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  • 特開-押出多穴管の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061741
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】押出多穴管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/04 20060101AFI20230425BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20230425BHJP
   B21C 25/02 20060101ALI20230425BHJP
   F28D 1/053 20060101ALI20230425BHJP
   F28F 1/02 20060101ALI20230425BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20230425BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
C22F1/04 B
C22C21/00 L
B21C25/02 D
F28D1/053 A
F28F1/02 B
F28F21/08 B
C22F1/00 612
C22F1/00 626
C22F1/00 630K
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 693A
C22F1/00 693B
C22F1/00 691A
C22F1/00 692B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171856
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太一
(72)【発明者】
【氏名】東森 稜
【テーマコード(参考)】
3L103
4E029
【Fターム(参考)】
3L103DD32
4E029MB03
(57)【要約】
【課題】アルミニウム以外の元素の含有量が比較的多い場合であっても熱間押出を容易に行うことができる押出多穴管の製造方法を提供する。
【解決手段】押出多穴管1の作製方法においては、Si:2.0質量%以下、Fe:0.6質量%以下、Cu:0.6質量%以下、Mn:2.0質量%以下、Mg:0.4質量%以下、Cr:0.1質量%以下、Zn:1.5質量%以下、Ti:0.1質量%以下及びB:0.1質量%以下のうち1種または2種以上の元素を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、Siの含有量とMnの含有量との合計が3.2質量%以下であり、Siの含有量がMnの含有量よりも少ない化学成分を有する鋳塊を作製する。鋳塊を550~650℃の温度に2時間以上保持して第一均質化処理を行った後、鋳塊を450~540℃の温度に3時間以上保持して第二均質化処理を行う。その後、鋳塊に熱間押出を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:2.00質量%以下、Fe:0.60質量%以下、Cu:0.60質量%以下、Mn:2.00質量%以下、Mg:0.40質量%以下、Cr:0.10質量%以下、Zn:1.50質量%以下、Ti:0.10質量%以下及びB:0.10質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、Siの含有量とMnの含有量との合計が3.20質量%以下であり、Siの含有量がMnの含有量よりも少ない化学成分を有する鋳塊を作製し、
前記鋳塊を550℃以上650℃以下の温度に2時間以上保持して第一均質化処理を行い、
その後、前記鋳塊を450℃以上540℃以下の温度に3時間以上保持して第二均質化処理を行い、
その後、前記鋳塊に熱間押出を行って押出多穴管を作製する、押出多穴管の製造方法。
【請求項2】
前記第一均質化処理が完了した後、20℃/時間以上60℃/時間以下の平均冷却速度で前記第二均質化処理における保持温度まで前記鋳塊を冷却する、請求項1に記載の押出多穴管の製造方法。
【請求項3】
前記第一均質化処理が完了した後、前記鋳塊を前記第二均質化処理における処理温度よりも低い温度まで前記鋳塊を冷却し、その後、20℃/時間以上60℃/時間以下の平均昇温速度で前記第二均質化処理における保持温度まで前記鋳塊を加熱する、請求項1に記載の押出多穴管の製造方法。
【請求項4】
前記鋳塊を作製する際に、鋳造原料の少なくとも一部にアルミニウム廃材を使用する、請求項1~3のいずれか1項に記載の押出多穴管の製造方法。
【請求項5】
前記熱間押出により、扁平な断面形状を有しており、厚みに対する幅の比率が2以上50以下である前記押出多穴管を作製する、請求項1~4のいずれか1項に記載の押出多穴管の製造方法。
【請求項6】
前記熱間押出により、外部空間と前記押出多穴管の内部とを区画する外壁部と、前記外壁部の内部空間を区画する複数の隔壁部とを有しており、前記外壁部及び前記隔壁部の厚みが0.10mm以上2.0mm以下である前記押出多穴管を作製する、請求項1~5のいずれか1項に記載の押出多穴管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出多穴管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
押出多穴管は、その外周部分を構成する外壁部と、外壁部により囲まれた空間を区画する隔壁部とを有しており、外壁部と隔壁部とにより囲まれた通路に流体を流通させることができるように構成されている。このような微細な構造を備えた複雑な断面形状を押出加工によって形成するために、押出多穴管は、合金元素の含有量が比較的少なく、押出性に優れたアルミニウム合金から構成されていることが多い。
【0003】
例えば特許文献1には、質量%でSi:0.01~0.3%、Fe:0.01~0.3%、Cu:0.05~0.4%、Mn:0.05~0.3%、Zr:0.05~0.25%、Ti:0~0.15%を含有し、ZrとTiとの合計が0.3%以下であり、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、マトリックス中に分散している粒子面積1.0μm以上の粒子のうち、AlFeSi安定相の占める面積率が0.1%以上0.5%未満であることを特徴とする耐食性に優れた熱交換器用押出扁平多穴管が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-46702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、環境意識の高まりにより、アルミニウム廃材を鋳造原料として再利用する技術の重要性が高まっている。しかし、アルミニウム廃材中には、アルミニウム以外の種々の元素が含まれている。また、アルミニウム廃材中には、場合によっては鉄等のアルミニウム以外の金属材料も含まれることがある。そのため、アルミニウム廃材を鋳造原料として再利用する場合には、アルミニウム以外の元素の含有量が多くなり、熱間押出時の変形抵抗の上昇や押出速度の低下などの種々の問題の発生を招いていた。それ故、従来の技術水準においては、アルミニウム廃材を鋳造原料として用いる場合、複雑な断面形状を備えた押出多穴管を作製することは難しいと考えられていた。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、アルミニウム以外の元素の含有量が比較的多い場合であっても熱間押出を容易に行うことができる押出多穴管の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、Si(シリコン):2.00質量%以下、Fe(鉄):0.60質量%以下、Cu(銅):0.60質量%以下、Mn(マンガン):2.00質量%以下、Mg(マグネシウム):0.40質量%以下、Cr(クロム):0.10質量%以下、Zn(亜鉛):1.50質量%以下、Ti(チタン):0.10質量%以下及びB(ホウ素):0.10質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含有し、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなり、Siの含有量とMnの含有量との合計が3.20質量%以下であり、Siの含有量がMnの含有量よりも少ない化学成分を有する鋳塊を作製し、
前記鋳塊を550℃以上650℃以下の温度に2時間以上保持して第一均質化処理を行い、
その後、前記鋳塊を450℃以上540℃以下の温度に3時間以上保持して第二均質化処理を行い、
その後、前記鋳塊に熱間押出を行って押出多穴管を作製する、押出多穴管の製造方法にある。
【発明の効果】
【0008】
前記押出多穴管の製造方法においては、前記特定の範囲の化学成分を有する鋳塊に、第一均質化処理及び第二均質化処理を施す。このように、均質化処理を二段階で行うとともに、各段階の均質化処理の保持温度及び保持時間をそれぞれ前記特定の範囲とすることにより、アルミニウム以外の元素の含有量が比較的多い場合であっても熱間押出時の変形抵抗の上昇を抑制することができる。
【0009】
以上のように、前記の態様によれば、アルミニウム以外の元素の含有量が比較的多い場合であっても熱間押出を容易に行うことができる押出多穴管の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1における押出多穴管の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記押出多穴管の製造方法においては、まず、前記特定の化学成分を有する鋳塊を作製する。鋳塊は、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Ti及びBからなる群より選択される1種または2種以上の元素を含んでいる。これらの元素はアルミニウム地金やアルミニウム廃材、中間合金などの鋳造原料に含まれている。鋳造原料としてアルミニウム廃材を使用する場合、前述した元素は、主にアルミニウム廃材に由来していてもよい。
【0012】
・Si:2.00質量%以下
鋳塊中には0質量%を超え2.00質量%以下のSiが含まれていてもよい。Siは、アルミニウム地金、アルミニウム廃材中のSiを含むアルミニウム合金(例えば4000系合金及び6000系合金等)及び中間合金等に含まれる元素である。Siは押出多穴管の強度を向上させる作用を有している。押出多穴管の強度をより向上させる観点からは、Siの含有量は、0.20質量%以上であることが好ましく、0.40質量%以上であることがより好ましく、0.60質量%以上であることがさらに好ましく、0.70質量%以上であることが特に好ましく、0.80質量%以上であることが最も好ましい。
【0013】
一方、Siの含有量が過度に多くなると、熱間押出時の鋳塊の変形抵抗が上昇し、押出性の低下を招くおそれがある。Siの含有量を2.00質量%以下、好ましくは1.50質量%以下、より好ましくは1.40質量%以下、さらに好ましくは1.30質量%以下とすることにより、熱間押出時の鋳塊の変形抵抗の上昇を抑制しつつ、押出多穴管の強度を向上させることができる。
【0014】
・Mn:2.00質量%以下
鋳塊中には0質量%を超え2.00質量%以下のMnが含まれていてもよい。Mnは、アルミニウム地金、アルミニウム廃材中のMnを含むアルミニウム合金(例えば3000系合金等)及び中間合金等に含まれる元素である。Mnは押出多穴管の強度を向上させる作用を有している。押出多穴管の強度をより向上させる観点からは、Mnの含有量は、0.40質量%以上であることが好ましく、0.60質量%以上であることがより好ましく、0.80質量%以上であることがさらに好ましく、0.90質量%以上であることが特に好ましく、1.00質量%以上であることが最も好ましい。
【0015】
一方、Mnの含有量が過度に多くなると、熱間押出時の鋳塊の変形抵抗が上昇し、押出性の低下を招くおそれがある。Mnの含有量を2.00質量%以下、好ましくは1.80質量%以下、より好ましくは1.70質量%以下とすることにより、熱間押出時の鋳塊の変形抵抗の上昇を抑制しつつ、押出多穴管の強度を向上させることができる。
【0016】
また、鋳塊におけるSiの含有量とMnの含有量との合計は3.20質量%以下であり、かつ、Siの含有量がMnの含有量よりも少ない。前記鋳塊の化学成分において、Si及びMnの含有量をそれぞれ前記特定の範囲内にすることに加え、Siの含有量とMnの含有量とが前述した関係を満たすことにより、熱間押出時の鋳塊の変形抵抗の上昇をより効果的に抑制し、複雑な断面形状を備えた押出多穴管を容易に作製することが可能となる。前述した作用をより高める観点からは、Siの含有量とMnの含有量との合計は3.00質量%以下であることが好ましい。
【0017】
Siの含有量とMnの含有量との合計が3.20質量%を超える場合には、熱間押出時の押出性の低下を招くおそれがある。また、Siの含有量がMnの含有量以上である場合には、鋳塊中に微細なAlMnSi系金属間化合物を析出させることが難しくなり、押出性の悪化を招くおそれがある。また、この場合には、押出限界速度が低下しやすくなり、押出多穴管の生産性の低下を招くおそれがある。なお、鋳塊を作製する際に、アルミニウム地金及びアルミニウム廃材中に含まれるMnの量の合計がSiの量の合計以下である場合には、Mnを含む中間合金を添加するなどの方法により化学成分を調整することができる。
【0018】
・Fe:0.60質量%以下
鋳塊中には0質量%を超え0.60質量%以下のFeが含まれていてもよい。Feは、アルミニウム地金及びアルミニウム廃材等に含まれる元素である。特に、アルミニウム廃材中にはFe基合金からなる部品が含まれていることがあり、このようなアルミニウム廃材を鋳造原料として使用した場合には、鋳塊中のFeの含有量が多くなりやすい。Feの含有量を好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上、さらに好ましくは0.20質量%以上、特に好ましくは0.25質量%以上とすることにより、鋳造原料中に占めるアルミニウム廃材の比率をより多くしやすくすることができる。
【0019】
一方、Feの含有量が過度に多くなると、鋳塊中に粗大なAlFe系金属間化合物が形成されやすくなる。鋳塊中の粗大なAlFe系金属間化合物は、表面粗さの上昇などの押出多穴管の表面性状の悪化を招くおそれがあるため好ましくない。Feの含有量を0.60質量%以下、好ましくは0.50質量%以下とすることにより、表面性状の悪化を回避することができる。
【0020】
・Cu:0.60質量%以下
鋳塊中には0質量%を超え0.60質量%以下のCuが含まれていてもよい。Cuは、アルミニウム地金及びアルミニウム廃材等に含まれる元素である。特に、アルミニウム廃材中にはCuを多量に含むアルミニウム合金(例えば2000系合金)からなる部品が含まれていることがあり、このようなアルミニウム廃材を鋳造原料として使用した場合には、鋳塊中のCuの含有量が多くなりやすい。Cuは押出多穴管の自然電位を貴化し、押出多穴管の耐食性を向上させる作用を有している。押出多穴管の耐食性をより向上させる観点からは、Cuの含有量は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましく、0.20質量%以上であることが特に好ましい。また、この場合には、鋳造原料中に占めるアルミニウム廃材の比率をより多くしやすくすることができる。
【0021】
一方、Cuの含有量が過度に多くなると、鋳塊中に固溶したCuの量が多くなり、熱間押出時の鋳塊の変形抵抗の上昇及び押出性の低下を招くおそれがある。Cuの含有量を0.60質量%以下、好ましくは0.40質量%以下とすることにより、熱間押出時の鋳塊の変形抵抗の上昇を抑制しつつ、押出多穴管の耐食性を向上させることができる。
【0022】
・Mg:0.40質量%以下
鋳塊中には0質量%を超え0.40質量%以下のMgが含まれていてもよい。Mgは、アルミニウム地金及びアルミニウム廃材等に含まれる元素である。特に、アルミニウム廃材中にはMgを多量に含むアルミニウム合金(例えば5000系合金及び6000系合金等)からなる部品が含まれていることがあり、このようなアルミニウム廃材を鋳造原料として使用した場合には、鋳塊中のMgの含有量が多くなりやすい。Mgは押出多穴管の強度を向上させる作用を有している。押出多穴管の強度をより向上させる観点からは、Mgの含有量は、0.03質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.07質量%以上であることがさらに好ましい。また、この場合には、鋳造原料中に占めるアルミニウム廃材の比率をより多くしやすくすることができる。
【0023】
一方、Mgの含有量が過度に多くなると、鋳塊中に固溶したMgの量が多くなり、熱間押出時の鋳塊の変形抵抗の上昇及び押出性の低下を招くおそれがある。Mgの含有量を0.40質量%以下、好ましくは0.30質量%以下とすることにより、熱間押出時の鋳塊の変形抵抗の上昇を抑制することができる。
【0024】
・Cr:0.10質量%以下
鋳塊中には0質量%を超え0.10質量%以下のCrが含まれていてもよい。Crは、アルミニウム地金及びアルミニウム廃材等に含まれる元素である。特に、アルミニウム廃材中にはCrを多量に含むアルミニウム合金(例えば5000系合金及び7000系合金等)からなる部品が含まれていることがあり、このようなアルミニウム廃材を鋳造原料として使用した場合には、鋳塊中のCrの含有量が多くなりやすい。Crの含有量を好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上とすることにより、鋳造原料中に占めるアルミニウム廃材の比率をより多くしやすくすることができる。
【0025】
一方、Crの含有量が過度に多くなると、鋳塊中に粗大なAlCr系金属間化合物が形成されやすくなる。鋳塊中に粗大なAlCr系金属間化合物が存在すると、熱間押出や熱間押出後の二次加工の際に割れが生じやすくなるおそれがあるため好ましくない。Crの含有量を0.10質量%以下とすることにより、粗大なAlCr系金属間化合物の形成を回避することができる。
【0026】
・Zn:1.50質量%以下
前記鋳塊は0質量%を超え1.50質量%以下のZnを含んでいてもよい。Znは、アルミニウム地金及びアルミニウム廃材等に含まれる元素である。特に、アルミニウム廃材中にはZnを多量に含むアルミニウム合金(例えば7000系合金等)からなる部品が含まれていることがあり、このようなアルミニウム廃材を鋳造原料として使用した場合には、鋳塊中のZnの含有量が多くなりやすい。Znは押出多穴管の表面酸化皮膜を脆弱化させ、孔食の発生を分散させることで耐食性を向上させる作用を有している。かかる作用効果をより高める観点からは、Znの含有量は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。また、この場合には、鋳造原料中に占めるアルミニウム廃材の比率をより多くしやすくすることができる。
【0027】
一方、Znの含有量が過度に多くなると、アルミニウム合金の固相線温度が低下するため、均質化処理や熱間押出の際に鋳塊や押出多穴管の部分溶融が生じやすくなるおそれがある。Znの含有量を1.50質量%以下、好ましくは1.00質量%以下とすることにより、鋳塊や押出多穴管の部分溶融を回避しつつ、Znによる作用効果を得ることができる。
【0028】
・Ti:0.10質量%以下
前記鋳塊は0質量%を超え0.10質量%以下のTiを含んでいてもよい。Tiは鋳塊の金属組織における結晶粒を微細化する作用を有している。かかる効果をより高める観点からは、Tiの含有量は、0.005質量%以上であることが好ましく、0.007質量%以上であることがより好ましく、0.010質量%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
一方、Tiの含有量が過度に多くなると、鋳塊中に粗大なAlTi系金属間化合物が形成されやすくなる。鋳塊中に粗大なAlTi系金属間化合物が存在すると、熱間押出や熱間押出後の二次加工の際に割れが生じやすくなるおそれがあるため好ましくない。Tiの含有量を0.10質量%以下とすることにより、粗大なAlTi系金属間化合物の形成を回避しつつ、鋳塊の金属組織における結晶粒を十分に微細化することができる。
【0030】
・B:0.10質量%以下
前記鋳塊は0質量%を超え0.10質量%以下のBを含んでいてもよい。押出多穴管中のBの含有量を前記特定の範囲とすることにより、押出多穴管の金属組織における結晶粒を十分に微細化することができる。かかる作用効果をより確実に得る観点からは、鋳塊中のBの含有量は、0.005質量%以上0.10質量%以下であることが好ましい。
【0031】
・その他の元素
鋳塊中には、不可避的不純物として、前述した元素以外の元素が含まれていてもよい。かかる元素としては、例えば、Zr(ジルコニウム)やV(バナジウム)等が挙げられる。不可避的不純物としての元素の含有量は、例えば各元素について0.05質量%以下であればよい。また、不可避的不純物としての元素の含有量の合計は0.50質量%以下であればよい。
【0032】
前述した押出性向上の効果をより確実に得る観点からは、鋳塊は、Si:0.60質量%以上1.40質量%以下及び、Mn:0.80質量%以上1.80質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、Siの含有量とMnの含有量との合計が3.20質量%以下であり、Siの含有量がMnの含有量よりも少ない化学成分を有していることが好ましい。この場合、鋳塊は、更に、Fe:0.10質量%以上0.50質量%以下、Cu:0.05質量%以上0.40質量%以下、Mg:0.05質量%以上0.30質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.10質量%以下、Zn:0.10質量%以上1.00質量%以下、Ti:0.005質量%以上0.10質量%以下及びB:0.005質量%以上0.10質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を任意成分として含んでいてもよい。
【0033】
同様の観点から、鋳塊は、Si:0.70質量%以上1.30質量%以下、Fe:0.10質量%以上0.50質量%以下、Cu:0.05質量%以上0.40質量%以下、Mn:0.90質量%以上1.70質量%以下、Mg:0.05質量%以上0.30質量%以下、Cr:0.01質量%以上0.10質量%以下、Zn:0.10質量%以上1.00質量%以下、Ti:0.005質量%以上0.10質量%以下及びB:0.005質量%以上0.10質量%以下を必須に含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、Siの含有量とMnの含有量との合計が3.00質量%以下であり、Siの含有量がMnの含有量よりも少ない化学成分を有していることが好ましい。
【0034】
鋳塊の作製には、DC鋳造やCC鋳造などの公知の鋳造方法を採用することができる。鋳塊を作製する際の鋳造原料としては、例えば、アルミニウムの新地金やアルミニウム廃材を使用することができる。
【0035】
前記押出多穴管の製造方法においては、鋳造原料の少なくとも一部にアルミニウム廃材を使用することが好ましい。ここで、アルミニウム廃材には、アルミニウム製品の製造過程で発生する端材や切りくず、使用済みのアルミニウム製品及び使用済みの製品から分離されたアルミニウム製部品等が含まれる。
【0036】
前述したように、アルミニウム廃材を鋳造原料として再利用する場合には、アルミニウム以外の元素の含有量が多くなり、熱間押出時の変形抵抗の上昇や押出速度の低下などの種々の問題の発生を招いていた。それ故、従来の技術水準においては、アルミニウム廃材を鋳造原料として用いる場合、複雑な断面形状を備えた押出多穴管を作製することは難しいと考えられていた。
【0037】
これに対し、前記押出多穴管の製造方法においては、鋳塊の化学成分を前記特定の範囲とした上で、さらに、後述する二段階の均質化処理を行うことにより、アルミニウム以外の元素の含有量が比較的多い場合であっても熱間押出時の変形抵抗の上昇を抑制することができる。それ故、前記の態様の製造方法によれば、鋳造原料の少なくとも一部にアルミニウム廃材が使用され、アルミニウム以外の元素の含有量が比較的多い場合であっても、複雑な断面形状を備えた押出多穴管を容易に作製することができる。
【0038】
さらに、鋳造原料の少なくとも一部にアルミニウム廃材を使用することにより、アルミニウムの新地金の使用量を低減することができる。その結果、押出多穴管の製造過程における環境負荷をより低減するとともに、押出多穴管の材料コストをより低減することができる。かかる効果をより高める観点からは、鋳造原料に占めるアルミニウム廃材の割合を35質量%以上とすることが好ましく、45質量%以上とすることがより好ましく、60質量%以上とすることが特に好ましい。
【0039】
前記押出多穴管の製造方法においては、鋳塊を作製した後に、鋳塊を550℃以上650℃以下の温度に2時間以上保持して第一均質化処理を行う。第一均質化処理における保持温度及び保持時間をそれぞれ前記特定の範囲とすることにより、鋳塊中の粗大な晶出物を分解したり、粒状化したり、Al母相中に再固溶させたりすることができる。
【0040】
鋳塊中の晶出物の分解等をより促進する観点からは、第一均質化処理における保持温度は580℃以上620℃以下であることが好ましい。同様の観点から、第一均質化処理における保持時間は10時間以上であることが好ましい。また、第一均質化処理における保持時間は、生産性の観点から24時間以下であることが好ましい。
【0041】
第一均質化処理における保持温度が550℃未満の場合、または、保持時間が2時間未満の場合には、晶出物の分解等が不十分となるおそれがある。第一均質化処理における保持温度が650℃を超える場合には、鋳塊が部分的に溶融するおそれがある。
【0042】
前記押出多穴管の製造方法においては、第一均質化処理を施した後の鋳塊に第二均質化処理を施す。第二均質化処理における保持温度は450℃以上540℃以下とし、保持時間は3時間以上とする。前述したように、第一均質化処理は、鋳造時に鋳塊内に晶出した粗大な晶出物の分解、粒状化及び再固溶を主な目的として行われる。しかし、第一均質化処理における保持温度及び保持時間を前記特定の範囲内とした場合、晶出物の分解、粒状化及び再固溶とともに、溶質元素であるMnやSiのAl母相への固溶も促進される。Al母相への溶質元素の固溶量が過度に多くなると、熱間押出時における母相中の転位の運動速度の低下を招き、変形抵抗が上昇しやすくなる。
【0043】
これに対し、第二均質化処理において鋳塊を前記特定の条件で加熱すると、第一均質化処理においてAl母相中に固溶したSi及びMnをAlMnSi系金属間化合物として微細に析出させることができる。その結果、Al母相中における溶質元素の固溶量を減少させ、熱間押出時における変形抵抗を低下させることができる。従って、第一均質化処理を施した後の鋳塊を前記特定の条件で加熱して第二均質化処理を行うことにより、熱間押出時における押出性を向上させることができる。
【0044】
押出性向上の効果をより高める観点からは、第二均質化処理における保持温度は480℃以上520℃以下であることが好ましい。同様の観点から、第二均質化処理における保持時間は5時間以上であることが好ましい。また、第二均質化処理における保持時間は、生産性の観点から24時間以下であることが好ましく、15時間以下であることがより好ましい。
【0045】
第二均質化処理における保持温度が450℃未満の場合、または、保持時間が3時間未満の場合には、AlMnSi系金属間化合物の析出量が少なくなりやすく、熱間押出時における押出性の悪化を招くおそれがある。第二均質化処理における保持温度が540℃を超える場合には、Al母相中に固溶したSi及びMnが金属間化合物を形成しにくくなり、熱間押出時における押出性の悪化を招くおそれがある。
【0046】
前記製造方法においては、第一均質化処理と第二均質化処理とを連続して行うことができる。ここで、第一均質化処理と第二均質化処理とを連続して行うとは、第一均質化処理が完了した後、鋳塊の温度を第二均質化処理における保持温度まで低下させ、鋳塊の温度が第二均質化処理における保持温度に達した時点で第二均質化処理を開始することをいう。
【0047】
第一均質化処理と第二均質化処理とを連続して行う場合には、第一均質化処理が完了した後、20℃/時間以上60℃/時間以下の平均冷却速度で前記第二均質化処理における保持温度まで前記鋳塊を冷却することが好ましい。
【0048】
また、前記製造方法においては、第一均質化処理が完了した後、鋳塊を第二均質化処理における保持温度よりも低い温度まで一旦冷却し、その後第二均質化処理を行うこともできる。この場合、冷却完了時の鋳塊の温度は、例えば200℃以下とすることができる。冷却完了後の鋳塊を第二均質化処理における保持温度まで加熱するに当たっては、20℃/時間以上60℃/時間以下の平均昇温速度で第二均質化処理における保持温度まで鋳塊を加熱することが好ましい。
【0049】
前記押出多穴管の製造方法においては、第二均質化処理を施した後の鋳塊に熱間押出を行うことにより、押出多穴管を得ることができる。熱間押出における押出開始時の鋳塊の温度や押出完了時の押出多穴管の温度などは、押出多穴管の化学成分に応じて適宜設定すればよい。例えば、押出開始時の鋳塊の温度は450℃以上550℃以下の範囲から適宜設定することができる。このようにして得られた押出多穴管は、そのまま使用されてもよいし、寸法や形状を調整するための矯正作業や切断、強度調整のための熱処理、耐食性向上のための亜鉛溶射、塗装などの後処理を行った後に使用されてもよい。これらの後処理は、押出多穴管の用途等に応じて適宜組み合わせることができる。
【0050】
前記製造方法により得られる押出多穴管は、外部空間と前記押出多穴管の内部とを区画する外壁部と、前記外壁部の内部空間を区画する複数の隔壁部とを有している。また、押出多穴管は、外壁部と隔壁部とによって囲まれた複数の通路を有しており、これらの通路に液体や気体などを流通させることができるように構成されている。押出多穴管の断面形状は特に限定されることはなく、例えば、長円状や長方形状などの種々の断面形状をとり得る。また、押出多穴管の通路の断面形状も特に限定されることはなく、例えば、円形や三角形、四角形などの種々の断面形状をとり得る。
【0051】
押出多穴管は、扁平な断面形状を有していてもよい。この場合、押出多穴管の厚みに対する幅の比率を2以上50以下、好ましくは3以上30以下とすることができる。一般に、押出多穴管が扁平な形状である場合、厚みに対する幅の比率が高いほど、押出加工が困難となり、高い押出性が求められる傾向にある。前記押出多穴管の製造過程においては、前記特定の化学成分を有するアルミニウム合金鋳塊に二段階の均質化処理を施すことにより、熱間押出時の変形抵抗の上昇を抑制し、押出性を高めることができる。それ故、このような高い押出性を求められる断面形状を備えた押出多穴管を容易に得ることができる。
【0052】
また、押出多穴管は、外部空間と前記押出多穴管の内部とを区画する外壁部と、前記外壁部の内部空間を区画する複数の隔壁部とを有しており、前記外壁部及び前記隔壁部の厚みが0.10mm以上2.0mm以下、好ましくは0.15mm以上1.5mm以下であってもよい。前述した厚みに対する幅の比率と同様に、押出多穴管においては、外壁部及び隔壁部の厚みが薄いほど、押出加工が困難となり、高い押出性が求められる傾向にある。前記押出多穴管の製造過程においては、前記特定の化学成分を有するアルミニウム合金鋳塊に二段階の均質化処理を施すことにより、熱間押出時の変形抵抗の上昇を抑制し、押出性を高めることができる。それ故、このような高い押出性を求められる断面形状を備えた押出多穴管を容易に得ることができる。
【実施例0053】
前記押出多穴管の製造方法の実施例を以下に説明する。本例の押出多穴管の製造方法においては、Si:2.00質量%以下、Fe:0.60質量%以下、Cu:0.60質量%以下、Mn:2.00質量%以下、Mg:0.40質量%以下、Cr:0.10質量%以下、Zn:1.50質量%以下、Ti:0.10質量%以下及びB:0.10質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、Siの含有量とMnの含有量との合計が3.20質量%以下であり、Siの含有量がMnの含有量よりも少ない化学成分を有する鋳塊を作製する。その後、鋳塊を550℃以上650℃以下の温度に2時間以上保持して第一均質化処理を行う。第一均質化処理が完了した後、鋳塊を450℃以上540℃以下の温度に3時間以上保持して第二均質化処理を行う。そして、第二均質化処理が完了した後の鋳塊に熱間押出を行うことにより、押出多穴管を作製することができる。
【0054】
本例の押出多穴管1は、図1に示すように、扁平な断面形状を有している。より具体的には、押出多穴管1は長円状の断面形状を有している。押出多穴管1の幅は例えば14.0mmであり、厚みは例えば2.5mmである。
【0055】
また、押出多穴管1は、その外部空間と内部とを区画する外壁部11と、外壁部11により囲まれた空間を19本の通路12に区画する隔壁部13とを有している。本例における押出多穴管1の通路12は、円形の断面形状を有している。外壁部11及び隔壁部13における最も薄い部分の厚みは、例えば0.4mmである。
【0056】
以下に、本例の押出多穴管の製造方法の例をより具体的に説明する。まず、アルミニウム廃材を含む鋳造原料を用い、DC鋳造により表1に示す化学成分(合金記号A1~A3)を有する鋳塊を作製する。なお、表1における「Bal.」は当該元素が残部であることを示す記号である。
【0057】
鋳塊を作製した後、鋳塊を600℃の温度に10時間保持して第一均質化処理を行う。第一均質化処理が完了した後、鋳塊を500℃の温度に10時間保持して第二均質化処理を行う。第一均質化処理と第二均質化処理とは、連続して行ってもよいし、第一均質化処理が完了した後第二均質化処理を行うまでの間に鋳塊の温度が第二均質化処理における保持温度を下回ってもよい。
【0058】
第二均質化処理が完了した後、鋳塊の温度が500℃である状態で鋳塊に熱間押出を行うことにより押出多穴管1を作製する。以上により、表2に示す試験材S1~S3を得ることができる。なお、表2に示す試験材R1~R4は、試験材S1~S3との比較のための試験材である。試験材R1~R3の作製方法は、鋳塊の化学成分を表1に示す合金記号A4~A6に変更した以外は試験材S1~S3と同様である。また、試験材R4の作製方法は、鋳塊の化学成分を表1に示す合金記号A7に変更し、第二均質化処理を省略した以外は試験材S1~S3と同様である。
【0059】
各試験材の押出性の評価方法を以下に説明する。
【0060】
・押出性
押出性は、試験材の外観に基づいて評価することができる。より具体的には、試験材の外観を目視により観察し、割れや押出方向に沿った筋状模様の有無を評価する。表2に、各試験材の端部の割れ及び筋状模様の有無を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1及び表2に示すように、試験材S1~S3の製造過程においては、前記特定の化学成分を有する鋳塊に前記特定の条件で第一均質化処理及び第二均質化処理が施されているため、熱間押出時の鋳塊の変形抵抗を低減することができる。それ故、試験材S1~S3は良好な外観を有している。
【0064】
一方、試験材R1は、Siの含有量がMnの含有量以上であるため、試験材S1~S3に比べて押出性に劣り、試験材の表面に筋状模様が発生する。
試験材R2は、Siの含有量とMnの含有量との合計が過度に多いため、試験材S1~S3に比べて押出性に劣り、試験材における幅方向の端部に割れが発生するとともに、試験材の表面に筋状模様が発生する。
【0065】
試験材R3は、Mnの含有量が過度に多いため、試験材S1~S3に比べて押出性に劣り、試験材の表面に筋状模様が発生する。
試験材R4は、その製造過程において第二均質化処理が施されていないため、試験材S1~S3に比べて押出性に劣り、試験材の表面に筋状模様が発生する。
【0066】
以上、実施例に基づいて本発明に係る押出多穴管の製造方法の具体的な態様を説明したが、本発明に係る押出多穴管の製造方法の具体的な態様は実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 押出多穴管
11 外壁部
12 通路
13 隔壁部
図1