(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061863
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】抗菌及び抗ウイルス性組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20230425BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230425BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230425BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230425BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230425BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20230425BHJP
A61K 33/38 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
A01N59/16 A
A61P31/12
A61P31/04
A01P1/00
A01P3/00
C02F1/50 531E
C02F1/50 550D
A61K33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021186015
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】501081719
【氏名又は名称】株式会社UFS
(71)【出願人】
【識別番号】505109543
【氏名又は名称】UFSリファイン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】窪田 規
(72)【発明者】
【氏名】窪田 宜昭
(72)【発明者】
【氏名】窪田 正昭
(72)【発明者】
【氏名】森山 光夫
(72)【発明者】
【氏名】長岡 理可
【テーマコード(参考)】
4C086
4H011
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA04
4C086HA01
4C086MA01
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZB35
4H011AA01
4H011AA03
4H011AA04
4H011BB18
4H011BC20
4H011DA02
(57)【要約】
【課題】 従来の化粧料向け天然防腐剤として、銀微細粒子を担持した水溶性コラーゲンを使用していたが、水溶性コラーゲンが真菌の代謝物によって分解される、あるいはインフルエンザやコロナに代表されるエンベロープウイルスの保護剤としてコラーゲンが用いられる為、インフルエンザウイルスの不活化には適さないなど、銀微細粒子の担持素材として万能ではないことが、問題となった。
【解決手段】 銀微細粒子の担持体として、水溶性コラーゲンに代わり、層状珪酸塩鉱物に着目し、その中から銀の抗菌機能に寄与する電子物性を最大限に引き出す素材、形状を見出だした。その適用範囲は単なる抗菌機能にとどまらず、エンベロープウイルスに対する不活化及び消臭機能等にも効果が期待される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状珪酸塩鉱物に銀塩溶液を作用させ、還元剤若しくは波長400nm以下の紫外線照射により銀微粒子を還元析出、担持させて成ることを特徴とする抗菌及び抗ウイルス性組成物。
【請求項2】
前記銀塩溶液が、アンモニア性硝酸銀水溶液、硝酸銀水溶液、硫酸銀水溶液より成る群から選択される少なくとも一種の銀塩溶液であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌及び抗ウイルス性組成物。
【請求項3】
前記銀塩溶液に還元剤としてハイドロキノン若しくはD-グルコースの何れか一種を作用させて当該化合物の表面に金属銀微細粒子を析出、担持せしめることによって得られる請求項1に記載の抗菌及び抗ウイルス性組成物。
【請求項4】
前記紫外線照射による還元に使用される光源に、自然太陽光、高圧或いは低圧キセノンガス放電管、高圧或いは低圧水銀灯或いはそれらと同等の紫外線放射能を有する光源群から選択される1種若しくは2種以上を用いることを特徴とする請求項1に記載の抗菌及び抗ウイルス性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートルサイズの銀微粒子を層状珪酸塩鉱物の表面に担持してなる抗菌及び抗ウイルス性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀の微粒子や銀イオンは、真菌や細菌等の微生物に対して抗菌性を示すことが知られている。
【0003】
とりわけ、ナノメートルサイズにまで微細化した銀微粒子は銀イオンに比して抗真菌活性が高く、本発明者らは水溶性コラーゲンに銀微粒子を担持する手法を編み出し、既に特許を取得している。[特許第5024594号]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、細菌や真菌の発育阻止に必要とされる銀濃度は、主に銀微粒子の粒子径に依存し、僅かな粒子径の差異によって発育阻止濃度に数倍の開きが生じる。
【0005】
雑貨品或いは化粧料等に抗菌剤或いは防腐剤として銀微粒子を添加する場合、性能やコストの観点から添加量の制約を受けるため、発育阻止が完全には行われず、その場合、真菌の代謝物によってコラーゲンが分解されるという現象が出来するようになった。
【0006】
銀微粒子の二次凝集を防ぐ目的で土台として使用されている水溶性コラーゲンが、真菌の代謝物により分解されると、土台を失った銀微粒子は忽ち凝集し、コラーゲンから脱落してしまう。
【0007】
銀微粒子が脱落したコラーゲンは、真菌・細菌類の栄養源として、却って黴菌の繁殖を促進する要因となってしまうことが、問題となった。
【0008】
また、コラーゲンはインフルエンザやコロナに代表されるエンベロープウイルスの保護剤としても使用されていることから、エンベロープウイルスの不活化には、水溶性コラーゲンを銀微粒子の担持素材とすることは不適格であることも判明した。
【0009】
そこで、コラーゲンのように、真菌、細菌類の栄養とはならず、かつエンベロープウイルスの保護機能を持たない無機材料の中から銀微粒子の担持素材を選定することとした。
【0010】
その担持素材として着目したものが、本発明の根幹となる、層状珪酸塩鉱物である。
【0011】
珪酸塩鉱物は、そのアニオン部分の構造によって、次のように分類されている。
▲1▼ネソ珪酸塩鉱物(四面体単体) ▲2▼ソロ珪酸塩鉱物(四面体2量体) ▲3▼サイクロ珪酸塩鉱物(環状) ▲4▼イノ珪酸塩鉱物(単鎖状) ▲5▼イノ珪酸塩鉱物(2本鎖状) ▲6▼フィロ珪酸塩鉱物(層状) ▲7▼テクト珪酸塩鉱物(3次元網目状)
【0012】
これら珪酸塩鉱物の中で、特に銀イオンを包含した形で広く利用されているものに、ゼオライト(テクト珪酸塩鉱物)がある。
【0013】
しかし、ゼオライトはその3次元網目状構造の内部に銀イオンを取り込むという性質上、実際は銀イオンを容易に放出せず、抗菌性が発現出来ないことから、亜鉛イオンを同時に用いて抗菌性を付与するなど、銀本来の物性を直接発現出来ないという問題点があった。
【0014】
また、シリカ(SiO2)は狭義の分類では珪酸塩鉱物には含まれないが、シリカに銀微粒子を担持すると称する方法も取られている。
【0015】
シリカに銀を担持した場合、銀はメッキ状に析出し、粒子状にはなりにくい。この時、微視的に見ればナノ粒子が連続した構造となるため、銀微粒子が有するプラズモン共鳴も発現せず、抗菌性も微弱となる。
【0016】
また、シリカに銀ナノ粒子を担持したと称するものは、模式図での説明に留まり、銀微粒子の明確な担持状態を示したものはほとんど見受けられない。
これは、メッキ状の薄膜組織しか得られないため、粒子状の電子顕微鏡像を得ることが困難であるため、やむを得ず模式図で表したものと思料される。
【0017】
従来、銀または銀イオンの抗菌性発現の作用機序は、▲1▼銀イオンが菌体の内部に侵入し、呼吸系、代謝系等を阻害することで死滅する(銀イオン説)。▲2▼銀または銀イオンの作用により生じた活性酸素の働きにより、黴菌が死滅する(活性酸素説)。以上二説が有力なものとされていたが、本発明者らの研究により、第三の説として、「電気エネルギー説」が提唱された。
【0018】
これは、銀微粒子の表面に存在する銀イオンが一定ではなく、金属状態とイオン状態との間を高速(およそ10-6秒以下)で行き来しており、その時の高周波且つ高電位差により菌体の膜電位が攪乱され、死滅するというものである。(詳細は特許第5024594号参照)
【0019】
この説を裏付ける論拠として、防菌防黴誌VOL.46 No.7「抗菌試験環境下における金属銀ナノ粒子の化学状態と抗菌活性との関係」と題する原著論文に「金属銀状態であることが抗菌性の発現に大きく寄与している」ことが示されている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
これらの事実から、本発明においては数多ある珪酸塩鉱物の中から、層状珪酸塩鉱物に着目し、銀の抗菌機能を最大限に発揮しうる担持素材及び担持手法を確立した。
【0021】
層状珪酸塩鉱物にはカオリナイト、蛇紋石、スメクタイト、滑石、雲母、緑泥石、等々、様々な種類のものが知られているが、先に述べた電気エネルギー説に鑑み、特に誘電体としての電子物性を考慮しつつ、化粧料にも使用されることが多い、スメクタイト、滑石(タルク)、雲母(マイカ)に着目し、銀微粒子の担持を試みた。
【0022】
その結果、僅かな銀濃度において、顕著な抗菌性、抗ウイルス性を示す銀微粒子担持体を得ることが出来た。それが、本発明による「銀微粒子を層状珪酸塩鉱物の表面に担持してなる抗菌及び抗ウイルス性組成物」である。
【0023】
請求項1に係る本発明では、層状珪酸塩鉱物に銀塩溶液を作用させ、還元剤若しくは波長400nm以下の紫外線照射により銀微粒子を還元析出、担持させることに特徴を有し、これにより長期安定性を担保し、且つ人体や動植物に安全な抗菌及び抗ウイルス材を供することが可能となる。
【0024】
請求項2に係る本発明では、請求項1に記載の抗菌性組成物において、前記銀塩溶液は、アンモニア性硝酸銀水溶液、硝酸銀水溶液、硫酸銀水溶液より成る群から選択される少なくとも一種の銀塩溶液であることに特徴を有し、これにより安定した担持品質を保持し得る。
【0025】
請求項3に係る本発明では、請求項1に記載の抗菌性組成物において、前記銀塩溶液に還元剤としてハイドロキノン若しくはD-グルコースの何れか一種を作用させて当該鉱物の表面に金属銀微細粒子を析出、担持せしめることに特徴を有し、これにより銀微粒子を安全かつ確実に析出させることが可能となる。
【0026】
請求項4に係る本発明では、請求項1に記載の抗菌性組成物において、前記紫外線照射による還元に使用される光源に、自然太陽光、高圧或いは低圧キセノンガス放電管、高圧或いは低圧水銀灯或いはそれらと同等の紫外線放射能を有する光源群から選択される一種若しくは2種以上を用いることに特徴を有し、請求項3に記載の還元手法を選択し難い領域において有効である。(例えば、化粧品分野ではキャリーオーバーによる微量残留成分も規制されている為、還元剤の使用も制限される。)
【0027】
請求項3及び請求項4は、互いに補完する関係にある。なぜなら、還元剤の残留を嫌う領域では紫外線照射による還元が有効であるが、担持素材によっては紫外線を透過しにくいものもあり、この場合は還元剤の使用が有効となるからである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、僅かな銀濃度にもかかわらず、優れた抗菌性(抗真菌性及び抗ウイルス性を含む)を有する抗菌性組成物を提供することができる。
【0029】
まずは、抗菌性に及ぼす銀及び担持素材の電子物性から詳述する。抗菌性を発現する作用機序は、既に述べた通り数ナノメートルサイズの銀微粒子が、金属銀と銀イオンとの間を高速で行き来することにより生じる高周波且つ高電位差の電気エネルギーによるものであり、この電気エネルギーを効率良く利用するためには、優れたコンデンサ機能を有する素材を選択することが肝要である。
【0030】
本発明において着目した層状珪酸塩鉱物の中でも、雲母(マイカ)は古くからコンデンサ材料として利用されているが、これは電子材料の分野での使用範囲に限定され、銀微粒子の担持素材として有用であることは知られていない。
【0031】
また、滑石(タルク)は板状晶であり、薄く平べったい形状であり、これはコンデンサの電気容量を増幅させるための要件、即ち対向電極面積が広く、対向電極間隔が狭い、という二つの条件を満たした理想的な形状であることがわかる。
【0032】
このような電気エネルギーを効率よく蓄え、そして適宜放電させるコンデンサ素材に銀微粒子を担持させると、そのエネルギーは増大し、細菌の膜電位を容易に攪乱、破壊し得る為、短時間で死滅させることが可能となる。
【0033】
また、担持素材は鉱物であり、有機物のように真菌の代謝活動により分解される恐れは皆無であるため、長期間効果が持続する。これにより、化粧品、雑貨品領域に限らず、建築資材や河川・湖沼等の水質改善など、適用範囲が大幅に拡大される。
【0034】
図1にインフルエンザウイルスの感染価に及ぼす本発明の効果に関する実測データを示す。
【0035】
図1より、水溶性コラーゲンに銀微細粒子を担持したものは、40ppmと高濃度の銀含有量にもかかわらず、ウイルス不活化効果が認められないことがわかる。
【0036】
しかし、滑石(タルク)に担持した場合は、滑石自体がウイルスを吸着するため、銀濃度300ppmに調製したタルク粉末を150倍に希釈(水に懸濁;銀濃度2ppm)した場合では、コントロールとの差異が分からないほど、共にウイルス不活化効果が認められる。
【0037】
そこで、更に20倍に希釈し、0.1ppmという極めて低い銀濃度に調製すると、初めて銀の不活化効果がコントロールに比して優位であることが確認された。
【0038】
そして、同じく滑石に銀微粒子を担持した試料の抗真菌活性に関しては、表1に記載の通り、わずかな接触時間で真菌類を死滅させる効果が確認された。
【表1】
【0039】
表2及び表3にスメクタイト(商品名ラポナイト)に銀微粒子を30μg/g担持した試料におけるインフルエンザウイルス及びネコカリシウイルスに対する不活化効果を示す。
【表2】
【表3】
【0040】
表2及び表3の結果から、エンベロープを有するインフルエンザウイルス及びエンベロープを持たないネコカリシウイルス、何れのウイルスにおいても高い不活化効果を有することが確認された。
【0041】
これらの結果から、本発明による銀微粒子担持体は優れた抗菌、抗真菌、抗ウイルス作用を示すことが明らかとなった。
【発明を実施するための形態】
【実施例0042】
滑石(タルク)を基材とした銀微粒子担持体(汎用抗菌剤)の製造例
(2)次いで1/200規定の硝酸銀水溶液500mlを(1)に添加し、50±2℃に保持して30分間撹拌して反応させた。
(3)これにD-グルコース0.5wt%水溶液500mlを還元剤として加え、上記温度を保持したまま2時間継続して撹拌した。
(4)その後、加熱撹拌を停止し、反応液を室温まで自然冷却し、滑石粉末を沈殿させた。
(5)(4)の上澄み液を2/3程度取り除き、残った沈殿物を遠心分離器に掛けた。
(6)(5)を平型のステンレスバットに移し、冷凍庫で凍結させた。
(7)凍結させた試料を48時間、真空凍結乾燥させ、滑石を基材とした銀微粒子担持体を得た。
本発明を実施するにあたり、合成スメクタイトにゾルタイプとゲルタイプの2種あることが、特に化粧料の防腐剤用途として最適であることが判明すると共に、本発明の実施形態は、いずれのスメクタイトにも適用可能であり、滑石や雲母基材に対しても有効であることが確認された。