(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061650
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】ゴム補強用コード及びそれを用いたゴム製品
(51)【国際特許分類】
D06M 15/41 20060101AFI20230425BHJP
D06M 15/227 20060101ALI20230425BHJP
F16G 1/28 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
D06M15/41
D06M15/227
F16G1/28 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171703
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】川口 哲
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AB03
4L033AC11
4L033BA45
4L033CA12
4L033CA41
(57)【要約】
【課題】被膜を備えたゴム補強用コードにおいて、ゴム製品のマトリックスゴム、特にエチレン-プロピレン-ジエンゴムを含むマトリックスゴムとの優れた接着性を実現できるゴム補強用コードを提供する。
【解決手段】本発明のゴム補強用コード12は、少なくとも1つのストランドを備える。ストランドは、少なくとも1つのフィラメント束と、前記フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた被膜とを含んでいる。前記被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、酸基及び酸基の誘導体基からなる群より選択される少なくとも1つを含有する変性ポリオレフィンとを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製品を補強するためのゴム補強用コードであって、
前記ゴム補強用コードは、少なくとも1つのストランドを備え、
前記ストランドは、少なくとも1つのフィラメント束と、前記フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた被膜と、を含んでおり、
前記被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、酸基及び酸基の誘導体基からなる群より選択される少なくとも1つを含有する変性ポリオレフィンと、を含む、
ゴム補強用コード。
【請求項2】
前記変性ポリオレフィンは、以下の(A)及び(B)からなる群より選ばれる少なくとも1つを満たす、
請求項1に記載のゴム補強用コード。
(A)重量平均分子量が、100000以上200000以下である。
(B)極性基含有量が、0.5mmol/g以上0.9mmol/g未満である。
【請求項3】
前記変性ポリオレフィンは、前記(A)及び前記(B)の両方を満たす、
請求項2に記載のゴム補強用コード。
【請求項4】
前記誘導体基は、前記酸基と、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つとの中和反応によって形成された基である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム補強用コード。
【請求項5】
前記誘導体基は、前記酸基と、前記第2級アミン及び前記第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つとの中和反応によって形成された基である、
請求項4に記載のゴム補強用コード。
【請求項6】
前記被膜は、前記ゴム補強用コードの外表面に位置する、
請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム補強用コード。
【請求項7】
前記被膜は、実質的に前記レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び前記変性ポリオレフィンからなる、
請求項1~6のいずれか1項に記載のゴム補強用コード。
【請求項8】
前記被膜において、前記変性ポリオレフィンの含有割合は、30質量%以上95質量%以下である、
請求項1~7のいずれか1項に記載のゴム補強用コード。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のゴム補強用コードで補強されたゴム製品。
【請求項10】
マトリックスゴムと、前記マトリックスゴムに埋設された前記ゴム補強用コードと、を含むゴムベルトである、
請求項9に記載のゴム製品。
【請求項11】
前記マトリックスゴムが、エチレン-プロピレン-ジエンゴムを含む、
請求項10に記載のゴム製品。
【請求項12】
ゴム補強用コードの製造方法であって、
前記製造方法は、
複数のフィラメントを束ねて少なくとも1つのフィラメント束を作製すること、及び
前記フィラメント束の少なくとも表面の一部に処理剤を供給して乾燥させることによって、前記フィラメント束の表面上に被膜が形成されたストランドを作製すること、
を含み、
前記処理剤は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、酸基及び酸基の誘導体基からなる群より選択される少なくとも1つを含有する変性ポリオレフィンのラテックスとを含む、
ゴム補強用コードの製造方法。
【請求項13】
前記処理剤は、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含む、
請求項12に記載のゴム補強用コードの製造方法。
【請求項14】
前記処理剤は、前記第2級アミン及び前記第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、
請求項13に記載のゴム補強用コードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用コードと、それを用いたゴム製品とに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の内燃機関のカムシャフト駆動、インジェクションポンプなどの補機駆動、及び産業機械の動力の伝達には、ゴムベルト又は金属チェーンが使用されている。近年、省エネルギーへの関心が高まっており、燃費向上などの観点などから、動力伝達効率に優れるゴムベルトの使用が着目されている。また、ゴムベルトは、金属チェーンと比較して強度及び弾性率が高く、高負荷の条件でも使用できるという利点も有する。しかし、ゴムベルトは、繰り返し応力を受けると強度の低下が見られることがあり、用途が限定されている。
【0003】
一般に、ゴムベルトのようなゴム製品は、マトリックスゴムと、当該マトリックスゴムに埋め込まれたゴム補強用コードとを含む。ゴムベルトの強度は、ゴム補強用コードの強度に依存する。したがって、ゴム補強用コードは、ゴムベルトの寿命を決定する重要な部材である。
【0004】
ゴム補強用コードは、一般に、補強用繊維(複数のフィラメントを含むフィラメント束)と、当該補強用繊維の表面を保護する被膜とによって形成されている。このような被膜は、ゴム補強用コードがゴム製品のマトリックスゴムに埋め込まれた際に、ゴム補強用コードとマトリックスゴムとの接着性を向上させることもできる。
【0005】
耐熱性が求められるゴム製品では、マトリックスゴムとして、例えば、優れた耐熱性を有するエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が用いられる。従来、マトリックスゴムとしてEPDMが用いられる場合、ゴム補強用コードにおける上記被膜の作製には、通常、RFL(レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物とラテックスとの混合液)が用いられる(例えば、特許文献1)。ゴム補強用コードにおける被膜の作製に用いられる一般的なRFLとしては、例えば、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物(RF)と、2-ビニルピリジン(VP)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、及び/又はスチレンブタジエンゴム(SBR)のゴムラテックスとの混合液が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一般的なRFLを用いて作製された被膜を有する従来のゴム補強用コードは、EPDMとの接着が不十分であった。したがって、マトリックスゴムとしてEPDMが用いられているゴム製品に用いられるゴム補強用コードにおいては、RFLを用いて作製された被膜上に、EPDMとの接着性を向上させるための別の被膜をさらに設ける必要があった。
【0008】
そこで、本発明の目的の一つは、RFLを用いて作製された被膜を備えたゴム補強用コードにおいて、ゴム製品のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムとの優れた接着性を実現できるゴム補強用コードを提供することである。さらに、本発明の別の目的の一つは、そのようなゴム補強用コードによって補強されることにより、マトリックスゴムとゴム補強用コードとの剥離が生じにくい、信頼性の高いゴム製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゴム製品を補強するためのゴム補強用コードであって、
前記ゴム補強用コードは、少なくとも1つのストランドを備え、
前記ストランドは、少なくとも1つのフィラメント束と、前記フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた被膜と、を含んでおり、
前記被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、酸基及び酸基の誘導体基からなる群より選択される少なくとも1つを含有する変性ポリオレフィンとを含む、
ゴム補強用コードを提供する。
【0010】
また、本発明は、上記本発明のゴム補強用コードで補強されたゴム製品を提供する。
【0011】
また、本発明は、ゴム補強用コードの製造方法であって、
前記製造方法は、
複数のフィラメントを束ねて少なくとも1つのフィラメント束を作製すること、及び
前記フィラメント束の少なくとも表面の一部に処理剤を供給して乾燥させることによって、前記フィラメント束の表面上に被膜が形成されたストランドを作製すること、
を含み、
前記処理剤は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、酸基及び酸基の誘導体基からなる群より選択される少なくとも1つを含有する変性ポリオレフィンのラテックスとを含む、
ゴム補強用コードの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、RFLを用いて作製された被膜を備えたゴム補強用コードにおいて、ゴム製品のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムとの優れた接着性を実現できるゴム補強用コードを提供できる。また、本発明は、マトリックスゴムとゴム補強用コードとの剥離が生じにくい、信頼性の高いゴム製品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のゴム製品の一例を模式的に示す一部分解斜視図である。
【
図3】実施例のゴム補強用コードを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0015】
[ゴム補強用コード]
本実施形態のゴム補強用コードは、ゴム製品を補強するためのコードである。このゴム補強用コードは、少なくとも1つのストランドを備えている。このストランドは、少なくとも1つのフィラメント束(補強用繊維)と、フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた被膜と、を含んでいる。被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィンを含む。本実施形態のゴム補強用コードは、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィンを含む被膜を備えていることにより、ゴム製品のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムとの優れた接着性を実現できる。ここで、本明細書において、変性ポリオレフィンとは、酸基及び酸基の誘導体基からなる群より選択される少なくとも1つを含有するポリオレフィンを意味する。
【0016】
以下、本実施形態の補強用コードの製造方法について、より詳しく説明する。
【0017】
本実施形態のゴム補強用コードにおいて、ストランドを構成するフィラメント束は、複数のフィラメントを含む。フィラメントの材料は、特には限定されない。本実施形態におけるゴム補強用コードのフィラメントとして、例えば、ガラス繊維フィラメント、ビニロン繊維に代表されるポリビニルアルコール繊維フィラメント、ポリエステル繊維フィラメント、ナイロンやアラミド繊維(芳香族ポリアミド)などのポリアミド繊維フィラメント、炭素繊維フィラメント、又はポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維フィラメントなどを用いることができる。これらの中でも、寸法安定性、引張強度、モジュラス及び耐屈曲疲労性に優れる繊維のフィラメントを用いることが好ましい。例えば、ガラス繊維フィラメント、アラミド繊維フィラメント、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維フィラメント及び炭素繊維フィラメントから選ばれる少なくとも1つの繊維フィラメントを用いることが好ましく、特にガラス繊維フィラメントが好ましい。フィラメント束は、1種類のフィラメントで構成されていてもよいし、複数種のフィラメントで構成されていてもよい。
【0018】
フィラメント束に含まれるフィラメントの数は、特に制限はない。フィラメント束は、例えば、200本~24000本の範囲のフィラメントを含むことができる。
【0019】
フィラメント束に含まれるフィラメントの表面は、接着強度を高めるための前処理が行われていていてもよい。前処理剤の好ましい一例は、エポキシ基及びアミノ基からなる群より選ばれる少なくともいずれか1つの官能基を含有する化合物である。前処理剤の例には、アミノシラン、エポキシシラン、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などが含まれる。具体的な例としては、ナガセケムテックス社のデナコールシリーズ、DIC社のエピクロンシリーズ、三菱化学社のエピコートシリーズなどが挙げられる。また、前処理剤として、ポリウレタン樹脂及びイソシアネート化合物も同様に使用できる。例えば、前処理剤として、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びイソシアネート化合物からなる群より選択される少なくともいずれか1つを含む処理剤を用いてもよい。このような処理剤を用いて前処理することにより、フィラメント束と被膜との間に、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びイソシアネート化合物からなる群より選択される少なくともいずれか1つを含む樹脂層がさらに設けられる。表面が前処理されることにより、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントといった接着が発現しにくいような繊維フィラメントを用いる場合においても、マトリックスゴムとゴム補強用コードとの接着性を高めることが可能である。なお、フィラメントの前処理によってフィラメント表面に形成される前処理剤からなる被膜(前処理剤膜)は、本実施形態で特定するような、フィラメント束の表面の少なくとも一部を覆う被膜とは異なるものであり、本実施形態で特定する被膜には含まれない。
【0020】
ゴム補強用コードに含まれるフィラメント束の数に限定はなく、1本であってもよいし、複数本であってもよい。フィラメント束は、フィラメント束を複数本束ねたものであってもよい。この場合、複数本のフィラメント束のそれぞれは、撚られていてもよいし、撚られていなくてもよい。また、複数本のフィラメント束が合わせられた状態で撚られていてもよいし、撚られていなくてもよい。
【0021】
被膜は、フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられている。なお、被膜は、フィラメント束の表面上に直接設けられていてもよいし、他の層を介してフィラメント束の表面を覆っていてもよい。本実施形態のゴム補強用コードには、この被膜以外にさらなる別の被膜が設けられていなくてもよい。なお、上述のとおり、ここでの「さらなる別の被膜」には上記の前処理剤被膜は含まれない。したがって、この被膜が、前処理剤膜が設けられたフィラメントを含むフィラメント束の表面に設けられているゴム補強用コードであっても、「この被膜以外にさらなる別の被膜が設けられていないゴム補強用コード」となり得る。
【0022】
本実施形態のゴム補強用コードにおいて、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィンを含む上記被膜は、ゴム補強用コードの外表面に位置していてもよい。すなわち、上記被膜は、本実施形態のゴム補強用コードの表面に露出した最外層の膜であってもよい。この場合、本実施形態のゴム補強用コードがゴム製品のマトリックスゴム中に埋め込まれた際に、上記被膜がマトリックスゴムと直接接する。レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィンを含む上記被膜は、ゴム製品のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムとの優れた接着性を有する。したがって、本実施形態のゴム補強用コードは、例えばゴム製品のマトリックスゴムがEPDMを含む場合でも、上記被膜上にマトリックスゴムとの接着性向上のための別の被膜を設けることなく、マトリックスゴムとの強固な接着を実現できる。
【0023】
被膜は、フィラメント束の表面の少なくとも一部に、後述の被膜用処理剤を供給し、それを熱処理によって乾燥させることによって形成される。フィラメント束の表面への処理剤の供給は、例えば、フィラメント束を被膜用処理剤に含浸させる、又は、フィラメント束の表面の少なくとも一部に被膜用処理剤を塗布することによって実施され得る。なお、この際の熱処理により、フィラメント自体が持つ水分及び処理剤の溶媒(例えば水)がほぼ除去される。なお、フィラメント束への被膜用処理剤の供給方法及び乾燥方法は、特には限定されないが、処理剤が繊維束の内部まで含浸するように供給することが好ましい。
【0024】
被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィンを含む。
【0025】
レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物(RF)は、特に限定されない。レゾルシンとホルムアルデヒドとを水酸化アルカリ及びアミンなどのアルカリ性触媒の存在下で反応させることによって得られたレゾール型RF、及び、レゾルシンとホルムアルデヒドとを酸触媒の存在下で反応させることによって得られたノボラック型RFなどが、好適に利用され得る。レゾール型RFとノボラック型RFとの混合物が用いられてもよい。特に、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とを、モル比R:F=2:1~1:3で反応させて得られたRFを用いることが好ましい。被膜におけるRF成分の含有割合は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。被膜におけるRF成分の含有割合は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。被膜におけるRF成分の含有割合が1質量%以上であることにより、被膜のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する接着が良好になる。被膜におけるRF成分の含有割合が20質量%以下であることにより、被膜のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する接着が良好になる。
【0026】
変性ポリオレフィンは、分子中に、酸基及び/又は酸基の誘導体基を含有するポリオレフィンである。変性ポリオレフィンの分子中に含まれる酸基は、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1つである。変性ポリオレフィンの分子中に含まれる酸基の誘導体基は、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1つの酸基の誘導体基である。すなわち、変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンが、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸の誘導体、及び不飽和カルボン酸無水物の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つで変性された変性物である。変性ポリオレフィンにおいて、酸基及び/又は酸基の誘導体基は、ポリオレフィンの分子中に含まれていればよい。酸基及び/又は酸基の誘導体基は、ポリオレフィンの分子鎖中に導入されていてもよいし、ポリオレフィンの分子末端に導入されていてもよい。本実施形態において、変性ポリオレフィンとして、例えば、ポリオレフィンに不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸の誘導体、及び/又は不飽和カルボン酸無水物の誘導体を付加反応させて得られたもの、並びに、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸の誘導体、及び/又は不飽和カルボン酸無水物の誘導体との共重合体が挙げられる。共重合体は、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸の誘導体、及び/又は不飽和カルボン酸無水物の誘導体とが交互又はランダムに並ぶ交互共重合体又はランダム共重合体であってもよいし、ポリオレフィンに不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸の誘導体、及び/又は不飽和カルボン酸無水物の誘導体をグラフト重合させて得られたグラフト共重合体であってもよいし、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸の誘導体、及び/又は不飽和カルボン酸無水物の誘導体とのブロック共重合体であってもよい。
【0027】
ポリオレフィンの変性に用いられる不飽和カルボン酸とは、カルボキシル基を含有する不飽和化合物を意味する。ポリオレフィンの変性に用いられる不飽和カルボン酸無水物とは、カルボキシル基を含有する不飽和化合物の無水物を意味する。不飽和カルボン酸及び不飽和カルボン酸無水物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸、ナジック酸、及びこれらの無水物等が挙げられ、好ましくは無水イタコン酸及び無水マレイン酸である。ポリオレフィンの変性に用いられる不飽和カルボン酸の誘導体とは、例えば、不飽和カルボン酸のモノ若しくはジエステル、アミド、又はイミド等を意味する。ポリオレフィンの変性に用いられる不飽和カルボン酸の誘導体及び不飽和カルボン酸無水物の誘導体としては、例えば、フマル酸メチル、フマル酸エチル、フマル酸プロピル、フマル酸ブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、マレイン酸メチル、マレイン酸エチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイミド、N-フェニルマレイミド、及びこれらの無水物等が挙げられる。
【0028】
ポリオレフィンは、1種のモノマーからなるオレフィンの単独重合体であってもよいし、複数種のオレフィンのモノマーからなる共重合体であってもよいし、オレフィンのモノマーとオレフィン以外のモノマーとの共重合体であってもよい。オレフィンとしては、例えば、エチレン及びα-オレフィンが挙げられる。オレフィン以外のモノマーは、特には限定されない。ポリオレフィンは、例えば、エチレン及びα-オレフィンから選ばれる1種を単独重合して得られるポリマーであってもよいし、エチレン及びα-オレフィンから選ばれる2種以上を共重合して得られるポリマーであってもよい。モノマーの重合の際には、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒等の公知の重合触媒を用いることができる。ポリオレフィンとしては、具体的には、例えば、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体等が挙げられる。本実施形態において用いられる変性ポリオレフィンは、1種であってもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
【0029】
本実施形態において被膜に含まれる変性ポリオレフィンは、例えば、無水マレイン酸変性ポリオレフィン及び無水イタコン酸ポリオレフィンが好ましい。
【0030】
変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、例えば15000以上であり、30000以上が好ましく、70000以上がより好ましく、100000以上がより好ましい。また、変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、例えば200000以下である。なお、本明細書において、酸変性ポリオレフィンの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定される値である。
【0031】
変性ポリオレフィンにおける極性基含有量は、例えば0.02mmol/g以上であり、0.5mmol/g以上が好ましい。また、変性ポリオレフィンにおける極性基含有量は、例えば3.3mmol/g以下であり、1.8mmol/g以下が好ましく、1.3mmol/g未満がより好ましく、0.9mmol/g未満が特に好ましい。なお、変性ポリオレフィンにおける極性基含有量は、ポリオレフィンの酸変性に用いられた化合物の添加量から換算した理論値として求められる値である。
【0032】
変性ポリオレフィンは、以下の(A)及び(B)からなる群より選ばれる少なくとも1つを満たすことが好ましく、以下の(A)及び(B)の両方を満たすことがより好ましい。
(A)重量平均分子量が、100000以上200000以下である。
(B)極性基含有量が、0.5mmol/g以上0.9mmol/g未満である。
【0033】
なお、変性ポリオレフィンに含まれる極性基とは、ここでは、ポリオレフィンに導入された酸基、すなわちカルボキシル基又はカルボン酸の酸無水物基である。
【0034】
被膜が、上記(A)及び(B)からなる群より選ばれる少なくとも1つを満たす変性ポリオレフィンを含む場合は、ゴム製品のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する被膜の接着性がさらに向上する。これにより、本実施形態のゴム補強用コードは、マトリックスゴムとのより強固な接着を実現できる。
【0035】
被膜が、上記(A)及び(B)の両方を満たす変性ポリオレフィンを含む場合は、ゴム製品のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する被膜の接着性がより一層向上する。これにより、本実施形態のゴム補強用コードは、マトリックスゴムとのより一層強固な接着を実現できる。
【0036】
変性ポリオレフィンの融点は、特には限定されない。変性ポリオレフィンの融点は、例えば20℃以上であり、60℃以上であってもよく、65℃以上であってもよい。また、変性ポリオレフィンの融点は、例えば100℃以下であり、75℃以下であってもよく、70℃以上であってもよい。なお、本明細書において、変性ポリオレフィンの融点は、示差走査熱量測定(DSC)によって求められる値である。
【0037】
上述のとおり、変性ポリオレフィンは、酸基の誘導体基を含んでいてもよい。変性ポリオレフィンは、酸基と、当該酸基の誘導体基との両方を含んでいてもよい。例えば、変性ポリオレフィンは、中和剤と、酸基であるカルボキシル基又はカルボン酸の酸無水物基との中和反応によって形成された、上記酸基の誘導体基を含有していてもよい。中和剤は、例えば、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。すなわち、変性ポリオレフィンは、当該変性ポリオレフィンに含有される酸基と、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つとの中和反応によって形成された、上記酸基の誘導体基を含有していてもよい。被膜に含まれる変性ポリオレフィンが、酸基と、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つとの中和反応によって形成された上記酸基の誘導体基を含有することにより、ゴム製品のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する被膜の接着性がさらに向上する。これにより、本実施形態のゴム補強用コードは、マトリックスゴムとのより強固な接着を実現できる。
【0038】
変性ポリオレフィンは、当該変性ポリオレフィンに含有される酸基と、第2級アミン及び第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つとの中和反応によって形成された、上記酸基の誘導体基を含有することがより好ましい。被膜が、このような誘導体基を含有する変性ポリオレフィンを含むことにより、ゴム製品のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する被膜の接着性がより一層向上する。これにより、本実施形態のゴム補強用コードは、マトリックスゴムとのより一層強固な接着を実現できる。
【0039】
被膜における変性ポリオレフィンの含有割合は、例えば30質量%以上であり、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。被膜における変性ポリオレフィンの含有割合は、例えば99質量%以下であり、95質量%以下であることが好ましく、93質量%以下であることがより好ましい。被膜における変性ポリオレフィンの含有割合が30質量%以上であることにより、被膜のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する接着が良好になる。被膜における変性ポリオレフィンの含有割合が99質量%以下であることにより、被膜のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する接着が良好になる。
【0040】
被膜において、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と変性ポリオレフィンとの固形分質量比は、例えば、1:99~20:80(レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物:変性ポリオレフィン)の範囲であることが好ましく、5:95~15:85であることがより好ましい。
【0041】
被膜において、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物の含有割合及び変性ポリオレフィンの含有割合の合計は、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物の含有割合及び変性ポリオレフィンの含有割合の合計を10質量%以上とすることにより、被膜のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する接着性がさらに向上する。これにより、本実施形態のゴム補強用コードは、マトリックスゴムとのより強固な接着を実現できる。
【0042】
被膜は、実質的にレゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィンからなっていてもよい。被膜が実質的にレゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィンからなるとは、被膜が、不可避に混入される成分を除いて、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィン以外の他の成分を含まないことを意味する。具体的には、被膜において、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物の含有割合及び変性ポリオレフィンの含有割合の合計が、95質量%以上であることをいい、好ましくは98質量%以上であることをいう。被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィンのみからなっていてもよい。被膜が実質的にレゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィンからなることにより、被膜のマトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する接着性がより一層向上する。これにより、本実施形態のゴム補強用コードは、マトリックスゴムとのより一層強固な接着を実現できる。
【0043】
被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィン以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0044】
被膜は、上記の他の成分として、例えばゴム成分を含んでいてもよい。ゴム成分は、例えば、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性ニトリルゴム(X-NBR)、カルボキシル変性水素化ニトリルゴム(X-HNBR)、ブタジエン-スチレン共重合体ラテックス、ジカルボキシル化ブタジエン-スチレン共重合体ゴム、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン三元共重合体ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム、及び、エチレン-プロピレン-非共役ジエン三元共重合体ゴム等が挙げられる。
【0045】
被膜は、上記の他の成分として、例えば、安定剤、増粘剤、及び老化防止剤等をさらに含んでいてもよい。
【0046】
被膜が、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及び変性ポリオレフィンを含むことにより、この被膜のみでも、マトリックスゴムとの優れた接着性を実現することができる。特に、本実施形態の補強用コードがマトリックスゴムにEPDMが含まれるゴム製品に適用される場合に、被膜とマトリックスゴムとの良好な接着が得られる。このように、変性ポリオレフィンは、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と組み合わされて用いられることにより、マトリックスゴムとの接着性を飛躍的に向上させることができる。また、変性ポリオレフィンについて、酸基及び/又は誘導体基を含むことに加え、上述のような、重量平均分子量、極性基含有量、及び/又は、融点等が適宜調整されることにより、変性ポリオレフィンがレゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と組み合わされて用いられる場合に、マトリックスゴムとの接着性のさらなる向上も実現できる。
【0047】
フィラメント束の少なくとも表面に設けられる被膜の質量は、特には限定されず、適宜調整すればよい。例えば、被膜は、補強用コード全体に対して5~30質量%の範囲内となるように設けられることが望ましく、10~25質量%の範囲内となるように設けられることがより望ましく、13~19質量%の範囲内となるように設けられることが特に望ましい。被膜の質量%が多すぎる場合、ゴム製品内におけるゴム補強用コードの寸法安定性の低下や、ゴム補強用コードの弾性率の低下などの不具合が発生することがある。一方、被膜の質量が少なすぎる場合、ストランドがほつれやすくなったり、被膜により繊維を保護する機能が低下したりして、その結果、ゴム製品の寿命が低下する場合がある。
【0048】
本実施形態のゴム補強用コードの撚り数は、特には限定されない。1本のストランドに加えられる撚り(以下、下撚りということもある)の数は、例えば1~6回/25mmの範囲であってよい。さらに、複数のストランドに加えられる撚り(以下、上撚りということもある)の数は、例えば1~8回/25mmの範囲であってよい。下撚り方向と上撚り方向が同じラング撚りであってもよく、下撚り方向と上撚り方向が逆方向のモロ撚りでもよい。撚りの方向に限定はなく、S方向であってもよいし、Z方向であってもよい。
【0049】
[ゴム補強用コードの製造方法]
本実施形態のゴム補強用コードを製造する方法の一例(以下、本実施形態の製造方法と記載する)を、以下に説明する。なお、本実施形態のゴム補強用コードについて説明した事項は以下の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、以下の本実施形態の製造方法で説明した事項は、本実施形態のゴム補強用コードに適用できる。
【0050】
本実施形態の製造方法は、複数のフィラメントを束ねて少なくとも1つのフィラメント束を作製すること、及び前記フィラメント束の少なくとも表面の一部に処理剤を供給して乾燥させることによって、前記フィラメント束の表面上に被膜が形成されたストランドを作製すること、を含む。前記処理剤は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、酸基及び酸基の誘導体基からなる群より選択される少なくとも1つを含有する変性ポリオレフィンのラテックスとを含む。
【0051】
上記のように、複数のフィラメントを束ねて少なくとも1つのフィラメント束を作製し、さらに被膜の作製に用いられる処理剤(被膜用処理剤)を準備する。次に、フィラメント束の表面の少なくとも一部に被膜用処理剤を供給する。その後、被膜用処理剤を乾燥させる、すなわち被膜用処理剤中の溶媒を除去する。被膜用処理剤を乾燥させるために、フィラメント束の表面の供給された被膜用処理剤に対して、例えば熱処理を施す。
【0052】
上記方法によって、フィラメント束の表面の少なくとも一部に被膜が形成される。被膜用処理剤をフィラメント束の表面の少なくとも一部に供給する方法に限定はなく、たとえば、フィラメント束の表面に被膜用処理剤を塗布してもよいし、フィラメント束を被膜用処理剤中に浸漬してもよい。
【0053】
被膜用処理剤の溶媒を除去するための熱処理の条件は、特に限定されない。一例では、80℃~280℃の雰囲気で0.1~2分間乾燥すればよい。
【0054】
被膜が形成されたフィラメント束は、一方向に撚られてもよい。撚る方向は、S方向であってもよいし、Z方向であってもよい。フィラメント束に含まれるフィラメントの数及びフィラメント束の撚り数は、上述したため、説明を省略する。このようにして、本実施形態のゴム補強用コードを製造できる。なお、被膜が形成されたフィラメントの束を複数形成し、それら複数のフィラメント束を束ねて上撚りを加えてもよい。上撚りの方向は、フィラメント束の撚りの方向(下撚りの方向)と同じであってもよいし、異なってもよい。また、被膜が形成されたフィラメント束を複数形成し、フィラメント束それぞれには撚りを与えず、複数のフィラメント束を束ねたものに撚りを加えてもよい。
【0055】
なお、フィラメント束に撚りを加えてから被膜を形成してもよい。なお、フィラメントの種類、数、及び撚り数は、上述した通りである。
【0056】
本実施形態の製造方法の好ましい一例では、フィラメント束に被膜用処理剤を塗布又は含浸した後、その束ねたものを一方向に撚ることによって、ゴム補強用コードを形成する。
【0057】
次に、被膜用処理剤について説明する。
【0058】
被膜用処理剤は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、酸基及び酸基の誘導体基からなる群より選択される少なくとも1つを含有する変性ポリオレフィンのラテックスとを含む。すなわち、本実施形態において、被膜の作製に用いられるRFLは、ラテックスとして、従来一般的なRFLに用いられていたゴムラテックスではなく、変性ポリオレフィンのラテックス(水分散体)を含む。なお、ゴム成分が含まれる被膜を作製する場合は、RFLのラテックスとしてゴムラテックスがさらに含まれていてもよい。
【0059】
被膜用処理剤に含まれる変性ポリオレフィンが酸基を含む場合、被膜用処理剤は、変性ポリオレフィンの酸基と中和反応する中和剤をさらに含んでいてもよい。例えば、被膜用処理剤は、第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含むことが好ましく、第2級アミン及び第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つをさらに含むことがより好ましい。第1級アミン、第2級アミン、及び第3級アミンは、変性ポリオレフィンの酸基、すなわちカルボキシル基又はカルボン酸の酸無水物基と中和反応する中和剤として機能する。変性ポリオレフィンの酸基とアミンとの中和反応によって塩(酸基の誘導体基)が形成されることにより、変性ポリオレフィンの水溶性化が向上する。これにより、被膜用処理剤における変性ポリオレフィンの均一性が向上するので、形成される被膜の性能が向上する。すなわち、ゴム製品のマトリックスゴムとの接着性により優れた被膜が形成され、その結果、マトリックスゴムとのより強固な接着を実現できるゴム補強用コードを得ることができる。
【0060】
被膜用処理剤は、上記以外の他の成分をさらに含んでもよい。たとえば、被膜用処理剤は、他の成分として、可塑剤、老化防止剤、安定剤、充填材などをさらに含んでいてもよい。
【0061】
[ゴム製品]
本実施形態のゴム製品は、本実施形態のゴム補強用コードで補強されたゴム製品である。ゴム製品に特に限定はない。本実施形態のゴム製品の例には、自動車や自転車のタイヤ、及び、伝動ベルトなどが含まれる。伝動ベルトの例には、噛み合い伝動ベルトや摩擦伝動ベルトなどが含まれる。噛み合い伝動ベルトの例には、自動車用タイミングベルトなどに代表される歯付きベルトが含まれる。摩擦伝動ベルトの例には、平ベルト、丸ベルト、Vベルト、Vリブドベルトなどが含まれる。すなわち、本実施形態のゴム製品は、歯付ベルト、平ベルト、丸ベルト、Vベルト、又はVリブドベルトであってもよい。
【0062】
本実施形態のゴム製品は、本実施形態のゴム補強用コードをゴム組成物(マトリックスゴム)に埋め込むことによって形成されている。ゴム補強用コードをマトリックスゴム内に埋め込む方法は特に限定されず、公知の方法を適用してもよい。本実施形態のゴム製品(たとえばゴムベルト)には、本実施形態のゴム補強用コードが埋め込まれている。そのため、本実施形態のゴム製品は、高い耐屈曲疲労性を備えている。したがって、本実施形態のゴム製品は、車輌用エンジンのタイミングベルトや、車輌用の補機駆動用ベルトなどの用途に特に適している。
【0063】
本実施形態のゴム補強用コードが埋め込まれるゴム組成物に含まれるゴムは、特に限定されないが、EPDMを含むことが望ましい。上述のとおり、本実施形態のゴム補強用コードの被膜は、EPDMを含むマトリックスゴムと組み合わされて使用された場合に、特に優れた接着性を有するからである。
【0064】
ゴム製品の一例として、歯付きベルトを
図1に示す。
図1に示す歯付ベルト1は、ベルト本体11と、複数のゴム補強用コード12とを含む。ベルト本体11は、ベルト部13と、一定間隔でベルト部13から突き出した複数の歯部14とを含む。ゴム補強用コード12は、ベルト部13の内部に、ベルト部13の長手方向と平行となるように埋め込まれている。ゴム補強用コード12は、本実施形態のゴム補強用コードである。
【実施例0065】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。
【0066】
[ゴム補強用コードの製造]
(実施例1~8)
ガラスフィラメント(Eガラス組成、平均直径9μm)を200本集束したガラス繊維(フィラメント束)を用意した。このガラス繊維を3本引き揃えて、固形分の組成の質量比(固形分質量比)が以下の表1に示すとおりである被膜用処理剤(RFL)を塗布した。ここで、RFLのラテックスには、表2に示した変性ポリオレフィンのラテックスを用いた。この後、150℃に設定した乾燥炉内で1分間乾燥した。このようにしてストランドを形成した。
【0067】
形成されたストランドは、
図2に示すような断面を有していた。すなわち、多数のガラスフィラメントからなるガラス繊維21の3本の束の表面を覆うように被膜22が設けられて、ストランド20が形成されていた。なお、3本のガラス繊維21は、被膜22によって互いに接着されていた。このようにして得られたストランドを、2回/25mmの割合で下燃りした。そして、下撚りしたストランドを11本引き揃え、2回/25mmの割合で上撚りした。このようにして、
図3に示すような断面を有するゴム補強用コード30を得た。得られたコードに占める被膜の割合は、20質量%であった。このようにして、実施例1~8の補強用コードを得た。
【0068】
(比較例1)
被膜の形成に、固形分の組成の質量比(固形分質量比)が表3に示すとおりであるRFLを用いた点以外は、実施例1~8と同様の方法で、比較例1の補強用コードを得た。
【0069】
【0070】
【0071】
変性ポリオレフィンA~Hは、いずれも、ポリオレフィンであるポリプロピレンを無水マレイン酸によって変性することで得られた変性物であった。なお、変性ポリオレフィンCには、中和剤として第1級アミンの2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールが含まれ、変性ポリオレフィンDには、中和剤として第2級アミンのモルホリンが含まれ、変性ポリオレフィンEには、中和剤として第3級アミンのジメチルアミノエタノールが含まれていた。
【0072】
【0073】
[接着性評価(マトリックスゴムとの接着強度及び破壊形態)]
まず、表4に示す組成からなるゴム片(幅25mm×長さ50mm×厚さ5mm)を2枚用意した。次に、ゴム補強用コードがゴム片の長手方向と平行になるようにゴム補強用コードを2枚の試験片で挟み、165℃で30分加熱して接着した。このようにして得られた試験片を、引っ張り試験機で長手方向に引っ張り、マトリックスゴムと各実施例及び比較例のゴム補強用コードとの間の剥離強度を測定した。
【0074】
また、試験片の破壊形態が、ゴム補強用コードとマトリックスゴムとが接着したまま破壊が生じた「ゴム破壊」であるのか、マトリックスゴムとゴム補強用コードとの界面で剥離が生じた「界面剥離」であるのか、あるいは「ゴム破壊」と「界面剥離」との間の状態である「スポット」であるのかを確認した。より詳しく説明すると、「ゴム破壊」とは、マトリックスゴムとゴム補強用コードとの界面で剥離するのではなく、マトリックスゴム内に亀裂が入って破壊された形態のことであり、ゴム補強用コードにおける剥離界面の90%以上がマトリックスゴムによって覆われている状態をいう。「スポット-1」とは、ゴム補強用コードにおける剥離界面の50%以上90%未満がマトリックスゴムによって覆われている状態をいう。「スポット-2」とは、ゴム補強用コードにおける剥離界面の20%以上50%未満がマトリックスゴムによって覆われている状態をいう。一方、「界面剥離」とは、マトリックスゴムとゴム補強用コードとの間で剥離して、ゴム破壊が起こっていない形態のことであり、剥離されたゴム補強用コードの表面において、破壊されたゴムの存在が20%未満であることを示す。
【0075】
ここで、剥離界面におけるゴムの存在割合は、剥離界面の写真の印刷画像を用いて求めた。具体的には、先ず、試料片における剥離界面の全体が入るように写真をとり、その写真の印刷画像から試料片全体を切り取って、切り取られた試料片全体の印刷画像の重量Wを量る。次に、その試験片全体の印刷画像からゴムの箇所を切り取って、切り取られたゴムの箇所の全体の重量wを量る。得られた重量W,wの値から、残存するゴムの存在割合((w/W)×100%)を求める。結果を表5に示す。
【0076】
【0077】
【0078】
実施例1~8のゴム補強用コードは、比較例1のゴム補強用コードよりも、マトリックスゴムとの接着性に優れていた。実施例1及び2のゴム補強用コードでは、「スポット-2」という良い接着性が得られた。実施例3及び6~8のゴム補強用コードでは、「スポット-1」というさらに良い接着性が得られた。実施例4及び5のゴム補強用コードでは、「ゴム破壊」という最も良い接着性が得られた。
【0079】
これに対し、比較例1のゴム補強用コードは、剥離界面が「界面剥離」であり、接着性が劣っていた。