(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061854
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】車載レーダー装置用レドーム
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/42 20060101AFI20230425BHJP
H01Q 15/14 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
H01Q1/42
H01Q15/14 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021172047
(22)【出願日】2021-10-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】000175766
【氏名又は名称】三恵技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】古林 宏之
(72)【発明者】
【氏名】山本 真平
【テーマコード(参考)】
5J020
5J046
【Fターム(参考)】
5J020AA06
5J020BA01
5J020BA06
5J020BB03
5J020DA02
5J046AA03
5J046AA19
5J046RA03
5J046RA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】島状金属領域の集合体である不連続金属膜を有するレドームとして確実に製造することができると共に、実用的な電磁波透過性を確実に発揮する車載レーダー装置用レドームを提供する。
【解決手段】絶縁基材2の一方の面にクラック32で分割された島状金属領域31の集合体である不連続金属膜3が積層して固着され、車載レーダー装置10の前側に設けられる車載レーダー装置用レドーム1であって、島状金属領域31の面積が10,000nm
2~80,000,000nm
2の範囲にあると共に、島状金属領域31の面積の変動係数が0.5~1.5の範囲にある。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基材の一方の面に相互に分離された島状金属領域の集合体である不連続金属膜が積層して固着され、車載レーダー装置の前側に設けられる車載レーダー装置用レドームであって、
前記島状金属領域の平均面積が10,000nm2~80,000,000nm2の範囲にあると共に、
前記島状金属領域の面積の変動係数が0.5~1.5の範囲にあることを特徴とする車載レーダー装置用レドーム。
【請求項2】
前記島状金属領域の面積の変動係数が0.5~1.0の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の車載レーダー装置用レドーム。
【請求項3】
前記島状金属領域の平均面積が20,000nm2~80,000,000nm2の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2記載の車載レーダー装置用レドーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載レーダー装置の前側に設けられる車載レーダー装置用レドームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載レーダー装置の前側に設けられるレドームとして、クラックで分割された島状金属領域の集合体である不連続金属膜が絶縁性の樹脂基材の表面に設けられるレドームが知られている。このようなレドームでは、クラックで分割された島状金属領域で構成される不連続金属膜、絶縁性の樹脂基材により、レドームとして必要とされる電磁波透過性を得ることができると共に、島状金属領域の集合体の不連続金属膜により、金属光沢の視認性を得ることができる(特許文献1、2参照)。
【0003】
そして、特許文献1、2では、より良好な電磁波透過性を得る観点から、不連続金属膜を構成する各々の島状金属領域(微細金属領域)は、略同じ大きさで、略同じ形状とすることが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-38254号公報
【特許文献2】特開2015-110836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1、2では、島状金属領域(微細金属領域)を略同じ大きさで、略同じ形状とすることが好ましいとされているものの、それぞれの島状金属領域(微細金属領域)が具体的にどの程度の均一性を有する場合に、車載レーダー装置用レドームとして製造可能であり、且つ実用的な電磁波透過性が得られるのかが定かではない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、島状金属領域の集合体である不連続金属膜を有するレドームとして確実に製造することができると共に、実用的な電磁波透過性を確実に発揮することができる車載レーダー装置用レドームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車載レーダー装置用レドームは、絶縁基材の一方の面に相互に分離された島状金属領域の集合体である不連続金属膜が積層して固着され、車載レーダー装置の前側に設けられる車載レーダー装置用レドームであって、前記島状金属領域の平均面積が10,000nm2~80,000,000nm2の範囲にあると共に、前記島状金属領域の面積の変動係数が0.5~1.5の範囲にあることを特徴とする。
これによれば、島状金属領域の平均面積を80,000,000nm2以下とすることにより、車載レーダー装置の電磁波の波長よりも島状金属領域のサイズを十分に小さくし、所要の電磁波透過性を確保することが可能となる。更に、島状金属領域の面積の変動係数を1.5以下とすることにより、例えば76~77GHzのミリ波に対する電磁波透過率を-3.0dB(約50%)とすることができ、実用的な電磁波透過性を確実に発揮することができる。また、島状金属領域の面積の変動係数を0.5以上とすることにより、島状金属領域の集合体である不連続金属膜を有するレドームを確実に製造することができる。
【0008】
本発明の車載レーダー装置用レドームは、前記島状金属領域の面積の変動係数が0.5~1.0の範囲にあることを特徴とする。
これによれば、島状金属領域の面積の変動係数を1.0以下とすることにより、例えば76~77GHzのミリ波に対する電磁波透過率を-1.0dB(約80%)とすることができ、実用的な電磁波透過性をより確実に発揮することができる。
【0009】
本発明の車載レーダー装置用レドームは、前記島状金属領域の平均面積が20,000nm2~80,000,000nm2の範囲にあることを特徴とする。
これによれば、L*a*b*表色系において色味の強弱を示すb*値(b*値のプラス値での強弱は黄色味の強弱)の最大値と最小値の差が1.5以上になると、量産時に個体による不連続金属膜の色の違いが視認され易くなってしまうが、島状金属領域の平均面積を20,000nm2以上とすることにより、b*値の最大値と最小値の差を1.5未満とすることができ、個体による不連続金属膜の色の違いを視認できないレベルに抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車載レーダー装置用レドームは、島状金属領域の集合体である不連続金属膜を有するレドームとして確実に製造することができると共に、実用的な電磁波透過性を確実に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明による実施形態の車載レーダー装置用レドームを示す断面図。
【
図2】実施形態の車載レーダー装置用レドームと車載レーダー装置の配置関係を示す説明図。
【
図3】実験例の車載レーダー装置用レドームの電磁波透過率を測定した測定装置の説明図。
【
図4】実験例の車載レーダー装置用レドームの変動係数と電磁波透過率と不連続金属膜の導電率との関係を示すグラフ。
【
図5】実験例の車載レーダー装置用レドームの色調測定装置の説明図。
【
図6】色調測定装置の測定部から視認される車載レーダー装置用レドームの例を示す図。
【
図7】実験例の車載レーダー装置用レドームにおける島状金属領域の面積とb*値の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態の車載レーダー装置用レドーム〕
本発明による実施形態の車載レーダー装置用レドーム1は、例えばバンパー等を構成するものであり、
図1及び
図2に示すように、絶縁基材2の一方の面に、例えば微細なクラック32で分割されて相互に分離された島状金属領域31の集合体である不連続金属膜3を積層するように固着して構成され、例えば76~77GHzの電磁波を照射する車載レーダー装置10の電磁波EWの照射側である前側に設けられる。更に、図示例のレドーム1では、絶縁基材2の一方の面側において不連続金属膜3を覆うように、換言すれば各々の島状金属領域31を覆うように別の絶縁基材4が設けられており、別の絶縁基材4が、クラック32の箇所で絶縁基材2に固着されていると共に、島状金属領域31に固着されている。
【0013】
絶縁基材2と、別の絶縁基材4は絶縁性で電磁波透過性を有する。絶縁基材2と、別の絶縁基材4には、例えば同一材料で形成する等、複素誘電率に基づき定義される屈折率nが相互に整合する、又は、屈折率nが略同一或いは近接するものを用いると電磁波の透過性能向上の観点から好適である。絶縁基材2と別の絶縁基材4の近接する屈折率nの数値範囲としては、絶縁基材2と別の絶縁基材4の屈折率の相違が0~10%の範囲内とすると良好である。
【0014】
ここでの屈折率nは比誘電率実数部εr'と比誘電率虚数部εr"から数式1として定義される量である。 透過性の観点から適用周波数における虚数部と実数部の比から数式2として定義される誘電正接(ロスタンジェント)tanδの大きさは0.1以下とすると好適である。また比誘電率実部の大きさは3以下とすると好適である。誘電正接と比誘電率実部の大きさをこれらの数値以下とすることにより、レドームに必要とされる反射率と内部損失の低減を確実にすることが可能となる。
【0015】
【0016】
【0017】
絶縁基材2と、別の絶縁基材4は、合成樹脂、ガラス、セラミックス等の本発明の趣旨の範囲内で適宜の材料を用いることが可能であるが、好適には絶縁性の合成樹脂とするとよい。また、絶縁基材2と別の絶縁基材4の少なくとも視認される側の何れか一方は、不連続金属膜2に対する視認性を確保するために、透明或いは透光性の材料で形成するが、この透明或いは透光性の材料は、良好な視認性を確保するため可視光線透過率50%以上の無色材料又は有色材料とすることが好ましい。尚、絶縁基材2と別の絶縁基材4の双方とも、透明或いは透光性の材料で形成してもよい。
【0018】
絶縁基材2と別の絶縁基材4の視認される側の一方或いは双方を絶縁性の透明或いは透光性の合成樹脂とする場合の材料は、適用可能な範囲で適宜であり、例えばポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンポリマー(COP)等の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、又、添加剤を含有させてもよい。
【0019】
絶縁基材2と別の絶縁基材4の視認される側と逆側の他方を不透明或いは非透光性で絶縁性の合成樹脂とする場合の材料は、適用可能な範囲で適宜であり、例えばアクリロニトリル-エチレンプロピルラバー-スチレン共重合体(AES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合(ASA)等の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、又、添加剤を含有させてもよい。
【0020】
図示例のレドーム1では、絶縁基材2がポリカーボネート等の透明で絶縁性の合成樹脂で形成され、別の絶縁基材4がAES樹脂等の非透光性で絶縁性の合成樹脂で形成されている。尚、本発明の車載レーダー装置用レドームは、別の絶縁基材4を設けずに、絶縁基材2と、不連続金属膜2だけで構成することも可能である。
【0021】
絶縁基材2の一方の面に積層固着された不連続金属膜3は、微細なクラック32で分割された島状金属領域31の集合体からなることにより、電磁波透過性を有すると共に光輝性で一体的な金属光沢の視認性を有し、絶縁基材2の一方の面に無電解めっき、蒸着又はスパッタ等で形成されている。この不連続金属膜2或いは島状金属領域31は、例えばインジウム若しくはインジウム合金、ニッケル若しくはニッケル合金、クロム若しくはクロム合金、コバルト若しくはコバルト合金、錫若しくは錫合金、銅若しくは銅合金、銀若しくは銀合金、パラジウム若しくはパラジウム合金、白金若しくは白金合金、ロジウム若しくはロジウム合金、金若しくは金合金、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、ゲルマニウム若しくはゲルマニウム合金、亜鉛若しくは亜鉛合金、鉄若しくは鉄合金等から構成することが可能である。
【0022】
そして、本実施形態のレドーム1における不連続金属膜3の島状金属領域31の平均面積は、10,000nm2~80,000,000nm2の範囲とし、好適には20,000nm2~80,000,000nm2の範囲とする。また、不連続金属膜3の島状金属領域31の面積の変動係数は、0.5~1.5の範囲とし、好適には0.5~1.0の範囲とする。
【0023】
本実施形態の車載レーダー装置用レドーム1は、島状金属領域31の平均面積を80,000,000nm2以下とすることにより、車載レーダー装置10の電磁波EWの波長よりも島状金属領域31のサイズを十分に小さくし、所要の電磁波透過性を確保することが可能となる。更に、島状金属領域31の面積の変動係数を1.5以下とすることにより、例えば76~77GHzのミリ波に対する電磁波透過率を-3.0dB(約50%)とすることができ、実用的な電磁波透過性を確実に発揮することができる。また、島状金属領域31の面積の変動係数を0.5以上とすることにより、島状金属領域31の集合体である不連続金属膜3を有するレドーム1を確実に製造することができる。
【0024】
更に、レドーム1は、島状金属領域31の面積の変動係数を1.0以下とすることにより、例えば76~77GHzのミリ波に対する電磁波透過率を-1.0dB(約80%)とすることができ、実用的な電磁波透過性をより確実に発揮することができる。
【0025】
また、色味の強弱を示すb*値(b*値のプラス値での強弱は黄色味の強弱)の最大値と最小値の差が1.5以上になると、量産時に個体による不連続金属膜3の色の違いが視認され易くなってしまうが、レドーム1では、島状金属領域31の平均面積を20,000nm2以上とすることにより、b*値の最大値と最小値の差を1.5未満とすることができ、個体による不連続金属膜3の色の違いを視認できないレベルに抑えることができる。
【0026】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0027】
例えば上記実施形態では、車載レーダー装置用レドーム1が適用される車両実装部品としてバンパーを例示したが、本発明の車載レーダー装置用レドームは、適宜の車両実装部品で構成することが可能であり、例えば自動車のエンブレムのような装飾部品、フロントグリル等としても良好である。
【0028】
また、実施形態の車載レーダー装置用レドーム1における絶縁基材2の外側に更なる電磁波透過性の基材或いは膜を積層固着した構成や、実施形態の車載レーダー装置用レドーム1における別の絶縁基材4の外側に更なる電磁波透過性の基材或いは膜を積層固着した構成も、本発明の車載レーダー装置用レドームに包含される。例えば透明の絶縁樹脂で形成された絶縁基材2の外側に、保護層として透明なクリアコート層を積層固着しても良好である。
【0029】
尚、不連続金属膜3の導電率は島状金属領域31の間のクラックの大きさ、量の影響を強く受ける。これはクラックの導電率が島状金属領域31の導電率よりも著しく低いため、膜全体の導電率は材料ではなくクラックの導電率に依存するためである。電磁波透過率は導電率に依存することから不連続金属膜3の構造の影響を強く受け、構造が同様であれば材料が異なる場合においても透過率は同等になる。つまり、不連続金属膜3の材料にかかわらず変動係数とミリ波透過率の関係は成立する。
【0030】
〔レドームの電磁波透過性の測定試験〕
次に、本発明の実施例の車載レーダー装置用レドーム及び比較例の車載レーダー装置用レドームのサンプルとして、
図3に示すレドーム1aを作成し、レドーム1aを用いて電磁波透過率を測定する測定試験を行った。レドーム1aは、電磁波透過性を有する絶縁基材2aの一方の面に、微細なクラック32aで分割された島状金属領域31aの集合体である不連続金属膜3aを積層するように固着して形成した。
【0031】
レドーム1aの絶縁基材2aは、透明合成樹脂のポリカーボネートで形成されており、縦70mm、横150mm、厚さ3mmの長方形の平板になっている。このポリカーボネートの絶縁基材2aにおける室温(約25℃)での76/77GHz帯の電磁波(ミリ波)に対する複素比誘電率εr'は2.8、誘電正接tanδは0.01である。
【0032】
レドーム1aにおける不連続金属膜3aの島状金属領域31aはインジウムで形成されており、絶縁基材2aの一方の面にスパッタリングで形成されている。各サンプルのレドーム1aにおける不連続金属膜3aの膜厚は20nm~60nmの範囲にあるものとし、又、レドーム1aの不連続金属膜3aにおける単位面積(1mm2)当たりの微細な島状金属領域31aの個数は12,500個~200,000,000個の範囲にあるものとし、島状金属領域31aの平均面積は5,000nm2~80,000,000nm2とし、この状態をレドーム1aに対する画像解析処理(使用画像解析ソフトウェア:Image J(National Institutes of Health製))で確認した。
【0033】
レドーム1aの電磁波透過率の測定は、ROHDE&SCHWARZ社製Quality Automobile Radome Tester(QAR)を測定装置として用いて実施した。この測定装置の
図3において、101は電磁波発信部、102は受信部、103は電磁波透過率の測定結果を算出、取得する評価装置である。測定に利用した電磁波発信部101から送信する電磁波EWは76/77GHz帯のミリ波であり、図示の点線矢印の伝搬方向に、レドーム1aの不連続金属膜3a側から絶縁基材2aに抜けるように電磁波EWをレドーム1aに照射した。そして、サンプルのレドーム1aのそれぞれにおいて、不連続金属膜3aの島状金属領域31aの面積の変動係数を所定範囲で変更し、各変動係数を有するレドーム1aの電磁波透過率を測定した。その測定結果を
図4に示す。
【0034】
図4の測定結果から、島状金属領域31aの面積の変動係数を1.5以下とすることにより、レドーム1aの76/77GHzのミリ波に対する電磁波透過率を-3.0dB(約50%)にできることが分かる。更に、島状金属領域31aの面積の変動係数を1.0以下とすることにより、レドーム1aの76/77GHzのミリ波に対する電磁波透過率を-1.0dB(約80%)にできることが分かる。即ち、不連続金属膜3aを集合体で構成する島状金属領域31aの面積の変動係数を1.5以下、好適には1.0以下とすることにより、実用的に十分な電磁波透過性を発揮するレドーム1aを得ることができる。また、
図4の測定結果から、変動係数の増大に伴い導電率が高くなり、透過率が低くなる、即ち不連続金属膜3aの導電率が不連続金属膜3aの構造に依存しており、導電率の変化に伴い電磁波透過率も変化することが分かる。従って、この変動係数とミリ波透過率の関係は不連続金属膜3aの材料にかかわらず成立すると言える。
【0035】
〔レドームの色調の測定試験〕
次に、本発明の実施例の車載レーダー装置用レドーム及び比較例の車載レーダー装置用レドームのサンプルとして、
図5に示すレドーム1bを作成し、レドーム1bの色調を測定する測定試験を行った。レドーム1bは、電磁波透過性を有する絶縁基材2bの一方の面に、微細なクラック32bで分割された島状金属領域31bの集合体である不連続金属膜3bを積層するように固着されていると共に、絶縁基材2bの一方の面側において不連続金属膜3bの各々の島状金属領域31bを覆うように別の絶縁基材4bが設けられ、別の絶縁基材4が、クラック32bの箇所で絶縁基材2bに固着されていると共に、島状金属領域31bに固着されている。
【0036】
レドーム1bの絶縁基材2bは、レドーム1aの絶縁基材2aと同様に、透明合成樹脂のポリカーボネートで形成されており、縦70mm、横150mm、厚さ3mmの長方形の平板になっている。透明のポリカーボネートで形成されたレドーム1bの厚さ方向における可視光透過率は89%である。また、レドーム1bの別の絶縁基材4bは、非透光性のAES樹脂で形成されており、縦70mm、横150mm、厚さ3mmの長方形の平板になっている。
【0037】
レドーム1bにおける不連続金属膜3bの島状金属領域31bはインジウムで形成されており、絶縁基材2bの一方の面にスパッタリングで形成されている。各サンプルのレドーム1bにおける不連続金属膜3bの膜厚は20nm~60nmの範囲にあるものとし、又、レドーム1bの不連続金属膜3bにおける単位面積(1mm2)当たりの微細な島状金属領域31bの個数は12,500個~200,000,000個の範囲にあるものとし、不連続金属膜3bの島状金属領域31bの面積の変動係数が0.5~1.5の範囲にあるものとし、この状態をレドーム1bに対する画像解析処理(使用画像解析ソフトウェア:Image J(National Institutes of Health製))で確認した。
【0038】
レドーム1bの色調の測定は、コニカミノルタ社製の分光測色計(CM-3700d)を色調測定装置200として用いて実施した。
図5の色調測定装置200における符号201は測定部であり、試料に対する開口部になっている。また、
図6は開口の測定部201から視認されるレドーム1bの例である。そして、サンプルのレドーム1bのそれぞれにおいて、島状金属領域31bの平均面積を約10,000nm
2、約20,000nm
2、約30,000nm
2、約40,000nm
2、約85,000nm
2に設定し、各サンプルのレドーム1bの黄色味の強弱を示すb*値(プラスで絶対値が大きいほど黄色味が強く、マイナスで絶対値が大きいほど青色味が強くなる)を測定した。その測定結果を
図7に示す。
【0039】
島状金属領域31bの平均面積が約10,000nm2の場合におけるb*値の最大値と最小値の差は1.87、島状金属領域31bの平均面積が約20,000nm2の場合におけるb*値の最大値と最小値の差は1.31、島状金属領域31bの平均面積が約30,000nm2の場合におけるb*値の最大値と最小値の差は1.08、島状金属領域31bの平均面積が約40,000nm2の場合におけるb*値の最大値と最小値の差は1.08、島状金属領域31bの平均面積が約85,000nm2の場合におけるb*値の最大値と最小値の差は0.13程度となり、島状金属領域31bの平均面積が大きいほどb*値のバラツキは小さくなる。
【0040】
そして、b*値の最大値と最小値の差が1.5以上になると、量産時に個体による不連続金属膜3bの色の違いが視認され易くなってしまうが、レドーム1bの島状金属領域31bの平均面積を20,000nm2以上とすることにより、b*値の最大値と最小値の差を1.5未満とすることができ、個体による不連続金属膜3bの色の違いを視認できないレベルに抑えられることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、車載レーダー装置用レドームとして利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1、1a、1b…車載レーダー装置用レドーム 2、2a、2b…絶縁基材 3、3a、3b…不連続金属膜 31、31a、31b…島状金属領域 32、32a、32b…クラック 4、4b…別の絶縁基材 10…車載レーダー装置 101…電磁波発信部 102…受信部 103…評価装置 200…色調測定装置 201…測定部 EW…電磁波