(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061616
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】慢性腎臓病の治療または予防薬としてのヒポキサンチントランスポーター阻害薬のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20230425BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230425BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C12N5/10
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171647
(22)【出願日】2021-10-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3(2021)年1月、第54回日本痛風・尿酸核酸学会総会プログラム・抄録集、令和3(2021)年2月11日、第54回日本痛風・尿酸核酸学会総会 令和3(2021)年6月11日、19th Symposium on Purine and Pyrimidine Metabolism in Man 14th-16th of June 2021,Online,Worldwide(The Purine and Pyrimidine Society)、General information,program and abstracts 令和3(2021)年6月15日、19th Symposium on Purine and Pyrimidine Metabolism in Man 14th-16th of June 2021,Online,Worldwide(The Purine and Pyrimidine Society)
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】細山田 真
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QQ65
4B063QR77
4B063QS38
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065BD22
4B065BD34
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】慢性腎臓病、特にはキサンチン尿症の治療もしくは予防薬の候補物質となるヒトNa+依存性ヒポキサンチントランスポーター阻害薬のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】前記スクリーニング方法は、ヒトSLC23A3(solute carrier family 23 member 3)遺伝子産物を発現する細胞と、試験物質とを、ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で接触させる工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ヒトSLC23A3(solute carrier family 23 member 3)遺伝子産物を発現する細胞と、試験物質とを、ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で接触させる工程(接触工程)
を含む、ヒトSLC23A3遺伝子機能阻害薬のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記細胞が微生物であり、前記接触工程の後に、
(2A)ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で試験物質を接触させた状態で前記微生物を培養し、その増殖を観察する工程(培養観察工程)、
(3A)微生物増殖が観察される試験物質を候補物質として選択する工程(選択工程)
を更に含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記細胞が動物細胞であり、前記接触工程の後に、
(2B)ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で試験物質を接触させた状態で前記動物細胞におけるヒポキサンチン取り込み量を測定する工程(測定工程)、
(3B)ヒポキサンチンの取り込み量を減少させる試験物質を候補物質として選択する工程(選択工程)
を更に含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
(4)選択した候補物質について、別の評価系を用いて、ヒトSLC23A3遺伝子機能阻害効果、慢性腎臓病の治療もしくは予防効果、又はキサンチン尿症の治療もしくは予防効果を確認する工程(確認工程)
を更に含む、請求項2又は3に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
ヒトSLC23A3遺伝子機能阻害薬が慢性腎臓病の治療または予防薬である、請求項1~4のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
慢性腎臓病がキサンチン尿症である、請求項5に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性腎臓病(CKD;chronic kidney disease)、特にはキサンチン尿症の治療または予防薬としてのヒポキサンチントランスポーター阻害薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓近位尿細管直部に発現するヒトSLC23A3(solute carrier family 23 member 3)遺伝子は、SLC23 Na+依存性アスコルビン酸トランスポーターファミリーの一員であり、NM_001144889(mRNA,2322bp)として登録されている。ヒトでは、SLC23 Na+依存性アスコルビン酸トランスポーターファミリーとして、SLC23A1~SLC23A4が知られており、SLC23A1、SLC23A2は、Na+依存的にL-アスコルビン酸を輸送すること、SLC23A4は偽遺伝子(pseudogene)であることが知られていたが、SLC23A3の機能はこれまで不明であった(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Burzle, M et al: The sodium-dependent ascorbic acid transporter family SLC23. Mol Aspects Med 34(2-3): 436-454, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒトSLC23A3遺伝子は、これまで機能が不明であったが、本発明者は今回、ツメガエル卵母細胞発現系を用いて、Na+依存性ヒポキサンチントランスポーターであることを明らかにした。
ヒトSLC23A3遺伝子を含むプラスミドを有する大腸菌は、Na+存在下で増殖が阻害される一方、Na+非存在下で増殖可能となることから、ヒト腎臓においてもSLC23A3遺伝子産物はヒポキサンチン毒性を発現するトランスポーターであると考えられる。従って、SLC23A3遺伝子機能阻害薬は腎保護薬の候補物質と考えられる。
【0005】
本発明の課題は、慢性腎臓病、特にはキサンチン尿症の治療もしくは予防薬の候補物質となるヒトNa+依存性ヒポキサンチントランスポーター阻害薬のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、以下の本発明により解決することができる:
[1](1)ヒトSLC23A3(solute carrier family 23 member 3)遺伝子産物を発現する細胞と、試験物質とを、ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で接触させる工程(接触工程)
を含む、ヒトSLC23A3遺伝子機能阻害薬のスクリーニング方法。
[2]前記細胞が微生物であり、前記接触工程の後に、
(2A)ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で試験物質を接触させた状態で前記微生物を培養し、その増殖を観察する工程(培養観察工程)、
(3A)微生物増殖が観察される試験物質を候補物質として選択する工程(選択工程)
を更に含む、[1]のスクリーニング方法。
[3]前記細胞が動物細胞であり、前記接触工程の後に、
(2B)ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で試験物質を接触させた状態で前記動物細胞におけるヒポキサンチン取り込み量を測定する工程(測定工程)、
(3B)ヒポキサンチンの取り込み量を減少させる試験物質を候補物質として選択する工程(選択工程)
を更に含む、[1]のスクリーニング方法。
[4](4)選択した候補物質について、別の評価系を用いて、ヒトSLC23A3遺伝子機能阻害効果、慢性腎臓病の治療もしくは予防効果、又はキサンチン尿症の治療もしくは予防効果を確認する工程(確認工程)
を更に含む、[2]又は[3]のスクリーニング方法。
[5]ヒトSLC23A3遺伝子機能阻害薬が慢性腎臓病の治療または予防薬である、[1]~[4]のいずれかのスクリーニング方法。
[6]慢性腎臓病がキサンチン尿症である、[5]のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスクリーニング方法によれば、慢性腎臓病、特にはキサンチン尿症の治療もしくは予防薬の候補物質となるヒトNa+依存性ヒポキサンチントランスポーター阻害薬のスクリーニング方法を提供することができる。特に、本発明のスクリーニング方法の好適態様である微生物(典型的には大腸菌)を用いるスクリーニング方法によれば、ヒポキサンチンの取り込み量を測定することなく、微生物の増殖の有無または程度を指標として候補物質を選択できるため、大量の試験物質を迅速かつ安価にスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ヒトSLC23A3 RNAを微量注入したアフリカツメガエル卵母細胞におけるNa
+非存在下またはNa
+存在下でのヒポキサンチンの取り込み量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のスクリーニング方法は、
(1)ヒトSLC23A3遺伝子産物を発現する細胞と、試験物質とを、ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で接触させる工程(接触工程)
を含む。
【0010】
前記接触工程における前記細胞が微生物(例えば、大腸菌)である場合、本発明のスクリーニング方法は、
(1)ヒトSLC23A3遺伝子産物を発現する微生物と、試験物質とを、ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で接触させる工程(接触工程)、
(2A)前記接触工程に続いて、その接触状態を維持したまま前記微生物を培養し、その増殖を観察する工程(培養観察工程)、
(3A)微生物増殖が観察される試験物質を候補物質として選択する工程(選択工程)
を含む。
前記スクリーニング方法は、所望により、
(4)選択した候補物質について、別の評価系を用いて、ヒトSLC23A3遺伝子機能阻害効果、慢性腎臓病の治療もしくは予防効果、又はキサンチン尿症の治療もしくは予防効果を確認する工程(確認工程)
を更に含むことができる。
【0011】
前記接触工程における前記細胞が動物細胞(例えば、ツメガエル卵母細胞)である場合、本発明のスクリーニング方法は、
(1)ヒトSLC23A3遺伝子産物を発現する動物細胞と、試験物質とを、ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で接触させる工程(接触工程)、
(2B)前記接触工程に続いて、その接触状態を維持したまま前記動物細胞におけるヒポキサンチン取り込み量を測定する工程(測定工程)、
(3B)ヒポキサンチンの取り込み量を減少させる試験物質を候補物質として選択する工程(選択工程)
を含む。
前記スクリーニング方法は、所望により、
(4)選択した候補物質について、別の評価系を用いて、ヒトSLC23A3遺伝子機能阻害効果、慢性腎臓病の治療もしくは予防効果、又はキサンチン尿症の治療もしくは予防効果を確認する工程(確認工程)
を更に含むことができる。
【0012】
以下、本発明のスクリーニング方法について詳細に説明するが、微生物と動物細胞で共通する接触工程(1)を説明した後、細胞として微生物を用いる本発明の一態様における培養観察工程(2A)および選択工程(3A)、細胞として動物細胞を用いる本発明の別の一態様における測定工程(2B)および選択工程(3B)をこの順に説明し、最後に微生物と動物細胞で共通する確認工程(4)を説明する。
【0013】
《接触工程(1)》
本発明のスクリーニング方法における接触工程(1)では、ヒトSLC23A3遺伝子産物を発現する細胞(以下、スクリーニング用細胞と称することがある)と、試験物質とを、ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で接触させる。
【0014】
ヒトSLC23A3(solute carrier family 23 member 3)遺伝子は、SLC23 Na+依存性アスコルビン酸トランスポーターファミリーの一員であり、NM_001144889(mRNA,2322bp)として登録されている。ヒトでは、SLC23 Na+依存性アスコルビン酸トランスポーターファミリーとして、SLC23A1~SLC23A4が知られており、SLC23A1、SLC23A2は、Na+依存的にL-アスコルビン酸を輸送すること、SLC23A4は偽遺伝子(pseudogene)であることが知られていたが、SLC23A3の機能はこれまで不明であった。後述の実施例2に示すように、本発明者は今回、ツメガエル卵母細胞発現系を用いて、ヒトSLC23A3遺伝子産物がNa+依存性ヒポキサンチントランスポーターであることを明らかにした。
【0015】
例えば、ヒトSLC23A3遺伝子を動物細胞で発現させると、Na+存在下において細胞外のヒポキサンチンを細胞内に取り込むヒポキサンチン輸送が行われるが、細胞内でのヒポキサンチン集積は毒性を示すため、Na+存在下では細胞増殖が阻害される。同様に、ヒトSLC23A3遺伝子を微生物で発現させると、Na+存在下において細胞外のヒポキサンチンを細胞内に取り込むヒポキサンチン輸送が行われるが、微生物においてもヒポキサンチン集積は毒性を示すため、Na+存在下では微生物の増殖が阻害される。
【0016】
本発明のスクリーニング法で使用することのできる細胞としては、ヒトSLC23A3遺伝子を細胞内に発現可能な状態で導入することができ、且つ、ヒトSLC23A3遺伝子産物が機能を発揮できる細胞であれば、特に限定されるものではないが、例えば、大腸菌等の微生物、卵母細胞等の動物細胞(好ましくは哺乳動物細胞)、植物細胞などを挙げることができる。
【0017】
前記細胞として微生物を用いる場合には、それ自体公知の遺伝子導入法、例えば、ヒトSLC23A3遺伝子を適当な発現ベクターに挿入し、その発現ベクターを用いて微生物を形質転換する方法、エレクトロポレーション等によりヒトSLC23A3遺伝子を微生物に導入し、ゲノムに該遺伝子を組み込む方法等により、ヒトSLC23A3遺伝子産物を発現する微生物を取得することができる。
【0018】
前記細胞として動物または植物細胞を用いる場合には、公知の遺伝子導入法、例えば、微量注入(マイクロインジェクション)等によりヒトSLC23A3遺伝子を該細胞内に注入し、細胞内で発現させる方法、ヒトSLC23A3遺伝子を適当な発現ベクターに挿入し、その発現ベクターを用いて該細胞を形質転換する方法、エレクトロポレーション等によりヒトSLC23A3遺伝子を該細胞に導入し、ゲノムに該遺伝子を組み込む方法等により、ヒトSLC23A3遺伝子産物を発現する動物または植物細胞を取得することができる。
【0019】
本発明のスクリーニング法で使用することのできる試験物質は、特に限定されるものではないが、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の化合物、コンビナトリアル・ケミストリー技術(Terrett N.K. et al., Tetrahedron,51,8135-73, 1995)によって得られる化合物群、ファージ・ディスプレイ法(Felici, F. et al., J.Mol.Biol., 222, 301-310, 1991)などを応用して作成されたランダム・ペプチド群;タンパク質、核酸分子、ペプチド、抗体;微生物または植物若しくは動物細胞の培養上清または細胞抽出物、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物、生体内の体液;更には、本発明のスクリーニング法により選択された化合物等を化学的又は生物学的に修飾した化合物などを挙げることができる。
【0020】
ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下におけるスクリーニング用細胞と試験物質との接触は、例えば、細胞が微生物(典型的には大腸菌)である場合、試験物質、ヒポキサンチン、及びナトリウムイオンを含有する培地を用いて微生物の培養を開始することにより実施することができる。あるいは、各ウェルに試験物質を予め分注したマイクロプレートを用意しておき、ヒポキサンチン及びナトリウムイオンを含有する培地に懸濁した微生物を各ウェルに添加して培養を開始することにより、前記接触を実施することができる。
【0021】
細胞が動物細胞(典型的にはツメガエル卵母細胞)である場合、前記接触は、例えば、インビトロ転写により合成したヒトSLC23A3 RNAを動物細胞に微量注入し、所定時間(ツメガエル卵母細胞では36時間以上)培養してヒトSLC23A3遺伝子を発現させた後、試験物質、3H-ヒポキサンチン、及びナトリウムイオンを含有する培地と交換または追加することにより実施することができる。
【0022】
本発明のスクリーニング方法における接触工程において、使用する細胞量(例えば、細胞数/培地容量)、ヒポキサンチン濃度、ナトリウムイオン濃度等は、後述の実施例を参考に、適宜決定することができる。試験物質の濃度については、例えば、その種類、精製の程度、活性の強弱などが異なるため、一概には規定できないが、当業者であれば、複数の異なる濃度で予備実験を行うことにより適宜決定することができる。
【0023】
本発明のスクリーニング方法における接触工程では、試験物質を添加する試験群に加えて、所望により、試験物質を添加しないネガティブコントロールや、試験物質の代わりにNa+依存性ヒポキサンチントランスポーター(すなわち、ヒトSLC23A3遺伝子産物)の公知阻害薬(例えば、ジピリダモール)を添加したポジティブコントロールを用意することができる。
【0024】
《培養観察工程(2A)、選択工程(3A)》
本発明のスクリーニング方法において、細胞として微生物を用いる本発明の一態様における培養観察工程(2A)では、前記接触工程(1)に続いて、ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で試験物質を接触させた状態で前記微生物を培養し、その増殖を観察する。続いて、本態様における選択工程(3A)では、微生物増殖が観察される試験物質を候補物質として選択する。
【0025】
前記培養観察工程において、微生物の増殖を観察する方法は、増殖しているか否か、及び/又は増殖の程度を判断できる方法であれば、特に限定されるものではないが、例えば、目視により濁度を観察する方法、吸光度により濁度を定量する方法、培養液を遠心することにより沈殿した微生物の量により判断する方法等を挙げることができる。
【0026】
先述したとおり、ヒトSLC23A3遺伝子を微生物で発現させると、Na+存在下において細胞外のヒポキサンチンを細胞内に取り込むヒポキサンチン輸送が行われるが、微生物においてもヒポキサンチン集積は毒性を示すため、Na+存在下では微生物の増殖が阻害される(試験物質を添加しないネガティブコントロール)。一方、ヒトSLC23A3遺伝子産物であるNa+依存性ヒポキサンチントランスポーターの阻害薬を添加したポジティブコントロールでは、ヒトSLC23A3遺伝子を微生物で発現させても、ヒポキサンチン輸送が阻害されるため、微生物内でのヒポキサンチン集積は発生せず、従って、Na+存在下でも微生物は増殖する。
【0027】
前記選択工程では、試験物質を添加した試験群の内、Na+存在下で微生物の増殖が観察された試験物質を候補物質として選択する。選択された候補物質は、ヒトSLC23A3遺伝子産物であるNa+依存性ヒポキサンチントランスポーターの阻害薬の候補物質である。Na+依存性ヒポキサンチントランスポーターはヒポキサンチン毒性を発現するトランスポーターであると考えられるので、Na+依存性ヒポキサンチントランスポーター阻害薬は、腎保護薬、すなわち、慢性腎臓病の治療または予防薬、特にはキサンチン尿症の治療または予防薬の候補と考えられる。
【0028】
得られた候補物質をリード化合物として化学的又は生物学的に修飾した複数の化合物を、再度、試験物質として本発明のスクリーニング方法に適用することにより、より効果の高い候補物質を取得することができる。
【0029】
《測定工程(2B)および選択工程(3B)》
本発明のスクリーニング方法において、細胞として動物細胞を用いる本発明の一態様における測定工程(2A)では、前記接触工程(1)に続いて、ヒポキサンチン及びナトリウムイオンの存在下で試験物質を接触させた状態で前記動物細胞におけるヒポキサンチン取り込み量を測定する。続いて、本態様における選択工程(3A)では、ヒポキサンチンの取り込み量を減少させる試験物質を候補物質として選択する。
【0030】
前記測定工程において、ヒポキサンチンの取り込み量を測定する方法は、公知のヒポキサンチン測定法であれば、特に限定されるものではないが、例えば、放射性同位体等の標識化合物でラベルしたヒポキサンチンを用いて実施することができる。
【0031】
ヒトSLC23A3遺伝子を動物細胞で発現させると、Na+存在下において細胞外のヒポキサンチンを細胞内に取り込むヒポキサンチン輸送が行われるので、Na+存在下でヒポキサンチンの取り込み量が増加する(試験物質を添加しないネガティブコントロール)。一方、ヒトSLC23A3遺伝子産物であるNa+依存性ヒポキサンチントランスポーターの阻害薬を添加したポジティブコントロールでは、ヒトSLC23A3遺伝子を動物細胞で発現させても、ヒポキサンチン輸送が阻害されるため、Na+存在下でヒポキサンチンの取り込み量が減少する。
【0032】
前記選択工程では、試験物質を添加した試験群の内、ネガティブコントロールのヒポキサンチン取り込み量と比較して、Na+存在下でヒポキサンチンの取り込み量を減少させた試験物質を候補物質として選択する。選択された候補物質は、ヒトSLC23A3遺伝子産物であるNa+依存性ヒポキサンチントランスポーターの阻害薬の候補物質である。先述のとおり、Na+依存性ヒポキサンチントランスポーターはヒポキサンチン毒性を発現するトランスポーターであると考えられるので、Na+依存性ヒポキサンチントランスポーター阻害薬は、腎保護薬、すなわち、慢性腎臓病の治療または予防薬、特にはキサンチン尿症の治療または予防薬の候補と考えられる。
【0033】
得られた候補物質をリード化合物として化学的又は生物学的に修飾した複数の化合物を、再度、試験物質として本発明のスクリーニング方法に適用することにより、より効果の高い候補物質を取得することができる。
【0034】
《確認工程(4)》
本発明のスクリーニング方法における確認工程(4)では、選択した候補物質について、別の評価系を用いて、ヒトSLC23A3遺伝子機能阻害効果、慢性腎臓病の治療もしくは予防効果、又はキサンチン尿症の治療もしくは予防効果を確認する。
【0035】
例えば、細胞として微生物を用いる本発明のスクリーニング方法の一態様により選択した候補物質を、細胞として動物細胞を用いる本発明のスクリーニング方法の別の一態様に適用し、Na+存在下でヒポキサンチンの取り込み量が減少することを確認することにより、ヒトSLC23A3遺伝子機能阻害効果を再確認することができる。また、その逆に、細胞として動物細胞を用いる本発明のスクリーニング方法の一態様により選択した候補物質を、細胞として微生物を用いる本発明のスクリーニング方法の別の一態様に適用し、Na+存在下で微生物が増殖することを確認することにより、ヒトSLC23A3遺伝子機能阻害効果を再確認することができる。
【0036】
また、慢性腎臓病、特にはキサンチン尿症の治療または予防薬の公知の評価系により、候補物質の慢性腎臓病、特にはキサンチン尿症の治療もしくは予防効果を確認することができる。この際、所望により、公知の該治療または予防薬と比較しながら、候補物質の効果を確認することができる。
【実施例0037】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
《実施例1:ヒトSLC23A3遺伝子のクローニング》
ヒトSLC23A3 cDNAは、ヒト腎臓由来の全RNAを用いるnested RT-PCRによりクローニングした。第一回および第二回の各nested PCRに用いたプライマーセットを表1に示す。クローニングは、PCR産物のクローニングの際にNaCl無添加のLB培地を用いて大腸菌を培養すること以外は、常法に従って実施した。なお、通常のLB培地の組成は、トリプトン1%(w/v)、酵母エキス0.5%(w/v)、塩化ナトリウム1%(w/v)である。
【0039】
【0040】
得られたcDNAの塩基配列(配列番号5)は、NM_001144889(mRNA,2322bp)として登録されているヒトSLC23A3(solute carrier family 23 member 3)遺伝子の塩基配列と一致した。
【0041】
《実施例2:ヒトSLC23A3遺伝子のツメガエル卵母細胞における発現とNa+依存性ヒポキサンチントランスポーター活性の確認》
1.SLC23A3クローンベクターからのインビトロ転写
SLC23A3-pCR4TOPOプラスミドは5’側にT7 RNAポリメラーゼ結合配列を有するので、SLC23A3-pCR4TOPOプラスミドを3’側に位置するSpeI制限酵素部位で切断して直鎖状にし、mMessage mMachine T7 transcription kit(Thermo Fisher Scientific)を用いてSLC23A3 RNAをインビトロ合成し、Turbo DNase(Thermo Fisher Scientific)でSLC23A3-pCR4TOPOプラスミドを分解後、MegaClear kit(Thermo Fisher Scientific)にてRNAを精製し、Poly A tailing kit(Thermo Fisher Scientific)にてRNAにPoly A tailを付加した。蒸留水を用いて1μg/μLに調整し、-80℃で保存した。
【0042】
2.ツメガエル卵母細胞の調製
麻酔下の雌アフリカツメガエルの腹部を切開し、卵巣塊を一部摘出後、4-0外科用吸収糸で閉創した。卵巣被膜をピンセットで破砕後、2mg/mLのコラゲナーゼ/OR2溶液10mL中で室温2時間振盪して卵母細胞を単離した。卵母細胞をゲンタマイシン入りND96溶液に移動させると卵母細胞を包む卵胞細胞がはがれるため、微量注入可能な状態となる。顕微鏡下でステージ6の大きさまで成熟した卵母細胞を選別した。
【0043】
3.RNAのツメガエル卵母細胞への微量注入
ガラスキャピラリーをプーラーで引き、針状となった先端をピンセットで折り、180℃で2時間乾熱滅菌してガラスニードルとして用いた。ガラスニードルにシリコンオイルを少量充填し、Manual Oocyte Microinjection Pipette(Drummond Scientific)に取り付けて、同Microinjection Pipetteをマニピュレーターに取り付けた。パラフィルム上に置いたRNA溶液もしくは蒸留水をガラスニードル内に吸引した。ガーゼを貼り付けたシャーレ上にND96溶液を入れ、2.で調整したツメガエル卵母細胞を置いた。ツメガエル卵母細胞の赤道部分にガラスニードルを刺入し、RNAもしくは蒸留水を50nL注入した。NaClをコリンClもしくはNMDG(N-methyl-D-glucamine)で置換したND96溶液(Na無添加ND96溶液)にツメガエル卵母細胞を移し、18℃で48時間以上培養した。
【0044】
4.3H-ヒポキサンチン取り込み実験
24ウェルプレートにNa無添加ND96溶液を入れて、48時間以上培養したツメガエル卵母細胞を1ウェル当たり10個入れた。1ウェル当たり500μLの10nmol/L 3H-ヒポキサンチン/ND96溶液を添加し、2分間取り込みを行った後、氷冷したND96溶液を約1mL×5回洗浄し、ツメガエル卵母細胞1個を液シンバイアル1本に移し、1ウェルより8個移した。液体シンチレーションバイアルに5%ドデシル硫酸ナトリウム溶液を100μL加え、一晩溶解させた。液体シンチレーションカクテルを1mL加え、シンチレーションカウンターにてdpmを計測した。
【0045】
5.結果
結果を
図1に示す。
SLC23A3 RNAを注入していない卵母細胞(対照)では、Na
+の有無によりヒポキサンチンの取り込み量に変化がなかった。一方、同RNAを注入した卵母細胞では、Na
+の有無にかかわらず、対照と比較してより多くのヒポキサンチンの取り込みが観察され、また、Na
+非存在下とNa
+存在下との比較では、Na
+存在下において有意な取り込み量増加が認められた。
この結果から、ヒト腎臓で発現するSLC23A3は、Na
+依存性ヒポキサンチントランスポーターであることが確認された。
【0046】
《実施例3:ヒトSLC23A3遺伝子の大腸菌における発現とNa+依存的な大腸菌増殖の確認》
SLC23A3のPCR産物のクローニングの際に得られたSLC23A3-pCR4TOPOプラスミド含有大腸菌をNaCl無添加LB寒天培地(カナマイシン含有)でコロニー形成ののち、1つのコロニーをピックアップしてNaCl無添加LB溶液(カナマイシン含有)に加えて菌液を作成し、菌液をNaCl添加LB溶液(カナマイシン含有)とNaCl無添加LB溶液(カナマイシン含有)に一定量加え、37℃、225rpmで一晩培養した。なお、本実施例および次の実施例4における「NaCl添加LB溶液」は、通常のLB培地(トリプトン1%(w/v)、酵母エキス0.5%(w/v)、塩化ナトリウム1%(w/v))である。また、通常のLB培地は、酵母エキスに由来するヒポキサンチンを含有するため、別途、ヒポキサンチンを添加する必要はない。
【0047】
SLC23A3-pCR4TOPOプラスミド含有大腸菌は、NaCl無添加LB溶液では、増殖可能で、培養液の混濁が確認されたのに対して、NaCl添加LB溶液では、増殖が阻害され、培養液の混濁が少なく、培養液を遠心して得られる大腸菌の沈殿も少ないことが確認された。
この結果は、ヒトSLC23A3遺伝子産物であるNa+依存性ヒポキサンチントランスポーターが、Na+存在下の大腸菌においてヒポキサンチン集積により毒性を示すため、該遺伝子産物を発現する大腸菌の増殖を阻害すること、そして、この培養系をスクリーニングに用いることにより、Na+含有培地で該大腸菌の増殖を回復させる試験物質はヒトSLC23A3遺伝子機能阻害薬の候補物質となり得ることを示す。
【0048】
《実施例4:ヒトSLC23A3遺伝子を発現する大腸菌を用いたNa+依存性ヒポキサンチントランスポーターの活性阻害薬のスクリーニング》
SLC23A3-pCR4TOPOプラスミド含有大腸菌をNaCl無添加LB寒天培地(カナマイシン含有)でコロニー形成ののち、1つのコロニーをピックアップしてNaCl無添加LB溶液(カナマイシン含有)に加えて菌液を作成する。東大創薬機構から入手したAssay ready plateの各ウェルにDMSO 2μL添加後、NaCl添加LB溶液(カナマイシン含有)を100μL添加して回転振盪することで被検薬を溶解する。さらに上記菌液を各ウェルに100μL添加し、滅菌済みガス透過性プレートシール(SureSeal Breathable,Sterile;BM機器)でシールして37℃で一晩培養し、660nm吸光度を測定して菌の増殖しているウェルを検索する。