(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061847
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】溶接監視方法及び溶接監視装置、並びに積層造形方法及び積層造形装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20230425BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230425BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20230425BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230425BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230425BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20230425BHJP
【FI】
B23K9/095 515A
B23K31/00 N
B23K9/04 Z
B23K9/04 G
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172036
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 保人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】田村 栄一
(57)【要約】
【課題】溶接部周囲における既設のビード等を基準にすることなく、溶接部の撮像画像から溶接欠陥の発生を確認すること。
【解決手段】溶接監視方法は、溶接部に生じる溶融池と、溶加材を溶融させるアーク光とが映出された画像情報を取得する画像取得工程と、画像情報から、溶融池とアーク光とのうち少なくとも一方の輪郭を抽出する輪郭抽出工程と、抽出された輪郭の歪みに応じた形状指標を求める指標演算工程と、形状指標に応じて溶接欠陥の発生状況を判定する欠陥判定工程と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接中の溶接部を撮像した画像情報を用いて溶接状態を監視する溶接監視方法であって、
前記溶接部に生じる溶融池と、溶加材を溶融させるアーク光とが映出された画像情報を取得する画像取得工程と、
前記画像情報から、前記溶融池と前記アーク光とのうち少なくとも一方の輪郭を抽出する輪郭抽出工程と、
抽出された前記輪郭の歪みに応じた形状指標を求める指標演算工程と、
前記形状指標に応じて溶接欠陥の発生状況を判定する欠陥判定工程と、
を備える溶接監視方法。
【請求項2】
前記輪郭抽出工程では、前記画像情報から前記アーク光の輪郭を抽出し、
前記指標演算工程で求める前記形状指標は、前記アーク光の輪郭から求める前記アーク光の中心点、当該中心点から前記アーク光の輪郭までの距離、前記アーク光の輪郭の曲率、アーク光の形状をモデル曲線でフィッティングした際の適合度、のうちいずれかを含む、
請求項1に記載の溶接監視方法。
【請求項3】
前記輪郭抽出工程では、前記画像情報から前記アーク光の輪郭を抽出し、
前記欠陥判定工程では、前記アーク光の輪郭が、前記アーク光の中心点を通り溶接方向を示す溶接線を中心とした線対称形状に近づくほど、前記溶接欠陥が生じた可能性が高いと判定する、
請求項1に記載の溶接監視方法。
【請求項4】
前記輪郭抽出工程では、前記画像情報から前記アーク光の輪郭及び前記溶融池の輪郭を抽出し、
前記指標演算工程で求める前記形状指標は、前記アーク光の輪郭から求まる前記アーク光の中心点から前記溶融池の輪郭までの距離を含む、
請求項1に記載の溶接監視方法。
【請求項5】
前記欠陥判定工程は、前記距離が予め定めた基準距離以上である場合に前記溶接欠陥が発生したと判定する、
請求項4に記載の溶接監視方法。
【請求項6】
前記指標演算工程では、前記距離を前記アーク光の中心点回りにおける互いに異なる複数の方向について算出し、
前記欠陥判定工程では、前記アーク光の中心点回りの複数方向に対する前記距離の分布プロファイルにおいて、前記距離の変化割合が予め定めた基準変化割合よりも常に小さい場合に前記溶接欠陥が発生したと判定する、請求項4に記載の溶接監視方法。
【請求項7】
前記欠陥判定工程は、前記溶融池の溶接方向前方の輪郭が、前記溶融池の中心点を通り溶接方向を示す溶接線を中心とした線対称形状に近づくほど、前記溶接欠陥が生じた可能性が高いと判定する、
請求項4に記載の溶接監視方法。
【請求項8】
前記溶融池の中心点は、前記画像情報における前記溶融池の領域の重心位置である、
請求項4~7のいずれか1項に記載の溶接監視方法。
【請求項9】
前記指標演算工程では、前記形状指標の時間推移による変動量を算出し、
前記欠陥判定工程では、前記変動量が予め定めた基準変動量以上である場合に前記溶接欠陥が発生したと判定する、請求項1~8のいずれか1項に記載の溶接監視方法。
【請求項10】
前記アーク光の中心点は、前記画像情報における前記アーク光の領域の重心位置である、
請求項2~8のいずれか1項に記載の溶接監視方法。
【請求項11】
前記輪郭抽出工程では、前記画像情報から前記溶融池の輪郭を抽出し、
前記指標演算工程で求める前記形状指標は、前記溶融池の輪郭の経時変化量を含む、請求項1に記載の溶接監視方法。
【請求項12】
前記指標演算工程で求める前記形状指標は、前記溶融池の輪郭の曲率、前記輪郭に接する接線の傾き、前記輪郭の法線方向、前記輪郭に出現する凹凸の数、前記凹凸の大きさ、のうちいずれかの経時変化量である、
請求項11に記載の溶接監視方法。
【請求項13】
前記欠陥判定工程では、前記形状指標の前記経時変化量が、予め定めた基準経時変化量以上である場合に前記溶接欠陥が発生したと判定する、
請求項12に記載の溶接監視方法。
【請求項14】
予め複数の溶接パス及び前記溶接パスの溶接条件を定めた溶接計画に基づいて溶接する場合に、
前記欠陥判定工程では、
前記溶接計画の前記溶接パスのうち、前記溶接欠陥の判定基準となる基準パスを設定し、
前記基準パスにおける前記形状指標と、前記基準パスの溶接条件と共通する他の溶接パスの形状指標とを比較して、前記形状指標同士の差に応じて前記溶接欠陥を判定する、
請求項1~13のいずれか1項に記載の溶接監視方法。
【請求項15】
溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードを積層し、多層の溶着ビードから構成される造形物を製造する積層造形方法であって、
前記溶着ビードを形成する際に、請求項1~14のいずれか1項に記載の溶接監視方法により前記溶着ビードの溶接状態を監視する、
積層造形方法。
【請求項16】
アーク溶接中の溶接部を撮像した画像情報を用いて溶接状態を監視する溶接監視装置であって、
前記溶接部に生じる溶融池と、溶加材を溶融させるアーク光とが映出された画像情報を取得する画像取得部と、
前記画像情報から、前記溶融池と前記アーク光とのうち少なくとも一方の輪郭を抽出する輪郭抽出部と、
抽出された前記輪郭の歪みに応じた形状指標を求める指標演算部と、
前記形状指標に応じて溶接欠陥の発生状況を判定する欠陥判定部と、
を備える溶接監視装置。
【請求項17】
前記輪郭抽出部は、前記画像情報から前記アーク光の輪郭を抽出し、
前記指標演算部が求める前記形状指標は、前記アーク光の輪郭から求める前記アーク光の中心点、当該中心点から前記アーク光の輪郭までの距離、前記アーク光の輪郭の曲率、のうちいずれかを含む、
請求項16に記載の溶接監視装置。
【請求項18】
前記輪郭抽出部は、前記画像情報から前記アーク光の輪郭及び前記溶融池の輪郭を抽出し、
前記指標演算部で求める前記形状指標は、前記アーク光の輪郭から求まる前記アーク光の中心点から前記溶融池の輪郭までの距離を含む、
請求項16に記載の溶接監視装置。
【請求項19】
前記輪郭抽出部は、前記画像情報から前記溶融池の輪郭を抽出し、
前記指標演算部で求める前記形状指標は、前記溶融池の輪郭の経時変化量である、
請求項16に記載の溶接監視装置。
【請求項20】
溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードを積層し、多層の溶着ビードから構成される造形物を製造する積層造形装置であって、
前記溶着ビードを形成する際に、請求項16~19のいずれか1項に記載の溶接監視装置により前記溶着ビードの溶接状態を監視する、
積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接監視方法及び溶接監視装置、並びに積層造形方法及び積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接においては、アークの発生状態、アークスポット付近で溶け出した溶融金属(溶融池)の状態等、様々な溶接状態を把握して、アーク溶接が適切になされていることを監視する技術が種々提案されている。例えば、溶接中の溶融池を撮像した撮像画像を用いて溶接状態を監視する技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、アーク溶接中に溶接欠陥の発生を直接的に確認することは難しい。例えば、溶接物の内部欠陥を特定する手段として超音波探傷法があるが、溶接物表面の研磨が必要であり、表面の傾斜によっては欠陥由来のエコーを検出できない、等の問題がある。
そのため、特許文献1のような溶融池の撮像画像を用いて溶接状態を監視する手法が提案されているが、その多くが開先のある溶接を前提としている。つまり、これまでの溶接状態を監視する技術では、溶融池を、開先、又は溶融池に隣接するビードとの位置関係、或いはビード形状と対応させながら、溶融池の状態に応じて溶接欠陥の判定を行うものとなっている。しかし、開先、隣接するビードの画像映像は、アーク光との輝度差が大きく鮮明に映出されておらず、溶融池の位置及び形状が誤認される場合が生じ得る。その結果、正確な溶接状態の監視が困難になるおそれがあった。
また、複数のビード層を積層して積層造形物を作製する積層造形においては、上記した開先のような位置を特定できる基準物が存在しない。そのため、溶融池の状態を正確に把握できず、溶接中の撮像画像から溶接欠陥の発生を確認することは困難であった。
【0005】
そこで本発明は、溶接部周囲における既設のビード等を基準にすることなく、溶接部の撮像画像から溶接欠陥の発生を確認できる、溶接欠陥監視方法及び溶接欠陥監視装置、並びに積層造形方法及び積層造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記の構成からなる。
(1) アーク溶接中の溶接部を撮像した画像情報を用いて溶接状態を監視する溶接監視方法であって、
前記溶接部に生じる溶融池と、溶加材を溶融させるアーク光とが映出された画像情報を取得する画像取得工程と、
前記画像情報から、前記溶融池と前記アーク光とのうち少なくとも一方の輪郭を抽出する輪郭抽出工程と、
抽出された前記輪郭の歪みに応じた形状指標を求める指標演算工程と、
前記形状指標に応じて溶接欠陥の発生状況を判定する欠陥判定工程と、
を備える溶接監視方法。
(2) 溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードを積層し、多層の溶着ビードから構成される造形物を製造する積層造形方法であって、
前記溶着ビードを形成する際に、(1)に記載の溶接監視方法により前記溶着ビードの溶接状態を監視する、
積層造形方法。
(3) アーク溶接中の溶接部を撮像した画像情報を用いて溶接状態を監視する溶接監視装置であって、
前記溶接部に生じる溶融池と、溶加材を溶融させるアーク光とが映出された画像情報を取得する画像取得部と、
前記画像情報から、前記溶融池と前記アーク光とのうち少なくとも一方の輪郭を抽出する輪郭抽出部と、
抽出された前記輪郭の歪みに応じた形状指標を求める指標演算部と、
前記形状指標に応じて溶接欠陥の発生状況を判定する欠陥判定部と、
を備える溶接監視装置。
(4) 溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードを積層し、多層の溶着ビードから構成される造形物を製造する積層造形装置であって、
前記溶着ビードを形成する際に、(3)に記載の溶接監視装置により前記溶着ビードの溶接状態を監視する、
積層造形装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶接部周囲における既設のビード等を基準にすることなく、溶接部の撮像画像から溶接欠陥の発生を確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は、溶着ビードが形成される溶接部を撮像部が撮像する様子を示す概略説明図である。
【
図3】
図3は、撮像部が撮像した撮像画像を示す模式図である。
【
図4】
図4は、制御部の概略的なブロック構成図である。
【
図6】
図6は、第1の溶接監視方法の手順を示すフローチャートである。
【
図7A】
図7Aは、溶接トーチ先端のアーク光の形状を模式的に示す説明図である。
【
図7B】
図7Bは、
図7Aに示すアーク光の中心点からアーク光の輪郭までの距離を、中心点回りの方位角に対する分布を示すグラフである。
【
図8A】
図8Aは、溶接トーチ先端の他のアーク光の形状を模式的に示す説明図である。
【
図8B】
図8Bは、
図8Aに示すアーク光の中心点からアーク光の輪郭までの距離を、中心点回りの方位角に対する分布を示すグラフである。
【
図9】
図9は、既設の溶着ビードに隣接して新たに溶着ビードを形成する工程の様子を示す概略斜視図である。
【
図10A】
図10Aは、既設の溶着ビードに隣接する位置で新たな溶着ビードを形成した場合の溶接部の撮像画像である。
【
図11A】
図11Aは、
図10Aに示す場合よりも更に既設の溶着ビードに近い位置で新たな溶着ビードを形成した場合の溶接部の撮像画像である。
【
図12】
図12は、
図10Aに示す既設の溶着ビードから比較的離れた位置で新たな溶着ビードを形成した場合のビード断面の模式図である。
【
図13】
図13は、
図11Aに示す既設の溶着ビードに比較的近い位置で新たな溶着ビードを形成した場合のビード断面の模式図である。
【
図14】
図14は、アーク光の中心点の時間推移による変動量を模式的に示すグラフである。
【
図15】
図15は、第2の溶接監視方法の手順を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、撮像画像におけるアーク光と溶融池の様子を示す模式図である。
【
図17A】
図17Aは、既設の溶着ビードに隣接する位置で新たな溶着ビードを形成した場合の溶接部の撮像画像である。
【
図18A】
図18Aは、
図17Aに示す場合よりも更に既設の溶着ビードに近い位置で新たな溶着ビードを形成した場合の溶接部の撮像画像である。
【
図19】
図19は、方位角に対するアーク光の中心点から溶融池の輪郭までの距離の変化の様子を模式的に示すグラフである。
【
図20】
図20は、溶融池の輪郭までの距離の時間推移による変動量を模式的に示すグラフである。
【
図21】
図21は、第3の溶接監視方法の手順を示すフローチャートである。
【
図22】
図22は、撮像画像における溶融池の形状を模式的に示す説明図である。
【
図23】
図23は、溶融池の輪郭の時間推移による変化の様子を(A)~(E)に示す説明図である。
【
図24】
図24は、溶融池の輪郭の形状指標を抽出する具体例を示す説明図である。
【
図25】
図25は、撮像画像中の溶融池の輪郭から計算する局所的な曲率の算出例を示す説明図である。
【
図26】
図26は、輪郭形状と局所曲率の例を(A),(B)に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
ここでは、本発明に係る溶接監視方法を実施する溶接装置として、溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードを積層し、多層の溶着ビードから構成される造形物の製造に供される積層造形装置を一例に説明する。しかし、溶接種類及び溶接装置の構成はこれに限らず、例えば、隅肉溶接、突き合わせ溶接等の各種の溶接に適用する溶接装置であってもよい。
【0010】
<積層造形装置の構成>
図1は、積層造形装置100の概略構成図である。
積層造形装置100は、溶着ビードBを積層して造形物を製造する造形部11と、造形部11の各部を制御する制御部13とを備える。
【0011】
造形部11は、先端軸に溶接トーチ15を有する溶接ロボット17と、溶接ロボット17を駆動するロボット駆動部19と、溶接トーチ15へ溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21と、溶接トーチ15に溶接電流及び溶接電圧を供給する溶接電源部23とを備える。
【0012】
また、造形部11は、溶接部の状態を撮像するカメラを有した撮像部25を備える。撮像部25は、溶接トーチ15又は溶接ロボット17の先端軸側の部分に設けられ、溶接トーチ15の先端付近を撮像する。
【0013】
溶接トーチ15は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給されるガスメタルアーク溶接用のトーチである。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。溶接トーチ15は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0014】
溶接ロボット17は、多関節ロボットである。ロボットアームの先端軸に取り付けた溶接トーチ15の先端には、連続供給される溶加材Mが支持される。溶接トーチ15の位置及び姿勢は、ロボット駆動部19からの指令により、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能になっている。溶接ロボット17は、多関節ロボットに限らず、直角座標型ロボット、パラレルリンクロボット等の他の形態であってもよい。
【0015】
溶加材供給部21は、溶加材Mが巻回されたリール27を備える。溶加材Mは、溶加材供給部21からロボットアーム等に取り付けられた繰り出し機構(不図示)に送られ、必要に応じて繰り出し機構により正逆送給されながら溶接トーチ15へ送給される。
【0016】
溶加材Mとしては、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定される溶接ワイヤが利用可能である。さらに、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル基合金等の溶加材Mを、求められる特性に応じて使用することができる。
【0017】
ロボット駆動部19は、溶接ロボット17を駆動して溶接トーチ15を移動させるとともに、連続供給される溶加材Mを、溶接電源部23からの溶接電流及び溶接電圧により発生させるアークで溶融させる。
【0018】
ロボット駆動部19には、作製しようとする造形物の軌道計画に基づく造形プログラムが制御部13から送信されてくる。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、積層造形物の形状データ(CADデータ等)、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。
【0019】
より具体的には、入力された形状データに応じた造形物の形状モデルを所定の溶着ビードの高さ毎に層分割し、得られた各層を溶着ビードで埋めるようにビード形成順、溶接条件等のビード形成手順を決定する。そして、このビード形成手順を造形プログラムにする。作成された造形プログラムは、制御部13(後述する記憶部45)に保存されて、ロボット駆動部19からの出力要請があったときに、制御部13からロボット駆動部19に出力される。
【0020】
ロボット駆動部19は、受信した造形プログラムを実行して、溶接ロボット17、溶加材供給部21及び溶接電源部23等の各部を駆動し、軌道計画に基づいて溶着ビードBを形成する。つまり、ロボット駆動部19は、溶接ロボット17を駆動して、軌道計画に設定された溶接トーチ15の軌道(ビード形成軌道)に沿って溶接トーチ15を移動させる。これとともに、設定された溶接条件に応じて溶加材供給部21及び溶接電源部23を駆動して、溶接トーチ15の先端の溶加材Mをアークによって溶融、凝固させる。これにより、ベースプレート29上に溶接トーチ15の軌道に沿って溶着ビードBが形成される。溶着ビードBは、互いに隣接する溶着ビード群により溶着ビード層を形成し、この溶着ビード層の上に次層の溶着ビード層が積層されることで、所望の3次元形状の造形物が造形される。
【0021】
図2は、溶着ビードBが形成される溶接部31を撮像部25が撮像する様子を示す概略説明図である。
撮像部25は、溶接トーチ15と共に溶接方向WDに沿って移動しながら、溶接部31に発生するアークのアーク光33、及びアークにより溶加材Mが溶解した溶融金属からなる溶融池35とを撮像する。撮像部25は、CCD又はCMOS型の撮像素子を有するカメラ本体と、NDフィルタ、狭帯域フィルタ等の適宜なフィルタを併用したレンズとを備えたカメラで構成されており、フィルタリングによりノイズを除去し、低輝度から高輝度までダイナミックレンジの広い画像取得が可能となっている。撮像部25は、複数台のカメラを備え、複数のカメラからの撮像情報を組み合わせて撮像画像を生成するものであってもよい。
【0022】
図3は、撮像部25が撮像した撮像画像を示す模式図である。
撮像部25が撮像した撮像画像37には、溶接トーチ15から突出した溶加材Mと、溶加材Mの先端39に生じるアークのアーク光33と、溶加材Mの下方に形成された溶融池35とが映出される。
【0023】
なお、撮像部25は、可視光の検出以外にも、IR(赤外線)カメラ(サーモグラフィ)であってもよく、IRカメラを併用する構成であってもよい。
【0024】
図4は、制御部13の概略的なブロック構成図である。
制御部13は、CPU、MPU等のプロセッサ41、ROM,RAM等のメモリ43、SSD(Solid State Drive),ハードディスクドライブ等の記憶部45、入力部47、入出力インターフェイス49、画像処理部51、表示部53、通信部55等を備えるコンピュータデバイスである。
【0025】
記憶部45には、前述した造形プログラム、及び詳細を後述する溶接欠陥の発生状況を判定するための各種の基準値等が記憶されている。
【0026】
入力部47は、キーボード、マウス、入力操作盤等の入力デバイスであり、必要に応じて操作者からの情報が入力される。
【0027】
入出力インターフェイス49には、前述した撮像部25、溶加材供給部21、ロボット駆動部19、溶接電源部23が接続され、プロセッサ41からの指令に応じて各部との情報伝達が行われる。
【0028】
画像処理部51は、撮像部25が撮像した撮像画像37を画像処理して、詳細を後述するアーク光33、溶融池35の輪郭等を抽出する。画像処理部51は、GPU(Graphics Processing Unit)等を用いた専用の処理回路が好ましいが、プロセッサ41により画像処理するものであってもよい。
【0029】
表示部53は、液晶ディスプレイ等の表示媒体により構成され、撮像部25からの撮像画像、溶接パス、溶接条件等の溶接状況の情報、詳細を後述する溶接欠陥の判定結果の情報等、各種の情報が表示可能となっている。
【0030】
通信部55は、制御部13と外部との情報通信を行う。制御部13は、上記した各部の機能を、造形部11とは離隔して配置されたサーバー等の他のコンピュータデバイスに備えさせ、そのコンピュータデバイスにより制御する構成であってもよい。その場合、通信部55からネットワーク等の通信手段を介して、遠隔地の他のコンピュータデバイスから各種の制御信号が入出力される。
【0031】
図5は、
図4に示す制御部13の機能ブロック図である。
制御部13は、上記した各部の構成によって、画像取得部61と、輪郭抽出部63と、指標演算部65と、欠陥判定部67とが有する各機能を実現する。これら各部の機能の詳細については後述する。
【0032】
<第1の溶接監視方法の手順>
次に、上記構成の積層造形装置100を用いて、アーク溶接中の溶接部を撮像した画像情報を用いて溶接状態を監視する溶接監視方法の手順を説明する。
図6は、第1の溶接監視方法の手順を示すフローチャートである。以下、各手順を
図2~
図5も参照しながら説明する。
【0033】
まず、画像取得部61(
図5参照)は、
図2に示す溶接途中の溶接部31を撮像し、
図3に示すような、溶加材Mの先端39に生じたアークのアーク光33と、溶加材Mが溶融した溶融池35とを含む撮像画像37の画像情報を取得する(ステップS11、以下、S11と記す)。
【0034】
次に、輪郭抽出部63(
図5参照)は、取得した撮像画像37から、アーク光33の部分を抽出して、アーク光33の輪郭を求める(S12)。このアーク光33の輪郭、つまり、撮像画像37内におけるアーク光33の輪郭の座標(輪郭上の複数点の画素の座標であるが、輪郭を表す線の近似式であってもよい)は、画像処理部51による適宜な画像処理によって求められる。
【0035】
そして、指標演算部65(
図5参照)は、抽出された輪郭の歪みに応じた形状指標を算出する(S13)。ここでいう形状指標とは、
図3に示すアーク光33の輪郭から求めるアーク光33の中心点Oa、その中心点Oaからアーク光33の輪郭までの距離r、輪郭の曲率R、アーク光33の形状をモデル曲線(例えば、楕円等)でフィッティングした際の適合度のうち、いずれかを含む。
【0036】
欠陥判定部67は、指標演算部65で求めた形状指標に応じて、溶接欠陥の有無又はその程度を表す、溶接欠陥の発生状況を判定する(S14)。この溶接欠陥の判定の手順を以下に説明する。
【0037】
図7Aは、溶接トーチ先端のアーク光33の形状を模式的に示す説明図、
図7Bは、
図7Aに示すアーク光33の中心点Oaからアーク光33の輪郭までの距離rを、中心点Oa回りの方位角θに対する分布を示すグラフである。ここで、方位角θは撮像画像における鉛直方向の上側を0°、下側を180°とし、
図7Aにおける時計回りに設定している。アーク光33の中心点Oaは、撮像画像37に二値化処理、エッジ処理等の画像処理を施してアーク光33の領域を抽出し、その領域(画素領域)の重心位置を中心点Oaと定義する。
【0038】
中心点Oaは重心位置に限らず、他の方法により定義してもよい。例えば、アーク光33の領域の座標値(X,Y)について、撮像画像内での水平方向最大値Xmax及び最小値Xmin、垂直方向最大値Ymax及び最小値Yminをそれぞれ求め、各方向で最大値と最小値との間を二等分した中間点(Xmax-Xmin)/2,(Ymax-Ymin)/2)、つまり、幾何中心点を中心点Oaの座標としてもよい。
【0039】
図7Bに示すアーク光33の中心点Oaからアーク光33の輪郭までの距離rは、方位角θに応じて周期的に変化しており、アーク光33の輪郭が略楕円形状であることを示している。つまり、アーク光33の輪郭が、アーク光33の中心点Oaを通り溶接方向WDを示す溶接線Lwを中心とした線対称形状になっている。
【0040】
アーク光33の形状は、溶接状況によっては、上記のような略楕円形状から歪みを生じる場合がある。
図8Aは、溶接トーチ先端の他のアーク光33の形状を模式的に示す説明図、
図8Bは、
図8Aに示すアーク光33の中心点Oaからアーク光33の輪郭までの距離を、中心点Oa回りの方位角θに対する分布を示すグラフである。
【0041】
図8Aに示すように、アーク光33の輪郭は、アーク光33の中心点Oaを通り溶接方向WDを示す溶接線Lwを中心とした線対称形状から歪んでいる。このアーク光33の歪みは、隣接する溶着ビードの影響を受けることで発生する。
【0042】
図9は、既設の溶着ビードB0に隣接して新たに溶着ビードBを形成する工程の様子を示す概略斜視図である。
溶着ビードBを形成する際に、隣接して既設の溶着ビードB0が存在していると、溶接トーチ15からのアークは既設の溶着ビードB0に誘引されて、アーク光33の形状に偏りが発生する。
【0043】
以下に撮像画像を用いてアーク光33の形状の変化の様子を説明する。
図10Aは、既設の溶着ビードB0に隣接する位置で新たな溶着ビードBを形成した場合の溶接部の撮像画像である。
図10Bは、
図10Aに示す撮像画像の要部を示す説明図である。また、
図11Aは、
図10Aに示す場合よりも更に既設の溶着ビードB0に近い位置で新たな溶着ビードBを形成した場合の溶接部の撮像画像である。
図11Bは、
図11Aに示す撮像画像の要部を示す説明図である。
【0044】
図10A及び
図10Bに示すように、既設の溶着ビードB0から比較的離れた位置で新たな溶着ビードBを形成した場合、アークは既設の溶着ビードB0へ誘引されず、
図7Aに示すような略楕円形状を維持する。
一方、
図11A及び
図11Bに示すように、既設の溶着ビードB0に比較的近い位置で新たな溶着ビードBを形成した場合、アークは既設の溶着ビードB0へ誘引されて、アーク光33の形状が歪む。
このような既設の溶着ビードB0と新設の溶着ビードBとの距離の違いにより、溶接欠陥の発生状況は異なる。
【0045】
図12は、
図10Aに示す既設の溶着ビードB0から比較的離れた位置で新たな溶着ビードBを形成した場合のビード断面の模式図である。
この場合、既設の溶着ビードB0と新設の溶着ビードBとの間にブローホール(気孔)DFが発生している。このような溶接欠陥は、ビード形成時に隣接するビード間に溶融金属が十分流れ込まずに凝固して、未溶着の部位が発生するために生じると考えられる。
【0046】
一方、
図13は、
図11Aに示す既設の溶着ビードB0に比較的近い位置で新たな溶着ビードBを形成した場合のビード断面の模式図である。
図13に示す場合、既設の溶着ビードB0と新設の溶着ビードBとが近接した結果、融合して、双方の間にはブローホールのような溶接欠陥が存在しない。
【0047】
そこで、溶融金属が溶着ビード同士の間に十分に流し込めたか否かの判断指標として、アーク光33の形状を表す形状指標を監視して、形状指標の異常な挙動(歪みの少ない状態)を欠陥発生候補の徴候として抽出する。例えば、撮像画像37におけるアーク光33の領域を、画像処理を施して抽出し、アーク光33の領域(画素領域)の輪郭及び中心点Oaを求める。求めた輪郭の形状を、
図7B,
図8Bに示す方位角θと距離rとの関係を求めること等によって評価する。つまり、アーク光33の輪郭が、アーク光33の中心点Oaを通り溶接方向WDを示す溶接線Lwを中心とした線対称形状に近づくほど、溶接欠陥が生じた可能性が高いと判定する。この判定には、特定の輪郭位置、領域における距離rの絶対値、方位角θに対する変化量等、適宜なパラメータを用いること、及び各パラメータを組み合わせて判定することもできる。
【0048】
また、アーク光33の形状が変化したときには、溶接状態が過渡状態となり、溶接欠陥が発生することもある。そこで、アーク光33の中心点Oaの時間推移による変動量を算出し、その変動量が予め定めた閾値(基準変動量)以上である場合、即ち、アーク光33に乱れが生じた場合に溶接欠陥が発生した徴候があったと判定してもよい。こうすることで、判定結果のロバスト性が得られ、溶接欠陥の検出感度を閾値によって簡便に調整できる。
【0049】
図14は、アーク光33の中心点Oaの時間推移による変動量を模式的に示すグラフである。
アーク光33の中心点Oaの位置が予め定めた基準変動量TH1以上となる場合には、その基準変動量TH
1以上となった領域で溶接欠陥が発生したと判定する。
この判定はアーク光33の中心点Oaに限らず、アーク光33の輪郭の曲率であってもよく、アーク光33の形状とモデル曲線(例えば、楕円等)との適合度であってもよい。輪郭の曲率の変化、フィッティングの適合度を用いて溶接欠陥を判定することで、アーク光33の形状変化を高い感度で検出でき、溶接欠陥の検出精度を高められる。
【0050】
一般に、溶接欠陥の発生等の異常の検知を行う場合、異常となるケースは正常時と比較して少ない。そこで、正常時を基準として、その状態からの乖離度合いを異常の徴候として捉えることもできる。例えば、予め複数の溶接パス、及び溶接パスの溶接条件を定めた溶接計画に基づいて溶接する場合には、溶接計画の溶接パスのうち、健全に溶接が行えた所定の溶接パスを、溶接欠陥の判定基準となる基準パスとして設定する。そして、その基準パスにおける形状指標と、基準パスの溶接条件と共通する他の溶接パスの形状指標とを比較して、形状指標同士の差に応じて溶接欠陥の有無又は程度を判定する。ここでいう溶接条件とは、溶接電流、溶接電圧、溶加材の送給速度、溶接速度、トーチ角度、ピッチ、ウィービングの有無等の各種の条件を含むことができる。
【0051】
上記した形状指標の比較には、例えば、最大変動量を比較すること、閾値を超える頻度を比較すること、等が挙げられる。また、健全に溶接ができたかどうかは、撮像画像の検証によって判定してもよく、溶接電流、溶接電圧、ビード形状のプロファイル等の他の計測データから検証して判定してもよい。さらに、軌道計画を作成した時点で、温度予測、変形予測等のシミュレーションによって予想値を予め用意しておき、その予想値と比較して判定してもよい。
【0052】
特に積層造形では、溶接条件の共通するパスを複数繰り返すことが多い。そのため、溶接条件が共通するパス同士でアーク光の形状指標を比較することで、基準パスの健全な状態から乖離する度合、又は突発的な異常現象を検出しやすくなる。また、欠陥発生条件のデータベースを予め用意しなくても、溶接物内の溶着ビード同士を比較して、欠陥発生の徴候を有する溶着ビードを特定できる。
【0053】
以上のように、アーク光33の輪郭からアーク光33の特徴的な形状指標を抽出し、得られた形状指標から溶接欠陥の発生状況を判定できる。そして、形状指標を求める演算を一定の時間間隔で連続的に行うことで、溶着ビードの積層中における形状指標の推移を把握でき、製造工程におけるトレーサビリティに供する情報を取得できる。
【0054】
よって、本溶接監視方法によれば、非破壊で溶接欠陥がありそうな場所を特定でき、溶接物の全範囲にわたって溶接欠陥の発生の有無又は程度を判定できる。しかも、溶接中にリアルタイムで溶接欠陥の発生状況を判定できる。これにより、溶接条件の修正等の工程見直し、及び溶接物(造形物)の品質保証にも活用できる。
【0055】
<第2の溶接監視方法の手順>
次に、溶融池の形状から溶接欠陥の発生状況を判定する手順を説明する。
図15は、第2の溶接監視方法の手順を示すフローチャートである。
まず、画像取得部61(
図5参照)は、
図2に示す溶接途中の溶接部31を撮像し、
図3に示すような、溶加材Mの先端39に生じたアークのアーク光33と、溶加材Mが溶融した溶融池35とを含む撮像画像37の画像情報を取得する(S21)。
【0056】
次に、輪郭抽出部63(
図5参照)は、取得した撮像画像37から、アーク光33の部分を抽出してアーク光33の輪郭を求め、求めた輪郭からアーク光33の中心点Oaを算出する。また、輪郭抽出部63は、取得した撮像画像37から溶融池35の領域を抽出して、溶融池35の輪郭を求める(S22)。このアーク光33の輪郭、及び中心点Oa、並びに溶融池35の輪郭は、画像処理部51(
図4参照)による前述した画像処理によって求められる。
【0057】
そして、指標演算部65(
図5参照)は、抽出された溶融池35の輪郭の歪みに応じた形状指標を算出する(S23)。ここでいう形状指標とは、
図3に示すアーク光33の輪郭から求めるアーク光33の中心点Oaから溶融池35の輪郭までの距離を含む。
【0058】
ここで、形状指標としてのアーク光33の中心点Oaから溶融池35の輪郭までの距離は、溶融池35の輪郭の代表位置(例えば既設の溶着ビードに近い位置)とアーク光33の中心点Oaとの間の距離としてもよい。また、溶融池35の輪郭として抽出された複数の点に対して、それぞれアーク光33の中心点Oaとの間の距離を求めることであってもよい。この距離については、アーク光33の中心点回りの方位角θごとに算出してもよく、また、一定時間連続で算出して、時間推移に伴う距離の変動も併せて算出することであってもよい。
【0059】
次に、欠陥判定部67(
図5参照)は、アーク光33の中心点Oaと溶融池35の輪郭との間の距離に応じて、溶接欠陥の発生状況を判定する(S24)。
図16は、撮像画像37におけるアーク光33と溶融池35の様子を示す模式図である。
前述した
図9に示すように、既設の溶着ビードB0に隣接して新たに溶着ビードBを形成する際、溶融池35の輪郭は、
図10Bに示すように溶接線Lwを中心とした線対称であるよりは、
図11Bに示すように溶接線Lwに対して偏りを有する形状であることが好ましい。その場合、
図13で示したように、結果として未溶着の溶接欠陥が発生せず、高品位な溶接が行える。
【0060】
そこで、指標演算部65は、
図16に示すアーク光33の中心点Oaから溶融池35の輪郭までの距離raについて、中心点Oa回りの方位角θに対する分布を求める。そして、欠陥判定部67は、溶融池35の輪郭が、アーク光33の中心点Oaを通り溶接方向WDを示す溶接線Lwを中心とした線対称形状に近づくほど、溶接欠陥が生じた可能性が高いと判定する。
【0061】
図17Aは、既設の溶着ビードB0に隣接する位置で新たな溶着ビードBを形成した場合の溶接部の撮像画像である。
図17Bは、
図17Aに示す撮像画像の要部を示す説明図である。また、
図18Aは、
図17Aに示す場合よりも更に既設の溶着ビードB0に近い位置で新たな溶着ビードBを形成した場合の溶接部の撮像画像である。
図18Bは、
図18Aに示す撮像画像の要部を示す説明図である。
【0062】
図17A及び
図17Bに示すように、既設の溶着ビードB0から比較的離れた位置で新たな溶着ビードBを形成した場合、溶融池35の輪郭は、既設の溶着ビードB0の影響を受けず、略楕円形状を維持する。一方、
図18A及び
図18Bに示すように、既設の溶着ビードB0に比較的近い位置で新たな溶着ビードBを形成した場合、溶融池35の輪郭は、既設の溶着ビードB0の再溶融のために抜熱され、既設の溶着ビードB0に近い部分が歪んでいる。
【0063】
このような既設の溶着ビードB0と新設の溶着ビードBとの距離の違いにより、溶接欠陥の発生状況は異なる。そこで、溶融金属が溶着ビード同士の間に十分に流し込めたか否かの判断指標として、溶融池35の形状指標を監視して、形状指標の異常な挙動(歪みの少ない状態)を欠陥発生候補の徴候として抽出する。
【0064】
例えば、溶融池35の輪郭が、アーク光33の中心点Oaを通り溶接方向WDを示す溶接線Lwを中心とした線対称形状に近づくほど、溶接欠陥が生じた可能性が高いと判定する。この判定には、特定の輪郭位置、領域における距離raの絶対値、方位角θに対する変化量等、適宜なパラメータを用いること、及び各パラメータを組み合わせて判定することもできる。
【0065】
図19は、方位角θに対するアーク光33の中心点から溶融池35の輪郭までの距離raの変化の様子を模式的に示すグラフである。
図19に例示する距離raの分布は、溶接欠陥の発生の徴候がない場合には、隣接する既設の溶着ビードB0に近い領域において、距離raの変化(距離raの減少により生じる局所的な凹部)が認められるが、溶接欠陥の発生の徴候がある場合には、方位角θによらずに全体的に略一定となる。そこで、この距離raの分布プロファイルから溶接欠陥の発生状況の判定を行えば、溶接欠陥の有無又は程度を区別できる。この場合、輪郭上の複数箇所で距離raを算出しているので、局所的な検出位置精度が十分でなくても、他の箇所での検出結果を用いることで信頼性を低下させずに判定できる。
【0066】
また、溶融池35の輪郭の形状が変化したときに溶接状態が過渡状態となり、溶接欠陥が発生することもある。溶融池35の輪郭の挙動を観察すると、溶接欠陥が発生する場合には、隣接する既設の溶着ビードB0側で溶融池35の端部の形状が安定せず、溶融池35の輪郭に凹凸が繰り返し生じるケースが確認される。つまり、溶融池35の形状が安定していない場合には、溶融金属が隣接するビードの止端まで十分流れずにブローホールを発生させることが推定される。そこで、距離raの時間推移に伴う変動量に閾値を設けて、欠陥発生の徴候を抽出することもできる。この場合は、単純な距離の閾値で比較する場合に比べて複数時刻の傾向から判定できるため、判定結果のロバスト性が得られる。また、欠陥検出感度を閾値によって簡便に調整できる。
【0067】
図20は、溶融池35の輪郭までの距離raの時間推移による変動量を模式的に示すグラフである。
距離raの変動量が予め定めた基準変動量TH2以上となる場合には、その基準変動量TH2以上となった領域で溶接欠陥が発生したと判定する。
なお、この判定は溶融池35の輪郭までの距離raに限らず、溶融池35の輪郭の曲率であってもよく、溶融池35の形状をモデル曲線(例えば、楕円等)でフィッティングした際の適合度であってもよい。輪郭の曲率の変化、フィッティングの適合度を用いて判定することで、溶融池35の形状変化を高い感度で検出でき、溶接欠陥の検出精度が高められる。
【0068】
また、第1の溶接欠陥監視方法の場合と同様に、正常時を基準として、その状態からの乖離度合いを異常の徴候として捉えることもできる
つまり、予め複数の溶接パス、及び溶接パスの溶接条件を定めた溶接計画に基づいて溶接する場合には、溶接計画の溶接パスのうち、健全に溶接が行えた所定の溶接パスを溶接欠陥の判定基準となる基準パスとして設定する。そして、その基準パスにおける形状指標と、基準パスの溶接条件と共通する他の溶接パスの形状指標とを比較して、形状指標同士の差に応じて溶接欠陥の有無又は程度を判定する。ここでいう溶接条件とは、溶接電流、溶接電圧、溶加材の送給速度、溶接速度、トーチ角度、ピッチ、ウィービングの有無等の各種の条件を含むことができる。
【0069】
上記した形状指標の比較は、最大変動量の比較であってもよく、閾値を超える頻度の比較であってもよい。この場合も、健全に溶接ができたかどうかは、撮像画像の検証によって判定してもよく、溶接電流、溶接電圧、ビード形状のプロファイル等の他の計測データから検証して判定してもよい。さらに、軌道計画を作成した時点で、温度予測、変形予測等のシミュレーションによって予想値を予め用意しておき、その予想値と比較して判定してもよい。
【0070】
このように、溶接条件が共通するパス同士で溶融池35の形状指標を比較することで、基準パスの健全な状態から乖離する度合、又は突発的な異常現象を検出しやすくなる。また、欠陥発生条件のデータベースを予め用意しなくても、溶接物内の溶着ビード同士を比較して、欠陥発生の徴候を有する溶着ビードを特定できる。
【0071】
本溶接監視方法によれば、非破壊で未溶着欠陥の可能性がありそうな場所を特定でき、溶接物の全範囲にわたって溶接欠陥の発生の有無又は程度を判定できる。しかも、溶接中にリアルタイムで判定できる。これにより、造形条件の修正等の工程見直し、及び造形物の品質保証にも活用できる。
【0072】
以上のように、溶融池35の輪郭から溶融池35の特徴的な形状指標を抽出し、得られた形状指標から溶接欠陥の発生状況を判定できる。そして、形状指標を求める演算を、一定の時間間隔で連続的に行うことで、溶着ビードの積層中における形状指標の推移を把握でき、製造工程におけるトレーサビリティに供する情報を取得できる。
【0073】
<第3の溶接監視方法の手順>
次に、溶融池の形状指標の変化量から溶接欠陥の発生状況を判定する手順を説明する。
図21は、第3の溶接監視方法の手順を示すフローチャートである。
まず、画像取得部61(
図5参照)は、
図2に示す溶接途中の溶接部31を撮像し、
図3に示すような、溶加材Mが溶融した溶融池35を含む撮像画像37の画像情報を取得する(S31)。
【0074】
次に、輪郭抽出部63(
図5参照)は、取得した撮像画像37から溶融池35の領域を抽出して、溶融池35の輪郭を求める(S32)。この溶融池35の輪郭は、画像処理部51(
図4参照)による前述した画像処理によって求められる。
【0075】
そして、指標演算部65(
図5参照)は、抽出された溶融池35の輪郭の歪みに応じた形状指標を算出する(S33)。ここでいう形状指標とは、溶融池35の輪郭の曲率、輪郭に接する接線の傾き、輪郭の法線方向、輪郭に出現する凹凸の数、その凹凸の大きさ、のうちいずれかの経時変化量を含む。
【0076】
欠陥判定部67(
図5参照)は、指標演算部65で求めた形状指標の時間推移に伴う変化量に応じて溶接欠陥の発生状況を判定する(S34)。この溶接欠陥の判定の手順を以下に説明する。
図22は、撮像画像における溶融池35の形状を模式的に示す説明図である。
溶融池35の輪郭は、
図9に示すように、隣接する既設の溶着ビードB0が存在する場合、隣接する溶着ビードB0との距離に応じた影響を受ける。未溶着の溶接欠陥が生じる場合には、既設の溶着ビードB0と新設の溶着ビードBとの境界となるビード止端近辺で、溶融池35の輪郭に凹凸部71が出現する傾向がある。この凹凸部71は時間推移に伴って不連続に出没する。
【0077】
図23は、溶融池35の輪郭の時間推移による変化の様子を(A)~(E)に示す説明図である。
図23は、溶接進行中の溶融池35の溶接方向WD先端部分を示している。
【0078】
溶着ビードを形成する際、
図23の(A)に示すように、溶融池35の先端部の輪郭が、滑らかな状態から
図23の(B)に示すように、不図示の既設の溶着ビード側において溶接方向WDとは反対の方向に縮退する。そして、
図23の(C)に示すように反溶接方向に更に縮退した後、
図23の(D)に示すように再び溶接方向WDに突出する方向に変化して、
図23の(E)に示す滑らかな状態に戻る、等といった溶融池35の輪郭が突出と縮退とを時間推移に伴って繰り返し変化することがある。
【0079】
このような溶融池35の輪郭の変化が生じている期間は、隣接する溶着ビードB0との間に溶融金属が十分流れ込まず、
図12に示すような未溶着の溶接欠陥が生じている可能性が高い。そこで、溶融池35の輪郭に凹凸部71が発生したかを監視して、発生した場合には、これを溶接欠陥が発生した徴候として抽出し、溶接欠陥の発生状況を判定する。
【0080】
図24は、溶融池35の輪郭の形状指標を抽出する具体例を示す説明図である。
例えば、溶融池35の一部である点P2付近で、凹みが形成されたとする。この場合、溶融池35の輪郭における局所的な曲率は、点P1、点P3の近傍よりも点P2の近傍で大きく変化する。このように、輪郭の局所的な曲率が変化した部位を溶接欠陥の発生の徴候として抽出できる。この徴候は、溶接方向に沿って連続して形成される溶融池35の輪郭について、3次元的な抽出領域として求められる。
【0081】
上記した局所的な曲率は、例えば以下のようにして算出できる。
図25は、撮像画像中の溶融池35の輪郭から計算する局所的な曲率の算出例を示す説明図である。
まず、撮像画像を一次微分フィルタなどのマスク処理(例えば、Prewittオペレータ)を適用してエッジ成分を抽出し、エッジ強度が高い画素をエッジ画素とする。また、抽出されたエッジ画素について、二次元的なエッジ勾配を求める。例えば、エッジ画素P(x,y)におけるエッジ強度E(x,y)は式(1)により求められ、エッジ勾配φ(x,y)は式(2)により求められる。なお、x、yは、撮像画像の平面上における直交座標系の座標を意味する。
【0082】
【0083】
ここで、Δx(x,y)とΔy(x,y)は、マスク処理によるx及びy方向への一次微分値である。
【0084】
上記したエッジ画素P(x,y)を中心として半径rbの円形の局所領域A(x,y)を設定する。この局所領域内に存在する全てのエッジ画素におけるエッジ勾配の標準偏差を局所曲率とする。つまり、局所領域A(x,y)内に存在する各エッジ画素Pi(xi,yi)(i=0,1,2,・・・)におけるエッジ勾配をφiとすると、エッジ画素P(x,y)における局所曲率ω(x,y)は、式(3)により求められる。
【0085】
【0086】
ここで、NBは局所領域A内の前エッジ画素数、φAは、これらのエッジ画素の平均エッジ勾配である。
【0087】
図26は、輪郭形状と局所曲率の例を(A),(B)に示す説明図である。
図26の(A)に示すように、複数のエッジ画素によって構成される溶融池35の輪郭が直線に近い場合は、各エッジ画素のエッジ勾配φAが略一定となるので、式(3)による局所曲率ω(x,y)の値は小さくなる。一方、
図26の(B)に示すように、局所領域内の溶融池35の輪郭の曲率が大きい場合は、各エッジ画素におけるエッジ勾配φAのばらつきが大きくなるため、式(3)による局所曲率ω(x,y)の値は大きくなる。
【0088】
上記のようにして得られる局所曲率ω(x,y)は、溶融池35の輪郭の形状指標となる。形状指標は、局所曲率ω(x,y)の変化量に限らず、輪郭に接する接線の傾き、輪郭の法線方向、輪郭に出現する凹凸の数、凹凸の大きさのいずれかの経時変化量であってもよい。
【0089】
また、この場合も、正常時を基準として、その状態からの乖離度合いを異常の徴候として捉えることもできる。予め複数の溶接パス、及び溶接パスの溶接条件を定めた溶接計画に基づいて溶接する場合、前述した第1、第2の溶接欠陥監視方法の場合と同様に、健全に溶接が行えた所定の溶接パスを溶接欠陥の判定基準となる基準パスとして設定する。また、その基準パスにおける形状指標と、基準パスの溶接条件と共通する他の溶接パスの形状指標とを比較して、形状指標同士の差に応じて溶接欠陥の有無又は程度を判定する。上記した形状指標の比較、及びその他の作用効果は、前述した第1、第2の溶接欠陥監視方法の場合と同様である。
【0090】
以上のように、本溶接監視方法によれば、溶融池35の輪郭から溶融池35の特徴的な形状指標を抽出し、得られた形状指標の時間推移に伴う変化量を求めることで、溶接欠陥の発生を判定できる。そして、形状指標を求める演算を一定の時間間隔で連続的に行うことで、溶着ビードの積層中における形状指標の推移を把握でき、製造工程におけるトレーサビリティに供する情報を取得できる。
【0091】
また、非破壊で未溶着欠陥の可能性がありそうな場所を特定でき、溶接物の全範囲にわたって溶接欠陥の発生の有無又は程度を判定できる。しかも、溶接中にリアルタイムで判定できる。これにより、溶接条件の修正等の工程見直し、及び溶接物(造形物)の品質保証にも活用できる。
【0092】
<形状指標の抽出>
以上説明した第1~第3の溶接欠陥監視方法の手順では、撮像画像から形状指標を画像処理により抽出していたが、機械学習させたモデルを用いて抽出させることも可能である。
【0093】
例えば、アーク溶接における溶融池、アークの像を含む撮像画像と、アーク溶接の状態に関する状態関連情報とを含む複数の教師データによって教師あり学習を実行し、撮像画像の画像情報を入力とし、状態関連情報を出力とする機械学習モデルを構築する。そして、カメラによって得られた撮像画像を入力として上記の機械学習モデルに与え、機械学習モデルから出力される状態関連情報に基づいて、アーク溶接を制御する。
【0094】
このような機械学習させたモデルを用いて撮像画像から形状指標を抽出すれば、単純な画像処理では見逃すような細かな撮像情報の変化が捉えられ、正確、且つ確実に形状指標の抽出が可能となる。
【0095】
以上のように、本溶接監視方法によれば、開先、又は溶融池に隣接するビードとの位置関係、或いはビード形状と対応させることなく、アーク光の形状、溶融池の形状、又は双方の形状自体から溶接欠陥の発生状況を判定できる。よって、溶接欠陥の判定精度が高く、常に安定した溶接状態の監視が可能となる。
【0096】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0097】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) アーク溶接中の溶接部を撮像した画像情報を用いて溶接状態を監視する溶接監視方法であって、
前記溶接部に生じる溶融池と、溶加材を溶融させるアーク光とが映出された画像情報を取得する画像取得工程と、
前記画像情報から、前記溶融池と前記アーク光とのうち少なくとも一方の輪郭を抽出する輪郭抽出工程と、
抽出された前記輪郭の歪みに応じた形状指標を求める指標演算工程と、
前記形状指標に応じて溶接欠陥の発生状況を判定する欠陥判定工程と、
を備える溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、非破壊で未溶着欠陥の可能性がありそうな場所を特定できる。また、溶接物の全範囲にわたって溶接欠陥の発生状況を判定できる。また、溶接中にリアルタイムでの判定が可能となる。よって、溶接条件の修正等の工程見直し、及び溶接物(造形物)の品質保証に活用できる。
【0098】
(2) 前記輪郭抽出工程では、前記画像情報から前記アーク光の輪郭を抽出し、
前記指標演算工程で求める前記形状指標は、前記アーク光の輪郭から求める前記アーク光の中心点、当該中心点から前記アーク光の輪郭までの距離、前記アーク光の輪郭の曲率、アーク光の形状をモデル曲線でフィッティングした際の適合度、のうちいずれかを含む、(1)に記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、アーク光の各種の特徴を溶接欠陥の発生の徴候として用いることで、溶接欠陥を判定できる。
【0099】
(3) 前記輪郭抽出工程では、前記画像情報から前記アーク光の輪郭を抽出し、
前記欠陥判定工程では、前記アーク光の輪郭が、前記アーク光の中心点を通り溶接方向を示す溶接線を中心とした線対称形状に近づくほど、前記溶接欠陥が生じた可能性が高いと判定する、(1)に記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、アーク光の輪郭の歪みと溶接欠陥とを関連付けることで、容易に溶接欠陥を判定できる。
【0100】
(4) 前記輪郭抽出工程では、前記画像情報から前記アーク光の輪郭及び前記溶融池の輪郭を抽出し、
前記指標演算工程で求める前記形状指標は、前記アーク光の輪郭から求まる前記アーク光の中心点から前記溶融池の輪郭までの距離を含む、(1)に記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、アーク光の中心点から溶融池の輪郭までの距離に応じて溶接欠陥の判定を行うことで、溶融池の微妙な形状変化に応じた溶接欠陥の判定が行える。
【0101】
(5) 前記欠陥判定工程は、前記距離が予め定めた基準距離以上である場合に前記溶接欠陥が発生したと判定する、(4)に記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、アーク光の中心点から溶融池の輪郭までの距離と、基準距離との比較により、溶接欠陥の発生を容易に判定できる。また、基準距離の微調整により、判定結果の精度をより高められる。
【0102】
(6) 前記指標演算工程では、前記距離を前記アーク光の中心点回りにおける互いに異なる複数の方向について算出し、
前記欠陥判定工程では、前記アーク光の中心点回りの複数方向に対する前記距離の分布プロファイルにおいて、前記距離の変化割合が予め定めた基準変化割合よりも常に小さい場合に前記溶接欠陥が発生したと判定する、(4)に記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、アーク光の中心点から溶融池の輪郭までの距離が、アーク光の中心点回りで一定に近いほど溶接欠陥が生じることから、上記距離が基準変化割合を超えないことを判断基準として、容易に溶接欠陥の発生を判定できる。
【0103】
(7) 前記欠陥判定工程は、前記溶融池の溶接方向前方の輪郭が、前記溶融池の中心点を通り溶接方向を示す溶接線を中心とした線対称形状に近づくほど、前記溶接欠陥が生じた可能性が高いと判定する、(4)に記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、溶接欠陥の発生した確度を定量的に評価できる。
【0104】
(8) 前記溶融池の中心点は、前記画像情報における前記溶融池の領域の重心位置である、(4)~(7)のいずれか1つに記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、簡易な計算により精度良く溶融池の中心点が求められる。
【0105】
(9) 前記指標演算工程では、前記形状指標の時間推移による変動量を算出し、
前記欠陥判定工程では、前記変動量が予め定めた基準変動量以上である場合に前記溶接欠陥が発生したと判定する、(1)~(8)のいずれか1つに記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、アーク光又は溶融池の不安定な挙動によって、形状指標に時間推移による変動が生じるため、この変動量を求めることで溶接欠陥の発生状況を精度よく評価できる。
【0106】
(10) 前記アーク光の中心点は、前記画像情報における前記アーク光の領域の重心位置である、(2)~(8)のいずれか1つに記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、簡易な計算により精度よくアーク光の中心点が求められる。
【0107】
(11) 前記輪郭抽出工程では、前記画像情報から前記溶融池の輪郭を抽出し、
前記指標演算工程で求める前記形状指標は、前記溶融池の輪郭の経時変化量を含む、(1)に記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、溶融池に不安定な挙動が生じた場合に溶接欠陥が生じやすいことから、溶融池の輪郭の経時変化量を求めることで、溶接欠陥の発生状況を精度よく評価できる。
【0108】
(12) 前記指標演算工程で求める前記形状指標は、前記溶融池の輪郭の曲率、前記輪郭に接する接線の傾き、前記輪郭の法線方向、前記輪郭に出現する凹凸の数、前記凹凸の大きさ、のうちいずれかの経時変化量である、(11)に記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、溶融池の輪郭の各種の特徴を溶接欠陥の発生の徴候として用いることで、溶接欠陥を判定できる。
【0109】
(13) 前記欠陥判定工程では、前記形状指標の前記経時変化量が、予め定めた基準経時変化量以上である場合に前記溶接欠陥が発生したと判定する、(12)に記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、溶接欠陥の発生の判定結果のロバスト性が得られ、また、基準経時変化量の微調整により、判定結果の精度をより高められる。
【0110】
(14) 予め複数の溶接パス及び前記溶接パスの溶接条件を定めた溶接計画に基づいて溶接する場合に、
前記欠陥判定工程では、
前記溶接計画の前記溶接パスのうち、前記溶接欠陥の判定基準となる基準パスを設定し、
前記基準パスにおける前記形状指標と、前記基準パスの溶接条件と共通する他の溶接パスの形状指標とを比較して、前記形状指標同士の差に応じて前記溶接欠陥を判定する、(1)~(13)のいずれか1つに記載の溶接監視方法。
この溶接監視方法によれば、溶接欠陥の発生条件のデータベースを予め用意することなく、溶接物中の溶接パス同士を比較することで、欠陥発生の徴候を有する溶着ビードを特定できる。よって、溶接欠陥が生じるケースを十分に把握していなくても、正常状態と比較するだけで、溶接欠陥の判定を行える。
【0111】
(15) 溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードを積層し、多層の溶着ビードから構成される造形物を製造する積層造形方法であって、
前記溶着ビードを形成する際に、(1)~(14)のいずれか1つに記載の溶接監視方法により前記溶着ビードの溶接状態を監視する、積層造形方法。
この積層造形方法によれば、溶接の開先等の位置を特定できる基準物が存在しない積層造形においても、アーク光又は溶融池の状態を把握するだけで、溶接欠陥の発生及び程度が精度よく評価可能となる。
【0112】
(16) アーク溶接中の溶接部を撮像した画像情報を用いて溶接状態を監視する溶接監視装置であって、
前記溶接部に生じる溶融池と、溶加材を溶融させるアーク光とが映出された画像情報を取得する画像取得部と、
前記画像情報から、前記溶融池と前記アーク光とのうち少なくとも一方の輪郭を抽出する輪郭抽出部と、
抽出された前記輪郭の歪みに応じた形状指標を求める指標演算部と、
前記形状指標に応じて溶接欠陥の発生状況を判定する欠陥判定部と、
を備える溶接監視装置。
この溶接監視装置によれば、非破壊で未溶着欠陥の可能性がありそうな場所を特定できる。また、溶接物の全範囲にわたって溶接欠陥の発生状況を判定できる。また、溶接中にリアルタイムでの判定が可能となる。よって、溶接条件の修正等の工程見直し、及び溶接物(造形物)の品質保証に活用できる。
【0113】
(17) 前記輪郭抽出部は、前記画像情報から前記アーク光の輪郭を抽出し、
前記指標演算部が求める前記形状指標は、前記アーク光の輪郭から求める前記アーク光の中心点、当該中心点から前記アーク光の輪郭までの距離、前記アーク光の輪郭の曲率、のうちいずれかを含む、(16)に記載の溶接監視装置。
この溶接監視装置によれば、
【0114】
(18) 前記輪郭抽出部は、前記画像情報から前記アーク光の輪郭及び前記溶融池の輪郭を抽出し、
前記指標演算部で求める前記形状指標は、前記アーク光の輪郭から求まる前記アーク光の中心点から前記溶融池の輪郭までの距離を含む、(16)に記載の溶接監視装置。
この溶接監視装置によれば、アーク光の各種の特徴を溶接欠陥の発生の徴候として用いることで、溶接欠陥を判定できる。
【0115】
(19) 前記輪郭抽出部は、前記画像情報から前記溶融池の輪郭を抽出し、
前記指標演算部で求める前記形状指標は、前記溶融池の輪郭の経時変化量である、(16)に記載の溶接監視装置。
この溶接監視装置によれば、溶融池に不安定な挙動が生じた場合に溶接欠陥が生じやすいことから、溶融池の輪郭の経時変化量を求めることで、溶接欠陥の発生状況を精度よく評価できる。
【0116】
(20) 溶加材を溶融及び凝固させて形成する溶着ビードを積層し、多層の溶着ビードから構成される造形物を製造する積層造形装置であって、
前記溶着ビードを形成する際に、(16)~(19)のいずれか1つに記載の溶接監視装置により前記溶着ビードの溶接状態を監視する、
積層造形装置。
この溶接監視装置によれば、溶接の開先等の位置を特定できる基準物が存在しない積層造形においても、アーク光又は溶融池の状態を把握するだけで、溶接欠陥の発生及び程度が精度よく評価可能となる。
【符号の説明】
【0117】
11 造形部
13 制御部
15 溶接トーチ
17 溶接ロボット
19 ロボット駆動部
21 溶加材供給部
23 溶接電源部
25 撮像部
27 リール
29 ベースプレート
31 溶接部
33 アーク光
35 溶融池
37 撮像画像
39 先端
41 プロセッサ
43 メモリ
45 記憶部
49 入出力インターフェイス
51 画像処理部
53 表示部
55 通信部
61 画像取得部
63 輪郭抽出部
65 指標演算部
67 欠陥判定部
71 凹凸部
100 積層造形装置
B 溶着ビード
M 溶加材