn-2における過去データ(すなわち絶対時刻t11の時点での現在データ)の信頼性係数は「0.74」に設定されている。
受信データθrを受信できた相対時刻tn-1、tn-3~tn-5における過去データの信頼性係数は、上述のとおり「1」に設定されている。
【0047】
受信データθrを受信できなかった相対時刻tn-2における過去データに対する重み係数wgn-2は、図7(b)の過去データ重み係数マップの基礎重み係数「3.5714285」に信頼性係数「0.74」を乗算して得られる「2.627550983」に設定される。相対時刻tn-6における過去データに対する重み係数wgn-6は、図7(b)の過去データ重み係数マップの基礎重み係数「0.7142855」に信頼性係数「0.8」を乗算して得られる「0.5714284」に設定される。
【0048】
行列算出部50は、現在時刻t(絶対時刻t13)における現在データの信頼性係数を設定する。まず、重み係数wg~wgn-6の重み係数総和「26.62755138」を算出する。そして、図8の重み係数wg~wgn-6の合計「40」で重み係数総和「26.62755138」を除算して得られた値「0.67」を、絶対時刻t13における現在データの信頼性係数として設定する。
【0049】
図13は、受信データθrの受信状況の第4例の模式図である。図13は、現在時刻tが絶対時刻t14であり、相対時刻tn-1~tn-6がそれぞれ絶対時刻t13~tである場合を示している。ここでは絶対時刻t13(相対時刻tn-1)の後に、絶対時刻t14(現在時刻t)において受信データθrを受信できなかった場合を想定する。
図14は、図13に示す受信状況において設定される重み係数を示す表である。行列算出部50は、図6の現在データ重み係数マップにしたがって、現在時刻tにおける現在データに対する重み係数wgを設定する。
【0050】
図13の例では、受信データθrを最後に受信できたのは相対時刻tn-2であるため、重み係数wgが「0.6」に設定される。
また、図7(a)の過去データ重み係数マップにしたがって、相対時刻tn-2、tn-4~tn-6における過去データに対する重み係数wgn-2、wgn-4~wgn-6としてそれぞれ「7.142857」、「4.285714」、「2.857143」、「1.428571」を設定する。
【0051】
相対時刻tn-3における過去データ(すなわち絶対時刻t11の時点での現在データ)の信頼性係数と、相対時刻tn-1における過去データ(すなわち絶対時刻t13の時点での現在データ)の信頼性係数は、上述のとおりそれぞれ「0.74」、「0.67」に設定されている。
受信データθrを受信できた相対時刻tn-2、tn-4~tn-6における過去データの信頼性係数は、上述のとおり「1」に設定されている。
【0052】
受信データθrを受信できなかった相対時刻tn-1における過去データに対する重み係数wgn-1は、図7(b)の過去データ重み係数マップの基礎重み係数「4.2857145」に信頼性係数「0.67」を乗算して得られる「2.871428715」に設定される。相対時刻tn-3における過去データに対する重み係数wgn-3は、図7(b)の過去データ重み係数マップの基礎重み係数「2.857143」に信頼性係数「0.74」を乗算して得られる「2.11428582」に設定される。
【0053】
行列算出部50は、現在時刻t(絶対時刻t14)における現在データの信頼性係数を設定する。まず、重み係数wg~wgn-6の重み係数総和「21.29999954」を算出する。そして、図8の重み係数wg~wgn-6の合計「40」で重み係数総和「21.29999954」を除算して得られた値「0.53」を、絶対時刻t14における現在データの信頼性係数として設定する。
【0054】
図3を参照する。行列算出部50は、上記のように算出した重み係数wg~wgn-Nと、離散時刻t~tn-Nと、これらのタイミングにおけるデータθ~θn-Nと、に基づいて重み付き最小二乗法の連立方程式(1)を表現する行列A及びBを算出する。離散時刻tのタイミングでθが受信できない場合、θは、1つ前のθn-1を使用して前記行列A及びBを算出する
【0055】
【数1】
【0056】
行列算出部50は、行列Aの要素A11、A12、A13、A23、A33と、行列Bの要素B1、B2、B3とを、それぞれ次式(2)~(9)に基づいて算出する。
なお、本実施形態では離散時刻t~tn-Nとして、例えばΔt×(N+1)、Δt×N、Δt×(N-1)…、Δtをそれぞれ使用してよい。Δtは、受信データθrの受信間隔である。
【0057】
【数2】
【0058】
【数3】
【0059】
【数4】
【0060】
【数5】
【0061】
【数6】
【0062】
【数7】
【0063】
【数8】
【0064】
【数9】
【0065】
方程式演算部51は、上式(1)の連立方程式を解くことによって、2次関数の係数X、X、Xを算出する。
推定値算出部52は、受信状況信号Ssに基づいて受信データθrを受信できたか否かを判定する。受信データθrを受信できた場合には、受信部40から入力された受信データθrをそのまま目標ピニオン角度θtrとして出力する。
受信データθrを受信できない場合には、推定値算出部52は、次式(10)により推定値Yを算出し、目標ピニオン角度θtrとして出力する。
Y=X・tn-1 +X・tn-1 …(10)
【0066】
図15は、実施形態の信号推定方法の一例のフローチャートである。
ステップS1において行列算出部50と推定値算出部52は、現在時刻tにおいて反力制御部30からの受信データθrを受信できたか否かを判定する。受信データθrを受信できた場合(ステップS1:Y)に処理はステップS2に進む。受信データθrを受信できない場合(ステップS1:N)に処理はステップS4に進む。
ステップS2において行列算出部50は、現在データの信頼性係数を「1」に設定する。
ステップS3において推定値算出部52は、受信データθrをそのまま目標ピニオン角度θtrとして出力する。その後に処理は終了する。
【0067】
ステップS4において行列算出部50は、現在データ重み係数マップに基づいて現在データの重み係数を設定する。
ステップS5において行列算出部50は、過去データ重み係数マップと信頼性係数とに基づいて過去データの重み係数を設定する。
ステップS6において行列算出部50は、現在データに対する重み係数wgと、過去データの重み係数wgn-1~wgn-6の合計との和に基づいて、現在データの信頼性係数を設定する。
ステップS7において行列算出部50は、重み係数wg~wgn-Nと、離散時刻t~tn-Nと、これらのタイミングにおけるデータθ~θn-Nと、に最小二乗法の連立方程式(1)を表現する行列A及びBを算出する。
【0068】
ステップS8において方程式演算部51は、上式(1)の連立方程式を解くことによって、2次関数の係数X、X、Xを算出する。
ステップS9において推定値算出部52は、次式(10)により目標ピニオン角度の推定値Yを算出する。
ステップS10において推定値算出部52は、推定値Yを目標ピニオン角度θtrとして出力する。
【0069】
(実施形態の効果)
(1)受信部40は、対象の変量の値に関する変量信号を離散時刻で受信する。目標角度推定部41は、受信部40が現在時刻の変量信号を受信できない場合に、過去に受信した変量信号に基づいて現在時刻の変量信号を推定する。目標角度推定部41の行列算出部50は、過去の離散時刻において受信された変量信号又は過去の離散時刻において目標角度推定部41によって推定された変量信号である過去信号の各々に対して、過去の離散時刻までの変量信号の受信状況に応じた重み係数を設定する。方程式演算部51と推定値算出部52は、過去信号を重み係数で重み付けする重み付き近似によって現在時刻の変量信号を算出する。
【0070】
これにより、変量信号の遅延又は途絶等により、所定の受信時刻で変量信号を受信できなかった場合に、受信できなかった変量信号を過去の変量信号に基づいて推定できる。このため、受信した変量信号を用いて制御を行うシステムにおいて、変量信号を受信できない時刻が発生することにより制御が不安定になるのを抑制できる。また、通信回線を冗長化した場合と比較して、コストやプロセッサの処理の負荷を抑えることができる。なお、本発明の近似が使える遅延又は途絶の最大の長さは、近似に用いるデータ数や遅延又は途絶の発生状況にもよるが、受信タイミングのおよそ3~10周期分であることを想定している。
【0071】
(2)行列算出部50は、現在時刻と過去の離散時刻との間の間隔が長いほど、過去信号に対してより小さな重み係数を設定してよい。
これにより、現在時刻に近い時刻の過去信号ほど大きな重み係数を設定できるので、推定精度を向上できる。
(3)行列算出部50は、過去信号の信頼性に応じて過去信号毎に設定された第1係数と、現在時刻と過去の離散時刻との間の間隔が長いほど小さくなる第2係数と、を乗算して得られる積に応じて、過去信号に対する重み係数を設定してよい。
これにより、信頼性が高く、現在時刻に近い時刻の過去信号ほど、大きな重み係数を設定できるので、推定精度を向上できる。
【0072】
(4)行列算出部50は、現在時刻と過去の離散時刻との間の間隔に対する第2係数を定めた第1の係数マップに基づいて第2係数を設定してよい。これにより、現在時刻と過去の離散時刻との間の間隔に応じて第2係数を設定できる。
(5)行列算出部50は、現在時刻よりも所定時間前の時刻から現在時刻までの変量信号の受信状況に応じた第3係数に基づいて、目標角度推定部41によって推定された現在時刻の変量信号の第1係数を設定してよい。
これにより、目標角度推定部41によって推定される変量信号の信頼性に応じた係数である第1係数を、推定に用いる過去信号の受信時の受信状況に基づいて設定できる。
【0073】
(6)行列算出部50は、受信部40が最後に変量信号を受信できた時刻から現在時刻までの経過時間に対する第3係数を定めた第2の係数マップに基づいて、第3係数を設定してよい。
最後に変量信号を受信できた時刻からの経過時間が長いほど、目標角度推定部41によって推定される変量信号の信頼性が低下する。このため、経過時間に応じて第3係数を設定することにより、変量信号の信頼性が反映された第1係数を設定できる。
【0074】
(7)行列算出部50は、現在時刻よりも所定時間前の時刻と現在時刻との間の過去信号の重み係数の合計と第3係数との和に応じて、現在時刻の変量信号の第1係数を設定してよい。
上記のとおり、過去信号の重み係数は過去信号の信頼性に応じて設定される。また、第3係数は、過去信号の受信時の受信状況に基づいて設定される。このため、過去信号の重み係数の合計と第3係数との和に応じて第1係数を設定することにより、これら過去信号に基づいて推定される変量信号の信頼性が反映された第1係数を設定できる。
【符号の説明】
【0075】
1…ステアバイワイヤ装置、2…操舵装置、3…転舵装置、4a、4b…タイロッド、5a、5b…ハブユニット、10…ステアリングホイール、11…操舵軸、12…操舵角センサ、13…トルクセンサ、14…減速ギア、15…反力モータ、16…反力モータ電流センサ、17…反力モータ角度センサ、20…ピニオンシャフト、21…ラックアンドピニオン機構、21a…ピニオン、21b…ラック、22…転舵角センサ、23…減速ギア、24…転舵モータ、25…転舵モータ電流センサ、26…転舵モータ角度センサ、30…反力制御部、31…転舵制御部、40…受信部、41…目標角度推定部、42、47…リミッタ、43…ノイズ除去部、44…位置制御部、45…摩擦補償部、46…加算器、48…電流制御部、50…行列算出部、51…方程式演算部、52…推定値算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15