(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061865
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】カーボンリサイクル処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/62 20060101AFI20230425BHJP
B03D 1/014 20060101ALI20230425BHJP
B03D 1/012 20060101ALI20230425BHJP
B03D 1/008 20060101ALI20230425BHJP
B03D 1/006 20060101ALI20230425BHJP
B09B 3/30 20220101ALI20230425BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20230425BHJP
B03D 101/02 20060101ALN20230425BHJP
B03D 101/04 20060101ALN20230425BHJP
B03D 103/00 20060101ALN20230425BHJP
【FI】
B01D53/62
B03D1/014
B03D1/012
B03D1/008
B03D1/006
B09B3/00 Z
B09B3/00 304J
B03D101:02
B03D101:04
B03D103:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021186676
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】315005325
【氏名又は名称】グローバル・マテリアルリサーチ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】米澤 敏男
(72)【発明者】
【氏名】木之下 光男
【テーマコード(参考)】
4D002
4D004
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002BA02
4D002DA66
4D002EA07
4D004AA33
4D004BA02
4D004BA06
4D004CA04
4D004CA08
4D004CA10
4D004CA13
4D004CA15
4D004CB04
4D004CB28
4D004CC03
4D004CC05
4D004CC15
4D004CC17
4D004CC20
4D004DA03
4D004DA07
4D004DA11
4D004DA20
(57)【要約】
【課題】廃コンクリート微粉末はカルシウム成分、骨材粉、その他不純物を含む多種成分の混合物であり、含有するセメント硬化体を用いて、廃炭酸ガスを固定することによって生成する炭酸カルシウムを利用してカーボンリサイクル処理を行うには、効率が低いという問題がある。本発明は廃炭酸ガスを用いて該微粉末を加圧炭酸化反応処理してカルシウム成分を炭酸カルシウムに転化させた後、浮遊分離法で分離回収して高純度の炭酸カルシウムを用いるカーボンリサイクル処理方法を提供する。
【解決手段】廃コンクリート微粉末及び所定量の水を充填した圧力容器に対して一定の圧力条件下で炭酸ガスを圧入して炭酸化反応させ、炭酸カルシウムを含有する微粉末を得る処理工程(1)と、次に浮遊分離法によって高純度の炭酸カルシウムを分離回収する工程(2)とを含む二段階の処理工程を経て得られた炭酸カルシウムを用いるカーボンリサイクル処理方法を用いた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃コンクリート塊から粗骨材と細骨材を分離するプロセスを経て得られる粒子径2.5mm以下の微粉末を、特定の炭酸化方法で廃炭酸ガスと反応させて炭酸カルシウム生成物を含有する微粉末を得る処理工程(1)と、次に特定の浮遊分離方法によって炭酸カルシウムを分離回収する処理工程(2)を経て得られる炭酸カルシウムを再利用して成る廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の微粉末が、粒子径500ミクロン以下の範囲の微粒子である廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法。
【請求項3】
請求項1記載の処理工程(1)における特定の炭酸化方法が、微粉末と廃炭酸ガスを、水を含む容器中で加圧して反応させ、炭酸カルシウム生成物を含有する微粉末を得る処理方法である廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法。
【請求項4】
請求項3記載の処理方法における水の量が、廃コンクリート微粉末の質量の2~50倍、加圧圧力が、0.1~10MPaの範囲である廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法。
【請求項5】
請求項1記載の処理工程(2)における特定の浮遊分離方法が、炭酸カルシウム生成物を含有する微粉末、水及び浮遊分離剤(a)を分離槽に投入して、炭酸カルシウムを成分として含む浮遊成分(c1)と、骨材粉を成分として含む沈降成分(c2)とに分離して、炭酸カルシウムを含む成分を回収する方法である請求項1~4記載の廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法。
【請求項6】
請求項5記載の浮遊分離方法によって得られる浮遊成分(c1)、水及び浮遊分離剤(b)を、分離槽に投入して2度目の浮遊分離を行い、骨材粉その他の成分を浮遊成分(c3)として分離し、炭酸カルシウムを主成分とする沈降成分(c4)を回収して、炭酸カルシウムの含有量を高める工程から成る請求項1~5のいずれか1項記載の廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法。
【請求項7】
請求項5記載の浮遊分離剤(a)が捕収剤と起泡剤とを含むものである請求項1~4のいずれか1項記載の廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法。
【請求項8】
請求項7記載の浮遊分離剤(a)に含まれる捕収剤がアニオン系界面活性剤である請求項1~5のいずれか1項記載の廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法。
【請求項9】
請求項8記載の浮遊分離剤(a)に含まれる捕収剤が、アニオン系界面活性剤とともに分散剤としてポリカルボン酸系重合体から成る化合物を添加して使用するものである請求項1~5、請求項7及び請求項8のいずれか1項記載の廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法。
【請求項10】
請求項6記載の浮遊分離剤(b)が捕収剤と起泡剤とを含むものである請求項1~4のいずれか1項記載の廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法。
【請求項11】
請求項10記載の浮遊分離剤(b)の捕収剤が脂肪族アルキルアミン型の化合物に対してエチレンオキサイドの付加モル数が5~25の付加物である請求項1~4、請求項6、請求項9及び請求項10のいずれか1項記載の廃コンクリート微粉末によるカ-ボンリサイクル処理方法。
【請求項12】
請求項7記載の浮遊分離剤(a)及び請求項10記載の浮遊分離剤(b)に含まれる起泡剤が不飽和炭化水素系化合物である請求項1~11のいずれか1項記載の廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃コンクリート微粉末を利用して廃炭酸ガス中の炭酸ガスを固定し、得られる炭酸カルシム生成物を再利用することによるカーボンリサイクル処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンリサイクルは地球温暖化の原因とされている炭酸ガスを炭素資源として捉えて回収し、多様な炭素化合物として再利用することで炭酸ガス排出量を減らすための方法の一つである。廃コンクリートやコンクリート構造物によるCO2の固定、CO2による藻類培養で得られるバイオ燃料、CO2を原料とした人工光合成によるプラスチック等が、カーボンリサイクルの有力な技術と考えられている。とりわけ、排出量の多い廃コンクリートは、カーボンリサイクルのための有力な材料として期待されている。建築物やインフラ構造物の解体により発生する廃コンクリートを、工場などからの廃炭酸ガスと反応させて生成する炭酸カルシウムは、コンクリート材料、セメント原料、石炭火力発電所の脱硫材等への再利用が可能である。コンクリート材料として利用すれば、既にCO2を固定した材料としてコンクリートのCO2原単位の低減に効果があり、カーボンネガティブなコンクリートの製造も可能となる。セメント工場の廃炭酸ガスで炭酸カルシウムを生成し、それを原料として利用すれば、焼成時の脱炭酸と燃料から発生するCO2を削減する効果が期待される。石灰石が使用されている石炭火力発電所の脱硫工程でも、廃炭酸ガスから生成する炭酸カルシウムを使用すれば、CO2削減が期待される。このような可能性に基づいて、廃コンクリートを廃炭酸ガスと反応させて、炭酸カルシウムを生成させる研究が行われている。
本発明も、廃コンクリートと廃炭酸ガスを反応させて得られる炭酸カルシウムを、資源として再利用するためのカーボンリサイクル処理技術に関するものであり、廃コンクリートの利用効率や処理効率、さらに得られる炭酸カルシウムの純度を高くする技術を提供することを目的としている。
【0003】
本発明に関連した先行技術として、例えば、1)工業プロセスの廃炭酸ガスを、廃コンクリートのようなCaOやCa(OH)2を含む材料に水を含有する条件で接触させ、廃ガス中の炭酸ガス濃度を低減する方法(特許文献1)が開示されている。また、2)廃コンクリートを用いた加圧下での二酸化炭素固定プロセスに関する文献(参考文献1)や、3)廃コンクリートを用いた常圧下での二酸化炭素固定プロセスに関する文献(参考文献2)、4)セメント微粉を使用して炭酸ガスをガス吸収槽で固定して炭酸カルシウムを生成させる方法(特許文献2)等の技術が開示されている。5)浮遊分離方法では炭酸カルシウムと二酸化珪素を浮遊分離する方法(特許文献3)等の技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、前記1)の方法は、排ガス中の炭酸ガス濃度を低減する方法であり、カーボンリサイクルを目的としていないので、得られる炭酸カルシウムは、骨材粉等との混合物であり、本目的には適さない。前記2)の方法は、廃コンクリートを加圧下で炭酸化した後、その圧力容器の中で炭酸カルシウムの全量を水に溶解させた後、溶液を取り出して常圧に戻すことによって炭酸カルシウムを析出させて回収するカーボンリサイクルに用いる技術である。このため、圧力容器の容積が大きくなり、炭酸化処理プロセスの効率に課題がある。前記3)の方法は、廃コンクリートを投入した水槽中で、常圧下で炭酸化を行う方法であり、セメント硬化体の成分のうち、水に溶解しやすいCa(OH)2を主体に炭酸化を行う方法である。すなわち、セメント硬化体の主成分であるカルシウムシリケート水和物やカルシウムアルミネート水和物等の炭酸化には相当の時間を要する。短時間では、ほとんど炭酸化されない。従って、セメント硬化体成分の大部分を炭酸化して利用するのが難しい点などに課題があり、本目的には適さない。前記4)の方法は、電気透析層を用いてNaNO3からHNO3とNaOHを生成させ、HNO3で廃コンクリートを溶解し、NaOHで炭酸ガスを吸収して、NaNO3を循環利用する技術である。この技術では、骨材粉等の不純物を分離することが想定されておらず、本目的には適さない。前記5)の浮遊分離する方法は、特定の捕収剤を使用することによって炭酸カルシウム中の珪酸塩の含有量の割合が少ない場合(推定20%未満)に不純物である珪酸塩を除去して、高純度の炭酸カルシウムを回収する技術である。しかしながら、本発明における廃コンクリート中の骨材粉等の珪素成分は、50%程度以上の含有量であり、炭酸カルシウムの含有量は、20~40%程度である。換言すると炭酸カルシウムの含有量が少ない場合には、この浮遊分離方法では本目的の十分な効果が得られない。すなわち、従来のいずれの方法も、廃コンクリートを用いて廃炭酸ガスを効率的に炭酸カルシウムとして固定し、得られる炭酸カルシウムと骨材粉等との混合物から効率的に炭酸カルシウムを分離回収して、カーボンリサイクルを行うという本目的に対して種々の問題があり、十分な効果が得られないという課題がある。
【先行技術文献】
【参考文献】
【0005】
【参考文献1】
化学工学論文集(2002年、28巻、No.5、頁587-592)
【参考文献2】
American Chemical Society,Omega(2020,5,15877-15890)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-197810号公報
【特許文献2】特開2012-96975号公報
【特許文献3】特表平8-510167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、
1)廃コンクリート微粉末に含有されるセメント硬化体成分と骨材粉末のうち、セメント硬化体成分のほぼ全量を廃炭酸ガスと反応させて、炭酸ガスを固定処理する技術が必要とされる、すなわち、セメント硬化体を炭酸ガス固定資源として、効率的に活用できる処理方法が必要とされる。2)同時に、炭酸化によって生成する炭酸カルシウム成分を、骨材粉末から分離して純度の高い炭酸カルシウムとして回収する方法が必要とされる、すなわち、炭酸カルシウムを分離回収するための効率的な処理方法が必要とされる。本発明は、これら2つの課題をシステムとして解決し、カーボンリサイクル処理を実現しようとしている。いずれが欠けてもカーボンリサイクル処理は困難であり、本目的は、以上の2つの課題を同時に解決するための簡便で実用的な新規の処理方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、前記の要件を満足する方法として、以下の方法が正しく好適であることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、廃コンクリート塊から粗骨材と細骨材を分離するプロセスを経て得られる粒子径2.5mm以下の微粉末を、特定の炭酸化方法で廃炭酸ガスと反応させて炭酸カルシウム生成物を含有する微粉末を得る処理工程(1)と、次に特定の浮遊分離方法によって炭酸カルシウムを分離回収する処理工程(2)を経て得られる炭酸カルシウムを再利用して成ることを特徴とする廃コンクリート微粉末によるカーボンリサイクル処理方法に係わる。
【0010】
先ず初めに、本発明で使用される廃コンクリート微粉末について説明する。本発明は、廃コンクリート微粉末に含有されるセメント硬化体成分を、廃炭酸ガスを固定するための資源として利用するものであるので、本発明に使用する廃コンクリート微粉末は、できるだけ骨材粉の含有量が少なく、セメント硬化体成分が多くなるプロセスを経て得られたものであることが必要である。そのための処理方法としては、再生骨材製造技術として実用化されている偏心ロータ方式等の機械すりもみ方式や、廃コンクリート塊を加熱した後に処理する加熱すりもみ方式等のプロセスで製造されたものを使用することができる。これらの方式で、まず、粗骨材を分離した後、さらに細骨材を分離して得られる2.5mm以下の微粉末を使用する。
【0011】
しかしながら、本発明に係る微粉末は、更に小さい粒子が適しており、500ミクロン以下の範囲に調整したものを使用するのが好ましい。理由として、微粉末を分級して細かくするほど、炭酸ガスとの反応速度は速くなり、微粉末中のセメント硬化体成分の含有比率は大きくなるが、分級により失われるセメント硬化体の量も増加するため、セメント硬化体の絶対量が減少する。以上の観点から、本発明においては、前記した適切な粒子径に調整された微粉末を使用することが好ましい条件となっている。
【0012】
本発明において、処理工程(1)について説明する。処理工程(1)は、廃コンクリート塊から粗骨材と細骨材を分離するプロセスを経て得られる粒子径2.5mm以下、好ましくは500ミクロン以下に調整された微粉末を、特定の炭酸化方法で廃炭酸ガスと反応させて炭酸カルシウム生成物を含有する微粉末を得るための前処理工程である。特定の炭酸化方法としては、微粉末と廃炭酸ガスを、水を含む容器中で加圧して反応させ、炭酸カルシウムを含有する微粉末を得る処理方法を使用することができる。また、水の量としては、微粉末の質量の2~50倍、加圧圧力としては、0.1~10MPaの範囲が好ましい。上記の廃炭酸ガスとしては、炭酸ガス濃度20%程度のセメント工場等からの排ガス、炭酸ガス濃度10~20%程度の石炭火力発電所等からの排ガス、あるいは炭酸ガス吸収材を用いて回収された炭酸ガス濃度90%程度の各種製造工場からの排ガス等を適用することができるが、特に制限されるものではない。
【0013】
加圧容器に充填する水の量は、微粉末に含まれるセメント硬化体の量や廃炭酸ガスを圧入して水と微粉末を撹拌して反応を進めるのに必要な作業性等を考慮して設定することが必要であるが、微粉末の質量に対して、2~50倍が好ましい。
【0014】
廃炭酸ガスによって加圧容器に加える圧力は、微粉末と廃炭酸ガスによる炭酸化反応を効率的に行ううえで重要である。炭酸ガスを、水を含む容器中で加圧すると、炭酸ガスの溶解度は圧力とともに表1のように増加する(参考文献3)。炭酸ガスの溶解の結果、式▲1▼~▲4▼の反応(式▲2▼~▲4▼は液中)によって炭酸が生成するため、圧力の上昇によって溶解度が高くなり、その結果、溶液のpHが低下して酸性が強くなる。参考文献4に開示されている図によれば、45℃の圧力とpHの関係は,圧力P=0MPaでpH=3.7、以下、P=1MPaでpH=3.5、P=2MPaでpH=3.4、P=3MPaでpH=3.3、P=5MPaでpH=3.1,P=7.0MPaでpH=3.0、P=10MPaでpH=2.9程度であり、圧力10MPaでpHは、ほぼ3まで低下する。
CO2(ガス)⇔CO2(液中) 式▲1▼
CO2+H2O⇔H2CO3 式▲2▼
H2CO3⇔HCO3-+H+ 式▲3▼
HCO3-⇔ CO32-+H+ 式▲4▼
【参考文献】
【0015】
【参考文献3】
笹本忠監修、例題で学ぶ基礎科学、;第1版第7刷、p.45、2020年、森北出版、
【参考文献4】
神鋼エアーテック株式会社;
https://shinko-airtech.com/gasliquid_CO2.html(2021年10月現在)
【0016】
次に、セメント硬化体の成分と炭酸ガスの反応について説明する。セメント硬化体は、ポルトランドセメントと水との反応(水和反応)によって形成される組織である。主な生成物を以下に示す。
カルシウムシリケート水和物:3CaO・2SiO2・4H2O 等
ポルトランダイト(水酸化カルシウム):Ca(OH)2
カルシウムアルミネート水和物:6CaO・Al2O3・3SiO2・32H2O 等
上記のうち、ポルトランダイトの相当量は、水に溶解するが、カルシウムシリケート水和物とカルシウムアルミネート水和物は、アルカリ性~中性で安定であり、水への溶解量は極めて少ない。したがって、加圧せずに常圧でセメント硬化体を含む水に炭酸ガスを注入しても炭酸化に寄与するのは、ほとんどがポルトランダイトということになり、セメント硬化体の本体であるカルシウムシリケートを利用するのは難しい。一方、加圧して炭酸化を行うと、状況は一変する。カルシウムシリケート水和物は酸に弱く分解して炭酸カルシウムとシリカゲルを生成する。したがって、加圧下では、セメント硬化体のほぼ全量を炭酸化の資源として利用できることになる。加圧して炭酸化を行う利点はこの点にある。加圧の適正な圧力は、容器中のセメント硬化体の量、水の量、目標とする炭酸化処理の速度などによるが、加圧によるpH低下の限度である10MPa以下であって、0.1MPa以上が好ましい。
【0017】
次に、浮遊分離法によって炭酸カルシウム成分を骨材等の成分から分離する処理工程(2)について説明する。浮遊分離法は、粒子を含むスラリー中に空気やその他のガスを供給して発生した気泡表面に粒子を付着させ、該粒子が付着している気泡を水中で浮力により浮上させることによって、浮遊成分である疎水性の表面を有する粒子と、沈降成分である親水性の表面を有する粒子とに分離して回収する方法である。この際に粒子表面の疎水性又は親水性を調節して分離性能を高める目的で、従来から捕収剤、起泡剤、抑制剤などの界面活性剤が一般に用いられている。中でも捕収剤の種類やその他の補助的な添加剤の選択使用が、分離回収する目的の成分の種類や含有比率によって使用効果が異なることが知られており重要である。浮遊分離のための装置としては、MS型浮遊分離装置(以下、浮選機という)、FW型浮選機、アジテヤ型浮選機、ワーマン型浮選機、フェジャーグレン浮選機等の浮選機が挙げられる。
【0018】
浮遊分離法を用いた本発明の処理工程(2)について、さらに説明する。処理工程(2)は第1回目の浮遊分離である処理工程(A)と第2回目の処理工程(B)から成る。2つの工程を必ず実施することは必要ではなく、目標とする炭酸カルシウムの含有量に応じて、処理工程(A)の浮遊分離で得られた炭酸カルシウムを用いてカーボンリサイクルを行うことができる。炭酸カルシウムの含有量を高めたい時には、2回の浮遊分離を実施する。工程(A)は、炭酸カルシウム生成物を含有する微粉末と、水及び浮遊分離剤(a)、更に分散剤等を浮遊分離容器に投入した後、微細気泡(マイクロバブル等)を注入して、炭酸カルシウムを成分として含有する浮遊成分(c1)と、二酸化珪素を成分として含有する骨材粉等の沈降成分とを分離回収する工程(A)である。上記のマイクロバブルとは数ミクロン~50ミクロン以下の微細な気泡のことであり、浮遊分離法で一般に使用される空気単独や、空気と炭酸ガスを混合した混合気体等を、超音波によるマイクロバブル発生器を用いて微細気泡を発生させて注入することができる。また工程(A)では、浮遊分離剤(a)として捕収剤及び起泡剤に加え、必要に応じて、ポリアクリル酸塩等のポリカルボン酸系重合体やポリカルボン酸系共重合体塩の中から、炭酸カルシウム粒子の分散性付与に適した分散剤を添加して用いることができる。
【0019】
浮遊分離剤(a)の捕収剤としては、この工程で炭酸カルシウム粒子を気泡に付着させて浮遊成分を得るための性質が必要であるため、アニオン系界面活性剤を使用することが好ましい。本発明で使用するアニオン系界面活性剤としては、高級脂肪酸塩型、硫酸エステル型、スルホン酸塩型、リン酸エステル塩型等が挙げられるが、中でもリン酸エステル塩型から選ばれる脂肪族アルコールのエチレンオキサイド(5~30モル)付加物のリン酸エステル塩が好ましい。以上説明した本発明で使用するアニオン系界面活性剤の捕収剤の添加量は、スラリーの固形分濃度にもよるが、スラリー1リットルに対して、3~200mg、好ましくは10~100mgの範囲内で使用する。
【0020】
本発明において、浮遊分離の気泡を安定化して良好な泡立ちを付与するために起泡剤を用いる。起泡剤は一般に、パイン油、テレピン油、ユーカリ油等の不飽和炭化水素系の化合物や分岐炭化水素アルコール系の4-メチル-2-ペンタノールなどの化合物が挙げられるが、本発明においては、中でもパイン油やテレピン油を使用するのが好ましい。かかる起泡剤の添加量は、スラリー1リットルに対して、0.1~3g、好ましくは0.5~2gの範囲で使用する。
【0021】
また前記したように、工程(A)では浮遊分離スラリーの炭酸カルシウム粒子を浮遊しやすくするためにポリカルボン酸系分散剤を併用することが好ましく、分散剤の添加量は、スラリー1リットルに対して、0.01~0.5g、好ましくは0.02~0.3gの範囲で使用する。
【0022】
また工程(B)は、前記浮遊成分(c1)と水及び浮遊分離剤(b)を分離槽に投入した後、微細空気法(マイクロバブル等)を注入して、骨材粉と不純物を含む浮遊成分と、炭酸カルシウム含有量の高い沈降成分(c2)を分離回収する工程(B)である。すなわち、工程(B)の目的は、炭酸カルシウムを、残存する一部の骨材粉及び不純物を含む混合物から分離して、沈降成分として炭酸カルシウムを高含有量で回収することである。浮遊分離剤(b)の捕収剤としては、一部残存する骨材粉や炭酸カルシウム不純物を気泡に付着させて浮遊させ、浮遊成分を得るための性質を有する界面活性剤が有利であるため、ここでの処理工程ではカチオン系界面活性剤を使用することが好ましい。本発明において、使用するカチオン系界面活性剤はカチオン荷電を持つN原子をベースにしたアミン類及び第4級アンモニウム塩類の化合物が挙げられる。アミン類としては脂肪族アルキルアミン及びポリオキシエチレン脂肪族アルキルアミン型の化合物が挙げられ、いずれもアルキル基が炭素数8~20のもの、好ましくは炭素数10~18のものが有利に使用できる。また、ポリオキシエチレン脂肪族アルキルアミン型の化合物の場合は、炭素数8~20の脂肪族アミンに対してエチレンオキサイドの付加モル数1~30モル、好ましくは付加モル数が2~25モルの化合物が有利に使用できる。更に、第4級アンモニウム塩類としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩やジアルキルジメチルアンモニウム塩等の化合物が挙げられる。以上説明した本発明で使用するカチオン系界面活性剤の捕収剤の添加量は、スラリーの固形分濃度にもよるが、スラリー1リットルに対して、3~200mg、好ましくは10~100mgの範囲内で使用する。
【0023】
次に、本発明によるカーボンリサイクル処理の具体的な方法を、一実施形態を用いて説明する。
図1は、この実施形態を示す。図中の1は、処理工程(1)で炭酸化を行うための加圧容器である。5は、廃炭酸ガスを加圧して圧力容器に供給するための加圧タンクである。交互に廃炭酸ガスを供給するために、二つのタンクが設置されている。廃炭酸ガスの供給方法は、加圧ガスとして供給する方法と、あらかじめ加圧して水に溶解させて供給する方法のいずれでもよい。濃度の低い廃炭酸ガスの処理では、あらかじめ加圧して水に溶解して供給するほうが効率的である。6と11は、処理工程(2)で炭酸カルシウムを分離するための浮遊分離槽である。10と14は、浮遊分離槽に浮遊分離剤を供給するための槽である。
【0024】
上記の処理方法を、さらに説明する。1の加圧容器には底部に撹拌装置が備わっている。撹拌装置は、炭酸化反応を効率的に行うためのものであるが、必ずしも機械的な撹拌装置である必要はなく、水を循環させる装置等でもよい。加圧容器には、廃コンクリート微粉末と水および廃炭酸ガスが供給され、廃コンクリート微粉末と水に溶解した廃炭酸ガスを撹拌しながら反応させて炭酸カルシウムを生成させる。反応による内部圧力の低下が一定となり反応が終了すると、一旦、加圧容器を開放した後、もう一つの容器から廃炭酸ガスを供給して反応させる。この操作を廃コンクリートに含まれるセメント硬化体よる炭酸ガスの固定が終了するまで実施する。この反応の終了後、炭酸カルシウムを含む微粉末を排出し、浮遊分離槽6に供給する。浮遊分離槽6には、微細空気泡発生装置と撹拌装置が設置されている。この槽に浮遊分離剤(a)を投入した後、撹拌しながら空気泡を発生させ、炭酸カルシウムを含む成分を浮遊成分として、骨材等の成分を沈降成分として分離する。ここで得られる炭酸カルシウムの純度が目標に対して十分であれば、この浮遊成分と沈降成分を排出して処理工程(2)が終了する。さらに炭酸カルシウムの純度を高くする場合には、浮遊成分を分離槽11に投入し、浮遊分離剤(b)を投入する。分離槽11にも、微細気泡発生装置と撹拌装置が設置されている。浮遊分離槽11では、撹拌装置を省くこともできる。ここでは、微細気泡を発生させながら、骨材粉等の不純物を浮遊成分として、炭酸カルシウムを沈降成分として分離する。分離した炭酸カルシウムと骨材等の不純物を排出して、処理工程(2)が終了する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、廃コンクリート塊から粗骨材と細骨材を分離するプロセスを経て得られる微粉末を用いて、まず、処理工程(1)において、一定の条件下で、微粉末と廃炭酸ガスを反応させ、炭酸カルシウム生成物を含有する微粉末を得る。次に、処理工程(2)において、特定の浮遊分離法によって炭酸カルシウムを分離回収することによって、高純度の炭酸カルシウムを得ることができる。この炭酸カルシウムは、炭酸ガスを削減するとともに、様々な工業資源として再利用され、カーボンリサイクルを実現する。同時に回収された骨材粉や不純物は、コンクリートの原料等として再利用され、建設材料資源のリサイクルにも貢献することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【表1】
表1において
*1:18℃で1gの水に溶ける炭酸ガスの体積(cm3)を標準状態に換算した値
【0027】
【
図1】本発明によるカーボンリサイクル処理の具体的な方法を示す一実施形態である。
【符号の説明】
1、加圧容器 2,撹拌装置 3、廃コンクリート微粉末と炭酸カルシウム等の混合物 4,水 5,5a,5b、炭酸ガス加圧タンク、6,浮遊分離槽、7,微細空気泡、8,沈降成分、9,浮遊成分、10,浮遊分離剤(a)用タンク、11,2回目浮遊分離用分離槽、12,沈降成分、13,浮遊成分、14,浮遊分離剤(b)用タンク
【0028】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするために実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【実施例0029】
・実施例1
図1に示す処理工程(1)と処理工程(2)の有する機能を実験室の小型装置に置き換えて実験を行った。廃コンクリート塊から回収された廃コンクリート微粉末(粒子径:1mm未満)をボールミルによって再粉砕した後、JIS-Z8801に準拠して試験用篩の目開き106μを通過した微粉末(PW)を得た。次に、撹拌装置及び圧入導入口を備えた5リットルオートクレーブに微粉末(PW1)を500g、水道水2500gを仕込み撹拌しながら、室温下、圧縮液化炭酸ガスを圧入口から1MPaで圧入した。その後、ガス供給停止後のガス圧低下がなくなるまで、ガス供給を繰り返えし行って炭酸化反応を継続し、処理工程(1)を終了した。得られた微粉末スラリーを布で濾別した後、乾燥して微粉末(PW2)を得た。次に、浮遊分離の工程(A)で、撹拌翼付き混合槽内に所定量の水を投入し、微粉末(PW2)を徐々に添加して撹拌しながら混合ラリーを調製した。この際、該微粉末と水の合計の微粉末の割合(以下、スラリー濃度いう)は35%に調整した。続いて、捕収剤(オクチルアルコールにエチレンオキイド14モル付加物のリン酸エステル塩)及び起泡剤(パイン油)含む浮遊分離剤(a)分散剤(ポリアクリル酸塩)等を、いずれも所定量を混合槽内に仕込み、濃度10~60%好ましくは20~50%の微粉末スラリーを調製した後、水槽の撹拌を続けながらマイロバブルを注入して、炭酸カルシウムを多く含む浮遊成分(c1)と、骨材粉を多く含む沈降成分とに分離回収した。
工程(B)に進む場合には、前記浮遊成分(c1)と水、浮遊分離剤(b)(ラウリルアミンのエチレンオキサイド4モル付加物及びパイン油)の所定量を混合槽内に仕込んでスラリーを調製した。調製後にマイクロバブルを注入して骨材粉及び不純物の両方を含む浮遊成分と、純度の高い炭酸カルシウムを含む沈降成分(c2)を分離回収した。なお、捕収剤の添加量はスラリー1リットルに対して10~100mgの範囲内で使用した。また、起泡剤の添加量はスラリー1リットルに対して0.5~2gの範囲で使用し、分散剤の添加量は0.02~0.3gの範囲で使用した。以上の工程で得られた回収物を乾燥して目的物を得た。炭酸カルシウムの生成率(処理工程(1)に投入する前の微粉末中のセメント硬化体由来のカルシウム量に対する処理工程(1)で生成する炭酸カルシウム由来のカルシウム量の割合)は95%であった。また、ガス圧定量法で分析測定した所、炭酸カルシウムの純度は92%であった。以上の結果を表2にまとめて示した。
【0030】
・実施例2~4
浮遊分離剤の種類としての捕収剤、起泡剤、及び微粉末の粒子径等の種類を変える等以外は実施例1と同様にして実験を行った。結果を表2にまとめて示した。
【0031】
・比較例1
微粉末の粒子径を変えて用いる以外は実施例1と同様にして実験を行った。
【0032】
・比較例2
実施例1と同じオートクレーブ装置を常圧で使用し、実施例1と同じ時間、炭酸ガスを下部から微細気泡として供給して炭酸化処理の実験を行った。
【0033】
・比較例3
浮遊分離処理工程(B)を行なわなかった場合の結果を示した。
【0034】
・比較例4
浮遊分離処理工程(A)において、浮遊分離剤(a)として捕収剤を含まない場合の結果について示した。
以上の実施例と比較例の結果を表2にまとめて示した。
【0035】
【0036】
表2において、
*1:加圧炭酸化工程(1)で使用した廃コンクリート微粉末の粒子径(フルイ目の公称目開き)
*2:加圧炭酸化前の微粉末に対して、分離回収した炭酸カルシウムの割合(質量%)
*3:加圧炭酸化前の微粉末由来のカルシウム量に対して、加圧炭酸化後の炭酸カルシウム由来のカルシウム量の割合(質量%)
*4:工程(2)で最終的に分離回収された炭酸カルシウムの含有量をガス圧定量法で測定した値。
*5:オクチルアルコールのエチレンオキサイド14モル付加物のリン酸エステル塩(アニオン系界面活性剤)
*6:ラウリルアルコールのエチレンオキサイド20モル付加物のリン酸エステル塩(アニオン系界面活性剤)
*7:パイン油
*8:テレピン油
*9:ラウリルアミンのエチレンオキサイド4モル付加物(カチオン系界面活性剤)
*10:オレイルアミンのエチレンオキサイド10モル付加物(カチオン系界面活性剤)
*11:実施例1~4では、所定量の分散剤を添加した。また、比較例1~4では、分散剤を添加しなかった。
【0037】
表2の結果から明らかなように、所定範囲の粒子径に粉砕された廃コンクリート微粉末及び水を充填した圧力容器に対して一定の条件下で炭酸ガスを圧入して炭酸化反応する処理工程(1)を施すことによって、微粉末に含有されるセメント硬化体のほぼ全量を利用して炭酸カルシウムを生成させることが可能である。次に、この炭酸カルシウムを含む微粉末に、一定の条件下で浮遊分離法を適用する処理工程(2)を施すことにより、高純度の炭酸カルシウムを分離回収することが可能である。
以上から、本発明の処理工程(1)、すなわち、特定の加圧炭酸化方法と処理工程(2)、すなわち、特定の浮遊分離方法を組み合わせることによって、廃コンクリート微粉末と廃炭酸ガスから純度の高い炭酸カルシウムを得ることが可能であり、これによって、炭酸カルシウムによるカーボンリサイクルが実現可能なことが分かる。処理工程(1)と処理工程(2)を組み合わせることによって、このカーボンリサイクルが可能となる。