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特開2023-61675オレフィン重合用触媒用多孔性材料、オレフィン重合用触媒およびオレフィン重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061675
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】オレフィン重合用触媒用多孔性材料、オレフィン重合用触媒およびオレフィン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/64 20060101AFI20230425BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20230425BHJP
   C08F 210/04 20060101ALI20230425BHJP
   C08F 210/14 20060101ALI20230425BHJP
   C08F 110/02 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
C08F4/64
C08F10/00
C08F210/04
C08F210/14
C08F110/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171751
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 恭行
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 浩志
(72)【発明者】
【氏名】北川 進
(72)【発明者】
【氏名】北川 宏
(72)【発明者】
【氏名】大竹 研一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸大
【テーマコード(参考)】
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J100AA02P
4J100AA03Q
4J100AA04Q
4J100AA07Q
4J100AA09Q
4J100AA15Q
4J100AA16Q
4J100AA17Q
4J100AA18Q
4J100AA19Q
4J100AA21Q
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA24
4J100FA08
4J100FA21
4J100GB05
4J100GC07
4J100GC25
4J100GC26
4J128AA01
4J128AB00
4J128AC01
4J128AC23
4J128AC24
4J128BA00A
4J128BB01B
4J128BC15B
4J128BC25B
4J128CB54A
4J128DB02A
4J128DB08A
4J128DB10A
4J128EA01
4J128EB02
4J128EC01
4J128EC02
4J128FA01
4J128GA01
4J128GA06
4J128GA19
(57)【要約】
【課題】オレフィン重合用触媒として用いた際に高い重合活性でオレフィン重合体を製造することのできる多孔性配位高分子を提供すること。
【解決手段】周期表第4族遷移金属イオンクラスターと有機配位子(L)とから構成される多孔性配位高分子であり、下記要件(α-1)および(α-2)を満たすオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)。
(α-1)BET多点法における比表面積が500m2/g以上4000m2/g以下である。
(α-2)X線光電子分光法(XPS)により測定される周期表第4族遷移金属原子に対するハロゲン原子のモル比(ハロゲン原子/周期表第4族遷移金属原子)が0.20以上1.0以下であり、前記ハロゲン原子は塩素原子および/または臭素原子である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第4族遷移金属イオンクラスターと有機配位子(L)とから構成される多孔性配位高分子であり、下記要件(α-1)および(α-2)を満たすオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)。
(α-1)BET多点法における比表面積が500m2/g以上4000m2/g以下である。
(α-2)X線光電子分光法(XPS)により測定される周期表第4族遷移金属原子に対するハロゲン原子のモル比(ハロゲン原子/周期表第4族遷移金属原子)が0.20以上1.0以下であり、前記ハロゲン原子は塩素原子および/または臭素原子である。
【請求項2】
少なくとも1つの前記有機配位子(L)が、1分子中に2つ以上のカルボキシ基を有する配位子である請求項1に記載のオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)。
【請求項3】
さらに下記要件(α-3)を満たす請求項1または2に記載のオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)。
(α-3)X線光電子分光法(XPS)により測定される周期表第4族遷移金属原子に対する酸素原子のモル比(酸素原子/周期表第4族遷移金属原子)が2.5以上4.5以下である。
【請求項4】
前記比表面積が1000m2/g以上4000m2/g以下である請求項1~3のいずれか一項に記載のオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)を含むオレフィン重合用触媒。
【請求項6】
さらに下記(β-1)および(β-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(B)を含む請求項5に記載のオレフィン重合用触媒。
(β-1)下記一般式(B-I)で表される有機アルミニウム化合物
a mAl(ORbnpq・・・(B-I)
[一般式(B-I)中、RaおよびRbは、それぞれ独立に炭素数1以上15以下の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子であり、mは1以上3以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、pは0以上2以下の整数であり、qは0以上2以下の整数であり、かつm+n+p+q=3である。]
(β-2)有機アルミニウムオキシ化合物
【請求項7】
請求項5または6に記載のオレフィン重合用触媒の存在下にオレフィンを重合させる工程を含むオレフィン重合体の製造方法。
【請求項8】
前記オレフィンを重合させる工程が、エチレンを単独重合させる工程、またはエチレンと炭素数3以上30以下の直鎖状もしくは分岐状のα-オレフィンとを共重合させる工程である請求項7に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレフィン重合用触媒用多孔性材料に関し、より詳細にはオレフィン重合用触媒用多孔性配位高分子およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性配位高分子(porous coordination polymer, PCP)は、金属イオンと有機物との配位結合を利用して形成される多孔性構造を有する材料であり、吸着材、触媒等の分野での利用が検討されている。
【0003】
たとえば、多孔性配位高分子をオレフィン重合用触媒として使用した例も報告されており、特許文献1には、ハフニウムなどの第4族金属を使用したMOFとシングルサイトのジルコニウム-ベンジル誘導体との反応生成物、およびこの反応生成物とアルケンとを接触させてアルケンを重合させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/25624号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の多孔性配位高分子を触媒として用いたオレフィンの重合方法には、重合活性の観点からさらなる改善の余地があった。
このような従来技術に鑑み、本発明は、オレフィン重合用触媒として用いた際に高い重合活性でオレフィン重合体を製造することのできる新規なオレフィン重合用触媒用多孔性配位高分子等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、たとえば以下の[1]~[8]に関する。
[1]
周期表第4族遷移金属イオンクラスターと有機配位子(L)とから構成される多孔性配位高分子であり、下記要件(α-1)および(α-2)を満たすオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)。
(α-1)BET多点法における比表面積が500m2/g以上4000m2/g以下である。
(α-2)X線光電子分光法(XPS)により測定される周期表第4族遷移金属原子に対するハロゲン原子のモル比(ハロゲン原子/周期表第4族遷移金属原子)が0.20以上1.0以下であり、前記ハロゲン原子は塩素原子および/または臭素原子である。
【0007】
[2]
少なくとも1つの前記有機配位子(L)が、1分子中に2つ以上のカルボキシ基を有する配位子である前記[1]のオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)。
【0008】
[3]
さらに下記要件(α-3)を満たす前記[1]または[2]のオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)。
(α-3)X線光電子分光法(XPS)により測定される周期表第4族遷移金属原子に対する酸素原子のモル比(酸素原子/周期表第4族遷移金属原子)が2.5以上4.5以下である。
【0009】
[4]
前記比表面積が1000m2/g以上4000m2/g以下である前記[1]~[3]のいずれかのオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)。
【0010】
[5]
前記[1]~[4]のいずれかのオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)を含むオレフィン重合用触媒。
【0011】
[6]
さらに下記(β-1)および(β-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(B)を含む前記[5]のオレフィン重合用触媒。
(β-1)下記一般式(B-I)で表される有機アルミニウム化合物
a mAl(ORbnpq・・・(B-I)
[一般式(B-I)中、RaおよびRbは、それぞれ独立に炭素数1以上15以下の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子であり、mは1以上3以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、pは0以上2以下の整数であり、qは0以上2以下の整数であり、かつm+n+p+q=3である。]
(β-2)有機アルミニウムオキシ化合物
【0012】
[7]
前記[5]または[6]のオレフィン重合用触媒の存在下にオレフィンを重合させる工程を含むオレフィン重合体の製造方法。
【0013】
[8]
前記オレフィンを重合させる工程が、エチレンを単独重合させる工程、またはエチレンと炭素数3以上30以下の直鎖状もしくは分岐状のα-オレフィンとを共重合させる工程である前記[7]のオレフィン重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)をオレフィン重合用触媒として用いると、従来の多孔性配位高分子を触媒として用いたオレフィン重合よりも高い重合活性でオレフィン重合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
[オレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)]
本発明のオレフィン重合用触媒用多孔性材料(A)(以下、単に「多孔性材料(A)」とも記載する。)は、オレフィン重合に用いられる、周期表第4族遷移金属イオンクラスターと有機配位子(L)とから構成される多孔性配位高分子であり、後述する要件(α-1)および(α-2)を満たす。
【0016】
<周期表第4族遷移金属イオンクラスター>
前記周期表第4族遷移金属イオンクラスター(以下、単に「金属イオンクラスター」とも記載する。)に含まれる周期表第4族遷移金属としては、たとえばチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)が挙げられ、安定な構造を有する多孔性配位高分子が得られやすいことなどから、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)が好ましい。これらは1種単独であってもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記金属イオンクラスターの構造の例としては、M68-x(OH)x (Mは周期表第4族遷移金属原子イオンであり、xは0~8の整数である。)表される構造、Coordination Chemistry Reviews 359 (2018) 80-101に記載の構造が挙げられ、前者の具体例としては、M63-O)43-OH)4 (Mは周期表第4族遷移金属原子イオンである。)で表される構造が挙げられる。
【0018】
<有機配位子(L)>
前記有機配位子(L)は、前記金属イオンクラスター同士を結合させる有機配位子である。その例としては、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸等の多価カルボン酸が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
(ジカルボン酸)
ジカルボン酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2-アミノテレフタル酸、2,5-ジアミノテレフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4'-ビフェニルジカルボン酸、3,3'-ビフェニルジカルボン酸、4-(4-カルボキシフェニル)-3-フルオロ安息香酸、4,4’-(エチン-1,2-ジイル)二安息香酸、[1,1’:4’,1’’-テルフェニル]-4,4’’-ジカルボン酸、2’,5’-ジメチル-[1,1’:4’,1’’-テルフェニル]-4,4’’-ジカルボン酸、2,2’-ビピリジン-5,5’-ジカルボン酸、フマル酸、マロン酸、アジピン酸、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
後述するオレフィン重合の際の重合活性の観点からは、上述した化合物の中でもテレフタル酸、4,4'-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-(エチン-1,2-ジイル)二安息香酸、[1,1’:4’,1’’-テルフェニル]-4,4’’-ジカルボン酸およびこれらの誘導体、例えば4-(4-カルボキシフェニル)-3-フルオロ安息香酸、2’,5’-ジメチル-[1,1’:4’,1’’-テルフェニル]-4,4’’-ジカルボン酸などが好ましい。
【0021】
(トリカルボン酸)
トリカルボン酸の例としては、ビフェニル-3,4',5-トリカルボン酸、1,3,5-トリス(4'-カルボキシ[1,1'-ビフェニル]-4-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、5’-(4-カルボキシフェニル)-2’,4’,6’-トリメチル-[1,1’:3’,1’’-ターフェニル]-4,4’’-ジカルボン酸、4,4’,4’’-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイル)トリカルボン酸、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(テトラカルボン酸)
テトラカルボン酸の例としては、p-テルフェニル-3,3',5,5'-テトラカルボン酸〔別名称:5,5'-(1,4-フェニレン)ビスイソフタル酸〕、1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、4,4’,4’’,4’’’-(ピレン-1,3,6,8-テトライル)四安息香酸、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(アミン化合物)
前記有機配位子(L)の例としては、上述したジカルボン酸等に加えて、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類およびその誘導体;4,4'-ビピリジン、1,4-ビス(4-ピリジル)ベンゼン、2,2'-ジメチル-4,4'-ビピリジン、1,4-ビス(4-ピリジル)ブタジイン、1,2-ビス(4-ピリジル)エタン、3,6-ジ(4-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジン等のピリジン環を有する化合物およびその誘導体;ピラジン、2,5-ジメチルピラジン等のピラジン環を有する化合物およびその誘導体;その他上記以外の1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の環状アミン類およびその誘導体も挙げられる。
【0024】
これらの有機配位子(L)のうち、安定な構造を有する多孔性配位高分子が得られやすいという理由から、上述したジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸が好ましく、ジカルボン酸がより好ましい。
【0025】
〔多孔性配位高分子〕
前記多孔性配位高分子は、有機配位子(L)、および有機配位子(L)が配位する構造体の中心位置を占める金属イオンクラスターにより構成される多孔性の結晶性物質であり、金属有機構造体(Metal Organic Frameworks:MOF)とも呼ばれる材料である。
【0026】
金属イオンクラスターが正電荷を有するため、有機配位子(L)は、必ずしも上述した化合物そのものの状態であるとは限らず、たとえばカルボン酸であれば、カルボキシ基が脱プロトン化した状態で金属イオンクラスター、より具体的には前記金属イオンクラスターを構成する周期表第4族遷移金属イオンに配位している。
前記多孔性配位高分子においては、その製造過程で使用されることのあるモノカルボン酸が、周期表第4族遷移金属イオンに配位していることがある。
【0027】
〔要件(α-1)~(α-3)〕
本発明に係る多孔性材料(A)は、下記要件(α-1)、(α-2)を満たす。
【0028】
要件(α-1):
要件(α-1)は、BET多点法における比表面積が500m2/g以上4000m2/g以下であるというものである。前記比表面積は、好ましくは1000m2/g以上4000m2/g以下であり、より好ましくは1000m2/g以上3000m2/g以下である。
【0029】
要件(α-2):
要件(α-2)は、X線光電子分光法(XPS)により測定される周期表第4族遷移金属原子に対するハロゲン原子のモル比((ハロゲン原子/周期表第4族遷移金属原子)が0.20以上1.0以下であり、前記ハロゲン原子は塩素原子および/または臭素原子であるというものである(前記モル比を、以下「(Cl+Br)/M比」とも記載する。)。(Cl+Br)/M比は、好ましくは0.20以上0.70以下であり、より好ましくは0.20以上0.50以下である。
【0030】
すなわち、本発明の多孔性材料は前記ハロゲン原子を含んでおり、前記ハロゲン原子は一部の周期表第4族遷移金属原子に結合していると考えられる。
前記ハロゲン原子は、塩素原子および/または臭素原子であり、好ましくは塩素原子または塩素原子および臭素原子であり、より好ましくは塩素原子である。
多孔性材料(A)は、好ましくはさらに下記要件(α-3)を満たす。
【0031】
要件(α-3):
要件(α-3)は、X線光電子分光法(XPS)により測定される周期表第4族遷移金属原子に対する酸素原子のモル比(酸素原子/周期表第4族遷移金属原子、以下「O/M比」とも記載する。)が2.5以上4.5以下であるというものである。O/M比は、好ましくは3.0以上4.5以下であり、より好ましくは3.3以上4.5以下である。
【0032】
≪O/M比および(Cl+Br)/M比の測定方法≫
X線光電子分光法(XPS)によるO/M比および(Cl+Br)/M比の測定は、以下のように行われる。
【0033】
測定試料は窒素雰囲気下で取り扱い、X線源として単色化AlKαを用い、測定時には帯電補正中和を行う。
O1sナロースペクトルのピーク面積から酸素原子濃度(Atomic%)を、Cl2sナロースペクトルのピーク面積から塩素原子濃度(Atomic%)を、Br3dナロースペクトルのピーク面積から臭素原子濃度(Atomic%)を求める。
【0034】
周期表第4族遷移金属原子濃度(Atomic%)については、Ti2pナロースペクトルのピーク面積からチタン原子濃度(Atomic%)を、Zr3dナロースペクトルのピーク面積からジルコニウム原子濃度(Atomic%)を、Hf4fナロースペクトルのピーク面積からハフニウム原子濃度(Atomic%)を求める。
【0035】
これらの原子濃度に基づき、下式によりO/M比および(Cl+Br)/M比を算出する。
O/M比=酸素原子濃度/周期表第4族遷移金属原子濃度
(Cl+Br)/M比=(塩素原子濃度+臭素原子濃度)/周期表第4族遷移金属原子濃度
【0036】
多孔性材料(A)の形態の例としては、粉体および成形体が挙げられる。
成形体の形状の例としては、球状、ペレット状、シリンダー状、リング状、ホイール状、顆粒状が挙げられる。
【0037】
(多孔性材料(A)の製造方法)
本発明の多孔性材料(A)の製造方法としては、上記要件(α-1)~(α-2)を、好ましくはさらに上記要件(α-3)を満たすように製造条件を調整することを除いて、多孔性配位高分子の従来公知の製造方法を適宜採用することができる。このような製造方法の例としては、
周期表第4族遷移金属イオンを含む溶液と上述した有機配位子を含む溶液との2種類の溶液を液-液界面で徐々に拡散し、反応させる方法;
周期表第4族遷移金属イオンを含む溶液に上述した有機配位子またはその溶液を添加し撹拌しながら反応させる方法;
圧力容器内で周期表第4族遷移金属イオンおよび上述した有機配位子を含む溶液を反応させる方法
が挙げられる。
【0038】
周期表第4族遷移金属の原料としては、塩化物(塩化チタン、塩化ジルコニウム、塩化ハフニウム)、臭化物(臭化ジルコニウム、臭化チタン)、オキシ塩化物(オキシ塩化チタン、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ塩化ハフニウム、およびこれらの水和物)が挙げられる。
【0039】
これらの方法において、有機配位子の種類を変えることで、上記要件(α-1)における比表面積の値を調整することができる。
また、上記要件(α-2)、および好ましくはさらに要件(α-3)を満たすようにするためには、まず、酸素原子の供給源および塩素原子または臭素原子の供給源が必要である。酸素原子の供給源の例としては、ジカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物、テトラカルボン酸化合物などの、酸素原子を有する有機配位子、後述するモノカルボン酸化合物、酸素原子を有する化合物からなる溶媒、および水が挙げられる。塩素原子または臭素原子の供給源の例としては、周期表第4族遷移金属の塩化物、臭化物、およびオキシ塩化物、ならびに塩化水素、臭化水素またはこれらの水溶液が挙げられる。
【0040】
次に、周期表第4族遷移金属の原料と有機配位子とを反応させる時間を短くすることにより、上記要件(α-2)における(Cl+Br)/M比は大きくなる傾向にある。
より具体的な製造方法の例を挙げると、
周期表第4族遷移金属の原料、溶媒(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド)、および塩酸を混合し周期表第4族遷移金属イオンを含む溶液を調製する工程(i)、
前記溶液に、有機配位子および溶媒(例えば、N,N-ジメチルホルムアミド)を混合し、得られた混合溶液を、たとえば25~250℃、好ましくは50~200℃で、たとえば1~15時間、好ましくは3~10時間撹拌して周期表第4族遷移金属イオンと有機配位子とを反応させる工程(ii)、および
任意に洗浄、乾燥、焼成などの後処理工程(iii)
を含む方法により、本発明の多孔性材料(A)を製造することができる。
【0041】
工程(ii)で混合溶液を得る際には、好ましくは、有機配位子として、上述した有機配位子(L)に加えてモノカルボン酸が混合される。モノカルボン酸を混合することにより、周期表第4族遷移金属イオンクラスターの形成が促進される。モノカルボン酸は、後処理工程(iii)での洗浄により除去できる。
【0042】
モノカルボン酸の例としては、ギ酸(工程(i)において、N,N-ジメチルホルムアミドと塩酸との反応によって生成させることができる。)、酢酸、安息香酸、ビフェニルカルボン酸、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
後処理工程(iii)では、たとえば、反応液から遠心分離等により固体成分を分離し、固体成分の洗浄が行われ、常圧もしくは減圧条件下、室温もしくは加熱しながら多孔性材料中に含まれる溶媒、水、モノカルボン酸、過剰な有機配位子(L)などを取り除く乾燥、焼成操作が行われてもよい。乾燥ないし焼成をより低圧で、またはより高温で行うほど、あるいは含まれる成分の分子量がより低いほど、上記要件(α-3)におけるO/M比は小さくなる傾向にある。
【0044】
[オレフィン重合用触媒]
本発明に係るオレフィン重合用触媒は、本発明に係る多孔性材料(A)を含み、好ましくは、さらに下記(β-1)および(β-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分(B)を含む。
(β-1)下記一般式(B-I)で表される有機アルミニウム化合物
a mAl(ORbnpq・・・(B-I)
[一般式(B-I)中、RaおよびRbは、それぞれ独立に炭素数1以上15以下の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子であり、mは1以上3以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、pは0以上2以下の整数であり、qは0以上2以下の整数であり、かつm+n+p+q=3である。]
(β-2)有機アルミニウムオキシ化合物
本発明のオレフィン重合用触媒は、必要に応じて、さらに(C)担体を含んでいてもよく、さらに(D)有機化合物を含んでいてもよい。
【0045】
《有機アルミニウム化合物(β-1)》
有機アルミニウム化合物(β-1)(以下「成分(β-1)」ともいう。)の例としては、
トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリn-ブチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウムなどのトリn-アルキルアルミニウム;
トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリsec-ブチルアルミニウム、トリtert-ブチルアルミニウム、トリ2-メチルブチルアルミニウム、トリ3-メチルブチルアルミニウム、トリ2-メチルペンチルアルミニウム、トリ3-メチルペンチルアルミニウム、トリ4-メチルペンチルアルミニウム、トリ2-メチルヘキシルアルミニウム、トリ3-メチルヘキシルアルミニウム、トリ2-エチルヘキシルアルミニウムなどのトリ分岐鎖アルキルアルミニウム;
トリシクロヘキシルアルミニウム、トリシクロオクチルアルミニウムなどのトリシクロアルキルアルミニウム;
トリフェニルアルミニウム、トリトリルアルミニウムなどのトリアリールアルミニウム;
ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのジアルキルアルミニウムハイドライド;
イソブチルアルミニウムメトキシド、イソブチルアルミニウムエトキシド、イソブチルアルミニウムイソプロポキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド;
ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシドなどのジアルキルアルミニウムアルコキシド;
エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシドなどのアルキルアルミニウムセスキアルコキシド;
ジエチルアルミニウムフェノキシド、ジエチルアルミニウム(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、ジイソブチルアルミニウム(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)、イソブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシド)などのジアルキルアルミニウムアリーロキシド;
ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジイソブチルアルミニウムクロリドなどのジアルキルアルミニウムハライド;
エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド;
エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミドなどのアルキルアルミニウムジハライドなどの部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム;
ジエチルアルミニウムヒドリド、ジブチルアルミニウムヒドリドなどのジアルキルアルミニウムヒドリド;
エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリドなどのアルキルアルミニウムジヒドリドなどその他の(ジアルキルアルミニウムヒドリド以外の)部分的に水素化されたアルキルアルミニウム;
エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミドなどの部分的にアルコキシ化およびハロゲン化されたアルキルアルミニウム
が挙げられる。
有機アルミニウム化合物(β-1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
《有機アルミニウムオキシ化合物(β-2)》
有機アルミニウムオキシ化合物(β-2)(以下「成分(β-2)」ともいう。)としては、従来公知のアルミノキサンをそのまま使用することができる。具体的には、下記一般式[B-II1]
【0047】
【化1】
【0048】
および/または下記一般式[B-II2]
【0049】
【化2】
【0050】
(式中、Rは炭素数1から10の炭化水素基、nは2以上の整数を示す。)で表わされる化合物、特開平2-78687号公報、特開平2-167305号公報に記載れたベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物、特開平3-103407号公報に記載されている二種類以上のアルキル基を有するアルミノキサンが挙げられる。
また、有機アルミニウムオキシ化合物(β-2)として、下記一般式[B-II3]で表されるような修飾メチルアルミノキサン等も挙げられる。
【0051】
【化3】
【0052】
(式中、Rは炭素数1から10の炭化水素基、mおよびnはそれぞれ独立に2以上の整数を示す。)
この修飾メチルアルミノキサンはトリメチルアルミニウムとトリメチルアルミニウム以外のアルキルアルミニウムを用いて調製されるものである。このような化合物は一般にMMAOと呼ばれている。このようなMMAOは、米国特許第4960878号明細書および米国特許第5041584号明細書で挙げられている方法で調製することができる。
さらに、有機アルミニウムオキシ化合物(β-2)として、下記一般式[B-II4]で表されるボロンを含んだ有機アルミニウムオキシ化合物も挙げることができる。
【0053】
【化4】
【0054】
(式中、Rcは炭素数1から10の炭化水素基を示す。Rdは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1から10の炭化水素基を示す。)
有機アルミニウムオキシ化合物(β-2)としては、市販品のために入手が容易なメチルアルミノキサン、およびトリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムを用いて調製したMMAOが好ましい。このうち、各種溶媒への溶解性および保存安定性が改良されたMMAOが特に好ましい。
有機アルミニウム化合物(β-2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
(担体(C))
前記担体(C)は、無機または有機の化合物であって、顆粒状ないしは微粒子状の固体であり、触媒成分として遷移金属化合物および担体を使用したオレフィン重合において従来使用されているもの、たとえば特開2012-72365号公報の[0220]~[0235]に記載されたものを使用することができる。
【0056】
(有機化合物成分(D))
前記オレフィン重合用触媒の構成成分として、必要に応じて有機化合物成分(D)を用いてもよい。有機化合物成分(D)は、重合性能および生成ポリマーの物性を向上させる目的で使用される。有機化合物成分(D)としては、例えば、アルコール類、フェノール性化合物、カルボン酸、リン化合物、アミド、ポリエーテルおよびスルホン酸塩等が挙げられる。
【0057】
[オレフィン重合体の製造方法]
本発明のオレフィン重合体の製造方法は、上述した本発明のオレフィン重合用触媒の存在下でオレフィンを重合することを特徴としている。
【0058】
本発明のオレフィン重合体の製造方法においては、1種のオレフィンを重合してオレフィン単独重合体を製造してもよく、2種以上のオレフィンを共重合してオレフィン共重合体を製造してもよい。本明細書においては、重合と共重合とを特に区別することなく「重合」とも記載し、オレフィン単独重合体とオレフィン共重合体とを特に区別することなく「オレフィン重合体」とも記載する。
【0059】
重合における、本発明のオレフィン重合用触媒を構成する各成分の使用法、重合器への添加順序は任意に選ばれるが、以下のような方法が例示される。以下では、多孔性材料(A)、成分(B)、担体(C)および有機化合物成分(D)を、それぞれ「成分(A)~(D)」ともいう。
(1)成分(A)を単独で重合器に添加する方法。
(2)成分(A)および成分(B)を任意の順序で重合器に添加する方法。
(3)成分(A)を成分(C)に担持した触媒成分と、成分(B)とを任意の順序で重合器に添加する方法。
(4)成分(B)を成分(C)に担持した触媒成分と、成分(A)とを任意の順序で重合器に添加する方法。
(5)成分(A)と成分(B)とを成分(C)に担持した触媒成分を重合器に添加する方法。
【0060】
上記の各方法においては、任意の段階で成分(D)が添加されてもよい。
上記の各方法においては、各触媒成分の少なくとも2種は予め接触されていてもよい。
成分(B)が担持されている上記(4)、(5)の各方法においては、必要に応じて担持されていない成分(B)を、任意の順序で添加してもよい。この場合、成分(B)は、同一でも異なっていてもよい。また、成分(C)に成分(A)が担持された固体触媒成分、成分(C)に成分(A)および成分(B)が担持された固体触媒成分は、オレフィンが予備重合されていてもよく、予備重合された固体触媒成分上に、さらに触媒成分が担持されていてもよい。
【0061】
本発明では、オレフィンの重合は溶解重合、懸濁重合などの液相重合法または気相重合法のいずれにおいても実施できる。液相重合法において用いられる不活性炭化水素媒体として具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素またはこれらの混合物などを挙げることができ、また(共)重合に供するオレフィン(モノマー)自身を溶媒として用いることもできる。
【0062】
上記のようなオレフィン重合用触媒を用いてオレフィンの重合を行うに際して、多孔性材料(A)は、多孔性材料(A)中の遷移金属原子に換算して、反応容積1リットル当り、通常1×10-12~1×10-1モル、好ましくは1×10-10~1×10-1モルになるような量で用いられる。
【0063】
有機アルミニウム化合物(β-1)は、有機アルミニウム化合物(β-1)と、多孔性材料(A)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔(β-1)/M〕が通常0.01~100,000、好ましくは0.05~50,000となるような量で用いられる。
【0064】
有機アルミニウムオキシ化合物(β-2)は、有機アルミニウムオキシ化合物(β-2)中のアルミニウム原子と、多孔性材料(A)中の全遷移金属原子(M)とのモル比〔(β-2)/M〕が、通常10~500,000、好ましくは20~100,000となるような量で用いられる。
【0065】
また、このようなオレフィン重合用触媒を用いたオレフィンの重合温度は、通常-50~+200℃、好ましくは0~170℃の範囲である。重合圧力は、通常常圧~100kgf/cm2-G、好ましくは常圧~50kgf/cm2-Gの条件下であり、重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。さらに重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行うことも可能である。
【0066】
得られるオレフィン重合体の分子量は、重合系に水素を存在させるか、または重合温度を変化させることによって調節することができる。さらに、使用する化合物(B)の量により調節することもできる。
【0067】
<オレフィン>
本発明のオレフィン重合体の製造方法は、本発明のオレフィン重合用触媒の存在下でオレフィンを重合させる方法である。
【0068】
本発明のオレフィン重合体の製造方法の好ましい態様としては、
本発明のオレフィン重合用触媒の存在下でエチレンを単独重合する工程を含むオレフィン重合体の製造方法、および
本発明のオレフィン重合用触媒の存在下でエチレンと炭素数3以上30以下の直鎖状もしくは分岐状のα-オレフィンとを共重合する工程を含むオレフィン重合体の製造方法
が挙げられる。
【0069】
本発明のオレフィン重合体の製造方法において共重合を行う場合、各モノマーの供給量は、製造しようとするオレフィン重合体の組成に応じて適宜設定される。
前記α-オレフィンとしては、
炭素原子数が3~30、好ましくは3~20、より好ましくは3~10の直鎖状または分岐状のα-オレフィン、たとえばプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。
【0070】
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、エチレンおよび上述したα-オレフィンと共に、少量(たとえば1モル%以下)の他のモノマー(たとえば、環状オレフィン、非共役ポリエン)が共重合されてもよい。
【0071】
本発明の本発明のオレフィン重合体の製造方法により製造されるオレフィン重合体は、高い分子量および広い分子量分布を有する。
本発明の多孔性材料(A)をオレフィン重合用触媒として用いると、オレフィン重合用触媒として従来のMOFを用いた場合と比べて高い重合活性でオレフィン重合体を製造することができる。その理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推定される。
【0072】
まず、多孔性材料(A)は、要件(α-1)によって示されるように比表面積が大きいためオレフィンモノマーとの接触効率が高く、要件(α-2)によって示されるように重合活性中心となる周期表第4族遷移金属原子が多い。さらに、好ましくは要件(α-3)を満たすことで、すなわち配位不飽和の周期表第4族遷移金属原子が多く含まれることにより、金属イオンクラスター全体の反応性(酸性度)が高められる。このような理由により、本発明に係る多孔性材料(A)をオレフィン重合用触媒として用いると、高い重合活性でオレフィン重合体を製造できると考えられる。
【実施例0073】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
[測定方法]
各種測定方法は以下のとおりである。
【0075】
(多孔性材料の測定)
≪比表面積≫
多孔性材料の比表面積は、液体窒素温度下における窒素ガス吸着法(マイクロトラック・ベル社製「BELSORP-max」)により、吸着脱離等温線を測定した。解析法として、JIS Z8830:2013で規定される多点法を用いて比表面積を求めた。
【0076】
≪O/M比および(Cl+Br)/M比≫
多孔性材料のO/M比および(Cl+Br)/M比は、酸素原子濃度、塩素原子濃度、金属原子濃度をX線光電子分光法(XPS)(測定装置:KRATOS社製「AXIS-NOVA」)により求め、これらの濃度から算出した。試料は窒素雰囲気下で取り扱い、X線源として単色化AlKαを用いて測定した。測定時には、測定装置が備える電荷中和機能を用いて帯電補正中和を行った。O1sナロースペクトルのピーク面積から酸素原子濃度(Atomic%)を、Cl2sナロースペクトルのピーク面積から塩素原子濃度(Atomic%)を、Zr3dナロースペクトルのピーク面積からジルコニウム原子濃度(Atomic%)を、Hf4fナロースペクトルのピーク面積からハフニウム原子濃度(Atomic%)を求め、酸素原子(O)/第4族遷移金属(Zr、Hf)原子比、塩素原子(Cl)/第4族遷移金属(Zr、Hf)原子比を算出した。
【0077】
(オレフィン重合体の測定)
≪重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)≫
オレフィン重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求めた。具体的には、Waters社製「Alliance GPC 2000」ゲル浸透クロマトグラフ(高温サイズ排除クロマトグラフ)により得られる分子量分布曲線から計算したものであり、操作条件は、下記の通りである:
解析ソフト;クロマトグラフィデータシステム Empower(Waters社)
カラム;TSKgel GMH6-HT×2+TSKgel GMH6-HT×2
(内径7.5mm×長さ30cm,東ソー社)
移動相;o-ジクロロベンゼン
検出器;示差屈折計(装置内蔵)
カラム温度;140℃
流速;1.0mL/分
注入量;400μL
サンプリング時間間隔;1秒
試料濃度;0.15%(w/v)
分子量較正 単分散ポリスチレン(東ソー社)/分子量495から分子量2060万
【0078】
≪融点(Tm)≫
SII社製RDC220型示差走査熱量計を用い、約5mgの試料を窒素雰囲気下にて昇温速度50℃/分で30℃から200℃まで昇温し、その温度で10分間保持した。さらに、降温速度10℃/分にて30℃まで冷却し、その温度で5分間保持した後、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温した。この2度目の昇温の際に観測される吸熱ピークを融解ピークとし、その融解ピーク(ピークが複数の場合に最も高温側のピーク)が現れる温度を融点(Tm)として求めた。
【0079】
[多孔性材料等の調製]
<原料>
多孔性材料の原料として、周期表第4族遷移金属を含む下記金属源(M-1)~(M-3)および下記有機配位子(L-1)~(L-7)を用いた。また、多孔性材料の原料に加えて下記金属源(M-4)を準備した。
・金属源(M-1):富士フイルム和光純薬(株) 塩化ジルコニウム(IV)
・金属源(M-2):富士フイルム和光純薬(株) 塩化酸化ジルコニウム八水和物 和光特級
・金属源(M-3):ALDRICH社 塩化ハフニウム(IV)99.9% trace metals basis
・金属源(M-4):富士フイルム和光純薬(株) 酸化ジルコニウムナノ粒子(10nm)
・有機配位子(L-1):東京化成工業(株) 4,4’-Biphenyldicarboxylic Acid
・有機配位子(L-2):Combi-Blocks社 4-(4-Carboxyphenyl)-3-fluorobenzoic acid
・有機配位子(L-3):富士フイルム和光純薬(株) テレフタル酸 和光一級
・有機配位子(L-4):Combi-Blocks社 4,4’-(Ethyne-1,2-diyl)dibenzoic acid
・有機配位子(L-5):J. Am.Chem.Soc.2012,134,36,14690-14693に記載の方法によって合成した2’,5’-dimethyl-[1,1’:4’,1’’-terphenyl]-4,4’’-dicarboxylic acid
・有機配位子(L-6):BLDpharm社 4,4’,4’’,4’’’-(Pyrene-1,3,6,8-tetrayl)tetrabenzoic acid
・モノカルボン酸:富士フイルム和光純薬(株) 酢酸 試薬特級
【0080】
<実施例A1>
内容積200mLの反応器に、回転子と金属源(M-1)201mg、N,N-ジメチルホルムアミド15mL、塩酸(濃度35-37%)1.5mLを加え、超音波を10分間照射した。ここに有機配位子(L-1)270mg、N,N-ジメチルホルムアミド30mLを加え、超音波を10分間照射した。回転子により撹拌しながら80℃に昇温し、5時間撹拌を継続した。その後、室温まで冷却し撹拌を停止した。反応器内の液体および固体成分を遠沈管に移し遠心分離を行った後、上澄み液をデカンテーションにより除去した。さらにN,N-ジメチルホルムアミドとエタノールを用いて洗浄した後、固体成分をシュレンク管に移し200℃で4時間減圧乾燥を行い、その後窒素雰囲気下で室温まで冷却することで、多孔性材料(A-1)110mgを調製した。
【0081】
<実施例A2>
有機配位子(L-1)270mgの代わりに有機配位子(L-2)290mgを用いたこと以外は実施例A1と同様の方法にて、多孔性材料(A-2)115mgを調製した。
【0082】
<実施例A3>
有機配位子(L-1)270mgの代わりに有機配位子(L-3)185mgを用いたこと以外は実施例A1と同様の方法にて、多孔性材料(A-3)75mgを調製した。
【0083】
<実施例A4>
有機配位子(L-1)270mgの代わりに有機配位子(L-4)300mgを用いたこと以外は実施例A1と同様の方法にて、多孔性材料(A-4)142mgを調製した。
【0084】
<実施例A5>
有機配位子(L-1)270mgの代わりに有機配位子(L-5)395mgを用い、80℃で8時間撹拌したこと以外は実施例A1と同様の方法にて、多孔性材料(A-5)266mgを調製した。
【0085】
<実施例A6>
有機配位子(L-1)270mgの代わりに有機配位子(L-6)195mgを用いたこと以外は実施例A1と同様の方法にて、多孔性材料(A-6)192mgを調製した。
【0086】
<実施例A7>
有機配位子(L-1)270mgの代わりに有機配位子(L-1)270mgおよび酢酸273mgを用いたこと以外は実施例A1と同様の方法にて、多孔性材料(A-7)113mgを調製した。
【0087】
<実施例A8>
金属源(M-1)201mgの代わりに金属源(M-2)261mgを用いたこと以外は実施例A1と同様の方法にて、多孔性材料(A-8)150mgを調製した。
【0088】
<実施例A9>
金属源(M-1)201mgの代わりに金属源(M-3)276mgを用いたこと以外は実施例A1と同様の方法にて、多孔性材料(A-9)162mgを調製した。
【0089】
<比較例a1>
80℃昇温後の撹拌時間を20時間にしたこと以外は実施例A1と同様の方法にて、多孔性材料(A’-1)238mgを調製した。
【0090】
<比較例a2>
80℃昇温後の撹拌時間を20時間にしたこと以外は実施例A6と同様の方法にて、多孔性材料(A’-2)263mgを調製した。
【0091】
<比較例a3>
金属源(M-4)をシュレンク管に移し200℃で4時間減圧乾燥を行い、その後窒素雰囲気下で室温まで冷却することで、材料(以下、便宜のため「多孔性材料」とも記載する。)(A’-3)を調製した。
【0092】
多孔性材料(A-1)~(A-9)、(A’-1)~(A’-3)の製造条件、収量、比表面積、O/M比、および(Cl+Br)/M比を表1に示す。なお、多孔性材料(A-1)~(A-9)、(A’-1)~(A’-2)は、高い比表面積を有していることから、いずれも金属イオンクラスター(基本的な構造は、M63-O)43-OH)4 (MはZrまたはHfである。)で表される。)と有機配位子(L)とから構成される多孔性配位高分子を形成していると言える。
【0093】
【表1】
【0094】
[オレフィン重合体の製造]
<実施例P1>
充分に窒素置換した内容積1リットルのSUS製オートクレーブ反応器に、窒素雰囲気下、ヘプタン500ミリリットルを添加した後、エチレンを流通させて反応器内をエチレンで飽和させた。次に、トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液(Al換算で1.0mol/L)0.375mL、および実施例A1で得られた多孔性材料(A-1)50mgを反応器に装入した。その後、エチレンにて80℃、0.8MPaGに昇温昇圧し、回転数350rpmで60分間重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表2に示す物性を有するオレフィン重合体を得た。
【0095】
<実施例P2~P9>
多孔性材料(A-1)の代わりに実施例A2~A9で得られた多孔性材料(A-2)~(A-9)をそれぞれ50mg用いたこと以外は実施例P1と同様の方法にて重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表2に示す物性を有するオレフィン重合体を得た。
【0096】
<比較例p1~p3>
多孔性材料(A-1)の代わりに比較例a1~a3で得られた多孔性材料(A’-1)~(A’-3)をそれぞれ50mg用いたこと以外は実施例P1と同様の方法にて、重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表2に示す物性を有するオレフィン重合体を得た。
【0097】
<実施例P10>
トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液の代わりにトリエチルアルミニウムのデカン溶液(Al換算で1.0mol/L)0.375mLを用いたこと以外は実施例P1と同様の方法にて重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表2に示す物性を有するオレフィン重合体を得た。
【0098】
<実施例P11>
トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液の代わりにメチルアルミノキサン(MAO)のトルエン溶液(Al換算で1.0mol/L)0.375mLを用いたこと以外は実施例P1と同様の方法にて重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表2に示す物性を有するオレフィン重合体を得た。
【0099】
<実施例P12>
充分に窒素置換した内容積1リットルのSUS製オートクレーブ反応器に、窒素雰囲気下、ヘプタン500ミリリットルを添加した後、エチレンを流通させて反応器内をエチレンで飽和させた。次に、1-ヘキセン10mL、トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液(Al換算で1.0mol/L)0.375mL、および実施例A1で得られた多孔性材料(A-1)50mgを反応器に装入した。その後、エチレンにて80℃、0.8MPaGに昇温昇圧し、回転数350rpmで60分間重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表2に示す物性を有するオレフィン重合体を得た。
【0100】
<実施例P13>
充分に窒素置換した内容積1リットルのSUS製オートクレーブ反応器に、窒素雰囲気下、ヘプタン500ミリリットルを添加した後、エチレンを流通させて反応器内をエチレンで飽和させた。次に、トリイソブチルアルミニウムのデカン溶液(Al換算で1.0mol/L)0.375mL、および実施例A1で得られた多孔性材料(A-1)50mgを反応器に装入した。その後、水素濃度0.10vol%のエチレン・水素混合ガスを用いて80℃、0.8MPaGに昇温昇圧し、回転数350rpmで60分間重合反応を行った。反応終了後、反応器内の内容物をろ過し、80℃で10時間減圧乾燥することで、表2に示す物性を有するオレフィン重合体を得た。
【0101】
【表2】