(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061618
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】プラントの運転支援装置、及びプラントの運転支援方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230425BHJP
【FI】
G05B23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171653
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】関合 孝朗
(72)【発明者】
【氏名】堀 嘉成
(72)【発明者】
【氏名】武内 洋人
(72)【発明者】
【氏名】中原 雅博
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223BA01
3C223BB05
3C223BB08
3C223CC01
3C223DD01
3C223FF03
3C223FF12
3C223FF26
3C223FF35
3C223FF42
3C223GG01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プラントの状況に応じて点検経路や避難経路を導出できる、プラントの運転支援装置と運転支援方法を提供する。
【解決手段】本発明によるプラント100の運転支援装置200は、プラント100の運転データ4を用いてプラント100の運転状態を診断し、異常事象の兆候または異常事象の発生を検知する診断部400と、診断部400が異常事象の兆候または異常事象の発生を検知した場合に、異常事象の兆候または異常事象が発生した地点である異常発生部位を推定し、異常発生部位に作業員が到達する点検経路または作業員が異常発生部位から避難する避難経路を決定する経路決定部700とを備える。経路決定部700は、プラント100の設計情報と、カメラが異常事象の兆候または異常事象が発生する前に撮影したプラント100の画像データ9と、を比較することで検出した通行可能な通路に基づき、点検経路または避難経路を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの運転データを用いて前記プラントの運転状態を診断し、異常事象の兆候または前記異常事象の発生を検知する診断部と、
前記診断部が前記異常事象の兆候または前記異常事象の発生を検知した場合に、前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生した地点である異常発生部位を推定し、前記異常発生部位に作業員が到達する点検経路または前記作業員が前記異常発生部位から避難する避難経路を決定する経路決定部と、
を備え、
前記経路決定部は、前記プラントの設計情報と、カメラが前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生する前に撮影した前記プラントの画像データと、を比較することで検出した通行可能な通路に基づき、前記点検経路または前記避難経路を決定する、
ことを特徴とする、プラントの運転支援装置。
【請求項2】
前記プラントの前記設計情報が保存された設計情報データベースと、
前記カメラが撮影した前記プラントの画像データが保存された画像データデータベースと、を備える、
請求項1に記載のプラントの運転支援装置。
【請求項3】
前記経路決定部は、前記カメラが前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生する前に撮影した前記画像データと、前記カメラが前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生した以降に撮影した前記画像データと、を比較することで検出した通行可能な通路に基づき、前記点検経路または前記避難経路を決定する、
請求項1に記載のプラントの運転支援装置。
【請求項4】
前記異常事象によって起こる2次被害についての情報が保存された異常知識データベースを備え、
前記経路決定部は、前記通行可能な通路と、前記2次被害についての情報を用いて検出した将来に通行不能になる可能性のある通路とに基づき、前記点検経路または前記避難経路を決定する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のプラントの運転支援装置。
【請求項5】
前記異常知識データベースには、前記2次被害の内容、前記2次被害が発生する予想時間、及び前記2次被害の影響範囲が保存されており、
前記経路決定部は、前記診断部が検知した前記異常事象と、前記異常知識データベースに保存された前記2次被害についての情報に基づいて、前記通行不能になる可能性のある通路を求める、
請求項4に記載のプラントの運転支援装置。
【請求項6】
前記経路決定部は、複数の前記異常発生部位に前記作業員が到達する前記点検経路を決定する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のプラントの運転支援装置。
【請求項7】
前記経路決定部は、前記作業員が通る経路の総距離と前記経路を通過する際のリスクによって計算される評価値を用いて、前記点検経路または前記避難経路を決定する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のプラントの運転支援装置。
【請求項8】
前記点検経路が想定点検経路として予め設定されており、
前記経路決定部は、前記評価値を計算する式のパラメータを調整することで、前記想定点検経路と一致するように前記点検経路を決定する、
請求項7に記載のプラントの運転支援装置。
【請求項9】
前記経路決定部が決定した前記点検経路または前記避難経路に沿って前記作業員の移動を誘導するように構成された誘導部を備える、
請求項1または2に記載のプラントの運転支援装置。
【請求項10】
前記経路決定部は、通路が通行不能になった原因と、通行不能になった通路が通行可能となる時間とを、前記異常事象の種類に応じて予め対応付けておくことで、将来に通行可能となる可能性のある前記点検経路または前記避難経路を検出する、
請求項1または2に記載のプラントの運転支援装置。
【請求項11】
プラントの運転データを用いて前記プラントの運転状態を診断し、異常事象の兆候または前記異常事象の発生を検知する診断ステップと、
前記診断ステップで前記異常事象の兆候または前記異常事象の発生を検知した場合に、前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生した地点である異常発生部位を推定し、前記異常発生部位に作業員が到達する点検経路または前記作業員が前記異常発生部位から避難する避難経路を決定する経路決定ステップと、
を有し、
前記経路決定ステップでは、前記プラントの設計情報と、カメラが前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生する前に撮影した前記プラントの画像データと、を比較することで検出した通行可能な通路に基づき、前記点検経路または前記避難経路を決定する、
ことを特徴とする、プラントの運転支援方法。
【請求項12】
前記経路決定ステップでは、前記カメラが前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生する前に撮影した前記画像データと、前記カメラが前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生した以降に撮影した前記画像データと、を比較することで検出した通行可能な通路に基づき、前記点検経路または前記避難経路を決定する、
請求項11に記載のプラントの運転支援方法。
【請求項13】
異常知識データベースに前記異常事象によって起こる2次被害についての情報が保存されており、
前記経路決定ステップでは、前記通行可能な通路と、前記2次被害についての情報を用いて検出した将来に通行不能になる可能性のある通路とに基づき、前記点検経路または前記避難経路を決定する、
請求項11または12に記載のプラントの運転支援方法。
【請求項14】
前記異常知識データベースには、前記2次被害の内容、前記2次被害が発生する予想時間、及び前記2次被害の影響範囲が保存されており、
前記経路決定ステップでは、前記診断ステップで検知した前記異常事象と、前記異常知識データベースに保存された前記2次被害についての情報に基づいて、前記通行不能になる可能性のある通路を求める、
請求項13に記載のプラントの運転支援方法。
【請求項15】
前記経路決定ステップでは、複数の前記異常発生部位に前記作業員が到達する前記点検経路を決定する、
請求項11または12に記載のプラントの運転支援方法。
【請求項16】
前記経路決定ステップでは、前記作業員が通る経路の総距離と前記経路を通過する際のリスクによって計算される評価値を用いて、前記点検経路または前記避難経路を決定する、
請求項11または12に記載のプラントの運転支援方法。
【請求項17】
前記点検経路が想定点検経路として予め設定されており、
前記経路決定ステップでは、前記評価値を計算する式のパラメータを調整することで、前記想定点検経路と一致するように前記点検経路を決定する、
請求項16に記載のプラントの運転支援方法。
【請求項18】
前記経路決定ステップで決定された前記点検経路または前記避難経路に沿って前記作業員の移動を誘導する誘導ステップを有する、
請求項11に記載のプラントの運転支援方法。
【請求項19】
前記経路決定ステップでは、通路が通行不能になった原因と、通行不能になった通路が通行可能となる時間とを、前記異常事象の種類に応じて予め対応付けておくことで、将来に通行可能となる可能性のある前記点検経路または前記避難経路を検出する、
請求項11に記載のプラントの運転支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントに異常が発生した際に、異常が発生した地点に作業員が安全に到達できるように支援するプラントの運転支援装置と運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントで異常が発生した場合に異常に対応する技術として、例えば、以下のような発明が提案されている。
【0003】
特許文献1には、避難誘導システムが開示されている。このシステムでは、発電所、工場、化学プラント、原子炉、備蓄基地などでの予め定められた計測項目を各種センサーで計測し、災害予測演算部で計測値の経時的変化の有無を監視して災害の発生を予測したとき、事前に災害発生予測情報を出力し、最適避難誘導径路図の選択部が各エリアに最適な避難誘導径路図を、予め記憶された避難径路情報記憶装置から自動的に検索して、各エリアに設けられた表示装置に夫々の最適避難誘導径路図を表示し、避難所に避難させるようにしている。
【0004】
特許文献2には、ナビゲート装置が開示されている。この装置は、プラント内でのガス漏れ箇所の位置を示す第1の位置情報を取得する第1の取得部と、ガス漏れにより生じているガス雲の範囲の位置を示す第2の位置情報を取得する第2の取得部と、プラント内に設けられた通路網を示す通路網データ、第1の位置情報、第2の位置情報、及びプラント内の所定の位置(例えば、待機所の位置)を示す第3の位置情報を用いて、通路網を利用して所定の位置からガス漏れ箇所の位置に到達できる、ガス雲の範囲と重ならない最短経路を算出する算出部と、最短経路を示す画像の画像データを出力する出力部を備える。
【0005】
特許文献3には、適応共鳴理論(Adaptive Resonance Theory、ART)を用いてデータを分類することで、異常の発生を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-187362号公報
【特許文献2】国際公開第2017/061351号
【特許文献3】特開2010-237893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたシステムは、予め記憶された経路から最適な避難経路を探索する構成を備える。このため、異常の発生状況によって使用可能な通路が変化すると、予め記憶された避難経路が使用できなくなる可能性がある。また、避難経路を事前に抽出して記憶させる必要があり、この抽出作業と記憶作業に多くの工数が必要である。
【0008】
特許文献2に記載された装置は、ガス雲の範囲と重ならない最短経路を算出しており、プラントでガス漏れが発生した異常事象に対応している。しかし、プラントでは、改造や異常事象の発生による物の落下・設備の変形などのプラントの構造変化により、使用可能な通路が変化し、算出した最短経路が使用できない可能性がある。
【0009】
プラントの運転支援装置には、異常の発生などによって使用可能な通路が変化した場合でも、異常原因を確認するなどのために作業員が点検箇所(異常発生部位)まで安全に到達できる経路や、作業員が点検箇所から安全に避難できる経路を導出できることが望まれている。
【0010】
本発明の目的は、プラントの状況に応じて作業員が安全に移動することができる経路を導出できる、プラントの運転支援装置と運転支援方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるプラントの運転支援装置は、プラントの運転データを用いて前記プラントの運転状態を診断し、異常事象の兆候または前記異常事象の発生を検知する診断部と、前記診断部が前記異常事象の兆候または前記異常事象の発生を検知した場合に、前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生した地点である異常発生部位を推定し、前記異常発生部位に作業員が到達する点検経路または前記作業員が前記異常発生部位から避難する避難経路を決定する経路決定部とを備える。前記経路決定部は、前記プラントの設計情報と、カメラが前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生する前に撮影した前記プラントの画像データと、を比較することで検出した通行可能な通路に基づき、前記点検経路または前記避難経路を決定する。
【0012】
本発明によるプラントの運転支援方法は、プラントの運転データを用いて前記プラントの運転状態を診断し、異常事象の兆候または前記異常事象の発生を検知する診断ステップと、前記診断ステップで前記異常事象の兆候または前記異常事象の発生を検知した場合に、前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生した地点である異常発生部位を推定し、前記異常発生部位に作業員が到達する点検経路または前記作業員が前記異常発生部位から避難する避難経路を決定する経路決定ステップとを有する。前記経路決定ステップでは、前記プラントの設計情報と、カメラが前記異常事象の兆候または前記異常事象が発生する前に撮影した前記プラントの画像データと、を比較することで検出した通行可能な通路に基づき、前記点検経路または避難経路を決定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、プラントの状況に応じて作業員が安全に移動することができる経路を導出できる、プラントの運転支援装置と運転支援方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例による運転支援装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】運転支援装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3A】運転データデータベースに保存されるデータ(運転データ)の態様を説明する図である。
【
図3B】診断結果データベースに保存されるデータ(診断結果)の態様を説明する図である。
【
図3C】異常知識データベースに保存されるデータの態様を説明する図である。
【
図4A】診断部が適応共鳴理論を用いてプラントの運転状態を診断する構成を示す模式図である。
【
図4B】F0レイヤーの構成を示すブロック図である。
【
図4C】F1レイヤーの構成を示すブロック図である。
【
図5A】運転データをクラスタに分類した分類結果の一例を示す図である。
【
図5B】運転データを時間変化とともにクラスタに分類した結果を説明する図である。
【
図6】
図2のステップ1060で経路決定部が実行する動作を示すフローチャートである。
【
図7A】ノードデータのテーブルの例を示す図である。
【
図7B】エッジデータのテーブルの例を示す図である。
【
図7C】
図6のステップ1140で実施される処理を説明するフローチャートである。
【
図8】運転支援装置が導出した点検経路の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によるプラントの運転支援装置と運転支援方法は、プラントの運転データを用いてプラントの運転状態を診断し、異常事象の兆候または異常事象の発生を検知した場合には、作業員が安全に点検箇所に到達できる点検経路を求める。また、本発明によるプラントの運転支援装置と運転支援方法では、作業員が点検箇所まで到達する点検経路だけでなく、作業員が点検箇所から安全に戻ってくるための避難経路も導出できる。本発明によるプラントの運転支援装置と運転支援方法を用いると、プラントの状況に応じて点検経路または避難経路をリアルタイムで導出でき、プラントで発生しうる種々の事象に対応できる。このため、異常対応時の安全性を向上でき、作業員は、点検箇所まで安全に到達できて、点検箇所から安全に避難できる。
【0016】
以下、本発明の実施例による、プラントの運転支援装置と運転支援方法について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施例による運転支援装置200の構成を示すブロック図である。本実施例による運転支援装置200は、運転支援対象であるプラント100と、外部装置900に接続している。
【0018】
プラント100は、機器110、カメラ71、及び制御装置120を備える。
【0019】
機器110は、プラント100を構成する機器(例えば、機械、装置、及び設備)である。
【0020】
カメラ71は、プラント100の内部(例えば、機器110の外観と、プラント100の内部の通路など)を撮影する。
【0021】
制御装置120は、機器110から送信された計測信号70を受信し、制御信号80を機器110に送信する。
【0022】
計測信号70は、機器110に設置されたセンサーが計測したプラント100の運転データ(例えば、温度、流量、及び圧力など)と、カメラ71が撮影した画像データを含む。
【0023】
制御信号80は、制御装置120が機器110を制御するための信号である。
【0024】
外部装置900は、外部入力装置910、及び画像表示装置940を備える。
【0025】
本実施例では、外部入力装置910は、キーボード920とマウス930を備える。外部入力装置910は、データを入力するための装置であれば、タッチパネルや音声入力のためのマイクなど、任意の装置を備えることができる。外部入力装置910は、作業員によって操作されて、運転支援装置200に入力する外部入力信号1を作成する。
【0026】
画像表示装置940は、後述する運転支援装置200の外部出力インターフェイス220から出力された情報を表示する装置であり、例えば作業員が操作する端末に備えられた画面などである。
【0027】
運転支援装置200は、外部とのインターフェイスとして、外部入力インターフェイス210と外部出力インターフェイス220を備える。
【0028】
運転支援装置200は、外部入力インターフェイス210を介して、プラント100が収集した計測信号70が計測信号2として入力されるとともに、外部装置900の外部入力装置910が作成した外部入力信号1が入力される。運転支援装置200に入力された計測信号2は、計測データ3として、運転データデータベース310と画像データデータベース320に保存される。
【0029】
運転支援装置200は、外部出力インターフェイス220を介して、外部出力信号12を外部装置900の画像表示装置940とプラント100の制御装置120に出力する。外部出力信号12は、運転支援装置200が演算した結果の情報を含む信号である。
【0030】
運転支援装置200は、データベースとして、運転データデータベース310、画像データデータベース320、診断結果データベース330、異常知識データベース340、及び設計情報データベース350を備える。
図1では、データベースを「DB」と略記している。これらのデータベースには、電子化された情報が保存されており、通常電子ファイル(電子データ)と呼ばれる形態で情報が保存される。
【0031】
運転支援装置200は、これらのデータベースを備えなくてもよい。運転支援装置200は、運転支援装置200の外部に設置されたこれらのデータベースから、それぞれのデータベースが保存している情報を取得して、以下に説明する処理を実行することもできる。
【0032】
運転データデータベース310には、計測データ3に含まれるプラント100の運転データ(例えば、温度、流量、及び圧力など)が運転データ4として保存される。画像データデータベース320には、計測データ3に含まれるカメラ71が撮影した画像データ及び後述する情報収集部600が撮影した画像データが画像データ9として保存される。診断結果データベース330には、後述する診断部400が診断した結果の情報(診断結果5)が保存される。異常知識データベース340には、異常事象によって起こる被害(2次被害)についての情報(異常知識)が予め保存されている。設計情報データベース350には、CADなどで得られたプラント100の設計情報が予め保存されている。プラント100の設計情報には、例えば、プラント100の設備構造、プラント100の内部の通路、及びプラント100に設置された足場などの情報が含まれる。
【0033】
運転支援装置200は、診断部400、収集情報決定部500、情報収集部600、経路決定部700、誘導部800、及び運転支援装置動作制御部250を備える。診断部400、収集情報決定部500、経路決定部700、及び運転支援装置動作制御部250は、演算装置である。
【0034】
運転支援装置動作制御部250は、診断部400、収集情報決定部500、情報収集部600、経路決定部700、及び誘導部800を制御する。
【0035】
診断部400は、運転データデータベース310に保存されている運転データ4を用いて、プラント100の運転状態を診断し、異常事象の兆候(異常兆候)の発生または異常事象の発生を検知する。診断部400は、任意の方法、例えば特許文献3に開示されている方法を用いて、プラント100の運転状態を診断する。診断部400は、診断した結果の情報を、診断結果5として診断結果データベース330に保存する。
【0036】
以下では、診断部400が異常事象の兆候の発生を検知する方法の一例として、特許文献3に開示されている方法を用いた診断方法について、簡単に説明する。診断部400は、まず、運転データデータベース310から取得した正常時の運転データを複数のクラスタ(正常クラスタ)に分類する。次に、診断部400は、現在の運転データをクラスタに分類する。運転データを既存のクラスタに分類できる場合は、既存のクラスタに分類する。運転データを既存のクラスタに分類できない場合は、新しいクラスタ(新規クラスタ)を生成し、運転データを新規クラスタに分類する。新規クラスタの発生は、診断対象の状態が新しい状態(正常時に経験していない新状態)に変化したことを意味し、この新規クラスタは異常クラスタである。診断部400は、運転データを正常クラスタに分類した場合は正常であると判断し、新規クラスタが発生した場合、または運転データを既存の異常クラスタに分類した場合は、異常兆候が発生した、すなわち異常兆候の発生を検知したと判断する。診断部400は、プラント100の運転状態を診断した結果(「正常である」または「異常兆候が発生している」)を診断結果データベース330に保存する。
【0037】
また、診断部400は、異常兆候または異常事象の発生を検知した場合には、検知した異常兆候によって起こり得る異常事象または検知した異常事象の種類(例えば、「摩耗」など)を推定する。診断部400は、例えばクラスタ番号(特許文献3ではカテゴリー番号)に対応付けられた事象を異常事象として推定する。なお、診断部400は、本実施例で述べた方法に限らず、任意の推定技術を用いて、異常事象の種類を推定することができる。
【0038】
収集情報決定部500、情報収集部600、経路決定部700、及び誘導部800は、診断部400が異常事象の兆候または異常事象の発生を検知したときに動作する。
【0039】
収集情報決定部500は、診断結果データベース330、異常知識データベース340、及び設計情報データベース350から、これらのデータベースが保存している情報であるデータベース信号6を取得し、後述する情報収集指令信号7を情報収集部600に送信する。
【0040】
情報収集部600は、映像を撮影する機能を有し、例えばカメラを備えたドローンやロボットなどの移動体である。情報収集部600は、収集情報決定部500から取得した情報収集指令信号7に基づいてプラント100の内部(例えば、プラント100の内部の通路など)の映像をカメラで撮影し、撮影した映像についての情報を表す情報収集結果信号8を画像データデータベース320に送信する。情報収集部600は、通常の点検時、作業員から指示を受けたとき、及び
図2に示すフローチャートのステップ1050の実行時に映像を撮影する。移動体に備えられたカメラを用いて撮影することで、プラント100に設置されたカメラ71が撮影できる範囲外であっても必要に応じて撮影することができる。
【0041】
経路決定部700は、画像データデータベース320から画像データ9を取得するとともに、診断結果データベース330、異常知識データベース340、及び設計情報データベース350から、これらのデータベースが保存している情報であるデータベース信号10を取得する。経路決定部700は、取得した画像データ9とデータベース信号10に基づいて作業員が点検箇所まで安全に到達できる点検経路または作業員が点検箇所から安全に避難できる避難経路を決定し、決定した経路を表す経路信号11を誘導部800と外部出力インターフェイス220に送信する。
【0042】
誘導部800は、作業員の移動を誘導する機能を有する機器であり、例えばドローン、ロボット、及び構内放送機器などで構成することができる。誘導部800は、経路決定部700から入力された経路信号11に基づいて作業員を誘導する。
【0043】
本実施例による運転支援装置200では、これらの構成要素が動作することにより、異常兆候または異常事象が発生したと推定される地点(異常発生部位)を点検箇所として、作業員がこの点検箇所を点検するために通る点検経路または避難経路をプラントの状況に応じて導出できる。これらの構成要素の動作については、後述する。本実施例による運転支援装置200では、1つまたは複数の異常発生部位を点検箇所とすることができる。
【0044】
なお、本実施例では運転支援装置200が演算装置とデータベースを内部に備えるが、運転支援装置200は、演算装置とデータベースの一部または全部を外部に備え、これら外部の装置と通信して信号やデータを送受信する構成を備えることもできる。また、各データベースに保存されている情報は、外部出力インターフェイス220を介して画像表示装置940に表示でき、作業員が外部入力装置910を操作して生成する外部入力信号1で修正できる。また、本実施例では運転支援装置200の運転支援対象がプラント100であるが、運転支援装置200は、プラント100以外の設備を運転支援対象とすることができる。
【0045】
図2は、運転支援装置200の動作を示すフローチャートである。
図2に示すフローチャートの処理は、運転支援装置動作制御部250が運転支援装置200の構成要素を動作させることによって実行される。
【0046】
ステップ1000、ステップ1010、ステップ1020、及びステップ1030の処理は、診断用の演算であり、所定のサンプル周期毎に繰り返し実行される。ステップ1040、ステップ1050、ステップ1060、及びステップ1070の処理は、ステップ1020で異常兆候または異常事象の発生が検知された場合に実行される点検支援用の演算であり、点検経路や避難経路を導出して作業員の移動を誘導するための処理である。以下、各ステップの実施内容を説明する。
図2のフローチャートに示すように、診断用の演算と点検支援用の演算は、並行して行われる。
【0047】
ステップ1000では、運転支援装置200は、プラント100の制御装置120から計測信号2を取得して、外部入力インターフェイス210を介して、プラント100の運転データを運転データ4として運転データデータベース310に保存し、カメラ71が撮影した画像を画像データ9として画像データデータベース320に保存する。
【0048】
ステップ1010では、診断部400は、運転データデータベース310に保存されている運転データ4を取得し、プラント100の運転状態を診断する。診断部400は、診断した結果の情報である診断結果5を生成し、診断結果5を診断結果データベース330に保存する。
【0049】
ステップ1020では、診断部400は、異常兆候または異常事象の発生を検知したか否かを判定する。診断部400が異常兆候または異常事象の発生を検知した場合は、検知した異常兆候によって起こり得る異常事象または検知した異常事象の種類を診断部400が推定し、ステップ1040に進む。診断部400が異常兆候または異常事象の発生を検知しなかった場合は、ステップ1030に進む。
【0050】
ステップ1030では、運転支援装置動作制御部250は、
図2に示すフローチャートの処理を終了するか否かを判定する。作業員から運転支援装置200を停止する指示があった場合は、運転支援装置動作制御部250は、
図2のフローチャートの処理を終了し、指示がない場合は、ステップ1000に戻る。
【0051】
ステップ1040では、収集情報決定部500が動作する。収集情報決定部500は、設計情報データベース350に保存されている情報をデータベース信号6として入力し、追加で収集する情報を決定する。追加で収集する情報には、異常兆候または異常事象が発生した原因の調査などのために作業員が点検箇所(異常発生部位)に到達するまでの通路が安全に通行できるか否かと、異常兆候または異常事象の発生に伴って危険な状態になっているか否かを調べるための、通路についての情報が含まれる。例えば、収集情報決定部500は、プラント100に設置されている全ての通路の画像データを追加で収集すると決定する。
【0052】
また、運転支援装置200には、異常兆候または異常事象が発生した時の点検経路が想定点検経路として予め設定されていることがある。この場合には、収集情報決定部500は、情報収集に要する時間を短縮するため、想定点検経路が安全に通行できるか否かを調べるための画像データを優先して収集すると決定し、想定点検経路が安全に通行できることが確認できた場合には他の通路の画像データを追加で収集しないと決定することもできる。
【0053】
なお、収集情報決定部500は、例えば既に画像データデータベース320に保存されている画像データ9から点検箇所に到達するまでの経路が安全に通行できることが確認できた場合には、追加で情報を収集しないと決定しても良い。例えば、異常兆候または異常事象の発生を検知する前に、異常兆候または異常事象が発生した後の通路の画像データ9を取得していたような場合が想定される。この場合は、後述するステップ1050は実行せず、その次のステップ1060を実行する。
【0054】
収集情報決定部500は、追加で収集する通路の情報を、情報収集指令信号7として情報収集部600に送信する。
【0055】
ステップ1050では、情報収集指令信号7に基づいて情報収集部600が動作する。情報収集部600は、既に述べたように、映像を撮影する機能を有する移動体(例えばカメラを備えたドローンやロボットなど)である。情報収集部600は、情報収集指令信号7を取得すると、プラント100の内部に移動し、追加で収集すべき通路の映像を撮影する。情報収集部600は、撮影した映像についての情報を表す情報収集結果信号8を画像データデータベース320に送信する。画像データデータベース320は、情報収集結果信号8を受信すると、情報収集部600が撮影した映像を画像データ9として保存する。
【0056】
なお、情報収集部600に代わって、または、情報収集部600とともに、カメラ71を用いて追加で収集すべき通路の映像を撮影するようにしても良い。例えば、カメラ71が撮影できる通路の情報をカメラ71が収集し、カメラ71が撮影できない通路の情報を情報収集部600が収集するようにしても良い。この場合、
図1には図示しないが、情報収集指令信号7は外部出力インターフェイス220及び制御装置120を介してカメラ71に送信され、カメラ71が撮影した映像についての情報収集結果信号8は制御装置120及び外部入力インターフェイス210を介して画像データデータベースに保存される。
【0057】
ステップ1060では、経路決定部700が動作する。経路決定部700は、データベース信号10と画像データ9を取得し、異常兆候または異常事象が発生したと推定される地点(異常発生部位)に作業員が安全に到達する経路(点検経路)を決定する。経路決定部700の動作について、以下では簡単に説明し、詳細は後述する。
【0058】
経路決定部700は、設計情報データベース350に保存されているプラント100の設計情報を、カメラ71または情報収集部600(例えばドローンやロボット)がプラントの異常兆候または異常事象が発生する前(通常の点検時など)に撮影し画像データデータベース320に保存されている画像データ9と比較し、プラント100の通路のうち正常時に通行可能な通路を検出する。そして、経路決定部700は、カメラ71または情報収集部600(例えばドローンやロボット)がプラントの異常兆候または異常事象が発生した以降に撮影し画像データデータベース320に保存されている画像データ9を用いて、現在発生している異常などにより通行不能となっている通路(通行可能な通路)を検出する。そして、経路決定部700は、異常知識データベース340に保存されている2次被害についての情報を用いて、2次被害により今後通行できなくなる可能性のある通路(将来通行不能な通路)を検出する。今後通行できなくなる可能性(将来通行不能になる可能性)のある通路とは、将来通行不能になると経路決定部700に判断された通路のことである。経路決定部700は、これらの通路に関する情報に基づき、異常兆候または異常事象の発生を検知したときに通行可能な通路及び将来通行可能な通路を検出し、作業員が安全に異常発生部位に到達する経路(点検経路)を決定する。なお、経路決定部700は点検経路の代わりに避難経路を決定するようにしても良い。
【0059】
経路決定部700は、決定した点検経路を、経路信号11として誘導部800と外部出力インターフェイス220に送信する。外部出力インターフェイス220は、経路信号11の情報を含む外部出力信号12を制御装置120と画像表示装置940に送信する。画像表示装置940は、点検経路などの、運転支援装置200が演算を行って得た情報を表示する。作業員は、画像表示装置940に表示された情報を見ることにより、点検経路を把握できる。
【0060】
ステップ1070では、誘導部800が動作する。誘導部800は、経路信号11を取得すると、経路信号11が示す情報の内容に従って、作業員を誘導する。例えば、ドローンと移動型ロボットは作業員を先導し、構内放送機器は音声で運転員が進む方向を指示することで、それぞれ作業員が点検経路に沿って移動することを支援する。
【0061】
以上述べたように、本実施例による運転支援装置200は、異常兆候または異常事象の発生を検知すると、ステップ1040からステップ1070の処理を実行することにより、プラント100の状況に応じて点検経路または避難経路をリアルタイムで導出でき、作業員が異常兆候や異常事象に対応するときの安全性を向上できる。
【0062】
図3Aから
図3Cは、運転支援装置200が備えるデータベースに保存されるデータの態様を説明する図である。
【0063】
図3Aは、運転データデータベース310に保存されるデータ(運転データ4)の態様を説明する図である。プラント100の機器110に設置されたセンサーは、プラント100の運転データを計測する。この運転データは、サンプリング周期毎に運転データデータベース310に保存される。
図3Aには、一例として、3つの項目A、B、C(例えば、温度、流量、圧力)についての運転データ4を示している。
【0064】
図3Bは、診断結果データベース330に保存されるデータ(診断結果5)の態様を説明する図である。診断部400が診断した結果の情報は、診断結果5として診断結果データベース330に保存される。
図3Bの上段には、一例として、運転データを計測した時刻とクラスタ番号の関係を示すデータを示している。
図3Bの下段には、一例として、クラスタ毎の属性、事象、重み係数を示している。属性とは、各クラスタが正常クラスタであるか、異常クラスタであるかを定義するための情報である。重み係数とは、各クラスタの中心座標を定義するための係数についての情報である。さらに、属性が異常のクラスタについては、クラスタ番号に対応付けられた異常事象(異常兆候によって起こり得る異常事象)の種類が、事象として保存されている。
【0065】
図3Cは、異常知識データベース340に保存されるデータの態様を説明する図である。異常知識データベース340には、異常事象によって起こり得る被害(2次被害)についての情報(異常知識)として、異常事象に対する2次被害の内容、2次被害の発生時間、及び2次被害の影響範囲などの情報が予め保存されている。2次被害の発生時間とは、異常事象が発生してから2次被害が発生するまでの予想時間である。2次被害の影響範囲とは、2次被害の影響を受ける範囲についての情報であり、例えば2次被害により通れなくなる通路などのことである。
【0066】
図面に示していないが、画像データデータベース320には、カメラ71と情報収集部600が撮影した画像データ9が保存されている。画像データ9には、主にプラント100の通路の画像が含まれる。経路決定部700は、画像データ9から、物体が落下している通路などの、通行不能となっている通路を検出することができる。
【0067】
また、図面に示していないが、設計情報データベース350には、CADなどで得られたプラント100の設計情報が予め保存されている。経路決定部700は、プラント100の設計情報からプラント100の通路を把握することができる。
【0068】
以下、診断部400が行う処理について説明する。本実施例では、診断部400は、既存の方法である適応共鳴理論(ART)を用いて、プラント100の運転状態を診断する。
【0069】
図4Aは、診断部400がARTを用いてプラント100の運転状態を診断する構成を示す模式図である。診断部400は、ARTモジュール410を備える。以下では、ARTモジュール410が行う処理の手順について説明する。
【0070】
ARTモジュール410は、入力データIi(n)が入力される。入力データIi(n)は、運転データ4を0から1の範囲に正規化したデータNxi(n)と正規化したデータの補数CNxi(n)(=1-Nxi(n))を含むデータである。iは、運転データ4の項目を識別するための符号である。nは、運転データ4の時刻を定義するためのサンプル番号である。
【0071】
ARTモジュール410は、入力データである運転データ4を複数のクラスタに分類する。
【0072】
ARTモジュール410は、F0レイヤー411、F1レイヤー412、F2レイヤー413、メモリ414、及び選択サブシステム415を備え、これらは相互に結合している。F1レイヤー412及びF2レイヤー413は、重み係数を介して結合している。重み係数は、入力データが分類されるクラスタのプロトタイプ(原型)を表している。ここで、プロトタイプとは、クラスタの代表値を表すものである。
【0073】
F0レイヤー411では、入力データ(入力ベクトル)に対して正規化とノイズの除去を実施することで、F1レイヤー412と選択サブシステム415に出力する正規化入力ベクトルui
0を作成する。
【0074】
F1レイヤー412では、F0レイヤー411から入力した正規化入力ベクトルui
0を短期記憶として保持するとともに、F2レイヤー413に出力するpiを計算する。
【0075】
F2レイヤー413では、クラスタ毎に定義されている重み係数とpiを用いて適合度を計算し、piに最もよく一致するクラスタを選択する。
【0076】
選択サブシステム415では、正規化入力ベクトルui
0とF2レイヤー413で選択したクラスタとの一致度を計算し、一致度がパラメータρよりも大きい場合には選択したクラスタを出力する。
【0077】
次に、ARTモジュール410のアルゴリズムについて説明する。ARTモジュール410に入力データIi(n)が入力された場合のアルゴリズムの概要は、下記の処理1から処理5のようになる。
【0078】
処理1:F0レイヤー411により、入力データIi(n)を正規化し、ノイズを除去する。正規化されてノイズが除去された入力データ(正規化入力ベクトルui
0)は、F1レイヤー412に出力される。
【0079】
処理2:F1レイヤー412に入力された入力データ(正規化入力ベクトルui
0)と重み係数との比較により、ふさわしいクラスタの候補を選択する。選択サブシステム415は、入力データと、重み係数で示されるクラスタの中心座標との距離を求め、この距離に基づいて入力データにふさわしいクラスタの候補を求める。
【0080】
処理3:選択サブシステム415で選択したクラスタの妥当性がパラメータρとの比により評価される。妥当と判断されれば、入力データはそのクラスタに分類され、処理4に進む。一方、妥当と判断されなければ、そのクラスタはリセットされ、他のクラスタからふさわしいクラスタの候補を選択する(処理2を繰り返す)。パラメータρの値を大きくするとクラスタの分類が細かくなる。すなわち、クラスタサイズが小さくなる。逆に、ρの値を小さくすると分類が粗くなる。すなわち、クラスタサイズが大きくなる。このパラメータρをビジランス(vigilance)パラメータと呼ぶ。パラメータρは、入力データの類似性を規定するパラメータである。パラメータρの値は、予め設定しておく。
【0081】
処理4:処理2において全ての既存のクラスタがリセットされると、入力データが新規クラスタに属すると判断され、新規クラスタのプロトタイプを表す新しい重み係数を生成する。
【0082】
処理5:入力データがクラスタJに分類されると、クラスタJに対応する重み係数WJ(new)は、過去の重み係数WJ(old)及び入力データp(または入力データから派生したデータ)を用いて、式(1)により更新される。
WJ(new)=Kw・p+(1-Kw)・WJ(old) ・・・(1)
ここで、Kwは、学習率パラメータ(0<Kw<1)であり、入力データpを新しい重み係数WJ(new)に反映させる度合いを決定する値である。
【0083】
なお、式(1)及び後述する式(2)から式(12)を演算する機能は、ARTモジュール410に組み込まれている。また、演算に必要なパラメータも、ARTモジュール410に保存されている。
【0084】
ART410のデータ分類アルゴリズムの特徴は、上記の処理4にある。処理4では、学習した時のパターンと異なる入力データが入力された場合、記録されているパターンを変更せずに新しいパターンを記録することができる。このため、過去に学習したパターンを記録しながら、新たなパターンを記録することが可能である。
【0085】
このように、ARTモジュール410は、入力データ(運転データ4)が与えられると、パターンを学習する。したがって、学習済みのARTモジュール410は、新たな入力データを入力すると、上記のアルゴリズムにより、入力データが過去に学習したどのパターンに近いかを判定することができる。また、入力データのパターンが過去に経験したことのないパターンであれば、ARTモジュール410は、入力データを新規クラスタに分類する。
【0086】
図4Bは、F0レイヤー411の構成を示すブロック図である。F0レイヤー411では、入力データIiを各時刻で再度正規化し、F1レイヤー412及び選択サブシステム415に出力する正規化入力ベクトルu
i
0を作成する。なお、
図4Bでは、添え字iを省略している。
【0087】
始めに、入力データIiから、式(2)に従ってwi
0を計算する。ここで、aは定数である。
【0088】
【0089】
次に、wi
0を正規化したxi
0を、式(3)を用いて計算する。ここで、||w0||は、w0のノルムを表す。
【0090】
【0091】
そして、式(4)を用いて、xi
0からノイズを除去したvi
0を計算する。ただし、θは、ノイズを除去するための定数である。式(4)の計算により、微小な値は0となるため、入力データのノイズが除去される。
【0092】
【0093】
最後に、式(5)を用いて正規化入力ベクトルui
0を求める。ui
0は、F1レイヤー412の入力となる。
【0094】
【0095】
図4Cは、F1レイヤー412の構成を示すブロック図である。F1レイヤー412では、式(5)で求めたu
i
0を短期記憶として保持し、F2レイヤー413に出力するp
iを計算する。F2レイヤーの計算式をまとめて式(6)から式(12)に示す。ただし、a、b、及びdは、予め定めた定数、f()は、式(4)で示した関数、T
jは、F2レイヤー413で計算する適合度、Z
jiは重み係数、iはデータ項目を識別するための符号(1≦i≦M)、Mはデータ項目の数である。なお、
図4Cでは、添え字iを省略している。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
ただし、
【0103】
【0104】
図5A~
図5Bは、診断部400による運転データ4の分類結果を説明する図である。
図5Aと
図5Bでは、一例として、運転データ4のうちの2項目(項目Aと項目B)を示している。
【0105】
図5Aは、運転データ4をクラスタに分類した分類結果の一例を示す図である。
図5Aでは、一例として、運転データ4のうちの2項目(項目Aと項目B)を2次元のグラフで表している。また、縦軸と横軸には、それぞれの項目の運転データを規格化して示している。
【0106】
運転データは、
図4AのARTモジュール410によって、複数のクラスタ419に分類される。クラスタ419は、
図5Aでは、クラスタ番号1から4とそれぞれ記された4つの円で表され、1つの円が1つのクラスタに相当する。
【0107】
本実施例では、運転データは、4つのクラスタに分類されている。クラスタ番号1は、項目Aの値が大きく、項目Bの値が小さいグループである。クラスタ番号2は、項目Aと項目Bの値が共に小さいグループである。クラスタ番号3は、項目Aの値が小さく、項目Bの値が大きいグループである。クラスタ番号4は、項目Aと項目Bの値が共に大きいグループである。
【0108】
図5Bは、運転データを時間変化とともにクラスタに分類した結果を説明する図である。
図5Bにおいて、上図は、運転データ4の例を示し、下図は、運転データ4を分類したクラスタの例を示す。上図と下図の横軸は、時間を示し、上図の縦軸は、運転データ4を示し、下図の縦軸は、クラスタ番号を示す。
【0109】
図5Bに示すように、運転データ4は、クラスタ1から4という4つのクラスタに分類された。すなわち、運転データ4は、学習の期間(正常時)では、クラスタ1から3という3つのクラスタに分類され、診断の期間では、クラスタ2とクラスタ4という2つのクラスタに分類された。クラスタ1から3は、正常クラスタである。クラスタ4は、新しく発生したクラスタ(新規クラスタ)、すなわち異常クラスタであり、正常時に経験していない新状態を表している。
【0110】
図2のステップ1020では、診断部400は、クラスタ4という新規クラスタが発生したら(または、運転データ4がクラスタ4に分類されたら)、異常兆候が発生したと判断する。すなわち、診断部400は、異常兆候の発生をクラスタ番号に基づいて検知することができる。また、プラント100の作業員が、
図3Bに示すような診断結果のデータに基づいて、クラスタ番号と異常事象を関連付けることもできる。
【0111】
以下では、
図2のステップ1060で経路決定部700が実行する動作の詳細を説明する。経路決定部700は、ステップ1060で、データベース信号10と画像データ9を入力し、異常発生部位に作業員が安全に到達する点検経路または避難経路を決定する。
【0112】
図6は、
図2のステップ1060で経路決定部700が実行する動作を示すフローチャートである。
【0113】
ステップ1100では、経路決定部700は、診断結果データベース330に保存されている情報に基づき、異常発生部位を推定して求める。診断結果データベース330(
図3B)にはクラスタ番号と異常事象に関するデータが保存されているが、クラスタ番号と関連付けられている異常事象に異常発生部位についての情報を含めておくことで、異常発生部位の推定が可能である。異常事象に異常発生部位についての情報を含めておくというのは、異常事象についての情報に、その異常事象がどの地点(プラント100のどの機器110)で発生する異常事象かという情報を含めておくことである。このようにすると、経路決定部700は、クラスタ番号から異常発生部位を特定することができる。経路決定部700は、1つまたは複数の異常発生部位を推定して求めることができる。
【0114】
なお、診断部400は、運転データ4をプラント100の機器110毎にグループ化した上で、このグループ毎に診断することも可能である。この場合には、診断部400は、機器110毎の運転状態を診断することが可能であり、経路決定部700は、新規クラスタが発生したグループに該当する機器110を、異常発生部位としてもよい。
【0115】
ステップ1110では、経路決定部700は、設計情報データベース350に保存されているプラント100の設計情報と、カメラ71または情報収集部600がプラントの異常兆候または異常事象が発生する前に撮影し画像データデータベース320に保存されている画像データ9とを比較して、正常時に通行可能な通路を検出する。設計情報と画像データを比較する方法の一例として、例えば画像データから通路や構造物を抽出してプラント内部の構造のデータを作成し、設計情報であるCADデータに含まれるプラント内部の構造のデータと比較する方法などがある。設計情報からプラントの通路に変更がない場合には、例えば、設計情報に含まれるプラント100の通路の情報を正常時に通行可能な通路として検出する。
【0116】
一方、プラント100の運転開始後にプラント100が改造された場合、この改造に伴って通行可能な通路が変更される場合がある。例えば、設計情報データベース350に保存されているCADデータでは通路となっている空間と同じ位置の画像をカメラ71または情報収集部600で撮影した際に、壁などの構造物が撮影されているような場合には、プラント100の改造によって当該通路が通行不可であることが分かる。そこで、通常の点検時などに撮影されたプラント100の通路の画像(正常時の画像)と、プラント100の設計情報とを比較することにより、プラント100の改造などによって使用できない通路や新たに使用できるようになった通路を検出し、プラント100の設計情報から得られる通路から使用できない通路を除く、または新たに使用できるようになった通路を追加することで、正常時に通行可能な通路を検出する。
【0117】
ステップ1120では、経路決定部700は、画像データデータベース320に保存されている画像データ9を用いて、通行不能な通路を検出する。経路決定部700は、カメラ71または情報収集部600がプラントの異常兆候または異常事象が発生する前に撮影したプラント100の通路の画像と、カメラ71または情報収集部600が
図2のステップ1050(診断部400が異常兆候または異常事象の発生を検知した場合の処理)で異常兆候又は異常事象が発生した後に撮影したプラント100の通路の画像の画像データ9を互いに比較し、通常の点検時と異常兆候または異常事象の発生を検知した場合との画像の違いから、プラント100の通路に存在する落下物や通路の構造変化を把握し、異常兆候または異常事象の発生などによって通行できなくなっている通路を検出する。
【0118】
また、ガスセンサが機器110に設置されている場合には、経路決定部700は、運転データとして運転データデータベース310に保存されたガスセンサの計測値に基づいて、現在通行不能な通路を検出することも可能である。
【0119】
ステップ1130では、経路決定部700は、診断結果データベース330に保存されている診断結果5のデータ(
図3B)と、異常知識データベース340に保存されている2次被害についての情報(
図3C)に基づき、将来通行不能になる可能性のある通路を求める。診断結果データベース330には、診断部400が診断した結果である、クラスタ番号と異常事象(異常兆候によって起こり得る異常事象)の関係が保存されている。異常知識データベース340には、異常事象によって起こる被害(2次被害)についての情報(異常知識)が保存されている。経路決定部700は、診断部400が異常兆候の発生を検知したクラスタ番号と異常事象の関係と、異常事象と2次被害に関する情報に基づいて、2次被害の発生により今後通行できなくなる可能性のある通路を検出する。例えば、経路決定部700は、2次被害の影響範囲と2次被害の発生時間から、どの通路がいつ通行できなくなるかを求める。
【0120】
ステップ1140では、経路決定部700は、ステップ1110で検出した通行可能な通路の中から、ステップ1120で検出した通行不能となっている通路と、ステップ1130で検出した将来通行不能になる可能性のある通路を回避して、作業員が1つまたは複数の異常発生部位(点検箇所)に到達する経路を、点検経路として決定する。ステップ1140の詳細は、
図7Aから
図7Cを用いて説明する。
【0121】
【0122】
図7Aと
図7Bは、経路決定部700が備えるテーブルの態様を説明する図である。経路決定部700は、ノードデータのテーブルと、エッジデータのテーブルを備える。
【0123】
図7Aは、ノードデータのテーブルの例を示す図である。ノードとは、通路が分岐する地点を定義する節点である。ノードデータのテーブルには、ノード番号、ノードの座標(X、Y、Z)、ノードの通行可否、ノードが通行否となる時刻、及びノードのリスクが記録されている。
【0124】
図7Bは、エッジデータのテーブルの例を示す図である。エッジとは、ノードとノードを繋ぐ通路を定義する辺である。エッジデータのテーブルには、エッジ番号、エッジが接続するノードの番号、エッジの距離(長さ)、エッジの通行可否、エッジが通行否となる時刻、及びエッジのリスクが記録されている。
【0125】
図7Aと
図7Bに示すテーブルは、経路決定部700が、設計情報データベース350に保存されているプラント100の設計情報を用いて、予め作成することができる。例えば、ノードの座標とエッジが接続するノードについての情報は、プラント100の通路についての情報から得ることができる。また、通行可否についてのデータは、初期値を「可」とし、ノードまたはエッジに関連する通路が現在通行不能な通路や将来通行不能になる可能性のある通路になったら「不可」とすることができる。また、通行否となる時刻についてデータは、異常知識データベース340(
図3C)に保存された情報(異常知識)の中の2次被害の発生時間(2次被害が発生する予想時間)から定めることができる。
【0126】
ノードとエッジのリスクとは、該当するノードとエッジを通過する際に作業員が2次被害に巻き込まれるリスクである。経路決定部700は、設計情報データベース350に保存されているプラント100の設計情報や作業員が予め設定した情報を基に、これらのリスクを任意の数値で表すことができる。例えば、ガス漏れの異常が発生した場合のリスクを大きい値で表し、通路に落下物が存在するだけの場合のリスクを小さい値で表すことができる。
【0127】
詳細は後述するが、本実施例による運転支援装置200は、リスクの大きい通路を可能な限り回避した上で点検経路を決定することができる。例えば、ガス漏れの異常が発生している通路を落下物が存在する通路よりも優先的に回避した経路を、点検経路とすることが可能である。
【0128】
なお、
図7Aと
図7Bに示すテーブルは、作業員が作成してもよい。
【0129】
図7Cは、
図6のステップ1140で実施される処理を説明するフローチャートである。
【0130】
ステップ1200では、経路決定部700は、初期ノード番号を設定する。初期ノード番号とは、作業員が現在いる地点のノード(または、作業員が現在いる地点に最も近いノード)の番号であり、点検経路の始点となるノードの番号である。
【0131】
ステップ1210では、経路決定部700は、現在のノード番号における選択可能なエッジから通行可能な任意のエッジを選択し、次のノードに移動する。例えば、現在のノード番号が1である場合には、エッジ1(ノード1とノード2を接続するエッジ)とエッジ2(ノード1とノード3を接続するエッジ)が選択可能なエッジである。エッジ1は、通行可否が「可」であり通行可能であるが、エッジ2は、通行可否が「否」であるため通行可能ではない。このため、経路決定部700は、エッジ2を選択肢から除外してエッジ1を選択し、次のノードであるノード2に移動する。
【0132】
なお、通行可否が「否」となっているエッジであっても、「通行否となる時刻」までに通行が完了すると想定される場合には、そのエッジを選択肢として除外しないようにしても良い。
【0133】
ステップ1220では、経路決定部700は、次のノードへの移動により点検箇所(異常発生部位)を全て通過したかどうかを調べる。点検箇所は、ノードまたはエッジで定義されている。点検箇所を全て通過した場合は、ステップ1230に進み、全て通過していない場合は、ステップ1210に戻る。
【0134】
ステップ1230では、経路決定部700は、今までに選択した全てのエッジで作業員が通る経路を構成し、この経路について評価値を計算する。経路決定部700は、今までに選択したエッジの距離(長さ)の総和である総距離と、今までに通過した全てのノードとエッジのリスクに基づき、経路の評価値を計算する。経路の評価値は、作業員が通る経路の総距離とこの経路を通過する際のリスクによって計算される値であり、任意の式で計算することができる。本実施例では、経路の評価値は、総距離が短くてリスクが小さいほど大きい値をとるものとし、例えば式(13)で計算される。
E=α1×(1/D)+α2×(1/(R+ε)) ・・・(13)
ここで、Eは経路の評価値、Dは総距離、Rはリスク、εはR=0の場合の除算を回避するための微小な値(例えば0.001)、α1とα2は任意に定めた重みパラメータである。
【0135】
経路決定部700は、評価値Eを用いて点検経路を決定する。評価値Eが大きい経路は、総距離が短くてリスクが小さい経路である。このような経路を点検経路にすると、作業員は、点検箇所まで安全に到達でき、点検箇所から安全に避難できる。
【0136】
ステップ1240では、経路決定部700は、経路の評価値Eに基づき、エッジを選択する方法を学習する。経路決定部700は、1つのノードから次のノードへ移動するときにエッジを選択するが、経路の評価値Eが大きくなるようにエッジを選択する。経路決定部700は、どのようなエッジを選択したら経路の評価値Eが大きくなるかを学習する。これにより、経路決定部700は、総距離が短くてリスクが小さい経路を選ぶ方法を学習できる。
【0137】
ステップ1250では、経路決定部700は、学習の終了を判定する。ステップ1210からステップ1250までの処理を予め定められた回数だけ繰り返した場合には、学習を終了してステップ1260に進み、それ以外の場合には、ステップ1210に戻る。
【0138】
ステップ1260では、経路決定部700は、経路の評価値Eが最も大きい経路を点検経路として出力する。
【0139】
経路決定部700は、
図7Cに示すフローチャートを実行することにより、現在通行不能な通路と将来通行不能になる可能性のある通路を回避して、作業員が1つまたは複数の異常発生部位(点検箇所)に到達するための点検経路を決定することができる。この点検経路は、距離が短くてリスクが小さいため、作業員にとって安全な経路である。
【0140】
以上の説明では、経路決定部700は、
図6のステップ1130で2次被害についての情報(異常知識)を用いて将来通行不能になる可能性のある通路を求めて、点検経路を決定する。経路決定部700は、2次被害についての情報を用いずに点検経路を決定することもできる。すなわち、経路決定部700は、ステップ1130で将来通行不能になる可能性のある通路を求めずに(すなわち、ステップ1130を実行せずに)、点検経路を決定することもできる。このような構成では、運転支援装置200は、2次被害についての情報が不要で、将来通行不能になる可能性のある通路を求める必要がないので、より速く点検経路を決定することができる。
【0141】
経路決定部700は、異常事象に応じて(例えば、異常事象の種類、異常発生部位、及び点検箇所の数に応じて)、画像データ9を用いずに点検経路を決定したり、2次被害についての情報を用いずに点検経路を決定したりすることができる。
【0142】
また、経路決定部700は、作業員が全ての点検箇所で作業を終えた後に点検箇所から戻る(避難する)ための避難経路も導出できる。避難経路は、点検経路と同じ経路でもよい。また、避難経路は、作業員が点検箇所に到達した後で点検経路に2次被害が発生することを考慮して、点検箇所から避難する地点までの経路を、点検箇所に到達するまでの経路を導出したのと同様にして導出してもよい。
【0143】
また、異常兆候の発生から時間が経過すると、通行不能な通路が通行可能な通路になる場合がある。例えば、作業員が点検箇所に到達して保守作業を実施することで、通行不能な通路が通行可能な通路になるような場合がある。より具体的には、異常事象として蒸気漏れにより通行不能になった経路に対して、蒸気漏れを止めるためにバルブを閉めることで蒸気が漏れていた方向の通路が通行可能な通路となる場合などがある。
【0144】
経路決定部700は、このように、通路が通行不能になった原因(例えば、蒸気漏れ)と、通行不能になった通路が通行可能となる時間(例えば、作業員が点検箇所に到達する時間と点検に要する時間の合計)を異常事象の種類に応じて予め対応付けておくことで、将来通行可能となる可能性のある経路を検出することができる。つまり、経路決定部700は、作業員の点検などにより通行不能から通行可能になると予測される通路と、この通路が通行不能から通行可能になると予測される時間とに基づいて点検経路を決定することで、例えば点検箇所から避難するための経路としてより適切な通路を選択することができる。なお、将来通行可能となる可能性のある経路とは、将来通行可能になると経路決定部700に判断された経路のことである。
【0145】
なお、運転支援装置200には、異常兆候または異常事象が発生した時の点検経路が想定点検経路として予め設定されていることがある。この場合には、経路決定部700は、想定点検経路に近い経路を点検経路に決定することができる。経路決定部700は、
図7Cに示すフローチャートを実行して得られた点検経路と想定点検経路とを比較し、経路の評価値Eを計算する式(13)の重みパラメータα1、α2を調整することで、得られた点検経路が想定点検経路に近くなるようにすることができる。点検経路が想定点検経路に近いとは、点検経路と想定点検経路との差分が予め定めた閾値より小さいことである。この差分は、任意の方法で求めることができる。経路決定部700は、重みパラメータα1、α2を調整することで、想定点検経路と一致する経路を点検経路に決定してもよい。
【0146】
図8は、運転支援装置200が導出した点検経路の例を説明する図である。
図8には、プラント100の構造物710と、構造物710のフロア(1階720、2階730、及び3階740)を示している。作業員は、1階720と2階730の間を階段750aで移動可能であり、2階730と3階740の間を階段750bで移動可能である。
図8において、黒丸はノード760を示しており、線(実線と破線)はエッジ770を示している。エッジ770のうち、通行不能の通路と将来通行不能になる可能性のある通路を示すエッジには、×印をつけている。
【0147】
図8において、点検経路の始点(作業員が現在いる地点)がノード760aであり、点検箇所780aがエッジ770aで定義されており、点検箇所780bがエッジ770bで定義されているとする。運転支援装置200は、点検経路の始点(ノード760a)から点検箇所780aと点検箇所780bを通過する点検経路として、実線で描かれた点検経路を得ることができる。
【0148】
以上述べたように、本実施例による運転支援装置200は、設計情報データベース350に保存されているプラント100の設計情報と、カメラ71が異常事象の兆候または異常事象が発生する前に撮影した画像データ9と、を比較することで検出した通行可能な通路に基づいて、点検経路または避難経路を決定することにより、作業員が安全に点検箇所まで安全に到達できる点検経路や、作業員が安全に避難できる避難経路を導出できる。
【0149】
また、本実施例による運転支援装置200は、異常兆候または異常事象が発生したときに情報収集部600が撮影した画像データ9を用いて点検経路または避難経路を決定することができ、プラントの状況に応じた点検経路または避難経路をリアルタイムで導出することができる。また、本実施例による運転支援装置200は、プラント100の改造や通路に落下した物体の存在などによる、プラント100の構造変化の影響も考慮して点検経路を導出することが可能である。このため、本実施例による運転支援装置200は、プラント100で発生しうる種々の事象に対応して点検経路を導出することが可能である。
【0150】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0151】
1…外部入力信号、2…計測信号、3…計測データ、4…運転データ、5…診断結果、6…データベース信号、7…情報収集指令信号、8…情報収集結果信号、9…画像データ、10…データベース信号、11…経路信号、12…外部出力信号、70…計測信号、71…カメラ、80…制御信号、100…プラント、110…機器、120…制御装置、200…運転支援装置、210…外部入力インターフェイス、220…外部出力インターフェイス、250…運転支援装置動作制御部、310…運転データデータベース、320…画像データデータベース、330…診断結果データベース、340…異常知識データベース、350…設計情報データベース、400…診断部、410…ARTモジュール、411…F0レイヤー、412…F1レイヤー、413…F2レイヤー、414…メモリ、415…選択サブシステム、419…クラスタ、500…収集情報決定部、600…情報収集部、700…経路決定部、710…構造物、720…1階、730…2階、740…3階、750a…階段、750b…階段、760…ノード、760a…ノード、770…エッジ、770a…エッジ、770b…エッジ、780a…点検箇所、780b…点検箇所、800…誘導部、900…外部装置、910…外部入力装置、920…キーボード、930…マウス、940…画像表示装置。