(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061793
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】1型糖尿病の改善又は治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/202 20060101AFI20230425BHJP
A61K 31/201 20060101ALI20230425BHJP
A61K 31/20 20060101ALI20230425BHJP
A61K 38/28 20060101ALI20230425BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230425BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
A61K31/202
A61K31/201
A61K31/20
A61K38/28
A61P3/10
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171933
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】308038613
【氏名又は名称】公立大学法人和歌山県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】山本 悠太
【テーマコード(参考)】
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DB34
4C084MA02
4C084MA55
4C084NA05
4C084ZC35
4C084ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA03
4C206DA04
4C206DA05
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA05
4C206ZC35
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】1型糖尿病の改善又は治療剤であって、食事直前又は食事と同時のインスリン投与で食後血糖値の上昇を抑制できるようになる剤を提供する。
【解決手段】GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸、その水酸化物、及びそのオキソ化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪酸を含み、1型糖尿病患者に、食事直前又は食事と同時に投与される、1型糖尿病の改善又は治療剤。この剤は、インスリンと組み合わせて使用することができ、インスリンは食事直前又は食事と同時に投与される。この剤は、食後血糖値の上昇及び/又は急下降を緩和することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸、その水酸化物、及びそのオキソ化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪酸を含み、1型糖尿病患者に、食事直前又は食事と同時に投与される、1型糖尿病の改善又は治療剤。
【請求項2】
インスリンと組み合わせて使用され、1型糖尿病患者に、インスリンが食事直前又は食事と同時に投与される、請求項1に記載の1型糖尿病の改善又は治療剤。
【請求項3】
1型糖尿病の改善又は治療が1型糖尿病患者の食後血糖値の変動緩和である、請求項1又は2に記載の1型糖尿病の改善又は治療剤。
【請求項4】
食後血糖値の上昇及び/又は急降下を緩和する、請求項3に記載の1型糖尿病の改善又は治療剤。
【請求項5】
インスリン分泌促進及びインスリン感受性向上の何れも介さずに1型糖尿病を改善又は治療する、請求項1~4の何れかに記載の1型糖尿病の改善又は治療剤。
【請求項6】
GPR120活性化を介して1型糖尿病を改善又は治療する、請求項1~5の何れかに記載の1型糖尿病の改善又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1型糖尿病の改善又は治療剤、中でも、1型糖尿病患者における食後血糖値の変動を緩和するための剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸は、生体の重要なエネルギー源であり、食餌、生合成、脂肪組織における脂肪分解によって供給される。脂肪酸は、炭素数6以下の短鎖脂肪酸、炭素数6~10程度の中鎖脂肪酸、炭素数12~20程度の長鎖脂肪酸に分類される。脂肪酸は、エネルギー源としてだけでなく、様々な細胞内プロセスに関与するシグナル分子として機能している。
【0003】
例えば、中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸の中には、GPR40、GPR120といったG-タンパク質共役型受容体のアゴニストとして作用するものがある。
GPR40は、小腸の細胞に多く発現している。アゴニストがGPR40を活性化すると、GLP-1、GIPといったインクレチンが分泌され、インクレチンが膵臓β細胞に作用してインスリン分泌を促進する。また、GPR40は、膵臓β細胞にも発現しており、アゴニストはGPR40を活性化することにより直接、インスリン分泌を促進する。
【0004】
GPR120は、小腸の細胞に多く発現している。アゴニストがGPR120を活性化すると、コレシストキニン(CCK)やインクレチンが分泌される。CCKは、膵腺細胞に作用して膵液の分泌を促進する作用、胃が内容物を十二指腸に送りこむ速度を低下させる作用、胆汁排出を促進する作用などを有する。
また、GPR120は、マクロファージでも発現している。アゴニストがGPR120を活性化すると、サイトカインシグナルの中心的役割を果たすTGF-β活性化キナーゼ(TAK-1)を阻害する。TAK-1は、多数のサイトカインにより活性化され、核内因子κB(NF-κB)やc-Jun N terminal kinase(JNK)を活性化することで、炎症、抗アポトーシス、リンパ球分化・活性化、感染防御、破骨細胞分化、発がん、がん転移、血管新生などを誘導する。血糖値に関しては、TAK-1を阻害することで、炎症性シグナルパスウェイが抑制され、インスリン抵抗性が減弱する。
【0005】
従って、GPR40やGPR120のアゴニストとして作用する中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸は、インスリン分泌障害とインスリン抵抗性を特徴とする2型糖尿病の治療剤として期待されている。
【0006】
例えば、特許文献1は、炭素数18若しくは炭素数20の飽和脂肪酸又は不飽和飽和脂肪酸であって、一つの水酸基又はカルボニル基を有する特定の長鎖脂肪酸が、ペルオキシソーム増殖型応答性受容体(PPAR)γを活性化することを報告している。PPARγは、筋肉でのグルコース取り込みを促進したり、インスリン感受性を向上させたりする作用があるため、特許文献1は、上記特定の長鎖脂肪酸は糖尿病治療剤として有用であることを記載している。
【0007】
ここで、2型糖尿病はインスリン分泌障害やインスリン抵抗性を特徴とするため、多数の治療薬が存在し、また症状を抑えることが比較的容易であるに対して、1型糖尿病は、膵臓β細胞の破壊によりインスリン分泌が極端に少ないか又は枯渇していることを特徴とするため、インスリン療法が基本であり、症状を抑えることが非常に難しい。
1型糖尿病患者は、食事による血糖値の上昇を抑えるために、インスリンを食事前に注射するが、適切に血糖値を調整できる投与タイミングを計ることは難しい。食事の直前にインスリンを投与すると、インスリンの効果が得られず食後に高血糖に陥り、さらにその後に血糖値が急降下して倦怠感や眠気などを生じる。また、食事の30分前にインスリンを投与しても、食後に高血糖に陥る。一方、食事15分前にインスリンを投与すると、食後の血糖値の上昇が効果的に抑えられる(DIABETES CARE 33, No.10, 2010, 2152-2155)。
従って、患者は食事の15分前にインスリンを投与する必要があるため、食事の度に、いつインスリンを注射したかを気にすることになり、これが患者の負担になっている。食事直前又は食事と同時にインスリン注射できるようになれば、患者の負担は大きく軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、1型糖尿病の改善又は治療剤であって、食事直前又は食事と同時のインスリン投与で食後血糖値の上昇を抑制できるようになる剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために検討を重ね、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸、その水酸化物、及び/又はそのオキソ化物を、1型糖尿病患者に、食事直前又は食事と同時に投与することにより、インスリンを食事直前又は食事と同時に投与しても、食後血糖値の上昇を緩和できることを見出した。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記〔1〕~〔6〕を提供する。
〔1〕 GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸、その水酸化物、及びそのオキソ化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪酸を含み、1型糖尿病患者に、食事直前又は食事と同時に投与される、1型糖尿病の改善又は治療剤。
〔2〕 インスリンと組み合わせて使用され、1型糖尿病患者に、インスリンが食事直前又は食事と同時に投与される、〔1〕に記載の1型糖尿病の改善又は治療剤。
〔3〕 1型糖尿病の改善又は治療が1型糖尿病患者の食後血糖値の変動緩和である、〔1〕又は〔2〕に記載の1型糖尿病の改善又は治療剤。
〔4〕 食後血糖値の上昇及び/又は急降下を緩和する、〔3〕に記載の1型糖尿病の改善又は治療剤。
〔5〕 インスリン分泌促進及びインスリン感受性向上の何れも介さずに1型糖尿病を改善又は治療する、〔1〕~〔4〕の何れかに記載の1型糖尿病の改善又は治療剤。
〔6〕 GPR120活性化を介して1型糖尿病を改善又は治療する、〔1〕~〔5〕の何れかに記載の1型糖尿病の改善又は治療剤。
【発明の効果】
【0011】
前述した通り、1型糖尿病の治療はインスリン療法が基本である。インスリンを食事の直前又は食事と同時に注射することができれば、患者はインスリン注射と食事のタイミングを毎回気にする必要がなくなるため、毎日の生活が非常に楽になる。ところが、インスリンを食事の直前に注射すると、通常、食事30分後には血糖値が急上昇し、その後血糖値が急降下して、倦怠感や眠気を招く。また、食事のずっと前であればいつでもよいという訳ではなく、食事の30分前のインスリン注射では食後の血糖値の上昇を抑えることができず、食事の15分前が丁度よいことが知られている(DIABETES CARE 33, No.10, 2010, 2152-2155)。このため、1型糖尿病患者は、インスリン投与と食事との間を15分空けることを気にしながら生活しなければならず、患者にとって大きな負担となっている。
【0012】
この点、本発明によれば、GPR120アゴニストである長鎖脂肪酸、その水酸化物、及び/又はそのオキソ化物を、食事の直前又は食事と同時に投与することにより、インスリンを食事の直前又は食事と同時に投与しても、食後の血糖値の上昇が抑えられて、血糖値が上がり過ぎるのを回避できると共に、上り過ぎた血糖値の急降下による倦怠感や眠気といった症状も抑制できる。これにより、患者はインスリンの投与タイミングを食事の度に気にする必要がなくなり、QOLが大きく改善する。
【0013】
また、糖尿病患者に占める1型糖尿病患者の割合は5~10%と少ないため、1型糖尿病の症状を改善又は治療するための薬剤は少ない。本発明は、1型糖尿病の症状を改善又は治療できる剤を増やした点でも意義が大きい。
【0014】
また、長鎖脂肪酸、その水酸化物、及びそのオキソ化物は、食品由来の成分であるため、安全性が確立されている点でも、本発明の剤は有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】1型糖尿病モデルラットに、グルコース投与の直前に、αリノレン酸とインスリンを投与した後の血糖値の経時的変化を示すグラフである。
図1中のALA群は、αリノレン酸投与群である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の1型糖尿病の改善又は治療剤は、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸、その水酸化物、及びそのオキソ化物(以下、「GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類」という。)からなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪酸を含み、1型糖尿病患者に、食事の直前又は食事と同時に投与される剤である。
【0017】
GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類
本発明において、長鎖脂肪酸は炭素数14~22の脂肪酸をいう。
GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸としては、飽和脂肪酸では、ミリスチン酸(C14:0)、パルミチン酸(C16:0)、オレイン酸(C18:0)などが挙げられる。また、不飽和脂肪酸では、不飽和結合を1個有する脂肪酸であるパルミトオレイン酸(C16:1(Δ9))、オレイン酸(C18:1(Δ9))、不飽和結合を2個有する脂肪酸であるリノール酸(C18:2(Δ9,12))、不飽和結合を3個有する脂肪酸であるαリノレン酸(C18:3(Δ9,12,15))、エイコサトリエン酸(C20:3(Δ11,14,17))、ジホモ-γリノレン酸(C20:3(Δ8,11,14))、不飽和結合を4個有する脂肪酸であるドコサテトラエン酸(C22:4(Δ7,10,13,16))、不飽和結合を5個有する脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(C20:5(Δ5,8,11,14,17))、不飽和結合を6個有する脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(C22:6(Δ4,7,10,13,16,19))などが挙げられる(Physiol .Rev. 100: 171-210, 2020)。
GPR120のアゴニストとして機能する長鎖不飽和脂肪酸は、二重結合が全てシス異性体であるものが好ましく、上記例示した長鎖脂肪酸はこれに該当する。
中でも、不飽和脂肪酸が好ましく、不飽和結合を3個有する脂肪酸がより好ましく、αリノレン酸が特に好ましい。また、炭素数16~20の脂肪酸が好ましく、炭素数18の脂肪酸がより好ましく、αリノレン酸が特に好ましい。
【0018】
また、長鎖不飽和脂肪酸の二重結合を形成する2個の炭素原子のうちの1個が水酸化又はオキソ化することにより、その二重結合が単結合になった脂肪酸も好ましい。水酸基、オキソ基の数は1~2個が好ましく、1個がより好ましい。
例えば、リノール酸(C18:2(Δ9,12))の10位炭素が水酸化することで9位炭素と10位炭素との結合(Δ9)が単結合になったHYAや、リノール酸の10位炭素がオキソ化することで9位炭素と10位炭素との結合(Δ9)が単結合になったKetoA、KetoCは、リノール酸と同等又はそれ以上にGPR120への親和性が強いことが知られている(NATURE COMMUNICATIONS (2019)10:4007)。従って、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖不飽和脂肪酸の水酸化物、オキソ化物には、GPR120のアゴニストとして機能するものが多く含まれることが合理的に予測される。
【0019】
GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類は、1種又は2種以上を使用できる。
【0020】
製剤
本発明の剤は、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類と、必要に応じて配合される添加剤やその他の生理活性又は薬理活性成分と共に、食品組成物、医薬組成物、又は医薬部外品組成物とすることができる。
組成物中のGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の濃度は、組成物の全量に対して、0.001重量%以上、0.1重量%以上、1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上とすることができる。この範囲であれば、無理なく摂取できる量の組成物中に、血糖値変動緩和効果を十分奏するだけのGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類が含まれることになる。また、組成物中のGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の濃度は、組成物の全量に対して、95重量%以下、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は1重量%以下とすることができる。この範囲であれば、製剤化し易く、或いは食品として食べ易い又は飲み易いものとなる。
【0021】
(医薬組成物・医薬部外品組成物)
医薬組成物、医薬部外品組成物は、経口投与製剤とすることができる。
固形状の経口投与製剤としては、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)などが挙げられる。GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類は液状油であるものが多いため、軟カプセル剤が好ましい。形製剤には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、着色剤、矯味剤、甘味剤、香料、保存剤又は防腐剤などの添加物の1種又は2種以上を配合することができる。
液体状の経口投与製剤としては、液剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤、シロップ剤などが挙げられる。液体製剤には、pH調整剤、緩衝剤、増粘剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤、着色剤、香料などの添加物の1種又は2種以上を配合することができる。
【0022】
(製剤形態の食品組成物)
本発明の剤は、一般にサプリメントと称されるような経口投与製剤の形態の食品組成物とすることができる。経口投与製剤の剤型や添加物としては、医薬組成物、医薬部外品組成物として例示したものが挙げられる。
【0023】
医薬組成物、医薬部外品組成物、食品組成物としての固形経口投与製剤中のGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の濃度は、組成物の全量に対して、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上とすることができる。この範囲であれば、無理なく摂取できる量の組成物中に、血糖値変動緩和効果を十分奏するだけのGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類が含まれることになる。また、組成物中のGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の濃度は、組成物の全量に対して、95重量%以下、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、又は20重量%以下とすることができる。この範囲であれば、製剤化し易く、或いは食品として食べ易いものとなる。
【0024】
医薬組成物、医薬部外品組成物、食品組成物としての液体経口投与製剤中のGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の濃度は、組成物の全量に対して、0.001重量%以上、0.1重量%以上、1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、又は50重量%以上とすることができる。この範囲であれば、無理なく摂取できる量の組成物中に、血糖値変動緩和効果を十分奏するだけのGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類が含まれることになる。また、組成物中のGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の濃度は、組成物の全量に対して、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は1重量%以下とすることができる。この範囲であれば、製剤化し易く、或いは食品として飲み易いものとなる。
【0025】
(一般食品の組成物)
本発明の剤は、一般食品にGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類を配合した組成物であってもよい。例えば、ゼリー、寒天菓子、ガム、飴、焼き菓子(クッキー、ビスケットなど)のような固形食品や、ドリンク剤、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料、果物や野菜などのジュース、清涼飲料のような液体食品にGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類を配合したものとすれば、血糖値の変動を抑えるために、患者が気軽に摂取することができる。
【0026】
固形状の一般食品組成物中のGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の濃度は、組成物の全量に対して、0.001重量%以上、0.1重量%以上、1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、又は50重量%以上とすることができる。この範囲であれば、無理なく摂取できる量の組成物中に、血糖値変動緩和効果を十分奏するだけのGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類が含まれることになる。また、組成物中のGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の濃度は、組成物の全量に対して、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は1重量%以下とすることができる。この範囲であれば、食べ易いものとなる。
【0027】
液体状の一般食品組成物中のGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の濃度は、組成物の全量に対して、0.001重量%以上、0.1重量%以上、1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、又は50重量%以上とすることができる。この範囲であれば、無理なく摂取できる量の組成物中に、血糖値変動緩和効果を十分奏するだけのGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類が含まれることになる。また、組成物中のGPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類酸の濃度は、組成物の全量に対して、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、又は1重量%以下とすることができる。この範囲であれば、飲み易いものとなる。
【0028】
食品組成物は、栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品などとして使用してもよい。
【0029】
(生理活性成分・薬理活性成分)
GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類と共に配合できる生理活性又は薬理活性成分としては、食用キノコ(ヌメリイグチ、シロヌメリイグチ、ニガイグチモドキ、コウジタケ、イロガワリ、アイシメジ、キツネタケ、ツバフウセンタケ、ササタケ、ヤギタケ、アカヤマタケ、シロカノシタ、キホウキタケ、スッポンタケ、キヌガサタケなど)の抽出物、乳酸菌発酵液およびその抽出物、穀物麹またはその抽出物、酵母またはその抽出物、茶花抽出物、ハトムギ抽出物、コーンシルク抽出物、カンカニクジュヨウ抽出物、インゲン豆抽出物、桑葉抽出物、パパイヤ抽出物、緑茶由来のフラボノール又はその配糖体(カテキンなど)、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、イヌリン、オリゴ糖、植物炭、大麦βグルカン、シトラスファイバー、サイリウムシードガス、グアーガム酵素分解物、レシチン、大豆抽出物、酪酸菌発酵液、梅エキス、紫蘇エキス、脱硫酸コタラノール、サラシノール、カカオポリフェノール、カカオ脂などが挙げられる。
これらは、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の血糖値上昇抑制作用を増強する。
【0030】
食品組成物、医薬組成物、医薬部外品組成物の何れの場合も、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類を配合して本発明の剤を調製するのに代えて、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類を含む油脂と、トリグリセリドから脂肪酸を解離させることができる成分を配合することで本発明の剤を調製することもできる。例えば、構成脂肪酸としてαリノレン酸を多く含むえごま油、亜麻仁油、しそ油などと、酸、アルカリ、又はリパーゼを混合することでαリノレン酸を含む本発明の剤を得ることができる。
【0031】
投与方法
本発明の剤は、食事の直前又は食事と同時に投与する。
食事の直前は、食事開始の5分前から食事開始までの時間をいうが、中でも、食事開始の4分前、特に3分前、特に2分前、特に1分前から食事開始までの間が好ましく、これにより、患者の負担が一層軽減される。
また、食事と同時とは、食事の最初の期間をいうが、食事し始めた後に小腸からの糖の吸収が始まるため、食事開始から5分以内、中でも4分以内、中でも3分以内、中でも2分以内、中でも1分以内、中でも食事開始と同時が好ましい。
【0032】
本発明の剤は、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の1日投与量が、300mg以上、中でも1g以上、中でも2g以上となるように投与することができる。この範囲であれば、食後血糖値の変動を十分に緩和できる。また、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類は食品成分であるため、本発明の剤の投与量の上限値は特に制限されないが、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の1日投与量が、15g以下、中でも12.5g以下、中でも10g以下、中でも7.5g以下となるように投与すればよい。
【0033】
本発明の剤は、患者の1回の食事当たりの、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の投与量が、100mg以上、中でも300mg以上、中でも600mg以上となるように投与することができる。この範囲であれば、食後血糖値の変動を十分に緩和できる。また、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類は食品成分であるため、本発明の剤の投与量の上限値は特に制限されないが、患者の1回の食事当たりの、GPR120のアゴニストとして機能する長鎖脂肪酸類の投与量が、5g以下、中でも4g以下、中でも3g以下、中でも2g以下となるように投与すればよい。
【0034】
本発明の剤は、インスリンと併用することができる。
インスリン含有製剤には、即効型インスリン製剤、持続型インスリン製剤、及び即効型・持続型インスリン製剤がある。即効型インスリン製剤は、食後に分泌されるインスリンを補うための製剤であり、持続型インスリン製剤は、1日中分泌される基礎分泌インスリンを補う製剤であり、即効型・持続型インスリン製剤は、食後分泌インスリンと基礎分泌インスリンの両方を補う製剤である。本発明の剤は、即効型インスリン製剤、又は即効型・持続型インスリン製剤の形態のインスリンと併用すればよい。
また、インスリンと同じ作用をするインスリンアナログも使用でき、本発明ではインスリンアナログもインスリンに含める。
【0035】
インスリンは、食事の直前又は食事と同時に投与することができる。
食事の直前は、食事開始の5分前から食事開始までの時間をいうが、中でも、食事開始の4分前、特に3分前、特に2分前、特に1分前から食事開始までの間が好ましく、これにより、患者の負担が一層軽減される。
また、食事と同時とは、食事の最初の期間をいうが、食事し始めた後に小腸からの糖の吸収が始まるため、食事開始から5分以内、中でも4分以内、中でも3分以内、中でも2分以内、中でも1分以内、中でも食事開始と同時が好ましい。
【0036】
特に、本発明の剤とインスリンを同時に投与すれば、患者負担が一層軽減される。
【0037】
血糖値変動の緩和
本発明の剤は、1型糖尿病患者において、食後の血糖値の上昇及び/又は急降下、特に食後の血糖値の上昇と急降下の両方を緩和ないしは抑制することができ、これにより、1型糖尿病の改善又は治療剤として使用できる。
血糖値の上昇の緩和は血糖値の上昇速度の緩和であり、即ち、血糖値のオーバーシュートを抑制することである。オーバーシュートを抑制することで、血糖値が治療域(80~180mg/dL)に収まる時間が延長し、I型糖尿病の治療効果を高めることができる。本発明の剤が血糖値の上昇を緩和するときは、食後血糖値の最高値を低減させることができるため、本発明の剤は食後血糖値の低減剤、又は食後高血糖の予防剤としても使用できる。一般には、食後2時間たっても血糖値が140mg/mL以上の値が続く場合を食後高血糖というが、本発明における食後高血糖、即ち、1型糖尿病患者にインスリンを食事直前又は食事と同時に投与する場合の食後高血糖も同様である。
また、血糖値の急下降の緩和は血糖値の下降速度の低減である。本発明の剤が血糖値の急降下を緩和するときは、低血糖になりすぎるのを抑制できるため、本発明の剤は低血糖の予防剤としても使用できる。本発明における低血糖は、血糖値100mg/mL以下の状態をいう。
【0038】
本発明の剤は、GPR120活性化を介して食後血糖値の変動を緩和することができる。従って、本発明の剤は、インスリン分泌促進及びインスリン感受性向上の何れも介さずに、食後血糖値の変動を緩和することができる。
【実施例0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1型糖尿病モデル動物における血糖値上昇抑制効果の評価
(1)1型糖尿病モデルラットの作製
雄性SDラット(5週齢)を1週間馴致後、ストレプトゾシン(STZ)水溶液を、STZ投与量が1mL/kgとなるように、2回腹腔投与した。投与するSTZ水溶液は1回目は60mg/mL、2回目は100mg/mL濃度のものを用いた。1回目投与と2回目投与との間は1日空けた。STZ水溶液の1回目投与から1週間経過した時に20w/v%グルコース水溶液を投与し、投与後に血中インスリン濃度が上昇しないラットを試験に用いた。この用量のSTZ投与で1型糖尿病モデルラットを作製できた。
試験前日18時より絶食を開始し、インスリンアスパルト(商品名、ノボラピッド社)を投与し、2時間おきに血糖値を測定し、血糖値が70~150mg/dLになるようにインスリンアスパルトを投与した。最終インスリンアスパルト投与から12時間を空けて血糖値を測定し、血糖値50~350mg/dLのラットを、各群血糖値に差が出ないように割付けた。
【0040】
(2)血糖値上昇抑制作用の評価
各群4匹の1型糖尿病モデルラットに、ヒト組み換えインスリン(ノボリンR)を0.1U/kgの用量で投与し、直後に被験薬液を5mL/kgの用量で投与し、さらにその直後に20w/v%グルコース水溶液を10mL/kgの用量で投与した。
被験薬液は、コントロール群がオリーブ油であり、ALA群がαリノレン酸(2.5g/5mL)/オリーブ油である。
グルコース溶液投与の直前、15分後、30分後、60分後、90分後、及び120分後に、フリースタイルプレシジョン血糖測定電極を用いて、尾静脈より血糖値を測定した。
【0041】
結果を
図1に示す。投与直前の血糖値がばらついたため、投与直前の血糖値を0とした差分を血糖値として示した。表1中の*は、Student’s t検定で群間の差がP<0.05であることを示している。
αリノレン酸を投与することにより、グルコース投与後の血糖値の上昇が緩和された。また、コントロール群では、グルコース投与後急上昇した血糖値が急降下したが、αリノレン酸を投与することにより、血糖値の降下速度も穏やかになった。
GPR120リガンドとして機能する長鎖脂肪酸類を、食事の直前又は食事と同時に投与することにより、インスリンを食事の直前又は食事と同時に投与しても、血糖値の急上昇と急降下を緩和できることが分かる。
本発明の剤は、1型糖尿病患者において食事の直前又は食事と同時のインスリン投与を可能にするため、患者のQOLを大きく向上させる点で、非常に有用なものである。